平成25年6月13日(木)(第12回)

◎会議に付した案件

1.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法の改正手続に関する法律における「 3つの宿題」のうち国民投票の対象拡大)

衆議院法制局当局から説明を聴取した後、自由討議を行った。

2.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件

自由討議を行った。


【日本国憲法の改正手続に関する法律における「3つの宿題」のうち国民投票の対象拡大について】
◎自由討議

●委員からの発言の概要(発言順)

篠原 孝君(民主)

  • ヨーロッパ諸国では、国民投票が盛んに行われているが、原発、 EU憲法条約、EU加盟、通貨など、憲法改正のみならず国家の体制や統治の在り方に関する大問題について、国民投票が行われるのが普通だ。国民投票の対象拡大については、これらの国々において国民投票の対象を憲法でどのように限定しているか、どのように実施しているかなどを参考にして検討すべきだ。

船田 元君(自民)

  • ヨーロッパの多くの国々では国政の重要案件に関して国民投票が行われているが、国民投票の実施が義務的なものもあれば、任意的なものもあり、投票結果が拘束力を有するものもあれば、そうでないものもある。
  • 我が国の場合、国政上の重要案件についての国民投票の導入は、たとえ任意的で拘束力のないものであっても、代議制民主主義の根幹からすれば問題が残る。他方で、憲法に関係した物事について諮問的に実施する「予備的国民投票」であれば、ある程度考える余地があるとして憲法改正国民投票法制定当時に提案した。我が国は一度も国民投票を行ったことがなく、そのような状態で重要課題である憲法改正国民投票をいきなり実施するのは、リスクが大きく、国民の戸惑いも大きい。「予備的国民投票」の実施は、その解消に効果があるものと考える。
  • 民主党の考える一般的国民投票と諮問的国民投票の溝が附則 12条となったが、現状でも距離は縮まっていないように思える。今後も議論を続けていかざるを得ないと認識している。

畠中 光成君(みんな)

  • 国民投票の対象拡大に関しては、我が党では検討段階にあり、憲法改正の予備的国民投票、原発等重要政策の諮問的国民投票について真摯に議論を行っている。
  • 国民投票への批判には、過去の安保闘争や保革対立の中で市民運動を想起した直接民主制への批判があると思う。しかし、今日では原発等のデモに、普通の母親がベビーカーを押して参加しており、かつての保革の軸を超えて、純粋にこの国を思う国民の姿がある。
  • 国民の負託を受けた国会が政局に明け暮れ、本質的な我が国の問題を解決できずにいるのは、政治家のマーケティング力が弱まってきているためとも言える。選挙以外に国民の意思を反映させる仕組みが必要なのではないか。

葉梨 康弘君(自民)

  • 諸外国の国民投票について、憲法調査特別委員会で調査を行った際に、それぞれの課題について巷で議論が行われるなど、国民投票はおもしろいものだという率直な印象を持った。
  • しかしながら、国民投票については危険性、さらには政治との密接なかかわりがあることを留意しなければならない。かつて、ナポレオン 3世は独裁的政策の遂行のために、国民投票を多用した。また、戦後イタリアにおいて王制の存続を問う国民投票があり、僅差で否決され共和制となったが、王党派からは批判があった。後に共和制から王制に戻ることができない旨が憲法に規定された。国民投票について検討する際には、歴史的・政治的経緯についても考慮しなければならない。
  • 国民投票の対象を憲法改正及びその周辺に限定したのは、憲法改正に関する熟議のための諮問的国民投票ならば、危険性・政治的問題を払拭できるのでないかと考えたためであった。しかし、この点をつめていくと、 2回憲法改正の国民投票を行うという制度設計になったとき、国会の発議要件が3分の 2のままでよいのか検討が必要であると思う。一歩国会が引いて、発議要件を過半数にするという制度も考えなければならない。

武正 公一君(民主)

  • 我が党が一般的国民投票も含める提案をしていたのは、国民主権の考え方によるものである。憲法では、直接民主主義の制度は 79条2項、95条、 96条の3つの場合に限定されているが、様々な形で主権者の意見が表明される場があってしかるべきと考える。
  • 憲法改正国民投票法の制定過程では、与野党の歩み寄りも行われた中で、民主党としては最終的に「憲法改正の対象となりうる問題、統治機構に関する問題、生命倫理に関する問題その他の国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題」を対象とするという形で対案を出した経緯がある。この問題も、憲法審査会において与野党が丁寧な合意形成に努める対象になりうると考えている。その際によって立つべきは、国民主権の観点である。

