委員会 昭和21年7月5日（第6号）
昭和二十一年七月五日（金曜日）午前十時十七分開議
出席委員
委員長 芦田 均君
理事 江藤 夏雄君 理事 廿日出ひろし君
理事 吉田 安君 理事 鈴木 義男君
理事 田中 久雄君 理事 高橋 泰雄君
理事 長井 源君 理事 林 平馬君
理事 大島 多藏君
小野 孝君 上林山榮吉君
神田 博君 加藤 一雄君
北 れい吉君 小島 徹三君
左藤 義詮君 武田 キヨ君
武田信之助君 本田 英作君
三浦寅之助君 山本 正一君
青木 泰助君 犬養 健君
荊木 一久君 椎熊 三郎君
鈴木周次郎君 關谷 勝利君
林 連君 原 健三郎君
原 夫次郎君 星 一君
森山 ヨネ君 山崎 岩男君
井伊 誠一君 石川金次郎君
及川 規君 加藤シヅエ君
黒田 壽男君 杉本 勝次君
棚橋 小虎君 西尾 末廣君
原 彪之助君 松澤 兼人君
森 三樹二君 森戸 辰男君
井上 徳命君 酒井 俊雄君
橋本 二郎君 大石ヨシエ君
大谷 瑩潤君 穂積 七郎君
井上 赳君 早川 崇君
藤田 榮君 赤澤 正道君
秋田 大助君 野坂 參三君
同日委員保利茂君及ビ若林義孝君辞任
ニ付其ノ補欠トシテ山田悟六君及ビ竹
谷源太郎君ヲ議長ニ於テ選定シタ
出席国務大臣
国務大臣男爵 幣原喜重郎君
司法大臣 木村篤太郎君
文部大臣 田中耕太郎君
国務大臣 齋藤 隆夫君
厚生大臣 河合 良成君
国務大臣 植原悦二郎君
運輸大臣 平塚常次郎君
国務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
内閣事務官 財津 吉文君
司法事務官 佐藤 藤佐君
司法事務官 奥野 健一君
文部政務次官 長野 長廣君
文部事務官 日高第四郎君
文部事務官 佐藤 得二君
厚生事務官 勝俣 稔君
運輸事務官 秋山 龍君
運輸事務官 佐藤 榮作君
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本日ノ会議ニ付シタ議案
帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長 会議ヲ開キマス、質疑ニ入リマス――赤澤正道君
○赤澤委員 我々ハ此ノ憲法ヲ改正スルニ当リマシテハ、国民ノ皇室ニ対スル尊敬ノ念ガ如何ニ絶大ナモノデアルカト云フコトヲ想起シナケレバナラヌ、斯様ニ私ハ思フノデアリマス、元来国民ノ天皇ニ対スル尊敬ノ念或ハ天皇ノ尊貴性ハ民族ノ歴史ト伝統ニ基クモノデアリマシテ、近世ニ至ツテ急ニ作為サレタモノデハナイト云フコトヲ確信スル一人デゴザイマス、随テ斯クノ如キ国民確信ヲ無視シテ憲法ヲ改正致シマシテモ、ソレハ結局国土ニ淳化シナイモノデアリマシテ、徒ラニ国内ノ混乱ヲ招ク以外ノ何モノデモナイ、斯様ニ思フノデアリマス（拍手）日本政府ノ最後ノ形態、最終ノ形態換言致シマスナラバ、正ニ此ノ憲法デゴザイマス、是ハ国民ノ自由ニ表明セラレタル意思ニ基イテ決定セラルベキデアルト云フ「ポツダム」宣言ノ精神ハ、正ニ此ノ点ヲ指シテ居ルモノト考ヘルノデアリマス、而モ一方ニ於テハ日本ハ高度ノ民主化ヲ要求セラレテ居ル、併シ政治ノミナラズ経済、産業、文化各方面ニ亙ツテ日本ヲ民主化スルト云フコトト、天皇ノ尊貴性ヲ飽クマデ保持シテ行クト云フコトトハ、決シテ相背馳スルモノデハナイト私ハ考ヘマス、各政党トモ日本ニ於テ天皇ト国民トノ関係ガ世界ニ類例ノナイ特異ナモノデアルト云フト考ラレマシテ、共産党ニ於テスラ、政治制度乃至ハ警察制度トシテノ天皇制ハ拒否スルケレドモ、敢テ天皇ノ尊貴性ヲ害ハントスルモノデハナイト云フコト明ヲカニサレテ居ルヤウデアリマス、私ハ天皇ノ尊貴性、或ハ歴史ト伝統トニ基ク天皇対国民ノ関係ヲ聊カデモ無視致シマシテハ、如何ニ立派ナ文字ニ依ツテ憲法ガ作ラレヤウトモ、又如何ニ巧緻ナ政治機構ガ生レテ参ラウトモ、ソレハ何等ノ価値ナク、又国民ニ依ツテ決シテ受容レラレナイモノデアル、斯ウ云フ観点ニ立チマシテ、第一章ニ関シ、一、二ノ御質問ヲ致シタイノデアリマス
此ノ第一条デアリマス、「象徴」ノ文字ニ付テハ、象徴ガ宜シイカ元首ガ宜シイカト云フコトガ大分論議サレテ居リマス、之ニ付キマシテ、元首ノ文字ハ中世紀的ナ表現デアルトカ、或ハ首長ト云フコトヲ意味スルノヂヤナイカト云ツタヤウナ国務相ノ御答弁ガアツタヤウデアリマス、私ハ是ハ必ズシモ当ラナイト思フノデアリマス、何レニ致シマシテモ、仮ニ此ノ条文ノ侭デアツテモ、天皇ガ日本国ノ元首デアツテ、内外ニ対シテ国ヲ代表セラルルト云フ御地位ニハ、私ハ聊カモ変リハナイモノト理解ヲ致スノデアリマスルガ、此ノ点ニ付テ国務相ハドウ云フ風ニ御考ヘニナツテ居ルデアリマセウカ、御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 第一章ノ「象徴」ハ非常ニ根本的ナル意義ヲ持ツテ居ルコトハ、従来述ベマシタ通リデアリマス、之ニ依ツテ、国其ノモノガ天皇ノ御一身ニ依ツテ体現セラレテ居ルト云フコトガ明カニサレテ居ルト思フノデアリマス、併シナガラ、之ヲ法律的ナ具体的ナ秩序ニ持ツテ来マスル時ハ、自ラ此ノ憲法ノ示シマスル所ニ依ツテ、国ヲ表ハシテ働クノハ、此ノ憲法ニ基ク諸種ノ機関ガ之ヲ代表スルコトニナルコトハ、又此ノ憲法ノ細目、各条項ノ示ス所ト思フ訳デアリマス、ダカラ裁判官ハ裁判所ニ依ツテ司法ニ関スル部分ニ付キ国ヲ表ハス、或ハ内閣ガ或ル範囲ニ於テ国ヲ表ハスト云フヤウナ風ニ、各個ニナツテ居リマス、言フマデモナク、天皇ハ其ノ根本ニ於テ、国ヲ国民ガ仰グ時ニ、ココニ体現セラレルト了解スル、斯ウ云フ意味デアル訳デアリマス
○赤澤委員 只今ノ御答弁ニ付キマシテ、私ハ主権ノ問題ニ付テ、アトデ此ノ問題ニモ訓レルノデアリマスルカラ避ケマスルガ、何カシラ立法、司法、行政ノ三権ガ此ノ憲法デハ各個バラバラニナツテ居リマシテ、統合或ハ統一サレテ居ラナイ、統合統一スル所ノ「ポイント」ガナイト云フ印象ヲ私ハ受ケマスルガ、之ニ付キマシテハ是デ打切リタイト思ヒマス
続イテ第七条ノ、既ニ是モ度々蒸返サレマシタ所ノ裁可ト認証ノ問題デアリマス、天皇ガ裁可権ヲ御持チニナルト云フコトハ、贔屓ノ引倒シニナルト云ツタヤウナ御答弁モアツタヤニ記憶ヲ致シテ居ルノデアリマス、是モ不裁可ガナイト云フ不文律ガ確立サレテ居リマス以上、私ハ強チソレハ当ラナイト思フノデアリマス、逆ニ此ノ認証、或ハ公布ト云ツタヤウナコトガ、私ガ冒頭ニ申シマシタ所ノ天皇ノ尊貴性ヲ或ハ害フノデハナイカト云フ懸念ヲ持タザルヲ得ナイノデアリマスナゼカト申シマスナラバ、此ノ第一号ニ、「憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること。」斯様ニ規定ヲサレテ居ルノデアリマス、尤モ現行憲法デハ、公布ヲ命ズルト云フ風ニナツテ居ルノデアリマス、是ガナゼ「公布すること」ト云フ風ニ改メラレタカト云フコトモ一ツデアリマスルガ、大体此ノ公布ト云フコトハ全然実ノナイコトデアリマシテ、正ニ印刷局事務官トシテノ役割デアル、議会ニ例ヲ徴スルナラバ、正ニ公布ト云フコトハ庶務課ノ仕事デアルト云フ風ニ私ハ感ズルノデアリマス、又此ノ認証ニ致シマシテモ、決シテ効力発生ノ条件ニハナツテ居ナイ、又効力発生ノ条件タル必要ガナイカ分リマセヌケレドモ、単ニ是ハ公証人的ナ仕事デアル、私ハ斯様ニ思フノデアリマス、尚ホ此ノ十ノ各号ヲ見マスルト、一応実ガアルト考ヘラレマスノハ、栄典授与ノ権限デアリマス、斯ウ云フ点カラ申シマスト、却テ斯ウ云ツタ公布ダトカ認証ダトカ盛ルコトハ、逆ノ意味ニ於テ、此ノ憲法ヲ起案ナサツタ方ノ方ガ、天皇ノ贔屓ノ引倒シニナルノデハナイカ、私ハ斯様ニ思フノデアリマス、斯クノ如キ公布ダトカ或ハ認証ノ如キガ左様ナモノデアルナラバ、或ハ全然載セナイトカ、或ハ先程申シマシタヤウニ、不裁可ノ不文律ガ確定シテ居リマスナラバ、ハツキリト裁可権ヲ天皇ニ認メルトカ、何レカニスベキデアルト思フノデアリマスガ、此ノ点ニ付テ国務相ノ御見解ヲ伺ヒタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 御答ヘヲ致シマスガ、幾ツカノ点ニ御触レニナリマシタカラ、一ワタリソレ等ニ付テ申上ゲタイト思ウノデアリマス、第一ニ公布或ハ認証ト云フコトハ余リニモ形式的ニ過ギルノデアツテ、ワザワザ書ク程ノ値打モナイ位デアル、公布ニ付テハ印刷局ノ役人ノヤルニ相応シイコトデアリ、認証ニ付テハ場合ニ依ツテハ公証人ガヤルコトヲ以テ足レリトスルト云フヤウナ風ノ前堤ヲ御置キニナツタノデアリマスガ、私ハ左様ニハ考ヘテ居リマセヌ、天皇ハ国ノ象徴デオアリニナルト云フ前提ヲ執リマシタ限リ、国家ノ極メテ重要ナル法則デアリマスル所ノ憲法改正、法律、条約ノ如キモノガ、天皇ノ御権能ヲ通シテ公布サレルト云フコトハ、国民ガ仰ギ見テ国ノ象徴トスルコトガ極メテ相応シイコトト思フ訳デアリマス
次ニ認証ノ点デアリマスルガ、是レ亦斯様ナ重大ナル諸般ノ事項ニ付キマシテ、之ニハツキリシタ国家的ノ効力ヲ生ゼシメル段階トシテ、此ノ制度ヲ認メテ居ル訳デアリマスルガ故ニ、単純ナ公証人ノ仕事トハ違フ訳デアリマス、何トナレバ中味ノアリマスルコトハ、或ル事実ノ存在ヲ明白ニ認識シテ、之ヲ表明スルト云フコトデアリマス、併シナガラ其ノ持ツテ居リマスル根本ノ意味ハ、国ノ象微ヲ通シテ是ガ行ハレルコトニ依ツテ、確定的ナ効力ヲソレ等ノ文書ガ持ツテ来ルト云フ趣旨デアリマス、若シモ効力ニ関シマスル文書ニシテ、第七条ノ範囲内ニ於キマシテ、天皇ノ是等ノ行為ガナケレバ、効力ヲ有シナイコトトナル趣旨ト思フ訳デアリマス、更ニ法律ノ栽可ト云フヤウナコトヲナゼ認メナイカト云フノデアリマスルガ、是ハ度々繰返シタトハ存ジマスルガ、裁可ト云フコトハ、法律ニ付テ申シマスレバ、此ノ法律ヲ作ルカ否カノ最後ノ決定デアリマス、謂ハバ内容ヲ法規トスルカドウカト云フ積極的ナル創設的意思ノ表明デアル訳デアリマス、其ノ実質ハ相当ニ善悪其ノ他ニ付テノ批判ヲ起シ得ル感ジノモノデアリマシテ、天皇ノ無答責ノ地位ニ付キマシテ、動モスレバ紛議ノ原因トナリ易イノデアリマス、成程此ノ裁可ト云フモノニ付キマシテハ、憲法制定サレテ以来末ダ会テ不裁可ノ事実ハアリマセヌ、ソレガ恐ラクハ憲法ノ一ツノ慣例トナツテ居ル、斯ウ断定シテ宜イトハ思ヒマスルケレドモ、ソレニモ拘ラズ、世間ニ於テ何故ニ之ヲ不裁可ニナラナイノカト云フヤウナ議論ガ会テ起ツタコトモアリマス、詰リ一ツノ法案ガ議会ノ協賛ヲ経マシテモ、ソレニ対シテ不満足ナ意見ヲ持ツテ居ル人々ハ、最後ノ段階トシテ不栽可ト云フコトノアルコトヲ期待シソレヲ願望スル余リニ、裁可不裁可ヲ論議ノ的トシタ場合モアツタヤウニ記憶シテ居リマス、又終戦後ノ此ノ日本ノ種々ナル国情ニ於キマシテモ、裁可権アルコトヲ基礎トシテ、天皇ノ御責任――ソレハ憲法上ノ問題デハアリマセヌ、モツト広イ意味デアリマス、天皇ノ御責任ニ付テ議論スルコトハ、印刷セラレテ居ル文献ノ上ニ表明セラレテ居ルト記憶致シテ居リマス、左様ナ事情デアリマシテ、民主政治及ビ天皇制ヲ理想的ニ具体化サセマスル為ニハ、裁可権ヲ認メナイコトノ方ガヨリ良キモノデアルト信ジテ居ル次第デアリマス
○赤澤委員 第二章ノ戦争抛棄ノ規定ニ付テデアリマスガ、表現ノ仕方ガ非常ニギゴチナイ、ゴタゴタシテ居ルト云フ印象ヲ私ハ受ケルノデアリマス、之ニ付テ私ガ論ジタイ又質問シタイト思ツテ居リマシタコトハ、一昨日ノ質問ニ於テ尽サレタ感ガゴザイマスルノデ、深ク触レタクハナイト思フノデアリマスガ、何レニ致シマシテモ、此ノ原子力ガ実験期ヲ通リ越シマシテ実用化致シマシタ際ニハ、我々ノ考ヘ得ル戦争方式ト云フモノハマルデ意味ヲ成サナイ、ココニ世界ノ絶対平和ガ近ク来ルノデハナイカ、斯様ニ私ハ考ヘルノデアリマス、随テ寧ロ我々ノ構想トシテハ、単ナル国際連合ニ加入スルトカ、加入センガ為ニハ義務ヲ履行スル上ニ於テ幾ラカノ兵力ガ要ルノデハナイカ、或ハ自衛戦争ノ場合ヲ考慮シテ兵力ガ要ルノデハナイカト云フ論議ハ避ケテ、モウ一ツ飛躍ヲ致シマシテ、国際連邦ヘマデ堤唱ヲ発展サセルベキデアラウ、斯様ニモ私ハ思フノデアリマス、サウ云ツタ観点ニ立チマス場合ニ、此ノ条文ヲ見マスト、一項ノ中ニモ「他國との間ノ紛爭の解決の手段としては、」ト云ツタヤウナ、何カ限ラレタ条件的ナル文義モ見エルノデアリマス、例ヘバ此ノ言葉ノ裏ニハ何カヲ御考ヘニナツテ入レテアル、斯様ニ思フノデアリマスルガ、何カヲ前提トシテアルノデアリマシタナラバ、ソレヲ明カニ教ヘテ戴キクタナイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 特別ニ何物ヲモ含ムト云フ訳デハナイ、此ノ文字ノ示シマスル通リノ内容ヲココニ規定シタ趣旨デアリマス
○赤澤委員 若シ只今ノ御考ヘデアリマシタナラバ、私個人ノ考ヘトシテハ、「他國との間の紛爭の解決の手段としては、」ト云フコトハ或ハ不必要デハナイカ、斯様ニ思フノデアリマス
第三章ニ付テ、是モ度々論議サレテ殆ド余ス所ガナイト云フ風ニ思フノデアリマスガ、此ノ規定モ、全体ヲ通覧致シマシテ、例ヘバ家族制度等ニ付テハ殆ド不必要デハナイカト思ハレルマデニ詳細ニ規定シテアルカト思ヘバ、又先般モ質問ガアリマシタヤウニ、経済規定、社会規定等ハ殆ド欠如サレテ居ル、併シ之ニ付テハ当初第二十三条ニ依ツテ概ネ解決ガ出来ル、此ノ過渡期ニサウ云フ規定ヲ盛リ込ムコトハ適当デハナイト云ツタヤウナ御答弁モゴザイマシタケレドモ、又近クハ、善イトモ悪イトモ言ハナイ、国民ノ自由ナル意思ノ表明ト云フカ、議会ノ議決ニ任セルト云フ御答弁デゴザイマスルノデ、我々ノ会派ト致シマシテモ、之ニ盛リ込ミタイト考ヘテ居リマスル所ノ色々ナ要求ガアルノデゴザイマスケレドモ、ソレハ各条審議ノ際ニ譲リタイト思フノデアリマス、唯、婦人代議士ノ方カラ特ニ要求ガゴザイマシタノデ、是ハ厚生大臣ニ御伺ヒスルノデゴザイマスガ、問題ハ妊産婦ノ扶助乃至ハ保護ノ問題デアリマス、是ハ「ワイマール」憲法等ニハ、百十何条デアツタカト思ヒマスガ、明カニ規定サレテ居ルノヲ、先般私ハ見受ケタノデアリマス、斯様ナ規定ヲ憲法ニ盛リ込ムコトノ可否ト申シマスヨリハ、盛リ込ム盛リ込マナイニ拘ラズ、之ヲ社会規定トシテ実現ナサル御意思ガアリヤ否ヤ、若シ御持チニナツテ居リマスナラバ、ドウ云フコトヲ御考ヘニナツテ居ルカト云フコトニ付テ御伺ヒシタイト思フノデアリマス
○河合国務大臣 只今ノ御質問ニ御答ヘ致シマス、第二十三条ニ公衆衛生ノ向上ニ付テ強調サレテ居リマシテ、ソレハ社会福祉ト公衆衛生ノ向上ト云フニツノコトヲ睨ミ合セマシテ、当然妊産婦ニ対スル厚イ保護規定ナドハ設ケラレナケレバナラヌト思ツテ居リマス、其ノ線ニ沿ツテ進ム積リデ居リマス
○赤澤委員 モツト具体的ナ御話ヲ私トシテハ伺ヒタイノデアリマシテ、只今ノ御答弁デハ恐ラク之ヲ要求セラレタ婦人代議士諸君モ満足シナイダラウト思フノデアリマス、厚生省ニ於テ現ニ之ニ付テドウ云フコトガ計画サレツツアルカト云ツタヤウナコトヲ、実ハ伺ヒタカツタノデアリマスケレドモ、是モ後ノ機会ニ譲リタイト思フノデアリマス、委員長ニ御伺ヒシタイノデアリマス、実ハ先程モ申シマシタヤウニ、此ノ面ニ付キマシテハ、我々ノ会派ニ於テモ随分申合セル所ガアルノデアリマシテ、国家再建ノ根抵ヲ労働ノ尊重、詰リ労働体制ノ確立、或ハ科学技術ノ振興ト云ツタ面ニ置イテ居リマスル関係上、ソレカラ色々ノ個人ノ義務ノ問題モ出テ参リマス、又ソレヨリ一歩進ンデ国家或ハ政府ノ義務、斯ウ云ツタコトヲハツキリ規定シタイト云フ意向ガアルノデゴザイマスガ、続イテ逐条審議ニ御移リニナルト思ヒマス、会議ノ進行方法ニ付テハ、追ツテ又理事会デ御協議ニナルト思ヒマスルケレドモ、大切ナコトデゴザイマスルノデ、御腹案ヲ御持チニナツテ居ルト思ヒマス、之ヲ明カニシテ載ケレバ又文書ニ作ルトカ何トカ、我々ノ方デモ色々ヤル仕事ガアルト思フノデゴザイマスル、腹案ガアリマシタナラバ、御示シヲ願ヒタイト思フノデアリマス
○芦田委員長 御答ヘ致シマス、会議進行ノ手続ニ付キマシテハ、委員会ノ政府ニ対スル質問等ハ別ニ諸君ト御相談ヲスル腹案デアリマスカラ、其ノ機会ニ御答ヘ致シマス
○赤澤委員 分リマシタ、主権ノ問題ニ触レテ見タイト思フノデアリマス、本委員会ニ於キマシテモ、最初カラ此ノ主権ノ問題ガ相当論議サレテ居リマス、主権ノ概念ダトカ、或ハ定義ニ付キマシテハ、申スマデモナク学説ガ随分分レテ居リマシテ、今ココデソレヲ取上ゲテ論議スベキデハナイト私ハ思フノデアリマス、寧ロ主権ノ理論ハ、一国ノ憲法ヲ通ジテ導キ出サレルモノデアリ、憲法ヲ作ル権能ヲ有スル者ガ即チ主権者デアル、私ハ斯様ニ簡単ニ考ヘテ大過ハナイト思ツテ居ルノデアリマス、又、主権ノ所在ニ付テハ、度々国務相カラ言明モアリマシタ、御説明モアリマシタ、私共大凡納得ハ致シテ居ルノデゴザイマス、此処マデノ論議ハ非常ニ活溌ニ進メラレテ参ツタノデアリマスルケレドモ、私ハモウ一歩掘下ゲナケレバナラナイト思フノデアリマス、ソレハ要スルニ主権ノ所在ノ問題ヨリハ、此ノ主権、詰リ天皇ヲ含ム国民、此ノ主権ノ所在ガ、主権ガ何ニ依ツテ象徴セラレルカ、誰ニ依ツテ、或ハドノ機関ニ依ツテ一体象徴サレルノデアルカ、主権ヲ行使スル者ハ一体誰ナノカ、ココニ国体、或ハ政体等ノ問題ノ解決ノ鍵ガ潜ンデ居ルト斯様ニ確信ヲ致スノデアリマス、現行憲法ニ於キマシテ天皇ガ御持チニナツテ居ル所ノ此ノ主権ヲ行使スルモノガ明カデナカツタ、時ニハ政府ガ行使ヲスル、又陸海軍ガ天皇ニ代ツテ主権ノ行使ヲスル、又問接ニハ財閥ダトカ、或ハ官僚デアルトカモ主権ノ行使ヲシタトモ考ヘラレルノデアリマス、ココニ近世日本ノ一切ノ悲劇ガ胚胎シタト申スモ過言デハナイト私ハ思フノデアリマス、随テ此ノ改正憲法ニ於キマシテモ、無論此ノ点ニ於テハツキリシタ御意図ヲ持ツテ書表ハシテ居ラレルト思フノデアリマス、此ノ点ニ付テ極メテ簡単明快ナル御説明ヲ御願ヒシタイノデアリマス
○金森国務大臣 現行憲法ト比較ヲシテ申上ゲマスルナラバ、幾分明瞭ニナリ易イト思ヒマスルガ、現行ノ憲法ニ於キマシテハ、所謂大権政治ノ原則ヲ執ツテ居リマスルガ故ニ、原則トシテハ主権ガ具体化サレテ実際政治ノ上ニ現ハレテ来ル時ハ、天皇ヲ常ニ中心トシテ居リマス、随テ立法権モ天皇ガ之ヲ行使シ、行政権モ学問的ニ細カク申シマスレバ別デアリマスルケレドモ、概括シテ言ヘバ、大権ノ範囲ニ包容セラレテ居リマス、更ニ司法権ハ、現実ニハ天皇ガ御行ヒニハナラナイノデアリマスケレドモ、名義上天皇ガ御用ヒニナツテ居ル、天皇ノ名ニ於テ司法権ガ行ハレルト云フ形ニナツテ居リマス、随テ外カラ見マシテ、天皇ガ主権行使ノ上ニ於ケル中心点デアルト云フコトハ、明カニナツテ居ルノデアリマス、所ガ此ノ憲法ニ於キマシテハ、左様ナ主権行使ヲスル各種機関ノ形式的ナル統一原理ヲ人的ニ体現スルト云フ制度ヲ設ケテ居リマセヌ、随テサウ云フ中心点ハハツキリ何処ニアルト云フ風ニハ決メラレテ居リマセヌ、此ノ憲法ノ全般ニ付テ、事ノ種類ニ応ジ色々ニナツテ居ルト申上ゲルヨリ外ニナイノデアリマス、例ヲ言ヘバ、憲法ノ改正ト云フ点ニ於キマシテハ国会ガ発動シ、終局ハ選挙権ヲ持ツテ居ルモノガ其ノ決定ノ鍵ヲ握ツテ居ルト云フコトニナリマスシ、法律ニ付テハ国会ガ之ヲ決定スル、詰リ今マデハ天皇ガ立法権ヲ御持チニナツテ居リマシタガ、今度ハ国会ガ立法権ヲ有スルト云フコトニナリマス、司法権ハ、是モ今マデハ天皇ノ名ニ於テ行ハレ、名義上ハ天皇ト云フコトニナツテ居リマシタガ、今度ハ裁判所ガ之ヲ行フト云フコトニナル、広イ意味ノ行政、即チ執行権トモ云フベキモノハ、原則トシテ内閣ガ之ヲ持ツテ居ルト云フコトニナリマス、天皇ハ前ニ御示シニナリマシタヤウニ、第一章ニ示サレテ居ル制限的ナル範囲ニ於テ国家ノ働キヲ体現セラレル、斯ウ云フ風ニナツテ居リマシテ、現行憲法ノ如ク国体ノ人的統一ト云フコトヲセズニ――ソレニハ前カラ申シテ居リマスヤウナ民主政治ノ徹底化ト云フコトノ趣旨ニ基イテ居ルノデハアリマスケレドモ、ソレハ御質問ニハナツテ居リマセヌカラ、実情ダケヲ申上ゲマス
○赤澤委員 私ハ色々ナ思想ノ混迷ノ因ガ実ハココニアルト思フノデアリマシテ、此ノ点ヲ徹底的ニ究明シテ見タイト思フノデアリマス、簡単ニ申上ゲマスナラバ、是デハモウ確カニ議会主権デアルト私ハ思フノデアリマス、ソレデ本会議ノ席上デアリマシタガ、二個或ハ三個ノ主権ト云フ言葉ガアルノニ、ココニ又三十七条ニハ国権ト云フ言葉ガ出来テ居ル、主権ノ外ニ又一ツノ国権ト云フ概念ガアルト云ツタ質問ガアツタト記憶致シマス、其ノ時ノ御答弁デモ、私ハ納得致サナカツタノデアリマスケレドモ、一体此ノ憲法ノ構想ニ於テ議会主権デアルトハツキリ仰シヤルコトニ何処ニ拙イ点ガアルカ、其ノ点ヲ御伺ヒシタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 主権ト云フ言葉ノ内容ガ関係ハアルケレドモ違フト云フ意味ニ於テ用ヒラレテ居ルト云フコトハ恐ラク学界ノ定説デアルト思ツテ居リマス、随テ左様ナ種々ナル意味ニ於ケル主権ニ関スル思想ガ現実ニ此ノ憲法ノ中ニ実質的ニ現ハレテ来ルコトモ亦必然ノ要請デアリマス、ソコデ此ノ憲法ハ国ガ持ツテ居ルト云フ意味ノ主権ヲ第九条ニ掲ゲマシテ、又前文ノ後ノ方ニ掲ゲマシタ、又国会ノ所ニ国権ト云フ言葉ガアツテ、其ノ現ハル、方面カラ国権ト主権トハ言葉ハ違ツテ居リマスケレドモ、其ノ働キト云フ方面カラ議会ノ方ニ設ケタノデアリマス、ソレカラソレ等ノ国家ノ主権ト云フモノガ由ツテ生ジ来ル人間的源泉、詰リ国ガ持ツテ居ルト申シマシテモ国ニ何モ普通ノ自然科学ノ意味ニ於ケル意思ガ出来ル訳ハゴザイマセヌ、デスカラドウシテモ其ノ根源ハ生キタ人間ノ其ノ精神作用ニ求メナケレバナリマセヌノデ、ソレヲ求ムレバ、天皇ヲ含ミタル国民全体ニ在ルト申上ゲタノデアリマス、ドウシテモ此ノ観念ハ別ノ観念デアリマス、随テ一口ニ之ヲ言ヘナイコトハ理ノ当然デアルト私ハ信ジテ居リマス、国会主権ト云フコトヲ仰セニナリマシタガ、若シ国会主権デアルナラバ、憲法ヲ改正スル時ニ何故ニ国会ノミニ依ツテ之ヲ決定スルコトガ出来ナイカト云フ御質問ガ直チニ起リ来ルノデアリマシテ、私ノ方カラサウ云ウヤウナ意味ノ御答弁ハ出来ナイノデアリマス、強ヒテ言ヘバ、主権ノ稍々統括化サレタ形ハ此ノ憲法自体デアル、斯ウ云フ風ニ申上ゲテモ宜カラウト思ヒマス
