平成29年6月8日(木)(第8回)

◎会議に付した案件

日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(憲法第一章(天皇))

自由討議を行った。


◎自由討議

●各会派の代表者からの意見表明の概要

根本 匠君(自民)

  • 明治憲法における天皇が、国家統治の淵源であるとともに、強大な権能を持っていたのに対し、日本国憲法における象徴天皇制は、国民の総意に基づいて、国家及び国民統合の象徴的地位に立つ。象徴天皇制は国民が広く支持しており、これからも維持していかなければならない重要な憲法上の原則である。  
  • 昭和天皇と今上天皇が長きにわたって象徴天皇としての役割を果たされ、あるべき姿を示されたことで、象徴天皇制の在り方は出来上がった。  
  • 日本国憲法の解釈上、天皇が元首であるかどうかは争いがあるが、国家及び国民統合の象徴としての地位を「元首」と考える実態に合わせて、憲法上、天皇を元首と位置付けることもあり得るのではないか。ただし、憲法に明記する必要があるかについては、なお議論が必要である。  
  • 安定的な皇位継承は象徴天皇制の維持にとって重要な問題であり、真摯な議論を重ねる必要がある。  
  • 陛下が公的行為に真摯に向き合い、象徴としての役割を体現されている等の実態に合わせ、公的行為を天皇の重要な行為として、憲法上、明確に位置付けるべきではないか。その際、陛下が体現され、国民が受け止めてきた陛下の象徴としての役割を実質的に検討することが重要であり、今後の議論が必要である。  
  • 日章旗・君が代は国旗・国歌として国民に広く定着しているという実態を踏まえ、国旗・国歌や元号を憲法に明記し、我が国の理念を示すこともあり得るのではないか。一方で、国旗・国歌や元号は法律で規定されており、憲法で明記する必要があるのかという意見もあろう。憲法上明記する必要があるかについては、なお議論が必要である。
  • 憲法改正は、国会が国民に発議し、国民投票によって国民の総意を見つけ出すプロセスであるため、国会に求められているのは、選択肢を用意し、国民に示すことではないか。国民が選択する機会を設けることは、憲法で保障された国民主権の理念に沿うものである。その実現に向け、各党で検討項目を絞り込み、審査会で憲法改正に向けた議論をしていく必要がある。

岸本 周平君(民進)

  • 天皇陛下は、積極的に国民の声に耳を傾け、寄り添うことが必要との信念に基づき、象徴としての役割を果たしてこられた。  
  • 行政権を保持しない天皇を、あえて憲法において法的に元首であると規定することは、誤解を招くおそれがあるのではないか。「象徴」という言葉は既に国民に定着しており、天皇を憲法上「元首」と位置付ける必要はない。  
  • 象徴天皇制にとって、皇位の安定的継承は何より重要である。また、象徴天皇制を支える皇族方の御活動も安定的に維持されなければならない。  
  • 旧民主党政権の野田内閣において、女性皇族の婚姻後の身分の問題について「論点整理」を公表した。民進党は、女性宮家の創設が可能となるよう皇室典範を改正すべきと考える。  
  • 今般の退位に関する正副議長取りまとめや特例法案の附帯決議において、「女性宮家の創設等」について速やかに検討すべき旨が明記され、民進党の検討の成果が取り込まれた。検討結果の国会報告時期について、法案成立後1年を目途とすべきとの主張に変わりはなく、国会・政府において積極的に議論を行うよう求めていく。  
  • 安定的な皇位継承について、旧宮家の皇族復帰を認めるべきとの意見もあるが、現在の皇室とは親等が大きく離れていること、旧宮家の誰かだけを復帰させるロジックが技術的に難しいことなどから、非現実的と思われる。民進党は、女性や女系皇族への皇位継承資格拡大についても、国民的な議論を喚起していくべきと考える。  
  • 天皇の国事行為との関連で、解散権について指摘したい。歴史的には、解散権は、議会と対立関係にある王権が議会に対抗する手段として位置付けられてきたが、民主制下の議院内閣制ではこのような対立関係はない。  
  • 20世紀半ば以降、行政府による議会の解散権には強い制約が付される傾向が、ドイツ、カナダ、英国など世界的に強まっている。  
  • 内閣による自由な解散権行使を肯定する立場の憲法学者からも、解散には国民に対して信を問うに相応しい理由が存在しなければならないなどと、自制を求める意見が示されている。  
  • 内閣による解散権を内閣不信任の場合に限定するとともに、英国のように、衆議院による自律的な解散権を創設し、議院内閣制本来の姿を取り戻すことこそ、審査会が議論すべきテーマである。  
  • 今般の退位問題の議論のプロセスは、憲法改正論議にも大いに参考となる。各党各会派が真摯に向き合い、あるときは堂々と主張を述べ合い、あるときは小異を捨てて合意形成を優先するなど、両者には共通するものがある。

