委員会 昭和21年7月12日（第11号）
昭和二十一年七月十二日（金曜日）午前十時二十三分開議
出席委員
委員長 芦田 均君
理事 江藤 夏雄君 理事 高橋 泰雄君
理事 廿日出ひろし君 理事 青木 泰助君
理事 吉田 安君 理事 鈴木 義男君
理事 林 平馬君 理事 柏原 義則君
理事 大島 多藏君
小野 孝君 加藤 宗平君
上林山榮吉君 神田 博君
木島 義夫君 加藤 一雄君
木村 義雄君 北浦圭太郎君
小島 徹三君 左藤 義詮君
武田 キヨ君 武田信之助君
塚田十一郎君 本田 英作君
三浦寅之助君 山本 正一君
西山冨佐太君 犬養 健君
鈴木周次郎君 關谷 勝利君
天野 久君 原 健三郎君
原 夫次郎君 星 一君
森山 ヨネ君 山崎 岩男君
井伊 誠一君 石川金次郎君
及川 規君 加藤シヅエ君
黒田 壽男君 杉本 勝次君
棚橋 小虎君 西尾 末廣君
松澤 兼人君 森 三樹二君
森戸 辰男君 井上 徳命君
大橋 喜美君 越原 はる君
酒井 俊雄君 橋本 二郎君
笠井 重治君 安部 俊吾君
早川 崇君 赤澤 正道君
秋田 大助君 野坂 參三君
同日委員石原登君辞任ニ付其ノ補
欠トシテ森田巳雄君ヲ議長ニ於テ
選定シタリ
出席国務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
文部大臣 田中耕太郎君
国務大臣 齋藤 隆夫君
逓信大臣 一松 定吉君
厚生大臣 河合 良成君
国務大臣 植原悦二郎君
国務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
文部政務次官 長野 長廣君
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本日ノ会議ニ付シタ議案
帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長 会議ヲ開キマス、質疑ニ入リマス、第一章第一条ヲ議題ニ供シマス北浦圭太郎君
○北浦委員 第一条ヲ審議スベキ先決問題ト致シマシテ、一、二ノ点ヲ政府ニ御伺ヒ致シタイト思フノデアリマス、御承知ノ通リ本草案モ委員会最後ノ段階ニ入リマシテ、之ヲ修正致シマスニセヨ、全面的ニ反対スルニモセヨ、或ハ又修正ノ後賛成スルニモセヨ、私ハ特ニ関係方面、此ノ方面ノ意思ヲ注視シナケレバナラヌト、考ヘタノデアリマス、之ヲココニ明カニスルコトニ依リマシテ、修正、反対、賛成ノ程度ガ決定サレマス、我々ハ戦ヒニ破レタノデアリマス、即チ昨年七月二十六日ノ所謂「ポツダム」宣言ハ同八月十五日ニ我ガ国政府ニ依ツテ完全ニ受諾サレ、此ノ宣言ハ日本ニ取ツテノ至上命令デアルト云フコトヲ私ハ能ク存ジテ居リマス、併シナガラ「マッカーサー」司令部ハ我々ニ種々ナル自由ヲ与ヘテ呉レタ、最モ感謝スベキハ言論ノ自由デアリマス、之ヲ戦争中ニ剥奪サレタ自由中ノ最大ナルモノデアルト私ハ思ツテ居リマス、私ハ此ノ自由ニ依リマシテ、平和ヲ愛好スルノ余リ、二点ダケ政府ノ所見ヲ質シテ、然ル後ニ第一条ニ入リタイト思フノデアリマス
今日世界デ最モ重要ナルモノハ何カ、金森サンノ御言葉ヲ藉リテ言ヒマスト、平和ニ対スル憧レノ心デアリマス世界ノ国々ノ政治ハ、何レモ平和ニ向ツテ集中サレナケレバナラヌ、而シテ日本ハ破レタノデアリマスルガ、尚ホ七千五百万ヲ包容致シテ居リマスル世界ノ大国デアリマス、実ハ此ノ憲法ノ如キモ、遽カニ「日本國憲法ト書イテアルコトニ対シマシテハ私ハ内心不服デアツタノデアリマス、何故「大日本國憲法」ト書カナイカ、併シテ考ヘテ見マスト、六箇月モ以前ニ「マッカーサー」元帥ノ指令ニ基キマシテ、日本政府閣僚ト「マ」司令部トノ間ニ於テ労多キ調査、是ハ「マッカーサー」元帥ノ声明書ニ出テ居リマスルガ、労多キ調査ト屡次ニ亙ル会議ノ後ニ書下サレタルモノナルニ鑑ミ、之ヲ私ハ考ヘマシタ、此ノ点ニ付テハ一言モ質問モ致シマセヌシ、今日モシヨウトハ思ヒマセヌ、併シナガラ世界ノ憧レノ中心タル平和ニ向ツテハ、日本ト云フ大国ハ全力ヲ挙ゲナケレバナラヌ、ソコデ此ノ憲法草案モ日本国憲法トナス為ニハ、考ヘテ見マスト非常ナ大事業デアリマス、故ニ此ノ草案中平和ニ向フ正シキ条章ニ対シマシテハ、私ハ是レ亦終始一言モ触レズニ賛成致シテ居ルノデアリマス、例ヘバ戦争抛棄ノ如キ是デアリマス、此ノ点ハ第二ノ質問ト致シテ置キマシテ、私ノ意見――遺憾ナガラ、平和ニ憧レル良心ニ従ヒマスト、関係方面ノ声明、此ノ憲法草案ニ付テ特ニ第一条ニ付テ政府ノ所見ヲ質サナケレバナラヌノデアリマス、ソレハ「マ」元帥声明全文ニ依リマスト斯ウ云フコトガ書イテアリマス、新憲法ハ天皇ノ政治的権力或ハ国家財産ヲ取上ゲ、人的統一ノ象徴トシテ、天皇ヲ人民ノ意思ニ従ハシメルモノデ、人民ニ対シ云々ト書イテゴザイマスルガ、所謂民主主義デゴザイマセウ、此ノ民主主義ハ私ハ賛成デアリマス、併シナガラ民主主義ト申シマスルノモ、共産主義ト言ヒマスルノモ、或ハ又王国民主主義ト言ヒマスルノモ、是レ総テ世界人類平和ト幸福トノ為メノ主義デアルコトヲ我々ハ知ラナケレバナラヌノデアリマスル、「アメリカ」ハ天皇ナキ民主主義デアルマスルガ、英国ハ王ヲ戴ク民主主義デアリマス「ロシヤ」ハ一部ノ国民ガ政権ヲ握リ、国民ノ全体デハナイ、何レモ他国侵略ノ野望ハ持ツテ居ナイト私ハ確信致シマス、即チ平和ヘノ殿堂ヘ向フ大道ハ幾ツモアルト云フコトヲ知ラナケレバナラヌノデアリマス、然ラバ我ガ日本ニ取ツテハドウカ、此ノ問題、我ガ三千年ノ歴史ノ証明スル所ニ依リマスルト如何ニモ「マ」元帥声明ノ通リニ天皇ノ政治的権力或ハ国家財産ヲ取上ゲタ時代モアリマス、例ヘバ源氏、平家ノ或ル時代――全部トハ申シマセヌ、足利、北條ノ或ル時代ノ如キ是レデアリマス、併シナガラ天皇ヲ人民全体ノ意思ニ従ハシメタト云フ時代ハ只ノ一時代モナイ、左様ナ時代ハゴザイマセヌ、人民ノ少数者例ヘバ将軍、征夷大将軍、関白太政大臣、或ハ東條英機ノ如キ、是等ノ者ガ天皇ノ意思ヲ抑ヘタ時代ハアリマスルガ、国民全体ノ意思ニ従ハシメタト云フコトハ恐ラク一度モナイ、ソコデ政府ガ最モ御考ヘ願ハナケレバナラヌコトハ、天皇ヲ尊敬セズシテ虐待シタ時代ハ、日本ハ決シテ平和デナカツタト云フコト、足利尊氏時代、北條高時ノ当時、近クハ東條英機ノ如キ、威望隆々タル当時是レデアリマス、即チ日本ノ歴史ハ全人民ガ天皇ヲ助ケテ政治ヲ致シテ居ツタ時代ガ最モ平和デ幸福デアリ、而モ文化モ栄エテ居ツタト云フコト、此ノ点ヲ我々日本人ハ深ク考ヘナケレバナラヌト私ハ思フ、例ヘバ奈良朝時代、平安朝初期ノ時代ノ如キ其ノ例デアリマス、随テ日本ヲ平和ナラシメ世界ノ平和ニ貢献セシメント欲スルナラバ、国民ノ下ニ天皇ヲ置イテハ到底其ノ目的ヲ達スルコトガ出来ナイト云フコトデアリマス、私ハ決シテ「マッカーサー」元帥ノ声明ヲ彼此レ批評致シテ居ルノヂヤナイ、平和ニ至ラシメンガ為ニ、此ノ世界ノ憧レノ中心タル平和ニ向ハシメンガ為ニ申上ゲテ居ル、随テ日本ヲ平和ナラシメ、世界ノ平和ニ貢献セシメヨウトスルナラバ、天皇ヲ全国民ノ中ニ入レテ、サウシテ尊敬ノ中心トシナケレバナラヌ、歴史ガ証明シテ居リ、将来モ亦然リト私ハ断言致シマスル、此ノ見地ニ立チマシテ此ノ憲法草案ヲ眺メテ見マスルト、洵ニ天皇ヲ人民ノ意思ニ従ハシメヨウト致シテ居ルコトハ明白デアリマス、即チ天皇ハ国務ニ於テハ内閣ノ助言、承認――英語ヤ「ドイツ」語デ此ノ承認ヲ何ト申スカ私ハ知リマセヌガ、日本ニ於テハ国民が天皇ニ対シテ使フ言葉トハ違ヒマスル、日本ヲ平和ナラシムルガ為ニハ、而シテ此ノ平和ナラシメント云フ熱意ニ燃ユル我々ノ目的ハ関係方面ノ目的トハ合致致シマスル唯行キ道ノ方向ガ違フ、面倒ナ道ヲ通ツテ廻リ廻ツテ平和ノ殿堂ニ行カウトスルノデハナクシテ、昔カラ日本ニアリマスル坦坦タル大道ヲ通ツテ行キタイ、他国ノコトハ知リマセヌ、日本ニ限リマシテ、天皇ハ国民ノ中ニアリ併シナガラ天皇ノ意思ハ尊重サレ、国民全体ガ天皇ト共ニ政治ヲスル、是ガ日本平和ヘノ大道ニ横ハツテ居ツタ大キナ岩ヲ――妨害物即チ東條一派ノ軍閥、是等ヲ永遠ニ取除キマスルト、日本ハ平和ニシテ愛好スベキ国家トナリマスル、明治大帝ノ軍人ハ政治ニ関与スベカラズ、之ヲ何時ノ間ニカ叩キ壊シタ、昭和ノ足利尊氏或ハ平清盛、閥ヲ作リ、天皇ヲ抑ヘ、サウシテ今回ノ戦争ガ起ツタノデアリマスル
ソコデ之ヲ要約致シマシテ、日本ヲ平和ナラシメント欲スレバ、第一条以下第八条マデハ修正ヲ免レナイト私ハ思フ、ココデ政府ニ確カメテ置キタイノハ、仮ニ第一条以下ヲ修正致シマシテ、議会三分ノ二ノ賛成ヲ経マシタ時ニ、政府ハ快ク同意スルカドウカ、此ノ答弁ニ、良イト思ヘバ同意ヲスルシ、悪イト思ヘバ同意ヲシナイ、左様ナ安直ナ答弁ヲ私ハ求メテ居ルノデハアリマセヌ、少クトモ議会三分ノ二以上ノ修正ニハ政府ハ之ニ応ズル用意ガアルカ、モウ一ツ突込ンデ見スマルト、之ニ応ジ得ル確信ガ出来テ居ルカドウカ、是ガナケレバ第一条以下天皇事項ニ付テハ、私ハ質問ヲ止メル積リニ致シテ居リマス、此ノ点御答弁アランコトヲ御願ヒ致シマス
○金森国務大臣 第一条以下第八条ニ対シテ議会ガ所定ノ数ヲ以テ修正シタ場合ニ政府ハ之ニ応ズル用意ガアルカト云フ御尋ネデアリマスルガ、詰リ政府ガ其ノ内容ヲ正シト思フカ、斯ウ云フ御趣旨デアルナラバ、具体的ニ修正ノ点ヲ御決メ下スツテ、ソレカラ意見ヲ御決メ下サルノデナケレバ、政府トシテハ御答ヘノ出来ナイコトデ、是ハ理ノ当然デアラウト思フノデアリマス、併シナガラ又他ノ一面カラ申シマシテ、憲法所定ノ権限ヲ議会ガ行使スルト云フコトニ付キマシテ、政府ガ之ニ否定ノ言葉ヲ述ブルコトモ出来ナイコトト思ヒマス、詰リ実質的ニ政府ガ宜イト思フカ、斯ウ云フ御尋ネデアレバ、政府ハ具体的ナ点ニナラナケレバ御答ヘガ出来ナイト云フコトニナリマス、権能トシテ議会ガソレヲ御決定ニナルト云フコトデアレバ、是ハドウモ憲法ノ定ムル所デアリマスカラ、私ガ予メ可否ノ意見ヲ申述ブベキ筋ノモノデハナカラウト思ツテ居リマス
○北浦委員 具体的ノ内容ヲ示セ、其ノ後ニ答弁スル、サウ云フコトデナクシテ、私ハ三分ノ二以上ノ者ガ良イト定メテ、政府モ可ナリト信ジテ而シテ後ニ是ハ実現スルコトガ出来得ルカ、其ノ点ヲ御伺ヒ致シテ居ルノデアリマス
○金森国務大臣 左様ナ問題ニナリマスレバ、結局具体的ナ問題ニ付テ考ヘル外ニ途ガナイト私ハ信ジテ居リマシテ、一般的ニ御答ヘスルコトハ、ソレハ若シモ立場ヲ変ヘテ、アナタガ私ノ此ノ答弁スル立場ニオイデニナリマシタナラバ、恐ラク御答ヘガ出来ナイコトデハナイカト思フ訳デアリマス、ト申シマスノハ、詰リ議会ノ方デモ之ヲ変ヘルガ宜イト御考ヘニナリ、政府モ其ノ内容ニ付テ良イト思フト云フコトガアリマシテ、是ハ国際的義務ノ遂行ト云フ内容ヲ持ツテ居ルト云フコトハ、是ハドウモ基本的ナモノトシテ常ニ念頭ニ置イテ居ナケレバナリマセヌ、今包括的ナ御答ヘハ出来ナイ事情ハ御分リデアラウト存ズルノデアリマス
○北浦委員 能ク分リマシタ、国際的情勢ニ依ツテト云フ一言ニ依ツテ能ク諒解致シマシタ、ソコデ質問第二点デゴザイマスルガ、是ハ戦争抛棄ノ問題デアリマス、「マッカーサー」元帥ハ此ノ条章ニ対シテ斯ウ云フコトヲ書イテ居ル、戦争ニ対スル潜在力ノ創設スラ禁ズル旨書イテアリマスルガ、サウ致シマスルト「パッシヴ」も「アクティヴ」モナイ、消極的戦争防衛ト云フコトモナイ、積極的ハ勿論イケナイ、是ハ私ハ偶々「マッカーサー」元帥ノニ左様ナコトヲ書イテアルガ為ニ賛成デアルノデナクシテ、平和ヘノ憧レ、意見ガ一致致シマスルガ故ニ全面的ニ賛成スルノデアリマスルガ、是モ只今国務相ノ御答弁ノ如ク、国際情勢ノ如何ニ重点ヲ置イテ政府ノ態度ヲ決スルト云フコトニナルノデアリマスルカ、如何デアリマスカ
○金森国務大臣 此ノ憲法ハ飽クマデモ日本ガ定ムル憲法デアリマシテ、外国ノ意思ニ依ツテ此ノ憲法ヲ定ムルノデナイコトハ、是ハ固ヨリ当然ノコトデアリマス、又我々ガ此ノ憲法ノ内容ヲ考ヘマス時ニ、日本ノ置カレテ居リマスル種々ナル国際的制約ヲ考ヘテ処理スルト云フコトデアリマシテ、決シテ他所カラ指図ヲ受ケテ憲法ノ中味ヲ如何ニスルト云フヤウナ態度ヲ執ツテ居ル次第デナイコトハ十分御諒解ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、今御話ニナリマシタ戦争抛棄ニ付キマシテ、外国ノ将軍ガドウ云ウ言葉ヲ使ハレタカト云フコトニ付キマシテハ、私実ハ今仰セニナリマシタヤウナ点ニ付キマシテ、正確ナ知識ヲ持合セマセヌケレドモ、大体ノ趣旨ハ今御答ヘ申シタ所ニ依ツテ御分リ下スツタコトト思ヒマス
○北浦委員 能ク分リマシタ、第一条ニ入リマス、「天皇は、日本國の象徴であり」ト書イテアル言葉ハ、モウ是ハ二重三重ノ説明ヲ私ハ求メマセヌ、求メマセヌガ「日本國ノ象徴」、ドウモ霞ヲ隔テテ雪ヲ見ルヤウナ感ニ堪ヘナイ、ソコデ私ハ象徴ト云フ言葉ヲ考ヘテ見マスト、花ノ象徴ハ日本デハ桜デアリマス、日本ノ山ノ象徴ハ富士山デアル、砕ケテ申シマスト仏ヤ神様ノ日本ノ象徴ハ私ノ国ノ大仏サンデアリマス、是ハ外国ノ辞書ニモ一番早ク出タト云フコトデアリマスガ、鶴ハ千年亀ハ万年、是ハ人ノ、日本人ノ長命ノ「シンボル」デアリマス、色々アリマスガ「天皇は日本國の象徴」何ヲ示スカ、今日劈頭カラ私申シマス通リニ、世界人類ハ平和ヲ憧レノ中心トシナケレバイケナイ、日本モ私ハ先程カラ申上ゲマシタ通リニ、天皇コソガ平和ノ象徴デアル、日本国平和ノ象徴デアル天皇ヲ無視シ、天皇ヲ抑ヘツケタ時ニハ必ズ動乱ガ起ツテ居ル、過去ノ一年以前ノ戦争モ其ノ通リニ外ナラヌ、日本国ノ何ノ象徴カ、何ノ「シンボル」カ、私ハ日本国平和ノ象徴デアル、斯ウ云フ意見ヲ持ツテ居リマス、一体、此ノ天皇サヘナケレバ日本ハ永遠ニ平和デアルト云フ考ヘガ間違ウテ居ル、天皇打倒天皇アルガ故ニ軍閥官僚ハ之ヲ利用シタノダ、此ノ考ヘハ間違ツテ居ル、天皇ト国民トノ間ニ左様ナ機会ヲ与ヘナイ、間隙ヲ与ヘナイ制度サヘアレバ日本ハ平和ニシテ幸福デアルノデアリマス、歴史ガ証明シテ居ル、ソコデ天皇ノ権力サヘ奪ツテシマヘバ永遠ノ平和ガ樹立サレルト云フ代リニ、左様ナコトハ応仁ノ乱、戦国時代デアル、斯ウ云フ時代ハサウ云フ思想カラ行ケバ解釈ガ付カヌ、天皇コソハ平和ノ象徴デアリ、「マッカーサー」元帥ガ之ヲ打倒シナイ所ニ聡明ト大政治家タルノ貫録ガ呉ハツテ居ルト私ハ確信シテ居ル、ソコデ憲法第一条ニ「オブゼグト」、目的ヲ書ク、天皇ハ一体何ノ心ノ憧レノ中心ナンデアルカ、心ト心ト相通ズル憧レノ中心、モウ此ノ点ニ関シテ金森サンノ御説明ハ能ク分ツテ居リマスルカラ、再ビ憧レノ中心ノ御説明ハ御遠慮申上ゲマスガ、サウ云フ確乎タル目的ヲ入レタラ宜イカ悪イカ、平和世界ガ之ヲ反対スル訳ガナイ、「マッカーサー」元帥モ反対スル訳ガナイト私ハ確信スル、政府ノ御意見ヲ伺ヒマス
○金森国務大臣 段々御話ヲ伺ツテ居リマスルト、譬ヘタ言葉デ仰セニハナツテ居リマスルガ、突キ止メタ所ヲ予測致シマスルト、私ガ此ノ第一条ニ付キマシテ今マデ御説明ヲ申上ゲマシタコトト幾分違ツテ居ルヤウニ、此ノ条文ヲ御解釈ニナツテ居ルノデハナカラウカト、斯ウ云フ気ガスルノデアリマス、私ハ今言葉モ一応御抑制ニハナリマシタケレドモ、国体ト云フコトニ付キマシテ、心ノ繋ガリトカ、憧レトカ云フ言葉ヲ挟ンデ御説明ヲ申上ゲマシタ、ソレハ此ノ第一条其ノモノノ説明デハナイノデアリマシテ、此ノ第一条ガ由ツテ不可分的ニ生ジ来タルモツト根本ノ所ニ付テ申上ゲタ次第デアリマス、サウシテ此ノ第一条ニ現ハレマスル日本国ノ象徴ト云フノハ、或ル特殊ナ日本国ノ持ツテ居ル平和トカ、文化トカ、其ノ他何等カ特殊ナモノノ象徴ト云フ意味ハ全然含ンデ居リマセヌ、日本国其ノモノノ象徴デアリマス、成程日本国ハ、仰セニナリマスルヤウニ平和愛好ト云フコトハ一点疑フベキ所ハゴザイマセヌ、併シソレノミガ全部デハナイノデアツテ、伸縮自在ノ融合無碍、ナサント欲シ、行カント欲スル所ハ多々アルノデアリマシテ、其ノ全般ヲ考ヘ我々ガ誇リヲ持ツテ生キテ居ル所ノ此ノ日本国其ノモノハドウシテ象徴サレルカト言ヘバ、天皇ニ依ツテ象徴サレル、斯ウ云フノデアリマス、ドウゾ誤解ノナイヤウニ願ヒマス
○北浦委員 第一条ニ付テ是レ以上ノ質問ヲ申上ゲルコトハ、並行セル「レール」ノ上ヲオ互ヒニ歩クノデアリマスカラ、モウ是デ打切リマス、以上デ私ノハ終リデス
○芦田委員長 及川規君
○及川委員 総理大臣御出席デセウカ、私ハオイデニナツタ時ニ質問シヨウト思ヒマスカラ、其ノ時ニ‥‥
○芦田委員長 加藤一雄君
