平成13年6月14日(木)(第7回)

◎会議に付した案件

1.神戸地方公聴会(平成13年6月4日開催)の報告聴取

 報告者 会長代理 鹿野 道彦君(民主)

2.日本国憲法に関する件

 日本国憲法に関して自由討議を行った。

3.中山会長から、今国会における調査会の経過について報告があった。


◎各委員の発言の概要(発言順)

 葉梨 信行君(自民)

  • 今国会の憲法調査会の議論を通じて、憲法を見直すに当たっては、従来の護憲、改憲の枠にとらわれない発想に基づく国民参加による議論が必要であると感じた。
  • 現行憲法は、日本が再び米国の脅威とならないようにとのGHQの対日方針に基づき、徹底した検閲・言論統制の下、日本が自主的に審議をした形式をとって強制的に制定されたものである。しかし、9条の平和主義が国民の支持を受けたことは、真の民主主義の定着につながり大変よいことであった。米国の対日政策が、冷戦の進展に伴い穏健化したことも、日本に経済発展をもたらした。
  • ところが、憲法制定時には改正意見を持っていた革新勢力が、日本独立後、憲法に対して表立った批判をしなくなった。そればかりでなく、憲法改正は9条改正と同義であると主張して改憲論をタブー化してしまった。
  • 戦後、多くの新しい制度が定着したが、その陰で多くの消え去ったものがあることを忘れてはならない。日本の伝統とされるものをただ捨て去るのではなく、守るべきものは守るべきではないか。
  • 次国会以降、何のタブーもなく、「前文」から逐条的に、国民参加による議論を始めてほしい。

 仙谷 由人君(民主)

  • 憲法調査会の設置以来、さまざまな活動を通じて、我が党は、自らが主張する「論憲」の立場の正しさについて、確信を深めている。今、決定的に重要なことは、20世紀の総括、評価と反省を踏まえ、国家論と人権論を構想し、論じ合い、国民の合意形成へと練り上げることである。
  • 20世紀前半における植民地収奪の戦いに敗れた日本は、ポツダム宣言を受諾して軍国主義的傾向を排除し、真の民主主義政治体制を確立した。この過程で成立した日本国憲法は、平和主義、基本的人権の尊重、国民主権が主権国家の骨格であるという連合国主導の思想潮流に沿った歴史的所産であって、このことを無視した「押しつけ」憲法論は時代錯誤的である。
  • 昨年の海外派遣先であるEUの動向がそうであるように、21世紀においては、国家の主権は超国家的国際機構へ移譲されるとともに、分権化が進展していく。今、論ずべき「国のかたち」とは、「人権のかたち」であり、中央政府と地方政府のかたちであり、国際機構と主権国日本との関係である。
  • 「国のかたち」論議の具体的テーマとしては、(1)国民主権の豊富化、(2)法治主義の深化、(3)戦争の否定の上に立った安全保障、(4)新しい人権と国家の義務、が挙げられる。

太田 昭宏君(公明)

  • 我が党は「論憲」の立場をとっており、憲法調査会において21世紀の日本をどうするかという骨太の議論が展開されていることを喜ばしく思う。
  • 戦後の日本は、軍国主義から平和主義へ、全体主義から個人主義へ転換した、しかし、今、その「平和」及び「個人」の意義が問い直されている。
  • 次に、国際主義の潮流の中で、ナショナル・アイデンティティの欠如が問題となっている。この点に関し、憲法前文と1条が問題となる。
  • 20年、30年先の未来を志向した場合、(1)IT、(2)ゲノム、(3)環境、(4)住民参加という四つのマグマのような動きが予見され、そのそれぞれについての論議が必要である。
  • 最近、ナショナリズムについての危惧が高まっているが、理性的ナショナリズムと感情的ナショナリズムを区別し、前者を追求すべきである。その場合、地域の共生に根差した地域愛、郷土愛が重要であり、その意味からも「地方主権」の概念が確立されなければならない。
  • いずれにせよ憲法論議は、国民参加のうえで、環境と人権を重視したものであることが重要である。
 

藤島 正之君(自由)

