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答弁本文情報

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昭和四十四年二月四日受領
答弁第一号
(質問の 一)

  内閣衆質六一第一号
    昭和四十四年二月四日
内閣総理大臣 佐藤榮作

         衆議院議長 石井光次郎 殿

衆議院議員平林 剛君提出法人税法における役員賞与の損金不算入に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員平林 剛君提出法人税法における役員賞与の損金不算入に関する質問に対する答弁書



一1 質問主意書において問題とされている小石川税務署長のした処分の経緯は、次に述べるとおりである。
   法人税の課税上、役員賞与は使用人兼務役員の当該使用人としての職務に係る部分の賞与を除き損金に算入されないことを定めた現行の法人税法第三十五条の規定は、昭和四十年法律第三十四号により設けられたものであつて、それ以前においては、旧法人税法施行規則第十条の四に同旨の規定が設けられていた。
   ところで、この旧法当時同族会社判定の基礎となつた株主たる役員は使用人兼務役員に該当しないとしてその賞与の損金算入を否認された事件について、昭和四十三年六月、大阪高裁において、当該事件に係る役員には使用人としての職務遂行の事実があるとの認定を下したうえで、使用人としての職務に係る部分の賞与については損金算入を認めるのが相当であるとする判決があつた。
   質問主意書に係る訴訟事件については、これもたまたま旧法当時のものであり、また、その内容も右大阪高裁の判決に係る事件と類似するものであつたので、その更正処分を取り消したものであり、右取消しは、「旧法人税法の解釈および運用が憲法に違反し、無効であることを認めて、従来の運用を変更してなした処分」ではない。

 2 「従来の課税が無効である」とは考えていないので、使用人兼務役員賞与に対する法人税の還付またはそのための更正の請求の特例等の方法は考えていない。ただ、旧法当時の案件で現在なお未確定のもののうち、使用人としての職務の遂行およびそれに対する賞与の支給の事実が明らかなものについては、質問主意書に係る訴訟事件の場合と同様に取り扱う所存である。

二 法人税法第三十五条の役員賞与の損金不算入の規定は、以下の理由から、「平等の原則、勤労の権利および納税の義務」を規定した憲法の条項違反をうんぬんすべき性質のものとは考えていない。
 1 法人税法第三十五条第一項において役員賞与の損金不算入の原則が明らかにされているが、これは、役員の賞与が、法人利益の分配であり法人利益を稼得するための経費とは考えられないからである。すなわち、法人の役員は会社の機関としてその業務を執行するものであり、通常の使用人とその業務内容を異にすることは商法(第二百五十四条第三項)でも会社と役員との関係は委任に関する規定に従うこととしていることからも明らかなことである。したがつて、役員は、通常の業務執行の対価として報酬を受けるが、賞与は法人に利益がある場合に限りその利益の分配として支給を受けるのである。このように役員賞与が法人の利益処分に基づき、かつ、株主総会の承認を経てはじめて支給されるということは、わが国における企業の慣行として確立されているものであり、これを法人の利益の稼得のための必要な経費として損金に算入する理由がない。
   右に述べたとおり、役員報酬は損金に算入されるが、利益の分配として賞与の性格をもつ部分まで業務執行の対価であるとして報酬に含まれることもありうるので、役員報酬のうち過大な部分については損金不算入とする規定が設けられているのである。これに対し、役員賞与は、本来、利益の分配であるから、右の役員報酬とは異なり、その中の特に過大な部分をぬき出してその部分のみを損金不算入とする考え方は成り立たない。

 2 前記のように役員賞与を法人の必要な経費として損金に算入することは、本来認められないものである。したがつて、その意味では、使用人としての職務を常時行なう者であつても、役員である限りは、その賞与の損金算入が認められないはずのものである。
   しかし、近時、これらの使用人兼務役員(たとえば取締役経理部長)の存在が一般化してきたことから、これらの役員については、例外として、実情に即してその使用人としての職務に対する賞与を使用人賞与に準じて取り扱い、損金に算入するという特則を認めることとしたものである。
   質問主意書で「除外使用人兼務役員」といつている社長、副社長、専務取締役、常務取締役、監査役等は、例外的な取扱いを受ける右のような使用人兼務役員以外の本来の役員たるものをさすものであつて、これらの者は、役員としての業務に専念する者であることが一般に認められており、その賞与に対して課税されるのはむしろ実質課税の原則にかなうものであり、合理的な理由がある以上、平等の原則に反するものでもない。

 3 社長等の役員に対する賞与は、このような意味で、利益処分として経理され、必要経費として損金に経理されないのが会計慣行であるから、質問主意書のように経理されることはきわめて異例である。なお、一般的にいつて企業が損金として経理した金額を税法上損金算入を否認してはならないという原則は存在しない。これは、寄付金の損金算入限度超過額、交際費の損金不算入額、減価償却費の償却限度超過額等についても共通の問題であり、税法上適正公平な課税所得を計算するためには当然のことである。

 4 法人の役員賞与は、法人の利益を分配するものであるから、その原資となる法人の利益については当然法人税が課税される。一方、役員賞与を受け取つた社長等の個人についてはその賞与が当該個人の所得であるから、これを課税標準として所得税が課税されるのも当然である。これは、所得の帰属に応じてそれぞれ独立の課税が行なわれているのであるから、この場合の法人税と所得税との課税をもつて二重課税ということはできない。すなわち、法人税が、その法人を所有している株主の所得税の前取りであるとして構成されている現行の制度から類推して、役員賞与に対する課税を二重課税ということは適当ではない。

 5 役員賞与の支払原資となつている法人の利益に対する法人税と、役員が受け取つたその利益の分配である賞与に対する所得税とが二重課税と考えられない以上、双方の課税を単純に合計して考えることは適当でない。
   かりに、二重課税という問題をはなれて、役員賞与の支払原資となつている法人の利益に対する法人税と役員が受け取つた賞与に対する所得税とを合計して税負担を計算するとしてみても、納付税額に対応すべき課税対象額は賞与の支払原資とされた法人の利益の額であるから、その場合の負担率が百パーセントをこえることはありえない。したがつて、役員賞与に対する現行課税方式が経済的に不可能な納税義務を課するという非難はあたらない。

 6 地方税を含めてみても、この事情は同様である。

 7 質問主意書で「除外使用人兼務役員」といわれているものに対する賞与の損金算入を認めないのは、1および2で述べたような理由によるものであつて、それが「勤労の対価とは認められない」からではなく、また、「勤労の権利を否定する」ものでもない。

 右答弁する。




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