衛藤 征士郎君(自民)

  • 国民投票については、憲法問題に限定すべきである。二院制において両院が真に機能すれば、チェック・アンド・バランスの機能が働くはずなので、あえて他の重要問題についても国民投票に付するのはいかがなものか。
  • 他方、 EUに加盟する27カ国の中には、一院制の国も多いが、そのような国のほとんどでは、チェックのために国民投票の制度を導入しているのではないか。

篠原 孝君(民主)

  • 国民投票は政争の具に使われるとの懸念については、その通りだと思う。あえて国民投票にかけて、最低投票率をクリアーしなかったことを理由に国民の関心がないものとして扱った事例もある。そのため、国民投票は、抑制的であるべきだが、それでもきちんと行うべきだと思う。
  • 96条の憲法改正の発議要件緩和の問題に関し、「国民の声を聞くのだ」との発言があったが、そのことを貫徹するのであれば、大事な問題について、国民の声を聞くべきである。
  • 政治への関心を高めるために、重要な問題については国民投票を行うべきである。「国民に信を問う」と言って解散するが、 TPPや原発などの重要問題について賛否を全て国民に示して選挙を行うという仕組みになっていないからである。
  • 憲法改正をするのであれば、国民投票の対象事項について、憲法に書き加えるべきである。その上で、国会議員の過半数の賛成という歯止めをかけて、大事な問題については国民投票にかけるべきだ。国民の関心を呼び起こせるし、国民の政治参加の良い機会になると思う。フランスでは投票率が高いが、日本でも国民投票に関するルールを規定して、抑制的であっても、実施すべきである。

衛藤 征士郎君(自民)

  • フランスは二院制だが、上院議員の選挙権は一般国民にはなく、下院議員と地方議員のみにある。そのことが、国民投票の投票率の高さに現れているのではないか。

【日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について】
◎自由討議

●各会派の代表者からの意見表明の概要

中谷 元君(自民)

  • 現行憲法には、時代の変遷とともに生じる現実との乖離に対し、解釈では乗り越えられない限界点・矛盾がある。我が党はその論点を指摘し、「日本国憲法改正草案」を提案した。これをもとに、憲法改正案について政党間協議に入るべきである。
  • 前文については、ユートピア的発想による自衛権の放棄のような文章などがあることから、全面的に書き換え、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の 3つの原則を継承しつつ、日本国の歴史や文化、国や郷土を自ら守る気概など国家の基本的原理を簡潔に、わかりやすく述べたものにすべきである。
  • 天皇については、元首であることを明記する必要がある。 9条については、平和主義を継承するとともに、自衛権を明記して集団的自衛権の行使を憲法改正により認め、国防軍の保持を規定した。
  • 国民の権利及び義務については、国民も、国家に対して何らかの義務を負っていることなどから、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と規定した。また、家族の共助や、環境保全の責務等の新しい人権も必要である。
  • 一票の格差については、選挙区は単に人口のみによって決められるものでないことを憲法上明示した。内閣の章では、内閣総理大臣の専権事項を明記した。
  • 憲法改正手続については、現行の発議要件があまりに厳格であるため、衆参それぞれの過半数に緩和した。このほか、新たに「緊急事態」の章を設け、内閣総理大臣に、一時的に緊急事態に対処するための権限を付与する規定を置いた。
  • 憲法改正国民投票法の「 3つの宿題」については、国民投票制度とその他の法令を切り離して、国民投票の18歳投票権を先行させることも検討すべきであり、公務員の政治的行為についても、各党間で合意形成していく必要がある。
  • 自民党の草案は、憲法全体について検討・見直しを行ったものだが、実際には、各党間でおおむね了解を得られた事項から国民投票にかけていくことになろう。各党で憲法改正の一致点を見出す努力をすることが重要だ。国会が、憲法改正案を国民に提示して説明し、改正の手続を踏んで承認を得ることが、まさに立憲主義、国民主権の精神に基づくものだ。自民党は、憲法改正推進のため、全力で取り組む。

武正 公一君(民主)

