委員会 昭和21年7月13日（第12号）
昭和二十一年七月十三日（土曜日）午前十時二十分開議
出席委員
委員長 芦田 均君
理事 江藤 夏雄君 理事 高橋 泰雄君
理事 廿日出ひろし君 理事 青木 泰助君
理事 吉由 安君 理事 菊地養之輔君
理事 鈴木 義男君 理事 林 平馬君
理事 柏原 義則君 理事 大島 多藏君
小野 孝君 上林山榮吉君
神田 博君 木島 義夫君
加藤 一雄君 木村 義雄君
北浦圭太郎君 小島 徹三君
左藤 義詮君 武田 キヨ君
武田信之助君 塚田十一郎君
本田 英作君 三浦寅之助君
山木 正一君 西山富佐太君
關谷 勝利君 原 健三郎君
原 夫次郎君 山田 悟六君
星 一君 森山 ヨネ君
山崎 岩男君 井伊 誠一君
石川金次郎君 及川 規君
加藤シヅエ君 黒田 壽男君
杉本 勝次君 田原 春次君
棚橋 小虎君 西尾 末廣君
松澤 兼人君 森 三樹二君
森戸 辰男君 井上 徳命君
大橋 喜美君 越原 はる君
橋本 二郎君 笠井 重治君
安部 俊吾君 池上 隆祐君
早川 崇君 笹森 順造君
野坂 參三君
同日委員關谷勝利君及ビ秋田大助
君辞任ニ付其ノ補欠トシテ坪川信
三君及ビ笹森順造君ヲ議長ニ於テ
選定シタ
出席国務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
文部大臣 田中耕太郎君
国務大臣 齋藤 隆夫君
国務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
司法政務次官 古島 義英君
司法事務官 佐藤 藤佐君
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本日ノ会議ニ付シタ議案
帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長 会議ヲ開キマス、此ノ際総理大臣ガ出席シテ答弁ヲサレル予定デアリマシタガ、本日ハ所用ノ為メ出席困難トノコトデアリマス、就キマシテハ、改正法第九条ノ審議ヲ進メル際ニ、総理ノ出席ヲ求メテ、出来ル限リ其ノ際ニ総理ニ対スル質問ヲ一括シテ行ヒタイト考ヘテ居リマス、此ノ際第六条ヲ議題ニ供シマス、質疑ヲ許シマス――塚田十一郎君
○塚田委員 第六条ハ「天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。」トゴザイマスノデアリマスガ、此ノ場合ニ現行憲法ハ第十条デ天皇ハ文武ノ官吏ヲ任免スルトアツテ、任ト免ト両方ヲ規定シテ居ルノデアリマスガ、此ノ場合ノ改正憲法ノ任命ト云フモノノ法律上ノ性質ガ、現行憲法十条ノ任免ノ法律上ノ性質ト同ジモノデアルカ、勿論、「指名に基いて、」ト云フ限リニ於テハ違フノデアリマスガ、其ノ他ハ同一ノモノデアルカヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、任命ト云フ方ダケ致シマシテ免ノ字ヲ特ニココニ設ケテハアリマセヌガ、免ゼラレル場合モ亦任命ノ権能ノ一面トシテ存スルモノト思フ訳デアリマス、併シナガラ特ニ免ノ方ヲ書カナカツタノハ、一応ノ建前ト致シマシテハ、総理大臣ヲ免ズルコトハ出来ナイ、斯ウ云フ建前ト致シマシテ、併シ後ノ方ノ規定ニアリマスルヤウニ、総辞職ハ固ヨリ出来ル訳デアリマスルカラ、総理大臣タル人ノ自由意思デ、或ハ法律ニ依ツテ、サウ云フ辞表ヲ出スコトガ要請セラレマシテ、其ノ意思ニ基イテ免ヲ願フ場合ニハ免ゼラレル、併シ其ノ当嵌マル規定ハ、ヤハリ第六条ノ、天皇ノ機能ノ中ニ入ツテ居ル、斯ウ云フ訳デアリマス
○塚田委員 サウ致シマスト、憲法ガ内閣ガ総辞職シタ場合ヲ規定シテ居ル六十五条、六十六条ノ二ツノ場合ニ於テ、内閣総理大臣ガ職ヲ離レル、法律上ノ形式ハ、従来ト同ジコトニナル訳デアリマスカ
○金森国務大臣 左様デゴザイマス
○塚田委員 ソレデ終リデゴザイマス、ドウモ有難ウゴザイマシタ
○芦田委員長 武田信之助君
○武田（信）委員 御質問申上ゲマス、第六条ハ天皇ガ内閣総理大臣ヲ任命スルコトノ規定ニナツテ居リマスガ、此ノ内閣総理大臣ヲ任命スルト云フ天皇ノ行為ハ、国務デアルカドウカ、斯ウ云フコトヲ先ヅ御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス
○金森国務大臣 国務ト思ツテ居リマス
○武田（信）委員 国務トシマスル場合ニ於キマシテハ、第四条ニ於キマシテ、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、」斯ウ云フコトデ、天皇ノ国務ノ範囲ヲ限定致シテ居リマス、サウシテ更ニ第七条デ十項目ヲ挙ゲマシテ、天皇ノ国務ノ内容ト云フモノヲ明カニ致シテ居ルノデアリマスガ、其ノ中ニ総理大臣ヲ任命スルト云フ事柄ヲ十項ノ中カラ除イテ、特ニ第六条ヲ起シテ、総理大臣ヲ任命スルト云フ項目ヲ挙ゲマシタ理由ハ何カソコニアルカ、其ノ点ヲ御尋ネ申上ゲマス
