平成29年3月16日(木)(第1回)

◎会議に付した案件

1.幹事の補欠選任

補欠選任 船田 元君(自民)  伊藤 達也君(自民)幹事辞任につきその補欠

2.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(参政権の保障をめぐる諸問題(緊急事態における国会議員の任期の特例、解散権の在り方等))

参考人から意見を聴取することに、協議決定した。

3.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(参政権の保障をめぐる諸問題(「一票の格差、投票率の低下その他選挙制度の在り方」及び「緊急事態における国会議員の任期の特例、解散権の在り方等」))

自由討議を行った。


◎自由討議

●各会派の代表者からの意見表明の概要

上川 陽子君(自民)

  • 昨年11月の審査会で、日本国憲法は国民や社会に定着し大きな役割を果たしてきたのであり、「押し付け憲法論」からは卒業すべきこと、日本国憲法の三大原理は堅持すべきことなどについて、各会派が共通認識を持っているとの確信を持った。同時に、成文憲法典だけでなく、憲法附属法規や一連の基本法などを含む総体として「生きた憲法」の在り方を議論することの大切さを認識した。今後、三大原理を縦軸に、制定後70年を経て浮かび上がってきた個別の論点を横軸に据えて、論点の深掘りをしていくべきである。
  • 一票の格差の問題は、地方の過疎化・首都圏への人口一極集中や今後の「地方消滅」と言われるまでの深刻な人口減少と切り離して語ることができない。
  • 「全国民の代表」を過度に強調し、厳格な人口比例を採用すると、地方選出議員の減少傾向が続き、地方在住者にとって政治にアクセスする機会が都市部在住者より圧倒的に少なくなる。厳格な人口比例を前提としても自然に全国津々浦々から代表者が選出されるという従来の前提自体が崩れつつある。
  • 参政権は「政治へアクセスする権利」と位置付けられ、「公正かつ効率的な代表」という視点とともに、「有権者と政治の対話」という視点も必要である。議員は常に議会における議論を有権者にフィードバックし、議員と有権者の意見交換を議会に反映させるという循環的な対話を維持することが必要ではないか。その循環の維持には、人口の少ない地域の住民も意見交換や議論を通じて自らの地域の問題点を議員に伝えるという、質的な意味での政治へのアクセスの確保が必要である。
  • 国民代表機関の世界的標準に照らして人口比例を厳格に適用すべきという見解もあるが、参政権の「有権者と政治の対話」という側面に着目した上で、慎重な議論が必要である。
  • 一方、地方の利益に目配りするという意味での「補正」の役割に着目するとき、特に参院選における合区は、早急に解消することが強く求められる。最高裁は、「人口比例の要請」と「参議院の権限」の相関関係のバランスが崩れていると認識していることが窺われ、この点も踏まえた本質的な議論が求められる。参議院のあるべき姿については、参議院の取組の成果を踏まえて、衆議院でも議論を深めていくべきである。議論の進展次第では、憲法改正が必要になることも考えられる。衆参の選挙制度の問題は、国と地方の権限分配の見直しや、地域自体の統治構造改革にも広がることが予想され、憲法第8章も議論の対象となるだろう。
  • 緊急事態について、衆議院憲法調査会報告書では、「平常時の憲法秩序の例外規定を規定すべき」とする意見が「多く述べられた」とされている。このような議論の蓄積を踏まえて、今後、深掘りをしていくべきである。
  • 「緊急事態とは何か」については、南海トラフ巨大地震のような自然災害を起因とする未曾有の国難を緊急事態と想定することが考えられるか。内閣総理大臣等への権限集中や人権制限などの要否や、法律整備で足りるか憲法改正まで必要になるかという、丁寧な仕分け作業も必要になる。
  • いかなる状況においても国民主権の観点から民主的コントロールを貫徹するための制度の構築が必須の視点となる。参議院の緊急集会は、衆議院の解散から特別会が召集されるまでの70日間を想定した制度とされている。
  • 東日本大震災の被災地では、最大8ヶ月、選挙を執行できなかった。被災地で選挙の執行が困難な事態に陥ったとき、選挙の延期や議員任期の延長といった手当を講じないと、被災地選出議員は不在となる。国会議員の場合、憲法に任期が明記されており、この手当には憲法改正が必須となる。
  • 国会議員が「全国民の代表」である以上、被災地選出議員がいなくても支障ないという形式的な議論は、非常事態においては、特に成り立たないのではないか。少なくとも、国会議員の任期延長等の手当を憲法上行うことは、民主的コントロールを貫徹し、国民主権を機能させるために必須である。

枝野 幸男君(民進)

