関係会議録

本会議 昭和21年6月28日(第8号)

昭和二十一年六月二十八日(金曜日)
   午後二時開議
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 議事日程 第七号
  昭和二十一年六月二十八日
   午後一時開議
 第一 帝国憲法改正案
            第一読会(前会ノ続)
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○議長(樋貝詮三君) 是ヨリ会議ヲ開キマス、日程第一、帝国憲法改正案ノ第一読会ヲ開キ質疑ヲ継続致シマス――安部俊吾君
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第一 帝国憲法改正案
            第一読会(前会ノ続)
  〔安部俊吾君登壇〕
○安部俊吾君 過去三日間ニ亙リマシテ同僚諸君ノ質問演説ガアリ、之ニ対スル関係各大臣ノ御答弁モアリマシテ、日本憲法草案ノ内容ト実質ハ大体ニ於テ明カニナツタノデアリマス、私重複ヲ避ケマシテ、以下六項目ニ付テ政府ノ所見ヲ御尋ネシタイト思フノデアリマス
 憲法草案ニ関シテ本員ノ最モ欣快トスル所ハ、人権擁護ニ関シテ重点ヲ置カレタ所デアリマス、私共国民ノ一人一人ハ、何物ニモ侵サレナイ尊厳サト、何人ニモ剥奪サレヌ自由ヲ持ツテ居ルコトハ今更論ズルマデモナイコトデアリマス、今日マデ我々国民ハ、其ノ尊厳ト自由ニ関シテハ殆ド何等ノ保障ガナカツタノデアリマス、例ヘバ現行犯ヲ犯サナイ者ニ致シマシテモ、挙動不審デアルトカ、疑フベキ箇所アリトシテ、司法官憲ノ発給シタ勾引状モナク、随時随所ニ逮捕監禁サレ、何等ノ取調モナク数日或ハ数箇月ノ間勾留所ニ放置セラレタ状態デアリマス、又「レジデンス・イズ・キャッスル」、即チ「住宅ハ是レ城廓ナリ」ト云フ原則ヲ無視シテ、司法官憲ノ正常ニ発給サレタ家宅捜索状モ呈示致シマセズ、監禁、或ハ検察官ノ欲スル侭家宅ニ侵入シテ敢テ怪マナカツタノデアリマス、斯クノ如キハ実ニ法治国ニアルマジキ専制政治ノ致ス所デアツタノデアリマス、然ルニ本草案第三章第二十八条ニ於キマシテ「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」、又其ノ第三十条ニハ「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、權限を有する司法官憲が發し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」、斯ウ云フヤウナ条項ニ依リマシテ、我々国民ノ自由ト尊厳サヲ保障サレルコトニナツタノデアリマス、又警察地方官憲ノ民主化ヲ之ニ依ツテ実現スルコトニナツタノデアリマス、恰モ米国憲法修正第十四条ニ於ケル「ノー・パーソン・シャル・ビー・デプライヴ・ライフ・リバーティ・オア・プロパーティ・ウィズアウト・デュー・プロセス・オブ・ロー」、其ノ「アメリカ」憲法ノ重要ナル条項ニ該当致シテ居ルノデアリマス(「英語デヤツテ下サイ」「旨イゾ」ト呼ブ者アリ)併シナガラ令状ヲ発給シ、逮捕スルニ至ツタ理由ハ、必ズシモ正当ナリト断言シ難イ場合モアルノデアリマス、故意ニ又、悪意ヲ以テ其ノ逮捕スベキ理由ヲ捏ツチ上ゲタニシテモ、或ハ誤マレル情報ニ依リ、或ハ粗漏ナル、不正確ナル調査ニ依ツテ、無辜ノ人、何等ノ罪ヲ犯サザル人ヲ逮捕シナイトモ限ラナイノデアリマス、斯カル場合ニ於キマシテハ、更ニ調査シ、審査スル時ノ制限ヲ加ヘテ、或ハ二十四時間デアルトカ、或ハ四十八時間以内ニ的確ニ再ビ調査致シマシテ、釈放スベキ者ハ迅速ニ之ヲ釈放スル、サウシテ必要以外ニハ良民ヲ監禁シナイト云フ、人権尊重ノ成文ガナケレバナラナイト本員ハ確信スルモノデアリマス(「ヒヤヒヤ」)米国ニ於テハ「リット・オブ・ヘビヤス・コーパス」、人身保護律ト称シテ、不法監禁ヲシタ人乃至官憲当局ヲ糾弾弾劾スル法律ガアルノデアリマス、帝国憲法ニ於キマシテモ、更ニ人身保護律ノ精神ト法理ヲ条項ノ一ツトシテ挿入スル必要ガアルト信ズルノデアリマス、此ノ点ニ関シマシテ、金森国務大臣及ビ木村司法大臣ノ御見解ハ如何カ、御意見ヲ伺ヒタイト思フノデアリマス、又同第二十九条ニハ、「何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない。」ト云フ規定ガアリマスルガ、如何ナル裁判ヲ受ケルカト云フ権利ニ付テハ規定セラレテ居ナイノデアリマス、米国憲法修正第六条ニハ、何人モ陪審官ニ依ル裁判ヲ拒否スルコトガ出来ナイ、許容サレナイ、何人モ陪審官ニ依ツテ裁判サレル権利ヲ持ツテ居ルト云フコトガ、明カニ其ノ憲法ノ修正第六条ニ規定セラレテ居リマスルガ、凡ソ民主主義ノ特徴ト致シマシテハ、普通選挙並ニ陪審制度ト云フモノハ、特ニ強調サレナケレバナラヌノデアリマス、米国ニ於キマシテハ、遠ク「ヂヤックソン」大統領時代ニ於キマシテ、此ノ普通選挙並ニ陪審制度ト云フモノガ実施サレタノデアリマス、御承知ノ如ク陪審官ハ十二人ノ各階級ノ公民ニ依ツテ構成サレマシテ、即チ人民ノ代表者ト致シマシテ、時代ト其ノ環境ニ依ツテ法律ヲ改正セントスル場合ニハ、人民ノ与論ト公正ナル判断ニ依ツテ、公平妥当ナル裁判ヲスル、民主主義的ノ司法機関トシテ欠クベカラザルモノデアリマス、此ノ制度ヲ条文化シテ憲法ニ挿入スル用意アリヤ否ヤ、木村司法大臣並ニ金森国務大臣ノ御意見ヲ併セテ伺ヒタイト存ズルモノデアリマス
 第二ニ私ハ文官任用令ニ付テ関係当局ニ質問申上ゲタイノデアリマス、第十三条ニ「すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により政治的、經濟的又は社會的關係において、差別を受けない。」、又第二項ニ「華族その他の貴族の制度は、これを認めない。」ト規定シテアリマスルガ、是ハ民主主義ノ基本的観念デアル、総テ人ガ平等デアル、法ノ下ニハ一切平等デアルト云フ原理カラ来タモノト察シマスルガ、然ラバ我ガ日本臣民ハ平等ニ官吏トナル所ノ権利ヲ阻碍サレル理由ハナイ筈デアリマス、併シナガラ明治以来文官任用令ナルモノガアリマシテ、文官高等試験ニ登第シナケレバ文官ニナルコトガ出来ナイト云フヤウナコトデアリマス、又外交官試験、判検事試験ニ登第シナケレバ、外交官タリ、判検事タリ得ナイノデアリマス、米国ニ例ヲ取リマスレバ、米国ニ於テハ斯クノ如キ制度ハナイ、苟クモ識見高邁ニシテ人格アリ才幹豊富ナル者ハ、民間ノ人ト雖モ機会アル毎ニ文官タリ、外交官タリ得ルノデアリマス、又弁護士ニ関シテハ、其ノ資格ハ制限サレルノデアリマスガ、判検事試験ト云フモノハナク、弁護士トシテ才幹アリ識見ノ秀デタ者ハ、人民ノ投票ニ依ツテ、或ハ又大統領ノ抜擢ニ依リマシテ、裁判官タリ、検事タリ得ルノデアリマス、固ヨリ官僚ニモ有為ノ人物モアリマセウ、併シ民間ニモ適材ガアル筈デアリマス、政府ニ於テハ此ノ際文官任用令ヲ撤廃シ、広ク人材ヲ登用スル意味ニ於キマシテ、所謂官僚ナルモノヲ認メナイト云フ条項ヲ挿入スル用意アリヤ否ヤト云フコトヲ御質問シタイノデアリマス
 又是ハ第六章ノ司法ノ部デアリマスガ、序デナガラ御尋ネシタイノデアリマス、第七十五条ニ「最高裁判所は、法律の定める員數の裁判官でこれを構成し、その裁判官は、すべて内閣でこれを任命し、法律の定める年齡に達した時に退官する。」ト云フノデアリマスガ、定年制度ト云フモノハ弊害アツテ一利ナシト本員ハ信ズルモノデアリマス、七十歳ニシテ尚ホ頭脳明晰ナ人モアレバ、四十歳ニシテ既ニ老朽ニ入ツタ人モアルノデアリマシテ、其ノ人ノ気力、気魄ノ如何ニ依ツテ能力ニ差ガ生ズルモノデアリマス、独リ裁判官ノミナラズ、大学教授、或ハ其ノ他ノ官吏ニ致シマシテモ、元気旺盛、頭脳明晰ナル者ハ、年ノ如何ニ拘ラズ、経験知識ガ広メラレル、サウ云フ定年ニナツテ退官スルノガ惜シイト云フヤウナ人材ヲ退官セシメルト云フコトハ甚ダ不幸デアリマス、デアリマスカラ、是モ定年云々ト云フコトヲ抹殺致シマシテ、年齢ハ相応ニ重ネテモ、其ノ気魄其ノ頭脳ガ明晰デアリ、而モ公正妥当ナル精神ヲ持ツテ居ルヤウナ裁判官、或ハ大学教授、或ハ文官ハ、年齢ニ拘ラズ其ノ職ニ留マルト云フヤウナ成文ヲ、其ノ条文ニ挿入セラレル用意アリヤ否ヤヲ関係当局ニ御尋ネ致シタイノデアリマス
 第三ニ私ハ何故ニ現時最モ進歩セル社会政策ト云フベキ身分保障法、生活保障法ノ条文ヲ此ノ憲法草案ニ明確ニ規定シナイカト云フコトヲ疑フノデアリマス、昨日森戸代議士ノ質問ニ対シテ河合厚生大臣ノ御答弁ガアリマシタガ、私ハ聊カ異ナル観点カラ重ネテ河合厚生大臣ノ御高見ヲ承リタイト思フノデアリマス、第二十三条ニ「法律はすべての生活部面について、社會の福祉、生活の保障及び公衆衞生の向上及び増進のために立案されなければならない。」ト規定シテアリマスルガ、是ハ甚ダ漠然トシテ、其ノ実質ヲ捕捉スルニ苦シムモノデアリマス、又此ノ条項ニ関スル厚生大臣ノ御答弁モ、単ニ御希望ト将来ノ抱負ヲ御述ベニナツタノニ過ギナイノデアリマシテ、聊カモ具体的ノ構想ヲ御発表ニナツタヤウナコトハナイノデアリマス、近時英国ニ於テモ、米国ニ於テモ、社会ノ福祉、生活ノ保障ニ関スル法律ニハ最モ重点ヲ置カレマシテ、明確ニ法文化シテ居ルノデアリマス、即チ米国ノ「ソーシャル・セキューリティ・ロー」或ハ「ウァーキングマンズ・コンペンセーション・ロー」ト云フモノガアリマスガ、下級官吏、公吏或ハ傭人ト云フモノハ、此ノ「ソーシャル・セキューリティ・ロー」ニ依ツテ、其ノ生活ヲ保障サレテ居ルノデアリマス、例ヘバ公吏ニシテモ、或ハ個人ノ使用人ニシテモ、其ノ月給ノ幾分ヲ保険ノ掛金ニ致シマシテ、保険ニ加入スルノデアリマス、又使用者、傭主ノ方ニ於キマシテモ、其ノ傭人ノ月給ノ金額ニ準ジマシテ、保険ニ掛金トシテ支払フノデアリマス、又傭ハレタル人ト致シマシテモ、其ノ月給ヨリ払フノデアリマシテ、疾病ノ為ニ働クコトガ出来ナイ、或ハ又失業ヲシタ場合ハ、再ビ就職スルマデノ間、月給ノ七割位ノ金額ヲ保険会社ヨリ支払ヲ受ケテ、生活ノ保障ヲ得ルノデアリマス「ウァーキングマンズ・コンペンセーション・ロー」ニ致シマシテモ、工場ノ持主、又ハ二人以上ノ傭人ヲ使用スル人ハ、必ズ其ノ使用人ニ対シテ保険ニ加入シ、若シクハ傭人ガ従業中不慮ノ怪我ヲ致シマシタ場合ニハ、保険会社ニ於テ医師ノ治療代ヲ支払フノミナラズ、休業中ノ生活ヲ保障スルノデアリマス、若シクハ不具者トナリマシタ場合、働キニ堪ヘザル場合、サウ云フ場合ニハ、其ノ生活ヲ生涯ヲ通ジテ保障スル為ニ、月給ノ七割位ノ金額ヲ支払ツテ居ルノデアリマス、又老人デアルトカ、未亡人デアルトカ、困窮者ニ対シテハ、ソレゾレ、生活ヲ保障スル法ガアルノデアリマスガ、斯クノ如キ法律ハ、具体化シテ憲法上与ヘラレタル当然ノ権利トシテ主張シ得ル的確ナル条文ヲ挿入スル必要ガナイカト思フノデアリマスルガ、政府当局ノ御意見ハ如何カ、特ニ河合厚生大臣ノ御意見ヲ承リタイノデアリマス
 第四ニ私ハ財閥ノ事業独占ヲ阻止スル法文ヲ此ノ憲法草案ニ挿入スルコトヲ必要ト認メルモノデアリマス、政府ニ果シテ其ノ用意アリヤ否ヤ質問申上ゲタイノデアリマス、第二十七条ニ「財産權は、これを侵してはならない。」トアリマスガ、私ハ財産権ヲ認メナイ所ニ、真ニ国家ノ繁栄ヲ期待スルコトハ出来ナイト信ズルモノデアリマスガ、又先日森戸代議士ノ質問演説ニ関連致シマシテ、幣原国務大臣ノ御発表ニナツタ御意見ニハ共鳴スルモノデアリマスガ、併シ厖大ナル資本ヲ有スル財閥ガ各種ノ事業ヲ独占スルコトハ、民主主義政治ノ実行ニ大ナル障碍ヲ来スモノデハナイカト信ズルモノデアリマス、資本家ガ其ノ厖大ナル資本ニ任セテ、到ル処ニ連鎖店又ハ支店ヲ設立致シマシテ、事業ノ独占、即チ「モノボライ」ヲ断行スル場合ニハ、新タナル事業ヲ企図スル者ニ対シテ何等ノ機会ヲ与ヘナイコトニナルノデアリマス、経済的ノ専制制度ガ実施サレル虞ガアルノデアリマスカラ、米国ニ於キマシテハ十数年以前ニ、「シャーマン・アンタイトラスト・ロー」ナル法律ガ、「イリノイ」州選出ノ議員「シャーマン」氏ノ提案ニ依リマシテ法律トナリマシテ、何人モ機会均等ノ趣意ニ基キ好成績ヲ挙ゲテ居ルノデアリマス、政府ニ於カレマシテハ、此ノ種ノ法文ヲ憲法ノ条文ニ挿入スル意思アリヤ否ヤ、特ニ幣原国務大臣ノ御意見ヲ承リタイト思フノデアリマス
