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平成十四年二月二十六日受領
答弁第一三号

  内閣衆質一五四第一三号
  平成十四年二月二十六日
内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 綿貫民輔 殿

衆議院議員川田悦子君提出「人権擁護法案(仮称)の大綱」に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員川田悦子君提出「人権擁護法案(仮称)の大綱」に関する質問に対する答弁書



 法務省が本年一月三十一日に公表した「人権擁護法案(仮称)の大綱」(以下「大綱」という。)は、昨年五月に人権擁護推進審議会が取りまとめた「人権救済制度の在り方について(答申)」を踏まえて同省が立案作業を進めている人権擁護法案に関し、公表時点における立案状況の概略を国民に分かりやすい表現で簡略に明らかにしたものであって、内容自体なお検討中の事柄が多数含まれている上、表現も必ずしも法案の文言等に即したものではない。これらのことを前提として、次のとおり答弁する。


(一)について

 人権擁護法案には人権救済の手続等を担う機関として新たに人権委員会を設置する規定を盛り込む予定であるが、人権委員会は国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に基づく独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等により、その職権の行使に当たっては内閣や所轄大臣等から影響を受けることがないよう、高度の独立性を確保することとしている。これを踏まえ、国民の権利擁護を図ることをその任務とするとともに、人権侵害に関する調査及び救済措置としての調停・仲裁、訴訟援助、差止請求訴訟の提起等の職務の遂行のための法律的な専門性を有する職員を擁し、人権救済に対する専門的な知識・経験の蓄積を有する法務省に置くことが相当と考えている。

(二)について

 大綱第3の2(1)エにいう「報道機関」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること又は客観的事実を知らせるとともにこれに基づいて意見若しくは見解を述べることという一般的な意味での「報道」を業として行う者を指すものである。

(三)について

 第百五十一回国会に提出された個人情報の保護に関する法律案第五十五条第一項第一号は、個人情報の適正な取扱いの確保を通じて個人の権利利益の保護を図るに当たって報道機関の報道活動を妨げることがないよう、同法案第五章の規定の適用を除外する対象として「報道機関」を挙げたものであり、特別救済手続の対象である人権侵害の主体として報道機関を掲記する大綱とは趣旨・目的を異にしているが、同法案においても、「報道機関」は、(二)についてで述べたような報道を業として行う者を指すものである。
 右のように報道を業として行う者であれば、個人であるか法人であるかにかかわらず、大綱にいう報道機関に含まれると考えるが、特定の者が右の報道機関に含まれるか否かは、個別具体的な事案の事実関係に即して判断されるものであり、あらかじめその例を確定的なものとして網羅的に挙げることは困難である。その上で、あえて一般論を述べると、御指摘のような個人は、通常は右の報道機関に含まれると考える。なお、人権擁護法案においては、過剰な取材という事実行為が問題となるので、個々の従業者の行為を問題とせざるを得ず、これについての法案の条文としての表現・内容については現在検討中である。

(四)について

 大綱第3の2(1)エの「報道機関等による自主的な取組」の語は、報道機関が自ら行うもののほか、報道機関がその業界団体を通じて行うものも含むものとして用いており、御指摘のあった団体を通じて行うものも含まれると考えている。

(五)について

 大綱第3の2(1)エの「報道機関等による自主的な取組」とは、報道機関等により自主的に行われる人権侵害の被害の救済に関する苦情処理手続の整備、運営等の取組を指し、報道機関等による特定の取組が右のものに当たるか否かは、個別具体的な事案の事実関係に即して判断されることとなると考えている。右のような取組を「尊重するものとする」とは、例えば、人権委員会に対して人権救済の申出があった事案について報道機関等による苦情処理手続において対応が行われている場合には、人権委員会による調査又は救済措置の実施を見合わせるなど、人権委員会の救済手続の実施に当たって当該取組の内容等に応じてこれを尊重すべきものとすることを意味しており、その具体的な取扱いについては、人権委員会の定める救済手続の運用に関する準則等において明らかにされることとなると考えている。御指摘のあった例についても、右の意味における自主的な取組に当たればその内容等に応じて尊重されることとなる。