  • 20世紀半ば以降、行政府による議会の解散権に強い制約を付すという傾向が世界的に強まっている。王政時代は、王権と議会は対立・緊張関係にあるのが前提で、王権が議会を抑制・牽制する手段として解散権が位置付けられていた。だが、民主制下の議院内閣制では、内閣と議会の間に王権と議会のような対立関係はない。内閣は、議会の多数派によって選出され、支えられ、政治的に一体化している。
  • 現在の議院内閣制では、内閣と議会の多数派で意見の違いがあっても、政治的に一体の政府・与党内部で解決するのが基本である。そのため、解散権のような抑制・牽制の仕組みを設ける意義は、原則としてなくなっている。
  • 行政府と議会の多数派の意見が一致せずに対立し、それを政府・与党内で解決できない異例の事態が生じた場合に限り、対立を解消し、民意に基づき国政を前進させるための手段として解散が正当化され、それが内閣不信任の場合の解散である。それ以外の場合に解散を認める意義は乏しく、内閣と政治的に一体の議会の多数派が、更にその優位性を強めるための解散は、必要ないどころか有害である可能性すらある。
  • 行政府による議会の解散権を制約するドイツやイギリスの動きは、王政から民主政へという時代の変化を踏まえた適切なものである。我が国も「時代の変化に合わせた憲法を」と言うならば、この問題が議論の中心になるべきである。
  • 選挙の機会が多すぎると、国民の関心が分散し、投票率低下の遠因となるとも考えられる。国民が時間をかけて慎重に考えた上で選挙権を行使するためには、選挙の時期が予測できる方が便利であり、参政権の実質的保障に資するだけでなく、公平性も高まる。
  • 解散について規定しているのは憲法だけであるため、この問題は、憲法審査会でなければ検討できず、真摯に議論すべきテーマとして優先順位が高い。なお、以上の発言は憲法改定の是非についてのものであり、現行憲法下のいわゆる7条解散の憲法適合性についてではない。
  • 緊急事態における衆議院議員等の任期延長は、検討に値する。地方選挙は法律で延期可能であるが、国政選挙の延期には、憲法上の根拠が必要である。もっとも、検討すべき事項が複雑かつ広範にあるため、単純に結論を出すことはできない。
  • 内閣が一方的に議員任期を延長できるとするのは論外だが、国会が自らの任期を延長することはお手盛りとなりかねず、単純に過半数では認められない。また、衆議院が解散された後に緊急事態が生じた場合、解散で一度失職した議員の資格が復活するとなると、権力の正統性に著しい疑義が生じる。
  • 緊急事態として選挙が困難である場合は、参議院の緊急集会で一定の対応が可能である。しかし、そもそも、首都直下型地震により政府と議会が機能しない場合にあっても法律やマニュアルにより対応できることは多々あるはずであり、そのような対応策につき精査し、準備しておくことが重要である。
  • 一票の格差については、全国民の代表である国会議員の選出に当たり、一票の価値を可能な限り対等にすることは、国民主権と間接民主制を採用する以上、必然的要請である。
  • しかし、選挙区制を採用する以上、議員に選挙区代表の側面があることも否めない。大都市と過疎地域の人口偏在が急速に進んでいる現状に鑑みれば、一票の価値の平等を徹底すると、過疎地域を代表する議員が更に減少し、大都市を選挙区とする代表のみが増えていくことになる。このことにつき、国民全体に納得感があると言い切ることや、幅広い民意の反映を図る意味でやむを得ないと言い切ることは難しい。
  • 参議院で人口比以外の要素を取り入れる場合は、明確かつ合理的な根拠が必要である。当事者である参議院で、その役割や権限の在り方といった二院制の本質に関わる議論を先行して深めていくことが適切である。
  • 参政権は選挙権だけではない。政治的意思を表明し、言論活動や集会、デモを行うことにも参政権の行使という側面がある。共謀罪には、集会やデモを過度に抑制する副作用のおそれが指摘されている。もし、共謀罪法案の審議をしようとするならば、それに先立ち、まずは憲法審査会で参政権や表現の自由など、憲法との関連性について、慎重に議論する必要がある。

北側 一雄君(公明)

  • 14条の「法の下の平等」は、選挙権に関しては政治的価値の平等を要請するものであり、また、衆参国会議員は「全国民を代表する議員」(43条)であるから、全国民にとって一票の価値は平等でなければならない。基本的には、一票の格差が2倍未満であることが求められる。
  • 2016年5月、衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の改正により、アダムズ方式の採用や定数の10削減などが定められた。現在、小選挙区の区割り画定作業が進められており、今国会中に区割りに係る法案が提出される運びとなっている。このように、衆議院については、選挙区間格差を2倍未満に収める制度改正がなされているところである。
  • 参議院議員も「全国民を代表する議員」であり、投票価値の平等が求められる。参議院の権能は大きく、仮に参議院に地域代表的性格があるとしても、それは投票価値の平等が確保される範囲で考慮されるべき要素に過ぎない。
  • 2015年7月、合区を含む10増10減の公職選挙法の改正により選挙区間格差は2.97倍となったが、投票価値の平等という要請からは極めて不十分である。我が党は、同改正法附則に規定する2019年参院選までの抜本的な見直しについて、全国11ブロックの大選挙区制を提案している。  
  • 参議院を地域代表とするのであれば、43条の改正にとどまらず、憲法上の衆参の役割を大幅に見直さなければならない。参議院側での今後の論議の行方を見守りたい。  
  • 衆議院の解散を69条の場合に限定する考え方には賛成できない。総選挙で争点とならなかった重大な政治課題について新たに国民の信を問うため、7条を根拠に解散・総選挙を実施することは、国民主権の理念からも認められるべきである。もちろん、内閣の一方的な都合や党利党略による解散は妥当でないが、その判断は専ら有権者である国民に委ねられている。  
  • 憲法に緊急事態条項を設けて、内閣総理大臣への権限集中や国民の権利制限の根拠を置くべきとの意見にも賛成できない。我が国の危機管理法制は相当程度整備されてきており、一定の場合における緊急政令の制定や従事命令の規定もある。必要があれば、法律で危機管理法制を更に充実させればよい。
  • 現行憲法下でも、合理的に必要な範囲で「公共の福祉」に基づく国民の権利制約は可能であって、憲法にあえて根拠規定を置く必要はない。憲法に緊急事態条項を設けても、抽象的な規定としかなり得ず、国民の権利が不当に制約されるおそれがある。  
  • 54条2項には解散時における参議院の緊急集会の規定があり、まずは、その意義や適用範囲を明らかにする必要がある。阪神・淡路大震災や東日本大震災の際には、統一地方選の選挙期日や地方議員等の任期に係る特例法を制定したが、国会議員については、任期や解散から40日以内の総選挙実施が憲法に定められているため、特例法の制定による選挙期日の延期や任期の延長はできない。
  •  国会議員の任期満了直前や解散直後に大規模災害が発生した場合には、被災地では選挙ができず、繰延投票が行われることも想定されるが、大規模災害時に参議院の緊急集会での臨時の措置で足りるかどうか、具体的な検討が必要である。一方、任期は議会制民主主義の根幹に関わるため、慎重な議論が必要である。  
  • 緊急事態条項については、緊急事態とは何か、判断主体は誰か、手続をどうするかなどの重要論点があり、基本的人権の尊重や議会制民主主義の観点等から十分に議論される必要がある。

