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昭和五十四年一月五日提出
質問第一号

 金融機関等の定年延長促進に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十四年一月五日

提出者  荒木 宏

          衆議院議長 保利 茂 殿




金融機関等の定年延長促進に関する質問主意書


 深刻化する不況のもとで雇用問題、特に中高年齢層の雇用確保が大きな社会問題となつている。「減量経営」を進める大企業は、大規模な人減らし、合理化政策のもとで特に中高年齢層を対象として人員削減をはかろうとしている。そしてその人員削減の方法として中高年齢者の解雇、関連企業への出向、転籍などとともに、「選択的定年制」の名による四十歳代の定年制導入の動きさえでてきている。こうしたなかで、大企業の大量解雇を規制するとともに定年延長を促進することは、現在ますます重要となつている。
 最近の高年齢者の雇用状況に関する政府の調査によれば、高年齢者(五十五歳以上)の雇用率は、調査対象全企業の平均で五・六パーセントとなつており、政府目標(六パーセント)に達しておらず、また政府目標未達成企業の全企業に対する割合も五七・三パーセントと過半数に達している。とりわけ大企業の場合(従業員千人以上)、雇用率はわずか三・九パーセントで、政府目標未達成企業の割合は八二・二パーセントに達しており、中小企業に比べて高年齢者雇用状況が特に悪い。
 また、定年制の実施状況に関する政府の「雇用管理調査」によれば、一律定年制をとつている企業の定年年齢は、五十五歳とする企業が調査対象全企業の四一・三パーセントを占め、依然として最も多く、六十歳以上の定年制を採用している企業は三八・五パーセントに過ぎない。特に大企業では未だに六十歳未満の定年制が大多数であり、六十歳以上の定年制をとる企業は約二一パーセントにとどまつている。
 また、定年制のある企業でも多くの企業は、再雇用制度、勤務延長制度を設けているが、それも大半は希望者全員ではなく、企業が特に認めた者のみにその対象者が限定されており、しかもそれらの制度が利用できた場合でも、そのほとんどは一〜二年の期限つきであり、しかも大幅な賃金ダウンなどにより条件は著しく悪くなるのが通例である。
 さらに産業別の定年延長状況をみると、金融機関の定年延長に関する取組みが特に遅れていることは当産業の社会的責任から言つて重大な問題である。すなわち前記「雇用管理調査」によれば、金融機関(金融・保険業)の定年年齢は、五十五歳定年制をとつている企業が五三パーセントと過半数を占めており、これに対して六十歳以上の定年制をとつている企業はわずか一九パーセントとなつており、前述した全産業平均の雇用状況からみても著しく悪い。また、高年齢者の雇用率達成状況からみても、雇用率は四・八パーセントと低く、政府目標未達成企業の割合は約八〇パーセントに達しており、全産業中最も悪い状況にある。
 しかも定年年齢改定状況に関する調査では、金融機関の場合、過去二年間に改定しなかつた企業が九五パーセントと、ほとんどを占めており、今後二年間に改定予定の企業はわずか〇・五パーセントとなつており、当面ほとんど定年延長の意思をもつていないとみて差し支えない。
 ところで定年問題を国際的にみると、先進諸国においては退職年齢はだいたい六十五歳で、しかもこれが年金の受給開始年齢とリンクする制度となつている。またこの年齢に達しても、その勤労者が退職するか、働き続けるかの選択の余地が残されている場合が多い。アメリカでは一九七八年、七十歳までは年齢のみを理由にした解雇はできないという内容の法律改正すらなされている。この点日本の場合、定年年齢が低いばかりでなく、定年年齢(大半が五十五歳)と年金受給開始年齢(厚生年金六十歳、国民年金六十五歳)との間に大きなギャップがあることが特徴的である。このため定年退職者は、転職先がなければ(たとえあつたとしても、雇用条件、職種などで著しい不利をこうむるのが通例であるが)、突如生活の糧を絶たれるわけであり、しかもこれら五十歳代の勤労者はほとんどの場合、数人の扶養家族をかかえていることを考えると、日本の現行の定年制はあまりにも冷酷、無情な制度と言わざるを得ない。
 そもそも日本の定年制は明治時代からあつたが、当時から定年年齢は五十五歳であつたとされている。一方平均寿命は、当時は男四十四歳、女四十五歳であつたのに対して、現在では、男約七十三歳、女約七十八歳と約三十歳も伸びている。これに対して定年年齢のみは依然として大半が五十五歳のままであるということは全く驚くべきことであり、労働の意思と能力を持つたこれらの人々を人的資源として活用しないことは大きな経済的、社会的損失であると言わなければならない。
 こうした状況のなかで、定年年齢を延長すべきであるという要求は、国民各界、各階層から強く出されてきたが、政府はこれを労使問題であるとして長く放置してきた。年金受給開始年齢との関係からだけ言つても、戦後まもなく(一九五〇年)、社会保障制度審議会は内閣総理大臣への勧告のなかで、年金受給開始年齢を男子六十歳、女子五十五歳(当時は男女とも五十五歳)に引き上げることを主張しながら、引き上げの前提として、五十五歳定年制を六十歳定年制に改めることをあわせて提言していた。ところが政府は一九五四年、前提条件である定年延長ぬきに、年金支給開始年齢のみを提言どおり引き上げたため、以後今日まで、国際的にも例をみない両年齢間の乖離という現象が生まれたのである。しかも今日、社会保障制度審議会、年金制度基本構想懇談会などは、主として年金財政の観点から、年金支給開始年齢をさらに引き上げるべきであるという意見を出しているが、これを許せば、ますます両年齢間の乖離は広がるわけであり、この点からも定年延長の促進は急務であると言わざるを得ない。
 政府は一九七〇年代に入つてようやく定年延長問題に取り組む姿勢を示し始めた。すなわち、一九七三年には雇用対策法の改正によつて、定年延長促進に関して政府の施策の義務づけを明記し、同年、定年延長奨励金制度の実施を始めた。また同年、労働事務次官通達「定年延長について」、労働基準局長、職業安定局長の連名による通達「定年延長の促進体制の整備について」がそれぞれ出された。さらに一九七六年には、中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法を一部改正し、高年齢者の雇用率目標を設定し、定年延長の促進をめざした。しかしこれらの一連の政府の施策にもかかわらず、依然として定年延長がほとんど進んでいないことは冒頭に示したとおりである。
 おりしも一九七九年はILOで定年問題も含めた中高年齢者の労働、退職問題が議題の一つとなることになつており、現状のままでは日本は国際的な批判の的になることも十分予想される。
 そこで、現下の雇用対策、なかんずく高年齢者の雇用対策の一環として、企業の定年延長について政府の一層の行政指導を求める立場から次のとおり質問する。

