本会議 昭和21年6月26日(第6号)
昭和二十一年六月二十六日午後一時会議
第一 帝国憲法改正案第一読会
(前会ノ続)
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○議長(樋貝詮三君) 是ヨリ会議ヲ開キマス、日程第一、帝国憲法改正案ノ第一読会ヲ開キ、質疑ヲ継続致シマス――原夫次郎君
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第一 帝国憲法改正案
第一読会(前会ノ続)
○原夫次郎君 去ル二十日畏クモ御勅書ニ依リマシテ憲法草案ガ本院ニ提出ニナリマシタコトハ、洵ニ恐懼感激ノ至リデアリマス、我々ハ我ガ国再建ノ為ニ此ノ憲法改正案ヲ審議致スコトハ甚ダ光栄ノ至リデアリマシテ、同時ニ又極メテ重大ナル任務ヲ持ツモノデアリマス、各党各派ヲ超越致シテ、此ノ憲法問題ニ付キマシテハ慎重審議、誠意誠心ヲ以テ其ノ事ニ当リマシテ、此ノ負託ニ副ハンコトヲ期シテ居ルモノデアリマス、尚ホ同時ニ此ノ憲法草案ノ作成ノ事ニ当ラレマシタル前内閣並ニ現内閣ノ各閣僚方ニ対シテ、此ノ際其ノ御労苦ニ対シテ深甚ナル敬意ヲ表スルモノデアリマス、私ハ先ヅ以下述ベマスル三、四点ノ問題ニ付キマシテ、吉田総理大臣ニ御伺ヒヲ致シタイト存ズルノデアリマス
先ヅ第一ニ首相ハ去ル本会議ニ於キマシテ、「ポツダム」宣言ハ国体擁護ヲ条件ト致シテ受諾ヲ致シタモノデアル、斯ウ云フ御答弁ヲ承ツタノデアリマスルガ、此ノ御答弁ニ相成ツテ居ル所ノ趣意、其ノ経過ヲモウ少シ掘下ゲテ御話ヲ御願ヒ致シタイト存ズルノデアリマス、此ノ「ポツダム」宣言ノ条文ヲ見マシテ、最モ国民ノ頭ニピント来テ居ル問題ハ、第一ニハ我ガ民族ヲ滅ボサナイ、又日本国ヲ奴隷扱ヒヲシナイ、進駐軍ガ撤退致シタ場合ニ於テハ我ガ国ハ独立国ニナルノデアル、斯ウ云フコトハ承知致シテ居リマスルガ、我ガ国ノ国体護持ノ問題ガ此ノ「ポツダム」宣言受諾ノ条件ニ相成ツテ居ルト云フコトニ付キマシテ、私共非常ニ喜ビニ堪ヘマセヌ、併シナガラ其ノ成行ニ付キマシテハ、未ダ国民ハ能ク承知致シテハ居ナイト私ハ信ズルモノデアリマス、是ガ先ヅ第一点デアリマス、是ハ憲法第一条ノ問題トモ非常ナ牽連ヲ持ツ問題デアリマスルカラ、私ハココニ此ノ点ヲ伺ツテ、大イニ改正ニ資スル所アランコトヲ欲スルノデアリマス
第二点ハ、草案第三章、国民ノ権利義務ノ章下ニ於キマシテ、第二十二条ニ於テ我ガ国ノ今後ノ家族制度ノ問題ニ付キ、或ハ婚姻ノ問題、或ハ相続ノ問題、色々ノ問題ニ付キマシテ、更ニ法律ヲ制定スルト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、所ガ我ガ国ノ家族制度ナルモノハ、私ガ講釈スルマデモナク、我ガ国ノ家族制度ト天皇制トハ非常ニ密接ナル関係ノアル従来ノ旧慣制度デアリマシテ、端的ニ申シマスナラバ、我々ハ常ニ此ノ点ニ付テ考ヘル所ハ、我ガ国ノ家族制度ナルモノハ、是ハ我ガ国ノ所謂神ナガラノ道トモ申シマセウカ、是ハ殆ド開闢以来ノ一ツノ制度デアツタラウト思フノデアリマス、即チ我ガ国ノ家族制度アツテ、此ノ日本国ノ家族カラ天皇陛下ノ御膝元ニ大道ガ通ジテ居ルモノト我々ハカネガネ信ジテ居ルノデアリマス、此ノ家族制度アルガ為ニ、我ガ国ノ是マデノ文化ノ発達、或ハ家庭教育ノ点、色々ナ点ニ於テ非常ニ役立ツテ、又発展シ来ツテ居ル所デアリマシテ、所謂君臣一如或ハ一君万民、是等ノ政治対象ノ要点ハ、結局此ノ家族制度ト密接ナ関係ガアルノデアリマス、私ガココニ尋ネントスル家族制度ノ問題ハ、二十二条ニ規定致シテアル全部ヲ申スノデハナイノデアリマシテ、其ノ家族制度ノ中ノ、我国ノ是マデ伝統的ニ参ツテ居ル家督相続ノ問題、第二ニハ戸主権ノ問題デアリマス、此ノ点ニ付キマシテ今後特別ナル法律ガ出ルト云フ規定モアルノデアリマスガ、先ヅ総理大臣ニ此ノ我ガ国ノ家族制度ニ付テノ大体ノ所見ヲ承リタイト存ズルノデアリマス
第三点ト致シマシテハ、改正案第三章ノ所謂戦争抛棄ノ問題デアリマス、首相ハ度々是マデ本演壇ニ於キマシテ、此ノ度ノ改正案ノ非常ニ重大ナル部分ハ第一条ナリ、此ノ戦争抛棄ノ問題デアルト云フコトヲ高調セラレテ居タノデアリマスガ、洵ニ御尤モナ次第ト私共モ存ズルノデアリマス、此ノ戦争抛棄ノ条文ガ加入致シタト云フコトニ付キマシテハ、総理大臣ノ説明ヲ附加セラレタ所ヲ見マシテモ、又我々ガ此ノ改正案ヲ通読致シタ場合ニ於キマシテモ、是ハ真ニ草案ヲ作成セラレタル内閣ニ於テ、考ヘラレナカツタ問題デアルト思フノデアリマス、極メテ我ガ国ノ前途ニ取リマシテ、非常ナル関心事デアリマス、此ノ戦争抛棄ナルモノハ結局世界平和ニ寄与センガ為メデアルト、一言ニシテ申セバ尽キルヤウデアリマスガ、一面カラ独立国家ノ体面ト致シテ、我ガ国ガ進ンデ戦争ノ指導者トナルトカ、戦争ヲ勃発スル計画ヲナストカ云フコトハ、此ノ度ノ苦イ経験ニ依ツテ誰一人考ヘル者ハナイノデアリマスルガ、唯恐ルベキハ、我ガ国ヲ不意ニ、或ハ計画的ニ侵略セントスルモノ達、或ハ占領セントスルモノガ出テ来タ場合ニ、我国ノ自衛権ト云フモノマデモ抛棄シナケレバナラヌノカ、此ノ自衛権ヲ確立スルト云フコトノ為ニハ、此ノ附キ物ハ当然其ノ用意ヲシテ置カナケレバナラヌ、是ハ即チ陸、海、空軍トカ、或ハ其ノ他ノ武力ノ準備デアリマス、此ノ準備ナクシテハ自衛権ヲ全ウスルコトハ出来ナイト云フ所ガ、非常ナル「ヂレンマ」ニ掛ツテ居ル問題デアリマスガ、併シナガラソコニ非常ナル苦心ヲ払ハレタ跡ガアルト想像致シマス、是ハ若シサウ云フ不意ナ襲来トカ、侵略トカ云フヤウナコトガ勃発致シタ場合ニ於テ、我ガ国ハ一体如何ニ処置スベキカ、此ノ問題ニ付テハ政府当局ニ於テモ当然考ヘラレタ問題ダト思フノデアリマス、色々国際情勢ナドカラ考ヘ来ツテ、遂ニ此ノ条文ヲ置カナケレバナラナイ立場ニ立到ツタト云フコトハ、深ク想像ニ余リアル所デアリマスガ、何トシテモ斯ウ云フ自衛権マデモ武力防衛ガ出来ナイト云フコトニナリマシタナラバ、ドウシテモ他国ニ対スル依存ニ依ツテ之ヲ防衛シナケレバナラヌ、斯ウ云フコトニ結論付ケラレルト思フノデアリマス、然ラバ先ヅ斯カル条文ヲ置カルル場合ニ於テ、他国トサウ云フ場合ノ何カ条約デモ、或ハ取交ハシデモアルノカドウカ、是モ当然想像シナケレバナラヌト思フノデアリマス、殊ニ私ハ此ノ問題ニ牽関シテ御伺ヒ致シタイノハ、彼ノ第一次欧洲大戦ノ跡始末ニ於キマシテハ、国際連盟ナルモノガ出来マシテ、殆ド世界ニ戦争再発ナント云フコトハ考ヘナイ位ニ発展サセテ居タノデアリマスガ、然ル所此ノ連盟ハ遂ニ失敗ニ終リマシテ、今次ノ大戦争ヲ再発スルニ至ツタノデアリマス、其ノ関係上今日ノ此ノ戦争終熄後ニ於ケル連合国ノ態度ニ付キマシテハ、外電ノ伝フル所ニ依リマスト、従来ノ経過ニ鑑ミテ此ノ度ハ其ノ轍ヲ履マナイデ、連合国ガ指導者ノ立場ニ立ツテ、或ハ世界連合国家マデモ創設シナケレバナラヌト云フヤウナ、色々話合ヒモアルト云フコトデアリマスルガ、若シサウ云フ機関ガ出来マスルナラバ、一体全世界ノ上ノ国家ニ対シテ、其ノ国家ノ上ニ更ニ一ツノ大キナ厳然タル国家権力ガ行ハレルト云フヤウナコトニナレバ、ソレコソ永遠ノ平和ヲ保ツコトガ出来、又日本ガ戦争ヲ抛棄スルコトノ為ニ、ソレ程心配ハシナクテモ宜イヂヤナイカト云フヤウナ考ヘモ起ルノデアリマス、ソコデ私ハ吉田前外相、此ノ吉田総理大臣ハ其ノ立場ニ於テ、是等ノ点ニ付テハ非常ニ造詣ノ深イ方デアリマスルカラ、一ツ此ノ点ニ於キマシテ十分ナル御説明ヲ願ヒタイト存ズルノデアリマス、以上ヲ以テ吉田総理大臣ニ対スル質問条項ヲ終リマス
次ニ金森国務相ニ二、三点御伺ヒ致シタイト存ジマスルノハ、第一ニハ、二十二日ノ本会議ニ於キマシテ主権、統治権ノ問題ニ付テノ御話ガアリマシタガ、是ハ主権ト云ヒ、統治権ト云ヒ、結局学問上ノ問題モアルノデアリマスルケレドモ、又実際ノ法律制度ニ於テドウシテモナケレバナラナイ問題デアルコトハ、現憲法ニ於キマシテモ第一条乃至第四条ニ明記致シテアル如クデアリマス、其ノ統治権ノ主体、主権ノ所在、是等ニ付キマシテハ此ノ度ノ草案発布以来色々ナ議論ガ置カレマシテ、此ノ問題ニ至リマシタナラバ、迚モ一日論ジテ居テモ、二日論ジテ居テモ中々解釈ガ付カナイ、或ル人ハ主権、統治権ハ国家ニ存スルノデアル、或ル人ハ此ノ草案ノ前文ト照シ合セテ、日本国民ニ主権ガ存スルノデアル、所謂主権在民説ナルモノガ起ツテ居リマス、又国民ト申シテモ、我ガ国ノ従来ノ伝統的ニ君民一如、一君万民ノ政治ヲ行ハレ来タツタ建前カラ、天皇モ国民モ境ハナイノデアル、ヤハリ天皇ヲ加ヘタル国民ガ主権ヲ持ツノデアルト云フ議論ニ大分傾キツツアルノデアリマス、金森国務相ハ、憲法草案デハ国家ニ帰属シテ居ルト云フ場合ニ用ヒラレテ居ルト、斯ウ云フヤウナ――ハツキリ私ハ聴キ取レナイ点モアリマシタラウガ、是ハ間違ヒデアルナラバ、取消シヲ致シマスケレドモ、サウ云フ風ニ聴取ツタノデアリマスガ、此ノ意味ガ此ノ草案ノドウ云フ所デサウ云フ帰納説ガ出ルカ、私ニハ能ク諒解ガ出来ナイノデアルカラ、此ノ点ヲ甚ダ失礼デアリマスルガ、モウ一回明カニシテ戴キタイ、一体理窟カラ申シマスナラバ、国家其ノモノガ、日本国ノ領土ト国民ト政治ト三ツ揃ツテ国家ト云フコトニ、古来カラ学問上言ヒ来ツテ居ルノデアリマスガ、国家ト申シテモ、ソレハ寄集マリノモノノ、詰リマア形ノナイモノデアリマシテ、ソコデ今カラサウ遠クナイ以前カラ国家ハ法人デアル、法人ハソレ自体ガ無形ナ人格者デアル、実際ノ仕事ヲスルノニハ其ノ法人ヲ代表シテ仕事ヲスル人ガ、政治ナリ統治権ヲ行フ、是ハマア機関説ナドト云ウテヤカマシイ問題デアツタコトヲ記憶致シテ居ルノデアリマスガ、私共ノ考ヘデハ、ソレハモウ問題ヲ以テ問題ヲ論ズルト同ジコトデ、国家ハ形ノナイ人ヲ形ノアル人ト同様ニ見ルンダ、人格権ヲ与ヘルンダ、併シ普通ノ人格権論カラシマスト、ドウシテモ国ニ財産ガアレバ、其ノ財産ノ範囲内ニ於テ、ドウシテモ之ニ対シテ人格権ヲ与ヘナイト法律上困ル場合ガ多イト云フヤウナ建前カラ、或ハ幾多ノ解釈ニ致シテモ、法人説ヲ採ツテ居ル人ハ、其ノ法人ガ解釈ノ全体デナクシテ、必要ナル範囲内ニ於テノ法人格ヲ仮ニ与ヘテアル、斯ウ云フ風ニ見マスルト、ドウシテモ国家ノ統治権或ハ主権ガ国家ニ帰属スルト云フコトハ、是ハ私共ハ従来カラ意見ヲ異ニ致シ来ツテ居リマスルガ、幸ヒニモ金森国務相ハ、結局スル所天皇ヲ加ヘタル国民ガ、我ガ国ノ統治権、主権ノ主体デアルト、斯ウ言ハレタノデ、私共大イニ喜ンデ居ル次第デゴザイマスルガ、偖テ其ノ金森国務相ノ意見カラ見マシテモ、ソレハ草案ノ何処デ天皇ガ国民ノ中ニ加ハツテ主権者デアルト云フコトガ、ドウモ此ノ草案ノ全文カラ見マシテモ、只今ノ草案デハ国ノ主権ハ民ニアルト云フ風ニ誰シモ見ルノデアリマス、若シ此ノ天皇ヲ国民ニ加ヘタル一体デアルト云フ建前デ行キマスナラバ、此ノ草案ノ各所ノ書キ方ニ多少ノ狂ヒガ来ヤシナイカト思フノデアリマシテ、私ハ先ヅ金森国務相ニ此ノ点ヲ御尋ネシテ置ク次第デアリマス
第二点ト致シマシテハ、改正案ニ依リマスト、皇室ノ御財産ニ付キマシテハ、世襲財産ヲ除ク以外ノ皇室ノ財産ニ付キマシテハ、其ノ収益ハ総テ国庫ノ所有ニ帰スル、斯ウ云フ箇条ガアリマスガ、此ノ点ノ御趣意ヲ承リタイト思フノデアリマス、ソレハ誰ガ持ツテ居ル財産デモ法律デ定メタラドウニデモナルト云フコトハ、一般ノ福祉ノ為メナラバ已ムヲ得マセヌガ、苟クモ御皇室ノ財産トナツテ居ルモノニ付キマシテ、其ノ収益ガアレバコソ、又其ノ処分権ガアレバコソ、皇室ノ財産ト云フコトガ表明出来ルノデアリマスノニ、唯名前ダケハ御所有デアルガ、其ノ収入ハ総テ是ハ国庫ノ帰属デアル、斯ウ云フヤウナ規定ト云フモノハ、其ノ本義ガ能ク了解ガ出来ナイノデアリマス
ソレカラ第三ノ国家財政ノ点デアリマシテ、八十六条ニ規定致シテアル所デアリマスガ、「國の收入支出の決算は、すべて毎年會計檢査院がこれを檢査し、内閣は、次の年度に、その檢査報告とともに、これを國會に提出しなければならない。會計檢査院の組織及び權限は、法律でこれを定める。」斯ウ云フ風ニナツテ居リマスルガ、是ハ現行ノヤリ方モ此ノ通リデアリマス、併シナガラ何分国ノ財政ノコトデアリマシテ、是ダケノ報告ガアリ、毎年一回ヅツ報告ヲセラレル検査院ガ又検査ヲスル、議会ニ掛ケルニハ検査院ノ報告書モ付ケル、斯ウ云フコトニナツテ居ル場合ニ、是ハ次年度ノ関係デアリマスカラ、総テ金ヲ支出シタ後ノ問題デアルコトハ言フマデモナイ、其ノ場合ニ於テ、会計検査院ガ認メテ以テ政府ノ不当支出デアル、斯ウ折紙ヲ付ケタモノニ付テ、ソレヲ如何ニ処置スベキカト云フ問題ニ付キマシテハ、現行ノ憲法ニ於キマシテモ此ノ規定ハナイノデアリマス、折角他ノ問題ニ付テハ色々細カシク規定セラレタル此ノ度ノ改正案ニ於テ、其ノ結末ノ規定ヲ何トカ規定セラルル必要ハナイカドウカト云フコトヲ承リタイノデアリマス