○加藤（一）委員 私ハ学理的ノコトハ一切申上ゲヌコトニ致シマシテ、金森国務大臣ニ、最近使ハレテ居リマスル終戦後ノト申シテ宜シイト思ヒマスルガ、天皇制ト云フ言葉ガゴザイマス、此ノ天皇制ト云フ言葉ニハ、ドウ云フ内容ガゴザイマスルカ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 私ガ一般ニ世上ニ使ハレテ居リマスル天皇制ト云フ言葉ヲ御説明致シマスル適当ナ資格ガアルカドウカ、資格ト云フノハ此ノ場合ニ申上ゲテ宜イカ、又人間ノ知識ノ内容トシテノサウ云フコトヲ申上ゲルダケノ心掛ガアルカドウカト云フ点ニ付テ疑惑ヲ持チマスルケレドモ、試ミニ申上ゲマシテ御批判ヲ仰ギタイト思フノデアリマス、天皇制ト云フ言葉ハ、比較的近時ニ現ハレ来ツタ言葉デアルコトハ疑ヒノナイ所ト思フノデアリマス、併シソレガ世間ニ広ク使ハレテ居リマスケレドモ、其ノ色々ナ使ヒ方ヲ虚心坦懐ニ見テミマスルト、一ツノ意味デハナイヤウニ思ハルルノデアリマシテ、使フ人ニ依ツテ色々ナ意味ガアリマセウ、ガ、大キク之ヲ掴ンデ見マスルト、日本ノ戦争中ノ政治ノ動キ工合ト云フモノヲ、天皇ノ下ニ官僚、軍閥、財閥其ノ他ノモノガ勢力ヲ持チ得テ、結局天皇ノ下ニアル一団ノ仕組ガ勝手次第ナ行動ヲシテ世界ヲ害シ、日本国自身ニ対シ大キナ禍ヒヲ齎シタ、斯ウ云フ風ニ考ヘマシテ、其ノ天皇ノ下ニ色々ナ特殊ナ専横ナル働キノ出来ル勢力、又ハ人々ガ蹤キ従ツテ政治ガ行ハレテ行ク一団ノモノ、之ヲ天皇制ト言ツテ居リマス、ソコデ天皇制打倒ト云フヤウナ声ガ特ニ強ク生レテ来タト思フノデアリマス、是ガ一ツノ天皇制ノ意義デアラウト思フノデアリマス、第二ニ考ヘマスル天皇制ト云フ言葉ハ、天皇ヲ以テ国ノ政治ノ中ニ於キマシテ、又国ノ政治ヨリモ深イ結ビ付ノ中ニ於キマシテ、然ルベキ御地位ヲ天皇ニ認メ日本国ガ謂ハバ文化的、精神的、政治的其ノ他ノ面ニ常ニ天皇ヲ心ノ中ニ描キツツ、又天皇ノ御心ニ従ヒツツ、勿論ソレニハ色々ノ政治組織ガ加味サレルノデハアリマスルガ、斯クシテ日本ノ政治ガ行ハレテ来、天皇ヲ謂ハバ政治ノ或ル意味ニ於ケル中心点ノ如クニ考ヘテ、政治組織其ノ他ノ国ノ働キガ行ハレテ行クコトヲ称シテ天皇制ト云フ言葉ガ又存在シテ居ルト思ヒマス、此ノ後ノ意味ニ於キマシテハ、広イ言葉デ申シテ居リマスル君主制ト云フモノノ一ツノ日本的ナ現ハレト考ヘテ居ル訳デアリマス、此ノ憲法ハ第一ノ意味、天皇ガ其ノ下ニ色々ナ国家ノ働キヲスルモノニ依ツテ取囲マレ、サウシテ政治的紛糾ヲ起シタト世間デ考ヘテ居リマスルヤウナ、サウ云フ意味ノ天皇制ヲ申スコトハ、此ノ憲法ハ考ヘテ居リマセヌ、併シ第二ノ意義ニ於キマシテ、天皇ヲ政治ノ上ニ、又国家ノ基本組織ノ上ニモ、十分中心トシテ之ヲ含ミ入レテ、サウシテ政治ノ行ハレテ行クト云フ意味ニ於キマシテハ此ノ憲法ハ明カニ天皇制ノ憲法デアル、斯ウ云フ風ニ御答ヘ致シタイト思ヒマス
○加藤（一）委員 今ノ御説明デ十分了承致シマシタガ、国務大臣ノ御話ニ依リマスレバ、第一ノ意義ニ於キマスル点ヲ本憲法案ニハ採ツテ居ナイ、斯ウ云フコトデゴザイマシタガ、現行憲法ニ於キマシテ天皇制ハドノヤウニ相成ツテ居リマスカ、其ノ点ヲ一応伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 現行憲法ノ組立自身、詰リ其ノ計画ノ上ニ於キマシテ、属僚ガ之ヲ濫用シ得ルト云フ計画ヲ含ンデ居ナカツタト私ハ考ヘテ居リマス、併シナガラ現実ノ動キニ於キマシテハ、其ノ悪イ結果ガ相当現ハレタコトハ、衆目ノ見ル所デアラウト思フノデアリマス、サウ云フ場合ニ、法ガ悪カツタカラ其ノ悪イ結果ガ出来タノカ、人ガ悪カツタカラ其ノ悪イ結果ガ出来タノカト云フコトハ、固ヨリ議論ノアル所ニナルト思ヒマス、併シナガラ其ノ間ニ社会ノ実情ト致シマシテハ、相当不可分ノ関係ガアリマシテ、若シ制度ガ非常ニハツキリソレヲ防止スルヤウニ出来テ居リマシタナラバ、恐ラクハ過去ノ禍ヒハ相当ナ分量除キ得タコトニナルデアラウト思ハレマス、サウ云フ実際ノ結果ヲ編ミ合セテ考ヘテ見マスレバ、前ノ第一ノ意義ニ於キマスル天皇制ノ発展ヲ、現在ノ憲法ハ遺憾ナガラ―之ヲ許ス訳デハアリマセヌガ、サウ云フコトガ起ラザルヲ得ザル種ガ含マレテ居ル、斯ウ云フ風ニ考ヘル次第デアリマス
○加藤（一）委員 モウ一点其ノ点ニ付テ御伺ヒ致シマスルガ、私ハ若シ現行憲法ニ天皇制アリト云フコトニナリマスレバ、今日国民ノ一部ニ於キマシテ非常ニ此ノ問題ニ付キマシテ、天皇ニ責任アルカノ如キ言辞ヲ弄シテ居ル向キガアルトモ思ヒマスガ、其ノ一ツノ由ツテ来タル所以ノ一番大キナ問題ハ、明治四十二年ニ於キマスル軍令制度ニアツタト思ヒマスガ、此ノ点ニ於ケル国務大臣ノ御見解ヲ一応伺ツテ置キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 此ノ現行制度ニ於ケル秩序ガ、世間ノ人ノ非難スルヤウナ、天皇制ヲ導キ来シタト云フコトニ付キマシテ、今仰セニナリマシタ明治四十二年デゴザイマシタカハツキリ覚エテ居リマセヌガ、其ノ時ノ軍令制度ノ樹立ニアツタト思フガドウカト云フ御尋ネデアリマシタガ、ソレモ確カニ一ツノ論点ヲナスコトト思フノデアリマス、併シナガラ問題ノ中心点ハソコニアルノデハナイ、ソレハ一ツノ現ハレタ現象的ナ姿デアリマス、根本デハナイ、斯ウ云フ風ニ了解シテ居リマス、時間ヲ御許シ下サレバ、少シク其ノ点ニ付テ一、二点ヲ申上ゲテ見タイト思フノデアリマスルガ、其ノ前ニ天皇ニ責任アリヤ否ヤ、斯ウ云フコトニ付キマシテノ問題ヲ一寸御示シニナリマシテ、是ガ此ノ憲法ノヤハリ天皇ニ責任ナキヤウニ、此ノ憲法ヲ作ルト私ガ度々申上ゲマシタコトト関連シテ居リマスルガ故ニ、ソコカラ問題ヲ喚ビ起シテ戴キタイト思フノデアリマス、ヨク日本デ、憲法デハ天皇ハ無責任ダ、詰リ責任ナシト斯ウハ申シテ居リマス、此ノ意味ガ私ノ解シマスル所ニ依レバ勿論正シイ言葉デハアリマス、併シモウ少シ精密ニ考ヘナケレバナリマセヌ、天皇ニ責任ナシト云フノデハナクシテ、天皇ハ責任ヲ負ハズト云フコトデアラウト思ヒマス、言換ヘマスレバ天皇モ亦現身ノ御体デアリマスガ故ニ其ノ時々御判断ガ現ハレ得ナイト云フコトヲ制度上保証スルコトハ出来マセヌ、随テ其ノ時々ノ判断ニ依ツテ行為ヲ行ハセラレマシタ場合、其ノコトガ色々ナ観点カラ見マシテ国家ノ為ニ良イコトモアラウ、悪イコトモ亦ナイトハ言ハレナイノデアリマス、ソレヲ無理ニ総テ良カツタト申シマスルコトハ、我々ノ心ヲ満足セシムル一ツノ説明方法デハアリマスケレドモ、ソレハ事実ニ反スルノデアル、相当年月ヲ経マスレバ、恐ラク歴史家ガ冷ヤカニ之ヲ批評スルモノト思フノデアリマス、随テ天皇ニ責任ナシト云フコトハドウシテモ天皇ノ行ハセラレタコトニ、色々ナ善悪ノ本当ノ意味ノ批判ノ出来ルコトハ、是ハアリ得ル筋ノモノデアリマス、併シ縦シンバ恐ラクアリ得ルトシテモ、国法ノ秩序ハソレニ依ツテ天皇ノ責任ヲ問フベキデナイト云フノガ此ノ日本ノ憲法ノ下ニ於キマシテノ責任問題ヲ解決スル唯一ノ考ヘ方デアラウト思フ訳デアリマス、併シナガラソレハ憲法ノ下ニ於ケル説明ノ仕方デアリマシテ、日本ノ憲法ヲ離レテ全世界ノ見地カラ之ヲ見マスレバ、果シテ其ノ憲法ニ認メテ居リマスル天皇無答責ノ其ノ規定ガ、世界ノ各国ニマデ推シ及ボスコトガ出来ルデアラウカト云フコトハ、一ツノ問題トナラザルヲ得ナイノデアリマス、私ハ日本ノ事例ニ付キマシテ、斯様ナコトニ付キマシテ、何等ノ御説明ヲ申上ゲルダケノ用意ヲ今日致シテ居リマセヌ、併シ過去ノ場合ヲ取ツテ見マスルト、第一次戦争ノ終リニ「ドイツ」国ノ皇帝ハ世界ノ広イ点カラ、其ノ責任ヲ問フト云フヤウナコトニナリマシタ、是トテモ多分「プロシヤ」ノ国法ニ依リマスレバ、皇帝ハ無答責ト云フコトニ憲法デハナツテ居ツタノデアリマセウ、併シ之ヲ世界ノ眼デ見マスルトサウハイカナイ、サウ云フ国内規定ノ如何ニ拘ラズ、実質ニ於テ責任ガアル、無答責ト云フサウ云フ特殊ナ点ガ国際的見地ニ於テハ認メラレザルガ故ニ責任ヲ執ル、恐ラクハ斯ウ云フ理由ニ依ツテ「カイゼル」ヲ国際裁判所ニ喚ビ出スベシト云フ論議ガ起ツタコトト思ヒマス、是ハ唯考ヘ方ノ一ツノ事例ヲ申上ゲタニ過ギナイノデアリマス、此ノ前提ヲ取ツテ行キマスルト、我々ガ国内法トシテ考ヘマスル憲法ニ於キマシテモ天皇ニハ実質的ニ責任ノ生ジナイヤウニ極力注意ヲスルコトガ必要デアルノデハナイカ、斯ウ申シマシテ法律ノ拒否権ト云フガ如キコトヲ、天皇ノ権能ニシタナラバ宜イヂヤナイカト云フコトガ問題ニナルト仮定ヲ致シマスレバ、天皇ハ或ル法律案ノ審議ノ過程ニ於キマシテ之ヲ拒否スベシ、御自ラ御考ヘニナツタコトヲ拒否セラレルト云フコトデアリマスルナラバ、ソレノ事柄ノ是非善悪、利害得失ニ付キマシテハ、ヤハリ批判ノ余地ガ何時カハ起ツテ来ル自然的ナ状況ニアルト思ヒマス、法律ヲ以テ其ノ批判ヲ止メマシテモ、実質的ニ起ル批判ハ之ヲ正スコトハ出来マセヌシ、世界的ナル批判モ亦之ヲ正スコトハ出来ナイト思フノデアリマス、随テ斯様ナ批判ヲ防止致シマスルニハ、根本ニ於キマシテサウ云フ疑問ノ起ラナイヤウニ天皇ノ御権能ヲ決スルト云フコトガ、先ヅ聡明ナル行キ方デハナイカ、今度逆ニソレデハ天皇ハ何モナサラナイヤウニシタラ宜イヂヤナイカ、斯ウ云フ議論モ起リマス併シソレハ度々申シテ居リマスルヤウニ、我々ノ憧レノ中心トシテ国家ノ基礎トシテ居リマスル天皇ノ御地位ト、ドウシテモ相応シクナイノデアリマス、ソレト表裏一体ノ意味ニ於キマシテ、相当ノ然ルベキ権能ハアツテ宜カラウト思ヒマス、ダカラ相当ノ然ルベキ権能ガアリツツモ、現実ノ責任ノ紛糾ニ関係ガナイト云フ風ニ規定ヲスルコトニ於キマシテ、此ノ憲法第一章ニアリマスル諸種ノ規定ハヨク此ノ会議ニ於キマシテ文字等ノ苦心ガ足ラヌト云フ風ニ言ハレテハ居リマスケレドモ、私共ノ立場カラ言ヘバ、一言一句玉ヲ削リ石ヲ磨クト云フヤウナ心持ヲ用ヒテ、之ヲ起案シテ居ル次第デアル訳デアリマス
ソコデ其ノ前提ノ下ニ今度日本ノ過去ノ天皇陛下ガ世間ノ疑惑ノ的ニナツタ根本ノ原因ハ何処ニアルカト言ヘバ、ソレハ幾ツモアルノデアリマス、此ノ日本ノ現行憲法ノ特色ハ、所謂大権政治ト学者ガ言ツテ居リマス大権中心デアル実際立憲政治ノ下ニ於キマシテ、天皇ハ一ツ一ツノコトヲ御自ラノ心ヲ以テ御規定ニナルノデハナクテ、実ハ無色透明ト云フヤウナ言葉ヲ私ガ曽テ使ヒマシタガ、詰リ本当ニ御心広クシテ、国民ノ総意ノ結晶スル所ニ依ツテ御判断ニナツテ居ツタニ相違ナイト云フコトハ、過去ノ箇々ノ実例カラシテ明カニ私共ハ信ジテ疑ハナイノデアリマス、併シナガラ制度ノ建前ハ何デモ彼デモ天皇ガ御自身デ行ハセラレルト云フコトニナツテ、サウシテ実際ハ天皇御自ラ行ハセラルルトハ言ヒ難イノデアリマシテ謂ハバ属僚政治デアル、是ハ憲法ノ或ル規定ヲ特殊ノ意味ニ解釈シマスレバ、ドウシテモサウ云フコトニナリ易イノデアリマシテ、其ノ中ノ一端ガ今仰セニナリマシタ軍令等ノ形ニ於テ現ハレテ居ルノデアリマス、余リ時間ヲ取リマシテ恐縮ヲ致シマスルガ、大体一般政治ノ方面ニ於キマシテハ、国務大臣ガ全責任ヲ以テ輔弼スル、又国会ガ関与スル、其ノ他色々ナ規定ガアリマシテ、兎ニ角実際ノ運用ハ色々アリマシテモ、制度ノ表ニ於キマシテハ、ハツキリ責任ガ国務大臣ト云フ所ニ集中シ得タノデアリマス、所ガ軍ノ統師ノコトニ関シマシテハ、輔弼ノ責任ハ及ンデ居リマセヌ、是ハ明治二十二年ニ憲法ノ出来マスル其ノ前カラノ問題デアリ、遡リマスレバ恐ラクハ明治十一年、十年ト云フ頃カラハツキリ根底ガアルモノデアリマシテ、大筋ヲ掴ミマスレバ立憲政治ニハナツタ、併シ軍ノ統師ノ関係ニ於キマシテハ、立憲政治以前ノモノヲ其ノ侭存続セシメテ居リマス、成程統師権ハ憲法ノ中ニ織込マレテ居リマス、併シ憲法ノドノ規定ノ適用ヲモハツキリ受ケナイノデアリマシテ、議会ノ関係モナイ、一般ノ法律ノ関係モナイ又一般ノ国務大臣輔弼ノ関係モナイ、即チ実質ニ於キマシテハ、憲法以前ノ制度ガ其ノ侭残ツテ居ルダカラ現行憲法ノ規定ニ下ニ於キマシテハ、本当ノ意味ノ憲法的秩序、ソレカラ憲法以前ノ秩序ト云フモノガ、二ツ混合シテ存在シテ居ル訳デアリマス、其ノ四十二年ノ軍令ト云フモノハ、前カラアリマシタ其ノ気持ガ、或ル特殊ナ機縁、或ル特殊ナ事情ニ依ツテ導キ起サレタ、必要ニ依リマシテ、ハツキリソレヲ声明シタダケデアリマシテ、其ノ問題ノ骨子ハ此ノ時ニ起ツタノデハナイ、問題ガハツキリアルト云フコトガ世上ニヨク意識セラルル一ツノ段階ヲ構成シタト云フコトニ外ナラヌト思フノデアリマス、ソコデ斯様ナ事情デアリマスルガ故ニ、新ニ憲法ノ改正ヲ致シマシテ、其ノ悪イ意味ノ天皇制ト云フモノヲ将来ニ於テナクスルト云フ為ニハ、単リ軍令、統帥権ノ関係ノコトノミヲ考ヘテハイケナイノデアリマス、其ノ外種々ナ方向ニ考ヘヲ進メナケレバナラヌ、其ノ考ヘヲ進メテ結晶サセタモノガ此ノ第一章ノ各種ノ規定トナツテ居ル次第デアリマス
○加藤（一）委員 今ノ御話デ能ク了承致シマシタガ、天皇ノ責任ニ関シマシテ、旧「ドイツ」ノ「カイゼル」ノ例ヲ御取リニナリマシテ御話ニナリマシタガ、私共日本人ト致シマシテハ、内ニ天皇ヲ戴キマシテ、国民相共ニ和気靄々ノ裡ニ肇国以来今日ニ至ツタ事実ヲ考ヘマスト、今後モ私ハ左様ニ行キタイト思ヒマス、此ノ点ニ付キマシテハ、今ノ御説明デ能ク了承致シマシタガ、将来政府ニ於カレマシテモ、国民道義ノ昂揚、教育方面ニ対シマシテ格段ノ御配慮ヲ戴クコトヲ切望致シテ置キマス
ソレカラモウ一点伺ツテ置キマスルガ、私ノ調査ニ依リマスレバ御話ノ通リ四十二年ノ軍令制度ハ現象形態トシテノ一ツノ現ハレト云フコトハ間違ヒアリマセヌ、過去ニ於キマシテ封建思想ニ囚ハレマシテ、軍国的思想ガ相当国民ノ間ニ旺盛デアツタト云フコトハ認メマス、認メマスルガ四十二年ニ現ハレマシタ制度其ノモノガ、今日日本ヲ亡シマシテ、国民生活其ノ他各般ノ社会ノ組織ノ中ニ此ノ制度ノ弊害ガ「八十パーセント」程度入ツテ居ルト私ハ思フ、必要ガゴザイマスレバ其ノ資料ヲ此ノ席ヘ提出シテモ宜シウゴザイマス、私ノ研究ニ依リマスレバ、軍令ト云フモノガ「八十パーセント」国民ヲ毒シテ居ルト云フコトヲ、今日確信ヲ持ツテ居リマス、此ノ点ニ付キマシテハ、前ニ申シマスヤウニ、格段ノ政府ノ御高配ガゴザイマセヌト、火山列島ノ特質ト致シマシテ、山岳モ重畳致シテ居リマスシ、盆地ガ日本ニハ多ウゴザイマシテ一ツノ村カラ隣村ヘ参リマスノニ、一日モ二日モ掛ルト云フ状況デゴザイマスカラ、封建思想鎖国主義ト云フモノヲ除クニハ、相当ノ困難ガ将来伴フト私ハ思ヒマス、斯ウ云フ方面モ相当御考ヘ置キ願ヒマシテ、速カニ平和ノ途ニ、天皇ヲ中心トシテ進ムヤウニ格段ノ御高配ヲ戴クヤウニ御願ヒ致シテ置キマス、御返答ハ無用デゴザイマスモウ一点最後ニ御伺ヒ致シテ置キタイコトハ「基く」ト云フ言葉デアリマス、是ハ一番初メニ北委員ノ方カラ御質問ガゴザイマシタガ一寸聞落シタ点モゴザイマスルシ納得ノ行キ兼ネル点モゴザイマスモウ一応「基く」ノ御説明ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 「基く」ト云フコトニ付テ、北君カラ御質疑ガアリマシテ、其ノ時ニ多少咄嗟ノ間ニ御答ヘヲ致シマシテ、其ノ言葉ノ使ヒ方ガ相当微妙ナ言葉ヲ使ヒマシタ為ニ、新聞紙等ニ付テ誤解ヲ受ケテ居ルヤウナ点モアルノデアリマス、併シ此ノ「基く」ト云フコトニ付キマシテハ、相当私共ハ用意深キ言葉ヲ以テ御説明ヲ申上ゲナケレバナラヌノデアリマス、本当ニ大事ナ規定デハアリマスルガ事例ヲ挙ゲルトカ何トカ云フ方法ニ依ツテ之ヲ説明スルコトハ適切デナイト私ハ思ツテ居リマス、此ノ考ヘ方ハ、天皇ハ国ノ象徴デアル、是ハ象徴ト云フ言葉ノ善悪ハ姑ク別トシマシテ、其ノ心持ニ於キマシテハ、先ヅ日本国民ノ間ニ反対ノ意見ハ希有デアラウト考ヘテ居リマス、併シ天皇ガドウ云フ根本ノ原理ニ依ツテ象徴デアルノカト云フ問題ニナリマスルト、是ハ中々分リニクイ問題デアラウト思ヒマス、併シ現行ノ憲法ニ於キマシテモ、天皇ハ日本ヲ統治セラルル、或ハ統治権ノ総攬者デアルト云フ言葉ガアリマスルガ、ソレガドウ云フ根拠ニ基イテサウナツテ居ルノカト云フコトハ、其ノ時々ノ色々ナ人ガ色々ナ気持カラ説明ハシテ居リマスケレドモ、恐ラク合理的ナル、ハツキリシタ基礎ニ依ツテ今マデ説明セラレテ居ナイノデアリマシテ、我斯ク信ズル故ニ斯クノ如ク述ベルト云フ程度デアツタノデハナカラウカト思フノデアリマス、其ノ中ニ於キマシテモ、最モ大イナル勢力ヲ持ツテ居リマシタノハ、古来ノ神話ニ基イテ其ノ御地位ガ決マルノデアルト云フノデアリマス、詰リ神話的ナ、或ハ神受的ナル考ヘ方ニ依ツテ説明セラレテ居ツタカモ知レヌト思フノデアリマス、併シ日本ノ過去ハ総テ天皇ノ御地位ヲ神授説ニ依ツテ説明シテ居ツタトハ思ハレマセヌ、又其ノ神授説ガ日本国民ノ心ニ一般的ナ基礎ヲ持ツテ居ツタトモ思ハレナイノデアリマス神話ハ飽クマデモ神話デアリマシテ、其ノ中ニ多クノ国民ノ心持ヲ織込ンデ居ルニハ相違ナイノデアリマスガ、合理的ナ判断ニ之ヲ照シテ見マシテ、言葉通リニ神話ヲ取ルト云フコトハ、恐ラク静カニ物ヲ考ヘテ誰モ疑惑ヲ持タナイ者ハナカラウト思フノデアリマス、且又此ノ神話ノ根源ニ付キマシテモ、日本ノ古典ガ必ズシモ全面的ニ之ヲ認メテ居ルモノデハアリマセヌ、私ノ記憶ダケデ申シマスルナラバ、日本書紀ニ挙ゲテ居リマス所モ、而モ其ノ引用シテ居ル一書ニハ曰クトシテ掲ゲテ居ルモノデアリマシテ、詰リ古来日本ノ正史、正シキ歴史ガ発達シテ来マスル道程ニ於キマシテモ、ソンナニ之ニ全部的ナル確実性ヲ認メテ伝ヘ来タノデハナイノデアリマス、ト云フヤウナ事情ニ基キツツ、我々ハ天皇ヲ憧レノ中心トシテ奉戴シテ居リマス、ソコデ考ヘナケレバナラヌノハ、何処ニ其ノ根底ガアルノデアラウカト云フコトデアリマス、ソレヲ押詰メテ行ケバ、結局我々ノ心ノ中ニ其ノ根源ガアルノデハナイカ、斯ウ云フ所ニ帰着スルヤウニ思ハレルノデアリマス、私ガ国体ト云フコトニ付キマシテ説明ヲ申上ゲマシタ基本ノ考ヘハソコニアル訳デアリマス、既ニ国体ガサウ云フコトデアリマスレバ、世ノ中ノ目ノ前ニ現ハレテ来マスル諸種ノ制度ハ、総テソコニ根幹ヲ置クノデハナカラウカ、天皇ガ国ノ象徴デアリ、国民統合ノ象徴デアルト云フコトハ、其ノ国民ノ欺カザル意思ニ基クモノデアルト云フ風ニ考ヘルノデアリマス、是レ既チ国民ノ総意ニ基クト云フノデアリマス、併シ其ノ基クト云フコトヲ軽ク御取リニナツテモ、重ク御取リニナツテモ、私ハ必ズシモ賛成出来ナイノデアリマス、軽クト申シマスカ、曽テ何カノ機会ニ、ソレデハ置換ヘルコトデモ何デモ国民ノ総意デ勝手ニ出来ルノデハナイカ、斯ウ云フヤウナ御議論ガアリマシタガ、私ハサウハ思ヒマセヌ、日本国民ノ総意ガ斯クノ如キコトヲ軽々シク言ハセルモノトハ思ヒマセヌ、日本ノ総意其ノモノニ運命的ナル多クノ制約ガアルモノト思ヒマス、デアリマスカラ、是ハ唯国民ノ総意ニ基クト云フ風ニ御取リ下スツテ、天皇ノ御地位ガ神秘的ナル神話ニ基クガ如ク国民ノ一部ニ錯覚ヲ与ヘテ居ルト云フコトガ、ハツキリシタ根底ヲ憲法第一条ニ求メ得ルコトニナツタノデアル、斯ウ云フ風ニ御理解ヲ願ヒタイト思ツテ居リマス