  • 我が党は、21世紀の新憲法を作るべきであるとの立場に立つ。この立場から、憲法調査会において、今後、憲法の各分野別に憲法規定と現実の乖離が明らかになるような調査をするよう望みたい。
  • 人権の分野においては、「公共の福祉」の概念を再検討すること、知る権利、環境権、プライバシー権等を明示すること等が検討されるべきである。
  • 安全保障の分野においては、自衛隊を憲法に明確に位置付けること、緊急事態に関する規定や国連平和活動への参加の規定を置くことが検討されるべきである。
  • 統治機構の分野においては、二院制を見直すこと、直接民主主義制度を補完的に導入すること、地方分権の推進を図ることが検討されるべきである。なお、首相公選制については、天皇制との関係その他の理由で急いで導入する必要はないと考える。また、現在の司法制度を根本的に改革し、憲法裁判所を設置すべきであると考える。
  • 憲法改正手続を改正し、各議院の総議員の過半数の賛成で改正案の発議ができるようにすべきである。
  • いずれにせよ、国民を憲法論議に取り込むことが重要である。

春名 直章君(共産)

  • 今国会における2回の地方公聴会で明らかになったのは、国会における議論と国民の意識の著しい隔たりである。例えば、憲法調査会においては「憲法改正案作りに早急に取りかかるべき」との意見があったが、地方公聴会では逆に「憲法を現実の暮らしにどう活かしていくか」が論じられた。
  • 5月11日に熊本地裁が出したハンセン病国家賠償請求訴訟判決によって、ハンセン病患者が、国の強制隔離政策により、人権が侵害された状態に長期間置かれていたことが明らかになった。神戸地方公聴会でも、13条や25条の規定から当然になされるべきであった被災者に対する公的支援の必要性が指摘された。憲法調査会が調査すべきは、憲法の理念が活かされているか否か、活かされていないとすればそれを阻害している要因は何かということである。
  • 憲法調査会が「憲法改正調査会」化していることに憂慮し、地方公聴会が改憲の道筋になるのではないかとの批判があった。憲法の運用の実態調査に早急に着手すべきである。

東門 美津子君(社民)

  • 沖縄は、1972年に本土復帰を果たしたが、それに先立つ1965年に立法院の決議によって5月3日を憲法記念日とした。その意味で、沖縄は「県民の意思で、恒久平和主義を掲げる日本国憲法を選んだ」と言ってよい。
  • 戦後、沖縄は米軍の軍用地接収によって土地を奪われ、米国のベトナム戦争への介入は、さらなる基地の拡大と沖縄の太平洋における要石化をもたらした。こうした中で、沖縄県民の間に反戦平和主義が芽生え、平和憲法を持つ本土への復帰運動へとつながっていった。
  • しかし、沖縄返還は米国の主導の下で行われたばかりでなく、基地の恒久化により、沖縄は本土には復帰したが、平和憲法への復帰はかなえられなかった。当時からあった米兵による犯罪の横行や基地公害は現在も変わるところがなく、沖縄県民の望んだ本土復帰とはなっていない。
  • 我が国にとって日米安保体制が重要であるならば、その負担は日本国民全員が受け入れるべきである。沖縄は、今もなお「基地の中に沖縄がある」という状況を脱しておらず、主権国家とは言えない状態に置かれている。
  • 憲法調査会においては、憲法の改正を論ずるのではなく、憲法が暮らしの中で活かされていない実情を調査すべきである。

松浪 健四郎君(保守)

