質問本文情報
令和七年十二月五日提出質問第一一七号
法医人材の育成及び確保に関する質問主意書
提出者 八幡 愛
法医人材の育成及び確保に関する質問主意書
近年、我が国では高齢化に伴う多死社会の到来により、死因究明の重要性が一層高まっている。死亡数の増加に伴い、事故死、虐待が疑われる死亡、医療・介護関連死、薬物中毒死など、精密な検証を要する事例も確実に増加している。また、新興感染症や薬物乱用等の兆候は死亡事例の分析から初めて把握されることが多く、公衆衛生や安全保障の観点からも、死因究明体制の強化は不可欠である。こうした状況下において、死因を誤認したまま火葬に至る事例が増えることは、事件・事故・虐待の見逃しや医療安全の確保にも深刻な影響を及ぼすと考える。
死因を正確に知りたいと願う遺族の希望に応じられない事態が生じることは、人道上も看過し得ない。解剖を希望しても、地域の体制や人員不足のため実施できないことがあってはならず、その点からも死因究明体制の整備は喫緊の課題であると考える。
さらに、警察が扱う異状死体は年間約十六万体に上り、現在の法医解剖総数は、二十年前の一・五倍(およそ一万八千体)となっていると承知している。
このように死因究明の必要性が急速に増大している一方で、大学の法医学講座に常勤する法医医師は全国で百五十名程度にとどまり、後継者不足と過重労働が深刻化している。
法医の新規認定者数は年間平均五名前後にすぎず、地域によっては一人の教授が年間数百件の解剖を担っているとの報告もある。監察医制度が整備されているのは東京都、大阪市、名古屋市、神戸市の四地域のみであり、地方では死因究明の機会そのものが制約されている。
死因究明等推進基本法の趣旨を踏まえれば、法医の確保と育成は、国民の安全・安心を支える公共的基盤であると考える。
よって、政府に対し、以下質問する。
一 法医人材に関する現状認識について
1 大学等に常勤する法医学講座所属の法医医師の人数、司法解剖件数、異状死体取扱件数の推移を、それぞれ直近十年間について、可能な限り示されたい。
2 法医医師一人当たりの平均解剖件数及び勤務実態について、政府としてどのように認識しているか示されたい。
二 後継者不足の要因分析について
法医を志望する医師が増えない理由として、過重労働、給与水準、社会的評価、キャリアパスの不透明さなど、複合的要因が指摘されている。
これらの要因分析を踏まえ、これまでの死因究明等に係る人材の育成等の成果と課題をどのように総括しているか。
三 地域格差の是正について
監察医制度が未整備の道府県においては、司法解剖体制の脆弱さが死因究明率の低下を招いていると指摘されている。
1 全国的な監察医制度の拡充、または広域連携による法医支援体制の整備を検討しているか。
2 地方大学における法医学講座の存続支援や、共同解剖センターの整備についての方針を明らかにされたい。
四 待遇改善とキャリア形成支援について
法医人材の安定的確保には、給与・労働時間・心理的サポートなどの待遇改善が不可欠である。
1 政府は、法医学を専攻する大学院生や若手医師に対する奨学金、リカレント教育、専門医制度上の優遇措置などを新たに講じる考えがあるか。
2 大学教員としての職位確保や、地方勤務後のキャリア転換支援など、長期的なキャリアパス整備についての見解を示されたい。
五 多機関連携とデータ基盤整備について
死因究明には、法医のみならず法歯学、放射線診断学、薬毒物分析、情報科学など多領域の専門家連携が求められている。
政府は、こうした多職種連携による総合的死因究明ネットワークの構築、及び全国的な死因データベース整備をどのように進めているか示した上で、その運営において、法医人材の教育・研究負担を軽減するための支援策を検討しているか見解を明かされたい。
六 司法解剖率及び国際比較に関する政府認識について
1 我が国の司法解剖率は一割未満にとどまり、欧州諸国をはじめとする主要国では二割から四割程度に達するとの国際的比較が指摘されている。この解剖率の差は、死因究明体制、人材数、制度設計のいずれにも起因するとされるが、政府はこうした国際比較をどのように把握しているか。
2 死因究明等推進基本法の理念に照らし、我が国の司法解剖率の現状を課題と認識しているか、明らかにされたい。
右質問する。

