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平成十八年十二月二十二日受領
答弁第二三七号

  内閣衆質一六五第二三七号
  平成十八年十二月二十二日
内閣総理大臣 安倍晋三

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員前原誠司君提出薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員前原誠司君提出薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問に対する答弁書



一について

 国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第六十九条及び第七十条の規定は、故意、重大な過失等により障害又は死亡という保険事故を生じさせた者に対し年金給付を行うことは、保険集団全体の利益を損なうなど、制度の公益的な性格を損ない、また、保険制度における保険事故発生の偶然性の尊重の趣旨に反するものでもあるため、社会保険方式を採る公的年金制度の趣旨にそぐわないことから、こうした者に対する年金給付を制限するために設けられているものであり、社会保険方式の根幹をなすものであることから、これらの規定の改正を行うことは考えていない。
 また、これらの規定の適用に当たっては、こうした考え方に基づき、年金給付の制限を行っているものであり、「薬物依存症者」であるか否かで判断しているものではない。

二について

 健康保険及び国民健康保険等の公的医療保険制度についても、一についてで述べた考え方に基づき、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第百十六条及び国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)第六十条等において、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に疾病にかかり、又は負傷した場合は保険給付を行わないと規定しているところである。これらの場合に当てはまるか否かについては、薬物依存症になった原因や経緯等により判断することとなるが、例えば被保険者が自ら違法に薬物を使用して薬物依存症となった場合など明らかに自己の故意の犯罪行為が原因である場合に、医療機関が保険給付を行わないことは健康保険法第百十六条等の規定に反するものではなく、一般的に、御指摘のような医療機関への指導は必要ないと考えている。

三について

 御指摘のとおり「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和三十八年四月一日付け社発第二百四十六号厚生省社会局長通知)においては「薬物依存症者」がいわゆる自助グループに参加するための移送費の支給について明記されていないが、当該グループの活動が民間活動として行われるものであっても、国又は地方公共団体から当該活動に対し補助が行われている等の場合で社会復帰に効果が期待できると認められる場合には、当該グループに参加する「薬物依存症者」は、同通知の第六の二の(七)のアの(セ)のcの社会復帰相談指導事業等の対象者に該当し、移送費の支給の対象となるものであり、地方公共団体に対してその旨の周知を図っているところである。

四について

 障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第八十八条第一項に規定する市町村障害福祉計画及び同法第八十九条第一項に規定する都道府県障害福祉計画(以下「障害福祉計画」という。)は、同法第八十七条第一項に規定する基本指針に即して、地域における障害者の実情及びニーズを把握した上で作成することとされており、障害福祉計画においては薬物依存症による精神障害者に係る必要なサービスについても地域の実情に応じて適切に定められるものと考えているが、厚生労働省としても、障害福祉計画が適切に策定されるよう必要な助言等を行ってまいりたいと考えている。
 また、御指摘の薬物依存症者のための社会復帰の事業は、特に専門性が高いなど広域的な対応が必要な相談支援事業であると認められる場合には、障害者自立支援法施行規則(平成十八年厚生労働省令第十九号)第六十五条の十五に規定する障害者等が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な事業であって広域的な対応が必要なものに該当するものとして都道府県の地域生活支援事業として位置付けられ得るものであり、その判断は都道府県において適切になされるものと考えている。

五について

 薬物依存症を含む精神疾患者に対する治療は、医師が、個々の患者の症状に応じてその内容を決定するものであり、刑事施設内においても、幻覚、妄想等の精神症状を来たしている者については、向精神薬による薬物療法を施す場合があるが、そのような場合においても、薬物依存を高めることがないように留意しつつ、医師の適切な判断により処方薬を投与しているところである。

六について

 刑事施設の医師が、被収容者の釈放後も引き続き医療機関での診療が必要であると判断した場合には、円滑に治療を継続できるよう、紹介状の交付を希望する被収容者又はその保護者等に対し、病名、治療の経過、現在の処方の内容等を明らかにした紹介状を釈放時に交付する取扱いとしている。

七について

 専門的な精神科治療を必要とする被収容者については、医療刑務所等において、精神科医師を配置して各種の精神科治療を行っており、医療刑務所等における治療までは必要としない軽度の者については、一般の刑事施設において治療を行っているところである。近年、精神科治療を必要とする被収容者が増加傾向にあることから、常勤の医師に加え、非常勤の精神科医師や作業療法士を配置するなどして精神科医療の充実に努めるとともに、被収容者の処遇に携わる職員に対しても、精神疾患の特徴や精神障害を有する被収容者の処遇方法等に関する正しい知識を付与するための医療関係研修を実施しているところである。