 私ハ第五ニ本草案第四章ノ国会ニ関シテ極メテ簡単ニ質問ヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、ソレハ参議院ノ性格ニ関シテデアリマス、第三十八条ニ「國会は、衆議院及び參議院の兩議院でこれを構成する。」ト規定シテアリマスルガ、参議院ノ構成及ビ其ノ機能ニ関シテハ何等明示スル所ガナイノデアリマス、米国ニ於テハ、上院ハ各州ヨリ二名ヅツノ上院議員ヲ公選スルト云フ明文ガ憲法第一条ニ規定サレテ居ルノデアリマス、ドンナニ人口ノ多イ州、例ヘバ「ニューヨーク」デアルトカ、或ハ「フィラデルフィア」デアルトカ、「オハイオ」デアルトカ云フヤウナ人口ノ多イ州カラモ、二人ヅツノ上院議員、ドンナニ人口ノ少イ州、例ヘバ西海岸ノ「モンタナ」州デアルトカ、或ハ「ワイオミング」州デアルトカ云フヤウナ人口ノ稀薄ナ州カラモヤハリ二名ヅツノ議員ガ選出サレテ居ルノデアリマスガ、下院ニ於テハ人口ノ割合ニ準ジテ代議士ヲ選出シテ居ルノデアリマス、例ヘバ「ニューハンプシャー」トカ「ニュージャーシー」トカ云フ州ハ、極メテ地域ガ狭小デアリマスルガ、人口ガ多イカラ沢山ノ代議士ガ選出サレテ居ルノデアリマス、三万人ニ一人ノ代議士ト云フヤウナ割合デアリマスルガ、其ノ地域ハ広イガ、人口ノ少イ「モンタナ」州トカ、「ダコタ」州トカ云フヤウナ所カラハ、極メテ少イ代議士ガ選出サレテ居ルノデアリマス、是ハ人口ノ多イ州ガ発言権ガ多イ、人口ノ多イ所カラハ沢山ノ代議士ガ選出サレテ居ルノデアリマスカラ、勢ヒ大キイ州ノ方ニ便宜ヲ図ル、是ガ人情デアリマスカラ、河川ノ工事ニ関シテモ、或ハ鉄道ニ関シテモ、或ハ其ノ他ノ問題ニ関シテモ、自分ノ選出サレタ州ノ方ノ便宜ヲ図ルト云フヤウナ傾向ガアリマス、ソコデ之ヲ「チェック・バランス」スル、所謂サウ云フヤウナ不公平ナコトノナイヤウニ、人口ノ少イ所ノ州カラモ同ジク二人ヅツノ「セネター」、上院議員 選出致シマシテ、サウ云フ不公平ナ処置ガナイヤウニ二院制度ヲ採用シテ居ルノデアリマス、果シテ帝国憲法草案ニ規定サレタ参議院ナルモノハ如何ナル性格ヲ持ツテ居ルカ、如何ナル組織デアルカ、「アメリカ」ノ上院ノヤウナ組織ノモノデアルカ否ヤト云フコトニ関シマシテ、金森国務大臣ニ御尋ネシタイト思フノデアリマス
 又私ハ第六項トシテ、所謂婚姻、夫婦同等ノ権利ニ関シテ御尋ネシタイト思フノデアリマス、第二十二条ニ「婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」トアリマスガ、既ニ日本ニ於キマシテモ女子参政権ガ許サレマシテ、本院ニ於テモ多数ノ婦人代議士ガ御出席ニナツテ居ルノデアリマス、洵ニ憲政ノ進歩トシテ欣快ニ堪ヘナイノデアリマス、由来日本ニ於テハ、婦人ハ三界ニ家ナシト言ハレテ居ル、娘トシテハ嫁ニ行クベク訓練ヲ与ヘラレ、嫁シテハ夫ニ従順タリ、殆ド絶対服従ト云フベキ境遇ニアツタノデアリマスガ、仮令琴瑟相和シマシテモ、相愛ノ仲ニアツテモ、姑ニ気ニ入ラレナケレバ離婚サレル、夫婦共稼ギ致シマシテ漸ク成功スレバ、夫ハ他ニ妾ヲ蓄ヘル、甚ダシキニ至ツテハ、子供ガアツテモ三下リ半ト云フ、離婚ヲ強要サレルト云フヤウナ現状デアツタノデアリマス、然ルニ憲法草案ノ本条ヲ見ルニ及ンデ、日本婦人ノ為ニ洵ニ慶祝ニ堪ヘヌ次第デアリマス、御参考マデニ申上ゲマスルガ、米国ニ於テハ、離婚ニ関シテハ即チ五ツノ条項ガアルノデアリマス、第一ニ其ノ理由トシテハ姦通スル、夫ナラザル男、妻ナラザル婦人ト関係シタ場合ハ、是ハ離婚ノ一ツノ理由トナリマス、第二ニハ扶養ノ義務ヲ果サナイ者、第三ハ「フィヂカル・ディフェクション」、捨テテ顧ミナイ、享主ガ何処カヘ行ツテシマツタ、細君ガ行ツテシマツタ、是ハ離婚ノ第三ノ理由ニナルノデアリマス、第四ニハ虐待、「クルェルティ」、此ノ虐待ト云フコトハ、精神的ニモ物質的ニモ虐待デアル、殴ツタ、蹴ルト云フコトハ無論デアリマスガ、例ヘバ細君ノ前デ、奥サンノ前デ、俺ガ若イ時ニハ女ニ好カレテ色々ナ申込ガアツタ、オ前ナドヨリ綺麗ナ女房ヲ持ツコトガ出来タト云フヤウナコト言ツテモ、是ハ「クルェルティ」、精神的ニ虐待シタト云フノデ離婚ノ理由ニナリマス、第五番目ニハヤハリ「フィヂカル・ディフェクション」、生理的ニ欠陥ガアル、斯ウ云フヤウナ理由ニ依ツテノミ離婚ガ成立スルノデアリマシテ、離婚ガ成立シタ場合ニハ、ソレノ扶養料ト云フモノガアリマシテ、他ニ結婚スルマデハ其ノ生活ガ保障サレルノデアリマス、或ハ財産ニ関シテモ、財産ヲ分配スル規定ガアルノデアリマスガ、斯クノ如キコトハ、又婦人ノ権利ヲ擁護スル上ニ於テ、最モ重要ナ条項トシテ憲法ノ条文ニ挿入スル御考ヘアリヤ否ヤヲ御尋ネシタイノデアリマス
 最後ニ私ハ吉田総理大臣ニ御尋ネ致シタイノデアリマスガ、吉田総理大臣ガ屡々ナサレマシタ御答弁ヲ総合シテ見マスレバ、本憲法草案ハ「ポツダム」宣言ヲ受諾シタ日本トシテ、諸国民トノ間ニ平和協力ヲ成立センガ為ノ改正草案ノ如ク説明サレタヤウニ了解スルノデアリマス、諸国民トノ間ニ平和協力ヲ成立サスベキハ最モ重要ナコトデアリマシテ、新日本ノ辿ルベキ道程ハ、平和日本、正義ノ日本デアラネバナラヌト云フコトヲ私ハ固ク信ズルモノデアリマス、併シナガラ私共ハ我ガ日本ガ今日ニ於テ斯カル憲法ヲ必要トシ、従来ノ欽定憲法ヲ改正スベキ自然ノ段階ニアルモノト信ズルノデアリマス、過去二千六百年以来日本ノ歴史ヲ検討スレバ、日本人ハ平和ヲ愛好シ、正義ノ国、正義人道ト云フモノヲ重ンズル国民デアルト云フコトガ立証サレルノデアリマス、歴代ノ天皇ハ民ト共ニアリト仰シヤラレマシテ、博愛仁慈、公正デアラセラレ、我々国民代々ノ崇敬ノ象徴デアツタノデアリマスガ、唯武家政治ノ為ニ、或ハ幕府デアルトカサウ云フモノノ介在スル為ニ誤ラレタモノデアリマシテ、今回ノ憲法草案ニ織込マレタ如ク、人権ノ擁護、一般国民ノ福祉ヲ重点トスル憲法ハ、日本国民全部ノ総意デアツテ、自発的ニ津々浦々ヨリ盛上ル国民ノ声デアラネバナラヌノデアリマス、随テ其ノ憲章ノ何レノ条項モ、日本ノ歴史、伝統、風俗ノ背景ニ依ツテ、日本人自然ノ要求トスル自由ト正義、而モ平和ヲ愛好スル強大ナル人民ノ叫ビデアラネバナラヌノデアリマス、憲法ハ国家ノ最高ノ法デアル、即チ「シュペリアル・ロー・オブ・ランド」デアリマスガ、之ニ相扞格スル法律、今後制定セラルベキ諸法律ニシテ此ノ憲法ト相矛盾シタル法律ハ、総テ無効トナルノデアリマス、随テ憲法ハ国民ノ信念、情操ヲ背景トシタ大文字トナラナケレバナラナイノデアリマス、其ノ構想ニ於キマシテモ、其ノ用語ニ於キマシテモ、読ム者ヲシテ襟ヲ正サシメ、厳粛ノ感ヲ与ヘル所ノ大文字デアラネバナラヌト信ズルモノデアリマス、米国ニ於キマシテハ、大統領、大審院長ヲ初メ、官吏ハ其ノ職ニ就クニ当リマシテハ、憲法ヲ擁護スルト云フ宣誓式ヲ行フヲ例トスルノデアリマスガ、私ハ本草案ガ、既ニ北、鈴木両同僚ニ依ツテ指摘サレタ如ク、甚ダ翻訳ノ臭ヒガ濃厚デアルト思フノデアリマス、我ガ子孫ガ永遠ニ大憲章トシテ、正義ト平和、公正ノ大文字トシテ、崇敬ノ念ヲ以テ愛読スルニ足ルダケノ立派ナ日本文字ニ改メラレンコトヲ希望シテ已マヌモノデアリマス、吉田総理大臣ノ御見解ヲ御伺ヒシタイモノデアリマス、以上ヲ以テ私ノ質問演説ヲ終リマス(拍手)
  〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君) 安部君ノ御質問ニ対シテ御答ヘヲ致シマス、人身保護律ノ如キモノヲ憲法ニ明白ニ規定スル必要ハナイカト云フ御尋ネニ対シマシテハ、憲法第三十一条ニ於キマシテ、其ノ後段ニ「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその辯護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」ト云フ規定ガアリマシテ、是ガ人身保護律ノ根本規定ヲナスモノデアリ、ソレ以上ノコトハ適当ナル法律ヲ以テ具体化サレルコトヲ以テ趣旨ト致シテ居リマス
 次ニ陪審問題ノ点ニ付キマシテハ、憲法ニハ之ニ対シマスル特別ノ規定ハゴザイマセヌガ、民主政治ノ趣旨ニ則リマシテ、必要ナル規定ハ法律ヲ以テ定メラレ、現在ノ制度ヲ完備スルコトハ憲法ノ毫モ嫌ツテ居ル所デハゴザイマセヌ、詳細ハ司法大臣ヨリ御答弁下サルコトト存ジテ居リマス
 第三ニハ文官任用令等ヲ撤廃シテ、色々ノ任用ニ関スル障碍ヲ除イタナラバ宜イノデハナイカ、之ヲ憲法ニ定ムルノガ宜イデハナイカト云フ御趣旨デアリマシタ、此ノ憲法ノ明示致シマスルガ如ク、国民ハ法律ノ下ニ於テ平等デアリマスルガ故ニ、任用ノ関係ニ於キマシテモ固ヨリ平等デナケレバナリマセヌ、唯任用ニ付キマシテハ、文官ニ必要ナル能力ト、又之ニ必要ナル道徳性ヲ条件トシナケレバナリマセヌノデ、其ノ二点ヲ中心ト致シマシテ、任用制度ヲ樹立スベキモノデアリ、現ニ不合理ナル点ハ漸次除カレテ居ルノデアリマシテ、今後トモ御趣旨ニ従ツテ必要ナル規定ヲ設クル考ヘデアリマス
 次ニ第七十五条ニ関シマシテ、裁判官ノ定年制ニ対スル御意見、行政官ノ身分ニ関スル御意見等ガアリマシタ、裁判官ノコトハ司法大臣カラ御説明ニナラウカト存ジマスルガ、行政官ノ点ニ付キマシテハ、行政官ノ身分ヲ保障致シマスルコトハ固ヨリ重大デハアリマスルケレドモ、之ニ対シマシテハ行キ過ギズ、又行キ足ラザルコトナク、適切ナル制度ヲ設ケナケレバナリマセヌ、此ノ憲法ノ第六十九条ニ於キマシテ、官吏ノ制度ニ付キマシテハ基本ノ準則ガ法律ヲ以テ定メラルル趣旨ノ規定ガ現ハレテ居リマス、斯様ナ憲法ノ規定ノ趣旨ニ基キマシテ、順次適切ナル制度ガ法律等ヲ以テ定メラルベキモノト考ヘテ居リマス
 次ニ生活保障ノ点ヲ御話ニナリマシタガ、是ハ厚生大臣カラ御答ヘニナルコトト思ツテ居リマス、ソレカラ財閥ノ事業独占等ヲ防止致シマスル為ニ、米国ニアル所ノ「シャーマン・ロー」ノ如キ趣旨ノコトヲ憲法中ニ規定スベキデハナイカト云フ御趣旨デアリマシタガ、斯クノ如キ個々ノ事項ハ憲法ニ直接定メナイデ、法律ヲ以テ適切有効ナル規定ヲ必要ニ応ジテ設クルコトガ妥当ト思ツテ居リマスルシ、其ノ方向ニ付テモ研究ヲ進メタイト考ヘテ居リマス
 次ニ参議院ノ構成ニ付テ御尋ネニナリマシタガ、米国ト違ヒマシテ、日本ハ合衆国デアリマセヌ為ニ、米国トハ異ナル幾多ノ特色ガ参議院ニ付テ現ハレテ来ルコトト思ヒマス(拍手)権能ノ主眼トスル所ハ、議事ノ慎重ヲ期スルト云フコトデゴザイマス、サウシテ其ノ参議院ノ定数、其ノ議員ニ付テノ選挙区、投票方法、選挙権、被選資格ト云フガ如キモノニ付キマシテハ、程遠カラヌ内ニ具体化シタル法律案ヲ定メマシテ、議会ノ御協賛ヲ仰グ時期ガアリ得ルト云フヨリモ、仰グ筈デアルト考ヘテ居リマス
 次ニ婚姻ノコトハ司法大臣ヨリ恐ラク御答ヘ下サルコトト思ヒマス
 尚ホ最後ニ仰セニナリマシタ、此ノ憲法ノ文字ノ用語ガ襟ヲ正サシムルヤウナモノデナケレバナラヌ、此ノ御説ハ最モ傾聴致ス所デアリマスガ、併シ他ノ一面カラ申シマスト、我々ノ憲法ハ国民ノ何人モ親シミ易ク、又理解シ易キモノデナケレバナリマセヌノデ、其ノ趣旨カラ申シマシテ、憲法ノ草案ニハ相当ノ意ヲ文字ノ上ニ用ヒテ居ルト云フコトヲ御答ヘシテ置キタイト存ジマス(拍手)
  〔国務大臣木村篤太郎君登壇〕
○国務大臣(木村篤太郎君) 第一ノ御質問ニ対シマシテハ金森国務相ノ答弁デ十分ダラウト思ヒマス
 第二ノ陪審ノ問題デアリマス、御承知ノ通リ陪審ハ昭和三年カラ昭和十七年マデ行ハレテ居ツタノデアリマス、併シ甚ダシク此ノ運用ハ不活発デアリマシタ、而シテ十七年ニ陪審法ハ一時停止サレテ居ツタノデアリマス、現在デモ停止ノ状態ニアリマス、戦前、一箇年ニ陪審ガ行ハレタノハ全国ヲ通ジテ僅カニ二、三件ニ過ギナイノデアリマス、斯ノ如ク不活発デアリマス、是ハ日本ノ国民性ニ果シテ適当デアルカドウカト云フコトヲ再検討シナケレバナラヌト思ヒマス、又陪審ガ仮ニ復活サレタト致シマシテ、非常ニ厖大ナ聴舎ヲ必要トスルノデアリマス、然ルニ現今各地ノ裁判所ハ戦災ニ遭ヒマシテ、実ニ今困ツテ居ル状態ニアリマス、是ハ陪審制度ガ復活スルコトニナリマスルト、勢ヒ全国デ厖大ナル健造物ヲ必要トスルノデアリマス、而シテ又現在ノ陪審ノ運用ニ関シテ内容ヲ十分ニ検討スル必要ガアラウト存ジマス、随ヒマシテ只今ノ所、我々ハ将来ノコトヲ十分ニ検討致シマシテ、陪審制度ヲ復活スベキデアルカ否ヤト云フコトニ付テハ考究スル積リデアリマス
 ソレカラ第三ノ判事ノ定年制ノ問題デアリマス、御承知ノ通リ裁判官ハ其ノ職務ノ性質上、其ノ身分ヲ保障セラルルコトハ言ヲ俟タナイノデアリマス、随テ濫リニ之ヲ罷免スルガ如キコトノナイヤウニシナケレバナラヌト存ジマス、併シナガラ之ヲ終身官トスルニ於キマシテハ、又老朽無能ノ人ガ此処ニ集マル虞ガアルノデアリマス、是ハ慎マナケレバナラヌト思ヒマス、随ヒマシテ一定ノ年限ヲ保障シテ、其ノ年限ニ達スレバ退官スルト云フコトガ最モ適当デアラウカト存ズルノデアリマス、若朽無能ノ者ニ付キマシテハ、七十四条ニ於テ之ヲ罷免スル規定ヲ設ケテ居リマスカラ、是デ十分運用ガ出来ルト存ジマス
 第四ニ離婚後ノ女子ヲ扶養スル規定ヲ憲法草案ニ設ケタラドウカト云フコトデアリマスルガ、斯クノ如キハ憲法実施後ニ改訂セラルベキ民法ニ於テ十分ニ之ヲ規定スレバ其ノ点ハ足ルダラウト思ヒマス
  〔国務大臣河合良成君登壇〕