赤嶺 政賢君(共産)

  • 憲法審査会は、憲法改正原案、改正の発議を審査するための場である。ここでの議論は改憲項目をすり合わせ、発議に向かうことにつながる。国民の多数は改憲を求めておらず、審査会を動かすべきではない。今日の憲法上の最大の問題は、現実の政治が憲法の平和・民主主義の諸原則と著しくかい離していることである。  
  • 前文は「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と始まる。これは議会制民主主義、代議制民主主義の原理を表し、その根幹をなすのが選挙権であることを示すものである。したがって選挙権は国民の多数の民意を正確に議席に反映するものでなければならない。ところが1994年、政治改革と称して現行の小選挙区比例代表並立制が導入された下で民意の反映が著しく歪められてきた。小選挙区制度は廃止し、国民主権の趣旨に沿う、民意を公正に反映する選挙制度へと抜本的に改革する必要がある。  
  • 東日本大震災で被災した3県の自治体首長42人へのアンケート(2016年5月実施)によれば、緊急事態条項がなかったことで人命救助活動に支障があったとの回答は一つもなく、多くの首長が既存の制度や法改正で対応可能であったと回答しており、釜石市長は「災害対応は一刻を争う現場に権限を委譲すべき」と答えている。東日本大震災の教訓は、現場への権限・財源・人材の集中が必要だということであり、緊急事態条項など全く真逆である。
  • 外国の憲法で盛り込まれている緊急事態条項のほとんどは、戦時における緊急権、非常事態宣言として規定されたものであり、災害を理由にしたものではない。緊急事態条項は、戦争遂行や内乱鎮圧を目的とした国家権力による統制を強める規定に他ならない。  
  • 自民党改憲草案によれば、緊急事態は内閣が必要と判断すれば宣言できることになっており、宣言を行えば内閣が強大な権力を行使できる政権独裁を作り出すものである。しかも、宣言中は衆議院を解散せず、国会議員の任期を延長するとしており、緊急事態だと政府が宣言し続ける限り、時の政権を自由に延命することになる。選挙によって民意を問う機会を奪うことは、国民主権の侵害である。  
  • 憲法制定時に金森担当大臣は、非常という道を残せば国民の権利を制限し破壊する口実を政府に与えてしまう危険があることを指摘している。緊急事態条項は権力分立と人権保障を停止し、政府の独裁と際限のない人権制限をもたらすもので、憲法停止条項と言わねばならない。前文や9条によって戦力を持たず、戦争を放棄した日本国憲法とは相容れないことは明らかである。

小沢 鋭仁君(維新)

  • 憲法改正は、特定のイデオロギーの表現のためではなく、政策的な課題の解決のために行うべきである。法律の制定や改正に立法事実が必要であるのと同様に、憲法改正についてもいわば憲法事実が必要である。また、憲法改正の項目として国民が身近で切実に感じている問題を採り上げ、できるだけ多くの国民が賛成できる形で憲法改正を進めて行くべきである。以上の考えに基づき、我が党は、教育の無償化、国と地方の統治機構改革、憲法裁判所の設置の3点について憲法改正原案をまとめた。  
  • 憲法審査会で我が国が直面する諸課題について憲法事実を議論すべきという我が党の提案が実現し、議論が開始されることを大いに評価したい。  
  • 憲法に新たな緊急事態条項は必要なのか、法律で対応すれば十分ではないかという意見がある。憲法改正には具体的な憲法事実が必要であり、緊急事態として何を想定するか、政府の対応はどうあるべきかを具体的に議論すべきである。このような具体的な議論を詰めるほど法律レベルでの対応に近づくとも考えられるが、国会における議論を大いに進めて行くべきである。
  • 仮に憲法改正で緊急事態条項を設ける場合、緊急事態における決定を行う機関はどこか、人権制限まで踏み込むのか否か等々の論点について、国会で議論を進めるべきである。  
  • 緊急事態条項がなければ内閣等が超法規的措置をとらざるを得ず、立憲主義に反するので、きちんと事前に権限を与えておくべきという主張もあるが、事後的にどの機関が最終的な憲法適合性を判断するのかという視点が抜けている。この視点から、我が党が提案する憲法裁判所の設置の正当性が認められる。事後的に憲法違反と判断されるおそれがあれば、政府は緊張感を持って慎重に行動することが期待される。現行憲法の裁判所では統治行為論によって判断を回避するおそれがあるが、憲法裁判所であれば政府の行為の合憲性につき公権的な判断を下すことになる。
  • 緊急事態条項の要件という事前の問題だけではなく、緊急時の政府対応に関する事後的審査の問題も重視されるべきである。緊急時の政府対応の是非の判断において、憲法裁判所が重要な機能を果たし得る。  
  • 解散権の在り方、特に解散権の制限について、緊急事態を含めた一般的な議論は、党内でまだ収束していない。  
  • 解散権を憲法改正で制限するという議論の前に、まず7条解散について憲法上の疑義があるならば、これについて徹底的に議論すべきである。  
  • 選挙制度に関連する問題としては、我が党は憲法改正による一院制及び道州制の導入を含めた統治機構改革を訴えてきた。一院制にせよ道州制にせよ、今の都道府県を前提とした選挙制度の一票の格差の問題を超えて考える必要がある。  
  • 投票率の低下については、政治への関心を高めていく努力が必要である。我が党は、選挙をより自由・公正に行えるよう、衆参両院の被選挙権年齢の18歳への引下げ法案を提出している。スマホ投票等の技術革新に応じた法改正や、戸別訪問の解禁等の不合理な規制の見直しも行うべきであり、法案を提出している。国民が政治に参加できるルートを増やすことが重要であり、その時代に応じた政治参加の在り方を作っていくべきである。

