質問本文情報
令和七年十二月三日提出質問第一〇四号
スルガ銀行の不正融資問題に関する懲戒処分行員情報及び報告徴求命令後の実効性等に関する再質問主意書
提出者 高井崇志
スルガ銀行の不正融資問題に関する懲戒処分行員情報及び報告徴求命令後の実効性等に関する再質問主意書
一 趣旨
スルガ銀行における不正融資問題は、平成三十年の発覚以降、いまだに被害者の生活・精神を深刻に脅かしている。令和七年十月三十一日の静岡地裁判決(以下「地裁判決」という。)は、シェアハウスだけでなくアパートローンを含む不正融資全体について「組織的不正」であると司法的に認定した。この判決は、金融庁が従来主張してきた、銀行側の責任の有無・程度が事案によって様々という「個別事案」との整理が覆され得るものであり、監督行政の在り方を根底から問うものとなっている。
また、令和七年五月十三日付の報告徴求命令(以下「報告徴求命令」という。)の趣旨が債務者により寄り添った問題の早期解決であるにもかかわらず、その後も被害者への支払督促・強制執行が行われている。こうしたスルガ銀行の対応は、報告徴求命令の趣旨に反し、それを金融庁が黙認することは、監督行政に対する信頼を失墜させるものである。
しかし、令和七年十一月四日付の政府答弁書(以下「前回答弁書」という。)では、「早期解決に向けた対応を強く促してまいりたい」との抽象的回答に終始し、実際の行政措置・監督結果に関する具体的説明が一切示されていない。これは、報告徴求命令の趣旨である早期解決の実効性や行政監督権限の限界を国民に明示しないまま、「適切に対応」といった形式的な文言で責任を回避する姿勢と受け取られている。
そこで本質問では、地裁判決を前提に、「行政不作為」「情報非開示」「人権軽視」の三点について、政府の具体的対応を再度ただす。
二 質問事項
1 地裁判決と監督責任の整合性について
ア 地裁判決は、「シェアハウス及びアパートローンを含む組織的不正」を明確に認定した。この地裁判決により、金融庁が従来用いてきた、銀行側の責任の有無・程度が事案によって様々という「個別の事案」との整理は実質的に破綻したと考えるが、政府はこの点をどのように整合的に説明するのか。単に「司法判断を見守りたい」との一般論ではなく、「報告徴求命令の内容」の根拠となる事実が地裁判決を受けてもなお整合的とするのであれば、その根拠を具体的に答弁されたい。
イ 金融庁は、どの法令の条項に基づき、銀行側の責任の有無・程度が事案によって様々という認識をし、「個別事案」として扱っているのか。監督行政に裁量権行使の基準が存在しない場合は、「恣意的な線引き」と批判されかねないが、政府の公式見解を明示されたい。
ウ 地裁判決を受けた上で、追加的な報告徴求命令を含む行政処分を新たに行う意思があるか。答弁書は会議録掲載等により広く公開されるものであり、前回答弁書の二の2のウの答弁にある「今後の行政上の対応については、予断をもってお答えすることは差し控えたい」との答弁をすることは行政の「不作為」と国民に受け止められかねないことも踏まえ、「実施する/しない」いずれかで明確に答弁されたい。実施しない場合、その理由を明記されたい。
2 報告徴求命令等の行政処分の実効性及びフォローアップ体制
ア 報告徴求命令や平成三十年十月五日付の業務改善命令(以下「業務改善命令」という。)に基づき金融庁がスルガ銀行からこれまで受領した報告のうち、「被害者支援策」「再発防止策」に関する項目数と金融庁における評価内容を示されたい。なお、前回答弁書の二の2のア、二の3のイ及び二の3のウの答弁にある単に「確認している」といった答弁ではなく、庁内審査結果の要旨(例:評価区分・改善期限)を明示すること。