第二点ハ二院制度ノ関係デアリマスガ、即チ参議院ヲ創設セラレル、是ハ無論貴族院ニ代ルモノデアリマス、此ノ二院制度ナルモノハ結局国会ニ於テ総テノ審議ヲ鄭重ニ取扱フモノデアル、ソレガ為ニ二院制度ヲ設ケタト云フ説明ニナツテ居リマス、所ガソレダケデハ二院制度ノ創設理由ニハ不十分デアルト思フノデアリマス、一体同ジコトヲ此ノ国会ヲ対立サセテ審議ヲスル、其ノ場合ニ於テ両方ニ扞格ガアル、意見ノ相違ガアルト云フヤウナ問題ガ起ル場合ニ於テ、其ノ両院ヲ組織シタ妙用ト云フモノガナケレバ、二院制度ノ本義ハナイト存ズルノデアリマス、殊ニ折角二院制度ガ出来ルト云フ、其ノ規定ヲ見マスト、衆議院ト参議院トノ権限ニ付テ非常ナル差違ガアルノデアリマス、例ヘバ衆議院ニ掛ツタ法律案ガ、衆議院デ否決ニナリマシタナラバ、モウ参議院ニハ掛ケル必要ハナイト云フノデアルガ、若シ慎重ナル審査ヲ要スルト云フコトデアレバ、衆議院デ否決致シマシテモ、参議院ガ慎重ニ審議シテサウシテ成案ヲ得マシタナラバ、衆議院ト参議院トノ意見ガ相違シテ居ルノデアルカラ、ココニ両院協議会ト云フモノデ一応練ツテ見ルト云フ慎重ナル態度ヲ要スルコトト思フノデアリマスガ、其ノ他法律ノ制定ニ付キマシテモ、色々ノ点ニ於テ非常ナ両院ノ権限ノ差ガアル、一見スルト、国会ハ衆議院ト参議院トヲ以テ構成シテ居ルト云フノデアリマスケレドモ、此ノ規定上カラ見マスト、参議院ハ衆議院ノ附属院デアルト云フヤウナ観ガアルノデアリマスガ、殊ニ国会ハ至高、最高ノ府デアルト云フ規定ガアル上カラ言ヒマシテモ、此ノ国会ノ構成ノ一院デアル所ノ参議院ノ制度ヲ、モウ少シドウシテ拡張セラレナカツタノデアルカ、又昨日ノ北君ノ質問モアツタノデアリマスガ、此ノ参議院ハドウ云フモノガ出来ルノデアルカ、其ノ骨組モ全然マダ我々諸君ト共ニ拝聴ハ致シテ居ナイ今日デアリマス、大体是等ノ点ニ付テ金森国務相カラモウ一応ノ御所見ヲ述ベテ戴キタイト思フノデアリマス
大体私ノ尋ネント致スモノハ以上ヲ以テ終リマシテ、其ノ他ノ閣僚ニ対シマシテハ何レ委員会デ御質問申上ゲルコトニ致シマス、尚ホ附加ヘマシテ私ハ再質問ハ此処デハ致シマセヌカラ、ドウゾ其ノ積リデ総理大臣、金森国務相ニ於テ一ツ御親切ニ御答弁ヲ願ヒタイト御願ヒスルモノデアリマス(拍手)
〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) 御答ヘヲ致シマス、「ポツダム」宣言受諾ニ関シ、日本政府ハ国体護持ヲ条件トシテ受諾シタ、其ノ国体護持ヲ条件トシテ受諾シタコトニ付テノ経緯ヲ説明スルヤウニト云フ御希望デアリマス、終戦ノ時、仮令戦ヒハ敗レマシタガ、当時国体ヲ護持シタイト云フコトハ全国民ノ総意デアリ、国民全体ノ願望デアツタト考ヘマス、故ニ当時ノ政府ハ国体護持ヲ条件トシテ「ポツダム」宣言ヲ受諾致シタノデアリマス、併シナガラ国体護持ニ対スル連合国ノ回答ニ於キマシテハ何等言及致シテ居リマセヌ、唯其ノ後「トルーマン」ノ宣言ニ依ツテ見マスルト、「ポツダム」宣言ニ書イテアルコトハ、是ハ連合国ノ政策デアルガ故ニ、之ヲ連合国トシテハ実行スルニ於テ決シテ違反スルモノデハナイ、併シナガラ約束ノ基礎ニ於テ、契約ノ基礎ニ日本国トノ間ノ関係ガ規定セラレタモノデナイ、斯ウ言ツテ居リマス、故ニ日本国国民ノ総意トシテノ希望ナリ願望ナリハ、十分ニ連合国ニ徹底シタモノト考ヘマス、併シナガラ当時ノ状態ニ於テ日本国ニ対スル誤解ト申シマスカ、疑惑或ハ脅威、日本ガ戦争中ニ於テ行ツタ各種ノ戦争行為――ト申シマスヨリハ俘虜虐待トカ、或ハ其ノ他戦争法規ニ反シマシタ色々ナ事実ガ其ノ後発生致シマシタノト、終戦直後ニ於テ、尚ホ戦争ノ悽惨ナル空気ガ漲ツテ居ル時ニ於キマシテ、連合国ト致シマシテモ国体護持ヲ直チニ承諾スルコトノ出来ナイ状態ニアツタラウト云フコトハ、之ヲ了解スルニ難クナイノデアリマス、ガ其ノ後ニ於テ国体護持ニ関スル日本ノ希望ハ連合国ニ於テ最モ能ク諒解セラレタモノト考ヘラルル節ハ沢山ゴザイマス、国体護持ニ関スル日本国民ノ総意ハ連合国ニ能ク徹底シテ居ルト私ハ考ヘルノデアリマス、国体護持ニ関スル経過ハ斯クノ如キ経過ヲ辿ツテ来タノデゴザイマス(拍手)
次ニ家族制度ニ付テノ御質問デアリマス、改正案第二十二条第二項ニ於キマシテ、財産権、相続、家族ニ関スル其ノ他ノ条項ガ規定シテゴザイマスガ、是ハ個人ノ権威ト両性ノ本質的平等ニ立脚スル旨ヲ制定シテ居ツテ、其ノ目指ス所ハ所謂封建的遺制ト考ヘラルル、或ハ封建的遺制ト解セラルルモノヲ払拭スルコトガ主眼デアリマス、随テ戸主権、家族、相続等ノ否認ハ致シマセヌ、随テ其ノ主眼ノ下ニ主トシテ規定サレテ居ルノデアリマス、日本ノ家族制度、日本ノ家督相続等ハ日本固有ノ一種ノ良風美俗デアリマス、此ノ点ニ付テハ特ニ何等規定シテ居リマセヌガ、今議会ニ於テ各位ノ御議論、委員会等ノ御意見ヲ十分ニ参酌致シマシテ適当ニ改廃ヲ行フ考ヘデアリマス
次ニ自衛権ニ付テノ御尋ネデアリマス、戦争抛棄ニ関スル本案ノ規定ハ、直接ニハ自衛権ヲ否定ハシテ居リマセヌガ、第九条第二項ニ於テ一切ノ軍備ト国ノ交戦権ヲ認メナイ結果、自衛権ノ発動トシテノ戦争モ、又交戦権モ抛棄シタモノデアリマス、従来近年ノ戦争ハ多ク自衛権ノ名ニ於テ戦ハレタノデアリマス、満洲事変然リ、大東亜戦争亦然リデアリマス、今日我ガ国ニ対スル疑惑ハ、日本ハ好戦国デアル、何時再軍備ヲナシテ復讐戦ヲシテ世界ノ平和ヲ脅カサナイトモ分ラナイト云フコトガ、日本ニ対スル大ナル疑惑デアリ、又誤解デアリマス、先ヅ此ノ誤解ヲ正スコトガ今日我々トシテナスベキ第一ノコトデアルト思フノデアリマス、又此ノ疑惑ハ誤解デアルトハ申シナガラ、全然根底ノナイ疑惑トモ言ハレナイ節ガ、既往ノ歴史ヲ考ヘテ見マスルト、多々アルノデアリマス、故ニ我ガ国ニ於テハ如何ナル名義ヲ以テシテモ交戦権ハ先ヅ第一自ラ進ンデ抛棄スル、抛棄スルコトニ依ツテ全世界ノ平和ノ確立ノ基礎ヲ成ス、全世界ノ平和愛好国ノ先頭ニ立ツテ、世界ノ平和確立ニ貢献スル決意ヲ先ヅ此ノ憲法ニ於テ表明シタイト思フノデアリマス(拍手)之ニ依ツテ我ガ国ニ対スル正当ナル諒解ヲ進ムベキモノデアルト考ヘルノデアリマス、平和国際団体ガ確立セラレタル場合ニ、若シ侵略戦争ヲ始ムル者、侵略ノ意思ヲ以テ日本ヲ侵ス者ガアレバ、是ハ平和ニ対スル冒犯者デアリマス、全世界ノ敵デアルト言フベキデアリマス、世界ノ平和愛好国ハ相倚リ相携ヘテ此ノ冒犯者、此ノ敵ヲ克服スベキモノデアルノデアリマス(拍手)ココニ平和ニ対スル国際的義務ガ平和愛好国若シクハ国際団体ノ間ニ自然生ズルモノト考ヘマス(拍手)
〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君) 原君ヨリ御質問ヲ下サイマシタ四ツノ点ニ付テ御答ヘ申上ゲタイト存ジマス
第一ニ主権ノ所在ニ付テハツキリ答ヘヨト云フコトデゴザイマシタ、此ノ頃モ申シマシタヤウニ、主権ト云フ言葉ハ多少人ニ依ツテ違ツタ意味ニ用ヒテ居リマス、併シ若シ主権ト云フ言葉ヲ、国家ノ意思ガ現実ニ何処カラ由来シテ来ルカ、詰リ国家意思ノ現実的源泉ト云フ風ニ考ヘマスルナラバ、疑ヒモナクソレハ日本ニ於キマシテハ、天皇ヲ含メタル国民全体ニアリト御答ヘスルノガ正シイト存ジマス(拍手)ソコデ原サンハ、ソレデハサウ云フ趣旨ノコトガ此ノ憲法ノ何処ニ書イテアルカト云フ御尋ネガゴザイマシタ、ソレハ此ノ憲法ニハ直接ニハ書イテハゴザイマセヌ、ト申シマスノハ、日本ノ国ハ君民一如ノ国デアリマシテ、我々国民ノ心ノ奥深ク根ヲ張ツテ居ル天皇トノ繋ガリニ依リマシテ、国民全体ガ結合シ、ソレガ国家存立ノ基礎トナツテ居リマスルコトハ何等説明スル必要ガナイコトデアリマス、斯クノ如キ必要ノナイコトデアリマスルカラシテ、規定ハ設ケラレテ居リマセヌ、唯ソレヲ本ニ致シマシテ、諸般ノ規定ガ設ケラレテアルト云フ風ニ御諒解ヲ願ヒマス
次ニ第二ノ問題ト致シマシテ、皇室ノ財産ニ付テ御尋ネガアリマシタ、即チ憲法八十四条ノ草案ニ関スル御尋ネデアリマス、八十四条ノ規定ハ稍々説明ヲ要スルモノデアリマシテ、此ノ際細カニ御説明ヲ申上ゲマスルコトハ幾分適当ヲ欠ク嫌ヒガアルノデアリマスカラ、大筋ダケニ付テ申上ゲマスルガ、八十四条ニ於キマシテ、皇室ノ財産ト申シマシタノハ、天皇御一人ノ御身辺ノ財産ヲ指シテ居ル意味デハアリマセヌ、言葉ハ尚ホ特別ナ説明ヲ要シマスルケレドモ、皇室ト云フ点ニ着眼シテ考ヘラレル財産ヲ言フ訳デアリマス、サウ云フコトハ此ノ後法律ガ出来マスル時ニハツキリシテ来ルモノト存ジマス、サウシテ日本ニ於キマシテハ、前ニモ申シマシタヤウニ、君民一如デアリマスルガ故ニ、国ノ財産ト皇室ノ財産トガ独立シテ相分ルルト云フ考ヘ方ハ寧ロ適当ヲ失スルノデアリマシテ、皇室ノ御経費ハ国ノ費用ヲ以テ必要ナルモノヲ支弁スルコトガ根本ノ筋ニ適フモノト思フノデアリマス、併シナガラ皇室ニ特有ノ財産トシテ色々ノ縁故ノ深イモノガアリ得ルト思ヒマス、ソレガココニ考ヘテ居リマスル世襲財産デアル訳デアリマス、ソコデ世襲財産ハ皇室ニ御保有ニナルケレドモ、其ノ他ノ財産、ソレカラ財産ヨリ生ズル収益ハ国庫ニ移リマシテ、半面ニ於キマシテ皇室ノ御必要ナル経費ハ予算ヲ通シテ国カラ支弁ヲスルト云フ建前ニナツテ居ル次第デゴザイマス、尚ホ詳細ハ他日ノ機会ニ申上ゲタイト存ジマス
次ニ第三ノ点ト致シマシテ、八十六条ノ、国ノ収入支出ニ付テ国会ガ其ノ適否ヲ審査致シマシテ、不適当トシタヤウナ場合ニハドウナルカ、ソレニ付テハ何等カノ詳密ナル規定ヲ設クベキデハナイカト云フ御尋ネト存ジマシタガ、言フマデモナク此ノ憲法ノ予想シテ居リマスルノハ、所謂議院内閣ノ形式デアルノデアリマス、随テ国会ハ政府ノ行政全般ヲ監督致シマス、サウシテ内閣ハ、六十九条ニ書イテアリマスルヤウニ、法律ヲ誠実ニ執行スベキ任務ヲ持ツテ居リマス、随テ内閣ノヤツタ会計上ノ手続ガ、内容が国会ノ見ル所ニ依ツテ不適当ト云フコトニナリマスレバ、此ノ徹底シタル議院内閣制ニ於キマシテハ、自ラ結論ハ明瞭デアリマシテ、故ラニ特別ナル法規ヲ設クル必要ハナイト思ヒマス、詰リ政治責任ニ依ツテ解決セラルルコトニナリマス、固ヨリ其ノ途中ノ関係ニ於キマシテ、個々ノ会計ニ従事スル職員ガ違法ヲシタ場合ニ罰スルカドウカト云フコトハ、是ハ全ク別問題デアリマス
次ニ、第四ノ点トシテ御尋ネニナリマシタ参議院ノコトデアリマス、参議院ニ付テ色々御尋ネニナツタヤウデアリマスルガ、例ヘバ参議院ト国会トノ間ニ意見ノ牴触ガ起ルコトハ考ヘラルルデハナイカ、而モ二院制度ヲ設ケタ限リ意見ノ牴触ヲ当然ニ予想シナケレバナラナイ、斯ウ云フコトヲ前提トセラレテ居リマス、固ヨリ寸毫違ハズ其ノ通リデアリマス、併シナガラ私共ガ考ヘマシタノハ、此ノ頃モ申シマシタヤウニ、今回ノ議院内閣制ニ民主主義ヲ強ク織込ミマシタ結果ハ、政治ハ相互ニ得心シ合ツテ行ク所ノ政治デナケレバナラヌノデアリマス、随テ衆議院ト参議院トハ十分得心ノ行ク程度ニ論議ヲ重ヌベキモノデアル、併シ国家ノ進ミ行ク勢ハ相当激シイモノデアリマスルガ故ニ、荏苒トシテ議論ノ間ニ没頭スルコトモ許サナイノデアリマス、ソコデ適当ナ方法ニ依リ二院ノ間ノ論争ヲ調和スルト云フコトニ依リマシテ、憲法草案ノ中ニハ色々ノ規定ガ設ケテアリマス、併シ原君ガ触レラレマシタヤウニ、両院ガ直チニ最後ノ争ヒト申シマスルカ、最後ノ断乎タル決定ニ行キマスル前ニ、二院ガ十分協議ヲセラルルコトハ当然デアリマシテ、随テ法律案ニ付キマシテモ、両院協議会ヲ開イテ、得心ノ行クヤウニ議論ヲ進メルト云フ方途ハ、恐ラク間モナク一、二箇月ノ後ニ又此ノ議会ノ協賛ヲ求ムルデアリマセウト思ヒマスル国会法ノ中ニ盛込マルルデアラウカト現在考ヘテ居リマス
尚ホ参議院ノ骨組ミニ付テト云フ御尋ネデアリマシタガ、是ハ目下政府ニ於テ案ヲ幾ツモ前提ニ基キマシテ練ツテ居リマス、其ノ中臨時法制調査会ヲ設ケマスル機会ガ来リマスナラバ、朝野ノ識者ヲ集メテ御意見ヲ聴キ、又此ノ議会ニ於キマシテモ、皆様方ノ御意見ヲ聴キツツ、完備シタル制度ヲ立テタイト考ヘテ居リマス、御答ヘハ之ヲ以テ終リマス
○議長(樋貝詮三君) 北浦圭太郎君
〔北浦圭太郎君登壇〕
○北浦圭太郎君 私ハ只今議題トナツテ居リマスル憲法草案ニ付テ、主トシテ金森国務大臣其ノ他各関係大臣ニ質問致シタイト思フノデアリマスルガ、諸君モ御承知ノ通リ、昨日モ我等ノ同僚ガ該博ナル知識ヲ以テ草案第一条カラ七十三条ニ亙リ逐条審議ヲサレタ後デアリマスルカラ、私ハ極メテ簡単ニ質問ヲ致シタイト思フノデアリマス、但シ金森国務大臣、其ノ他関係大臣ノ方々ハ極メテ詳細ニ、而シテ親切丁寧ニ御答弁アランコトヲ予メ御願ヒ致シマス
先ヅ其ノ第一点ハ天皇大権事項ニ付テデアリマス、本論ニ入ルニ先ダチマシテ、是モ極メテ簡単ニ大権事項トハ何カ、一般ノ学説ニ従ヒマシテ釈明致シマスルカラ、金森サンハ其ノ線ニ沿ウテ御答弁ヲ願ヒタイノデアリマス、通常大権事項ヲ広狭二義ニ分チマスルガ、其ノ区別ノ要点ハ、天皇ノ意思決定ニ他ノ機関ガ関与スルコトヲ必要条件トスルカ否カ、唯是ダケデアリマス、関与スルコトヲ必要トスルモノヲ統治大権ト我々ハ申シテ居リマス、関与ヲ排除スル、之ヲ憲法上ノ大権ト申シテ居リマスルガ、私ハ此ノ二ツニ分ツテ質問致シマスルカラ、金森国務大臣モ其ノ線ニ沿ウテ御答弁アランコトヲ御願ヒ致シマス
第一ハ此ノ憲法上ノ大権事項、即チ天皇ノ親裁事項デゴザイマスルガ、金森サンモ御承知ノ通リ、現行憲法ニ於キマシテハ約十三箇条ヲ算ヘル所ノ天皇ノ大権事項ガ規定サレテアリマス、所ガ時勢ガ変リマシテ、此ノ草案ニハ全部抹消致サレテ居ルノデアリマス、ソコデ私ハ強ヒテ疑ウテ見マシテ、草案第一条ヲ何回トナク繰返シテ読ンデ見タノデアリマスル、是ハ如何ニモ立法権モ、司法権モ、行政権モ関与ハ致シマセヌ、ソコデ読ンデ見マスルト、天皇ハ日本国ノ象徴デアリ、日本国民統合ノ「シンボル」デアリ、而モ此ノ地位ハ日本国民至高ノ総意ニ基ク、如何ニモ美シイ文言デゴザイマス、恰モ黄金色ノ花ノ如ク美シイ、文学的デアリマス、考ヘヤウニ依ツテハ偉大ナル哲学デアリマスル、併シナガラ之ヲ法律的ニ考ヘテ見マスルト、其処ニ一体何ガアルカ、何モナイ、何等ノ権力モナケレバ何等ノ地位モゴザイマセヌ、金森サン御承知ノ通リ、憲法ハ国家統治ノ根本法規デアリマシテ、決シテ文学デモナケレバ、哲学デモナイ、一体此ノ草案第一条ニハ憲法ト云フ国家最高ノ法律トシテ天皇ノ如何ナル地位ヲ規定シテ居ルカ、哲学的説明デモナケレバ、文学的説明デモアリマセヌ、法律的ノ御説明ヲ御願ヒ致シタイノデアリマス