  • 我が党は国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という憲法の基本理念、象徴天皇制といった日本社会に根付いている諸原則を堅持し、国民とともに対話を進め未来志向の憲法を構想する。
  • 近代立憲主義は、国民の権利・自由を保障するために国家権力を制限するもので、そのときの政権が自らの価値をうたい、国民に義務や道徳を課すものではない。
  • 基本的人権については、他者のそれとの衝突を避けるために調整されることはあるが、公益や公の秩序に劣後するものではない。この中で新しい人権をどのように位置づけるかの議論を深める。
  • 二院制を維持しつつ、例えば衆議院は予算、参議院は決算・行政監視といった役割分担について議論を深めていく。
  • 平和主義と安全保障については、国連憲章上の制約された自衛権に基づき、平和主義、専守防衛、徴兵制禁止の原則及び自衛隊に対する国会のチェック機能、民主的統制を明確にする方向で議論を深める。
  • 地方分権については、国と地方の役割を明確にするための議論を深め、いわゆる補完性の原理を尊重する。
  • 憲法改正手続については、丁寧な議論を積み重ね、広範な合意を目指すべきであり、現行の両院の「総議員の 3分の2」という発議要件には合理性があるといえる。内容について議論せずに、改正手続の改正を先行させることには、立憲主義の本旨に照らして賛成できない。
  • 2005年憲法提言には言及はないが、国民に定着している象徴天皇制は堅持する。諸外国から元首の扱いを受けていることも、その理由の一つである。
  • 首相公選制については賛成しない。小選挙区制が定着しており、まずは首相及び内閣機能の強化や縦割り行政の弊害をなくすべきである。
  • 憲法提言では、道州制についても言及している。
  • 緊急事態法制については、その必要性を認識しており、特に衆院解散時、参院選挙時における対応が必要である。
  • 安全保障については、議論の深堀りを避けることはしない。集団的自衛権などの議論も始めている。
  • 憲法改正国民投票法制定においては、現行 96条を前提にした与野党の真摯で丁寧な議論が、両者の歩み寄りにつながった。なお、96条に関し、両院に特有の条文については、 3分の2の要件を緩和しても構わないと述べ、 59条2項の見直しに触れたことも付言する。同法の 18歳投票権年齢については、民法・公選法と切り分けて処理する方法もある。また、国民投票における公務員の政治的行為についてはこれを認める方向で考えている。

馬場 伸幸君(維新)

  • 我が党は、現在の統治機構を大幅に改革し、国民が安心できる安全保障体制の構築を行うために、憲法改正を行い、現代の日本に合った憲法にする必要があると考える。そのためには、まず 96条を改正する必要がある。憲法改正手続の一番のポイントは、最後に国民投票にかけて国民の判断に委ねることであり、 96条改正は真の国民主権の実現のために行うものである。
  • 統治機構の大幅な改革には、中央集権型国家から地方分権型国家へ移行するための道州制の確立と、日本を覆う閉塞状況を打破し、政治の力強いリーダーシップを生む首相公選制が必要である。道州制の導入によって政治や行政が身近になるとともに、受益と負担の関係の明確化、重複行政の解消による行財政改革、広域経済文化圏の確立、国家戦略や危機管理に強い中央政府の確立が実現する。これらは現行憲法のもとではできない改革である。
  • 国民が安心できる安全保障体制を構築するには、他国に頼り切る考え方を改め、自分の国は自分で守ることを自覚し、自衛権を持つという原則に立たなければならない。そのために自衛隊を憲法に位置付け、我が国の主権と領土を守る必要がある。さらに、資源に乏しい我が国においては、生存に必要な資源を国際協調のもとに確保することにより、安全保障体制を多角的に構築する必要がある。しかし、現行憲法のもとではこうした安全保障体制も他国に頼らざるを得ない状況である。
  • 我が党は、憲法改正国民投票がいつでも行えるように、憲法改正国民投票法の 3つの宿題に関する法案を提出したが、憲法審査会に付託されていない現状であり、こうした国会のおかしなルールについても改革を求めている。 3つの宿題は、国会議員が自ら作った宿題であり、党派の垣根を越えて早急に結論を出すべきである。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 憲法審査会における逐章審査を通じ、我が党は、現行憲法は国民に定着していること、特に基本的人権の尊重、国民主権、恒久平和主義の三原則は立憲主義からも堅持すべきであることを表明してきた。その上で時代の進展を踏まえて憲法を補強する加憲こそ妥当で現実的との提案をしてきた。党内の加憲の方向性について紹介するとともに、今後党内の議論を一層加速させたい。
  • 前文については、憲法全体を貫く三原則を明確に盛り込むべきであり、また人間の安全保障の理念を反映した国際貢献の明文化が必要である。地球環境、生命倫理等人類普遍の理念は加憲するにふさわしいとするとともに、日本人のアイデンティティーを共有できる記述が必要であるという意見もある。
  • 1章については、国民主権の明記が必要である。象徴天皇制との関係をより明確化するため、独立した条文にすべきとの意見が大勢である。
  • 2章については、9条1項及び 2項を堅持の上、専守防衛、個別的自衛権の行使主体としての自衛隊を認める記述を置くべきとの意見と、実態として定着しておりその必要はないとの意見がある。核廃絶について唯一の被爆国として何らかの規定が盛り込まれるべきと考える。
  • 3章については、新しい人権を積極的に明記することで事前の人権保障を可能にし、時代の変化に対応した立法措置を可能にすることが望ましい。特に環境権について国と国民の責務を定める必要がある。生命倫理については、学問の自由と匹敵するだけの法的命題が現行憲法にはないため、その条項を加える必要がある。プライバシー権、名誉権、知る権利、犯罪被害者の権利等についても検討が必要である。
  • 二院制については、両院の役割分担を明確にし、参議院の良識の府、再考の府としての位置づけを明らかにする必要がある。国政調査権を議員個人の権能とすべきとの意見は少数であった。
  • 財政は、私学助成についての表現を検討するほか、財政規律や財政の健全性に加え、複数年度予算、企業会計の導入、決算の位置づけ、会計検査院について明記すべきとの意見もあった。
  • 地方自治の章がわずか 4条しかないことは極めて抽象的で脆弱であり、具体的内容を明確にすべきである。また財政基盤を確保するため、財政的自立を明確にすべきと考える。
  • 改正については、改正要件の 3分の2は高すぎることはないが、三原則以外の改正要件を一定程度緩和することは議論の余地がある。緊急事態についても、何らかの規定が必要だとの意見が大勢である。