○加藤（一）委員 今ノ御説明デ、モウ最後ト思ヒマシタガ、モウ一点ダケ聴カセテ置イテ戴キタイト思ヒマス、我々国民ト致シマシテハ、現行憲法ノ第一条カラ四条マデガアルガ為ニ、日本ノ国体ヲ確信シテ居ルモノデハゴザイマセヌ条文ノアルナシニ拘ラズ、日本人ト致シマシテハ、日本人ノ国体ヲ私ハ信奉致シテ居ルト存ジマス、其ノ意味ニ於キマシテ、今ノ御説明デハ一寸腑ニ落チ兼ネル点ガゴザイマスガ、何カ史実ヲ曲ゲテ御考ヘニナツテ居ルヤウナ向キノ御話モゴザイマシタシ、ソレハソレト致シマシテモ此ノ「基く」ト云フ言葉ノ中ニハ、過去ノ問題ト、現在ト、近キ将来ト云フ三点ガアルカナイカヲ、後ノ問題ノ質疑ノ関係モゴザイマスルカラ、一応御伺ヒ致シテ置キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 日本国民ノ総意ト云フモノハ、統合シテ一ツニナツテ居ルモノデアリマシテ、一人々々ノ人間ニ繋ガリハ持ツテ居リマスルケレドモ、一人々々ノ人間其ノモノデハアリマセヌ、サウ云フモノガ過去、現在、未来ト云フ区別ナク、一ツノ総意ガアル訳デアルト思ツテ居リマス
○加藤（一）委員 今日ハ文部大臣モ総理大臣モ御列席ガゴザイマセヌカラ、詳細ナコトハ第九条ノ点ニ付キマシテ御伺ヒスルコトニ致シマシテ、私ノ質問ハ是デ終ラセテ戴キタイト思ヒマス
○芦田委員長 総理ノ出席ヲ求メテ居リマスガ、本日ハ拠ドコロナイ用向キノ為ニ出席ガ出来ナイト云フコトデアリマスカラ、明日出来ルダケ出席ヲサレルヤウニ請求ヲシテ居リマス
○加藤（一）委員 九条ノ点ニ付キマシテハ、又文部大臣ノ出席モ要求致シマス、宜シク御願ヒ致シマス
○芦田委員長 井上徳命君
○井上（徳）委員 私ハ初メニ私自身ノ立場ヲ明カニシテ、御答弁ノ何カノ資料ニシテ戴キタイト思フノデアリマス、私ハ寺門ニ生ヲ享ケマシテ、一生ヲ通ジテ宗教ノ実際ニ携ハル者デアリマス、又曽テハ女子中等学校ノ実際教育ニ当ツテ居ツタ者デアリマス、サウ云フ立場カラ質問申上ゲタイト思フノデアリマス、私郷里ヲ出マス時ニ私ノ門徒ノ人達ガ私ニ申シマスニハ、天皇様ノコトヲ御頼ミ申シマスルゾト云フノガ、総テノ人ノ声デアツタノデゴザイマス、随テ議会ガ済ンデ帰リマシタナラバ、総テノ門徒ガ天皇様ハドウナラレマシタカト云フコトヲ、キツト尋ネルダラウト思フノデアリマス、サウ云フ場合、私ガ此ノ第一条ヲ説明致シマスル時ニ、迚モ此ノ侭説明致シテモ、分ツテ呉レナイダラウト思フノデアリマス、国民ヲ代表シテ此処ニ出テ居ラレマスル各代議士ノ御方々ニ対シテ、懇切ナル金森国務大臣ノ御答弁ニ依ツテデサヘモ、尚ホ分リ兼ネルヤウナ所ガアルヤウデアリマス、随テ中ニハ謂ハバ無学文盲ノ者モアリ、ソレニ対シテ、是カラ先ノ天皇様ハ斯ウ云フ御方ダト云フコトヲ説明致シマスルノニ、私ハ非常ニ自分デ困ル立場ニナリハシナイカト思ヒマスノデ、サウ云フ気持デ私ハ御尋ネ致スノデゴザイマス
金森国務大臣ノ度々ノ御答弁ハ私ハ宗教家トシテハツキリ分リマス、宗教ヲ持ツ者デナケレバ、金森国務大臣ノ此ノ御答弁ハ分リ兼ネルノデハナイカ知ラ、宗教ヲ持ツ者ニ取ツテハソレガハツキリ能ク分ツテ居リマス、併シ私ハ尚ホ進ンデモウ少シ皆ノ者ガ分リマスヤウニ、又言葉ヲ和ラゲテ私ガ勝手ニ説明スル場合モアリマセウケレドモ、ココニ「日本の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、日本國民の至高の總意に基く。」トアル、金森国務大臣ノ御説明ノ中ニ、無色透明ト云フ御言葉ガアリマシタガ、ドウモ無色透明デハ、私共宗教ヲ持ツ者トシテハ分リマスケレドモ、之ヲドウカモウ少シ具体的ニハツキリ御説明ヲ願ヒタイト思フノデアリマス此ノ無色透明ト云フ御言葉ノ中ニハ――私ハ一方ニ於テハ学問的良心カラ御質問申上ゲタイト思ヒマスガ、象徴並ニ此ノ地位ト云フモノノ中ニ、心理学上ノ意思、又倫理学上ノ行為ト云フモノノ範畴ガ如何ニシテ取入レラレテアルモノカト云フコトヲ、先ヅ御尋ネ致シタイノデアリマス
○金森国務大臣 御質問ノ御趣旨ガ私共ノ幾ラカ俗ツポイ方法デヤツテ居ル者ニ取リマシテ、了解シニクイ訳デゴザイマシテ、若シ出来得ベクンバ、モウ少シ言葉ヲ敷衍シテ質疑ヲシテ戴キタイト思ツテ居ルノデアリマスガ、試ミニ私ノ考ヘテ居リマスル所ニ従ツテ、一応御答ヘヲシテ見タイト思フ訳デゴザイマス
一体人間ガ何千万モ居テ、ソレガ一ツノ働キヲシテ行クト云フコトハ、経験カラ見マシテ、何ノ不思議モナイ、何処ノ人間デモサウ云フ風ニヤツテ居リマス、併シナガラ此ノ考ヘ方ヲ理論的ニ明白ニ説明ヲスルト云フ段階ニナリマスト、必ズシモ容易ナモノデハアリマセヌ、古往今来国ニ依リマシテ所ニ依リマシテ、皆考ヘ方ハ違ツテ居ルモノト思ヒマス、併シ日本人ニハ自ラ日本人ノ考フベキ途行キガアル、我々ハ日本国民ト云フ組立ノ上ニ於キマシテ、日本的ナル考ヘ方ヲ持ツテ居ルノデアリマシテ、ソレヲ基本ト致シマシテ御説明ヲ申上ゲテ、天皇ヲ以テ国民ノ統合ノ中心トシ、ソレニ向ツテモノガ集マツテ居ル、国民各自ノ心ガ之ニ惹付ケラレテ一ツニナツテ居ルト云フコトヲ外ノ言葉デ申シマシタケレドモ、粗ツポク言ヘバサウ云フコトニ帰着スル訳デアリマス、併シナガラ其ノ時ニ中心トナル方ガ、若シ一ツノ特別ナル考ヘヲ御持チニナルト致シマスルナラバ、例ヘバ国ニ二ツノ政党ガアル、或ハ労資相反目シテ居ルト云フヤウナ、本質的ナ反目デハナイマデモ、現象的ナ反目ガアリマスル時ニ、其ノ統合ノ象徴デアル所ノ天皇ガドチラカニ特ニ御心ヲ御持チニナルト云フコトデアリマスレバ、実際合理的ナル国ノ組立ト云フモノハ説明出来ヌト思フノデアリマス、過去ニ於キマシテハ其ノヤウナ、詰リドチラニ向ツテモ公平無私デアリ、宗教的ナ御考ヘデ言ヘバ私ニハ能ク分ラヌケレドモ、有無ノ無ト云フ言葉ガアリマシテ、普通ノ意味ノ無デハナイ有無ヲ超越シタル無ト云フ思想ガアリマスガ、其ノ無ノ如キ地位ヲ体現セラレル所ノ方ガ、国ノ総合意図ノ象徴デアラレルコトガ本当ニ当然ノ途行キデアラウト思フ訳デアリマス、所ガ過去ノ実情ニ於キマシテハ天皇ガ其ノ無ノ立場、即チ、公平無私、私ノ前ニ申シマシタ虚心坦懐、無色透明ト云ウ言葉ハ余リ形容ニ過ギマシタガ、サウ云フヤウナ御地位デナク、其ノ高キ御地位カラ引摺リ下シテ恰モ政治ノ時ニ或ル一ツノ形ヲ御執リニナル、例ヘバ或ル法律ヲ拒否シテ行ク、ソレカラ又国民ノ意思ヲ求メテドウシヨウ、斯ウ云フヤウナ所マデ現実ノ姿ニ於テ御下リニナルヤウナ風ニ扱ツタコトガ、寧ロ天皇ノ御地位ノ尊サヲ涜ス部分ガアツタノデハナカラウカ、戦争責任ト云フコトガ国内ハ別トシテ国際的ニ動モスレバ論議セラレテ居リマスルノハ、其ノ事情ニ基クモノト思ヒマス、実際公平無私、無色透明ト云フヤウナ、即チ宗教家ノ能ク用ヒル無ト云フヤウナ立場ニ於テ凡ユルモノヲ包容シツツ凡ユルモノニコダハラズシテ、此ノ永久ナル運命ヲ持ツテ行ク所ノ民族集団ヲ結晶セシメテ行クト云フ所ニ、本当ニ尊キ天皇ノ御地位ガアラウト思フノデアリマス、我々其ノ原理ノ下ニ恐ラク今マデ国ヲ形ヅクツテ来テ居ルト思フノデアリマシテ、サウ云フ風ニ私ハ天皇ノ御地位ヲ考ヘテ居リマス、ソコデ此ノ天皇ニハ心理学的ノ意思ガアルカドウカト云フヤウナ風ノ御質問ガアリマシタガ、ココカラ先ハ私ハ能ク心理学等ノコトニ付キマシテ造詣ガナイカラ、ハツキリハ御答ヘ出来マセヌガ、固ヨリ天皇ハ現身ノ御方デアリマスルガ故ニ、普通ノ意味ノ心ヲ御持チニナツテ居ルコトハ当然デアラウト存ジマス、其ノ心ヲ持ツタ其ノ侭ノ立場ニ於テ国ノ象徴デアル、国民統合ノ象徴デアル、斯ウ云フ風ニ解シテ居リマス、単ナル抽象的ナ存在トシテ考ヘテ居ル次第デハゴザイマセヌ
○井上（徳）委員 御答弁ガ私ノ質問ノ要領ガ悪カツタ為カモ分リマセヌガ、並行線ト云フヨリモ、寧ロ外レタ線ニ行ツテシマツタヤウナ気持ガ致シマスガ、私ノ申シマシタ心理学、倫理学上ノ行為ト云フモノハ、即チ私ノ考ヘテ居ルコトヲ申述ベマシテ、寧ロ金森国務大臣カラ御教ヘヲ戴キタイト思フノデアリマス、即チ唯象徴デアルニアリマシタ無色透明ト云フコトデハナクテ、天皇ノ御人格ト申シマスルカ、其ノ御人格ノ中ニハ国民ノ至高ノ総意、其ノ意思ガ天皇ノ御意思ニナツテ、其ノ御意思カラ現ハレタノガ、即チ天皇ノ行為デアル、倫理学上ノ行為デアルト云フヤウニ、私ハ考ヘタイノデアリマス、而モ其ノ至高ノ行為ト云フノハ平和ト自由ト平等ヲ権化トスル、又ハ真善美ヲ求メル所ノ其ノ至高ナ国民ノ総意ガ天皇ノ御意見トナツテ現ハレテ、其ノ至高ノ総意ガ其ノ侭即チ天皇ノ行為トナツテ現ハレテ来ルモノデハナイカト云フヤウナ工合ニ私独リデ考ヘマシタノデ、其ノ点ニ付テ実ハ教ヘヲ願ヒタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 段々分ツテ参リマシタガ、御尋ネノ趣旨デアリマスト、日本国民統合ノ中ニ於キマシテ、国民ノ心、国民各自ノ意思ハ、国家ノ全体ノ意思ノ上ニハ関係ハナイノデアル、唯天皇御一人ノ意思ガ至高ノ意思トシテココニ現ハレテ来ルノデアルト云フヤウナ風ノ御考ヘデナイカト思フノデアリマス、ソレハ決シテ新シイ考ヘ方デハアリマセヌ、古クカラ存在シテ居ル考ヘデアリマス、国民集団ト云フモノガアリ、其ノモノノ意思ガ直接ニ天皇ノ御一身ノ上ニ体現セラレテ来ル、故ニ其ノ至高ノ意思ガ天皇ノ御意思其ノモノデアル、斯ウ云フ風ナ考ヘデアラウト思ヒマス、私共曽テサウ云フ考ヘヲ抱イタ時代ガ確カニアツタノデアリマス、ケレドモ此ノ憲法ノ建前ハサウ云フ訳デハゴザイマセヌ、言葉ノ示シマスルガ如ク、天皇ヲ含メタル国民全体ノ意思、即チ国民全体ト云フモノガ考ヘラレマシテ、其ノ総意ヲ基本トシテ天皇ノ此ノ象徴タル御地位ガアルノデアリマス、ダカラ基本的ナ意味ノ天皇ハ此ノ国民全体ノ中ニ含マレテ、其ノ統合ノ中ニ存在シテオイデニナルノデアリマス、ソコデ国民総意ト云フモノガ決マリマスト、其ノ総意ヲ根源トシテ天皇ノ象徴タル御地位ガ新タニ生ジテ来ル、考ヘニ二段ノ差ノアルト云フコトヲ御含ミ願ヒタイト思ツテ居リマス
○井上（徳）委員 ハツキリトハマダ分リ兼ネマスケレドモ、サウ云フコトヲ何時マデモ御尋ネシテ居ツタツテ切リガアリマセヌカラ、アトデ又機会ヲ求メマシテ、斯ウ云フ時デナク能ク御意思ヲ承ルコトニ致シマシテ、私ノ第一条ニ付テノ質問ハ是デ打切ツテ置キマス
○芦田委員長 大橋喜美君
○大橋委員 天皇制ノ問題ニ付キマシテハ、度々御話ガアリマシテ私カラ又御尋ネスルコトモナイノデゴザイマスケレドモ、希望的ナ意見ヲ少シ述ベタイト思ツテ居リマス、外国ノ歴史ヲ調ベテ見マシテ、又諸外国ノ政治体制ニハ色々アリマスケレドモ、日本ノ天皇制ト云フ政体ハ歴史創マリマシテ世界ニモナイ日本独特ノモノデゴザイマス、デスカラ、日本国民ハ漠然ト天皇制ト云フコトハ能ク知ツテ居リマスケレドモ、確乎タル信念ヲ以テドウ云フモノデアリ、ドウスベキモノデアルカト云フコトヲ知ツテ居ナイカト思ヒマス、所ガ外国ノ方ハ色々政治ニ付テ共和制、君主制ト苦労シテ居リマスカラ、サウ云フ点デハ能ク知ツテ居リマシテ、日本ノ天皇制ト云フモノモ、非常ニ理解シテ居ルト思フノデゴザイマス、ケレドモ近世ニナリマシテ、憲法ニ依ツテ政治ヲ治メルト云フコトニナリマシテカラ、日本モ憲法政治ヲ行ツテ居リマスガ、外国ノ憲法ニハ天皇制ト云フモノハ一ツモアリマセヌ、日本ガ憲法政治ヲシマスナラバ、此ノ天皇制ト云フモノハ外国ノ真似ヲスルコトモ出来ナイシ、独特ノモノデアリマスカラ、日本ノ政治家、憲法学者ガ本当ニ信念ヲ持ツテ日本ノ天皇制ト云フモノヲ理解シテ、立派ナ間違ヒノナイ天皇制ノ政治組織ヲ作ラナケレバナラナイト思ヒマス、今度此ノ戦争ニ依リマシテ、日本ノ天皇制ハ間違ツテ居ル、天皇制ヲ廃止セヨト云フヤウナ声マデ出テ来ルノハ、天皇制ト云フモノガ本当ニ日本ノ独特ノモノデアルト云フコトノ本質ヲ見極メテナイカラ、アノ外国ノ憲法ノ如何ナル長所ヲ取リ集メマシテモ、ソレヲドウスルコトモ出来ナイト云フ所ニアルノデハナイカト思フノデス、日本ノ国ハ私ガ申シマセヌデモ、モウ度々御話ニナツテ出テ来テ居リマスケレドモ、心ノ繋ガリ、血ノ繋ガリニ依ツテ結バレテ居ル天皇ヲ憧レノ中心トシテ、国民ガ皆尊崇ノ的トシテ居リマス、ソレハ日本ハ日本独特ノ家長政治ノ発展シタモノデアル、力ニ依リ、権力ニ依リ、武力ニ依ツテ王様ニナツタノデハナイ、日本ノ国ハ一ツノ家族デアル、其ノ親デアリ、皇室デアル大和民族ノ一ツノ家族ガ、段々ト発展シマシテ、三千年ノ間ニ七千万ノ此ノ大家族ニナツテ来マシタ、皇室トハ血ハ大変ニ薄クナツテ来マシタ、姻戚関係ヤ色々ノ違フ民族モ集マツテ来マシタカラ、血ハ薄クナリマシタケレドモ、ヤハリ血ハ繋ガツテ居ル、又心モ繋ガツテ居ルト思ヒマス、デスカラ沢山ノ七千万ノ民族ガ、全部天皇ヲ親トシテ崇メ奉リ、尊崇シマシテモ、直接オ目ニ掛ルコトハ出来ナイ、デスカラ自然ト唯憧レテ居リマシテ、遂ニハ神様トマデ崇メルヤウニナツテシマツタノダト思ヒマスケレドモ、日本ノ国ハ親子兄弟ノ愛ニ依ツテ結バレタ所ノ共同生活体制、是ガ日本ノ政体ノ本体デアルト思フノデス、デスカラ之ヲドウシテモ間違ヒノナイ、日本独特ノ政体ト云フモノ、本当ニ国民ガ納得スルヤウナ政治組織ノ体制ヲ、日本ノ学者ノ方々ガ叡智ヲ集メラレマシテ、組織的ニ完成シテ戴キタイ是ハ日本ノ国民ノ義務デアルト思フノデゴザイマス、先程北浦サンガ申サレマシタヤウニ、日本ノ国ノ天皇ハソレ自体モウ愛ノ象徴デアリ、平和国ノ象徴デアルト言ハレマシタガ、愛ニ依ツテ作ラレテ居ル国デアリマシテ、此ノ象徴ト云フ言葉ハ私ハ勿体ナイケレドモ本当ニ立派ナ言葉デアルト思ヒマス、ソレト一緒ニ国民ガ此ノ象徴、唯「シンボル」ト云フ言葉ダケニ満足シマシテ、国民ノ総意ニ依ツテ国ヲ治メルト云フ所カラ、国民ガ衆愚デアツテハイケナイ、余程シツカリトシマシテ、天皇ヲ誤ラセナイヤウナ国ニシナケレバナラヌト云フコトヲ考ヘマスト、此ノ第一章ノ天皇ノ各条ハ、天皇制ヲ誤ラセルヤウナ箇条ハ一ツモナイコトト思ヒマスケレドモ、私ハ能ク研究シテ居リマセヌノデ分リマセヌガ、第一条カラ第八条マデノ所ニ、天皇制ヲ誤ラセルトハ一ツモナイカドウカ、一ツ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 御尋ネニナリマシタ所ハ、此ノ憲法改正案ノ根本的ナ要点トモ云フベキモノニ触レテ居ルト考ヘルノデアリマス、前カラ度々申シマシタヤウニ、此ノ憲法ノ改正案ハ日本ノ国情、日本国民ノ本当ノ気持ヲ本トシツツモ冷静ナル処断ヲ加ヘマシテ、ドウ云フ間違ヒモ起ラヌ、如何ナル想像シ得ベキ不当ナル人々ガ現ハレマシテモ、此ノ憲法ノ濫用ヲナス余地ガ極度ニ乏シイノダ、斯ウ云フコトヲ着想トシテ、天皇制ノ基本ノ考ヘ方ヲ具体化シタノデアリマス、ソコデ今御尋ネニナリマシタ所ハ、此ノ天皇制ガ万代不易デアリ、我々ノ尊ブ所ノ天皇ノ御地位ニ、何等紛擾ヲ伴ヒ来スコトガナイト云フヤウニ致シマスル為ニハ、先ニ申シマシタヤウニ、天皇ハ国法上ノ無答責デアル、ケレドモ実質的ニモ又世間カラ兎ヤ角批判ヲ現実ノ上ニ加ヘラルルヤウナコトノ起ラナイヤウナ立場ニ致シテ置キマシテ、而モ国民ガ天皇ヲ崇メ尊ブ所ノ心持トモピツタリ当ルヤウニシナケレバナラナイト云フ所ニ、着想ガアルノデアリマスソコデ天皇ノ現実ノ御権能、或ハ問題ヲ右スベキカ左スベキカト云フコトニ付キマシテハ、極力之ヲ少クシタノデアリマス、併シ極力之ヲ少ク致シマシテモ、国家ノ地位ハ複雑デアリマスガ故ニ、ドウシテモ或ル部分ニハ是ハ天皇ノ御働キト云フコトニシテ置カナケレバ、政治体系ガ整ハナイ、勿論程度ノ問題ヲ含ンデ居リマスガ、大体観察トシテ、政治ノ体系ガ整ハナイト云フ部分ガアルノデアリマス、例ヘバ内閣総理大臣ヲ任命スル、是ハ政行ノ一番基本ニナルノデアリマシテ、又天皇ノ行為ヲ助言シ、承認シテ、天皇ニ過チナキヲ期スル立場ノ人デアリマスルガ故ニ、ドウシテモ天皇御自ラ之ヲ御任命ニナルト云フ形ニシマセヌト、形式ガ充実シナイト云フコトニナルノデアリマス、既ニ内閣総理大臣ガ天皇ノ御意思ニ依ツテ任命セラルルト云フ形ヲ取リマスレバ、衆議院ノ解散トカ、国会ノ召集トカ云フコトモ、又是ト相関連ヲ致シマシテ、天皇御自ラノ働キデアルト云フ建前ヲ取ルコトガ、釣合ガ取レルヤウニ思フノデアリマス、而シテ更ニソコマデ考ヘテ行キマスルト、国民ガ位ヲ戴キ、勲章ヲ戴キ、其ノ外国家的ナル栄誉ヲ得マスルコトハ、今マデノ一般ノ思想ニ於キマシテ、是ハ天皇ノ光栄ヲ分チ与ヘラルルノデアルト云フヤウニ先ヅ了解ヲ致シテ居リマス、随テ其ノ趣旨ニ基イテ考ヘテ行キマスレバ、其ノコトハ根本的ノ考ヘガ如何ニアラウトモ、現実ノ制度ト致シマシテハ、天皇ガ栄典ヲ授与セラルルトスルコトガ如何ニモ相応シクナイカ、ソコデサウ云フ風ノコトハ、是ハ天皇ヲ現実ノ国ノ象徴ト仰ギマスル関係上、恐ラク密接不可分ノ制度トシテ、天皇ニ任命権其ノ他ノ権能ガオアリニナルガ如ク規定ヲスルコトハ、理ノ当然、妥当ナノデハナカラウカト考フル訳デアリマス、併シ先ニ申シマシタ如ク現身ノ天皇デアリ、又天皇ノ御地位ハ、聡明デアルトカ、年齢ガ或ル程度ニ発達シテオイデニナルカラトカ、サウ云フ所ニ着想シテ天皇ノ御地位ガ決マルノデハナクテ、万世一系ノ血統ヲ享ケテ、国法ノ定ムル順位ニアル方ガ、御位ノ地位ニ御即キニナルノデアリマスカラ、一人一人ノ方ノ御健康ノ状態トカ、或ハ知識、経験、頭トカ云フコトニ特ニ重点ヲ置イテ居ル訳デハアリマセヌ、血統ヲ中心トシテ居リマス、ソレヲ考ヘマスレバ、天皇御一人ニ其ノ働キヲ帰属セシムルト云フコトハ、幾多ノ不合理ナ結果ガ現ハレテ来ル、ソコデ内閣ガ其ノ助言ト承認トニ依ツテ行フト云フコトニナリマス、言換ヘマスト、天皇ガ実際御決定ニナル事項ハ少イ、而モ其ノ少イ事項ニ付キマシテ内閣ノ承認ト助言トヲ必要トスル、其ノ内閣ノ裏ニハ又国会ノ支持ガアル、国会ノ裏ニハ国民ノ総支持ガアルト云フ風ニナリマスレバ、間違ハウト思ツテモ間違ヘナイ制度ニナルノデハナカラウカ、斯ウ云フ風ニ天皇ノ御権能ノ範囲ヲ欠クベカラザル所ニ限定シタ訳デアリマス、之ニ更ニ一歩ヲ進メマシテ、天皇ノ御名ニ依ツテ天皇ノ為ニ権力ト言ツテハ語弊ガアリマスガ、権威ニ依ツテ或ル秩序ガ出来テ来ルコトガ好マシイ例ヘバ憲法ノ改正案ガ本当ノ改正トナリマシタ時ニ、何人ニ依ツテ是ガ天下ニ公布セラレルカ、或ハ外国ノ使臣ヲ受入レルト云フ時ニ何人ガ之ヲ受入レラレテ宜イカト云フヤウナコトニナリマスト、又諸般ノ関係カラ天皇ノ御働キヲ通シテ実現セラルルコトガ相応シイノデアリマス、併シ此ノ場合デモ出来ルダケ天皇ノ実質的御迷惑ヲ妨ギマスル為ニ右左ヲ決スルト云フコトハ、天皇ノ御権能ニシナイノヲ原則ト致シマシテ、実質ハ内閣其ノ他デ決メル、唯ソレニ対シテ認証或ハソレニ加フル儀式ト云フ点ヲ天皇ノ御担任事項トスル斯ウ云フ風ニ決メマスルト、何等ノ好シカラザル結果ハ生ズル虞ナクシテ、而モ好マシイ、色々ナ長所ダケハココニ完備セラルルコトニナリマシテ、色々ノ御批評ハアリマシタケレドモ、主トシテ第一条ノ各項目ハ一ツ一ツ検討ヲシテ、多カラズ少ナカラズ、深カラズ浅カラザル所ニ、一々研究ヲシタ訳デアリマス、今御質疑ニナリマシタヤウナ点ハ、先ヅ私共ノ確信スル所ニ於テ懸念スベキ問題ハ含マレテ居ナイト考ヘテ居リマス
