衆議院

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第1 平成16年の国会の動き

1 国会の召集及び会期

平成16年には、第159回国会(常会)、第160回国会(臨時会)及び第161回国会(臨時会)が召集された。

第159回国会は、平成16年1月19日に召集され、会期は、6月16日までの150日間であった。

第160回国会は、7月30日に召集され、会期は、8月6日までの8日間であった。

第161回国会は、10月12日に召集され、会期は、12月3日までの53日間であった。

2 国会の主な動き

(1) 概況

【第159回国会(常会)】

第159回国会は、平成15年11月の衆議院議員総選挙後初めての常会であり、平成16年1月19日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定を行った後、外務委員長外4常任委員長の選挙を行い、また、災害対策特別委員会外5特別委員会を設置した。

この国会においては、イラク人道復興支援のための自衛隊派遣や年金制度改革が大きな争点となったのをはじめ、国と地方の税財政改革である三位一体改革、裁判員制度等の司法制度改革、北朝鮮問題、証券・金融システム改革、鳥インフルエンザ対策等の食の安全問題、道路4公団の民営化、国民保護法制等の有事法制などが主な論点となり、議論が行われた。【これらの動きについては、(2),(3),(4),(5),(6),(7),(8),(9),(10)を参照】

(施政方針演説及び代表質問)

召集日の1月19日、衆参両院の本会議において、小泉内閣総理大臣の施政方針演説、川口外務大臣の外交演説、谷垣財務大臣の財政演説及び竹中経済財政政策担当大臣の経済演説の政府4演説が行われた。

小泉内閣総理大臣はこの中で、「構造改革なくして日本の再生と発展はない」というこれまでの方針を堅持しつつ、「本年は、これまでの改革の成果を生かすとともに、郵政事業や道路公団の民営化、地方分権を進める三位一体の改革、年金改革などこれまで困難とされてきた改革を具体化し、日本再生の歩みを確実にする年である」との決意を表明した。

イラクの復興に貢献するため、資金面では、電力、教育、水・衛生、雇用などの分野を中心に無償資金を供与するとともに、人的な面では、自衛隊を派遣し、医療、給水、学校等公共施設の復旧・整備や物資の輸送などの人道復興支援活動を行うとし、また、テロの防止・根絶及び大量破壊兵器の不拡散に向けた国際的取組に引き続き積極的に参画していく考えを示した。

次に、日本経済を再生するため、民間の活力と地方のやる気を引き出す金融・税制・規制・歳出の改革を更に加速し、政府は日銀と一体となって、デフレ克服と経済活性化を目指すとした。そして、「民間にできることは民間に」との方針のもと、行財政改革を進め、改革の本丸とも言うべき郵政事業の民営化については、本年秋ごろまでに民営化案をまとめ、平成17年に改革法案を提出すると述べた。また、道路4公団については、今国会に関連法案を提出するとし、競争原理を導入し、日本道路公団を地域分割した上で、平成17年度に民営化を実現するとした。

さらに、「地方にできることは地方に」との原則のもと、三位一体改革を進め、補助金の廃止・縮減等を行い、地方交付税を減額するとともに、平成18年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施するとし、地方の自由度や裁量を拡大するための改革を推進するとした。

次に、国民の安全への備えに関して、危機管理体制の整備、重要施設の警備など国内テロ対策を強化し、大規模テロや武装不審船など緊急事態に的確に対処できる態勢を整備すると述べた。そして、有事に際して国民の安全を確保するため、関係法案の成立を図り、総合的な有事法制を築き上げるとした。

また、司法を国民に身近なものとするため、刑事裁判に国民が参加する裁判員制度の導入や全国どこでも気軽に法律相談できる司法ネットの整備など司法制度改革を進める意欲を示した。

年金については、少なくとも現役世代の平均的収入の50%の給付水準を確保しつつ、負担が過大とならないよう保険料を極力抑制する一方、年金課税の適正化により基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げに道筋をつける改革案を取りまとめたので、今国会に関係法案を提出すると述べた。

北朝鮮については、日朝平壌宣言を基本に、拉致問題と、核・ミサイルなど安全保障上の問題の包括的な解決を目指すとし、北朝鮮に対し、核開発の廃棄を強く求める考えを示した。そして、拉致問題の一刻も早い全面解決に向け引き続き全力を尽くすと強調した。

これに対する本会議の代表質問は、1月21日及び22日の両日行われ、イラク人道復興支援、有事法制、北朝鮮拉致問題、郵政事業・道路4公団民営化、三位一体改革、年金制度改革、財政構造改革、雇用対策、治安対策、教育問題、憲法改正、政治資金問題などについて論議が展開された。

参議院においては、同月22日及び23日に代表質問が行われた。

(自衛隊イラク派遣承認案件及び平成15年度補正予算審議)

会期当初においては、イラク人道復興支援活動への自衛隊の派遣問題が焦点となった。

同承認案件は、本会議において趣旨説明・質疑を行った後、イラク支援特別委員会において、1月29日から質疑入りした。イラクの治安情勢等に対する認識について、政府・与党と野党との溝が埋まらない状況のまま、同月30日、同承認案件は賛成多数で承認され、翌31日の本会議において、野党が欠席する中、承認された。

参議院においては、2月9日の本会議で承認された。【イラク人道復興支援関係については、(2)参照】

イラク復興支援経済協力費等の追加措置等を講ずるための平成15年度補正予算は、予算委員会において、1月23日に提案理由の説明を聴取した後、同月26日、27日及び28日の3日間質疑が行われ、同月30日、イラク支援特別委員会での自衛隊イラク派遣承認案件の採決に反発した野党が欠席する中で可決され、翌31日の本会議において可決された。

参議院においては、2月9日の本会議で可決され、補正予算は成立した。【補正予算審議については、「第3 委員会の概況 14予算委員会」参照】

(平成16年度総予算審議)

平成16年度総予算は、予算委員会において、1月23日に提案理由の説明を聴取し、2月10日、12日及び13日に内閣総理大臣と全閣僚が出席する基本的質疑が行われた後、一般的質疑、年金及び構造改革問題等及び北朝鮮問題に関する集中審議、公聴会、分科会が行われ、3月5日の締めくくり質疑をもって質疑を終局した。

質疑終局後、総予算は賛成多数で可決され、同日の本会議において、記名投票の結果、可決された。

参議院においては、3月26日の本会議で可決され、総予算は成立した。【総予算審議については、「第3 委員会の概況 14 予算委員会」参照】

(総予算成立後)

平成16年度総予算成立後の国会では、年金制度改革関連法案の審議が大きな焦点となった。

内閣提出の同関連法案は、本会議で趣旨説明・質疑を行った後、厚生労働委員会で、4月7日から質疑入りした。野党は、同関連法案は国民に保険料の負担増と給付水準の引下げを強いるものであるとして法律案の撤回を主張し、民主からは対案も提出された。

審議の過程においては、閣僚や国会議員の国民年金未加入・保険料未納問題が明らかとなり、その対応を巡り与野党の対立が深まった。このような状況の中、同月28日、同委員会において、野党が欠席する中、内閣提出の年金制度改革関連法案は、賛成多数で可決された。

5月6日、自由民主党、民主党、公明党の3党は、公的年金制度の一元化の検討などを国民年金法等改正法案の附則に追加する修正を行うことや社会保障制度全般について見直しを行うための協議機関の設置等で合意し、同月11日の本会議において国民年金法等改正法案は修正議決され、他の2法律案も可決された。

参議院においては、6月5日の本会議で可決され、年金制度改革関連法案は成立した。【年金制度改革関係については、(3)参照】

なお、6月4日、参議院における年金制度改革関連法案の採決を巡る動きの中で、衆議院厚生労働委員会における同改革関連法案の強行採決、委員長自らの国民年金保険料未納に係る説明責任の欠如などを理由に、民主、共産及び社民の3会派は共同で厚生労働委員長衛藤晟一君解任決議案を提出したが、同日の本会議で否決された。

また、閣僚や国会議員の国民年金未加入・保険料未納問題を巡っては、5月7日、福田内閣官房長官が辞任し、同日、細田内閣官房副長官が内閣官房長官に就任したほか、同月10日、菅民主党代表も代表の辞任を表明し、同月18日、後任に岡田克也議員が選出された。さらに、衆参の民主所属の一部常任・特別委員長が辞任した。

このほか、4月20日、本会議において、川口外務大臣からイラクにおける邦人人質事件等について発言があり、これに対する質疑が行われた。

5月25日、本会議において、小泉内閣総理大臣から北朝鮮訪問に関する報告があり、これに対する質疑が行われた。

(会期末)

6月15日、年金制度の抜本改革の先送り、国民への説明責任の欠如、イラク派遣自衛隊の多国籍軍参加表明などを理由に、民主、共産及び社民の3会派は共同で小泉内閣不信任決議案を提出したが、同日の本会議において否決された。

会期最終日の6月16日、本会議において、閉会中審査の手続や請願採択などが行われ、第159回国会は終了した。

なお、国会議員互助年金制度等に関する諸問題について検討する場として、衆参両院議長の諮問機関「国会議員の互助年金等に関する調査会」(座長 中島忠能 前人事院総裁)が設置され、同日、第1回会議が開かれた。

(成立した主な法律案)

第159回国会においては、多くの法律案が成立しており、その主なものは、内閣提出の法律案では、三位一体改革関連法案、司法制度改革関連法案、道路4公団民営化関連法案、有事関連法案、金融機能強化特別措置法案、公益通報者保護法案、家畜伝染病予防法改正法案、景観法案などである。また、議員提出の法律案では、国会議員の秘書給与法改正法案、外国為替及び外国貿易法改正法案、特定船舶入港禁止特別措置法案などである。

(第159回国会閉会後)

6月18日、イラク支援特別委員会において、閉会中審査が行われ、イラクの主権回復後の自衛隊の人道復興支援活動等について政府から説明を聴取した後、質疑が行われた。

7月11日、第20回参議院議員通常選挙が行われた。即日開票の結果、自由民主党は、選挙前より1議席減、公明党は1議席増となり、自由民主党、公明党の連立与党は、非改選議席と合わせると安定多数を確保した。一方、民主党は、大きく議席を増やし、社会民主党は選挙前の議席を維持したが、日本共産党は議席を減らした。【参議院議員通常選挙については、3(2)参照】

【第160回国会(臨時会)】

第160回国会は、平成16年7月11日に第20回参議院議員通常選挙が行われたことを受けて開かれた臨時会であり、7月30日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定を行った後、会期は8日間と議決し、また、災害対策特別委員会外5特別委員会を設置した。

なお、議員の半数が改選された参議院では、議長に扇千景君、副議長に角田義一君がそれぞれ選出された。

この国会においては、前国会に引き続き年金制度改革が主な論点となったほか、自衛隊のイラク多国籍軍参加問題などが議論となった。

小泉内閣総理大臣の所信表明演説は行われなかったが、6月の第30回主要国首脳会議(シーアイランド・サミット)出席に関する報告及びこれに対する質疑が、8月2日の本会議、翌3日の参議院本会議においてそれぞれ行われた。

議案としては、民主から前国会で成立した年金制度改革関連法と3つの共済年金に係る改正法を廃止するための4法律案が提出された。

8月4日、これら4法律案は、厚生労働委員会等関係4委員会において、それぞれ賛成少数で否決され、翌5日の本会議において、否決された。【年金制度改革関係については、(3)参照】

また、同日、民主、共産及び社民の3会派は共同で、参議院議員通常選挙で国民から年金制度改革関連法が否定されたにもかかわらず、法改正に取り組もうとしないことなどを理由に、厚生労働大臣坂口力君不信任決議案を提出したが、同日の本会議で否決された。

会期最終日の8月6日、本会議において、閉会中審査の手続や請願採択などが行われ、第160回国会は終了した。

(第160回国会閉会後)

9月16日、民主、共産及び社民の野党3会派の衆議院議員193名から小泉内閣総理大臣宛の臨時国会召集要求書が提出された。

9月27日、小泉内閣総理大臣は内閣改造を行い、第2次小泉改造内閣が発足した。

【第161回国会(臨時会)】

第161回国会は、平成16年10月12日に召集された。

召集日には、本会議において、議席の指定を行った後、会期は53日間と議決した。また、議院運営委員長外14常任委員長の選挙を行ったほか、災害対策特別委員会外5特別委員会を設置した。

この国会においては、政治献金の在り方など「政治とカネ」を巡る問題が大きな争点となったのをはじめ、イラク人道復興支援、年金制度改革、北朝鮮問題、災害対策などが主な論点となり、議論が行われた。【イラク人道復興支援関係については、(2)参照年金制度改革関係については、(3)参照北朝鮮問題関係については、(6)参照】

(所信表明演説及び代表質問)

召集日の10月12日、衆参両院の本会議において、小泉内閣総理大臣の所信表明演説が行われた。

小泉内閣総理大臣は、冒頭で、今年多発した豪雨や台風による災害で被害に遭った方々に対し、お見舞いを述べた。そして、被災地の早期復旧・復興を図るとともに、情報伝達や高齢者の救援が迅速になされるよう、防災対策の改善を図り、災害に強い国づくりを進めるとした。

次に、「構造改革なくして日本の再生と発展はない」との信念のもとに全力を挙げてきた構造改革に関して、郵政事業の民営化や三位一体の改革を具体化するこれからが正念場であるとし、これまでの方針どおり改革を断行するとの決意を表明した。また、政治に対する国民の信頼なくして、改革を進めることはできないと述べ、政治資金を巡る不祥事が後を絶たないことを厳しく受けとめ、信頼の政治の確立を目指して、政治改革に取り組むとした。さらに、郵政事業の民営化は、明治以来の大改革であり、改革の本丸であるとし、今後、利用者である国民の立場に立って、具体案の取りまとめに全力を傾け、次期通常国会に法律案を提出し、平成19年4月から郵政公社を民営化するとした。