小池 政就君(みんな)

  • 我が党は、憲法の基本理念を維持しつつ、統治機構の改革を主とする改正を主張しているが、補足する点を以下述べる。
  • 侵略戦争を放棄し平和を追求するという前提において、国民と国土を守るという立場から、国連憲章 51条に定める個別的・集団的自衛権を有しているとした上で、国際平和に貢献するための自衛権の在り方について明確化すべきである。
  • 集団的自衛権の検討に当たっては、自衛権を行使する前段階としての対処、自衛権に基づく行動の中身を規定したガイドラインの検討が必須である。また、仮に集団的自衛権の行使を認めるとした場合、政府の憲法解釈の変更ではなく、憲法改正という手段を取らざるを得ないということも含めて検討しなければならない。
  • 我が党は憲法改正手続について、国民の意思と同等の国会の意思を条件とするべきとの考え方から、国会の発議要件を過半数に緩和しつつ国民投票は維持することを主張している。その際、現行の選挙制度では、政党の得票率と議席獲得数が大きく乖離することがあること、国民の意思が過小ではなく過大に反映され得る点に留意しなければならない。選挙制度の在り方を踏まえた上で、国会の発議要件にどの程度の軟性化を求めるのかについて考慮する必要がある。
  • 国民投票を実施する際には、広告、宣伝、報道等の活動について再考の余地がある。国民投票は、テーマが具体的に示されるため、政権選挙と同じかそれ以上に世論が一定の方向に流れやすいという性質を含んでいる。したがって、広告や報道の中立が要求され、国民が賛否の両方の意見に触れることができるように配慮すべきである。現在の国民投票広報協議会の規定だけでは、充分な規制ができるのか、国民が冷静な判断をできるのか懸念が残る。
  • 国会議員には、真に必要な改正であれば、審議を通して憲法改正についての意義や課題を明らかにするという役割もあることを忘れてはならない。

笠井 亮君(共産)

