論文優秀者(沼井 哲男)

憲法調査会に望むもの

同志社大学職員
沼井 哲男

 まず、素朴な疑問として「憲法調査会」という制度が、国内でどの程度認知されているのか、非常に興味がある。なぜなら、私自身「憲法調査会」が発足したことを、今回の論文募集要項を拝見して、初めて知った次第であり、周囲に尋ねても、同じような状況だからである。このような状況で「憲法調査会に望むもの」というテーマを論じることは、非常に僭越であるとの思いがあるが、同じような境遇の国民が、私以外にも多数存在することを念頭に置き、意見を述べることにします。

 今回、「憲法」という重要な話題を議論する際の「材料」とも言える、「日本国憲法の制定経緯」を明らかにするということなので、公表される内容については、すべての国民に分かりやすく、また各自が必要とする情報については、速やかに、かつ確実に入手できるよう心掛けていただく必要があります。先にも述べたとおり、多くの国民が私と同じように「憲法」や「法律」の専門的な知識を有しない階層であり、このような階層を議論に取り込むためには、情報開示に際して、格別な配慮をお願いしたいと考えております。

 以下、具体的に意見を述べますが、第一になぜこの時期に「憲法調査会」を発足させる必要があるのか、発足の目的と意義を明らかにする必要があります。例えば「憲法について議論するため」というような具体性に乏しい説明では、多くの国民から支持を得ることは難しいでしょう。平易な言葉で、具体的に発足の意義を明らかにすることにより、国民の「憲法調査会」への親近感も得られ、公表される情報に対する興味も、格段に増すという期待があります。

 また、「憲法」という個人の思想、考え方に左右される話題を扱うため、公表される内容については、客観的なものとする必要があります。さらに言えば、単純に事実だけを羅列したものでは、専門家以外には理解できないことになり兼ねないため、併せて、様々な主張、意見を公平に知らせる必要があるでしょう。そして、この付加価値こそが、多数の割合を占める専門家以外の階層に対して興味を抱かせる、最も重要な情報であると考えられます。

 最終的な目標は多くの国民が「憲法論議」に参画することであり、その目標に向かい方策を講じる必要があります。単なる情報提供に留まることなく、積極的に意見を聴取するための「仕組み」の構築こそ、早急に議論すべきでしょう。広報の媒体として、今回のようなホームページ、新聞等を用いることも選択肢ですが、これだけでは、多くの国民の参画を期待するには、不十分であると言わざるを得ません。個別に意見を求めれば、必ず何らかの意見があることは間違いなく、これらの意見が表に出ないことは、後に展開される専門的な議論において、大きな損失になると言えるでしょう。

 無論、働きかけを行うことなく、意見が出されることが理想ですが、このような動きになるまでは、国民に対する働きかけが必要です。一つの方策として、意見の聴取に協力する国民を広く募り、「(仮称)推進員」制度を構築することが考えられます。予め任命された「推進員」が、自らの責任で周囲の方々から意見を聴取し、集約する。この制度が国内に根付けば、本題である「憲法論議」についても、盛り上がりを見せると思います。「推進員」の選出については、原則として専門的な知識を有しない階層が望ましいでしょう。また、世代、職種等についても、可能な限り広範囲とすることが理想でしょう。意見を聴取するための制度を構築することこそ、優先的に考えなければなりません。

 また、「憲法」という広範囲にわたる内容を扱うため、各自の興味により、議論の深さにも差異が生じることが予想されます。実際の議論においては、一括した形で意見を求めるのではなく、可能な限り細分化し、より活発な議論が展開されるよう配慮することが必要です。理想と現実のギャップを埋めるために、情報公開の方法、意見聴取の方法等について細心の配慮と工夫が必要でしょう。取り敢えずとして、一つの案を述べましたが、この件に関しても、幅広く意見を公募することで、最適な方向性が示されるはずです。

 今回は具体的な議論を行うまでに、制度を整備することが、必要であることを指摘しております。制度が確立すれば、意見の集約、具体的な議論を残すのみです。「調査テーマ」について、議論を進めることも非常に重要ですが、国民がどのようなテーマについて、議論することを求めているのか、その動向を掴むためにも、「意見集約制度」の整備が必要です。「憲法調査会」が開かれた組織となり、開放的な雰囲気の中で、積極的な議論が展開されることを切に望んでおります。