北側 一雄君(公明)

  • 昨年8月8日の天皇陛下の「おことば」を契機に、今上天皇の退位に関し、衆参正副議長の下に各党各会派の代表者が集まって議論を行った。そこで了承された「衆参正副議長によるとりまとめ」に基づいて退位特例法案が提出され、明日にも成立する見通しである。国会が「国民の総意」を見出すべく努力し、一定の結論を導き出したことを率直に評価したい。  
  • 国民主権の下で象徴天皇制が安定的に維持・継承されるためには、国民の理解と支持が何よりも重要である。「おことば」にあるとおり、象徴天皇の姿を自ら模索し、創ってこられたのは今上天皇であり、こうした御活動を通じて、多くの国民も陛下を身近に感じ、深く敬愛してきた。  
  • 天皇の行為は、@憲法に明記された13の国事行為、A象徴としての地位に基づく公的行為、B私的行為などその他の行為、の三つに分類される。公的行為は、憲法上の明文の根拠はないが、その時代時代の天皇の思いが国民の期待とも相まって形作られるものと理解される。多くの国民も、天皇陛下が「日本国の象徴」、「国民統合の象徴」として大きな役割を果たしていると受け止めており、公的行為は国民とともにある象徴天皇の重要な行為であって、憲法上も当然認められる。  
  • 「天皇は国政に関する権能を有しない」と定める4条1項は、天皇に政治上の責任問題が生ずるおそれをなくすことによって、国民主権の下、象徴天皇制を安定的に維持する趣旨と考えられ、政治の側からは、天皇の政治的利用が禁じられていると解されている。また、天皇の意思を退位の要件とすることは、同項に抵触する疑いがあると考えられる。  
  • 皇室典範では、皇位継承資格は「男系男子」・「嫡出」と規定され、皇族女子に皇位継承資格を認めていないため、婚姻に伴う皇籍離脱制度が採用されたと説明されている。また、皇室制度の主な目的は、@皇位継承者を確保すること、A皇族として天皇を支え、皇室活動を担うことにあると考えられる。  
  • 安定的な皇位継承の確保と皇族制度の維持は、いつまでも先延ばしにできない極めて重要な問題である。政府でも議論されてきたが、野田内閣での「論点整理」が指摘するように、@安定的な皇位継承の確保の問題とA皇族数減少の中での皇室活動の維持の問題を、当面切り離して議論することは必要である。拙速な議論を慎み、一定の時間軸の中で国民意識や皇室の状況等も見極め国民合意を形成していくことが適切である。政府に検討を要請するとともに、国会においても引き続き丁寧かつ慎重な議論を積み重ねていきたい。

赤嶺 政賢君(共産)

