◎会議に付した案件
1.元委員故福岡宗也君(4月11日逝去)に対し、黙祷をささげた。
2.幹事の選任
幹事 佐々木陸海君(共産)
3.日本国憲法に関する件(日本国憲法の制定経緯)
上記の件について参考人五百旗頭真君及び天川晃君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
神戸大学大学院法学研究科教授 五百旗頭 真君
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授 天川 晃君
(五百旗頭真参考人に対する質疑者)
(天川晃参考人に対する質疑者)
◎五百旗頭真参考人の意見陳述の要点
1 憲法制定をめぐる経緯(第9条を中心に)
- マッカーサー・ノートによる侵略戦争及び自衛戦争の明確な否認
- ケーディスによるマッカーサー・ノート第2項の修正(自衛戦争の容認)
- 芦田修正及び極東委員会による文民条項挿入要求
- 第9条に関するマッカーサー、吉田等による「顕教」(徹底した平和主義の表明)と「密教」(自衛は可とする内心の意図)の使い分け
2 制定経緯の意味するもの
- 日本政府の自由意思によるものではない憲法の制定とその有効性
- 現行憲法に対する国民の支持と戦後の復興
3 今後の視点
- 冷戦終結による国際環境の変化と国民の憲法に対する意識の変化
- 自助努力、同盟友好、国際システムの三つのレベルによって重層的に、我が国の安全保障を高めていく必要性
- 「異端としての改憲論」(押しつけであることを理由とする改憲論)の衰退と「正統としての改憲論」(国民的な必要性を踏まえた改憲論)を展開していく重要性
◎五百旗頭真参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等
自由民主党:平沼 赳夫君
- 日本国憲法がGHQによって押しつけられたとする観点は重要であり、道徳の荒廃等、現在、我が国が直面している様々な問題も、これに遠因があると思うが、いかがか。
- 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」とする前文と、芦田修正により自衛戦争を容認することが明確化された第9条は、矛盾しないのか。
民主党:樽床 伸二君
- 時代の流れに合う憲法を作るためには、憲法制定時の経緯にとらわれず、イデオロギーを脱却した改憲論が必要ではないか。
- 第9条について不明瞭な解釈を続けるよりも、自衛権を認めた上で明確な表現に改めるべきではないか。
公明党・改革クラブ:福島 豊君
- マッカーサーや吉田等が参考人のいう「顕教」と「密教」を使い分けたことが、国民の安全保障観をゆがめたのではないか。
- ドイツでは「顕教」と「密教」の使い分けのようなことはなかったと思うが、日本とドイツの憲法制定経緯の違いは何か。
- 安全保障については若い世代において意識が乏しく、世代間のギャップがあるのではないか。
日本共産党:佐々木 陸海君
- 第9条は制定当初から自衛権、国際安全保障を認めていると解釈できるのか。
- アメリカの対日政策の転換による再軍備の過程を憲法との関係でどう考えるのか。
保守党:中村 鋭一君
- 芦田氏が第9条の修正をケーディスに申し入れに行った真意は何か。その際、自衛のための戦力を持ち得ることを確認すべきではなかったのか。
自由党:二見 伸明君
- マッカーサーと幣原の両者において、戦争放棄条項に自衛戦争を含むか否かの解釈の相違はあったのか。
- 集団的自衛権の行使を認めない内閣法制局の解釈には疑問があるが、いかがか。
社会民主党・市民連合:辻元 清美君
- 第9条以外の部分をいかに評価しているか。
- 環境アセスメント法、情報公開法に抵抗している人が、憲法に環境権、知る権利を明記すべきと主張する状況をどのように考えるか。
◎天川晃参考人の意見陳述の要点
1 憲法第8章(地方自治)制定の経緯
- 日本側改正案(地方自治を盛り込んだのは、佐々木惣一案のみ)
- GHQ案のlocal governmentが直接の起源
(1) 占領政策における非軍事化及び民主化の具体化
(2) 地方自治規定を重視する者(ラウエル)の存在
(3) GHQ案に盛り込まれた首長の公選、自治権及び特別法に係る住民投票に関する規定
- GHQと日本政府との折衝過程における修正
(1) 第8章新設に対する日本側の態度(地方自治の章を新設することについて反対せず)