(六)について

 個人情報の保護に関する法律案第四十条は、同法案にいう個人情報データベース等を事業の用に供している者を対象として主務大臣が報告の徴収、助言、勧告又は命令を行う場合において、表現の自由、学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由を妨げることがないよう配慮しなければならないことを規定したものであるのに対し、大綱は、(五)についてで述べたとおり、報道機関を対象とする人権救済の手続において報道機関等による自主的な取組を尊重すべきものとするものであり、両者は事柄の性質を異にするものである。

(七)について

 大綱第3の2(1)エ(ア)の「プライバシー」の語は、個人に関する私的な領域の事柄について、他人の干渉を許さず、それによって人格の自律性及び私生活の平穏を保持する利益という一般的な意味で用いている。

(八)について

 大綱第3の2(1)エ(ア)の「犯罪被害者等」とは、刑事手続の進ちょく状況のいかんにかかわらず、大綱にいう犯罪被害者等として報道される者を指しているところ、ここにいう「犯罪」の語は、刑罰法令に触れる行為という一般的な意味で用いている。お尋ねの「事故等による被害者」も、例えば業務上過失致死傷等の犯罪が成立する疑いがある事故等の被害者として報道される場合には、「犯罪被害者等」に含まれると考えている。

(九)について

 大綱第3の2(1)エにおいては、いわゆる公人であるか私人であるかを問わず、「犯罪被害者等」に対する報道によるプライバシー侵害等を大綱にいう特別救済手続の対象とすることとしているが、人権擁護法案においては、右の手続の対象を「犯罪被害者等」の生活の平穏を著しく害するなどの重大なプライバシー侵害等に限定することを予定しており、「犯罪被害者等」がいわゆる公人であるとの一事をもって殊更にこれらの者を右の手続の対象から除外すべき理由は見いだし難いものと考えている。

(一〇)について

 報道機関の報道に係る犯罪の「被疑者」が御指摘の政治家・公務員その他のいわゆる公人である場合であっても、その家族に対する報道によるプライバシー侵害等を大綱にいう特別救済手続の対象から除外すべき理由は見いだし難いので、大綱第3の2(1)エの「犯罪被害者等」に含まれる「被疑者・被告人の家族」の「被疑者」には、これらのいわゆる公人も含まれると考えている。
 人権擁護法案は、報道・取材について新たな規制を設けようとするものではなく、現行法の下で既に違法と評価される行為についての救済手続を整備するものにすぎないので、いわゆる公人である「被疑者」に対する正当な報道・取材活動を何ら制限するものではないと考えている。

(一一)について

 大綱第3の2(1)エ(イ)の「取材を拒否している犯罪被害者等」とは、何らかの方法により取材を拒否する意思を報道機関に伝えている犯罪被害者等を指しており、意思の伝達方法には格別の限定はないものと考えている。

(一二)について

 大綱第3の2(1)エ(イ)の「過剰な取材」とは、取材を拒否している犯罪被害者等に対してつきまとい、待ち伏せを反復・継続して行うなどして、当該犯罪被害者等の生活の平穏を著しく害する取材行為を指し、特定の取材行為が「過剰な取材」に当たるか否かの判断は、人権委員会が調査に基づいて個々の事案ごとに行うこととなる。「つきまとい」とは、一般の意味に従って、うるさくついてまわることを、「待ち伏せ」も、同様に、相手の不意をつくために隠れていてその来るのを待つことを指すと考えており、つきまとい、待ち伏せを何回繰り返せば犯罪被害者等の生活の平穏を著しく害することになるかは、個々の事案ごとに判断されるべき事柄であり、一概に述べることは困難である。
 「過剰な取材」の意義等は、右に述べたとおりであり、その例としては、犯罪被害者等の取材拒否の意向を無視して、その自宅を取り囲み、外出時につきまとうなどしてその生活を妨害する行為が挙げられる。