  • 日本国憲法は、前文と1条で国民主権の大原則を確立し、天皇主権の明治憲法から根本的に転換した。  
  • 明治憲法は絶対主義的天皇制であり、天皇主権の軍国主義の下、日本は侵略戦争に突き進んだ。  
  • ポツダム宣言は@軍国主義の駆逐、A民主主義的傾向の復活・強化に対する一切の障害除去、という2点を求めたため、日本国憲法制定に当たり、天皇主権から国民主権の転換は不可欠であった。  
  • しかし、日本政府は、憲法改正不要・国体護持に固執した後、国民主権を明記しない憲法草案を議会に提出したが、国民主権への転換を迫る国際社会と日本国民の批判を受け、最終的に憲法制定議会において、政府案を修正して国民主権を宣言した。  
  • 国民が主権者であるからこそ、天皇の行為は13の国事行為のみと限定し、国政に関する機能を有しないと明記した。天皇の機能を非政治的で形式的、儀礼的なものに留め、天皇の政治関与を徹底的に排除した。侵略戦争が天皇の名の下によって進められた反省からきたものと言うべきである。  
  • しかし、歴代自民党政権の下、天皇の政治利用がたびたび国会でも問題となった。その端的な例が第二次安倍政権の主権回復の日(4月28日)の式典である。4月28日は、沖縄にとっては、平和条約によりアメリカ占領下に置かれた屈辱の日であり、主権回復の日とする国民的合意はなく、このような式典に天皇の出席を求めることは、時の内閣の都合や政治判断で天皇を意のままに動かそうとする天皇の政治利用にほかならない。  
  • この式典は「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍政権の下で行われた。戦後レジームからの脱却とは、戦後の民主化の中心である日本国憲法の平和民主主義の原則を根底から覆そうとする政治的な意図を持ったものにほかならない。  
  • 自民党憲法改正草案1条において「天皇は、日本国の元首」と定めているが、国民主権の原則と相容れないことは明白である。さらに、同草案は、「国事に関する行為のみ」の「のみ」を削り、公的な行為を行うと規定している。天皇を国政に関与させてどうしようというのか。このような改憲を国民が求めていないことは明らかである。  
  • 2年前、安倍政権は国民多数の反対を押し切り、安保法制を強行した。また、2020年という期限を区切り、9条改憲を提起し改憲案の年内取りまとめを自民党に指示している。一方、沖縄では圧倒的多数の民意を踏みにじり、住民の反対を押し切り、辺野古新基地建設を強行している。民意無視の安倍政権に抗して、平和主義、国民主権、民主主義の諸原則を貫く戦いが重要である。

足立 康史君(維新)

  • 皇室は、憲法よりも遥かに長い歴史と伝統に根差したものとして国民に受け入れられており、我が国のアイデンティティの根幹を成している。我が党は、憲法の定める象徴天皇制を堅持し、その安定的な継続のために必要な議論はしっかりと行うべきと考える。  
  • 現状において、憲法を改正するべき立法事実は1章には存在しない。にもかかわらず、民進党の要請で1章をテーマに審査会がセットされたが、民進党は、改正するべき立法事実があると考えているのか。  
  • かつて天皇制廃止の発言を繰り返し、著書で皇室を嫌悪した辻元幹事が、憲法遵守義務のある国会議員となった後も何の弁明もなく、憲法審査会の要職にあることは適当ではない。武正筆頭や辻元幹事には、必要な弁明を行うとともに、民進党が1章を敢えてテーマに取り上げ、何を議論しようとしているのか明確にする義務がある。  
  • 同じことは、天皇制について、将来情勢が熟したときに国民の総意で解決すべき問題としつつ、世襲制は民主主義・平等原則とは両立しないとして、民主共和制を目指す共産党についても言える。  
  • 皇位継承については課題があり、その一つが超高齢化社会における在り方である。天皇陛下が御公務を果たし得ず、国民との接点もない状態が長時間続く場合でも常に終身在位制とするべきかにつき、昨年8月8日の天皇陛下の「おことば」で重い問いかけがなされた。これを契機に譲位を認めるべきという国民の意思も明らかになり、天皇退位特例法が作られた。同法は、形式は一代限りの特例法だが、皇室典範と一体をなすものとして今後の皇位継承に当たって事実上の規範として機能するべきものである。  
  • 二つ目の課題は、皇族数の減少に伴う諸問題である。高齢化や女性皇族の結婚に伴う皇籍離脱によって、皇室の御公務の維持や皇位継承資格者の確保が難しくなることが考えられる。国会で早急に協議する場を設けるべきである。  
  • 女性宮家について、我が党は賛成とも反対とも決めておらず、今後党内で議論するが、政府は公務負担軽減のみを目的として検討し、皇位継承の問題と切り離すとのことであり、この点については我が党も理解する。  
  • 女系・女性天皇の是非は極めて重要な問題であるため、国として検討を始めるのであれば慎重な国民的議論が必要であり、これまで続いてきた男系による皇位継承を軽々にゆるがせにするような検討の仕方は避けるべきである。

照屋 寛徳君(社民)