次に、「地方にできることは地方に」という議論を具体化するための三位一体の改革に関して、8月にまとめられた地方団体の補助金改革案を真摯に受けとめ、今年度の1兆円に加え、来年度からの2年間に行う約3兆円の補助金改革、税源移譲、地方交付税改革の全体像を年内に決定するとした。そして、2010年代初頭には、政策的な支出を新たな借金に頼らずにその年度の税収等で賄うよう財政構造改革を進めるとし、税制については、三位一体の改革や社会保障制度の見直しと併せて議論を進めるとした。さらに、年金の一元化問題を含む社会保障制度全般の一体的見直しを行うことについては、先般の年金改革法の審議を通じて、自由民主党、民主党、公明党の3党で合意しており、改革を具体化していくため、与野党が立場を超えて早急に協議を開始することが必要であると述べた。

また、外交・安全保障に関し、我が国の安全と繁栄には、世界の平和と安定が不可欠であり、日米同盟と国際協調を外交の基本として、国際的課題に対して積極的に貢献していくと述べた。

これに対する本会議の代表質問は、10月13日及び14日の両日行われ、郵政事業民営化、三位一体改革、日本歯科医師連盟(日歯連)の献金問題、在日米軍の再編問題、自衛隊のイラク派遣、北朝鮮拉致問題、年金制度一元化、雇用対策などについて論議が展開された。

参議院においては、同月14日及び15日に代表質問が行われた。

(災害対策)

10月に本土に上陸した台風第22号及び第23号に伴う大雨、10月23日に発生した新潟県中越地震による被害対策などが災害対策特別委員会をはじめ関係委員会において議論された。

なお、10月26日、本会議において、村田防災担当大臣から平成16年の台風・新潟県中越地震災害について発言があり、これに対する質疑が行われた。

(政治献金問題)

この国会においては、会期当初から日歯連による政治献金問題をはじめとした「政治とカネ」を巡る問題が大きな争点となり、関係者の証人喚問の必要性や迂回献金の禁止、政治団体間の寄附の量的制限などについて議論が行われた。与党(自民及び公明)及び民主から、それぞれ政治資金規正法改正法案が提出され、倫理選挙特別委員会において12月1日に提案理由の説明を聴取したが、いずれも継続審査となった。

また、11月30日、政治倫理審査会は、日歯連から政治団体 平成研究会への政治献金問題について、橋本龍太郎議員から弁明を聴取した後、質疑が行われた。

(イラク問題)

11月2日、本会議において、町村外務大臣からイラクにおける邦人人質事件に関する報告があり、これに対する質疑が行われた。

また、12月に自衛隊のイラク派遣の期限を迎えることから、その期間の延長の是非などが議論となった。民主、共産及び社民の3会派は共同でイラク人道復興支援特別措置法廃止法案を提出し、イラク支援特別委員会において質疑が行われたが、審査未了となった。【イラク人道復興支援関係については、(2)参照】

(会期末)

11月30日、本会議において、北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会を設置した。

会期最終日の12月3日、本会議において、日米交流150周年を記念し、日米関係の増進に関する決議案が可決された後、閉会中審査の手続や請願採択などが行われ、第161回国会は終了した。

(成立した主な法律案)

第161回国会において成立した法律案の主なものは、内閣提出の法律案では、裁判外紛争解決手続利用促進法案、信託業法改正法案、メキシコとの経済連携協定関連法案、刑法改正法案などである。また、議員提出の法律案では、犯罪被害者等基本法案、特定障害者に対する特別障害給付金支給法案、貸金業規制法改正法案などである。

(第161回国会閉会後)

12月10日、拉致問題特別委員会において閉会中審査が行われ、横田めぐみさんの遺骨とされるものなどの鑑定の状況について政府から説明を聴取した後、質疑が行われた。

また、同月13日、イラク支援特別委員会において閉会中審査が行われ、イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置に関する基本計画の変更について政府から説明を聴取した後、質疑が行われた。

(2) イラク人道復興支援関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

平成15年3月20日、米英等はイラクに対する武力行使を開始した。米英等の圧倒的な軍事力の前にイラクのフセイン政権は崩壊し、イラクは米英等の占領下に置かれた。5月1日には米国のブッシュ大統領が主要な戦闘は終結したと宣言したが、イラクの治安状況は安定せず、米英等による占領が継続するとともに、イラクの復興のためには国際社会による協力が不可欠の状態となった。このため、イラクの復興への協力を加盟国に要請する国際連合安全保障理事会決議第1483号が、5月22日に採択された。

小泉内閣総理大臣は、米英等によるイラクに対する武力行使を支持するとともに、イラク及びその周辺地域の平和と安定の回復のために積極的に対応していくことを表明した。上記の決議の採択を受け、政府は、治安が安定せずインフラも十分でないイラク国内において人的貢献を行うため、自己完結性を持つ自衛隊を派遣する方針を決定した。そのため、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法案」が、第156回国会の平成15年6月13日に提出された。同法律案は、約1か月の審議を経て、7月26日に成立し、8月1日に施行された。

同法律は、イラクの復興のために我が国が実施する活動として、医療、給水、施設・設備の復旧等の人道復興支援活動及び国際連合安全保障理事会の決議に基づきイラクの安定のために国際連合加盟国が行う活動を支援する安全確保支援活動の2種類の活動を定めている。また、同法律に基づく各活動の実施に当たっては、別途活動の種類、活動地域、派遣期間等を定めた基本計画の閣議決定が必要と規定されている。さらに、自衛隊の部隊等による活動を実施する場合には、活動を開始した日から20日以内に、国会が閉会中の場合においてはその後召集される国会において速やかに、活動の実施に関して国会の承認を求めなければならないこととなっている。

政府は、自衛隊をイラクへ派遣する準備の一環として現地における治安状況や復興支援への要望等を確認するため、調査団を数次にわたりイラクへ派遣した。その調査結果を踏まえ、12月9日、自衛隊の部隊等により医療、給水、公共施設の復旧・整備等の人道復興支援活動をサマーワ市があるムサンナー県を中心としたイラク南東部において実施すること、給水等の人道復興支援活動を行う陸上自衛隊の部隊の人員は交替を行う場合を除き600名以内とすること、安全確保支援活動については人道復興支援活動に支障を及ぼさない範囲で行うこと、派遣期間は平成15年12月15日から平成16年12月14日までとすること等を定めた基本計画を閣議決定した。12月19日には、石破防衛庁長官が陸・海・空の各自衛隊に対し各活動の実施を命令し、自衛隊がイラクへ派遣されることとなった。

イ 関連議案の概要

(ア) イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法第6条第1項の規定に基づき、自衛隊の部隊等による人道復興支援活動及び安全確保支援活動の各活動の実施に関し承認を求めるの件(内閣提出)

イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法及び同法律第4条の規定により閣議決定された基本計画に基づき人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施について自衛隊の部隊等に命令が発出されたことを受けて、同法律第6条第1項の規定により、自衛隊の部隊等による各活動の実施について国会の承認を求めるものである。

(イ) イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法を廃止する法律案(鳩山由紀夫君外7名提出)

イラクにおける最近の情勢等にかんがみ、自衛隊の部隊等による対応措置を終了させる等のため、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法を廃止しようとするものである。

ウ 審議経過

(ア) 第159回国会

上記承認案件は、平成16年1月19日に提出された。同月27日に本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会(以下「イラク支援特別委員会」という。)に付託された。同委員会においては、同日、提案理由の説明を聴取し、同月29日、参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた後、政府に対し質疑が行われた。27日の本会議においてサマーワ市における治安が安定している一つの要因として小泉内閣総理大臣が言及した市評議会に係る事実関係についての政府の説明を巡って質疑が中断するなどしたが、同月30日、「質疑を終局し、討論を省略し、採決することを求める動議」が可決され、本承認案件は賛成多数で承認すべきものと議決された。

翌31日の本会議において、野党が欠席する中、本承認案件は承認された。

参議院においては、2月9日の本会議で承認された。

本承認案件議決後においても、イラク支援特別委員会においては、イラクにおける自衛隊の部隊の活動状況について防衛庁から、イラクの治安情勢について外務省から、それぞれ定期的に説明を聴取するとともに、自衛隊の活動状況、治安状況を含むイラク情勢等について質疑が行われた。また、イラクの主権回復等に関する国際連合安全保障理事会決議第1546号が6月8日に採択されたことを受け、自衛隊が多国籍軍の中で活動することとなったことから、閉会中の同月18日、細田内閣官房長官より報告を聴取するとともに、自衛隊が多国籍軍の中で活動することの是非や憲法解釈との整合性等について質疑が行われた。

(イ) 第160回国会

平成16年8月4日、イラク支援特別委員会において、イラクにおける自衛隊の活動状況について防衛庁から、イラクの治安情勢について外務省から、それぞれ説明を聴取した後、質疑が行われた。

(ウ) 第161回国会

平成16年10月に在イラク邦人人質事件が起こり、被害者が殺害されたことを受けて、11月2日の本会議において、事件に関する報告及び質疑が行われた。また、小泉内閣総理大臣出席のもと、イラク支援特別委員会において、同月25日、イラク情勢等について質疑が行われた。

民主、共産、社民からは、自衛隊の部隊等による対応措置を終了させるため、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法を廃止する法律案が、11月11日に提出された。

同法律案は、同月22日にイラク支援特別委員会に付託された。同委員会においては、同月25日、提案理由の説明を聴取し、12月1日、質疑が行われたが、審査未了となった。

12月9日、自衛隊の派遣期間を1年間延長し平成17年12月14日までとすること等を内容とする基本計画の変更が閣議決定された。これを受け、閉会中の12月13日、同委員会が開会され、細田内閣官房長官より報告を聴取するとともに、派遣期間の延長の是非等について質疑が行われた。

エ 主な質疑事項

主な質疑事項は、[1]イラクに対する米英等の武力行使の国際法上の正当性及び我が国の支持表明の是非、[2]イラクにおける大量破壊兵器の存否、[3]イラクの治安状況といわゆる「非戦闘地域」、[4]イラク人道復興支援特別措置法における武器使用基準、[5]イラクへの武力行使における劣化ウラン弾使用の有無、[6]イラクへの自衛隊派遣が持つ我が国国益上の意義、[7]自衛隊による対応措置の実施と国会承認との関係、[8]自衛隊の多国籍軍への参加と過去の憲法解釈との整合性、[9]多国籍軍の指揮命令系統、[10]自衛隊の派遣期間延長の是非等であった。

(3) 年金制度改革関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

公的年金制度では長期的な財政収支の均衡を保つ必要があることから、社会経済情勢の変化を踏まえ、5年毎に財政検証を行い、必要に応じて制度改正を行うこととなっている。

平成16年は、このような「財政再計算」の年に当たり、近年の少子・高齢化の一層の進展、また、依然として厳しい経済・雇用情勢などを踏まえ、政府内では、平成12年の年金制度改正で残された課題でもある年金保険料引上げの凍結解除や基礎年金の国庫負担割合引上げを行い、年金制度の財政的安定性を確保するとともに、女性の社会進出やライフスタイルの多様化などに対応した年金制度の構築に向けた議論が進められていた。

一方、給付減・負担増の制度改正を繰り返す年金制度への国民からの不信を背景に、諸外国の事例を参考とした年金制度の抜本的な改革を求める意見も多く出されていた。なお、公的年金制度では、これまでも旧3公社共済年金や農林年金が厚生年金に統合されてきた経緯があり、被用者年金の一元化に向けた検討が進められており、平成16年においては、国家公務員と地方公務員のそれぞれの共済組合の財政単位の一元化が大きな課題となっていた。

このような状況の中、政府内においても、一本の所得比例年金と補足的給付の組み合せた制度体系への変更など、公的年金制度全般にわたる見直しについて議論されたが、現時点での実現困難性などの意見があり、平成16年の制度改正では、現行の制度体系を基本として改革を行い、長期的に安定した制度としたうえで、今後、年金制度体系の在り方を議論することとなった。

その後、具体的な年金制度の改正事項である基礎年金の国庫負担割合引上げに必要な財源の取扱い、また、保険料水準の上限と給付水準の下限について、政府・与党内での調整が行われた。その結果、年金制度改正の関連法案として、国民年金や厚生年金について改正を行う国民年金法等の一部を改正する法律案、新たに年金積立金の管理運用を行う独立行政法人を設立する年金積立金管理運用独立行政法人法案及び65歳までの雇用の確保等に向けた高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案の3法律案が第159回国会に提出された。また、公務員や私立学校教職員に係る各共済組合などについて、厚生年金と同様の制度改正を行うとともに、公務員の共済年金の財政単位一元化に向けた必要な措置を行う「国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律案」及び「地方公務員等共済組合法等の一部を改正する法律案」並びに「私立学校教職員共済法等の一部を改正する法律案」も第159回国会に提出された。

一方、民主(古川元久君外5名)からは、公的年金の制度全般にわたる見直しが必要であるとして、年金制度の抜本改革を推進するための高齢期等において国民が安心して暮らすことのできる社会を実現するための公的年金制度の抜本的改革を推進する法律案が、議員立法として提出された。

また、これらの法律案の審議を通じて、国民年金未加入・保険料未納の問題が争点の一つとなり、遡って保険料を納められる期間が2年間に限られていることから、この期間を延長すること等を内容とする「国民年金法の一部を改正する法律案」が、自民から議員立法として提出された。

その後、内閣提出の年金制度改正の関連法案は、会期末の平成16年6月に成立したが、年金制度の在り方が争点の一つとなった7月の参議院議員通常選挙で、民主党は、これらの法律を廃止することをマニフェストに掲げた。

一方、国民年金法等の一部を改正する法律案の成立後に、条文の改正漏れ等が多数見つかり、野党からそれを修正する法律案の提出を求める意見が出されたが、議院運営委員会での協議の結果、官報の正誤で処理されることとなった。

このような背景のもと、参議院議員通常選挙後に召集された第160回国会では、民主から、成立した国民年金法等の一部を改正する法律等を廃止して、年金制度の一元化に向けた必要な整備を行うこと等を内容とする国民年金法等の一部を改正する法律を廃止する等の法律案が、議員立法として提出されたが、否決された。