○赤澤委員 是ハ極メテ形式的ナ詰ラヌ質問カモ分リマセヌガ、国体ニ付テ論議ヲ致シマスナラバ、国体、政体ノ問題ハ是ハ又結局水掛論ニモナリマスルシ、又天皇ト国民トノ間ノ関係ト云フモノハ憧レノ中心デアル、或ハ心ト心ノ繋ガリデアルト云ツタヤウナ表現ヲナサイマス、此ノ心持ハ分ルノデアリマスルガ、本委員会ノ冒頭ニ於キマシテ、少クトモ政体ニ関スル限リハ大幅ノ変更ガアツタ、斯様ニ申サレタノデアリマス、民主主義「デモクラシー」ノ形ニモ色々アルト思フノデアリマス、主権在民デアリマシテモ、其ノ人民ガ認メタ所ノ極メテ制限サレタ形ニ於ケル君主制モアルデアリマセウシ、又「プレシデンシアル・システム」モアルシ、「キャビネット・システム」モアルシ、「ソヴィエト」制モアリ、「レパブリック」モアル、斯ウシタ概念ニ於テ此ノ憲法ガ予想シテ居リマスル政体ハ一体何デアリマスルカ、其ノコトヲハツキリサシテ戴キタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 此ノ憲法ガ認ムル政体ト云フモノハ、此ノ憲法ノ全部ニ織込マレテ居リマスガ故ニ、百箇条ノ内容ニ付テ自然御答ヘシナケレバナラヌヤウナ結果ニナルノデアリマスルガ、恐ラク今御質問ニナリマシタ御趣旨ハ、従来国体ト言ハレテ居ツタヤウナ気持ニ近イ所デ政体ト云フコトヲ明カニセヨ、斯ウ云フ御趣旨デアラウト思ツテ居リマス、其ノ意味ニ於キマシテハ、国民ノ総意ニ基礎ヲ持ツテ居ル天皇制ヲ此ノ制度ノ基本的ナモノニ立テテ居ルト云フコトデアリマス、サウシテ又国会ニ実際ノ国民総意ヲ直結シテ活用セシムル所ニ主力ヲ置イテ居ル、斯云点ニアルダラウト思ヒマス
○赤澤委員 其ノ他多ク質問シタイ点ガアリマスルケレドモ、徒ラニ以前ノ操返サレタ質問ニ更ニ重ナリマスノデ避ケタイト思フノデアリマス、翻ツテ前文ノ是モ文字デアリマスガ、第一頁ノ後ノ方ニ「我らの安全と生存をあげて、平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ねようと決意した」此ノ「安全と生存」ト云フコトハ、一応戦争ヲ意味スレバ是ハ問題デハアリマセヌケレドモ、解釈ニ依ツテハ非常ニ広イノデアリマシテ、生活マデ他国ノ御厄介ニナレバ洵ニ結構ナコトデアリマスルケレドモ、外交其ノ他色々ナ問題モ私ハアルト思フノデアリマシテ、之ヲ此ノ侭呑込ンデ行クト云フコトハ、却テ此ノ精神ニ悖ルノヂヤナイカ、詰リ解釈ノ仕様ニ依ツテハ殆ド日本ノ自主性、主体性ト云フモノガ失ハレテ来ルノデハナイカト云フ危惧ヲ持タザルヲ得ナイノデアリマスガ、サウ云フ心配ハナイモノカドウカト云フコトヲ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣 此ノ所デハ前ノ方ノ文章ガ「常に平和を念願し、」ト云コトガアリマスルシ、又其ノ後ノ方ニ「平和を愛する世界の諸國民の公正と信義に委ね」斯ウ云フ風ニ云ツテ居リマスルガ故ニ、自ラ意味ガ明カデアラウト思ヒマス、我等ガ民族集団ヲ作ツテ国際ノ間ニ伍シテ自己ノ責任ヲ持ツテ高遠ナル理想ヲ達成シヨウト云フ趣旨ノコトハ、此ノ前文ノ後ノ方ニ明カニナツテ居リマシテ、決シテ国ヲ挙ゲテ脇ニ依存シヨウト云フヤウナ意味ヲ含ンデ居ル趣旨デナイコトハ明瞭ニナツテ居ルト信ジテ居リマス
○赤澤委員 モウ一ツ是モヤハリ文字ノ上ノ問題デアリマスガ、先程ノ三十七条ニチヨツトシタ疑問ガアリマスノデ、解明シテ戴キタイト思フノデアリマス、「國權の最高機關」、「最高」ト非常ニ強ク表ハサレテ居リマス、又「國の唯一の立法機關」、「唯一」デアルト云フ風ニ表現サレテ居ルノデアリマス、是ハ解散ノ所ガ本会議デ一寸質問サレテ居ツタノデアリマス、一体召集ハ他ノ機関ニ依ツテ行ハレルノデアリマスルシ、又司法権ニ関スル限リモ、此ノ憲法ニ法律ガ裁判ニ関スル限リデ抵触シタ場合ニハ是ガ無効ニナルト云ツタ場合モアリマス、又「唯一」ト云フ言葉ニ関シマシテハ、条約、是ハ政府デヤルノデアリマシテ、又条約ハ法律ト同ジ拘束力ヲ有スルト思フノデアリマス、又法律ノ中デモ一番大切ナル所ノ憲法ヲ作ル上ニ於テハ、第九十二条デアリマシタカ、国民投票ノ制度ガアリマシテ、国民其ノモノガ大ナル立法機関デアルト云フコトモ考ヘラレヌコトモナイト思フノデアリマスガ、簡単ニ御解明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 法文ノ中ニ用ヒテ居リマス文字ハ、其ノ一字ダケヲ、或ハ一語ダケヲ切離シテ之ヲ字引ノ中ニ求メテ解釈スルト云フ態度ヲ取ルコトハ出来マセヌ、一ツノ法典全体ガ一体ヲ成シテ居ルモノデアリ、互ヒニ相照応シ、或ハ相制約シ合ツテ、個々ノ文字ノ意味ガ恰モ生キ物ノ一部ヲ成スガ如キ働キヲ持ツテ、我々ノ心ノ中ニ現ハレテ来ルモノト考ヘルノデアリマス、随テ三十七条に現ハレテ居リマスル「最高機關」、「唯一の立法機關」ト云フ言葉ハ、基ノ意味ニ従ヒマシテ、他ノ条文トノ釣合ニ於テ意味ガ限定セラレルコトハ、是ハ已ムヲ得ザル所ト思ツテ居リマス、併シナガラサウデハアリマシテモ、此処ニアリマス言葉ハ特殊ナル制約ヲ除キマシテハ、大体ニ於テ此ノ言葉通リニ用ヒマシテモ、多クノ変化ノナイヤウニ留意サレテ居ル訳デアリマス、初メノ「國權の最高機關」ト申シマシタノハ機関ト云フ言葉ノ意味ニ結局落着クコトニナリマスルガ、国民ガ選挙権ヲ持チ、或ハ是ト同ジヤウナ意味ノ投票権ヲ持ツト云フ其ノ場合ノ国民ハ、謂ハバ国ノ主権ノ最初ノ現ハレヲ成スモノデアリマシテ、之ヲ機関ト云フ言葉ノ中ニハ包容シナカツタノデアリマス、又天皇ハ我々ノ心ノ繋リノ中心デアリ、国ノ象徴デアリ、特殊ナル尊厳ノ地位ヲ有セラレマスルガ故ニ、此ノ憲法ノ中デハ之ヲ機関ト云フ中ニ数ヘ上ゲルコトヲシナイト云フ気持デ文字ガ出来テ居ル、勿論理論的ニ申シマシテ、天皇ハ機関デアルカドウカ、是ハ学問ノ問題デ別デアリマスガ、此ノ憲法ノ建前デハ選挙スル有権者、ソレカラ象徴トシテアラセラレル天皇、此ノ両方ヲ機関ト云フ文字ノ外ニ除キマシテ、其ノ他ノ機関、裁判所、議会、行政部門ト云フモノノ類ヲ並ベマシテ、ソレヲ比ベテ国会ハソレ等ノ中ノ最高ノモノデアル、是ハ常識的ナ、寧ロ標語的ナ字句デアリマシテ、誰ガ見テモ国ノ三権分立ノ思想ノ中ニ於キマシテ、国会ガ中心ヲ成シテ居ル最高ノモノデアル、斯ウ云フヤウナ意味ヲ表ハシタノデアリマス、ソレニシテモ最高裁判所ガ国会ノ作ツタモノニ多少ノ変化ヲ加ヘルト云フコトハ是ハ出テ来マス、併シ是トテモ実ハ今マデマダソコマデ御説明申上ゲル機会ガナカツタノデアリマスルガ、裁判所ガ国会デ作ツタ法律其ノモノヲ無効トスルト云フ意味デハアリマセヌ、唯裁判所ガ見ル所ヲ以テ自分ノ所管内デハ其ノ法律ヲ無効ナリト認メテ適用シナイ、併シ法律其ノモノハ活キテ居ルノデアリマス、裁判所ハ判決其ノモノニ是ハ用ヒナイト云フダケデ、余程是ハ制約セラレタ意味デ国会ト云フモノヲ批判スル、ソレカラ想像シテ見ルト、国会ハ最高機関ダト言ツテモ常識的ニ通用スルダラウ、斯ウ云フ考ヘデ此ノ言葉ヲ使ツテ居ル訳デアリマス、ソレカラ国ノ唯一ノ立法機関ト申シマシタノハ、之ヲ用ヒマシタノハ相当意味ガアルノデアリマシテ、之モ現行憲法ト比ベテ御説明スルト分ルト思ヒマスルガ、現行ノ憲法ニ於キマシテハ成程立法権ハ帝国議会ノ協賛ヲ経テ天皇ガ之ヲ御行ヒニナルト書イテアリマスルケレドモ、ソレト相並ンデ八条、九条等ガアリマシテ、或ハ緊急勅令ニ依ツテ立法ヲサレ、或ハ独立命令ニ依ツテ立法ヲスル、独立命令ノ中ニハ実ハ立法例ト云フ風ニ、実質的ナ立法ノ権能ガ分散シテ居リマシテ、ソレガ弊害ノ根源ニナツテ居リマス、今度ハ何ガ何デモ苟クモ実質的ノ立法ヲ何処カニ集中シテシマフ、斯ウ云フ建前デ国ノ立法ハ国会ノ謂ハバ独占デアル、斯ウ云フ風ニ大原則ヲ立テマシタ、ソレカラ先ハ結局此ノ国会ノ意思ニ基イテ小サイ補則ノ出来ルコトモアリマセウ、或ハ又国会デ拵ヘマシタ所ノ法律ノ中ニ具体化サレテ、例ヘバ手続ヲ決メルトカ、或ハ書類ノ様式ヲ決メルトカ、広イ意味ノ手続ニ関スルコトハアチラコチラニ権能ガアリマスルケレドモ、本質的ナ立法ハ国会ダケデヤルノデアリマス、斯ウ云フ風ナ考ヘ方ヲシタ訳デアリマス、随テ条約ノ問題ノ如キハ、若シ条約ガ立法デアルト云フ前堤ヲ取リマスルト、ココニ多少ノ言葉ノ上デ不釣合ハ起ツテ来マスケレドモ、其ノ条約モ事前又ハ事後ニ於テ必ズ国会ノ議ニ付セラルルコトニナツテ居リマスルガ故ニ、通常ノ言葉ノ用ヒ方トシテハ唯一ノ立法機関デアルト申シテモヲカシイコトハナイト思フノデアリマス、ソレカラ憲法ノ点ニ付テ国民表決ガアルヂヤナイカト云フ風ニ仰セニナリマシタ、ソレハ解釈ノ仕方デアルト思ヒマスガ、私自身ノ考ヘハ、憲法ハ成程法ニハ相違アリマセヌ、併シナガラ法ハ法デアルケレドモ、特殊ナ根本法デアリマシテ、ココニ謂フ立法ト云フ観念ノ外ニ置ク積リデ此ノ文字ガ用ヒラレテ居ル訳デアリマス、諄イヤウデアリマスガ、繰返シテ申シマスレバ、第三十七条ニ現ハレテ居ル今ノ文字ハ、学問的正確サヲ以テ云ヘバ、此ノ憲法ノ他ノ条規ニ依ツテ制約セラレタ意味ニ解サナケレバナリマセヌ、併シ常識的ニ此ノ文字ヲ切離シテヤツテモ九分九厘マデハ此ノ侭デ通用スルヤウナ文字ガ用ヒテアル、斯ウ云フ趣旨デ出来テ居リマス
○赤澤委員 以上デ私ノ質問ヲ打切リタイト思ヒマス
○芦田委員長 野坂參三君
○野坂委員 私ハ本会議デモ総括的ナ問題ニ付テ質問ヲシ、ソレニ対シテ御回答ガアリマシタガ、彼処デモ私ハ申シマシタヤウニ、十分納得ノ行クモノデハナカツタシ、マダ質問ヲシナケレバナラナイ点ガ相当アリマス、併シ此ノ会議デ或ル点ハハツキリシマシタガ、マダ残ツテ居ル点ガアリマス、ソコデ今マデ触レラレナイヤウナ点、又私ニハツキリシナイヤウナ点ダケヲ御聴キシテ、成ルベク簡単ニ済マシタイト思ヒマス
先ヅ最初ニ手続ノ問題ニ付テモウ一度ハツキリト御伺ヒシタイノデス、此ノ問題ニ付テ第一ニ御聴キシタイノハ、此ノ議会ニ於ケル憲法改正或ハ修正ノ範囲、性質、是ハドノ程度ノモノデアルカ、例ヘバ社会党ノ黒田君ガ此処デ言ハレタヤウニ、構成ヲ変ヘル、例ヘバ第一章ノ天皇デハナクテ、総則ト云フヤウナモノヲ設ケルトカ、斯ウ云フヤウナ構成ヲ変ヘルコトマデ此ノ議会デヤレルモノデアルカ、許サレルモノデアルカ、或ハモウ少シ例ヘバ私達ノ意見ノヤウニ、此ノ第七条ニ根本的ノ改革ヲシタイ、斯ウ云フ意見モアル
第三ニハ字句ノ修正トカ、其ノ他増補スルトカ、斯ウ云フヤウナ重大ナ修正ヲ此ノ議会デナシ得ルカドウカ、此ノ点若シナシ得ラレナイトスレバ其ノ理由、斯ウ云フ点ヲ御聴キシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 此ノ前本会議デ慥カ述ベテ居ルト思ヒマスガ、成文憲法ノ改正ト言ヒ得ベキ範囲ニ於キマシテハ改正ガ出来ルモノト、斯ウ云フ風ニ御答ヘシタト思ツテ居リマス、今日モ其ノ通リデアリマス
○野坂委員 例ヘバ構成トカ、或ハ或ル程度本質的ナ改正ト云フコトモ出来得ル訳デスネ
○金森国務大臣 今申シマシタ通リデゴザイマスカラ、勿論出来ル訳デアリマス
○野坂委員 サウスルト其ノ次ニ手続ノ問題ニ付テ御聴キシタイコトハ、是ハ本会議デモ私ガ質問シタコトヲモウ少シハツキリシテ載キタイ、ソレハ此ノ改正ハ現行憲法七十三条ニ依ツテ行ハレテ居ル、問題ハ現行憲法七十三条ノ、アノ今マデ行ハレタ解釈、勿論今マデト言ウテモハツキリシマセヌガ、ココニ世界文化ト云フ雑誌ノ五月号ニ、美濃部達吉博士ノ論文ガ載ツテ居リマス、ソレニハ斯ウ云フ風ニ書イテアリマス――此ノ問題ハ非常ニ重要ナモノデ、此ノ手続如何ガ、仮に是ガ違法デアルナラバ、将来重大問題ヲ起シ得ルノデ、此ノ問題ハ私ハ繰返シテココデハツキリシテ戴キタイト思フ、特ニ美濃部博士ノ現在日本ニ於ケル法学上、或ハ政治上ニ於ケル立場ガドウカト云フコトハ、皆サン御存ジノコトデ、最高権威ノ一人ト斯ウ見テ我々ハ差支ヘナイト思ツテ居ル、此ノ美濃部氏ガ斯ウ云フ風ニ言ハレテ居リマス、少シ長クナリマスケレドモ、御参考ノ為ニ私ハ読ミタイト思フ、「此ノ改正憲法ノ議案ノ提出權ガ專ラ勅命ニ留保セラレ、議會兩院ニハ全ク其ノ發案權ガナイノデアルカラ、兩院ノ議員ハ政府ノ原案ニ對スル修正發議ノ權モ自由デナイコトハ勿論デ、多クノ学者ハ議院ニハ全然修正權ナク、單ニ政府ノ原案ニ對シ、可否ヲ決スルノミニ止マルモノト解シテ居リ、假ニ此ノ説ヲ否トシ、議院ニ修正發議ノ權ガアルト云フ説ヲ取ルトシテモ、其ノ修正ハ唯政府ノ原案中ノ或ル條項ヲ削除シ、又ハ之ヲ變更スルコトノ外ニハ出ヅルコトヲ得ナイモノデ、原案中ニ含マレナイ別個ノ事項ニ付キ、新タニ改正ヲ發議スルコトヲ得ナイコトハ、更ニ疑ヒヲ容レナイ所デアル」更ニ色々或ル程度繰返シテ居リマスケレドモ、重要デスカラ申シマス、「而モ憲法第七十三條ノ規定ハ、憲法改正ノ發案權ヲ專ラ勅命ニノミ留保シ、其ノ提案ニ對シ、議會ハ自由ノ修正權ヲモ有シナイモノトシテ居ルモノデアル」結局美濃部博士ノ結論トシテハ、先ヅ憲法第七十三条ニ代ルベキ新シイ規定ニ付テノミ其ノ議決ヲ求メ、ソレガ成立シタ後ニ、其ノ新規定ニ従ツテ改メテ改正草案ヲ作成シ、之ヲ完全ナ修正権ヲ有スル議会ノ議ニ付スコトガ当然デアル、斯ウ云フ風ニ書イテアリマス
此ノ問題ニ付テ我々ノ考ヘデハ、議会ニ於テ修正権ヲ持チ得ルト云フコトハ、即チ議会自体ガ発案権ヲ持チ得ルト云フコトノ当然ノ結論トシテ是ハ生レテ来ル、例ヘバ現行憲法ノ第三十八条ニ斯ウ規定シテアリマス、「兩議院ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得」即チ議会自体ニ法律案ヲ提出スル権限ガアル、ソコカラ必然トシテ此ノ修正ノ権限モ生レテ来ル、所ガ憲法第七十三条ノ此ノ規定ニ依レバ、議会ニハ発案権ト云フモノハ全然ナイ、唯天皇ノ意思ニ依ツテヤラレル、天皇ノ側ニ於テ初メテソコニ発案権ガ出テ来ル、サウスルト今言ツタヤウニ議会ニ於テ発案権ガナイト云フモノニ付テハ、ヤハリ議会ニ於ケル修正権モ否定サレテ居ル、斯ウ云フヤウニ解釈シ得ルト思フノデス、此ノ問題ニ付テ金森氏カラ美濃部氏ノ意見及ビ今私ガ言ツタコトニ付テ御答弁ヲ載キタイ
○金森国務大臣 私ハ美濃部法学博士ガ言ハレタ意見ヲ此処デ批評スル権能ヲ持チマセヌ、併シナガラ野坂君ガソレト同ジ内容ニ付テ御疑問ヲ持タレソレニ付テ御質疑ニナツタモノト考ヘマシテ御答ヘヲ致シマス
第七十三条ノ規定ニ依リマシテ、此ノ際憲法改正案ガ議会ノ議ニ付セラレマシタ場合ニ、議会ハ修正権ヲ有シ得ルヤト云フ点ニ付キマシテハ、只今申上ゲマシタヤウニ憲法改正ト見得ル範囲ニ於テハ修正ガ出来ル、斯ウ云フ風ニハツキリ申シマシタ、其ノ意味ハ単ニ修正ガ出来ルトハ私ハ申上ゲマセヌ、ト云フノハ、今議ニ供サレテ居リマスノハ憲法デアリマスルガ故ニ、憲法以外ノモノヲ之ニ便乗サセルト云フコトハイケナイ、斯ウ云フ一ツノ制限ガ一面ニ於テ附イテ居ルダケデアリマス、随テ其ノ中ニ如何ナル考ヘ方ニ依ツテモ、憲法ノ内容トナリ得ザルモノヲ加ヘル、斯ウ云フコトニナレバ論議ガ起リマスルケレドモ、若シ憲法ノ内容トシテ加ヘルニ相応シキモノヲ加ヘルト云フコトデアリマスレバ、亳末モ差支ハナイ、斯ウ云ウ趣旨デ御答ヘヲシタ訳デアリマス、ソコデ法律学的ナ理論ニ付キマシテハ、各々ノ色々ナ考ヘ方ガアラウト思ヒマス、ケレドモ私ノ見解ヲ率直ニ申述ベマシテ、私ハ唯徒ラニ断定シテ居ルノデハナク、私ノ陳述ノ基礎ニ於テハ、私自身トシテ自ラ正シイト信ズル理論構成ヲ持ツテ居ルト云フコトヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、一体憲法改正ノ発案権ガ天皇ニノミアル、是ハ明々白々タルコトデアリマシテ、私ハソレ以上ニ何等ノ別ノ考ヘハアリ得ナイト思ツテ居リマス、併シ発案セラレタモノニ付テ修正シ得ルヤ否ヤト云フコトニナリマスルト、是ハ別個ノ問題デアリマシテ、修正権ハ当然発案権ナキ所ニハ存在シナイト云フ理論ハ採リニクイト思フノデアリマス、議論ハ別ト致シマシテ、実際ノ例ニ付テ申シマシテモ、例ヘバ予算ハ政府ノミ発案権ヲ持ツテ居ル、併シナガラ議会ガ付議セラレタ場合ニ修正ヲ行ハルルコトハ、何等今マデモ疑ヒハナカツタノデアリマス、少クトモ日本ノ一般通念ハ之ヲ否定シテハ居ナイノデアリマス、又外ノ例ヲ拳ゲマスレバ、貴族院令ト云フモノハ勅令デアリマシテ、特殊ノ規定ニ依ツテ改正ノ場合ニ貴族院ノ議ニ付セラルルノデアリマス、是モ完全ニ貴族院ニ発案権ガナイノデアリマシテ、貴族院令ハ其ノ刺令ヲ制定スル手続ニ従ツテ政府ニ於テ所定ノ方法ニ依ツテ起案シ、然ル後ニ之ヲ貴族院ノ議ニ付スルノデアリマス、而モ貴族院ハソレヲドウシテ居ルカト言ヘバ、修正シテ可決シテ居ル事例ガアル、ハツキリハ覚ヘテ居リマセヌガ、少クトモ二回ハアリマス、モツトアツタカモ知レマセヌ、之ニ付テ若干ノ論議ガ起ツタコトハアリマスケレドモ、未ダ曽テ決定的ニ之ヲ非難スル理論ノアルコトハ聞キマセヌ、是等ノ事例ヲ総合シテ考ヘテ見マスレバ、発案権ハナシト雖モ、議会ガ之ヲ審議スル場合ニ於テ、事ノ性質上修正権ガ生レ得ル、勿論事ノ性質上修正権ノ余地ノナイモノハ別デアリマス、可ト云フカ、否ト云フカ、二ツシカナイト云フ場合ニハ修正ノ余地ハアリマセヌ、少シ中味ヲ色々動カシ得ルヤウナ状態ヲ具ヘテ居ルヤウナモノ、今ノ予算、貴族院令ト云フヤウナモノガ付議セラレマスレバ、修正権ガココニ伴ツテ起ルト云フコトハ、是ハ自然ノ道行キデアラウト思フノデアリマス、ソコデ次ニ修正権ガソレデハ発案権トドウ云フ関係ヲ以テ存在シ得ルカ、例ヘバ一ノモノヲ発案致シマシテ議会ガ之ヲ百ノモノニ修正スル、発案者ノ毫モ意図セザリシ所ノモノヲ議会ニ於テ附加ヘテ、モノノ全貌ヲ根本的ニ変質シテシマフト云フコトハ、発案権ソノモノト実際ニ於テ何等違ハナイノデハナイカ、サウ云フヤウナ修正権ガ出来ルカト云フ問題ニ今度移ル訳デアリマス、是ハ少シ議論ガアリ得ル問題ト思ヒマスルケレドモ、併シ苟クモ提出セラレタモノヲ補正スル、ソレガ気ニ食ハヌカラ適正ナ形ニ直スト云フ意味ニ於テノ修正権ハ認メラレナケレバナラヌノデアリマス、今ノ貴族院令ノ改正ニ付テ、特別ナ争ヒモナク帝国議会ノ議ヲ経タト云フコトハ、全ク其ノ趣旨デアラウト思フ訳デアリマス、今回ノ憲法ノ此ノ改正案ト云フモノハ、御覧ニナレバ分リマスヤウニ、日本国ニ於ケル憲法ノ全体ニ亙ツテノ提出デアリマシテ、即チ憲法法典ハ今回ノ場合ニハ形ハ改正ノ形デアリマスルガ、其ノ内容ニ於キマシテハ、全体トシテノ憲法法典デアル、ソレガ提出セラレマシタ限リハ、憲法全体ニ亙ツテ議会ハ批判シ、論議スルコトガ出来ル訳デアリマス、随テ全般ニ亙ル修正権ト云フモノガ出来ルト云フコトニナリマス、ソコデ私ハ憲法ノ修正ト云ヒ得ル範囲ニ於テハ修正権ガ出来ル、併シココヘ持ツテ行ツテ、其ノ他ノ法典ノミニアリ得ルヤウナ何ノ某ニ恩給ヲ与ヘルト云フヤウナ規定ヲ設ケルコトハ、是ハ憲法ト云フ観念ノ範囲ヲ飛出スカライカヌ、無駄ナコトデスガ、サウ云フコトヲ附加ヘテ申上ゲタイト思ヒマス
○野坂委員 ソレハ金森国務大臣一個ノ御見解デセウカ、或ハ政府トシテノ御見解デセウカ
ソレカラモウ一ツ御考慮願ヒタイコトハ、今私ガ読ンダノハ美濃部博士個人ノ意見デスガ、是ト同様ナ意見ガマダ相当アリマス、今一々名前ヲ申上ゲマセヌガ、例ヘバ団体ニシテモ、民主主義科学者連盟デモ是ガ大キナ問題ニナツテ、中村教授ト云フ人モ明カニ斯ウ云フ美濃部サント同ジヤウナ説ヲ採ツテ居リマスシ、又最近ノ社会党ノ機関紙ヲ見マスト、是ハ社会党ノ憲法委員会ノ意見ラシイノデスガ、社会党自身モ同様ナ見解ヲ採ツテ居ルヤウデス、是ハ其ノ後社会党ノ意見トハナツテ居ナイヤウデスガ、併シ内部ニ於テ之ニ類スル相当重要ナ意見ガヤハリアルト云フコトハ、考ヘナケレバナラヌ訳デアリマス、又斯ウ云フ状態ノ下デハ、今後ニ於テモ此ノ問題ガ恐ラク問題ニナリ得ルト思フ、此ノ問題ガアツタ時ニ、金森国務大臣及ビ政府ハ青任ヲ以テ処置シテ戴ケル、是ダケノ御決意ガアルカドウカ、斯ウ云ウ点ヲ御聴キシタイ
○金森国務大臣 私ノ申上ゲタコトハ国務大臣トシテノ意見デアリマスルガ故ニ、其ノ趣旨ニ於テ御理解願ヒタイト思ヒマス、若シ私ノ申シマシタコトガ政府全体ノ意見デアルカト云フコトデアリマスレバ、是ハ国務大臣ノ権限ト云フコトカラシテ、解釈ヲ願フノデゴザイマシテ、私ハ是ガ政府ノ意見ト信ジテ居リマス、併シ政府ハ色々ナ人ノ頭ガ集マツテ出来テ居ルノデアリマスカラ、他日補正セラレルノモ致シ方アリマセヌ、其ノ時ニハ私ノ言ツタコトガ間違ヒデアル、私ノ発言ニ信用ガ置ケヌ無用ノモノデアリ随テ適正ナ解決ヲスルト云フコトニナルト思ツテ居リマス
ソレカラ他ノ学説等ニ付テ、色々反対意見ガアルト云フコトハ私モ知ツテ居リマス、併シ世ノ中ニ反対意見ノナイ学説ト云フモノハアリマセヌシ、学説ト云フモノハ学者個人ノ意見デアリマシテ、学説ノ範囲内ニ於テハ尊重致シマスケレドモ、ドウモソレデ以テ政府ノ意見ガ特ニ影響セラレルト云フコトハ考ヘラレナイト思ツテ居ル訳デアリマス、私ハ勿論独自ノ偏狭ナル意見ヲ申上ゲルノデハナクテ、公ノ、政府ノト言ヒマスカ、寧ロ政府以上ニ相当広イ範囲ニ亙ツテ論議セラレテ居ル実例ヲ拳ゲテ、今マデノ論拠トシテ私ノ主張ヲ申上ゲタ次第デアリマス
尚ホ少シク、或ハ誤解ヲ起シテハ悪イト思ヒマシテ、其ノ自由ニ改正出来ルト申シマシタ其ノ趣旨ハ、繰返シマスガ、此ノ憲法改正案ガ全貌ヲ成シテ居ル、憲法草案ガ議会ノ議ニ付セラレタルガ故ニ、議会ハ憲法ノ全体ニ亙リ修正権ヲ持ツンダト云フ論拠デアリマスカラ、其ノ点ヲ御諒承願ヒタイト思ヒマス
○野坂委員 私ガナゼ此処デ斯ウ云フ問題ヲ出シタカト言ヘバ、本会議デ言及シタヤウニ「マッカーサー」司令部ノ方デハ現行憲法ト改正サレル憲法トノ間ニ法律的ナ継続性ガナケラネバイケナイ、斯ウ云フ問題ガアルト思フノデス、此ノ意味カラ言ツテ、今言ツタヤウナ美濃部博士其ノ他ノ言ハレルヤウナ此ノ見解ニ基ケバ、今ノ政府ノヤラウトシテ居ル手続ハ是ハ違法トナル、斯ウ云フコトガ将来問題ニ起リ得ル可能ガアルノデ、私ハ此ノ問題ニ付テ繰返シ質問シタ訳デス、今金森国務相ノ御答ヘデハ自信ヲ持ツテ是ハ違法デナイ、斯ウ云フ風ニ言ハレタト思ヒマスノデ、私ハ此ノ問題ハサウ云フ風ニ解訳シテ差支ヘナイト思ヒマス
