平成25年3月21日(木)(第3回)

◎会議に付した案件

日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法の各条章のうち、第三章及び第四章の論点)

衆議院法制局当局から説明を聴取した後、自由討議を行った。

【第三章について】◎自由討議

●各会派の代表者からの意見表明の概要

平沢 勝栄君(自民)

  • 現行憲法制定以来の時代の変化に対応して、国民の権利を一層充実させる必要があることから、我が党の憲法改正草案では新しい人権に関する規定を設けることとした。既存の人権規定についても我が国の歴史・伝統・文化を踏まえたものにすべきである。
  • 「公共の福祉」は意味が曖昧である。これを「公益及び公の秩序」と改めることにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明確にした。
  • 新しい人権に関し、@プライバシー権の保障に資するため、個人情報の不当取得等を禁止し、A国民の知る権利の保障に資するため、国政上の情報につき、国民に説明する責務を国に課し、B環境保全の重要性に鑑み、国に、国民と協力して良好な環境の保全に努める責務を課した。また、現行憲法では、犯罪被害者とその家族の人権について全く触れておらず、これが犯罪被害者の人権を守る取組の遅れに繋がっているため、犯罪被害者等への配慮の規定を設けている。
  • 現行憲法は個人主義に偏しており、社会における重要な存在である家族に関する規定がないことに鑑み、家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される旨の規定を新設した。国民が充実した教育を受けられることを権利と捉え、教育環境の整備を国の義務とした。
  • 国等による宗教的活動について、現行憲法でも一般教養としての宗教教育を禁止するものでないとの解釈が通説であり、これを明確にするため「特定の宗教のための教育」をしてはならないと改めた。さらに、最高裁判例を踏まえ、「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないもの」を禁止対象から除外した。これにより、公費からの玉串料の支出問題などが解決される。
  • その他、在外国民の保護、知的財産権についても規定を設けた。
  • 外国人に地方選挙権を認めることは現行憲法でも可能との解釈もあるが、選挙権は国・地方を問わず、日本国籍を有する者に限って有することを明記した。

山口 壯君(民主)

  • 我が党は、誰にもチャンスがあり、誰も取り残されない「共に生きる社会」を目指している。こうした観点から、勤労の権利を再定義するとともに、その保障に関して国・企業等の責務を明確にするなどの必要がある。
  • 「公共の福祉」という曖昧な概念により、人権が恣意的に制約されないようにしなければならない。特に精神的自由については、権力による恣意的な制約を一切排除する必要がある。これは憲法に明文化する価値がある。
  • 憲法制定時に比べ、価値観も大きく変化していることから、環境権、知る権利等の新しい権利を憲法に明記すべきと考える。特に、福島の原発事故を踏まえると、環境国家への道を世界に示すことはこれからの日本の役割として極めて重要である。
  • 子どもを独立した人格と認め、子どもの権利を明記してもよいと考える。国、自治体、保護者等の教育に関する責務も併せて明確にすべきである。また、あらゆる差別をなくす規定を憲法に盛り込む議論があって然るべきである。
  • これらの実現には憲法改正が絶対に必要とは言えず、法律レベルで対処可能ではある。ただ、憲法を法律と同レベルで捉えることは、基本的人権の保障レベルを引き下げることにもつながりかねず、注意を要する。新しい時代には新しい権利義務があってよく、その議論がなされて然るべきである。

伊東 信久君(維新)

