平成24年3月15日(木)(第2回)

◎会議に付した案件

日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件 (公務員の政治的行為の制限と国民投票運動をめぐる問題)

政府当局から説明を聴取した後、自由討議を行った。


◎政府当局からの説明聴取の概要

人事院の説明の概要(国家公務員の政治的行為の制限について)

  • 一般職の国家公務員は、その職務遂行に当たっては、政治的に中立的な立場を維持し、一部の政党や政治的団体に偏することがないようにすることが求められている。
  • このため、一般職の国家公務員については、国家公務員法・人事院規則により、一定の政治的目的をもってする政治的行為が制限される。人事院規則で「政治的目的」と「政治的行為」を限定列挙した上で、あくまで人事院規則に掲げられる「政治的目的」をもってする「政治的行為」を制限する形をとっている。
  • 行為制限の基本に置かれる「政治的目的」としては、選挙期間中の特定の候補者に対する支持・反対、特定の政党などに対する支持・反対を掲げている。しかし、地方公務員法と異なり、「公の投票」における支持・反対などは政治的目的として規定されていない。したがって、国民投票に際して行う憲法改正に関する支持・反対については、人事院規則で「政治的目的」として掲げられている項目には該当しないので、国家公務員法が定める政治的行為の制限の対象とはならない。
  • このことは、憲法改正国民投票法附則11条の規定と整合していると理解している。
  • 一方、国民投票運動と称し、実質的に特定政党への支持・反対を目的として、ビラや政党機関紙の配布などを行うことは、現行制度上の政治的目的を持つ政治的行為に該当し、制限の対象となる。

総務省の説明の概要(地方公務員の政治的行為の制限について)

  • 一般職の地方公務員は、公務の中立性や公務員の全体の奉仕者としての性格の確保のために、政治的中立性を確保することが求められている。
  • このため、一般職の地方公務員については、地方公務員法36条において、@公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもって、A公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすることや署名運動に積極的に関与することなどが禁止されている。この政治的行為の制限に違反する行為については、刑事罰は科されていないが、懲戒処分の対象となる。
  • こうした現行法の規定は、憲法改正国民投票を念頭に置かずに制度設計されている。
  • 憲法改正国民投票法附則11条は、国家公務員法、地方公務員法の定める一般的な公務員の政治的行為の制限について、国民投票運動の自由確保と公務員の政治的中立性の観点から、憲法改正国民投票法上いかなる特則を設けるべきかという問題として、国会で議論されてきたものと理解している。
  • 総務省としては、憲法審査会における議論を踏まえながら、その状況に応じ、関係府省とも協議しつつ適切に対処してまいりたい。

◎自由討議における各委員の発言の概要(発言順)

中谷 元君(自民)

  • 政治的行為の制限に違反する行為に対しては、国家公務員法では刑事罰が科されるのに対して、地方公務員法では刑事罰は科されず、懲戒処分の対象となるにとどまっている。なぜ地方公務員法では刑事罰が定められていないのか、2つの法律の間になぜこのような差があるのか、その経緯について説明願いたい。
  • 国家公務員については、公の投票を目的とした行為は、人事院規則に規定されていないため可能とされている。それでは、公の投票という概念をもってすれば、どのような憲法改正に関する活動についても許されるという認識でよいか。
  • 地方公務員については、憲法改正案に対し賛成を表明して、街頭で演説したりビラを配布したりすることは認められているか。

緒方 林太郎君(民主)

  • 例えば国民投票と国政選挙や地方自治体の選挙が同時にあった場合、民主党はこの憲法改正案を支持していると前置きした上で当該改正案への支持を呼びかけたときは、政党支持の色彩が強い働きかけになると思うが、呼びかけ自体は憲法改正案への支持に過ぎない。政治活動や政党支持と本当に切り離された国民投票運動があるのか、精査する必要がある。
  • 憲法上、公務員に関しては様々な規定がある。公務員自身にかかわるこれらの規定に関して、勧誘活動や、憲法改正についての発言が自由でよいのか、疑問がある。
  • 例えば、大臣や局長が憲法改正案に関して上下関係を利用して役所内で働きかけをすることが許容されるか、また、警察官や自衛官などを憲法改正国民投票法上の「公務員」の範疇に加えてよいか、例えば、自衛官が憲法9条に関して勧誘活動することについてどうあるべきかについても検討すべきではないか。