一 政府は一九七三年、第二次雇用対策基本計画及び経済社会基本計画を策定し、両計画期間中(一九七二年度から一九七六年度の五年間)に六十歳を目標として定年延長を促進することを閣議決定したが、計画期間が過ぎた現在においてもこの計画目標が未達成であることは冒頭に述べたとおりである。政府の施策が必ずしも有効な効果を生じていない現状において、また現下の雇用対策、なかんずく高年齢者の雇用対策を推進する上からも、定年延長の促進について新たな施策が必要と考えるが、今後の政府の施策はどうか。
二 政府は一九七六年、「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」(以下「法」という。)を一部改正し、高年齢者の雇用率の目標(六パーセント)を設定したが、この目標はいかなる方法によつて達成されることをねらつているか、またいつごろまでにこの目標を達成する計画か。
三 前記「法」第十一条の二は、高年齢者の雇用率未達成の企業に対して労働大臣が、定年延長を含む高年齢者雇用の計画の作成を命じることができること、また同法第十一条の三は、特に必要な場合、高年齢者の雇入れ等の要請をすることができることを規定している。定年延長の遅れている企業に対して、早急にこれらの規定を適用し、計画作成の命令等をなすべきであると思うが、政府は現在までこれらの規定を適用したことがあるか、また当面これらの規定を適用するつもりはあるか。
四 右に述べた「法」第十一条の二及び第十一条の三のそれぞれの適用条件、適用対象は、どういう基準で運用されているのか。
五 全産業中、特に金融機関の定年延長が著しく遅れていることは既に述べたとおりであるが、なかでも都市銀行、信託銀行あるいは地方銀行の上位銀行などの大銀行のほとんどが依然として五十五歳定年制に固執しており、しかも当面延長の意思をほとんど持つていないという事実は、これら金融機関の社会的責任からいつても重大な問題である。政府は、定年延長の実績のよくない業種、特に遅れている大規模金融機関に対して、業種別の指導を強力に行うべきであると思うが、これまでどういう指導を行つてきたか、また今後どういう対策を講じるつもりか。
六 定年延長は勤労国民の共通の願いであり、総評など労働組合も長期的な課題として取り組んできたところである。現在、日本信託銀行株式会社において、同銀行労働組合が、六十歳まで定年を延長することを要求し、ストライキを含む闘争に入つている。同労働組合の要求に対して銀行側は、「取引先等に対する就職斡旋で事足りる」とし、これに真剣に取り組もうとしていない。この労使交渉の経緯と、それに対する政府の態度は、広範な労働者に影響するものとして多くの関心を集めている。そこで政府は、同銀行に対する指導を強めるとともに、前記「法」第十一条の二若しくは第十一条の三を適用し、計画作成の命令等を発すべきだと思うがどうか。

 右質問する。





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