平成23年12月1日(木)(第3回)

◎会議に付した案件

日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(前回の中山参考人の報告について)

衆議院法制局より説明を聴取した後、自由討議を行った。

◎自由討議における各委員の発言の概要(発言順)

保利 耕輔君(自民)

  • 憲法改正原案を発議する際、国民投票を意識して、項目ごとに個別に提出すべきなのか、それとも、国民投票を意識せずに、憲法全体についてまとめて提出することができるのか。改正内容が多岐にわたる場合に、項目ごとに国民投票にかけることになると、国民投票が数次行われる可能性が出てくる。これは、今後の検討課題であろう。
  • 憲法改正の発議の流れについては、大変複雑であるとの印象がある。特に、憲法改正の発議の手続では、衆参両院の合同審査会を開会することができるとされているが、この合同審査会は、どの時点でどのようにつくられて、どのような議論がされることになるのか。この点については、今後憲法審査会で協議すべき事項である。

中島 正純君(国民)

  • 現行憲法においては、被疑者や刑事被告人の権利については手厚い保障がなされているが、犯罪被害者に対する規定は十分ではない。人権保障は時代変化に対応したものであるべきであり、犯罪被害者の人権について、憲法に新たな規定を設けるべきである。
  • 3月11日に発生した東日本大震災、原発事故からの復興、復旧に全力を注ぎながら、多くの国民は環境破壊、格差社会、治安などに対して不安を感じている。これらの不安に対して、未曾有の国難だからこそ、国は憲法という基本原理に照らして、課される使命を確実に履行していくべきである。国民の不安に憲法が十分応えられていないのであれば、憲法について積極的な議論を進めることは立法府として当然の責務である。

緒方 林太郎君(民主)

  • 憲法は改正すべきで、現在の手続の下で着々と進めていくべきである。
  • 憲法改正のあり方として、96条改正により憲法改正のハードルを下げる考え方は、現行憲法の骨格自体を完全に変えてしまうことにつながるのではないか。96条は現行憲法と不可分一体をなす部分であり、この改正には慎重であるべきと考える。
  • 非常事態条項を憲法に盛り込むことに反対ではないが、ドイツのワイマール体制崩壊の原因が非常事態条項の濫用にあったことを認識すべきである。
  • 衆参両院ともに一票の格差が議論になることには違和感を覚える。これは、憲法に各院が何を代表しているかが規定されていないことに原因がある。フランスでは下院が人民代表、上院が領土代表とされ、米国では下院が人口比例、上院が州代表と規定されているように、我が国も各院がそれぞれ何を代表するのかを考えなければならない。
  • 憲法裁判所の導入について、フランスでは、法律が国会で採択された後公布までの間に、議員60名の発議により法律を憲法院に付託することが可能である。この制度を我が国で導入する場合には、事実上法律制定にもう1つのハードルを設けることになることに留意が必要である。

山尾 志桜里君(民主)

  • 国民投票法の宿題のうち、18歳選挙権と公務員の政治的行為の制限の法整備については、この審査会で最優先テーマとして議論すべきである。その際、憲法改正の手続論と改正の中身の議論を切り分け、手続論を先行させるのが実効的である。
  • 改正の中身としては、非常事態条項の検討からスタートするのが有力な選択肢である。非常時においては国民の生命・財産といった究極の人権を守るために、内閣総理大臣に権限を集中し、人権を平時よりも制約することが必要になる場合もある。また、非常事態条項は人権制約をするものである一方で、人権制約をする力に一定の歯止めをかけるものであることを踏まえる必要がある。
  • 非常事態条項以外にも、時の経過に応じて生じた新しい人権や、憲法と現実との乖離について議論すべきである。ただし、憲法は即応的・反応的に改正すべきではなく、変化に耐えうる普遍的価値のみを抽出し、真に必要な限りで抑制的に補充・修正されていくべきである。そのため、付け加えるべき新しい人権はそう多くないと考えている。
  • 9条に関しては、自衛のための実力組織について簡潔に言及することも検討すべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 前回の審査会開会後、震災からの復興や原発事故への対応など国会が行うべき課題は山積しているのになぜ今審査会なのか、非常事態条項がないなどと大震災を改憲の口実にしないでほしいといった国民からの意見を多くいただいた。前回主張したとおり、国民は改憲を求めておらず、憲法審査会を動かすべきではないとの意を強くした。
  • 前回の審査会は、憲法調査会及び憲法調査特別委員会における経過について報告を受け、それに関する意見表明・質疑を行うとの趣旨であったが、むしろ、改憲に関する持論や改憲の論点について多くの委員から発言があり、また、参考人からも改憲に関する持論が開陳された。開催の趣旨からはみ出す発言は、改憲を望んでいない多くの国民からかけはなれた議論であり、この点からも憲法審査会は動かすべきではないと痛感した。

照屋 寛徳君(社民)