しかし、国民からは、引き続き年金制度の抜本的な改革を求める意見があり、特に、負担の公平性確保の観点から、自営業者等を含めた年金制度の一元化論が高まっていた。このような状況を背景に、第161回国会では、第159回国会で審査未了となった民主提出の法律案が一部変更され、再度、民主(仙谷由人君外7名)から、高齢期等において国民が安心して暮らすことのできる社会を実現するための公的年金制度の抜本的改革を推進する法律案が議員立法として提出された。

イ 関連議案の概要

(ア) 国民年金法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

急速な少子高齢化が進行する中、社会経済と調和した持続可能な年金制度を構築し、国民の制度に対する信頼を確保するとともに、多様な生き方及び働き方に対応した制度とするため、制度全般にわたり改正を行おうとするもので、その主な内容は、

a 基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げることとし、平成16年度から段階的に引き上げ、財源確保のための税制上の措置を講じたうえで、平成21年度までに、完全に引き上げるものとすること

b 国民年金の保険料額を、平成17年度から毎年度280円(平成16年度価格*)ずつ引き上げ、平成29年度以降は1万6,900円(平成16年度価格)とし、また、厚生年金保険の保険料率を、平成16年10月から毎年0.354%ずつ引き上げ、平成29年度以降は18.30%とすること

* 平成16年度価格とは、平成16年度の賃金水準を基準として価格表示したもの。実際に賦課される保険料額は、平成16年度価格の額に、賦課される時点までの賃金上昇率を乗じて定められることから、その額は今後の賃金上昇の状況に応じて変化する。

c 年金額の改定は、毎年度、賃金又は物価の変動率により行うこととし、年金財政の現況及び見通しにおいて調整の必要があると見込まれる場合は、年金額の改定率に公的年金被保険者数の減少率等を反映させること(マクロ経済スライド)

d 年金の給付水準の下限を定め、これを将来にわたり確保する旨の規定を設けること

等である。

(イ) 年金積立金管理運用独立行政法人法案(内閣提出)

年金積立金の運用について、専門性の徹底及び責任体制の明確化を一層図るとともに、特殊法人等整理合理化計画を実施するため、年金資金運用基金を解散し、年金積立金の管理及び運用を行う専門機関として、新たに年金積立金管理運用独立行政法人を設立しようとするものである。

(ウ) 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)

少子高齢化の急速な進展を踏まえ、高年齢者が少なくとも年金支給開始年齢までは、意欲と能力のある限り働き続けることができる環境を整備するため、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による65歳までの雇用の確保、高年齢者等の再就職の促進等の措置を講じようとするものである。

(エ) 高齢期等において国民が安心して暮らすことのできる社会を実現するための公的年金制度の抜本的改革を推進する法律案(古川元久君外5名提出)

将来にわたり安定した公的年金制度の構築を図るため、平成20年度末までに、すべての国民が加入する所得等比例年金及び最低保障年金からなる制度とし、保険料を引き上げずに年金目的消費税を導入する等の基本方針に基づく年金制度改革を行うとともに、その具体的措置等について調査を行う調査会を各議院に設置すること等によって、国民的合意に基づく年金制度改革を推進しようとするものである。

(オ) 国民年金法等の一部を改正する法律を廃止する等の法律案(岡田克也君外10名提出)

第159回国会において成立した国民年金法等の一部を改正する法律及び年金積立金管理運用独立行政法人法を廃止するとともに、基礎年金に係る国庫負担の割合を段階的に引き上げ、社会保険庁を廃止し、公的年金制度の一元化を実施できるようにするために必要な整備を平成18年度中に行う等の措置を講じようとするものである。

(カ) 高齢期等において国民が安心して暮らすことのできる社会を実現するための公的年金制度の抜本的改革を推進する法律案(仙谷由人君外7名提出)

将来にわたり安定した公的年金制度の構築を図るため、平成19年度末までに、すべての国民が加入する所得等比例年金及び最低保障年金(限度額7万円)からなる制度とし、保険料を引き上げずに年金目的消費税を導入する等の基本方針に基づく年金制度改革を行うとともに、その具体的措置等について調査を行う調査会を各議院に設置すること等によって、国民的合意に基づく年金制度改革を推進しようとするものである。

ウ 審議経過

(ア) 第159回国会

内閣提出の3法律案は、平成16年2月10日に提出されたが、法律案の審議以前から、年金制度改革が通常国会における大きな争点となっており、予算委員会では集中審議も行われた。

その後、4月1日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、厚生労働委員会に付託された。同委員会においては、同月2日、提案理由の説明を聴取し、同月7日から質疑に入った。

古川元久君外5名提出の法律案は、4月8日に提出され、翌9日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われた後、厚生労働委員会に付託された。同日、同委員会において提案理由の説明を聴取した後、内閣提出の3法律案と併せて質疑に入った。

同月22日には、経済団体、労働団体の代表や学者などの参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。同月28日、野党が欠席する中、内閣提出の3法律案について、「質疑を終局し、討論を省略し、採決することを求める動議」が可決され、3法律案はいずれも賛成多数で可決すべきものと議決された。

厚生労働委員会の審査においては、保険料の引上げ等に反対し、国民年金と被用者年金との一元化など年金制度の抜本改革等を求める野党の委員と、その実現困難性などを指摘する与党の委員との間で議論が交わされた。しかし、国民年金への加入を促進する広告に起用された女優の保険料未納問題の発覚を契機に、閣僚や国会議員の国民年金未加入・保険料未納が政治的な問題に発展し、法律案の審議日程などを巡る与野党の対立と併せて、野党が度々、委員会を欠席する場面も見られた。

このような状況の中で、内閣提出の3法律案の採決が行われたため、与野党の対立は激化したが、自由民主党、民主党、公明党の3党間で合意文書が交わされたことを受け、「政府は、社会保障制度に関する国会の審議を踏まえ、社会保障制度全般について、税、保険料等の負担と給付の在り方を含め、一体的な見直しを行いつつ、これとの整合を図り、公的年金制度について必要な見直しを行う」こと、「公的年金制度についての見直しを行うに当たっては、公的年金制度の一元化を展望し、体系の在り方について検討を行う」ことの規定を法律案附則に追加することを内容とする国民年金法等の一部を改正する法律案に対する修正案が提出された。

5月11日、本会議において、修正案及び修正部分を除く原案はいずれも可決され、併せて年金積立金管理運用独立行政法人法案及び高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案はいずれも可決された。

参議院においては、6月5日の本会議で、内閣提出の3法律案はいずれも可決され、成立した。

なお、「国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律案」、「地方公務員等共済組合法等の一部を改正する法律案」及び「私立学校教職員共済法等の一部を改正する法律案」の3法律案も成立した。

一方、古川元久君外5名提出の法律案は、衆議院において審査未了となった。

(イ) 第160回国会

国民年金法等の一部を改正する法律を廃止する等の法律案は、民主から平成16年7月30日に提出され、8月2日、厚生労働委員会に付託された。同委員会においては、同月4日、提案理由の説明を聴取し、質疑が行われた後、同法律案は、賛成少数で否決すべきものと議決された。

翌5日、本会議において、同法律案は否決された。

なお、3つの共済年金に係る改正法の廃止法案もそれぞれ提出されたが、いずれも否決された。

(ウ) 第161回国会

この国会においても、引き続き年金制度改革が国会での争点の一つとなり、小泉内閣総理大臣や内閣改造に伴い新たに任命された尾辻厚生労働大臣に対して、年金制度改革の在り方を問う質疑が予算委員会や厚生労働委員会において行われた。

仙谷由人君外7名提出の法律案は、平成16年11月19日に提出され、12月1日、厚生労働委員会に付託されたが、継続審査となった。

エ 主な質疑事項

(ア) 第159回国会

内閣提出の3法律案に対する主な質疑事項は、[1]公的年金制度の望ましい体系の在り方、[2]公的年金制度の一元化の意義、[3]保険料水準引上げが国民生活や経済・雇用情勢に与える影響、[4]マクロ経済スライドによる財政調整機能の不確実性及び年金財政への影響、[5]法律に明示した給付水準の下限をモデル厚生年金の受給世帯とすることの妥当性、[6]年金制度の根本的課題である次世代育成支援への取組、[7]短時間労働者への厚生年金の適用拡大に向けての環境整備の必要性、[8]国民年金の保険料未納問題への対応状況、[9]小泉内閣総理大臣及び閣僚の国民年金保険料の納付状況、[10]無年金障害者に対する救済措置を早期に実施する必要性、[11]福祉施設事業、事務経費名目で年金保険料を使用することの妥当性等であった。

また、古川元久君外5名提出の法律案に対する主な質疑事項は、[1]抜本的改革を行う平成20年度までの間の年金制度の在り方、[2]「年金目的消費税」導入の問題点及び年金単独の目的税を創設することの妥当性、[3]税財源である生活保護と最低保障年金との整合性、[4]社会保険による所得再配分機能を否定する理由、[5]現行年金制度における保険料未納期間の最低保障年金への反映の有無、[6]自営業者等の所得の範囲及びその把握方法を明確にする必要性等であった。

(イ) 第160回国会

主な質疑事項は、[1]民主主張の最低保障年金制度と基礎年金の国庫負担割合引上げとの整合性、[2]自営業者を含めた年金制度一元化の導入の前提となる所得把握の方法、[3]自営業者等への報酬比例年金の適用の是非、[4]年金目的消費税率3%により財政均衡が確保される根拠、[5]政府の見通しの甘さと合計特殊出生率の想定以上の低下による年金制度の持続性への疑念、[6]雇用形態等の変化により年金制度の空洞化が進む懸念等であった。

(ウ) 第161回国会

主な質疑事項は、[1]国民皆保険・皆年金制度の重要性及び制度堅持の必要性、[2]年金の一元化問題を含む社会保障制度全般の一体的改革の具体的内容、[3]被用者年金一元化への取組と今後の方針、[4]国民年金被保険者の就業形態の変化及び厚生年金の空洞化の実情把握を踏まえての対策の樹立の必要性、[5]基礎年金の国庫負担割合引上げの財源措置、[6]老齢年金の受給資格期間短縮の必要性等であった。

(4) 三位一体改革(国と地方の税財政改革)関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

平成12年4月に施行されたいわゆる地方分権一括法は、機関委任事務を廃止し、国と地方の役割分担の明確化を図ったが、その国会審議の過程において、衆議院では附則条文の追加(第251条「政府は、地方公共団体が事務及び事業を自主的かつ自立的に執行できるよう、国と地方公共団体との役割分担に応じた地方税財源の充実確保の方途について、経済情勢の推移等を勘案しつつ検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」)がされ、参議院では附帯決議(「本法の附則による地方税財源充実確保策の検討・措置については、地方における歳出規模と地方税収との乖離を縮小する観点から、国・地方を通じる税体系のあり方について抜本的な検討を行うこと。また、各地域の実情に応じた事業を進めるため、国庫補助負担金のさらなる整理・合理化を早急に推進するとともに、存続する国庫補助負担金については、統合・メニュー化を一層推進し、運用・関与の改革を図ること。」(一部分のみ抜粋))が付された。

すなわち、平成16年度を初年度として、国庫補助負担金、地方交付税及び地方への税源移譲を含む税源配分の在り方を一体として改革する三位一体の改革は、地方分権改革の流れの中で求められた改革であると捉えられている。

一方、我が国の財政の状況はより危機的なものとなり、財政の再建、行財政改革が喫緊の課題となった。

このような状況から、財政再建については、平成13年4月に就任した小泉内閣総理大臣の「国債30兆円公約」が柱となって、経済財政諮問会議において議論されたが、そこでは、国と地方の関係についても、公共事業、社会保障とともに主な対象分野として取り上げられた。

そして、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(平成13年6月26日閣議決定)、いわゆる「骨太の方針」において、地域に必要なサービスを住民が負担との見合いで選択するよう、国庫補助負担金や地方交付税、地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準を縮小することが打ち出され、地方交付税については事業費補正と段階補正の見直しが求められた。また、地方財政計画の歳出を徹底的に見直し、地方財政の健全化に取り組むことが決定された。

これらの流れを踏まえて、三位一体の改革は、地方分権の流れとは別の要素も加わって行われることとなった。

その後、片山総務大臣が5.5兆円税源移譲案(いわゆる「片山プラン」)を発表し、その考えを取り入れ閣議決定された「骨太の方針2002」では、[1]福祉、教育、社会資本などを含めた国庫補助負担事業の廃止・縮減について、内閣総理大臣の主導のもと、各大臣が責任を持って検討し、平成14年中を目途に結論を出す。[2]その結果を踏まえ、国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分の在り方を三位一体で検討し、それらの望ましい姿とそこに至る具体的な改革工程を含む改革案を、1年以内(平成15年6月中)を目途に取りまとめることとされた。

そして、平成15年度予算においていわゆる芽出しの措置(約5,600億円の国庫補助負担金の削減、義務教育費共済長期分等2,300億円の一般財源化、自動車重量税の地方移譲)が行われた。

その結果は、平成15年度において、地方財政計画歳入歳出規模(86.2兆円)に占める一般財源の比率は60.2%(臨時財政対策債を一般財源に含めた場合には67.1%)、地方一般財源に占める地方税の割合は61.9%(同55.7%)という状況であった。

続く「骨太の方針2003」においては、[1]改革と展望の期間中(平成18年度までの3か年間)に概ね4兆円程度を目途に国庫補助負担金の廃止縮減等の改革を行うこと、[2]廃止する国庫補助負担対象事業のうち引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては税源移譲(個別事業の見直し・精査を行ったうえで事業の性格に応じ10割・8割の額を移譲)し、移譲は基幹税を基本とすることが示された。

その中で、三位一体改革について、歳入・歳出両面での地方の自由度を高め、これにより受益・負担関係を明確化し、地方が自らの支出を自らの権限・責任・財源で賄う割合を増やし、真に住民に必要な行政サービスを地方自らの責任で自主的・効率的に選択する幅を拡大するとの地方分権の理念に沿った考え方と、地方歳出の徹底的な見直しによる地方交付税総額の抑制、税源移譲等による地方税の充実確保等を進めることにより、地方交付税への依存比率を低下させ、不交付団体の人口割合を大幅に高める(参考:平成14年度における地方交付税不交付団体(市町村)の人口割合は15%程度)との地方財政の健全化の考え方の両様が示されている。