  • 国民の基本的人権は最大限尊重されるべきだが、権利の行使に際しては、権利に伴う義務、自由に伴う責任を自覚し、他者の権利・自由を尊重し、個人の権利と国家・社会の利益との調整を図らなければならない。
  • 現行憲法の自由・権利は引き続き保障する方向で議論する。ただし、個人の権利行使は、他者の権利との関係のみならず、国家・社会の利益との関係においても調整を必要とするので、人権制約原理を、より具体的で明確な概念で規定するよう検討する。
  • 新しい権利・義務を設ける方向で議論する。良好な自然環境の享受は国民の権利であり、同時にその保全は国家及び国民の義務であることを明記する。また、プライバシー権、知る権利、国益に反しない限りで公的な情報の開示と説明を行う国の責任を明記することを検討する。
  • 表現の自由は、個人の名誉やプライバシーの保護、青少年の保護育成のために、一定の規制を受ける場合があることを検討する。
  • 儀礼・習俗の範囲内であれば国・地方公共団体が宗教的なものにかかわることができるよう検討する。
  • グローバル社会の到来を踏まえ、基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象とすると解されるものを除き、日本に在留する外国人にも等しく及ぶ旨を明記する方向で検討する。
  • 自立する個人を支える基盤の一つである家族の価値と、それを保護すべき国の責任を新設することを検討する。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 新しい人権については、これからの日本の骨格をなすものとしてより積極的に憲法に明示すべきという「加憲」の立場である。
  • 新しい権利を規定する場合には、その権利が個人の人格的生存に不可欠であるほか、社会がその権利を認め、他の人権を侵害する恐れがないか慎重に検討される必要があり、権利のインフレを招くべきでないとの強い主張や、立法により対処すべきとの主張もある。しかし、未来志向の憲法論議に立てば、憲法に明記することにより、時代の変化に対応した積極的立法措置を可能とすることが望ましい。
  • 環境権は、良好な環境を享受し、国家及び国民が保護に努める趣旨の権利・責務である。自然との共生も含んだエコロジカルな視点に立った環境権を定めるべきである。
  • IT社会が進展する中、私事に属する個人情報を保護するのは当然として、より積極的に、自己情報をコントロールする権利として確保することには、検討の意義がある。
  • 知る権利は 21条から導かれるとの考え方もあるが、自由権から発生した表現の自由と、政府の情報開示を求める「知る権利」とは異なるものだとの考えもあり、今後の検討課題である。
  • 権利と義務で構成される憲法に、新たに責任の概念を入れて国の責任を考えるという新しい指摘もあり、注目される。
  • 生殖医学・遺伝子技術の発達に伴う生命倫理の問題については、現行憲法に規定がないが、人間の存在の本質に関わる問題を内包しており、今後の重要な課題である。
  • 26条の教育を受ける権利と受けさせる義務については、現在までの教育環境の大きな変化に鑑み、生涯教育の大切さやより積極的な人間主義的教育観を主張する声も党内にはある。
  • 32条の裁判を受ける権利について、資力に欠ける国民が民事法律扶助を受ける権利を追加することにより、この条項を強化する必要がある。
  • 犯罪被害者の精神面を含めた権利保障、刑事手続への関与等について、憲法上どう考えるかは課題の一つである。

畠中 光成君(みんな)

  • 法治国家において憲法は、国家権力が侵すことのできない国民の権利を定めるもので、規定の対象は国家権力である。近代立憲主義の考え方から、国民の義務は最小限にとどめるべきである。ただし、国家権力が国民に積極的に保障する権利については、これを否定する立場ではない。現行憲法の人権規定は諸外国のそれと比べて遜色なく、憲法が改正されたとしても引き継がれるべきである。
  • 我が党は昨年 4月に憲法改正の基本的考え方を発表したが、人権については特段改正すべき点を挙げていない。時代の流れとともに新しい人権が求められる可能性があるが、立法措置で対応可能か、憲法に明記すべきかについては、今後党内で議論する。
  • 我が党が導入を目指す地域主権型道州制の観点からは、自治体の役割が増大するため、外国人に地方参政権を付与することには反対だが、憲法に明記すべきかどうかについては議論の必要がある。
  • 一票の格差については、多くの違憲判決が出ている。これを早急・的確に是正するため、我が党は全国集計の比例代表制導入を主張している。この制度は一人一票が実現する、区割りの必要がないなど、利点が多い。また、選挙制度は、国民側から見てわかりやすいことが必要である。憲法審査会においても、選挙制度について憲法の観点から議論すべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法は、 11条で人権を侵すことのできない永久の権利と宣言し、13条で最大限の尊重をうたった上で、精神的自由や経済的自由について定めている。 25条では生活面における国の責務について定めている。前文にある平和的生存権も人権の重要な内容であり、 97条で永久不可侵性を規定したことは、憲法が人権を重要視していることの表れである。
  • しかし現実には、東日本大震災及び福島原発事故により、今でも多くの人が避難生活をしており、 13条や25条がありながら現実には復興が進んでいない。
  • 27条・28条は労働者の権利を定めているが、現実にはリストラや不当解雇、非正規雇用者の雇止めが行われており、政府の産業競争力会議では解雇の原則自由化を提言している。これらは憲法の要請と逆行する。
  • 25条に基づき、国が最低限度の生活を保障する生活保護制度があるが、最低限度とは、人として生存していける限度のものを指す。しかし現実には、生活保護費の削減が、貧富の差の拡大につながっている。生活保護の改悪、消費税増税は中止すべきである。

鈴木 克昌君(生活)