○国務大臣(河合良成君) 只今草案第二十三条ノ生活保障ノコトニ付テ御尋ネニナリマシタガ、是ハ昨日モ本議場ニ於テ申上ゲマシタ通リニ、只今ノ日本ノ情勢トシマシテハ、従来ノ生活保障ニ関シマスル各種ノ施設ノ外ニ、失業救済ト生活保護ト云フ二ツノ大キナ線デ問題ヲ処理シテ行キタイ、言葉ヲ換ヘマスルト、「イギリス」ヤ「アメリカ」ノヤツテ居ルヤウナ風ニ、総合的ニ生活保障ト云フ一ツノモノデ行クニハ、マダ準備モ時期モソコマデ参リマセヌノデ、ソレデ応急的トシマシテ、失業救済ト生活保護ノ二ツノ線デ行キタイト云フ考ヘデ居リマス、サウシマシテ、其ノ生活保護ト云フ法律ハドウ云フ風ナ構想デアルカト申シマスト、是ハ何レ議会ニ提案致シマスル時ニ細カク説明致シマスルガ、大体ニ於テハ働ク能力ノナイ者――働ケナイ者デス、ソレカラ又補助者ノナイ者、怠ケナイ者、品行ノ悪クナイ者、サウ云フヤウナ条件ノ目標デ、サウ云フヤウナ人デドウシテモ生活ノ出来ヌ人ヲ助ケテ行クト云フ建前デアリマス、サウシテドウ云フ方法デヤルカト申シマスト、生活ノ補助ガ第一デアリマシテ、医療ノ扶助、生業ノ扶助、助産、葬祭等ニ扶助ヲ致ス積リデアリマス、ソレカラ其ノ金高ニ付キマシテハ、五人家族デ二百五十円位ノ見当デ居リマシテ、六大都市ヲ初メ、其ノ他ノ都市ニモ及ボシテ行ク積リデアリマスガ、全国全般的ニ及ベルカト云フコトニ付キマシテハ、今予算ノ関係等ト睨ミ合セテ調査シテ居ル所デアリマス、金高ハ全体デ三十億ノ見込デ居リマス、尚ホ此ノ金ノ外ニ、食糧モ幾ラカハ無料デ供給出来ルト思ヒマス、「アメリカ」カラ入ツテ参リマスル六十数万「トン」ノ中ノ幾ラカハ、斯ウ云フ生活保護ノ面ニ向ケラレル予定ニナウツテ居リマス、又斬ウ云フ風ニシテ扶助ヲ致シマスケレドモ、是デ扶助ヲ出シ切リト云フコトデナク、出来ルダケ之ニ職業ヲ与ヘル、生業ヲ与ヘルト云フ面ニ指導シテ行ク積リデ居リマシテ、授産場或ハ職業輔導ト云フ面ニ強力ニヤツテ行ク積リデ居リマス、大体右様ニ御承知ヲ願ヒタイ(拍手)
○安部俊吾君 大体ニ於キマシテ御答弁ニ満足スルモノデアリマス、本員ノ質問ハ之ヲ以テ打切リマス
○議長(樋貝詮三君) 細迫兼光君
  〔細迫兼光君登壇〕
○細迫兼光君 私ノ質問ハ、私一個人ノ責任ニ於テナサルル所デアリマシテ、倶楽部ノ意思ヲ代表シタモノデナイコトヲ、ココニ明確ニ御断リヲ致シテ置キマス、質問シヨウト思ヒマスル問題ハ三ツゴザイマス、至極簡単ナモノデゴザイマスルガ、第一、第二ノ問題ハ金森国務大臣カラ、第三ノ問題ハ吉田総理大臣カラノ御答弁ヲ御願ヒ致シマス
 第一ノ問題ハ、天皇ノ大権乃至拒否権ト、天皇ニ政治的責任ナシトスル、所謂天皇無答責ノ問題ノ観念デアリマス、改正案ハ何処ニ此ノ天皇無答責ノ合理的ナ、実証的ナ、常識ヲ納得セシムル根拠ヲ求メルカ、斯ウ云フ問題デアリマス、改正案ハ現行憲法ニ比ベマスレバ、多数ノ大権ヲ削除シテ居リマスルガ、尚ホソコニハ多クノ大権ヲ留保シテ居リマス、第七条ガ是レデアリマシテ、憲法ノ改正、法律ノ公布、国会ノ召集、衆議院ノ解散等々デアリマス、是ニハ国務トアリマシテ、此ノ草案ハ国務ナル言葉ヲ小サク見セヨウトシテ居リマス、即チ第四条ニハ「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない。」、斯ウ表明シテ居リマシテ、国務ナルモノヲ政治ニ関スル権能ト区別シテ居ルノデアリマス、デアリマスルガ、是ハ大権ト申スノニ相応シクナイコトハナイ大キナ権利デアリマス、国会ヲ召集スルトカシナイトカ、衆議院ヲ解散スルトカシナイトカ、「イギリス」ノ過去ニ於キマシモ、折角国会ヲ樹立シテモ、「キング」ガ之ヲ召集シナイト云フ事実ガ起ツタ、国民ガココニ挙ツテ、国会ガ自然ニ自発的ニ開会セラレルト云フコトヲ闘ヒ取ツタト云フヤウナ事実ガ「イギリス」憲法発展史上ニアルノデアリマス、大キナ権利デアリマス、過日社会党ノ鈴木君ガ御引用ニナリマシタ「ニツポン・タイムス」ニハ、此ノ国務ナル言葉ニ「ファンクション・オブ・ステーツ」ト云フ言葉ヲ当テテ居ルノデアリマス、現下ノ日本ノ特殊事情ノ下ニ於キマシテ、是等ノ訳語モ将来ノ憲法ノ解釈上重大ナル意義ヲ持ツト思ヒマスノデ、軽視致スコトハ出来マセヌ、国務ト云ヒマシテモ、決シテ国ノ一ツノ事務トハ解サレナイ大キナ大権デアリマス、問題ヲ明確ニ致シマス為ニ、例ヲ法律ノ公布ニ取ツテ申シマスレバ、此ノ法律ヲ公布スルコトノ主体ハ誰カ、正ニ天皇デアリマス、天皇ハ内閣ノ助言ト承認ニ依ツテノ左ノ国務ヲ行フ、行フ主体ハ天皇デアリマス、内閣ハ単ニ助言ト承認トヲ与ヘルノミデアリマス、承認ハ天皇ノ行為ノ後ニ来ルベキモノ、助言ハ何モ天皇ノ行為ヲ強制スル力ハナイモノデアリマス、主体ハ正ニ天皇ニアリマス、又法律ノ公布ハ、現行憲法ニ依リマスレバ、議会ノ協贅、天皇ノ裁可、共ニ法律ニ効力アラシメル所ノ重大ナ一要素デアリマス、将来天皇ノ裁可ト云フコトハナクナリマセウガ、ヤハリ法律ノ公布ハ、法律ヲシテ効果アラシメル所ノ最後ノ鍵ヲ握ル重大ナ行為デアルコトニハ変リハナイト解釈スベキデアリマス、故ニ是ハ如何ニ議会ガ法律ヲ通過致シマシテモ、之ヲ握リ潰スト云フコトガ天皇ノ掌中ニ残サレテ居ルモノ、斯ウ解釈致サナケレバナリマセヌ、此ノ拒否権乃至大権ト、責任ナシトスル無答責ト云フコトハ、観念上明カニ矛盾ノアル問題デアリマス、将来トモ現下ノ政治形勢ヲ以テシマスレバ、随分ト悪法ガ出テ参リマセウ、現ニ近ク労務関係ノ調整法ナドト云フモノガ用意セラレテアルト云フコトヲ聞キマスルガ、労働者ハ、是ハ労働者ノ正当ナ争議権ヲ剥奪スルモノデアルトシテ、挙ツテ反対ヲ叫ンデ居ルノデアリマス、天皇ハ此ノ労働者ノ声ヲ聴イテ、断乎トシテ或ハ之ヲ握リ潰スコトモ不可能デハナイト解釈スベキデアリマス、握リ潰スコトガ出来ルモノヲ握リ潰サナイ、公布シタ、公布シタ以上ハ、其ノコトカラ起リマスル結果ノ責任カラ免レルト云フコトハ、甚ダ困難ナ問題デアリマス、公布ノ形式ニ於キマシテモ、恐ラクハ将来モ従来ノ通リ、之ヲ公布セシム、御名御璽、国務大臣ノ副書、斯ウ云フ形式デ公布セラレルト思フノデアリマス、一般常識ニ依リマスレバ、印判ヲツイタコトニハ責任ガアル、私モ随分盲目判ヲ押シマシタガ、印判ヲツイタコトニハ責任ヲ執ラナクテハナラヌ、是ガ常識デアリマス、ソレヲ無責任ト致シマスノハ、是ハ一片ノ法律ノ擬制デアリマス、「フィクション」ニ過ギナイ、常識ヲ納得セシムルモノデハアリマセヌ、現在ノ憲法ニハ余程大キナ大権ガ天皇ニ属セラレテ居リマス、問題ヲ明カニスル為ニ例ヲ採リマス、例ヘバ戦争ノ開始、此ノ度ノ戦争ノ開始ニ当リマシテモ、事情ノ甚ダ困難デアツタコトハ想像致シマス、デアリマスルガ、聞クガ如キ、「ポツダム」宣言受諾ノ際ニ於ケルガ如キ決断ト勇気ヲ以テナサレルナラバ、或ハ是モ阻止出来タカモ知レナイ、サウシテ古今未曽有ノ不名誉ト窮乏ト飢餓トカラ免レテ居ツタカモ知レナイ、斯ウ云フ理屈モ付ケラレル、或ハ彼ノ治安維持法、或ハ之ヲ死刑ニマデ改悪シマシタ緊急勅令、数万ノ者ヲ引致勾留シ、数千ノ者ヲ長期ニ亙ツテ投獄シテ、取返シノ付カナイ青春ト幸福トヲ蹂躙リ、多クノ者ヲ残虐ナル拷問ノ裡ニ虐殺シタ此ノ治安維持法ノ暴虐ハ、終戦直前マデ続ケラレタ、街ニ於テ平和ニ、善良ニ町工場ヲ営ンデ居ツタ者ヲ、何ノ理由モ示スコトナク勾留所ニ打込ミ、日夜ヲ続ケテノ残虐ナル拷問、気息奄々、瀕死ノ状態ニ陥ツテ事面倒ト抛リ出シ、全身生傷ニ依ツテ覆ハレル、家人ハオ医者ヲ呼ンデ注射ヲスル、痛イ、彼ハ人事不省ノ中ニモ拷問ガ続ケラレテ居ルト幻想シ、モウ宜イデセウ、モウ宜イデセウ、モウソレ位デ宜イデセウ
  〔「何ヲ質問シテ居ルカ」「モウソレ位デ宜イヨ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ」〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○細迫兼光君(続) 彼ハ遂ニ妻子ヲ窮乏ト悲歎ト貧困ノ裡ニ残シテ息ヲ引取ツタノデアリマス‥‥
  〔発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○細迫兼光君(続) 是ハ私ノ親友、弁護士神道寛次君ノ弟、神道久三君ノコトデアルノデアリマス、是等ノ残虐モ、或ハ天皇ノ決意如何ニ依ツテハ避ケラレルコトガ出来タカモ知レナイト云フコトハ理屈デアリマス、此ノ責任ヲ追究スルカ、シナイカト云フコトハ別問題デアリマスガ、理屈ヲ押シテ行ケバサウ云フ理屈モ立タナイコトハナイ、理論上是等ノ責任ガ天皇ニマデ及ブコトヲ、其ノ途中ニ於テ、国務大臣ニ於テ、中断シヨウト云フコトハ、中々困難ナ問題デアリマス、天皇ハ神聖ニシテ侵スベカラズト云フヤウニ憲法ニ書イテアルカラ、或ハ改正案ヲ以テスレバ、天皇ノ行為ニハ内閣ノ助言ト承認トヲ必要トスル、内閣ガ其ノ責任ヲ負フト書イテアルカラ、ト云フヤウナ一片ノ文句ヲ以テ之ヲ解決スルコトハ困難デアリマス、ソンナコトハ法律学生ノ話デアリマス、一片ノ子供騙シノ詭弁デアリマス、三歳ノ童子ヲモ納得セシメル合理性ヲ持ツテ居ナイノデアリマス、此ノ天皇ノ大権乃至拒否権、天皇ノ無答責ノ問題ハ観念上明カニ矛盾シテ居ル問題デアルガ、矛盾ノ解決ハ、天皇ヲ完全ニ政治ノ圏外ニ御立タセ申スカ、或ハ天皇ニ拒否権ナシトスルカ、何レカデナケレバ合理的解決ハ不可能デアルト私ハ思フノデアリマスルガ、果シテ政府ハ此ノ草案ノ中ノ何処カラ、一般常識ヲ納得セシムルニ足ル所ノ合理的ナ天皇無責任、無答責ノ根拠ヲハツキリサセヨウト致シマスルカ、御答ヘヲ御願ヒシタイト思フノデアリマス
 次ノ問題ハ非常ニ小サク見エル問題デアリマスルガ、貴族、皇族ニ関スル問題デアリマス、十三条ニ華族其ノ他ノ貴族ノ制度ハ之ヲ認メナイトアリマスガ、貴族トハ一体何デアルカ、八条及ビ八十四条ニ皇室財産ト云フコトガ見エテ居リマスルカラ、之ニ依ルト皇族ト云フ特別ノ門地、地位ガ存在スルト認メラレルノデアリマス、ソレガドノ範囲包含セラレルカハ別ニココニ触レル必要ハナイノデアリマスガ、御答ヘ願ヒタイコトハ、皇族ハ選挙権ヲ持タレルノカドウカ、更ニ進ンデ、天皇ハ選挙権ヲ持タレルノカドウカト云フ点デアリマス、是ハ非常ニ小サイ問題デ、委員会デヤレト云フ声モ飛バナイトモ限ラナイノデアリマスガ、私ハ是ハ大キナ根本問題ヲ一刀両断ニ断チ切ルコトノ出来ル鋭イ「メス」ダト思ツテ居ルノデアリマス、即チ先日カラ問題ニナツテ居リマシタ主権ノ所在、之ヲ明確ナラシムル所ノ鍵デアル、主権ノ存在問題ヲ全ク別ノ面カラ衝ク所ノモノデアルト思ツテ居リマス、先日来主権ノ所在ニ付キマシテ屡々質問ガ繰返サレ、政府ヨリハ再三天皇ヲ含ム国民全体ト云フ御答ヘガアツタノデアリマス、繰返サレタノデアリマス、ソレハ問題ノ重大性ト政府ノ答弁ガ曖昧デアルカラ繰返サレタノデアリマス、言葉ハモウハツキリ私モ覚エマシタ、天皇ヲ含ム国民全体、言葉ハ非常ニハツキリシテ居リマスガ、内容ハ依然トシテ割切レナイノデアリマス、即チ天皇ヲ含ム国民全体ト云フノハ、元来国民ノ外ニ立ツテ居ラレル天皇ヲ此ノ際含ンダ国民全体ト云フ意味デアルカ、又ハ元々初メカラ国民ノ中ニ含ンデ天皇ガアラレルノカ、是デアリマス、ソコデ此ノ問題ヲ解決スル鍵トシテ、此ノ問題ヲ提出シタノデアリマスガ、即チ第四十条ニ、両議院ノ議員及ビ其ノ選挙人ノ資格ハ、人種ヤ或ハ財貨、門地ニ依ツテ差別シテハナラナイトアリマスカラ、此ノ皇族ナドモ確カニ一ツノ門地デアルト思フノデアリマス、国民デアル限リ差別ハナイ、即チ二十歳以上デアル者ハ、一人トシテ選挙権ヲ持タナイ者ハ居ナイ、斯ウ云フ訳デアリマス、天皇ニ選挙権ナシト致シマスナラバ、ソレハ国民デハナイノデ、国民ノ外ニ立ツテ居ラレルノデアリマス、天皇ニ選挙権アリトスルナラバ、ソレハ国民ノ中ノ御一人デアルノデアリマス、皇族ハ選挙権ヲ持タレルト私モ解釈致スノガ至当ダト思ヒマスガ、問題ハ此ノ天皇デアルノデアリマス、御答弁ハ将来ノ憲法解釈上重大ナ意義ヲ持ツト思ヒマスルカラ、覚悟ヲ決メテ御答弁ヲ御願ヒ致シタイト思フノデアリマス(拍手)
 第三ハ吉田総理大臣ニ御尋ネ致スノデアリマスルガ、最近聞ク所ニ依ルト、貴族院ヲ中心トシテ此ノ改正案ヲ、天皇ノ大権ヲ拡大スルト云フヤウナコトヲ中心ニ保守化シヨウト云フ空気ガ動イテ居ルト云フコトデアルノデアリマス、洵ニ以テノ外ノ心得違ヒデアルト思フノデアリマス(拍手)元来今日日本ガ民主化シナケレバナラヌト云フコトヲ、如何ナル意義ニ於テ掴ンデ居ラレルカ、問題ハ是デアリマス、民主化シナケレバナラヌト云フ、其ノ必要性ヲ何処カラ一体感ジテ居ラレルノカ、今日日本ハ如何ナル状態ニアルカ、古今未曽有ノ屈辱、不名誉、飢餓ト窮乏ノドン底ニ国民ハ喘イデ居ルノデアリマス、デアリマスカラ、当面ノ重大問題ハ、如何ニシテ早ク此ノ不名誉ト飢餓ト窮乏ノ深淵カラ脱ケ出サウカト云フ所ニアル筈デナケレバナラヌノデアリマス、サウスルニハ一体ドウシタラ宜イカ、結論的ニ言ヒマスレバ、早ク日本ヲ民主化シテ、民主的態勢ヲ整ヘ、民主的政治ヲ確立シテ、世界ノ平和ト文化ト幸福ニ寄与シ得ルモノダト云フ実質ヲ確立シテ、サウシテ世界ノ各国、全人類カラ尊敬ト友愛ニ迎ヘラレテ、早ク平等ノ国際地位ニ立ツ、其ノコトヲ獲得シ、早ク自由ナ貿易ノ出来ル仲間入リヲスル、其ノ地位ヲ早ク獲得スル、是レ以外ニ根本的ナ解決ハナイ、勿論当面ノ色々ナ対策モ講ジナケレバナリマスマイガ、根本的ニハ是レ以外ニハナイ、産業ハ破壊サレタ、此ノ産業ヲ回復シ、国民生活ヲ安定スル、ソコニ必要ナ根本的ナ資材ヤ何カ十分ニ日本ニアルカ、食糧ダツテ毎年輸入シタデハナイカ、カツカツアルノハ石炭ダ、石油ニ致シマシテモ、棉ニ致シマシテモ、「ゴム」ニ致シマシテモ、燐鉱石ニ致シマシテモ、何一ツトシテ十分ニ日本国民ヲ養ヒ得ルモノヲ内地デ生産シテハ居ナイノダ、早ク民主化シテ、早ク平等ノ国際地位ヲ取ル、之ニハ早ク日本ヲ民主化シナケレバナラヌ、ダカラ日本ノ民主化ト云フ問題ハ、是ハ国民ガ飢餓窮乏ノ中カラ、其ノ救ヒヲ求メル為ニ叫ンデ居ル所ノ絶叫デアルノデアリマス(拍手)ソレヲ唯「ポツダム」宣言ノ為ニ已ムヲ得ズト云フヤウナ、強制セラレタ厭ヤ厭ヤ的ナ態度デヤラレルカラ、斯ウシタ主権ノ所在ノ不明確、或ハダラダラシタ前文ト云フヤウナコトガ出来テ来ル、民主政治ヲ獲得致シマシタ「フランス」ニシテモ、「イギリス」ニシテモ、「アメリカ」ニシテモ、少々ノ憲法ノ文句ナンカハドウダツテ宜イ、事実ガ確定シテ居ル、闘ヒ取ツタノダ、血ヲ流シテ闘ヒ取ツタ、ダカラソコニハ非常ナ活気ガアル、彼等ノ憲法ハ、国民ノ勝利ノ感激ト観喜ノ絶頂ニ於テ作ラレタ、ダカラ活キ活キシテ居ル(拍手)色々ノ趣旨ノ不明瞭、或ハダラダラシタコト、是ハ草案起草者ノ信念ノ厭ヤ厭ヤ民主主義ニアル、ソコニ根抵ヲ胚胎シテ居ルノデアリマス、ソンナコトデハイケナイ、現在ノ民主主義ト云フモノハ、前言シタヤウナ意義ヲ持ツノデアリマスルカラ、一日モ早ク民主主義化シナケレバナラヌ、憲法改正ハ其ノ民主化ヘノ門出デアルト云フ意味ニ於テコソ、此ノ憲法改正案ハ審議セラレナケレバナラヌ、デアリマスルカラ我々ノ審議態度ト云フモノハ、如何ニシタラ此ノ憲法改正案ヲモツト完全ニ民主化スルコトガ出来ルデアラウカ、斯ウ云フ線ニ沿ツタ立場、観点カラ審議セラレナケレバナラヌノデアリマシテ、之ヲ逆転シテ保守化シヨウト云フガ如キコトハ以テノ外デアリマス(拍手)此ノ憲法改正案審議ニ対スル根本態度ニ付キマシテ、吉田首相ノ明快ナ御答弁ヲ要求スル次第デアリマス(拍手)
  〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君) 細迫君ノ御尋ネニ対シマシテ御答ヘヲ致シマス、是ハ天皇無答責ノ合理的実証的根拠如何ト云フ御質問デアリマシテ、論理的ナ緻密サ、極メテ鋭利ナ論法ヲ以テ質疑ヲ進メラレマシタ、此ノ憲法ノ上ニ於キマシテ、天皇ノ御権能ハ、前カラモ申上ゲマシタヤウニ、国ノ象徴デアリ、国民統合ノ象徴デアルト云フコトニ接着致シマシテ、必要ニシテ極メテ適切ナル範囲ニ限定ヲ致シタノデアリマシテ、更ニ加フルニ、一切ノ行動ニ付キマシテ内閣ノ助言ト承認トヲ必要トシタ訳デアリマス、サウシテ更ニ細迫君ガ御指摘ニナリマシタヤウニ、統シテ治セズト云フヤウナ心持ノ規定ヲ第四条ニ定メタノデアリマス、随テ天皇ノ無答責ノ実証的ナ根拠ハ、是等ノ事情ニ依ツテ略々御分リニナルト思ヒマスガ、細迫君ハ御議論ガ論理的緻密サニ重点ヲ置カレテ居リマス、私ハ政治的ノ実情ヲ考ヘマシテ、是デ以テ無答責デアルト申上ゲルノデアリマス(拍手)
 次ニ門地ニ依ツテ権能ヲ分ケテハナラヌト云フコトヲ緒論トシテ、天皇ニ選挙権ナシトスルカ、アリトスルカト云フ御尋ネデゴザイマシタ、是ハ私ガ既ニ此ノ議会ニ於テ度々申上ゲマシタヤウニ天皇ヲ含メタル国民ト云フ言葉ヲ用ヒマシタ、ソレガ何トナク曖昧ノ如ク皆様方ニ響イテ居ルガ如キ感想ガゴザイマスルガ故ニ、今日言葉ヲ改メマシテ、此ノ前カラノ言葉ヲ取ツテ来マスレバ、主権ハ国民ニ在ル、其ノ国民ト云フ言葉ノ意味ノ中ニハ天皇ガ含マレテ居ル、斯ウ云フ風ニ言葉ヲ言ヒ改メマス(拍手)随テ其ノ精神ニ則リマシテ、御質問ノ次第ハ分ルコトト考ヘルノデアリマスルガ、念ノ為ニ一言附ケサシテ戴キタイト思ヒマス
 一体天皇及ビ一般ノ国民ガ日本国家ノ構成員デアルコトハ、一点ノ疑ヒナイト思ヒマス、日本ノ普通ニ用ヒラレマス言葉ノ中ニ、国ノ構成員ト云フヤウナ字ガ広ク用ヒラレテ居リマスルナラバ、実ハ御疑惑ヲ生ズル余地ハナツタカト思ヒマスルガ、ソレガナイ為ニ国民ト云フ言葉ヲ用ヒラレテ居ルカラ、仍テ種々ナル疑惑ヲ以テ、何等ノ疑惑ヲ受クベキ実情ナキニ拘ラズ、色々ナ懸念ヲ抱クコトニナツタト思ヒマス、ソコデ曩ニモ申シマシタヤウニ、天皇ハ国民ト云フ言葉ノ意味ノ中ニ含マレテ、第三章ノ多クノ用語ガ築キ上ゲラレテ居ルノデアリマス、随テ総理ノ問題ト致シマシテハ、天皇御一人ノ立場ニ於キマシテハ選挙権アリト云フ結論ヲ一応ハ生ズルノデアリマス、併シナガラ御承知ノヤウニ、法文ニハ一般規定、特別規定ト云フモノガアリマス、天皇ハ第一条ニ於テ国ノ象微デアルト云フコトデアリマシテ、即テ謂ハバ無色透明ト申シマスカ、何レニ向ツテモ何等ノ偏ル所ノナイ中心的ナ御存在デアリマスルガ故ニ、ソレガ選挙権ヲ御持チニナルト云フコトハ、物ノ条理ニ於テ考ヘラレナイコトト思ヒマス(拍手)
  〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) 私ヘノ質問ニ対シテ御答ヘヲ致シマス、憲法ノ民主化、平和化ノ必要ニ付テノ御議論ハ全然御同感デアリマス、又御同感ノ理由ニ付テハ、前日来私ガ此処ニ於テ述ベマシタ所ニ依ツテ御諒承ヲ願ヒマス、貴族院ニ関スル御ニ付テハ、私ノ承知シナイ所デアリマスガ、何カ誤聞デハナイカト私ハ考ヘマス、御答ヘ致シマス(拍手)
○細迫兼光君 第一ノ天皇無答責ノ問題ニ付テノ御回答ハ、普通ニ言フ意味ニ於テ、私ヲ満足セシメルモノデハアリマセヌガ、是ハ併シナガラ、此ノ改正案ノ何処カラモ私ヲ満足セシメル実質的ナ答弁ハ得ナイモノダト云フ意味ニ於テ、満足スルモノデアリマス、之ヲ以テ私ノ質疑ヲ終リマス(拍手)
○議長(樋貝詮三君) 布利秋君
  〔布利秋君登壇〕
○布利秋君 憲法ノ討論ハ本日モ続行サレ、丁寧ヲ尽シ、委員会ニ於テ質疑致ス種類ノモノマデモ、此ノ本会議ヲ通ジテ微ニ入リ細ニ入リ正ニ剰ス所ナシ、斬クシテ最終ノ段階ニ入ラントシテ居リマスノデ、私ハ質疑ノ終リニ起ツテ、少数党ノ日本民主党準備会ヲ代表致シ、政党政派ヲ超越シタ憲法大革命ニ対スル質疑ヲ試ミマス
  〔発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○布利秋君(続) 戦フベカラザルニ戦ツテ敗レマシタ、敗レタ民族ハ再ビ起上ル為ニ、何レノ国モ新シキ憲法ニ依ツテ其ノ損害ヲ償ハントスルコトハ、敗戦ノ生ミマス憲法ノ自然的発達デアリマス、一九一八年ノ十一月、第一次世界大戦ハ「ドイツ」ノ敗北デ終ツタコトハ分ツテ居ル、皇帝「ウィルヘルム」二世ヲ追放シタ「ドイツ」ノ民族ハ、民主主義共和国ノ「ワイマール」憲法ヲ作ツタ、是ガ世界的民主憲法トシテ世界ヲ震駭サセタ、今日ノ我ガ憲法改正モ亦世界ノ視聴ヲ集メテ居ル、「ドイツ」ト同ジク軍閥ノ禍ヲ受ケタル「トルコ」ノ「オスマン」帝国ノ憲法ニシテモ、敗戦ノ苦難、ソレヲ切抜ケテ「ケマルパシャ」ノ手デ革命的ナ憲法大会議ヲ「アンゴラ」ニ開イタ、遂ニ三百有余年ニ亙ル「アジア」民族ノ「トルコ」大帝国ガ、民主主義共和国憲法ニ変革サレテシマツタ、敗戦者ニ発言ナシト云フ苦キ運命ヲ嘗メ尽シテ来テ居ル、ダカラ戦争ハ余リヤルモノヂヤナイ(笑声、拍手)ソレ等ノ「ワイマール」憲法ニシテモ、「トルコ」ノ「アンゴラ」憲法ニシテモ、議会ノ周辺ハ機関銃ヲ置カナケレバヤレナイヤウナ状況ヲ示シタ
  〔議長退席、副議長着席〕
所ガ幸カ不幸カ、我等国民ノ新憲法会議ハ、閑散ニシテ静粛、一発ノ弥次モ出ナイマデニ真剣、真実、而モ憲法提案者タル政府側モ懇切丁寧、襟ヲ正シタクナル程張切ツテイラツシヤルト言ヒタイ、併シ事実ハ惰気満々(笑声)頬杖ヲツキツツ、居眠リシツツ、没法子ノ態度モ見ラレマシタ(発言スル者多シ)斯カル空気ノ中ニ、現行憲法ノ補則第七十三条ニ「總員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス」トアツテ、議場内ニ出席シマスル議員ノ数ハ、私ガ算ヘテ見タ目ニハ、三分ノ二ニ足リナイ日モナカツタトハ言ヒ得ナイ
  〔「ノーノー」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○副議長(木村小左衞門君) 静粛ニ
○布利秋君(続) ナカツタトハ言ヒ得ナイ、勿論憲法ノ堤案ヲ急ガレル御気持ハ十二分ニ分リマス
  〔「何ヲ質問シテ居ルカ」「何ヲ言フカ」「静カニ静カニ」ト呼ブ者アリ〕
○副議長(木村小左衞門君) 布君、質疑ノ本論ニ入ツテ下サイ
○布利秋君(続) 併シ最終ノ質問ニ当リマシテ多少ノ雅量ヲ見セテ戴クコトヲ御願ヒ致シマス、由ラシムベシ知ラシムベカラズ、官僚ノ行政精神ガ官尊民卑ヲ作ツテ悩マシテ居リマス、ソレニ依ツテ今日マデニ弾圧サレタ者ハ数限リナクアリマスガ、此処デハ憲法ノ会議ヲ、ソレ等軍閥ノ弾圧ヲ受ケタ連中ニ依ツテ行ツテ居ルガ、是モ能ク事ノ終リヲ初メニ於テ研究シテ置クコトノ必要ガアル
○副議長(木村小左衞門君) 布君、質疑ノ本論ニ入ツテ下サイ
○布利秋君(続) 本論ニ入リマストシテモ、民主主義ナルモノガ本当ニ徹底シテ居ツテ本論ニ進メヨト言ハレルノデアルカ、民主主義ナルモノハサウ生易シク分ルモノデハアリマセヌ、分ラヌナリニ盲人ノ手探リデハ危険千万デアルカラ、私ハ多少ノ前置キヲ言ハシテ戴キタイ、其ノ雅量ガ欲シイト云フノデアリマス、西洋ノ「インディヴィジュアル」ト云フモノノ、其ノ「ディヴィジュアル」デアルカラ、此ノ意味ハ共存的ニ互ヒニ分担シ合フト云フ共存主義ノ、即チ共存生活ノ保障デアルニ拘ラズ、オ互ヒガ我ヲ押シテ、自分サヘ宜ケレバ宜イト云フ、マルデ人ヲ鏖殺シ、弾圧スルガ如キ精神ヲ以テ憲法ノ改革ハ出来ナイモノト思フ為ニ私ハ申上ゲル(「早ク本論ニ入レ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ)諸君ノ要求ニ応ジテ時間ヲ倹約スベク、私ハ次ノ努力ヲ払ツテ居ル
  〔発言スル者アリ〕
○副議長(木村小左衞門君) 静粛ニ願ヒマス
○布利秋君(続) 警察権ヲ地方ニ移スト云フ言葉モ聞キマシタガ、地方的ニ移シテ……(「何ヲ質問シテ居ル」ト呼ブ者アリ)是ガヤハリ憲法ノ本論ニ密着シテ居ル、ソレカラ受ケル弊害、私ハ主トシテ憲法ノ運用ニ付テ自分ノ主張ヲ進メタイト思フノデアリマスカラ、アナタ方ノ如ク各条各条ニ於テ之ヲ読ミ尽サントシテモ、既ニ多クヲ語リ尽サレテ居ル後ニ起ツタ者ノ此ノ苦シミヲ一ツ御諒承願ヒタイ(「何ヲ言フカ、質問ガナケレバ降壇セヨ」ト呼ブ者アリ)金森国務相ハ社会党ノ森戸君ノ質問ニ対シマシテ、立法ト司法ノ考ヘ方ガ矛盾スル場合モアルカモ知レヌト云フ風ナ御答ヘヲ昨日ナスツテ居ルカニ思フ、司法ハ政党政派ヲ超越スベク、神聖ニシテ侵スベカラザルモノデアル、政治思想ノ発達シナイ日本ニ於テ、政党政派ヲ超越シタ大衆ノ中カラノ識者、其ノ人民ノ公選ニ依ツテ司法大臣ヲ御作リニナルト云フ御親切ガ欲シイノデアル(「ソレガ本論カ」「チツトモ分ラナイ」ト叫ブ者アリ)分ル時ニハ分ル、又教育ノ面ニ関シマシテ、是ハ文部大臣ガヤハリ政党政派ヲ超越シテ戴カナケレバナラヌ為ニ、私ノ宿論トシテハ司法大臣ト文部大臣ダケハ人民ノ手ニ依ツテ公選シテ貰ヒタイト云フコトヲ念願シテ居リマス
○副議員(木村小左衞門君) 布君ニ御注意致シマス、憲法改正案ノ為ノ質疑ニ入ラレンコトヲ望ミマス
○布利秋君(続) 十九条ノ集会結社、言論、出版ノ無検査、無検閲、是ハ外国ノ事情ニハ相応シイモノデアリマセウ、ケレドモ是カラ起キマスル波動ヲ少シク調ベテ戴イテ、此ノ十九条ニ力ヲ入レラレルコトデハナカツタト考ヘマス、是ハモウ正ニ失業状態ガ多数ニ殖エ、将来ハ益々殖エルコトニナリマスルト、其ノ中ニ「インテリ」階級デ働カントシテ働ケズ、食ハントシテ食ヘズ、結局人ヲ罵倒シ、人ヲ強請スルト云フコトヲシナケレバナラナイ羽目ニモ陥ル、サウ云フ場合ニ一体此ノ第十九条ハ非常ニ便利ナモノデアル、ソレハ政治面ニ及ボシマスコト、社会面ニ及ボスコトヲ篤ト御考察ニナツテ、社会不秩序ニ対シマスル防禦方法ニハ此ノ十九条ハ関係ナイト御考ヘニナルカモ知レマセヌ、之ニ付テ若シ内務大臣ヨリ十九条ニ付テノ‥‥(「何ヲ質問シテ居ル」、「降壇降壇」ト叫ブ者アリ)私ハ主トシテ運用ト云フコトニ付テ質問ヲシテ居ル、併シ憲法ノ出来マスコトハ間違ヒナイノダ、之ヲ運用スルコト宜シキヲ得ルト云フコトモ、生活ノ上ニ於テ必要デアルカラ申上ゲテ居ル、ソレカラ此ノ憲法ノ全文ヲ通ジマシテ、大臣ト云フ文字ガ多イ、当然必要デアルカラ使ツテアルノデアリマセウガ、願ハクハ大臣ノ名前ヲ之カラ削除シテ戴イテ、一般国民ニ親シミ易イ名前ニ変ヘテ戴キタイ、過去ニ於ケル大臣ノ名前ニ依ツテ、我々ハ牛ノ如ク、馬ノ如クヤツテ来マシタ、其ノ封建時代ノ名前ヲ、今モ新憲法ノ上ニ用ヒナクテハナラナイト云フ約束ハナカラウト思フ、若シ良心ガアリマスルナラバ、退イテ静カニ此ノコトヲ考ヘテ、時勢ニヤハリ合フベク進ム上ニ於テ御考ヘ願ヒタイノデアル、之ニ対スル御意見ヲ伺ヒタイ
 ソレカラアナタ方ノ最モ御憎ミニナルコトヲ申上ゲル、代議士ガ四年間此処ニ坐リマスコトハ、水モ長ク溜レバ腐ル、私ハ外国ノ例ヲ取ル訳デハナイガ、是ハ二箇年位デ切替ヘテ行クナラバ、洵ニ国民モ喜ブシ、世ノ中ノ移リ変リニモ順ズルコトガ出来テ、私ハ二箇年ト云フコトヲ何処マデモ主張シテ已マナイノデアル(拍手、笑声)社会党ガ提案シマシタ常時議会、是ハ私モ提案シテ居ルカラ、是ハ一致スル、此ノ常時議会ガ若シ其ノ線ニ沿ウコトノ出来ナイ事情デアリマスルナラバ、半年デモ宜シイ、少シク長ク議会ヲ開キマセヌト、此ノ民主主義ヲ徹底サセルコトハ到底難カシイ、ソレハ行政機関ヲガツチリト握ツテ放サヌ官僚ノ「ブロック」ガアリマスルカラ、之ニハ大臣諸君デモ思フヤウニナラヌノデアラウト思フ、ソレカラ又気ニ入ラヌコトヲ申上ゲルガ、衆議院ト云フモノハ、既ニ戦争失敗ノ責任ヲ負担シテ居ル名前デアル、新憲法ガ出マスニ付テ、貴族院ハ参議院トナル、衆議院ハ人民ノ名、即チ民ナル字ヲ使ツテ、民議院トサシテ戴クコトヲ私ハ希望シテ已マスノデアル(笑声)