  • 今国会は、安倍総理はじめ、自民党や改憲政党などから 96条の先行改定が繰り返し主張される一方、改憲派の中からも批判が出るなど、立場の違いを超えた議論が広がった。
  • 96条改定は単なる手続論ではない。主権者たる国民がその人権を保障するために権力者を縛り、都合よく憲法を変えないようにされているものであり、発議要件を緩和して、法律並みにすることは、立憲主義を根底から否定することになる。
  • 元自民党幹事長の古賀誠氏のインタビューが注目されており、また、憲法学者や政治学者による 96条の会、宗教関係者の活動なども広がっている。我が党は96条改定反対で一致する全ての政党、団体、個人との共同を広げ、国民的な力でこの企みを断念に追い込む。
  • 今国会の現行憲法の検証では、我が党は、憲法の諸原則に照らし、現実の政治がどう行われているかを徹底的に検証する立場で臨んだ。これに対し、改憲を唱える政党は「制定後一度も変えていない」、「時代に合わない」との主張が繰り返しなされたが、直近の世論調査でも、国民が改憲の必要があるとは言っていないことが明らかになっている。
  • 日本国憲法の先駆性は 9条だけではなく30条にわたる人権条項にもある。憲法が時代に合わないのではなく、憲法を踏みにじり続けてきた、歴代の政権こそ時代遅れなのである。憲法を守り、現実の政治に活かすことこそが国民的要請である。
  • 北朝鮮、中国などとの関係のためにも憲法改正が必要であるとの意見も出されたが、何よりも求められているのは道理によった外交交渉の努力である。専ら力対力の立場から、これらの対応を軍事力・軍事同盟の強化、憲法 9条改悪に利用することは、国民を危険にさらす最悪の姿勢である。
  • 紛争の対話による解決の取り組みとして、 ASEAN諸国では、軍事によらない平和的安全保障の考え方を取り入れており、これを北東アジアでも広げることを提案する。その拠り所となるのが 9条である。
  • 国民は今、改憲を望んでいない。本審査会での国民の意識からかけ離れた議論はきっぱりとやめるべきである。我が党は前文を含む全条項を厳格に守り、平和、人権、民主主義の諸原則を国政の各分野に活かす立場で全力を挙げる。

鈴木 克昌君(生活)

  • 憲法は、我々国民がより幸せに、より安全に生活するために皆で定めたルールであるから、国民生活の安定・向上のために存在しなければならない。国民一人一人が共同体メンバーと協力し合いながら、自由に自分の人生を生きていけるようにすること、これが「基本的人権の尊重」である。そして、これを貫徹するために、憲法は国家権力を縛り、国家権力は憲法の範囲内でのみ行使されるようにする、これが「立憲主義」の考え方である。
  • 日本国憲法の理念である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義、国際協調の四大原則は人類普遍の価値であり、時代が変わろうとも変えてはならない理念であり、今後とも堅持すべきである。四大原則を否定する「改正」は憲法の否定であり、認められない。また、改正手続の緩和は、四大原則を否定するような憲法改正が容易となってしまうため、許容できない。 96条は堅持すべきである。
  • 他方で、時代の要請を踏まえ、@国際平和に我が国が積極的に貢献するため、国連平和維持活動への自衛隊参加の根拠規定を設けること、A「決められない政治」の原因たる現行の二院制の在り方や、司法制度、国と地方の関係の在り方など統治機構問題を見直すこと、B緊急事態の際に政府による超法規的措置に頼らず立憲主義の枠内で対処できるよう、緊急事態宣言の根拠規定を設けることなど、現行憲法には見直し・加憲を行うべき部分もあると考える。
  • 情緒的な憲法議論が横行しているようだが、憲法は必要なら変える、必要がなければ変えなくてよいのである。現在の我が国が直面する諸問題を解決するために憲法のどこを改正するか、将来の我が国のために憲法はどうあるべきか、冷静で理性的な憲法論議が今こそ求められている。

●委員からの発言の概要(発言順)

船田 元君(自民)

  • これまでの憲法審査会における議論を経て、今後は 3つの宿題について、できるだけ早く処理する必要があると考える。維新が提出した法案についても、注目をしなければならない。@ 18歳の投票権年齢と、選挙権年齢、成年年齢の引き下げとは同時に行われることが望ましいが、民法改正には条件整備に時間がかかるため、投票権年齢の引下げが先行することはやむを得ない。A公務員の国民投票運動は、地位利用や政治的行為に当たらない範囲で認めたいが、国家公務員と地方公務員との間のずれは、政治的行為の規制全般に関わるため、今後の検討課題である。B一般的、諮問的国民投票制度は、制度設計に時間がかかるため、中期的な課題である。
  • 3つの宿題の解決後は、憲法改正原案の作成フェーズに入るが、それには以下の4つの前提がある。一つ目は各党が改正案を具体的に条文で示すこと。二つ目は、原案の協議について、幹事会で素案をまとめ審査会で審査をする。場合によっては、参議院との合同審査会も順次行うことも必要であろう。三つ目は、改正は何回かに分けて行う必要があるため、合意の得られたところから順次発議することになるが、一部分の改正が全体のバランスを崩すことのないように細心の注意をすること。四つ目は、 96条発議要件の緩和については、国民のコンセンサスを得る必要があり、96条については、先行、単独ではなく他の改正案と合わせて審議し、発議することが重要である。