その後、平成15年11月に小泉内閣総理大臣から「平成16年度予算における1兆円の補助金削減・縮減を目指すとともに、税源移譲も行う」との指示があり、これを受け麻生総務大臣が発表した「三位一体改革の基本的方向」により平成16年度に向けての動きが本格化したが、内閣総理大臣指示の具体化に当たっては削減する補助金等及び税源移譲対象税目について省庁、地方の様々な動きがあった。

かくして、12月18日に平成16年度地方財政対策が決定し、次に掲げるような平成16年度における三位一体改革の概要が決定した。

a 国庫補助負担金の改革………1兆300億円

(a) 国庫補助負担金の恒久的一般財源化………2,440億円

(b) 義務教育費国庫負担金のうち退職手当・児童手当分の暫定的一般財源化………2,309億円

(c) 公共事業関係国庫補助負担金等の削減等………5,500億円程度

b 税源移譲………6,558億円

(a) 所得税の一部の所得譲与税としての移譲(平成15・16年度の国庫補助負担金の一般財源化に対応)………4,249億円

(b) 税源移譲予定特例交付金を一般財源として交付(義務教育教職員の各年度の退職手当・児童手当の支給に必要な額)………2,309億円

c 地方歳出の抑制により、地方交付税総額を対前年度1.2兆円、6.5%減に抑制

このように平成16年度の改革の姿が明らかとなったが、地方自治体からは、臨時財政対策債も削減されたことから「地方にしわ寄せし、国の財政再建を優先している」等の批判が上がった。

このような流れを経て、平成16年度の三位一体改革を実現するための地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律案、所得譲与税法案及び地方交付税法等の一部を改正する法律案の3法律案のほか、国庫補助負担金改革に係る3法律案が第159回国会に提出された。

イ 関連議案の概要

(ア) 地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)

現下の経済・財政状況等を踏まえつつ、持続的な経済社会の活性化を実現するためのあるべき税制の構築に向けた改革の一環として、市町村民税の均等割に係る人口段階別の税率区分の廃止等の個人住民税均等割の見直し、商業地等に係る固定資産税及び都市計画税の条例による減額を可能とする制度の創設、固定資産税の制限税率の廃止等の課税自主権の拡大、軽油引取税に係る罰則の強化等の措置を講ずるほか、狩猟者登録税及び入猟税を廃止し、狩猟税を創設するとともに、非課税等特別措置の整理合理化等を行おうとするものである。

(イ) 所得譲与税法案(内閣提出)

個人の所得課税に係る国から地方公共団体への本格的な税源の移譲を行うまでの間の措置として、毎年度の所得税の収入額のうち4,249億円に相当する額を所得譲与税として都道府県及び市町村に対して譲与する制度を創設しようとするものである。

(ウ) 地方交付税法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

平成16年度分の地方財政対策を踏まえ、所要の地方交付税総額を確保するための特例措置を講ずるとともに、地方交付税の算定基礎となる単位費用の改正、義務教育費国庫負担金等(退職手当、児童手当)の暫定的な一般財源化に伴う税源移譲予定特例交付金の創設等を行おうとするものである。

(エ) 国の補助金等の整理及び合理化等に伴う国土利用計画法及び都市再生特別措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)

平成16年度における国及び地方公共団体を通じた財政改革のための国の補助金等の整理及び合理化等に伴い、土地利用基本計画の作成等に要する経費の財源に充てるための交付金制度の廃止、市町村が作成する都市再生整備計画に基づく事業等に充てるための交付金制度の創設等の措置を講じようとするものである。

(オ) 児童福祉法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

平成16年度における国の補助金等の整理及び合理化等に伴い、地方公共団体の設置する保育所における保育の実施に要する保育費用等を国庫負担等の対象外としようとするものである。

(カ) 義務教育費国庫負担法及び公立養護学校整備特別措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)

平成16年度における国の補助金等の整理及び合理化等に伴い、公立の義務教育諸学校並びに公立の養護学校の小学部及び中学部の教職員に係る退職手当に要する経費及び児童手当に要する経費を国庫負担の対象外としようとするものである。

ウ 審議経過

上記イ(ア)〜(ウ)の3法律案は、第159回国会の平成16年2月6日に提出され、同月19日に本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、総務委員会に付託された。同委員会においては、同月24日、提案理由の説明を聴取し、同月26日から質疑に入った。

3法律案は、2月26日、3月2日の2日間にわたる質疑を経て、3月5日、いずれも賛成多数で可決すべきものと議決された。

なお、地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律案及び所得譲与税法案に対して附帯決議が付されたほか、決議「地方分権推進のための地方税財政基盤の確立に関する件」が行われた。

同日、本会議において、3法律案はいずれも可決された。

参議院においては、3月26日の本会議で、3法律案はいずれも可決され、成立した。

上記イ(エ)の法律案は、2月3日に提出され、同月27日、国土交通委員会に付託された。同委員会においては、3月17日、提案理由の説明を聴取し、同月19日及び23日の2日間の質疑等を経て、同月23日に賛成多数で可決すべきものと議決された。なお、同法律案に対して附帯決議が付された。

同日、本会議において、同法律案は可決された。

参議院においては、同月31日の本会議で可決され、成立した。

上記イ(オ)の法律案は、2月6日に提出され、同月27日、厚生労働委員会に付託された。同委員会においては、3月3日、提案理由の説明を聴取し、同月12日及び17日の2日間の質疑を経て、同月17日に賛成多数で可決すべきものと議決された。

翌18日、本会議において、同法律案は可決された。

参議院においては、同月31日の本会議で可決され、成立した。

上記イ(カ)の法律案は、2月17日に提出され、同月27日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、文部科学委員会に付託された。同委員会においては、同日、提案理由の説明を聴取し、3月12日及び17日の2日間の質疑等を経て、同月17日に賛成多数で可決すべきものと議決された。

翌18日、本会議において、同法律案は可決された。

参議院においては、同月31日の本会議で可決され、成立した。

エ 主な質疑事項

主な質疑事項は、[1]地方財政の危機的状況に対する認識、[2]三位一体の改革に係る今後の地方財政の見通しを示す必要、[3]三位一体改革が与える影響と今後の在り方、[4]3年間での国庫補助負担金削減額4兆円の妥当性及び平成19年度以降の改革の方向性、[5]国庫補助負担金の見直し及び税源移譲対象税目の決定経緯とその在り方、[6]改革を進める上での義務教育及び社会福祉政策の在り方、[7]地方への3兆円の税源移譲(平成17・18年度)の内閣総理大臣指示に対する評価、[8]税源移譲後の地域間格差への対応、[9]消費税による税源移譲についての総務大臣の認識、[10]地方交付税の大幅削減等に対する市町村の不満に対する認識及び対応、[11]地方交付税の見直しではなく制度の改革を行う必要性、[12]まちづくり交付金制度創設の意義及び国・都道府県の関与の在り方、[13]義務教育及び社会福祉に係る国庫補助負担金の一般財源化による行政サービスの質の低下及び地方負担の増大のおそれ、[14]義務教育に係る国と地方の役割の在り方等であった。

(5) 裁判員制度関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

「21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する」ことを目的として、内閣の下に設置された司法制度改革審議会が、平成13年6月に「司法制度改革審議会意見書−21世紀の日本を支える司法制度−」を政府に提出し、この中で、司法への国民参加の制度として、裁判員制度の導入を提言した。

司法制度改革審議会意見書を受けて、政府は、同審議会の意見の趣旨にのっとって行われる司法制度改革の基本方針等を定める「司法制度改革推進法案」を国会に提出し、平成13年11月成立をみた。同法第5条第3号は、「国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対する国民の理解を増進させ、及びその信頼を向上させるため、国民が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与する制度の導入等を図ること」と規定し、裁判員制度の導入をうたった。

そして、平成14年3月に同法第7条に基づいて閣議決定された「司法制度改革推進計画」において、政府は、平成16年の通常国会に、「司法制度改革審議会意見が制度設計に関して具体的に提言しているところを踏まえ、刑事訴訟手続において、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度(いわゆる裁判員制度)を導入することとし、所要の法案を提出する」こととされた。

その後、政府は、平成15年の通常国会に「裁判の迅速化に関する法律案」を提出し、同法律案は、同国会において成立した。同法には、「第一審の訴訟手続をはじめとする裁判所における手続全体の一層の迅速化を図り、もって国民の期待にこたえる司法制度の実現に資することを目的」として、「第一審の訴訟手続については2年以内のできるだけ短い期間内にこれを終局させ」ること等の目標が掲げられた。そして、第3条において、「国は、裁判の迅速化を推進するため必要な施策を策定し、及び実施する責務を有する」とされた。また、第4条において、「政府は、前条の施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない」と規定された。

法律案の具体的な立案作業は、内閣に設置された司法制度改革推進本部において行われた。司法制度改革推進本部は、「裁判員制度・刑事検討会」を設け、平成14年2月に第1回の検討会を行ったのをはじめ、30数回の検討会を行った。その間、同年8月には、「刑事訴訟手続への新たな参加制度の導入」「刑事裁判の充実・迅速化」及び「公訴提起の在り方」についての意見募集を、平成15年4月には、裁判員制度及び検察審査会制度の「たたき台」についての意見募集を、同年11月には、裁判員制度、刑事裁判の充実・迅速化及び検察審査会制度に関する意見募集を、そして、平成16年1月には、裁判員制度、刑事裁判の充実・迅速化及び検察審査会制度の骨格案についての意見募集をそれぞれ行った。

司法制度改革推進本部は、そのホームページにおいて検討会の議事内容及び意見募集の結果を掲載しつつ立案作業を進め、第159回国会において、刑事裁判に裁判員の参加する制度を導入する裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事裁判の充実及び迅速化を図るための方策を講ずるとともに、被疑者に対する国選弁護人の選任制度及び検察審査会の議決に基づき公訴が提起される制度を導入する刑事訴訟法等の一部を改正する法律案が、内閣から提出された。

また、民主からは、被疑者の取調べに際し、弁護人の立会いを認める制度や録音・録画を義務づける制度を導入する刑事訴訟法の一部を改正する法律案が、議員立法として提出された。

イ 関連議案の概要

(ア) 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案(内閣提出)

国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することは、司法に対する国民の理解を増進させ、また、その信頼の向上に資するものであることにかんがみ、刑事裁判に裁判員が参加する制度を導入するため、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法及び刑事訴訟法の特則その他必要な事項を定めようとするもので、その主な内容は、

a 裁判員の参加する合議体で取り扱う事件を定めるとともに、当該合議体の構成は、原則として、裁判官の員数を3人、裁判員の員数を6人とすること、裁判所の行う事実の認定、法令の適用及び刑の量定は、当該合議体の構成員である裁判官及び裁判員の合議によるものとすること

b 裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から選任するものとするとともに、裁判員となることのできない事由、裁判員候補者名簿の調製、裁判員候補者に対する質問等の裁判員の選任の手続及び裁判員の解任の手続等について所要の規定を置くものとすること

c 裁判員の参加する合議体で取り扱う事件については、第1回の公判期日前に公判前整理手続に付さなければならないものとすること

d 裁判官と裁判員の合議による判断は、裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によるものとすること

e 労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことを定めるほか、裁判員等を特定するに足りる情報の取扱い及び裁判員等に対する接触の規制に関して裁判員等の保護のための所要の規定を置くものとすること

等である。

(イ) 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

我が国においては、刑事司法がその役割を十全に果たし、国民の期待により一層応えることができるようにするため、刑事裁判の充実及び迅速化を図ることなど、刑事司法の改革が求められていることにかんがみ、刑事裁判の充実及び迅速化を図るための方策を講ずるとともに、被疑者に対する国選弁護人の選任制度の導入等国選弁護人制度の整備及び検察審査会の議決に基づき公訴が提起される制度の導入を行おうとするもので、その主な内容は、

a 公判審理に先立ち、十分に争点及び証拠を整理するため、公判前整理手続等を創設するとともに、その手続の中で、検察官による証拠開示を拡充することと併せて、連日的開廷の確保、裁判所の訴訟指揮の実効性の確保、争いのない一定の事件について簡易・迅速な審判を行う即決裁判手続の創設等についての所要の規定を置くものとすること

b 被疑者に対する国選弁護人の選任制度を導入するとともに、国選弁護人の選任要件及び選任手続、選任の効力、解任、費用の負担等についての所要の規定を置くものとすること

c 公訴権行使に民意をより直截に反映させてその一層の適正を図るため、検察審査会の一定の議決に基づき公訴が提起される制度を導入することとし、当該議決の要件、その議決に基づく公訴の提起及びその維持等についての所要の規定を置くものとすること

等である。

(ウ) 刑事訴訟法の一部を改正する法律案(河村たかし君外4名提出)

我が国の刑事司法が適正手続の保障のもとでの事案の真相解明を使命とする以上、被疑者の取調べが適正を欠くことがあってはならず、それを防止するための方策が必要であるとともに、また、被告人は訴訟の当事者として十分な防御の機会が保障されなければならず、被告人の不適正な身柄拘束の防止が求められている状況にかんがみ、被疑者の取調べ等について弁護人の立会いを認める制度及び被疑者の取調べ状況等の録音・録画を義務づける制度を導入するとともに、権利保釈の除外事由を制限すること等を定めようとするもので、その主な内容は、

a 保釈の請求があったときは、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる充分な理由があるとき等を除いては、これを許さなければならないものとすること

b 被疑者の取調べ等に際しては、被疑者又は弁護人が求めたときは、弁護人(弁護人が求めたときは、当該弁護人)の立会いを認めなければならないものとすること

c 被疑者の取調べに際しては、被疑者の供述及び取調べの状況のすべてを映像及び音声を同時に記録することができる記録媒体(被疑者の申立てがあった場合には、音声のみを記録することができる物)に記録しなければならないものとすること

d b及びcに違反してなされた取調べにおいてされた自白は、証拠とすることができないものとすること

等である。

ウ 審議経過

内閣提出の2法律案は、第159回国会の平成16年3月2日に提出され、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案は、3月16日に本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案とともに法務委員会に付託された。河村たかし君外4名提出の法律案は、3月30日に提出され、4月20日、同委員会に付託された。