偖テ其ノ次ニ、本会議、此ノ委員会デ主権ノ問題トカ或ハ天皇ノ問題、是ガ繰返シ繰返シ質問セラレ、又之ニ対シテ総理大臣、国務大臣ノ方カラ回答ガアリマシタガ、是ガ毎日繰返サレテ居ルト云ウ此ノコト自体ガ、此ノ問題ガ余リハツキリシテ居ナイト云フコトヲ証明スルノデハナイカト思フノデス、是ハ此ノ議会ノ中ノコトデス、併シ議会外ニ於ケル普通ノ一般ノ人、ソレハ之ニ付テマダモツトハツキリシテナイト思フノデス、実ハ私モ二、三人ノ人ニ聴イテ見タ、其ノ一人ハ大学ヲ出タ人、一人ハ中学ヲ出タ人、モウ一人ハ国民学校ヲ出タ人、是等ノ人ニ対シテ、新聞ヲ読ンデ金森国務大臣ノ主権ノ問題トカ或ハ天皇ノ問題トカ斯ウ云フ問題ニ付テハツキリ分ツタカト聴イタ所ガ、彼等ハドウモハツキリシナイ、ボンヤリシテ居ル、斯ウ云フヤウニ言ツテ居ルノデス、此ノ点ニ付テハ政府ノ方デモ責任ヲ以テモウ少シ誰ニモ分ルヤウナ、一般ノ人ニ国民学校ヲ出タダケノ知識デ誰ニデモ分ルト云フ風ナ単刀直入ナ説明ヲヤツテ戴キタイト思フノデス、ソレデ先ヅ常識的ナ質問カラヤツテ行キタイト思ヒマス、国務大臣ハ繰返シ繰返シ天皇ハ国民ノ一人デアル、或ハ一ツデアル、或ハ国民ノ中ニ含マレル、斯ウ云フヤウニ言ハレタト思ヒマスガ、要スルニ是ハ国民ノ一人デアルト云フコト、サウナツテ来ルト第三章第十三条ノ問題、「すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別を受けない」併シ此ノ憲法自体ハ天皇ヲ差別シテ居ル、平等デナイ、是ハ何処カラ出テ来ルカト云フコトヲ今マデモ間接ニ御説明ニナリマシタガ、此処デ此ノ点ヲハツキリ言ツテ戴キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 初メノ御意見ヲ含メタ御質問ノ方カラ御答ヘヲ致シマス、私ノ申シマシタコトガ、日本国ノ多クノ人ガ新聞ヲ読ミ「ラジオ」ヲ聴イテ居ツテ徹底シナイト云フコトハ、私モ遺憾ニ思ツテ居リマス、是ハ私ノ説明ノ仕方ガ悪イノカ、或ハ新聞、又ハ「ラジオ」ノ伝フル所ガ全部ヲ伝ヘナイデ、一部ヲ約シテ伝ヘテ、モノニ依ツテハ、新聞紙ニ於キマシテハ、甲ノ新聞ト乙ノ新聞ト扱ヒ方ガ違ツテ居ル、ソコニ多クノ議論ガアルト思ヒマシテ、必ズシモ私自身ノ責任デハナイト思ヒマス、願ハクバ此ノ席ニオイデニナル方ハ、御意見ノ問題ハ別ト致シマシテ、私ノ言ツテ居ルコトノ中味ダケハ御理解願ヒタイト、実ハ考ヘテ居リマシテ、此ノ委員会ガ開カレマスル最初ノ会ニ於キマシテ、或ル程度必要ナル所見ハ述ベタト思ツテ居リマス、次ニ第十三条ニ入リマシテ、十三条ハ御説ノ如ク法ノ下ニ平等デアル、国民平等ノ原則ヲ示シテ居リマス、是ハ一点ノ疑ヒハアリマセヌ、而シテ天皇ガ国民ニ含マレル、第三章ニ用ヒテアル所ノ国民ト云フ言葉ノ意味ノ中ニハ含マレテ居ルト云フコトハ、前カラ申シマシタ、是モ一点ノ疑ヒハアリマセヌ、併シナガラ次ニ御考ヘヲ願ヒタイコトハ、我々ハ思想ヲ表明致シマスル時ニ、原則的ニ表明スル、而シ他面ニ於テ特別的ニ表明スル、其ノ原則的ニ表明シタ所ト、特別的ニ表明シタ所トガ双方結ビ付ケラレテ、真ノ言ハント欲スル所ガ明カニナツテ来ル訳デアリマス、原則ト例外トヲ同ジ瞬間ニ一口ニ言フト云フコトハ、人間世界ニ於テハ不可能ノコトデアラウト思フノデアリマス、此ノ憲法ハ第一条ニ於テ天皇ノ御地位ヲ明カニシ、第十三条ニ於キマシテ、一般国民ノ資格ヲ明カニ致シタノデアリマス、最後ノ答ヘハ一条ト十三条ヲ組合セタ所ニ正シイ天皇ノ御地位ガ生レテ来ルノデアリマス、之ヲ外ノ言葉デ要約シテ申シマスレバ、十三条ハ原則デアル、之ヲ天皇ニ当嵌メテ見マスル時ニハ、此ノ憲法ニ示サレテ居ル天皇ノ御地位ト調和スルヤウニシテ理解サレナケレバナラヌト云フコトニナル訳デアリマス、先ニ選挙権ガアリヤ否ヤト云フコトガ此ノ委員会ニ於テ御質疑ニナリマシタ時ニモ、其ノ趣旨ヲ以テ御答ヘヲ致シマシタ
○野坂委員 一寸繰返スヤウデスケレドモ、モウ一度ハツキリ言ツテ戴キタイ、此ノ平等デアル天皇ガ平等デナイコト、及ビ差別ガアルト云フコト、是ハ何処カラ出テ来ルカト云フ点ヲ端的ニ一ツ‥‥
○金森国務大臣 何処カラ出テ来ルカト云フ意味ハ、第一条ニ天皇ハ国ノ象徴デアルト云フコトガ明カニサレテ居ルト思ヒマス、然ラバ其ノ象徴ト云フコトト相伴フ限度ニ於テ、第十三条ガ理解サレナケレバナラヌト云フコトハ、自然ノ結果デアラウト考ヘル、今平等、不平等ト云フノデハナク、一条ニ依ツテ十三条ガ影響ヲ受ケテ居ル、其ノ影響ヲ受ケタ結果ニ於テ、天皇ノ御地位ガ明カニナツテ来ル訳デアリマス、斯ウ云フコトヲ申上ゲマシタ
○野坂委員 ソレカラ少シ細カクナリマスケレドモ、其ノ前ニ先程ノ質問ノ時ニ国務相ハ斯ウ云フ風ニ答ヘラレタ、此ノ日本ノ政体ト云フモノハ、国民ノ総意ニ基ク天皇制デアル、斯ウ云フ風ニ言ハレタト思ヒマス、国民ノ総意ニ基ク天皇制、此ノ言葉ヲモウ少シ具体的ニハツキリト、天皇制ト云フモノハドウ云フコトヲ意味スルノカ、我々ノ今マデノ理解デハ大体ニ於テ天皇制ニ対シテ民主制ト云フコトヲ対置シテ居ル、其ノ意味ニ於テ、天皇制ト云フモノハ民主主義制度ト対置サルベキ性質ヲ持ツタ天皇制デアルカドウカ、此ノ点ニ付テ一ツ
○金森国務大臣 私ハ自分ノ考ヘニコダハリマシテ、其ノ為ニ野坂君ノ御考ヘニナツテ居ル所ヲ十分解し得ナカツタコトハ洵ニ申訳アリマセヌ、私ハ天皇制ト云フノハ、此ノ憲法ニ現ハレテ居ル天皇ニ関スル制度ト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、野坂君ノ今仰シヤツタヤウナ特殊ノ意味ニ於ケル天皇制ヲ指シタ意味デハアリマセヌ
○野坂委員 ソレカラ昨日ノ国務大臣ノ御回答ノ中ニ、天皇ハ不偏不党デアリ、公正無私デアル、斯ウ云フ風ニ言ハレタト思ヒマス、ソレカラ此ノ憲法ニモアルヤウニ、象徴デアルトカ、或ハ金森国務相ノ繰返シテ言ハレタヤウニ憧レノ中心デアルトカ、或ハ心ノ繋ガリノ中心トカ色々出テ来テ居ル、此ノ今ノ場合ニ言ハレル所ノ天皇ト云フモノハ、是ハドウ云フモノデアルカ、今マデノ所謂機関デアルノカ、機関説ノ言ハレル機関ト云フ、ソレヲ指スノデアルカ、或ハ第二ニハ自然人ヲ指スノデアルカ、或ハ国民ノ心ニアル一ツノ「イメージ」ヲ斯ウ云フモノヲ指スノデアルカ
○金森国務大臣 私ガ天皇ト申シマシタノハ、血統ノ繋ガリノ中ニオイデニナル人トシテノ天皇ヲ念頭ニ置イテ御説明ヲ申上ゲテ居ツタ訳デアリマス
○野坂委員 サウスルト自然人ヲ指シテ居ラレルノカドウカ
○金森国務大臣 今申シマシタ通リ血統ノ繋ガリノ中ニアル自然人トシテノ天皇ヲ指シテ居ル訳デアリマス
○野坂委員 サウスルト、此ノ公正無私等々ト云フ、斯ウ云フ風ナ色々ノ規定ガアリマスガ、斯ウ云フ風ナモノハ結局世襲ニ於ケル、詰リ血統ノ繋ガル自然人ト云フモノニ是ガ具体的ニ備ハル、具備スル所ノ性質ダ、斯ウ云フ風ニ理解シテ差支ヘナイデスネ
○金森国務大臣 私ハ野坂君ノ御引用ニナリマシタ公正無私ト云フ時ニ、ドウ云フ言葉ヲ使ツタカ今ハツキリハ記憶シテ居リマセヌ、公正無私ト云フコトヲ申上ゲマシタカ、公正無私タルベキ天皇ト申上ゲマシタカ、ソレガドツチカ速記録ヲ見ナケレバ分リマセヌガ、多分ベキト云フ言葉ガ入ツテ居ツタト思ヒマスルシ、万一入ツテ居ナカツタナラバ、其ノ積リデ申上ゲタノデアリマス、仮令一ツノ場合ニ言ヒ落シガアツテモ、外ノ場合ノ御答弁ヲ御覧ニナレバキツト入ツテ居ルト思ヒマスガ、公正無私タルベキ天皇ト申上ゲタ、現身ノ天皇ニハドウ云フ過失ガアルカモ分リマセヌ、ソレは人間ノコトデアリマスカラ、之ヲ濫リニ我々ハ予測スルコトハ出来マセヌ、併シナガラ其ノ時ノ御説明ハ恐ラク此ノ制度ニ依ツテリ誤リナキコト、公正無私タルベキコトヲ確保スルヤウニ制度ガ設ケラレテ居ルト云フコトハ、関連シテ申上ゲテ居ルト思ヒマス
○野坂委員 サウスルト公正無私ト云フコトガ確保サレテ居ル、斯ウ云フコトハドウ云フコトニ依ツテ保障サレルカ
○金森国務大臣 新シキ憲法ノ個々ノ規定ニ依ツテ保障サレテ居リマシテ、其ノ主ナル事項ハ内閣ノ助言ト承認トノ上ニオイデニナル天皇タルコトニ依ツテ略々明瞭デアル、尚ホ繰返シテ申シマスレバ、本質的ニ公正無私デアラセラレルト云フコトハ、我々ノ感情ノ上ニ存在シテ居ル、併シ現実ニ公正無私タルコトヲ確保スルノハ、此ノ憲法ガ各個ノ規定ヲ以テソレヲ具体化サセヨウトシテ居ル、其ノ中ノ主ナル規定ハ、国務大臣ノ助言及ビ承認、ソレニアル斯ウ云フコトニナリマス
○野坂委員 サウスルト公正無私ノ保障ハ国務大臣云々ニアル訳デスネ、天皇自体ニハナイ訳デスカ
○金森国務大臣 私ハハツキリ申上ゲタト思ツテ居リマスルガ、公正無私デアルト云フコトヲ我々ガ感情ノ上ニ於テハ天皇ニ之ヲ認メテ居ルノデアリマス、併シ現実ノ制度トシテハ、此ノ憲法ハ種々ナル規定ヲ設ケテソレヲ確保シテ行クノデアリマス、其ノ中ノ顕著ナル一ツガ今言ツタヤウナ国務大臣ノ関係デアリマス、斯ウ申シテ居リマス、一ツニ之ヲ掛ケテ申上ゲタコトハナイ積リデアリマス
○野坂委員 サウシマスト、少シ細カイ点ニナリマスガ、第三条ニ「天皇の國務に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」此ノ場合ニ「天皇の國務に關するすべての行爲」斯ウアリマスガ、是ハ天皇ノ積極的ナ意思ヲ規定シテ居ルヤウニ見エマスガ、此ノ点ドウデスカ
○金森国務大臣 積極的ナル意思ト云フコトガ能ク分リマセヌガ、意思ト云フモノハ、積極的ナモノノヤウニ思ヒマスガ、違ヒマスカ
○野坂委員 私ノ言ヒタイノハ、内閣ノ助言ト承認ヲ必要トスル、其ノ前ニ天皇ノ積極的ナ意思ガアツテ、内閣ノ助言ト承認ヲ後デ必要ニスル、斯ウ云フ風ナ意味ニ解釈シテ宜イカドウカ
○金森国務大臣 私ハ左様ニハ思ツテ居リマセヌ、左様ナ限定シタ意味ヲ含ンデ居ルトハ考ヘマセヌ
○芦田委員長 野坂君ニ注意致シマス、委員会ノ慣例ハ、発言ヲ求メル時ニハ必ズ委員長ニ請求スルコトニナツテ居リマス
○野坂委員 サウデスカ、十三条ニ「華族その他の貴族の制度」トアリマスガ、此ノ貴族ノ制度ノ内容ニ付テ一ツ御聴キシタイ
○金森国務大臣 華族其ノ他ノ貴族ノ制度ハ限定サレテ居リマセヌ、将来ドンナ名前ヲ以テ設ケテモ、観念上此ノ貴族ニ当レバソレハ此ノ規定ニ抵触シテ認メラレルコトハナイ、其ノ規則ノ範囲ヲ具体的ニ拳ゲルコトハ出来ナイ訳デアリマス、唯現在ノ実情ヲ以テ言ヘバト云フコトニナリマスレバ、是ハ華族ガソレデアリマスルシ、ソレカラ朝鮮ニ関係致シマス特殊ナ貴族ガ存在スル訳デアリマス
○野坂委員 サウスルト現在アル所ノ皇族ト云フモノハ、之ニ入ラナイモノデスカドウデスカ
○金森国務大臣 皇族ハ入ラナイ積リヲ持ツテ居リマス
○野坂委員 第六条ニ「天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。」トアリマス、此処デハ任命ノ認証デハアリマセヌガ、併シ第七条ニ於ケル色々ノ国務ノ中ニ認証ト云フ、例ヘバ官吏ノ任免、公使ノ信任状ノ認証ト云フ言葉ガアリマス、此処デハ何故内閣総理大臣ヲ任命スルダケデアルカ、之ヲ認証ト云フコトニサレテナイノカ、此ノ区別ニ付テ御聴キシタイ
○金森国務大臣 内閣総理大臣ハ結局内閣ノ首班デアリマシテ、特別ニ之ヲ他ト区別シテ、形式的ニ一般ノ国務大臣ト異ナル制度ヲ設クルコトガ適当デアルト思ツテ、斯ウシタノデアリマス
○野坂委員 私ノ今質問シテ居ルノハ、天皇ノ権限ニ付テノ問題ヲモウ少シハツキリスル必要ガアル、ソレデ今質問シテ居ルノデス、第七条ニ「國會を召集すること。」「衆議院を解散すること。」斯ウナツテ居リマスガ、是ハ天皇ガヤラレルノカ、或ハ内閣ガ実際上ニヤルノカ、此ノ点ヲ御聴キシタイ
○金森国務大臣 国会ヲ召集スルノモ、衆議院ヲ解散スルコトモ、此ノ憲法ノ規定ノ下ニ於テハ天皇ガ、第七条ノ最初ノ行ニアリマスルヤウニ、「國民のために、左の國務を行ふ。」トアリマスカラ、天皇ガ行ハセラルルノデアリマス、併シナガラ是ハソコニモ直グ書イテアリマシテ、内閣ノ助言ト承認ニ依ツテ行ハセラルルノデアリマスガ故ニ、実質ノ働キハ内閣ノ助言ト承認ノ中ニ含マレテ居ルコトト思ヒマス
○野坂委員 此ノ天皇ノ問題ニ付テモウ一言御聞キシタイノハ、斯ウ云フ風ニシテ第七条或ハ第六条其ノ他ニ天皇ノ国務トシテ色々アリマス、斯ウ云フ相当沢山ナ国務ガ天皇自体デヤラレルコトニナツテ居ル、サウシタ場合ニ於テハ、是ハ今国務相カラハツキリ御答ヘハ出来ナイデセウケレドモ、大体ノ予想トシテ、サウスレバヤハリ現在ノ枢密院ニ似タヤウナモノ、勿論アレト同ジモノデハアリマセヌガ、斯ウシタモノノ機関ガヤハリ必要ニナツテ来ルノデハナイカト云フ風ナ予想ガ出来マスガ、之ニ付テ御答ヘ願ヒタイ
○金森国務大臣 左様ナ機関ヲ設クルコトハ考ヘテ居リマセヌ、考ヘテ居ナイト云フノハ、今方向ニ迷ツテ居ル、斯ウ云フ意味デハナクテ、サウ云フコトヲ設ケルト云フコトヲ念頭ニ描イテハ居リマセヌ
○野坂委員 天皇ノ問題ニ付テハ大体是レ位ニシテ置イテ、唯一言最後ニ御聴キシタイコトハ、社会党ノ黒田君ガ此処デ申シマシタヤウニ、第七条ノ国務ノ三、四ノ点ニ付テ、之ヲ削除シタ方ガ宜イ、斯ウ云フ見解ヲ持ツテ居リマスガ、之ニ付テ国務相ノ方デハ御賛成ニナルノカナラナイノカ、之ヲモウ一度此処デハツキリシテ戴キタイ
○金森国務大臣 私ハ之ヲ改ムル必要ハナイモノト現在考ヘテ居リマス
○野坂委員 第三章ノ国民ノ権利義務、此ノ問題ニ付テ私ハ本会議デ申シマシタガ、之ニ付テハツキリシタ御答ヘガナカツタノデ、此処デ御聴キシタイノハ、詰リ自由トカ或ハ其ノ外、国民ノ権限ガ与ヘラレテ居ルガ、之ニ対シテ物質的、経済的ノ保障ガナケレバ空文ニ帰スル、少クトモ貧乏人ニハサウナル、斯ウ云フ風ニ申シマシタガ、私ハ此ノ点ガ非常ニ重要ダト思フノデス、斯ウ云フ点ヲ憲法ノ上ニ於テ必ズ規定スル必要ガアル、之ニ依ツテ切メテ我々ハ確信ヲ持ツテ斯ウ云フ自由ガ保障サレル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居マスガ、之ニ付テ斯ウ云フ風ナ条項ヲ補足スル、之ニ付テ金森国務相ノ御意見ヲ御聴キシタイノデス
○金森国務大臣 「ソ」連ノ憲法ノ大体ノ形態ノ如ク、一ツノ権利ヲ掲ゲ、次ニ其ノ権利ヲ具体化セシムルニ必要ナル諸般ノ保障制度ヲ同時ニ憲法ノ条文ニ明カニスルト云フノモ確カニ一ツノ行キ方ト思ツテ居リマス、併シ此ノ憲法ハ其ノ形態ヲ採ラナイノデアリマシテ、保障ノ制度其ノ他ハ更ニ国民ノ与論ヲ現ハス所ノ国会ノ議ニ依ツテ法律其ノ他ノ形態ヲ通シテ必要ナル発展ヲ順次遂ゲ得ラレルヤウニ制度ヲ設ケル方ガ妥当デアルト云フ考ヘ方ノ下ニ此ノ憲法ガ出来テ居リマスカラ、其ノ原理ヲ貫ク限リ、此ノ案ノ如キ姿ニ於キマシテ、趣旨ハ十分貫カレルモノト考ヘテ居リマス
○野坂委員 今ノ点ニ付テ一言私ノ見解ヲ加ヘレバ、ココデ財産権ノ保障ト云フコトハアリマス、是ハ結局財産ノアル者ニ対シテハ非常ニ良イ規定デアル、併シナイ者ニハ是ハ余リ多クノ意味ガナイ、併シ財産ガナクテ働カナケレバ食ヘナイ者ニ取ツテハ、今言ツタヤウナ物質的保障ト云フ規定ガ憲法ニアツテ、初メテココデ彼等ノ実際生活ガ保障サレルト思ヒマス、自由ガ保障サレルト思ヒマス、デスカラ私ノ意見デハドウシテモ斯ウ云フモノガ憲法ノ上ニ加ヘラルベキダト云フ見解ヲ持ツテ居リマス
偖テ其ノ次ノ質問トシテハ国会ニ付テデアリマス、国会ハ唯一ノ立法機関デアル云々トシテアツテ、ココデハ管掌事項ガ具体的ニ少シモ書イテアリマセヌ、是ガナイ為ニ国会ノ権限ト云フモノハ実際上ドウナツテ居ルカト云フコトガハツキリシナイ、ボンヤリシテ居ル、若シサウナレバ国会ノヤル管掌事項ト云フモノハ、結局内閣ガ実際上ニ於テヤツテシマフト云フヤウナ結果ニナラナイダラウカドウカ、ナゼココデ国会ノ管掌事項ヲモウ少シ明確ニ規定サレナイカ、是ハ結局国会ノ力ヲ弱メ、又之ヲ非常ニ漠タルモノニスル、斯ウ云フ結果ニナラナイデセウカ
○金森国務大臣 国会ノ権能ハ必要ナル程度ニ於テ此ノ憲法ニ掲ゲラレテ居ルト思ツテ居リマス、第三十七条ニ立法機関ト云フ大原則ヲ掲ゲマシテ、其ノ外必要ナル所ニ国会ノ権能ガ現ハレテ居リマス、例ヘバ八条ニ於キマシテハ皇室ノ財産ノ範囲、皇室外ニ亙ル財産ノ動キニ付キマシテハ国会ノ議決ニ基カナケレバナラナイ、予算ノ方面ニ於キマシテハ、財政ニ関シテ国会ノ議決ヲ経ナケレバナラナイト云フ風ニ相当細カナル規定ガ設ケテアリマシテ、大凡国会トシテ基本的ニ持タナケレバナラナイ権能ハココニ掲ゲテアリマス、而シテ他ノ面ニ於キマシテ裁判所ハ裁判ヲスルノダ、内閣ハ又行政ヲ所管スルノダト云フ風ニ書イテアリマスルガ故ニ、国会ノ権能ニ付キテノ根本原理ハ明瞭ニナルモノト思ヒマス、而シテ根本以外派生的ナル種々ナル働キト云フモノハ、今後国会ニ関シマスル諸般ノ法律ニ於テ若干ノ具体化ガ現ハルルコトト思ツテ居リマス
○野坂委員 此ノ点ニ付テモ私ノ意見トシテハ、国会ノヤルベキ仕事ノ基本的ナモノヲ、ココニヤハリ列挙シテ之ヲ示スノガ親切デアリ、将来誤解ガ起ラナイシ、又国会自身ノ権限ヲ確保スル上ニ必要ヂヤナイカト思ヒマス
更ニ其ノ次ニ御聴キシタイコトハ、国会議員ニ対スル罷免権ヲ選挙民ガ持ツト云フ風ナ規定ヲココニ設ケテハドウカ、例ヘバ最近政府ノ発表サレタ地方自治、アノ機関ニ於テハ是ガ認メラレテ居ル、ナゼ国会議員ニ於テハ是ハ認メラレナイモノカ、私達ニシテハ是ガ絶対ニ必要ダト思フ、之ニ依ツテ日本ノ本当ノ民主主義的ナ制度ガ行ハレ、又立派ナ代議士モ出テ来ルト云フ結果ヲ導クト思フ、ドウシテ地方自治制ノ方デハ之ヲ認メ、ココデハ認メラレナイカ、之ヲ御聴キシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 一昨日デアリマシタカ此ノ委員会ニ於テ其ノ点ニ付キマシテ相当詳細ニ所見ノアル所ヲ申上ゲタト信ジテ居リマス、国会ト与論トノ間ニ、詰リ選挙民ト国会トノ間ニ意思ガ離反ヲスルト云フコトノ好マシクナイコトハ、是ハ固ヨリノコトデアリマス、其ノ間ノ密接ナル連繋ヲ図ル為ニ種々ナル考慮ヲスベキモノデアルト云フコトハ私ハ十分理解シテ居リマス、併シナガラ其ノ方法ト致シマシテ、何ガ宜イカト云フコトニナリマスルト、今マデ言ハレテ居リマス諸種ノ制度ニハ、ソレゾレ弱点ガアルヤウニ思ハレマシテ、特ニ変ツタ制度ヲ作ラナカツタノデアリマス、随テ此ノ憲法ノ上ニ残ツテ居リマスル制度ハ、解散権ガ最モ顕著ナルモノデアリマスルガ、是ハ今御話ニナリマシタ国民ノ与論ニ依ツテ直接ニ解散ヲスル訳デハアリマセヌ、唯若シモ与論ガ的確ニ――現ニ許サレテ居リ、又今後十分ニ徹底的ニ認メラレル所ノ国民ノ政治的言論ノ自由ト云フコトガ確保セラレマスルナラバ、ソレガ反映シテ必要ナル場合ニ解散権トナツテ現ハレルモノト思フノデアリマス、此ノ案ハ大体其ノ辺ノ所ニ重点ガ置イテアル訳デアリマス、而シテ強ヒテ方法ヲ考ヘマスルト、此ノ前ノ説明ヲ繰返シテ申上ゲルコトニナツテ恐縮デアリマスガ、私共ハ二ツノ方法ヲ考ヘタノデアリマス、一ツハ議員ノ任期ヲ短クスル、選挙ノ常時ニハ恐ラク誰ガ何ト見テモ選挙民ト議員トノ間ニ関連性ガアルコトハ疑ヒガナイノデアリマス、選挙法ガ悪クテモ、一時ノ偶然ニ依ツテ思ヒモ付カヌ結果ニナツタト云フコトハ、是ハ立憲政治ノ上デハ濫リニ主張スベキコトデハナイト思ヒマスガ、ソコデ任期ヲ短ク致シマスレバ、与論ト国会トノ背反スル危険ハ非常ニ少ナクナリマス、例ヘバ一年トシ二年トスル、二年ト云フ実例ハ外国ノ事例ニハアルヤウデアリマス、併シ日本ノ大局ノ政治ヲ考ヘテ見マスレバ、議員ノ任期ガ短イト云フコトハ、ヤハリ議会ノ働キノ上ニ悪影響ヲ齎スノデハナイカ、十分熟練セラレタル行動ノ上ニ本質的ナ自由ヲ持タルルマデ議員ガ就職スルト云フコトハ好マシイノデアリマス、任期ヲ四年ニスルト云フコトハ必要ダラウト思ヒマス、他ノ方面ハ今野坂サンガ仰セニナラウトシテ居ツタト思ヒマスガ、国民ノ投票ニ依ツテ国会議員ヲ全般的ニ罷免スル、一人々々罷免スルト云フ制度ハ多分外国ニモナカツタト思ツテ居リマスガ、全般的ニ罷免スル、詰リ議会ト選挙民トガ相抗争ヲシテ、食フカ食ハレルカ、討取ルカ討取ラレルカト云フ姿ヲ現出スルト云フ一ツノヤリ方デアリマスガ、ソレハ一理ナシトハ致シマセヌケレドモ、与論ガ世ノ中ニ昂マツテ来ルナラバ、左様ナ徒ラニ紛糾ヲ起ス傾向ノ強イ制度ニ依ルヨリモ、モツト長イ目デ見タ政治的ナ動キニ依ツテ問題ヲ解決セシムルコトノ方ガ宜イノデハナカラウカト云フノデ、其ノ規定ハ設ケマセヌデシタ
○野坂委員 私モウ一ツ御聴キシタイコトハ、地方自治体ニハ之ヲ認メル、国会ノ方ハ之ヲ認メナイト云フ理由、之ヲ御聴キシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 地方自治体ト国トハ一寸見マスルト同ジ政治団体デアルト云フ風ニ見エマスケレドモ、是ハ本質的ニ相当異ナツテ居ル点ガアルト思ハレマス、世間ノ政治的ナ批判ガ一方ハ充実シテ居ル、他方ハ地方的デアツテ、言論其ノ他ノ上ニ異ナル場合ガアルト云フコトモアリマセウ、或ハ又一院制度デアリ、二院制度デアルト云フ差カラモ来マセウ、又仕事ノ上ニ監督権ガ何処カニアルカナイカト云フ点モ違ヒマセウ、種々ナル差ガアリマシテ、是ハ一慨ニハ言ハレナイノデアリマシテ、一ツ一ツノ場合ヲ分ツテ論議スルヨリ外ニ途ガナイト存ジテ居リマス
○野坂委員 今ノ点ニ付テ、例ヘバ地方自治体ニ於テハ一般人民ノ監視ノ眼ガ割合ニ緩イ、斯ウ云フ意味ノコトヲ言ハレタト思ヒマスガ、寧ロ反対ニ地方自治体ハ兎ニ角人民ノ目ノ前ニアル機関デ、人民ト最モ密接ニ関係ガアルモノダ、此処デハ一番厳重ナ監視ガ寧ロヤラレテ居ル、国会ハソレヨリモ離レテ居ル、斯ウ云フ場合ニハ国会ニ選バレタ議員ガ仮ニ選挙後ニ於テ不適当ナコト或ハ不正ナコトヲヤル、或ハ選挙民ノ要求スルヤウナコトヲヤツテ呉レナイト云フ場合ニ於テハ、選挙民ノ方ニ罷免スル権限ヲ与ヘル、是ガ私ハ寧ロ当然ナ方法デハナイカ、斯様ニ考ヘマスガ‥‥‥‥
○金森国務大臣 私ハ監視ノ眼ガ緩イトハ申シマセヌデシタ、大体外国ノ事例ヲ見マシテモ、狭イ地域ニ於キマシテハ国民投票ニ依ツテ議員ヲ動カスト云フ制度モアリマスケレドモ、広イ範囲ニ於キマシテソレヲヤルト云フコトハ、ドウモナイヤウデアリマシテ、恐ラク一ツ一ツノ論点カラ来ルノデハナクテ、今ノ地方制度ト国ノ制度、或ハ小サイ国ト大キイ国トニ依ツテ制度ガ起ルト云フコトデナク、モツト広汎ナ体制ガアラウト思フノデアリマスガ、私ハ国ノ制度ニ付テ理由ヲ説明シタダケデアリマシテ、地方制度ニ付キマシテハ、自ら又理由ヲ説明スルノハ、外ノ所管ノ大臣ガヤラレルコトト考ヘテ居リマス
○野坂委員 時間モ来マシタカラ私ハ大体結論ニ近イ質問ヲ致シタイト思ヒマス、是ハ昨日此処ニ配付サレタ英訳文デス、是ハ私ノ知ツテ居ル範囲内デハ、終戦事務局ノ方デ出サレタ、詰リ政府ノ方デ出サレタト云フ風ニ私ハ聞イテ居リマスガ、此ノ点ヲ御聴キシタイ
○金森国務大臣 内閣デ出シタノデアリマス
○野坂委員 サウスルト、此ノ翻訳モ政府ノ責任ニ依ツテナサレタコトト諒解シテ差支ヘナイト思ヒマス、サウスレバ、私ハ本議会デ唯二点ニ付テシカ指摘シテ居マセヌガ、其ノ後之ヲ十分研究スル時間ガアリマセヌ、アレモ偶然ニ私ガ発見シタ違ヒデ、是ハ英訳ノ誤訳デセウガ、例ヘバ小サイ点デアルケレドモ、本会議デ問題ニシタヤウナ問題ガアル、アア云フ風ナ誤訳ガ此処ニアル、是ガ外国ニ皆渡サレテ、外国人ハ之ニ基イテ日本ノ憲法ヲ理解シテ居ルト思フ、サウ云フ場合ニ於テ、日本ノ原文トココニ違ヒガアル、本会議デ私ガ申上ゲマシタヤウニ、此ノ英文ノ翻訳ヲ見ルト洵ニ民主的ナヤウニ見エル、併シ原文ヲ見ルト、ドウモ色々ナボカシガアル、而モ或ル一ツノ点ニ於テハ明カニ誤訳ト云フ点ガ出テ来ルト思フ、之ニ付テ政府ハ責任ヲ当然持タルベキモノダト思ヒマスガ、是ガ一ツ、第二ハ之ニ依ツテ外国人ヲ誤マラシメルト云フ事実ガアレバ、之ニ付テモ政府ハ責任ヲ当然持タルベキダト思フガ、此ノ点ヲ一ツ‥‥