○大橋委員 私ハ是デ終リマス
○芦田委員長 笠井重治君
○笠井委員 私ハ昨日少シ遅ク参リマシタノデ、前文ハ既ニ済ンデシマツタノデアリマスガ、本日御許シヲ得マシテ、前文ト第一条ニ付テ御尋ネシタイト思ヒマス
○芦田委員長 笠井君ニ一寸申シマスガ、欠席ノ為ニ発言ノ機会ヲ失ハレタ方ニ更ニ他日出席ノ際ニ聴返シテ質問ヲ重ネルト云フ例ヲ開キマスト、逐条審議ハ無制限ニ日ヲ費スヤウナ虞ガアルカト思ヒマス、就テハ此ノ会議ニ於テ十分明カニサレナカツタ部分ニ付テハ或ハ金森国務大臣トノ私的会談ニ依ツテ御解決ヲ願ヒタイ、其ノ方法ヲ執リタイト思ヒマス
○笠井委員 宜シウゴザイマス、ソレデハ前文ニ関スルコトハ金森国務大臣トノ私的会合ニ於テ御伺ヒシマス
ソレデハ、第一条ニ付テ御尋ネシマス、今回ノ改正憲法ハ我ガ日本ノ将来、平和国家及ビ国民ノ行クベキ道ヲ訓ヘタル大憲章デゴザイマス、欽定憲法ヲ以テ我ガ国不磨ノ大典ト致シマシタナラバ、改正憲法ハ正ニ我ガ日本ノ民族ノ将来ニ対スル大憲章デアルト思ヒマス、明治ノ憲法ニ於テハ、明治九年ニ明治大帝ガ或ル宮内官ガ「イギリス」カラ持ツテ来マシタ「トツド」ノ「イギリス憲法史」ト云フモノヲ御読ミニナツテ、日本ノ国民ニ本当ニ是ハ憲法政治ヲ与ヘナケレバナラヌテ云フ大御心カラ出発セラレマシテ、遂ニ明治二十二年ノ紀元節ニ於テノ欽定憲法ニナリマシタ、今回ノ憲法ハ「ポツダム」宣言ニ依ル所ノ憲法デアルコトハ固ヨリ是ハ疑ヒナイ、其ノ「ポツダム」宣言ノ要綱ノ一ハ、日本ヲ軍閥カラ解放スルト云フコト、第二ハ日本国民ニ自由ヲ与ヘル、国民ガ未ダ痛切ニ感ジナイ所ノ基本的権利ヲ国民ニ与ヘルノダ、斯ウ云フコトハ屡々云ハレテ居リマス、只今国務相ハ仰シヤラレルニ、前議員ノ質門ニ対シテ「マッカーサー」元帥ノ言葉ヲ引カレタ時ニ、外国ノ将軍ガ何ト言ツタカ知ラナイガ、ト仰シヤツテ居リマスガ、是ハ国務相トシテノ失言デハナイカト思フ、屡々是ハ「マッカーサー」ガ声明シテ居ルコトデアル、此ノ点ハ此ノ憲法草案ガ議会ニ上程以来屡々国務大臣ガ仰シヤラレルノニ外国ノ関係ガドウデアラウトモサウ云フコトハ構ハヌ、斯ウ云フコトヲ仰シヤラレテ居ルガ、サウ云フ態度ハ御執リニナラヌ方ガ宜イ是ハザツクバランニ、我ガ国ノ現状ガサウデアルカラ已ムヲ得ナイヂヤナイカ、戦争ニ負ケテ日本ノ将来ハ斯ウ云フ風ニ行クノダト云フコトヲ国民ニ教ヘナケレバイカヌト思フ、我ガ国ノ政府ガ昨年ノ八月三十一日以来間違ツテ居ルコトハ、此ノ戦争ノ結果日本ハ負ケタノデアルト云フ考ヘヲ国民ニ徹底シナイカラシテ国民ノ間ニ不満ガ起ルノデアル、デアリマスカラシテ、過去ノ憲法デ負ケタ理由ハ何処ニアルカト言フナラバ、欽定憲法内ニ於ケル所ノ、即チ統帥権ニ偉大ナル所ノ力ヲ与ヘテ居ル、欽定憲法ガ余リニ弾力性ニ富ンデ居ルト云フコトニ依ツテ起ツタコトガ一ツデハゴザイマセヌカ、デアルカラシテ、其ノ点ハ能ク国務相モ之ヲ国民ニ、余リニ詭弁ヲ弄スルヤウナ御態度ヲ執ラナイヤウニシテ、サウシテザツクバランニ宜シイト、是ハ斯ウ云フ結果トシテ日本ハ負ケタノダ、ココニ於テ、成程外国カラノ指示モアルケレドモ、連合国ガ此ノ二箇条ノ条件ヲ出シテ居ルケレドモ、我々モ亦進ンデ我ガ帝国ノ将来ヲ建設セントスルノニハ、ドウシテモ平和国家、文化国家ヲ建設セナケレバナラヌノデアルト云フコトヲ、此ノ上ニ立ツテ仰シヤラナケレバイカヌト私ハ思ヒマス、此ノ点ニ付テハ先般委員長カラノ総括的質問ニ対スルアナタノ御答弁モアリマシタガモウ少シ私ハザツクバランニ仰シヤラレルコトヲ希望シマス
ソレカラシテ第二ノ点ハ、是ハ斯ウデアラウト思フ、此ノ点ニ付テ私ハ伺イタイト思ヒマスコトハ絶対的ニ憲法ノ草案ノ条項ト云フモノヲ変ヘテハイケマセヌノデスカ、之ヲ先程北浦君カラノ質問ニ対シテ、先ヅ条項ヲ示セ、其ノ時ニ返事ヲスル、サウ云フ態度デナク、憲法ガ此処ニ書イテアリマス通リニ、前文ニ書イテアル通リニ「日本國民は、國会における正當に選擧された代表者を通じて、」云々ト言ツテ、サウシテ「ここに國民の總意が至高なものであることを宣言し、この憲法を確定する。」ト云フノデアリマスガ、アナタガ御出シニナツテ居ルノハ草案デゴザイマス、此ノ草案ヲ議会ニ掛ケマシテ、今回ノ議会ニ集マツタ人々ガソレヲ練リニ練ツテ、完璧ニシタルモノガ憲法トナルノデゴザイマス、デアリマスカラ、其ノ態度ヲ御執リニナツテ戴キタイト思ヒマスガ、私ガ重ネテ質問致シマスノハ、此ノ憲法ノ草案ト云フモノハ、一字一句モ之ヲ変ヘテハイケナイノデスカ、此ノ点ヲ一ツ‥‥
○金森国務大臣 其ノ点ニ付キマシテハ、今マデ度々種々ナル機会ニ於テ御答ヘヲシテ居ルノデアリマシテ、重ネテ申上ゲルコトハ恐ラク諄イト云フ御非難ヲ受ケルト思ヒマスカラ、御遠慮申上ゲタイト思ヒマス
○笠井委員 サウシマスト、第一条ニ、「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、日本國民の至高の總意に基く。」斯ウアリマスル、既ニ国務相ノ数回ノ御答弁モアリマスガ、大体ニ於テ私ハ賛意ヲ表スルモノデゴザイマス、此ノ「日本國の象徴であり」ト云フコトハ、「イギリス」デハ英国皇帝ガ「イギリス」ノ「エンパイアー」ノ「シンボル」ダト言ツテ居リマスガ、此ノ国民統合ノ象徴デアルト云フ所ヲモウ少シハツキリサセル、私ノ考ヘト致シマシテハ、日本国ノ天皇ハ、外国ノ例ハ何レニシマシテモ我ガ日本ハ日本デアル、又我ガ日本ノ将来ト云フモノハ、ドウシテモ指導者ヲ天皇ニ求メナケレバナラヌ、昨年ノ暮カラ今年ノ一月頃ニ於テ、「アメリカ」及ビ連合国方面ニ於テハ非常ナ論議ガ交サレマシテ、日本ノ天皇ヲ認メナイ方ガ宜イダラウト云フヤウナ論議ガアリマシタケレドモ、連合国最高司令官ハ日本ノ実情ガ能ク分ツテ居リマスノデ、日本ニ於テ天皇ガドウシテモ必要デアルノダ、ソレデ即チ連合国最高司令官ノ日本ノ実状ヲ知ツタル情勢ノ下ニ、斯ウナツテ居リマスガ、私ノ考ヘトシマシテハ、此ノ象徴ト云フコトヲ、モウ少シ強ク仰シヤラレタ方ガ宜カラウカト思ツテ居ルノデアリマスソレデ天皇ハ日本国ノ元首デアルト云フ言葉ハ、既ニ現在ノ欽定憲法ノ第四条ニ於テ「天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ此ノ憲法ノ條規ニ依リ之ヲ行フ」トアリマスケレドモ、元首ト云フ言葉ガ強過ギルト云フナラバ、之ニ対シテ象徴ヨリモモウ少シ強ク、元首ヨリモ柔カミヲ帯ビタ言葉ヲ何カココニニ選ブ必要ガナイカト云フコトヲ御伺ヒ致シタイト思ヒマスガ、是キ如何デアリマスカ
○金森国務大臣 此ノ象徴ト云フ言葉ハ、正直ニ申シマシテ、日本ノ斯ウ云フ種類ノ法典ノ中ニ現ハレマシタ恐ラク第一回ノ文字デアリマスルガ故ニ、洵ニ世ノ疑惑ヲ増マシマテ恐縮ニ思ツテ居リマスケレドモ、併シ此ノ象徴ト云フ言葉ハ相当広ク行ハレテ居リマスルシ、殊ニ外国ノ此ノ象徴ト云フ言葉ニ附加ハツテ居リマスル色々ナ説明ナドト云フモノハ、或ル程度マデ他山ノ石トシテ我々ニ教フルニ相当力アルノデアリマス、能ク考ヘマスレバ、ソンナニ不適当ナ文字デハナイト思ツテ居リマス、ソコデ今元首ト云フ言葉ヲ御使ヒデアリマスガ、元首ト云フ言葉ヲ用ヒマスト、何トナク如実ニ天皇ノ御姿ガ国民ノ心持ニ合フヤウニ表ハレモスルト云フ所カラ各方面デ御批判ニナツテ居ルト私ハ思ヒマス、其ノ感情ハ極メテ御尤モデアルト思ヒマスケレドモ、実情ヲ申シマスト、「アメリカ」大統領ハ国ノ元首ト出テ居ル、併シ大統領ハ何カト云ヘバ、国ノ行政ノ一部ヲ或ル期間ヲ限ツテ担任ナルモノニ過ギナイノデアリマス、元首ト云フ言葉自身ニ深イ意味ガアルノデハナク、本当ニ国家ヲ人間ニ譬ヘマスト、頭ト云フモノニ譬ヘタノデアリマス、正直ノコトヲ申シマスト、日本ノ憲法学者ガ、現行憲法ノ「天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ」ト云フ規定ガアリマスル其ノ元首ヲ、ドウ解シテ宜イカト云フコトニ疑ヒヲ持ツテ居リマス、恐ラク精密ニ色々憲法ノ書物ヲ御覧ニナリマスト、元首トハ何カト云フコトヲ、一ツノ意味トシテ本当ノ意味ヲ答ヘテハ居リマセヌ、或ル場合ニハ是ハ統治権ノ総攬者デアル、斯ウ云フヤウニ取扱ツテ居ル、又或ル人ハ是ハ唯行政府ノ代表者デアル、斯ウ云フヤウニ取扱ツテ居リマス、畢竟ハ是ガナクテモ憲法ヲ解釈スル上ニ差支ヘナイ、斯ウ云フコトニ落付ク位ノ文字デアリマシテ、粗放素朴ナル我ガ国ニ於テ、国民ヲ引締メル味ハ確カニアルト思ヒマスケレドモ、ドウモ適切ナ言葉デハナイヤウニ思ツテ居ル次第デアリマス
○笠井委員 サウシマスト象徴ト云フ言葉ヲ使フ時ニ是ハ「マッカーサー」司令部ノ方ヘ政府カラ出シタ案デアリマスカ、或ハ向フカラ来タ案カモ知レマセヌガ、其ノ中ニハ「シンボル」ト云フ字ヲ使ツテ居マス、「シンボル・オヴ・ザステート・アンド・オヴ・ザ・ユニテイ・オヴ・ザ・ピープル」トアリマスガ、日本及ビ日本国民統合ノ象徴デアツテ、トシテ、象徴ト云フ言葉ヲ二度使ツテ居ルノデスケレドモ、之ヲ一遍ニシテ決メテ行ク訳ニハ行キマセヌデセウカ
○金森国務大臣 或ル考ヘ方ニ依リマスト、象徴ト云フ言葉ハ一ツニ使ツテ行ツタ方ガ宜イト云フ議論ハ十分立ツト思ヒマス、唯日本語ト云フモノハ、本当ヲ言ヘバ、文法ガ発達シテ居ナイト申シマスカ、正確ニ表ハスコトガ困難デアリマシテ、日本国及ビ日本国民統合ノ象徴デアル、コンナ風ニ一口デ言フト、日本国ト日本国民トヲ統合スル象徴デアル、コンナ語弊ガ出テ来マシテ、ドウモ旨ク行カヌノデアリマス、之ヲモツト的確ニ言ハウトスレバ、日本国ノ且ツ日本国民ノ統合ノ象徴デアル、斯ウ言ヘバ、象徴ト云フ字ヲ一ツデ言表ハサレヌコトモアリマセヌ、併シサウ云フ風ニ書キマスト、日本国ノ及ビ日本国民ノ統合ノ象徴デアルト申シマスレバ、ソレハ日本語カト云フ質問ガ又恐ラク激シク起ルト思ヒマス、色々考ヘマシテ、日本語ヲ活カシテ使フ時ニハヤハリ斯ウ云フ風ニ表ハスコトガ一番的確デハナイカ、英語ノ方ハ文法ガ違ツテ居リマスカラ、アア云フヤウニ一ツノ言葉デ訳シテモ一応正確ナ了解ガ出来ル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○笠井委員 先般カラ屡々論議ガアルヤウデスガ「至高の總意に基く。」ト云フ点デス、「至高の總意に基く。」ト云フ点ハ昨日モ「最高の總意に基く。」トシタラドウデアラウカト言フ方モアリマシタケレドモ、アナタノ方デ之ヲ訳サレテ居ル所ヲ見ルト「ソヴァレン・ウィル・オブ・ザ・ピープル」ニハ、「至高の總意」ト云フ言葉ヨリモモウ少シ強イ言葉ガアル訳デアリマスカラ、何トカモウ少シ之ヲ強ク出来ナイモノデスカ、是デハ余リニ柔カ過ギマス、確乎不抜ノ信念ノ上ニ基クヤウニスル言葉ハアリマセヌデセウカ
○金森国務大臣 非常ニ荒ツポイ言葉ヲ使ツテ思想ヲ表ハスノモ一ツノ方法デアリマスシ、地道ナ言葉ヲ以テ含蓄ヲ強ク活カスト云フノモ一ツノ方法デアリマス、大体日本ノ言葉ノ使ヒ方ハ、含蓄ト云ヒマスカ、言葉ノ表面ニ於キマシテハ、淡々タル姿ヲ呈シテ居リマシテモ、中味ニ於テハ強靭ナ意味ヲ持ツコトガ、日本語ノ特色ノヤウニ思ヒマス、此ノ場合ハ「至高の總意」ト云フ言葉ヲ用ヒマシテ何処ニ弛ミガアリマセウカ、サウ云フ意見ニ対シマシテ、私ハ疑問ヲ持ツテ居リマス、至高ト云ヘバ至ツテ高シデアツテ、是ヨリ上ニモノナシト云フコトデ、高キモノノ是ヨリ上ニモノナシト云フ、サウ云フ性格ヲ具ヘタル国民ノ総意ト云フコトデアリマスレバ、是レ以上ニ的確ナ表現ガアルカドウカト云フコトヲ疑ヒトシテ居リマス昨日ノ野坂君ノ御質問デ、最高ト言ツタ方ガ分リ易イデハナイカ、成程国民学校ノ生徒ニハ恐ラク分リ易カラウ、ソレハ申シマシタ、併シ其ノ方ガ適当デアルト云フコトマデハ申シタ積リハゴザイマセヌ
○笠井委員 分リマシタ
○芦田委員長 午後ハ一時半ヨリ会議ヲ開キマス、是ニテ休憩致シマス
午後零時十二分休憩
―――――――――――――
午後一時四十八分開議
○芦田委員長 休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――星一君
○星委員 私ハ婦人代議士ノ大橋委員ノ質問ニ感激シマシテ、ソレニ関連シテ立ツタノデアリマス、大橋サンハ、日本ハ大キナ家族制度カラ出来テ居ルト云フコトヲ言ハレマシタ、是ハ私ノ尊敬シテ居ル故高楠順次郎博士ハ、日本ハ血ノ文化ヲ持ツテ居ル、血液ノ文化血ノ文化ト云フ世界ニ類ノナイ文化ヲ持ツテ居ルト云フコトヲ言ハレマシタ、此ノ世界ニ類ノナイ血ノ文化、之ヲ大橋サンガ言ハントシタモノデアルト思フノデアリマス、其ノ血ノ文化ヲ持ツテ居ル我々ハ、天皇ハ国民ノ中ニアルト云フコトハ立派ナ言葉デアル、サウ云フコトヲ言ヒ得ルコトハ、私ハ日本人ノ「プライド」トスベキモノデアラウト思フ、此ノコトニ対シテ、私ノサウ感ズルコトガ間違ヒカドウカ御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 仰セニナリマシタ点ハ、固ヨリサウ云フ部分ヲ多分ニ包含シテ居リマシテ、其ノ部分ニ於テ正シイ御考ヘト考ヘテ居リマス
○星委員 私ハモウ一ツ井上委員ガ最前質疑ノ際ニ申サレタコトニ関連シテ伺ヒタイト思ヒマス
井上委員ハ、金森国務大臣ノ説明ガ我々委員ノ中ニ分ラヌ者ガアルト云フコトヲ言ハレマシタガ、斯クノ如キ言葉ヲ言ハレタコトハ私ハ不満デアリマス、井上委員ハ自分ガ分ラヌナラバ分ラヌト言ヘバ宜イノデ、何モ外ノ委員マデ皆分ラヌ者ガアルカノヤウニ言フコトハ、私ハ金森国務大臣ニ対シテモ礼ヲ失スル所以カト思ヒマス、私ハ斯ウ思ツテ居リマス、今日マデココニ論議サレタル所ノ国体ト云フコトハ、政治ト混合シテ居ル、国体ト政体ト云フモノガアリマセウガ、是ガ混合シテ法律的ニ言ウテ居ラレルヤウニ感ジマス、併シ憲法ハ決シテ法理ヲ以テノミ論議スベキモノデハナイト思ヒマス、サウ云フコトデ憲法ヲ作ルモノデハナイト思ヒマス、我々人間ガ過去何千年生キテ居ツタカ、我々ハ少クトモ過去日本人トシテ歴史ノ上カラ三千年、其ノ前ニ遡ルナラバ何千、何万年カ生キテ来テ居ルノデアリマス、是カラ我々ハドレダケ生キテ行クカ、自分ノ生命ニハ制限ガアリマスガ、我々ノ子孫ハ是カラ何千年、何万年カ生キテ行カナケレバナリマセヌ、其ノ時ニ我々ハ選挙サレテ此ノ憲法改正ノ委員ニモナツタノデアリマスガ我々代議士ハ過去何千年生キテ来タ、是カラ尚ホ何千、何万年生キテ行クト云フ考ヘヲ以テ憲法ノ改正ニ当ラナケレバナラヌト思フ、唯前文ニモ我等及ビ我等ノ子孫トアル、子孫ハ是カラ何万年カ続カナケレバナラヌモノデアリマス、ソレヲ考ヘテ行ク時ニ、第一条ノ象徴ナドト云フ言葉ニハ、私ハ深イ深イ意味ガアルト思フノデアリマス、ソコデ私ハ日本ノ此ノ国体「ファンクシヨン・オヴ・ステーツ」ト云フコトト、政治即チ「ガヴァメント」ト云フコトガ使ハレテ居ルヤウデアリマス、此ノ「ファンクシヨン・オブ・ステート」ト云フ大キナコトヲ考ヘテ見ル時ニ、又同時ニ現実的ナ政治ノコトヲ考ヘル時ニ、我々ガココニ考ヘナケレバナラヌコトハ、我々ハ此ノ世限リノ命トハ云フケレドモ我々ノ此ノ生命ノ中ニ過去ト将来ノ大キナ流レモアル、我々ハ今日其ノ中間ニ居ルノデアリマス、其ノコトヲ考ヘテ憲法ト云フモノハ審議サルベキモノト思フ、私ハ日本ノ国体ハ斯ウ信ジテ居リマス、日本ノ国ハ進歩ヲ神トシテ居ル、此ノ神、私ノ謂フ神ヲ今マデノ神秘的ナ神ト云フコトデナク、西洋デ謂フ「ゴッド」トカ、大自然トカ云フ言葉ヲ使ツテモ宜イ、神ハ進歩デアルト云フコトト、日本ノ国ハ協力ヲシロ、協力ハ神ノ命令デアル、日本ノ国民ハ協力スルコトヲ神様カラ命ゼラレテ居ルト云フ、此ノ協力ハ神ノ命令ダト日本国民ハ信ジテ居ルト思ヒマス、サウシテ日本国民ハ自分等ノシタコトハ祖先カラ引継イデ来タ、此ノ経験ヲマダヨリ良クシテ子孫ニ伝ヘテ行クト云フ伝統ヲ持ツテ居ルノデアリマス、ダカラ日本ハ進歩協力、ソレカラ伝統、此ノ三ツヲ持ツテ居ルコトガ日本ノ国体ダト思フノデアリマス、其ノ国体カラ政治ガ分レテ来テ居ルノデアリマスカラ、此ノコトヲ日本ノ人ガ考ヘタ時ニ、私ハ今度ノ第一条ナドハ、実ニ意味深イモノガアルト思ヒマス、結局我々ノ責任ハ、此処デ拵ヘタ所ノ憲法ヲドウ云フ風ニ説明シテ、国民及ビ子孫ニ満足ヲ与ヘラレルカト云フ所ニ我々ノ責任ガアルノデアリマス、其ノ象徴ノ説明ガ、是ガ大キナ義務デアリマス、サウ云フコトヲ考ヘテ行ツタ時ニ、余リニ目ノ前ノ或ハ裁判所デ論議サレルヤウナ法理ノミニ因ハレテ居ルト云フヤウナコトハ人間ノ一部分ノコトデアリマス、人間全体ノ生活デハアリマセヌ、サウ云フ風ニ私ハ日本ト云フ国ハ世界ニ類ノナイ良イ国ダト思ツテ居リマス、其ノ時ニ偶々此ノ憲法ノ改正ヲ我々ガシナケレバナラヌコトニナツタト云フコトハ、私ハ日本ノ為ニ好イコトダト思フ、是デ日本ハ本当ノ姿ニ還ル、世界ハ戦争ニ朝ニ昼ニ晩ニ苦労シマセウ我々ハ此ノ苦労ナシニ本当ニ文化的ニ向ツテ進歩シテ行クト云フコトニナツタナラバ、日本ハ世界一ノ国民タルコトガ出来マス、私ハサウ信ジテ居リマス、ソレデスカラ、此ノ憲法ニ対シテ或ル所ニハ文章ノ前後スル、直シタラ句調ガ良クナルト云フ所ガアリマセウガ大体ニ於テ私ハ宜イト思ツテ居リマス、兎ニ角私ガ日本ノ国体ニ付テ其ノヤウニ考ヘテ居ルト云フコトハ間違ヒガナイデセウカ、一ツ金森サンノ御意見ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 私共ノ今マデヤツテ来マシタ筋道ニ依ツテ国体ト云フ言葉ヲ使ヒマスルト、今御話ニナリマシタヨリモ少シ限ラレタ特殊ナ意味ニ了解シテ居リマスカラ、詰リ何時モ天皇ヲ御中心ニ含ム意味ニ於テ国体ノ考ヘヲ築キ上ゲテ居リマスカラ、今仰セニナツタ言葉トハピツタリ合ヒマセヌ、併シ立場ヲ変ヘテ、我々国民ノ生物デアルト云フ本質、其ノ生物ガ過去ノ無限ヨリ将来ノ無限ニ亙ツテ確乎タル或ル理想ノ下ニ、平和的ニ、協力的ニ進展シテ、一日一日ト新シク生キテ行クト云フ其ノ御趣旨ニ付キマシテハ、洵ニ御同感デアリマシテ、私ノ今マデノ説明ガ其ノ点ニ触レナカツタコトハ実ニオ恥ヅカシイ次第ト感ジテ居リマス
