平成24年3月22日(木)(第3回)

◎会議に付した案件

日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(選挙権年齢・成年年齢の18歳への引下げに係る課題(教育問題等))

政府当局から説明を聴取した後、自由討議を行った。

◎政府当局からの説明聴取の概要

文部科学省の説明の概要(小学校から高校までの教育課程における憲法教育について)

  • 平成20年3月に改訂された小学校・中学校の学習指導要領、平成21年3月に改訂された高等学校の学習指導要領においては、小学校社会科の第6学年、中学校社会科の公民的分野(第3学年)、高等学校の「現代社会」・「政治・経済」について、憲法に関する教育について記述がある。実際の指導に当たっては、概念的、抽象的になることがないよう、具体的事例を取り上げて学習するなど、児童生徒が理解できるよう留意することとしている。
  • 法教育や消費者教育についても、社会科や公民科、家庭科、道徳、特別活動の中で学習することとしている。
  • 文部科学省としては、新しい学習指導要領に基づき、国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う教育がしっかりと行われるよう努めていく。

法務省の説明の概要(若年者に対する法教育について)

  • 法務省では、平成13年6月の司法制度改革審議会意見書を受け、法教育の普及・発展に取り組んでいる。成年年齢の引下げに係る議論においてその必要性が指摘されている私法分野教育についても、法教育の一環として取組を行ってきた。
  • 平成16年11月の法教育研究会報告書において、私法分野教育を法教育の一環として位置付けた。平成17年5月に発足した法教育推進協議会では、法教育教材を分かりやすくするためのQ&A集及び授業実践を録画したDVDを作成した。平成19年には法教育推進協議会の下に私法分野教育検討部会を置き、平成21年に検討結果を取りまとめたが、その報告書で私法分野教育の抜本的充実の必要性について明記するとともに、各種の教材例を作成した。
  • 法教育論文コンクールの実施、各地での法教育推進プロジェクトの企画立案などの取組を通じ、私法分野教育においても成果が現れつつある。
  • 私法分野教育に関しては、弁護士・司法書士のみならず、法務局や法テラスといった機関が積極的に関与することが期待される。近時、法務局職員による私法分野教育への取組が飛躍的に増大しており、法務省では、今後も私法分野教育の一層の充実に向けて取り組む。

消費者庁の説明の概要(若年者に対する消費者教育について)

  • 消費者庁としては、消費者行政の取りまとめ役として、啓発活動を含めた消費者教育を推進していくこととしており、若年者に対する消費者教育については、早い段階から消費者としての基礎的な知識を身に付け、主体的に責任を持って意思決定を行う能力を育成していく意義があると考えている。
  • 消費者教育は、学校におけるものと地域におけるものとに大別される。学校においては、文部科学省や教育委員会が学習指導要領に基づく消費者教育を推進するに当たり、副教材の作成や教員向けセミナーへの資料提供等を通じて支援している。
  • 地域における消費者教育については、関係省庁、地方自治体、消費者団体、NPO、教育関係者など多様な主体が連携しつつ推進している。消費者庁においても、消費者教育ポータルサイトの開設、地域での取組への資料提供や講師派遣などの支援を行っている。
  • 消費者庁としては、成年年齢の引下げに向けた環境整備として、若年者に対する消費者教育を積極的に推進していく。

法務省の説明の概要(少年法の適用対象年齢について)

  • 少年法は、全ての少年事件の家庭裁判所送致を義務付ける全件送致主義をとり、罪質、動機・態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状・環境等の諸事情を考慮して、保護処分と刑事処分を選択することを可能としているほか、科刑についても成人と異なる取扱いが定められている。
  • このような特徴・性格を有する少年法の適用対象年齢の引下げの議論は、 18歳・19歳の者について、一律に成人と同様に刑事手続及び刑罰による処遇を行うことが適切かどうか、換言すれば、刑事司法全般において成長過程にある若年層をいかに取り扱うかにかかわる問題であり、少年法固有の観点から検討を行う必要がある。
  • 18歳・19歳の者の社会的自立の状況、犯罪傾向等に関し、適用対象年齢の引下げに積極的な事情がある一方で、少年院出院者の再入院率等に関し、引下げに消極的な事情もあり、これらの事情を考慮すると、現段階において、少年法の適用対象年齢を引き下げる積極的な必要性までは認められず、更に慎重に検討する必要があると考えている。