照屋 寛徳君(社民)

  • 緊急事態における国会議員の任期の特例等に絞った改憲論議は、自民党憲法改正草案の緊急事態条項新設への批判をかわし、マイナーな改憲条項に絞ることにより可能なところから改憲を実現したいとの「お試し改憲」そのものであり、強く反対する。  
  • 自民党憲法改正草案99条4項は、緊急事態宣言中の衆議院解散を制約し、両議院議員の任期の特例及び選挙期日の特例を設けることができる旨を規定しているが、大規模災害により選挙実施が困難な地域が発生した場合は、公職選挙法57条の繰延投票制度により解決すべきであり、改憲は不要である。
  • 54条2項の緊急集会の規定は、GHQとの交渉の中で、不測の災害に対応する措置として日本側の要求で盛り込まれたとの指摘がある。したがって、緊急事態条項の創設や、緊急事態下での内閣の解散権の制限は必要なく、そのための憲法改正の必要もない。加えて、今や災害対策基本法に災害対応措置が定められており、「お試し改憲」は論外である。  
  • 安倍総理が三権分立や立憲主義を無視し、国権の最高機関たる国会に改憲への取組の強化をするよう求めていることは言語道断である。  
  • 国家緊急権は、戦争、内乱、大規模な自然災害等で、平時の統治機構では対処できない非常事態において国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序である人権保障と権力分立を一時停止して非常処置をとる権限だと憲法学者の芦部信喜氏が定義し、通説となっている。我が国で非常事態条項を憲法に盛り込む必要はなく、そのための改憲には断固反対する。  
  • 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催と関連し、テロ攻撃を理由に改憲の上、国家緊急権の創設を主張する動きがある。しかし、テロは国家緊急権が発動される場面ではなく、法律に基づき、犯罪として警察が対処すべきである。  
  • 一票の格差問題の本質は、憲法が求める投票価値の平等をいかに実現するか、という問題である。現行の小選挙区比例代表並立制では、得票率と議席占有率のかい離が顕著となり、死票が大量に生み出され、民意が大きく切り捨てられている。一票の格差の是正と同時に、民意を的確に議席数に反映させる選挙制度改革が必要であり、この2点を両立させるため、比例代表選挙を重視した選挙制度の改革を検討すべきである。社民党は、比例制を中心とし、地域代表の性格も加味した小選挙区比例代表併用制を主張している。

●委員からの発言の概要(発言順)

中谷  元君(自民)

  • 憲法の国会議員の任期や解散に伴う総選挙の期日の規定に関し、大規模災害などを想定した特例を設けるべきである。  
  • 解散後に震災が起きた場合、衆議院議員不在のまま、何ヶ月も参議院の緊急集会で臨時の措置として復旧・復興のための立法を続けるしかないのか。また、参議院の通常選挙が実施できず、参議院議員が半分しかいない状態で何ヶ月も国会が運営されるということでよいのか。  
  • 選挙を予定どおり実施し、被災地では繰延投票を行ったとしても、繰延投票を含む選挙区、特に衆議院比例ではブロック全体、参議院比例では全国で、当選人が確定しない。それが分かっていながら選挙を強行して投票を行い、その結果比例部分の当選人が確定するのが何ヶ月も後になることは、強い違和感を与える。  
  • 国民主権と民主主義を緊急事態においても貫徹するための方策については、与野党それぞれの憲法観を超えて、一致できるのではないか。  
  • 昨年の参院選で合区となった高知県の投票率は全国最低であり、「合区反対」と書いた無効票も多々あった。全国知事会等から合区解消の決議もなされた。一方、先の参院選に関する「一票の格差」訴訟の高裁判決では、「合憲」6件、「違憲状態」10件の結果となっている。地理的条件などの考慮を憲法上の要請として明記することを含めた抜本的な解決が求められており、合区解消に関して、最高裁の判断を注視しながら、憲法上の論議を行いたい。  
  • 行政区画や地勢等を総合的に勘案して、地方の意見も国政に反映される工夫が必要であり、47条の改正も含め議論してほしい。

武正 公一君(民進)

  • 昨年の臨時国会における憲法審査会の1年5ヶ月ぶりの再開は、一昨々年の集団的自衛権行使容認の閣議決定、一昨年の安保法の強行採決を受けてのものであることを肝に銘じ、丁寧な与野党の議論を進める必要がある。  
  • 一票の価値は、国民主権の観点から「投票価値の平等」が基本となる。 「合区」については、民進党も参議院を中心に議論を進めており、早急な具体案への集約を目指している。また、格差2倍以内を実現する制度改正を、次の参院選に向け必ず行うとした。  
  • 先の衆院選の投票率が過去最低となるなど、「投票率の低下」が続いている。昨年の参院選では、初の18歳選挙権の実現やそれに伴う副読本の交付などが投票率を押し上げたと思う。今後も、地方選挙の統一率の向上や、投票所・投票時間の確保などの投票機会の拡大に努めるべきである。  
  • 先の衆院選は、解散から公示まで僅か10日で、期日前投票制度が始まって以来最短であった。そのため、投票整理券の到着が週をまたいだ団体が45団体もあり、特に横浜市などの大都市は公示から7、8日目だった。これは有権者の参政権・投票権を縛るものになったと考える。  
  • 緊急事態における衆議院議員の任期については、十分な検討が必要である。ただ、憲法で規定された「解散から40日以内の総選挙実施」について、この日数を超えたとしても最高裁は違憲判決を下すことはないとする有識者もいる。こうした点も、次回の参考人質疑などで更に深掘りしていく必要がある。  
  • 解散権については、「7条解散の濫用は許されるべきではない」という保利茂元衆議院議長の見解も踏まえて、議論を深掘りしていくべきである。  
  • 今、両院議長の下で皇位継承の議論が行われている。再三幹事懇談会でも提起をしているが、本審査会においても憲法第1章について取り上げるべきことを改めてこの場で表明する。