○金森国務大臣 言フマデモナク此ノ憲法ノ案ノ本体ハ日本文デアリマシテ、議会ニ付議セラレテ居リマスノモ、日本文其ノモノデアリマス、英文ハ事務ノ便宜ノ為ニ唯事務当局ヲシテ翻訳ヲセシメタノニ過ギマセヌ、併シナガラ固ヨリ政府トシテ政府ノヤツタ行為ニ付テ其ノ責任ノアルコトハ当然デアリマスガ、ソレハ唯事務ノ参考ニ拵ヘタ書類トシテノ責任デアルト云フコトヲ一言申上ゲテ置キマス、サウシテ更ニ野坂君ガ内容ガ違ツテ居ルト仰セニナリマシタガ、日本語ト英語ト云フモノハ語脈モ違ヒ、色々ナ文章ノ書キ方モ違フ、サウ云フ言葉ノ違フコトカラ来ル色々ナ障壁ヲ通リ越シテ、完全ニ如何ナル角度カラ見テモ一致スル翻訳ト云フモノハ相当困難ナコトト思ヒマス、随テ左様ナ点カラ来ル或ル見方カラ見テ少シク英訳ノ方ガ日本文ニ旨ク合ツテナイヂヤナイカト云フ風ナ御議論ノ起ルコトハ考ヘラレマスガ、野坂君ノ是モ本会議デ御指摘ニナリマシタヤウナ点ガ、外国人ニ誤解ヲ与ヘルトカ云フヤウナ点ハ、私ハ承服致シ兼ネマス
○野坂委員 勿論英訳ト日本語原文ト総テガピツタリト云フコトハ出来ナイデセウガ、併シ私ノ唯偶然発見シタコトデモ、九十五条ノ点ニ於テ日本語デハ明カニ及ビト云フ字ニナツテ居ル、併シ此方デハ及ビト云フノガ全然ナイ、是ハ簡単ナヤウデ実ハ簡単デナイ問題ダト思フ、之ニ依レバ、英文デハ天皇ヲ含メテ公務員ト云フ形ニナツテ居ル、日本文デハ明カニサウデハナイ、別個ノモノトナツテ居ル、是ナドハ些細ナ違ヒノヤウデアルガ、併シ外国人ハ此ノ英文シカ見ナイト思フノデス、此ノ場合ニ於テ、斯ウ云フ風ナ誤謬ガアルト云フコトニ付テハ、是ハ単ナル事務上ノ錯誤デハナクテ、政府トシテ或ル政治的ナ責任ヲ執ラルベキ性質ノモノデハナイカト私ハ考ヘル
○金森国務大臣 九十五条ノ英文ノ方ガ誤訳ニナツテ居ルト云フ風ニ御指摘ニナリマシタケレドモ、私ハ誤訳トハ思ツテ居リマセヌ、英文ノ言葉ト日本文ノ言葉トノ間ニ誤訳ト指摘サレル程ノ差ガナイノデアリマシテ、英文ノ方ガ及ビヲ略シタト云フコトハ、唯英文ノ恐ラクハ語脈ニ依ツテサウ云フ風ニナツタト思ヒマス、野坂君ガ重点ヲ置カレマスルノハ、「その他の公務員」トアル其ノ言葉ニ依ツテ、天皇モ亦公務員デアルト云フ風ニ英文デ読メル、斯ウ云フ御趣旨カラ来テ居ツタヤウニ思ヒマス、詰リ最後ノ所ニ「その他」トアレバ、其ノ前ノ方ニアル色々ナ文字ハ全部公務員ノ中ニ包括サレテ居ル、言換ヘマスルト、甲、乙、丙、丁其ノ他ノ戊、斯ウ云フ文章ヲ用ヒマスルト、甲、乙、丙丁悉ク戊ノ中ニ含マレテ居ルノダ、斯ウ云フ前提カラ出発サレテ居ルト思ヒマスルガ、日本文ハ必ズシモサウ云フ構造ハ持ツテ居ナイト云フ風ニ考ヘテ居リマス、「その他」ト云フノハ、ソレヨリモ前ニアル色々ナモノノ中ニ於キマシテ、此ノ範疇ニ此ノ場合デ言ヘバ、公務員ト云フ範疇ニ該当スルモノヲ眼ノ中ニ置イテ、「その他の公務員は、」ト云フノデスカラ、前ニ公務員デナイモノガ並ベテアリマシテモ、文章トシテハ立派ニ成立スルモノト思フノデアリマス、斯様ナ書キ方ハ他ニモ例ガアルヤウニ思ヒマス、例ヘバ此ノ憲法ノ第二十八条ニ於キマシテ「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」斯ウ云フノデモ、私ノ解釈ニ基キマスレバ、生命若シクハ自由ヲ奪ハレルコトハ全部刑罰デアル、斯ウ云フ前提カラハ来テ居リマセヌ、刑罰以外ニ生命、自由ヲ奪ハレマス場合デモ、ヤハリ第二十八条ハソコニ意味ヲ持ツテ居ル、斯ウ云フ考ヘ方デアリマス
○野坂委員 モウ一言、ソレデハ例ヘバ此ノ前文ノ中ノ初メノ方ニ、日本文デハ「ここに國民の總意が至高なものである」云々、斯ウアリマス、併シ英訳文デハ「ソヴァレンティ・オヴ・ザ・ピープルス・ウイル」人民意思ノ主権トカ、ハツキリ人民ニ主権ガアル、斯ウ云フ風ニ読メル、併シ日本ノ原文ニ依ルト非常ニボカサレテ、是ガ本会議デモ此ノ委員会デモ屡々繰返シテ質問サレテ居ル、原文デハ非常ニボンヤリシテ居ル、英語デハ非常ニハツキリシテ居ル
○金森国務大臣 其ノ点ハ私ハ非常ニ御質問ノ趣旨ニ付キマシテ実ハ了解ニ苦シムノデアリマスガ、度々申シマシタヤウニ、主権ト云フ言葉ニハ日本ニ色々ナ使ヒ方ガアル、憲法ノ第二章ニ書イテアリマス「主權」ト云フ言葉、ソレカラ前文ノ「自國の主權」トアリマス其ノ主権ト云フノハ、必ズシモ至高、最高ト云フ意味ノ字デアリマセヌ、持ツテ居ル意思ト云フヤウナ意味デス、国ノ意思或ハ自国ノ意思ト云フ所ニ中心点ヲ置イテ居ルノデアリマス、ソレカラ「國民の總意」ト云フ所ニアリマス、其ノ意味ハ、国民ノ総意ガ国ノ意思デアル、コンナ意味デハ固ヨリアリマセヌ、国民ノ意思ガ最高デアルト云フコトガ根底デアル、其ノ最高デアルト云フ言葉ヲ外国語デ表ハス時ニ「ソヴァレン」ト云フ、「ポーダン」以来ノ一ツノ沿革ノアル文字ヲ用ヒルト云フコトハ、是ハ英語ニ訳ス人ノ普通ノヤリ方ダラウト思フノデアリマス、而シテココニ至高ノ意思ト云フコトト、「ソヴァレン・ウイル」ト云フコトノ間ノ意味ノ上ノ差ガアラウトハ思ヒマセヌ
○野坂委員 此ノ問題ニ付テハ私ハ是レ以上質問シマセヌ、若シ将来又仮ニ英文ト日本原文トノ間ニ相違ガアルト云フヤウナコトガアレバ、其ノ時ニモウ一度私ハ委員会デ御質問シタイト思ヒマスガ、唯一言モウ一度念ヲ押シテ置キタイコトハ、斯ウ云フ風ニ日本文ト英文トノ間ニ或ル種ノ相違ガアル、若シ金森国務相ノ言ハレタヤウニ、国民ノ総意ガ至高ナモノデアルト云フナラバ、其ノ通リ英訳サレタ方ガ実ハハツキリスルト思ヒマス、「ソヴァレンティ」斯ウ云フヤウナ言葉ヲ使ハズニ、新シイ言葉デモ斯ウ云フ厳密ナ場合ニハ使ツテ差支ヘナイト私ハ思フ、併シ今マデノ主権ト誰モ理解スルヤウナ英語ガ用ヒラレテ居ル、斯ウ云フ風ニシテ、若シ英語ニ依ツテ外国人ニ或ル誤マツタル、或ハ正確デナイ考ヘヲ与ヘルト云フ風ナコトハ、当然我々ハ避クベキコトデ、此ノ点ニ付テハ政府ノ方デモ十分厳密ニ注意シテ戴イテ、若シマダ英訳文ニ於テ誤リガアレバココデ急速ニ正ス義務ガアルノデハナイカト思ヒマス、是デ私ノ質問ハ終リマス
○芦田委員長 午後ハ一時半ヨリ会議ヲ開キマス、是ニテ休憩致シマス
午後零時十七分休憩
――――◇―――――
午後一時四十分開議
○芦田委員長 休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――三浦寅之助君
○三浦委員 本会議以来連日ノ政府ノ御答弁並ニ議員側ノ質疑等ニ依リマシテ、色々論議ヲ取交ハサレタノデアリマスガ、殊ニ其ノ中心ニナツテ居ル所ノ天皇制問題ヲ繞リマシテ、凡ユル意見ヲ拝聴致シタノデアリマス、併シナガラ申スマデモナク憲法ハ国家ノ根本法規デアリマシテ、其ノ解釈ハココニ提起サレマシタ答案ヲ基礎トシテ、私ハ此ノ文理的解釈ヲ誰デモ分ルヤウニ、又一面文面ノ解釈ニ依ツテ解釈シ得ル所ノモノタラシムルコトガ最モ妥当デアルト信ズルモノデアリマス、其ノ意味ニ於キマシテ、連日ノ質疑応答ヲ見マシテモ、其ノ中心トナツテ居ル所ノ主権ノ問題、殊ニ天皇ノ問題ニ付キマシテハ、マダハツキリトシタ明確ナ点マデ行ツテ居ラナイヤウニ考ヘルノデアリマス、既ニ多クヲ論議サレタノデアリマスルカラ、一々又私ガ其ノ意見ヲ申上ゲヨウトハ考ヘマセヌ、唯私ハココデ第一章ノ天皇ノ地位ノ問題ニ付テ結論ヲ聴イテ置ク必要ガアルト存ズルノデアリマス、私ハ天皇ノ地位ニ付キマシテ、少クトモ此ノ憲法草案ヲ見マシタ際ニ於キマシテ、単ニ天皇ノ地位ヲ国民ノ中ニ包含サレルト云フダケノ一点張ノ解訳ニ依リマシテハ、此ノ憲法草案ヲ見テハ、ドウモ納得ガ行カナイヤウニ考ヘルノデアリマス、少クトモ此ノ憲法草案自体ヲ見マシタ場合ニ於キマシテハ、天皇ノ地位ハ単ニ一ツノ解釈スルニアラズシテ、少クトモ三ツノ解釈ヲ持タナケレバ解釈ハ出来ナイヂヤナカラウカト思フノデアリマス、即チ第一ハ此ノ第一章一条ニ掲ゲマス所ノ此ノ日本国ノ象徴デアリ、日本国民統合ノ象徴デアルト書イテ居ルヤウニ、象徴デアル所ノ地位デアリマス
次ニハ各条文ニ現ハレテ居ル所ノ国務ヲ行フ所ノ地位デアリマス、即チ天皇ノ国務ニ関スル総テノ行為ハ内閣ノ助言ト承認トヲ必要トシ、内閣ガ其ノ責任ヲ負フトアルノデアリマス、此ノ三条カラ以下四条ニ於テ「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、」云々、ソレカラ第六条、七条、総テヲ通ジマシテ国務ヲ行フ地位ト、モウ一ツハ金森国務大臣ガ繰返サレテ居ル国民ノ中ニ包含スル所ノ地位デアリマス、少クトモ私ハ此ノ三ツノ場合ヲ考ヘナケレバ、天皇ノ地位ハ考ヘラレナイト思フノデアリマス、併シナガラ私ハ天皇ハ決シテ国務大臣ガ御答弁ナサレマスルヤウニ、国民カラ離レタモノトハ考ヘマセヌ、又一部ノ人ガ議論サレルヤウニ、天皇ト国民ノ地位ヲ別個ニ考ヘルトモ考ヘマセヌ、要ハ私ハ天皇ト国民トハ丁度一本ノ扇ニ譬ヘマスルナラバ、天皇ノ地位ハ扇ノ要デアリ、一般国民ハ、其ノ他ノ部分ニ当ルト云フヤウニ、天皇ト国民トハ総合的、有機的一体ヲ成スモノデアルト解釈スベキデアラウト思フノデアリマス、斯ウ云フヤウニ、此ノ三ツノ場合ヲ分ケルコトモ出来ルシ、同時ニ又私ハサウ云フ風ニ総合的一体トシテ天皇ヲ此ノ扇ノ要ノ地位ニ譬ヘテ解釈スルナラバ、自ラ私ハ天皇ノ地位ニ付テモハツキリトシテ来ルシ、色々議論サレテ居ル所ノ選挙権ノ問題デアルトカ総テノ問題ニ付テモ、分リ易ク説明ガ出来得ルト思フノデアリマス、殊ニ本会議以来日本ノ国体ニ付テ君民一体、君民一如ノ国体ト説明シテ居ルコトモ、斯ウ云フヤウナ点ニ於テ解釈出来ルト思フノデアリマス、強ヒテ之ヲ何デモ彼デモ国民ノ中ニ包含スルト云フコトニナリマスルト云フト、連日繰返サレテ居ル所ノ色々ナル難カシイ結論ニ達スルト思フノデアリマスガ、此ノ点ニ対スル所ノ金森国務相ノ御意見ヲ承リタイノデアリマス
続イテ同ジデアリマスルカラ承リマスガ、先程野坂代議士ノ意見ノ中ニモアリマシタガ、此ノ皇族ノ地位ガ包含サレルカドウカト云フコトガアリマシタノニ対シテ、国務大臣ハ、天皇ノ地位ニハ包含サレナイト御答弁デアリマシタ、私ハ是ハ至極御尤モト考ヘテ居リマスガ、併シナガラ何ガ故ニ此ノ皇族ガ此ノ中ニ包含サレナイカト云フコトヲ、先ヅハツキリシテ置カナイト云フト、色々誤解ヲ受ケヤウト思フノデアリマス、第十三条ノ中ニ皇族ガ包含サレナイ、併シナガラヤハリ国民ノ中ニハ皇族モ勿論含ムト思フノデアリマス、私ハ此ノ皇族ト申シマスル際ニ於キマシテ、少クトモ皇族ニハ第二条ニアリマスル所ノ此ノ皇位ノ継承ノ問題、或ハ第五条ニアリマスル所ノ摂政ノ問題ト云フヤウナ特殊ナ地位ガ認メラルルヤウニ考ヘルノデアリマス、同時ニ又私ハヤハリ日本ノ伝統的立場カラ、又憲法ノ此ノ草案ノ精神カラ、日本ノ国体ノ立場カラ考ヘマシテ、ヤハリ私ハ皇族ノ地位ハ天皇ト同一地位ニアルモノデアルト云フヤウニ解釈スベキデアルト考ヘルノデアリマスガ、若シサウシナカツタナラバ不都合ナ点モ出来ルシ、色々困ル問題モ出来ルシ、又私ハ此ノ日本ノ君民一体ノ国体ニモ副ハナイト考ヘルノデアリマス、併シ此ノ点ハ皇族ノ地位ニ付テ本会議以来、此ノ委員会等ニ於キマシテモ、マダ明確ヲ欠イテ居ルガ故ニ、此ノ機会ニ其ノ点モ明確ニシテ貰ヒタイト思ヒマス、先ヅ此ノ点カラ伺ヒマス
○金森国務大臣 御尋ネニナリマシタ点ハ、大体ニ於キマシテ総テ御質疑ノ中ニオ盛リ込ミニナリマシタ御意見ノ通リト思ツテ居リマス、天皇ノ御地位ニ付キマシテハ三ツノ分類ヲサレマシタ、象徴タル地位ト、此ノ条文ニ現ハレタル国務ヲ担任セラルル地位ト、根本ニ於テ国民ノ中ニ含マレツツ扇ノ要ノ如キ地位ヲ御持チニナルト云フ風ニ御説明ガアリマシタガ、言葉ノ譬ヘ方コソ違ツテ居リマスルケレドモ、私ノ考ヘル所ト同ジト存ジテ居リマス、皇族ノ地位ニ付キマシテハ、未ダ議場ニ於テ御答弁ヲ致シマスル機会ハナカツタノデアリマスルガ、仰セニナリマシタヤウニ、天皇ノ御地位ト密接ナ関連ヲ持チ、皇位継承、摂政ト云フコトトモ亦密接ナ関連ヲ持ツテ居ル皇族ガ、特殊ナル地位ヲ御持チニナルコトハ、固ヨリ当然ノコトデアリマシテ、具体的ナコトハ皇室典範ニ依ツテ定メラルルコトニナラウト思ヒマス、此ノ憲法ノ含ンデ居リマスル基本ノ考ヘ方ガ、民主政治ノ徹底ト云フコトデアリマス為ニ、皇族ノ種々ナル方面ノ地位ニ付キマシテ、法律ノ定ムル、即チ皇室典範ノ定ムル所等ニ依リマシテハ相当ノ違ヒ方ガ起ツテ来ルコトハ予想セラレ得ルコトト思フノデアリマス、ソレハ此ノ憲法ノ中ニモ幾分姿ヲ現ハシテ居ルノデスガ、財産ニ関スル制度、皇室費ニ関スル制度ト云フモノト関連ヲ致シマシテ、色々考ヘナケレバナラヌ点ガアラウト存ジマスガ、ソレハ何レモ後ニ御協賛ヲ仰グニ至ルデアラウト思ヒマスル皇室典範ノ中ニ盛リ込マレル筈デアリマス
○三浦委員 次ニ戦争抛棄ノ第二章ノ点デアリマスガ、世界恒久ノ平和ヲ布ク為ニ於キマシテモ、又平和主義、自由主義、民主主義ヲ確立致シ、国際信用ヲ回復致シマシテ、世界ノ連合ノ中ニ入ラナケレバナラナイ日本ノ立場カラ見マシテモ当然ノ規定デアリマスガ、唯此ノ規定条項ニ於キマシテ、積極的ニ戦争防止ノ根源ニ対スル所ノ問題ヲモウ少シ深ク考ヘナケレバナラナイノデハナカラウカト思フノデアリマス、日本ガ世界カラ侵略国或ハ好戦国ノ如キ誤解ヲ受ケ、或ハ今日ノ如キ惨メナル敗戦ノコトニ至リマシタコトヲ遠ク遡ツテ考ヘテ見マスト云フト、日本ノ頼朝以来ノ幕府政治或ハ近クハ徳川三百年ノ武家政治、アア云フヤウナ封建政治カラ原因シマシテ、国民ト懸ケ離レマシタ所ノ特権階級トデモ申シマセウカ、武士階級ダケニ依ツテ日本ノ政治ガ壟断セラレテ、国民ニハ何等人権ノ保障ノナカツタ時代カラ引続キマシテ、明治ノ大維新、大革命ヲ機会トシマシテ、日本ハ一時ハ人権ノ尊重、或ハ民主主義的ナ、或ハ国民ノ権利ガ尊重サレルコトニナツタノデハアリマスルケレドモ、併シナガラ明治二十二年ノ憲法施行以来五十数年ノ日本ノ議会政治ナルモノハ、名ハ議会政治デアルケレドモ、其ノ実体ハ軍閥政治デアリ、軍閥ニ操ラレ、或ハ官僚財閥ニ依ツテ日本ノ政治ガ壟断セラレテ、真ノ日本ノ政治ノ姿ヲ現ハスコトガ出来ナカツタト云フヤウナ点ニ於テ、日本ガ外国カラ此ノ誤解ヲ受ケ、或ハ今日ノ結果ヲ生ンダトシマスナラバ、少クトモ今日此ノ根本原因マデ十分ニ掘下ゲテ、サウシテ此ノ問題ノ解決ヲシ、日本ノ国際信用ヲ回復シナケレバナラナイコトハ当然デアルト信ズルノデアリマス、「ポツダム」宣言受諾以来降伏シマシタ日本ガ、其ノ当然ノ帰結トシマシテ軍閥ハナクナリ、或ハ財閥モ解体セラレ、或ハ、官僚ニ対スル所ノ論議ハマダ尽キマセヌケレドモ、斯ウ云フヤウニ此ノ問題ヲ考ヘマスル際ニ於キマシテ、此ノ根本原因ヲシテナクス為ノ手段方法モ、此ノ第二章ニ書イタナラバドウカト云フヤウナ気モスルノデアリマス
モウ一ツハ、全部ノ武力ノ抛棄ハ勿論、武力ガナクナルコトハ当然デアリマスガ、唯考ヘテ見マスト、国内ノ治安ガ紊レマシタ際ニ於キマシテ、或ハ一朝天災等ノアリマシタ場合ヲ想ヒ起シマシテ、流言蜚語等ガ飛ンデ国内ノ治安ガ紊レ、或ハ国内ノ騒擾ノ起キタ場合ニ於テ之ヲ如何ニスルカト云フヤウナコトモ考ヘラレナイ訳デハナイノデアリマス、御承知ノ通リ大正十二年ノ京浜地方ノ大震災ノ際ニ於キマシテ朝鮮人ノ問題、アノ流言輩語ニ依ツテ国内ガ非常ニ動揺シタコトハ御承知ノ通リデアリマス、アノ当時戒厳令ガ布カレタヤウデアリマスガ、勿論今日ニ於キマシテハ戒厳令ト云フモノハ絶対ニナクナラナケレバナリマセヌシ、考ヘラレマセヌ、唯斯ウ云フヤウナ将来国内ニ於ケル所ノ不安状態、治安ノ紊レタル際ニ於キマシテ、如何ニシテ完全ニ国内ノ治安ヲ確保スルカ、斯ウ云フ場合ヲ当局ハ如何ニ考ヘテ居ラレルカト云フコトモ、此ノ際御説明ヲ承リタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 憲法第二章ノ規定ハ、言葉ハ簡単デアリマスケレドモ、其ノ中ニ於キマシテハ、国家ノ運命ヲ賭シテ世界ノ平和ヲ主張スルノデアリマシテ、其ノ世界ニ対スル、又世界ノ文化ニ対スル日本ノ態度ヲ正シク明カニスルト共ニ、一枚ノ紙ニモ裏表ガアルガ如クニ、此ノ規定ヨリ来ル所ノ幾多ノ不便ト云フヤウナコトハ、又覚悟シナケレバナラヌ訳デアリマス、大体此ノ規程ノ文字ハ簡単デアリマスルケレドモ、一ツ一ツ精密ニ考ヘテ見マスルト、非常ナ内容ヲ持ツテ居ルモノデアリマシテ、之ヲ実際ノ面デ趣旨ニ合フヤウニ国ノ一般政治ヲ動カシテ行キマス為ニハ、各般ノ制度ニ留意ヲセネバナリマセヌ、其ノ留意ヲシナケレバ此ノ趣旨ハ貫カヌト思フノデアリマス、デアリマスカラ此ノ趣旨ヲ実現致シマスル為ニ、教育或ハ国民ノ文化的方面ノ発達、其ノ他考ヘ得ル一切ノ手段ヲ以テ此ノ内客ヲ実現スベキデアルト思ツテ居リマス、サウシテ此ノ第二項ニ基キマシテ、必要ナル場合ニ国家ノ治安ヲ如何ニシテ擁護スルカト云フ点ニ付キマシテハ、軍隊ガナクトモ国内ノ秩序ヲ必ズシモ維持シ得ザル訳デハアリマセヌ、一般行政ノ範囲内ニ於キマスル諸種ノ自治力、主トシテソレハ警察力デアル訳デアリマスガ、ソレヲ非常ニ注意深ク育成シ、利用致シマスルナラバ、自ラ此ノ目的ヲ達シ得ルト思フノデアリマス、更ニ其ノ方法ヲ以テシテ如何トモスベカラザル場合ガ想像的ニ起ルカモ知レマセヌケレドモ、サウ云フ時ニハ国民各自ノ努力ニ依ツテ其ノ難局ヲ打開シテ行クベキモノデアルト考ヘテ居リマス
○三浦委員 次ニ第三章ニ入リマスガ、昨年ノ七月ノ二十六日ニ連合国側ノ発表致シマシタ日本ニ対スル最後ノ通牒タル所謂「ポツダム」宣言ハ、同八月十五日日本政府ニ依ツテ完全ニ受諾サレマシテ、降伏シタ日本ハ此ノ「ポツダム」宣言ヲ無条件ニ履行スベキ立場ニ置カレルコトハ申スマデモナイノデアリマス、此ノ日本ノ降伏条件ハ、之ヲ受諾シタ日本ニ取リマシテハ、正ニ絶対命令デアリマシテ、此ノ条項ハ日本ノ憲法、法令並ニ其ノ他一切ノ権威ノ上ニ立ツト云フコトハ、是レ亦当然デアリマス、斯ウ云フヤウナ立場ニ立ツテ考ヘマスルナラバ、私ハ既ニ此ノ国民ノ権利義務ト云フヤウナ基本的人権ノ問題或ハ其ノ他ニ付キマシテモ、此ノ趣旨ニ依ツテ立派ニ保障セラレ、或ハ之ニ依ツテ我々ガ安心シタ生活ヲ守ルヤウニナラナケレバナラナカツタト思フノデアリマス、既ニ昨年ノ八月十五日以来今日マデニ果シテ此ノ「ポツダム」宣言ノ条項ニ基イタ所ノ政策ガ日本ニ執ラレテ居ルカドウカ、又当局者ハ此ノ条項ニ基キ、此ノ精神ニ基イテ総テノ国政運用ニ当ツテ居ルノカドウカト云フコトヲ、先ヅ最初ニ御尋ネシテ見タイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 御尋ネノ此ノ権利保障ニ関シマスル基本ノ考ヘ方ハ、現在ノ種々ナル政策ノ基本トシテ尊重シテ施行シテ居ル次第デアリマス
○三浦委員 政府ニ於キマシテ一心ニ其ノ趣旨ニ基イテ履行サレルト云フコトヲ申サレマシタガ、私ハ多クヲ申上ゲナクトモ、疑ヒヲ狭ム点ガ多々アルノデアリマス、併シソレハ時宜ヲ追ウテ質問致ス中ニ包含スルコトニ致シマスガ、殊ニ此ノ住居ノ問題デアリマス、第二十条ノ「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移轉及び職業選擇の自由を有する。」之ヲ先ヅ一ツ取ツテ考ヘテ見マシテモ、果シテ政府ハ此ノ居住ノ問題ニ付テドレ程ノ考慮ヲ払ツタデアリマセウカ、本委員会等ニ於キマシテモ、本会議等ニ於キマシテモ、農民ノ小作権ノ問題ニ付キマシテハ多ク論ゼラレタヤウデアリマス、小作権確立ノ問題ニ付テ論議サレマシタ、農民ノ小作権ノ確立ト共ニ、都会地ニ於テハ少クトモ此ノ居住権ノ確立ト云フコトハ、最モ重要デアルコトハ議論ノ余地ハナイト思フノデアリマス、然ラバ居住権ノ問題ニ付キマシテハ、住居ノ自由ハ認メラレテモ、実際ニ於テ住ム所ノ家屋ハナイ、土地モナイ為ニ彷ウテ居ル所ノ戦災者ノ如何ニ多イカト云フコトハ、御承知ノコトダト思ヒマス、此ノ都会地カラ疎開致シマシタ人々ハ、疎開地ニ於キマシテハ、疎開者ト云フ所ノ一種ノ軽蔑ヲ以テ見ラレ、同居マデモ拒マレテ住居ニ悩ンデ居ル、戦災地ノ人々ハ住居ガナクテドレ程苦シンデ居ルカ知ラナイ、一軒ニ三世帯モ四世帯モ住ンデ居ル、三畳ノ間ニ三人モ四人モ生活シテ居ルト云フコトハ御承知ノコトダト思ヒマス、而モ此ノ居住権ノ問題ニ於キマシテ、特ニ考ヘサセラレルコトハ、折角借リテ入ツテ居テモ、段々家主ガ帰ツテ来レバ、其ノ明渡シヲシナケレバナラナイ、現在ノ法律ノ規定デハ、六箇月ノ期間ヲ置ケバ正当ノ理由ガアレバ明渡シガ出来ルヤウニ書イテアルヤウデアリマス、六箇月位ノ保障デ一体居住権ノ保障ガ出来ルデアリマセウカ、又土池ヲ借リテモ地主カラ土地ノ明渡シヲサセラレル、焼ケタ跡ニ戻ラウトシテモ、地主ハソレヲ認メテ呉レマセヌ、強ヒテ認メテ貰ハウト思ヘバ、莫大ナ権利金ヲ取ラレル、アノ戦災地ニ於ケルアノ焼「トタン」ノ生活ヲ政府ハ何ト見ラレテ居リマス、昨年ノ八月カラ蚊帳モナイ、蒲団モナイ、衣類モナイ、燃料モナイ所ニアノ冬ヲ越シテ、一枚ノ焼「トタン」デ風ガ吹ケバ吹飛バサレルト嵐ニナレバ潰レルト云フコト、此ノ問題ニ対シテ、此ノ沢山アル所ノ戦災「バラック」居住者ニ向ツテ、当局ハドンナ施設ヲシテ居ルカ、或ハ言フデアリマセウ、当局ハ簡易住宅モ拵ヘタ、或ハ遊休建物ニ対シテモ之ヲ一生懸命住宅営団アタリニ莫大ノ金ヲ出シテ収容スベク努力シタト言フデアリマセウ、併シナガラ住宅営団ガ簡易住宅ヲドレ程拵ヘマシタカ、住宅営団ニ莫大ナル補助金ヲ出シタケレドモ、住宅営団ハドレ程仕事ヲシタデアリマセウカ、殆ド問題デアリマセヌ、私ヲシテ言ハシムルナラバ、住宅営団ニ出スダケノ莫大ナ補助金ヲ以テ、アノ資材ヲ集メテ、アノ戦災「バラック」居住者ニ対シテ、二坪位ノ「バラック」修理ニ必要ナ資材ヲヤツテ御覧ナサイ、其ノ人々ハ其ノ資材ニ依ツテ自分デ修理シテドウヤラ斯ウヤラ住ム家ガ出来ル訳デアリマス、アノ戦災「バラック」居住者ニ対スル住居ノ保障ハ何等――何等ト言ツテハ語弊ガアルカ知レマセヌケレドモ、今日洵ニ惨メナル所ノ状態ニ置カレテ居ル、而モ又アノ戦災ニ依ツテ一物モナク焼カレテ居ル、焼カレタ人間ノ立場ニナツテ考ヘテ貰ヒタイ、私モ全部焼ケテ居ルカラ其ノ体験ハ能ク営メテ居ル、焼ケタ後ニ於テ茶椀一ツ、剃刀一本ナシ、或ハ箸一本ナイ所ノ生活カラ起チ上ル場合ニ於テ、政府ハドレ程ノコトヲシテ呉レマシタカ、是等ノ居住権ノ保障ニ対シテ、ドレ位保障シテ呉レマシタカ、折角火災保険ニ入ツテ居ツテモ最初ハ三千マデ、最後ニハ五千円マデハ呉レマシタガ、ソレデ茶椀一ツ箸一本買ツテ其ノ外ノモノヲ買ツタラドレ程残リマスカ、或ハ言フデアリマセウ、戦災者ニ向ツテハ色々ノ配給ヲシタ、公平ニ全部配給シタト、併シ本当ニ困ル人ニ恐ラクドレ位出シテ居リマスカ、ソレハ殆ド物ノ数デハナイノデアリマス、今日ノ毎日新聞ニ此ノ住宅問題ヲ書イテ居ツタヤウデアリマスガ、アノ遅々トシテ進マナイ住宅問題ノ解決ニ対シ、此ノ居住権ノ問題ニ対シテ、ドウ云フヤウナ施設ドウ云フヤウナ御考ヘガアルカ、而モ此ノ保障ト云フモノガ今日マデ正ニ一年ニナルニ拘ラズ洵ニ進マナイコトカラ見ルナラバ此ノ憲法ガ通過致シマシテ、此ノ憲法が成立致シマシテ、居住ノ自由ヲ我々ガ認メラレタカラト云ツテ、果シテドレ程我々ノ居住権ノ保障ガナシ得ルデアリマセウカ、私ハ此ノ際ニ於キマシテ理窟ヲ申上ゲルノデハアリマセヌ、少クトモ我々ガ安心シテ居住スル所ノ居住権ノ保障ヲ政府ハ如何ニ考ヘテ居ルカト云フコトヲ御答弁ヲ承リタイト思フノデアリマス