 ソレカラ婦人ノコトニ関スル希望デアリマシテ、「ワイマール」憲法ノ百十九条ニ、産婦ハ国家ノ保護及ビ扶助ヲ求ムル権利ヲ有ス、此ノ一条ヲ金森国務相ニ向ツテドウカ熱意ヲ以テ挟ンデ戴クコトハ出来ヌカト云フ希望附ノ質疑ヲ致ス訳デアリマス
 ソレカラ吉田総理ガ過グル日ニ、「ポツダム」宣言ニ対シテ国体護持ヲ条件トシテ受諾致シタノデアルト断言サレタトコハ、昨年八月十五日以来我々ガ胸ヲ悩マシテ居ツタ問題デアリマス、此ノコトハ間違ヒノナイコトデアルカ、ソレトモドウ云フコトデアルカ、余リ明瞭デアリマセヌデシタカラ、今日出来ルコトナラバ安心ノ出来ルヤウニ一ツ御答ヘヲ願ヒタイ、私ハ最終ニナリマシタカラ、諸君ガ――ト云フ、サウ云フ態度ノ下ニ此ノ新憲法ガ生レツツアルト云フコトヲ深ク心魂ニ徹シテ居リマス、之ヲ以テ私ハ質疑ヲ終リマス(拍手)
  〔「議長注意シロ」「取消サセロ」「除名」「怪シカラヌ」「物ヲ言ハセトルヂヤナイカ」其ノ他発言スル者アリ〕
○副議長(木村小左衞門君) 只今ノ論議ニ付キマシテハ、ドウカト思ヒマスル点ガゴザイマスルカラ、速記録ヲ調査ノ上デ御報告致シマス
  〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君) 隔タツタ場所ニ居リマシタ為ニ、十分聴取レマセヌデ、或ハ答弁ガ横ツチヨニナルカモ知レマセヌガ、御許シヲ願ヒマス
 先ヅ初メニ第十九条ノ集会結社及ビ言論出版ト云フモノノ自由ガ強過ギルノヂヤナイカ、ソレガ為ニ濫用サレテ、寧ロ世ノ中ノ秩序ヲ妨ゲルノヂヤナイカ、斯ウ云フヤウナ御質疑ガアツタト思ヒマシタ、ソレハ第十一条ヲ御覧ニナレバ分リマスルノデ、此ノ出版ノ自由ハ絶対的ノモノデハナイノデアリマシテ、第十一条ニ依ツテ制限セラレ、公益ノ中ニアル訳デアリマス
 ソレカラ大臣ノ言葉ガ面白クナイト云フ御話デアリマシタガ、慣用セラレタル言葉ニハソレダケノ味ハヒガアルノデハナカラウカト思ツテ居リマス
 ソレカラ衆議院ハ民議院トシタラドウカト云フコトヲ御話ニナリマシタガ、参議院モ亦一ツノ民議院デアリマシテ、衆議院ト云フ言葉ノ方ガ的確ニ実情ヲ表ハスヤウニ思ヒマス(拍手)
○副議長(木村小左衞門君) 野坂參三君
  〔野坂參三君登壇〕
○野坂參三君 私ハ日本共産党ヲ代表シテ、主トシテ六ツノ点ニ付テ総理大臣及ビ金森国務大臣ニ御質問シタイシ、又其ノ他三、四ノ大臣方ニモ御質問シタイト思ヒマス、今我々ノ前ニハ憲法改正草案ガ出テ居リマス、是ハ新シイ日本ノ骨組ヲ作ルモノデアル、今日本ノ人民ハ新シイ民主的ナ日本ノ建設ヲ要求シ、叫ンデ居ル、此ノ骨組ヲ作ル、是ガ即チ憲法ノ意義デアリ、又是ガ為ニ我々ハ今此処ニ討議ヲ展開シテ居ル、日本ノ歴史ニ於テ是ハ画期的ナ事件ダト我々ハ考ヘマス、併シ是ダケデハナイ、世界全体ガ今此ノ議会ヲ注視シテ居ル、世界ノ民主的国家ノ人々ガ、今此ノ議会デ討論サレル憲法草案ガドウ云フ運命ニナルカ、之ヲ見守ツテ居ル、謂ハバ今日本ノ国民ハ、特ニ我々代議士ハ、新シイ学校ノ入学試験ニ会ツテ居ルヤウナモノデアル、是ガ一ツノ試験問題、之ニ対シテ我々ハドウ云フ解答ヲ与ヘルカ、果シテ世界ノ民主的人民ガ満足スルヤウナ解答ヲ与ヘルカドウカ、若シ我々ガ民主的ナ――徹底シタ民主的ナ憲法ヲ作ラナケレバ我々ハ落第ダ、併シ我々ガ真ニ世界ノ民主的人民ノミナラズ、日本人民ノ本当ニ要求スルヤウナ、斯ウ云フ憲法ヲ作リ上ゲルナラバ、其ノ時初メテ我々ハ「パス」スル、又世界ノ民主的ナ諸国ノ仲間入リモ許サレル、此ノ意味ニ於テ今度ノ憲法ハ国内的ニモ国際的ニモ重要ナ問題デアル、唯遺憾ナコトニハ、率直ニ申シマスレバ、此ノ憲法ニ対スル当議院ニ於ケル一部ノ代議士諸君ノ熱意ガ足ラナイコトガ非常ニハツキリ現ハレテ居ル、此ノ議席ヲ見テモ分ツテ居ル、此ノ重大ナ討議ニ於テ是ダケ欠席ガアル、是ハ我々自身ガ十分反省シナケレバナラヌ、斯ウ云フ態度デ此ノヤウナ重要ナ憲法ガ一体討議出来ルカ、正シイ結論ガ見出サレルカ、是ハ我々全体ガ反省スベキデアルト思フ、ダガ党議場ニ於テ此ノ三日間、今日ヲ寄セテ三日半、此ノ討議ニ於テ我々ニハツキリシタコトハ、二ツノ陣営ガ此処ニ分レテ来テ居ルコト、此ノ憲法問題ヲ中心ニシテ、一ツノ陣営ハ、此ノ憲法ヲ土台ニシテ出来ルダケ先ヘ先ヘ行カウトスル、モツト徹底シタ進歩的ナ憲法ヲ作ラウトスル、真ニ民主的ナ憲法ヲ作ラウトスル、此ノ先ヘ先ヘ進マウトスル斯ウ云フ陣営、是ハ我々共産党ガ先頭ニ立ツテ居ルト私ハ自負スルシ、又同時ニ或ル程度ニ於テ社会党モ同ジ陣営ノ仲間デアルト我々ハ信ジテ居ル、是ガ第一ノ陣営、第二ノ陣営ハ、此ノ憲法ヲ出来ルダケ後ヘ後ヘ引摺ラサウ、後退サセヨウト云フ傾向ガ看取サレル、我々ハ若シ此ノ私ノ見方ガ間違ツテ居レバ…
  〔「違ツテ居ル」「取消セ」ト呼ブ者アリ〕
○副議長(木村小左衞門君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) 一ツハ是ハ見方ノ相違デス、我々ハ出来ルダケ此ノ憲法ヲ前ヘ前ヘト進メタイ、今第二ノ方向ニ居ルノガ総理大臣ノ此ノ前ニ言ハレタ言ニ現ハレテ居ル、総理大臣ハ斯ウ申サレマシタ、現在ノ此ノ憲法ハ民主的デアツテ、反軍国主義的デアル、斯ウ云フ風ニ言ハレタ、一体果シテサウカドウカ
  〔副議長退席、議長着席〕
金森国務大臣モ同ジヤウナコトヲ申サレタト記憶シマス、之ニ付テ又五箇条ノ御誓文ガココニ引用サレテ、是ガ即チ日本ノ民主主義的ナ基本ニナツテ居ル、斯ウ云フコトモ申サレタト思ヒマス、ダガ果シテ此ノ五箇条ノ御誓文ガサウデアツタカドウカ、是ハ我々ハモウ少シ冷静ニ科学的ニ考ヘテ見ル必要ハナイカ、私達ノ考ヘデハ、是ハ徳川封建勢力或ハ徳川封建制ニ対スル明治政府ノ官僚主義ノ対抗宣言デアル、詰リ徳川封建制度ニ対スル、新シク出来タ所ノ官僚政府ガ対抗スル所ノ宣言デアル、斯ウ云フ風ニ我々ハ解釈シテ居ル、又「廣ク會議ヲ與シ萬機公論ニ決スヘシ」斯ウ云フ言葉モアリマス、併シ是ハ歴史ガ事実ニ依ツテ証明スル如ク、決シテ民主的議会ヲ言ツテ居ルノデハナイ、是ハ御存ジノヤウニ、当時ノアノ反動的ナ地方長官会議ヲ意味シテ居ル、サウシテ進歩的ナ民選議院運動ハ、政府ハ弾圧シテ居ル、真ニ民主的ナ議会ノ要求運動ハ弾圧シテ、サウシテ唯地方長官会議ヲ開ク、是ガ其ノ「萬機公論ニ決スヘシ」ト云フ結論トシテ出サレテ居ルノデアル(「ノーノー」)是ハ歴史ノ証明スル所ダ‥‥
  〔「封建政治ニ於ケル解放ダ」「話ヲ聴ケ」ト呼ブ者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○野坂參三君(続) 是ハ五箇条ノ御誓文デアリマスガ、ソレカラ更ニ現行憲法、之ヲ見ル、御存ジノヤウニ是ハ「プロシャ」ノアノ保守的ナ反動的ナ憲法ヲ真似タモノデアル、是ハモウ事実デアル、ソレカラ此ノ憲法ガ如何ニ非民主的デアルカト云フコトハ世界ノ定論ニナツテ居ル、ダカラ今度之ヲ改正シナケレバナラナクナツタノダ、之ニ付テ私ハ私ノ口カラハ申シマセヌ(「何処カラ申ス」ト呼ブ者アリ)口カラ申サナクテ‥‥
  〔「腹カラ申スカ」ト呼ブ者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○野坂參三君(続) 或ル外国人ノ言葉カラ、而モ是ハ大体ニ於テ連合国側ノ意見ヲ代表シテ居ルヤウニ見ラレル、此ノ言葉ニ依ツテ現行憲法ガドウ云フモノデアルカト云フコトヲ此処デ御話シタイト思ヒマス、是ハ去ル十四日ニ市ケ谷ノA級戦争犯罪人裁判ニ於テ「アメリカ」ノ方ノ検事「ノーラン」代将ガ言ツタ言葉デス、是ハ此ノ侭此処デ訳シテ申シマス、彼ハ斯ウ言ツテ居ル、現行日本憲法ハ二ツノ目的ヲ以テ作ラレテ居ル、即チ第一ハ代議制ニ対スル一般与論ヲ和ゲル為メデアリ、第二ハ集権的、専制的政治機構ヲ保全シ、堅固ニスル為メデアル、此ノ二ツノ目的ノ為ニ、権力ハ天皇周囲ノ「アドバイザー」、顧問ノ小集団ノ手ニ保持サレテ居ル、是ガ「ノーラン」代将ノ言葉デ、更ニ彼ハ続ケテ日本ノ今日マデ憲法ニ依ツテ構成サレタ所ノ色々ナ政治機関、例ヘバ政府ニ付テ彼ハ斯ウ言ツテ居ル、政府ノ施策ハ国民ニ対スル責任ニ欠ケ‥‥(発言スル者アリ)中央集権ト……
  〔「何ダ」「喧シイコトヲ言フナ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) 中央集権制ト専制制度強化ダケニ専念シ、議会ノ権能ハ余リニモ狭小デアル、第二ニ、内閣総理大臣ニ付テ彼ハ斯ウ言ツテ居ル、内閣総理大臣ニハ与論ヲ代表スル議会ノ第一党ガ就任セズ、天皇ガ憲法外ノ機関、即チ元老、重臣、内大臣ノ奏請デ決メタ、第三ニハ、議会ハ可決権ヲ持ツテ居ルガ、法律ノ立案、成文化ハ政府機構ガヤル、貴族院ノ二分ノ一ハ華族、四分ノ一ハ多額納税者、他ハ勅選議員デ、有産階級、保守階級ノ大キナ支持者デアル、第五番目ニ、枢密院ハ明治二十三年ノ官制デ、憲法、国際協約発布前ノ勅令ニ関シテダケ天皇ノ諮問ニ意見ヲ上奏サレテ居ルガ、最近ハ対外、対内国策決定ニモ口ヲ入レタ、常ニ内閣ノ政策ヲ改変、政治的責任ハ少シモ負ハズ、議会制度ノ大障碍ヲナシテ居ル、更ニ六、此ノ六ニ付テハ軍部ノ問題ガ出テ居リマス、是ガ「ノーラン」代将ノ日本憲法ニ対スル見解デ、恐ラク是ハ連合国側ノ意見ヲ代表シテ居ルモノト我々ハ考ヘテ差支ヘナイダラウト思フ、サウシマスト、吉田総理大臣及ビ金森国務相ニ私ガ御聴キシタイコトハ、以上ノ此ノ「ノーラン」氏ノ言葉、現行憲法ニ対スル此ノ解釈ハ、是ハアナタ方ノ意見ト矛盾スルノデハナイカ、相反スルノデハナイカ、御存ジノヤウニ、此ノヤウナ解釈ハ唯「ノーラン」代将ノ解釈ダケデハアリマセヌ(「日本全国民ノ解釈ダ」ト呼ビ、其ノ他発言スル者アリ)サウデス
  〔「分ツテ居ル、ダカラ憲法ヲ改正スルンダ」ト呼ビ、其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○野坂參三君(続) 日本全国民ノ解釈ダケデハナイ、世界ノ人民ガ此ノヤウニ解釈シテ居ル、ダカラ我々ハ今ノ憲法ハ悪イカラ新シイ憲法ヲ作ラナケレバナラナイ、此ノ点ニ付テ総理大臣ノ明確ナ御回答ヲ私ハ希望シマス、若シ「ノーラン」代将ノ見解ガ仮ニ正シイナラバ、之ヲ承認サレルナラバ、サウスレバ先日吉田及ビ金森両氏ノ御回答ハ、是ヲ覆ヘサレルモノカドウカ、此ノ点ニ付テ私ハ御聴キシタイ(拍手)
 ソレカラ総理大臣ハ、現行憲法ハ軍国主義的デナイ、斯ウ云フ風ニ言ハレタ、併シ「ノーラン」代将モ此ノ次ニ言ツテ居ル、此ノ憲法ニ依ツテ軍部ガ特殊ノ権力ヲ持チ、所謂帷幄上奏権等等――サウシテ彼等ガ自由勝手ナ専制ヲヤルコトガ出来ル、斯ウ云フ風ナ組織ニナツテ居ル、ココニ戦争ノ起ル原因ガアル、即チ憲法自体ニ戦争ヲ起スヤウナ、軍国主義ヲ生ムヤウナ、斯ウ云フ根本ガアル
  〔「分ツテ居ルコトダ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋員貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) ソレカラモウ一ツ御聴キシタイコトハ、是ハ若シ現在ノ憲法ガ民主的デアツテ、サウシテ新シイ憲法草案ガ是ノ其ノ侭ノ継続デアル、発展デアルト云フ風ニ申サレタヤウニ私ハ記憶スル、若シサウナラバ、現行憲法ハ一般ニ今マデハ所謂神権主義、之ニ基イテ居ル、即チ天皇ガ統治スル、天皇ノ権威ハ神意カラ出テ来ル、是ハ天孫降臨ノ神勅ガ即チ根拠ニナツテ居ル、是ガ所謂今マデノ定説ニナツテ居ル、若シ此ノ草案ガ現行憲法ノ其ノ侭ノ継続デアルナラバ、此ノ草案自身モ神権説ヲ執ルモノカドウカ、之ヲ私ハ総理大臣及ビ金森国務相ニ御聴キシタイ、是ガ第一ノ点デス
 第二ノ点ハ憲法改正ノ手続ニ付テデアル、此ノ手続ノ問題ハ非常ニ重要ナ問題ト思ヒマス、民主的憲法ハ又民主的ナ手続方法ニ依ツテ作ラレナケレバナラヌ又、私達ハ此ノ憲法ニ付テ斯ウ云フ風ナ解釈ヲ持ツテ居ル、憲法ナルモノハ一国ノ社会的変革ガ一応完成シタ後ニ、此ノ革新ノ獲得物、之ヲ法律ニ依ツテ確保スルコトデアル、即チ日本ニ民主主義的ナ革命ガ大体ニ於テ完成サレタ暁ニ於テ、之ヲ法的ニ確保スル為ニ憲法ガ必要デアル、大体ニ於テ何処ノ憲法デモサウナツテ居ル、併シナガラ遺憾ナガラ此ノ憲法上程最初ノ日ニ、志賀義雄君ガ動議ヲ出シタヤウニ、マダ此ノ憲法ヲ作ルベキ条件ガ日本ニハ十分ニ成熟シテ居ナイ、ダカラ之ヲ延期スベキデアル、斯ウ云フ風ニ我々ハ主張シテ居ル
  〔発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ―静粛ニ