  • 憲法に非常事態条項を規定すべきかについては、憲法調査会においても様々な議論がされてきたが、いまだに非常事態について明確な概念がなく、国家緊急権についても概念が不明確である。
  • 大規模災害においては、国民の生命や財産等の保護が、国家の最大の義務であり、政治の責任である。だが、大規模災害等の非常事態においては、権限を内閣へ集中させ、国民の人権を平時より制約すべし、そのためには改憲が必要だ、という考え方には賛成できない。憲法は、そもそも非常事態を生じさせないよう不断の努力をすべきことを規範として求めている。具体的には、99条の憲法尊重擁護義務を負う者に対し、非常事態に際して個別法により生存権の具体化をすることを求めている。大規模災害への対処には個別法の制定で十分である。大事なのは、時の政権がスピード感をもって決断することであり、東日本大震災や原発事故を改憲の口実とすることには反対する。

大口 善徳君(公明)

  • 現行憲法が国民主権、基本的人権の尊重、恒久的平和主義を規定していることを高く評価する。これらは改正の限界としてあると考える。しかし、時代の変化により、憲法の条項を審査し、その改正が必要なもの、改正は必要でなく現行法の改正で足りるものを吟味する必要がある。公明党は「加憲」を提案している。また、改正の発議は、個別発議の原則が実務的であり、国民は選択しやすい。
  • 憲法論議においては、国民的議論が大事である。憲法審査会でしっかり議論し、それが国民的議論に発展していくことが大事である。そのテーマの選び方として、生存権、環境権やプライバシー、サイバー攻撃等インターネット社会の問題、大阪都構想など大都市の問題など国民の生活に影響することについてしっかり議論していくことが大事である。
  • 今の議会の状況を考えると、多様な民意を反映させていくことにおいて、硬性憲法であることが大事である。
  • 3つの宿題、特に18歳選挙権等の実現のための法整備については、法制審の答申においては国会の判断に委ねることとされており、また、前回の審査会では内閣提出法案として提出されるべきものと説明されているが、しっかり進めていかなければならない。また、公務員の政治活動の制限の問題や国民投票の対象の問題は、憲法審査会の所管事項であり、審査会でしっかり議論していくことが大事である。

棚橋 泰文君(自民)

  • 憲法の普遍的価値は大事にしていかなければならないが、時代の変化に合わせて、憲法を時代に合った形に変えていくことは当然である。憲法改正規定の在り方には様々な議論があるが、憲法の実質的な内容の議論をすると、時代の変化に合わせて憲法を変えていくことが難しくなるので、まず憲法改正規定に集中して議論していくことも考慮すべきである。

石破 茂君(自民)

  • この国の憲法に、国家主権の概念はどこにあるか。国家主権をどのように考えるかが極めて重要である。非常事態条項にしても、国民の権利や自由を守るのは国家であるが、その国家そのものが存亡の危機にあるとき、国家存立のために厳格な条件を付した上で、国民に義務を求め、国民の権利を制限することは、必要なことである。国家主権や国家の独立について憲法に規定がないのは、占領期に憲法が作られたことと密接な関係がある。だからこそ自由民主党は自主憲法の制定を掲げている。ただ、占領下にできたから憲法は無効であるとの考え方には、賛成しない。
  • 憲法の制定の経緯を知る方や戦争を経験した方が第一線にいる間に、憲法改正の議論を行うべきである。そのような経験がない者同士で憲法の改正を議論することは、かなり危険である。
  • 解釈改憲と明文改憲について考える必要がある。憲法9条1項・2項の論理的な解釈からは、集団的自衛権を行使できないという結論は出てこない。憲法解釈が正しいならば憲法改正が必要だが、憲法解釈が誤っているならば法律を改正すれば足りる。何を明文改憲に付するか、何が解釈で対応できるかは、よく議論して結論を出すべきである。結論を出すことに意味がある。

柴山 昌彦君(自民)

  • 重要課題は、憲法改正国民投票法の>3つの宿題、特に、18歳選挙権実現、公務員の政治的行為に係る法整備である。18歳選挙権実現等のための法整備については、民法など関連する法律が多いが、国会がしっかりコミットすることが重要である。関連する法律として何があり、成年年齢を引き下げることでどのような効果があるか、この審査会で検討することが必要である。
  • 憲法改正の中身については、一度ですべての改憲ができるとは思っておらず、憲法96条に規定されている発議要件の引下げや、国家緊急権など、優先的な課題について、集中的に議論すべきである。
  • 国民投票が最後に控えていること、衆参両方の議決が絶対に必要であることから、憲法96条については、発議要件を2分の1に引き下げても、硬性憲法の性質は曖昧にならない。

小沢 鋭仁君(民主)

  • 憲法96条に規定されている発議要件の引下げについては、この審査会でも議論をすべきである。鳩山由紀夫委員の新憲法試案では、国民主権などの普遍的な価値に関する部分と統治構造に関する部分を明確に分けるべきという提案をしている。96条の改正に関しても、後者については時代環境にあわせて変えていけるよう、発議要件を緩和することを鳩山委員は提案しており、大変重要な提案だと思う。
  • 幹事としては、今後の進め方だが、憲法改正国民投票法に定められている3つの宿題のうち2つ(18歳選挙権実現等のための法整備、公務員の政治的行為に係る法整備)については、本法施行までに対処すべきものと期限が設定されており、現状は不作為の状態にあることを改めて認識しなければならない。その意味では、ここにいる我々全員の責任として早急に改善しなければいけないと思っている。