平成14年11月14日(木) 政治の基本機構のあり方に関する調査小委員会(第1回)

◎ 会議に付した案件

 政治の基本機構のあり方に関する件

  上記の件について参考人高田篤君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  京都大学総合人間学部助教授 高田 篤君

(高田篤参考人に対する質疑者)

  中山 正暉君(自民)

  伴野 豊君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  松浪 健四郎君(保守)

  福井 照君(自民)

  仙谷 由人君(民主)


高田篤参考人の意見陳述の要点

はじめに

  • 現在、政党に対する批判が強いが、政党は立憲主義にとって不可欠の構成要素であり、政党の存在意義を積極的に基礎付ける必要がある。


1. 政党についての憲法理論的省察

  • 多様性を有害であるとするシュミットは別として、多様性を尊重するケルゼン、ヘラーや、多様性をより積極的に意義付けようとするマディソン、アレントは、総じて多様性を積極的に評価しており、政党は、この多様性に立脚し、民主制に合理性をもたらす不可欠な存在であると積極的に基礎付けられる。


2.政党の憲法(社会)科学的省察

ア 民主制の社会科学的把握
  • 民主制を社会科学的に把握すれば、(a)政治的コミュニケーションから成り立つ争点化、(b)選択肢の形成・提供、(c)暫定的決定、(d)決定の受容という多段階からなる包括的なシステムと理解される。
イ 政党の民主制の前提条件形成機能
  • 政党は、これらの各段階において(a)政治リーダー候補者のリクルート・育成、(b)政策の策定、(c)有権者への選択肢の提供等の民主制の前提条件形成にあたって、決定的な役割を果たしている。
ウ 政党民主制展開の三段階モデル
  • 第一段階(政党民主制確立期):議員政党(党員は地主、商工業者層)、第一次産業就労人口(50%以下)
  • 第二段階(大組織の時代):組織政党、第一次産業就労人口(40%を切る)
  • 第三段階(脱工業化社会):組織政党の揺らぎ、第三次産業就労人口(50%を超える)
エ モデルの第三段階における普遍的課題
  • 社会や「個人」が複雑化・「断片化」した第三段階では、政党は政治的なコミュニケーションにより、国民各層の政治的な見解を反映することが困難になり、また、特殊個別利益に定位することが相対的に多くなる。こうした状況に適合するため、政党・政党システムが十分な複雑性と「断片性」を備えることが必要となる。また、我が国に欠けていた要素として、政党の公開性と透明性の重要性に着目する必要がある。


3. 政党法制の意義

ア 第二次世界大戦後のドイツ及び日本の政党法制
  • 第二次大戦後、ドイツは、組織政党が政党民主制の土台を切り崩したという経験にかんがみ、政党に関する憲法上の規定を設け、政党に党内民主制等の義務を負わせ、同時に、政党助成等の特権を与えることで、「国民政党」を作り出した。一方、政党民主制の発展を阻害した要因が多く存在した日本は、「結社の自由」という形で政党に完全な自由を与え、個々の領域については、公職選挙法等により個別的に規律した。
イ 「政治改革」
  • 1990年代、我が国では、政党・政策本位の選挙制度等を採用し、政権交代を可能にすることを目的とした「政治改革」が実施された。しかし、この改革は、(a)既成政党に対し、政党助成等の特権を与えただけで、党内民主化等の厳しい規制を加えるものではなかったこと、(b)第二段階で組織政党が育たないまま、第三段階に入った我が国の客観的な状況に対して、第二段階の組織政党を前提とした制度を導入しようとしたこと等の理由から不適切な処方箋であった。
ウ 現在の日本社会に適合的な政党法制へのヒント
  • ドイツでは、政党助成のような既成政党への特権付与が、新たな政治勢力の流入を阻み「要塞化」を招いているとの批判がある。これに関して、ドイツ連邦憲法裁判所により、政党助成の割合が政党の政治資金の50%を超えてはならないとする違憲判決が出されたり、有権者に政党助成の行き先を委ねる「市民ボーナス制度」等が提言されている。また、政党内での民主化の強化・分権化も課題となっている。
エ 法においてできること
  • 法制でできることは、(a)政党による人材発掘・育成にあたっての障害の除去、(b)政党の透明性・開放性の確保である。


