答弁本文情報
昭和二十九年六月八日受領答弁第二二号
(質問の 二二)
内閣衆質第二二号
昭和二十九年六月八日
内閣総理大臣 吉田 茂
衆議院議長 堤 康次※(注) 殿
衆議院議員田中久雄君提出ローマ字に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員田中久雄君提出ローマ字に関する質問に対する答弁書
一 ローマ字の必要性については、文部省としては、ローマ字の学習指導を国語教育の一環として行うときは、話しことばや書きことばに対する児童の反省を強め、ことばの決まりについての児童の自覚を高め、また国語のしくみと働きとを児童にたやすく理解させることができ、国語力の充実に役だつものと思う。
小・中学校においては、以上の理由により昭和二十二年度以降、小・中学校の教育上の責任者がその学校の事情を考慮して、ローマ字の学習指導を行うかどうかを決定したうえで、実施することができるようにしてある。
二 ローマ字のつづり方には、細かくいえば、多種多様のものがあるが、その中で問題となるのは、今日社会一般に広く用いられている標準式、日本式、訓令式の三式である。
明治以来標準式と日本式が社会において並び行われていたが、これを統一するために、昭和五年に臨時ローマ字調査会が設置された。審議の結果、昭和十二年九月二十一日に内閣訓令第三号としてローマ字つづり方の統一方式が公布された。これが今日のいわゆる訓令式である。
以来、この訓令式は社会の各方面において行われてきていたが、戦争のため、ローマ字の使用は一時ほとんど中絶し、訓令式ローマ字つづり方もじゆうぶんに行きわたる機会がなかつた。
終戦後は、標準式、日本式、訓令式の三式が行われるようになり、教育においても、どの式によるかは各学校の自由な採択にまかされた。
標準式、日本式、訓令式の三式ともそれぞれに根拠、特色および歴史があり、いずれのつづり方も、にわかにその使用を無視することはできにくいと考えられるが、国としては少なくとも教育上においては、おのずから一定のよりどころがなければならないと信ずる。
三 国語審議会におけるつづり方についての審議の過程においては、対外関係、国際関係だけを考えるときは、標準式を採るとする意見も強かつた、しかしながら、審議の方針としては、対外関係、国際関係を考慮しながらも、われわれ日本人の立場にたち、社会の現実をみつめ、実行可能であることを第一義として審議が進められ、昭和二十八年三月十二日の総会において、第一表、第二表からなるローマ字のつづり方が決定され、第一表に掲げるつづり方をよりどころとした。
なお、義務教育においては、第二表に掲げるつづり方によるローマ字文も「教育の適当な時期において習得されなければならない」とされており、従来のいわゆる標準式つづり方を退けてはいない。
文部省としても、慎重な考慮と正規の手続の結果、小・中学校のローマ字学習指導においては、第一表をそのよりどころとし、第二表についての知識もあわせて学習させるよう通達したのである。
四 国語審議会委員の構成については、ローマ字つづり方の審議が公正に行われるよう、特につづり方の三式間の関係がじゆうぶんに考慮され、できるだけの手を尽して、いわゆる一党一派に傾かないように可能な限りのすべての手続がなされた。
なお、議事の運営については、国語審議会令(昭和二五・四・一七政令第八五号)に定められたところによつて適正に行われたと信ずる。小・中学校におけるローマ字つづり方を単一化することについては、文部大臣は国語審議会から建議を受けたので、その趣旨によつて実施してよいかどうかを教育課程審議会に諮問し、これらの結果について慎重に検討のうえ、各関係方面に対して通達した。(昭和二八・八・三一付文初初第五六八号)
右答弁する。