○河合国務大臣 戦災者ガ非常ニ苦境ニ立ツテ居ルコト、或ハ御質問ハアリマセヌケレドモ、引揚者ニ対スル問題ナドニ付キマシテ、生活保障ノ見地カラ今度ノ議会ニハ色々提案致シマシテ、出来ルダケ努力致ス積リデ居リマス、住宅ノ問題ハ実ハ戦災復興院ノ所管ニナツテ居リマスノデ、私カラ一寸御答弁申上ゲ兼ネマス、ドウカ悪シカラズ
○芦田委員長 政府ニ申シマスガ、国務大臣ガ出テ居ラレルヤウデアリマスカラ、所管外ノ国務大臣カラデモ一応ノ御答弁ガアリマスカドウデスカ、若シ答弁ヲ今ナサルコトガ都合ガ悪ケレバ回答ヲ他日ノ機会ニ留保シテ御答ヘニナツテ宜シイト思ヒマス
○金森国務大臣 今縷々御質問ニナリマシタガ、憲法ヲ説明致シマス限リニ於キマシテハ、居住ノ自由ト申シマスルコトハ、少シク御質問ノ趣旨ト違フヤウニ思フノデアリマシテ、憲法デハ人ガ居住セントスル行為ヲ国家ガ妨ゲテハナラナイ、之ヲ若シ妨ゲル場合ガアリトスレバ、公共ノ福祉が害ナハレルコトニナルノデアル、斯ウ云フ趣旨デゴザイマシテ、憲法ノ範囲ニ於キマシテノ御答ヘハ之ヲ以テ一応趣旨ヲ達スルモノト思ヒマス、併シ色々中ニ於テ御述ベニナリマシタ諸種ノ手段ハ、実ハ私モ焼カレテ殆ド居ルニ所ナク、上カラ下マデ借着デ今日来テ居ル次第デアリマシテ、十分御同情ハ申上ゲルノデアリマス、併シ已ムニ已マレヌ色色ナ国家ノ置カレテ居ル立場モアリマスノデ、所管大臣ニ御趣旨ノアル所ヲ詳シク述ベテ、其ノ御努力ヲ御願ヒシテ置ク積リデアリマス
○三浦委員 ソレデハ是レ以上申上ゲマセヌガ、唯此ノ居住権ノ確立ヲスルト云フコトヲ何等カモウ少シ憲法ノ条文ニ入レテ戴クナラバ大変有難イト考ヘルノデアリマス
次ニハ二十二条ノ問題ニ絡ミマシテ、日本ノ家族制度ノ問題ニ付テ御伺ヒ致シマス、家族制度ノ間題ハ、慥カ本会議カ何処カデ触レタヤウナ気ガスルノデアリマスガ、洵ニ申訳ナイノデアリマスガ、私ハハツキリ聴イテ居ラナカツタノデアリマス、日本ノ伝統的立場カラ申シマシテモ、日本ガ家族制度ノ国デアリマシテ、是カラ総テノ我我日本国民ノ生活ノ基礎ガ出テ居ルノデハナイカト考ヘテ居ルノデアリマス、併シ此ノ草案カラ見マシテ、家族制度ト云フモノガ果シテ維持サレルカドウカト云フコトニ付キマシテハ、相当ノ疑ヒヲ持タザルヲ得ナイノデアリマス、ソレデ私ハ勿論日本ノ家族制度ガ封建的残滓ヲ持ツテ居ルカラ此ノ封建的残滓ヲ一掃シテ民主主義的ナ社会機構ヲ確立シヨウト云フ立場カラ、此ノ問題ガ相当論議サレルコトダト考ヘマスケレドモ、併シ私ハ日本ハヤハリ日本的民主的政治ヲ確立スル場合ニ於キマシテモ、又同時ニ男女平等ノ立場ニ立ツテ財産権――財産権ハ恐ラク夫婦財産制カ何カノ問題ト思ヒマスガ、財産制或ハ住居、総テノ問題ガヤハリ相当解決シ得ルト思フノデアリマスガ、此ノ家族制度、殊ニ日本ノ戸主制度或ハ家督相続ト云フヤウナコトガ維持出来ルカドウカト云フヤウナ点ニ付キマシテ、御意見ヲ承リタイノデアリマス、殊ニ私ハ夫婦関係ニ於キマシテ、男女平等ノ立場ヲ守ルト云フコトハ当然デアルト思ヒマス、併シナガラ男女平等ト申シ同権デハアリマスケレドモ、一ツノ家庭ニ於キマシテハ各々其ノ職分ガアルト存ジマス、女ハ家庭内ニ於テノ主婦トシテノ仕事ガアル、男ハ男トシテノヤハリ仕事ガアル、デアルカラ私ハ家庭ノ分野ニ於テ各々一家ヲ維持スル点ニ於テモ、オ互ヒニ其ノ立場々々ヲ守ルベキデアルト思ヒマスルシ、又サウシタ所デ決シテ男女平等ヲ阻碍スルモノデモナイト信ジテ居リマス、私ノ譬ガ善イカ悪イカハ存ジマセヌケレドモ、例ヘバ一本ノ木ニ譬ヘマシタナラバ、女ハ寧ロ地下デ支ヘル所ノ根ノ役目、男ハ地上ニアツテ働ク所ノ幹ノ役目ヲ勤メルコトニ依ツテ妻ト夫ガ有機的結合ノ下ニ於テ立派ニ維持サレルト思フノデアリマスシ、此ノ線ニ沿ウテ此ノ日本ノ家族制度モ維持サレテ、同時ニ男女平等ノ立場ヲモ立派ニ維持サレルト思フノデアリマス、併シナガラ相続ノ問題、殊ニ従来ノ日本ノ相続ガ所謂男子ノミニ依ツテ相続サレル、或ハ女ノ不利益ナル所ノ無能力者タル所ノ地位ニ置カレタ法律ノ撤廃トカ、是ハ当然デアリマシテ、何等議論ノ余地ハナイノデアリマスガ、唯家族制度ノ問題ニ対シテ、金森国務大臣ハ如何ニ御考ヘニナツテ居リマスカ、御説明ヲ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 家族制度ノコトニ付テ御尋ネニナリマシタガ、此ノ憲法ハ非常ニ大掴ミナ規定ガシテアリマシテ、中味ヲ漸次発展セシメ、憲法ノ規定ノ趣旨ヲ具体的ニ充実致シマスル為ニハ、幾多ノ法律ノ操作又ハ改正ヲ要スル次第デアリマス、日本ノ家族制度ニ付キマシテハ、之ヲ夫婦ノ結合ヲ中心トスルモノト見ルカ、親子ノ結合ヲ中心トスルモノト見ルカ、或ハ兄弟其ノ他ノ結合ヲ中心トスルモノト見ルカ、又是等ノ何レヲモ総合シタモノトシテ之ヲ見ルカ、更ニ其ノ上ニ一ツノ生活ヲ共同ニスルト云フ立場ヲ持ツテ之ヲ総合シテ見ルカト云フ、種々ナル観点ガアリマシテ、而モ現実ノ日本ノ家族制度ハ、日本ノ持ツテ居ル歴史的ナ階段ニ支配セラレマシテ、自ラ一定ノ形体ヲ持ツテ居リマスシ、又法律制度トシテ存在シテ居リマス家族制度ハ、「ヨーロッパ」風ノ民法制度ガ日本風ニ幾分変化ヲ受ケナガラモ存在シテ居リマシテ、国民ノ心トピツタリシテ居ナイト云フヤウナ点ガアルノデス、而モ人間ハ今ノ立場ニ囚ハレテ考ヘ易イノデアリマスカラ、今仰セニナリマシタ男女各職分ヲ異ニスルト云フコトハ、確カニ御説ノ通リトハ思ヒマスケレドモ、其ノ言葉ヲ其ノ侭取リマスレバ、何等ノ伸展ナクシテ古イ時代ニ固定セラレタル考ヘニ依ツテ今現ニアル姿ガ男女ノ正シキ職分ノ分配、地位ノ分配デアルト誤解シ易イヤウナ嫌ヒモ持ツテ居リマス、斯様ナコトヲ全体トシテ考ヘマシテ、此ノ第二十二条ハ本当ニ問題ヲ深ク掘下ゲテ両性ノ本質的平等――現実ニハ色々ナモノガ附加サレテ考ヘナケレバナリマセヌ、根本ニ於テ平等デアルト云フコトヲ基礎トシ、又人間其ノモノノ人格ノ尊重ト云フコトヲ基ニシテ考ヘ、故ナク存在シテ居ル封建制度風ノ遺物ヲモ綺麗ニ掃除シテ、現代ノ人々ガ満足スルヤウニ持ツテ行カナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、唯之ヲ如何ニ具体化シテ行クカト云フコトハ、是カラノ問題デアリマシテ、司法大臣ガ主トナラレル所ノ法律制度ノ調査ノ上ニ実現サレテ行クコトト考ヘテ居リマス
○三浦委員 ソレカラ次ニ是ハ字旬ノ問題デアツテ、私ダケガ分ラナイノカモ分リマセヌガ、二十三条ノ「法律は、すべての生活部面について、社會の福祉、生活の保障」云々トアル社会ノ福祉、ソレカラ第二十条ノ「公共の福祉に反しない限り、」此ノ公共ノ福祉ト社会ノ福祉トハドウ云フ工合ニ違フノデアルカ、其ノ解釈ヲ一ツ御願ヒ致シマス
○金森国務大臣 第二十条ノ公共ノ福祉ト云フコトハ、広イ意味デアリマシテ、社会全般ノ安寧秩序其ノ他一切ヲ包含シテノ、何ト言ヒマスカ、此ノ言葉ノ示ス通リデアリマスルガ、兎ニ角広イ意味デアリマス、ソレカラ二十三条ノ社会ノ福祉ト申シマスノハ、謂ハバ社会生活、社会問題ト申シマスカ、サウ云フ狭イ意味ノ、是モハツキリ定義ノ出来ヌモノデアリマスルガ、今日我々ガ社会問題或ハ社会省ナドト云フモノヲ能ク念頭ニ置イテ居リマスルガ、サウ云フ意味ノ社会ノ福祉ト云フコトデアリマス、デスカラ狙ヒ所ハ可ナリ違ツテ居リマス、社会ノ福祉ダケヲ一ツ切離シテ御覧ニナリマスルト分リニクイカモ知レマセヌガ、此ノ二十三条ノ全体ノ文章ヲ御覧ニナリマシテ、「すべての生活部面について、」ト申シマスルノハ、労働者ノ生活或ハ老人ノ生活、貧乏人ノ生治、其ノ他各種各方面ノ生活ノ部門ニ於テ、人間ガ楽ニ気安ク幸福ヲ保ツテ行キ食フニ食ナキコトナク、住ムニ家ナキコトナク、又病気ニ罹レバソレ相応ノ便利ガ得ラレ、斯ウ云フ所ヲ狙ツテ、此ノ規定ガ出来テ居リマス
○三浦委員 将来立法スルヤウナ面カラ行キマシテモ、公共ノ福祉ト云フコトガ中心ニナルヤウニナリマスシ、又憲法ノ全般カラ見マシテモ、公共ノ福祉ト云フコトガ非常ニ重要ナル役割ヲ務メルノデアリマスガ、只今金森国務大臣ハ広イ意味ト御説明ガアリマシタ、一体社会ノ福祉ト云フコトヲ、若シ最後ノ認定ヲスル場合ニ、是ハ誰ガ決メルノデアリマセウカ、例ヘバ立法上ニ於テ社会ノ福祉ヲ使ヒ、行政面ニ於テ社会ノ福祉ヲ使ヒ、此ノ社会ノ福祉ノ解釈ニ於テ、最後ノ認定権ハ一体誰ニアルノデアリマセウカ、或ハ立法、司法、行政ノ此ノ三権分立ノ立場カラ言ヒマシテ、最後ニハ裁判所ノ争ヒニナレバ裁判所デ認定スルノダト云フヤウナコトモ考ヘレバ私ハ考ヘラレナイコトデハナイト思フノデアリマス、併シ又能ク考ヘテ見マスルト、斯ウ云フヤウナ非当ニ重要ナル認定ヲ裁判所ダケニ任シテ居ルコトニナルト、裁判所ノ考ヘト立法部ノ考ヘガ又色々支障ヲ来スヤウナ気モスルノデアリマスガ、一体最後ノ争ヒノ認定ハ何処デスルノデアルカ、其ノ点ノ御説明ヲ御願ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 言葉ト申シマスルモノハ、非常ニ一面カラ言ヘバ内容ノ分ラナイモノデアリマス、併シ一面カラ言ヘバ、内容ノハツキリシテ居ルモノデアリマス、今ノ社会ノ福祉ト云フ言葉ニ付テ見マシテモ、社会問題トシテ社会ノ福祉ト云フ言葉ヲ誰モ使フト云フ点ニ於キマシテハツキリシタ認識ヲ持ツテ居リマス、併シ此ノ社会ノ福祉ト云フ言葉ガ幅ガ何処マデ及ンデ居ルカ、中心的ナ考ヘハ誰デモハツキリ持ツテ居リマスルガ、此ノ言葉ノ及ブ範囲ガ何処マデ行クカト云フコトニ付キマシテハ、人間ノ世界ニ於テハドウシテモ曖昧模糊タルコトガ出来マス、是ハ我々ガ日常使ツテ居ル言葉ノ全部ガソレデアル訳デス、併シナガラ言葉ガ幅ノ及ブ所ガハツキリシナイカラトテ言葉自身ガ不正確デアルトモ言ハレマセヌ、ソコデ憲法草案ニ出テ居リマスル所ノ言葉ハ、各々其ノ立場々々ニ依ツテ此ノ規定ヲ用ヒル場合ニ自己ノ解釈ヲ以テ先ヅ臨ムト云フコトハ已ムヲ得ナイ訳デアリマス、随テ若シ此ノ議会ニ於キマシテ、政府ノ立法ガ社会ノ福祉ニ合ツテ居ナイ、斯ウ云フ御議論ガ出来マスレバ、之ヲ主張サルル方ガ其ノ自己ノ解釈ニ従ツテ論議セラレ、之ニ答フル者ガ又自己ノ解釈ニ従ツテ答ヘ、而モ両方ニ於テ段々納得シテ自ラ一ツノ意味ヲ持ツテ行クト云フコトガ、民主政治ノ動キノ自然ノ勢ヒデアルト思ヒマスルカラシテ、此ノ言葉ヲ誰ガ最後ノ解決点ヲ持ツカト云フコトハ、一言ニシテハ言ヒ切レヌト思ヒマス、若シ是ガ裁判所ノ問題ニナレバ、ソレハ裁判所ガ決定スルコトデアリマセウケレドモ、一寸此ノ条文ガ裁判所ヘ行クカドウカト云フコトハ甚ダ疑ハシウゴザイマシテ、マア普通ニ考ヘマスレバ、議会ニ於キマシテノ立法ノ問題ニナリマスカラ、結局議会ノ議政壇上ニ於テオ互ヒニ得心シ合ツテ此ノ意味ヲ決定スルト云フコトニナル、得心ガ付キニクイ時ニハ、各々権根ニ従ツテ判断ヲスル、斯ウ云フコトニナラウト思ツテ居リマス
○三浦委員 大変御親切ナ答弁デアリマスガ、分ツタヤウデ中々私ニハ分ラナイノデアリマス、今モ言フヤウニオ互ヒノ主張ガ得心ガ行ケバ、是ハ勿論問題ガナイノデアリマスケレドモ、併シナガラサウ両方ガ得心シテモ、或ハ利害関係ノアル第三者ガ得心ノ行カナイ場合モアルト思フノデアリマス、併シサウ云フヤウナ点ニ於テ私ハヤハリ最後ニハ裁判所ニ行クヨリ外ニナイノヂヤナイカト思ヒマスガ、併シ只今ノ御答弁ガアリマシタカラ、是レ以上私ハ申上ゲルコトヲ遠慮シマス
其ノ次ニハ教育ノ問題デアリマス、是モ色々教育ノ国策ニ付テ論議サレタノデアリマスケレドモ、私ハ違ツタ角度カラ御意見ヲ承リタイノデアリマス、日本ノ今日ノ此ノ惨メナル状態ニナツタト云フコトモ、色々論議サレタノデアリマスルケレドモ、モツト能ク考ヘテ見マスルト云フト、日本ニ此ノ官尊民卑ノ弊風ガ風靡シマシテ、サウ云フヤウナコトガ総テニ影響致シマシテ、教育ノ問題等ニ於キマシテモ官学ガ非常ニハビコツテ、官学尊重トナリ、私学ガ非常ニ軽蔑サレルト云フコトノ立場ニ立ツタリ、官学出身者ガ官僚ノ中心的勢力ヲ成シテ、私学出身者ハ非常ニ弱イ、或ル意味ニ於テハ不利益ナ立場ニ立ツテ居ルト云フコトハ、是ハ私ハ申上ゲテモ差支ヘナイト思フノデアリマス、学閥ノ弊害ト云フヤウナコトモ相当考ヘラレル訳デアリマス、併シ私ハ本当ノ日本ノ平和的民主主義政治ヲ確立スル上ニ於テ、ヤハリ此ノ官尊民卑ノ弊風ヲ根本カラ除去スルト云フコトガ、当然過ギル程当然ダト思フノデアリマス、サウ云フ立場ニ立ツテ考フルナラバ、其ノ根本ハ実ニ教育ノ問題デナケレバナラヌト思フノデアリマス、教育ノ重要性、教育ノ国策ノ樹立ニ付キマシテハ、論議サレマシタカラ論及シマセヌ、唯私ノ言フノハ、斯ウ云フ真ノ教育ハ官学ニアルニアラズシテ、私学ヲ中心トシテ教育制度ヲ確立スベキモノデアルト、私ハ信ジテ居リマス、私学ヲ尊重シ育成スルコトガ、此ノ教育ノ根本デアリ、官尊民卑ノ弊風ヲ打破スルモノデアルト思フノデアリマス、尚又教育ハ決シテ金ガアルカラ、或ハ特殊ナ人間ダケガ教育ヲ受クベキモノデハナイ、少クトモ真ノ民主主義政治ノ確立ノ建前カラ云ツテ、公民教育ヲ徹底スルト云フナラバ、ヤハリ私ハ国民全部ヲ目当ニシタ教育制度デナケレバナラナイ、斯ウ云フヤウナ意味ニ於テ今日昼間労働ニ従事シタ者デモ、立派ニ教育ヲ受クル所ノ資格ガアル、又学校ノ教育ヲ受ケルコトノ出来ナイ田舎ニ居ル、或ハ山ノ中ニ居ル、或ハ炭坑ノ中ニ居ル国民デモ、立派ニ教育ヲ受ケルダケノ教育制度デナケレバナラナイト思フノデアリマス、斯ウ云フヤウナ点カラ考ヘマスナラバ、私ハ教育ノ中心ハ先程申上ゲタ通リ私学デアル、而シテ勤労者教育ヲ徹底セシムル意味ニ於テ、自分ノ全努力ニ依ツテ昼間自分ノ仕事ヲ立派ニ完全ニ果シ、夜ハ立派ニ勉強ヲスル夜学ノ青年、斯ウ云フモノヲ尊重スルト云フコトハ当然デアル、モウ一ツ考ヘルコトハ、夜学ニモ通フコトガ出来ナイ、村ノ社会教育的ノ立場ニアル集合ニモ出ルコトガ出来ナイ、山ノ中ノ炭焼キ或ハ山奥ニ入ツテ仕事ヲスル者ニ対スル教育、是ハ通信教育即チ講義録ノヤウナ教育方法ヲ国家ニ於テ拵ヘテ、総テノ人ガ教育ノ恩典ヲ受ケ、又自分ノ努力ニ依ツテ自分ノ知識ヲ磨キ、国民タルノ素質ヲ具ヘ得ル制度ヲ採ルニアラザレバ、完全ナル普遍的ナル教育ヲナシ得ナイト思フノデアリマス、斯ウ云フ立場ニ立ツテ私ハ教育国策ハ単ナル学校教育、官学教育ヲ捨テテ、サウ云フ方面ニ主力ヲ注グ立場ニ立ツテ貰ヘルカドウカ、今日官学ノ入学試験ニノミ殺到スルト云フアノ状況ハ国ノ恥デアル、見苦シイ状態デアル、斯ウ云フ状態ハ官学尊重ノ弊害デアルト言ハナケレバナラヌ、此ノ問題ヲ根本的ニ一掃スルノ真ノ覚悟アリヤ否ヤ、此ノ覚悟ガナケレバ民主主義ノ政治ヲ確立スルコトハ出来ナイト思フノデアリマス、此ノ点ニ関スル御意見ヲ拝聴シタイノデアリマス
○金森国務大臣 今日文部大臣ガ出席セラレテ居リマセヌノデ、御満足ノ行ク御答ヘヲスルコトガ出来マセヌガ、此ノ憲法ハ民主政治ノ大原則ヲ現出スル為ニ出来テ居ルノデアリマス、教育ニ付キマシテハ広ク行キ亙リ、而モ各人ガ好ム所ノ教育ヲ能力ニ応ジテ受ケル資格ノ平等ト云フコトニ着想シテ規定シテ居リマスルカラ、御趣旨ノ内容ヲ直チニ事情ガ許ス限リ実現ヲシテ行ク上ニ、決シテ相反スル方向ノモノデハナイノデアリマス、私自身トシテハ、今三浦君ノ仰セニナリマシタ各種ノ御言葉ニ相当共鳴ヲ感ズルモノデアリマスルガ、併シ当面ノ所管ノ権能ヲ持ツテ居リマセヌ、文部大臣ニ能ク御趣旨ノアル所ヲ御伝ヘシテ置キマス
○三浦委員 次ニハ労働問題デアリマス、立場ノ違ヒマスル方々カラ、而モ非常ナル該博ナル所ノ労働者ニ対スル御意見モ承リマシタ、殊ニ労働者ニ対スル社会的、経済的方面ニ対スル補助条項ヲ積極的ニ挿入シナケレバナラヌト云フヤウナ色々ノ御意見モ承ツテ居リマスガ、私ハ別ナ観点カラ御伺ヒシタイ、此ノ政府ニ於キマシテハ総理大臣ガ本会ニ於キマシテモ健全ナル労働運動ヲ助長セシメルト云フコトヲ申サレテ居リマス、又憲法ノ此ノ草案カラ見マシテモ、労働者ノ団結、団体交渉権等ヲ認メマシテ、此ノ労働運動ノ為ニ非常ナル努力ヲ払ツテ居ルコトハ、洵ニ結構ナコトデアリマス、唯私ハ此ノ際重複シナイヤウニ承リタイノハ、一体政府ノ意図シテ居ル健全ナル労働組合運動トハ、ドノ程度ヲ指スカト云フコトデアリマス、之ヲ分リ易ク申シマスナラバ、労働者ノ地位ヲドノ程度ニ認メルカト云フコトデアリマス、即チ従来我々ノ政党ニ対シテ非難攻撃サレタコトハ、所謂資本家擁護デアルトカ、「ブルジョア」擁護デアルトカ云フヤウナコトヲ、選挙デ非常ニ攻撃サレマシタガ、私ハ断ジテサウトハ考ヘテ居ラナイノデアリマス、是ハ要スルニ労働運動ニ対スル見解ノ問題カラ来ルノデハナカラウカト、私ハ遺憾ニ思ツテ居ルノデアリマスカラ聴クノデアリマスガ、一体労働運動ノ指導ヲ当局者ハドノ程度ニ見テ居ルカ、言換ヘマスナラバ、労働組合運動ノ発達助長スルコトニ依ツテ、労働者ノ地位ヲ資本家ト対等ノ地位マデニ認メルノカ、即チ経営権ト労働権ト云フ立場ニ於テ同等ナ地位マデ認メルノカ、ソレトモ労働者ノ地位ヲ資本家、企業家ヨリカモ優位ナ地位ニ認メントスルノカ、ソレトモ労働者ノ団体交渉権ハ認メルケレドモ、未ダ資本家ノ地位マデニハ認メナイト云フ趣旨ナノカ、斯ウ云フ点ガハツキリ致シマセヌト、若シ労働者ノ地位ガ、労働組合運動ノ健全ナル発達ヲシテモ、資本家ノ地位ノ程度ニマデ至ラナイト云フコトカラ、色々非難サレテ居ル搾取デアルトカ、資本主義ノ種々ナル特殊ノ解釈カラ色々攻撃ヲ受ケルコトニナルノデアリマス、デアリマスカラ、私ハ此ノ際ニ於テ、其ノ労働運動ニ依ツテ労働者ノ地位ヲドノ程度ニ御認メニナル御趣旨カヲ承リタイノデアリマス
○河合国務大臣 只今ノ三浦サンノ御質問ニ御答ヘ致シマス、此ノ憲法草案、第二十五条ニ於ケル勤労権ト云フ問題ニ関連シタ御質問ト思ヒマスルガ、勤労権ト云フノハ、私ノ考ヘニ依リマスト、ヤハリ第十条、第十二条アタリノ基本的人権ト云フ問題ガ根本デアリマシテ、サウシテ人間トシテノ自覚、俺ハ人間ダト云フ自覚ノ下ニ於ケル基本的人権ト云フモノガ非常ニ太イ線デアル、ソレガヤハリ属人的ノ面ニ於キマシテハ勤労権トナツテ現ハレル、又物ノ面ニ対シマシテハ、財産権的ノ関係ヲソコニ発生シテ来ル、サウ云フ風ニ私ハ解釈シテ居リマス、ソレデ其ノ勤労権トシマシテハドウ云フ内容ヲ持ツテ居ルカト言ヒマスルト、ヤハリ勤労即チ労働ノ機会ヲ与ヘル、労働ニ対スル交渉ヲ与ヘル、ソレカラ先程御指摘ノ団体交渉権、進ンデハ已ムヲ得ザル場合ニハ争議権ト云フ問題ノ線ニ沿ウテ行クノダト思ツテ居リマス、ソレカラ財産権ハ第二十七条デ、財産権ヲ侵シテハナラヌト云フコトニナツテ居リマシテ、財産権ト云フコトハ、物ナリ物的権利ヲ意味スルコトデアリマスルカラ、ソレ其ノモノニ於テハ何ノ力モナイ、之ヲヤハリ人間ガ利用シ処分シテ行クト云フ点ニ於テ、財産権ト云フモノハ成立ツテ行ク、ヤハリ基本的人権ノ一ツノ働キトシテ、財産権ニ対スル自由、権利ヲ認メテ居ル、サウ云フ風ニ二ツノ線ニ考ヘテ参リマスルト、ココニ労働権ト、財産ノ利用処分カラ出タ一ツノ経営権ト云フモノガ考ヘラレル、ソレデ大体斯ウ云フ憲法ノ条項、殊ニ近代ノ憲法ニ於キマシテハ、言フマデモナク歴史的ノ自由ヲ持ツテ居ル、殊ニ最近日本ノ行政ニ於キマシテハ、一種ノ封建的残渣カラ民主的政治ヘ変ツテ行カウト云フ時代ニアルノデアリマスカラ、ドウシテモ物ノ重サハ労働権ノ方ニ条文其ノ他ガ多数書カレ、サウ云フ風ニナツテ行クト云フコトハ、是ハ勢ヒ歴史的宿命デ已ムヲ得ヌコトデアリマス、人間ノ自由権利トシテハ、ヤハリ其ノ二ツノ基本的人権カラ流レ出タ自由権利トシテ考ヘテ宜シイト私ハ思ツテ居リマス、ソコデ其ノ自由権利ト云フモノハ、個人的ノ性格ヲ持ツタ意味ニ於テ説明セラレテアリマスケレドモ、個人的ノ性格ニ於テ是デ国家ガ成立ツテ行クカト云フト、サウハ行キマセヌ、ココニ有機的ノ作用ガドウシテモ必要デアル、国民経済的ニソレガ作用シテ行クト云フ点ニ於テ、其ノ二ツノ問題ノ発展ガアルト思フ、ソレガドウ交錯シテ行クカト云フト、所謂公共ノ福祉ト云フ問題デ解決サレテ行クノデアリマス、問題ハ此ノ結付キダト云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソコデ憲法草案第十一条、公共ノ福祉ノ為ニ利用サレナクチヤナラヌ、或ハ第十二条ニ国民ノ権利ハ公共ノ福祉ニ反セザル限度ニ於テヤツテ行カナクチヤナラヌ、或ハ第二十七条ニ於テ、特ニ財産権ノ内容ハ公共ノ福祉ニ適合スルヤウニ定メナクチヤナラヌト云フヤウナ風ニ来テ居リマシテ、ココニ有機的ノ結合ト云フコトヲ見ナクチヤナラヌ、サウ云フ意味カラ考ヘテ見マスルト、ドウシテモココニオ互ヒノ権利義務ハ尊重シテヤツテ行ツテ、ソコデ公共的ノ問題ニ行キ、自分ダケノ権利義務ヲ絶対的ニ主張スルノヂヤ駄目ダト云フ点ニ重キヲ置クノデアリマスルカラ、総テ労働権ニ於キマシテモ、又財産権、或ハ経営権ト云フモノニ付キマシテモ、公共ノ福祉ト云フ所ニ一ツノ制限ト云フモノヲ見出シ、其ノ制限ノ一ツトシマシテ、オ互ヒノ権利ヲオ互ヒニ尊重シ合フト云フコトガ、一ツノ大キナ働キダト云フ風ニ私ハ解釈シマス、ソコニ労働権ト経営権ト云フモノトノ限界ト云フモノガ一本引カレルノデアリマス、言葉ヲ換ヘテ申シマスト、ソレハ正当ナリヤ、不正当ナリヤト云フヤウナ問題ノ線デ考ヘテモ宜シイノデゴザイマス、ソレハ平面的ノ考ヘデ進行的ノ考ヘデアリマセヌ、平面的ニ考ヘレバサウ言ウテモ宜シイノデアリマス、総テ憲法カラ発足シテ居リマスル労働組合法ノ如キニ於テモ、正当ナル争議ト云フヤウナ言葉ヲ用ヒテ、ソコヘヤハリ労働権ノ限界ト云フモノヲ設ケタ訳ダト思ヒマス、但シ資本家トカ或ハ経営者トカ云フ者ト労働者トノ地位ノ問題ニ付キマシテハ、ドチラガドチラニナツテ悪イトカ善イトカ、サウ云フ問題デハナク、是ハオ互ヒニ国民ノ権利義務ノコトト思ヒマスカラ、労働者ハ労働権ヲ主張シテ資本家ニ対シテ行ク、或ハ資本家ノ経営ニ参加シテ行クト云フ地位ノ変化ト申シマスカ、向上ト申シマスルカ、向上ト云フ言葉ハ或ハ正シクナイカモ知レマセヌガ、変化ト云フコトハ、是ハモウ自由競争ノコトヲ原則トシタノデスカラ、勿論差支ヘナイコトデアリマスケレドモ、其ノ瞬間ヲ捉ヘテ見マスレバ、自ラソコニ一ツノ線ヲ引クコトガ出来ルト私ハ考ヘテ居リマス、併シナガラ大体此ノ憲法ノ精神トシマシテハ、第十一条ニ明示セラレテ居ルガ如クニ「此の憲法が國民に保障する自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。」或ハ又「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」ト云フヤウナ風ニ草案ニハ書イテアリマシテ、結局是ハ進行的デナクチヤナラヌ、又自覚的デナクチヤナラヌ、結局謂ハバ国民ニ与ヘラレタ権利ト云フモノハ自分デ之ヲ守リ、自分デ之ヲ築キ上ゲ、自分デ之ヲ発展サシテ行カナクチヤナラヌト云フ一ツノ責任ト申シマスカ、進行的ニ我々ノ将来ノ発展ヲ望ンデ居ルト云フ所ニ一ツノ重点ガアルト、私ハ考ヘテ居リマス