八について

 御指摘のような場合については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第二十八条の二の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準に基づき、同法第十八条第一項に規定する精神保健指定医の診察による高度かつ専門的な判断により、同法に基づく措置入院の決定が適切になされているものと考えている。
 また、措置入院処分が行われた場合には、同法第十九条の八に規定する指定病院の管理者は、同法第二十九条第四項に基づき、病床に既に措置入院等をさせた者がいるため余裕がない場合のほかは、措置入院に係る精神障害者を入院させなければならないこととされているところであり、適切に指定病院での受け入れがなされているものと考えているが、厚生労働省としては、今後とも、同法に基づいた適切な措置入院がなされるよう努力してまいりたい。

九について

 覚せい剤事犯の仮釈放者等に対する保護観察処遇において、簡易尿検査を活用する目的は、本人の自発的意思に基づき、あらかじめ検査期日を示して定期的に尿検査を実施することにより、覚せい剤を使用しない結果を積み重ね、最終的に覚せい剤のない生活習慣を習得させることにある。平成十七年には、全国の保護観察所で、覚せい剤事犯の仮釈放者のうち検査を受けることに同意した者は、その約半数の二千四百四十二名であったが、その者に対し延べ五千二百九十一回の尿検査を実施したところ、九十九%以上が陰性となっており、保護観察所の簡易尿検査で陽性となり最終的に警察等の捜査機関で実施された精密な尿検査でも陽性となったのは延べ実施回数の〇・〇九%に当たる五回という結果からみて、薬物の再乱用の防止に効果を上げていると考える。

十について

 御指摘の薬物事犯保護観察対象者の問題性に着目した処遇としては、九についてで述べたとおり、覚せい剤事犯の仮釈放者等に対する簡易尿検査を実施しているところである。
 また、御指摘の集団処遇としては、薬物事犯対象者に対する保護観察官による直接的処遇の一環として、シンナー等乱用対象者に対する集団処遇及び覚せい剤事犯対象者の家族等に対する講習会を実施している。
 シンナー等乱用対象者及び保護者に対しては、平成十七年度は集団処遇を四回実施しており、五十名の保護観察対象者及び四十一名の保護者が参加している。
 また、覚せい剤事犯対象者の家族等に対しては、平成十七年度は講習会を四十一回実施しており、五百六十九名の家族等が参加している。
 なお、平成十七年度には、全国で二十四の更生保護施設において、酒害・薬害教育を実施しており、二千百五十一名の保護観察対象者等が参加している。
 こうした集団処遇への参加者の態度は真摯なものであり、また、参加した家族からは、終了後、「勉強になった。」、「為になった。」、「気持ちが楽になった。」などの感想も寄せられているなど、参加者は相応の参加の意義及び効果を認めていると認識している。

十一について

 仮釈放中の者に対する宿泊場所の提供等に係る更生保護施設等に対する予算措置としては、犯罪者予防更生法(昭和二十四年法律第百四十二号)第四十条に基づく更生保護事業を営む者その他の適当な者に対する委託費があり、ダルク等更生保護事業を営む者以外の者に委託できるか否かは個別判断によることとなるが、委託費を支給する場合においては、被保護者の生活を援助する費用としては、更生保護施設に委託する場合と同等の費用が支払われる。

十二について

 平成十七年度における全国の保健所及び精神保健福祉センターに寄せられた薬物依存症等に関する相談件数は、保健所に寄せられたものが五千三百七十三件、精神保健福祉センターに寄せられたものが三千九百十五件となっており、合計で九千二百八十八件となっている。
 御指摘の「実際の依存症に苦しんでいる人の数」については、薬物依存症が社会的に表面化しにくいこと等から、その実態を把握することは困難であるが、厚生労働省としては、薬物相談担当者等の資質の向上など相談体制の充実を図っているところである。

十三について

 国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部を中心として、厚生労働科学研究費補助金により、平成十七年度及び平成十八年度の二年間にわたり「薬物乱用・依存等の実態把握と乱用・依存者に対する対応策に関する研究」を実施するなど薬物乱用等に関する研究に取り組んできているところである。これまでの研究結果を踏まえ、国立精神・神経センターにおいて医療機関、精神保健福祉センター等の医師、看護師等に対する研修を行い、薬物依存の診断、治療、予防等に携わる人材の質の向上に努めるなど、研究成果を薬物依存症者の治療や社会復帰に還元しているところである。また、平成十八年度から薬物依存症者及び薬物中毒者本人の治療や社会復帰を助けるためのカウンセリング理論等をまとめたハンドブックを作成し、精神保健福祉センター等に配布することとしているところである。