  • 憲法論議に当たっては、憲法の中身の議論をまず行う必要があり、それを抜きに 96条の憲法改正手続を改正しようというのは、順序が逆である。
  • 国防の義務、投票の義務等を憲法に明記すべきという意見があるが、近代立憲主義の観点に立つと、国民の義務を増やそうというのは、議論の方向が違う。
  • 一方で憲法上の権利・自由といっても無制限のものではない。自由には責任が伴うという観点は憲法上は明らかではないため、「自由には責任が伴う」というような規定を設けるべきである。
  • 新しい人権については、社会情勢等の変化に伴い、憲法制定時には想定されなかった人権が出てきており、環境権、知る権利、プライバシー権などはできる限り憲法に明記すべきである。
  • 政教分離原則については、地鎮祭などに公費から玉串料を支出することができるか裁判でも問題になっているが、こうした一般的・習俗的なものには公費の支出が認められることが明確になるように検討すべきである。
  • 社会の基礎としての家族・家庭の重要性を再認識するためにも、家族・家庭・共同体の尊重について憲法に規定を設けることも検討すべきである。

●委員からの発言の概要(発言順)

西川 京子君(自民)

  • 20条3項「宗教教育」の前に「個別の」という文言を入れるべきである。宗教教育は人間教育の根本であり、人知を超えた宗教への恐れといった概念を育てていくべきである。国等による個別の宗教教育は禁止してよいが、一般的な宗教教育は必要である。また、一般的な習俗的な行事の参加、公費の支出も認めるべきである。
  • 家族については世界人権宣言にも規定されており、個人の権利保障規定の多い現行憲法とは対極かもしれないが、縦のつながりを自覚し、次の世代を育てていく意識の観点からも家族の規定を置くことは大切である。

船田 元君(自民)

  • 公共の福祉の文言は曖昧であり、概念を整理して議論する必要がある。これは二つの柱から成り立っている。一つは人権相互の調整原理であり、もう一つは社会的価値の実現である。それを明らかにするため、公共の福祉は「公益及び公の秩序」と改められるべきである。
  • 現行憲法に義務は三つしか規定されておらず、これが戦後の権利優先社会を形成する一つの要因となったのではないか。新しい義務を考えるのは重要で、権利の裏に義務が、自由の裏に責任があることを憲法に明記する必要がある。

古川 元久君(民主)

  • 公共の福祉を再定義する場合、将来世代の人権・利益をどう確保するかを考慮する必要がある。民主主義社会ではとかく現在の世代、特に選挙権を有している世代の利益が反映されがちだ。これは国民の義務を考える際にも重要な視点である。
  • 新しい人権については、人類が獲得してきた人権のカタログを増やすことは重要だが、その概念・内容が未だ定着していないことも事実である。まずは、新しい人権に関する立法を重ね、社会に定着したものについて憲法に明文化するのが望ましい。

土屋 品子君(自民)

  • 環境権が、良好な環境の中で生活を営む権利を指していることはよく知られており、憲法の幸福追求権を根拠に主張され、学説上もその地位は確立されていると言える。しかし、地球温暖化や国際社会における我が国の地位を考えたとき、今我が国は、高度経済成長期に急速に環境が破壊された経験をもとにして、地球環境問題に取り組むことができるかどうかの岐路に立っている。
  • 1960年代に公害対策基本法が成立し、1993年に環境基本法が成立した。さらに引き続き、環境権の規定が盛り込まれた憲法の必要性を感じている。これを国民的議論にしていくべきである。

高鳥 修一君(自民)

  • 公共の福祉に関しては、人権相互の矛盾・衝突を調整する原理とは別に、公益、国家的利益の観点がある。よって、公共の福祉は「公益及び公の秩序」と改めるべきである。
  • 科学技術の進歩により出生前の染色体異常の診断が可能となったが、障害があることだけを理由に生まれてくる権利を奪うことは、障害による差別であり、不均等待遇の最たるものだと考える。生命の尊重、生命倫理を憲法に規定すべきである。

三木 圭恵君(維新)

  • 現在党内では、犯罪被害者の権利について憲法に規定すべきとの議論を行っている。
  • 国家の保障する基本的人権を考える際には、国の存在が大前提である。政府と国民が国を守る義務を有しなければ、国の存在そのものが危うくなることもあり得ることから、国を守る義務を憲法上規定すべきとの議論も党内にはある。

武正 公一君(民主)