○金森国務大臣 此ノ規定ハ第七条ノ各項目ノ中ニ「並ベテモ趣旨ノ上ニ於キマシテ特ニ食違フト云フコトハゴザイマセヌ、併シナガラ「國會の指名に基いて、」ト云フ特殊ノ条件モアルコトデゴザイマスシ、又現実ニ於キマシテ、天皇ハ多クノ政治的ナ働キヲ行ハレナイノデアリマス、責任ノ中心ニ立ツテ国ノ行政権ヲ担任致シマスル者ノ任命ハ、国ノ働キノ上ニ於キマシテ、特ニ重点ヲ置イテ考ヘナケレバナリマセヌノデ、特別ナ条文ヲ置イテココニ特記シタ次第デアリマス
○武田（信）委員 此ノ内閣総理大臣ヲ決メルコトノ根本ハ、国会デ決議ヲシテ指名スルコトニナツテ居リマス、ソレヲ天皇ガ任命スルト云フコトニナツテ居ルノデアリマスガ、サウ致シマスト、其ノ国会ガ指名シタ者ニ対シマシテ、内閣ガ之ニ助言ト承認ヲ与ヘル、国務デアリマスル以上ハ、天皇ノ国務ニ関スル総テノ行為ハ内閣ノ助言ト承認ヲ必要トスルト云フコトニナツテ居リマスノデ、国会ガ指名シマシタ其ノ内閣総理大臣ニ対シマシテ、更ニソレヲ内閣ガ助言ト承認ヲスルト云フ必要ガ起ツテ来ルト思フノデアリマスガ、其ノ間ノ事情ヲ考ヘマスルト、ドウモ矛盾シタヤウナ感ジガ致シマスガ此ノ点如何デアリマスカ
○金森国務大臣 第六条ノ任命ニ付キマシテモ、固ヨリ内閣ノ助言ト承認トヲ必要ト致シマス、併シナガラ内閣ノ助言ト承認ト云フ此ノ事柄ハ実質ヲ持ツテ居リマス、詰リ此ノ問題ニ付テハドウ云フコトガ助言ト承認トノ内容トナルベキカト云フコトハ、個々ノコトニ付キマシテ、自ラ実質上限定セラレテ来ルモノト考ヘマス、内閣総理大臣ヲ任命致シマスル場合ニ於キマシテ、是ハ国会ノ指名ニ基イテ任命スルト云フコトニナツテ居リマスカラ、国会ノ指名ノ是非、詰リ国会ノ指名ガ果シテ正シキヤ否ヤト云フコトニ付キマシテ、助言ト承認ヲ致シマスルコトハ、事ノ性質上内閣ノナスベキコトデハナイト思フノデアリマス、ココデ助言ト承認ヲ致シマスル其ノ範囲ハソレト別ノ範囲デアリマシテ、実際ノコトヲ籍リテ申シマスルナラバ、例ヘバ議会ノ其ノ働キガ完全ニ適法ニ行ハレテ居ツタカト云フヤウナコトヲ確カニ責任ヲ以テ申上ゲル、或ハ国会ニ於テ指名サレタ其ノ人ガ現在生キテ居ナイ――極メテ稀有ナコトデアリマスガ、例ヲ取リマスレバ、サウ云フ場合ニハ然ルベキ助言ヲシナケレバナラナイ、斯ウ云フコトニナルト思フノデアリマス
○武田（信）委員 サウ致シマスルト、国会デ折角議決ヲ致シマシテ指名シタ者ガ、内閣ノ助言ト承認ヲ要スルト云フコトデ、其ノ間ニ相当ノ時日ヲ経過スルト云フヤウナコトモ起リ得ル、国会デハ指名ガ出来タケレドモ、内閣ノ方デハマダ助言ト承認ヲスル運ビニ至ツテ居ラナイ、斯ウ云フヤウナ問題ガ起キテ来ル、サウ致シマスルト国会ノ権能ト云フモノヲ内閣ガ左右スルト云フヤウナコトモ起リ得ル、而モ此ノ内閣ハ、此ノ総理大臣ヲ助言ト承認ヲスル場合ニハモウ既ニ辞メテ去ツテ行ク内閣デアツテ、其ノ内閣ガヤルト云フコトガ是ハ考ヘラレルノデアリマス、其ノ辞メル内閣ガ後任ノ総理大臣ヲ国会デ指名シタ者ニ対シテ、ソレヲ承認ヲスル、助言ヲスルト云フヤウナコトハ、ドウモ聊カ腑ニ落チナイト考ヘルノデアリマスガ其ノ点ヲ重ネテ御伺ヒヲ致シマス
○金森国務大臣 此ノ助言ト承認トノ為ニ多クノ時日ヲ費スト云フコトハ、実際問題トシテハアリ得ナイコトノヤウニ考ヘマス、法律学説デ研究ヲ致シマスルヤウニ、稀有ナ場合ノミヲ念頭ニ置キマシテ論議ヲ致シ、極端ナ場合ヲ考ヘマスレバ、其ノ推薦セラレタ人ガ失踪ヲシテ、何処ニ居ルカ分ラヌ生キテ居ルカ死ンデ居ルカモ分ラヌト云フヤウナ場合ノコトヲ空想致シマスレバ、仰セニナリマスルヤウナコトモ理論的ニハ考ヘラレヌコトハアリマセヌケレドモ、現実政治ニ斯クノ如キコトハ絶対ニナイト考ヘ得ルノデアリマシテ、此ノ点ニ関シマスル御心配ハ、恐縮デハアリマスルガ、先ヅ無用ノコトト思フ訳デアリマス
次ニ仰セニナリマシタ此ノ助言ト承認ヲスルモノハ辞メテ行ク内閣デハナイカ、新シク迭ルベキ内閣ノコトヲ、辞メテ行ク内閣ガ助言、承認ヲスルコトハヲカシイデハナイカ、斯ウ云フ御疑問デアリマシテ、ソレハ実際上一ツノ論点トシテ十分考ヘナケレバナラヌ点ト思フ訳デアリマス、併シ此ノ点ハ理論ノ上ニ於キマシテハ、既ニ解決ノ困難ナ問題デアリマシテ、現ニ政治ノ責任ヲ担任シテ居リマスルモノハナクナラウトシテ居ル現内閣デアリマス、随テ其ノ者ノ職責ヲ無視シテ天皇ノ行為ガ行ハルルト云フコトハ考ヘラレマセヌソコニ非常ニ巧妙ナ工夫ガアルカモ知レマセヌガ、普通ニ発達シテ居ル政治組織ノ上デハ、是ハ巳ムヲ得ナイコトノヤウニ思フ訳デアリマス、併シ前ニモ申シマシタヤウニ、此ノ助言ト承認トノ実質上ノ範囲ハ、事実議会ノ議決ガアツタガ、其ノ人ハハツキリ任命スルニ適スル実在ヲ具ヘテ居ルカドウカト云フヤウナ点ニ限定セラレマシテ、又政治ハ時ニ権能ヲ濫用スルコトハアルカモ知レマセヌガ、斯ウ云フヤウナ点ニ付テ、苟クモ時ノ内閣ヲ担任スル人ガ間違ツタコトヲスルトモ、先ヅ予想出来マセヌカラシテ、制度ノ建前トシテハ、此ノ方法が適切デアラウト考ヘタ次第デアリマス