  • 明治憲法下の天皇は、現人神であり、その地位は神勅に基づくものとされ、その権威に基づいて統治権の総攬者とされて、国家権力の全ての作用を一手にしていた。これぞ天皇主権の国家体制である。  
  • 1条は国民主権と象徴天皇制を不離一体のものとして定め、前文は三大原理の一つである国民主権を宣言している。国民主権とは、国を動かす力が天皇ではなく国民にあるということであり、1条で天皇の地位は神勅ではなく「国民の総意」に基づくものとされた。神でなくなった天皇は、国家権力を動かす根拠を失い、形式的・儀礼的な国事行為しかできなくなった。  
  • 自民党憲法改正草案1条では天皇を「元首」と規定しているが、社民党はこれに反対である。同草案のQ&Aは「我が国において、天皇が元首であることは紛れもない事実」と説明しているが、日本で諸外国の元首に該当するのは内閣又は内閣総理大臣とするのが憲法学者の多数説である。  
  • 自民党憲法改正草案前文では「天皇を戴く国家」と規定しており、天皇の神格化と天皇中心の国作りを目指すものと強く批判せざるを得ない。  
  • もし自民党憲法改正草案のとおりに憲法が改正されると、天皇の仕事は大幅に変わる。憲法4条は「天皇は、国事に関する行為のみを行ひ」と規定しているが、同草案では「のみ」の文言が外れており、天皇は国事行為以外の行為もやり易くなる。  
  • 自民党憲法改正草案6条4項は、憲法7条の「内閣の助言と承認」を「内閣の進言」に変更している。「進言」は目上の者に対して意見することを指す言葉であり、天皇が内閣より上という天皇中心の国作りの意図が見え見えである。  
  • 自民党憲法改正草案6条5項で「公的行為」を明言していることも問題である。内閣が関与しない公的行為の明記は、天皇の権限強化であり、国民主権に反する。  
  • 象徴天皇制とは、「天皇が日本国の象徴としての役割を積極的に果たしていくことではなく、象徴としての非政治的行為しかできないという意味である」との憲法学者の意見を肝に銘ずるべきである。  
  • 2013年4月28日、安倍内閣は、天皇陛下臨席の下、沖縄にとっては屈辱の日である講和条約発効日に因んだ主権回復・国際社会復帰を記念する式典を挙行し、天皇の政治利用であると批判された。改憲の上で公的行為の拡大を明確にすることは、このような政治利用を加速させる。  
  • 自民党憲法改正草案102条2項では、憲法尊重擁護義務規定から天皇・摂政が削除されている。これは立憲主義に反し、天皇の憲法逸脱行為と天皇の政治利用を企む権力者の野望に資するものであり、社民党として強く批判する。

●委員からの発言の概要(発言順)

船田 元君(自民)

  • 憲法に定められた国事行為から、対外的には天皇は元首であると位置付けることも可能だが、国事行為は全て内閣の助言と承認によってのみ行われることや天皇は権威を持つが権力は持たないという定説に鑑みれば、元首という表現はふさわしくないと考えてよいのではないか。  
  • 公的行為は象徴としての天皇の役割を具現化するものであり、国事行為と同様に重要なものである。これを憲法に位置付けることは大事なことである。  
  • 憲法上、皇位継承は皇室典範に委ねられており、憲法改正には直接関係ないが、憲法に密接に関連する附属法であるので、その内容を議論することには意義がある。  
  • 現在、皇位継承者が極めて少数で、皇族の危機である。旧宮家復活論があるが、旧宮家は70年以上皇室を離れており国民にはなじみがなく、覚悟を持つ旧宮家の方もそう多くないとのことである。旧宮家復活や養子は現実的手段ではない。  
  • 女性宮家の創設は、象徴天皇の職務を助けるのに有効な手段であり、また、将来の女性天皇に道を開くという点で、賛成である。  
  • 女系天皇について、125代にわたり男系が続いてきたという重い歴史を崩すことは躊躇しなければならないが、天皇家の世襲が途切れる最悪の事態との比較において議論する余地はあるのではないか。

津村 啓介君(民進)