  • 2005年の民主党憲法提言では、人間の尊厳を尊重する観点から、生命倫理、あらゆる暴力からの保護、犯罪被害者の人権擁護、子どもの権利保障、外国人の人権保障、信教の自由の確保・政教分離原則の厳格維持等を提言している。
  • 同提言では、共同の責務を果たす社会へ向かう観点から、人権・環境の維持のための共同の責務の明確化、公共のための財産権制約の明確化を提言した。また、新しい人権の確立の観点から、プライバシー権の確立、情報社会におけるリテラシーの確保、知的財産権の憲法上の明確化等を提言した。
  • 我が国は、国際人権規約 A規約の高等教育無償化条項の留保を撤回したが、ILO条約批准も道半ばであり、こうした取組も重要である。
  • 民主党は、 2009年9月の初閣議で国民主権を内閣の基本方針と定め、知る権利・アクセス権を重視して内閣を運営してきた。日米密約の解明に努め、外交文書の 30年公表ルールを定めたのも、こうした観点からの取組みだった。

保岡 興治君(自民)

  • 21世紀における憲法は、国家の制限規範にとどまらず国民の利益や国益を守り、増進させるために公私の役割の分担を定め、また、国民と国家が協働しながら共生していくための透明性のあるルールの束としての側面があると捉えるべきである。
  • 人間の自立や尊厳を支える器という意味で、家庭や共同体が、公共の基本をなすものとして憲法に位置付けられるべきである。
  • 個人の尊厳や基本的人権の価値を尊重しすぎるあまり、究極の個人主義、利己主義が広がっている。長い歴史の中で憲法の価値観は国民に確実に定着することを考えれば、今後の日本の姿を見据え、こういった側面をしっかりと議論すべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法は、国民の自由と権利を保障するために公権力を制限するもので、国民に責務を課すものではない。公共の福祉は、人権と人権との調整原理であり、国による人権制限のためのものではない。公共の福祉を「公益及び公の秩序」と言い換えて、人権の上位にある概念を設定し、人権を不当に制限することではなく、厳格に運用して基本的人権を最優先に尊重することが大切だ。
  • 憲法は 13条で包括的規定として幸福追求権を定めた上で個々の人権を定めるという、懐の深い構造となっている。環境権については、立法などで具体化することが可能であり、現在、裁判規範となったり行政の原則として定着していたりすることから、憲法に追加する必要性は乏しい。
  • 現行憲法が前近代的な家制度を否定し、個人の尊厳と婚姻における両性の平等を明記することで家族関係を再建することにあることから、家族について憲法に位置付けることは、家制度など古い価値観の復活につながりかねない。

鈴木 克昌君(生活)

  • 今、非正規雇用者は厳しい状況にあり、正規労働者に比べて解雇や雇止め、低賃金等の問題がある。 27条で勤労の権利が規定されているが、非正規労働者にこれが保障されているか、27条や 14条1項の法の下の平等の観点から議論が行われるべきである。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 23条の学問の自由との関係において、憲法に生命倫理の条項を加える必要がある。受精卵を使った研究に対する医学界の自主的規制を求める法律を作った当時、再生医療は受精卵を使ってしか行うことができなかったが、受精卵は生命の萌芽であり、学問の自由があるからといって、これを濫用することは生命倫理上許されないのではないかという思いがあった。しかし、 23条に規定する学問の自由と匹敵するだけの命題は法的にはどこにもない。したがって憲法上に、生命倫理条項を規定することによって、法律に医学界の自主的規制に関する事項を設けやすくなるのではないか。

中谷 元君(自民)

  • 社会的活動について表現の自由は保障すべきだが、一方でオウム真理教に関する問題や、差別に関する報道、ネット社会における個人に対する中傷が放置されている現状がある。社会的活動の自由を全て認めるのではなく、公益や公の秩序を害することを目的とした活動や、それを目的とする結社の自由に一定の制限を課すことを検討すべきである。

西野 弘一君(維新)

  • 国民の生命・財産を守り、犯罪を防止することは、国の責務であり、犯罪被害者とその家族、関係者の権利を尊重し擁護することも、国の責務である。被疑者・被告人の権利が規定されていることとのバランスを考えると、憲法に犯罪被害者の権利についても規定すべきである。

武正 公一君(民主)

  • 家族についての規定を書き込むべきではないかという意見があったが、民主党には、近代立憲主義の観点から書き込むべきでないという意見の一方、家族について憲法でしっかり位置付けるべきという意見もある。嫡出子と非嫡出子の法定相続分の差別を見直すべきとの議論、選択的夫婦別姓の議論もある中で、憲法に規定するか法律に譲るのかはあるが、家族の位置付けは大事である。