◎自由討議における各委員の発言の概要(発言順)

保利 耕輔君(自民)

  • 国民投票法は18歳以上の者に投票権を与えることとしているが、18歳という高校卒業程度の者にどの程度憲法について咀嚼する能力があるだろうか。学習指導要領に基づき様々な教育を行っている旨の説明があったが、18歳でどの程度憲法を理解しているかは、自分の経験に照らしても大変難しい問題だと考えている。憲法改正案の賛否の投票という大きな権限を与えられるわけだが、そのための学校での教育は十分であるか。
  • 教育の中立性と憲法改正についての可否の判断とは、どのように相並ぶものか疑問である。教育の中立性から考えてみて、仮に憲法問題について教えている者が、ある条項についてどう思うかを生徒に聞いた場合、まったくの中立という形があり得るか。具体的な問題は色々あると思うので、文部科学省と今後も意見交換をしたい。

照屋 寛徳君(社民)

  • 少年法の適用対象年齢引下げには反対である。この引下げは、公職選挙法の選挙権年齢引下げや国民投票法における投票年齢の在り方等とは、必ずしも同一に論ずるべき問題ではなく、少年法の理念・目的、刑法の刑事責任能力や、保護処分と刑事処罰の異なる取扱いとの関連で慎重に判断されるべきである。私が弁護士として少年事件を担当した経験や少年の健全育成を期す点に照らしても、現段階で同引下げの必要性は認められないし、引き下げるべきとする国民の認識が共有されているとも思えない。
  • 最近10年程度の少年事件の発生状況、事件の罪質や動機、態様の特徴等について、特に終戦直後の少年事件の発生動向等との比較で教えてほしい。
  • 私は2月23日の当審査会において、国民投票の投票権年齢を18歳以上と定めた意義を評価すると表明した。民法の成年年齢と公職選挙法の選挙年齢は必ずしも一致する必要はないという同日の法務省の答弁にも賛成である。民法の成年年齢引下げには多くの検討課題、講ずべき政策課題があり、拙速に結論は得られない。本日報告があった若年者に対する法教育と消費者教育の取組も十分ではない。
  • 親権の対象年齢引下げに伴う、生徒の生活指導、進路指導上予想される困難な問題と解決すべき課題は何か。

近藤 三津枝君(自民)

  • 成年年齢を定めている187の国と地域のうち成年年齢が18歳以下の国は141カ国で、約80%を占めており、成年年齢18歳以下というのは、グローバルスタンダードと言える。諸外国の多くは1960年代から1970年代にかけて、選挙権年齢と同時に、私法上の成年年齢もあわせて引き下げたが、なぜ我が国はこうした国際的な流れに遅れたのか。
  • 憲法審査会での議論で、法務省は、選挙権年齢を先行して引き下げることは有力な選択肢の一つであると述べた。一方で成年年齢については、引下げに向けた国民の意識を醸成した上で、国民の理解が得られた後にすべきとも述べた。しかし、国民の意識が醸成されるのを待って法律が追認するのではなく、むしろあるべき国の姿に向けて民法などの法律を先行して改正すべきで、それによって現実を変えていくという方法も有効であると考える。
  • これまでの法制審議会の議論で、成年年齢の引下げについて、選挙権年齢の引下げと同時に行うべきとの議論はなかったのか。一方で、選挙権年齢の引下げのみを先行させて、その後に成年年齢の引下げに向けて国民の理解の醸成を図るとの議論はあったのか。

逢坂 誠二君(民主)