次ハ広義ノ大権、所謂統治ノ大権、此ノ草案デ申シマスルト、主タルモノハ任命権ト認証権トデアリマス、例ヘバ天皇ハ国会ノ指名ニ基イテ内閣総理大臣ヲ任命セラレル、ソコニ勿論此ノ草案ニハ拒否権ノ条文ガゴザイマセヌガ、此ノ草案ニ依リマスルト、将来天皇ハ此ノ内閣総理大臣ヲ任命シテハ国家国民ノ為ニ不幸デアルト御考ヘニナリマシテモ、是ハ如何トモスルコトハ出来ナイ、国会ノ指名ニ基イテ任命ハ是非致サナケレバ相成ラヌ、国務大臣任命ニ関スル認証亦然リデアリマス、私ハ今日此処デ金森サンニ拒否権ヲ認メルカ否カト云フコトヲ聴クノデハアリマセヌガ、畢竟スルニ此ノ八箇条ノ大部分ハ一種ノ儀式ニ過ギナイ、此ノ議場ニハ天皇擁護ヲ国民ニ約束セラレテ当選サレタ同僚ガ可ナリ沢山アルト私ハ思ヒマスル、又反対ニ天皇制廃止打倒ヲ約束サレタ同僚ノ方モ居ラレマスル、併シ此ノ草案ハ形式ニ於テハ天皇制擁護ニ間違ハアリマセヌ、実体的ニ八箇条ノ条文中何処ニ素晴シイ天皇制擁護ガアルノデアルカ、任命権、認証権以外ニ、国会ノ召集デアルトカ、衆議院ノ解散デアルトカ、或ハ外国大公使ノ接受デアルトカ、色々規定シテ花ハ持タセテアリマス、花ハ花デモ、此ノ花ハ七重、八重、花ハ咲イテ居リマスルケレドモ、山吹ノ花、実ハ一ツモナイ悲シキ憲法デアリマス、折角国際情勢ヲ考慮シテ作成サレマシタ本憲法草案ニ対シ、山吹憲法ナドト失礼ナコトヲ申シマシテ、或ハ関係筋カラ私ハ叱ラレルカモ分リマセヌガ、併シ国会ノ言論ハ自由デナケレバナラヌ、我々天皇制ヲ擁護致シマスト淳朴ナ国民ト約束致シマシタ、其ノ目カラ見マスルト、山吹憲法トシカ読マレナイ、諸君、郷里ニ御帰リニナリマシテ、今後天皇陛下ガ何事ヲナサルニ付テモ、一々総理大臣ノ承認ヲ経ナケレバナラヌノダ、仮令陛下ニ何ガシノ献上品ヲ致スニ付キマシテモ、国会ノ決議ヲ経ナケレバナラナイノダ、自分達ハ左様ナ憲法ヲ作ツテ来タノダト云フ報告ヲサレル時ニ、諸君ノ選挙民ハ何ト申シテ諸君ニ感謝スルデアリマセウ、仍テ私ハ多少実ノアル桜ノヤウナ憲法デモ作ル為ニ金森国務大臣ノ御意見ヲ伺ヒマス
其ノ第一ハ栄典大権デアリマス、栄典大権ハ現行憲法デハ天皇ノ御親裁事項デアリマス、是ハ決シテ明治憲法カラ始マツタノデハナイ、遠ク平安朝時代カラ、源平藤橘、織田、豊臣、徳川時代デモ、恰モ天皇アツテナキガ如キ時代ニ於キマシテモ、之ヲ保持サレタコトハ金森サン御承知ノ通リデアリマス、一代ノ梟雄平清盛デスラ、天皇カラ栄典大権ハ奪ハナカツタ、我々ハオ互ヒノ子孫ト雖モ、足利尊氏ヤ東條英機カラ、ソレ等ノ者ノ承認ニ依ツテ位勲章ヲ貰フヨリモ、天皇親裁ノ下ニ、仮令従八位デモ勲八等デモ叙セラレルコトヲ名誉トシ、又家門ノ誉ト致スニ違ヒナイト私ハ思フ(「ヒヤヒヤ」)殊ニ是ハ天皇古来ノ既得ノ権利デアリマスルガ、今日既得ノ権利ト云フヤウナモノハ一切認メナイト云フナラバ、此ノ草案ニ一大矛盾ノアルコトヲ指摘シナケレバナラヌノデアリマス、此ノ草案ニハ華族其ノ他ノ貴族ノ制度ハ之ヲ認メナイト規定致シテアリマス、然ルニ他面ニ於テハ其ノ地位ハ生存中ニ限リ之ヲ認メルト書イテアリマス、是レ即チ大イナル既得ノ権利ヲ認メタノデハアリマセヌカ、今日華族ノ戸主ガ左様ナコトヲヤツテ居ルトハ私ハ申シマセヌガ、若シ左様ナコトヲヤレバドウナルカ、即チ今日直チニ其ノ子孫ニ相続ヲサス、サウシテ襲爵ヲセシメル、或ハ一人、二人ハヤツテ居ルカモ知レマセヌ、サウ致シマスルト今後尚ホ三十年モ四十年モ華族ガ残ルコトニ相成リマス、斯様ナモノニ対シテコソ今日直チニ之ヲ抹消致シマシテ、国民統合ノ象徴タル天皇ニ此ノ権力ヲ残スト云フコトハ、恐ラク金森サンモ同意見デアルト私ハ推察致スノデアリマス
第二ハ恩赦ノ大権デアリマス、私ハ此ノ二ツダケヲ是非トモ現行憲法ト同ジヤウニ残シタイト思フノデアリマスガ、此ノ理由ハ最モ明白デアリマス、元来恩赦ノ大権ノ目的ト云フモノハ、裁判監督ノ実ヲ挙ゲル為デアリマシテ、決シテ刑務所ニ居リマス既決囚ヲ助ケル為デモナケレバ、或ハ未決ノ人々ヲ救フ為デモアリマセヌ、法律ハ御承知ノ通リ総テ概括的ニ規定サレテ居リマスノデ、各被告人個々ノ場合ノ犯罪ニ付テ適合スルヤウニハ出来テ居リマセヌ、然ルニ裁判官ハ常ニ法ニ従ウテ審理ヲ行ヒ、法ヲ適用シテ裁判ヲ致シマスカラ、ソコニ裁判ニ非常ナ無理ガ起ル、殊ニ裁判官ハ決シテ神様デハナイ、人間デアリマスカラ、時ニハ間違ヒモヤラカス、此ノ不都合ヤ間違ヒヲ救済スルモノ、即チ恩赦ノ大権デアリマス、換言致シマスルト、裁判ヲ監督致スノデアリマス、裁判ヲ監督致シマスルノニ、行政権ニ之ヲ付与スルト云フコトハ「モンテスキュー」ノ痛撃スル所デアリマス、司法ノ監督ヲ行政権ガヤルト云フコトハ大イニ慎マナケレバナラヌ、天皇ト云フ特別ノ機関ノナイ国家ハ別デアリマスルガ、我国ニ於テハ将来永ク之ヲ天皇ノ大権事項ト致スベシト考ヘルノデアリマスルガ、此ノ点金森サンノ御意見如何デゴサイマスカ、以上ガ金森サンニ対スル質問デアリマス
第二点ハ、臣民ノ権利義務、其ノ中デモ最モ重大ナル問題ノ一ツ、即チ国民ノ生活権、是ハ草案ニ国民ノ生活ヲ保障スルノダト立派ニ書イテアリマス、ソレカラ家族制度、是ハ原サンノ質問ニアリマシタガ、私ノ質問ハ趣旨ガ違ヒマスカラ御諒承ヲ願ヒマス、此ノ法案ニ依リマスルト、法律ハ総テノ生活部面ニ付テ、社会ノ福祉、生活ノ保障及ビ公衆衛生ノ向上増進ノ為ニ立案サレナケレバナラナイトアリマス、素晴シイ条文デアリマス、殊ニ国民ノ生活ヲ保障スル憲法ハ世界ノ憲法中デモ光ツテ居ルト言ハナケレバナラヌノデアリマス、此ノ憲法ガ成立致シマスルト、恐ラク欠配問題モ解決スレバ、総テノ苦シイ問題ガ解決スルト思ヒマス、是カラ法律ノ制定モ国民生活ノ保障ニ向ツテ集中サレルト私ハ思フノデアリマスガ、併シナガラココニ最モ注意致サナケレバナラナイコトハ、元来法律ト云フモノソレ自体ハ人ノ自由ヲ束縛スル性質ヲ持ツ、人ノ生活ヲ動モスルト脅カス性質ヲ持チマス、人ハ法律ニ依ツテ自由ヲ与ヘラレルノデアリマスルシ、法律ニ依ツテ生活ノ保障モ致サレルノデアリマスガ、元来法律ハ社会秩序ノ維持其ノ他ノ公共目的デ立法サレマスカラ、人ノ自由ヲ制限シ易イ、又個人ノ生活ヲモ脅カシ易イ、随テ此ノ共同目的ノ為ノ法律ガ多ケレバ多イ程、個人ノ自由、個人ノ生活ハ益々制限サレマス、戦時中ニ於テ国家総動員法ト云フ実ニ奇怪千万ナ法律ガアリマシタ、是ハ今モ其ノ一部分ハ施行サレテ居リマスガ、此ノ関係法規ヲ集メテ見マシタダケデモ、恐ラクハ十万以上ノ箇条ニ達スルト私ハ思ツテ居リマス、此ノ数ノ多イ法規ニ依リマシテ、盛ニ戦時中国民ヲ捕縛シテ監獄ニ抛リ込ンデ、所謂陥穿ヲ設ケテソレニドシドシ国民ヲ陥レ、サウシテ軍閥官僚共ハ戦ニ勝ツコトヲ信ジテ居ツタノデアリマス、一体七千万ノ国民中僅カニ一万カ二万ガ法律ニ触レテ居ル間ハソレハ法律デアリマスガ、叩イテ見ルト半分程ハ違反ダト云フヤウナ場合ニ於キマシテハ、是ハ法律ヂヤナイ、悪法デアリ、一種ノ殺人機、「ギロチン」デアリマス、昔、是ハ有名ナル話デアリマスガ、網ヲ四方ニ張ツテ、西セント欲スル者ハ西ニ行ケ、東ニ免レヨウト思フ者ハ東セヨ、已ムヲ得ナイ者ダケハ我ガ網ニ掛カレト謳ツタ帝王デアリマス、法ハ只ノ三章デ天下良ク治マツタ時代、斯ウ云フ時代ニハ、此ノ立派ナ素張ラシイ憲法ニ書イテアリマスルヤウニ、此ノ草案ノ通リニ、国民ノ生活モ保障サレマシタシ、又社会ノ福祉モ増進サレタノデアリマス、兎角日本ハ法律ガ余リ煩雑過ギル、現代ノ世相ヲ考ヘテ見マスルト、官僚ハ盛ンニ法律、規則ヲ作ル、少数ノ智慧アル国民ハ之ヲ破ル、巧ミニ破ル、官僚ハ更ニ二重ニ網ヲ作ル、又智慧アル国民ハソレヲ破ル、又官僚ハ三重ニ網ヲ張ル、斯様ナコトヲ申シテ居ツテハ涯シガアリマセヌガ、即チ今日ハ立法ト犯罪トノ一大「トラブル」デアリマス、今日之ヲ如何ニシテ根絶スルカ、即チ今日ノ大問題デアリマス、最モ憂フルノハ、司法大臣モ同感デアラウト考ヘマスルガ、将来ノ日本ヲ再建スベキ責任アル所ノ青少年ガ、此ノ頃盛ンニ窃盗ヲヤル、強盗ヲヤル、而モ増加ノ傾向ニアリマス、之ヲ予防スルニハドウスレバ宜イカ、第一ハ立法ヲ慎シムコトデアリマス、積極的ニハ此ノ憲法草案ガ一日モ早ク実現スルコトデアリマス、法律、規則ヲ蜘蛛ノ巣ノ如クニ張リ廻ラシテ置イテ、国民ニ生活ノ糧ヲ与ヘズ、サウシテ歴代ノ司法大臣ハ声高ク社会ノ害悪ハ厳重ニ処罰スルゾト仰シヤル、是デハ新日本ノ再建モ前途遠シト言ハナケレバナラヌ、併シ私ハマダ今日憲法草案デアルカラシテ、現内閣又ハ前内閣ニ対シテ、ナゼ憲法ニ違反シテ今日此ノヤウナ日本ニシタカト責メル訳デハアリマセヌガ、併シ敗レタリト雖モ日本ハ現ニ存在致シテ居リマス、併シ人格アル統治団体トシテ今日尚ホ存在致シテ居リマスル以上、其ノ前任機関ガ国民ト公約致サレタコトハ、現内閣ト雖モ之ヲ履行実現シテ戴カナケレバイケナイ、ソコデ私ハ申上ゲルノデゴザイマスルガ、曽テ近衞内閣当時、近衞サンハ此ノ壇上、ソレカラ予算委員室ノ答弁台カラ、国民ノ代表タル我々ニ対シテ、国民ニ対シテハ最低生活ノ保障ヲ致シマスト云フコトヲ再三再四言ハレタ、是ハ只今国務相デアラレル一松国務大臣、星島商工大臣モ能ク御承知ノコトデアラウト思ヒマスルガ、此ノ公約ハ幣原前総理大臣モ、今ノ総理大臣モ、国家ノ義務トシテ之ヲ履行スル義務アリト私ハ確信致シマス、此ノ義務ヲ果サズシテ、如何程草案ニ社会ノ福祉ヲ増進スルンダ、国民ノ生活ヲ保障シテヤルンダト御書キニナリマシテモ、国民ハ之ヲ信用シナイト思フ、ソコデ私ハ色々申上ゲタイコトモアリマスルガ、同僚トノ重複ヲ避ケマシテ、タツタ一言ダケ言ハシテ戴キタイ、タツタ一点、是ハ特ニ吉田首相ニ御伺ヒ致シタイノデアリマスルガ、ソレハ戦死者遺家族ノ生活問題、幾百万人ノ戦死者、ソレカラ罹災者、死ンデ口ノキケナイ人々ニ代ツテ、ココニ私ハ一言申上ゲタイノデアリマス、戦時中軍閥、官僚ハ我々ノ青少年ヲ遥カ前線ニ送ル時ニ何ト言ウタカ、人生今ヤ二十五年ダ、諸君ガ天皇陛下ニ生命ヲ捧ゲテ御国ニ尽スノハ今デアル、前線ニ行ツテ死ンデ呉レ、銃後ハ我々ガ護ツテ遺家族ニハ決シテ不自由サセナイカラ、安心シテ元気デ行ツテ呉レト幾度モ幾度モ、激励シタデハナイカ、サウシテ今日其ノ遺家族ヲ見殺シニ致シテ居ル、政府ハ遺家族ニ対スル生活補助ハ当分中止ダ、斯ウ言フ、下士官以上ニハ年金、手当金スラヤラナイ、諸君、政府ハ補助ヲ中止出来マシテモ、遺家族ハ飯ヲ食フコトヲ一日モ中止出来ナイ、下士官以上ハハナゼ悪イ、下士官以上ハ悉ク戦争犯罪者ト言ヘルカ、今日A級戦争犯罪者ト雖モ監獄デハ相当ノ物ヲ食ツテ居ル(笑声、拍手)諸君、彼等ノ老父母ヲ考ヘテ見テ下サイ、四年モ五年モ其ノ子供ノ生死サヘ分ラナカツタノデアル、其ノ居所モ分ラナカツタ、神仏ニ合掌スル毎ニ其ノ子ノ武運長久ヲ一生懸命ニ祈ツタノダ、今日ハ無事カ、明日モ生キヨト祈リ続ケタ甲斐モナク、見ルモ悲惨ナ白木ノ箱デ帰ツテ来タ、此ノ中ニモ戦死者ノ親達ハ沢山居ラレルト思ヒマスル、彼等遺家族ノ涙ハ今モ流レツツアル、此ノ遺家族ノ苦シイ心境ハ、子ヲ死ナシタ親デナケレバ分リマセヌ、無事ニ還ツテ来タ戦友ニ対シテ我ガ子ノ戦死ノ様子ヲ聴クノハ人情ノ当然デアリマス、南洋ニ行ツタ青年ハ一年モ二年モ米ヲ食ハナイデ死ンデ居ル、飯ヲ与ヘナイデ殺シテ居ル、彼等青少年ト雖モ人間デアリマスル以上ハ、死ノ瞬間ニハ親ヲ思ヒ、妻子ヲ思ウタニ違ヒナイノダ、然ルニ国家ハ其ノ遺家族ヲ見殺シニシテ居ル、何タル不人情デアリマスルカ、是レコソ国家ガ犯シ得ル所ノ最大ノ罪悪デアルト言ハナケレバナラヌ(「ヒヤヒヤ」拍手)我々ハ敗戦ノ今日彼等ニ金鵄勲章ヲヤツテ呉レトハ言ハヌ、恩給、年金モヤツテ呉レトハ申シマセヌ、唯今日食フニ困ツテ居ル所ノ老父母ヤ妻子ニ生活ノ保障ヲシテヤツテ下サイト、タツタ一言、之ヲ吉田首相ニ御意見ヲ求メルダケデアリマス(拍手)之ヲヤラナイヤウナコトデハ、草案ニ如何ニ美シイコトヲ書イテモ人ハ信用シナイ(拍手)罹災者モ其ノ通リ、罹災者ニ至リマシテハ、国家ハ莫大ナル債務ヲ負ウテ居ル、保険金ヲ掛ケサス、ソレヲ特殊預金トシテ預ケサス、罹災者ハ此ノ頃ニナルト既ニ持ツタ物ハ全部売ツテ食フニ困ツテ居ル、ソコデ私ハ借金ヲ返セト言フ、国家ハ借リタモノヲ返ス、併シ之ヲ悉ク弁済致シマスト云フコトハ、「インフレ」問題、社会秩序問題等ガ関係致シマスカラ、食ツテ行ケル人ニハ御辛抱願ツテ、今日食フニ困ツテ居ル人ニダケデモ国家ハ其ノ義務ヲ履行スベシ、借金ナノダ、払フノハ当然ナンダ、食フニ困ツテ居ル戦死者遺家族ニ対スルト同一理由デアリマスカラシテ、此ノ点ニ付テモ其ノ用意アリヤ否ヤヲ吉田首相ニ御伺ヒ致シマス