高鳥 修一君(自民)

  • 役所に門松を立てたり、クリスマスツリーを飾ったとしても特定の宗教の布教・宣伝を助長しているわけでなく、地鎮祭を行うのも、社会的儀礼・習俗によるもので、神道を助長しているわけではない。こうした社会的、習俗的、文化的行事については、国や地方公共団体の公費負担が認められるように憲法を改正すべきである。
  • 個人の幸福は家庭相和によるところが大きい。個人を絶対視する戦後の風潮の中で、家族の価値が軽視されているが、先祖を敬い、夫婦、親子兄弟で助け合い、子孫に継承するのは我々の美風である。家族・家庭の尊重を憲法に設けるべきである。

大島 敦君(民主)

  • 非正規労働者の問題について 27条、14条の観点から考えるべきという鈴木委員の指摘は重要で、示唆に富んでいる。我が国の在り方を考えるときにその観点は重要である。

【第四章について】
◎自由討議

●各会派の代表者からの意見表明の概要

葉梨 康弘君(自民)

  • 自民党憲法改正草案では、二院制や衆院の優越等については基本的に現行憲法を踏襲しており、選挙区については人口以外に行政区画や地勢などを勘案することや、首相に解散権があることなど、確認的な規定を置いている。新しく明文化すべきものとして、定足数は議決要件のみとすることや、国務大臣の国会出席義務の緩和、政党に関する規定がある。
  • 平成 19年に衆参のねじれが起こり、その後、衆議院の優越や一院制について議論されているが、憲法、法律、政治のいずれの問題か、分析する必要がある。
  • 例えば、会期についての衆院の優越は国会法にある。また、同意人事については、戦後当初はほとんど衆院の決定が優越されてきた。行政の在り方が変わってきていることに鑑みれば、例えば内閣と密接不可分な国家公安委員等の人事は衆院のみが同意し、外部的に内閣を監査する会計検査院検査官のような人事は参院のみが同意するということも検討するべきである。
  • このような議論の受け皿として、衆参憲法審査会の合同審査会の活用を検討してもよいのではないか。

篠原 孝君(民主)

  • 民主党は 2005年の憲法提言で、「国民主権が活きる新たな統治機構の創出のために」という章を立て、議会の機能強化、行政監視機能についてかなりのスペースを割いている。内閣の機能強化については政権与党として実現できなかったことも多かったが、国会の機能強化については憲法提言を念頭にそれなりに改善できたと考えている。
  • 二院制を維持すべきであることに変更はない。また、衆参の役割分担をどう考えるかが重要であり、国会による行政監視機能は、運用の改善で強化していくべきである。事業仕分けも行政監視機能の一つであるが、内閣ではなく、国会の機能として行うべきであるとの議論が当時からあり、今後考えていかなければならない。
  • 政党については、憲法上、明確に位置付けるべきである。

西野 弘一君(維新)

  • 我が党は、日本を覆う閉塞状況を打破し、政治に強いリーダーシップを生み出すため首相公選制の導入を訴えており、将来の憲法改正に際しては一院制へ国会を改革する方向で検討している。
  • 首相公選制を導入する場合、@国民が首相指名選挙を直接行う案と、A総選挙と首相指名を連動させる案の 2案が考えられる。@の場合、首相が属する政党が国会では少数派という状態が生ずるおそれがある。また、二院制のままでは衆参のねじれが生ずるおそれもあり、一層の政治停滞を招きかねない。 Aは、首相の地位の民主的正統性を高めること等に狙いがある。しかし、首相・内閣の運命は潜在的に参議院議員選挙の結果にも大きく左右されることとなるため、国会を一院制へと再編成する方向で検討している。
  • 我が党は、政党のガバナンスの透明化、意思決定プロセスと責任の所在の明確化を目的として、政党法の制定を主張している。その担保として、@党員資格に国籍要件を課すこと、A内部秩序は民主的なものでなければならないことを憲法に盛り込む方向で議論を深めたい。
  • 審議内容でなく審議日程が最大の駆け引き対象となっていることを踏まえ、 52条などを見直し、総選挙の時期を基準とする「立法期」制度の導入、会期不継続の原則の廃止、通年国会の導入を実現すべきである。また、外交・安全保障、危機管理等の面で、首相や各大臣が海外に行けるよう、国会への出席義務を定めた 63条の改正も検討している。国会による政府監視機能の強化についても検討している。
  • 上乗せ条例や横出し条例について、最高裁は曖昧な基準しか示しておらず、地方自治体の自主立法権が結果的に制約されている。基本法の範囲内で条例を制定できるよう、 41条や95条を改正する方向で検討を進めている。