尚ホ本当ノ責任ハ政治的ナ意味ニ於キマシテハ、次ニ就任シタ人ガ若シ自分ガ総理大臣トシテ不適当デアルト認メレバ、其ノ時自ラノ助言ト承認ニ依ツテ直チニ辞表ヲ出スト云フコトハ、是モ理窟デハアリマスケレドモ、サウ云フ風ニ考ヘラレマスカラ、実質的ニハ支障ガナイト思ツテ居リマス
御参考ノ為ニ申シマスルガ、斯ウ云フ国ノ責任ノ中心トモナルベキ人ガ交代致シマスル時ノ助言、承認関係ニ付キマシテハ、甚ダ制度ノ建テ方ニ困ルヤウナ事情ガアリマシテ、曽テ「ドイツ」ニ於キマシテ、国宰相ノ交代ノ時ドウシタラ宜イカト云フコトニ喧シイ議論ガアリマシテ、或ル時期ニハ古イ方ノ人ガ、詰リ辞メル人ト、新任スル人トガ相互ニ其ノ輔弼ノ責任ヲ替リ合ツテ持ツタ、詰リ辞メテ行ク人ノ為ニハ新任スル人ガ輔弼ヲ致シマス、又新任スル人ニ対シテハ辞メテ行ク人ガ輔弼ヲスル、斯ウ云フ形ヲ執リマシタ、ソレデモヤハリ理窟ハヲカシイノデアリマシテ、マダ任用モサレナイ中ニ辞メル人ノ輔弼ヲスルノハヲカシイデハナイカト云フ議論ガ起リマシテ、慥カ最後ノ憲法ノ改正デハ後カラ就任スル人ガ前ノ人ノ辞メルト云フ輔弼モ致シマスルシ、自分ガ任命セラレルト云フ輔弼モ致シマスルシ、詰リ新国宰相ガ旧イ宰相ノ辞メル文書ニ副署ヲシ、又自己ヲ任命スル文書ニ副署ヲシタト云フ形モアリマスガ、何レニシテモ理窟ハ能ク通リマセヌ、色々考ヘマシタケレドモ、結局日本ノ政治徳義等モ考ヘ、又任命ノ本質ヲモ考ヘマシテ、第六条アタリノ此ノ書キ方ガ一番妥当デアラウト思ツテ居ル訳デアリマス
○武田（信）委員 サウスルト、第三条ニ、「内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」天皇ニ対シテ内閣ガ其ノ責任ヲ負フ訳デアリマスガ、辞メテ行ク内閣ガ後継内閣総理大臣ノ責任ヲ負ウテ、ソレヲ所謂助言ト承認ヲスル、斯ウ云フ恰好ニ解釈サレル訳デアリマスガ、ドウモ其ノ関係ガ私共ニハ了解ニ苦シムノデアリマス、又国会ガ折角内閣総理大臣ヲ議決ヲシテ指名スルト云フ其ノ権能ヲ持ツテ居ルノニ、内閣ノ助言ト承認ガナケレバ其ノ総理大臣ノ任命ガ行ハレナイ、而モ其ノ内閣ハ辞メテ去ツテ行ク内閣ガ行フ、ドウ考ヘマシテモ了解ニ苦シム点デアリマスケレドモ、是レ以上質疑ヲ重ネマシテモ無用ト考ヘマスノデ、私ハ此ノ点ニ付キマシテハドウモ了解ニ苦シムト云フコトヲ申上ゲマシテ、私ノ質疑ヲ終ル次第デアリマス
○芦田委員長 北浦圭太郎君
○北浦委員 先ヅ牽連事項カラ御伺ヒ致シマスガ、「この憲法は、公布の日から起算して六箇月を經過した日から、これを施行する。」斯様ニナツテ居リマス、ソコデ、此ノ憲法草案ガ目出タク成立致シマシテ、公布サレル、ソレカラ政変ガ起ル、サウ云フ場合ニハ此ノ条文デ総理大臣ガ任命サレルノデアルカ、或ハ元ノ憲法デオヤリニナルノカ、此ノ点ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 不注意デ一寸聴キ落シマシタガ、此ノ憲法ガ公布サレテ、マダ施行サレナイ間ニ政変ガ起ツタ時ノ内閣総理大臣ノ取扱ハ第六条ノ規定ニ依ルカ、斯ウ云フ御質疑デアツタト存ジマス、其ノ場合ハ固ヨリ憲法ガ直接ニハマダ施行サレテ居リマセヌノデ、第六条ガ其ノ侭働クト云フコトハ起リ得ナイト考ヘテ居リマス、併シナガラ斯様ナ場合ニ、此ノ憲法ノ精神ハ固ヨリ政治的ニ尊重スベキモノデアリマスルガ故ニ、現行憲法ノ規定其ノモノノ下ニ於キマシテ、此ノ第六条ノ持ツテ居ル政治的ナ原理ヲ尊重シツツ適当ニ処理シテ行クト云フノガ正シイ行キ途ト考ヘテ居リマス
○北浦委員 次ニ、是ハ全国弁護士協会ノ熱烈ナ要望デアルノデアリマスガ、「天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。」ト云フト、同一ノ手続ニ依ツテ最高裁判所ノ長官モ任命セヨ、斯ウ云フ希望ガアリマス、理由ハ簡単デアリマス、司法権ノ独立、是レデアリマス、此ノ憲法ニ依リマスルト、最高裁判所ノ長官ハ行政官ニ依ツテ任命サレルヤウデアリマスガ、是ハアナタノ何時モ仰シヤル無色透明ナル天皇ニ依ツテ而モ国会ノ指名ト云フ丁寧ナル手続ヲ経テヤツテ貰ヒタイ、斯ウ云フ熱心ナル希望ガアルノデアリマスルガ、政府ノ御意見如何デアリマスカ
○金森国務大臣 裁判官ヲ国会ノ指命ニ依ツテ任命スルト云フコトハ固ヨリ一ツノ考ヘ方デアラウト思フノデアリマス、併シナガラ権力分立ノ原理ヲ相当量尊重致シマスル結果トシテハ、裁判官ニハ自ラ之ヲ任命スルニ其ノ独立ヲ確保スルニ必要ナル趣旨ガアリマシテ国会ハドウシテモ、此ノ場合ニ政治的ナル――政治ト申シマスガ、狭イ意味ノ政治デアリマス、政治的ナル影響ヲ受ケ易イノデアリマス、随テ裁判官ノ本当ノ身分ノ独立性ヲ保チマスル上ニ必ズシモ理想的デハナイ、斯ウ考ヘテ居リマス、其ノ考ヘハ此ノ憲法ニ定メテ居リマスルモノノ方ガ寧ロ優ツテ居ルヤウニ存ジテ居リマス