同委員会においては、内閣提出の2法律案は、4月2日、提案理由の説明を聴取した後、質疑に入り、河村たかし君外4名提出の法律案は、4月20日、提案理由の説明を聴取した後、質疑に入った。

4月6日及び14日には、内閣提出の2法律案について、参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われ、同月12日には、公聴会を開会し、公述人からの意見聴取及び公述人に対する質疑が行われた。

同月21日には、3法律案について質疑を終局し、23日には、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案に対し、裁判員等が、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときの罰則を、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金とするとともに、裁判員等の職にあった者の罰則を、金銭対価を得る等の悪質な場合を除き、罰金刑に限定するものとすること等を内容とする修正案が、また、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案に対し、被告人若しくは弁護人又はこれらであった者が開示された証拠の目的外使用の禁止規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様等の諸事情を考慮すること等を内容とする修正案が、自民、民主及び公明の共同提案で、それぞれ提出され、趣旨の説明を聴取し、採決の結果、いずれも全会一致で修正議決すべきものと議決された。また、河村たかし君外4名提出の法律案は、賛成少数で否決すべきものと議決された。なお、内閣提出の2法律案に対し、それぞれ附帯決議が付された。

同日の本会議において、内閣提出の2法律案は、いずれも修正議決された。また、河村たかし君外4名提出の法律案は、否決された。

参議院においては、5月21日の本会議で、内閣提出の2法律案はいずれも可決され、成立した。

エ 主な質疑事項

主な質疑事項は、[1]裁判員制度導入の意義、[2]裁判員の守秘義務の明確化の必要性、[3]裁判員の負担軽減のための手当て、[4]裁判員制度と国民主権との関係、[5]裁判員の辞退理由の在り方、[6]被疑者公的弁護制度導入の意義、[7]刑事裁判の充実及び迅速化のための制度的手当ての必要性、[8]検察審査会の不当な起訴議決を回避する制度的手当て、[9]開示証拠の目的外使用禁止の趣旨、[10]公判前整理手続と予断排除の原則との関係、[11]弁護人立会いによる取調べの改善の必要性、[12]可視化が捜査手法に与える影響、[13]取調べに立ち会う弁護人の役割等であった。

(6) 北朝鮮問題関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

(ア) 北朝鮮を巡る動き

昭和63年3月、参議院予算委員会で国家公安委員会委員長が、3組のアベック行方不明事件(昭和53年)を「北朝鮮による拉致の疑いが濃厚」と答弁したことを端緒に、政府は、平成14年3月までに8件11名を拉致の疑いがある事件と認定した。しかし、北朝鮮は拉致問題の存在を一切認めてこなかった。

北朝鮮による日本人拉致問題が国民的な関心となる中で、日朝間の懸案である拉致問題を解決し、日朝国交正常化交渉を再開するため、小泉内閣総理大臣と金正日国防委員長(兼労働党総書記)とのトップ会談が計画された。平成14年9月、平壌入りした小泉内閣総理大臣に対し、金正日国防委員長は自ら拉致を認め、謝罪した。北朝鮮側からは、政府が調査を依頼していなかった曽我ひとみさんを含む14名について、生存者5名、未入国1名、死亡8名との回答があった。10月中旬には、拉致被害者5名の24年ぶりの帰国が実現した。

10月下旬、再開された日朝国交正常化交渉で、政府は、帰国した拉致被害者5名の北朝鮮に残された家族の帰国及び死亡とされた拉致被害者8名の安否に関する約150項目の疑問点に対する速やかな回答を要求した。北朝鮮側は5名を北朝鮮に戻すことが先決であると反論したため交渉は決裂し、以後、日朝国交正常化交渉は中断した。

その一方で、同月、北朝鮮は、核開発問題を協議するため訪朝したケリー米国務次官補に対して、ウラン濃縮計画の存在を認める趣旨の発言を行った。翌11月、朝鮮半島エネルギー機構(KEDO)理事会は、ウラン濃縮計画の存在は「米朝枠組み合意」に違反するものであるとして、同合意に基づく重油供給の中断を決定した。これに反発した北朝鮮は、核関連施設の凍結の解除を表明し、国際原子力機関(IAEA)の査察官2名を退去させ、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言する等の瀬戸際政策を矢継ぎ早に打ち出した。

こうして、日朝関係は膠着状態に陥り、拉致問題の解決の糸口が見えない現状への国民世論の苛立ちを背景に、北朝鮮に対する「圧力」手段を求める動きが強まっていった。

(イ) 対北朝鮮送金問題と万景峰号等寄港問題

平成9年から始まった在日朝鮮人系信用組合(いわゆる朝銀信組)の破綻処理に際し、平成14年度までに総額1兆4,000億円近くに上る莫大な公的資金が必要とされることとなった。さらには、破綻した朝銀信組から朝鮮総連への不正融資が発覚したことから、公的資金投入に異論が相次ぎ、日本から北朝鮮へのカネの流れに注目が集まった。

財務省に届出のあった日本から北朝鮮への送金額は平成14年度分で約41億円であり、その内、約4億円が金融機関を通じた送金、残り約37億円が渡航者による持出し分となっている。しかし、在日朝鮮人の送金の実態はこれを大きく上回り、北朝鮮の有力な資金源となっていると考えられている。

政府は従来、送金停止などの経済制裁は国連での制裁決議や多国間の合意がある場合に限定する方針を堅持してきた。このため、平成5〜6年の北朝鮮核開発危機や平成10年の北朝鮮による弾道ミサイル「テポドン」発射実験の際に経済制裁が検討されたものの、実施には至らなかった。

他方、北朝鮮と日本を結ぶ貨客船「万景峰号」については、ミサイル関連機器などの輸出規制品の密輸が発覚したほか、日本で活動する北朝鮮工作員の連絡活動、北朝鮮工作船の支援に関与しているとの疑惑が浮上し、日朝間のヒト・モノ・カネの往来を象徴する船として、その寄港受入れが問題視されるようになった。

政府は、万景峰号をはじめとする北朝鮮籍の船舶に対し、ポートステートコントロール等の現行法に基づく厳格な規制を実施し、監視を強化してきた。しかし、これらの措置は基準がクリアされれば入港自体を拒むことができないため、現在も北朝鮮籍の船舶は入港を繰り返している。

(ウ) 法律案の提出

以上のような日朝間における諸問題を背景として、我が国の平和と安全の維持を確保する観点から、第159回国会に、我が国独自の判断で送金規制等の経済制裁を可能とする外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案と特定国の船舶の入港を禁止できることとする特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法案が、いずれも議員立法として提出された。

なお、上記入港禁止法案は、与党(自民及び公明)からは「特定船舶の入港の禁止に関する法律案」、民主からは「特定船舶等の入港の禁止に関する特別措置法案」として提出されていたものについて、3会派間で修正協議が重ねられた結果、特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法案として一本化(与党案及び民主案はいずれも撤回)されたものである。

イ 関連議案の概要

(ア) 外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案(水野賢一君外7名提出)

a この法律の目的において、我が国又は国際社会の平和及び安全の維持の観点を明示すること。

b 我が国の平和及び安全の維持のため特に必要があるときは、閣議において、対応措置(閣議決定に基づき主務大臣により行われるeからgまでによる措置をいう。)を講ずべきことを決定することができること。

c bの閣議決定に基づき対応措置を講じた場合には、当該対応措置を講じた日から20日以内に国会に付議し、当該対応措置を講じたことについて国会の承認を求めなければならないこと。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合は、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求めなければならないこと。

d 政府は、cの場合において不承認の議決があったときは、速やかに、当該対応措置を終了させなければならないこと。

e 主務大臣が、支払等、資本取引、特定資本取引及び役務取引等について許可を受ける義務を課することができる場合として、bの閣議決定が行われた場合を加えること。

f 財務大臣が、対外直接投資の内容の変更又は中止を勧告することができる場合として、bの閣議決定が行われた場合を加えること。

g 輸出及び輸入について、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、又はbの閣議決定を実施するため、承認を受ける義務を課せられることがある旨を明記すること。

(イ) 特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法案(国土交通委員長提出)

a この法律において「特定船舶」とは、次に掲げる船舶のうちbの閣議決定で定めるものをいうこと。

(a) 特定の外国の国籍を有する船舶

(b) 一定の期間に特定の外国の港に寄港した船舶

(c) 特定の外国と(a)又は(b)の関係に類する特定の関係を有する船舶

b 我が国の平和及び安全の維持のため特に必要があると認めるときは、閣議において、期間を定めて、特定船舶について、本邦の港への入港を禁止することを決定することができること。この閣議決定においては、入港禁止の理由、特定の外国、特定船舶、入港禁止の期間等を定めなければならないこと。

c 内閣総理大臣は、bの閣議決定があったときは、直ちに、その内容を告示しなければならないこと。

d 政府は、cの告示の日から20日以内に国会に付議して、入港禁止の実施につき国会の承認を求めなければならないこと。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合は、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求めなければならないこと。

e 政府は、dの場合において不承認の議決があったときは、速やかに、当該議決に係る入港禁止の実施を終了させなければならないこと。

f bの閣議決定があったときは、特定船舶の船長は、入港禁止の期間において、当該特定船舶を本邦の港に入港させてはならず、また、入港禁止の期間が開始された際現に本邦の港に入港している場合においては、当該閣議決定で定める期日までに、出港させなければならないこと。ただし、遭難又は人道上の配慮をする必要があることその他のやむを得ない特別の事情がある場合は、この限りでないこと。

g 入港禁止の全部若しくは一部を実施する必要がなくなったと認めるとき又は国会が入港禁止の全部若しくは一部の実施を終了すべきことを議決したときは、速やかに、閣議において、入港禁止の全部又は一部の実施を終了することを決定しなければならないこと。

h fに違反した船長は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すること。

i 国は、この法律の施行の状況、我が国を取り巻く国際情勢等にかんがみ、必要があると認めるときはこの法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて廃止を含め必要な措置を講ずること。

ウ 審議経過

(ア) 第159回国会

外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案は、平成16年1月28日、自民、民主及び公明の3会派共同提案により提出され、同日、財務金融委員会に付託された。

同委員会においては、同日、提案理由の説明を聴取した後、質疑が行われ、賛成多数をもって可決すべきものと議決された。なお、同法律案に対して附帯決議が付された。

同月29日、本会議において、同法律案は可決された。

参議院においては、2月9日の本会議で可決され、成立した。

特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法案は、6月1日、国土交通委員会において、自民、民主及び公明3会派共同提案により、起草案を成案とし、本委員会提出の法律案として決定すべしとの動議が提出され、賛成多数で動議のとおり決し、同日提出された。なお、動議提出に先立ち、同法律案に関連して一般質疑が行われた。

同月3日、本会議において、国土交通委員長の趣旨弁明の後、同法律案は可決された。

参議院においては、同月14日の本会議で可決され、成立した。

(イ) 第161回国会

平成16年11月30日、北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会が設置され、12月2日、同委員会において、第3回日朝実務者協議の結果等について質疑が行われた。

北朝鮮側が新たな資料として提出した横田めぐみさんのものとされる「遺骨」が、鑑定の結果、別人のものと判明したことを受けて、閉会中の12月10日、同委員会が開会され、村田国家公安委員会委員長から説明を聴取するとともに、北朝鮮に対する経済制裁問題や鑑定結果の詳細等について質疑が行われた。

また、同日、同委員会において「北朝鮮による日本人拉致問題の解決促進に関する件」が決議された。

エ 主な質疑事項

(ア) 外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律案(水野賢一君外7名提出)

主な質疑事項は、[1]議員提出法律案とするに至った経緯、[2]国会承認規定が盛り込まれた意義、[3]経済制裁発動の可能性及び発動要件の考え方、[4]本法律案に対する北朝鮮の反応、[5]本法律案の北朝鮮問題解決への有効性、[6]北朝鮮向け送金の実態、[7]第三国経由送金に対する本法律案の実効性等であった。

(イ) 特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法案(国土交通委員長提出)

主な質疑事項は、[1]特定の外国の船舶を入港禁止にする本法律案と国際法との整合性、[2]諸外国での立法例、[3]特定の外国への渡航が制限されることとなる本法律案と憲法との整合性、[4]発動が想定される具体的な事例、[5]北朝鮮による拉致問題の解決に支障となる懸念、[6]法制定後における本法律案の運用方針、[7]日朝平壌宣言を遵守している限り制裁措置を発動する考えはないとの小泉内閣総理大臣の発言の真意、[8]日朝間における貿易、出入国及び送金の実態等であった。

(7) 証券・金融システム改革関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

(ア) これまでの公的資金による資本増強

バブル経済崩壊以降、景気の低迷が長期化する中、平成9年には、相次ぐ金融機関の経営破綻により、預金者の不安と動揺が広まるとともに、我が国金融システムへの内外の信頼が大きく低下する事態となった。バブル崩壊に伴う資産価格の低下、株価の下落による保有株式の含み益の縮小、企業収益の悪化等から金融機関の不良債権が増加傾向にある中、相次ぐ金融機関の破綻が加わったことにより、金融システム不安が一気に表面化したもので、このままでは、経済社会全体への影響も懸念された。

このため、平成10年2月には、「金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律」が制定され、公的資金による金融機関の資本増強の枠組みが整備され、同年3月、同法律に基づき1兆8,156億円の資本増強が実施された。

また、同年10月には、金融機関の不良債権処理を速やかに進めるとともに、金融機関に対する資本増強を実施することにより金融機能の早期健全化を図るため、「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」(以下「早期健全化法」という。)が制定され、平成11年3月から平成14年3月までの間、同法律に基づき8兆6,053億円の資本増強が実施された。

