平成12年8月3日(木)(第1回)

◎会議に付した案件

1.日本国憲法に関する件(今後の憲法調査会の進め方)

 今後の憲法調査会の進め方について、委員の自由な意見表明を行った。

2.閉会中の参考人出頭要求に関する件


◎中山会長の挨拶の概要

  • 総選挙前の審議において、制定経緯については、調査を終了した。
  • 我が国は、少子高齢化対策、グローバリゼーションが進展する中での経済構造改革、世界平和のために国連加盟国として我が国の果たすべき役割、アジア地域の集団安全保障への対応、危機管理、情報化社会におけるプライバシーの保護、科学技術の進展に起因する生命倫理問題、地球環境問題、男女共同参画社会の推進など重要な課題が山積しており、これらの課題について的確かつ迅速な現状把握と政治的判断が求められている。
  • このような我が国をとりまく状況を踏まえ、憲法の在り方について全国民的見地に立って、広範かつ総合的に調査を進めていきたい。
  • 本調査会は、9月以降、「21世紀の日本のあるべき姿」について調査を行う予定だが、本日は、そのことも踏まえ、今後の憲法調査会の進め方について委員各位の忌憚のない発言を願いたい。

各委員の発言の概要(発言順)

高市 早苗君(自民)

  • これまでの調査会の議論で、前文、安全保障、私学助成、公共の福祉等について憲法と現実との間に乖離があるという点は共通認識ができたと考えている。憲法が現実に合わなくなったのか、現実が憲法に適合していないのかについては、意見の対立があったが、前者と考えるべきである。
  • 「制定経緯の正当性」の議論にとらわれるのではなく、国家、国民をとりまく環境の変化を踏まえ、新しい人権、首相公選制、二院制の在り方等現行憲法では対応できない事項に対処するために、憲法を改正すべきである。
  • 前文についての議論の機会を設けること、地方公聴会を開催すること、来年からは各条項ごとの具体的議論に入ることを望む。
 

鹿野 道彦君(民主)

  • 20世紀を総括し、21世紀を展望する観点から、日本国憲法の三原則を尊重することを前提に、国際環境、社会・生活環境の変化と憲法との関係を議論するという前向き、骨太の議論が必要である。
  • 基本的人権、環境問題、国際平和等について国際化時代にふさわしい在り方の観点から検討するべき。また、男女共同参画、バリアフリー社会の推進の観点からの国、社会の在り方を検討すべきである。
  • 国民参加と立法府の権限との関係、議院内閣制のあるべき姿、分権型社会等の統治機構の望ましい在り方について検討するべきである。
  • 憲法訴訟の現状について分析し、司法制度改革の議論とも連携させて議論すべきである。
 

赤松 正雄君(公明)

  • 公明党は、憲法問題について、(1)昭和49年に護憲の立場を明らかにし、(2)昭和56年に集団的自衛権は認められないが、個別的自衛権を認める旨主張し、(3)現在、三原則を堅持しつつ、憲法問題を論じ、10年程度で一定の結論を得るべきとする「論憲」の立場に立っている。
  • 「論憲」の後、三原則の補強又は整理的な修正の観点から、改正の方向に向けて検討すべきである。
  • 最大の論点である安全保障の問題を先延ばしせず、真っ先に検討すべきである。
 

塩田  晋君(自由)

  • 国内外の情勢の変化、新しい課題にかんがみれば、憲法に掲げる三原則を堅持しつつ、21世紀にふさわしい新たな憲法を制定すべきである。
  • 国のあるべき姿を論じた後、現実との乖離、特に解釈改憲の問題を検討するとともに、前文及び各章ごとの具体的な検討を行うべきである。
  • 一定程度の合意を得た後、憲法改正素案の作成を行うべきである。
  • 歴史及び伝統を踏まえた日本人の心と誇りを大切にする自由かつ創造性あふれる自立国家を目指すべきである。
 

春名 直章君(共産)

  • 憲法問題から離れて国の在り方を論議することは、調査会の目的を逸脱し、改憲の地ならしとなる危険性を有する。したがって、調査会の目的に沿って日本国憲法の理念及び現実を調査すべきであり、それにより、21世紀の日本のあるべき姿が浮き彫りにされるはずである。
  • 憲法の掲げる基本原則が現実の政治・社会にどのような影響を与えたかを調査すべきである。
  • 議論をより深めるため、質疑及び意見表明の時間の拡大等調査会運営の改善をすべきである。
 

原  陽子君(社民)

  • 戦後、女性の参政権が認められ、戦争のない平和な社会が続いてきたのも現行憲法のおかげである。
  • しかし、他方では、第9条に戦力不保持の規定があるにもかかわらず、在日米軍基地が存在し、騒音被害、沖縄における米兵による女子中学生に対するわいせつ事件等の不幸な事件が続いている。
  • この第9条を改正しようとする動きがあるが、21世紀に向けて、慣れ親しんだ第9条を変えずに理性や知性に基づいた安全保障を構築すべきである。
 

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 「押しつけ」論という視点で議論をすべきではない。
  • 憲法の条文をもっと平易なものにしていくべきである。
  • 憲法は日本国の礎であり、今後、十分に調査を行い、国民に身近なものにしていかなければならない。
  • 国民に議論を喚起するために、公聴会の開催をできるだけ早期に行うべきである。
 