4.政党法制と憲法

  • 政党法制の整備は、現行憲法下で法律改正によっても可能であるが、政党法制は政治過程に関するルールの定立であるので、(a)少数政党に対する不利益取扱い、(b)政党のカルテル化、(c)政党助成の恣意的な拡大といった立法者による濫用の危険がある。また、政党法制の濫用防止の主役は裁判所であるので、憲法裁判に対する影響についても慎重に考慮されるべきである。
  • 政党に関する憲法規定が単なる訓示規定に止まるなら、政党法制に対する司法的コントロールを弱める可能性があるので適切でなく、他方、それを避けるため「結社」「パブリック・インタレストグループ」「政党」等について詳細に規定するなら、簡潔な基本原則を定めるという憲法規定としては異例なものとならざるを得ず、結局、政党に関する憲法規定の制定は、相当に困難と考える。

◎ 高田篤参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

中山 正暉君(自民)

  • 日本は古来より、聖徳太子の十七条憲法に見られるように「和をもって貴しとなす」との考え方があり、これを現代政党制を論じる上で想起すべきではないか。
  • 政治に恐怖と暴力が持ち込まれることに対しどのように対処すべきであるか、見解を伺いたい。
  • 我が国の政党の歴史が浅いことを踏まえ、民主主義の中に政党を位置付けるために政党法はどうあるべきか、見解を伺いたい。

伴野 豊君(民主)

  • 参考人は、政党が政治的多様性に立脚するものであり民主制にとって不可欠であるとするが、私の理解では、これは政党成立の要件が緩やかであることを意味する。その場合、どのようにして政党の信頼性を確保していくべきであると考えるのか。
  • 参考人は、現代社会において、社会には多数者などおらず少数者が集まっているに過ぎないという社会の「断片化」、個人がいろいろな側面を持つ複層的存在となる個人の「断片化」が進んでいるとするが、そのことを踏まえたあるべき衆議院の選挙制度とはどのようなものか。
  • 政党の人材発掘・育成機能に対する障害の除去とは、例えば、サラリーマンが選挙に立候補して落選した場合に、原職に復帰できる制度を整備すること等を想定しているのか。
  • ドイツは、戦後数十回にわたって憲法改正を行っているが、一方、日本はまだ一度も行っていない。参考人は、ドイツと比較した場合の日本の憲法改正論議をどのように評価するのか。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 国民の誰からも支持される国民政党を目指すことは、必ずしも有権者の望むところではないと考えられる。そうした国民政党への志向と政治不信との関係について見解を伺いたい。
  • 選挙は、多様な民意を集約する機能を有し、政党は民意を集約した形を提示するという役割を持っていると考えるが、民意の反映という観点から、選挙と政党との関係について、参考人はどのように考えるか。

藤島 正之君(自由)

  • 「政党の近代化」とはどのような意味であるのか。また、理想的な政党政治を実行している国はどこであると考えるか。
  • 二大政党制を目指すべきであるとの意見があるが、これに対する見解を伺いたい。
  • 現在の選挙制度において、小選挙区制で落選した者が比例代表制で当選することが可能となっている。選挙制度としておかしいと考えるが、見解を伺いたい。
  • 政党と派閥の関係について、見解を伺いたい。
  • 党議拘束と議員の自由な政治活動との関係について、見解を伺いたい。

春名 直章君(共産)

  • 政党は、日本では結社の自由に黙示的に組み込まれたものとして、ドイツでは国家機構の構成部分として、それぞれ憲法上位置付けられていると考える。また、我が国では利権政治という政党以前の問題もある。このようなことを踏まえ、憲法と政党との関係を考える場合の基本認識を伺いたい。
  • 1994年の我が国の「政治改革」には、違憲的なものがあるのではないか。また、参考人は、「政治改革」がドイツの制度の「いいところ取り」と指摘するが、これはどういう意味なのか。
  • 政党助成が政党の政治資金の5割を超えれば違憲であると判断したドイツ憲法裁判所判決の意義について、見解を伺いたい。
  • 政党に対する企業・団体献金は、利権政治の温床となっており、企業・団体に参政権がないことから禁止されるべきであると考えるが、いかがか。また、民主制のルールのうちで最も重要である政治と金に関するルールをきちんと作るべきであると考えるが、いかがか。

金子 哲夫君(社民)

  • 参考人は、党議拘束は将来的に緩和されるべきと言うが、比例代表制による選挙では有権者は政党に投票することになっており、比例代表選挙で当選した議員は政党の決定に従って行動すべきではないのか。比例代表で当選した議員が所属する政党と異なる政治行動をとることに問題はないのか。
  • 政党は民主主義に欠かすことができない存在であるが、民意が多様化していく中で、政党はどうかかわっていくべきと考えるか。また、その中で、選挙の際の投票率を上げていくためには、どのような工夫が必要と考えるか。