照屋 寛徳君(社民)

  • 石原東京都知事が去る2月21日の東京都議会自民党「新春のつどい」において、日本国憲法について改正するより破棄すべき旨の見解を示したとの報道があるが、国民はそれを望まないし、そのような事態があってはならないと考える。
  • 人を選ぶ公職選挙と、憲法という >国の最高法規、いわゆる政策を選ぶ国民投票運動とは全く異なるものであり、全く異なる法規制によって律せられるべきである。憲法改正に関する国民投票運動は、主権者たる国民の重要な権利の行使であり、最大限に保障されなければならない人権である。本来政治活動は原則として自由であるべきであり、それを保障することが、民主主義と民主政治の根本である。したがって、憲法を改正すべきか否か、どのような憲法を選択するかについての国民投票運動は、原則として自由とすべきであり、規制を前提とすべきでない。
  • 国家公務員であれ、地方 公務員であれ、国民の一人として憲法改正案に対する賛否の勧誘、意見の表明を行うなどの国民投票運動について制限すべきではないと考える。
  • 衆議院憲法調査特別委員会においても、平成18年12月14日段階の民主党、自民党・公明党の修正要綱が、国家公務員法等の政治的行為の制限規定を全面適用除外とすることで一致していたことを思い起こすべきである。その後に自民党・公明党から切り分け論の提起があり、附則11条の規定になったものと理解している。

柴山 昌彦君(自民)

  • 制度設計としては本来、権力性の薄さから、国家公務員よりも地方公務員の方が、政治的な活動の自由がより担保されるべきである。しかし、現行法上は、国家公務員は公の投票における支持・反対が自由であるのに対し、地方公務員はそうなっておらず、本来の方向性とは逆になっているのは大きな問題である。
  • ただ、国家公務員の方が本当に自由かと考えた場合、国民投票運動について、政党の支持と切っても切り離せない部分がある。また、自衛官のみならず裁判官や検察官など、職務の在り方に高度な信頼性・中立性の確保が求められている職種に対し、本当に、政治的目的を直接有するものではないということで自由に発言を許してよいのか。国家公務員も憲法尊重擁護義務があるので、この点について意見を伺いたい。
  •  公立学校の教職員については、地位利用という形で規制すればその弊害の大きな部分は担保されることになるのか。仮に学校関係以外での活動を教職員に認めた場合、教育への信頼に影響が出てくるのではないか。地方公務員の一定程度の自由についても、公務員の職種によっては慎重な配慮が必要ではないかと考えるが、この点についての見解を求める。

柿澤 未途君(みんな)

  • 国民投票は、衆参の国政選挙、地方選挙と同時に行うことは基本的にはできないものだと解釈されなければならないのか。選挙と同時に国民投票を行うとすると、国民投票における勧誘行為は、事実上何らかの政党等の勧誘とパラレルな関係を帯びる可能性があり、それらが一体不可分になる。また、地方選挙は年中行われている。そうなると、国民投票はいつ行えるのか、ということにもなる。現状における解釈、認識を政府に聞きたい。この点は、実務上の問題点であるが、重大な影響を及ぼすものである。

石井 登志郎君(民主)