船田   元君(自民)

  • 平成26年、憲法審査会において各条項のレビューの取りまとめの議論が行われた。各政党が憲法改正の方向性や改正に対する考え方の基本を述べる中で、多くの政党が触れた項目を大きく分けると、@環境権(新しい人権)、A財政規律、B緊急事態条項、の三つであった。特に今回の議論のテーマである緊急事態における議会の機能の確保については、今後の憲法改正における有力候補となる項目であり、更に議論を深めるべきである。  
  • 東日本大震災直後の4月10日に第17回統一地方選挙の前半戦が行われたが、被災3県では選挙ができなかったため、震災特例法で選挙期日を5〜7ヶ月延期し、それに伴って任期の延長も行った。もし、国政選挙がこのような状況に追い込まれたとすると、被災地において投票ができないことも想定される。国政選挙では、当選者が確定しないと国会が機能しないため、国政選挙では全体を延期しなければならない可能性がある。憲法で衆議院の任期が4年、参議院の任期が6年と定められているので、緊急事態の際には、任期延長の特例や解散により失職した衆議院議員の身分回復が必要かもしれない。  
  • また、緊急事態においては衆議院を解散できないことを憲法に加えるべきである。参議院の緊急集会は、衆議院議員の不在をある程度補完できるが、衆議院解散後に参議院議員の半数の任期が切れた場合には、残りの半数の参議院議員で全てを決めないといけない事態が生じるため、緊急集会以外の対応をしなければならない。  
  • 緊急政令については、緊急事態においても議会が機能することを保障しておけば、緊急政令で対応する必要性は相対的に低くなる。なお、緊急事態の要件は、大震災などにやや限定されているが、外国からの急迫不正の侵略、大規模内乱などあらゆる事態を想定して緊急事態を宣言することも考えるべきである。

山尾 志桜里君(民進)

  • 日本の女性議員比率が伸びない原因は、女性が立候補する実質的な機会が足りないことにあると考えるならば、参政権を女性に実質的に保障するクオータ制を支持し、数の均等を「同数」と解釈する民進党の立場を尊重してほしい。  
  • 一票の価値という基本原則の例外として、地域代表たる性格など人口比以外の要素を取り入れることは検討に値する。しかし、価値の格差が広がるほどに、主権者国民の多数派の意思と国会内の多数派の意思が離れていく。一票の価値の平等が「治者と被治者の自同性」という民主主義の本質を支える価値であることを踏まえて議論すべきである。  
  • 天皇制と憲法について、この憲法審査会で議論すべきである。民進党は退位が天皇の意思に反しないことを担保すべきと主張しているが、天皇の意思を退位の要件とすることは4条に反するとの指摘がある。しかし、なぜ国政に関する権能を有しない主体の変更が国政に関する権能に触れるのか。また、天皇は様々な人権が制約された中で国民・国家のために務めを果たす存在であるのに、退位の判断の一要素としてその意思に反しないことを担保することすら認めないのはなぜか。国家の根幹である天皇制を守り、つないでいくためにも、意思ある存在という一面を受け止め、天皇の尊厳を守り、つないでいく立場に立って、真剣に考えてほしい。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 緊急事態における選挙について、現行では繰延投票が認められており、現に東日本大震災の際には千葉県議会選挙で、特定の選挙区が対応できず遅れて投票するという事例があった。しかし、選挙は本来、全選挙区同時に行われるのが理想である。投票が繰り延べられた選挙区では、議会の大勢が判明した後に投票することとなり、選挙の公平性に疑念が残る可能性がある。
  • 国政選挙では、両院共に比例代表制と選挙区制の二票制であり、一体のものである。比例区だけ後で選挙結果が確定する事態も起こり得る。また、選挙区選挙においても、繰延投票の結果次第では選挙全体の結果がひっくり返る事態も理論的にはあり得るし、その際には、選挙運動も同時に行われた場合とは異なるものとなるだろう。そういうことが選挙の公平性という観点から許されるのかと考えると、やはり同一議会の選挙は一体的に行われなければならないし、そうであれば緊急時には長期間議会が不在になるということも含めて議論をしなければならない。

大平 喜信君(共産)

  • 国会議員の任期延長は、国民の選挙権を停止することに他ならない。選挙権とは、憲法前文の冒頭に明記されているように、国民主権の大原則を支え、実現するための極めて重要な権利である。したがって、選挙は国民の民意が正確に議席に反映されるものでなければならない。
  • 憲法に国会議員の任期が明記され、定期的に民意を国政に反映させることとされているのは、戦前の反省からである。明治憲法下の1941年、衆議院議員の任期が立法により1年間延期され、戦争へと突き進むための挙国一致体制が作り出された。この反省から、金森徳次郎憲法担当大臣は、憲法制定議会で「任期延長は甚だ不適当」と述べ、国会が国民の代表として存在することの重要性を強調している。
  • 緊急事態には戦争や経済危機、内政の混乱が含まれており、その事態を引き起こした政府を排除し、国民が新たな代表者を選ぶ権利を行使すべきである。これこそが国民主権と民主主義であり、選挙権の停止はもってのほかである。  
  • 大規模災害に対しては、参議院の緊急集会で十分に対応できる。  
  • 日本国憲法は、戦前の教訓から権力者による濫用を排除し民主主義を徹底するために、あえて緊急事態条項を設けなかった。緊急事態のために憲法改正が必要との議論は、9条を改正し、戦争する体制を作ることが目的である。