  • 象徴天皇制を巡る本質的かつ喫緊の課題として、@皇族の減少と高齢化に伴う公務負担の在り方の問題、A男性皇族の極端な減少を直視した皇位の安定的継承の確保の問題がある。  
  • 民進党は、@女性宮家の創設が可能となるよう皇室典範を改正すべきとの提案と、A皇位継承資格を女性や女系に拡大することについて国民的議論を喚起していくべきとの提案をしている。  
  • @の女性宮家は、この1年が決定的に重要な緊急の課題である。  
  • Aの女性天皇については、愛子内親王殿下が成年になるまでに男系女子の皇族に皇位継承資格を拡大する皇室典範の改正をし、皇太子になってもらうべきである。  
  • 平成17年の「皇室典範に関する有識者会議報告書」では、皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが適当とされていた。  
  • 男系男子の皇位継承が長期的にみてリスクにさらされていることは、根本的に解決しておらず、歴史上、男系女子の天皇の前例もあり、伝統を維持する当面の方策として、女性天皇の容認は急ぐべきテーマである。  
  • 旧宮家の皇族復帰については、現在の皇族と30親等以上離れていること、優先順位、手続、多くの旧宮家が辞退していることなど問題点が多い。

山尾 志桜里君(民進)

  • 現憲法下で天皇陛下は象徴行為を大切になさり、現に国民統合の象徴として国民の敬愛を受けていることから、象徴行為の意義を共有すべきである。  
  • 高齢化社会において、時の天皇陛下が御活動を十全になさるために、生前退位による譲位が制度として必要とされている。今回は特例法形式が採られたが、政府答弁で「先例となりうる」ことも確認され、今後、皇室典範改正による恒久的制度化も国民的議論となっていくのではないか。  
  • 皇位継承や皇室の御活動を不安定にしている現行制度の見直しが必要であり、女系・女性天皇、女性宮家の議論を速やかに開始すべきである。  
  • 男系継承という歴史的経緯の尊重は正当性を持つと思うが、将来に向けた皇位継承が不安定になるのであれば、考え直されて然るべきである。  
  • 皇室典範特例法の附帯決議では、このような諸課題について「本法施行後速やかに」、政府が検討を行い国会に報告することとされたが、議論の開始を退位後に先送ることは適切ではない。  
  • 制度如何で人生が変わる女性皇族方がいらっしゃること、男系男子の限定は男子の御世継ぎ誕生への期待を不可避的に伴うことを深刻に受け止め、政府及び国会は速やかに議論を開始すべきである。

赤枝 恒雄君(自民)

  • 性同一性障害の場合に、男性が女性に、女性が男性になることができる状況にある中で、皇位継承について、男性か女性かを議論することはむなしいことである。皇位継承の問題は、Y染色体と常染色体の問題として解決することが合理的かと思う。

大平 喜信君(共産)

  • 教育勅語は、天皇主権体制を根拠付けるものとして、臣民が従うべき道徳律を説いており、天皇のために命を投げ出す思想が叩き込まれ、侵略戦争推進のてことされた。したがって、軍国主義を駆逐し、民主主義と国民主権が確立された下で、教育勅語の排除は当然である。  
  • しかし、安倍政権では、「憲法や教育基本法に反しない形で教育勅語を教材として用いることは否定されない」との閣議決定や相次ぐ閣僚の発言など、教育勅語を肯定する動きがある。  
  • 教育勅語の使用は、1948年の衆議院・参議院の決議をはじめ、戦後の国会の議論で何度も否定されてきた。  
  • 教育勅語は、侵略戦争を否定し、国民主権と民主主義を掲げた日本国憲法に反しており、どのような形であっても教育の中で使うことはできないことは明白である。  
  • 安倍政権が教育勅語を肯定しようとするのは、自民党改憲草案で天皇を元首としているように、国民主権を制限しようとする姿勢の表れである。9条改憲発言に見られるように、戦争ができる国につくりかえようとしている。

鬼木 誠君(自民)

  • 日本国憲法が天皇の神聖性、正統性が語られない憲法となっていることに歴史の断絶を感じる。日本の歴史において天皇とはどういう存在だったのか日本人が改めて学ぶべき時が来ている。  
  • 天皇の祭主として祈る役割は憲法上保障されず、むしろ政教分離によって否定されている。憲法上保障されているはずの信教の自由がかえって不自由になっていないか。  
  • 義務教育で日本の神話を教えるのも困難である。神話とは何千年語り継がれてきた民族の歴史であり、記憶である。日本の憲法は日本の歴史とアイデンティティを守る憲法であるべきである。  
  • 天皇の定義さえも変わってしまいかねない女性宮家の議論に危惧を覚える。日本の天皇は例外なく男系で継承されてきた。王朝は男系で継承するというのは、世界でも普遍である。女系で継承すれば、そこから先は違う王朝になる。  
  • 女性宮家に対する代替案は旧宮家の皇籍復帰である。過去にもそうした危機は必ずあり、最大10親等、200年まで遡った。そうして日本の天皇の歴史は男系で継承を続けてきた。