  • 現行の国家公務員に対する選挙活動の規制は、警察や選挙管理委員会が管理しているが、憲法改正国民投票においても、法律にのっとった活動かどうかは、選挙管理委員会や警察が同じように管理していくのか。
  • 私は公職選挙法の関係でインターネット選挙の解禁に力を入れているが、現行の国家公務員法のような形で、活動で線を引くとした場合、公の投票に係る勧誘運動はよい、署名を集めたりビラを配るのはいけないというならば、インターネットに当てはめたときにはどういう切り分けになるのか。どこまで国民投票運動の範囲を認め、制約を加えるかについて、デジタル化の観点からも検討していくべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 公務員の国民投票運動について、国家公務員法と人事院規則による制限を前提にして、自由にできる行為と制限される行為を切り分けるということで、附則11条が置かれたが、私は国家公務員法と人事院規則そのものに問題があると考える。1947年に制定された国家公務員法はわずか 1年後に大幅改正がなされ、国家公務員の政治的行為を制限した102条に「人事院規則で定める政治的行為をしてはならない」という一句が追加された。当時当事者の一人であった浅井清氏は著書の中で、この一句を追加したことにより、人事院に白紙委任状を渡すような結果になったので、公務員にとって重大なことであったと述べている。禁止とされたことのすべてが刑事罰の対象とされたことが、問題を一層深刻化させ、解釈・適用の混乱を招いた。
  • 国家公務員法改正案が第3回国会に提出された当時、人事院規則によって規制しようとする政治的行為の内容を国会に示せとの要求があったが、政府側は対応に苦慮した。浅井氏の著書には、1948年の改正はマッカーサー元帥から芦田内閣総理大臣に宛てた同年7月22日の書簡から端を発したもので、総司令部の意向によるから、日本政府側に全く腹案がなかったので主管省庁である人事院を当惑させた、という記述がある。
  • 国家公務員法102条の改正は、GHQの強い圧力で包括的な政治活動の制限・禁止を強要されたもので、アメリカにもない刑事罰まで盛り込んだものであり、合憲性が問われる典型的なものである。諸外国をみても政治的行為の違反については刑事罰ではなく懲戒処分にとどまっており、世界を見ても日本の法律は異常である。改憲手続法に関係なく、それぞれの所管委員会において議論して改正していくことが重要である。

大口 善徳君(公明)

  • 憲法改正国民投票法の制定当時、国民投票運動は人や政党を選ぶ選挙と性格が異なるので、できるだけ自由であるべきとの議論があり、切り分け論として附則11条が規定された。私は、国民投票運動は自由にすべきだという考えである。
  • 勧誘運動については自由にすべきだとする附則11条によれば、地方公務員法36条に定められている「公の投票」という部分は改正しなければならない。さらに、政治的目的をもった署名運動の企画や庁舎等への掲示については、現行法上、国家公務員には罰則があるが、地方公務員は懲戒処分のみである。この不均衡も改めなければならない。国民投票法制定後、総務省はどのような検討を行ってきたのか。
  • 人事院の説明では、実質的に特定の政党への支持・反対を目的として行う行為は制限の対象となるということだが、これが曖昧であると、国民投票における政治活動の自由を不当に制限することになるので、明確化すべきだと考える。そのような問題意識を人事院は持っているか。また、人事院からは、附則11条と現行の国家公務員法は整合性がとれているという説明があったが、附則11条の議論の経緯を受けて何も改正しなくてよいのかは検討を要するのではないか。

山花 郁夫君(民主)

  • 憲法改正国民投票法の制定当時に民主党が公務員の政治的行為の制限の全面適用除外を主張した背景として、国民投票は、特定の候補者や政党、政権を選ぶ選挙とは異なり、今後の統治の在り方や人権保障の在り方など、将来の国の在り方を選ぶ投票であることや、外国の例、例えばフランスなどでもほとんど規制がない中で投票を実施していることを参考にした。買収の問題にしても、特定の地域で候補者を選ぶ選挙とは異なり、国民投票は全国を対象としているので、投票結果に影響を与えるのは難しいのではないか。むしろ広く国民一般が議論をして判断していくことが重要であることから、国民投票法では七重の縛りをかけた上でないと買収は違反にならないという立案を行った。公務員についても同様で、基本的に弊害があることを想定しうるだろうか、国民投票運動についてもっとおおらかであってよいのではないかというのが、当時の民主党のスタンスであった。
  • これまでの議論で若干違和感があるのだが、憲法改正案が国民投票に付されるためには、両議院の3分の2の賛成で発議されることが条件となる。よって、基本的には選挙の争点となっていないことが前提で国民投票が行われるというふうに理解した方がよいと思う。
  • 公職選挙法は、立法事実の積み重ねによって規制が行われている。一方、国民投票については我が国は一度も経験がなく、規制するだけの立法事実がないことを踏まえれば、明らかに規制すべきケースのみを拾っていくべきである。立案方法としては、自民・公明案の提出者は憲法改正国民投票法の一部改正で立案される旨の認識を示している。その際には、どこを適用除外とするかという観点から議論することが生産的であり、そのような形で議論されることを望む。