(2) 明治時代以来の地方自治の連続性の重視→「地方自治の本旨」
(3) 府県及び市町に固定化しない「地方公共団体」の新設
(4) 首長の直接公選制(日本政府の修正要求は認められず)
2 憲法草案発表のインパクト
- 敗戦直後の時代状況
(1) 戦時体制への反発→「非軍事化」
(2) 新しい日本の再建→「民主化」
(3) 占領政策とのギャップの顕在化が自発的な変革を促進
- 地方制度をめぐる動き
(1) 戦時:中央集権化及び道州制導入への動き
(2) 戦後:自治権の拡張の動きの復活
- 憲法草案発表のインパクト(1.知事の直接公選制への傾斜、2.事実上の首長公選の実施、3.公選知事官吏制への反発、4.知事公選制の定着と道州制導入論の後退)
3 結論
- ミクロ的アプローチ(個別の条文に係る制定経緯の検討)の必要性
- 時代の背景との関わりを考える必要性
◎天川晃参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等
自由民主党:森山 眞弓君
- 衆参各院の果たすべき役割の明確化とそれに合った議員の選任方法の選択が必要であると思う。ところが、選任方法についての議論は第43条の規定の制約を受けるので、これを見直したい。このようなことを含めて、国会がいかにあるべきかという観点から憲法の国会に関する条文を見直すべきであると思うが、いかがか。
- 人権の過度な主張は問題である。人権を制限する「公共の福祉」の概念について、具体的な指針を示すべきであると思うが、いかがか。
民主党:鹿野 道彦君
- 我が党の主張する「論憲」とは、21世紀の社会の構想の中で、それにふさわしい憲法を論じるものであるが、これに対する参考人の意見を伺いたい。
- 分権連邦型国家を目指す上で、広域行政制度と知事公選制の関係をどのようにしていくべきか。
- 地方自治においては、国と地方の役割の明確化が重要だと解するが、地方公共団体を「地方政府」と位置付けることで、その役割及び「地方自治の本旨」の内容が明確になるのではないか。
- 憲法の趣旨の実現のためには、地方自治法などのいわゆる憲法の附属法を適切に定める必要があるのではないか。
公明党・改革クラブ:平田 米男君
- マッカーサー・ノート、GHQ案、芦田修正、文民条項といった憲法の制定過程の流れから、第9条の解釈の在り方をどう読み取るべきか。
- 講和条約第5条c項には、日本が個別的又は集団的自衛の固有の権利を有するとあるが、これを第9条の制定過程とどう関連付けるか。
- 現在、日本の地方制度は都道府県と市町村の二層構造となっているが、憲法は本来どのような制度を想定しているのか。
日本共産党:春名 直章君
- 首長の直接選挙制は、戦前の官選知事等の制度が翼賛体制を構成し、侵略戦争を推進したという反省から生じたものではないのか。
- 大日本帝国憲法下では、地方制度は存在したが、地方自治という考え方は存在しなかったのではないか。
- 日本側は、GHQ案になかった「地方自治の本旨」を提案したにもかかわらず、首長の直接選挙制に反対したのは不可解である。この場合の「地方自治の本旨」とはどのような意味であったのか。
- 「地方自治の本旨」に課税自主権が含まれていると思うが、いかがか。
- 第8章の地方自治の規定は、世界の憲法の流れを受け入れたものといえるのか。
保守党:中村 鋭一君
- 地方議会議員間の優劣はなぜ生まれるのか。
- 都道府県を廃止し、全国を300の市に編成するという政策に対する意見を伺いたい。
- 第8章には、法律に授権している部分が多いが、憲法の条文で明確に定めるべきではないのか。
自由党:二見 伸明君
- 首長の多選が権力集中につながるとして問題視されているが、憲法制定過程において、多選禁止についての議論はされなかったのか。
- 警察制度に関しては、第9条からと第8章からの2種類の捉え方が検討され得るという考え方について説明されたい。
社会民主党・市民連合:辻元 清美君
- 戦後、第8章はどのような役割を果たしたのか。
- 日米新ガイドライン関連法案審議の際、地方自治体に対して後方支援を求められるとすることが第8章に違反するかどうかが問題となったが、参考人はどう考えるか。また、地方分権を推進することが非軍事化の上でも重要ではないか。
- 現行憲法は様々な先見性を有しているが、法律が憲法の理念を活かしているか検証するべきである。地方自治法はその点で不十分であると解するが、いかがか。