十四について

 薬物再乱用防止のための対策の予算については、平成十八年度予算において再乱用防止対策事業費として七百二十一万円が計上されており、薬物依存症者及び薬物中毒者本人の治療や社会復帰を助け、再乱用を防止するためのカウンセリング理論等をまとめたハンドブックや、薬物依存症者及び薬物中毒者の家族向けに自立を助ける上での留意点等をまとめた自立補助読本等を作成し、配布することとしている。

十五について

 薬物依存症者及び薬物中毒者の治療及び社会復帰の支援を行うに当たっては、民間との連携が必要な場合もあると考えており、例えば、薬物事犯保護観察対象者の社会復帰を支援するために、保護観察所において、他の刑事司法機関、医療・福祉機関など関係機関との連携に加えて、必要に応じて自助グループをはじめ民間団体等の協力を得ることも行っているところである。また、関係機関の連携については、全国六ブロックにおいて薬物中毒対策連絡会議を年一回開催し、薬物依存症者及び薬物中毒者の治療及び社会復帰支援に関する業務を行う関係機関の専門家による情報交換等を行い、その強化を図っているところである。

十六について

 お尋ねについては、保健所、精神保健福祉センターにおける薬物相談及び家族教室を通じて、薬物乱用の有害性並びに薬物依存症者及び薬物中毒者の回復に向けた適切な知識を家族に与え、薬物依存症者等に対する理解を深めることにより、薬物再乱用の防止が図られているほか、十についてで述べたような効果があったものと理解している。

十七について

 国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部診断治療開発研究室については、薬物依存及び中毒性精神障害の診断技術及び治療法の開発の研究等を行うため、平成十一年四月に定員を伴わない室として設置したものであり、当該研究室に属する研究員は配置していないが、現在、その所掌に係る研究等については、薬物依存研究部の研究員が実施しているところである。

十八について

 御指摘の「解毒治療」については、精神医療において専門性が高い治療ではなく、精神医療の一環として既に一般的に行われているものと承知しており、御指摘の「解毒治療」を専門的に行う機関として、公立の精神科病院や精神保健福祉センター等を位置付けることが望ましいものとは考えていない。

十九について

 御指摘の司法と治療及び社会復帰支援が結び付いた体制については、保護観察所において、医療、精神保健、福祉、就労等の援助を専門的に行う関係機関と連携して、疾患や薬物依存症を抱える保護観察対象者の処遇に当たる体制の整備に努めており、その中で、個別の事案の必要性に応じて、医療施設を紹介したり、保護観察対象者本人やその家族が援助等を受けられるよう精神保健福祉センター、保健所、市区町村等の相談窓口に関する情報提供や紹介を行っている。また、社会復帰支援については、平成十八年度から、薬物事犯者も含めた出所者、保護観察対象者等を対象として、法務省と厚生労働省が連携する体制により、総合的就労支援策を実施しているところであり、今後とも、このような薬物依存・中毒者に関わる関係機関の連携体制を強化してまいりたい。
 なお、裁判所が刑罰の代替として治療を命ずる制度を設けるなど、刑罰の在り方に関わる検討を行うのであれば、その必要性のほか、刑罰の目的に照らし相当か、国民に受け入れられるか、我が国の法体系に整合するかなどといった点についても、十分に検討する必要があると考えている。

二十について

 御指摘の「市町村や都道府県を越えて利用できるシステム(特に生活保護費の受給要件)」の趣旨が必ずしも明らかではないが、例えば生活保護制度においては、既にダルク施設に入所中の被保護者が、他の市町村や都道府県のダルク施設に長期間にわたって入所するような場合には、当該施設の所在地を所管する保護の実施機関が当該入所者に対して保護を行うこととされ、市町村や都道府県を超えて利用できる仕組みとなっているところであり、その円滑な実施に努めることが重要であると考えている。

二十一について

 政府としては、薬物の乱用を根絶することにより、注射針の回し打ち等による感染症の罹患等の問題の解決も図ることができるという観点から、薬物乱用防止対策を徹底しているところである。
 なお、厚生労働省においては、同省のホームページ等においてC型肝炎ウイルス等の感染の予防策として、注射器や注射針を共用することの危険性について注意喚起を行っているところである。

二十二について

 障害者自立支援法第二十九条第二項に規定する指定障害福祉サービス事業者等が、薬物を乱用した経験のある障害者に対して、サービスの提供を拒否する事例については、その実態を把握していないが、障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成十八年厚生労働省令第百七十一号)及び障害者自立支援法に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準(平成十八年厚生労働省令第百七十二号)において、指定障害福祉サービス事業者等は、正当な理由がなく、サービスの提供を拒んではならないこととされており、例えば、薬物を乱用した経験があることのみをもってサービスの提供を拒否することは認められないものであり、このような受入れ拒否がなされることのないよう今後とも、同法の適切な運用に努めてまいりたい。



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