○北浦委員 私ハ此ノ第六条ハ天皇ノ国務ノ中デ最モ重大ナルモノト思ツテ居リマスガ、此ノ第六条第七条ヲ通覧致シマシテ、従来憲法学デ論ゼラレマシタ天皇ノ特権ト云フモノガ一ツモ書イテナイノデアリマス、ソコデ私ハ政府ノ御意見ヲ御伺ヒスルノデアリマスルガ、第一ハ天皇ノ生命、身体及ビ栄誉ハ勿論ノコト、神宮並ニ皇陵モ刑法上特別ニ特権トシテ保護サレテ居ルコトハ、国務相御承知ノ通リデアリマス、今後此ノ第六条第七条ニ付テ先ヅ第一ニ此ノ点ハドウ云フ風ニ相成ルカ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 刑法上天皇ノ御一身ガ特ニ鄭重ニ扱ハレ、特別ナル法条ノ客体ニナルベキデアルト云フコトハ、咋日デアリマシタカ其ノ前デアリマシタカ、此ノ席ニ於キマシテ司法大臣モハツキリ言ハレテ居リマス、固ヨリ当然ノコトト思フ訳デアリマス、尚ホソレ以外ノモノニ付キマシテモ、同ジヤウナ考ヘ方ノ下ニ、適切ナル法律ガ出来テ、正当ナル秩序ガ保タレルコトハ理ノ当然ト考ヘテ居リマス
○北浦委員 大体其ノ点ハ分リマシタガ、少シ細カクナルト分リマセヌガ、逐条審議デアリマスカラ御聴キ願ヒタイノデアリマス、天皇ト同ジヤウニ皇后、太后、皇太后、皇太子、是等ノ方々ガ皆斉シク特権ヲ持ツテ居ラレルノデアリマスガ、此ノ点ハ今後如何ニ相成ルカ、御答弁願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣 ソレ等ノ具体的ナル御答ヘハ次ノ機会ニ議会ノ御議決ヲ願フベキ皇室典範等ヲ根拠トシテ、例ヘバ皇族ノ範囲等ニ付キマシテモ正確ニ規定セラレルコトデアリマスルガ故ニ、今日包括的ニ御答ヘスルコトハ出来マセヌケレドモ、大体ノ方針トシテハ左様ナ考ヘヲ持ツテ居リマス
○北浦委員 第二ニ祖宗ノ神器ヲ受ケ、国璽、御璽及び御紋章ヲ有セラレテ居ツタノデアリマス、今後此ノ草案ニ付テハドウ云フ風ナ待遇ヲ御受ケニナルカ、此ノ点ニ付テ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 祖宗ノ神器ノコトニ付キマシテハ、咋日此ノ席ニ於キマシテ、或ル程度ノ御答ヘヲ致シマシタ、其ノ御答ヘヲ致シマシタ以上ノコトハ、今日マダ是等ニ関スル新タナル法規ガ確定スル研究段階マデ到達シテ居リマセヌ大体咋日申上ゲタ趣旨ニ於テ御諒承ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、又御璽、国璽ニ付キマシテハ、固ヨリ左様ナモノガ存在スベキコトハ当然ト思ツテ居ルノデアリマス、御紋章ノコトニ付キマシハ、是ハ又別ノ研究ニ属スルコトデアリマシテ、皇室ガ特有ナ御紋章ヲ御持チニナルコトヲ何モ此ノ憲法ガ妨グルコトハナイノデアリマスカラ、其ノ点マデ実ハ深クマダ関係部局ト打合セタコトハアリマセヌケレドモ、特ニ変ラナケレバナラヌ必要ハ只今ノ所ナイヤウニ考ヘテ居リマス
○北浦委員 御璽、御紋章ハ国務相御説ノ通リデアラウト思ヒマスガ、国璽、之ヲ今日マデノ天皇ハ持ツテ居ラレタノデアリマス、是モ只今御答弁ノヤウニ今後ト雖モ天皇ガ御所有ナサルト云フコトハ一寸聴洩ラシマシタガ、国務相ノ御意見デハ、御持チニナツテ差支ヘナイト思フト云フ御意見デアリマシタガ、此ノ点ハシカト御伺ヒ致シタイノデアリマス
○金森国務大臣 御尋ネノ趣旨ガ少シクハツキリ分ラナカツタノデアリマルガ、私ハ御璽、国璽ニ付テハツキリ申上ゲタト思ツテ居リマス、只今御尋ネニナリマシタ国璽ト申シマスルノハ、御璽、国璽以外ノコトヲ仰セニナツテ居ル次第デゴザイマセウカ、御璽国璽ト云フノハ公文ノ陛下ノ御名ガアリ若クハ御名アルニ匹敵スルヤウナ公ノ文書ノ中ニ押捺セラルル御印ガ二ツアツテ、其ノ意味デ御答ヘヲ私ハシテ居ツタノデアリマス
○北浦委員 其ノ通リ、国家ノ印章デアリマス
○金森国務大臣 ソレハ二ツトモ之ヲ存続スベキモノデアラウト云フ見解ヲ今申上ゲマシタ、唯具体的ノコトハ今後ハツキリシタ公文法、公式法ト云フヤウナモノガ出マシテ、ソレニ依リマシテ如何ナル場合ニ如何ナル印章ヲ押捺セラルベキデアルカト云フコトガ、正確ニ定マル考ヘデアリマス
○北浦委員 天皇ノ慶事、及び凶事ニ当リマシテハ、国礼ヲ以テ国民悉ク之ヲ慶弔致シテ居ツタノデアリマス、御承知ノ通リ是モ天皇ノ特権ノ一事項トシテ憲法学者ハ必ズ算ヘテ居リマス、此ノ点今後如何ニナリマスルカ、御答弁ヲ願ヒマス
○金森国務大臣 国ノ象徴タル御地位ト関係ヲサセ、我々ハ十分其ノ点ハ考ヘナケレバナラヌノデアリマシテ、特ニ左様ナコトニ特別ナル考ヘヲ持ツト云フコトスラモ、私共ニハ実ハ今マデ念頭ニナカツタノデアリマス、サウ云フ風ナ皇室関係ノコトハ、国民挙ツテ国ノ力ヲ挙ゲテ然ルベキ方法ヲ以テ之ニ対応スルコトハ当然ノ儀ト考ヘテ居リマス
○北浦委員 次ニ是モ新聞デ多少ノ問題ニナツテ居リマシタガ、自ラヲ朕ト言ヒ、他ヨリ陛下ト敬称サレルト云フ特権ヲ持ツテ居ラレタノデアリマス、此ノ点如何デアリマスカ