その後金融庁においては、我が国金融システムをより強固なものとするため、その担い手である金融機関について、経営基盤を一層強化するとともに中小企業金融の円滑化を図るため、主として地域金融機関を念頭において、合併促進を中心とした施策の検討が進められた。その結果、平成14年12月、金融機関が合併等の組織再編を行う場合に、手続の簡素化や資本増強の実施を可能とする等の「金融機関等の組織再編成の促進に関する特別措置法」が制定された。

同法律の活用により、個々の金融機関の経営基盤が強化され、その金融仲介機能・決済機能を十全に発揮し、地域経済の活性化に資することが期待されたが、60億円の資本増強の実施(平成15年9月 関東つくば銀行)にとどまった。

このほか、平成15年5月17日には、金融危機を未然に防ぐため、金融危機対応会議の議を経て、りそな銀行について預金保険法第102条第1項第1号に基づく資本増強の必要性の認定が行われた。同月30日、同行より資本増強の申込み等がなされ、審査の結果、6月10日、資本増強を行うことを決定し、同月30日、1兆9,600億円の資本増強が実施された。

(イ) 金融再生プログラムと公的資金投入制度の検討

この間、金融機関は、資本増強の実施による自己資本の充実等を背景に、相当程度の不良債権処理を実施した。また、主要行の破綻懸念先以下の債権については、いわゆる2年・3年ルールによりオフバランス化につながる措置を講ずることとされ、更には、主要行を対象とした特別検査が実施されるなど、不良債権問題への解決に向けた累次の対応がなされた。

しかしながら、我が国経済がデフレ状況にある中、融資先の経営悪化による新たな不良債権の発生が続いたこと等から、依然として不良債権問題の解決には至らなかった。

こうした状況のもと、平成14年10月30日には、「金融再生プログラム」(金融庁)が取りまとめられた。

同プログラムでは、「平成16年度には、主要行の不良債権比率を現状の半分程度に低下させる」「構造改革を支えるより強固な金融システムを構築することを目指して、主要行の資産査定の厳格化、自己資本の充実、ガバナンスの強化などの点について、行政の取組を強化する」旨の方針が示されるとともに、その中において、新しい公的資金制度の創設に関し、「金融システムの安定に万全を期しつつ、不良債権問題を終結させるため、迅速に公的資金を投入することを可能にする新たな制度の創設の必要性などについて検討する」とされた。

これを受けて、同年12月に、金融審議会金融分科会第二部会は、公的資金制度に関するワーキンググループを設置し、同ワーキンググループにおける検討が進められ、平成15年7月28日に、「金融機関に対する公的資金制度のあり方について」(金融審議会金融分科会第二部会)が取りまとめられた。

(ウ) 法律案の提出

「金融機関に対する公的資金制度のあり方について」が取りまとめられた後、金融庁においては、公的資金の新制度に関して総合的な検討が続けられ、その結果、第159回国会の平成16年2月6日、政府は、金融機関等の資本の増強等に関する特別措置を講ずるための金融機能の強化のための特別措置に関する法律案及び預金保険法第102条第1項第1号について、銀行持株会社を通じた資本増強を可能とする措置等を講ずるための預金保険法の一部を改正する法律案を提出した。

これに対し、3月5日、民主は、「経済再生の第一歩は金融再生であり、真の金融再生とは金融機関が中小企業に円滑に融資を行い得ることであるとし、そのためには、本当の意味で自己資本を健全化することが必要である」旨の考え方のもと、「金融再生ファイナルプラン関連法案」として、金融再生法(金融機能の再生のための緊急措置に関する法律)及び早期健全化法の改正等を行う金融機能の再生のための緊急措置に関する法律等の一部を改正する等の法律案及び金融再生委員会を改めて設置する金融再生委員会設置法案を議員立法として提出した。

イ 関連議案の概要

(ア) 金融機能の強化のための特別措置に関する法律案(内閣提出)

金融機関等を巡る情勢の変化に対応して、金融機能の強化を図るため、金融機関等の資本の増強等に関する特別措置を講ずるもので、その主な内容は、

a 金融機関等は、合併等の組織再編成を行う場合を含め、平成20年3月末までの間、預金保険機構に対し自己資本の充実を図るために株式等の引受け等に係る申込みをすることができること

また、金融機関等を子会社とする銀行持株会社等も、当該子会社である金融機関等の自己資本の充実を図るために株式の引受けに係る申込みをすることができること

b 金融機関等は、株式等の引受け等に係る申込みに際して、収益性等の経営の改善の目標、当該目標を達成するための方策、責任ある経営体制の確立に関する事項、信用供与の円滑化等地域経済の活性化に資する方策等を記載した経営強化計画を主務大臣に提出しなければならないこと。その際、合併等特定の組織再編成を行わない金融機関等の場合には、経営の改善の目標が達成されない場合における経営責任の明確化に関する事項も記載すること

c 主務大臣は、経営強化計画の実施により収益性等の経営の改善の目標が達成されると見込まれること、経営強化計画に記載された方策の実施により地域における金融の円滑化が見込まれることその他当該方策が地域経済の活性化のために適切なものであること等の要件に加え、合併等特定の組織再編成を行わない金融機関等の場合には当該金融機関等の経営基盤の安定のために必要な措置が講じられていること等の要件を満たす場合に限り、株式等の引受け等を行うべき旨の決定をすること

d 株式等の引受け等の決定に従い金融機関等が発行する議決権制限株式の発行の特例等商法等の規定の特例、経営強化計画の公表及び変更、経営強化計画の履行を確保するための監督上の措置、経営強化計画の実施期間が終了した後の措置、株式等の引受け等が行われた金融機関等が行う株式交換及び合併等について所要の規定を整備するとともに、預金保険機構の業務の特例及び金融機能強化審査会等について所要の規定を設けること

e 協同組織中央金融機関がその会員の協同組織金融機関から引き受けた優先出資等を信託する場合において、平成20年3月末までに協同組織中央金融機関から信託受益権等の買取りの申込みを受けたときには、所要の要件を満たす場合に限り、主務大臣の決定を経て預金保険機構の委託を受けた協定銀行が信託受益権等の買取りを行うことができることとすること

等である。

(イ) 預金保険法の一部を改正する法律案(内閣提出)

金融危機への円滑な対応を確保するため、金融機関への直接の資本増強のみが可能とされている預金保険法第102条第1号措置について、当該措置の必要性の認定を受けた金融機関を子会社とする銀行持株会社等に対する資本増強を可能とするものである。

(ウ) 金融機能の再生のための緊急措置に関する法律等の一部を改正する等の法律案(五十嵐文彦君外2名提出)

我が国の金融機能の早期健全化及び破綻金融機関の的確な処理を図るため、金融機関等の資本増強に関する緊急措置に係る期限を延長し、金融再生委員会による資本増強の承認の要件を明確化する等の措置を講ずるものである。

(エ) 金融再生委員会設置法案(五十嵐文彦君外2名提出)

内閣府設置法に基づき、内閣府の外局として金融再生委員会を新たに設置するとともに、その所掌する行政事務を能率的に遂行するために必要な組織を定めようとするものである。

ウ 審議経過

内閣提出の2法律案は2月6日に、民主提出の2法律案は3月5日に、それぞれ提出され、3月11日に本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、財務金融委員会に付託された。同委員会においては、同月31日、提案理由の説明を聴取し、4月9日から質疑に入った。

同月20日には、いわゆる地方公聴会の開催と、都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫及び信用組合の各業界団体代表の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。翌21日には小泉内閣総理大臣に対する質疑が行われ、質疑は終局した。

同月23日、民主提出の2法律案はそれぞれ否決され、内閣提出の2法律案は、いずれも賛成多数で可決すべきものと議決された。

同日の本会議において、民主提出の2法律案はそれぞれ否決され、内閣提出の2法律案はいずれも可決された。

参議院においては、6月14日の本会議で、財政金融委員長の中間報告の後本会議で直ちに審議することとされ、内閣提出の2法律案はいずれも可決され、成立した。

エ 主な質疑事項

主な質疑事項は、[1]これまでの公的資本増強制度の変遷における金融機能の強化のための特別措置に関する法律案の政策的位置づけ、[2]金融再生プログラムとの整合性及び預金保険法との関係、[3]政府保証枠の積算根拠、妥当性及び主要行への適用を想定していない理由、[4]中小企業向け貸出の数値目標を設定しない理由、[5]地域経済活性化策としての公的資本増強の実効性、[6]公的資本増強に伴う経営責任追及の在り方、[7]金融機能の再生のための緊急措置に関する法律等の一部を改正する等の法律案に基づく資本増強により損失が生じた場合の国民負担の可能性、[8]今後の政府保証枠拡大の可能性と更なる国民負担増大の懸念、[9]公的資金の具体的投入方法及び種類の決め方、[10]組織再編成特別措置法に基づく資本増強を廃止する理由とその妥当性、[11]民主案における緊急一斉検査の実現可能性と中小企業金融への影響、[12]民主案における金融機関の不良債権の引当率を法定することの危険性、[13]民主案における金融再生委員会再設置の必要性等であった。

(8) 食の安全関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

(ア) 牛海綿状脳症(BSE)問題

平成13年9月に我が国で初めてBSE感染牛が確認されたことを踏まえ、国内市場に出荷されるすべての牛について、特定危険部位の除去とともに、BSE全頭検査等の対策が実施された。また、国民の食の安全・安心に対する関心の高まりに対応して、平成15年5月に「食品安全基本法」が制定され、これに基づき、7月には「食品安全委員会」が設置され、新たな食品安全行政の枠組みが構築された。

このような中、12月24日、米国において初のBSE感染牛が確認され、我が国は、直ちに米国からの牛肉等の輸入を停止した。

その後のアジア等における高病原性鳥インフルエンザ(以下「鳥インフルエンザ」という。)発生に伴う鶏肉等の輸入停止措置とも相俟って、我が国の食肉の消費・需要は大きな影響を受け、安全で安心な食肉の安定供給の確保が大きな課題となった。

米国産牛肉の輸入再開について、消費者の食の安全・安心の確保を前提に、我が国と同等の措置が講じられることを基本として日米間の協議が行われる一方、国内においては、「食品安全委員会」が、これまでの我が国におけるBSE対策についての科学的検証を行い、平成16年9月、中間とりまとめを行った。

これを踏まえ、10月15日、農林水産省及び厚生労働省は、BSE全頭検査を見直し、と畜場における検査対象を21か月齢以上とすること等を内容とする国内BSE対策の見直し案について「食品安全委員会」に食品健康影響評価を依頼した。

同月23日には、日米間の牛肉輸入再開問題を話し合う日米政府の局長級協議において、一定の条件・枠組みのもとで、両国間の牛肉貿易を再開するとの認識が共有された。

このような状況の中で、BSE全頭検査の見直しの是非、国内のBSE対策の見直しと米国産牛肉の輸入再開交渉との関係等について議論が行われた。

第159回国会においては、民主、共産、社民が3会派共同で、平成16年4月2日、牛肉輸出国についてBSEのステータス評価を行い、BSE検査の証明を求める牛海綿状脳症対策特別措置法の一部を改正する法律案及び輸入牛肉についてトレーサビリティ制度を設ける輸入牛肉に係る情報の管理及び伝達に関する特別措置法案を議員立法として提出した。

(イ) 鳥インフルエンザ問題

平成16年1月12日、山口県において、我が国では79年ぶりとなる鳥インフルエンザの発生が確認された。これに引き続き、2月、3月にかけて、大分県、京都府において発生が確認され、直ちにまん延防止措置が実施された。

鳥インフルエンザは、鳥から鳥に感染する感染症であるが、生きた鳥との濃密な接触等により人に感染することもある。海外においては、アジア、欧州、北米の各地域で発生が相次ぎ、特に、ベトナムやタイにおいて、人への感染例が報告されている。これまで鶏肉・鶏卵を食べることによる感染事例の報告はないが、京都の発生農場では、異常を疑う多数の鶏の死亡が発生していたにもかかわらず、府に報告せず、その一方で鶏を出荷していたことから、出荷先で他の鶏に感染するなどの問題が生じ、初動防疫に支障を来たすとともに、鶏肉・鶏卵の安全性についての不安や混乱が生じた。

また、一定期間出荷ができない移動制限区域内で、鶏卵価値の減少・肉用鶏の出荷遅延等、経営に著しい影響を受ける養鶏農家が発生したため、早期通報を促進するとともに、関係農家の協力のもとに移動制限措置をより的確に実施する観点から、通報義務違反に対するペナルティの強化及び移動制限命令に協力した養鶏農家に対する助成措置の制度化の必要性が指摘されることとなった。

このような中、3月16日、「鳥インフルエンザ対策に関する関係閣僚による会合」において、関係府省庁の連携により、まん延の防止、食に対する不安の払拭、人への感染防止等の措置を引き続き推進するとともに、関連する法制度の整備、予算措置を含め、総合的対策を講じていくことを内容とする「鳥インフルエンザ緊急総合対策」が策定された。

これを踏まえ、第159回国会において、政府は、4月6日、家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案を提出した。

また、民主は、同月5日、国家の危機管理として国が責任をもって鳥インフルエンザ問題に対応すべきとの考えのもとに、高病原性鳥インフルエンザ対策緊急措置法案を議員立法として提出した。

イ 関連議案の概要

(ア) BSE問題関連

a 牛海綿状脳症対策特別措置法の一部を改正する法律案(鹿野道彦君外5名提出)

我が国に牛肉等を輸出する国についてBSEの発生するおそれの程度を評価すること、指定国から輸入される牛肉等について我が国と同等以上の基準によるBSE検査や特定危険部位の除去が行われたことの証明を求めること等の措置を講じようとするものである。

b 輸入牛肉に係る情報の管理及び伝達に関する特別措置法案(鹿野道彦君外5名提出)

我が国に牛肉を輸出する国でBSEが発生した場合に我が国において生じるおそれのある事態に迅速に対応するための措置の実施の基礎とするとともに、輸入牛肉に関する情報の提供を促進するため、輸入事業者による輸入牛肉台帳等の作成、販売業者等による輸入牛肉個体識別符号等の表示等の措置を講じようとするものである。

(イ) 鳥インフルエンザ問題関連

a 家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案(内閣提出)