イ 報告徴求命令や業務改善命令が報告を求めた事項に係るスルガ銀行の取組のフォローアップを庁内でどの部署・役職が担っているか、責任部署名を具体的に答弁されたい。また、当該フォローアップを行うための外部有識者による第三者検証委員会を設置する必要があると考えるが、金融庁の認識を答弁されたい。もし金融庁が「第三者による検証は不要」とする場合、その理由を明確に説明されたい。また、過去に「第三者による検証は不要」と判断したのであれば、その判断過程と理由を行政文書として残しているか。残している場合は文書名を答弁されたい。
3 懲戒処分行員リストの行政文書性と開示可能性
ア 前回答弁書二の1のアで金融庁が行政文書として保存しているとしたスルガ銀行が懲戒処分を行った行員に関する報告内容は、金融庁が定める標準文書保存期間基準における大分類、中分類及び小分類につき、どの分類に該当するか。また、当該文書の保存期間及び保存期間満了日を明確にされたい。
イ 当該文書のうち、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別可能となる情報であっても「一部の者の役員か否かの区分・処分理由・処分日」を黒塗りなく開示することは、行政機関情報公開法第五条第一号但書に照らして妨げられないと考えるが、政府の見解を問う。なお、「個人特定のおそれ」を理由とした一律非開示は、法の趣旨に反することを申し添える。
4 報告徴求命令下での支払督促及び人権侵害行為への対応
ア 問題の早期解決を趣旨とする報告徴求命令下にありながら、スルガ銀行が被害者に対し強制執行を進めていることを金融庁は把握しているか。
イ 前回答弁書二の2のイでは、銀行が支払督促の申立てを公表していることを把握しているとの答弁があったが、直ちに支払督促及び強制執行の実態調査を行い、結果を国会に報告されたいが、その予定はあるか。
ウ 銀行による支払督促・強制執行は、業務改善命令や報告徴求命令の趣旨に反する可能性をどのような根拠によって排除できるのか。また、法的根拠があれば明示されたい。
エ 被害者の中には、長期の返済負担により精神疾患を発症し、自死に至った例も報告されている。金融庁はこの事実を認識しているか。また、生命・健康に関わる問題である以上、金融庁だけでなく厚生労働省など他省庁と連携し、政府として生活再建やメンタルケア支援の枠組みを検討する考えはあるか。
これら質問に対し「民民の問題」「注視する」との抽象答弁は、行政の「不作為」と国民に受け止められかねないことを予め申し添える。
5 省庁横断的対応と制度的再発防止策について
ア 本件は地銀監督・消費者保護・金融犯罪の三要素を併せ持つ事件である。金融庁単独での監督には限界があると考えられるが、政府として外部有識者による「金融犯罪型消費者被害再発防止会議」の設置を検討しているか。
イ 前回答弁書二の2のエでは、金融庁が主体となって裁判外で紛争解決を行う制度を検討していないとの答弁であったが、被害者救済を迅速に行うため、政府として行政ADRまたは特別な調停制度を創設する考えはあるか。現行制度で対応可能とするなら、その制度名と実際の適用実績(件数)を具体的に答弁されたい。
ウ 金融庁・消費者庁・警察庁の三庁による金融消費者被害防止に係る情報共有の場について、定期開催の有無・頻度・議題を答弁されたい。また、免許・登録を受けた金融機関が不正に関与する形での金融消費者被害を防止するための金融庁・消費者庁・警察庁の三庁の連絡会議の設置を検討しているか。
三 結語
本件は、単なる金融トラブルではなく、組織的不正と行政不作為が複合した、構造的な金融犯罪型消費者被害である。地裁判決が「組織的不正」を認定した以上、金融庁がなお、銀行側の責任の有無・程度が事案によって様々という「個別の事案」として扱い続けるなら、監督行政の信頼性が根底から失われる。
被害者の中には、長期の心労により生活が破綻し、うつ病や自死に至った方もいる。
「注視」「要請」といった形式的な答弁に終始するのではなく、実効ある監督の在り方と救済措置を具体的に提示することは政府の責務である。本質問主意書に対する答弁を、行政の信頼回復に資する第一歩として位置付けた上で、質問事項に対し明確に回答することを求める。
右質問する。