○星委員 有難ウゴザイマシタ、ソレデモウ我々ハ此ノ憲法ニ依ツテ世界一ノ美シイ「デモクラシー」ヲ作ルト云フ決心ヲシ、其ノ勇気ヲ以テ進ム外ナイト思ヒマス、政府ニ於テモドウゾ是カラ此ノ憲法ニ依ツテ日本ヲ世界一ノ美シイ「デモクラシー」ニスルヤウニ御願ヒシタイト思ヒマス、是デ私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 加藤宗平君
○加藤（宗）委員 私ハ第一条ニ付テハ撤回シマス
○芦田委員長 早川崇君
○早川委員 一般的論議ハ止メマシテ、具体的ナ問題ニ付テ二、三御質問申上ゲタイト思ヒマス、第一条ニ依リマシテ、天皇ハ国民統合ノ象徴トナツタノデアリマスガ然ラバ刑法ニ現在規定シテ居リマスル第一章ノ皇室ニ対スル罪ノ関係、ソレカラ第二十四章ノ国民一般ニ対スル名誉毀損ノ関係、斯ウ云ツタ不敬罪ノ問題ニ対シテ、果シテモウ少シ高クナルノモカ、低クナルモノカ、更ニ外国ノ言葉ニ依リマスルト「シンボル・オヴ・ステート」ノ方ガ「チーフ・オヴ・ステート」ヨリ高イ位置ニアルト聞イテ居リマスガ、之ニ対スル国務相ノ御意見ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 刑法ノ不敬罪ニ関シマスル規定ハ、我々ガ天皇ノ御地位ノ尊キ所以ヲ意識致シマシテ、之ニ対シテ設ケラレテ居ル所ノ特別ナル刑罰規定ト考ヘテ居リマス、今回ノ憲法改正ニ基キマシテノ天皇ハ、国及ビ国民統合ノ象徴デアリマシテ、其ノ御地位ハ国家ノ組立テ、働キノ上ニ最モ重大ナル御地位デアル、此ノ御地位ヲ御満タシニナル方ガ最モ貴バルベキデアルコトハ当然デゴザイマシテ、此ノ憲法ノ第三章ニ国民ノ権利義務ト云フモノガアリマシテ、ソコニ平等ヲ定メテ居ル規定ガアリマスケレドモ、併シ象徴タル御地位ト組合セテ考ヘテ見マスト、第一条ハ固ヨリ其ノ特例ヲナシ得ルモノデアリマシテ、特別ナル法律ニ依リマシタ、天皇ノ御地位ニ対スル名誉其ノ他ノ毀損ガ重ク罰セラレルコトガ当然デアラウト考ヘルノデアリマス、尚ホ象徴ト云フコトガ、他ノ言葉デ定メタヨリモ軽イカ、重イカト云フ点ノ御尋ネガアリマシタガ、其ノ点ハ別ニ軽イ重イト云フ比較ヲ取ルコトハ出来ナイノデアリマス、ココデハ国ノ象徴デアラセラレルガ故ニ、ソレト実質的ナル連繋ヲ以テ、特ニ其ノ侵害ニ対スル刑罰ヲ重クシナケレバナラヌ、斯ウ云フコトヲ申上ゲテ置キタイノデアリマス
○早川委員 第二ニ御質問申上ゲタイコトハ、我々ノ常識ニ依リマスト、国民統合ノ象徴ト云フノハ一応「インテグレーション」ト云フ言葉カラ来テ居ルト思フノデスガ、然ラバ現在日本ニ於テ国民統合ノ象徴デアルモノト致シマシテ国旗ガアルノデスガ、若シ斯ウ云フヤウニ「シンボル」ト云フコトニナリマスト、皇室或ハ天皇ト云フモノガ日本全体ノ一ツノ存在ニナリマシテ、皇室ノ御紋ノ菊ノ御紋ト、国民ノ統合ノ「シンボル」デアル日ノ丸ノ旗ト云フモノヲ、強ヒテ区別スル必要ハナイデハナイカ、更ニ理念的ニ申シマシテモ国旗ヲ菊ノ御紋ニ改メマシテ一部ノ華族ト云フモノノ象徴ニスルヨリハ、更ニ国民全体ノ象徴ニスルト云フ意味デ、具体的ニ国民生活ノ隅々マデ此ノ意思ガ徹底スルト思フノデスガ、斯カル問題ニ対スル政府ノ御所見ヲ御伺ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 国旗或ハ国ノ色ト書キマシタ国色ト云フヤウナ考ヘ方ニ依リマシテ、国全体ヲ象徴スルコトハ、諸国ノ事例ニ於テ存在スル所デアリマス、是等ノ国ニ於キマシテハ、本当ニ国ヲ精神的ニ象徴スル適当ナル手段ガナイノデアリマス、新シク国ガ建設セラレ、多クノ人々ガ集マツテ遽カニ築キ上ゲラレタト云フ姿ノ下ニ於キマシテハ、天皇ト云フガ如キ象徴ガ得ラレナイ、ト云フ時ニ、国旗、国色ノ如キガ必要ナル役割ヲ果スモノデアラウト思ヒマス、日本ニ於キマシテハ申スマデモナク我々ノ真ニ全精神ヲ以テ包容シテ居リマスル所ノ天皇ガ国ノ象徴デアリ、国民統合ノ象徴デアラセラレマスルガ故ニ、之ニ近キ値打ヲ以テ考フベキ他ニ何物モ象徴トシテハ考ヘラレナイト思ヒマス、国旗ノ如キ、日本ニ於キマシテハ、外国ニ於ケル程一般的ナル意義ヲ持チ得ナイ、其ノ国旗ニ相応シイ或ル意味シカ持チ得ナイト云フ風ニ考ヘテ居ル次第デアリマス、ソコデ然ラバ国旗ニ代フルニ菊ノ御紋章ヲ以テスルカドウカト云フコトニ付キマシテハ、今マデサウ云フコトニ付キマシテノ特別ナル必要ヲ意識シタコトガアリマセヌノデ、菊ノ花ハ陛下自身ヲ最モ近ク考ヘマスル場合ノ御徴シトシテ考ヘ、国旗ノ方ハ国ヲ直接ニ考ヘル場合ノ徴シトシテ考ヘマシテ、自ラソコニ場合場合ノ考ヘ方ガアルト思ツテ居リマス、随テ之ヲイキナリ一ツニシテシマフト云フ考ヘガ、果シテ好イモノデアリマセウカドウデアリマセウカ、実ハマダ研究ヲ致シテ居リマセヌ、適当ナ機会ニ漸次考ヘテ行キタイト存ジテ居リマス
○早川委員 今ノ国旗ト菊ノ御紋ノ統一ヲ私申シマシタノハ、天皇ノ大権ガ非常ニ少クナリマシテ、段々―――現在ハ別デアリマスケレドモ、将来ニ於テ此ノ天皇即国民ノ感情ガ或ハ薄ライデ行クカモ知レナイ、丁度幕末ニ於ケル、或ハ足利時代ニ於ケル皇室ノヤウナコトモ考ヘラレマスノデ、サウ云フ意味デ理念的ニ何等矛盾ノナイモノハ、サウ云フ方法ニ依ツテ国民ガ一体的生活ヲヤツテ対立抗争ニ依ツテ滅亡シナイト云フ意味デ私ハ申述ベタノデアリマス、是ハ私ノ希望トシテ今後御考ヘニナツテ戴キタイト思ヒマス
次ニモウ少シ、ハツキリシマセヌノデ御尋ネシマスガ、「この地位は、日本國民の至高の總意に基く。」ト云フ文字デアリマスガ、是ハ考ヘヤウニ依ツテハ、斯ウ云フヤウニモ取レルノデス、日本国民統合ノ象徴デアル天皇ノ地位ト云フモノハ、日本国民至高ノ総意ヲ代表シテ居ルト云フコトニ基クトモ取レマスシ、従来国務相ガ言ハレマシタヤウニ、日本国民ノ至高ノ総意ニ依ツテ決マツタンダト云フヤウニモ取レルノデアリマスガ簡単デ結構デスカラ御説明願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 代表シテト云フヤウナ意味ハ含ンデ居ナイ積リニ考ヘテ居リマス、日本国民ノ至高ノ総意ヲ基本トシテ此ノ御地位ガ存在スル、唯サウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○早川委員 次ニ御尋ネ申シタイノハ三種ノ神器トノ関係デアリマス、日本国民統合ノ象徴ト云フコトニナリマシテ、先程国務相ノ言ハレマシタ所ニ依ルト、天皇ノ地位ハ血統ト更ニ法律ニ依ツテ決マルノダト云フ御話デアリマスガ、皇室典範ニ依リマスト、更ニ三種ノ神器ヲ承ケテ皇位ニ即クト云フコトニナツテ居リマス、従来三種ノ神器ト云フモノハ、天皇ノ人格ノ具体的三ツノ最モ重要ナル性格ノ一ツノ「シンボル」トシテ伝ハツテ参ツタノデアリマシテ、万世一系ノ天皇皇位ニ即カレル条件トモナツテ居ルノデアリマスガ、之ニ対シ今度ハ国民統合象徴ト云フコトニ自ラオナリニナラレテ居リマスノデ、更ニ最近神宮トカ神社トカハ特別ノ扱ヒヲ受ケナイ、ソレガ或ハ伊勢神宮ナリ、更ニ方々ニ分散シテ神器ガ守ラレテ居ルノデアリマスガ、是トノ関係、更ニ其ノ中ノ一ツニ剣ガアリマスガ、斯ウ云ツタ問題ニ対シテ、此ノ条項ニアル戦争抛棄ト云フヤウナ問題トノ思想的ナ関係、サウ云ツタ点ニ付テ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣 三種ノ神器ハ今日皇室典範ノ規定ニ於テ定マツテ居リマスルヤウニ、皇位ノ存スル所自ラ此ノ三種ノ神器ガココニ附属シテ、サウシテ皇位ノ存在ノ象徴ヲ成シテ居ルト云フコトハ言フマデモナイコトデアリマス、今度ノ憲法改正ニ伴ヒマシテ、皇室関係ノ諸規定ヲ整理調整致シマスル時ニ是等ノ神器ニ関シマスル規定ガ如何ナル措置ヲ経由スベキモノデアルカト云フコトハ、目下研究中ニ属シマス、宗教ニ関シマスルコトハ国ノ制度ノ上ニハ取入レナイト云フノガ基本ノ原則デアリマシテ、宗教的意義ヲ有スル部分ガ若シ此ノ制度ノ中ニ含マレテ居ルト致シマスレバ、ソレニ対シテ必要ナル補正ヲ要スルモノト思フノデアリマス
尚ホ剣ト戦争抛棄トノ関係ヲ御尋ネニナリマシタガ、剣ノ持ツテ居リマスル全精神ハ、相当深イ意味ガアルノデアリマシテ、必ズシモソレハ現実に武力ヲ以テ戦争ヲスルト云フ意味デハナカラウト私ハ了解シテ居リマス、随テ剣ガ若シ心ノ強ミヲ象徴シテ居ルモノト致シマスルナラバ、憲法第二章ノ規定ト相ソグハナイト云フコトハナイモノト思ツテ居リマス
○早川委員 今ノ御答弁デ別ニ宗教的規定デアレバ除クト云フ御話デアリマシタガ、私ガ只今ノ御質問ヲ申上ゲタ意図ハ、モウ一ツアリマシタノデ、ソレハ既ニ「アメリカ」ノ雑誌ニモ載ツテ居リマシタシ、現実ニ新聞ニモ現ハレテ居リマスシ、予算総会デモ問題ニナツタノデアリマスガ、南朝ノ彼ノ熊澤天皇問題ト云フモノガ出テ居リマスノデ、国民トシテ其ノ点、例ヘバ三種ノ神器ヲ承ケルコトガ条件デアルト云フノカ、サウ云フ点モ実ハ国民トシテ若干不安ニ思ツテ居リマシタノデ御伺ヒシタノデアリマス、其ノ問題ニ付テ、実ハ司法大臣ニ其ノ後ノ状況ヲ御聴キシタイト思ツテ居ルノデアリマスガ、国務大臣ノ方カラ御答ヘニナラレテモ結構デアリマス
○金森国務大臣 私ハ態澤氏ノ問題ノ具体的ノコトニ付テハ存ジマセヌ、併シナガラ日本ニ現ニ存在シテ居リマスル一般法理ノ上カラ申シマスレバ、三種ノ神器ハ皇位ヲ継承スル方ニ附属シテ存在スルモノデアル、ソレガ条件デハナクテ、ソレガ徴シヲナスモノト思ツテ居リマス、随テ今ノ御尋ネノヤウナ場合ニハ、神器ガアルカ、ナイカト云フコトニ付キマシテ答ヘガ変ル訳デハナカラウト思ヒマス更ニ考ヘテ見マシテ、日本ノ皇位継承ハ種々ナル原則ニ依リマシテ其ノ時々ニ若干ノ規定内容ニ変化ハアルニ致シマシテモ、一貫シタル皇位継承ノ原理ヲ基本トシテ行ハレテ居ルモノデアリマシテ、今日ニ至ツテ此ノ問題ガ紛糾シ来ルベキ理由ハ毫末モナイト云フ風ニ考ヘテ居リマス、其ノ枝葉末節ノ点ダケカラ仮ニ之ヲ論ズルト致シマシテモ、皇族ニハ自ラ範囲ガ限ラレテ居リマス、而シテ皇族ノ範囲ヲ超エテハ継承権ガナイト云フ規定ガアリマシテ、根本的ナ所マデ行カナクトモ、結果ノ方カラ見マシテ、論議ノ余地ハナイヤウニ私ハ了解致シテ居ル次第デアリマス
○早川委員 若シサウ云フ御意向デアリマシタラ、一刻モ早クアレニ対スル政府ノ公式ノ御見解ヲ御発表願ヒタイト云フコトヲ希望致シテ置キマス
アト二ツ程御質問致シマス、「日本國民統合の象徴」ト云フコトデアリマスノデ、ソレト第四条ノ「政治に關する權能を有しない。」全般的ニ天皇ノ無答責ト云フコトニナルノデアリマスガ、唯御伺ヒシタイノハ、政府ナリ或ハ議会ニ対スル助言ナリ、或ハ忠告ナリ――此ノ前ノ食糧危機ノ場合ノ陛下ノ御詔勅ナリ、アア云ツタモノハ今後モ相当出サレナケレバナラナイト思ヒマスガ、斯ウ云ツタ点ハドウ云フ御考ヘデアリマスカ、私ハ是ハ政治ニ関スル権能以外ノモノダト解シテ居ルノデスガ、之ニ対スル御答弁ヲ伺ヒマス
○金森国務大臣 「政治に關する權能を有しない。」ト云フ原理ヲ具体的ノ場合ニ当嵌メテ、果シテソレデアルカ否ヤト云フコトニ付キマシテハ、事毎ニ注意深キ判断ヲ加ヘナケレバナラヌト思ヒマスカラ、今偶々御摘出ニナリマシタ事例ヲ取ツテ、之ニ当嵌メテ解釈ヲ加ヘマスコトハ、此ノ際見合ハセテ戴キタイト思ヒマス
○早川委員 最後ニ今マデ国務相ノ国体ニ対スル意見ナリ、或ハ各章ニ亙ル御説明ヲ伺ツタ所ニ依ルト、大体根本ノ考ヘ方ニ於テハ天皇ヲ含メタ意味ノ主権、更ニソレヲ深ク行ケバ君民一体、君ト民ノ弁証法的ナ統一ノ過程ニ於テ主権ガアルト云フヤウニ私ハ解釈シタノデスガ、唯是ガ一般国民ニ説明スル場合ニハ、説明ヲ俟ツテ初メテ分ルヤウナ文句ニナツテ居リマスシ、是ハ現在ノ日本ノ国際情勢下ニ於ケル立場トシテハ、何モ是ガ押付ケラレタト云フノデハナクシテ、我々ガ自主的ニ了解シテ能ク御意図ガ分ルノデスガ、問題ハ斯ウ云フ分リニクイ言葉ガアリマスシ、更ニ各条ノ規定ニ於キマシテモ、必ズシモ此ノ君民一如、更ニ国民主権――君主主権デモナク、人身主権デモナイ、天皇ヲ含メタ国民主権ト云フヤウナ考ヘ方ガ、必ズシモ一貫シテ現ハレテ居ナイト私ハ思フノデス、是ハ今朝モ言ハレマシタヤウニ、色々ナ国際事情カラ言ツテ、我々了解出来ルノデスガ、願ハクハ此ノ文句ナリ或ハ規定ナリガ、後代――特ニ若イ人達ガ次ノ時代ニ於テ日本ノ本当ノ外国ニナイ君主ト人民ノ対立抗争ニ依ツテ出来上ツタ政治ヂヤナクシテ、一如ノ政治デアルト云フ本質ヲ動モスレバ忘レルヤウ危険ガナキニシモアラズト思フノデアリマス、斯ウ云フ意味デ御願ヒシテ置キタイノハ、明治憲法ノヤウナ実ニ分リ易イモノデモ、憲法義解ト云フハツキリシタ解釈ガ権威ヲ持ツテ居リマスノデ、此ノ憲法ヲ制定サレタ後ニ於テ、金森国務相其ノ他政府ノ責任ニ於テ真ニ此ノ言葉ノ背後ニアル意味、国民ヲシテ根本ヲ忘レサセナイヤウナ一ツノ権威アル解釈ト云フモノヲ公ニシテ、ソレヲ中心ニシテ後世次代ノ人ガ誤ラナイヤウニ御考ヘ願ヒタイト思フノデアリマスガ、サウ云ツタ用意ガアルカドウカ
○金森国務大臣 生キタ尊キ法典ガ一、二ノ人ノ註釈ノ為メニ誤ラレル、ソレガ為ニ折角ノ法ヲ殺シテシマフト云フ懸念モアルノデアリマシテ、古イ考ヘ方カモ知レマセヌガ、曽テ「ナポレオン・コード」ガ出来マシタ時ニ、ソレニ対スル註釈ヲ見テ、之ニ依ツテ民法滅ビタリト、慥カ「ナポレオン」ガ叫ンダトカ云フコトガアル訳デアリマス、憲法義解ハ洵ニ尊キ書物デアリマシテ、私共何十遍ト繰返シテ読ンデ、今モ尚ホ価値アルモノト思ツテ居リマスルケレドモ、ソレ自身ヤハリ国ノ生キタ憲法ノ真ノ解釈ヲ多少ハアラヌ方ニ動カシタノデハナイカ、斯ウ云フ疑惑モ持ツテ居リマス、法ト云フモノハ下手ヲ致シマスルト、註釈ニ依ツテ却テ其ノ本質ヲ失フ傾向ガアラウト思ツテ居リマス、併シナガラ又註釈ガナケレバ本当ノ法ノ意味ガ多クノ人ニ行キ伝ハラナイト云フ懸念モアル訳デアリマス、随テ狙フ所ハ極メテ謙虚ナル心ヲ持チ、権威ヲ持ツテ臨マナイヤウナ註釈書デ、而モ出来得ル限リ最モ公平正確ナモノガ生レルト云フコトガ理想デアル訳デアリマス、私共此ノ憲法ヲ取扱ツテ居リマスル上カラ又此ノ起案ニ関シマスル諸種ノ事務ヲ担任致シマスル人々ノ間ニ於キマシテ、色々研究ヲシテ居リマス、今日尚ホ自信ノアル段階ニマデニ行ツテ居リマセヌケレドモ、サウ云フモノヲ漸次結晶サセマシテ、決シテ此ノ憲法ノ本質ヲ誤ルト云フ程ノ権威ヲ持タナイ程度ニ於キマシテ、何等カノ形ニ於キマシテ、世間ノ人ニ参考トシテ読ンデ戴キタイ、斯ウ云フ希望ハ持ツテ居ル次第デアリマス
○早川委員 是デ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 是ニテ第一条ノ審議ヲ終リマシタ、引続キ第二条ヲ議題ニ供シマス――三浦寅之助君
○三浦委員 第二条ニ於テ、実ハ分リ切ツタコトカモ知リマセヌガ此ノ「皇位は、世襲のものであつて、」ト書イテ居ルノデアリマスルガ、此ノ世襲ト云フコトノ解釈デアリマス、普通ニ私共ガ解釈スルト云フト、子孫ガ大体承ケ継グコトデアルト云フヤウニ解釈スルコトガ出来ルト思フノデアリマスガ若シサウ云フ工合ニ解釈致シマスルト、皇統ノ欠ケタ場合ニハ、皇位ハドウ云フ工合ニナルノデアルカ、此ノ点ハ明確ニシテ置ク必要ガアルト思フノデアリマス、勿論現在ノ皇室典範等カラ見マシテ、サウ云フ場合ニハ皇兄弟ナリ或ハ皇伯叔其ノ他ノ皇族ガ継承スルヤウニナツテ居ルノデアリマスガ、ヤハリ此ノ第二条ノ世襲ノ趣旨モ現在ノ皇室典範ト同ジヤウナ継承ノ方法ガ考ヘラレテ居ルノカドウカ其ノ点ヲ明瞭ニシテ戴キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 根本ノ考ヘ方ニ於キマシテハ、現在ノ制度ト多ク異ナル所ハゴザイマセヌ、唯万世一系トカ云フ其ノ万ノ字ナドガ余リ形容ニ富ンデ居リマスルガ故ニ素朴ナル文字ヲ以テ規定セントスル憲法ガ其ノ言葉ヲ避ケタト云フニ外ナラナイノデアリマス
○三浦委員 サウスルト結局皇室典範ニ於テ定メラレテ、皇統ノ欠ケタ場合ニ皇族ガ皇位ヲ継承スルコトダト思フノデアリマスガ、サウスルト其ノ皇族ノ範囲ト先程ノ前ノ方ノ御答弁ニモ皇族ノ範囲ト云フコトノ言葉ガアリマシタガ、皇族ノ範囲ト云フコトハドノ程度ニ御考ヘニナツテ居ルノカ、御願ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 厳密ナ限界ハ皇室典範ガ新タニ定マルノヲ俟タナケレバナリマセヌガ、基本的ナル着想ト致シマシテハ、大体現在ノ構想ヲ標準トスル積リデ居リマス
○三浦委員 是デ質問ヲ打切リマス
○芦田委員長 野坂參三君