○野坂參三君(続) 此ノ点ニ付テハ私ハ志賀君が既ニ緊急動議ノ際説明ヲ申シタカラ、是レ以上余リ詳シクハ申シマセヌガ、是ハ或ル代議士モ言ハレマシタガ、此ノ憲法ハ将来日本ガドウスルカ、斯ウ云フモノモ之ニ含メテ居ル、斯ウ云フ風ニ言ハレル、サウスレバ即チ現在既ニ我々ノ獲得シタモノヲ法的ニ之ヲ確保スルノデハナク、将来我々ガ之ヲ獲得シヨウトスルモノ、是ハ憲法デハナイ、憲法デハナクテ、是ハ政府ノ政綱デアリ、或ハ政当ノ綱領デアル、我々ハ今ココニ於テ憲法ヲ作ル、綱領ヲ作ツテ居ルノデハナイ、此ノ意味ニ於テモ私ハ此ノ憲法提出ハマダ時期尚早ダト言ヒ得ルト思フ、此ノ点ニ付テ私ハ金森国務相ノ回答ヲ求メタイト思フ
 モウ一ツ言ヒタイコトハ、是ハ「マッカーサー」司令部ノ方カラ、六月二十二日ニ斯ウ云フコトヲ指示シテ居ル、即チ本草案ノ審議ノ手続ガ、詰リ現行憲法ト完全ニ法律上ノ連関性ヲ持タセルコト――法律上ノ連関性ヲ持タセルコト、斯ウ云フコトヲ言ツテ居ル、現行憲法ト此ノ草案トノ間ニ法律的ナ連関性ガナケレバナラナイ、此ノ問題ヲ私ハ金森国務相ニ特ニ御聴キシタイ、一般ニ現行憲法第七十三条デハ、天皇ガ此ノ草案ヲ出サレルノデアツテ、之ニ対シテ議会ハ唯「イエス」カ「ノー」カヲ言ヘル、之ニ対スル修正権ハナイト云フ風ニ今マデ理解サレテ居ル、是ガ大体ニ於テ定説トナツテ居ル、是ハ美濃部サンモサウ言ツテ居ル、宮沢氏モ言ツテ居ル、又最近デハ民間ノ憲法研究会モサウ言ツテ居ル、民主主義科学者同盟モ斯ウ云フ風ニ言ツテ居ル、若シサウナラバ、本議会デハ唯七十三条ノ此ノ条項ヲ修正シテ、サウシテ此ノ議会ニ於テ修正権ヲ与ヘルヤウニシナケレバナラヌ、是ガ先ヅ当然執ルベキ順序デアル、サウスルト金森国務相ニ御聴キシタイノハ、此ノ定説ヲドウ云フ風ニ解釈サレルカ、今マデ金森或ハ総理大臣両相ノ言ハレル所ニ依レバ、此ノ議場ニ於テ修正シテ差支ヘナイト言ハレタ、サウスレバ此ノ七十三条ヲドウ云フ風ニ解釈サレテ斯ウ云フコトヲ言ハレルノデアルカ、是ガ御聴キシタイ
 偖テ其ノ次ニ、今ノ本問題ニナツテ来ル、「マッカーサー」司令部ハ、現憲法ト新シイ憲法草案トノ法律的継続性ヲ要求シテ居ル、若シ七十三条ノ憲法改正手続ガ、今マデノ定説ガ正シイナラバ、是ハ覆ツテ来ル、少クトモ重大ナ疑問ガ生レテ来ル、即チ若シ政府ガ此ノ草案ヲ修正スルコトヲ認メルナラバ、今マデノ此ノ定説ニ依ツテ、現行憲法ニ牴触スルコトニナル、違法ニナツテ来ル、随テ法律的継続性ハナクナツテ来ル、私ハ恐ラク、連合国側デハナゼ斯ウ云フコトヲ要求スルカト云ヘバ、仮ニ将来連合国側ガ日本ヲ撤退シタ場合ニ於テ、仮ニ又日本ニ反動勢力ガ抬頭シタ場合ニ、此ノ反動勢力ガ今言ツタヤウナ手続上ノ不備或ハ疑問、之ヲ基礎ニシテ、此ノ新シイ憲法ハ、是ハ違法デアル、第七十三条ニ違ツテ居ル、斯ウ云フコトヲ彼等ガ主張シテ、サウシテ新シイ憲法ヲ蹂躙ルト云フ危険、可能性ガ生レテ来テ居ル(拍手)之ニ付テ私ハ吉田総理大臣及ビ金森国務相ニ御聴キシイ
 私ガ此処デ特ニ強調シタイコトハ、ナゼ此ノ憲法草案ヲ通過スルコトニ、コンナニ急ガナケレバナラナイカト云フコトデアル、政府ノ説明デハ、平和会議ニ早ク参加シナケレバナラナイシ、国際的仲間ニ早ク入ラナケレバナラナイ、勿論我々ハ之ニ賛成ダ、併シ国際的信用ト云フモノハ、唯一ツノ憲法ヲ作ルト云フダケニ依ツテ、之ヲ我我ハ獲得スルコトハ出来ナイ、実質的ニ日本ニ民主主義ヲ確立シテ、其ノ時ニ初メテ国際的信用ガ出来テ来ル、然ルニ現実ノ事実ハドウカト云ヘバ、即チ政府ノ今日マデヤツテ居ル此ノ事実ヲ見ルト、戦争犯罪人ノ追究ハ非常ニ緩漫デアリ、消極的デアル、軍国主義者、反動的分子ハ公然又ハ陰然ト活動ヲ続ケテ居ル、斯ウ云フ状態デアル、又徳田球一君ガ此処デ申シタヤウニ、各地方ニ於テ色々人権蹂躙ノ事実ガ挙ツテ居ル、是等ノ事実、是ハ明カニ反民主主義的ナ事実デアル、真ニ国際的ナ信用ヲ得ントスルナラバ、此ノヤウナ反民主主義的事実ヲ日本ニ消滅シナケレバナラヌ、此ノ時ニ於テ初メテ国際的信用ガ上ツテ来ルト思フ(拍手)私ノ思フ所デハ、政府ノ真ノ意図ハ何処ニアルカト云ヘバ、今尚ホ人民大衆ノ間ニ於ケル民主主義ガ十分成長スル前ニ民主主義的デナイ憲法ヲ作ツテ、サウシテ人民ノ徹底シタ民主主義的要求ヲ抑ヘルト云フ所ニ、ココニ政府ノ根本意思ガアル
  〔「ソレデハ君ノ言フ骨子ハ何カ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
  〔「此ノ憲法ヂヤナイカ」ト呼ビ其ノ他発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○野坂參三君(続) 私ハナゼニ斯クモ急ガナケレバナラナイカト云フ理由ヲ幣原国務大臣‥‥(「国民ノ要望ダ」ト呼ブ者アリ)幣原国務大臣、吉田総理大臣ニ御聴キシタイト思フ、是ガ第二ノ問題
 第三ノ問題、是ハ此処デ何度モ繰返サレマシタガ、私ハドウシテモ御聴キシナケレバナラナイ、是ハ主権ガ一体何処ニアルカト云フコトデアル、其ノ前ニ一ツ総理大臣ニ御聴キシタイノハ、総理大臣ハ国体護持ヲ条件トシテ「ポツダム」宣言ヲ受諾シタト、斯ウ申サレマシタ、此ノ問題デス、総理大臣ハ、連合国ノ回答ハ何等国体問題ニ付テハ言及シナカツタト云フコトヲ、二十六日ノ本会議デ申サレマシタ、併シナガラ日本ノ降服時ニ於テ、確カニ日本政府ガ国体護持ヲ条件トシテ提出シタノハ、是ハ事実デアル、之ニ対シテ総理大臣ハ回答ガナカツタヤウニ言ハレタガ、私ノ解釈デハ明カニココニ回答ガアルヤウニ思フ、是ハ連合国側ノ回答ノ第四項、此処ニ斯ウ書イテアル、日本政府ノ究極ノ政体ハ「ポツダム」宣言ニ依リ日本人民ノ自由ニ表明サレタ意思ニ依ツテ樹立サルベシ、是ガ問題デス、詰リ日本政府ノ究極ノ政体、之ヲ英語デハドウカ、英語デハ「アルティメート・フォーム・オブ・ザ・ガヴァメント・オブ・ジャパン」、斯ウ云ウ風ニナツテ居ル、詰リ「ガヴァメント」ノ最終ノ形態、此ノ「ガヴァメント」ト云フ言葉ハ、国体トモ政体トモ訳シ得ルガ、併シ外国デハ国体モ政体モ区別ハナイ、日本デモ例ヘバ伊藤博文ノ如キ人デモ、初期ノ間ニハ此ノ二ツノ言葉ヲ使ツテ居ル、連合国ノ方デハ、恐ラク之ニ依ツテ日本政府ノ国体保持ト云フ質問ニ対スル回答ヲ与ヘタト云フ風ニ我々ハ解釈モ出来マス、一体総理大臣ハ此ノ問題ニ付テドウ云フ風ニ考ヘラレルカ、果シテ連合国ハココニ於テ回答ヲナサラナカツタカドウカ、私ノ考ヘデハ明カニ回答シテ居ルトシカ考ヘラレナイ、即チ日本ノ国体ハ人民ノ意思ニ依ツテ決定セヨト云フコトガ是デ回答サレテ居ル、サウスルト総理大臣ノ言ハレタアノ言葉ニハ矛盾ガアルノカ、或ハ嘘ガアルノカ、此ノ点ヲ私ハハツキリ御聴キシタイ
 ソレカラ次ニ主権ノ問題ニ付テ、天皇ヲ含ム国民、是ガ毎度毎度問題ニナツテ居リマスガ、此処デ御聴キ致シタイノハ、天皇ガ国民ナラバ、一体新シイ憲法草案デハ第十三条ニ「すべて國民は、法の下に平等であつて、」サウシテ「社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別を受けない。」、斯ウ云フ風ニ書イテアル、一体之トドウ云フ風ナ関連ガアルノカ、若シ国民ノ一人デアルナラバ、明カニ平等デアリ、差別ヲ受ケナイ筈デアル、併シ憲法ノ初メニハチヤント是ガ区別サレテ居ル、之ヲドウ云フ風ニ解釈サレルカ、是ガ御聴キ致シタイ、若シ天皇ガ又国民ノ一員デアルナラバ、選挙権モ持タレナケレバナラナイシ、同時ニ又選挙サレルコトモ出来ル、若シ国民ガ元首ト云フコトヲ仮ニ欲スルナラバ、国民ノ一人デアル所ノ天皇ヲ何故選挙シナイカ、斯ウ云フコトモ我々ハ質問シタイ、又色々政府ノ御回答ノ中ニ此ノ天皇ノ地位ハ国民ノ感情カラ生レテ居ル、斯ウ云フ風ニ言ハレテ居ル、感情ヲ基礎ニスルト云フ風ナ君主制ガ世界ノ何処ニアリマスカ、感情ヲ基礎ニスル、是ハ憲法デハナクシテ小説ダ(笑声)是ハ又新シイ神秘説ダト言ヘル、新シイ神権説、モウ今日デハアノ古イ神権説ヲ言フ者ハ恐ラクナイト思フ、今度ハ形ノ変ツタ神権説ガ生レヨウトシテ居ル、ココニ非常ナ危険ガアルト思フ、第一国民ノ感情ハ変化スル、例ヘバ天皇制一ツノ問題ニシテモ、去年ノ十月ニ共産党ガ合法化シテ活動ヲ始メタ時、アノ時天皇制打倒ノ「スローガン」ヲ掲ゲタ、併シアノ時恐ラク之ヲ支持シタ者ハ数百人カ多クテ数千人ニ違ヒナカツタ、併シナガラソレカラ半年経ツタ四月十日ノ選挙ニハ、御存ジノヤウニ二百万以上ノ者ガ之ヲ支持シテ居ル、国民ノ感情ハドンドン変ツテ来ル、之ヲ基礎ニシテ安泰ヲ図ルト云フコトハ……
  〔発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) 非常ニ危イコトデアリマス
  〔発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) ソレカラ此ノ問題ニ付テモウ一言ハツキリト御聴キシタイコトハ政府ノ真意ハ何処ニアルノカ、一体主権ガ国民ノ手ニアルノカ、天皇ニアルノカ、之ヲ此処デ胡麻化サズニハツキリト言ツテ貰ヒタイ、何故此ノ問題ヲ此ノヤウニシテ曖昧ニサレルノカ、是ガ私達ニハ分ラナイ
 ソレカラ其ノ次ニハ此ノ憲法草案ト英文トノ間ニ若干ノ相違ガアル、是ハ既ニ雑誌ノ上デモ或ル人ガ指摘シテ居リマスガ、憲法前文ノ中ニ「國民の總意が至高なものである」、是ハ英文デハドウナツテ居ルカト言ヘバ、「ソヴァレーンティ・オブ・ザ・ピープルス・ウィル」、詰リ人民意思ノ主権、斯ウ云フ風ニナツテ居ル
  〔発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○野坂參三君(続) 是デハハツキリト、人民ノ手ニ主権ガアルト云フコトヲ書イテ居ル、ドウシテ斯ウ云フヤウナ、ハツキリシナイヤウナ、「國民の總意が至高」ト云フ風ナ言葉ヲ使ハナケレバナラナイカ、何故此ノ英文ト同ジヤウニ使フコトガ出来ナイノカドウカ、是モ一ツ、モウ一ツ第九十五条ニ日本文デハ「天皇又は攝政及び國務大臣、」等々ト書イテ、「裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し」云々ト、斯ウ云フ風ニ書イテ居リマス、即チ「天皇又は攝政及び」ト「及び」ト云フ字ガアル、所ガ英文ノ中デハ「エンペラー・オア・ザ・リーゼント」、サウシテ「コンマ」トナツテ居ル、「アンド」ト云フ字ガ入ツテ居ナイ、是ハ小サイ問題ノヤウデスガ、非常ニ重要ナ問題ニナツテ来ル、何故ナレバ其ノ次ニ出テ来ル文句ノ中ニ「その他の公務員」ト云フコトガアル、英文ノ中デハ明カニ天皇及ビ摂政モ公務員ノ中ニ含マレテ居ル、公務員ニナツテ居ル、併シ此ノ日本文デハ天皇又ハ摂政ハ、是ハ別箇ニナツテ居ル、此ノ点ニ付テ私ハ総理大臣及ビ金森国務大臣ニ御聴キシタイ、一体天皇ハ公務員カドウナノカ、若シ公務員ナラバ第十四条ノ規定ガ適用サレナケレバナラナイコトニナル、ソレカラ御聴キシタイコトハ、一体此ノ日本文ト英文トドチラガ正シイノカ(「ソンナコトガ分ラナイノカ」ト呼ブ者アリ)日本文ガ正シイ、我々ハ……(発言スル者アリ)日本文ガ……(発言スル者多シ)日本文ガ、勿論原文デス
  〔発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス――静粛ニ――静粛ニ――静粛ニ――願ヒマス
  〔「取消セ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) 日本文ニモ誤植ト云フコトガアリマス(「取消セ」「英文ガ何ダ」其ノ他発言スル者アリ)我々ノ言ハントスル所ハ……
  〔「共産党ノ主義、欲シテ居ル主義、主張……」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○野坂參三君(続) 英文ダケヲ見ルト如何ニモ民主的デアル
  〔「取消セ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス――野坂君ニ申上ゲマス、英文ニ付キマシテハ御注意ヲ願ヒマス
○野坂參三君(続) 唯私ノ御聴キシタイノハ、私ノ言ヒタイコトハ、英文ノ此ノ翻訳ヲ見ルト、如何ニモ是ハ民主的ニ出来テ居ル、ハツキリシテ居ル、併シ此ノ日本ノ原文ニハサウデナイ、非常ニ曖昧模糊ノ点ガ多イ、此ノ点ニ付テ一体総理大臣ハドウ云フ風ニ御考ヘニナルカ
  〔「ソンナコトハ答弁ノ必要ナシ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) ソコデ私達ハ天皇制ノ廃止ト云フコトヲ申シテ居リマス、ナゼカ、此ノ憲法トドウ云フ関係ガアルカ、私達ノ主張ハ此ノ憲法草案第七条ニアル色々ナ権限ガ天皇ニ与ヘラレテ居ル、ソレヲ我々ハナクシタイ、即チ第七条ノ二ニハ国会ヲ召集スルト云フコトヲ言ツテ居ル、若シ国会ヲ召集スルコトヲ肯ジナカツタ場合ハドウナルノカ、衆議院ヲ解散スルコト、此ノ権限ガアル、若シ衆議院ヲ解散シナイト云フ場合、ドウナルノカ、官吏ノ任免トカ、或ハ信任状ヲ認証スルトカ、或ハ其ノ他大赦、特赦、減刑等ヲ認証スルトカ、或ハ批准書ヲ認証スルトカ、色々出テ居リマス、若シ之ヲ天皇ガ認証シナイト云ツタラドウナルノカ、我々トシテハ此ノヤウナ特殊ナ権限ヲ天皇ノ手ニ持タセナイ方ガ宜イ、是ガ即チ我々ノ主張スル天皇制廃止デス