次ハ戸主権ヲ中心トスル家族主義ヲ此ノ草案ハ根底的ニ破壊致シマシテ、夫婦中心ノ個人主義ニ改正スル、従来ノ民法、刑法、刑事訴訟法、民事訴訟法其ノ他戸籍法等ノ特別法ニ至ルマデ全面的ニ改正ヲ促シテ居リマスルガ、結局此ノ改正ニ依リマシテ戸主権並ニ親権ガ根底的ニ動揺致スト思ヒマスルガ、如何デゴサイマスルカ、随テ道義ノ根本タル父母ニ対スル孝道ハ愈々衰ヘテ行ク、吉田首相ハ過日ノ施政方針演説ニ於キマシテ、社会道徳ノ昂揚ノ為ニ、社会教育カラ家庭教育ニ至ルマデ励行スル旨ヲ約束致サレマシタ、国家ガ戸主権並ニ親権ヲ抹消シテ如何ニシテ家庭教育ヲ盛ンニスルコトガ出来マスカ、国家ガ戸主権並ニ親権ヲ認メルコトニ依リマシテ、家族亦随テ父母ヲ尊敬スベキ理由ヲ知リ、其ノ権利ヲ中心ト致シマシテ、父母ニ対スル孝道、兄弟ノ友情、夫婦相愛ノ道ガ立チ、一家相斉フコトニ依ツテ天下ノ泰平ヲ致シテ来タコトハ実ニ我ガ日本ノ伝統的特長デアリマス、如何ナル国ノ憲法ト雖モ、其ノ国独得ノ長所美点ハ必ズ条文ニ現ハレテ居リマスルコトハ金森サン御承知ノ通リデアル、例ヘバ「アメリカ」ニ於キマシテハ人ノ上ニ人ヲ作ラズ、人ノ下ニ人ヲ作ラズ、是レ「アメリカ」合衆国憲法ノ特長デアリマス、英国ニ於キマシテハ我々ハ不思議ナ位ノ条文ガ置カレテアリマスルガ、「キング」ハ居ラレマシテモ、特定ノ宗教ヲ信ズルコトニ依ツテ其ノ王位ガ保タレ、然ラザレバ王権ガ自然ニナクナル、是レ亦大英王国ノ憲法ノ特長デアリマス、然ルニ此ノ憲法草案ハ従来ノ帝国憲法ノ特質デアリマシタ天皇ニ対スル忠義ハ全ク消滅シタ、ソレハ已ムヲ得マセヌ、併シ治国平天下ノ根本道徳デアル孝道マデ亦破壊セラレント致シマスコトハ、熟考ヲ要スル問題デアリマス、婦人ヲ男子ト対等ノ権利ニスルト云フコトハ、我々毛頭異存ハゴザイマセヌ、併シナガラ草案ヲ読ンデ見マスルト、従来ノ親族法、相続法ハ個人ノ権利ニ立脚シテ改正セラレマスルカラ、余程御注意ナサラナイト、子供ハ親ノ意ニ反シテ妻ヲ迎ヘ、住居ヲ変ヘ、親ノ意ニ反シテ財産ヲ使フ、親ノ意ニ反シテ善良ナル妻ヲ離婚スル、斯フ云フコトガ憲法草案ノ認ムル所デアルト私ハ考ヘテ居リマス、是デ家庭教育ガ出来ルデアリマセウカ、御婦人代議士如何デゴザイマス、是ハ吉田首相ニ御伺ヒスルノデアリマス
其ノ第四点ハ刑事被告人ニ対スル人権擁護ノ問題デアリマシテ、是ハ司法大臣ニ御伺ヒ致シマス、此ノ草案ニハ、公務員ニ依ル拷問及ビ残虐ナル刑罰ハ絶対ニ之ヲ禁ジテ居リマス、民主主議ノ今日拷問ヤ残虐ナル刑罰ヲ憲法ニ於テ厳禁致サナケレバナラヌト云フコトハ、洵ニ世界文明国ニ対シテ恥カシイ次第デアリマスガ、戦争以来ノ憲兵ノ取調ヲ見テミマスルト、ヤハリドウシテモ此ノ条文ハ必要デアリマス、殴ル、蹴ル、打ツ位ノコトハ朝飯前、併シナガラ拷問ト言ヒ、残虐ナル刑罰ト云ヒマスルモ、是ハ元来人ノ生命身体ニ対スル不法ノ攻撃デアリマス、私ハソレダケデハ刑事被告人ニ対スル人権擁護ハ十分デアルト信ジマセヌ、其ノ他ニ物質上精神上不法ノ攻撃ヲ加ヘテ、刑事被告人ニ拷問以上ノ苦痛ヲ与ヘル、之ヲ禁ジナケレバナラヌ、此ノ点ニ付キマシテハ「イギリス」ノ大憲章並ニ「アメリカ」合衆国ノ憲法ニ恰モ符節ヲ合ハシタガ如キ条文ガ規定サレテアリマス、過重ノ借金ハ之ヲ誅求スベカラズ、過重ノ罰金ハ之ヲ課スベカラズ、異様ニシテ惨酷ナル刑罰ハ之ヲ加フベカラズ、斯様ニアリマス、諸君、軍閥政治八箇年、其ノ間司法官権ハ完全ニ軍閥ノ威力ニ圧セラレテ居ツタ(「ヒヤヒヤ」拍手)所謂戦時刑罰法、厳罰主義ニ従ヒマシテ、例ヘバ三百円ノ闇ニ対シマシテハ約十倍ノ三千円ノ罰金ヲ取ル、三千円ノ超過利得ニ対シマシテハ五倍ノ一万五千円ヲ取ル、三万円ノ超過利得ニ対シマシテハ、先ヅ体刑一年、或ハ一年半、サウシテ三万円ノ罰金ヲ併科スル、是ガ実ニ千篇一律デアリマシテ、マサカ軍ノ命令ハナカツタデアリマセウガ、上官ノ命令、判例ヲ楯ト致シマシテ、各被告ノ社会環境ト云フモノヲ見ナイ、此ノ被告ハ貧困デアル、此ノ被告ハ資産家デアル、或ハ此ノ被告ハ家族ヲ沢山持ツテ居ル、独身デアル、弱イカ強イカ、左様ナコトヲ一切無視致シマシテビシビシ罰金ヲ取ツタ、而モ此ノ判決ニハ、此ノ罰金ヲ完納スルコト能ハザル時ハ一日五十円、又ハ百円ノ換算率ヲ以テ労役場ヘ放リ込ム、留置スル、斯ウ云フ風ニ書イテ置キマスルカラ、金ノ工面ノ出来ナイ者ハ已ムニ已マレズ刑務所ニ入ツテ行ク、判決ハ罰金デアリマスルケレドモ、戦時ノ此ノ過重ナル罰金ハ、ソノ実体刑ト少シモ選ブ所ガナカツタ、若シ夫レ体刑ノ申渡ヲ受ケタ者ニアリマシテハ、諸君モ御承知デゴザイマセウガ、刑務所内ニ於テ安全ニ執行ヲ受ケタノトハ違ヒ、幸運ナル者ハ内地ノ軍需工場デ使役サレ、不運ナ者ハ遠ク南洋ニ連レテ行カレテ、孤島ノ防備ニ使役サレタノデアリマス、諸君御承知ノ通リ、南洋ニ於テハ一年ノ防備ハ二年トナリ、二年ノ防備ハ三年トナリ、遂ニ食尽キ力尽キテ餓死シタル者ガ頗ル多カツタノデアリマス、是モ飯ヲ与ヘナイデ大分殺シテ居ル、残酷デハアリマセヌカ、異様ナ刑罰デハアリマセヌカ、我々ハ子孫ヲシテ再ビ斯クノ如キ異様ニシテ残酷ナル刑罰ヲ加ヘ、又加ヘラレルコトヲ許スコトガ出来ナイノデアリマス、草案第三十三条ヲ英米憲法ニ傚ツテ之ヲ何トカシテ戴ク御意見ハアリマセヌカ、木村司法大臣ニ御伺ヒ致シマス
次ハ著作権、発明者ニ対スル無体財産権ノ擁護ニ付テ星島商工大臣ノ御意見ヲ御伺ヒ致スノデアリマス、勿論此ノ草案ニハ人ノ財産権ヲ擁護スル趣旨ハ十分現ハレテ居リマスルガ、ソレト別ニ著作権法、又ハ特許法ト云フヤウナ薄弱ナ法律デナクシテ、発明ノ王デアル所ノ「アメリカ」合衆国ガ、議会ノ権力トシテ規定致シテ居リマスルガ、著作権、発明権ソレ自体デナク、著作者モ発明者モ共ニ保護奨励スルノ途ヲ講ジテ貰ヒタイ、ソレガ為ニ憲法ニ規定シテハドウカ、今日マデハ非常ニ此ノ保護ガ貧弱デアリマスルカラ、著作者ハ出版屋ノ為ニ利益ヲ壟断サレル、発明家ハ資本家ノ為ニ搾取サレル、極ク少数ノ天才ヲ除キマシテハ、総テ貧困ノ生活ヲ送ツテ居リマス、随テ今日マデ――将来ハ知リマセヌガ、大シタ発明家モ出ナケレバ、偉大ナル「シェークスピア」モ現ハレナイ、空ノ要塞B二九ニ対シテ怪シゲナル飛行船ヲ太平洋ニ飛バス、一発数十万人モ殺スニ足ル所ノ原子爆弾ノ発明ニ対シテ、籔カラ竹ヲ切ツテ来テ竹槍訓練ヲヤル、洵ニ哀レナ発明振ヲ発揮致シテ居ツタノデアリマス(笑声)「アメリカ」合衆国憲法ニ於キマシテハ、一定ノ期間其ノ著書及ビ発明品ニ付キ独占的権利ヲ保証シ、別ニ法律ヲ以テ是等ノ人々モ十分ニ保護奨励セラレテ居リマス、我々ハ我々子孫ノ平和ト幸福ノ為ニ、大イニ是等ノ天才ヲ保護致シマシテ、彼等ヲシテ衣食住ニ困窮セシムルコトナク、安ンジテ其ノ著作並ニ発明ニ全力ヲ傾倒セシメ、以テ学術技芸ノ進歩発達ヲ図リマシテ、延イテハ世界文化ニモ貢献セシムルヤウ、之ヲ改正憲法ニ規定セント欲スルノデアリマスルガ、商工大臣ノ御意見如何デアリマセウカ(拍手)
最後ニ私ハ吉田首相ニタツタ一言御伺ヒヲ致スノデアリマスガ、此ノ憲法草案ハ或ル学者ノ言フヤウニ、「アメリカ」合衆国憲法ノ翻訳ダトハ私ハ申シマセヌ、併シ中々能ク似テ居リマス大統領ガ二重選挙デアツテ、我ガ総理大臣ハ直接選挙デハナイ、国会ノ決議指名デアル、斯ウ云フアタリ、其ノ様子ガ洵ニ能ク似テ居ル、司法ニ於キマシテモ、最高裁判所ガ憲法違反事件ヲ裁判シタリ、或ハ国民中ニ貴族ヲ作ラナイト云フコト、実ニ「アメリカ」合衆国ノ憲法其ノ侭デアリマス、唯全然違フノハ戦争抛棄ノ問題ダケデアリマス、ソコデ私ハ吉田首相ニ御伺ヒ致スノデアリマスガ、今日マデ我ガ国ハ長ラク欽定憲法ヲ運用シテ参ツタノデアリマス、今回ノ憲法改正、是ハ改正ト云フヨリハ寧ロ新制定デアリマスルガ、其ノ範ヲ英米ニ取ツテ居ルコトハ、是ハ疑ヒナイ、ソコデ政府ガ天皇ノ命ニ依ツテ草案ヲ作リ、議会ガ之ヲ議決シテ新憲法ガ成立ヲ致シマセウガ、偖テ之ヲ実際ニ運用スルノニハ可ナリナ困難ガ伴ヒマス、例ヘバ内閣ガ議会ニ責任ヲ帯ビルノダト書イテゴザイマスルガ、責任ヲ帯ビル其ノ内閣ハ其ノ時ノ議会ノ大多数デアルニ相違アリマセヌ、色々ナ不都合ガ起ルニ相違アリマセヌカラ、政府ハ此ノ際民官――官ハナクテモ宜シイガ、民ヨリ成ル実地運用研究調査ノ為ニ若干ノ調査委員ヲ英米ニ派遣スルノ意思ハナイカ、吉田サンヤ、幣原サンハ関係方面ニ賛成ヲ得ベク努力サレンコトヲ国家ノ将来ノ為ニ切望スル次第デアリマスルガ、是ハ併シ今日直チニ私ハ御答弁ヲ頂戴シヨウトハ思ヒマセヌ
要スルニ金森サンニ対シマシテハ、天皇ノ憲法上ノ地位如何、次ニ任免認証ニ――多分ナイト思ヒマスルガ、拒否権ハドウカ、第三、栄典授与ト恩赦ヲ憲法上ノ大権トスル意思ハナイカ、吉田首相ニ対シマシテハ、憲法草案ニハ、国民生活ノ保障ガ掲ゲラレテ居リマスルガ、国家ハ先ヅ其ノ公約ヲ果セ、少クトモ戦死者遺家族及ビ罹災者ノ生活ヲ保障シテ下サイ、次ハ草案第二十二条ト家庭教育、是ハ円滑ニ行キマスルカ、次ハ新憲法運用調査委員ヲ英米ニ派遣スル意思アリヤ否ヤ、是ガ内閣総理大臣ニ対スル質問ノ要旨デアリマス
木村司法大臣ニ対シマシテハ、英米憲法ニ傚ツテ、無暗ニ高イ保釈金ヲ取ルナ、異様ナ刑罰ヲ科シテハナラヌト云フ風ニ、此ノ草案ヲ改正スル所ノ意思アリヤナシヤ、星島商工大臣ニハ、国家将来ノ為ニ此ノ憲法改正案ニ著作権ト発明者ヲ保護スルヤウナ条文ヲ掲ゲテ戴ク訳ニハ行カヌカ、此ノ点デアリマス、私ハ再質問ハ致シマセヌ、委員会ニ於テ詳細ニ又御伺ヒスルコトト致シマシテ降壇致シマス(拍手)
〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君) 北浦君ヨリ御質疑ニナリマシタ問題ニ付テ、一アタリ私ノ御答ヘヲ申上ゲマス
天皇ノ大権事項ニ関連ヲシテ、先ヅ憲法第一条ノ本当ノ意味ヲ御尋ネニナリマシタ、此ノ憲法草案ノ第一条ニアリマスル言葉ハ、新シク日本ノ法文ニ現ハレマシタ文字デアリマスル為ニ、十分御了解ヲ下サイマス為ニハ、若干ノ説明ヲ要スルト考フルノデアリマス、此ノ第一条ハ決シテ軽イ意味ヲ持ツテ居ル規定デハアリマセヌ、日本ノ国体ニ即シテ、之ヲ基盤トシツツ天皇ノ御地位ヲ明カニ致シマシタ規定デアルノデアリマス、一体我々国民ハ固ヨリ日本国ト云フコトノ考ヘヲ持タヌ者ハアリマセヌ、又日本国民ノ統合ト云フコトヲ考ヘナイ者ハゴザイマセヌ、併シ日本国ト云フモノハ、目デ以テハハツキリ目ノ前ニ見ルコトハ困難デアリマス、又日本国民ノ統合ト云フコトモ考ヘルコトハ出来ルケレドモ、目ノアタリニ印象的ニ之ヲ理解スルコトハ困難デアリマスルガ、ソレ等ノモノハ天皇御一身ノ上ニ露ハニ体現セラレ、現示セラルルニ依ツテ、我々ハ日本国ニ付キ深キ感覚ヲ持チ、日本国民統合ニ深キ感覚ヲ持ツ次第デアリマス、而モドウ云フ訳デ、天皇ヲ仰ギ見マスル時ニ、ココニ日本国ガハツキリ現ハレ、日本国民ノ統合ガハツキリ現ハルルカト云ヘバ、根底ニ於テ我々ノ心ノ奥深ク根差シテ居ル所ノ天皇トノ心ノ繋ガリノ関係ガアルカラデアラウト思ヒマス、而モ此ノ地位ハ、決シテ神秘的ナル古ノ物語ニ根底ヲ持ツ訳デハゴザイマセヌ、又他ノ非合理的ナル根底ニ基クモノデモゴザイマセヌ、日本国民ノ至高ノ総意ニ基クコトガ、憲法第一条ニ明々白々トサレテ居リマスルガ故ニ、此ノ第一条ノ規定ハ、天皇ノ御地位ニ付キマシテ明白ナル根底ヲナシテ居ルモノト考フル訳デアリマス
第二ニ御尋ネニナリマシタ第七条ヲ中心トシタ点デアリマスルガ、其ノ中、認証トカ、裁可トカ云フコトヲ仰セニナリマシタ、是ハ認証、裁可、幾分ノ差ハ固ヨリアルノデアリマシテ、基本的ナル考ヘ方ハ、天皇ノ国ノ象徴タル御地位ト結ビ合セマシテ、其ノ滲ミ出シトシテ考ヘテ、必要欠クベカラザル範囲、妥当適切ナル範囲ニ其ノ権能ヲ定メタノデアリマス、ソコデソレニ関連ヲ致シマシテ、華族制度ハ直グニ廃メタラ宜イデハナイカト云フヤウナコトヲ仰セニナリマシタガ、是ハ固ヨリ程度ノ問題デゴザイマス、唯私共ハ急激ナル変化ハ極力之ヲ避ケテ、秩序アル移リ変リヲ目的トスルコトガ適切デアルト考ヘタノデアリマス、又恩赦ノ権能ハ、是ハ謂ハバ裁判所ヲ監督スル趣旨デアルガ故ニ、行政権ガ此ノ権能ヲ持ツコトハ不適当デハナイカ、確カニ御示シニナリマシタヤウナ趣旨ハ一面ニ於テ存在スルト思ヒマスルガ、私ノ見解ト致シマシテハ、天皇ノ無答責ナル御地位ト比ベ合セテ考ヘマシテ、出来得ル限リ政治ノ実際ノ紛糾ニ御携ハリニナラナイ方ガ適切デアルト考ヘマシテ、此ノ権能ヲ直接ニハ内閣ニ認メ、認証権ヲ天皇ニ附属セシメタ訳デアリマス、併シ能ク考ヘテ見マスルト、恩赦ト云フコトノ一番現ハレマスル姿ハ、是ハ立法権ガ、詰リ刑罰法規ヲ定メマスル立法権ノ結果ガ、或ル特殊ナ場合ニ時代ニ合ハナイ、随テ法律ニ従ツテ裁判所ガ裁判ヲシタ結果ガ、其ノ時其ノ時ノ特殊ナル場面ニ適合シナイ、ソレヲ調節スルトカ云フ趣旨ガ根本ヲ成シテ居リマス、随テ斯様ナ権能ハ裁判所ニ認メルコトモ出来ナイ、議会ニ認メルコトモ出来ナイ、二者ト離レテ居ル所ノ内閣ニ認メルコトガ寧ロ適切デアルノデハナイカ、而モ内閣ハ、此ノ憲法案ノ建前トシテハ決シテ狭イ行政権デハゴザイマセヌ、立法、司法ニ属セザル他ノモノハ、国務大臣、内閣ノ輔翼ノ責任ニナツテ居ル次第デアリマス、ソレデ一ツ御承知ヲ願ヒタイト存ジマス
次ニ戦死者、罹災者等ノ生活問題ト云フ点ニ付キマシテハ、厚生大臣ガ能ク御考ヘニナツテ居ラレルト信ジテ居リマスガ故ニ、其ノ方カラ御説明下サルコトト存ジマス