○金森国務大臣 先程カラウツカリ御言葉ニ釣ラレテ御答ヘヲシテ居リマシタガ、私ハ天皇ハ是等ノ諸般ノ特殊ナル地位ヲ御持チニナルコトヲ特権トハ考ヘテ居リマセヌ、学問的ニ特権ト云フ説明ハ固ヨリ生ルルカモ知レマセヌガ、日本ノ皇室ガ其ノ皇室ニ相応シキ色々ナ言葉ノ様式等ヲ御持チニナリマスコトハ固ヨリ自然ノ発達ニ依リ、又国民ノ考ヘト一致スル所デアリマシテ、憲法学者ノ言フヤウニ之ヲ一々特権ト云フヤウナ言葉ヲ使ヒマシテ、何カナシニ外ノモノト区別サレルモノノ如クニハ私ハ実ハ考ヘテ居リマセヌ、唯一ツノ国ノサウ云フ制度デアルトシテ、大体ハ考ヘテ行キタイト思ツテ居リマス、ソレ等ノ御言葉ガドウ云フ風ニナツテ行クカト云フコトハ、尚ホ今後ノ発展ニ依ルモノト思ヒマス、現在ノ所デハソレニ対シマシテ変更ヲ生ズルコトヲ予想ハ致シテ居リマセヌ
○北浦委員 学説ハ偖テ措キマシテ、マダアリマスガ、只今マデ申述ベマシタ国璽デアルトカ或ハ又刑法問題デアルトカ、是ハアナタガ何ト仰シヤラウトモ、国家ノ重大事項デアリマス、皇室ノ特ニ勝手ニオヤリニナルコトトハ違ヒマス、随テウツカリ私ノ言葉ニ釣ラレタト云フ御言葉ガアリマシタガ、私ハ決シテアナタヲ釣ラウト思フノデモナケレバ、一生懸命ニヤツテ居ルノデ、自ラヲ朕ト言ヒ他ヨリ陛下ト敬称サレルト云フコトハ、アナタノ仰シヤルヤウニ、特権トシテハ算ヘルコトハ出来ナイカモ知レマセヌガ、今マデ申述ベマシタコトハ全部国家、全国民ニ関係ガアリマス、慶弔問題ト云ウテモ国民ガ是非トモ慶弔シナケレバナラヌシ、又致シテ居ツタノデアリマス、ドウデモ宜イコトデハアリマセヌ
ソコデモウ一ツ御伺ヒ致シマスルガ、其ノ出入ニ対シテハ特定ノ鹵簿ヲ整ヘテ居ツタ、今後ハ軍隊ト云フヤウナ、或ハ礼砲ト云フヤウナモノハナクナルト私ハ思ウテ居リマスルガ、併シ特定ノ鹵簿ヲ整ヘテ御歩キニナルト云フコトハアリ得ルカ、或ハナクナルカ、此ノ点モ御伺ヒ致シテ置キマス
○金森国務大臣 特権ノ言葉ニ付キマシテ私ノ申上ゲタコトガ多少悪カツタカモ知レマセヌガ私ハ本当ハ是ハ重大ナコトダト思ツテ居リマス、特権ト云フ言葉ヲ用ヒマシテ恰カモ皇室ガ人民ト違フ、皇室ガ特別ナ何カナシニ優位ナ地位ヲ御持チニナル、斯ウ云フ考ヘ方ガ――是ハ意見ノ差ニナルカモ知レマセヌガ、私ハ現実ノ考ヘ方ト致シマシテ、余リ好マシイ考ヘ方デハナクテ、寧ロ外国風ノ憲法ノ説明ニ一致スルモノデハナイカト云フ風ニ考ヘテ居リマス、国家ノ象徴デアルト云フヤウナ御地位ニ伴ヒマシテ、色々ナ特別ナル取扱ガ出来テ来ル、又必要ナル御璽、国璽ガココニ備ハラナケレバナラヌト云フコトハ、特権ト云フ観念ヲ否定スル訳デハゴザイマセヌケレドモ、主タル部分ハ特権ト考フベキモノデハナクテ、国ノ政治ガ行クベキ道ニ行ク限リ、当然サウ云フ風ナ形ニナルノデアリマス其ノ趣旨カラ実ハ申上ゲタノデアリマス、只今仰セニナリマシタ鹵簿ノ点ノ如キモ固ヨリ象徴トシテノ御地位ニ相応シキモノガアルベキコトハ言フマデモナイコトト考ヘテ居リマス
○北浦委員 憲法第三条コソ天皇ノ最大ノ特権デアルト云フコトハ――金森国務相ハ特権ト云フ文字ヲ使フコトヲ御嫌ヒニナリマスガ、私ハ一向構ハヌト思フ、第三条コソハ最大ノ特権デアル、是ハ御認メニナルト思ヒマスルガ、是ガナクナル、此ノ第三条ニ付キマシテハ、何ダカ神様ダトカ或ハ神権説ダトカ、色々仰シヤイマスルガ、是ハ国務相ガ仰シヤルノデハナイ、議会ニ於テサウ云フコトヲ色々言ハレル人モアリマスルガ、法律的ニ見マシテ、是ハ政治的ニ或ハ又刑事上、サウ云フ点ニ於テハ無責任ダト云フ意味ニ我々ハ解シテ居ルノデアリマスガ、是ガナクナルト致シマスルト、今後サウ云フ民事若シクハ刑事ノ客体ト言ウテハ誤弊アリマスガ、当事者トナラレル憂ヒガアルカドウカ、当然生レテ来ル疑問デアリマスガ此ノ点ニ付テ金森国務相ノ御意見ヲ伺ヒマス
○金森国務大臣 私自身ノ卒直ナル御答弁ヲ――私自身ト申シマシテモ個人デハアリマセヌ、私ノ今ノ立場ニ於テ卒直ナル言葉ヲ以テ御答ヘヲ致シマスレバ在来ノ憲法ハ必要以上ニギコチナイ言葉ヲ使ツテ、寧ロ天皇ニ対スル国民ノ心持トソグハナイ嫌ヒガアツタノデハナカラウカト云フ着想ヲ持ツテ居ル訳デアリマシテ、神聖ニシテ侵スベカラズト云フ規定ヲ設ケマスルコトハ、何トナク我々ガ心ノ中ニ包容シテ居リマスル天皇ニ対シ故ラニギコチナイ法律ノ衣ヲオ着ケシテ、法律的ニハ責任ガナイノダ、コンナ風ニ言ツテ居リマスルコトハ、必ズシモ適切ナル制度トハ思ハレマセヌ、モノノ性質カラ詰リ日本ノ国ノ本ヲ基本ト致シマシテ、又此ノ憲法ハ之ヲ象徴ト仰グト云フ原理カラ致シマシテ、解釈上自然ニ出テ来ル権利ヲ其ノ侭文字ニ書カナイデ国民ノ心ノ中ニ誰モガ認ムルヤウニ扱ツテ行ク方ガ適当デハナカラウカト思フ訳デアリマス、私ハ前ニモ申シマシタヤウニ、天皇ハ政治的及ビ刑事的ナル問題ニ付テハ無答責デアルト云フコトヲハツキリ申上ゲタト思ツテ居リマス、是ハ憲法第一条ニ現ハレテ居ル象徴ト云フコトノ本質及ビ先ニモ申シマシタヤウナ極ク微弱的ナル説明ノ一ツデハアリマスケレドモ、内閣員ノ刑事責任ノ規定等ヲ併セ考ヘマスレバ、ソコニ疑フ余地ハナカラウト思フノデアリマス、民事上ノ問題ニ付キマシテハ、是ハ従来カラ日本ニ定マツタ考ヘ方ガアリマシテ、今後ト雖モ同ジヤウナ方針ノ下ニ制度ガ確実ニ具体化サレテ行クモノト考ヘテ居リマス