  • 文部科学省の説明では、憲法教育の実際の指導は概念的、抽象的にならないよう留意しているとのことであった。しかし、私自身の経験に照らしても、憲法の概念や基礎理念を学ぶことは大事であり、それがないと法全般に対する本質的理解が深まらない。確かに基本的人権の尊重や国民主権、平和主義といった個別具体のことを学ぶのは大事だが、それと同時に、憲法とは何か、立憲主義とは何か、憲法と一般法との本質的な違いは何か、民主主義とは何か、主権とは何か、といった理念・概念の教育もあわせて行うことが必要である。
  • 学習指導要領で、概念的、抽象的に指導しないように留意をしているとのことであったが、その本意は何か。そして、それが本当によいことなのか見解を伺いたい。また、憲法とは何か、民主主義とは何か、立憲主義とは何かといった点についての教育は現在されているのか。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法教育については、1947年8月2日に当時の文部省が中学校の社会科の教科書として発行した「あたらしい憲法のはなし」が出発点であり、今から見れば時代の制約や執筆者の考え方の限界もあったであろうが、基本的な内容について、平易な言葉で分かりやすく書かれている。
  • 同教科書は、1950年から副読本に格下げされ、1952年には姿を消した。その背景には、日本を占領していた米国の対日政策が変わり、逆に改憲を求めてくることとなったことがあると思うが、憲法教育については、こうした歴史的経緯も含めて所管の文部科学委員会でよく検討する必要がある。
  • 選挙権年齢を満20歳としているのは、1896年に定められた民法の規定によるものだが、それから116年経ち、その間に日本社会は発展し、それに伴う若者の肉体的・精神的・知的発達とともに、教育水準や進学状況も格段に上がってきたと思うが、文部科学省はそのような認識を持っているか。 18歳への引下げは教育の成果の観点から見ても当然であり、選挙権年齢は見直す必要があると思うが、文部科学省は「18歳」という年齢をどう見ているか。
  • 世界で173カ国、サミット参加国では日本以外の全ての国々が18歳以下の選挙権を付与している中で、先進国の日本がいまだに20歳というのは時代遅れ、という指摘は当然である。教育が足りないので引下げができないような説明があったが、18歳で足りなくて、20歳になれば足りない教育のままであってもよいのかといった議論にもなってくる。 18歳では労働法の適用や納税義務が生ずる場合もあり、自動車免許取得も18歳からという現状で、日本は遅れていることを認識する必要がある。この問題については、改憲手続法と絡めるのではなく、個別に丁寧に速やかに所管委員会において検討し結論を出すべきである。

山尾 志桜里君(民主)

  • 私は、成年年齢と少年法の適用対象年齢はいずれも18歳に引き下げるべきであり、かつ、できる限り選挙権年齢の引下げと同時期に行うべきであって、安易に選挙権年齢の引下げを先行させることには非常に慎重な立場である。
  • 法務省は、少年法の適用対象年齢の引下げに消極的な事情の一つとして、刑法犯の検挙人員が減少傾向であることを挙げていたが、人数が少ないことと、その少ない人数に対してどのような処遇(刑事処分・保護処分)がふさわしいかは必ずしも結び付かないのではないか。現状が減少傾向だから現状のままで良いという理屈を超えた説明を伺いたい。
  • また、少年院出所者の再入院率が刑務所出所者のそれと比べて低いという点も挙げていた。しかし、刑務所に入る者の方が、少年院に入る者よりも罪種や罪状において重たいから再入所率も高いという理屈も成り立つ。この点についてさらに突っ込んだ議論があれば教えてほしい。
  • 少年法の適用対象年齢引下げについてのこれまでの議論の過程を追って検討できる資料があるか。また、少年法の趣旨・目的から特殊に別個に考えなければならない事情も多々あるので、法務省内の閉ざされた議論ではなく、有識者会議を立ち上げ、開かれた議論を早くスタートしてほしい。
  • 旧少年法においては、少年の定義は18歳未満であった。戦後、現行少年法の制定に当たりGHQの指導の下、シカゴの少年犯罪法を基に年齢の引上げを含めた改正が行われたと聞いているが、18歳から20歳に引き上げられた背景、それを支えた立法事実など教えてほしい。

緒方 林太郎君(民主)

  • 成年年齢、選挙権年齢の18歳への引下げと教育問題がどれほどリンクしているかについては若干の疑義がある。憲法教育や法教育を行えば18歳に引き下げてよいというわけではない。また、法教育等の強化・推進は重要だとは思うが、そうした教育を高校時代に強化したとして、強化した部分はこれまで教育がなくても18歳、20歳で身に付いていたものかといえば、そのようにも思えない。
  • 教育現場で法教育がどのように行われているか。中学では高校受験に備えて熱心に勉強するが、高校では、大学受験で現代社会や政治経済の科目が重みを持つことが少ないために、憲法や法体系について一生懸命勉強しようとするインセンティブは著しく小さい。このために、高校生が憲法や法体系、現代社会の成り立ちに関する学習に力が入らない状況になっているのではないか。

