論文優秀者(阿部 由美子)

国際社会における日本の役割と、憲法および法律の制定・改廃について

中央大学学生
阿部 由美子

 第二次世界大戦終結から現在に至るまで、国際情勢はものすごい勢いで変化しているにもかかわらず、そして、他国をしのぐ勢いで変化してみせた当事者であるにもかかわらず、日本国憲法が少しの改正も為されていないとは、一体どういうことでしょうか。

 それは、その主体とされる主権を保持する国民が、改正を望んでいないからだと思います。また、改正を望まざるをえないような緊急事態に幸運にも直面することがなかったためではないでしょうか。つまり、何の不自由もなく暮らすことが出来ているため、わざわざ、複雑で、とっつきにくい憲法や法律に対して問題意識を持つ必要がないからだと思います。

 しかし、主権を保持するからといって国民の顔色ばかりを覗ってもいても、やはりその道の専門家ではないため海外や国内の現状分析や、今後の有事の予測などはお粗末なものになってしまい、先日の小渕政権から森政権へ移行する間の空白の十三時間のような危険な状態をつくってしまうようなこともあるのです。日本の総理大臣は伝統的に高齢なので、いつなんどきこのような状態になってもおかしくないのであり、それは容易に想定する事が出来たはずです。このように、国内情勢に限らず、国際情勢も刻一刻と変化しているので、常にその動向を分析しつつ、起こりうる状態を、精密に分析された情報をもとに、今後起こり得る事を予測しつつ法改正、改廃に取り組んでいってほしいです。

 また、憲法改正への経緯は非常に困難ではありますが、もっと柔軟な対応をしてほしいです。憲法第七条、天皇の国事行為である「国会議員の総選挙の施行の公示」のように一院制の名残を残していて明らかにおかしいものもあり、また、国民投票をするほどのものでもないものもあります。これらは、正式な方法で国民の代表として選ばれた人によって構成されている立法機関でサクサクと改廃していってほしいものです。客観的立場で傍観すると、立法機関は機能不十分であると思います。近年の日本経済の停滞や、有事への対応の鈍さの原因はここにあると思います。第百四十五国会では、政府提出法案の八七%を成立させることができたといいますが、それでも、まだ時間がかかりすぎていると思います。確かに慎重に議論され、民主主義的方法で可決されるべきでありますが、すべての議員が国際情勢や、教育や、経済やさまざまな方面に精通しているとは思えません。それならばいっそう国防なら国防の、経済なら経済の専門家に国会議員を分担させ、少数で議論し、そこで法律を決定させる権限を与えてしまえばいいと思います。もちろん、構成する議員は、自分の専門分野において選挙時に公約をはっきりと国民に提示し選出されなければならないし、有権者側もむしろその方が自分の興味ある分野に投票しやすくなり、より民意が反映されるのではないでしょうか。そして、議員一人一人にもっと自主性を持ってほしいです。議論を展開していくにあたって、自分の主張、公約を変更する方が得策であると判断した場合には潔く変更し、その旨を支持者に知らせてほしいです。

 さらに、今以上に幅広い世代の世論を調査する機関を整え、逐一考慮に入れながら議論を展開させてほしいです。一方通行の情報の流れを改め、常に民意を汲んだ議論の展開を望みます。現実は、法律が制定されたあとで、マスコミなどが報じて、国民に事後承諾をとっていて、ますます政治との距離感が広がった感じがします。確かに法は難解な感じを受け、特に若い世代の政治的無関心は進む一方ですが、定期的に『今何について議論していて、どのような案が出ていて、どのような結果が予想されるのか』などといったことをわかりやすく報告してほしいです。これからは少子化がすすみ、良質な人材確保が難しくなるので、若い頃から政治や経済、国際情勢に興味を持たせ、自分もその構成員の一人であることを自覚させるように誘導してゆくべきであると思います。

 また、憲法について言えば、やはり第九条の解釈が統一されていないことが問題であると思います。私が考える集団安全保障は、より広範囲かつ、依存関係の進んだものです。日本の目指すべき理想は、政治面・防衛面・経済面などにおいてアジア圏の結束を強めることであると思います。まず経済面からは日本企業の進出を促進させ、途上国の技術的レベルを引き上げ、雇用を創出し、経済発展へと導き、圏内通貨統合を目指すべきである。また、防衛面においては信頼関係を築いた上で、アジアの大国である中国や、さらにはインドなどに委託し、戦力不保持の体制は貫き通すべきである。ただし、その暴走を防ぐことができるぐらいの抑制力を持たなければなりません。日本が戦力を保有し自衛力を増強するにしても、莫大な費用がみこまれるし、世界的に戦力の拡散は望まれるべきものではないし、また、日本の軍事国家化を懸念している諸外国の反対にもあうと思います。これが実現すれば、安全面での心配が軽減され、アジアの経済・金融の中心的立場になるように目指していけばいいと思います。近年、多方面において、アジアの中枢としての日本の立場は薄くなり、広大な面積と膨大な人口を要する中国へと関心が移っています。今後も日本の斜陽化は進んで行くでしょう。アメリカや、EUなどと肩を並べて国際社会での影響力を保つためには未知数の多いアジア各国を開拓していかなければならないと思います。

 中央政府がこれらの複雑な外国事情と、国内事情を一度に相手をするのはやはり負担が大きく、見落とす部分が出てくるのは当然です。よって中央の機関がマクロ的視野を持ちこれらに対処することに専念し、国内のミクロ的諸問題は各地方自治体に権限を委譲し、中央の負担を軽減すればいいと思います。中央と地方が双肩を並べてともに歩んで行ける体制を確立すべきであると思います。

 憲法条文自身については、よりフレキシビルに解釈出来るように要所要所の言葉を曖昧にするといいと思います。そして時代に即した解釈を補足憲法として付け加えるのです。日本国憲法は平和憲法として素晴らしい理想を目指しているのだから、その理想を下げることは望ましくありません。

 私は平和憲法としての日本国憲法は素晴らしいものであり、今後も尊重されるべきであると思いますが、そのせいで身動きの取れなくなってしまうようなところは改めなくてはいけないと思います。尊重されるべきものには手を触れてはいけないというのは間違っています。よって、時代に適応した憲法を作っていってほしいです。