  〔「誰ガ持ツノダ、野坂參三ガ持ツカ」ト呼ビ其ノ他発言スルモノアリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ――静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) 社会党ノ方ガ天皇制ノ下デモ社会主義ガ出来ル、斯ウ云フ風ニ申サレマシタガ、是ハ日本ノ現状ト「ヨーロッパ」ノ現状トガ非常ナ違ヒガアルコトヲ考ヘナケレバナラナイ、日本ノ現在ニ於テ、或ハ近キ将来ニ於テ反動勢力、軍国主義的勢力ハ相当頑強ニ残ル、斯ウ云フ場合ニ於テ天皇ノ手ニ此ノヤウナ特権ヲ委ネルコトハ、是等ノ反動分子ガ特権ヲ利用シテ又再ビ太平洋戦争、其ノ他ノ侵略戦争ヲ起ス可能性ガアル、斯ウ云フ危険ガアル、ダカラ我々ハ斯ウ云フ特権ヲ排除シナケレバナラヌ、ダカラ私ハ第七条ヲ廃メテ、サウシテ人民ニ本当ニ主権ガアルコトヲ明記スル、是ガ我々ノ主張デス、サウシテ国会ニ全権ヲ握ラセル、是ガ我々ノ主張デアル、之ニ付テ総理大臣ニ御回答ヲ願ヒタイ、是ガ第三ノ問題デアリマス
 第四ノ問題、是ハ国会ノ問題ニ付テ、ココデハ二院制ガ書イテアリマス、衆議院ト参議院、併シ此処ノ討論及ビ政府側ノ御回答ノ中ヲ見テモ、参議院ノ性格、是ハハツキリシテ居ナイ、又之ニ付テモ地域的ナ代表ヲ出ストカ、職域的ナ者ヲ出ス、斯ワ云フ意見ガアル、何レニシテモ今日マデノ此ノ討論デハ誰モハツキリシテ居ナイ、ソコデ一体何ノ為ニ斯ウ云フ参議院ト云フモノヲ作ル必要ガアルカ、ナゼ一院ダケデハイケナイノカ、私達ハ一院デ出来ルト思フ、或ル人々ハ衆議院ダケデヤレバ多数党ニ依ツテ公平デナイ決議ガ得ラレルカモ知レナイ、ソレガ為ニ之ヲ制御スル為ニ参議院トカ、或ハ外ニ斯ウシタ第二院ガ必要ダ、斯ウ云フ主張モアリマスガ、併シ我々ハ日本ノ人民ノ民主主義的ナ発展ヲ信ジタイ、民主主義的ナ発展ニ基イテ此ノ衆議院自体モ必ズ立派ナ議会ニナルコトト確信シテ居リマス、此ノ場合ニ於テナゼ一体此ノ衆議院ニ全権ヲ与ヘテハイケナイノカ、此ノ上ニモウ一ツ、今ノ貴族院ノ形ノ変ツタヤウナアノ参議院ヲ設ケル必要ガドウシテアルノカ、私達ハ一院制デ十分ダト考ヘテ居ル、此ノ問題ニ付テ御回答ヲ願ヒタイ
 更ニココデハ三権分立、是ガ規定サレテ居ル、一体三権分立ト云フコトハ絶対主義ニ対スル――是ハ「ヨーロッパ」ノ例デス、絶対主義ニ対スル資本家階級的批判トシテ、主権ヲ貴族ト資本家トガ争ツテ居ル時代ニ生レタモノデアル、絶対主義ニ対シテ人民自身ガ国家権力ノ主体トシテ、其ノ立法権ガ絶対主義ノ先ニアルベキコトヲ主張シタモノデアル、之ニ反シテ三権ガ並立スルコトハ、国家権力ノ執行権、即チ行政、司法、是ガ立法ニ優位スルコト、立法ノ上ニ行クコトニ実質的ニナツテ来ル、サウシテ議会ハ単ナル議決機関ニナル、実際ノ権限、権力ハ議会ニハナイ、是ガ民主主義的ナ形ヲ持ツタ、実ハ専制的ナ政治ノ仕組ダト私達ハ考ヘル、ダカラ私達ノ主張ハ此ノヤウナ三権ガ分立スルノデハナクテ、三権ガ一体化スルコト、統一サレルコト、即チ議会ニ全権ガアル、議会ニ依ツテ執行機関ガ作ラレルコト、之ヲ私達ハ最モ民主的ナ形ノモノダト考ヘテ居ル、即チ三権ノ分立デハナクテ、三権ノ統一、是ガ第四ノ問題、之ニ付テ金森国務大臣ノ御回答ヲ仰ギタイ
 第五番目ニハ国民ノ権利ト義務ノ問題ニ付テ、是ハ第三章ニアリマス、此処ニ基本権ガ皆決定シテアリマス、是ハ確カニ今マデノ憲法ヨリハズツト進歩シタモノデアル、斯ウ云フ風ニ私達ハ考ヘルガ、併シ此ノ基本権、是ハ第十条、十三条、十七条、十八条、十九条、二十条、二十一条、二十五条、二十六条、斯ウアリマスガ、此ノ基本権ハ或ル制限ガ加ヘラレテ居ル、即チ公共ノ福祉ニ反シナイ限リ、斯ウ云フ制限ガ付イテ居ル、所ガ法律ノ規定ニ依ツテ此ノ国民ノ権利ガ侵害サレナイト云フ保障ハ何処ニモナイ、ココニ我々ハ非常ナ不安ヲ持ツテ居ル、ナゼナレバアノ人民弾圧ノ治安維持法其ノ他ノ悪法ガ社会ノ安寧秩序、人民ノ幸福ノ増進、斯ウ云フ項目ニ依ツテ作ラレテ居ル、ダカラ我々ノ主張シタイコトハ、斯ウ云フ風ナ基本権ガ憲法以外ノ法律ニ依ツテ侵サレナイト云フコトヲ是ニ明記シナケレバナラナイト思フ、又我々ノ主張シタイコトハ、基本権ナルモノハ保障規定ガアツテ初メテ現実ニ有効ニ作用スルコトガ出来ル、例ヘバ、権利義務ノ中ニ集会ノ自由、結社、言論、出版ノ自由、職業選択ノ自由、其ノ外アリマスガ、併シ斯ウ云フ自由モ現在ノ社会ノヤウナ階級ニ分レテ居ル場合ニ於テ、即チ金持ト貧乏人ニ分レテ居ル場合ニ於テハ、是等ノ自由ハ唯金持ニダケノ自由デアツテ、貧乏人ノ自由ニハナラナイ、例ヘバ集会シヨウト云ツテモ、或ハ言論出版ノ自由ガアルト云ツテモ、貧乏人ノ手ニハ印刷所モナイ、新聞モナイ、集会シヨウト云ツテモ「ホール」モナイ、ドウシテヤルノカ
  〔「共産党ダケアルンダラウ」ト呼ブ者アリ」〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ
○野坂參三君(続) 我々ハ憲法ノ中ニ之ヲ物質的ニ保障スルヤウナ条項ヲ必ズ入レテ貰ヒタイ、入レルベキダト我々ハ主張シタイ、之ニ付テ金森国務大臣ノ御回答ヲ仰ギタイ、又是ハ社会党ノ方カラモ言ハレマシタ、鈴木君ダト思ヒマスガ、色々勤労者ニ対スル諸権利ヲ具体化スルヤウナ条項ヲ設ケルコト、此ノ点ニ付テハ私ハ社会党ノ方ト大体ニ於テ賛成デスガ、私達ハモツト社会党ヨリモ色々要求シタイコトガアル、最近私達共産党デハ新シイ憲法草案ヲ作リマシタ、之ヲ二、三日中ニ、多分印刷出来次第発表スル筈デス、之ニハ相当此ノ問題ニ付テ詳シク取上ゲテ居ル、例ヘバ労働権利ノ外ニ、労働者ガ企業ニ参加スル権利トカ、休息ノ権利、養老、疾病、癈疾者ノ保護、失業者ノ保護、婦人ニ対スル特殊ノ保護、住宅ノ保障、中学校マデニ至ル義務教育制、其ノ他マダアリマスガ、斯ウ云フモノヲ我々ハ掲ゲテ居ルガ、斯ウ云フモノモ是非新シイ憲法草案ニ入レテ貰フベキコトヲ我々ハ要求シタイ、之ニ付テハ厚生大臣ノ御回答ヲ仰ギタイト思フ
 偖テ最後ノ第六番目ノ問題、是ハ戦争抛棄ノ問題デス、此所ニハ戦争一般ノ抛棄ト云フコトガ書カレテアリマスガ、戦争ニハ我々ノ考ヘデハ二ツノ種類ノ戦争ガアル、二ツノ性質ノ戦争ガアル、一ツハ正シクナイ不正ノ戦争デアル、是ハ日本ノ帝国主義者ガ満洲事変以後起シタアノ戦争、他国征服、侵略ノ戦争デアル、是ハ正シクナイ、同時ニ侵略サレタ国ガ自国ヲ護ル為メノ戦争ハ、我々ハ正シイ戦争ト言ツテ差支ヘナイト思フ、此ノ意味ニ於テ過去ノ戦争ニ於テ中国或ハ英米其ノ他ノ連合国、是ハ防衛的ナ戦争デアル、是ハ正シイ戦争ト云ツテ差支ヘナイト思フ、一体此ノ憲法草案ニ戦争一般抛棄ト云フ形デナシニ、我々ハ之ヲ侵略戦争ノ抛棄、斯ウスルノガモツト的確デハナイカ、此ノ問題ニ付テ我々共産党ハ斯ウ云フ風ニ主張シテ居ル、日本国ハ総テノ平和愛好諸国ト緊密ニ協力シ、民主主義的国際平和機構ニ参加シ、如何ナル侵略戦争ヲモ支持セズ、又之ニ参加シナイ、私ハ斯ウ云フ風ナ条項ガモツト的確デハナイカト思フ、此ノ問題ニ付テ総理大臣ニ此処デモウ一度ハツキリ回答願ヒタイ点ガアル、ソレハ徳田球一君ガ此処デ総理大臣ニ質問シタ場合ニ、徳田球一君ハ此ノ戦争ハ侵略戦争デアル、之ニ付テ総理大臣ハドウ云フ風ニ考ヘラレルカト云ツタ場合ニ、総理大臣ハ唯徳田君ノ意見ニハ反対デアルト云フ風ニ言ハレタ、サウスルト此ノ御回答ハ、徳田君ガ侵略戦争ト性質付ケタアノ性質付ケニ反対サレルノカドウカ、逆ニ言ヒ換ヘレバ、首相ハ過去ノアノ戦争ガ侵略戦争デハナイト考ヘラレルカドウカ、之ヲ此処デハツキリト言ツテ戴キタイ、一体戦争ノ廃棄ト云フモノハ一片ノ宣言ダケデ、或ハ憲法ノ条文ノ中ニ一項目入レルダケニ依ツテ実現サレルモノデハナイ、軍事的、政治的、経済的、思想的根因、此ノ根本原因ヲ廃滅スルコト、是ガ根本ダト思フ、即チ我々ハ戦争犯罪人ヲ徹底的ニ究明スルコト、之ニ付テ先程モ申シマシタヤウニ、政府ハ非常ニ緩漫ナヤウニ見エル、或ハ怠慢ノヤウニモ見エル、私ハ総理大臣、内務大臣或ハ必要ナラバ司法大臣ニ御聴キシタイガ、政府ハ此ノ戦争犯罪人、此ノ中ニハ積極的ナ者モアリ、又消極的ナ者モ含マレルガ、之ヲ何処マデ徹底的ニ究明サレル所存デアルカ、何時ドノ位之ヲ処置サレル積リデアルカ、之ヲ御聴キシタイ、又第二ニハ戦争ヲ実際ニ廃メル為ニハ、現在マダ秘密或ハ半公然ト存在スル所ノ反動諸団体、之ノ指導者、之ニ対スル取締ヲ内務大臣ハ現在ドノヤウニヤツテ居ラレルカ、第三ニハ実際ニ戦争ヲ廃滅スル為ニハ政治上ニ独裁機構ヲ作ツテハナラナイ、之ヲ徹底的ニ廃滅スル、官僚主義、官僚機構、之ニ徹底的ニ廃滅シナケレバナラヌ、此ノ点ニ於テドノ程度マデ政府ハヤツテ居ラレルカ、ヤラウトサレテ居ルカ、又侵略戦争ノ原動力デアル所ノ財閥、之ノ解体ノ状態ガドノ程度マデ進行シテ居ルノカ、又第五ニハ、日本ノ封建主義ノ土壌デアリ、基礎デアル所ノ封建的ナ土地所有制度、是ノ改革ニ付テ農林大臣ハドノヤウニ今ヤラレテ居ルカ、既ニ農地調整法ガ出来テカラ半年以上過ギテ居ルガ、一体ドノヤウニ進行シテ居ルノカ、又政府ハ土地改革ヲ約束サレタガ、何時如何ニシテ此ノ約束ヲ実行サレヨウトスルカ、之ヲ此処デ明言シテ戴キタイト思フ、第六番目ニ、是ハ特ニ文部大臣ニ御聴キシタイガ、戦争ノ犯罪性、侵略戦争ノ犯罪性、過去ノ日本ノ戦争ガ帝国主義的デアリ、侵略的デアルト云フコトヲ、一体教育面ニ於テドノ程度マデ徹底的ニ実行サレテ居ルカ、之ヲ具体的ニ説明シテ戴キタイト思フ、是ガ第六デアリマス
 私ハモウ一言此処デ申上ゲタイコトハ、天皇制ノ問題ニ付テ、共産党ハ政治機構トシテノ天皇制ノ廃止ヲ主張シテ居ル、併シ皇室ノ問題ニ付テハ別個ニ取扱フ、之ヲ今マデ声明シテ居リマス、今度共産党ノ出ス憲法草案ノ条文ニ斯ウ云フコトヲ書イテ居ル、特権的身分制度トシテノ皇室ハ当然廃止サルベキデアルガ、新シイ人民共和政府ガ現実ニ出来、人民ニ真ノ民主的教育ガ徹底サレタ後、皇室ノ問題ヲ人民投票ニ問ウテ決定スル方針デアルコトハ、我ガ党ガ予テカラ声明シタ通リデアル、斯ウ云フ風ニ書イアル
 偖テ此ノ憲法草案ノ結論トシテ、私達ノ見解ハ、此ノ憲法草案ハ主権在民ト云フ形ヲ取リナガラ、実ハサウデハナクテ主権在君デアル、斯ウ云フ風ニ解釈セザルヲ得ナイ、是ハ吉田首相トカ或ハ其ノ他ノ大臣方ガ此処デ申サレタ演説ノ中カラモ明カデアル、又此ノ草案自体カラモ明カデアル、ナゼサウカ、結論的ニ申セバ、第一ニ改正手続ガ民主的デナイ、第二ニ時期ガ尚早デアル、国内ニマダ民主主義的ナ十分ノ条件ガ成熟シテ居ナイ此ノ時ニ、此ノヤウナ憲法ガ提出サレテ居ル、第三ニ憲法草案ノ第一章ニ国民ヲ持ツテ来ズニ天皇ガ出テ居ル、是ガ明カニ主権在君ヲ示スモノダト理解セザルヲ得ナイ、第四ニ天皇ハ政治ニ関スル権能ヲ有シナイト言ヒナガラ、例ヘバ総理大臣ノ任命権トカ、国会ノ召集解散、総選挙ノ執行権、サウ云フモノヲ持ツテ居ル、是ハ明カニ主権在君ヲ示スモノデアル、第五ニ天皇ガ栄誉権ヲ持ツテ居ル、栄誉ヲ与ヘル権力ヲ持ツテ居ル、是ハ天皇ヲ荘厳ナルモノトシテ居ル国家ノ態勢デアル、随テ是ニモ主権在君ガアル、六番ニ、国民ノ権利及ビ義務デハ公共ノ福祉ノ名ニ依ツテ幾多ノ権利ガ制限サレテ居ル、是モ非民主的ナ規定デアル、第七ニ国会デハ参議院ノ制度ヲ置イテ、新シイ形ノ貴族院制度ヲ設ケヨウトシテ居ル、是モ非民主的ナモノデアル、第八ニ三権ガ分立シテ居ル、サウシテ官僚制度ヲ維持シヨウト云フ風ナ魂胆モ是ニ明カニ見エテ居ル、人民ハ此ノヤウナ民主主義ノ仮装ノ下デ、非民主主義的ナ実体ヲ隠サウトスルヤウナ政府ノ意図ニ反対スル、我々共産党ハ凡ユル機会ヲ利用シテ此ノ草案ノ非民主的性質ヲ暴露シテ、又之ヲ修正スルコトニ努力スル、私達ハ此ノ草案ニ付テ小委員会ニ於テ飽クマデ我々ノ正シイト信ズルコト、是ガ真ニ日本ノ民主主義ヲ確立スベキ憲法デアルト云フモノニスル為ニ、我々ハ全力ヲ尽ス積リデス、是デ私ノ質問ハオ終ヒデス
  〔「共産党ノ性格ヲハツキリシロ」ト呼ブ者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ願ヒマス
○野坂參三君(続) 議長、一言言ツテ宜イデスカ
○議長(樋貝詮三君) ……
○野坂參三君(続) 今社会主義ガ何カト言ハレタ質問ガアリマス、之ヲ簡単ニ‥‥
  〔「ソンナコトハ止メロ」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 私語ニ対スル答弁ハ之ヲ許シマセヌ――吉田内閣総理大臣
  〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君) 御質問ニ御答ヘ致シマス、先ヅ国体護持ト「ポツダム」宣言受諾トノ関係ニ付テ、昨日此ノ議場ニ於キマシテ私カラ一応説明ヲ致シマシタ、其ノ説明ノ通リデアリマスルガ、尚ホ此処ニ附加ヘテ重ネテ申シマスガ、八月十日附デ帝国政府ハ国体護持ヲ諒解事項トシテ「ポツダム」宣言ヲ受諾シタノデアリマス、翌日八月十一日ニ米国政府カラハ、降服ノ時カラ天皇及ビ日本国政府ノ国家統治ノ権限ハ降服条項実施ノ為メ其ノ必要ト認ムル措置ヲ執ル連合軍最高司令官ノ権限ノ下ニ置カルル、斯ウ云フ返事ガアツテ、其ノ返事ノ中ニハ国体護持ニ関スル点ニ付テハ何等触レル所ガナイノデアリマス(拍手)