(一三)について

 大綱第3の2(1)エにおいて、報道機関による一定の人権侵害を大綱にいう特別救済手続の対象とすることとしているのは、今日におけるいわゆる犯罪報道の状況等に照らすと、報道機関による犯罪被害者等に対する一定の人権侵害について、実効的な救済手続を整備する必要が認められることによるものである。
 (一〇)についてで述べたとおり、人権擁護法案は、報道・取材について新たな規制を設けようとするものではなく、現行法の下で既に違法と評価される行為についての救済手続を整備するものにすぎず、また、特別救済手続の実施に当たっては、報道機関等による自主的な取組を尊重するものとするとともに調査も専ら任意のものに限定するなど、報道・取材の自由の保障に十分に配慮した内容となっており、これを不当に制約するものではないと考えている。

(一四)について

 御指摘の措置に関しては、いずれも行政処分を行うものではないこと等にかんがみ、不服申立ての制度を設けることは予定していない。

(一五)について

 大綱第1の3(2)は、特定の個人に対する人種等を理由とする不当な差別的取扱いを禁止するものであり、法令等に定められた行為であっても、具体的な行為の内容・態様等がこのような不当な差別的取扱いに該当するものであれば、これに含まれることとなる。

(一六)について

 御指摘の制度は、大綱第1の3の「人権侵害行為等」に該当するものではないと考えている。

(一七)及び(二〇)について

 大綱第1の3(3)の「差別助長行為等」とは、@人種等を理由とする不当な差別的取扱いを助長し、又は誘発する目的で、例えば、いわゆる同和地区の所在を網羅した書籍を頒布するなど、人種等の共通の属性を有する不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を公然と摘示する行為、及びA例えば、特定の人種又は民族に属する者へのサービスの提供を拒否するため、外国人の入店を拒否する旨を店頭に掲示するなど、人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由とする差別的取扱いをする意思を公然と表示する行為を指している。
 法令に定められた行為は、右に述べた「差別助長行為等」の要件等に照らし、これに該当することはおよそ想定し難い。現行の戸籍の謄抄本等の交付制度及び住民基本台帳の一部の写しの閲覧制度も「差別助長行為等」に該当するものではないと考えている。

(一八)について

 例えば、当該人権救済の申出が、特定の法律の制定や裁判の内容が人権侵害に該当する旨の主張を内容とするものであるとき、又は申出の内容が既にされた裁判の内容と抵触するときなど、三権分立の原則との関係、他の救済手続との関係等に照らして人権委員会が関与することが適当でないと認められる事件等を考えている。

(一九)について

 経済協力開発機構(OECD)加盟国・非加盟国を問わず、大綱第3の2(1)エに掲げる人権侵害について報道機関一般との関係で救済措置を講ずる行政機関等を整備している国は承知していないが、放送の分野においては、例えば、英国において、平成九年に放送基準委員会が設置され、放送された番組によるプライバシー侵害等の人権侵害について救済措置を講じているものと承知している。

(二一)について

 大綱第1の3(3)の差別助長行為等については、特定の個人の人権を直ちに侵害するものではないことなどから、個人による実効的な訴訟遂行が期待できないので、当該行為により不当な差別的取扱いを受けるおそれのある不特定多数者のために、人権委員会が自ら訴訟を提起してその差止めを求めることとするものである。

(二二)について

 人種等の理由に基づく不当な差別的取扱い、大綱第3の2(1)イに掲げる虐待等が類型的に特別救済手続の対象として取り上げられる趣旨に照らして、これらに準ずる人権侵害という意味であり、例えば、人種等以外の理由に基づく不当な差別的取扱いや、右に掲げるもの以外の虐待でこれらと同等の重大な結果が生じているものなどを考えている。



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