鳥インフルエンザの発生などにかんがみ、家畜伝染病のまん延防止措置を講じなかった者に対する手当金の不交付、家畜の所有者が届出義務に違反した場合の罰則強化、家畜等の移動制限を受けた所有者に対する助成等の措置を講じようとするものである。

b 高病原性鳥インフルエンザ対策緊急措置法案(菅直人君外6名提出)

鳥インフルエンザの発生に起因して生じた事態に対処するため、緊急対策本部の設置、感染のおそれがある場合における届出の義務づけ、国による損失の全額補てん等の緊急措置を講じようとするものである。

ウ 審議経過

(ア) 第159回国会

a BSE問題

平成16年1月27日、農林水産委員会において、米国BSE問題及び鳥インフルエンザ問題について集中審議が行われた。2月26日、4月27日、6月9日、農林水産関係の基本施策に関する件等について審議が行われた際、米国産牛肉の輸入再開問題、「食品安全委員会」における議論の状況等について質疑が行われた。

BSE問題に関連する法律案として、民主、共産、社民は3会派共同で牛海綿状脳症対策特別措置法の一部を改正する法律案及び輸入牛肉に係る情報の管理及び伝達に関する特別措置法案を4月2日に提出した。

両法律案は、6月11日、農林水産委員会に付託されたが、いずれも継続審査となった。

b 鳥インフルエンザ問題

平成16年1月27日、農林水産委員会において、米国BSE問題及び鳥インフルエンザ問題について集中審議が行われた。2月26日には、農林水産関係の基本施策に関する件について審議が行われた際、鳥インフルエンザの感染経路究明と政府の対策等について質疑が行われ、3月4日には、鳥インフルエンザ問題について集中審議が行われた。また、同日、予算委員会において、食の安全に関する集中審議が行われた際、鳥インフルエンザ問題について質疑が行われた。

鳥インフルエンザ問題に関連する法律案として、民主から高病原性鳥インフルエンザ対策緊急措置法案が4月5日に、政府から家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案が同月6日にそれぞれ提出され、同月8日に本会議において、趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、農林水産委員会に付託された。

同委員会においては、同月21日、両法律案の提案理由の説明を聴取し、同月27日、質疑が行われ、高病原性鳥インフルエンザ対策緊急措置法案は賛成少数で否決すべきものと議決された。また、家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案は、全会一致で可決すべきものと議決された。

5月7日の本会議において、高病原性鳥インフルエンザ対策緊急措置法案は否決され、家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案は可決された。

参議院においては、同月26日の本会議で、家畜伝染病予防法の一部を改正する法律案が可決され、成立した。

(イ) 第160回国会

平成16年8月4日、農林水産委員会において農林水産関係の基本施策に関する件について審議が行われた際、米国におけるBSE対策の現状等について質疑が行われた。また、閉会中の10月5日には、国内BSE対策についての「食品安全委員会」の中間とりまとめ等について質疑が行われた。

 なお、第159回国会に、民主、共産、社民が共同提出し、継続審査になっていたBSEに係る2法律案は、引き続き継続審査となった。

(ウ) 第161回国会

平成16年10月13日、小泉内閣総理大臣の所信表明演説に対する質疑が行われた本会議において、また、同月19日、予算委員会において、国内のBSE対策の見直し、米国産牛肉の輸入再開問題等について質疑が行われた。

同月27日及び11月30日、農林水産委員会において、農林水産関係の基本施策に関する件について審議が行われた際、日米政府の牛肉貿易再開に係る認識共有の意義等について質疑が行われた。

また、第159回国会に、民主、共産、社民が共同提出し、継続審査となっていたBSEに係る2法律案については、11月30日、農林水産委員会において、提案理由の説明を聴取し、同日、質疑が行われたが、いずれも継続審査となった。

エ 主な質疑事項

(ア) BSE問題

主な質疑事項は、[1]国内のBSE対策の見直しと米国産牛肉の輸入再開交渉との関係、[2]米国のBSE対策(BSE検査方法、特定危険部位の除去、飼料規制、牛の個体識別制度等)に対する評価、[3]日米政府の牛肉貿易再開に係る認識共有の意義、[4]米国産牛肉の輸入再開交渉に当たり我が国と同等のBSE対策(BSE全頭検査の実施、特定危険部位の除去)を求める必要性、[5]米国における牛の月齢判定の正確性、[6]海外の食料の安全性を査察する必要性、[7]中国及びメキシコからの輸入牛肉等に対してリスク評価を行う必要性、[8]「食品安全委員会」がBSE対策の国内措置の見直しに着手した経緯、[9]地方公共団体が自主的に行うBSE検査への国庫補助に対する政府の見解、[10]輸入牛肉トレーサビリティ制度導入の必要性及び国際協定との整合性等であった。

(イ) 鳥インフルエンザ問題

主な質疑事項は、[1]鳥インフルエンザの感染経路の究明状況及び早期究明の必要性、[2]鳥インフルエンザに関する総合的な特別立法の必要性、[3]移動制限区域内の養鶏農家等に対する支援措置及び恒久的な補償措置の必要性、[4]鳥インフルエンザのまん延防止における国と地方の役割分担の在り方、[5]鳥インフルエンザワクチンの使用についての国の考え方、[6]鶏卵及び鶏肉の風評被害対策等であった。

(9) 道路4公団民営化関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団及び本州四国連絡橋公団(以下「道路4公団」という。)は、有料道路事業を通じて、全国的な自動車交通網を構成し、我が国の経済活動及び国民生活を支えるなど大きな役割を果たしてきた。

その一方で、道路4公団の財務状況は、現在、債務は総額約40兆円(平成14年度末)となっており、供用されている高速自動車国道のうち約半数が料金収入で管理費・金利等が賄えない路線となっている。また、高速自動車国道の整備計画決定区間のうち未供用区間についても、交通需要の観点から採算性が疑問視されるなど、このまま建設を進めていくと、今後一層債務が増加し、新たな国民負担が発生するおそれが懸念された。このような状況から、特に、採算性の確保、効率性の向上、経営責任の明確化などが要請されることとなり、そのためには、民営化をも視野に入れた抜本的な改革が必要との主張がなされてきた。

平成12年12月の「行政改革大綱」において、すべての特殊法人等の事業及び組織の全般について、抜本的な見直しを行うこととされた。平成13年12月に「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、道路4公団の民営化の方針が正式に決定された。ここで、道路4公団に代わる新たな組織及びその採算性の確保については、内閣に置く第三者機関において検討するとされた。

平成14年6月、道路4公団に代わる新たな組織と採算性の確保の在り方を検討する第三者機関として「道路関係四公団民営化推進委員会」(以下「民営化委員会」という。)が内閣府に設置され、35回に及ぶ会議の結果、12月6日に内閣総理大臣に意見書を提出した。

意見書の内容は、「必要性の乏しい道路建設をストップし、現在の約40兆円に達する道路関係四公団の債務を国民負担ができる限り少なくなるよう長期固定で確実に返済していくこと」を最優先するとともに、「民営化と同時に弾力的な料金設定等による料金引き下げやサービスの向上が実現するような、国民全体にメリットのある改革を実現する」ことを目的とし、道路4公団の資産と債務を引き継ぐ「保有・債務返済機構」と道路を管理・運営する「新会社」を設立、通行料金(料金に適正な利潤を含む)を平均1割引下げ、新会社は発足後10年を目途に機構から道路資産を買い取った後は早期に上場を目指す、新会社は採算性等を判断し自主的に建設に参画、新会社の建設資金は自己調達などとするものであった。

民営化委員会の意見の取扱いについては、同月17日の閣議決定により、政府は、同委員会の意見を基本的に尊重する方針のもと、必要に応じ与党とも協議しながら、改革の具体化に向けて検討を進めることとされた。

意見書の提出から約1年後の平成15年12月22日、政府・与党協議会は民営化のスキームとなる「道路関係四公団民営化の基本的枠組みについて」(以下「基本的枠組み」という。)を決定した。

基本的枠組みは、「民間にできることは民間に委ねる」との基本原則に基づき、[1]約40兆円に上る債務を確実に返済、[2]真に必要な道路を、新会社の自主性を尊重しつつ、早期に、できるだけ少ない国民負担のもとで建設、[3]民間ノウハウの発揮により、多様で弾力的な料金設定やサービス等の提供を目的としている。

基本的枠組みでは、意見書の内容が概ね採用されているが、通行料金に会社の利潤を含めないこと、会社が道路を保有しないことなど、一部については採用されなかった。

以上のような経緯から、政府は、基本的枠組みの内容に基づき4法律案を取りまとめ、第159回国会に提出した。

4法律案とは、会社の設立、業務について規定する高速道路株式会社法案、機構の設立、業務について規定する独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法案、会社が有料道路事業を行う場合の手続等について規定する日本道路公団等の民営化に伴う道路関係法律の整備等に関する法律案及び民営化に伴う経過措置等について規定する日本道路公団等民営化関係法施行法案である。

また、民主は、現在の道路4公団の債務を清算し、高速道路を無料開放することにより、地域の活性化と日本経済の再生が可能となるとの考えから、平成15年の衆議院議員総選挙に向けたマニフェストで高速道路を3年以内に原則無料開放することを掲げたところであり、これをベースに法案化を進め、第159回国会に、議員立法として高速道路事業改革基本法案を提出した。

イ 関連議案の概要

(ア) 高速道路株式会社法案(内閣提出)

道路4公団を民営化し、高速道路の建設・管理・料金徴収を効率的に行わせるため、東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社(以下「会社」と総称する。)を設立するもので、その主な内容は次のとおりである。

a 会社は、有料道路事業のほかサービスエリア、パーキングエリアの事業等を実施できること。

b 会社は、有料道路事業を営むときは、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構と貸付料等を内容とする協定を締結すること。

c 政府等は、会社の総株式の3分の1以上を保有すること。

d 会社は、代表取締役の選定等の決議、事業計画等について、国土交通大臣の認可を受けること。

(イ) 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法案(内閣提出)

道路4公団の民営化の円滑な実施を図るため、高速道路に係る道路資産の保有及び会社に対する貸付け、債務の早期の確実な返済等を行う独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(以下「機構」という。)を設立するもので、その主な内容は次のとおりである。

a 機構は、会社と、全国路線網、地域路線網又は一の路線に属する高速道路ごとに、協定を締結し、業務実施計画を作成して、国土交通大臣の認可を受けること。

b 機構は、会社が建設した道路資産と併せて債務も引き受けなければならないこと。

c 機構が会社に道路を貸し付ける際の貸付料の額は、債務の返済に要する費用等を貸付期間内に償うものであること。

d 機構は、民営化から45年後までに債務の返済等を完了させ、解散すること。

(ウ) 日本道路公団等の民営化に伴う道路関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)

道路4公団の民営化に伴い、道路整備特別措置法等道路関係法律について所要の規定の改正を行うもので、その主な内容は次のとおりである。

a 道路整備特別措置法の一部改正

(a) 従来の公団に対する施行命令方式等を廃止すること。

(b) 会社は、機構と協定を締結し、工事の内容、料金等について国土交通大臣に事業許可を申請して事業を実施できること。

(c) 会社が徴収する料金の額は、貸付料及び維持管理費を料金徴収期間内に償うものとし、その徴収期間の満了日は、民営化後45年を超えてはならないこと。

(d) 会社が建設する高速道路の道路資産は、工事完了後は機構に帰属するとともに、機構に帰属する道路資産は、料金徴収期間満了後は、道路管理者に帰属すること。

b 道路法及び高速自動車国道法の一部改正

高速自動車国道等と連結することができる施設として、休憩所、給油所等を追加すること。

(エ) 日本道路公団等民営化関係法施行法案(内閣提出)

道路4公団の民営化に伴い、前記3法律の施行に関し、所要の経過措置を定めるとともに、関係法律の廃止及び改正を行うもので、その主な内容は次のとおりである。

a 会社及び機構の設立に関し、会社の設立委員の任命その他所要の手続を定めること。

b 公団の業務及び権利義務について、会社及び機構への円滑な引継ぎを図るため所要の措置を定めること。

c 公団が行っている道路事業について、供用中の高速道路については、当該高速道路を事業範囲とする会社が管理及び料金徴収を行うものとし、建設中又は調査中の高速道路については、国土交通大臣が会社と協議して、会社が建設を行うべき高速道路を指定できること。

d 日本道路公団法等の5法律を廃止するほか、所要の改正を行うこと。

(オ) 高速道路事業改革基本法案(岩國哲人君外4名提出)

高速道路事業の抜本的改革を推進するもので、その主な内容は次のとおりである。

a 高速道路事業の改革は、道路4公団の管理する高速道路の通行又は利用について料金を徴収しないことによりその有効利用を図るとともに、真に必要な範囲で新たな高速道路の整備を行うことにより高速道路の円滑で快適な利用を図り、もって地域の活性化と我が国の経済社会の活力の向上に寄与するとともに、高速道路事業に係る予算の重点化及び効率化に資することを基本として行われること。

b 高速道路事業の改革に関する基本方針として、高速道路の3年以内の原則無料開放、道路4公団の解散とその債務及び資産の国等への承継、高速道路を管理する法人の設立、新たな高速道路の整備等について定めること。

c 高速道路事業改革を推進するため、内閣に、内閣総理大臣を本部長とする高速道路事業改革推進本部を設置すること。

d 本部は、基本方針に基づき、道路4公団の解散、資産及び債務の承継、円滑な交通の確保のための課金制度、新たな高速道路の整備に関する基本的方針、公団職員の再就職の促進等を内容とする高速道路事業改革推進計画を作成すること。

ウ 審議経過

内閣提出の4法律案は、第159回国会の平成16年3月9日に提出された。同月30日の本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、国土交通委員会に付託された。同委員会においては、翌31日、提案理由の説明を聴取し、4月2日に質疑に入った。同月6日及び9日には、小泉内閣総理大臣に対する質疑、13日には、8名の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。また、4月14日に民主から高速道路事業改革基本法案(民主案)が提出され、同日、国土交通委員会に付託され、提案理由の説明を聴取した。