辻元 清美君(民進)

  • 30年程前の学生のときに先程指摘のあったような発言を行い、天皇制に疑問を抱いたことがある。それは、祖父が戦死し、戦前の天皇と戦後の天皇の在り方について疑問を持っていたからである。しかし、その後土井たか子氏から、日本国憲法の下で日本は生まれ変わり戦争放棄の国になったこと、憲法に規定されている象徴天皇を尊重しなければならないこと、平和主義と象徴天皇の関係を学び、自分の考えが一面的だったと痛感し、深く反省した。その後、様々な議論を積み重ね、象徴天皇の歴史的背景や立憲主義の大切さ、国会議員が憲法尊重擁護義務を負うことの重みをかみしめるようになった。  
  • 天皇皇后両陛下がアジアで現地の戦争犠牲者の慰霊をされる姿に感銘を受けた。天皇陛下が「象徴天皇の在り方を模索してきた」と発言された重みをしっかりと受け止めなければならない。日本国憲法の平和主義の理念を体現するという強い決意を天皇皇后両陛下から感じている。  
  • 多角的な面を持って象徴天皇制の在り方を議論しなければならない。象徴天皇制と平和主義の関係について議論を深め、過去の戦争のようなことが二度とないようにしていくことを審査会でも提起させていただく。

安藤 裕君(自民)

  • 私は、皇位継承を国民的な議論にすることに違和感を覚える。皇位継承についての先人たちの努力を深く理解している国民は、国会議員も含め、少ない。  
  • 私たち保守政党が一番大事にしなければならないのは、現代人の考え方ではなく、先人たちが培ってきた知恵である。天皇制は二千年以上継承されてきた制度なので、我々の考え方だけでそれを変えていいのかとおそれを抱くのが保守主義の考え方である。  
  • 皇位継承を続けることについて一番真剣に考えておられるのは天皇陛下及び皇族の皆様である。したがって、まず天皇陛下又は皇太子殿下がどのようにお考えなのかをどなたかがまとめ、それに従っていくというのが本来の日本の皇位継承の知恵である。  
  • 日本では権威と権力は分離してきた。国会は国の政治権力の頂点であり、その政治権力者が権威に対し口を出すことには、抑制的でなければならない。皇室典範は皇族で決めていただき、我々はそれに従うというのが日本古来の知恵であり、我々が皇位継承について議論するのは本来の日本の知恵ではない。

土屋 正忠君(自民)

  • 大平委員の教育勅語と学校教育に関する発言については、公立学校と私立学校とを分けて議論すべきである。私立学校の教育勅語的規範に基づく教育を禁ずることは、教育の自由等に抵触する。宗教団体が設立した学校がその教義に基づいて一定の教育を行うことも、我が国は教育の自由によって保障している。  
  • 天皇を元首とすることには相当抵抗がある。象徴の方が、天皇の歴史上の存在にふさわしい。象徴から元首に改めることは、格下げである。  
  • 天皇の存在は、天皇が権力の具体的な執行から離れてから数百年の歴史があることを踏まえ、検討すべきである。  
  • 地方自治の議論に当たっては、現場の意見を多数聴いてもらいたい。基礎自治体も、人口が168名の東京都青ヶ島村から370万の横浜市まで様々ある。今後の地方自治がどのように変化するか、慎重に考えるべきである。

照屋 寛徳君(社民)

  • 社民党は、今般の退位に関する党内議論の結果、@今上天皇の退位を認めるべきこと、A恒久的退位制度を検討すべきこと、B特別法ではなく皇室典範の改正によるべきこと、C引き続き皇位継承問題を議論すべきこと、を決定した上で衆参正副議長の下での議論に参加し、まとめられた退位特例法案に賛成した。  
  • 皇室典範は、憲法の基本原則に合致するよう、不断に見直しを行うことが求められている。とりわけ皇位継承の問題について議論を急ぐべきである。  
  • 皇位継承資格について、憲法2条は男女の区別や男系・女系の区別をしておらず、皇室典範で「男系男子」とされているにすぎない。女性・女系天皇について世論の多くも支持しており、「男系男子」に限ることに合理的根拠もなく、国際的にも民主主義の見地からも問題がある。  
  • 皇位継承は、憲法の原則に則り、象徴天皇の皇位継承として解決されるべきである。男女平等の観点から、女性にも継承資格があるのは当然であり、女性・女系天皇を積極的に認めるべきである。  
  • 今後も引き続き、女性・女系天皇や女性宮家などの論点について議論を行っていくことを望む。