ソレカラ戸主権、親権等ガ此ノ憲法ノ趣旨カラナクナルノデハナイカト云フ点ニ付キマシテ吉田首相ニ御尋ネニナリマシタガ、兎モ角モ私カラ一応述ベサセテ戴キタイト思ヒマス、今回ノ憲法ハ、所謂個人ノ人格ヲ尊重スル、人間其ノモノノ尊サヲ眼目ニスルト云フ所カラ出発シテ居リマスガ故ニ、婚姻ナドモ両性ノ尊重ト云フコトカラ起ツテ居リマス、又是等ト関連シマシテ、家族制度、相続制度ニモ相当ノ変化ノアルコトハ予見出来マスルケレドモ、既ニ前ニ総理ヨリ御説明ヲ申上ゲマシタ通リ、之ニ依ツテ直チニ戸主権トカ親権トカ云フモノガナクナルト云フ前提ハ執ツテ居リマセヌ、十分各方面ノ御意見ヲ伺ツテ、然ルベキ立法ニ依リ、日本トシテ最モ相応シキ法律秩序ガ出来ルヤウニト云フ考ヘ方デアリマスルノデ、暫ク問題ハ後日ノコトト云ヒマスカ、今ノ所其ノ点ヲ御心配下サル必要ハナイノデハナイカト存ジテ居リマス
次ニ過当ナル罰金トカ云フコトハ司法大臣カラ御答ヘ下サルコトト思ツテ居リマス、ソレカラ著作権、特許権等ノ規定ヲナゼ設ケナイカト云フヤウナ御趣旨デゴザイマシタガ、是ハ只今行ハレテ居リマスル現行憲法ニ於キマシテハ、所有権ノ自由ガ認メラレテ居リマスルケレドモ、広ク財産権ト云フ項目ヲ取扱ツテナイノデアリマス、解釈ガ如何様ニナリマスカハ別問題デアリマスルガ、規定ノ表カラハ、著作権ナドハ憲法ト無関係デアツタ訳デアリマス、然ルニ今回ノ此ノ改正案ニ於キマシテハ、第二十七条ニ財産権ト云フ言葉ヲ用ヒマシテ、著作権、特許権ノ如キ智能上ノ権利モ之ニ含マルルコトトナツテ居リマス、随テ御希望ノ如キ趣旨ハ、広イ意味デハアリマスルガ、現在憲法草案ノ中ニ含マレテ居ルト御考ヘ下サツテ宜カラウト思ヒマス
尚又最後ニ此ノ憲法ヲ実行スル上ニ於テ、種々ナル参考資料ヲ得テ実行上ノ完全ヲ期スル為ニ、調査委員等ヲ設ケテ外国ニ派遣スルヤウナ工夫ヲ取ツテ居ルカドウカト云フ御尋ネガアリマシタガ、其ノ点ハ今日ハツキリシタ考ヘヲ持ツテ居リマセヌ、尚ホ問題ノ研究ヲ段々進メテ行キマシテ、多分此ノ憲法ノ中ニ於キマシテハ、色々外国ノ事情ヲ参酌シナケレバナラナイ、又其ノ外国ニ関スル知識ニ依リマシテ一層ノ完備ヲ期シ得ル点モアラウト思ヒマスルカラ、其ノ必要ノ起リマシタ場合ニ篤ト考ヘテ見タイト存ジテ居リマス(拍手)
〔国務大臣木村篤太郎君登壇〕
○国務大臣(木村篤太郎君) 北浦君ノ御質問ニ対シテ御答ヘ致シマス、改正憲法草案第三十三条ニ「公務員による拷問及び殘虐な刑罰は、絶對にこれを禁ずる。」、斯ウ云フ規定ヲ設ケテ居リマス、是ハ御承知ノ通リ何処マデモ人権ヲ擁護シナケレバナラヌ、苟クモ人権蹂躙ノ廉ガアツテハ相成ラヌ、之ヲ禁止スルト云フ大原則ヲ是ニ決メタノデアリマス、而シテ草案第二十八条ニ「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」、総テ罰金刑モ将来ハ法律ニ依ラナケレバ科セラレナイト云フ規定デアリマス、今後法律ニ依リマシテ罰金刑ヲ科スルヤウナ場合ニ於テハ、北浦君ノ御趣旨ニ副ヒマシテ、絶対ニ過重ナ、罰金刑ヲ科スルコトノナイヤウニ致シマスレバ、十分御趣旨ニ副フコトニ相成ルト思ヒマス、ソレカラ過重ナ保釈金ヲ取ツテハイケナイ、御尤モデアリマス、是ハ私モ全ク御同感デアリマス、併シ是ハ憲法草案ニ決メナクトモ、十分運用ニ依ツテ此ノ弊害ヲ是正シテ行クコトガ出来ヨウト思ヒマス(拍手)
〔国務大臣河合良成君登壇〕
○国務大臣(河合良成君) 軍人ノ恩給、遺家族扶助料等ノ問題ニ付キマシテハ、関係方面カラノ停止ノ指令ヲ受ケテ居リマスノデ、洵ニ申訳ナイ次第デアリマス、前内閣ノ時代カラ、之ヲ厚生年金ニ振替ヘルコトヲ色々努力シテ居リマシテ、一時ハ可能デアルカノヤウナ状態ニマデ行ツタヤウデアリマシタケレドモ、最近又ドウモ結論トシテ旨ク行カヌヤウナ状態デス
憲法草案第二十三条ノ生活保障ト云フ点デアリマスガ、是ハ人道上、民主主義上非常ニ結構ナ規定デアリマシテ、政府モ此ノ線ニ沿ウテ平和国家、文化国家ノ建設ニ邁進シナクチヤナラヌト思ツテ居リマス、サウシテ此ノ憲法ノ実施前ニ、此ノ本議会ニ於キマシテ生活保護法ヲ提案シタイト思ツテ居リマス、是ハ最低生活ノ保障ヲ意味シテ居リマス、働ケヌ人――働カヌ人ヂヤナイ、働ケヌ人、サウシテ困窮シテ居ル人、此ノ面ノ人ヲ総テ救ツテ行カウヂヤナイカ、勿論軍人遺家族モ入リマセウシ、癈疾者モ入リマセウシ、戦災者モ入リマセウシ、引揚者モ入ルト思ヒマス、斯ウ云フ画期的ノ法制ヲ皆サンニ御審議ヲ願ヒマシテ、其ノ提案ガ通リマシタナラバ、憲法実施前ト雖モ、実施ニ先ダツテ先ヅ此ノ第二十三条ノ趣旨ヲ行フ積リデ居リマス(拍手)其ノ予算ニ付テハ、何レ御審議ヲ願ヒマスルガ、先日マデハ約十億位ノ考ヘデ居リマシタガ、関係方面ノ御注意ナドモアリマシテ、只今三十億位ニ拡大スル積リデ居リマス(拍手)其ノ積リデ今案ヲ立テテ居リマス、内容ニ付テハ何レ其ノ節詳シク申シマスガ、五人家族デ一月二百五十円、其ノ他ニ食糧、物資ナドモ無償デ配給スル、或ハ公定価格デ配給スルト云フコトヲ考ヘテ居リマス、又医療費、助産費、葬祭費ナドモ補助シ、又生業資金モ出来ルダケ与ヘテ、働ケヌ人デモ出来ルダケ働イテ貰フト云フ線ニ沿ウテヤル積リデアリマス(拍手)勿論是ハ昨日本議場ニ申シマシタ失業対策ノ問題ト絡ミ合ツテ、アノ六十億ノ予算ヲ右手デ提ゲ、之ヲ左手デ提ゲテ、大衆生活確保ノ為ニ邁進スル積モリデアリマス(拍手)
○議長(樋貝詮三君) 北浦君ニ御諮リ致シマスガ、今商工大臣ガ見エテ居ナイヤウデアリマスガ、是ハ宜シウゴサイマスカ
○北浦圭太郎君 満足デス、宜シウゴザイマス
○議長(樋貝詮三君) 鈴木義男君
〔鈴木義男君登壇〕
○鈴木義男君 政府ハ今回画期的ナ憲法改正案ヲ議会ニ付議サレタノデアリマス、時局ハ極度ニ逼迫シテ居リマス、国民ハ未曽有ノ窮乏ニ喘イデ居リマス、憲法デ腹ハ膨レナイト言ハレル、食糧危機ト「インフレ」危機ヲ傍ラニシテ、憲法審議ヲナスニ適スルカト云フコトモ疑ハレル位デアリマスルガ、総テハ善キ政治カラ出発スルノデアリマス、一日モ早ク善キ憲法ヲ持ツコトハ日本国家ノ救ヒデアリマス、随テ我々ニ課セラレタル任務ハ、明治以降未ダ曽テナカツタ程重大ナルモノデアルコトヲ自覚シテ居ル次第デアリマス、悲シムベキ敗戦ノ結果トハ申シナガラ、ココニ従来ノ積弊ヲ払拭シテ、全ク新シイ、明朗ニシテ民主的ナル日本ヲ建直ス為ニ、政府ハココニ真ニ画期的ト申シテ宜シイ構想ノ上ニ立ツ改正案ヲ立案サレマシタコトニ対シマシテハ、我々モ十分敬意ヲ表スルモノデアリマス(拍手)此ノ草案ヲ熟読致シマスルニ、中々能ク立案サレテ居ル、大体ニ於テ我々ノ期待ト主張トニ近イモノガアルト云フコトヲ認ムルニ吝カデナイノデアリマス、併シナガラ国民ノ声ヲ身近ニ感ジテ居ル我々トシテ、又従来ノ我々ノ主張ニ鑑ミマシテ、幾多重要ナ部分ニ付テ修正ト追加トヲ希望スル点モ少クナイコト勿論デアリマス、昨日提案理由ヲ承リマシテ、微ニ入リ細ニ亙ツテ疑ヒヲ質シタイ点ガ多々アルノデアリマスガ、細カイ点ハ総テ委員会等ノ席上ニ譲リマシテ、此ノ際三、四ノ根本的問題ニ付テダケ、政府ノ所見ヲ承ツテ置キタイト存ズルノデアリマス
所デ具体的質問ニ入リマスル前ニ、御尋ネヲ致シテ置キタイコトガアリマス、ソレハ此ノ憲法草案ノ前文ニ付テデアリマス、憲法ノ前文ハ、何処ノ国デモ其ノ憲法ヲ制定スルニ至ツタ由来、或ハ之ヲ闘ヒ取ツタト云フ誇リヲ叙シテ、簡潔荘重ニ其ノ重要性ヲ宣言スルノガ普通デアリマス、随テ文章トシテモ明朗闊達、金玉ノ文字デアリマス、一読身ノ引緊マルノヲ感ズルノガ普通デアリマス、然ルニ今回御提案ノ憲法前文、昨日北君ガ大部分ヲ引用サレマシタカラ、重ネテ此処デ朗読スルコトヲ止メマスルガ、北君ハ、主トシテ外国語臭イ、別ニ外国語ヲ参考ニシテ書イタモノデハナイト信ジマスガ、外国語ノ臭ヒガスル、ソレモ間違ツタ理解ノ上ニ立ツテ居ルト云フヤウナ点ヲ御指摘ニナツタノデアリマスルガ、之ヲ読ミマスルト、洵ニ冗漫デアリ、切レルカト思ヘバ続キ、源氏物語ノ法律版ヲ読ムガ如キ感ガアル(拍手)極端ニ申セバ、泣クガ如ク、訴フルガ如ク、嫋々トシテ尽キザルコト縷ノ如シト言ヒタイ、一沫ノ哀調スラ漂ツテ居ルヤウニ感ズルノデアリマス(拍手)是レ果シテ経国ノ大文字ト言フコトガ出来ルデアリマセウカ、私共ハ現在ニ生キテ此ノ文字ノ成立由来ヲ感得致シテ居リマスルカラ、聊カ了解スル所ガアリマスルガ、後世子孫ガ之ヲ読ミマスル時、如何ナル印象ヲ受ケルデアリマセウカ(拍手)事ハ我ガ国ノ再出発デアリマス、モツト明朗、モツト積極的デアツテモ宜シイノデハナイカト信ジマス、何ヨリモ先ヅ普通ノ我々ノ言葉ラシイ日本文ニ改作セラレンコトヲ希望スルモノデアリマス、所謂不磨ノ大典ノ前文トシテハ冗漫ニ過ギマス、牛ノ涎式デアル、泣キ言ノ臭ヒガスル、是ハ遺憾ナコトデアリマス(拍手)政府ハ簡潔、荘重、典雅、千鈞ノ大文字ニ改メラレル御意思ハアリマセヌカ、御伺ヒヲ致シマス(拍手)
是カラ本諭ノ御質問ヲ致シマスルガ、先ヅ第一ニ御伺ヒヲシタイノハ、主権ノ所在ニ付テデアリマス、主権ノ所在、此ノ主権ハ如何ナル意味ヲ持ツテ居ルカト云フコトヲ明カニシテ置クコトハ、憲法制定ニ当リマシテ最モ大切ナコトデアリマス、俗ニ憲法トハ、主権ノ所在並ニ運用ニ関スル規定デアルト申ス位デアリマス、主権ノ在リ方ニ依ツテ、其ノ国ノ政治ノ性格ハ決マツテシマフノデアリマス、故ニ私ハ草案ヲ手ニシテ、先ヅ最初ニ此ノ点ニ深甚ノ注意ヲ払ツタノデアリマス、然ルニ草案ノ規定ノ体裁カラ見マスルト、必ズシモ一読明瞭ト云フヤウニハナツテ居ラナイノデアリマス、先般来政府ノ御説明ヲ承ツテモ、ドウモ釈然トシナイ所ガアル、仍テ御尋ネスルノデアリマスルガ、政府ハ改正案ニ於テ主権問題ヲ如何ニ御取扱ニナツテ居ルノデアルカ、主権ト云フ概念ヲ御認メニナルノカナラナイノカ、御認メニナルトシテ、是ト国権トノ区別、関係ヲドウ考ヘテ居ラレルカト云フコトデアリマス、一体主権、統治権、国権ト云フヤウナ言葉ハ、憲法乃至公法学ノ上ニ於キマシテモ、極メテ複雑多岐ニ使ハレテ居ルノデアリマシテ、往々ニシテ誤解ヲ起ス虞ガアルノデアリマスルカラ、私ハ改正サレル憲法ニ於テハ、統一シテ何レカノ概念ニ決メテ置キタイト存ズルノデアリマスガ(拍手)其ノコトハ他ノ機会ニ譲リマス、実ハ私一個人トシテハ、何レノ概念モ適当トハ思ハヌノデアリマス、主権論ガ紛糾致シマスルノハ、何カ此ノ主権ト云フ実体的権力ノヤウナモノガ実在スルモノト考ヘテ、ソレヲ君主ガ持ツカ、人民ガ持ツカト云フ風ニ考ヘルカラデアリマス、併シ御承知ノ通リ最近ノ学説ニ於テハ、主権ナルモノヲサウ云フ風ニ考ヘルコトハ誤リデアルト云フコトガ明カニサレテ居ルノデアリマス、主権論ハ十六世紀ノ「ボーダン」以来十九世紀末マデニ徐々ニ発展シ変化シテ来タモノデアリマスルガ、封建諸侯乃至君主ノ支配権ヲ説明スル為ニ作ラレタ説明方法デアリマシテ、近代国家成立ノ後モ其ノ影響ヲ受ケテ、主権ハ唯一最高、独立不可分ノ権利デアルト云フ風ニ説カレ、信ゼラレテ来タノデアリマスルケレドモ、近時ノ進歩シタ公法学説ニ於テハ、国家ヲ一ツノ法人トシテ観念スルノハ、是ハ全ク一ツノ譬デアツテ、法律上ノ国家ノ姿ヲ正シク説明スル所以デナイコトヲ明カニ致シマスルト共ニ、実体的ナ権力概念トシテノ主権乃至統治権ト云フヤウナモノガアルノデハナイ、法律的ニ見タ国家ト云フモノハ、凡ユル法律規範ノ一大集合体デアル、社会学的ニ国家ヲ見レバ、人類ノ複数ノ共同生活団体デアリマスルガ、法律ノ方カラ見タ国家ト云フモノハ、此ノ諸々ノ法律ニ基イテ自然人ガ活動シテ居ル姿デアツテ、其ノ規範ノ総合体系ヲ呼ブ時ニ国家ト言フノデアル、而シテ其ノ最高規範トシテ憲法ガアルノデアル、其ノ憲法カラ法律、命令、判決、行政行為等々、段々下級規範ニ具体化シ、個別化シテ来ルコトガ国家ノ作用デアル、ソコデ憲法ガ一番高イ規範デアルカラ、此ノ最高性ト云フコトヲ説明致シマスル為ニ主権ト言フノデアツテ、是ハ飽クマデ論理的、規範的ナモノデアル、故ニ国際法ヲ法律デナイト云フナラバソレマデデアリマスルガ、国際法ヲ法律デアルト云フコトヲ認メルナラバ、規範ノ最高性、即チ主権ハ、国家カラ国際法ニ移ツテ行カナケレバナラヌト云フコトハ、凡ユル進歩的欧米ノ学者ノ主張シテ居ル所デアリマス、最早国家ハ最高デナクナツテ居ルノデアル、無論「ウェーン」学派ノ一部ノ如ク、国家ノ中ニ国際法ヲ採入レテ、国法ノ一部トシテヤハリ国家ガ最高性デアルト説ク説キ方モアルコトハ勿論デアリマスルガ、何レニシマシテモ、此ノ規範ノ最高性――「スプリーマシー」ト云フモノハ、主権ノ意味デアリマシテ、実際的ナ権力ガアルト云フヤウニ考ヘルノハ誤解デアリ、迷信デアルト説クノデアリマス、私ハ是ガ正シイ国家学説デアルト存ジマス(「ヒヤヒヤ」)所有権ヤ行政執行権ノヤウナモノナラバ、誰ガソレヲ行使スルカ、執達吏ガ行ツテヤルト云フコトハ重大ナ意味ヲ持チマスガ、主権ノ場合ニハサウ云フコトハ意味ヲナサナイノデアリマス、意味ヲナスノハ、憲法ト云フヤウナ最高規範ヲ何人ガ作ル権利ガアルカ、一人ガ作ルカ万人ガ作ルカ、国民全体ガ作ルカト云フコトデアリマス、ココニ民主国ト専制独裁国卜ガ分レルノデアリマス(拍手)ココデ私ハ憲法学説ニ深入リスルコトヲ避ケマスルガ、従来ノ観念ヲ踏襲シテ、主権ト云フ概念ヲ只今申スヤウナ最高性ト云フ意味ニ使フコトト致シマスルナラバ、憲法制定権ガ、一人ニアルカ万人ニアルカト云フコトガ、今我々ノ前ニ提供サレタ問題デアリマス、其ノ点ニ於テ、我ガ国ハ天皇陛下ガ「ポツダム」宣言ヲ御受諾遊バサレルト御決意ニナリマシタ其ノ瞬間カラ、民主国トシテ復活更生スルト云フコトガ決ツタコトデアリマス、サウシテ民主主義ニ基イテ、新シイ憲法ノ根本的改正ヲ御示シ下サイマシタル以上ハ、今回カラ以後ハ、主権在民ノ原則ニ基イテ憲法ノ改正ガナサレルト云フコトモ、