  • 世界人権宣言は2条で差別の禁止を、また、日本国憲法は11条で基本的人権を規定しており、これらは大切な問題と認識している。
  • 昨今の新聞報道では、ハンセン病国家賠償請求訴訟判決やアフガニスタンの内戦問題など、人権の侵害に関係のある報道が多く見受けられる。
  • 昨年末、我々は、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」を議員立法で成立させた。また、政府の人権擁護推進審議会は、5月に人権救済機関を設置すべきとする答申を行っている。これらは、基本的人権をより定着させていくために重要と考える。
  • 部落解放同盟は、部落解放基本法の制定を要求している。彼らは、被差別部落問題解消のためのさまざまな施策にもかかわらず、今なお憲法が活かされていないと考えている。
  • 以上のようなことから、憲法調査会においては、人権に関する調査を行う必要があると考える。また、人権の問題に係る「公」と「個」の問題についても調査すべきである。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 私の所属する会派は小人数であるにもかかわらず、憲法については、いろいろな意見があってまとまっていない。唯一共通の認識があるのは、憲法が読みにくく、わかりにくいということである。
  • 現行憲法の内容・解釈を変えずに、読みやすいものに改めるべきではないか。
  • 現行憲法の制定当時に児童向け教材として出版され、最近復刻された「あたらしい憲法のはなし」を読むと、憲法制定当時の憲法に対する熱意を感じる。
  • 憲法改正の是非を論ずる前に、憲法の議論に国民に参加してもらうことが必要である。
  • 国民に憲法について認識を深めてもらうことも、憲法調査会の目的の一つであると思う。
  • 今後は、調査会として取り上げていない環境、教育及び安全保障の問題について専門の方々の意見を聴くべきである。

津島 雄二君(自民)

  • 現在では、憲法の理念や基本的人権が当然のように受け取られている。しかし、基本的人権が人間固有の権利として、コモン・ローの昔から存在していたわけではない。この世に不滅の法があるわけではなく、すべては人間のたゆまぬ努力の上にでき上がったものである。
  • 例えば、25条の生存権規定にしても、それが日本の現状に合っているか常に調査すべきである。個人的には、25条には「共助」の思想を加えることが現時点では必要であると考える。
  • とにかく、我々は、憲法を死なせないような努力を不断に続けなければならない。

中川 正春君(民主)

  • 現在の我が国の政治には、統治能力(ガバナビリティ)が欠如している。憲法をてこにして統治能力をよみがえらせる必要がある。
  • 憲法調査会の議論は、例えば、財政再建、新ミサイル防衛構想、犯罪防止などの具体的な課題に取り組むような議論をすべきである。
  • 憲法改正の発議権は国会にある。その意味で、国会議員である我々は、憲法調査会を勉強会に終わらせるのではなく、具体的な憲法議論につなげていくべきである。

上田  勇君(公明)

  • 現行憲法には評価できる部分が多いが、制定以来50数年を経過し、東西冷戦構造の終結、少子高齢社会の進行等、日本を取り巻く内外の情勢が大きく変化してきたことから、このような環境の変化に対応していく必要もあると考える。
  • 憲法調査会では、今後、具体的な議論をするべきであり、テーマとしては、(1)平和主義の理念を明確にし、我が国に対する他の国々の期待にいかに応えるかの検討、(2)首相公選制の是非や二院制の在り方といった、国民主権を現実に活かす方法、(3)肥大化した行政権の抑制や司法の拡充を含めた三権の在り方、が考えられる。

谷川 和穗君(自民)

  • 第一次世界大戦後、幣原喜重郎外務大臣の尽力により、我が国が不戦条約の原加盟国としてその成立に寄与したことは、現在でも十分誇りとし得る。第二次世界大戦後、日本人は好戦的で侵略的な民族とされたが、誇りとすべきことは、いついかなる時でも誇り続けるべきである。
  • 20世紀は、その後半は比較的平和な時代であったが、前半は戦争の時代であった。21世紀にも世界各地での紛争が予想される。在ペルー日本大使館人質事件の際に調停に当たったシプリアーニ大司教は民間人であり、国際紛争の調停に従事するNGOも存在する。我が国でも国際的視野を持った若者を育てることが課題である。

筒井 信隆君(民主)

  • 20世紀は国家主権が強大化した時代であったが、21世紀は国家主権が国際機関と地方政府の双方に移譲されていく時代である。すなわち、武力行使の時代は終わったと言える。
  • 9条は、平和主義の究極の理想を規定したものであるが、その理想が早期に実現する見込みのない現在、(1)専守防衛の自衛隊を合憲とし、(2)集団的自衛権を否定し、(3)集団安全保障を認める内容の憲法修正条項を付加するべきである。
  • PKOや国連警察等、国連を中心として、世界各国の平和への協力活動が活発化している。このように、平和活動の分野においても国際化の進む現在、日本に何が求められているのかを認識する必要がある。