山下 貴司君(自民)

  • 女性宮家の問題には、皇位継承の問題と婚姻後の女性皇族の皇族としての御公務継続の問題の二つの側面があるが、皇位継承の問題とは切り離すべきである。これまで天皇の地位が男系で引き継がれてきたという歴史的事実に加え、女性宮家創設が皇位継承順位の事後的変更をもたらすからである。  
  • 直系・長子優先を採用した場合、悠仁親王殿下の皇位継承は事実上なきものになり、秋篠宮殿下の皇位継承もなきものになり得る。皇位継承の安定についての議論は必要だが、既にある皇位継承順位の人為的、事後的な変更には、私は極めて消極的である。また、戦後に皇籍離脱した旧宮家の皇籍復帰についても、最初から排除すべきでない。  
  • 婚姻後の女性皇族の皇族としての御公務継続については、まずは、天皇の公的行為や皇族の行為を憲法上位置付けるべきである。しかし、そのために女性宮家を創設することについては慎重であるべきである。女性宮家創設は、宮号を持つ個人の問題ではなく、その配偶者やその子孫の身分など家族全体に及ぶ問題である。個人としての公務継続の問題を家の問題にすることには違和感がある。  
  • 憲法審査会は、9条の問題から顔を背けている。与野党ともこの議論から逃げるべきではない。

大平 喜信君(共産)

  • 土屋委員より、教育勅語に関して公立学校と私立学校を分けて考えるべきとの意見があった。安倍政権の閣議決定や各閣僚の発言においても、公立・私立を分けているわけではない。  
  • 問題は、戦後教育の根本原理である日本国憲法・教育基本法と教育勅語は相容れないという点である。だからこそ、国会において全会一致で排除され、歴代の文部大臣も否定し続けてきた。それを復活させることは許されず、批判は当たらないと考える。

保岡 興治君(自民)

  • 平和国家日本が戦争を終結して新しい第一歩を踏み出したことは、天皇陛下の御聖断あってのことであり、その思いは日本国憲法の公布の日の勅語によく表れている。  
  • そういった意味で、安倍総理の終戦70年談話にあるように、これからは実力で国の主張を切り開くことはしない、悲惨な戦争を二度と繰り返してはならない、平和愛好国を子孫に渡していく、それが日本の行くべき道の基本であり、これが憲法の精神の一番大事なところだと思っている。  
  • 9条についてどう議論するかという発言もあったが、これらを基礎に、日本がどういう形で平和や存立を維持し、国民の平和と幸せを確保し、人類の平和や繁栄に貢献するかを議論すればよい。

武正 公一君(民進)

  • 昨年の今上天皇の「おことば」に端を発し、政府・国会で議論が続けられてきた皇位継承問題について、審査会でも議論することを提案してきたところ、本日、テーマとして1章が採り上げられることとなった。  
  • 外国憲法で第1章に王や王室が位置付けられる例は少ない。  
  • 天皇は国民統合の象徴であるから、皇室制度が持続可能な制度として広く国民の支持を得られることが肝要である。  
  • 各国から事実上元首と扱われているからといって、天皇を元首に位置付ける改正はふさわしくない。  
  • 「おことば」に端を発することを理由に、皇位継承の議論の進展に異を唱える論調があったことは残念だ。皇位継承問題について政府で続けられてきた取組を、平成25年に白紙に戻したのが安倍内閣である。退位特例法案の附帯決議で女性宮家等の速やかな検討が合意されており、国会での積極的な議論の必要は論を俟たない。  
  • 戦後の23回の解散のうち、内閣不信任決議案の可決によるものは4回しかない。解散に関する国王大権が廃止されたイギリスの例などを踏まえ、我が党としては、解散権の在り方について議論を深めたいと考えている。  
  • 9条の議論に顔を背けているとの指摘があったが、審査会では、平成25年に9条を含む各章ごとの検証を行った。与野党で丁寧な議論を行うということでテーマは選定されており、多数決で発議内容を決めるのではなく、各党の合意の下で審査会を進めて行くべきである。