 又戦争抛棄ニ関スル憲法草案ノ条項ニ於キマシテ、国家正当防衛権ニ依ル戦争ハ正当ナリトセラルルヤウデアルガ、私ハ斯クノ如キコトヲ認ムルコトガ有害デアルト思フノデアリマス(拍手)近年ノ戦争ハ多クハ国家防衛権ノ名ニ於テ行ハレタルコトハ顕著ナル事実デアリマス、故ニ正当防衛権ヲ認ムルコトガ偶々戦争ヲ誘発スル所以デアルト思フノデアリマス、又交戦権抛棄ニ関スル草案ノ条項ノ期スル所ハ、国際平和団体ノ樹立ニアルノデアリマス、国際平和団体ノ樹立ニ依ツテ、凡ユル侵略ヲ目的トスル戦争ヲ防止シヨウトスルノデアリマス、併シナガラ正当防衛ニ依ル戦争ガ若シアリトスルナラバ、其ノ前提ニ於テ侵略ヲ目的トスル戦争ヲ目的トシタ国ガアルコトヲ前提トシナケレバナラヌノデアリマス、故ニ正当防衛、国家ノ防衛権ニ依ル戦争ヲ認ムルト云フコトハ、偶々戦争ヲ誘発スル有害ナ考ヘデアルノミナラズ、若シ平和団体ガ、国際団体ガ樹立サレタ場合ニ於キマシテハ、正当防衛権ヲ認ムルト云フコトソレ自身ガ有害デアルト思フノデアリマス、御意見ノ如キハ有害無益ノ議論ト私ハ考ヘマス(拍手)
  〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君) 現行ノ憲法ハ民主主義憲法ナリヤ否ヤト云フコトニ付キマシテ、目下行ハレテ居リマスル裁判ノ関係ニ於テノ外国ノ人ノ言葉ヲ引用シテ、之ヲ是認スルカ否カト云フ御尋ネデゴザイマシタガ、此ノ場合、特殊ナ場合ニ特殊ナ人ガ用ヒラレタル言葉ヲ批判的ニ論議致シマスルコトハ避ケタイト存ジマス(拍手)
 第二ニ今回ノ憲法草案ハ、天皇ノ権能ガ神授セラルルト云フ考ヘニ基イテ居ルカト云フ御尋ネデアリマシタガ、神授ト云フ思想ニ基イテハ居リマセヌ
 第三ニ憲法ヲ制定スルニハ未ダ十分ノ時期ガ成熟シテ居ナイト云フ風ニ思フガドウカト云フ御尋ネデアリマシタガ、実際的見地カラシテ憲法ヲ制定スルニ適スル時期ガ到来シテ居ルト判断シテ居リマス(拍手)
 次ニ現行憲法ト改正憲法トノ連関性ニ付テ、学者ノ意見ニ依レバ、憲法七十三条ノ条項ニ依ル限リ、議会ハ修正権ガナイト云フヤウニ定説ガナツテ居ルト云フ風ノ御議論ヲ以テ御質疑ニナリマシタガ、私共ハ、政府トシテ考フル所見ト議会ノ考ヘラルル解釈、此ノ両方ニ依ツテ此ノ憲法改正ノ条項ノ根拠ヲ確メタイト思ツテ居リマス(拍手)
 次ニ此ノ改正案ノ修正ヲ議会ニ対シテ認ムルナラバ、今マデノ学説ニ違反スルコトトナル、随テ折角憲法ノ改正ヲシテモ、他日ソレガ無効トセラルル可能性ガ起ルノデハナイカト云フ趣旨ノ御尋ネデアリマシタガ、我々ハ政治ヲ行フ上ニ責任アル立場ト、之ヲ議スル所ノ議会ノ責任アル御意見、之ニ依ツテ憲法ヲ改正致シマスルナラバ、ソレニ依ツテ他日ノ効力ヲ心配スル必要ハナイト信ジテ居リマス(拍手)
 次ニ此ノ思想ノ急変スル時代ニ於テ民主主義憲法ヲ急グドウ云フ必要ガアルカ、我々ハ現在ノ此ノ思想ノ混乱期ナレバナル程、成ベク正確ニ、十分論議ヲ尽シテ、而モ迅速ナル変更ヲスルコトガ必要デアラウト考ヘテ居リマス(拍手)
 主権ノ存在ノ問題ニ付テ、少クトモ私ノ答ヘガ曖昧デアルカノ如クニ考ヘラレマスルヤウナ御質疑デアリマシタガ、是ハ先程細迫君ノ御質疑ニ対シテ答ヘマシタコトニ依ツテ明瞭デアラウト存ジマス、而シテ天皇ガ国民デアルナラバ、国民ハ平等デアリ、選挙権、被選挙権モ天皇ニナケレバナラナイシ、又天皇ヲ選挙スル制度ニナゼシナイカ、斯ウ云フ御質問ガアリマシタガ、先程別ノ機会ニ御答ヘヲ致シマシタ通リ、天皇ハ国ノ象徴デアリ、公平無私ナル立場ニアラセラレマスガ故ニ、選挙権、被選挙権ニ付テハ認ムル必要ガナイ、又選挙セヌカト云フコトハ、是ハ日本ノ此ノ憲法ヲ作ル建前ニ於テ、此ノ草案第一条ノ規定ガ示スガ如ク、国民ノ総意ニ基クト云フコトガ遙カニ完全ナル方法デアリ、理ノ当然ナル方法ト思フノデアリマス(拍手)
 ソレカラ次ニ国民感情ヲ基礎トスルト云フ考ヘ方ニ基イテ主権ノ所在ヲ主張スルノハ、恰モ新タナル神権説デアルト云フヤウナ考ヘデアリマシタガ、感情ト云フ言葉ハ、主トシテ私ノ言説ニ関スル限リ感情トハ言ツテ居リマセヌ、国民ノ心ト言ツテ居リマスガ、兎ニ角心ヲ捨テテ国民ノ統合或ハ国家ノ基本ト云フコトガドウシテ考ヘラレマセウカ
 次ニ憲法草案ト英文トノ間ニ若干ノ相違ガアル、是ガ何カノ策謀ヲ含ンデ居ル嫌ヒガアルヤウニ恐ラクハ御考ヘニナツタノデハナイカト思ヒマスルガ、日本国ノ憲法ハ日本国ノ文字ヲ以テ書カレマシテ、ココニ現ハレテ居ルモノガソレデアリマス、英文ハ翻訳ニ過ギマセヌ、而モ実際ニ於テ意味ノ上ニ異ナル所ガナイト考ヘテ居リマス(「ヒヤヒヤ」拍手)天皇ガ第七条ノ権能ヲ適法ニ或ハ適当ニ行使セラレザル時ハドウナルカ、又或ハ此ノ権能ヲ他ノ者ガ濫用スル虞ハナイカト云フコトデアリマスルガ、是ハ皆様ガ能ク御考ヘ下サルナラバ、政治的考察ニ於テドノ角度カラ見テモ濫用ヲ生ズル虞ハナイト考ヘテ居リマス(「ヒヤヒヤ」拍手)
 二院制ニ於キマシテ参議院ヲ何ノ為ニ作ルカ、参議院アルコトハヤハリ民主政治ノ裏ヲ行クモノデハナイカト云フヤウナ御考ヘノヤウニ見受ケマシタガ、参議院設置ノ制ハ決シテサウデハアリマセヌ、国民代表ノ機関タル参議院ニ依リマシテ国政ガ慎重ニ行ハレテ行クコトヲ期スルノ一途ニ外ナラナイ訳デアリマス、又三権分立ハ執行権ガ立法権ニ優位スル、ソレハ宜シクナイ、議会ガ全権ヲ持ツテ統一ヲシテ行クノガ宜イデハナイカト云フ前提ノ下ニ御質疑ニナリマシタガ、固ヨリ権力ノ分立ト云フコトハ、ソレ自身ガ絶対ノ真理デハゴザイマセヌ、権力ノ統合コソ絶対ノ真理デアラウト思ヒマスケレドモ、併シ権力ノ統合ト云フコトガ即チ権力ノ濫用ヲ導クノデアリ、分離シツツ而モ統合サレテ行ク所ニ、真ノ憲法政治ノ意味ガアラウト存ジマス(拍手)
 尚ホ其ノ他ニ基本権ニ付キマシテ、種々ナル御考ヘガ表明セラレマシタガ、大体ソレニ付キマシテハ、結論トシテ既ニ此ノ演壇ニ於テ御主張ニナリマシタガ、多ク御答弁ヲスル必要ハナイモノト考ヘマス(拍手)
  〔国務大臣河合良成君登壇〕
○国務大臣(河合良成君) 只今野坂君カラ第三章ノ国民ノ権利義務ノ章中ニ、労働権トカ、国民生活権等ニ関スル、モツト色々ノ規定ヲ入レテハドウカ、此ノ点ニ付テ私ニ答弁ヲ求メラレマシタカラ御答ヘ致シマスガ、野坂君ノ言ハレル通リ、第三章ノ規定ハ中々進歩的ニ親切ニ出来テ居ル、先ヅ社会通念ト致シマシテ、是レ位ノ所デ宜イノヂヤナイカト思ツテ居リマス、国民生活ノ問題ノ如キ、色々希望ヲ申シマスレバ、例ヘバ市民ハ風呂ニ入ラナクチヤナラヌ入浴権ガ要ル、或ハ子供ニハ牛乳ヲ飲マセナクチヤナラヌカラ、ヤハリ牛乳ヲ飲ム権利モ要ル訳デアリマス、是ハ際限ノナイコトニナリマス(「違フ」「違フモノカ」ト呼ブ者アリ)我々ハ人間ヲ見マスルニ、後ロカラ人間ヲ見テモ、ヤハリ鼻モ口モ目モアルコトガ分ルノデアリマスカラ、此ノ大キナ骨組ガアレバ、大体細カイコトハ是デ分ルト云フノガ社会通念ナリト思ヒマス、サウ云フ意味ニテ私ハ御答ヘ致シマス
  〔国務大臣大村清一君登壇〕
○国務大臣(大村清一君) 今般国家行政ヲ民主主義ノ線ニ沿ウテ改革スベク、只今憲法改正案ヲ御審議中デゴザイマスルガ、中央政治ヲ民主主義化スルニ付キマシテハ、一面ニ於キマシテ地方政治ヲ大イニ民主化スル必要ガアルノデアリマス、就キマシテハ近ク地方行政制度ノ全般的改革案ヲ提出致シマシテ、各位ノ御審議ヲ仰ギ、国政ト相俟ツテ地方行政ヲ民主主義ノ線ニ沿ツテ徹底的ニ改正ヲシタイト考ヘテ居リマス、尚ホ地方制度ノ改正ト共ニ、私共トシテ最モ意ヲ用ヒナケレバナラヌノハ警察ノ改善ダト思ヒマス、警察ヲ民主主義ノ線ニ沿ウテ改善致シマスコトニ付キマシテハ、終戦以来大イニ努力致シテ来テ居リマスルガ、現状ヲ以テシテハ未ダ満足スベキ所マデ到達シテ居ナイコトハ申上ゲルマデモナイコトダト思ヒマス、警察ノ改善ニ付キマシテハ、今後モ大イニ努力ヲ継続スル積リデ居リマス、尚ホソレニ伴ウテ必要ナル法律ノ改正乃至御制定ヲ仰グト云フ必要モ起ツテ来ルカト存ジテ居リマス、ソレ等ハ次ノ議会――成ベク早ク案ヲ具ヘマシテ、各位ノ御協賛ヲ仰ギタク考ヘテ居ル次第デアリマス
 尚ホ官僚制度、官僚組織ノ徹底的打破ト申シマスカ、其ノヤウナ意味ノ御質問ガゴザイマシタガ、従来ノ如キ官僚制度、官僚組織ニ対シマシテハ、民主主義的ナル改善ヲ加ヘル点ガ多々アルコトト存ジマスルガ、併シ官僚制度ヲ全廃スルト云フ訳ニハ参ラナイト考ヘマス、議会政治ノ発達ノ為ニハ、之ト伴ヒマシテ健全ナル官僚制度、新シイ官僚制度ヲ打立テルコトガ絶対必要ダト思フノデアリマス、若シ官僚制度ト云フ名前ガ適当デナイト致シマシタナラバ、新シイ意味ヲ之ニ持タセル為ニ、吏僚制度ト申シテモ宜カラウカト思ヒマスルガ、此ノ健全ナル吏僚制度ハ今後大イニ打立テマシテ、サウシテ議会政治ノ健全ナル発達ニ寄与シナケレバナラヌト思フノデアリマス、之ニ付キマシテハ、恐ラク近イ議会ニ公務員法ト申シマスカ、或ハ官吏法トモ云フベキモノガ制定セラレマシテ、其ノ基準ノ下ニ、間違ヒノナイ、従来ノ如キ誤ラザル健全ナル制度ヲ打立テタイモノト考ヘテ居ル次第デアリマス(拍手)
  〔国務大臣田中耕太郎君登壇〕
○国務大臣(田中耕太郎君) 御答ヘ致シマス、過去ノ日本ノ戦争ノ罪悪性、侵略性ヲ人民ノ間ニ徹底サセルコトヲ決意シテ居ルカドウカ、又ドウ云フ風ニヤツテ居ルカト云フ御質問デアリマシタ、文部省ト致シマシテハ、或ハ教育人事ノ方面ニ付キマシテ、或ハ教育内容ノ方面ニ付キマシテ努力ヲ致シテ居リマス次第デアリマス、教育人事ノ方面ニ付キマシテハ、御承知ノヤウニ、教職員適格審査ノ規定ノ中ニ於キマシテ、軍国主義、侵略主義ノ要素ヲ徹底的ニ排斥スル意味デ以テ、今徐々ニ実現ノ緒ニ就イタ次第デアリマス、又此ノコトハ教職員ノ頭ノ切替ヘヲスル必要ガアルノデアリマシテ、此ノ教員ノ再教育ト云フ点ニ付キマシテモ、或ハ師範教育制度其ノ他ヲ根本的ニ反省致シマシテ、或ハ又其ノ時々ノ実情ニ応ジタ教員再教育ヲ実行致シタイト思ツテ居ル次第デアリマス
 教育内容ノ方面ニ付キマシテハ、我我ハ或ハ教師用指導書デアルトカ、或ハ追ツテ段々出来上ツテ参リマスル教科書ノ中ニ、或ハ講演其ノ他ノ方法デ以テ、日本ノ過去ノ国策及ビ教育ノ誤謬並ニ既往数年間ノ国家的罪悪ヲ根本的ニ反省スルコトニ決シテ躊躇スルモノデハナイノデアリマス、我々ハ今軍国主義、侵略主義カラ、民主主義、平和主義ノ方向ヘノ宗教的「コンヴァーション」ノ時機ニ、関頭ニ立ツテ居ルト云フコトヲ反省致シマシテ、民主主義、平和主義、人類愛コソ、世ノ初メカラ世ノ終リマデ変ラナイ真理デアルコトヲ、凡ユル方法ヲ以テ徹底サセタイト努力致シテ居リマス(拍手)併シ此ノ精神ヲ国民全体ニ滲透サセマスコトハ、是ハ実ニ容易ナラヌコトデアリマシテ、忍耐強クヤラナケレバナリマセヌ、相当ノ時日ヲ要スルコトデアリマスガ、政府ハ之ニ付キマシテ固イ決意ヲナシテ居ルモノデアリマシテ、其ノ点ニ付キマシテハ野坂君ニ於カレマシテハ御安心アツテ然ルベキダト思ヒマス(拍手)是デ以テ私ノ答弁ヲ終リマス
○議長(樋貝詮三君) 野坂君ニ申上ゲマスガ、和田農林大臣ハ目下登院シテ居リマセヌノデ、御返事ハ回答出来ナイコトニナツテ居リマス、宜シウゴザイマスカ
○野坂參三君 此ノ問題ハ非常ニ重要ナ問題デスカラ、他ノ機会ニ回答願ヒマス
○議長(樋貝詮三君) ソレデ宜シウゴザイマスカ
○野坂參三君 後カラデ宜シウゴザイマス、今ノ各大臣ノ答弁、特ニ総理大臣ノ答弁ハ非常ニ不満足ナモノデアリマシタシ、私達ノ一番知リタイ問題ヲ御答ヘニナラナカツタガ、併シ是レ以上質問シテモ又同ジコトダト思ヒマスカラ、是デ私ノ質問ハ打切リマス
○議長(樋貝詮三君) 布君ヨリ先刻ノ発言中取消ノ為メ議事進行ノ発言ヲ求メラレテ居リマス、此ノ際之ヲ許シマス――布利秋君
○布利秋君 先刻……
  〔「登壇登壇」ト呼ビ其ノ他発言スル者多シ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ――布君ニ申上ゲマス、登壇ヲ望ミマス
  〔布利秋君登壇〕
○布利秋君 先刻私ノ発言ノ言葉ノ中ニ、他ヘ累ヲ及ボスコトヲ惧レマシテ――ト言ツタ言葉ノ取消ヲ致シマス
  〔発言スル者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 静粛ニ――是ニテ質疑ハ終了致シマシタ、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選挙ニ付テ御諮リ致シマス
    ―――――――――――――
○山口喜久一郎君 本案ハ議長指名、七十二名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
○議長(樋貝詮三君) 山口君ノ動議ニ御異議アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○議長(樋貝詮三君) 御異議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、是ニテ議事日程ハ終了致シマシタ、明二十九日ハ定刻ヨリ本会議ヲ開キマス、議事日程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
   午後五時十六分散会