その後、内閣提出の4法律案及び民主案は一括して審査が進められ、同月19日には、滋賀県及び大分県においていわゆる地方公聴会が開会された。同月20日には、8名の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われ、同月23日には、再度、小泉内閣総理大臣に対する質疑が行われるなど、総計54時間に及ぶ審査が重ねられた。同日、民主案は、賛成少数で否決すべきものと議決され、内閣提出の4法律案は、いずれも賛成多数で可決すべきものと議決された。なお、内閣提出の4法律案に対し、11項目の附帯決議が付された。

4月27日、本会議において、民主案は否決され、内閣提出の4法律案はいずれも可決された。

参議院においては、6月2日の本会議で、内閣提出の4法律案はいずれも可決され、成立した。

エ 主な質疑事項

主な質疑事項は、[1]道路4公団を民営化することの意義、[2]公団方式の問題点、[3]意見書と基本的枠組みとの相違点及び相違した理由、[4]会社の道路事業以外の事業展開、[5]政府等による会社の株式保有割合を3分の1とした理由及びそのために会社の経営自主性が制限されるおそれ、[6]料金収入から利潤を得られない会社の経営見通し及び上場の可能性、[7]債務を45年以内に確実に返済できる見通し、[8]機構を独立行政法人として設立する理由、[9]整備計画区間9,342km及び予定路線11,520kmの整備見通し、[10]新規建設に係る会社の自主性確保の必要性、[11]料金設定の在り方と料金値下げの必要性、[12]ファミリー企業の民営化後の取扱い、[13]建設コスト縮減の具体的方策、[14]民主案による料金を無料化した場合の債務返済の財源等であった。

(10) 有事法制関係

ア 国会で議論されるに至った経緯

第156回国会の平成15年6月6日、安全保障会議設置法一部改正法案、武力攻撃事態対処法案(正式名称は「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」)、自衛隊法等一部改正法案のいわゆる有事関連3法案が成立し、武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態への対処態勢が一応整備されることとなった。

武力攻撃事態等対処法においては、武力攻撃事態等に際して、国民を武力攻撃災害から守るための避難・誘導、被害の復旧などについて定める法制(国民保護法制)をはじめとする武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制(事態対処法制)の整備が規定されていた。また、衆参両院の委員会附帯決議により、国民保護法制の整備は、武力攻撃事態等対処法施行日から1年以内を目標として行うべきことが政府に求められた。

政府は、武力攻撃事態等対処法の成立を受け、同年6月、内閣に内閣官房長官を本部長とする国民保護法制整備本部を設置し、同本部を中心に、国民保護法制をはじめとする事態対処法制の検討・策定作業に着手した。

事態対処法制中の国民保護法制については、都道府県知事との意見交換会において、知事への権限集中や国による放射性物質等の汚染対処の必要性、大規模テロ等の緊急事態にも適用できるようにすべきである等の意見等が出されていた。同本部は、こうした意見を踏まえ、11月21日、「国民の保護のための法制の「要旨」」を作成、公表した。

次いで、12月26日、「国民の保護のための法制の法案作成に当たっての考え方」を決定した。その主な内容は、[1]武力攻撃事態に準ずる大規模テロ等(原発への攻撃、毒物の散布など)への対応について、国民保護法制上の措置を講ずることができるようにする、[2]基本指針や各指定行政機関の国民保護計画について、法施行後速やかに策定できるように地方自治体などの意見を十分に聴いて検討を進める、[3]指定公共機関を法施行後速やかに指定できるように関係事業者の意見を聴きつつ調整を行う等であった。

平成16年2月24日、同本部は「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案要綱(案)」を公表するとともに、その参考資料の中で、政府が国会に提出しようとする7法律案及び3条約の概要を明らかにした。

こうした経緯を経て、3承認案件及び7法律案(以下「10案件」という。)が、第159回国会の3月9日に提出された。

イ 関連議案の概要

(ア) 日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定を改正する協定の締結について承認を求めるの件

日米共同訓練、国際連合平和維持活動、周辺事態に際しての活動等に必要な物品又は役務の提供について、日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定が定める自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間の相互主義の原則に基づく枠組みを、武力攻撃事態若しくは武力攻撃予測事態に際して我が国に対する武力攻撃を排除するために必要な活動並びに国際の平和及び安全に寄与するための国際社会の努力の促進等のための活動にも適用し得るようにするため、現行協定を改正しようとするものである。

(イ) 1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I)の締結について承認を求めるの件

1949年8月12日のジュネーヴ諸条約を補完・拡充することにより、国際的な武力紛争の犠牲者を一層保護しようとするものである。

(ウ) 1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書II)の締結について承認を求めるの件

1949年8月12日のジュネーヴ諸条約を補完・拡充することにより、非国際的な武力紛争の犠牲者を一層保護しようとするものである。

(エ) 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案(内閣提出)

武力攻撃事態等において武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護し、並びに武力攻撃の国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることの重要性にかんがみ、これらの事項に関し、国、地方公共団体等の責務、国民の協力、住民の避難に関する措置、避難住民等の救援に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置その他の必要な事項を定めようとするものである。

(オ) 武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律案(内閣提出)

武力攻撃事態等において、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に従って我が国に対する外部からの武力攻撃を排除するために必要なアメリカ合衆国の軍隊の行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置その他の当該行動に伴い我が国が実施する措置(行動関連措置)について定めようとするものである。

(カ) 武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律案(内閣提出)

武力攻撃事態等における特定公共施設等(港湾施設、飛行場施設、道路、海域、空域及び電波)の利用に関し、指針の策定その他の必要な事項を定めることにより、その総合的な調整を図ろうとするものである。

(キ) 国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律案(内閣提出)

国際的な武力紛争において適用される国際人道法に規定する重大な違反行為を処罰しようとするものである。

(ク) 武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律案(内閣提出)

武力攻撃事態に際して、我が国領海又は我が国周辺の公海(排他的経済水域を含む。)における外国軍用品等の海上輸送を規制するため、防衛出動を命ぜられた海上自衛隊の部隊が実施する停船検査及び回航措置の手続並びに防衛庁に設置する外国軍用品審判所における審判の手続等を定めようとするものである。

(ケ) 武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律案(内閣提出)

武力攻撃を排除するために必要な自衛隊の行動が円滑かつ効果的に実施されるようにするとともに、武力攻撃事態において捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約その他の捕虜等の取扱いに係る国際人道法の的確な実施を確保するため、武力攻撃事態における捕虜等の拘束、抑留その他の取扱いに関し必要な事項を定めようとするものである。

(コ) 自衛隊法の一部を改正する法律案(内閣提出)

日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定の改正に伴い、その的確な実施を確保するため、アメリカ合衆国の軍隊に対する物品及び役務の提供について、その根拠及び手続に関する規定を整備しようとするものである。

ウ 審議経過

上記10案件は、第159回国会の平成16年3月9日に提出され、4月13日に本会議において趣旨説明の聴取及び質疑が行われ、同日、武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会に付託された。同委員会においては、同月13日、提案理由の説明を聴取し、翌14日から質疑に入った。

同月23日には、シンクタンク研究員、学者等の参考人からの意見聴取及び参考人に対する質疑が行われた。

5月14日、民主から、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案及び武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律案に対し、それぞれ修正案が提出され、同日、趣旨の説明を聴取した。

しかし、法律案の内容をより国民の理解を得られるものにすべきであるとの考えを踏まえ、自民、民主、公明の3会派による協議を行った結果、同月19日に修正案の撤回が許可され、同日改めて、上記2法律案に対し、上記3会派共同提出の修正案が提出され、趣旨の説明を聴取した後、内閣の意見を聴取した。

上記3会派共同提出の修正案のうち、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案に対する修正案」の主な内容は、

(ア) 武力攻撃事態等対策本部に、対策本部長の定めるところにより同対策本部の事務(国民の保護のための措置に関する事務に限る。)の一部を行う組織として、武力攻撃事態等現地対策本部を置くことができることとし、内閣総理大臣は、現地対策本部を置いたときは、国会に報告しなければならないものとすること

(イ) 国民の保護のための措置についての訓練を行う場合においては、災害対策基本法の防災訓練との有機的な連携が図られるよう配慮するとともに、指定行政機関の長又は指定地方行政機関の長が地方公共団体の長等と共同して行う訓練に係る費用で地方公共団体が支弁したものについては、政令で定めるものを除き、国が負担するものとすること

(ウ) 武力攻撃事態等対処法に緊急対処事態対処方針に関する規定を設け、事態の認定を含む同対処方針の国会の承認に係る所要の規定を置くとともに、国会が緊急対処措置を終了すべきことを議決したときは、同対処方針の廃止について、閣議の決定を求めなければならないものとすること
等であった。

また、「武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律案に対する修正案」の内容は、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案の修正に伴い、緊急対処事態の定義は武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律によるものとすること、であった。

5月20日、同委員会において10案件が採決され、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案及び武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律案は賛成多数で修正議決すべきものと議決され、他の5法律案は賛成多数で可決すべきものと議決された。3承認案件については、日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定を改正する協定の締結について承認を求めるの件が賛成多数で承認すべきものと議決され、他の2承認案件は、全会一致で承認すべきものと議決された。

また、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案に対しては、緊急事態において国民の権利利益の迅速な救済が図られるよう、本法律施行後1年を目途として、その手続や文書の適正な管理などの在り方について必要な検討を行い、その結果に基づき、適切な体制の整備等必要な措置を講ずること等を内容とする附帯決議が付された。

同日、本会議において、10案件はいずれも可決、承認された。

参議院においては、6月14日、参議院本会議で、10案件は、いずれも可決、承認され、成立した。

エ 主な質疑事項

主な質疑事項は、[1]民間防衛組織を整備する必要性、[2]自主防災組織やボランティアによる活動への支援の在り方、[3]指定公共機関に民間放送事業者を含める理由、[4]緊急対処事態の具体的な内容及び想定される類型、[5]捕虜収容所の設置場所及び施設の概要、[6]自衛隊員が捕虜を虐待した場合の対処の方法、[7]停船検査が交戦権の行使となる可能性、[8]停船検査等の実施が可能な「我が国周辺の公海」の範囲、[9]行動関連措置の具体的内容、[10]地方公共団体及び事業者が要請される協力の内容、[11]米軍に対する弾薬の提供が武力行使との一体化に該当する可能性、[12]港湾施設の利用指針の性格及び事項等であった。

3 国政選挙結果

(1) 平成16年4月統一補欠選挙

平成12年の公職選挙法の改正により、衆議院議員及び参議院議員の補欠選挙の期日は原則として年2回(4月第4日曜日、10月第4日曜日)に統一された。

平成16年4月の第4日曜日である4月25日には、衆議院埼玉県第8区、同広島県第5区、同鹿児島県第5区の3選挙区において補欠選挙(4月13日告示)が行われた。選挙結果は次のとおりである。

なお、参議院議員の補欠選挙は、補欠選挙の対象となる欠員がないため実施されなかった。

衆・埼玉県第8区(新井正則君H16.1.19辞職)
立候補者数 3人 投票率 35.22%
当選人 柴山 昌彦(自由民主党)
衆・広島県第5区(池田行彦君H16.1.28死去)
立候補者数 3人 投票率 55.52%
当選人 寺田  稔(自由民主党)
衆・鹿児島県第5区(山中貞則君H16.2.20死去)
立候補者数 3人 投票率 54.92%
当選人 森山  裕(自由民主党)


(2) 第20回参議院議員通常選挙

第20回参議院議員通常選挙は、平成16年6月24日に公示され、7月11日を投票日として実施された。

今回の通常選挙は、参議院議員の比例代表選挙に非拘束名簿式比例代表制が導入されてから2度目の選挙であった。参議院議員の定数は、平成12年の公職選挙法の改正により10人削減され、選挙区152人→146人、比例代表100人→96人となった(参議院は半数改選のため、前回通常選挙とあわせた2回の通常選挙において5人ずつ削減)。また、平成15年の公職選挙法の改正により、選挙人の投票しやすい環境を整えるため、新たに選挙期日前においても選挙期日と同様に投票を行うことができる「期日前投票制度」が創設されたが、今回、初めて全国規模で実施された。

今回の通常選挙の改選議席は選挙区が73、比例代表が48、計121であり、それに対し、立候補者は選挙区が192人、比例代表が128人、計320人であった。党派別内訳は表1のとおりである。

競争率は選挙区で2.63倍、比例代表で2.67倍であり、また、女性の立候補者は66人であった。

第20回参議院議員通常選挙の当選人数の党派別内訳は表2のとおりである。

(表1) 党派別立候補者数
選挙区 比例代表
自由民主党 48 33 81
民主党 48 26 74
公明党 3 17 20
日本共産党 46 25 71
社会民主党 10 5 15
みどりの会議 0 10 10
女性党 0 10 10
維新政党・新風 8 2 10
諸派 1 0 1
無所属 28 0 28
192 128 320


(表2) 党派別当選人数
  選挙区 比例代表
自由民主党 34 15 49
民主党 31 19 50
公明党 3 8  11
日本共産党 0 4  4
社会民主党 0 2 2
無所属 5 0 5
73 48 121


自由民主党及び公明党の連立与党は、自由民主党が選挙前より1議席減、公明党が1議席増で合わせて60議席となり、改選121議席の過半数を確保することはできなかった。しかし、非改選の79議席を合わせると139議席となり、全242議席の過半数を維持した。

一方、野党各党は、民主党は改選38議席から50議席へ大幅に議席を増やし、比例代表選挙において第1党になり、選挙区を合わせた獲得議席も自由民主党を上回った。日本共産党は15議席から4議席へと大きく議席を減らし、また、社会民主党は改選2議席を確保した。

女性の当選人は15人で、前回の18人よりも3人減となった。

今回の通常選挙の投票率は、選挙区56.57%、比例代表56.54%であり、前回通常選挙の選挙区56.44%、比例代表56.42%をわずかではあるがそれぞれ上回る結果となった。

(3) 平成16年10月統一補欠選挙

衆議院議員及び参議院議員の補欠選挙は、補欠選挙の対象となる欠員がないため実施されなかった。


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