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昭和五十四年十一月十六日提出
質問第四号

 「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」の運用の実態に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十四年十一月十六日

提出者  土井たか子

          衆議院議長 (注)尾弘吉 殿




「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」の運用の実態に関する質問主意書


 東にあつては、成田空港建設事件が、西にあつては、蜂の巣城紛争と俗称された下筌・松原ダム建設事件が、戦後土地収用紛争の双壁をなす。いずれの事件も、被収用者が原告、建設大臣を被告とする収用権発動(事業認定処分等)の無効確認ないし取消しを求める司法救済が訴えられている。
 下筌・松原ダム建設事件にあつては、事業認定無効確認請求事件(昭和三十五年行第四号)が、東京地方裁判所民事第三部で争われた。昭和三十八年九月十七日と期日の延期があつて、原告敗訴の判決が出されたが、判決前に判決内容が一方の当事者に漏らされるという前代未聞の事態が発生したと指摘されていた(たとえば、松下竜一著「砦に拠る」筑摩書房・一九九頁以降)。それによると、被告筆頭指定代理人であつた法務省福岡法務局訟務部長は、判決期日の一ヵ月前に陪席裁判官から、裁判長と両陪席の判示が異なつたため、判決期日を延期し、両陪席で裁判長を説得して、被告を勝訴させることになつたこと、その代り判決理由が裁判長の意向により国に対して厳しい内容となると告げられたというのである。
 一方、成田空港建設事件にあつては、事業認定・特定公共事業認定取消請求事件(昭和四十五年(行ウ)第四八号・昭和四十六年(行ウ)第一〇五号)が、東京地方裁判所民事第二部で争われている。裁判所と被告筆頭指定代理人との関係は、注目されてしかるべきである。
 東京地方裁判所裁判官・藤田耕三氏と同・小川英明氏は、二人の連名で「不動産訴訟の実務」と題する書籍を編集し、昭和五十三年三月三十日付で出版した。ところが、出版後すぐに相前後して、藤田耕三氏は同裁判所民事第二部の裁判長に、小川英明氏は同部に係属する成田空港建設事件に係る被告筆頭指定代理人となつたのである。また藤田耕三氏は、東京地方裁判所裁判官に就任する前は、行政官たる公害等調整委員会審査官であつた。
 よつて、以下、行政権の長として人権保障と司法権の独立を根幹とすべき「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」(以下「権限法」という。)の誠実な執行に最終責任を有する大平正芳首相の御答弁をとりあえず賜りたい。

一 法務大臣の権限法執行に係る司法権の独立と指定代理人の起用について
 (1) 行政権の乱用から行政作用の法適合性を保障し、国民の権利救済を図るべき行政事件訴訟では、行政裁判所を廃止した憲法の趣旨からいつて、司法権と行政権とは、実態においても明確に分離されていなければならず、従つて、司法権行使の任に当たる裁判長・裁判官と行政権行使に係る権限法による指定代理人との問も、行政事件訴訟上、実態的に明確に分離されていなければならないのではないのか。
 (2) 一般に、判決期日前に判決内容が右指定代理人に漏らされることになるような裁判長・裁判官と同代理人との関係は、行政裁判所におけるがごとく、司法権と行政権とが、実態的に明確に分離されていなかつたということではないのか。その他、司法権と行政権とがどのような関係にあつたことになるのか。
 (3) 行政事件訴訟にあずかる裁判長・裁判官と権限法に基づく指定代理人との実態的な関係は、とりあえずは、外形的事実から推認せざるを得ない。従つて、司法権と行政権との実態における明確な分離を危うくする外形的事実は、司法権に対する国民的信頼を喪失させないためにも、いささかも存在してはならないのではないのか。
 (4) 権限法を執行する法務大臣が、行政事件訴訟に係る指定代理人として、法務省に籍を一時的に移すなどの形式はととのえるにせよ、ことさら司法権行使に係る裁判官を起用しなければならないのは、いかなる必要があつてのことか。
 (5) また法務大臣は、右の裁判官の起用に当たり、司法権の独立にどのような配慮をしているのか。具体的に示されたい。
 (6) 右において、「共同業務」を終了した直後の裁判官を、片や裁判長に、片や指定代理人として同一行政事件訴訟を担当させるがごとき人事配置は、司法権に対する国民的信頼を喪失させないためにも、極力避けるべきではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
二 東京地方裁判所民事第二部(藤田耕三裁判長)に現在係属している事件について
 (1) 権限法により法務大臣の指定代理人が関与している全事件の事件名、事件番号及び法務大臣の指定に係る原・被告名をそれぞれ示されたい。
 (2) そのうち、小川英明法務省訟務局参事官が指定代理人、または筆頭指定代理人となつている事件は、それぞれどれか。
三 東京地方裁判所裁判官・小川英明氏が、同裁判所民事第二部に係属する成田空港建設事件に係る被告・建設大臣の筆頭指定代理人となつたことについて
 (1) 東京地方裁判所民事第二部の裁判長に藤田耕三氏が就任することをあらかじめ知つていて、同裁判所裁判官・小川英明氏は法務省訟務局参事官に登用され、同部に係属する右訴訟の指定代理人、そして藤田耕三裁判長就任後に筆頭指定代理人に起用されたのではないのか。
 (2) 東京地方裁判所民事第二部の裁判長に藤田耕三氏が就任しているが、なおも右小川英明氏を右筆頭指定代理人としておかなければならないことに積極的な理由があれば、それは何か。
 (3) たとえば、東京地方裁判所民事第三部に係属中の不作為違法確認等請求事件(昭和五十三年(行ウ)第一六七号)に係る被告・建設大臣等の筆頭指定代理人・小沢義彦氏を右訴訟に係る筆頭指定代理人としてはならないことに積極的な理由があれば、それは何か。
 (4) また権限法は弁護士を指定代理人となすことを容認しているが、日本弁護士連合会の弁護士を右訴訟に係る筆頭指定代理人としてはならないことに積極的な理由があれば、それは何か。
四 行政官を歴任したあと、成田空港建設事件が係属する東京地方裁判所民事第二部の裁判長となつた藤田耕三氏と、同裁判所裁判官から右事件の被告筆頭指定代理人となつた小川英明氏との公私にわたる関係が、その実態において、司法権と行政権との明確な分離を危うくするものとはならないよう、また両者の関係の顕在化により司法権に対する国民的信頼が喪失しないよう、いかなる手立てが講じられねばならないのか。

 右質問する。





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