根本   匠君(自民)

  • 一票の格差について。最高裁は、過去、投票価値の平等を相対視し、参院選の都道府県代表的性格を許容していたが、平成24年、参院選における最大5倍の格差是正のため都道府県単位の選挙制度の見直しを求めた。  
  • 昨年の参院選で合区が導入されたが、合区対象県の鳥取県と高知県の投票率は過去最低となった。合区は、地方在住者の国政への関心を低下させるおそれがある。明治以来の制度である都道府県の枠組みを無視した合区が適切か、議論すべきである。  
  • また、合区は二院制の意義にも関わる。参議院を都道府県代表と位置付けることを検討すべきである。  
  • 緊急事態における国会議員の任期特例について。東日本大震災直後の統一地方選挙が実施不可能な被災地につき、特例法を制定して首長や議員の選挙の延期及び任期の延長を行い、首長や議会の体制を維持して災害に対応した。他方、国政選挙の場合、繰延投票による投票延期は可能であるが、憲法が定める国会議員の任期は延長できず、衆議院議員不在の期間が長期化する。  
  • 憲法は参議院の緊急集会を定めるが、衆議院議員の任期満了の場合にも適用可能か、衆議院が緊急事態に対処できないことをどう評価するか、緊急集会による長期間の国政運営を憲法は想定しているか等の論点がある。将来の大災害に備えるため、憲法への任期延長規定の追加を検討すべき。  
  • 緊急事態条項における任期延長は、緊急時において国会を正常に機能させるための議論であり、党派を超えて合意が得られるものと考える。

細野 豪志君(民進)

  • 東日本大震災の時の総理補佐官としての経験からは、その時国政選挙があったとすれば繰延投票では対応しきれなかったし、緊急集会のみでの対応も非現実的であったと思う。国政選挙の延長についてはしっかり議論した上で結論を出すべきである。  
  • 緊急事態条項では緊急事態を定義するのは政府になり、私権制限や政府の権限拡大の議論に結びつく。22条・29条には「公共の福祉」による制約が明記されており、緊急事態条項を創設するまでもなく、法律で対応が可能である。  
  • 選挙の延長について、例えば「自然災害の発生その他の事情により選挙を適正に行うことが著しく困難である」という判断を立法権が行い、180日を上限に延長できることとするのはどうか。  
  • 選挙の延長は、立法権自身が決めるという原則を守るべきである。政府が選挙の延長を決めるとすると、国民が判断する権利を政府が奪いかねない。  
  • 選挙の延長を決めた場合に政府が解散すると矛盾するため、解散権の制約についても併せて議論すべきである。  
  • 緊急事態(首都直下地震や議員宿舎へのテロ等)に「3分の1」の定足数を満たさない可能性もあるため、法律で手続を定めた上で議長若しくは議長に代わる人が定足数を緩和し、常に議会が動けるようにすることも重要である。

保岡 興治君(自民)

  • 今日の憲法審査会は、憲法改正の具体的な議論が一歩進められている。このような率直な議論の展開は大変重要であり、心から歓迎したい。  
  • いかなる事態においても、国民主権及び国会の機能が万全に確保されることは、国会の重大な責任である。  
  • 南海トラフ地震が30年以内に起こる確率は7割である。首都直下型地震の場合は国政の機能も大きく損ないかねず、世界経済にも影響を与えかねない。そういう事態を具体的に想定して、国会の機能の確保を考える必要がある。また、日本では、大規模自然災害がこの100年でヨーロッパの100倍、アメリカの15倍も発生しており、この特殊性を考えることも重要である。  
  • 国政選挙の比例選挙においては、1ヶ所でも選挙ができないと、衆議院では比例ブロックで、参議院では全国で集計確定ができなくなる。比例選挙で議席を獲得している少数政党もある中、自然災害によって、政党政治における政党間のバランスが失われることも指摘しておきたい。  
  • 緊急事態における対応についての考え方を早急にまとめ、世界に対して、我が国が国会の機能確保に取り組んでいる姿を見せる必要がある。

足立 康史君(維新)

  • 緊急事態条項に関する議論に当たっては、留意点が3点ある。  
  • 一点目、緊急事態条項が事前規制であると考えると、日本維新の会が提案する憲法裁判所は事後審査である。制度の枠組みは、事前規制と事後審査のバランスをとらなければならないという観点に立てば、まずは憲法裁判所をどうするかということを議論すべきである。憲法に憲法裁判所の規定を置くか否かによって、緊急事態に関する憲法の規定ぶりも変わる。  
  • 二点目、本日は東日本大震災や南海トラフ地震などの具体的議論もあったが、立法府においては、これまで、緊急事態について抽象的な議論になりがちであった。国難に備え、どこまでのことが法律で対応できるかについて、各委員会等で議論しなければならない。  
  • 三点目、日本維新の会は、大阪を副首都にすべきと提案しているが、これは首都機能をバックアップすることである。  
  • 一票の格差については、自民党の上川幹事から国と地方の関係、憲法第8章との関連にも目配せすべきとの発言があったが、そのとおりである。日本が少子高齢化を乗り越えるためには、現在の47都道府県を所与のものとせず、国と地方の在り方、統治機構そのものまで遡ってこれからの国の在り方を議論することが重要であり、それが憲法審査会の役割だと考える。

太田 昭宏君(公明)