上川 陽子君(自民)

  • 前国会及び今国会において、憲法審査会は9回にわたり、参考人への質疑も含め様々な議論をしてきた。各審査会における発言要旨は憲法審査会ニュース等において紹介しており、国民もその内容を広く理解できるようになっている。  
  • 会長及び会長代理は、これから更に議論を深掘りしていくために、これまでの議論を総括するようなレポートをまとめていただきたい。これを、次のステージの議論を深めていくためのものとして発表できればよいと思っている。  
  • さらに、憲法改正は、国民投票によって国民の総意を見つけ出すというプロセスを大切にしながら進めて行くべきものであり、それが国民主権の理念に適うものと考えている。したがって、審査会においても、具体的で、現実的な案を提起できる場を深めていくようにお願いしたい。

土屋 正忠君(自民)

  • 教育勅語に関する大平委員の反論に対し、教育の自由には、その背後に思想信条の自由と信教の自由が根本的な発想としてあることを指摘しておきたい。  
  • 相当数の国民は、女性天皇と女系天皇を区別できていない。天皇制の議論は、このような点について国民の大多数が理解できるようになった上で、議論を深めていくことが大事である。天皇制は、日本の在り方に関することでもあるため、国民と一緒に考えていきたい。

北神 圭朗君(民進)

  • 心配しているのは、皇位継承の問題である。できれば「男系男子」でやるべきだと思う。合理性だけでは割り切れないものが世の中にはあるし、「女系」になると皇統が変化してしまう。  
  • (皇室は)日本の精神的な帰属意識、アイデンティティそのものである。北畠親房の『神皇正統記』は、中国や天竺との比較において我が国の本質とは何かを著したものであるが、絶えず易姓革命が行われている中国と我が国は違うということを示しており、この点は大変尊重すべきである。  
  • 側室制度の回復や養子縁組が難しい中で、皇室が絶えないことが一番重要である。旧宮家の復活なども含め、できるだけ可能性を探求すべきである。ただ、早く決めていかなければ時遅しになると危機感を覚えている。  
  • 安全保障の議論をすべきであり、9条についても積極的に審査会で取り上げていただきたい。

太田 昭宏君(公明)

  • 諸外国の憲法等では国民主権は憲法の最初に書かれているが、現行日本国憲法では天皇のところに国民主権が書かれている。これは、憲法をつくる時の状況が反映されたものであり、1条が激烈な戦いの果てに形成された重みを考えて論議していくのが審査会の役割である。  
  • 象徴天皇は戦後になってから謳われたものではない。日本の天皇制は、権威はあれども権力は持たず、「象徴」が本質であり、権威の究極の拠りどころ、国民の尊崇の念の対象である。これからも象徴天皇を貫くことが大事である。  
  • 尊崇の対象としての天皇がいかなる振る舞いの中で形成されるのかといえば、本来の国民・国土の安寧を祈る存在ということからすれば、私的行為はかなり本質的なものである。  
  • 公的行為については、昭和天皇や今上天皇が象徴天皇とはいかにあるべきかを模索されてきたその深いお考えを受け止めるべきである。そして、その思いを今上天皇が抑制的に述べられたのが、昨年8月8日の「おことば」である。  
  • 公的行為が象徴天皇に加わって初めて、天皇に対する敬愛の情が国民に生まれたという事実を認識すべきである。  
  • 公的行為については、それぞれの天皇が思いを承継しながらその形を発揮していただきたい。公的行為を憲法に規定することは慎むべきである。  
  • 象徴天皇は、権威は持つが権力は持たない存在であり、ヨーロッパの王とは違うことから、その本質からして元首とすべきではない。

中谷 元君(自民)

  • 本日のテーマである第1章天皇について、各党代表及び各委員から幅広い議論が展開された。かなりの論点が出され、国民的議論になったと思う。  
  • 今国会のそれぞれのテーマにおいても、濃密な論点が展開された。今後、テーマごとに論点整理を行い、より深い議論をする必要がある。  
  • 9条の問題を議論すべきとの発言もあったが、平和主義をどうすべきかは大事なテーマであり、改正賛成・反対の立場からしっかりと議論したい。審査会での議論ができるよう、よろしくお願いしたい。