○北浦委員 他ニ世伝御料ノ其他ノ御陵問題ガアリマスガ、是ハ同僚ノ方ガ即ニ御聴キニナリ、又今後御聴キニナルデアラウト思ヒマスガ、要スルニ天皇ノ特権事項ニ付キマシテハ、例ヘバ只今ノ第三条ノ如キ、或ハ其ノ他ノ慶事及ビ凶事ノ如キハ、是ハ明快ナル御答弁ヲ辱ウ致シマシタガ、其ノ他ニ付テハ遺憾ナガラ失礼ナ申分デアリマスケレドモ曖昧模稜タルコトヲ免レナイコトト思フノデアリマス此ノ点ハ政府ニ於カレマシテモ十分御研究下サイマシテ、此ノ委員会ニ於テ今一応御決定ノ点ヲ御答弁下サランコトヲ御願ヒ致シテ置キマス、ト申シマスノハ、昨日国務相ハ私ノ質問ニ対シテモ、具体的ニ示シテ貫ハナケレバ、立場ヲ変ヘテデモ考ヘテ呉レト云フ御話ガアツテ、私ハ之ニ感激シテ多クヲ言ハナカツタ、毎日々々委員会ニ出テ見マスト、此ノ点ハ目下法制審査議会デ研究中ダ、此ノ点ハ公式法デ又別ニ拵ヘルノダ、ト云フヤウナ事項ガ、参議院ノ如キ然リ又別ニ弾劾機関ト云フコトニ付テモ、是ハ又法律デ御拵ヘニナルダラウト思ヒマスガ、閣員弾劾是ガ多クテハ本当ニ賛成シテ宜イノカ反対シテ宜イノカ、修正モ出来ナイト云フコトニナリマスルノデ、我々モ勉強致シマスルカフ、暑イ折柄、金森国務相一人ヤツテオイデニナラナイデ、其ノ他ノ遊ンデ居ラレル方ハ――一人モアリマスマイガ、国務相デ稍々暇ノアル方ガ、此処ヘドシドシオイデニナツテ御答弁ノ上、研究セラレンコトヲ望ンデ、此ノ条文ニ付テノ質疑ヲ終リマス
○芦田委員長 是ニテ第六条ノ逐条審議ヲ終リマス、第七条ヲ議題ニ供シマス――小島徹三君
○小島委員 私ハ第七条ノ第五号ト九号ニ付テ御伺ヒシタイト思ヒマス、第五号ニハ「國務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。」第九号ニハ「外國の大使及び公使を接受すること。」斯様ニナツテ居リマス、第九号ノ「外國の大使及び公使を接受すること。」ト云フノハ、外国ノ大使並ニ公使ノ信任状ヲ御受ケニナルト云フ意味デゴザイマスカ
○金森国務大臣 接受スルト云フコトハ公使ヲ受入レルト云フコトデアリマスルガ故ニ、信任状ヲ持ツテ来レバ、其ノ信任状ヲ持ツタ大使公使ヲ接受セラルル、斯ウ云フコトデアリマス
○小島委員 サウ致シマスルト、其ノ信任状ヲ御受ケニナル所ノ相手方ハ、天皇ト云フコトニナルノデゴザイマセウカ、ソレトモ日本ノ政府ト云フコトニナルノデゴザイマセウカ
○金森国務大臣 受ケルト云フ言葉ノ解釈ニナル訳デアリマス、此ノ接受ノ規定ノ示ス所ニ依ツテ、天皇ガ之ヲ接受セラレルコトハ一点ノ疑ヒハアリマセヌ、併シ法律的ナル意味ニ於キマシテハ、国ト国トノ交際デアリマスガ故ニ、其ノ国ノ各分担スル機関ガ関与スルト云フコトハ固ヨリノコトト思ヒマス
○小島委員 私ハ其ノ関与スルト云フコトヲ御尋ネシタノデハナイノデアリマシテ、其ノ信任状ト云フモノハ、原則トシテ天皇ガ御受ケニナツテ、其ノ信任状ガ善イカ悪イカト云フコトヲ御決メニナルノカ、ソレトモ日本ノ政府ガ決メルノカト云フコトヲ、御伺ヒシタイノデアリマス
○金森国務大臣 信任状ノ当否ヲ決定致シマスル実質上ノ作用ハ政府ガ行フコトト考ヘテ居リマス
○小島委員 私ハ実質上トカ実際上トカ云フ言葉デナクテ、法律上ソレヲ決定スルノハ、日本ノ内閣デアルノカ、日本ノ政府デアルノカ、天皇デアルノカヲ御聴キシタイ
○金森国務大臣 法律上決定致シマスルノハ日本ノ内閣デアルト考ヘテ居リマス、唯併シココニ認証ト云フコトノ範囲ニ入リマシテ、天皇ハ認証ノ行使ハナサル訳デアリマス
○小島委員 認証ト申シマスルト、ソレハ第五号ノコトデゴザイマスカ
○金森国務大臣 左様デゴザイマス
○小島委員 私ノ聴イテ居ツタノハ、第九号ノ外国カラ持ツテ来タ所ノ信任状ノ善シ悪シヲ決メルノハ内閣カ、ソレトモ天皇カヲ御聴キシテ居ツタノデゴザイマス、認証ノ問題トハ又違フノデゴザイマス
○金森国務大臣 外国カラ来タ所ノ信任状ヲ受入レルカドウカト云フコトハ、固ヨリ内閣ノ決スベキコトト思ツテ居リマス
○小島委員 左様致シマスルト、第九号ノ「外國の大使及び公使を接受すること。」ト云フノハ、単ナル引見ヲナサルト云フコトデアツテ、法律上ノ信任ノ善シ悪シヲ御決メニナルノデハナイ、斯様ニ了解シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣 左様デゴザイマス
○小島委員 私ノ質疑ハ之ヲ以テ終リマス
○芦田委員長 委員トシテ、只今ノ問題ニ関連シテ、一応政府ニ御伺ヒ致シテ置キタイト思ヒマスガ私不敏ニシテ只今ノ問答ヲ聴イテ居ツテ、ドウモハツキリシ兼ネルノデアリマス、第五号ニ「全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。」トアリマスガ、ソレハ従来ノ全権委任状或ハ信任状ノ如ク、陛下自ラノ御名前ニ於テ全権並ニ大公使ノ信任ヲ相手国ノ元首ニ勧告ト申シマスカ、保証ヲナサルヤウナ書類ヲ発求ナサル、斯様ニ解釈シテ宜シイノデアリマスカ、或ハ又現在ノ慣行トハ違ツテ、内閣総理大臣ナリ外務大臣ナリガ、全権委任状若シクハ信任状ニ署名ヲスルノデアリマスカ、ソレガドウモハツキリ致シマセヌガドウ云フコトニナリマスカ