  • 緊急事態(特に大災害)における内閣総理大臣への権力集中や国民の権利の制限について、意見を述べる。災害発生時に、首長は全責任を負い、避難指示等をどう出すべきか、大変苦悩する。権限の集中とか法律や憲法に書くか否かとかではなく、首長の責任の重さと判断の困難さをどう支援するかをもっと具体的に検討することが重要である。危機管理法制は相当程度整備されてきており、それを拡充することが大事だと思う。内閣総理大臣への権限集中や国民の権利の制限に一足飛びに行くべきではない。

奥野 総一郎君(民進)

  • 大規模災害時等の議員の任期の延長特例については前向きに検討するべきだが、前提として緊急事態条項の要件や効果等についてきちんとした議論が必要である。
  • 自民党憲法改正草案では、緊急事態の定義が相当広い上に、判断権者は政府であるなど、相当恣意的に決めることができる建付けになっている。また、緊急事態時の権限に関しても、立法権、予算措置等、相当広範な権限が政府に与えられるようになっているが、その必要が本当にあるのか。また、この草案を前提に議論を進めるつもりなのか、自民党委員に確認したい。  
  • 緊急事態においても、基本的には国会が立法措置も予算措置も行うべきであり、そのためには、国会が機能するような仕組みを制度的に担保しておかなければならないと考える。現行憲法の参議院の緊急集会規定は、「解散時」に限定されているため、任期満了時にも開会が可能か否か、解釈、運用の検討が必要である。
  • 日本国憲法は解散後70日以内に国会を召集することとしており、長期の衆議院の不在は想定されていないため、例えば東日本大震災のように長期にわたって選挙ができない場合における任期の特例的な延長は検討する必要がある。ただ、その場合でも解散中の場合は前議員を復活させることになるため、解散権は自ずと制限される。  
  • 若者の政治参加を促すため18歳選挙が実施されたが、被選挙権年齢についても引き下げるべきである。被選挙権年齢を一律5歳ずつ引き下げる議員立法を国会に提出しているので、協力をお願いする。

古屋 圭司君(自民)

  • 船田幹事から指摘があったように、平成26年11月の憲法審査会において、共産党を除く全政党が緊急事態への対処を憲法上規定する必要性に言及している。これは、各政党を代表した公的な立場での発言であるので、極めて重く受け止めるべきである。  
  • 緊急事態における国会議員の任期延長について、繰延投票による対処が可能との言及があったが、これは法律が憲法を超越してしまうことになるため、国政選挙に当てはめることは憲法上不可能である。  
  • 細野委員から指摘のあった国政選挙の延長について、「自然災害やその他の事由によって正当な選挙が実施できない場合」もある意味では緊急事態の一つであると考える。また、これを立法府が判断するということも、一つの考え方として尊重したい。  
  • 医療従事者への従事命令など、現行法に規定されている知事による緊急指令は、3.11のときには発令されなかった。職業の自由や居住権、財産権の制約についての憲法上の疑義が生じたためである。これまで「公共の福祉」は極めて限定的に解釈されてきたからである。既に現行法に規定されている緊急事態への対応をしっかり憲法で裏打ちすることによって、知事が発令できるようにすべきだ。太田委員からも指摘があったように、知事は大きな判断を強いられることがあるので、憲法による裏打ちが必要である。  
  • 緊急事態について憲法に書き込む場合、始期と終期をはっきり明記しておくことが、限定的な対応という意味でも極めて重要である。

鬼木   誠君(自民)

  • 緊急事態条項は必要である。緊急事態条項不要との意見も拝聴したが、「国民の平和と安全を守る」という意味では同じ価値観を共有するものと信じる。  
  • 非常事態権限が最も要請される場面は、外国から武力攻撃を受けたときではないか。国として国民の平和と安全を守るには、そうした究極的な非常事態にも備える必要がある。  
  • 緊急事態に権力の濫用が起きないように、権力統制の仕組みを事前に設計するのが現代の緊急事態条項であり、国民主権、立憲主義上、整備しておかなければならない。したがって、任期延長だけでなく、緊急事態における国会の役割を定めておく必要がある。細野委員の定足数の提案はそのとおりである。あらゆる場合を想定した議論が深められていくべき。  
  • 「緊急事態とは何か」、「恣意的運用を防ぐにはどうしたらよいか」、「緊急時の権限の範囲」についても議論の余地があると思う。憲法上の不備として緊急事態に備えた真剣な議論が必要である。

中川 正春君(民進)

  • 緊急事態における「総理大臣への権限集中」と「国会議員の任期延長」は本質的に異なるため、両者は区別して議論するべきである。  
  • 「総理大臣への権限集中」については、現行憲法下においても可能であるとの前提の下で、様々な状況に対応した個別法体系が既に作られているのであるから、憲法だけ、又は法律だけで対応するといった二者択一の問題ではない。個別法では対応できないという問題が発生したときに初めて、憲法改正の議論が必要となるはずである。よって、現段階において「憲法の裏打ちが必要だから憲法改正が必要である」ということにはならない。  
  • 投票率の低下は深刻な問題である。政治教育を学校教育で行うようにしたものの、それだけでは現状を克服できないという危機感の下、何ができるか深掘りをする必要がある。高い投票率を得ているオーストラリアやベルギーなどで実施されている義務的投票制度を含め、国民の参加を促していく議論をしなければならない。

安藤   裕君(自民)