土屋 正忠君(自民)

  • 憲法を改正するべきであるとの理由は、現行憲法が制定された時代と現代とでは、安全保障の観点、社会の在り方、国家間の往来について根本的に異なっているからである。各党はこれらを反映して、どのような憲法が必要か、足らざるは何か、改正すべきは何かに向き合うことが、改正する、しないを含めて根本的な議論なのではないか。
  • 憲法は、国家権力を抑制し国民の権利を守るものであるとの立場からのみ議論されることが多いが、現行憲法にも子女教育、勤労、納税のような国民に義務を課す条項がある。したがって、国民に義務を課す憲法は憲法ではないという意見は、現憲法も否定することになる。何を国民の義務とするか、これから議論すべきである。
  • 「憲法」ではなく旧西ドイツのように「基本法」という表現がある。それには、権力から国民を守り人権を尊重するだけではなく、国家の統治機構の在り方が明示されている。憲法は、@権力の抑制を図り、国民の人権を守る、A国家の形成者として国民に必要な義務を明記する、B国家の統治の基本的な在り方を示すといった 3つの要素から成り立っていると考えており、これら3つの側面から議論する必要がある。
  • 「 96条先行改正の先に何があるか」との議論もあるが、我が党の憲法改正草案がそれであり、今後も建設的な議論をしていきたい。

河野 太郎君(自民)

  • 多くの国民が、歴史を通じて憲法という手段で国家権力にたがをはめてきたことを考えれば、憲法の名を借りて国民の権利を制限し、国民に義務を課すことは今の日本にふさわしくない。現行憲法でも義務に関する規定はあるが、それで十分であり、それ以上に国民の権利を制限することには断固反対である。
  • 家族が助け合うということに個人的には賛成であるが、それは道徳であって憲法の中に持ち込むべきではない。その人の環境を考えれば、助け合うことができる人もできない人もいる。国家の最高法規である憲法に定義するのではなく、道徳としてそれぞれ個人に任せるべきである。それらを「例外なく、そうしなければならない」といって憲法に書き込むべきではない。

笠井 亮君(共産)

  • 船田幹事から今後の憲法審査会についての話があったが、本来、幹事会で議論すべき話であり、遺憾である。
  • 3つの宿題については、法律施行の前提条件が崩れている以上、手続法自身を廃止するのが筋である。なお、選挙権年齢・成年年齢は、手続法に関わりなく、 18歳にすべきである。
  • 憲法審査会で憲法改正原案を作るという話があったが、まず幹事会で議論すべきことであるし、国民が改憲を具体的に望んでない以上、やるべきではない。

船田 元君(自民)

  • 憲法審査会における自由討議は制限を加えず自由な立場から発言をしてもよいという取り決めのもとで行われてきたものであり、今後の審査の在り方等について、議論に参画してきた一国会議員の率直な感想のまとめとして発言した。実際の協議は幹事会及び審査会で行われるのであり、それに影響を与えようとしたものではない。今後も自由な議論ができる環境を作っていきたいと考える。

衛藤 征士郎君(自民)

  • 我が党が発表した日本国憲法改正草案では、家族に関する規定を新設した。このような事柄を憲法に規定することに反対する意見には、憲法が国民を押さえつけるもの、拘束するものであるという観念が強いのではないか。そうではなくて、国民を救済する、守るのが憲法である。

西野 弘一君(維新)

  • 家族に関する価値観を、憲法に明記すべきだ。婚姻制度や、家族を守るといった価値観は国民に普遍のものであり、むしろ、夫婦別姓についての法律が制定されるなどして、この価値観が国家権力によって根本から覆されることのないよう、国から家族を守るという観点からも、憲法に明記すべきと考える。

土屋 正忠君(自民)

  • 諸外国には、イスラム教国やキリスト教国を中心に、憲法の前文で神などについて言及するものもあり、その国の成り立ち、歴史、価値観などを憲法に反映しているものが少なくない。
  • ただし、一神教の国々や、宗教裁判所があり、宗教に従って生きる国民を有する国々と、我が国とでは、国民の心理、法意識は異なる。憲法への価値観の明記は決して否定されるべきものではなく、国民が合意できる共通の価値観としてどのようなものを憲法に書き込むかが問題なのである。