○野坂委員 私ノ質問ハ第二条ニモ関連ガアリマスケレドモ、同時ニ憲法全体ニモ関係ガアル根本問題デ、特ニ今御質問シタイト思フノデス、此ノ問題ハ月曜日ニ藤田委員カラ質問サレタ、此ノ質問ニ対シテ金森国務大臣ノ回答、之ニ関連スル問題ナノデス、念ノ為ニ速記録カラ当時ノ問答ヲ読ミマスカラ、之ニ依ツテ本質ヲハツキリシテ、ソレカラ御質問シタイト思ヒマス、先ヅ藤田委員ハ斯ウ云フ風ニ申サレマシタ、「國内ニ於ケル或ル政治團體ガ集會、結社及ビ言論ノ自由ノ名ニ於キマシテ、憲法ノ他ノ章條ニ反スル行動綱領ヲ掲ゲテ運動スル場合ニハ、ソレハ憲法ニ違反スル行爲、詰リ違法ノ行爲ニナルカ」ト云フコトヲ質問シタ、更ニ続ケテ「モツト具體的ニ申上ゲマスナラバ、例ヘバ此ノ憲法實施後ニ於キマシテ、此ノ憲法ニ規定スル天皇制ヲ排除スルヤウナ行動ヲ執ル團體ニ對シマシテハソレガ憲法ニ違反スル、其ノ違反ハ第十一條、第十二條ノ公共ノ福祉ニ反スルモノカ否カ、ドノヤウニ御考ヘカ」是ガ第一点
ソレカラモウ一ツ次ニ斯ウ云フ質問ガ又出テ居マス、「モウ一ツ具體的ナ例ヲ申上ゲマスナラバ、第九條第二項デ、「陸、海、空軍其の他ノ戰力は、これを保持してはならない。」トアルノデアリマスガ、例ヘバ此ノ憲法實施後ニ、戰力ノ保持ヲ目的トスル團體ガ、言論、集會、結社ノ自由ノ名ニ於テ、左樣ナ綱領ヲ掲ゲテ行動スル場合ニハ、ソレハ公共ノ福祉ニ反スルモノト認定サレルカ否カ、其ノ點ニ付テノ御所見ヲ承リタカツタノデアリマス」是ガ藤田委員ノ質問デ之ニ対シテ金森国務相ハ非常ニ簡単ニ斯ウ云フ風ニ答ヘラレタ、「固ヨリ公共ノ福祉ニ反スルモノト考ヘマス」此ノ問題ニ付テ先ヅ第一ニ御回答願ヒタイガ、同時ニ更ニ藤田委員ハ此ノヤウナ問題ニ付テ「具體的ニハドノヤウナ措置ヲ御執リニナルノカ」ト云フ質問ヲ出シテ居ル、之ニ付テ金森国務相ハ斯ウ云フ風ニ答ヘラレテ居リマス「憲法ノ色々ノ基本的人權ハ、憲法ノ上ニハ抽象的ニ掲ゲテアリマスケレドモ、現實ノ制度トシテハ法律及ビ法律ヲ基本トスル他ノ國法ニ依リマシテ、必要ナル程度ニ具體的ナ規定ガ出來ルト思ヒマス其ノ具體的ナ規定ニ依ツテ必要ナル行政措置ガ行ハレテ行クモノト思ヒマス」斯ウ云フ風ニ答ヘラレテ居リマス、之ニ対シテ藤田委員ハ「只今ノ御説明デ、一應左樣ナ運動ハ公共ノ福祉ニ反スルト政府ハ認定サレル、斯樣ニ解釋致シマス」斯ウ云フ様ニアリマス、此ノ二ツノ点ニ於テ、一ツハ例ヘバ天皇制ヲ廃止スルト云フ風ナ綱領ヲ掲ゲタ団体ハ違法デアルカドウカト云フコトデアリマス、第二ニハ違法デアルトスレバドウ云フ風ナ処置ヲ執ルカト言ツタラ、金森サンノ方デハ特殊ナ別個ノ法律デ以テ之ヲ取締ル、或ハ行政措置ヲ以テ取締ル、斯ウ云フ風ニ御答ヘニナツテ居ル、此ノ通リデアリマスルカドウカ、此ノ点ココデハツキリト御答ヘヲ戴キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 藤田君ノ御質問ニ対シマシテ、今仰セニナツタヤウナ御答ヘヲシタコトハ確カデアリマス、今ニナツテ其ノ速記ヲ能ク読ンデ見マスルト、藤田君ノ御発言ノ趣旨ノ中ニモ幾分二様ニ取レルヤウナ意味ガアリマシタ、ソレヲ受ケテ私ガ固ヨリ公共ノ福祉ニ反スルモノト考ヘマスト言ツタコトハ、結局質問ノ趣旨ガ明瞭トハツキリ断言シ得ナイノデ、其ノ内容ヲ確定セズシテ結論ヲ出シタノデアリマス、一言ニシテ言ヘバ要領ヲ得ナイ答ヘデアツタト私ハ考ヘマシタ趣旨ハ、度々申シテ居リマスヤウニ、今度ノ憲法ニ於キマシテハ、言論、著作、集会ト云フガ如キ自由ハ、言葉ノ示スガ如ク自由デアツテ、言論ニ対シテ之ニ対シテ之ニ対抗スベキモノハ他ノ言論デアル、集会運動ニ対シテ対抗スベキモノハ又主トシテ集会運動デアル、ソレヲ以テ他ノ権力ニ依ルモノト対抗セシムル、即チ取締ト云フヤウナコトノ客体ニスルト云フ趣旨デハ出来テ居ナインダト云フコトヲ、私ハハツキリ信ズルノミナラズ、其ノ趣旨ヲ以テ御説明ヲ一応終ツタ訳デアリマス、随テ藤田君ノ御尋ネニナリマシタ此ノ言葉ヲ拾ツテ行キマシテモ、私ノ伺ヒマシタノハモツト具体的ニ申上ゲマスナラバ、例ヘバ此ノ憲法実施後ニ於キマシテ、此ノ憲法ニ規定スル天皇制ヲ廃スルヤウナ行動ヲ執ル団体ニ対シテハソレガ憲法ニ違反スルカト云フヤウナ、随テ又公共ノ福祉ニ違反スルカト云フ御尋ネデアツタノデアリマス、問題ハ此ノ憲法ニ規定スル天皇制ヲ廃止スルヤウナ行動ヲ執ル団体ト云フ其ノ言葉ノ解釈ニナル訳デアリマス、之ヲ一ツノ意味ニ取リマシテ、此ノ憲法ニ規定スル天皇制ヲ排除スルト云フ論旨ヲ言葉ノ上ニ実現シ、又ソレヲ集会等ノ方法ニ依ツテ其ノ論旨ヲ明カニ表明スル、斯ウ云フヤウナモノデアリマスレバ固ヨリ此ノ言論ノ範囲ノ中ニアルモノデアリマスガ故ニ、ソレガ憲法ニ依ツテ与ヘラレタル権利ノ濫用ニナル次第デハナイト思フノデアリマス、併シナガラ此ノ言葉ヲ読ミマシテ天皇制ヲ排除スルヤウナ行動ヲ取ルト云フ言葉ヲ文字通リニ取リマスレバ、直接ニ憲法ニ於テ存在シテ居ル天皇制ヲ実質力ヲ以テ消滅セシムルト云フコトニナリマス、斯ク相成リマスレバ、ソレハ言論等ノ範囲ヲ超脱シテ、一種ノ現実ノ憲法制度ノ破壊行為トナルト思ヒマス、随テ第十一条ノ埒外ニ亙ルモノデアリマス、此ノ憲法ニ依ツテ許サレテ居ル基本権ノ範囲ノ外ニナルモノト思フノデアリマス、ソレ等ノ言葉ノ意味ヲ本当ハハツキリモツト具体化サセテ御答ヘスレバ、今日ノ如キ疑惑ハ起サルル機会ハナカツタト思フノデアリマス
ソコデ左様ナ事情デアリマスガ故ニ、私ハ今日別ノ言葉ヲ以チマシテ、其ノ点ヲ明カニシタイト考ヘテ居リマス、言論集会結社ノ自由ハ、其ノ標榜スル内容ガ憲法ニ依ツテ認メラレテ居ル制度ヲ批判シ、又ソレヲ変更シヨウト云フ内容デアリマシテモ、批判変更ト云フコトハ、憲法制度其ノモノヲ破壊スルコトニハナリマセヌ、随テ此ノ憲法ニ於テ自由ノ埒外ニ飛ビ出スト云フコトハナイト思ヒマス併シ批判トカ或ハ其ノ変更ノ方針ヲ表明スルトカ云フ域ヲ越エテ、此ノ憲法ニ依ツテ認メラレテ居ル制度ヲ現実ニ破壊スル行動、詰リ物的又ハ法的ニ直チニ破壊ノ効果ヲ生ズル行動ヲ取ルト云フ場合ニ於キマシテハ、多クノ場合ニハ、ソレハ権利ノ濫用トナリ、取扱ノ客体トナルモノト考ヘルノデアリマス
次ニ行政措置ハドウ云フコトヲスルノカト云フ御話デアリマシタガ、是ハ前ニモ申シマシタヤウニサウ云フ当然ノ権利ヲ濫用シテ、此ノ憲法ノ許サザル範囲ニ亙リマシタ時ニ、如何ナル措置ヲ講ズルカト云フコトハ、其ノ時々ニ現存スル法律其ノ他法律ニ基ヲ持ツテ居ル所ノ法則ニ依リ適当ニ措置セラレマシテ、概括的ニハ今カラハ言ヘナイ、斯ウ云フ訳デアリマス
一言ニシテ言ヘバ、従来言論トカ集会トカ云フモノヲ取締リマス時ニ、言論、集会其ノモノヲ取締ルト云フ傾向ガアルト思ヒマス、本当カラ言ヘバ言論集会ダケデ国家ノ法律制度又ハ事実ノ制度ト云フモノハ毀レル訳デハナイノデアル、ソレハ全然別個ノ世界デアルノニモ拘ラズ、其ノ言論ノ影響ガ法的秩序ニ密接ナ連繋ヲ持ツト云フコトヲ懸念シテ、言論等ヲ取締ツタト云フノガ過去ノ秩序ノ一部ノ実情デアラウト思ヒマス、此ノ憲法ハサウ云フコトヲ定メルヤウナ法律ヲ作成スルコトヲ禁止シテ居リマシテ、容易ニ斯様ナ法律ガ生レル余地ハナイト思ヒマス、若シ万々一、左様ナ法律デモ出来タト致シマスナラバ、最モ公平ナル政府――一時限リ働キヲスル傾キノアル政府ハ別トシテ、永イ生命ヲ持ツ裁判所デ仔細ニ点検シテ其ノ法律ノ当否ヲ論議シ、場合ニ依ツテハ無効宣言ヲスルコトニナリマス、サウ云フ風ニ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス
○野坂委員 此ノ問題ハ、此ノ間新聞ニ断片的ニ載ツタ為ニ、今相当方々デ是ガ問題ニナツテ居マス私ノ党デナシニ社会党ノ中デモ、或ハ外ノ色々ノ労働団体ノ中デモ是ハ結局前ノ治安維持法ノ復活デハナイカト云フ風ナ疑惑ヲ今起シテ居リマス、ソレデ私ハ今日此処デ質問シタ訳デス、ソレデモウ一度ハツキリト御答ヘ願ヒタイノハ例ヘバ天皇制廃止ト云フ風ナ綱領ヲ掲ゲル団体ガアツタトスル、此ノ団体ノ存在ハ違法デアルカドウカ、此ノ点モウ一度御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 私ハ此ノ憲法ノ建前ニ於キマシテハ、ソレダケデハ違法ニナラナイト思ヒマス
○野坂委員 サウスルト今ノ国務相ノ御言葉ノ中ニ、斯ウ云フコトヲ宣伝シタリ、或ハ批評シタリスルノハ違法デハナイガ、併シ之ヲ廃止スル為ノ実質的力ヲ用ヒル、斯ウシタ場合ニハ違法ニナル、斯ウ云フ意味ノコトヲ言ハレタト思ヒマスガ、此ノ実質的力ト云フモノヲモウ少シ具体的ニ言ツテ戴キタイ、例ヘバ暴力トモ考ヘラレマス、或ハ何カ外ノ行動、或ハ内乱ト云フコトモ考ヘラレルカモ知レヌ、併シ暴力トカ内乱トカニナレバ、是ハ既ニ刑法其ノ他ニ於テ一定ノ規定ガアルト思フノデス、之ニ対シテ特別ナ新シイ法律ヲ作ル必要ハ毛頭ナイト考ヘマス、此ノ点ニ付テ‥‥
○金森国務大臣 憲法ヲ考ヘマス時ニハ、現実ノ実施ノ法律及ビ其ノ中味ガドウ云フ風ニ生レテ来ルカト云フ所マデハ実ハ考ヘテ居リマセヌ、私ノ説明ハ憲法ノ与フル内容ヲ御答ヘシテ居ル程度デアル積リデアリマス、デアリマスカラ具体的ナ例ヲ何処マデ的確ニ挙ゲテ申上ゲテ宜イカ迷フノデアリマスルガ、今御示シニナリマシタ天皇制ヲ否認スル行動ト云フヤウナ場合ニナリマシテハ、暴動其ノ他ノ実質力、現実ニ物的ニ変化ヲ惹キ起スヤウナ力ヲ用ヒル場合ハ、極メテ明瞭ナ此ノ憲法自体ヲ壊滅セシムル行動デアル、サウ云フ風ニ考ヘマス、併シ現実ナ物的ナ力ヲ用ヒナクテモ、他ニ方法ガ絶無デアルト云フコトハ断言出来ナイ例ヘバ現実ニ暴動ヲ教唆スルト云フヤウナ言論ヲ致シマシタ場合ニハ、ソレガ責任ヲ問ハルル客体ニナルコトハアリ得ルト考ヘテ居リマス
○野坂委員 是ハ実際ニナツテ来ルト重要ニナツテ来マスガ、若シサウ云フ風ナ暴動トカ、暴動ノ教唆ト云フコトニナルト、特別ノ新シイ法律ヲ作ル必要ガアルノカドウカ、既存ノ刑法其ノ他デ十分デナイカドウカト云フ点ナノデスガ‥‥
○金森国務大臣 私ノ説明ハソコマデハ入ツテ居リマセヌ、現実ノ制度ガ適当デアルカドウカト云フコトデ、憲法ノ上デハ斯ク解釈スルト云フダケデス、若シ現実ノ制度デアリマスレバ、或ハ其ノ時其ノ時左様ナ事務ヲ担任スル部局ノ責任者ニ御尋ネヲ願ヒタイト考ヘテ居リマス（拍手）
○野坂委員 モウ一ツ、是ハ念ノ為ニ御聴キスルノデスガ、例ヘバ最近モ問題ニナリマシタヤウナ示威運動ト云フモノ、是ガ平和的ナ秩序アル示威運動ヲ、例ヘバ此ノ「スローガン」ノ下ニ行ツタ、斯ウ云フ場合ニハ此ノ示威運動自体ハ違法デアルカドウカ
○金森国務大臣 示威運動ト云フモノノ動ク形ハ色々アラウト思ヒマス、ダカラ単純ナル普通ノ言葉デ言フ示威運動ト云フモノデアリマスルナラバ、此ノ憲法ノ恐ラク公益ニ反スルト認ムル余地ハナイト思ツテ居リマス、併シ事実ノ問題デアリマスルガ故ニ、一概ニ抽象的ニ御答ヘスルコトハ困難デアリマシテ、ソレデ現実ノ裁判ノ問題等ニ任スヨリ外ニ仕様ガナイト考ヘテ居リマス（拍手）
○野坂委員 ソレナラバ私ノ質問ハ是デ終リマスガ、今示威運動ノ問題ガアリマシタケレドモ、私ノ言ツタ示威運動ト云フノハ平和的ナ秩序的ノ示威運動、斯ウ云フ意味デス、之ニ大体金森氏ノ御答ヘハ含マレテ居ルト思ヒマスカラ、是デ止メマス
○芦田委員長 第二条ニ対スル質疑ハ是デ終ルノデアリマスガ、此ノ際委員長トシテ政府ニ注意ヲ促シテ置キタイト思フ点ガアリマス第二条ニハ、国会ノ議決シタ皇室典範ノ定メル所ニヨリ皇位ガ継承サレルトナツテ居ルノデアリマスガ、皇室典範ノ大綱ヲ委員会ニ於テ承知スルノデナケレバ、此ノ条項ノ徹底シタ審査ヲ進メルコトハ困難ナ事情ガアルカト思ヒマス、是ト同ジ問題ハ参議院制度ニ於テモ起ルノデアリマシテ、参議院ノ構成其ノ他ニ関スル要綱ヲ承知スルニアラザレバ、参議院制度ノ可否ニ対スル決定ヲスルコトガ極メテ困難デアルト思ヒマス、就キマシテハ皇室典範ノ公布、改訂何レモ勅命ニ依ルノデアリマシテ、衆議院ノ権限ヲ以テハ如何様ニモナシ得ナイ関係ガアリマス、諸般ノ関係ヲ考慮サレテ、本委員会ニ於テ各条審議ノ終ル以前ニ少クモ皇室典範並ニ参議院ノ要綱ヲ、此ノ委員会ニ御提出アランコトヲ希望致シテ置キマス（拍手）
○金森国務大臣 今ノ御註文ハ洵ニ御尤モナ点デアリマスケレドモ、実ハ非常ニ難中ノ難事デアリマシテ、御断リスル考ヘハ毛頭持ツテ居リマセヌガ、今政府ノ置カレテ居リマスル立場ガ御趣旨ニ副ヒ難キ事情ガアリマスカラ、洵ニ恐縮デアリマスルガ、之ニ関シマスル腹案ノ腹案トモ言フベキ極クマダ未熟ノモノヲ出スコトニ依ツテ御諒承ヲ願ヒタイト存ジマス
○芦田委員長 只今ノ金森国務大臣ノ御説明ハ諒ト致シマスガ、本日ノ委員会ニ於テ金森国務大臣ノ答弁ノ中ニ皇室典範ニ付テハ略々現在ノ制度ヲ其ノ侭継承スル意向デアルカノ如キ答弁ヲナサレタノデアリマス、若シサウデアルトスルナラバ、将来日本ノ皇位ガ女系ニ伝ハルガ如キコトハ絶対ニナイト云フ意味ニ諒解スル外ハナイノデアリマシテ、是等ノ点ニ付テ相当重要ナ影響ガアル問題デアリマスルカラ、委員長トシテハ、一応皇室典範ノ内容ニ付テ、大綱ヲ御示シヲ願ヒタイト云フコトヲ申上ゲタ次等デアリマス、御含ミノ上デ然ルベク御取計ラヒアルコトヲ希望致シマス、次ニ第三条ヲ議題ニ供シマス――井伊誠一君
○井伊委員 私ハ内閣ノ助言ト承認ニ関シマシテ、二、三御伺ヒヲシタイト思フノデアリマス、此ノ助言モ承認モ、是ハ内閣トシテノ意思表示デアリマス以上ハ、是ガ決定ノ方法ガ定メラレナケレバナラヌト思フノデアリマス、然ルニ此ノ憲法草案ニ於キマシテ、凡ソ内閣ノ意思ヲ決定スル方法ノ規定ガナイヤウデアリマス、又現行内閣官制ニモ其ノコトハ規定シテナイヤウデゴザイマス、私ハ先ヅ現在ノ内閣ノ意思決定ノ方法ハドウ云フ風ニセラレテアルカト云フコトニ付テ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 現在ニ於キマシテハ、御承知ノ如ク憲法ノ第五十五条ニ於キマシテ、国務各大臣ガ輔弼スルト云フコトニナツテ居リマス、随テ一人一人ガ輔弼スルト云フ憲法上ノ形ニナツテ居ル訳デアリマス、随テ又ドウ云フ風ニ国務各大臣ノ意思ヲ纏メルカト云フコトハ、憲法ノ目カラ見レバ価値ガナイ、一人一人ノ意見ヲ申シ上ゲル建前デアリマスカラ、ソレハ価値ハアリマセヌ、併シ事実ドウデアルカト云フト、ソレハ事ニ依ツテ違フノデアリマシテ、一人一人ノ国務大臣ガ輔弼セラレテ然ルベキ場合モ固ヨリアリマスルケレドモ、例ヘバ法律トカ予算トカ其ノ他内閣官制ノ予想シテ居リマスル重要事項ニ付キマシテハ、固ヨリ一人ノ不賛成者ナシトスル閣議決定ヲ以テ輔弼ノ実体ガ決マルト云フコトニナツテ居リマス
○井伊委員 内閣ハ行政権ノアル所デアリマシテ、此ノ憲法草案ニ依リマスレバ、是ガ行使ニ付テハ国会ニ対シテ連帯ノ責任ヲ負フ、又此ノ第三条ニ依リマスレバ、天皇ガ総テ国務ニ関スル行為ヲナサル場合ニハ、内閣ノ助言ト承認トヲ条件トシテ居ル訳デアリマス、内閣ノ責任制ヲ此ノ第六十二条ノ第二項ガ樹立シテ居ル、又本条ニ依リマシテ、天皇ノ無答責ガ法文トシテ規定サレテ居ル、サウシテ是ハ殆ド本憲法改正案全体ニ対スル中心的ナ条文デアルト私ハ信ズルノデアリマス、随ヒマシテ内閣ノ本草案ニ於ケル地位ト云フモノハ頗ル高イ、内閣ノ責任モ亦頗ル重大デアルト私ハ考ヘマス、然ルニ此ノ草案ノ方ニ内閣ノ意思決定ノ方法ヲ定メテハ居リマセヌ、現在行ハレテ居リマスルモノハ、只今ノ御説明ニ依リマシテ、各国務大臣ガ責任ヲ負フト云フ建前ニ於テソレハ内閣ノ意思決定ト云フモノハ意味ハナイト理解致シマシタガ、此ノ憲法ガ実施セラレル場合ニ至リマスレバ、サウデナクナル訳デアリマスカラ、此ノ草案中ニ内閣ノ意思決定ノ規定ヲシテ置クト云フコトガ当ヲ得テ居ルモノデハナイカ、斯ウ云フコトヲ考ヘルノデアリマス、国会ノ意思決定ノ方法モ明確ニ出来テ居リマス、政治ノ責任ヲ持ツ所ノ政府ノ意思決定ヲスル条項が何処カニ入ツタ方ガ宜クハナイカト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、尚ホ御考ヘトシテハ、内閣法ト云フモノヲ御作リニナルト云フヤウナコトヲ承ツタヤウニ思フノデアリマスガ、或ハ其ノ中ニ之ヲ規定シヨウト云フヤウナ御考ヘデアルカモ知レヌトモ思フノデアリマスガ、私ハ是ハサウ云フ内閣法ナドト云フモノニ規定スベキモノデハナクテ、憲法ノ上ニ規定シテ置クベキモノデハナイカ、斯様ニ考ヘル訳デアリマス、ソレハ閣僚ノ数等ガ必ズシモ多数決デ決メラレルヤウナ寄数デアルトハ限リマセヌシ、又先申上ゲルヤウナ責任ノ重大性カラ考ヘマシテ、更ニ考ヘル訳デアリマスガ、之ニ付テノ国務大臣ノ御意見ヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 御尋ネノ点ハ第五章ノ第六十二条ニ内閣ノ組織ノ根本規定ガ定メテアリマシテ、内閣総理大臣ト其ノ他ノ国務大臣ヲ以テ之を組織スルト云フコトガハツキリシテ居リマス、随テ内閣ノ意思ハ総理大臣ト国務大臣トガ組織スル内閣ト云フ集団ノ意思ト云フコトニナリマスルガ故ニ、根本方針ダケハソレデハツキリシテ居ルト思フ訳デアリマス、一人一人ノ意思デハナイ、是等ノ人ガ集マツテ内閣ノ意思ヲ拵ヘルノデアルト云フヤウニハツキリアルト思ヒマス、併シナガラ個々ノ場合ニ於キマシテハ、其ノ中ノ或ル一人ガ病気デアツテ自ラ意思ノ決定ノ出来ナイヤウナ場合モアリマセウシ、其ノ他細目ニ付キマシテハ、細カニ考ヘナケレバナラヌ点モアリマス、ソレラノ詳細ナ点ハ内閣法ノ中ニ明白ニ規定スル積リデアリマス、原則ノコトハ第六十二条ニ依ツテ明カニナツテ居ルト考ヘテ居リマス
○井伊委員 私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 山崎岩男君
○山崎（岩）委員 現行憲法ノ第五十五条ニハ「國務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」トアリマス、草案ハ「内閣の助言と承認」ト云フコトニナツテ居リマスガ、此ノ輔弼ト助言、承認ト云フコトヲドウシテ区別ナサツタノデアリマスカ