  • 緊急事態に対して、憲法で規定しなくてはならない事項と法律で対応できる事項とをしっかりと区分した上で議論する必要がある。  
  • その上で、国会議員の任期延長と解散の制限は、どうしても必要である。現行でも参議院の緊急集会はあるが、参議院の半数の議員のみで国会の議決とする場合があることには、大きな疑問がある。衆参両院がしっかりとした人数で議論して物事を決めていくという民主主義の根本を損なってはならない。国会議員の任期の延長は、憲法改正に盛り込むべきである。  
  • 一票の格差について、「一票の平等」を一番の価値とすると、議員は大都市に集中する。国土の均衡ある発展を図るため、国土のそれぞれの地域代表をいかに選んでいくかということを憲法に書き込んでよいのではないか。  
  • 衆参の役割や権限について、本質的な議論をすべきという意見に同感である。二院制が置かれているのは、民意が常に正しい選択をするわけではなく、慎重に考えるべきとの要請からだと思う。一時期の報道や世論の空気によって、必ず正しい選択が行われるわけではないという前提のもとに、衆参の役割を考えていく必要がある。  
  • 選挙を気にせず、大局的な観点から将来を考えて発言ができるような立場の院を考えておくべきではないか。かつて貴族院が置かれていたように、一時的な感情に流されることなく、大局的な観点での国論をしっかりと反映できるような両院の在り方を検討していくべきと考える。

山田 賢司君(自民)

  • 緊急事態における国会議員の任期延長規定に賛成する。  
  • 54条で解散の日から40日以内に総選挙を行うことになっているが、解散直後に大震災が発生した緊急事態であっても40日以内に総選挙をやらないといけないのか。地方議員の選挙であれば法律で対応できるが、国会議員の場合は憲法で規定されており、憲法改正で対応する必要がある。  
  • 参議院の緊急集会では最低限の議決はできるが、全国民の意思を表すことができるのか。非改選で残った半分の参議院議員が国民の声を実現できるのか否かについて、緊急事態を理由として国民に我慢させるのではなく、別の方法を予め憲法に規定しておくべき。  
  • どういう場合に任期延長できるかを平時に決め、憲法に明記すべき。憲法に明記することは、両議院で総議員の3分の2以上の賛成と、国民投票での過半数の賛成が必要であるため、予め国民の合意を得ることを意味する。  
  • 相手から戦争を仕掛けられることについても、緊急事態として検討すべきである。首都に核弾頭が落とされた場合等においても、国会を機能させることが重要であり、選挙を実施することは最優先事項ではない。

宮崎 政久君(自民)

  • 現行憲法においても投票価値の平等は、必ずしも衆議院で格差が2倍未満であること、参議院で「合区」を作ることまでは要請していない。必要であれば憲法改正等により、不適切な選挙の運用がなされないようにすべきである。  
  • 選挙権や投票価値の平等は、民主制の過程を支えるから重要だとされている。そうすると、有権者が現実に投票行動という場で政治過程にアクセスできることが必要で、現実を無視した選挙制度、区割りを作ることはできない。  
  • 平等も価値的概念であることから判例も変遷してきた。少子高齢化社会への対応と東京一極集中の是正により活力ある地域を作っていくという意味で、国民生活の実態に合わせて政治参加の在り方を作っていくべきである。  
  • 都市部と地方の投票率に格差があり、投票率の低い都市部のみで大多数の議員が選出されれば、政治の空洞化が起き、国民主権が形骸化する。議員定数の配分の場面でも、この点は考慮されるべきである。  
  • 国民の意識や生活実態を前提に、明治以来の都道府県制度の果たしている機能を生かした上で投票価値の平等を生み出すべきである。なお、道州制を前提とするのであれば、改めて立法措置が必要になる。

山下 貴司君(自民)

  • 一票の格差について、最高裁は、長らく、衆議院では3倍以内、参議院では5倍以内であれば合憲判断をしてきたが、平成23年以降、衆議院は2.13倍、参議院でも4.77倍の格差について、それぞれ違憲状態と判断するようになった。最近の事実上の判断変更の理由等が明示されていると言い難いことが、一票の格差をめぐる混乱を招いている一因ではないか。  
  • 憲法制定以来、民主的基盤を有する広域自治体として都道府県が他国の州などと同等の機能を果たしてきたが、現行の合区は、参議院議員を選出できない広域自治体を生み出すものとも言える。  
  • どの国でも投票価値の平等が保障されているが、一票の格差が2倍を超える現実があり、我が国の都道府県に相当する人口規模、立法行政機能を持つ広域自治体を合区した事例はない。これを最高裁が許さず、最も形式的に一票の格差を判断し、広域自治体の国政に関する機能を軽く見て一極集中を加速するということであれば、我々は憲法規定の変更も考えざるを得ない。  
  • 国家緊急時の議員任期延長について、現実に危機に直面された細野委員の意見には重いものがある。党派を超えて重く受け止め、議論すべきである。

辻元 清美君(民進)

  • 東日本大震災の際に総理補佐官をしていた経験から、中央政府の判断や決定には限界があり、中央政府の権限を強めるよりも、現場の地方自治体、特に市町村の権限を強めなければ被災者の支援は非常に困難になると痛感した。  
  • 緊急事態条項で総理大臣に持たせる権限の中身について、例えば自民党憲法改正草案では、行政府が立法府を経なくとも法令を制定でき、予算を付けることができることとしているが、これはワイマール憲法下のナチスと同じとも言われており、悪用も考えられる。  
  • 東日本大震災は、人類が今まで経験した災害の中で一番過酷な原発事故を伴った複合災害であり、自衛隊には非常に過酷な任務を担ってもらった。その任務を経た後、災害に関して自衛隊法の改正をすべき点を点検したが、災害関係の改正点はなかった。一方で、災害対策基本法などは地方に権限を持たせるという法改正がなされたという現実をしっかり踏まえた上で、緊急事態条項の議論をしないといけない。  
  • 有効だと言われた対策は、政府を介さずに行われた飛び地の自治体間の協力などであった。緊急事態の対応は災害等が発生してから行うものではなく、政府が日頃の積み重ねをいかに行っておくかということである。  
  • 選挙について、震災から2ヶ月後に自民党をはじめとする野党が不信任案を出し、解散に追い込まれかねない状況になった。政党それぞれの緊急事態における振る舞いも心して、選挙や政治の在り方を議論すべきである。