浜地 雅一君(公明)

  • 二院制については、我が党は維持すべきとの立場である。抑制と均衡を果たす、先議院の議論を補完し再考を促すという二院制の趣旨は依然として重要である。問題は、現実の運用として二院制の趣旨が全うされていないことにあり、参議院が政争の場と化している現実を踏まえると、衆参の役割分担の明確化がより重要である。我が党では、衆議院は予算審議に、参議院は決算審議に重点を置くこと、任期の長い参議院が基本的な法案を先議することなどの改革案が議論されている。
  • ねじれ国会による議論の停滞を、再議決要件の緩和により解決すべきとの議論が見られる。ねじれ現象も一つの民意の表れであり、安易な要件緩和には賛成しがたいというのが我が党の多数意見だ。時の政権が参議院と対話し、円滑な運営に責任を持つべきである。
  • 選挙制度については、各裁判所で違憲判決が相次いでいる。私は、選挙制度改革においては、投票価値の平等、人口比例を基本としつつも、各県・地域の民意を吸い取るため、ある程度の選挙区の面積、地域性等を考慮すべきと考える。
  • いわゆる一人別枠方式を違憲とする司法の判断は重いが、この方式が撤廃され、純粋に人口割で選挙区画が定められると、極端に定数が削減される地域が出てくる。それを補完する意味でも、より広く地域の民意を吸い取ることのできる比例代表制が重要性を増してくると考えている。

小池 政就君(みんな)

  • 我が党は、 4章に関し、以下の3点の見直しが必要と考える。 1点目は、地域主権型道州制を進める方針との関係で、国会の立法事項を限定することである。地方分権を進め、地域の自主権を確立するには、積極的に役割の移行・分担を進めるとともに、国の側からの恣意的立法を防ぐためにも、国の立法事項そのものを制限する必要がある。
  • 2点目に、衆参統合による一院制を確立すべきと考える。地域主権型道州制の実現により、国の役割は、国内共通の施策や防衛・外交など国外への取組に限定される。また、国の意思決定の迅速化が求められる中で、現行の両院は役割分担が明確でない上に、審議内容・手順も重複しており、国政審議の停滞を招いている。こうした点から衆参両院の統合が求められる。
  • 3点目に、政党の規定を新設すべきである。政党に関する資金の透明化や運営適正化に関する法律を制定し、国民の政党への信頼回復に取り組む必要がある。

笠井 亮君(共産)

  • 4章に照らし、現実の国会がどうなっているか検証する必要がある。
  • 選挙制度に関しては、昨年の衆院選の結果を見ても、現行の小選挙区制は民意を歪める極めて非民主的制度であることが明らかになった。多様な民意を議席に正確に反映できる比例代表制などへの抜本改革こそ必要である。
  • 国会の果たす重要な任務の一つである立法機能については、閣法、議員立法を問わず、徹底審議を尽くし、質疑内容の公開と国民からのフィードバックも踏まえて合意を形成すべきである。昨年の社会保障と税の一体改革法案の審議については、三党による密室合意を国会に押し付けたもので、国会の立法機能を否定するものだったとの批判がある。
  • 国会の行政監視機能と両院の国政調査権は、原発問題でも発揮されなければならない。今国会で原子力問題に関する特別委員会が設置されたが、東電による原発事故調への虚偽報告の問題等については、国政調査権を発動して真相を解明すべきであり、特別委の果たす役割は大きい。

鈴木 克昌君(生活)

  • 我が党は、二院制を維持すべきとの立場である。しかし、性質や権限が同じような議院が二つあるのでは、本来の機能が発揮できない。そのため、衆参の役割分担について、立法措置や改善を図るとともに、形骸化している両院協議会の委員の選出方法や意思決定の方法を改めるなど、その在り方を見直すべきである。他方、法律案の再議決要件については緩和する必要はない。
  • 選挙制度については、両院が同じ性格にならないように、抜本改革を行う必要がある。
  • 議事手続については、定足数は議決の際のみの要件とすべきである。また、国務大臣が国会に拘束される結果、重要な外交日程をキャンセルするような事態は国益を損なうことから、国務大臣の国会への出席義務を緩和すべきである。
  • 政党については、政党が国の統治において重要な役割を果たすことに鑑み、政党内の機関の役割や権限、選出方法などについて、政党法を制定してルールを明確化すべきである。