○金森国務大臣 輔弼ト云フ言葉ト助言ト承認ト云フ言葉トノ間ニハ恐ラクハ実質上ニ非常ナ変化ハナイモノカト思ツテ居リマス、併シナガラ輔弼ト云フ言葉ノ持ツテ居リマスル文字的ナル意味ハ、頗ルハツキリシナイノデアリマシテ、輔モタスケルト云フコトデアリ、弼モタスケルト云フコトデアリマシテ、之ヲ支那ノ基本ノ文字マデ分解シテ考ヘテ見マスルト、タスケル、タスケルト云フコトデアリマシテ、本当ニ民主政治ノ実際ノ政治ノ動キ方ヲ的確ニ表ハスニハ不適当デアル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、ノミナラズ其ノ文字ハ頗ル難カシイ、ソレデ此ノ両点ヲ考ヘマシテ、之ヲ分リ易キ的確ナル文字ニ直シマシテ助言、承認ト云フコトニ致シタ訳デアリマス
○山崎（岩）委員 助言ト云フコトハ承認ノ前提ニナルト思フノデアリマスガ、ソレヲココニ二ツニシマシタコトハ何カ理由ガアツテデゴザイマセウカ、御尋ネヲ致シマス
○金森国務大臣 助言ガ承認ノ前提ニナルカドウカハ実ハ私ニハ分リマセヌ、ハツキリ言ヘマスコトハ、助言ト云フノハ内閣ノ側デ或ル意見ヲ立テ、申上ガルト云フコトデアリマス、承認ト申シマスルノハ、内閣側ガ受身ノ姿ヲ持ツト云フコトデアリス、詰リ初メノハ進ンデ積極的ニ内閣ガ働ク、承認ハ受身ノ姿デ働クト云フコトデアリマシテ、ココニ一方ガ先ノ前提条件ニナルトカ云フコトガ果シテアリ得マスカドウカ、今急ニハ判断ガ付キ得マセヌ
○山崎（岩）委員 憲法学上君主ノ地位ハ元首的直接機関デ且ツ独裁機関デアルト云フ風ニ私共学ンデ承知シテ居ル、此ノ草案ヲ見マスト、ドウシテモ内閣ノ方ニ歩ガアルノデアリマス、随ヒマシテ私ハ天皇ノ地位ト云フモノハ此ノ草案第三条ニ依ツテ独裁機関タル地位ガ稍々犯サレテ居ルノデハナイカト考ヘルノデアリマスガ、其ノ点ニ付テ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 天皇ノ実際ノ御働キガ国務大臣ノ職権ニ依ツテ幾分ノ制約ヲ受クルモノデアルト云フコトハ政治的ニ見マスレバ現在ノ秩序ニ於テ既ニ然ルモノト思フノデアリマス、輔弼ト云フ文字ニ弱点ガアツタノハソコニ関係ヲシテ居ツタノデス輔弼ト云フノハ助ケルト云フ言葉ダケデ之ヲ平タク考ヘマスナラバ、意見ヲ申上ゲテ若シモ御採用ニナラナケレバソレマデ各大臣ハ晏如トシテ居ツテモ或ハ宜イト云フヤウニ読ミ得ルノデアリマス、併シ発達シテ居リマスル憲法学説、一般ニ認メラレテ居ル憲法上ノ原理ノ説明ト致シマシテハ、決シテ申上ゲルダケヲ申上ゲテソレデ足レリト云フデハナクテ、飽クマデモ自己ノ意思ヲ申上ゲテ御採用ヲ願フノガ、此ノ輔弼ノ意味デアルト云フ風ニ、一般ニ説明サレテ居リマス、又是レアツテコソ所謂立憲政治ガ十分ノ目的ヲ達シ得ルモノト考ヘテ居ルノデアリマス、若シ其ノ意味ニ理解致シマスナラバ、今回ノ此ノ助言ト承認ト云フ比較的的確ナル言葉ニ致シマシテモ、内容ニ於テ特ニ変ル所ハナイト政治的ニハ結論シ得ルモノト考ヘテ居リマス
○山崎（岩）委員 現行憲法第五十ノ条ニハ「凡テ法律勅令其ノ他國務ニ關スル詔勅ハ國務大臣ノ副署ヲ要ス」トアリマスガ、草案第三条ニ依ル国務大臣ノ責任ハ、現行憲法ト同様ニ副署ヲ以テ之ヲ表示スルモノト御考ヘデアリマセウカドウカヲ御尋ネシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 副署ト云フモノノ性質ガ如何ナルモノデアルカ、又副署ト云フ制度ヲ憲法ニ設ケマスコトハ幾何ノ価値ガアルカト云フ点ニ付キマシテハ、相当論議ノ余地ノアル問題ト思フノデアリマス、私共ノ考ヘマス所デハ、現行制度ニ於キマシテモ、輔弼ハ輔弼副署ハ副署デアル、輔弼ト副署トハ自ラ目的ヲ異ニスルモノト思フノデアリマス、ソレノ一番的確ナル事例ハ陛下ノ御出シニナリマシタ公ノ御意思ガ何時モ文書ニ依ツテ居ルト云フコトハ断言シ切レマセヌ、御言葉ヲ以テ出ル場合ガ考ヘラレ得ルノデアリマス、御言葉ニ対シテドウシテ、副署ト云フコトガ出来ルカ、是ハ出来マセヌ、又此ノ帝国議会ノ開院式ノ場合ニ御勅語ヲ賜ハリマシタ、是ハ拝見シテ居ル所、文書ニ現ハレテ居ルヤウデアリマス、併シナガラ是トテモ御言葉ヲ唯文字ニ書表ハシタト云フ趣旨デアリマス、故ニ本来ハ御言葉デアリマス、随テ之ニハ副署ハナイ訳デス斯様ニ考ヘテ来マスト、輔弼ト副署ト云フモノガ絶対不可分ノ関係ニアル、副署スルコトニ依ツテ輔弼スルト云フコトハ十分ナル考ヘ方デハナイノデアリマス、今回ノ憲法ニ於キマシテハ助言ト承認ト云フ実質的ノ方ヲ強ク書クノデアリマス、而シテ其ノ助言ト承認ガアツテ、御名ヲ用ヒル公文書ガ出来マシタ時、之ニハ内閣諸員ハ如何ナル関係ヲ持ツカト云フコトニナリマスト、此ノ憲法ニモ、法律ノ場合ニハ国務大臣ガ名ヲ書ク場合モ掲ゲテアリマスガ、現実的ニハココニ書イテアリマセヌ、ソレ等ノ公文ノ形式ニ付キマシテハ、別ニ公式法トデモ云フベキ法律ヲ出シマシテ其ノ中デ如何ナル場合ニハ誰ガ副署ヲスルカ、如何ナル場合ニハドウ云フ公文ノ形式ガ用ヒラレルカト云フコトヲ明カニスル考ヘデアリマス
○山崎（岩）委員 分リマシタ、是デ終リマス
○芦田委員長 次ニ第四条ヲ議題ニ供シマス――小島徹三君
○小島委員 第四条ニ付キマシテハ従来本委員会ニ於キマシテ二、三ノ方カラ質疑ガアリマシテ、其ノ結果、第四条ニ盛ラレタ政府ノ御意向ト云フモノハ、私ニハ大体了解ガ出来タノデアリマスケレドモ、此ノ第四条解釈如何ト云フコトハ将来ニ於テ非常ニ大キナ問題ニナルト思ヒマスシ、又私共委員ニ取リマシテモ、此ノ条文ヲ修正スルカシナイカト云フコトヲ決定スル上ニ於テモ、非常ニ重大ダト思ヒマスカラ、モウ一度念ヲ押シテ政府ノ御意思ヲ聴キタイト思ヒマス
私ハ天皇ハ日本国ノ象徴デアリ又日本国民ノ統合ノ象徴デアルト云フ此ノ考ヘ方ハ、従来ノ天皇ヲ考ヘル思想カラハ数等進歩シタモノデアルト思ツテ、之ニ賛意ヲ表スルモノデゴザイマス、併シ天皇ガ国民統合ノ象徴デアルト云フ此ノ点ニ対シマシテ、法律的或ハ政治的ノ効果ヲ持タセルト云フヤウナ考ヘ方ハ、私ハ賛成シナイノデアリマス、此ノヤウニ寧ロ倫理的心理的ナ考ヘ方ニ基イテ出来テ居リマス所ノ象徴ト云フ言葉ニ、或ル特殊ナ法律的、或ハ政治的ノ効果ヲ与ヘルト云フコトハ、大体其ノ思想ノ根本ニヤハリ従来ノ主権神授説ニ基ク天皇不可侵ノ考ヘ方ト云フモノガ、何カ残ツテ居ルノデハナイカト云フコトモアリマスシ、又将来天皇ノ地位ト云フモノヲ非常ニ神憑リ的ナモノ、或ハ神秘的ナモノトシテ、我々ガ曽テ苦シンダヤウナ苦シイ目ニ遭ハナケレバナラヌヤウナ状態ガ出来テ来ルノデハナイカト云フコトモ考ヘルノデアリマス、デアリマスカラ私ハ此ノ天皇ノ象徴タル地位ト云フモノニ将来傷ガ付クコトガナイヤウニト云フ御考ヘデアルナラバ寧ロハツキリ天皇ハ政治上無答責デアルトカ、或ハ刑事上責任ガナイト云フコトヲ成文ヲ以テ決メル方ガ正シイノデハナイカト考ヘルノデアリマス、其ノヤウナ考ヘヲ以テ私ハ第四条ヲ見タノデアリマスガ、先ヅ其ノ前ニ国務大臣ニ御聴キシタイノハ、前回国務大臣ハ天皇ノ政治上ノ無答責ニ付キマシテ、其ノ理論的根拠ト云フモノハ天皇ノ象徴タル地位ニアル、サウシテ第四条ノ「政治に關する權能を有しない。」ト云フノハ、之ヲ裏付ケルモノデアルト云フヤウナ御答弁ニナツタト思ヒマスガ、此ノ私ノ了解ニハ間違ヒアリマセヌデセウカ
○金森国務大臣 第四条ヲ以チマシテ天皇ガ政治上無答責デアルト言ツタ覚エハゴザイマセヌ、唯第四条ヲ引用致シマシタノハ、恐ラク天皇無答責ト云フコトガ支障ナク参ル実質上ノ理由ニ四条ガ影響シテ居ル、其ノ意味デ本会議デドナタノ御質問デアリマシタカ、天皇ヲ無答責トシテモ実際政治ニ関与セラレレバ無答責ト云フコトガ結局偽リニナルノデハナイカ、ダカラ法律的ノ考ヘデナク、実質的ニ天皇ガ無答責デアルベキ根拠ガアリサウナモノダ、斯ウ云フ御質問ニ対シマシテハ、結局四条及ビ七条等ニ於キマシテ、天皇ハ先ヅ責任ノ基礎ニナリ易イ幾多ノ行為ニ御携ハリニナラナイ、政治ニ干与セラレナイ、随テ実質的ニ責任ヲ負ハルル可能性ガナイ、ソコニ例挙セラレタ若干ノ項目ノミニ限定セラレル、而モ其ノ項目ヲ一ツ一ツ拾ツテ行ケバ儀式ニ近イ、或ハ他人ガ責任ヲ以テ行ツタコトヲ事実的ニ認証セラルルト云フ風デアルカラ、論理的ニ言ヘバ天皇ガ実際上ノ責任ノ批判ヲ御受ケニナル場合ハアリ得ルケレドモ、政治的ニ見レバ天皇ノ責任ヲ実質上論議セラルルヤウナコトハ起ラナイ斯ウ御答弁申上ゲタノデアリマス天皇ガ法律上ノ解釈ニ於テ無答責デアルト云フコトノ根拠ヲ、四条ニ求メタ訳デハアリマセヌ
○小島委員 其ノ際国務大臣ハ天皇ノ象徴タル地位ニ基イテ、政治的責任ト云フモノヲ発生シナイノデ、第四条ハ其ノ裏付ケデアルト云フヤウナコトヲ仰シヤツタカト思ヒマスガ、サウデハナカツタノデセウカ、象徴タル地位トハ何等関係ナイノデセウカ
○金森国務大臣 是等ノ規定ガ全部関係ヲ持ツテ居リマスカラシテ何等ノ関係ガナイト云フコトハ申上ゲラレマセヌ、今ドウ云フ形デ其ノ時ニ私ガ御返事ヲ申上ゲタカト云フコトハ、的確ナ当時ノ速記デモナイ限リハ、明カナコトハ言ヒ切レマセヌケレドモ、私ノ天皇無答責ト云フコトノ法律上ノ論議ハ、是ハ此ノ憲法ノ中ニ潜ンデ存在シテ居ルノデアル、ソレハ第一条ノ象徴ト云フコトカラ潜ンデ基本的ニ存在シテ居ルノダ、斯ウ云フ風ナコトヲ御答ヘシタト思ヒマス、第四条ハ詰リサウ云フ無答責ナ制度ニシテモ、政治的ニヲカシイコトハナイノダト云フ意味ノ価値ヲ持ツテ居ル、是デ御分リニナツタラウト思ヒマス
○小島委員 ソレデハ其ノ前ニモウ一点御聴キシタイト思ヒマスルガ、是ハ国民ノ権利義務ニ関スルコトデアリマスルガ、天皇ノ政治上ノ責任ト云フコトハ、ドウ云フコトニナルノデアリマスカ
○金森国務大臣 此ノ憲法ノ中ニハ、天皇ガ政治上ノ責任を御負ヒニナルトモ、御負ヒニナラナイトモ書イテハゴザイマセヌ、是等モ亦文字ノ裏ニ入ツテ居ルトデモ申上ゲルノ外ハナイト思フノデス、一体国ノ象徴デアリ、国民統合ノ象徴デアル方ニ向ツテ、刑罰的ノ責任ヲ問フト云フヤウナ原理ガ、果シテ生レテ来ルデアラウカ、此ノ象徴タル――是ハ神秘的ナ考ヘヲ以テスル訳デハアリマセヌガ、本当ニ国其ノモノヲ仰ギ見ルガ如キ尊キ地位デアリマスルガ故ニ、之ニ政治上ノ責任ガ帰属シナイモノデアルト云フ解釈ヲ根拠ニ持チマシテ、サウシテ個々ノ規定ヲ設ケマスル場合ニ、内閣ノ閣僚デスラモ、其ノ政治責任ヲ問フ場合ニハ、内閣総理大臣ノ同意ガ要ルト云フ規定ヲ設ケテ居リマス、サウ云フ種類ノ規定ノナイ天皇ニ付キマシテハ、政治的ナ責任ガナイト云フコトハ、法文ノ裏表ノ解釈カラ見テモ明瞭デアラウ、サウ云フ風ニ説明シタノデアリマス
○小島委員 国務大臣ノ言ハレルコトハ能ク分ル、併シ先程私ガ申シマシタヤウニ、陛下ノ象徴タル地位ト云フモノハ実ニ尊イモノデアツテ、之ヲ傷ヅケル虞ガアルト云フ場合ハ、別ニ成文ヲ以テ之ヲ取締ルノガ宜イノデアツテ、曖昧――曖昧ト言ヘバ極メテ失礼ナコトニナリマスガ、漠然ト法文ノ裏表条文ノ裏表、サウ云フコトデ仰シヤルヨリモ、ハツキリト成文デ決メタ方ガ宜イノデハナイカト思ヒマス、サウ云フ所カラ、此ノ第四条ニ付テ御尋ネシタイト思ヒマス、此ノ点ハ前回森君カラモ御尋ネニナツタト思ヒマスガ、第四条ヲ素直ニ読ンデ見マスト天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ攻治に關する權能を有しない。」トアリマシテ、何ダカ私達ガ読ムト云フト、此ノ憲法ニ定メル国務ト云フノハ、攻治的権能ヲ含マナイ単ナル一ツノ事務的ナ行為デアルト解釈出来ルノデアリマス、尤モ事務的ナ仕事ト申シマスト非常ニ軽イヤウデアリマスケレドモ、一ツノ仕事デモ考ヘヤウニ依ツテハ非常ナ重大ナコトデアリマシテ、例ヘバ改正憲法ヲ公布スルト云フヤウナコトモ、従来ハ唯属官ガ形式的ニ印刷シテ居ツタト云フコトデアリマセウガ、実際ハ陛下ガ御行ヒニナルト云フコトナレバ、非常ニ重要ナル事務ト云フコトニナルノデアリマシテ、強ヒテココニ国務ト云フコトヲ、攻治的責任ヲ帯ビタモノデアルト云フ解釈ヲ取ル必要ハナイノデアツテ、此ノ条文其ノモノヲ見テモ、ヤハリ攻治ニ関スル権能ヲ有シナイト云フコトガ根本デアリマシテ、其ノ前ニアル国務ト云フコトハドウシテモ事務ト云フコトニシカ考ヘラレマセヌガ、サウデハナイノデアリマセウカ、若シ此ノ国務ト云フコトニ付テ、攻治ニ関スル権能ヲ含ンデ居ルト云フコトナラバ、森君ノ言ハレタヤウニ、「その他の政治に關する」ト云フヤウニ「その他」ヲ入レナケレバ、日本文トシテハドウシテモ整ハナイト思ヒマスガ、如何御考ヘデアリマセウカ
○金森国務大臣 第四条ノ第一項ハ極メテ簡単ナル字句デハアリマスガ、其ノ内容ハ相当ノ含蓄ヲ持ツテ居リマシテ、其ノ結果御覧ニナリマスト、何カ繁ガリガ悪イヤウナ条文ノヤウニ見エルカト考ヘマス、此ノ国務ト申シマスコトハ単純ナ事務ノミデアル、斯ウ云フ風ニ見タラドウカト云フ御意見デアリマシテ、成程サウ云フ意味モ当嵌マル場合モアリマス、併シナガラ個々ノ規定ヲ見マスト、必ズシモ単純ノ事務――謂ハバ「ブリーフ、ビジネス」ト云フヤウナモノニ当テ嵌メルコトハ出来ナイト思ツテ居リマス、又ソレガ縦シヤ事務デアリマシテモ、国ノ攻治ノ上ノ事務デアリマスガ故ニ、ヤハリ特殊ナル値打ヲ持ツモノデアルコトハ、疑ヒノ余地ガナイノデアリマス、条約ノ認証ヲスルト云フヤウナコトヲ一ツ一ツ見マシテモ、是ハ条約ガ効力ヲ持ツカ持タナイカト云フコトノ分レ目ニ当ルヤウナ行為デアリマシテ、ソレガ国ノ働キノ上ニ大キナ関係ヲ持ツテ来ルノデアリマス、随テ之ヲ以テ政治以外ノモノデアルトスルコトハ稍々無理ナ解釈デアラウト思フノデアリマス
次ニ「その他」ト云フ言葉ヲ入レタナラバドウカト云フ御話デアリマシタガ、入レテモ特別ニ支障ガアルト云フコトハナイカモ知レマセヌケレドモ、ココニハ又特別ナ含ミガアルノデアリマシテ、其ノ意味ハ天皇ハ実際ノ働キガナイト云フ訳デハナイト云フコトヲ、先ヅ大キナ前提ニ致シマシテ、ソレカラ政治ニ――政治ト申シマシテモ、実際ノ政治運動トカ何トカ云フ狭イ意味ノ政治デハアリマセヌ、国ノ一切ノ政治関係ノ行動ヲ含メタル政治デアリマス、ダカラ人ヲ任命スルトカ、恩赦ヲスルトカ、勲章ヲ授ケルトカ、総テ政治ノ中ニ入ツテ来マス、ダカラ原則トシテ天皇ハ政治ニ関スル行動ハ御行ヒニナルコトガ出来ナイ、併シナガラ政治ニ関係シナイ其ノ他ノコトハ、天皇ガ御行ヒニナルコトヲ妨ゲナイト云フコトガ、先ヅ根本ノ原理トナル訳デアリマス、随テ神ヲ祀ルト云フヤウナ行為ヲ行ハセラレマシテモ、ソレハ政治デハナイカラシテ宜シイ、或ハ学術ノ研究ヲ行ハセラレルト致シマシテモ、ソレハ政治デナイカラ宜シイ、或ハ又更ニ進ンデモツト文化的ナ事務ヲ、政治ヲ離レテ御行ヒニナルヤウナ場面モ考ヘテ考ヘラレナイコトハナイ訳デス、具体的ニ例ヲ挙ゲヨト云フコトハ因難デアリマスケレドモ、サウ云フ方面ニモ考ヘラレルト思ヒマス、サウ云フヤウナ御権能ノコトハ別トシテ、政治ニ関スル限リ行ハセラレナイモノデアル、是ガ第一段ノ原理デアリマス、ナゼサウシタカト言ヘバ、是ハ今マデ御議論ニナリマシタヤウニ、天皇ノ政治責任一般国務責任ニ付テ実質上煩ヒノナイヤウニスル趣旨カラシテ居ルト云フコトハ当然デアリマス、サウ云フ風ニ政治ニ関スル権能ヲ要請シタト云フコトヲハツキリ致シマスレバ、ソレデ先ヅ一般ノ目的ハ達シマス、併シナガラ、天皇ガ政治ニ関スルコトハ何モナサラヌト云フコトデアリマスルナラバ、ソレハ国ノ象徴タル御地位ト甚ダシク食ヒ違フモノト考ヘラレル、国ノ象徴ト云フコトハ、本旨ハ度々申上ゲテ居ル通リデアリマスガ現実ノ姿ニ於キマシテハ、ヤハリ之ニ伴フ所ノ諸般ノ政治行為ヲ必要ナル限度ニ於テ行ハセラレナケレバ、十分趣旨ハ貫カナイト思フノデアリマス、単純ナル名目上ノ地位、結局ソレガ他日無視セラルルヤウナ結果スラモ惧レ得ル次第デアラウト思ヒマス、又象徴タルノ実際ノ御地位ヲ完遂セラレルニモ不適当ニナルト思ヒマス、デアリマスカラシテドウシテモ若干ノ国務ハ行ハセラレナケレバナラヌ而モ是ハ政治ノ一部デアルコトハ云フマデモアリマセヌ、ソコデ其ノ行ハセラレテ然ルベキ国務ヲ、此ノ憲法ノ中ニ挙ゲマシテ、主トシテハ第六条第七条デアリマスケレドモ、是バカリニ限ツテ居ル訳デハゴザイマセヌ、外ノ条文ニ若干ノ規定ガ尚ホ存シテ居リマスガ兎ニ角憲法ニ掲ゲテ居ル是ダケヲ御行ヒニナルノダ、斯ウ云フ風ニ規定ヲ致シマシテ、ヨク申シマスル君主ハ統シテ治セズト云フコトノ原則ヲ先ヅ相当ノ程度マデ守リツツ、而モ有名無実ナル国ノ象徴デハナイト云フコトヲ見出スダケノ規定ヲ設ケタ訳デアリマシテ、此ノ一項ノ規定ハ御読ミ辛イカモ知レマセヌケレドモ、能ク御覧下サレバ意味ガ非常ニアルヤウニ考ヘテ居リマス
○小島委員 国務相ノ言ハレル所ハ能ク分リマスケレドモ、先程モ申上ゲマシタ通リニ、天皇ノ象徴タル地位ト云フモノハ非常ニ尊イモノデアツテ、所謂大権事項ノ一ツヤ二ツガアルカナイカト云フコトニ依ツテ影響サレルヤウナモノデハナイト、私ハ思フノデアリマス、ソンナコトデ影響サレル天皇ノ象徴タル地位ト云フモノデアレバ、非常ニ不安ナモノデアルト思ヒマス、私達ノ考ヘル天皇ノ地位ト云フコトハ、ソンナコトデ影響ヲ受ケルベキ性質ノモノデナイト思フノデアリマス、仮ニ第七条ヲ見マシテモ、果シテ此ノ中ニドウシテモ、所謂大権事項トシテ残サナケレバナラヌト云フ必要ノアルモノハ、殆ド見当ラナイノデゴザイマス、勿論ソレハ第十ノ儀式ヲ行フコトトカ、第七ノ栄典ヲ授与スルト云フコトハ、無論象徴タル地位ニ当然帰着スベキ性質ノモノデアルコトハ考ヘマスケレドモ、第七条ノ例ヘバ第一ノ憲法改正、法律、政令及ビ条約ノ公布ト云フヤウナコトハ、殊ニ憲法改正ナント云フモノハ、九十二条ニ依リマスルト、天皇ハ之ヲ公布スルト云フ義務スラ与ヘラレテ居ルノデアリマス、又国会ヲ召集スルト申シマシテモ、是モ召集スル権利ト申シマスカ、其ノ決定ト云フモノハ内閣ガスルノデアツテ、陛下ガナサルノデナイノデアリマシテ、唯召集スルト云フ一ツノ形式ニナルノデアリマス、勿論形式ト申シマシテモ、決シテ私ハ軽イ意味デ言フノデハナイノデアリマシテ、陛下ガナサルト云フ所ニ非常ニ大キナ意味ガアルノデアリマス、ケレドモ、兎ニ角アレモ一ツノ事務デアルト云フコトニ間違ヒハナイト私ハ考ヘマス