○三浦委員 只今懇切丁寧ナ御答弁ヲ得タノデアリマスガ、併シ結論ハ私ノ質問ノ要点ニハ触レテ居ナイノデス、私ノ問ハントスル所ハ、労働組合運動ノ指導ニ於キマシテ、労働組合運動ノ健全ナル発達ヲ助長セシムルト云フコトハ、此ノ組合運動ニ依ツテ資本家ナリ事業家ト対等ノ位地マデ認メルノガドウカト云フコトナンデス、今ノ御説明デハ、私ノ承ツタ所ニ依ルト、自由競争ノ立場ニ立ツテ或ル場合ニハ労働者ガ優位ニナリ、或ル場合ニハ資本家ガ優位ニナルコトモアリ得ル、ソレハ自由競争ノ立場ニ於テナルノダト云フ風ニ承ツタノデアリマスガ、若シ私ノ承ツタコトガ間違ヒナイトスルナラバ、私ハ一層疑問ヲ持ツノデアリマス、労働組合運動ニ於テ、若シ資本家、企業家ヨリモ労働者ガ強マツテ行キ、或ハ優位ナル場合ニ於テハ、資本ヲ否定シ資本家ヲ抑ヘルト云フ立場ニ立ツノデアリマセウシ、或ハ企業ヲ終熄セシメ、或ハ事業ガ出来ナイヤウナ立場ニ押詰メルト云フコトモアリマセウ、若シ労働者ノ地位ガ資本家ヨリモ低イト云フナラバ、ヨクアリマス所ノ搾取サレルト云フヤウナ観念ヲ取除クコトガ出来ナイヤウナ気ガスルノデアリマス、是ハ私ノ個人ノ考ヘデアリマスガ、私ノ考ヘヲ以テ言ハシメルナラバ、健全ナル労働組合運動ト云フモノハ、即チ資本家ト対等ノ地位マデ引上ゲルノダ、労働者個人ノ立場ニ於テハ、資本家ト到底地位ノ立場ニ於テ対抗出来ナイコトハ勿論デアリマス、団結ノ力、組合ノ力ニ依ツテ企業家、資本家ト対等ノ地位ニ置キ、ソシテ労働組合ハヤハリ経営ニ責任ヲ持チ、資本家ハ労働者ノ生活其ノ他ノ問題ニ対シテ責任ヲ持ツト云フヤウニ、オ互ヒニ協調的ノ立場ニ立ツテ、言葉ヲ言換ヘマスナラバ、所謂労資協調ノ立場ニ立ツテ生産ヲ起スト云フコトニ行クコトガ私ハ最モ望マシイモノダ、斯クノ如ク労働組合運動ヲ指導スベキモノデアルト信ズルノデアリマスガ、サウ云フ点ニ対スル御意見ヲ拝聴シタイト思ヒマス
○河合国務大臣 労働組合運動トシマシテハ、ヤハリ正当ナル労働組合運動ノ範囲ニ止マラナクチヤナラヌカラ、労働組合運動ニ依ツテ直チニ経営ヲヤル、直チニソレガ資本家ニ転化スルト云フコトハ認メル訳ニ行キマセヌ、併シナガラ私ノ言ウタノハ、労働者ト云フモノガ位置ヲ換ヘテ資本家ニナルト云フヤウナ「チャンス」ハアル、サウ云フ点ニ於テハ何等ノ拘束ハナイガ、労働組合運動トシテハ経営権ノ立場ニ立ツテ行カナイト云フ意味ナンデアリマス、大体ハ御趣旨ト同ジデアリマス、ソレハ勿論両方ノ調合調和ト云フモノヲ目標ニシテ行クベキモノデアリ、ソレガ理想的体形デアルコトハ勿論デアリマス、不幸ニシテ両方ノ調和ガ取レヌ場合ニ争議ガ起ル、是ハ已ムヲ得ザルコトデアル
○三浦委員 今ノ厚生大臣ノ御説明ノ中デ、何カ私ガ労働組合ガ経営マデニ参加スルト云フヤウナ御話デアリマシタガ、私ハ決シテ労働組合ガ経営ニ参加スルト云フノデハアリマセヌ、唯労働組合ハ――労働者ハサウ云フ事業ニ責任ヲ以テ従事スルト云フ意味デスカラ、其ノ点ヲ誤解ナイヤウニ願ヒマス
ソレカラモウ一ツ此ノ規定ハ労働組合運動ヲ考ヘルノニ最モ重要デアルト考ヘルカラ伺フノデアリマスガ、労働組合ハ政党ヲ支持スベキデアルカドウカト云フ問題ニ対シテ、当局ハドウ考ヘテ居ラレルカト云フコトデス、私ハ労働組合ハ一国ノ産業ノ発達ニ寄与シ、労働条件ノ維持改善ト云フ立場カラ行キマシテ、経済問題ニ止マルベキモノデアル、労働組合運動ハ私ハ政党ノ支持ハ自由デナケレバナラナイト云フ見解ヲ持ツテ居リマス、何トナレバ色々ナル所ノ理由ハアリマスケレドモ、唯一ツ其ノ理由ヲ申上ゲルナラバ、民主主義政治ハ議会政治デアリ、議会政治ハ当然政党政治デアリマス故ニ、政党ガ若シ多数ノ場合ニ於テハ、或ハ選挙ニ色々ナル弱点ガ伴フ点カラ見テ、政党ノ弊害ガ起キナイトハ保証出来ナイノデアリマス、労働組合運動ガ若シ政治同時ニ政党運動マデニ発展シマスト、当然政党ノ此ノ弊害モ労働組合ガ責任ヲ分担シ、同時ニ又労働組合ハ真ノ労働運動、所謂国家ノ産業ノ経営発展ニ対シテ寄与スル所ノ大目的ノ為ニモ支障ガナイトハ限ラナイノデアリマス、又別ナ意味カラ私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、是ハ後ニ国会ノ時ニ申上ゲタイト思ツタノデスガ、多数政党ガ政権ヲ取レバ、是ハ人間自然ノ勢ヒトシマシテ、政党ガ党利党略ニ陥ラナイトハ、神様デナイ人間ノ政治トシテハ言ヘナイ、アリ得ルノデアリマス、サウ云フ際ニ於テ私ハ労働組合運動ガ完全ナル組織体制ヲ確立スルコトニ依ツテ、間接的ニ此ノ政党ヲ監視スル役目ヲ持ツモノデアラウト考ヘテ居リマス、即チ動トモスルト政党ノ党利党略ニ陥リ易イ弊害ヲ、労働組合ノ此ノ組織ノ力ニ依ツテ監視シ、或ハ党利党略ニ陥ラナイヤウナ政治ヲ、真直ニ立派ナル所ノ政治ヲ行ハシムルコトノ出来ル効果モアリ得ルシ、又サウ云フヤウナ役目モ持タシテモ宜シイノヂヤナイカト云フヤウニ、私自身ハ考ヘテ居ルノデスガ、斯ウ云フ点ニ若シ御考ヘガアリマシタラ承リタイト思ヒマス
○河合国務大臣 只今ノ現行組合法デハヤハリ労働組合ハ主トシテ経済ノ振興ヲ目標トスベキコトニナツテ居リマスシテ、大体ノ線ハ経済問題ト云フコトニナツテ居リマスケレドモ、絶体的ニ政治ニ関与スル運動ハシテハイカヌト云フコトニハナツテ居リマセヌ、主要点ヲ経済問題ニ置イテ居ル、此ノ方針ハ此ノ憲法ノ下ニ於テモ其ノ侭続行シテ行ク積リデアリマス
○三浦委員 此ノ問題ハ長クナリマスカラ其ノ位ニシマシテ、次ニハ第二十八条ノ問題ニ絡ムノデアリマス、司法大臣ニ御尋ネスルコトニナルカモ知レマセヌガ、「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」即チ是カラ見ルト、此ノ手続ハ刑罰ニ関スル手続、即チ分リ易ク言フナラバ、現在刑事訴訟手続ト云フノハ、此ノ法律デ定メナケレバナラナイヤウニ、此ノ規定カラ解釈サレマス、所ガ第七十三条ニハ最高裁判所ハ訴訟ニ関スル手続ヲ規定スルコトガ出来ルヤウニナツテ居リマス、サウスルト第七十三条ト第二十八条トノ解釈ノ点ニ於テ、第七十三条ハ民事訴訟ニ関スル手続ハ最高裁判所デ決メマシテ、第二十八条ノ刑罰ニ関スル規定所謂刑事訴訟手続ハ法律ニ依ルノカ、ソレトモ又別個ニ刑事訴訟手続モ第七十三条ニ訴訟手続ガアルカラヤハリ七十三条ニ依リ、二十八条ノ刑罰規定ハ他ニ別ナ法律ヲ判定スルノカ、其ノ関係ヲ承リタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス、七十三条ノ訴訟ニ関スル手続ト云フノハ、最高裁判所ニ於ケル内部的ノ手続デアリマシテ、法律ニ依ル所謂刑事訴訟手続トカ或ル民事訴訟手続ト云フヤウナモノニ入リマセヌ
○三浦委員 民事訴訟手続モヤハリズツト法律デ決メルノデスカ
○木村国務大臣 サウデス
○三浦委員 併シ其ノ点ハ少シモ憲法ノ条文ニ書イテ居ナイヤウニ思ハレルノデス、民事訴訟手続ニ付テハ疑問ヲ持チマシテ、色々新聞ヤ雑誌ヲ見マシタガ、七十三条ノ解釈ヲ見ルト、刑事訴訟法モ民事訴訟法モ、皆是デヤルノダト云フ風ニ……
○木村国務大臣 ソレハ誤解デス
○三浦委員 ソレナラバ宜シウゴザイマス、次ニ二十九条以下ヲ見マスト、刑事訴訟法ノ規定ヲ羅列シタヤウニ大変詳シク書イテアリマス、人権擁護ノ為ニ不当ナル拘束ヲ避ケルヤウナ規定ヲ沢山書イテ居リマス、唯此処デ私ハ非常ニ疑問ニ思ヒマスコトハ、斯ウ云フヤウナ規定ハ、現在ノ憲法ノ条文カラ見マシテモ、同ジヤウニ書イテ居リマスシ、又現行ノ刑法ノ規定等ヲ見マシテモ、「公務員其職權ヲ濫用シ人ヲシテ義務ナキ事ヲ行ハシメ又ハ行フ可キ權利ヲ妨害シタルトキ」或ハ「裁判、檢察、警察ノ職務ヲ行ヒ又ハ之ヲ補助スル者其ノ職權ヲ濫用シ人ヲ逮捕又ハ監禁シタルトキ」或ハ「裁判、檢察、警察ノ職務ヲ行ヒ又ハ之ヲ補助スル者其職務ヲ行フニ當リ刑事被告人其他ノ者ニ對シ暴行又ハ陵虐ノ行爲ヲ爲シタルトキ」ト云フヤウニ、現在ノ憲法カラ或ハ現在ノ刑法ノ規定カラ見マシテモ、不法ナル逮捕、監禁、人権擁護ノ点ヲ書イテ居リマス、所ガ従来ノ刑事上ノ取扱カラ見マスト、殆ド此ノ規定ハ蹂躙サレテ居リマス、憲法ノ此ノ趣旨モ蹂躙サレテ居リマス、否「ポツダム」宣言受諾以来昨年ノ八月十五日カラ今日ニ至ルマデノ様子ヲ見マシテモ、当然此ノ趣旨ニ依ツテ人権擁護ヲサレテ居ルト司法大臣ハ御考ヘデセウカ、私ノ見ル所ニ於テハ遺憾ナガラ擁護サレテ居リマセヌ、今日如何デアリマスカ、配給量ダケデハ生活ハ出来マセヌ、自分ノ家族ガ食フコトガ出来ナイ為ニ、自分ノ兄弟ノ所カラ米ヲ持ツテ来ル、ソレガ駅デ捕ヘラレテ取上ゲラレル、其ノ為ニ直チニ警察カラ勾留サレ莫大ナル罰金ヲ科セラレル、又無責任ナル投書ヤナンカニ依ツテ警察ノ留置場ニ入レラレ、狭イ所ニ一箇月モ二箇月モ入レラレル、今日警察ガ唯連レテ行ツテ警察ノ留置場ニ入レテミタリ、或ハ検事ノ経済係ガ招ンデ警察ノ留置場ニ勝手ニ一箇月モ二箇月モ入レテ置ク、一体是ハドノ権限ニ基イテ、如何ナル法規ニ基イテ、斯クノ如ク平気ニ公然ト今日ヤツテ居ルノデアリマセウカ、其ノ法規ノ根拠スラモマダ私ハ分ラナイ、而モ取調ヲスル者ハ自分ノ予断ヲ抱キ或ハ投書ヲ見タリシテ自分ノ考ヘニ合フマデ自白セシメル、自白ト言ツテ誤弊ガアルナラバ、取調ノ線ニ沿フマデ、留置場カラ出シテモ呉レナケレバ、面会モサシテ呉レナケレバ、差入モサシテ呉レナイ、此ノ草案ノ趣意カラ言ツテ、其ノ理由ヲ告ゲラレ、或ハ弁護士ヲ依頼スル権利ヲ与ヘラレルト云フナラバ、少クトモ弁護士位相談シテ聴カシテモ宜イ筈ダガ、弁護士ガ行ツテモ教ヘテ呉レナイ、理由モ教ヘテ呉レナイ、斯ウ云フコトハ現ニ行ハレテ居ラナイト司法大臣御考ヘデスカ、斯ウ云フコトハ、私ハ少クトモ此ノ憲法カラ言ツテモ「何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない。」ト書イテアリマス、有難イコトデアリマスガ、私ノ心配スルノハ有罪無罪ヨリカモ、要スルニ取調ノ対象ニナツテ警察ヘ引張ラレル、豚箱ヘ入レラレルコトガ人権蹂躙ダト考ヘテ居ル、我々ガ犯罪ヲ犯シタナラバ、公明正大ナ判決ハ何モ恐レルモノデハナイ、裁判ヲ受ケルコトハ当リ前デアル、唯捜査ノ対象ニナルコトガ人権ノ蹂躙ヲ齎スノデアリマス、我々ノ人権ヲ蹂躙スルノデアリマス、此ノ人権ヲ蹂躙スル根源ハ一体何処ニアルカ、此ノ通リ憲法ニハ書イテアル、現行法ニモ規定シテ居ルシ、刑法ニモ規定シテ居ルシ、其ノ他凡ユル法規ニモ規定シテ居ル、ダガ併シ今日マデノ事実ハ、少クトモ私ノ知ル範囲ニ於テハ遺憾ナガラ此ノ趣旨トハ解サレナイ、然ラバ是ハドウ云フ訳デアリマスカ、其ノ原因ニ付テ司法大臣ハドウ御考ヘニナリマスカ、私ヲ以テ言ハシムルナラバ、要ハ是ハ今日公訴権ヲ検事ガ握ツテ居ル、検事ハ勿論人権蹂躙ハシナイデアリマセウケレドモ、其ノ部下ハ或ハシナイトモ限ラナイ、殊ニ警察ハ其ノ手下デアル、併シナガラ検事ハ自分ノ手下――、手下ト言ツテハ誤弊ガアルカモ知レマセヌガ、警察官ノヤツタコトニ対シテ擁護コソスレ、之ヲ調ベテ見テカラソレヲ起訴スルト云フコトハヨクヨクデナケレバ致シマセヌ、全然ナイトハ申シマセヌガ、併シヨクヨクデナケレバシマセヌ、今日ノ人権蹂躪ノ根源ハ、実ハ斯ウ云フヤウナ此ノ警察ノ職務ヲ行フ場合ニ於テ多ク行ハレテ居ル、私ハ決シテ警察官ヲ攻撃スルノデハアリマセヌガ、今日ノ捜査上ニ於テハソレガ行ハレテ居ル、然ラバ警察ヤ検事ガ仮ニ斯ウ云フヤウナ人権蹂躪ヲ行ツタ場合ニ於テ、一体此ノ救済方法ハドウスレバ宜イノカ、此ノ前ノ総選挙、翼賛選挙ノ時ニ私モヤツテ見マシタガ、アノ選挙ニ対スル取締ハドウデアリマセウ、アア云フヤウナ厳重ナル取調ヲ受ケ、アア云フヤウナ弾圧ヲサレル、而モソレガ不当ダト言ツテモ誰モ取上ゲテ呉レナイ、是デハ将来ニ於テモ唯公訴権ヲ検事ガ握ツタ場合ニ於テハ、私ハ折角斯ウ云フ立派ナ我々ノ人権擁護ノ規定ガアルニ拘ラズ、其ノ活用ニ於テハ甚ダ心細イ、私ハ斯ウ云フヤウナ場合ニ於テ検事ニ公訴権ヲ持タセルノガ悪イトハ言ハナイ、結構デアリマス、併シナガラ検事ヤ警察官ニ法律違反ノ点ガアツタ場合ニハ、之ニ対スル公訴権ハ寧ロ斯ウ云フ被害ヲ受ケタ者ガ持ツニアラザレバ人権ノ擁護ハ出来ナイト思フノデアリマス、是ハ此ノ憲法ノ中ニサウ云フ被害者ガ当然起訴シ得ル所ノ条項ヲ入レテ戴カナケレバ、此ノ人権擁護ノ完璧ハ期サレナイ、折角斯ウ云フ立派ナ憲法、立派ナ法律ガ出来テモ、今日マデノ私ノ知ル範囲ニ於テハ、洵ニ遺憾ナ状態ノミガ続イテ居ルト思フノデアリマスガ、此ノ点ニ対スル所ノ御答弁ヲ承リタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス、只今縷々警察官ノ人権蹂躪ノ御話ガアリマシタガ、多少行過ギガアツタコトハ私モ認メマス、ソコデ、警察官ノ人権蹂躪ガ、一体検事局ヘ来テドウナルカト云フコトデアリマスガ、検事ノ方デハ極メテ厳正公平ニヤツテ居リマス、是ハ断言致シマス、ソレデ警察カラ持ツテ来タ事案ニ付テ、十分検事局ニ於テハソレヲ検討シテ居ルノデアリマス、検事局ニ関スル限リニ於テハ、私ハ極メテ公正ニヤツテ居ルト思ツテ居リマス、警察官ノ方ニ付テモ、是ハ段々良クナツテ来テ居ルヤウニ私ハ考ヘマス、殊ニ警察ノ留置場ナンカノコトニ付テ、是ハ非常ニ問題ニナツテ居ルノデスガ、是モ段々良クナルヂヤナイカト思ツテ居リマス、色々是ハ建築其ノ他構造上ノ問題デ、是マデハ随分ノ不都合モアツタヤウデアリマスガ、ソレモ改善サレテ居ル、ソコデ此ノ憲法デハ苟クモサウ云フ不都合ナコトガアツテハイカヌ、此ノ民主政治ノ中デ何ガ一番必要デアルカ、是ハ人ノ生命自由ナンダ、是ハ保護シナケレバイカヌノダ、是ガ根本ニナツテ此ノ規定ニ現ハレテ居ルノデアリマス、将来ハ此ノ規定ノ線ニ沿ツテ、総テノ制度ガ改正サレテ行クベキモノダト思ヒマス、御心配ノ点ハ一挙ニ行クト云フコトハ、或ハ出来兼ネルカモ知レマセヌガ、徐々ニ改正サレテ行クベキモノト私ハ確信シテ疑ヒマセヌ
ソレカラ公訴権ノ問題デアリマスガ、公訴権ヲ検事バカリデハナシニ被害者ニモ持タシタラドウカ、一応御尤モニ聞エルノデアリマスガ、是ハ各国ノ制度カラ見テモ能ク分ルノデアリマスガ、各国デモ被害者公訴制度ヲ認メテ居ル国モアリマスガ、是ガ段々国家公訴ノ方ニ向ヒツツアルノデアリマス、ナゼカト言ヒマスト、私人ニ公訴権ヲ持タセルト是ガ非常ニ濫用サレル、ヤタラニ公訴権ヲ濫用サレル、サウスルト手続上ノ方カラモ無論デアリマスガ、又人権ヲ擁護スルト云フ方カラモ、是ハ考ヘナケレバナラヌ、ソレヨリモ寧ロ検事ニ公訴権ヲ統一サセテ、サウシテ行政上ノ公正ト安定トヲ確保スルコトガ最モ善イデハナイカ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ居ルノデアリマス、其ノ点ニ付テテハ何レ此ノ憲法ガ実施サレマシタ暁ニ於テ、色々考ヘテ行キタイ、検討スル積リデアリマスガ、今ノ所デハ公訴権ハヤハリ統一サセタガ宜イト云フ考ヘヲ持ツテ居リマス
○三浦委員 行政留置、詰リ警察官或ハ経済ノ係リガ調ベル場合ニ連レテ行ツテ留置シテ居リマスガ、アレハドウ云フ法律上ノ根拠ニ依ツテヤツテ居ルノデアリマセウカ
○木村国務大臣 アレハ恐ラク警察ノ行政執行法ニ基イテヤツテ居ルノダラウト思ヒマスガ、私ノ方デハ個々ノ問題ヲ取上ゲテ、ドウ云フ場合ニドウダト云フコトヲ指摘サレナイ限リハ、御答ヘスルコトハ出来マセヌ、勢ヒ一般的、抽象的ニ申上ゲマスガ、恐ラク警察ノ方デヤツテ居ルノハ、行政執行法ニ依ツテヤツテ居ルノダラウト思ヒマス
○三浦委員 私ニハ行政執行法トハ解釈サレナイ、唯アレハサウ云フ場合モアリマスガ、署長デハナイ、例ヘバ県庁ノ――是ハ御参考ニ申上ゲルノデ御答弁ハ受ケナイデモ宜イノデアリマスガ、例ヘバ県庁ノ経済係ガソレヲ連レテ行ツテ留置場ニ入レテ置キマス、所ガ警察署長ノ権限モ何モナイ一警部補ガ連レテ行ツテ留置場ニ入レテ置ク、具体的ノ例ヲ言ヘト云フナラバ幾ラモアリマス、是ハ司法大臣御調ベニナツテモ幾ラモアルダラウト思ヒマス、所ガ何処ヲ調ベテモ法規ノ根拠ガ見当ラナイ、斯ウ云フコトガ濫用サレルト、人権ノ尊重ハ出来ナイノヂヤナイカ、ダカラ成ベクサウ云フ留置セズニ済ムモノハ、何時マデモ長ク入レルト云フコトヲサセナイヤウニスベキデハナイカト思ヒマス
○木村国務大臣 ソレハ御尤モナ話デアルト思ヒマス、サウ云フ法ノ根拠ニ基カザル留置ナンカサレルト云フコトニナリマスト、只今憲法草案ハ施行サレテ居ナイケレドモ、是ハ重大ナコトダラウト思ヒマス、我々ノ考ヘトシテハ、サウ云フコトハ絶対ニ根絶サセタイト思ツテ居リマス、サウ云フ実例ガアリマシタラドウカ私ノ方ヘ言ツテ下サイ、サウスレバ能ク連絡ヲ取ツテ、サウ云フコトノナイヤウニ致シタイト思ヒマス
○三浦委員 ソレカラ是ハ人権ヲ擁護スルト云フ立場カラ見マシテモ、悪質ナ刑事事件ハ別問題トシマシテ、事件ニ依ツテハ洵ニ気ノ毒ナ事件モアリ、殊ニ現在ノヤウナ社会情勢ニ於キマシテ、配給ガ何日モナクテ生活保障ノ出来ナイヤウナコトガアル、ソレデ親戚カラ米ヲ持ツテ来タリ、買ツテ来タト云フヤウナ事案ガ、取調ベレバヤハリ立派ニ事案トシテ刑事上ノ処分ヲ受ケテ居ルノデアリマス、斯ウ云フヤウナ事情ニ於テ非常ニ気ノ毒ナル、或ル意味ニ於テ已ムヲ得ナイト見ラレルヤウナ事案ニ対シテ、之ヲ前科者トシテ永久ニ葬ルト云フコトハ、非常ニ遺憾ニ思ツテ居リマス、我々ハ前科者デアルト云フヤウナコトニナリマスト、人間自然ノ弱味デアリマシテ、不平ヲ起シ、自暴自棄ニ陥リ、或ハ折角改悛ノ機会ヲ失フノミナラズ、本当ニ国家ノ為ニ働ク所ノ熱意ヲ失フヤウニナルノデアリマシテ、私ハ事件ノ性質ニ依ツテ或ル程度ノモノナラ許シテ宜シイ、十分ニ改悛シテ将来少シモ再犯ノ心配モナイヤウナ事案ニ対シマシテハ、前科者トシテノ取扱ヲ抹消シテヤルト云フヤウナ程度ニマデシテ戴ク方ガ、人権擁護ノ為ニ於テモ、洵ニ良イコトデハナイカト私ハ思ヒマスガ、斯ウ云フ取扱ニ対スル御考ヘヲ承リタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス、サウ云フ気ノ毒ナ事犯ニ付テハ、現在デモ所謂起訴猶余ト云フ制度ガアリマス、初メカラ犯罪人ニシナイデ起訴シナイ、詰リ起訴猶余ノ制度ヲ何処マデモ私ハ活用致シタイ、已ムヲ得ズ判決ニ依ツテ罪ガ確定致シタト云フヤウナ場合ニ付テ、前科者ニ付テドウ処置スルカト云フ問題ニ付キマシテハ、是ハ相当考ヘナケレバナラヌ問題ト思フガ、併シ御説ハ御尤モデアリマスカラ、サウ云フ点ニ付テハ、草案施行後ニ於テ十分考慮シテ見タイト思ヒマス
○三浦委員 起訴、不起訴ノ権限ガ検事ダケニ与ヘラレテ居ル、是モ私ハ相当ニ興味ヲ持タザルヲ得ナイノデアリマス、検事ガ完全ナ人デアレバ――勿論是ハ検事ガ単独デハヤラナイカモ知レマセヌガ、多クハ主任ノ検事ニ依ツテ決メラレルノデアリマスガ、此ノ検事ノ如何ニ依ツテ、詰リ検事ガ円満ナ常識ノ発達シタ立派ナ検事ナラバ――私ハ決シテ悪イ検事ガ居ルトハ言ヒマセヌガ、併シナガラ境遇ガ恵マレテ学校ヲ出テ、試験ヲ通ツタバカリノ、マダ本当ニ社会事情ヲ理解シナイ若イ人達ガ検事ニナツタリ、或ハ其ノ代理ニナルト云フヤウナ場合ガアル、ソシテ主任トシテ起訴、不起訴ヲ決メルト云フ工合ニ、一切検事ニ委ネラレテ居ルト云フコトデハ、此ノ法ヲ活用スル上ニ於テモ、相当危険性モアルヤウナ気モ実ハスルノデアリマスガ、此ノ点ハ敢テ御答弁ヲ求メマセヌガ、御考慮願ヒタイト存ジマス
○木村国務大臣 其ノ点誤解ガアツテハイケマセヌカラ申上ゲマスガ、検事ガ起訴、不起訴ヲスルト云フコトハ単独ニ決定スルノデハアリマセヌ、是ハ非常ニ綿密ニ合議シテヤリマスカラ、左様ナコトハ現在モ亦将来モナイコトヲ確信シテ疑ヒマセヌカラ、ドウゾ御安心願ヒマス
○三浦委員 今ノ御答弁デ洵ニ安心スルノデアリマスガ、併シ私ノ知ル範囲ニ於テハ、ソレハ勿論検事ハ判事ノヤウニ一人デハヤリマセヌ、勿論合議モシ上司ノ意見モ聴クノデアリマセウ、唯併シナガラ主任検事ノ意見ガ多ク働クト云フコトハ言ツテモ私ハ差支ヘナイデハナイカト考ヘテ居リマスノデ、今ノヤウナ御意見ヲ申上ゲタト御諒承願ヒタイト思ヒマス
次ハ国会ノ問題ニ入リマス、先程モ申上ゲマシタヤウニ、真ノ民主主義政治ヲ確立シ、平和日本ヲ建設致シマシテ、立派ナル国際信用ヲ回復スル所ノ日本ヲ建設スル場合ニ於テノ根本ガ、此ノ選挙デアルト云フコトハ申スマデモナイノデアリマス、然ラバ私ハ此ノ選挙ニ付キマシテハ、従来ニアツタ如キ弾圧、干渉、或ハ軍閥ノ為ニ利用セラレ、或ハ官僚ノ為ニ利用セラレ、或ハ財閥ノ為ニ利用サレタルガ如キコトヲ我々ハ考フル際ニ於テ、公平、自由、明朗ナル所ノ選挙ノ基礎ヲ確立スルト云フ為ニ於テモ、其ノ根本デアル憲法ノ条文ノ中ニ、サウ云フヤウナコトヲ明記シテ置ク必要ガアルノデハナカラウカト思フノデアリマスガ、其ノ点ハ如何デアリマセウカ、是ハ分リ切ツタヤウナ問題デ、指定シナクテモ宜イカモ知レマセヌケレドモ、是ハ他ノ条文カラ見テモ分リ切ツタコトガ大分書イテアルト同時ニ、少クトモ公正ナル、自由ナル、明朗ナル選挙ヲヤルト云フコトガ根本デアルト考ヘルノデアリマス、当然総テノ基礎ニナル此ノ選挙ニ於テ、サウ云フヤウナコトヲハツキリト入レテ置ク方ガ非常ニ明朗ナル選挙ヲシ、同時ニ憲法ノ草案トシテモ非常ニ相応シイノヂヤナイカト思フノデアリマシテ、唯サウ云フヤウナコトヲ特ニ念ヲ入レル為ニ規定シタラドウカト云フダケデス
○金森国務大臣 今ノ点ハ今後ノ制度ヲ立テマスル上ニ、其ノ趣旨ヲ何等カノ形ニ於テ能ク反映スルヤウニ致シタイト思ツテ居リマス
○三浦委員 次ニ二院制度ノ問題デアリマスガ、「イギリス」ノヤウニ貴族制度ノ伝統ノ残ツテ居ル国ガ貴族院ヲ持チ、「アメリカ」ノヤウナ連邦制ノ国ガ各州代表ニ依ル元老院ヲ持ツノハ、是ハ勿論理由ガアリマスガ、勿論私ハ二院制度ニ反対スルモノデハアリマセヌ、唯此ノ憲法ノ草案カラ見タ二院制、衆議院、ソレカラ参議院ノコトヲ考ヘテ見マスルト、参議院ノ権限ト云フヤウナモノガ殆ドナイヤウニ考ヘルノデアリマス、或ハ御説明ノ中ニ、慎重ニ審議ヲスル為メト云フヤウナ御説明、或ハ政党ノ弊害等ニ付テノ御説明ガアリマシタカラ、其ノ点ハ省略致シマスガ、ココニ参議院ノ緊急集会ヲ求メルコトガ出来ルト云フコトガ書イテアルノデアリマシテ、此ノ参議院ノ緊急集会ノ権限ヲ、範囲ヲ、ドノ程度マデニ考ヘテ居ラレルカ、殊ニ総理大臣ガ欠ケタ場合ニ於テ、特ニ申上ゲルナラバ、総理大臣ガ死亡シマシテ、サウシテ総辞職ヲシタト云フヤウナ場合ニ於テ、一体参議院ハ緊急ノ処置ガ執レルノカドウカト云フコトヲ一ツ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 大体此ノ参議院ノ緊急集会ヲ求メマスルノハ、現在ノ緊急勅令、或ハ財政上ノ緊急処分、又ハ之ニ類似スルモノノ範囲ニ於キマシテ、衆議院解散後如何トモ適当ナ方法ガナイ、臨時議会ノ召集モ出来ナイト云フ場合ニ、已ムヲ得ザルヨクヨクノ方法トシテ之ヲ考ヘテ居ルノデアリマシテ、謂ハバ取ツテ置キノ処分、サウ云フモノデアリマシテ、濫リニ之ヲ活用スル趣旨ハ考ヘテ居リマセヌ