決ツタモノト申サナケレバナラナイノデアリマス(拍手)此ノコトハ美濃部博士ヲ初メ凡ユル進歩的学者ノ是認シテ居ル所デアリマス、即チ国民ノ総意ニ基イテ、国家ノ最高規範タル憲法、即チ国政運用ノ法則ガ決メラレナケレバナラナイト云フコトハ明カナコトデアリマス(拍手)其ノコトガ我々ニ取ツテ一ツノ至上命令デサヘアルト云フコトハ、終戦ノ際ニ連合国ガ我ガ国ニ送ツタ回答ニ、最終的ノ日本国ノ政治ノ形態ハ「ポツダム宣言」ニ従ヒ、日本国国民ノ自由ニ表明スル意思ニ依ツテ決セラルベキモノトスルトアルコトニ依ツテ決セラレタノデアリマス、民主主義ノ原則ハ、諄々シク申スマデモナク、一国ノ政治ノ形態、政治運用ノ諸法則ガ、最大多数ノ国民ノ意思ニ依ツテ決セラレルト云フ建前デアリマス、此ノコトガ争フ余地ガナイモノト致シマスルナラバ、諸国ノ憲法ガ皆之ヲ明カニ致シテ居リマスルヤウニ、ナゼ此ノ草案ニモ其ノコトヲ明カニシナイノデアリマセウカ(拍手)私ハ其ノコトヲ明カニシナイコトハ、何カ世界ノ誤解ヲ招ク虞ガアリハシナイカト云フコトヲ惧レルモノデアリマス(拍手)此ノ草案ヲ拝見致シマスルト、主権ト云フ言葉ハ唯二箇所ニ出テ居ル、一箇所ハ此ノ前文ノ終リノ方デアリマシテ、政治道徳ノ法則ハ普遍的ナモノデアル、自分ノ国ノ主権ヲ維持シテ、他ノ国ト対等ニ生キテ行ク為ニハ、他国ヲモ同様ニ尊重シナケレバナラヌト云フコトヲ書イタ所ニ、主権ト云フ言葉ヲ使ツテ居ルノデアリマス、是ハアリ触レタ使ヒ方デアリマシテ、独立ト云フ言葉ニ置キ換ヘテモ差支ヘガナイ使ヒ方デアルノデアリマス、之ヲ除キマスルト、本文ノ中ノ第九条ニ、国ノ主権ノ発動タル戦争ハ永久ニ之ヲ抛棄スルト規定シテ居ルノデアリマス、其ノ時主権ト云フ言葉ヲ使ツテ居ル、是モ本来主権ノ固有ノ意味ニ於テ使ハナケレバナラナイ場所デハナイ、国ノ主権ノ発動タル戦争ト云フモノハ、国ノ政策トシテノ戦争ト規定致シテモ宜シイノデアル、或ハ先頃流産ハ致シマシタガ、「フランス」憲法草案ニ規定致シマシタヤウニ、「フランス」国ハ将来征服ノ為ノ戦争ハ絶対ニ行ハナイ、斯ウ云フ風ニ規定シテモ宜シイノデアリマス、故ニ是等ハ今論外ト致シマスルガ、今草案中主権ハ国民ニ在ルト解シ得ラレマスル箇条ハ、第一条ト、第三十七条ト、第九十二条デアリマス、併シ是等ハ何レモ余程此ノ特別ノ解釈ヲ加ヘナイト明瞭ニハナラナイノデアリマス、草案ノ第一条ハ主権ノ所在ヲ規定シタモノデハナク、天皇ノ御地位ト御性格トヲ規定シタモノデアリマス、我々ハ之ニ対シテ別ニ異議アルモノデハアリマセヌ、天皇ガ日本国ト日本国民統合ノ象徴デアルコトハ、恐ラクハ最モ適切ニ、天皇ノ御地位ト御性格トヲ表現シタモノデアリマシテ、日本国民大多数ノ意思ト信念モ、其処ニ帰着スルト信ズルノデアリマス、一体日本国民ノ皇室ニ対スル意識ハ法律以上ノモノデアリマシテ、権力ト云フモノニ結付ケテ尊崇シテ居ルノデハナイ、飽クマデモ道義的、感情的ノモノデアリマシテ、現実ニ政治的権力ヲ有セラルルカ否カト云フコトニ依ツテ、其ノ敬愛ト尊崇ノ念ハ毫末モ滅却スルモノデハナイノデアリマス(拍手)現実政治ノ上ニ超然ト遊バサレルコトニ依ツテ、却テ光輝ヲ増シ、安泰ヲ得ルノデアリマス、徒ラニ天皇ニ多クノ大権ヲ帰属セシメマスルコトハ畏多イコトデアリマスルガ、所謂贔屓ノ引倒シデアツテ、採ルベカラザル所ト信ズルノデアリマス(拍手)故ニ我々ハ天皇ガ日本国ノ象徴デアラセラレルト云フコトハ、日本国民ノ信念ニ合致スル所以デアツテ、結構ナコトト存ズルノデアリマスガ、ソレガドウ云フ意味ヲ持ツモノデアルカト申シマスルト「至高の總意に基く」トアル、是ハ従来ノ天皇ノ御地位ヲ変更スル意義ヲ有スルモノデアルカト云フコトデアリマス、従来通俗ノ意味ニ於テ、天皇ハ主権者ニ御在シマスト云フヤウニ理解サレテ居ルノデアリマスカラ、天皇ノ御地位ガ国民ノ総意ニ依ツテ定マルト云フコトニナリマスレバ、今度ハ国民ガ主権者デアルト解スルノガ当然デハナイカ、現ニ外国人ノ間ニハサウ云フ風ニ解シテ居ルト見ルベキ節ガアリマス、政府ガ発表シマシタ所ノ草案ヲ、四月十八日ノ「ニッポン・タイムス」ノ記者ハ翻訳シテ此処ニ出シテ居ルノデアリマスルガ、ソレニ依リマスルト、国民ノ総意ト云フノヲ「ザ・ソヴァーレン・ウィル・オブ・ザ・ピープル」ト云フ風ニ訳シテ居リマス、即チ国民ノ主権意思ニ依ツテ天皇ノ地位ガ定マルト訳シテ居ルノデアリマス、又草案ノ前文ノ方ニハ、国民ノ総意ヲ以テ至高ナルモノト宣言シ、トアリマス、其ノ時ノ此ノ国民ノ総意ト云フコトハ、「ルソー」以来「ヴォロンテ・ゼネラール・ウィル」「ゼネラル・ウィル」ト、言葉ガ決ツテ居ルノデアリマス、新聞記者ダカラ知識ガ足リナイト言ヘバソレマデデアリマスガ、「ソヴァーレンティー」、主権ト云フ言葉ヲ使ツテ居ル、即チ「スプリーマシー」カラ変化シタ所ノ、一国ノ主権ヲ表ハス所ノ言葉ヲ以テ英語デ言フ時ニハ訳シテ居ルノデアリマス、斯ウ云フコトガ若シ誤リデアルナラバ、今カラ訂正ヲシテ置ク方ガ望マシイノデアリマス、外国語ニハドウ訳サウガ、ソレハ勝手デアルト申セバソレマデデアリマスガ、斯カル重大ナル点ニ付テ、国ノ内外ニ於テ解釈ヲ異ニスルト云フヤウナコトガアリマシテハ甚ダ面白クナイコトデアリマス(拍手)後日問題ヲ起スコトナキヲ保セナイト思フノデアリマス、此ノ点ニ付テ政府ハ此ノ際明確ニサレンコトヲ希望致シマス、私ハ単ニ訳語ト云フヤウナコトヲ問題トスルノデハナイノデアリマス、此ノ問題ニ付テノ政府ノ説明ガドウモハツキリシナイ、主権ハ国民ニ在ルト言ツテ見タリ、国家ト云フ法人ニ在ルト言ハレタコトモアル、一貫性ヲ欠クノデアリマス、主権トカ国権トカ云フモノヲ、私ノ如ク最高法規範ノ制定権ト解スル以上ハ、之ヲ制定スルモノハ君主ニアラズンバ国民、兎ニ角自然人デナケレバナリマセヌ、社会学的ニ見レバ複数ノ団体生活ノ形態デアリマスガ、更ニ之ヲ法律上カラ見レバ、之ヲ擬人化シテ、株式会社カ組合ノヤウニ、法人トシテ説明ヲ致スノデアリマスガ、是ハ一ツノ説明ノ為ノ「フィクション」デアツテ、事実デハナイノデアリマス、自分ハサウ云フ学説ハ認メナイト云フ者ニ対シテハ通用シナイノデアリマス、ヤハリ誰ガ主権ノ主体カト云フ問題トシテ残ルノデアリマス、サウスルト、私ガ前ニ申上ゲマシタ憲法前文ト草案ノ他ノ条文トヲ参照スルコトニ依ツテ、此ノ草案ノ起草者ハ国民主権ヲ認メテ居ルト言ハザルヲ得ナイノデアリマス、前文ニハ国民ノ総意ハ至高ナルモノト言ツテ居ルコトハ前ニ申上ゲタ通リデアリマスガ、即チ国民ガ国ノ最高規範ノ制定権ヲ持ツテ居ルコトヲ申シテ居ルノデアリマス
次ニハ第九十二条ノ規定デアリマス、此ノ草案ガ通過致シマシテ憲法トナリマシタ後ハ、ソレヲ又改正スルト云フコトハ、国民ノ最高代表機関デアル国会ノ発議ニ依リ、各院ノ三分ノ二以上ノ多数デ可決シタ上デ、更ニ之ヲ国民投票ニ問ウテ過半数ノ賛成ヲ得テ改正ハ成立スルト云フコトデアリマス、明瞭ニ最高規範タル憲法ノ制定権及ビ改正権ハ国民ニ在ルノデアリマス、サウシテ天皇ハ国民ノ名ニ於テ之ヲ公布遊バサレルト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、サウ云フコトデアレバ、主権在民ハ疑フ余地ハナイデハアリマセヌカ(拍手)更ニ之ヲ確実ニ致シマスルモノハ第三十七条ノ規定デアリマス、此ノ条文デハ国会ヲ以テ国権ノ最高機関デアルト宣言シテ居ルノデアリマス、国権ト云フノハ、政府ハドウ御解釈ニナルノカ分リマセヌガ、私ハ先程申上グル通リ、主権ト特ニ区別シテ用ヒル実益ヲ認メマセヌシ、各国ノ憲法ニ於キマシテモ、主権ト言フ代リニ、国権ナル言葉ヲ用ヒテ、「ドイツ」ニ於テハ「國權ハ國民ヨリ發ス」、「ベルギー」ニ於キマシテモ「總テノ權力ハ國民ヨリ出ヅ」ト云フ風ニ規定シテ居ルノガ通例デアリマシテ、結局此ノ主権在民ノ事実ヲ表明シテ居ルノデアリマス、草案ノ場合ハ直接国民ト言ハズシテ、国民ノ代表タル国会ヲ以テ国権行使ノ最高機関ト謳ツテ居ルノデアリマスカラ、主権在民ノ原則ハ同ジコトト存ズルノデアリマス(拍手)斯ウ云フ次第デアリマスルカラ、此ノ改正ハ天皇主権説カラ国民主権説ニ変ルモノト理解シテ宜シイノデアリマセウカ、御伺ヒヲ致スノデアリマス、ナゼカ今マデノ政府ノ此ノ点ニ関スル説明ハ、平明率直ヲ欠キ、奥歯ニ物ノ挟マツタ感ヲ免レナイノデアリマス、主権ノ所在ヲドウ決メマシテモ、別ニ天皇ヲ廃スルト云フノデハナイ、象徴トシテ、儀表トシテノ御地位ハ飽クマデ保持スルノデアリマス、共産党ノ諸君ト我々ノ立場ノ相違ヲ明カニ致シマスル為ニ一言致シテ置キマスルガ、民主政治ハ共和国デナケレバ行ハレナイト云フヤウナコトハ我々ハ考ヘテ居ラナイノデアル、現ニ世界中ヲ歩イテ具サニ世界ノ政治ヲ研究シテ、世界的政治学者デアル「ジェームス・プライス」ノ如キ、近代民主政治論ノ中ニ凡ユル民主政治ノ形態ヲ比較研究シテ、結局「イギリス」、「デンマーク」、「スエーデン」ノ如キ君主国ニ於テ真ノ民主政治ガ行ハレテ居ル、「アメリカ」ヨリモ、「フランス」ヨリモ、何処ヨリモ善キ民主政治ガ行ハレテ居ル、「スエーデン」ノ如キ、御承知ノ通リ十年モ前カラ社会党ノ内閣ガ成立シテ居リマシテ、王政ノ下ニ社会主義ガ着々実行セラレツツアルコトハ御承知ノ通リデアリマス、斯ウ云フ点カラ見テ、決シテ此ノ君主ノ存在ト云フモノガ民主政治ノ邪魔ニナルモノデナイト云フコトハ言ハレ得ルノデアリマス、ココニ我ガ国民感情ノ特殊性ニ鑑ミマシテ、謂フ所ノ国民ト云フ観念ノ中ニハ、上御一人モ含ムノデアルト云フノデアリマスレバ、ソレモ結構ナコトデアル、兎ニ角国民全体ガ此ノ主権ノ主体デアルト云フコトヲ闡明サレマシテ、斯ウ云フ風ニ間接ニ窺ヒ知ルコトガ出来ルト云フヤウナ建前デナク、端的ニ、明快ニ、何人ニモ分ルヤウニ、一箇条ヲ設ケテ御規定ニナル意思ハアリマスマイカ、特ニ総理大臣並ニ在野時代ニ於テ民主主義ノ「チャンピオン」デアラセラレマシタル齋藤国務大臣ニ御意見ヲ承リタイノデアリマス(拍手)私ガ特ニ此ノ点ニ力ヲ入レマスルノハ、此ノ点ヲ曖昧ニシテ置キマスルコトハ、憲法学説ノ発展ノ上ニモ、又一般国民ノ教育ノ上ニモ将来極メテ重大ナ影響ガアリ、更ニ法律ニ依ツテ与ヘラレタル権力行使ノ実際ニモ関係スル所少クナイカラデアリマス(拍手)御承知ノ通リ現行憲法第三条ニハ「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」ト云フ規定ガアリ、第四条ニハ「天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ」云々ト云フ規定ガアリマス、タツタ此ノ二条ガアリマスルバカリニ、我ガ国ニ於テハ憲法学説トシテハ実ニ意外ナ、世界ニハ通用シナイ独断論的、神秘主義的、宗教的憲法学説ガ横行シタノデアリマス、第三条ノ規定ハ厳粛ナ表現ハ用ヒテアリマスガ、要スルニ何処ノ国ニデモアル、君主ハ刑事上政治上ノ責任ヲ負ハナイト云フ此ノ無責任ノ原則ヲ宣言シタモノニ外ナラナイノデアリマス、第四条ノ「國ノ元首ニシテ」云々ト云フコトハ、国家ノ最高機関トシテ政治上ノ権力ヲ行使スルト云フコトヲ規定シタモノニ外ナラナイノデアリマスガ、私ハ学生時代ニ故上杉愼吉先生カラ憲法ノ講義ヲ聴イタノデアリマスガ、上杉先生ニ依ルト、天皇ハ神様デアル、其ノ意思ハ直チニ法トナル、日本国家其ノモノデアル、国家機関ト云フガ如キハ以テノ外デアル、憲法ニ規定ノナイ領域デハ天皇ハ如何ナルコトデモ行ヒ得ルノデアル、議会ナドハ気ニ入ラナケレバ何回続ケテ解散シテモ差支ヘナイノデアルト云フヤウナ、帝王神権説ノ御説明ヲ承ツタノデアリマス、私ハ当時皇室ヲ尊崇スル感情ニ於テハ決シテ人後ニ落チナカツタノデアリマス、今デモ左様デアリマスルガ、ソレデモ其ノ講義ヲ聴カサレマスル時ニ、ソレハ法律以外ノ問題、主トシテ国民感情、国民信念ノ問題デアリマシテ、国民道徳トシテ説クベキモノデアル、法律ノ説明トシテハ軌道ヲ逸脱シテ、一種ノ信仰ヲ強ヒルモノトシテ、未熟ナル学生デアリマシタガ、法律学トシテハ世界ニ通用シナイ、成ツテ居ナイ学説デアルト私カニ感ジタモノデアリマス、併シ実際ハサウ云フ馬鹿ゲタ学説ガ明治、大正、昭和ヲ通ジテ唯一ノ正統派憲法学説トシテ通用シ、国家機関説ノ如キハ乱臣賊子トシテ排斥セラレ、其ノ学徒ハ迫害セラレタルコトハ公知ノ事実デアリマス、曲学阿世トシテ心アル者ハ痛憤シマシタケレドモ、権力ト結付イテ横行スルニ於テハ如何トモ仕方ガナカツタノデアリマス、超国家主義ヲ育ンダコトニ依ツテ我ガ国ヲ誤ツタコト此ノ学説位大ナルモノハ少クナイト存ズルノデアリマス(拍手)然ルニ此ノ種ノ思想ノ帰結トシテ、官吏ヲ以テ天皇ノ代理人デアル、天皇ノ延長デアルトノ信念ヲ植エルニ至リマシテ、検事ヤ警察官ガ、天皇ノ代理人デアルト称シテ権力ヲ濫用シ、無辜ノ民ヲ苦シメテ凌虐ヲ恣ニシタ例ハ枚挙ニ遑ガナイノデアリマス(拍手)陛下ノ赤子ヲシテ為ニ皇室ヲ怨マシメルノ因ヲ作ツタコトモ少クナイノデアリマス(拍手)幸徳事件デモ、難波大助事件デモ、最初カラ彼等ハ決シテ斯クノ如キ行動ニ出ヨウトシテ居ツタノデハナイノデアリマス、然ルニ警察官ノ天皇ノ名ニ於ケル圧迫ニ痛憤シタ結果、逐ニ行動ガ彼処マデ行ツテシマツタノデアリマス、是レ記録上明カナルコトデアリマス、今回提案サレマシタル草案ハ、極メテ民主的デアリ、明朗デアツテ、曲学ノ徒ヲ生ム余地ハ少イト存ズルノデアリマスルガ、天皇ハ国ノ象徴デアルト云フ規定ダケデ、国民主権ノコトガ明瞭ニ謳ハレテ居ナイナラバ、再ビ彼ノ¬フランス」ノ「ルイ」十六世時代ニ、帝国即国家、帝王神権説ト云フモノガ行ハレマシタヤウニ、妙ナ学説ガ飛出ス虞アリト信ズルノデアリマス、我々ハ将来ハ此ノ憲法ヲ以テ我ガ国民教育ノ教典トシタイト云フ念願ヲ持ツテ居ルノデアリマス、此ノ見地カラシマシテモ、国民各自ヲシテ、国ノ最高規範ノ制定乃至改正ニ参与スル権利ヲ持ツテ居ルノダト云フコトヲ意識セシメマスルコトハ、換言スレバ我レハ主権者ナリト云フ衿持ヲ国民全体ニ持タシメマスルコトハ、国民自覚ノ昂揚ニ資スルコト大ナルモノアリト信ズルノデアリマス(拍手)此ノ意味ニ於テ、政府ハ平明ニ主権在民ノ原則ヲ明カニスル御意思ハアリマセヌカ、御伺ヒヲ致スノデアリマス