●委員からの発言の概要(発言順)

中谷 元君(自民)

  • 47条に基づいて決定した選挙制度について、司法が違憲や無効と判断するのが三権分立の関係から許されるのか、疑問である。同条は、国家の意思を決定する際、地域性の考慮など政治的裁量も許されると理解できるし、都道府県を単位として国民の意見を集約することもあってよいのではないか。民意を吸い上げる立法の判断に反する司法に対しては、立法府の中に憲法裁判所などを設けて議論すべきである。

衛藤 征士郎君(自民)

  • 私どもは超党派で、衆議院議長に憲法改正原案を提出したが、機関決定がないためにたなざらしとされた。国会法に則って提出した憲法改正原案が全く動かないことは異常で、国会の不作為だ。例えば、衆院議員の 3分の1以上の署名により提出された憲法改正原案については、速やかに憲法審査会に付託し趣旨説明を行わなければならない等の規定を設けるべきではないか。
  • G8加盟国は二院制を採用しているといわれるが、かつて一院制を採用した経験を持つ国もある。日本の二院制は、両院にほぼ平等な権限が与えられており、結果としてねじれ国会となっており何も決まらないのが現状だ。これを踏まえ速やかに一院制にするべきだ。
  • 国会議員の選挙制度については、 1946年の戦後第1回目の選挙のような都道府県単位の制限連記制のような制度も検討していくべきだ。

高鳥 修一君(自民)

  • 国会議員の選挙制度については、行政区画等とともに面積も考慮すべきだ。人口割だけで定数是正を繰り返すと、都市部との格差がますます広がる。水、エネルギー、人材等も地方が供給し、都市部の便利な生活が成り立っている。国土の均衡ある発展を目指す観点から、人口以外の要素を憲法上認めるべきだ。
  • 総理大臣の国会への出席義務を緩和すべきである。日本の総理大臣は過度に国会に縛られており、行政の長として職務の停滞を招くのではないか。

西川 京子君(自民)

  • 国会議員の選挙制度について、憲法に人口以外の面積等の要素を規定すべきだ。さらに、人口比が増えている大都市部において非常に低い投票率で当選している現状に鑑み、地方の議員定数について、環境や自然を守る意味でも一定の配慮をすべきである。

武正 公一君(民主)

  • 国会の議論が活発に行われるように国会のチェック機能を高めていくべきであるとして、憲法提言では少数会派による国政調査権の発動を可能とし、行政監視機能を強化すると述べている。
  • 国会の権能としては、衆院の予備的調査も効果を上げており、質問主意書を含め強めていく必要がある。
  • 閣僚の国会出席については、閣僚が国会にあまり縛られないようすべきとの認識はある。一方、閣僚の出席義務と国会の議論をどう深めるかの兼ね合いをも考える必要がある。

保岡 興治君(自民)

  • 東日本大震災のような緊急事態下では、憲法保障の観点から国民の権利を一時、制限しなければならない場合でも、憲法の人権保障は守られなければならないという観点から、緊急事態規定の整備が必要である。
  • 緊急事態の際、国会が開会することが困難な場合に、国会の権能を両院合同緊急委員会に委任すること等を検討すべきである。また、東日本大震災の際、地方議会議員等の任期は法律で延長できたが、国会議員の場合は憲法問題であることから、緊急事態における国会のあり方はできるだけ早く答えを出すべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 緊急事態の場合は、参議院の緊急集会があり、改憲の理由とすることは当たらない。
  • 一院制についての議論があるが、政治不安定の根本的な原因は、政治が民意を反映していないことにある。民意を反映させることができるよう、選挙制度改革を行うとともに、政治の中身を国民本位に変えていくことが必要である。
  • 政党は 21条の結社の自由により、その活動は全面的に保障されなければならない。政党の規律は政党内で定められるべきであって、憲法や法律に規定するものでない。結社の自由・表現の自由は、民主主義の政治プロセスを支える最も重要な権利であり、目的に基づく結社を規制することは、目的自体を規制することになり、思想信条の自由の介入につながり、危険である。

船田 元君(自民)