○三浦委員 ソレカラ第六十九条ノ条約ノコトデアリマスガ、条約ヲ締結スル、但シ時宜ニ依リ事前又ハ事後ニ於テ国会ノ承認ヲ経ルコトヲ必要トスル、是ナノデスガ、一体国内的ノ問題デアレバ別問題デアリマスケレドモ、国際的ノ関係ニ於キマシテ、国会デ承認ヲ経ルコトノ出来ナカツタ場合ニ於テハ、一体其ノ条約ハドウナルノデアリマセウカ、国際法上如何ニ取扱フノデアリマセウカ、此ノ点ヲ一ツ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 条約ハ国ト国トノ約束デアリマシテ、其ノ国ガ約束ヲスルニ必要ナル手続ヲ行フコトニ依ツテ、条約ガ出来ルノデアリマスルカラシテ、効力ノ条件トシテ国会ノ議決ヲ必要トスル場合ニ、国会ガ承認シナケレバ条約ハ出来上ラナイト云フコトニナリマス、併シナガラ世界ノ活キタ情勢ハ必ズシモ予メハツキリシタ予定航路ヲ示シテ置クコトハ出来マセヌカラシテ、議会ニ掛ケナイデモ条約ヲ締結スル必要ノ起ルコトガアリマスカラ、サウ云フ場合ニハ事後ノ承認ヲ経ルト云フコトニナリマス、事後ノ承認ヲ得ナカツタ場合ニドウナルカト云フコトニ付キマシテハ、其ノ個々ノ条約ノ結ビ工合ニ依ツテ違フノデアリマシテ、或ル場合ニハソレニ依ツテ、或ハ効力ヲ生ジナイコトモアリマセウ、或ル場合ニハ政府ノ責任トシテ、残ル場合モアラウト思ヒマス、ソレハ一概ニハ言ヒ切レナイト考ヘテ居リマス
○三浦委員 次ニハ司法ノ問題デアリマスガ、此ノ司法ノ問題ヲ見マスルト、裁判所ノコトハ大変詳シク書イテ居リマスルガ、検察官ニ対スルコトガ殆ド書イテナイノデス、最高裁判所ノ定ムル規則ニ従ハナケレバナラナイト云フダケデアリマス、ソレデ御伺ヒシタイノデアリマスガ、此ノ検察制度ヲドウ云フ工合ニスルノデアリマセウカ、最高裁判所ニ隸属スルノデアリマセウカ、又検察官ノ地位ヲ裁判官ト同一ノ地位マデニスルノデアリマセウカ、ソレカラ総テ此ノ職務ノ執行等ニ於テノ取扱、或ハ退職、身分ノ保障ト云フヤウナ点ニ対シマシテ、検察官ニ対スル取扱ガ裁判官トドウ云フ工合ニ御取扱ヒニナルモノカ、其ノ点ヲ御尋ネシタイト思ヒマス
○木村国務大臣 検察官ニ付テハ御説ノ通リ草案ニ殆ド規定ハナイノデアリマス、之ヲドウスベキカ、或ハ独立ノ警察署ヲ設ケルカ、或ハ裁判所ニ附置若クハ併置スルカ、現在ハ附置ニナツテ居リマス、之ヲ併行シテヤツテ行クカト云フコトハ、此ノ憲法実施ト相俟ツテ十分考究スベキ問題デアラウト思ヒマス、今各種ノ委員ヲ設ケテ考究中デアリマス、資格ノ問題デアリマスガ、是モ恐ラク現在ノ裁判所構成法ノヤウナモノデ、十分資格ハソコニ規定サレルダラウト思ヒマス、ソレカラ身分ノ保障ノ問題デアリマスガ、是モ御説ノ通リ草案ニハ何等規定ハアリマセヌガ、此ノ点モ十分考慮シテ万違算ノナイヤウニ致シタイト思ヒマス
○三浦委員 次ニ陪審制度ノ問題デアリマスガ、申上ゲルマデモナク、日本ニモ陪審制度ガ行ハレタコトガアルノデアリマスガ、其ノ運用ニ当ツテハ本当ノ名バカリデアツテ、一時行ハレタダケデアツテ、其ノ後ニ於テハ陪審制度ハ殆ド廃止サレテ居ルヤウナ状態デアリマス、併シナガラ真ノ人権ヲ擁護シ、而モ裁判ヲシテ我々民衆ノ為ニ、国民ノ為ニ、実際ニ即シタ、本当ニ民衆ノ気持ニ即シタル所ノ、実際ノ社会情勢ニ即シタ所ノ裁判ヲスル意味カラ行キマシテ、又真ノ裁判制度ヲ確立スルト云フ立場カラ行キマシテモ、民主主義制度ノ下ニ於ケル司法制度ノ立場カラ行キマシテモ、当然陪審制度ト云フモノハ認ムベキデアリ、此ノ憲法草案ニモ之ヲ入レテ置クベキダト思フノデアリマスガ、此ノ陪審制度ニ対スル御意見ヲ承リタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス、民主政治ニ基イテ裁判ノ運用ヲヤル以上ニ於テハ、陪審制度ハ是ハ適当カト考ヘテ居リマス、併シ之ヲ実際ニ運用スルニ於テハ非常ニ難カシイ問題デアリマス、先般本会議ノ席上デ私申シマシタヤウニ、昭和三年カラ昭和十七年マデ、全国デ本当ニ陪審ガ行ハレタノハ、僅カニ数件ニ過ギナイノデアリマス、是ハ果シテ日本ノ国情ニ合ツテ居ルカ居ナイカト云フコトモ、非常ニ検討シテ見ナケレバナラヌ、殊ニ陪審ガ実際実施サレルト云フコトニナルト、厖大ナル庁舎ヲ要スル、今ノ現状デドウカト云フコトハ、実際是ハ現実ノ問題トシテハ行ヒ得ナイ問題デアリマス、然ラバ此ノ草案ニ於テハドウナルカト云フコトニナリマスト、草案ニ於テハ決シテ陪審制度ヲ否定シテ居ル訳デハアリマセヌ、陪審制度ヲ行ハレルコトハハツキリシテ居ル、是ハ将来ノ問題トシテ我々ハ十分考究シタイト思ツテ居リマス
○三浦委員 ソレカラ裁判官ノ任用ノ問題デアリマスガ、実ハ現在ノ裁判官ノ任用ノ方法ヲ見マシテモ、学校ヲ卒業シ或ハ採用試験ニ合格シマシテ試補ヲ経マシタ若イ所ノマダ実際ノ社会事情ニ通ジナイ所ノ人々ニ依ツテ、而モ独立ナル立場ニ於テ判決ガ行ハレル、勿論私ハ判決ガ悪イト申スノデハアリマセヌ、併シナガラ従来サウ云フヤウナ司法官ニ対スル所ノ色々ナ非難モ聞クノデアリマス、又実際問題トシテ是レ亦社会的ノ実際ノ経験ノナイヤウナ方カラ、真ノ凡ユル社会ノ此ノ複雑ナル情勢ニ適合シタル判決ヲスルト云フコトハ、相当無理ガアルト思フノデアリマス、サウ云フ点カラシマシテ、日本弁護士会ノ印刷ナドヲ見テモ、其ノコトハ書イテアルノデアリマス、裁判官ハ弁護士ノ相当経験ヲ経タ者カラ採用スルト云フコトガ、弁護士会ノ印刷シタ物ニモ書イテアルノデアリマス、私モ従来カラサウ云フコトヲ考ヘテ居ル一人デアリマスガ、実際ニ於テサウ云フ裁判官ノ任用等ニ付テドウ御考ヘニナツテ居ラレルカ伺ヒタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス、学校ヲ出テマダ間モナイ人ガ此ノ複雑ナル世間ノ問題トナツテ居ル事件ヲ取扱フノハドウカト云フ御尋ネデアリマス、ソレハ御尤モデアリマス、只今私ガ就任シテ以来司法研修所ト云フ大キナ組織体ヲ作ツテ居リマス、是ハ今現ニ出来ツツアリマス、其処デ十分ニ学校ヲ出テ試験ニ通ツタ人ヲ養成シテ居リマス、サウ云フ機関ヲ通ジテ十分ナ教育ヲシテ行ケバ、相当立派ナ裁判官ガ出来ルヂヤナイカト思ツテ居リマス、又弁護士カラ採用シタラドウカ、是ハ御尤モデアリマス、私モ弁護士カラナツタノデアリマス、ソコデ総テ判事ハ弁護士カラ採用シタラドウカト云フコトデアリマスガ、是ハ大問題デアラウト思ヒマス、サウシマスト弁護士機構モ相当考ヘナケレバナリマセヌノデ、今ノ所是ハドウシテヤツテ行クカト云フコトニ付テハ実ハ頭ヲ悩マシテ居リマス、研究問題トシテ今部内デ検討シテ居リマス、憲法草案実施ノ暁ニ於キマシテ、此ノ問題ヲ解決シタイト考ヘテ居リマス
○三浦委員 最後デアリマスガ、実ハ是ハ最近聴クノヲ忘レタノデアリマスガ、信教ノ問題デ神社並ニ寺院等ニ対スル所ノ従来ノ既得権、是カラ見ルト国カラ如何ニモ特権ヲ受ケナイト云フヤウニ書イテアルノデアリマスガ、此ノ寺院ナリ神社ニ対スル所ノ従来ノ既得権ト云フヤウナモノハドウナルノデアリマスカ、其ノ点ト、ソレカラ宗教教育ノ点ニ於テモ、個々ノ宗教教育ハ認メラレナクトモ、一般的宗教教育ト云フヤウナモノハ、一体学校教育等ニ於テヤツテモ差支ヘナイノカドウカ、此ノ点ヲ質問致シタイト思ヒマス
○芦田委員長 三浦君ニ御相談致シマスガ、其ノ問題ハ何レモ大島多藏君、杉本君ナドカラ質問ガアツタノデ、重複シタ問題デアリマスカラ、此ノ程度デ一ツ御満足ヲ願ヒタイト思ヒマス
○三浦委員 大変時間ヲ要シマシテ恐縮致シマシタ、私ノ質問ハ是デ打切リマス
○芦田委員長 山崎岩男君
○山崎（岩）委員 只今木村司法大臣カラ、司法官ノ資格其ノ他ノ問題ニ付テ樓々御説明ヲ拝聴致シタ訳デアリマスガ、司法官ノ資格ノ問題ニ付キマシテハ、是ト云フ的確ナコトガ定マツテ居ナイ、斯ウ云フ御話デアリマス、草案ヲ見マスルト、弁護士ノ資格ニ付キマシテハ之ヲ定メテ居ルヤウニ私存ジテ居リマス、其ノ資格ヲ有スル弁護士ノ弁護ヲ受ケナケレバナラヌト云フコトガ本草案ニ見エテ居ル、然ルニ司法官ノ資格ニ関シテノミ、之ヲ置イテナイト云フコトハドウ云フコトカ、是ガ一番大切ヂヤナイカト私ハ思ヒマス、今日マデハ天皇ノ御名ニ於テ裁判ヲ行ツタノデアリマスガ、今後ノ裁判ハ裁判官独自ノ立場ニ於テ裁判ヲ行フコトニナル、随テ裁判官ノ人格、裁判官ノ識見、裁判官ノ教養、サウ云フ点ガ洵ニ重大ナル役割ヲ持ツテ来ナケレバナラヌ、人ノ権利ト云フモノヲ侵害スル立場――侵害ト言ヘバ語弊ガアリマスガ、権利ヲ攻撃スル立場ニ立ツ所ノ人デアル、ソレヲ判定スル立場ニ立ツ所ノ人デアル、其ノ人ノ資格ノ問題ニ付テ決メテナイト云フコトハ、本草案トシマシテハ、甚ダ欠漏ノ点デハナイカト私ハ思ヒマス、現行憲法ニ於キマシテハ、其ノ点ニ於テ裁判官ハ法律ニ依ツテ定メラレタ資格ノ者カラ採用スルコトニナツテ居リマスガ、ソレヲ置カナカツタコトハ甚ダ遺憾デアリマス、此ノ点ニ付テ重ネテ三浦代議士ノ只今御質問ノアリマシタアトニ又同ジヤウナ問題ヲ繰返シマスコトハ恐縮デアリマスガ、御答ヘヲ願ヒタイト存ジマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス、弁護士ノ資格ニ関スル問題デアリマス、ソレハ弁護ヲスル者ハ資格アル弁護人デ弁護士ト云フ言葉デハナイノデアリマス、資格アル弁護人ト云フノハ、御承知ノ通リ色々特殊ノ問題ガ起ツタ場合ニ、弁護士以外ノ外ノ人ガ弁護ニ立ツ場合ガアリ、サウ云フ場合ヲ含メテ言フノデアリマス、裁判官ノ問題ニ付テハ是ハ詳細ナ資格ニ付テノ規定ハアリマセヌガ、六十九条第四号デ「法律の定める基準に從ひ、」ト云フコトガアリマス、此ノ法律ノ定メル基準、即チ是ハ一般官吏ニ付テデアリマスガ、司法官ニ付テモ是ハ法律デ以テ一定ノ資格ヲ定メナクテハナラヌコトニナツテ居リマス、是デ資格ノ問題ハ十分解決出来ルデアラウト思ヒマス
○山崎（岩）委員 三浦代議士ノ御質問ニ蛇足ヲ加ヘルヤウデ甚ダ恐縮デアリマスガ、一寸一言ダケ御尋ネ致シタイ、陪審制度ノ問題デアリマス、ソレハ只今マデ日本ノ国情ニ適合シナカツタ為ニ、陪審制度ト云フモノガ後レテ居ツタト云フ風ニ私ハ拝聴シタノデアリマス、ソレハ現行憲法ニ於キマシテハ、私共ハ裁判官ノ裁判ヲ受クル権利ヲ持ツテ居ルノデアリマス、所ガ草案ヲ見マスルト、裁判所トナツテ居ルノデアリマス、裁判官ト云フコトニナリマスルト、陪審員ハ之ニ入リマセヌ、陪審員ハ単ニ裁判ノ材料タル事実ヲ認定スル、其ノ表決ニ加ハルニ過ギナイノデアリマシテ、裁判官ヂヤナイ、随ヒマシテ日本ノ陪審制度ト云フモノガ、此ノ裁判官ノ資格ト云フコトニ禍ヒサレマシテ発達シナカツタモノデナカラウカト私ハ考ヘルノデアリマス、今度ノ草案ニハ裁判所トナツテ居リマスルノデ、意味ガ非常ニ拡大サレテ居リマス、ソコデ私ハ日本ノ民主主義的ナル政治ヲ断行スル上ニ於テモ、此ノ陪審制度ノ発達ガ、大イニ是カラ輝キヲ持ツテ来ルノヂヤナイカト考ヘテ居ルノデアリマス、ドウカ此ノ点ニ付テ十分ニ御尽力ノ程ヲ御願ヒ申上ゲタイ、御答ヘハ要リマセヌ
ソレカラ地方制度ノ改正ニ伴ヒマシテ、是ハ木村司法大臣ニ今一度御尋ネ申上ゲタイコトガアリマス、所謂知事ガ公選ニナノルデアリマス、公選ト云フコトニナリマスト、大抵其ノ地方ノ有力者ガ公民権ノ立場カラ公選サレテ行ク、今度ノ地方制度ノ改正ニ依リ提出サレマシタ議案ヲ見マスト、官吏ト云フコトニナツテ居リマス、是ハ官吏デハ私ハ面白クナイト考ヘテ居ル、之ヲドウシテ公吏ニシナカツタノカ、折角地方制度ヲ改正致シマシテ、サウシテ其ノ地方ヲ立派ナモノニ仕上ゲテ行カナケレバナラナイ、ソレガ今日マデノ状況カラ言ヘバ、内務省ノ役人デアリマシタ為ニ、僅カ一箇月カ二箇月デ以テ直グニ他ニ転任サセラレテシマフ、地方ノ状況ト云フモノヲ知悉スル暇ガナイ、青森県ニハ緒方ト云フ知事ガ赴任シマシタガ、僅カ三日デ以テ是ガ他ニ移サレテシマツテ居ルト云フ例ガアリマス、斯クノ如キ状況ニアツタ為ニ地方ガ其ノ発展ヲ阻碍サレテ来タ、然ルニ今回地方制度ノ改正ニ依リマシテ、其ノ欠漏ガ補ハレテ来ルノデアリマス、随ヒマシテ折角公選ト云フコトニスルノデアリマシタナラバ、百尺竿頭一歩ヲ進メテ、之ヲ公吏ニ致シマシテ、本当ニ内務省ノ監督ト云フモノカラ離脱致シマシテ、思フ存分ニ其ノ地方ノ為ニ働カシテ戴ケナイト云フノハ遺憾デアリマス、此ノ点ニ付キマシテハ金森国務相ハドウ御考ヘニナツテ居ルカ
ソレカラ地方制度ノ改善ト共ニドウシテモ考ヘテ戴カナケレバナラヌノハ、是ハ司法警察制度ノ関係ナノデアリマス、公選サレルト云フコトニナツテ選挙ヲ伴ツテ参リマス、選挙ヲ伴フト云フコトニナリマスト、動トモスレバ是ハ人間デアリマス限リハ、職権濫用ト云フモノガ生ジテ来ル、然ルニ自分ガ警察権ト云フモノヲ持ツテ居リマシタナラバ、其ノ職権ノ濫用ト云フモノガドウ云フ範囲ニ及ブカト云フコトハ、是ハ贅言ヲ要スルマデモナイ、ソコデ私ハ思ヒ切ツテ此ノ機会ニ検察庁――或ハ其ノ言葉ハ検察庁ト云フ言葉ヲ藉リテ言ヒマシタガ、只今ノ裁判所ノ関係デ司法大臣ガ御説明ニナラレマシタヤウニ、此ノ機会ニ検察官ト云フモノヲ裁判所カラ完全ニ分離サセマシテ、サウシテ検察庁ナラ検察庁ト云フ他ノ役所ニ之ヲ所属セシメマシテ、サウシテ司法警察官ト云フモノヲ全部之ニ従属セシメテ行クノデナカツタナラバ、是ハ地方制度ノ改正ト云フモノモ、唯制度ノ改正ダケニ終ツテ実質的ナル効果ヲ持ツテ来ルモノデナイ、斯様ニ考ヘマスルガ、此ノ点ニ付テノ御所見ヲ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 私ハ地方自治ヲ憲法ノ方カラノミ考ヘテ居リマシテ、ソレト国ノ政治ト組合ハセテ、現実ノ内務省提案ニ係リマスル知事公選、ソレヲ官吏トスルト云フ制度ニ付キマシテハ甚ダ申訳ガアリマセヌガ、具体的ノ研究ガ十分出来テ居リマセヌ、暫ク答弁ヲ御許シ願ヒタイト思ヒマス
○木村国務大臣 司法警察ノ問題、是ハ国家トシテ非常ニ重大ナコトト思ヒマス、御説ノ如キハ私モ或ル程度賛意ヲ表シタイト思ヒマス、司法当局ト致シマシテハ、ヤハリ検察庁ニ専属シタ司法警察官ヲ持タセテ、サウシテ全国ノ司法警察行政ヲ一元化シテ行キタイト云フ希望ハアリマス、ソレダケ申上ゲマス
○山崎（岩）委員 草案第十四条ヲ見マスルト「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の權利である。」ト斯様ニ定メラレテアリマス、公務員ヲ罷免スル権利ト云フモノハ、其ノ次ノ条項ニアリマス所ノ第十五条「平穩に請願する權利を有し、」ノ平穏ニ請願シテサウシテ公務員ヲ罷免スルコトニナルノデアリマセウカ、他ニマダ罷免スル所ノ方法ガアルノデアリマセウカ、草案第七十四条ニ依リマスト、裁判官ニ関スル此ノ罷免ノ形式ハ公ノ弾劾ト云フコトニナツテ居ル、平穏ナル請願ト公ノ弾劾ト如何ナル関係ニ立ツノデアリマセウカ、国務相ノ御意見ヲ承リタイ
○金森国務大臣 第十五条ハ国民ガ持ツテ居ル請願権ト云フモノヲ規定シテ居ルノデアリマシテ、此ノ請願権ト申シマスルモノハ、憲法ノ建前ト致シマテシハ国民ノ希望スル所ヲ関係ノ権限ヲ有スル官庁公署ニ申出テ、其ノ考慮ヲ求ムルト云フ種類ノモノデアリマシテ、幅ハ広イケレドモ、謂ハバ深サトモ言フベキモノハ幾分薄イモノデアリマス、詰リ旧イ言葉デ申シマスレバ下意上達ト云フヤウナ気持ニ似テ居ル思想ヲ表ハシテ居ルノデアリマス、而シテ公務員ヲ罷免スルノニハ、凡ユル角度カラ之ニ必要ナル制度ヲ設ケナケレバナリマセヌノデ、他ノ例ヘバ懲戒ニ依ル罷免トカ、或ハ能力減退ニ依ル罷免トカ、何等カノ事務ノ都合ニ依ル罷免トカ、色々ノモノガ考ヘラレマシテ、此ノ十五条トハ別個ノ考ヘニ基クモノデアリマス
○山崎（岩）委員 只今ノ御説明ノ外ニ今一件、第七十四条ニ依ル所ノ公ノ弾劾デアリマス、裁判官ハ「公の彈劾によらなければ罷免されない。」公ノ弾劾ト云フコトヲ私考ヘテ見マスレバ、是ハ一ツノ「デモ」デハナイデセウカ、只今ハ色々ナ組合法ト云フモノガアリマシテ、団体交渉ノ権利ナドガ与ヘラレテ居ル、動モスレバ蓆旗ヲ立テタリ赤旗ヲ立テタリスル状況デアル、斯ウ云フ場合ニ「モッブ・スピリット」ト言フカ、群衆心理ヲ利用シテ一々ニ亙ツテ弾劾スルト云フヤウナコトガアツタナラバ、是ハ果シテ公ノ秩序、善良ノ風俗、此ノ草案ニアリマス所ノ社会公共ノ福祉ニ相反スル所蓋シ多イト私ハ思フ、此ノ弾劾ト云フノハドウ云フ意味デアルカ、承リタイト思フ
○金森国務大臣 七十四条ニ設ケテアリマスル所ノ、此ノ裁判官罷免ノ手続ハ、其ノ前ノ方ニ書イテアリマスル「心身の故障のために職務を執ることができない」ト云フ場合ハ、是ハ裁判所自体ニ依ツテ決定セラレル訳デアリマス、併シナガラ心身ノ故障以外ノ他ノ理由ニ依リ、裁判官ノ行動ニ罷免ヲ必要トスル事情ガアリトスレバ、何等カノ方法ヲ以テ其ノ罷免ノ手続ヲ執ラナケレバナリマセヌ、其ノ時ニ官庁ノ内部ノ手続ニ依ツテ、外ニ知ラレズシテ上司ノ命令等ニ依リ罷免セラルルト云フコトハ、裁判官ノ身分ヲ保障スル所以デハナイト思フノデアリマス、随テサウ云フ内輪ノモノデハナイ、公ノ手続ニ依ル弾劾手続ニ依ラナケレバ罷免サレナイノデアル、ココニ公ト申シマシタノハ、私ハ刑事訴訟法ノ方ハ詳シク存ジマセヌガ、公訴ト云フヤウナ言葉ガアリマスガ、稍々ソレト同ジ意味デアリマシテ、公ノ権力ニ依ツテ弾劾手続ヲ執ル、斯ウ云フ意味ヲ持ツテ居リマス、サウシテ其ノ弾劾ト云フモノハ、弾劾裁判所ニ依ツテ其ノ問題ガ進行セラルルノデアル、其ノ弾劾裁判所ハ衆議院ト参議院トノ議員ヲ以テ構成セラレタルモノデアリマスルノデ、決シテ其ノ中ニ無秩序ナ途行キハナイト思ヒマス、若シ此ノ手続ガナイト致シマスレバ、裁判官ハ身分ノ保障ガ非常ニ薄弱ニナルト云フコトニナラウト思ヒマス
○山崎（岩）委員 第十四条ニ遡リマシテ、只今ノ公務員ヲ罷免スル所ノ権利ガ国民固有ノ権利トシテ与ヘラレテアル、ソコデ其ノ国民ガ公務員ヲ罷免スル場合ニ、大抵ハ輿論トカ或ハ時ノ空気ト云フモノニ圧サレ勝チナノデアル、所ガ其ノ輿論ト云フヤウナモノハ、大抵新聞社デアルトカ様々ナ噂デアルトカ云フモノニ動カサレル、決シテ是ハ正シイモノバカリデアルトハ考ヘラレナイ、然ルニ其ノ正シカラザル輿論トカ、或ハ新聞ノ報道トカ、サウ云フヤウナモノニ依ツテノミ、此ノ罷免権ヲ発動スルヤウナコトガアツタナラバ、是ハ公務員ガ安心シテ仕事ヲスルコトガ出来ナイ、本草案ハ人権ノ基本的ナ要素ヲ幾多定メテ居ルノデアリマス、個人ノ権利ヲ定メテ居ルケレドモ、公務員トナレバソレヲ単ニ自分ノ思フ通リ罷免スルコトガ出来ル、或ハ請願ノ方法ニ依ツテヤル、或ハ弾劾ニ依ツテヤルト云フヤウナコトガ出来マシテモ、ソレニ対スル保護ト云フモノガ欠ケテ居ルコトハ遺憾ダト思ヒマス、ソコデ之ニ対スル保護トシマシテ、サウ云フ請願ヲ受ケ、公ノ弾劾ヲ受ケタヤウナ場合ニハ、ソレニ対スル身分調査ノ機関ヲ設ケル、サウシテ果シテソレガ正当ナル事実デアツタカドウカト云フコトヲ調ベテ見ナケレバナラヌ、此ノ頃ノ状況カラ考ヘテ見ルト、或ハ警察ノ署長ガ頭ヲ刎ネタ米ヲ食ベテ居ルトカ、或ハ停車場デ押収シタ米ハ悉ク警官ノ家ノ台所ノ賄ヒニナツテ居ルト云フヤウナ、誤レル所ノ考ヘガ色々伝ツテ居ル、サウ云フヤウナ「デマ」ノ為ニ踊ラサレテ、公ノ立場ニ立ツベキ所ノ此ノ国民ガ公務員ニ対シテ得手勝手ナ罷免ノ方法ヲ執ルヤウナコトガアツタナラバ、是ハ又国家ノ公務ヲ遂行スル上ニ於テ一大支障ガアルト私ハ考ヘル、ソコデ今ノヤウナ罷免ノ処置ニ出ラレタ場合ニ、其ノ身分関係、ドウ云フ状況デアツタカト云フコトヲ調査スル機関ヲ設ケテ、サウシテ罷免ニ関スル過チノナイヤウナ処置ニ出ルコトヲ私ハ考ヘテ置カナケレバナラヌト思フ、其ノコトヲ書イテ居ナイト云フコトハドウ云フ訳カ、又ソレニ対シテハ何カノ方法デ以テ機関ヲ設ケル必要ガナイモノカドウカ、此ノ点ニ付テ御尋ネシタイ
○金森国務大臣 第十四条ノ公務員選定、罷免ノ権能ガ国民固有ノ権利デアルト云フコトハ、是ハ民主政治ノ国ノ基本ノ考ヘ方ヲ言ツタ訳デアリマス、公務員ト云フモノハ、結局国全体ノ謂ハバ奉仕者デアル、随テ其ノ最後ノ権能ハ主権者タル国民ガ持ツテ居ル、其ノ任命罷免ノ権能ハ主権者タル国民ガ持ツテ居ル、是ハ国民全体ト云フ意味デアリマスガ、サウ云フ趣旨ヲ以テ十四条ガ根本原理トシテ規定セラレテ居リマス、併シナガラ根本ニ於キマシテハ、国民全体ガ持ツテ居ル罷免権デアリマスルケレドモ、ソレハ寧ロ理論的ナ面ヲ言ツタダケデアリマシテ、現実ニ国民全体ガ物ヲ言フコトモ字ヲ書クコトモ出来マセヌ、其ノ実行ノ面ニ於キマシテハ、此ノ憲法ニ定ムル種々ノ手続ニ依ツテ、具体的ニ然ルベキ道順ニ依ツテ解決セラレルト云フコトニナル訳デアリマス、サウシテ之ニ基キマシテ、此ノ根本ノ罷免権ト云フモノハドウシテ決マルモノデアルカト申シマスルト、是ガ先ニ司法大臣カラ触レラレマシタヤウニ、第六十九条ノ第四号ニ於キマシテ、官吏ニ関スル基準ト云フモノハ法律ヲ以テ決メルト云フコトガ示サレテ居リマス、今マデハ官吏ノ、身分ハ司法官ハ別ト致シマシテ、原則トシテハ勅令ヲ以テ定メラレテ居リマス、随テ身分保障ハ甚ダ不十分デアツタ、任用資格等モ甚ダ形式的ニ不十分デアツタ、斯ウ言ヘルト思ヒマス、今度ハ何ガ何デモ基本ノ権利ハ法律ヲ以テ決マル、法律ハ言フマデモナク国会ノ議ヲ経ルノデアリマスルガ故ニ、現在ノ秩序ニ於キマシテ、是ヨリモ鄭重ナ方法ハ考ヘラレナイト思ツテ居ル訳デアリマス、ソコデ此ノ法律ノ定ムル基準ニ従ヒマシテ、官吏ヲ罷免スル諸般ノ手続ガ考ヘラレテ来ルト思ヒマス、併シナガラドウ云フ法規ヲ以テ其ノ罷免ノ手続ヲ決メルカト云フコトハ、此ノ憲法実施ノ為ニ新タニ実行シナケレバナリマセヌ、此ノ憲法ガ施行セラレルマデニハ、此ノ議会ノ協賛ヲ経テ出来上ルト思ヒマス、而シテサウ云フ制度ガ出来上ルトシテモ、一方ニ国民ノ与論ヲ官庁ニ十分行亙ラセルト云フ必要カラシテ、十五条ハ之ヲ請願権ト云フ方面カラ言ツタダケデアリマス、而シテ請願権ノ性質ハ前ニモ申シマシタヤウニ、当然ニ罷免ノ効果ヲ生ズルモノデハアリマセヌ、当該官庁ノ参考ニ供スルダケデアリマス、寧ロココデ一遍考ヘテ下サイ、注意ニ何カ不足シタ所ガアツテハナラヌカラシテ、能ク念頭ニ置イテ之ヲ考ヘヨト云フ意味ノ請願デアリマスカラ、ソレニ基イテ直チニ不公平ナ結果ガ起ルコトハアリマセヌ、ソレヲサウ云フコトノ参考ニ入レテ、サウシテ官庁ガ法律ニ定ムル方法ニ依ツテ罷免ノ手続ヲ執ル訳デアリマス、而モ其ノ中ニ於キマシテ、特ニ裁判官ダケハ最モ身分ノ保障ヲ正確ニシナケレバナラヌ故ニ、法律ヲ以テ定メル普通ノ手続デ此ノ罷免ヲヤツテハイカヌ、能力減退ノ時ニハ同類ノ裁判所ガ之ヲ裁ク、能力減退以外ニ於キマシテハ是ハ十年ノ任期ヲ持ツテ居ル一種ノ終身官デアリマスカラ、本人ガ辞表ヲ出サナイ限リ罷免ノ方法ハナイノデアリマス、併シナガラ若シモ懲戒トカ何トカニ該当スル非行ガアルト云フ時ニ於キマシテモソレヲアヤフヤナ方法デヤラナイデ、立派ナ国家ノ公然タル手続ヲ用ヒテ之ヲ処置シテ行クノダ、其ノ処置ヲシテ行クニシテモ、行政官ヲシテ之ヲ裁イテ行カナイデ、国会ノ議員ヲ以テ構成セラレテ居ル所ノ最モ独立性ノ強イ、最モ公平ナル判断ヲナシ得ルデアラウ所ノ弾劾裁判所ヘ持ツテ行ク、サウシテソコデ初メテ議決セラレタ時ニハ罷免ガ出来ルノダ、斯ウ云フ風デアリマスカラ、公務員ノ身分保障ニ付キマシテハ、一般ニ言ヘバ此ノ憲法ニ於テ基本ハ定メラレテ居リ、司法官ニ付テハ略々具体的ナコトガ此処デ充実シテ居ル、併シ司法官ノ今ノ弾劾手続ハ是ダケデハイケマセヌノデ、此ノ中ニ書イテアリマスヤウニ「彈劾に關する事項は、法律でこれを決める。」ト第六十条ニアリマス、ダカラ法律デ又具体的ナ方法、手続ヲ定メマシテ、議会ノ協賛ヲ経テヤルト云フノデアリマスカラ、御心配ノ点ハナカラウト考ヘテ居リマス