阿知波 吉信君(民主)

  • 本日説明のあった一般職の地方公務員以外に、教育委員会委員など、個別法で制限している地方公務員の事例もある。一方、最近の行政の在り方として、行政目的実現のために市民の参加を広く求め、市民の専門性や能力を積極的に活用していく動きが進んでいる。例えば、自治体によっては、猪などの有害鳥獣の駆除部隊を結成し、その身分や報酬を条例で規定するような動きもある。そうした中で、政治的行為を制限される公務員の範囲を区分する基準はどうなっているか。自分が政治的行為を制限される公務員に当たるかどうかの判断は、どのようになされるのか。

中谷 元君(自民)

  • 附則11条において、この法律が施行されるまでの間に、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定に検討を加え、必要な法制上の措置を講じるとしているが、憲法改正国民投票法は2年前の5月18日に施行されており、いわば法律違反の状況となっている。この規定に基づいた検討をどの程度行っているのか。改正法案の骨子が政府から示されなければならず、問題点や論点整理について当審査会に情報提供があってしかるべきだと思うが、進捗状況はどうなっているか。
  • 附則11条に定められている法制上の措置について、国家公務員法、地方公務員法の改正は必要ないという認識でよいのか。
  • 地方公務員においては教員、国家公務員においては裁判官といった職種の公務員がその地位を利用して国民投票運動を行う場合について、どういったケースは容認されるのかという検討はしているか。

近藤 三津枝君(自民)

  • 附則11条には、2つの宿題があると考えている。第一は、憲法改正のための国民投票においては、政治的中立が求められる公務員でも自由に運動できる部分と、公務員の政治的中立の観点から規制する部分を切り分けるべきであること、第二は、そのために必要な法制上の措置を講じるべきであることである。
  • この宿題に対し、これまでの議論からも、国家公務員については現行の法令で対応できそうだが、地方公務員に関しては、地方公務員法の改正は必要である。それは地方公務員法36条2項1号において、「公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること」を禁止しているからである。
  • 私は、地方公務員法等の個別法を改正するのではなく、憲法審査会において、憲法改正国民投票法自体を改正するべきだと考えている。つまり、憲法改正のための国民投票に限定して、公務員の政治的中立を侵すことのない勧誘行為及び意思表明はできるように、憲法改正国民投票法を可及的速やかに改正するべきである。そして、この改正に合わせて、地方公務員法等の必要な改正措置を行っていくべきである。

棚橋 泰文君(自民)

  • 附則11条において、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、必要な法制上の措置を講ずることとされているが、一方で国家公務員がその法的な地位、権限、立場を利用して憲法改正に対して越権で権限を行使する行為との具体的な切り分けは難しいのではないか。
  • 地方公務員法36条には罰則がないが、地方公務員の権限を濫用、悪用して、憲法改正に対して本来公務員として許されざる行為をしたときには、懲戒処分ではなく罰則があってしかるべきだと思うが、総務省の考え方を確認したい。
  • 公務員の地位利用による国民投票運動の禁止違反について、刑事罰の対象としないことが適切か、問題提起したい。

浜本 宏君(民主)

  • 国民投票運動と公務員の政治的行為の制限に関し、戦前への反省や戦後の混乱があったために、公務員の政治的行為を制限することとなったのはやむを得ないことではあったかもしれないが、公務員の政治的行為を厳しく規制してきたために、国民の政治的リテラシー低下や政治的無関心を招き、「政治とは怖いものではないか、恐ろしいものではないか」という意識を作ったのではないか。
  • その意味で、公務員の政治的行為に対し、地位利用については許してはならないが、政治的中立を求めるためにあまりにも規制をかけすぎるのはどうか。憲法改正国民投票に係る国民投票運動については、自由を認めていくべきではないか。国民の政治的リテラシー向上の観点から、大事な問題である。