野田  毅君(保守)

  • 現行憲法の制定期間が短期であったように、長く議論したからといって良い結論がでるとは限らない。できるだけ早期に憲法改正を行うべきである。
  • 21世紀の日本のあるべき姿を議論する場合、内政における日本の在り方のみならず、国際情勢を視野に、世界の中における将来の国家戦略を考えていくべきである。
  • 安全保障、危機管理、犯罪被害者の権利擁護、家族の在り方等といった現在の問題もできる限り早く調査すべきである。
 

山崎  拓君(自民)

  • 先の総選挙で憲法について主たる争点にならなかったことは残念である。
  • 21世紀の国の在り方についての調査を行うことに賛成する。
  • ドイツは、40回以上の憲法改正を行っており、我が国も、時代の要請に応じ、憲法改正を行うべきである。
  • 安全保障の問題は、避けて通るべきではない。
  • 5年を目途に憲法改正についての合意を形成することが必要であり、次期の総選挙では、憲法問題を争点にすべきである。
 

杉浦 正健君(自民)

  • 21世紀の国の在り方についての調査は、十分に行われるべきである。
  • 司法制度改革及び道州制の実現に向け、努力したい。
 

金子 哲夫君(社民)

  • 憲法の理念をどのように政治の中で活かしていくのかについて議論が必要だ。
  • 国民の声を広く聴取する必要がある。
  • 原爆による被害及び戦争の悲惨さを想起し、戦争の世紀から平和の世紀へという流れの中で、日本国憲法の平和主義の理念を世界に広めていくべきである。
 

奥野 誠亮君(自民)

  • 国民とともに憲法の調査を進めるべきだ。随時、報告書を作成し、これを国民に公開するとともに、国会議員による議論に供することが重要である。
  • 憲法制定当時と現在の政治・経済・社会等諸情勢の隔たりについての認識が必要である。
  • 独立国家にふさわしい憲法を制定すべきである。
 

山口 富男君(共産)

  • 日本国憲法の諸原則を踏まえた上で、21世紀の国の在り方についての調査を行うべきである。
  • 日本国憲法の平和主義の理念を21世紀の世界平和のための拠りどころにしていくべきだ。
  • 税の問題や環境問題等の現代社会の抱える問題を憲法の規定に照らして考えるべきである。
 

島  聡君(民主)

  • 憲法の規定と現実との乖離の問題は、大多数の認識するところである。
  • 憲法の調査に当たっては、公聴会の開催等により、国民的議論を喚起することが必要だ。
  • 憲法には、人権と統治機構が規定されており、この二つを分けて議論する必要がある。
  • テーマごとの小委員会を設け、少人数で議論を深めていくことも必要だ。
 

柳澤 伯夫君(自民)

  • 故司馬遼太郎氏の「この国のかたち」という言葉は、単に外形的な器の問題というばかりではない、その器を作っている日本人の精神文化をも内包する言葉である。
  • 現実との乖離の問題についての調査は必要であり、そのためには諸外国との比較も必要だ。殊に近隣諸国の立法例については、アジア地域の集団安全保障などを考える場合、十分に研究をする必要がある。
  • 21世紀の国の在り方の調査を通じて、総論から各論へのアプローチを行うことも必要だが、総論と同時に各論自体を並行して論じていくことも必要である。
 

石毛 えい子君(民主)

  • 21世紀の国の在り方を調査するに当たっては、21世紀をどう展望するのかという議論が必要だ。
  • 世界の中での我が国の位置付けをどう設定していくのか、食糧問題、生命倫理、人権問題、ポスト冷戦の在り方などについて、国際機関や各国がどのように考えているか議論を深めていくべきである。
 

山花 郁夫君(民主)

  • 日本国憲法が、これまで改正されなかったのは、制定当時から非常に先駆的意義を有しており、今なお国民の多数の支持を得ているからである。したがって、憲法の規定が現実との間に乖離を生じながらも、解釈によって対応してきた。
  • 新しく憲法に規定すべきだといわれることについて、単に法律のみに規定する場合と憲法上に明記した場合とで、どのように効果が異なってくるのかの検討が必要である。
  • 諸外国の憲法との比較は必要であるが、改正のなされた回数というのは問題にすべきではなく、その内容及び原因について検討するべきである。
 

鳩山 邦夫君(自民)

  • 我が国の憲法が改正されてこなかったのは、憲法をめぐるイデオロギー対立と憲法自体の硬性さが原因である。
  • 憲法改正の手続について調査を行う必要がある。
 

森山 眞弓君(自民)

  • 憲法の調査の方向性などについて両院の整合性を保っていくため、参議院の憲法調査会と合同で議論をする機会を設けることも必要だ。
 

太田 昭宏君(公明)

  • 憲法を議論するということは、国について議論をするのと同義である。21世紀の社会においては、日本及び日本人のアイデンティティーを確認することが必要である。そのためには、思想的哲学的な議論が必要であり、憲法条文の背後にある思想・哲学について調査すべきだ。
  • 現在、世界を動かしつつあるIT、ゲノム、環境及び住民参加という四つのマグマについて、将来を見据えた議論が必要だ。