次ニ御尋ネヲ致シタイノハ、戦争抛棄ノ宣言ニ付テデアリマスガ、我ガ国ガ苦イ経験ニ鑑ミ、平和主義ニ徹シマシテ、我ガ国ノ安全ト生存トヲ挙ゲテ平和ヲ愛スル世界諸国民ノ公正ト信義ニ委ネマシテ、政策トシテノ戦争ハ之ヲ抛棄シ、一切ノ軍備ヲ撤廃スルト云フコトヲ国是トシマシタコトハ結構ナコトデアリマス、縦シヤ外国評論界ノ一部ニ、ソレハ子供ラシイ信念ダト嗤フ者ガアリマシテモ、過ツテ改ムルニ憚ルコトナカレデアリマシテ、我ガ国ガ先鞭ヲ付ケルコトニ依リマシテ、世界ノ国々ノ憲法ニ此ノ種ノ規定ヲ採用セシムルダケノ意気込ヲ以テ臨ムベキデアルト信ジマス(拍手)現ニ不成立ニ終リマシタガ、¬フランス」ノ過般ノ憲法草案ニハ、征服的戦争ハ決シテシナイト云フコトヲ宣言シテ居ルノデアリマス、段々之ニ倣フモノガ多クナラウト信ジマス、我ガ党ハ、単ニ消極的戦争抛棄ヲ宣言スルダケデナク、進ンデ平和ヲ愛好シ、国際信義ヲ尊重スルコトヲ以テ我ガ国是トスルト云フコトヲ、憲法ノ中ニ明ラカニシタイト考ヘテ居ルモノデアリマスルガ、其ノコトハ姑ク措キマシテ、戦争ノ抛棄ハ国際法上ニ認メラレテ居リマスル所ノ、自衛権ノ存在マデモ抹殺スルモノデナイコトハ勿論デアリマス、其ノコトハ心配ヲシテ御質問ニナツタ方ガ二、三アルヤウデアリマスガ、御心配ハ御無用デアリマス、併シ軍備ナクシテ自衛権ノ行使ハ問題トナル余地ハナイノデアリマスルカラ、将来幸ヒニ国際連合等ニ加入ヲ認メラレマスル場合ニ、国際連合ニ安全保障ヲ求メ得ラレルデアラウト云フコトヲ期待致スノデアリマスルガ、我々ノ心配致シマスノハ、我ガ国ガ第三国間ノ戦場トナルヤウナコトデアリマス、是ハ憲法ノ問題デハアリマセヌガ、斯ウ云フ宣言ヲ致シマスル以上、政府ハ将来外交的手段其ノ他ニ愬ヘテ、一日モ早ク国際連合ニ加入ヲ許サレ、安全保障条約等ニ依ツテ我ガ国ガ惨禍ヲ被ムルコトヲ避ケラレルヤウニ善処セラレル用意ガアラレルカト云フコトヲ念ノ為ニ御尋ネ致スノデアリマス(拍手)是ハ国民全体ガ深ク心配ヲ致シテ居ル所デアリマスルカラ、此ノ際政府ノ御所見ヲ明カニセラレタイト存ズルノデアリマス、昨日北君ハ局外中立ヲ交渉スル用意ガアルカト質問サレタノデアリマスルガ、局外中立、殊ニ永世局外中立ト云フモノハ前世紀ノ存在デアリマシテ、今日ノ国際社会ニ之ヲ持出スノハ「アナクロニズム」デアリマス、今日ハ世界各国団結ノ力ニ依ツテ安全保障ノ途ヲ得ル外ナイコトハ世界ノ常識デアリマス(拍手)加盟国ハ軍事基地提供ノ義務ガアリマス代リニ、一タビ不当ニ其ノ安全ガ脅カサレマス場合ニハ、他ノ六十数箇国ノ全部ノ加盟国ガ一致シテ之ヲ防グ義務ガアルノデアル、換言スレバ、其ノ安全ヲ保障セヨト求ムル権利ガアルノデアリマスカラ、我々ハ、消極的孤立、中立政策等ヲ考フベキデナクシテ、飽クマデモ積極的平和機構ヘノ参加政策ヲ執ルベキデアルト信ズルノデアリマス(拍手)此ノ点ニ付テ政府ノ御所見ハ如何デアリマスカ
次ニ参議院ノ構成ニ付テ政府ノ構想ヲ御尋ネ致シタイノデアリマス、国会ニ付テモ色々問題ハアリマスルガ、細カイコトハ委員会ニ譲リマス、衆議院ノ構成ハ、選挙法ヲ我々ノ希望スルヤウナ方法ニ改メラレマスルナラバ、大体草案ノ如クデ宜シイト思フノデアリマスルガ、参議院ト云フモノハ余程御考慮ヲ願ハナケレバナルマイト存ズルノデアリマス、草案ノ規定ハ余リニモ簡単ニ過ギルト思ハレマス、少クトモ其ノ性格位ハ規定シナケレバナルマイト思ハレマスルガ、仮ニ規定ハ簡単デモ、参議院ノ構成ガ予定サレテアリマスレバ、形容詞位ハクツ付ケラレル筈ト思フノデアリマスルガ、立案サレマスル時ニ皆目見当ガ付イテ居ラナカツタトシカ思ハレナイヤウデアリマス(拍手)一体此ノ衆議院ノ外ニ貴族院、第一院ノ外ニ第二院、下院ノ外ニ上院ナルモノノ存在理由ガアルカト云フコトハ古クカラノ問題デアリマス、身分的階級ノ残存スル国ニ於テハ、一種ノ盲腸的存在トシテ極メテ制限サレタ権限ニ於テ第二院ノ存在モ意義アルデアリマセウガ、身分的階級ノ消滅シタ国ニ於キマシテハ、政治技術トシテ所謂調節作用、「チェック・アンド・バランス」ノ作用ヲ営マセル為ニ、即チ下院ニハ進歩的思想ヲ、上院ニハ保守的思想ヲ代表サセルト云フ意味デ存在サセタノデアリマスルガ、今日デハ大抵ノ国デハ、身分的階級モナクナリ、国民ガ平等ニナツテ居リ、地域代表、人口代表タル第一院ノ中ニ、国民ノ思想的縮図ハ反映サレテ居ルノデアリマシテ、一ツノ院ヲ作レバ、チヤント其ノ中ニ保守ト進歩トガ代表サレルノデアリマス、現ニ此ノ院ニ於キマシテモ、チヤント保守ト自由トガハツキリ席ヲ隣シテ対坐シテ居ルノデアリマスカラ(拍手)国民ガドチラヲ支持スルカト云フコトハ、総選挙毎ニチヤント分ルノデアリマスカラ、最早一院ダケデ沢山デアリマス
〔「脱線スルナ」「黙ツテ聴イテロ」ト呼ビ其ノ他発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○鈴木義男君(続) 一院ダケデ沢山デアル、現ニ第二院ト云フ屋上屋ヲ架スルヤウナ制度ヲ作ル必要ハナイト云フ議論ハ有力デアリマス、私ノ読ンダ学者ノ書物デモ、会ツテ話シタ学者デモ、現在ニ於テハ、一院ヲ以テ十分デアルト断ズル者バカリデアリマシテ、二院制度ヲ採ル者ハ一人モナイト申シテモ過言デハナイノデアリマス、理論ハ其ノ通リデアリマスルガ、偖テ実際ノ政治上ノ経験ハ、一院ダケデヤリマスルト、往々ニシテ軽率ニ流レ、感情ニ激スルト云フヤウナコトモ多イノデアリマシテ、同ジヤウナ傾向ヲ持ツタモノデモ、第二院ガアツテ再審議スル方ガ円満妥当ニ進行シテ行クト云フコトモ定論ノ存スル所デアリマス、最近其ノ草案ヲ国民投票ニ問ヒマシタ、「フランス」ニ於キマシテモ、一院制度ヲ採ツテ居ツタコトハ其ノ通リデアリマスルガ‥‥
〔「進行進行」ト呼ビ其ノ他発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○鈴木義男君(続) 「レフェレンダム」ニ於テモ国民多数ノ賛成ヲ得ルコトガ出来ナカツタ一ツノ理由ハ、国民ハ、アノ国ノ従来ノ議会政治ノ経験ニ鑑ミマシテ、一院制度ニ不安ノ念ヲ抱イタト云フ点ニアツタト伝ヘラレテ居ルノデアリマス、デアリマスカラ理論上ノ問題ハ別ト致シマシテモ、我々ハ二院制度ヲ支持スルモノデアル、参議院ヲ設ケルコトニ反対ハシナイ
〔「何ヲ言ツテ居ルンダ」ト呼ビ其ノ他発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○鈴木義男君(続) 併シドウ云フ人々ヲ以テ此ノ参議院ヲ構成スル積リカト云フコトニ付テ、政府ノ所見ヲ質シタイノデアリマス、草案ニハ唯全国民ヲ代表スル選挙セラレタル議員ト云フコトニナツテ居リマス、若シ此ノ意味ガ全ク衆議院議員ノ選挙ト同ジヤウナ方法デ、イマ一ツノ院ノ議員ヲ作ルト云フノデアリマスルナラバ、第二院ノ存在意議ハナクナルト思フノデアリマス、ソレモ「アメリカ」ノヤウニ、領土モ広ク、州が沢山アル国ニ於キマシテハ被選人ノ年齢ヲ高メテ、数ヲ極度ニ圧縮スル、下院ハ四百三十五人ノ議員デアルノニ対シテ、上院ハ各州カラ二人ヅツ九十六人デ構成シテ居ルノデアリマスルカラ、優秀ニシテ有能ナル人物ガ出テ来ルノデアル、自ラ下院トハ違ツタ色彩ヲ持ツコトガ出来ルト存ジマスルガ、我ガ国ハ直チニ之ヲ学ブコトハ出来ナイト思フノデアリマス、或ハ草案ノ規定ヲ変ヘテ、銓衡制度ニセヨト云フヤウナ議論モアル、数ヲ代表スル衆議院ニ対シテ、学識経験、即チ理ヲ代表スル参議院ニセヨト云フヤウナ論モアリマス、一応尤モノヤウデアリマスルガ、一部ノ特権ヲ認メルコトハ、民主主義憲法ノ要求ニ反スルト云フコトハ別論ト致シマシテモ、政治ハ実際デアル、或ル偏ツタ知識ダケヲ持ツテ居ル学者ダケヲ一院ニ集メテ衆議院ニ対立サセマシテモ、調整作用ヲ営ムト云フ訳ニハ参ラヌト思フ、学者ヲ活用スルノ途ハ、将来専門委員会制度ノヤウナモノノ発達ニ依ツテ、十分其ノ途ガ開カレルト信ジマス、要ハ健全ナル判断力ヲ第二院ニ求メレバ宜シイノデアリマス、故ニ第二院ノ議員モ一般国民ノ間カラ之ヲ選ブ、公選ノ原則ハ之ヲ貫クベキデアルト存ズルノデアリマスルガ、我々ノ考ヘデハ、衆議院ガ純然タル新興代表タルニ対シテ、参議院ハ諸々ノ職業、職能上ノ経験者ヲ集メルト云フコトデ、健全ナル判断力ヲ得ルコトガ出来ルノデハナイカト思フノデアリマス(拍手)年齢ト被選資格トニ或ル程度ノ制限ヲ加ヘルコトニ依ツテ、技術的ニ此ノ目的ヲ達スルコトハ容易デアリマス、此ノ外ニ適当ナ案ハナイト信ズルモノデアリマスガ、此ノ点ニ対スル政府ノ御所見ハ如何デアリマスカ、御伺ヒヲ致ス次第デアリマス
最後ニ社会党トシテ最モ追加増補ヲ要求致シマスル草案第三章ノ規定、即チ国民ノ権利義務ノ規定ニ付テ、政府ノ所見ヲ承リタイノデアリマス、此ノ草案ハ、相当微ニ入リ細ニ亙ツテ、国民ノ自由、権利ト義務トヲ規定致シテ居ルノデアリマシテ、相当能ク出来テ居ルト申シテ差支ヘナイト思ヒマス、併シナガラ仔細ニ之ヲ見マスレバ、草案ハ我々ノ生命、身体、言論、信教、通信等、所謂此ノ政治的自由ノ保護保障ニハ略々遺憾ナシデアリマスルガ、家庭生活、共同生活ノ保護、更ニ近代国家ニ於ケル一般的要求タル無産階級ノ経済上ノ権利義務ニ付キマシテハ、規定スル所余リニモ少イト云フコトヲ感ズルノデアリマス(拍手)或ハサウ云フコトヲ申シマスルト、働カザル者ハ食フベカラズト云ツタリ、働ク者ニ食ヲ保障スト云フヤウナコトヲ規定スルコトハ、法律的規定デハナイ、「ロシヤ」ノヤウニ之ヲ法律ニシテ居ル国モアリマスルガ、ソレハ立法政策ノ問題デアリ、政治道徳ノ問題デアルト云ハレルカモ知レマセヌガ、ソレナラバ、御示シニナリマシタ草案ノ第十一条、第十二条ノ如キモ、立派ナ道徳的規定ニ過ギナイノデアル、此ノ憲法ガ国民ニ保障スル自由又ビ権利ハ、国民ノ不断ノ努力ニ依ツテ保持シナケレバナラナイト云フコトハ、是ハ道徳的規定デアリマス、総テ国民ハ個人トシテ尊重サレル生命、自由及ビ幸福追求ニ関スル国民ノ権利ニ付テハ、立法其ノ他ノ国政ノ上デ最大ノ尊重ヲ必要トスルト云フヤウナコトハ、全ク立法政策ノ道徳的約束デアリマス、一体憲法ハ、曽テハ政治的自由ノ保障ノ外ハ、単ニ政治的運用ノ技術的規定ダケヲ尊重スルニ止マツタ時代モアリマシタガ、近代諸国ノ憲法ハ、「ドイツ」ノ「ワイマール」憲法ト云ヒ、其ノ後各国ニ於テ作ラレタ憲法ト云ヒ、最近デハ「ソ」連ノ憲法、「フランス」ノ憲法草案、中華民国ノ草案ノ又草案等、何レモ此ノ文化的、社会的、経済的権利義務ノ規定ヲ豊富ニ採入レテ、之ヲ国民ノ一大経典トシテ居ル感ガアルノデアリマス、「フランス」ノ社会党ノ首領、前ノ総理大臣「グアン」ガ、新憲法ヲ国民投票ニ付シマスルニ際シマシテ、憲法ニ政治的自由ノ保障ナキ国ハ野蛮国デアル、経済的権利ノ保障ナキ国ハ最早立憲国トハ言ハレナイト喝破シタノデアリマスガ(拍手)洵ニ至言ト言ハナケレバナラヌノデアリマス、是ハ社会進歩ノ状況ニ鑑ミ当然ノコトデアリマシテ、我々ハ此ノ際我ガ憲法ノ画期的改正ニ当リ、十九世紀的自由権ノ外ニ、広ク二十世紀的、文化的、社会的、経済的権利ノ規定ヲ採入レ、之ヲ一般ノ生活基準トスルダケデナク、又之ヲ国民ノ一大経典トシタイト考ヘルノデアリマス(拍手)今度ノ「フランス」憲法ノ草案ノ如キハ、此ノ部分ハ実ニ至レリ尽セリニ出来テ居ルノデアリマス、以テ参考トスルニ足ルノデアリマス、サウシテ国民学校時代カラ之ニ習熟セシメマシテ、健全ナル国民意識ヲ持タセルコトニ努メタイト思フノデアリマス、サウ云フ見地カラ我ガ党ハ、曩ニ我ガ党憲法草案要綱トシテ発表致シマシタ生存権、労働権其ノ他ノ諸々ノ権利ノ規定ヲ挿入スルコトヲ希望スルモノデアリマス、即チ、例ヘバ日本国民ハ総テ健康ニシテ文化的水準ニ達スル生活ヲ営ム権利ガアル、総テノ立法ト政治トハ、之ヲ目標トシテ行ハルベキコトト云フヤウナ規定ヲ挿入シタイ、草案ハ労働ノ権利ヲ規定シテ、労働ノ義務ハ規定シテ居リマセヌガ、我ガ国民意識ノ現状ニ於テハ、義務モ規定スルノ必要ガアルト信ジマスルカラ、総テ健全ナル国民ハ労働ノ義務ト労働ノ権利トヲ有スル、正当ナル労働ニ対シテハ正当ナル報酬ヲ受クルノ権利ヲ有スル、国ハ就業ニ於ケル機会均等ト失業防止ノ為ニ特ニ努力スル、サウシテ此ノ草案ニアリマスヤウナ賃金、就業時間其ノ他ノ勤労条件ニ関スル基準ハ法律デ定メルト云フヤウナ規定ニシタイト存ジマス(拍手)又国民ハ休息ノ権利ヲ有スル、最高八時間労働、有給休暇制、療養所、社交、教養ノ時間ノ設定ト云フヤウナ努力ヲ約束致シマシテ、憲法ノ上ニ休息ノ権利ヲ保障シテ置キタイト思フノデアリマス、又老年、疾病、労働不能、未亡人即チ寡婦等ハ、生活ノ安全ヲ保障サレル権利ヲ有スル、是ハ公費ニ依ル社会保険ノ発達、無料施設ノ供与、給与金ノ交付等ヲ内容トスルノデアリマスガ、少クトモ憲法ノ上デ之ヲ規定シテ置キタイ、又農耕地ニ付キマシテハ、所有権ヨリモ耕作権ノ方ガ重要ナル意義ヲ有シマスルガ故ニ(拍手)土地ヲ耕作スル農民ノ権利ハ之ヲ保護スル、土地ノ過当ナル独占ハ之ヲ禁止スルト云フヤウナ規定ヲ追加致シタイノデアリマス(拍手)