○山崎（岩）委員 御尋ネ申上ゲマスガ、第十四条ノ「公務員」ノ中ニハ国会議員ガ入リマセヌカ、私ハ国会議員ノ負担スベキ所ノ此ノ公務ト云フモノモ国家ノ公務デアルト思フ、公務ト云フコトノ定義ト云フコトニナルノデアリマスガ、公務ト云フコトハ国家及ビ公共団体ノ事務デアルト考ヘテ居リマス、サウスルト今回帝国議会ト云フモノニ非常ニ権限ガ重ク与ヘラレテ居リマス、此ノ場合ニ於テ、本草案ニ於テノ国会議員ナルモノハ、公務員ノ中ニ包含セラレナイカドウカ、包含セラレナイトスレバ、ドウ云フヤウナ根拠ヲ以テセラレナイモノデアラウカ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 国会ノ議員モ固ヨリ此ノ第十四条ノ公務員ノ中ニ入ツテ居リマス、併シ罷免スルコトハ国民固有ノ権利デアルト云フコトハ一寸此ノ場合ニピツタリト当リマセヌ、併シ包括的ニ公務員ト云フモノノ身分ノ基礎ハ国民固有ノ権利デアル、斯ウ云フ意味ガ含マレテ居ルト解釈シテ居リマス
○山崎（岩）委員 サウスルト国民投票ニ依ツテ解職ト云フモノモ出来得ルモノト考ヘマスガ、如何ナモノデセウカ
○金森国務大臣 将来制度ヲ設ケマスレバ、固ヨリ其ノ道ハ開カレ得ル訳デアリマス、斯様ナ制度ハ諸般ノ考慮、適切デナイト云フ考ヘカラ考慮ニ入レテ居リマセヌ、具体的ナ方法ハ存ジマセヌ
○山崎（岩）委員 草案第二十一条ノ「學問の自由」ト云フ点ニ付キマシテ、是ハ三浦代議士カラ御質問ガアリマシタカラ重複ヲ避ケマスガ、「學問の自由」ト云フコトヲココニ設ケテ置キマシテ、サウシテ草案ノ第八十五条ノ中ニハ公ノ支配ニ属シナイ教育等ノ事業ト云フモノニ対シマシテハ、公金其ノ他ノモノヲ使ツテハナラヌトアル訳デアリマスガ、サウシマスルト、私立学校ニ対シマシテハ補助金ガ出ナイト云フコトニナリマスガ、如何ナモノデセウカ
○金森国務大臣 「學問の自由」ト申シマスコトハ、補助金ヲ出スカ出サヌカト云フコトニハ関係ノナイ規定デアリマシテ、個人ガ学問ヲスルニモ学園ノ中ニ於テ学問ヲスルト致シマシテモ、国家ガ濫リニ公益ノ必要ナクシテ――恐ラクハ公益ノ問題モ起ラヌト思ヒマスガ、ソレニ学問ノ研究ノ仕方或ハ学問ノ内容ニ於テ制限ヲ加ヘルト云フコトハ不都合デアルト云フコトガ、第二十一条ノ趣旨デアリマスルガ故ニ、積極的ニ補助金ヲ出スヤ否ヤト云フコトハ、二十一条ノ関与スル問題デハゴザイマセヌ、サウシテ八十五条ノ方面ニ行キマシテ、公金其ノ他ノ公ノ財産ヲ慈善、教育若シクハ博愛ノ事業ニ対シテ支出シ、又ハ利用ニ供シテハナラヌト云フ言葉ガアリマシテ、一見恰モ私立学校ニハ補助金ガ出セナイヤウニ見エルカモ知レマセヌガ、ソレハ上ノ方ニ「公の支配に屬しない」ト但書ガ附イテ居リマス、ソレガ公ノ支配ニ属スレバ補助金ハ出シテ宜イ、公ノ支配ニ属スルト云フ言葉ノ意味ハドウ云フコトカト申シマスト、ヤリ放シノヤリ方ノ侭ニ学校ガ置カレテ居レバ、ソレハ補助金ヲ出シテハナラナイ、併シ国家ノ定ムル法令ヲ基礎トシテ国家ガソレヲ十分謂ハバ監督トカ管理ト云フヤウナ方法ヲ執ツテ居ルナラバ、補助金ヲ出シテ宜イ、斯ウ云フノデアリシマテ、現在ノ私立学校ノ大部分ニ付キマシテハ、法令ニ依ツテ国家ガ管理シテ居ルモノト考ヘテ居リマス
○山崎（岩）委員 只今ノ国務相ノ御説明ニ依リマシテ、私ハ更ニ御尋ネ申上ゲタイコトガアルノデアリマス、ソレハ「學問の自由」ト云フ此ノ本条ニ禍ヒサレマシテ、是カラ泡沫学校ガ沢山出来ルト云フコトモ考ヘナケレバナラナイ、色々ナコトデ自由ダ自由ダト云フヤウナ訳デ、何ヲ教ヘルカ分ラヌヤウナ学校ガ出来テ来ル、随ヒマシテ此ノ私立学校ニ対スル権威ト云フモノガ失墜サレル、官立ノ学校ト私立学校トノ間ニ於ケル差別待遇ノ如キモ、私ハサウ云フ私立学校ノ内容等ノ点ニ付テ薄弱性ガアル結果ト考ヘルノデアリマス、ソコデ私ハ国務相ヨリモ文部大臣ニ承リタカツタノデアリマスガ、今後学校ヲ経営スルコトノ為ニハ、之ヲ全部法人ニスル、法人ニシテサウシテ只今ノ国家ノ監督モ亦或ハ公ノ機関タル公益性ヲ持タセテ行ケバ、私ハ只今ノ此ノ条項ニモ当嵌リマシテ、サウシテ第八十五条ノ支配ヲ受ケナイ、公ノ支配ニ属スルノデアリマスガ故ニ、私ハ政府ノ育成ニ与ルコトガ出来ルト思フノデアリマス、ソコデ私ハ一言申上ゲタイコトハ、今日ノ日本ノ此ノ行詰リト云フコトモ、先程三浦代議士ガ御話ニナツタ通リ、官尊民卑ノ気風ノ為メデアル、其ノ官尊民卑ノ気風ナルモノガ学校ノ教育面ニモ現ハレテ来テ居ル、私立学校ヲ出タ幾多有為ノ青年ガアルコトニ御考ヘヲ及ボシテ戴カナケレバナラナイ、早稲田大学ニ今度新シク就任サレタ島田総長ハ、就任第一声トシテ斯ウ言ハレテ居リマス、私ハ之ヲ一言御紹介申上ゲタイト思ヒマス、「此ノ教育民主化ニ關聯シテ更ニ私ノ言ヒタイコトハ學閥ノ問題デアル、私學ノ私ガ言ツテハ變ダガ、官私學ノ相剋ハ未ダ改善サレテ居ナイ、其ノ例トシテ今春食糧ヤ住宅ノ關係カラ學生ノ交流ガ叫バレタ、東京ノ早大ト京都帝大ノ學生ナドヲ交流サセテ家郷ニ近イ所デ學バセルト云フ仕組ダツタ、併シ是ハ結局提唱ダケニ終リ、殆ド實現サレナカツタ、是ハ例トシテ適切デナイカモ知レナイガ、其ノ原因ハ日本人ノ度量ガ狹イコトニアル、包容力ガナイノダ、更ニ根本的ナ原因ハ、教育ニ内容ガナイ爲メ、二年間ノ成果タル知識ヤ技術技能ガ第一ノ尺度トナラズ、徽章ガモノヲ言ツテ居ルカラダ、此ノ邊ニモ日本ノ教育ガ是正スベキ點ガアルカト考ヘルガ、是ハ私一人ノ手デハ何トモ出來ナイ、大キナ問題デアル」斯ウアルノデアリマス、私ハ此ノ機会ニ申上ゲタイ、学校其ノモノニ対シテ私ト云フ名前ヲ付ケルコトガ間違ツテ居ル、私ト云フ字ハ私カニト云フ意味デアル、「プライヴェート」ナモノデアル、隠レテノ仕事デアル、苟クモ国家ノ有為ナル人物ヲ養ツテ行カナケレバナラヌ学校ガ、隠レタ学校デアツテ宜イモノカ、私カニ建テタモノデアツテ宜イモノカ、言葉ノ綾ニ囚ハレルコトハ如何カト思ヒマスケレドモ、私ハ私立学校ト云フ言葉サヘ既ニ不満足ダト考ヘル、此ノ機会ニ本当ニ民主主義的ナル制度ヲ確立シテ行カウト思フナラバ、本当ニ「フリー」ナ立場ニ立タナケレバ駄目ダト考ヘマス、只今ノ早稲田ト京都帝大トノ学生ノ交流ノ如キデアツテモ、私ハヤハリ其ノ一ツノコトガ斯ウシタ欠陥ニナツテ来ルト思フ、ソレハ一ツノ学校ニ入ル、入ツタガ最後抜差シガナラナクナル、ドウモ俺ハ法律ガ自分ノ性格ニ合ハナイノダ、理科ノ方ニ行キタイノダガ、其ノ理科ノ方ノ学校ニ入ル訳ニ行カナイ、ナゼカト云フト入学ノ門ト云フモノガ固ク閉サレテ居ル、理科ノ方ノ系統ノ人モ、折角入ツテ見タガ、ドウモ自分ニハ理科的ノ才能ガ少イ、ソレデ文科系統ノ方ニ入ツテ見タイト思ヒマシテモ、其ノ転校ガ容易デナイ、随ヒマシテドウモ心ナラズモ自分ノ入学シタ学校ヲ後生大事ニ五年ナリ六年ナリ終ル、ソコニ日本人ノ才能ノ欠如ガ生ジテ来ル、人格的ナ欠陥ガ生ジテ来ル、ソレガ今日戦ニ敗ケサセタ原因ニモナツテ来テ居ル、大キナ人物ノ出ナイ原因ハ是ニアルト、考ヘテ居ル、斯ウ云フ点ニ付キマシテハ、私ハ政府ガ断乎タル処置ニ依ツテ、本当ニ官公私立ノ観念ヲ逸脱シマシテ、有為ナル人材ヲ養フト云フ点ニ目覚メテ行カナカツタナラバ、私ハ只今問題ノ民主制度ノ実現ト云フコトモ、百年河清ヲ待ツガ如キ結果ニ終ルノデハナイカト考ヘルモノデアリマス
次ニ、今度参議院ヲ設ケルト云フコトニナル訳デアリマス、ソコデ私ハ大学ヲ一ツノ選挙区ト致シマシテ、各大学カラ参議院ノ議員ヲ選出セシムル方法ヲ御考ヘノ中ニ入レテ下サルコトガ出来ナイカドウカ、其ノ点ヲ御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス
○金森国務大臣 今回ノ参議院ノ考ヘ方ハ、公平ナル、或ハ公正ナル標準ニ依ツテ選挙セラレタル国民代表ノ機関デアルト云フコトハ固ヨリデアリマス、随テ其ノ選挙権、被選挙権、選挙区ヲ決メマスニ付キマシテモ、国民全体ヲ代表スル上ニ於キマシテ、公正ナル結果ガ生ズルヤウニ考ヘナケレバナリマセヌ、今大学ヲ一選挙区トシテ、之ニ若干ノ選挙権、被選挙権ヲ割当テルト云フコトニナリマスト、他ノモノトノ釣合ニ於テ初メテ公正ニ国民ヲ代表スル一ツノ参議院ヲ作ルコトガ出来ルデアラウカト云フ所ニ疑ヒヲ持ツテ居リマス、其ノ方法論ハ遽カニ決シ難キモノガアル訳デアリマス、現在ノ所、其ノ考ヘヨリモツト外ノ考ヘヲ取ツテ、参議院ノ組織ヲ定メタイヤウニ研究ノ方向ガ向ツテ居リマス
○山崎（岩）委員 第二十四条ニハ「すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく敎育を受ける權利を有する。」ト斯ウアリマス、ソコデ其ノ能力ト云フ問題ハ、肉体的ナル能力ト云フモノモアリマセウシ、環境ニ依ル能力モアルデアリマセウガ、私ハ環境ニ依ツテ能力ヲ欠イタ為ニ、幾多ノ秀才ガ実ニ教育ノ門ヲ開クコトガ出来ズシテ埋レテ居ル人ガ沢山アル、ソコデ此ノ規定ヲ活カサレマシテ、私ハ育英制度ト云フモノヲ確立シマシテ、国費ヲ投ジテ是等ノ英才ヲ立派ニ育テ上ゲルト云フコトニ御考ヘガナイカドウカ、其ノ点ヲ承リタイ
ソレカラモウ一ツハ、「すべて國民は、その保護する兒童に初等敎育を受けさせる義務を負ふ。」ト斬ウアリマス、ソコデ国民ノ中ニハ多数ノ児童ヲ持ツテ大変困ツテ居ル方ガアル、子供ノ教育サヘ出来ナイ人ガアル、昔カラ日本ニモ古イ諺ノ中ニ、律義者ノ子沢山ト云フコトガアリマスガ、サウ云フ家庭ノ為ニモ、私ハ子供ヲ立派ニ仕上ゲルト云フコトガ、是レ亦民主主義政治ノ根幹デナケレバナラナイト考ヘル、ソレデ之ニ対シマシテ本条項ヲ設ケマシタ以上、政府トシマシテハ、併セテ之ニ対スル具体案ヲ持ツテ居ナイモノカドウカ、此ノ点ヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 憲法ノ規定自体ノ中ニハ、ソコマデノ内容ヲ含ンデ居ルモノトハ考ヘテ居リマセヌ、具体的ノ方策ニ亙リマスルガ故ニ、文部大臣ヨリ御答ヘヲシテ貰ヒタイト思ツテ居リマス
○田中国務大臣 英才教育制度ニ付キマシテハ、戦時中カラ色々特殊的ノ教育トシテ現在試験的ニ行ハレテ居リマス、尚ホ一般ノ育英ノ問題ニ付キマシテハ、是ハ経済的ニ困ツテ居ル、併シ相当ノ能力ノアルヤウナ中等学校以上ノ子弟ニ付キマシテ、御承知ノヤウニ、大日本育英会ト云フ法人ノ制度ガ出来マシテ、多額ノ補助金ヲ出シテ居リマシテ、今日其ノ貸費ヲ受ケテ居ル者ハ非常ナ多数ニ上ツテ居リマス、併シ今日ノ時局ニ鑑ミマシテ、益々其ノ制度ヲ拡張シテ行ク必要ガアルト存ジマス、殊ニ引揚者或ハ罹災者ノ子弟ト云フモノハ、相当多数ニ上ツテ居リマスカラシテ、ソレカラ又生活難、物価高ナドノ事情ニ鑑ミマシテ、多額ノ予算ヲ今年度ニ計上シタイト存ジテ居ル次第デアリマス、要スルニ育英制度ニ付キマシテハ、文部省トシテ更ニ何倍カノ力ヲ注イデヤリタイト存ジ、出来ルダケ御趣旨ニ副ヒタイト思ツテ居ル次第デアリマス
○山崎（岩）委員 草案第七条ニ入リマシテ、天皇ノ拒否権ノ点ニ付テ承リタイト存ジマス、草案ニハ認証権ハアリマシテモ、天皇ニハ拒否権ハナイ、併シ設ケテモ私ハ民主主義ニハ反スル訳ガナイト思ヒマス、例ヘバ「イギリス」ノ例ヲ取ツテ見マスレバ、「アーン」女皇以来二百年間「イギリス」ニ於キマシテハ不裁可ト云フコトガナイ、併シナガラ不裁可ト云フ実例ハナイノデアルケレドモ、其ノ拒否権ヲ持ツテ居ル、サウ説明シテ居ル学者ガ沢山アリマス、又「アメリカ」ハ御承知ノ通リ、民主主義ノ国デアル、大統領ハ拒否権ヲ持ツテ居ル、サウシテ其ノ大統領ハ今日マデ五百回以上モ拒否権ヲ執行シテ居ル訳デアリマス、独リ日本ノ天皇ニドウシテ其ノ拒否権ヲ置カナイノデアルカ、其ノ点ニ付テ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 拒否権ハ「アメリカ」ノ如キ純粋ノ権力分立ノ国ニ於キマシテハ、議会ト大統領トハ完全ニ対立シテ居ル訳デアリマスルカラシテ、議会ノ議ヲ経タモノヲ大統領ガ拒否スルト云フコトハ、権力分立ノ制度カラシテ極メテ自明ノコトデアリマス、併シ議院内閣制ヲ採リ、天皇ヲ以テ其ノ拒否権ヲ有スルモノト定メマスルナラバ、事実拒否権ト云フモノハ行ハレナイノデアリマス、若シモ行ハレマスルナラバ、天皇ノ無答責ト云フ地位ト余程面白クナイ関係ヲ生ズルノデアリマス、要スルニ天皇ハ拒否権ヲ御行使ニナラレルコトハ容易ニ予想出来マセヌ、明治憲法制定セラレテ以来、今日マデ拒否権ヲ行使セラレナカツタコトハ、ヤハリ其ノ事情ヲ含ンデ居ル為メト思ヒマス、然ラバ天皇ニ拒否権ハ政治的ニハナイノデアリマス、サウ云フ時ニ憲法ニ拒否権アリト書キマスルコトハ、殊更ニ制度ノ紛淆ヲ来スモノデアリマシテ、謂ハバ直截簡明ナル憲法デナイノデアリマス、我々ノ今マデ持ツテ居ツタ法律秩序ハ直截簡明デナクテ、表ニアルガ如クシテ裏ニハナイト云フヤウナ規定、又ハ容易ニ理解シ得ナイモノヲ色々ナ無理ナ説明ヲ以テ補ツテ居ル規定ト云フモノガ沢山アリマシテ、ソレガ日本ノ秩序ノ公明サヲ曇ラシタコトハ御承知ノ通リデアリマス、此ノ憲法ハ直截簡明ニ、一切ノ分リニクイ言葉ノ綾ノアリ過ギルヤウナコトハ全部排除致シマシテ、ソコデ天皇ニ拒否権ハナイトハツキリ憲法ノ上ニ明カニシテ置クコトノ方ガ適切デアラウト考ヘタ次第デアリマス
○山崎（岩）委員 草案第十三条ニハ「すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により」云々トアリマスガ、現行憲法第二条ニハ「皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ繼承ス」ト定メラレテ居リマス、サウシマスト第十三条ニ依リマシテ、性別ニ依ツテ差別ヲ受ケルコトガナイ、此ノ条項ニ依ツテ現行憲法第二条ノ「皇男子孫之ヲ繼承ス」ト云フコトト私ハ違ヒガ生ジテ来ルノデハナイカト思ヒマス、詰リ女皇様ガ皇位ニ即カレルト云フコトモアリ得ルト考ヘマスルガ、此ノ点ニ付テ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 皇位継承ニ付キマシテハ、此ノ憲法草案ハ第二条ニ「國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを繼承する。」ト書イテアリマス、此ノ規定ハ第十三条ニ対シテハ別ノ位置ヲ持ツモノデアリマシテ、今御尋ネニナリマシタヤウナ点ハ、第二条ニ予見シテ居ル皇室典範ニ依ツテ定ムルト云フコトニ帰着致シマス、而シテ其ノ皇室典範ノ内容ガ如何ニ定マルカト云フコトハ、是モ近キ将来ニ於キマシテ臨時法制調査会等ノ御意見ヲ伺ツタ後ニ、議会ノ議決ヲ経タイト考ヘテ居リマス
○山崎（岩）委員 草案第八十九条ニ付キマシテ御尋ネシタイト思ヒマス、現行憲法第六十四条ニハ「國家ノ歳出歳入ハ毎年豫算ヲ以テ帝國議會ノ協贊ヲ經ヘシ」トアリマス、今度ノ草案ニハ第八十二条ニ「内閣は、毎會計年度の豫算を作成し、」ト斯ウアリマス
現行憲法ニハ「毎年」ト斯ウアル、草案ニハ、「毎會計年度」トアルノデアリマスガ、年度ト云フノト年ト云フノト、タツタ僅カ一ツノ文字デアリマスケレドモ、其ノ内容ハ洵ニ私ハ広汎ナモノトナルト考ヘテ居リマス、例ヘバ今日マデ現行憲法ニ依リマシテ此ノ毎年ト云フ言葉ガ禍ヒヲ致シマシテ、ソシテ非常ナ厖大ナル予算ガ、而モ数箇年ニ亙ツテ一会計年度デ以テ取扱ハレテ居ル例ガ沢山アル、サウ云フコトガ軍閥ノ跳梁スル基礎ニナツタンダト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、然ルニ今度ハ毎会計年度ト云フコトニナリマシタノデ、是ハ只今ノヤウニ数箇年ヲ以テ一会計年度トスルガ如キコトノ矛盾ガ払拭サレルモノト、斯様ニ固ク信ジマシテ、此ノ点ニ於テ政府草案ガ飛躍的デアルコトヲ私ハ喜ブ者デアリマス、所デ私ハ一ツ御願ヒガアル、更ニ又之ヲ申上ゲタイノデアリマスガ、此ノ会計年度ハ今日マデノ所四月一日ニ始マリマシテ、翌年ノ三月三十一日ヲ以テ終ル、之ヲ暦年ト一緒ニスルコトガ出来ナイカ、一月カラ十二月マデニスルコトガ出来ナイカ、是ガ一月カラ十二月ノ暦年度ト云フコトニナルト、非常ナ行政上ノ効果ガアルノデアリマス、私ハ青森ノ出身デアリマスガ、地方的ナコトヲ言フコトハ洵ニ恐入リマスガ、寒国ニ於キマシテハ、此ノ会計年度ト云フコトノ為ニ禍ヒサレルコトガ頗ル多イ、東京ハ十二月、一月ニナツテモ雪ガ降ラナイ、立派ニ土木工事デモ何デモ仕事ガ出来ル、ソコデ役所デ以テ「ペーパー・プラン」ヲ立テマスノデ、雪ノ状況モ寒国地方ノ寒サノ状態モ、何モソンナコトハ考ヘノ中ニ入ツテ居ナイ、ソコデ十月、十一月頃設計ヲ作ツテ、ソレヲ県庁ノ方ニ廻ハス、県ガ仕事ヲヤル場合ニハ、大雪ノ為メ、大荒レノ為メ、又寒サノ為メ、其ノ仕事ガ出来ナイ、「セメント」ノ仕事ノ如キ「コンクリート」ノ仕事ノ如キハ殆ド出来ナイ、洵ニ不都合ノコトガ多イ、ソコデ之ヲ会計年度トサレマシタ親心カラ百尺竿頭一歩ヲ進メテ暦年度トスル、サウスレバ私ハ北海道ニシテモ、東北地方ニシテモ、其ノ他ノ雪国デ大変困ル国ガ助カル、ソレニ対スル御考ヘハドウ云フモノカ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 八十二条ニ毎会計年度ト云フ規定ヲ設ケマシタノハ、御説ノ如ク非常ニ長期ニ亙ル単一予算ヲ含ム趣旨デナイコトハ固ヨリデアリマス、併シ会計年度ガ如何ニ決マルカト云フ点ハ、精密ニハ会計法トデモ云フベキ是等ノ基礎原則ノ法律ニ依ツテ決マルコトデアリマス、而シテ今御話ニナリマシタ会計年度ヲ一月ヨリ十二月ノ暦年度ニスルカドウカト云フ点ニ付キマシテハ、政府ニ於キマシテモ、実ハ多年ノ県案デアリマシテ、色々ナ角度カラ見マシテ尚ホ一定スル所ヲ知ラズ、現ニ宮内省ナドデハ普通ノ暦年デヤツテ居リマスケレドモ、政府ニハマダ特別ナル事情ガアルト云フ専門家ノ意見ノ為ニ、今日依然トシテ元ノ姿ニナツテ居リマス、何レハ会計法ヲ新シキ憲法ニ合ハセル意味ニ於キマシテ完備サセナケレバナリマセヌノデ其ノ時ニ能ク研究ヲ遂ゲタイト存ジテ居リマス
○山崎（岩）委員 草案第八十六条ニハ「國の收入支出の決算は、すべて毎年會計檢査院がこれを檢査し、内閣は、次の年度に、その檢査報告とともに、これを國會に提出しなければならない。」トアル、此ノ決算ヲ国会ガ若シ承認シナカツタ場合ニハ、法律上ノ効果ハ一体ドウナルデアリマセウカ、今日マデノ例ヲ見マスト、決算ハ単ニ決算会議ニ為ニ行ハレル程度ノモノデアツテ、別段法律上重大ナ効果ヲ持ツテ居ナイヤウニ思フ、是デハ私ハイケナイト考ヘマス、本当ニ国ノ財政ヲ確立シテ行カウト云フコトノ為ニハ、国会モ十分ノ監督ヲシナケレバナリマセヌ、随ヒマシテ又国会ニ於ケル所ノ不承認ト云フコトモ予期シナケレバナラヌ、サウ云フ場合ニ法律上ニ何等ノ効果ヲ持ツテ来ナイト云フコトハ遺憾デアリマス、此ノ点ニ付テドウ御考ヘデアリマセウカ
○金森国務大臣 此ノ会計検査ハ政府ノ行為自体ヲ国会ガ監督スル其ノ一ツノ現ハレデアリマス、随テ国会ニ於テ其ノ決算書ヲ厳重ニ批判サレマスレバ、結局国会ノ監督権ガ政府ニ影響致シマシテ、政府ハソレニ対スル責任ヲ、其ノ程度ニ応ジテ取ラナケレバナラヌ、究極ニ於キマシテハ総辞職ト云フヤウナ場面ニマデ及ブコトモ亦考ヘラレルノデアリマシテ、ソレ以上ノ大キイ責任ノ取リ方ハ恐ラクナイカト思ツテ居リマス
○山崎（岩）委員 第六十二条「内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帶して責任を負ふ。」トアリマス、国務大臣ガ国政上若シ、秕政ヲ行ヒマシテ、国家ニ重大ナル所ノ悪影響ヲ与ヘルト云フコトモ考ヘナケレバナラヌ、サウ云フ場合ニハ、国会ニ対シテドウ云フ責任ヲ負フモノデアリマセウカ、又国家ニ対シマシテモ国務大臣ハドウ云フ責任ヲ負フカ、只今ノヤウニ決算ガ不承認デアルト云フ場合ニ、内閣ガ桂冠ヲスルダケデ、他ニ之ニ対スル所ノ責任ト云フモノヲ負ハナクテ宜イモノデアラウカドウカ、其ノ点ニ付テ御尋ネ申上ゲマス
○金森国務大臣 憲法ノ六十二条ノ予想シテ居リマスノルハ、内閣ト国会トノ関係ニ於ケル政治責任デアリマス、政治責任ハ総辞職ト云フコトニ於テ終リヲ果スモノデアマス
其ノ他ニ何等カ刑罰、法律上ノ責任、損害賠償上ノ責任、サウ云フモノガ若シ考ヘラレルモノト致シマシテモ、ソレハ憲法第六十二条ノ範囲外ノコトニナルト思ヒマス
○山崎（岩）委員 第七条ニ於キマシテ「天皇は、内閣の助言と承認により、國民のために、左の國務を行ふ。」一号ニハ「憲法改正」、是ノ公布デアリマス、然ルニ第九十二条ノ末項ニハ「憲法改正について前項の承認を經たときは、天皇は、國民の名で、この憲法と一體を成すものとして、直ちにこれを公布する。」トアリマス、第九十二条ニハ「國民の名」ト云フコトガ入ツテ居ルノデアリマスガ、第七条ニハ「内閣の助言と承認により、國民のために、左の國務を行ふ。」憲法ノ改正ヲ公布スルコトデアル、私バ敢テ此ノ九十二条ニハ「國民の名」ト云フ言葉ヲ用ヒズトモ宜イデハナイカ、斯様ニ考ヘマスガ、第七条トノ関係ヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 「國民の名で」ト云フコトヲ言ハナクテモ宜イト云フ御意見デアリマスガ、之ヲ言ハナクテモ効力ノ上ニハ何等ノ支障ハナイノデアリマス、併シナガラ憲法ヲ改正スルモノハ何デアルカト言ヘバ、前項ニ書イテアリマスヤウニ議会ノ特別ナル手続ヲ経マシテ、更ニ特別ナル国民投票或ハ其ノ他ノ国民投票ニ依ツテ最後ノ決定ヲ受クルモノデアリマシテ、謂ハバ国民全体ノ意思ノ総合ニ依ツテ決定セラレタモノデアリマス、随テソレヲ強ク示ス為ニ、国民ノ名デ公布スルト云フコトハ、法律的ニハ必要ハナイカモ知レマセヌガ、政治的ナ意味ニ於テ十分意味ノアルモノト考ヘテ居リマス
○山崎（岩）委員 私ノ質問ハ是デ打切リマス
○芦田委員長 明日ハ午前十時ヨリ会議ヲ開キマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
午後四時二十七分散会