  • 二院制のメリットはダブルチェックにあり、これにより議決の正当性や慎重な態度を示すことになる。これは、異なる基準、属性の異なる人々によらなければ効果を生じない。かつて参議院には緑風会があり、政党化された衆議院とは構成が大きく異なっていた。しかし、選挙制度も似通うものとなり、両院の差異は小さくなった。よって、ダブルチェックを生かすためには、衆議院は予算審議を中心に、参議院は決算審議を中心に据えるなどして役割分担をするほか、衆議院の優越性を強めるなど両院の差異を際立たせることが重要となる。これがかなわないのであれば、最終的には一院制を目指すべきと考える。

篠原 孝君(民主)

  • 一票の格差について、一方で平等の視点があってもよいが、国会議員はその視点だけで選ばれてよいか。それでは、都市住民のなすがままに日本の在り方が決められてしまう。地方に住む者がいるからこそ、農業等が営まれ、景色が維持されている。ふるさと納税制度のように、居住していない地方の選挙区で投票する制度が考案されてもよいのではないか。今は住民票万能主義で、これでは都市と地方の格差は増すばかりだ。

泉原 保二君(自民)

  • 他国によって過疎地域の土地買い占めが始まっている。過疎地対策の観点からも、選挙区を、単純な人口比例ではなく、その面積を勘案して画定することに賛成である。
  • 議員の任期が残り 1年となると解散風が吹き出すが、解散のできない方法はないものだろうか。また、参議院議員の任期は 6年と長いため、任期を4年とし、2年ごとの改選とすべきだ。

大島 敦君(民主)

  • これまでは都市部で稼いで、地方に財政的な措置を行うことで、我が国の均衡ある発展が図られてきた。しかし現在では、高度の経済成長が望めない中、都市圏の中心部とその周辺部分とでは選挙区の意向が大きく異なってきている。個人的には、一票の格差は近付ける方向の中で、こうした地域の事情をも勘案しながら、議員定数について決めていくのが良いのではないかと思う。

山口 壯君(民主)

  • 国会議員の選出方法について、人材の輩出という観点からは、現行の小選挙区よりもさらに小さな小選挙区制も一つの選択肢かと思うが、実際に選挙制度をどのように定めるかは、憲法の定めとは全く関係がない問題である。
  • 決められない政治という点に関しても、リーダーの資質による部分が大きく、憲法とは違う次元の問題なのではないか。

山下 貴司君(自民)

  • 二院制に関する議論の根底には、決められない国会への批判がある。こうした現行制度の問題点に関し、憲法審査会で議論することは重要である。例えば、予算関連法案や国会同意人事に関しては、衆議院の優越の方向性を打ち出すべきだと考える。
  • 我が国の閣僚の国会への出席日数は、欧米諸国に比べて非常に多い。閣僚を外交や内政に集中させる等の取組が必要である。
  • 現行の国会質問の事前通告制度は、運用に限界がきており、国会で実のある議論を行うためにも、より早期に質問通告を行う制度を確立するべきである。

畠中 光成君(みんな)

  • 国会議員の選出方法について、地方の実情を理由に、人口以外の要素を憲法上明確に認めるべきという意見があったが、「地方のことは地方で決める」という我が党の考え方からすると違和感がある。
  • 43条より国会議員は「全国民の代表」という性格を帯びるわけで、一人一票という法の下の平等を軽んじるのは民主主義の根幹にかかわるのではないかと思う。

大塚 拓君(自民)

  • 緊急事態には 54条で対応できるという意見があるが、緊急事態に国を挙げて選挙が実施できるのか。実施できない場合が想定されていないのが現行憲法であるということを指摘したい。
  • 首相公選制を導入すべきという意見があるが、行政のトップを公選するのは、共和制の二元代表のもとで、その片方を選ぶのが一般的である。天皇を元首と位置付けるならば、首相公選制とは不整合ではないかと思える。

衛藤 征士郎君(自民)

  • 戦後、参議院は政党化されており、二院制では、現在 15ある政党が2度審査することとなる。また、党議拘束がある中で、院の独自性はどこで担保されるのか。一院制にして審議時間をしっかり確保する方がよいし、決算行政監視委員会の権限・位置付けを強化して、そこが監視すればよい。
  • スウェーデン・デンマークは、戦後二院制から一院制に変えたことを指摘したい。

西野 弘一君(維新)

  • 首相公選制は行政の長をどう選ぶかということなので、大塚委員の指摘は当たらない。
  • 国会議員は飽くまで国民全体から選ばれたものであり、国民全体を見る自覚を持って仕事をすれば、都市と地方の格差が広がることはありえない。人口比例に基づく平等原則を憲法に明記すべきである。

笠井 亮君(共産)

  • 緊急事態については、憲法になぜ規定が置かれていないかを含めて議論すべきである。