塩田  晋君(自由)

  • 憲法前文は正しく美しい日本語で書かれるべきである。また、自国の安全と生存を他国に任せる考えは、独立国としてふさわしくない。
  • 憲法前文においては、生命、財産及び人権の保護や歴史及び伝統の擁護といった国の役割を鮮明にして、「道義国家」として世界から尊敬される国を目指すべきである。また、誰が読んでも分かる簡明な憲法に改め、解釈改憲の余地をなくすべきである。
  • 各党はそれぞれ憲法に対する態度を明確に表明し、改憲を主張する党は改憲素案を作成するべきである。

奥野 誠亮君(自民)

  • マッカーサーが定めた戦力不保持の原則は、その後の国際情勢の変化に伴い、マッカーサー自身の意向に沿う形で変えられた。その結果創設されたのが警察予備隊であり、それが現在の自衛隊につながっている。このように、日本の安全保障の在り方は国際的地位の変化に応じて変わるべきである。
  • 諸外国と靖国神社参拝等で意見が対立することもあるが、摩擦や対立を避けて話し合いをしなければ、問題はいつまでも解決しない。

山口 富男君(共産)

  • 神戸地方公聴会においては、住民に密着した行政を行う自治体の首長が、憲法の理念を現実の行政に活かしていきたいとの意見を述べた。また先日のハンセン病国家賠償請求訴訟判決では、国民が憲法と現実の乖離に厳しい目を向けている。
  • 憲法調査会は、「日本国憲法の広範かつ総合的な調査」という設置目的に忠実であるべきであり、そうであれば、社会の中で憲法がしっかりと活かされているか、憲法に反する現実があるとすればその原因は何か、といったことについて調査すべきである。
  • 今後の憲法調査会の調査対象としては、(1)第3章に規定されている基本的人権が、しっかりと現実に活かされているか、(2)世界でも先駆的な意義を持つ9条を活かす方策は何か、が挙げられる。

中山 正暉君(自民)

  • 米国が冷徹な国家戦略に基づいて行動してきたのに対し、日本は昔から「空気で動く」面がある。国力は経済力、軍事力等の和に国家戦略を乗じたものであると認識されるが、現在の日本は、経済力など誇るべきものを持ちながら、何ら国家戦略がないため、総体としての国力はゼロに等しくなっている。
  • 憲法は国民が自ら作ったものではなく米国に押しつけられたものであり、改正するべきであると思うが、改正の具体的中身については、憲法調査会で議論していくべきことである。
  • 米国と中国の間で紛争が起きた場合に、我が国がその調停をできるような憲法が、本当の意味での平和憲法である。

金子 哲夫君(社民)

  • 憲法調査会は、その設置趣旨にのっとり、憲法に掲げた理念と現実との乖離について、その原因は何かということを積極的に調査すべきである。
  • 今月1日の大阪地裁での在韓被爆者訴訟判決で、裁判所が、誤った法律解釈に基づく通達による行政の執行を戒め、14条にも反する疑いがあるとしたことは、重要な意義を有するものである。憲法調査会においても、法律の執行が憲法に反するようなことになっていないかなどをまず調査すべきであり、それをしないうちに地方公聴会を開くのは拙速である。

細野 豪志君(民主)

  • これまでの憲法調査会は、議論が成立しにくい状況にあったため、今後は少なくとも「理念」、「人権」、「統治機構」、「平和主義」などのテーマに分けて、それぞれのテーマごとに、国民に分かりやすい議論をすべきである。
  • また、国民の関心に沿った議論をするとともに、集団的自衛権や首相公選制など、政府が次々と打ち出す政策について、カウンターパートとなるような議論をすべきである。
  • 裁判所の司法消極主義の下では、相対的に内閣法制局の役割が大きくなっている。これは裏を返せば、国会の怠慢の表れでもあり、9条などの憲法規定の解釈についても、国会が積極的に行っていくべきである。