阿知波 吉信君(民主)

  • 法務省から、少年法に関して18歳・19歳と成人とでは検挙人員や再入院率等の点で年齢による違いが見られるとの説明があった。その他の憲法、民法、商法、消費者教育といった分野においては、18歳・19歳と成人とで、知識や判断力・理解力等の能力面、意識・行動等の社会的参画の面で、違いがあるか。

今井 雅人君(民主)

  • 若者の政治離れの一番の原因は教育だろうと思う。日本の教育はどちらかと言えば規則を守れということは一生懸命教えるが、その規則を誰がどうやって作るかはしっかりと教えていない。ルールは自分たちで作っているという意識が非常に低い。文部科学省の学習指導要領の説明と現場の実態、肌感覚は全然違う。
  • 自らの生活に政治や法律がどう関わってくるか実感させ、政治に興味をもたせるような教育が必要だが、実際そのような教育をしている教師は非常に少ない。自分達で政治参加して社会を変えていくという意識は低い。
  • 憲法についても同様で、子ども達は憲法を改正できることは知っていても、実際には変わっていないという事実から、憲法は変えてはいけない、変えられないものだという固定概念を持っているのではないか。教育の中で理念を教えることも大事だが、変えてはいけないという固定概念を持たせてはいけないと考える。

石井 登志郎君(民主)

  • 成人というのは大人としての判断能力が備わっているかどうかで考えるべきものである。そして大人としての判断能力を備えられる教育が施されているかどうかが本日の主題である。 19歳・20歳に大人としての判断能力を身につけさせる教育については文部科学省として指針を示しているか。高校までの教育で大人としての判断能力を備えていれば、年齢を20歳から18歳に引き下げることは教育という意味では問題ないということになる。
  • 法務局の職員による私法分野教育への取組は飛躍的に増大したとの説明があったが、平成22年度は対象者7061人、平成23年度は12月末までで3094人という数字は、絶対的な母数として1学年に百万人を超える人がいる中で、はたして飛躍的と言えるのか。
  • 実際に成年年齢が引き下げられるとき、飲酒や喫煙の年齢についてもそれに伴って引き下げられるのか。その際、大人としての判断能力が備わっているかどうかという見地から判断されるのか、あるいは医学的見地から肉体的に可能ということなのか。この点について法制審議会ではどのような議論があったのか。

古屋 圭司君(自民)

  • 高校3年生になると4月から18歳になる者が出てくるが、国民投票の時期によっては、高校生の大部分が非有権者である場合もあれば、全体の約3分の1が有権者となる場合がある。事実上義務教育となっている高校において、学校内に有権者と非有権者が混在し、かつ非有権者が圧倒的多数となることについて、文部科学省はどのような問題意識を持っているか。文部科学省には更に研究を進めてほしい。

岡本 充功君(民主)

  • 18歳・19歳の者の再犯率が低いとの説明があったが、20歳・21歳の者は、それ以上の年代と比較してどういう傾向があるか。
  • 消費者トラブルに遭うのは必ずしも若年層とは限らないが、若年層の消費者トラブルは、他の年齢層と比較してどういう傾向があるか。また、20歳・21歳の者の割合が他の年齢層と比較して高いのであれば、何か対策を講じているのか。
  • 消費者庁の答弁にいう、持ち込まれたトラブル件数のうち、年齢別割合を示しただけの数値では、商品を購入する者の数の大小が年齢によって差があるから、その数値をもって20歳前後の消費者トラブル件数は全体平均からすると高くないとする評価は適切とは言えないのではないか。

浜本 宏君(民主)

  • 文部科学省の学習指導要領と我々の実際の皮膚感覚とに違いを感じる。例えば、歴史の教育において、現代史については時間が足りず学習できないのが現実であると聞く。現場でどのように学習指導要領が実施されているかを検証しているか、検証しているならば、なぜ現代史が学習できない状況になっているか。
  • 憲法審査会で検討すべき問題点として指摘するが、選挙権年齢を18歳に引き下げた場合、被選挙権年齢の引下げはどうするのか。これについて今後検討したいと思う。これまでの憲法調査会等における議論はどうであったか。