松浪 健四郎君(保守)

  • 参考人は、政党についての憲法上の根拠を21条の結社の自由のみで十分と考えているのか。議院内閣制は、政党政治である以上、憲法に政党について明記する必要があるのではないか。
  • 42条は二院制について規定するが、政党が充実していくことを前提に、今後、一院制へ移行していくべきではないか。また、二院制を維持するのであれば、参議院を職能代表とする等両院の機能分化を図るべきではないか。
  • 現行の衆議院議員の選挙制度である小選挙区比例代表並立制については、違憲ではないかという議論があるが、参考人の所見を伺いたい。

福井 照君(自民)

  • 私は、選挙を通じて、国民は一人ひとりの人生が国家のヴィジョンとなることを欲していると感じ、そのような政治の実現を訴えて当選してきた。そういう立場から、参考人の意見からは、「部分」と「全体」の対話が重要であると感じたが、現在の議会の構成や活動等にはそうした対話が反映されているのか疑わしい。このような私の民意の解釈に対する参考人の見解を伺いたい。また、実際の選挙は多分に情緒的なものであり、そのような選挙の結果は、現実の政治にも反映しているのではないか。国家の運営を論理的にするためには、国民はどうすべきであると考えるか。

仙谷 由人君(民主)

  • 現在の我が国に現われている政治や行政の制度疲労の問題についての大きな原因の一つには、憲法の構造上の問題があると考える。憲法では、「政治権力をつくる」ということの意味が明確にされていない。議院内閣制の下では、議会が政治権力をつくり、その実質を担うのが政党であることを、憲法上明らかにした方がよいと考えるが、いかがか。
  • 議会及び政党の役割として「争点化機能」は大切であると考えるが、昨今、メディア政治・劇場政治と言われるような中で、国会が確かな議論を行っているにもかかわらず報道されないという問題がある。その一方では、ワイド・ショー番組によって形成される「世論」なるものが存するようであるが、参考人は、今後、こうしたメディアと「争点化」の問題をどうすべきと考えるか。

◎ 自由討議における委員の発言の概要(発言順)

奥野 誠亮君(自民)

  • 現行憲法は、戦後、アメリカの日本管理方針に合わせて作られたものであり、憲法について議論するに当たっては、現行憲法に基づいてどうするかというよりも、これからの日本はどうあるべきかという観点から議論すべきである。また、社会情勢や日本を取り巻く世界の情勢等が変化していくことを考えれば、憲法は、明治憲法のようになるべく簡明かつ弾力的なものとすべきである。
  • 現在の選挙制度は、金のかからない選挙という観点から、政策本位の選挙制度として構築されたが、政党がめまぐるしく変わっている現在、政党を選ぶというのは国民に分かりにくい。個人を選ぶという形が良いと考える。
  • 参考人は将来的には党議拘束を緩和すべきであるとするが、政党は政策を実現するために集まった集団であり、その観点から、党議拘束をかけることを原則とすべきである。


春名 直章君(共産)

  • 民主政において政党の存在が大きいものであると、改めて感じた。現在の政党法制については、(a)違憲状態が生じている、(b)参考人からのドイツの制度の「いいところ取り」であるなどの指摘があることを踏まえ、94年の政治改革のときに制定された政党助成法等の内容を吟味しなければならない。また、政治と金の問題は、国民主権を脅かしかねない問題であり、真っ先に取り組むべき課題である。
  • 憲法と政党の関係ついては、本調査会において、議論を深めていく必要がある。


仙谷 由人君(民主)

  • 議院内閣制においては、本来、与党と内閣は政治権力として一体であるべきだが、従来は、党高官低などと言われて、与党と内閣が二元的であることがむしろ良いとされてきた。小泉内閣の登場により、与党と内閣にねじれ現象が発生し、日本的議院内閣制の矛盾が明らかになってきている。
  • 実現可能性が低い公約や明確でない公約の下で選挙が行われていること等を踏まえつつ、政党に対する不信感を拭い去るためにも、選挙・政党・政治権力の関係について、国民と一緒に考えていく必要がある。
  • イスラエルでの首相公選制の失敗を考えると、日本は議院内閣制を継続していくしかないのではないか。


奥野 誠亮君(自民)

  • 現在、党首の選び方など政党内部の在り方が非常に重要となっていると考える。