又草案第二十二条ハ、婚姻其ノ他ニ於ケル男女ノ平等ヲ規定シテ居リマスガ、古キ家族制度ノ解体、新シイ家庭ノ成立ニ当リマシテ、将来親子、兄弟、姉妹ノ関係等ヲ合理化スル必要ヲ認メマスルカラ、家庭生活ノ保護ト云フコトヲ追加致シテ置キタイノデアリマス(拍手)又草案第二十四条ハ教育ノコトヲ規定シテ居リマスルガ‥‥
〔発言スル者多ク議場騒然〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○鈴木義男君(続) 教育ノ機会均等等ハ、初等教育ニ限ラルベキモノデハナイト思フノデアリマシテ‥‥
〔発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○鈴木義男君(続) 全教育ノ部面ニ及ブノデアリマスカラ、才能ガアツテ貧困ナル青年ノ高等教育ハ、国費ヲ以テ教育スルト云フヤウナ規定ヲ入レタイノデアリマス(拍手)是等ハ決シテ我々ノ独断デハナクシテ、何レモ他ニモ立法例ノ存スル所デアリマス、斯ウ云フ質問ハモツト抽象的ナ形デハ北君ガ昨日ヤツタノデアリマシテ、私ハ具体的ニ述ベテ居ルダケデアリマス(拍手)サウシテ是等ノ理想ニ向ツテ努力致シマスコトハ、独リ我ガ党ダケノ任務デハナクシテ、将来総テノ政府ノ任務デナケレバナラヌト信ズルノデアリマス(拍手)、或ハ政府ハ草案第二十三条デ沢山ダト云フ風ニ御考ヘニナルカモ知レマセヌガ、二十三条ハ我々ノ解スル所デハ一般的構成、立法ノ原則ヲ示シタダケデアリマシテ、斯ウ云フ抽象的規定ダケデハ我々ハ満足スルコトハ出来ナイノデアリマス、更ニ憲法ヲ以テ国民ノ教科書トスルト云フ建前カラハ、法律等ニ慣レナイ者ニモ能ク分リマスルヤウニ、論理上当然入ツテ居ル規定モ、丁寧親切ニ分リ易イヤウニ規定スルコトヲ希望シタイノデアリマス、例ヘバ納税ヤ公ノ負担ノ義務ヲ規定スル如キ、或ハ普通裁判ノ外ニ行政訴訟モ出来ル旨ヲ規定スルガ如キ、公ノ不法行為ニ対シテモ救済ヲ求メルコトガ出来ルト云フコト、冤罪ニ苦シメラレタ者ニハ国家ガ補償スルト云フガ如キ、何レモ挿入スルコトヲ希望スル条項デアリマス、或ハ形式的法理論ヲ弄ブ者ハ、今回ノ御堤案ハ現行憲法第七十三条ニ依ツテ発案サレタノデアルカラ、示サレタル条文ノ修正ハ出来ルガ、新タナル条項ノ追加ハ許サレナイト云フヤウナコトヲ申スカモ知レマセヌガ、ソレハ全ク形式論デアツテ、政府ハ過日ノ御答弁ニ於テモ、欣然大幅ノ修正ニ応ズル用意アリト声明サレタノデアリマスルカラ、我々ノ意見ニモ十分耳ヲ傾ケラレルモノト信ズルノデアリマス(拍手)上述ノ如キ諸条項ヲ追加致シマスルナラバ、国民ノ権利義務ノ規定ハ、世界ヲ通ジテ最モ優レタル、略々完璧ヲ期シ得ラレル憲法ト相成ルカト存ズルノデアリマス(拍手)条文ノ詳細ハ何レ委員会等ニ於テ申述ベル積リデアリマスルガ、政府ハ我々ノ希望ヲ受入レラレル用意アリヤト云フコトヲ御尋ネ致スノデアリマス、其ノ他我々ト致シマシテハ、天皇、国会、内閣、司法、財政、地方制度等ノ各条章ニ亙リマシテ、尚ホ幾多ノ修正ヲ希望スル点モアリマスルガ、ソレ等ハ余リニモ細カイ議論ニナリマスルカラ、総テ委員会ニ譲リマシテ、以上三、四ノ重要ナル点ニ付テダケ御質問申上ゲマシテ、私ノ質問ヲ終ルコトト致シマス(拍手)
〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君) 鈴木君ノ御尋ネニナリマシタ点ニ付キマシテ、比較的根本ト認メラルル方カラ順次御答ヘヲ致シタイト思ヒマス、随テ省イタカラト云フノデハナクテ、若シ先ニ述ベマセヌケレバ、後デ御説明ヲスル順序ニナリマス
鈴木君ハ一ツノ問題トシテ主権ノ所在ヲ論議セラレマシテ、ソレニ付テノ御意見ヲ御示シニナリ、且ツ御質問ニナツテ居リマス、此ノ点ハ昨日モ今日モ申上ゲタノデアリマスルガ、此ノ憲法ノ改正案ヲ起案致シマスル基礎トシテノ考ヘ方ハ、主権ハ天皇ヲ含ミタル国民全体ニ在リト云フコトデゴザイマス、併シナガラ此ノ言葉ハ、前ニモ鈴木君ガ仰セラレマシタヤウニ、世間ニ於テハツキリシナイ幾ツカノ意義ヲ持ツテ居ル言葉ヲ含ンデ居リマスルガ故ニ、其ノ補整トシテ主権ト云フ言葉ハ、国家ノ意思ノ厳然タル意思力ト云フ意味ニ於テ用ヒテ居ルコトヲ附加ヘマス、斯ク申上ゲマスレバ、恐ラク鈴木君ノ仰シヤル所ト、学問上ノ考ヘ方ニ付キマシテハ或ハ違フカモ知レマセヌガ、実行上必要ナル限度ニ於キマシテハ違フ所ハナイト信ジテ居リマスルガ故ニ、左様ニ御考ヘ下サイマシテ、私共ハ毫末モ曖昧ナル言葉ヲ使ツテ居ル気持ハ持ツテ居リマセヌ(拍手)唯併シナガラ帝国憲法改正案ノ条文ノ中ニ、其ノ意味ノ言葉ヲ用ヒナカツタコトハ、主権ト云フ言葉ガ多岐的デアリマスルガ故ニ、世間幾ツカノ意味ニ用ヒラレマシテ、又其ノ解釈ニ於キマシテハ、先程鈴木君ガ該博ニ諸般ノ学説見解ヲ総合シテ御説明ニナリマシタヤウニ、甚ダ多岐デアリマシテ、此ノ憲法改正案ノ条文ニ盛込ムコトハ適当ヲ欠クト考ヘマシタカラ、他ノ言葉ヲ用ヒマシテ、国民ノ総意ガ至高デアルトカ、或ハ至高ノ総意ニ基クトカ云フ表現ヲ用ヒタ訳デゴザイマス
次ニ第二ノ問題ト致シマシテ、「ポツダム」宣言ヲ受諾致シマシタ刹那ニ、日本ノ此ノ国家ノ基本法則ヲ立テル権能ニ変化ガアツタト云フ前提ノ下ニ御尋ネニナツテ居リマスルガ、私ハ「ポツダム」宣言ハ憲法改正権等ノ所在ニ付テ直接ニ物的変動ヲ起シテ居ルモノデハナイト考ヘテ居リマス、唯「ポツダム」宣言ニ基ク義務ヲ此ノ現行憲法ノ秩序ノ下ニ実現シテ行クノデアル、言換ヘマスレバ現行憲法七十三条ノ規定ニ従ツテ新タナル憲法改正ヲ行ヒ、ソレニ依ツテ「ポツダム」宣言ノ趣旨ヲ実行シテ行キ得ルモノト云フ解釈ニ出発シテ居リマス(拍手)
次ニ第二章ノ戦争抛棄ノ関係ニ於キマシテ、此ノ自衛権ハ勿論存スルト云フ御前提カラ、更ニ外交的ナル手段ヲ以テ世界ニ呼ビ掛ケルト云フ気持ハ持ツテ居ルカ、努力スル其ノ腹案ニ付テ御尋ネニナリマシタガ、是ハ総理大臣ガ他ノ機会ニ於テ御説明ニナリマシタ通リ、左様ナ考ヘヲ心ノ中ニハ描イテ居ルケレドモ、現実ノ問題トシテハ之ヲ明カニスルニハ時期ガ適当デナイ、斯ウ云フ意味ニ御考ヘヲ願ヒタイト思ヒマス
次ニ参議院ノ構成ニ付キマシテ色々御意見ヲ御示シニナリマシタガ、大体ニ於テ、ソレハ私共ノ言ハント欲シテ居ル考ヘト同ジヤウニ了承致シマシタ、唯御示シニナリマシタ所ニ、少シク今直チニ御賛成申上ゲ兼ネル所モアリマシタガ、兎モ角モ健全ナル判断力ヲ参議院ニ現ハサナケレバナラヌ、斯ウ仰セニナリマシタコトハ、私ノ言ハント欲シテ居ル思想ヲ適切ナル言葉ヲ以テ御示シニナツタコトト了解シテ居リマス(拍手)唯職能代表ノ問題ニ付キマシテハ、今日ノ実情カラ推シマシテ、仮令是ガ理論的ニ維持シ得ルニ致シマシテモ、実行ノ面ニ於テ甚ダ疑ヒヲ持ツテ居リマシテ、遽カニソレハ宜シイトハ申上ゲ兼ネルト云フ風ニ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス
〔発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○国務大臣(金森徳次郎君)(続) 次ニ第三章ノ国民ノ権利義務ニ関シマシテノ多数ノ修正ヲ前提トスル御意見ノ表示ガアリマシタ、私共ハ其ノ御示シニナリマシタ個々ノ点ニ付キマシテ、実質的ニハ相当啓発ヲ受ケテ居ルノデアリマス、唯併シ如何ナル権利ヲ此ノ三章ノ中ニ盛込ムカト云フコトニ付キマシテハ、種々ナル段階ニ於テ考ヘラレルノデアリマシテ、原案者ト致シマシテハ、現在ノ国民ノ最大多数ニ依ツテ御賛同ヲ得得ル部分ヲ主眼ト致シマシテ、サウシテ権利ノ内容ヲ取捨選択致シタノデアリマス、ダカラ御趣旨ノ一ツ一ツニ反対ト云フ意味デハアリマセヌガ、併シ盛込ムベキ範囲ニハ自ラ限界ガアリ、原案ニハソレニ付テ相当ノ苦心ヲ用ヒテ居ルト云フコトハ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス、サウシテ義務ニ関スル規定ガ足リナイト云フ御趣旨、是モ立派ナ私共ヲ教フルニ足ル所ト思ツテ居リマスガ、実情ハ斯ウ云フコトニナツテ居リマス、我々ガサウ云フ権利義務ノ範囲ヲ色々ト研究ヲ致シマスル時ニ、日本ノ過去ノ姿ニ於キマシテハ、義務ニ関スル思想ガ強ク主張サレマシテ、権利ニ関スル思想ガ軽ク扱ハレテ居ル、露骨ニ言ヘバ、古イ話ノヤウニ申シマスルガ、十八世紀ノ個人主義的憲法ノ認ムル各個ノ自由権スラモ、国民ノ認識ニ深ク徹底スルニ至ラズシテ世相ノ変化ヲ見タノデアリマシテ、ヤハリ国民ニハ権利ト云フ思想ヲ強ク理解セシムルコトガ妥当デハナイカ、斯ウ云フ着想ニ基キ、主トシテ権利ノ方面カラ規定ヲ致シマシテ、唯其ノ総テニ亙リマシテ、第十一条等ニ於テ其ノ権利ノ反面ニ於テ義務及ビ責任ヲ伴フト云フ趣旨ヲ以テ全部ヲ包容スルヤウニ考ヘテ居リマス、「ポツダム」宣言ガ示シテ居リマスル所モ、国民ノ権利ノ方ニ重キヲ置イテ指示シテ居ルノデアリマス
ソレカラ前文ノ問題ニ付テ最後ニ御答ヘヲ申上ゲマスルガ、前文ガ典雅ナ文章デナイ、冗長デアルト云フ御示シニナツテ居リマス、私共ハ其ノ御考ヘニ毫モ今抗弁ヲスル考ヘハ持ツテ居リマセヌ、併シ私共ノ気持ヲ率直ニ言ハシテ戴キマスルナラバ、現在ノ日本ハ色々ナ意味ニ於テ人心ノ転換期ニアル訳デアリマシテ、言ハナケレバ分ラナイ、先程憲法ハ国民ノ経典ニスベキモノデアルト仰セラレマシタガ、ソレト同ジ気持ニ於キマシテ、必要ナル事項ハ、長クトモ又諄々シクトモ、能ク分ルヤウニ書クコトガ適切デアル、其ノ故ニ前文ノ中ニ相当長イ叙述ヲ加ヘタノデアリマス、文章ノ善悪等ハ又別ノ観点カラ来ルコトデアリマシテ、是ハ今省略サセテ戴キマス
其ノ他色々仰セニナリマシタケレドモ、其ノ主ナル点ニ付テ御答ヘ申上ゲマスト、サウ云フ次第デアリマシテ、更ニ一言全体ニ亙ツテ附加ヘサシテ戴キタイノハ、此ノ憲法ハ、一ツノ原理ヲ主張シテ、以テ直チニ国民ヲ指導スルト云フ立場ハ取ツテ居リマセヌ、世ノ中ニ並立シテ存在シテ居リマスル幾ツカノ原理ヲ、ナシ得ル限リ総合ヲ致シマシテ、ドウ云フ原理ヲ主張セラルル方モ或ル程度マデ得心ガ出来、尚ホ意見ノ一致ヲ得ザル点ハ他日ノ問題トシテ、徐ロニ共同一致ノ基盤ニ於テ築カレタル国政ノ基礎ノ上ニ論争ヲ続ケテ行ケバ宜イ(拍手)斯ウ云フ考ヘ方デアリマス、御不満ノ点モ多イダラウト思ヒマスガ、ドウカ其ノ点諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス(拍手)
〔国務大臣齋藤隆夫君登壇〕
○国務大臣(齋藤隆夫君) 鈴木君カラ主権ノ所在ニ関スル質問ガゴザイマシタガ、是ハ只今金森国務大臣ガ御答ヘニナツタ通リデアリマシテ、ソレ以上私ガ御答ヘスル何モノモ持ツテ居リマセヌ、是ダケ御諒承ヲ願ヒマス
〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) 御答ヘ致シマス、私ニ対スル御質問ノ中、多クハ金森国務大臣カラ御答ヘシタ通リデアリマスガ、一言私ガ申上ゲタイコトハ、第一条ニアル象徴ト云フ文字デアリマス、此ノ文字ニ付テ色々御議論モアリマスヤウデアリマスガ、天皇ガ日本国ノ象徴デアリ、日本国民統一ノ象徴ナリト云フ観念ハ、日本国民ノ何人ノ頭ニモアル観念デアリマシテ、是ハ事実ト申スヨリハ、今日ニ於テハ法律的事実デアル、例ヘバ君民一如ト云ヒ、一君万民ト云ヒ、或ハ君民一家ト云ヒ、是ハ自然ニ発生シタ日本ノ国ノ形態デアリマス、日本国家ノ形態デアリマス、此ノ事実ニ基イテ憲法ガ之ヲ日本国ノ象徴ト云ヒ、日本国民統合ノ象徴ナリト云フノデアリマシテ此ノ事実ハ今日ニ於テハ或ハ新憲法ニ於キマシテハ法的事実デアリマス、具体的ニ把握シ難イモノガアルト言ヘバ言ヘルノデアリマセウガ、所謂無声ノ声ヲ聞キ、無色ノ色ヲ見ルノデアリマス、日本国民ノ観念ニ於テ、日本国民ノ意識ニ於テ、何モノモ疑ヒ得ザル事実デアルト思ヒマス(拍手)一言此ノコトヲ御答ヘ致シテ置キマス(拍手)
○鈴木義男君 只今ノ御答弁ハ甚ダ不満足ノ点ガ多々アリマスケレドモ、是レ以上申上ゲルコトハ時間ヲ要シマスカラ、委員会其ノ他ニ譲リマシテ、一応私ノ質問ヲ打切リマス
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○山口喜久一郎君 本案ニ対スル残余ノ売疑ハ延期シ、明二十七日定刻ヨリ本会議ヲ開キ之ヲ継続スルコトトシ、本日ハ是ニテ散会セラレンコトヲ望ミマス
○議長(樋貝詮三君) 山口君ノ動議ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト叫ブ者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 御異議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、議事日程ハ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
午後五時散会