ソレカラ国会議員ノ総選挙ノ執行行為ト云フヤウナコトモ総テサウデアリマス、唯ココデ問題ニナルノハ衆議院ヲ解散スルコトト云フコトデ、衆議院ノ解散ヲ内閣ガ決定スルト云フ条文ガナイノデアリマスカラシテ、此ノ一項目ダケハ従来ノ天皇大権ノ考ヘニ類シタモノデアルト考ヘラレルト思ヒマスケレドモ、之ヲ除ケバ殆ド全部ハ所謂事務ニ過ギナイノデアリマス、又六条ノ総理大臣ノ任命ニシマシテモ、国会ノ指名ニ基イテヤルト云フコトニナルノデアリマシテ、決シテサウ云フ所ノ権能ヲ含ンダ国務ダト云フ解釈ニハ非常ニ無理ガアルノヂヤナイカ、寧ロ私ハ天皇ノ象徴タル地位モ将来護持スルト云フ観点カラシテ、寧ロ斯ウ云フ国務ト云フモノハ、政治的ノ権能ヲ含ンダモノデハナイノダト云フコトニハツキリシテ置イタ方ガ宜イノヂヤナイカト私ハ思ヘルノデアリマス、其ノ点ニ付キマシテノ国務大臣ノ御所見ヲ承リマシテ一応其ノ質問ハ打切リマス、唯第二項ニ「天皇は法律の定めるところにより、その權能を委任することができる。」ト書イテアルノデゴザイマスルガ、此ノ権能ト云フノハ、第一項ニ依リマスト「政治に關する權能」ト云フ字ガ使ツテアリマシテ、陛下ノ事務ハ国務ト云フ言葉ヲ使ツテアルノデアリマス、ナゼ其ノ権能ト云フ所ニ国務ト云フ言葉ヲ使フカ、一言シマスト、陛下ノナサルコトハ事務ヂヤナイノダゾ政治的権能ガアルノダゾト云フコトヲ強ヒテ他人ニ教ヘヨウト言ハヌバカリニ、ワザワザ此ノ権能ト云フ言葉ヲ使ツテアルトシカ私ニハ考ヘラレナイノデアリマス、ナゼ此ノ権能ト云フコトヲ国務ト御考ヘニナラナカツタカ、其ノ点ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 第二項ノ権能ト云フコトハ、陛下ノ御持チニナツテ居ル権能ト云フコトニ外ナラヌノデアリマシテ、前項ノ「政治に關する權能」ト云フ字ガアツテ、其ノ権能ト同ジ字ガ使ハレテ居リマスケレドモ、意味ト致シマシテハ、ソレト不可分的ノ関係ヲ持ツテ居ルノデハナク、普通ノ言葉デ天皇ノ御権能ハ委任ガ出来ルト云フダケデアリマシテ、モノヲ普通ニ書表ハシマス時ニ、是レ以上ニ書表ハシ方ハナイノデハナイカト思フノデアリマス、之ヲ若シモ其ノ国務ヲ委任スルコトガ出来ルト云フヤウナ風ニ致シマスレバ、国務ト云フノハ仕事ノ中味デアリマス、働キデハナイヤウニ思ヒマスダカラサウ云フ風ノ言葉ヲ使ヒマスルコトハ、恐ラク却テ又弱点ヲ伴ツテ来ルモノト思ヒマス、大体其ノ点ハ余リニ深ク此ノ文字ヲ御考ヘ下サリ過ギルカラヂヤナイカト、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○小島委員 最後ニ一点ダケ御聴キ致シマス、此ノ第二項ハ「法律の定めるところにより、その權能を委任することができる。」ト云フコトニナツテ居リマスガ、天皇ニハ摂政ノ規定モ第五条デゴザイマスデスガ、ドウ云フ場合ニ斯ウ云フ必要ガゴザイマスデスカ
○金森国務大臣 世上ノ議論トシテ摂政ガアル限リ四条ノ委任ハ要ラナイ、例ヘバ外国ニ御旅行ニナル場合ニハ摂政ヲ置ケバ宜イ、斯ウ云フ風ノ説ガ現ハレテ居リマスケレドモ、私共ノ目カラ見マスレバ、ソレハ全ク摂政ト云フコトノ本質ヲ誤解スル前提ニ築カレタモノデハナイカト思フノデアリマス此ノ摂政ト申シマスノハ、言葉ニ特別ナル意味ヲ与ヘレバ是ハ別問題デス、ケレドモ日本ノ現在ノ秩序ニ於キマシテ言ウテ居リマスル摂政ハ、謂ハバ法定代理者デアリマス、個人ノ意思ヲ俟タズシテ法ノ当然ノ結果トシテ代理者ガ出来ル場合ニ摂政ト申上ゲル、ダカラ天皇ガ御病気デアツテ、自ラ御意思ヲ御洩ラシニナルコトガ出来ナイト云フ場合ニ、皇室典範ニ定メル所ニ依リ、或ル方ガ代ツテ天皇ノ行為ヲ行ハセラレルト云フコトニナレバ、ソレハ明カニ摂政デアリマス、併シナガラ天皇ガ特別ノ思召ヲ以テ斯ウ云フ権能ヲ誰々ニ委セルト云フ行動ヲ御執リニナルナラバ、ソレハ摂政デハナクシテ謂ハバ委任代理ト云フ風ノ考ヘニ属スルノデアリマシテ、日本ノ古来ノ慣例カラ申上ゲマシテモサウ云フ場合ニハ監国――国ヲ監督スルト書イタ文字デアリマスガ、監国ト云フヤウナ制度ガ設ケラレテ居リマシテ、ドウモ摂政トハ違フノデアリマス、ソコデ此ノ憲法ノ下ニ於キマシテモ、摂政ト云フ言葉ハ今ノヤウナ法定代理ト云フ風ニ限定シテ考ヘテ居リマス、サウナリマスルト、天皇ノ何カノ御都合ニ依リマシテ、或ル権能ヲ委任セシムルコトガ必要ナ場合ガ起ルノデハナカラウカト云ウ懸念ハ、色々ノ場合ニ起ルノデアリマス、今マデノ例カラ申シマシテ、極ク一番アリ触レタコトヲ申上ゲマスルト、栄誉ヲ授与セラルル権能ノ一部分ハ、今マデモ御委任ニナツテ居ルコトガアリマス、例ヘバ低イ程度ノ勲章是ハマア戦争ノ場合ガ多カツタノデアリマスルガ、戦地ニ於テ軍ノ司令官ニ低イ程度ノ勲章ヲ授クルコトヲ御任セニナツタヤウナ場合ガアルノデアリマス、其ノ他ニモ栄誉ニ付キマシテハ、左様ナ場面ガアリマス、ソレカラ尚ホ想像ヲ致シマスレバ、陛下ガ外国又ハ内国ニ於キマシテ政治ノ中心ヲ離レテ、暫ク御旅行ニナルト云フヤウナ場合ニ於キマシテ、一々御親署ヲ得タリナド致シマスル時ニ、甚ダシキ不便ガ起ルノデアリマス、其ノ時ニハドウシテモ陛下ノ御意思ニ基ク代理者、即チ委任代理者ガ居ナケレバナラヌト実ハ考フルノデアリマス、ソコデ佐様ナ規定ヲ設ケサウ云フ場合ニハ権限ヲ委任スルコトガ出来ルト云フノヲ一ツ設ケタイ希望ガ起ツテ来ル訳デアリマス、若シモ之ヲ設ケマセヌト、第四条ノ一項ニ依リマシテ、此ノ憲法ノ定ムル国務ノミヲ行フト云フコトニナリマスカラマア解釈ノ問題デハアリマスルガ、小サナモノデモ委任権ガ書イテナイ限リハ委任モ出来ナイト云フヤウナ解釈ノ起ル余地モアラウト思ヒマス、デスカラ先ヅ其ノ権能ヲ委任スルコトガ出来ル斯ウ云フ風ニ書ク必要ガ起ツテ来マス、所ガ委任ト云フコトハ天皇ノ御職能ニ付テ大事ナ規定デアリマスルガ故ニ、濫リニ之ヲ行ツテハナラヌノデアツテ、ヤハリ法律ノ根拠ガ要ルト云フノデ委任ハ出来ルガ、法律ノ定ムル所ニ従フノダ、斯ウ云フ風ニ書イテ濫用ナク実益ガ得ラレルト云フヤウニ考ヘタノデアリマス
○小島委員 私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 井伊誠一君
○井伊委員 本条第二項ノ方ニ付テ御伺ヒ致シマス、ココニ委任ト云フ言葉ガ使ハレテ居リマスガ、一応法律的内容ノ言葉デゴザイマスカラ、大臣大分御説明ニナリマシタケレドモ、重ネテ御説明願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣 是ハ普通ノ法律学デ言ツテ居ル委任ト同ジ意味ト考ヘテ居リマス、自ラノ持ツテ居ル権能ヲ人ヲシテ行ハシムルト云フ趣旨デアリマス
○井伊委員 其ノ次ニハ此ノ委任ニ当ツテモ内閣ノ助言ト承認ガ必要デアルト思フノデアリマスガ、如何デアリマスカ
○金森国務大臣 全ク御説ノ通リデアリマシテ、一々ソレハ書イテアリマセヌ、ケレドモ第三条ニ書イテアリマスル原則規定ガ総テ及ンデ居ル訳デアリマス
○井伊委員 委任ノコトニ付テハ別ニ法律デ其ノ場合ヲ定メルモノト考ヘテ居ルノデアリマスガ、ドウ云フ場合ニ是ガ行ハレルカ、或ハドウ云フ人ガ其ノ受任ノ資格ヲ得ルカト云フヤウナコトモ規定サレルモノト思フノデアリマスガ、大体是ガハツキリシマセヌト、影響スル所モ多イト思フノデアリマスノデ、一応構想ヲ御伺ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 第四条ノ二項ハ斯ウ云フ規定ハ設ケテアリマシテモ、謂ハバ万一ニ備ヘルト云フ趣旨デゴザイマスカラ、ハツキリ其ノ内容マデ考ヘテ居リマセヌ、大体特ニ外国デモ御出掛ケニナルト云フヤウナ場合ニ、其ノ具体的ナ場合ヲ考ヘテ特別ノ規定ヲ作ルト云フコトガ普通ノ場合ダラウト思ツテ居リマス
○井伊委員 只今ノ場合ガハツキリ致シマセヌカラ、御尋ネシテモ仕様ガナイカモ知レマセヌケレドモ、第五条ノ方ノ摂政ヲ置ク場合其ノ摂政ニナラレル方ノ資格ト云フモノハ自ラ現行ノ皇室典範ト大差ナイモノトシテ御定メニナル、斯ウ思フノデアリマスガ、此ノ委任ヲセラレル所ノ天皇ノ大権ト云フモノモ、実際其ノ摂政ニオナリニナル資格者ニ之ヲ委任ヲスルト云フノガ、此ノ残ツテ居リマスル天皇ノ大権、之ヲ重カラシメル所以デアルト云フ風ニ考ヘルノデアリマスガ、併シ別ニソンナ御考ヘハナイノデアリマスカ
○金森国務大臣 先程少シク例ヲ挙ゲテ申シマシタガ、或ル非常ニ軽徴ナ事柄ヲ委任スルト云フヤウナ場合ニハ、是ハ小サインデスガ――小サイト言フト語弊ガアリマスガ、一般ノ官庁ニ権限ヲ御委任ニナル場合モ想像ガ出来マス、併シ大キイ意味ノ委任、例ヘバ天皇ノ行ハレル是ニアル国務ノ大部分ヲ御委任ニナルト云フヤウナ場合ハ、是ハ摂政ト大体趣ヲ同ジウスルモノデアリマスカラ、摂政ト同ジヤウナ形ニ於テ委任セラルベキ人ガ考ヘラルルノガ普通デアラウト思ヒマス、尚ホ一寸序デヲ以テ先ノ言葉ヲ補足シテ置キマスガ、此ノ摂政ヲ置キマスル場合以外ニ日本デハ尚ホ現行憲法ノ制度ニ於キマシテハ、稍々解釈ニ困ルヤウナ場合ガアル、ソレハ天皇ガ久シキニ亙ル故障ニ因ツテ大政ヲ親ラ行ハセラレ得ザル場合ハ摂政ヲ置クト云フコトハアリマス、所ガ久シキニ亙ラザル故障、例ヘバ暫クノ御病気ニ依ツテ大政ヲ自ラセラレルコトガ出来ルト云フヤウナコトガ、実際今マデダツテアリ得タ訳デアリマス、唯其ノ場合ニ今マデハ適当ナ方法ガナカツタ訳デアリマスガ、若シ此ノ第四条ノ二項ガ、サウ云フ場合ヲ程好ク規定シ得ルナラバ実際ハ現行制度ノ不十分ナ所ヲ補ヒ得ルコトニナルト思ヒマス、摂政以外ニサウ云フ場合ガドノ位アルデアラウカト云フコトヲ今理論的ニ研究中デゴザイマス
○井伊委員 モウ一点、若シ其ノ委任ヲ受ケル資格ガ国務大臣ト云フヤウナ場合モアリ得ルト考ヘルノデアリマスガ、サウナリマシタナラバ、其ノ助言、承認トノ関係ハ差支ヘハ起キマセヌカ
○金森国務大臣 国務大臣ニ委任スルト云フヤウナ場合ハ、実ハ全然予想シテ居リマセヌガ、私ガ先ニ申シマシタノハ極ク低イ何カ栄誉権デゴザイマス、例ヘバ木杯ヲ賜ハルト云フコトガ栄誉ノ表徴デアルトスレバ、低イ意味ノ栄誉権デアル木杯ノ授与ト云フコトハ、地方長官ニ委任サレルト云フコトガアツテモ宜イノデハナカラウカ斯ウ云フコトヲ予想シテ居リマシタカラ、今ノ助言ナドトモ関係ハアリマセヌ
○井伊委員 別ニ是レ以上アリマセヌ
○芦田委員長 小野孝君
○小野（孝）委員 私ハ国務ト政治ノ問題デ御伺ヒ致シタイノデアリマスガ、第四条ニ関スル国務大臣ノ考ヘテ居ラレル内容ハ私ニモ一応納得ガ行クノデアリマスガ、其ノ国務大臣ノ考ヘテ居ラレルコトト、此ノ第四条ニ文字トシテ表現サレテ居ル所トノ間ニハドウモシツクリシナイ所ガアルヤウニ思ハレルノデアリマス、国務大臣ノ説明ハ、天皇ハ原則トシテ政治ニ関スル権能ヲ有サレナイノダ、其ノ例外的ニ政治ノ一部デアル国務ヲ行ハセラレルノダ、斯ウ云フ御説明デアリマシテ、国務ト政治ト云フモノヲ区別サレナイ考ヘノヤウニ思ハレルノアリマス、是ハ中々議論ノアル所カモ知レマセヌガ、私ハココニ国務ト政治ト云フモノヲ書キ分ケタ所ニヤハリ一ツノ意味ガアルノデハナイカ、斯ウ思フノデゴザイマス、此ノ事ハ此ノ条文ヲ翻訳シマシタ英文ヲ見マスト、尚ホハツキリシテ来ルノデアリマシテ、国務ノ方ハ「ステーツ・フアンクション」、政治ノ方ハ「ガヴアメント」ト斯ウ訳シテアルヤウデアリマスガ、此ノ訳文ノ方ヲ見マスト、其ノ感ガ殊ニハツキリシテ来ルノデアリマス、私ノ方ノ考ヘヲ申述ベマスト、国務ト云フモノハ国ガ存立シテ行ク上デ当然ニ出テ来ル所ノ一ツノ機能トデモ申シマセウカ、形式的ナ内容ヲ伴ハナイ、又或ル言葉デ言ヘバ価値判断ヲ伴ハナイ、詰リ国ガ存立スル為ニハ当然行ハレル一ツノ機能ト云フヤウナモノヲ国務ト云フ風ニ考ヘルノデゴザイマス、ソレカラ政治ト云フノハサウデハナイノデ実際ニ国或ハ国民ノ利害休戚ニ関係ノアル事柄ガ政治ダ、大体ノ意味ニ於テハ天皇ハサウ云フ意味デノ国務ハ執ラレルガ、国或ハ国民ノ利害休戚ニ直接関係アル所謂政治ト云フモノニハ御関係サレナイノダ、斯ウ云フ意味ニ解シテ初メテ第四条ト云フモノガ生キテ来ルノデハナイカ、斯様ニ私ハ考ヘルノデゴザイマス、此ノ言葉ヲ別ニ言ヒマスト、先般国務大臣ハ、憲法ハ土俵ヲ造ルノデアツテ、実際ノ政策ガ如何ニ行ハルカト云フ問題ハ、其ノ土俵ノ上デ取ラレル相撲デアル、斯ウ云フ御表現ヲ用ヒラレタノデアリマスルガ、之ヲ藉リマスナラバ、国務ト云フノハ謂ハバ土俵其ノモノノ事柄、ソレカラ政治ト云フノハ其ノ土俵ノ上デ演ゼラル相撲、斯ウ云フ風ニデモ考ヘレバ、其ノ間ノ私ノ考ヘテ居ルコトガ幾ラカ明カニナルノヂヤナイカト思フノデスガ、サウ云フ意味ニ解シテコソ此ノ第四条ガ生キルノデアツテ、国務大臣ノ言ハレルヤウニ、国務ト政治トヲ区別シナイ考ヘ方ハ、少シ此ノ条文ノ解釈トシテハ、無理ノヤウニ思ハレルノデゴザイマスガ、如何ニ御考ヘニナリマスカ
○金森国務大臣 御説ハ傾聴致シマスケレドモ、私ハ此ノ文字ニ付キマシテ、ドウモサウ云フ風ニ理解シ兼ネルノデアリマス、実際御示シニナリマシタノハ、此ノ原案第四条ノ文字ノ割合ニ読ミ辛イ所ヲ御弁護下サル、斯ウ云フ御意思ノ含マレテ居ル所ハ十分了解出来マスルケレドモ、国務ト云フコトハ現在デモ国務各大臣或ハ国務ニ関スル詔書勅書ト云フコトヲ言ツテ居リマシテ、此処ニ列記セラレテ居リマスルモノ以外ニ、現行憲法ノ五十五条ノ国務ト云フモノハ政治ノ全般ニ亙ツテ居ルト云フコトハ、殆ド言フヲ俟タナイヤウナ気ガシテ居ルノデアリマス、ソレニ第七条ニ掲ゲテアリマスルコトガ、唯純粋ノ実質的ナモノデアツテ、国民ノ利害等ニ関係ガナイト云フコトモ中々言ヒ切レナイヤウニ思フノデアリマス、ノミナラズ第七条ニ列記シテアルコトト並ンダヤウナ、此処ハ列記シテアリマセヌケレドモ、是ト趣キヲ同ジウスルヤウナコトヲ念頭ニ置イテ考ヘテ見マスト、例ヘバ参議院ノ臨時召集ト云フヤウナコトヲ考ヘテ見マスルト、ソレガ政治ニ関スル権能デアレバ天皇ハ行ハセラルルコトハ出来ナイ、ソレガ国務ニ関スル権能デアレバ左ニ掲ゲテナイカラ出来ナイ、斯ウ云フヤウナコトニナリマシテ、ヤハリソコニ何カ物ノ抜ケタヤウナ感ジガスルノデアリマス、私ノ言ヒマシタヤウニ解釈スルコトノ方ガ、一番辻褄ノ合フヤウニ思フノデアリマス
○小野（孝）委員 此ノ点ハ修正ノ問題ナド起リマシタ際ニ非常ニ重要ナ問題ダト思フノデアリマスガ、国務大臣ハ依然トシテ従来ノ説ヲ御取リニナツテ居ラレマスガマダ時日モアルコトデアリマスノデ、我々モ十分勉強致シタイト思ヒマスガ、モウ一遍国務大臣ニ於カレテハ静カニ御考ヘ願ヒタイト存ジマス、是デ終リマス
○芦田委員長 第四条ヲ終リマシテ次ニ移リマス――第五条ヲ議題ニ供シマス――松澤兼人君
○松澤（兼）委員 第五条ノ摂政ノ条項ノ中ニ「この場合には、前條第一項の規定を準用する。」トアリマシテ、第四条ノ第一項ノ規定ガ準用セラレルヤウニナツテ居ルノデアリマスガ、是ハ形ノ上カラハサウデハアリマスケレドモ、実質的ニハ第三条モヤハリ此ノ規定ノ準用ヲ受ケルト云フ風ニ解釈スルノデスガ、如何デスカ
○金森国務大臣 第五条ノ場合ニハ第三条ノ適用ヲ受ケル、詰リ「内閣の助言と承認を必要とし、」斯ウ云フ意味ガソコニ及ブノガ、固ヨリ其ノ積リデ居リマス
○松澤（兼）委員 若シサウデアルト致シマスト、条文ノ体裁カラ申シマシテ、第三条ト第四条トヲ入替ヘタ方ガ宜イヤウニ思ヒマスガ如何デゴザイマスカ
○金森国務大臣 入替ヘテモ、各条文ノ位置ガ変リマシテモ、意味ノ内容ガ変リマセヌ限リ、入替ヘテ悪イト云フコトハ申上ゲ兼ネマス、併シ先ヅ天皇ノコトヲ先ニハツキリ書キマシテ、ソレカラソレノ例外的ナ場合ヲ予想シテ居リマスル摂政ノ規定ヲ後カラ書クト云フコトハ、是モ一ツノ理由ニナツテ居ルヤウニ思ヒマス
○松澤（兼）委員 只今国務大臣ガ仰セニナリマシタコトハ違ツテ居ルカト存ジマス、ソレハ第四条ニ「この憲法の定める國務のみを行ひ、」斯ウアリマシテ、天皇ノ行ハセラルル国務ノ範囲ト云フモノハ此処デ決マツテ居ル訳デアリマス之ヲ先ニ第三条ニ持ツテ行キマシテ、ソレカラ「天皇の國務に關するすべての行爲」ト云フノヲ第四条ニ持ツテ来タ方ガ分リ易クハナイカ、サウ云フ意味デ申上ゲタノデアリマス
○金森国務大臣 御尋ネノ趣旨ヲ誤解シテ御答ヘヲ致シマシテ、実ハ五条ノコトヲ考ヘテ居リマシタカラ、今三条、四条ガ五条ト関連シテノミ御質問ニナツタ、斯ウ云フヤウニ考ヘテ居リマシタ、洵ニ失礼致シマシタ、三条ト四条ダケヲ切離シタ問題トシテ考ヘテ見マシテ、順序ヲ変ヘテ見タラドウカト云フコトデアリマスガ、是モヤハリ天皇ノ国務ヲ行ハセラルル先ヅ根本ノ形ハドウカト云フコトヲ三条ニ置キマシテ、其ノ次ニ範囲ハドウカ、斯ウ云フ風ナ考ヘ方デアリマシテ、範囲ヲ先ニ書イテ行ハセラレル形式ヲ後ニ書クカ、形式ヲ先ニ書イテ範囲ヲ後ニ書クカト云フ問題ニナルノデアリマス、此ノ民主政治ヲ本当ニ理解シテ行キマスル為ニハ、天皇ノ不可侵ヲ擁護致シマスル為ニ、ドウシテモ国務大臣ヲ以テ出来テ居ル内閣ノ助言ト承認ト云フコトガ大キナ意味ヲ持ツト云フコトヲ先ニ書クノガ一ツノ考ヘ方ノヤウニ思ツテ居リマス
○松澤（兼）委員 終リマス
○芦田委員長 是ニテ第五条ヲ終リマシタ、明日ハ午前十時ヨリ会議ヲ開キマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
午後三時五十三分散会