○金森国務大臣 第五号ニ依リマスル信任状ハ、実質ハ固ヨリ内閣ニ於テ決定ヲ致シマス、併シナガラ文書自身ノ確定シタル成立ハ、固ヨリ此ノ認証ヲ待ツノデアリマス、斯クシテ出来上リマシタ文書ノ形態ハ、現在発求セラレテ居リマスル文書ノ形態ト、多ク異ナル所ハナイノデアリマス
○芦田委員長 分リマシタ――吉田安君
○吉田（安）委員 逐条審議デアリマスカラ、成ベク其ノ条文ニ即応シマシテ、御尋ネヲ致シタイト思ヒマス、第七条ノ第二号、第三号ノコトニ関シマシテ、一応御尋ネ致シマス、明治憲法ノ第七条ニ依リマスルト、「天皇ハ帝國議會ヲ召集シ其ノ開會、閉會停會及衆議院ノ解散ヲ命ス」斯フ云フ大権事項ガ明カニナツテ居ルノデアリマス、然ルニ改正案ニ依リマスルト第二号ニ「國會を召集すること。」第三節ニ「衆議院を解散すること。」此ノ二ツノ事項ヲ認メテ居ルノデアリマシテ、開会、停会、閉会ト云フノヲ認メテ居ラナイノデアリマス、此ノ二ツノ事項ヲ認メテ置キナガラ、今申シマスル停会閉会ノ事項ヲ認メナイト云フ改正案ノ理由、此ノ点ヲ御伺ヒ致シタイノデアリマス、第四号ヲ見マスルト、是ハ現行憲法ニハナイノデアリマス、「國會議員の總選擧の施行を公示すること。」斯ウ云ツタ特別ノ新シイ権限マデモ認メテ居ルノニ拘ラズ、今申シマシタ点ヲ削除致シマシタコトノ理由ヲ御尋ネ致シタイノデアリマス
○金森国務大臣 此ノ第二号等ニ於キマシテ、現行憲法ヨリモ非常ニ簡略ナ言葉ガ使ハレテ居リマスルノハ、民主政治ヲ本当ニ実行ヲ致シマスル為ニハ、成ベク議会ノ働キガ十分伸ビルヤウニシナケレバナラヌ、斯ウ云フ風ニ考ヘタカラデアリマス、国会ヲ召集シナイデ、国会ガ自ラ集マルト云フノモ一ツノ考ヘデアリマスルガ、ソレハ行キ過ギデアルト云フ風ニ考ヘテ居リマス、又国会ヲ召集スルコトハ、天皇ニ累ヲ及ボサナイ趣旨カラ言ヘバ或ハ内閣ニ之ヲ属サシメテモ宜イデハナイカ、斯ウ云フ一ツノ考ヘモ起リマシタガ、国会ノ値打ヲ形ノ上デ尊重致シマスルニハ、是ハ勅命ニ依ツテ召集セラレルコトガ、適当デアル、斯ウ云フ風ニ考ヘマス、併シ又ソレガ天皇ノ実質上ノ御責任ヲ重カラシムルヤウナコトニナツテモ困ルト云フ考慮モアリマシタガ、国務大臣ノ助言及ビ承認ト云フ制度ガアリ又大体ニ於キマシテ政治ノ実情カラ言ヘバ、内閣デ法針ヲ決メタト云フコトハ明白ナコトデアリマスルガ故ニ、此ノ範囲ノコトハ一種ノ儀式ニ近イヤウナモノデアルト云フコトヲ考ヘマシテ、詰リ象徴タル御地位ニ伴フ程度ニ於キマシテ、必要ニシテ欠クベカラザル点ヲココニ掲ゲタ次第デアリマス、併シナガラ更ニ一歩進メマシテ、開会ヲ決メルトカ、閉会ヲ決メルトカ、或ハ停会ヲ決メルトカ云フ点ニナリマスルト、是ハ出来ルダケ議会ノ働キニ便利ナヤウニスルコトガ宜イノデアリマスカラ、細目自身ハ度々申上ゲマスルヤウニ、国会法ノ中ニ実践ニ必要ナル規定ヲ設ケナケレバナリマセヌケレドモ、大体只今ノ私ノ着想ト致シマシテハ、国会ハ召集セラルルダケデ特別ナル開会ト云フ第二段ノ行為ヲ俟タナイデ国会ガ働イテ行ケル、今ノヤウニ召集ハシタケレドモ、マダ開会ヲ命ジナケレバ働ケナイト云フ考ヘヲナクシマシテ、直グニ実質上ノ体形ダケ整フナラバ、ソレカラハ国会ガ自治的ニ動イテ行ケルノデアル、斯ウ云フ風ニ考ヘタ訳デアリマス、又停会ニ付キマシテハ、国会ト云フモノノ機能ヲ十分ニ致シマスナラバ、停会ト云フ制度ヲ恐ラク設ケル必要ハナイノデアリマス、停会ト云フコトガ事ニ依ルト議会ノ十分ナル働キノ邪魔ヲスル懸念モアルヤウニ思ハレマス、随テソレハ只今ノ所制度トシテ設クル考ヘヲ持ツテ居リマセヌ
次ニ此ノ閉会ニ関シマスル規定ハ、観念的ニハ固ヨリ閉会ノアルコトハ、此ノ憲法ニ議会ノ会期ガ定マツテ居ルヤウナ趣旨ガ仄見エテ居ルコトニ依ツテ分ルト思ヒマス、詰リ毎年一回召集ヲストカ、臨時ノ会ヲ召集ストカ、色々ナ方面カラ其ノ趣旨ガ明カニサレ居リマス、ソコデ閉会ト云フモノヲ如何ニシテ決メタナラバ宜イカト云フコトニ付キマシテハ、現行制度ヨリモ遥カニ自治的ナ、詰リ議会ノ側ニ於キマシテ、自治的ニ閉会ノ時期ヲ定メルコトガ出来ルヤウナ工夫ニシタナラバドウデアラウカ、ソレヲ国会法ニ盛リ込マウト考ヘテ居ルノデアリマス、先ニ北浦君等ヨリ細目ヲ示サナイデ此ノ憲法ヲ突出スノハ、多少御不満ノヤウナ口振リガ見エテ居リマスガ御尤モデアルニハ相違アリマセヌケレドモ、此ノ憲法ガ出来上リマシタ由来カラ行ケバ、細目マデモ決メルベキ余裕ハナカツタノデアリマシテ、根幹ダケヲ先ヅ決メテ細目ハ必要ナ時期ニ決メルト云フ態度ヲ執ツタ訳デアリマス、現在マダ細目ニ付キマシテハ相当ノ程度マデ研究ハ致シテ居リマスガ政府ガ責任ヲ以テ御答弁ヲスルコトニナリマスルト、相当ノ程度ノ研究ヲシタト云フダケデハイケナイノデアリマシテ、執ルベキ種々ナル手段ヲ執リマシテ、然ル後デナケレバ責任アル答弁ハ出来ナイノデアリマス、ソコデアチラコチラニ於キマシテ、膝突合ヒデアリマスレバ十分気持ノアル所ヲ申上ゲ得ルニ拘ラズ、此処デハ洵ニ空々シイト御思ヒニナルカモ知レマセヌガ、抽象的ニ御答ヘヲシテ居ル次第デアリマス、閉会ノ点ニ付キマシテモ実ハ相当ニ深ク踏込ンダル腹案ヲ持ツテ居リマス、閉会ヨリ先ニモウ一ツ問題ニナリマスノハ、会期ヲ決メルト云フ問題デアリマス、若シモ会期ガ先ニ決マリマスレバ、閉会ト云フコトモ実ハ簡単ニナリマス、現在ノ大体ノ腹案ト致シマシテハ、ドウモ初メカラ会期ト云フモノガナクテハ困ルソレデアリマセヌト、議会ガ何時マデノ予定ヲ以テ進行シテ宜イカト云フコトノ見当ガ付キマセヌ、ダカラヤハリ会期ヲ何等カノ方法ニ依ツテ設ケルコトハ必要デアルト考ヘマス、併シナガラ通常会ノ会期ヲ如何様ニスルカ、或ハ臨時会ノ会期ハドウシテ定マルカト云フコトハ、国会法ノ中ニ明白ニ規定ヲ置イテ、議会ニ出来ルダケ十分ナル働キガ可能ナヤウニシタイト思ヒマス、既ニ会期ガ決マリマスト、今度ハ会期デハモノガ旨ク行カナイ、会期ヲ延長シナケレバナラヌト云フ問題モ起ラウト思ヒマス、其ノ時ハ会期ノ延長ヲスル、現在ニ於キマシテハ謂ハバ行政部ノ所管ト申シマスカ、形ハ固ヨリ大権ニナツテ居リマスガ、行政部ノ一存ニ依ツテ会期ヲ延長スル、又臨時会ニ付キマシテハ会期ヲ縮小スル、斯ウ云フヤウナ権能ガ認メラレテ居リマシタ、今回ハ出来ルナラバ議会ガ十分ニソレニ対シテ発言権ヲ持タルルヤウナ方法ニ於テ会期ノ延長ヲスルコトガ適当デハナカラウカ、若シサウ致シマスレバ、会期ガ短カイト云フヤウナ苦情ガナクナリ、本当ノ議会政治ガ発達シテ行クノデハナイカト思ハルルノデアリマス、ソコデ会期ノ制度、ソレカラ会期延長ノ制度ト云フモノガ決マツテ来マスルト、ソレ等ニ依ツテ出来マシタ期間ガ終了致シマスレバ、議会ガ閉会ニナルコトハ当然デアリマス、其ノ閉会ノ方ノ規定ハ単ニ形式的ナモノデ、実質上ノ意義ヲ持タナイ、斯ウ云フコトニナツテ居リマス、サウ云フ風ニ考ヘテ参リマスト、真ニ重要ナ点ハ国会ヲ召集スル、サウ云フコトハ先ヅ解散ノコトハ別ト致シマシテ、ソレガ重要ニナツテ来ルソコデ憲法ハ国会ヲ召集スルト云フコトダケヲ規定ヲ致シマシテ、之ヲ天皇ノ国務権限ノ中ニ入レマシテ、其ノ外ノコトハ国会法ニ依リマシテ、最モ妥当ナル制度ヲ設ケタイト考ヘテ居ル次第デアリマス
○吉田（安）委員 只今会期ノ点ニマデモ触レマシテ、墾切ニ御答弁戴キマシタコトハ感謝致シマス、唯御言葉ノ中ニ民主政治ノ徹底、議会ノ運営ヲ促進サスル為ニハ、天皇ニ開会ト云ツタヤウナ大権ヲ認メル方ガ宜シイト云フ意味ノ如キ感ジノ致シマスル御言葉ヲ拝聴致シテ、私ハ聊カ遺憾ニ感ズル次第デアリマス、民主主義ノ徹底、ソレハ勿論ノコトデアリマス、議会運営ノ促進、是ハ当然ノコトデアリマスルガ、私ノ感ジマシタヤウナ点カラ致シマスレバ、独リ開会ノ大権ヲ天皇ニ認メマシタト致シマシテモ、其ノ為ニ民主主義ノ徹底ニ阻害ヲ生ズルト云フコトハ絶対ニナイト信ジマス、尚ホ議会ノ運営云々ト云フコトハ、是ハサウ云フコトデナクシテ、議会当事者ガ勉強サヘスレバ是ハ幾ラデモ促進ガ出来ル筈デアリマス、私ノ考ヘニ依リマスト、天皇ハ日本国ノ象徴デアラセラレマス、サウシテ年ニ一回ノ予算其ノ他ノ国政ヲ審議致シマスル帝国議会ノ召集、開会ニ当リマシテハ、天皇自ラ開会ノ詔勅ヲ御出シ下サイマシテ、サウシテ天皇親シク従来ノ通リニ御臨幸遊バシテ、荘厳ナル威儀ノ下ニ帝国議会ノ開院ヲナスト云フコトガ、是ガ日本ノ国情ニモ即応シマシテ、如何ニモ相応シイコトデアルト存ズルノデアリマス、併シ是ハ意見ノ相違デアリマスルカラ、此ノ点ニ付キマシテ御尋ネ致スコトハ取止メマス、唯会期ノ点ニ付キマシテハ、何レ是ハ国会ノ所デ常置委員其ノ他ノコトデ問題ニナルト思ヒマスカラ、其ノ点ハ其ノ時ニ御尋ネ致シマス、更ニ進ミマシテ第七条第五号デアリマス第七条ノ第五号ハ「國務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。」トナツテ居テ、是ハ今申上ゲマシタ全部ニ付テノ御認証デアリマスルガ此ノ官吏ノ任免ノ所デアリマス、国務大臣ノ任免ニ関シマシテハ第六十四条ガアル、最高裁判所ノ裁判官ニ対シテハ七十五条、下級裁判所ノ裁判官ニ対シマシテハ七十六条ニソレゾレ斯ウシタ規定ガアルノデアリマスルガ、サウ致シマスルト、法律ノ定メル其ノ他ノ官吏ト云フモノノ範囲デアリマス私ノ解釈スル所ニ依リマスルト、今申上ゲマシタ国務大臣、最高裁判所ノ裁判官、下級裁判所ノ裁判官、是レ以外ノ官吏ハ下級官吏ニ至ルマデ全部ト斯ウ私ハ解釈致シテ居ルノデアリマス、然ルニ図ラズモ或ル雑誌ヲ読ンデ居リマスルト、有力ナル法学者ノ人ガ其ノ他ノ官吏ト云フコトニ付テ、其ノ実際ハ親任官程度ノモノデハナカラウカト云ツタヤウニ如何ニモ紛ラハシイコトヲ言ウテ居ルノデアリマスカラ、其ノ他ノ官吏ノ範囲ヲ此ノ際御示シヲ御願ヒ致シマス
○金森国務大臣 一寸前ニ遡リマシテ、開会ノコトニ付キマシテ、私ガ述ベタ所ガ少シ誤解ヲ招イテ居ル嫌ヒガアリマスルカラ一遍弁明サセテ戴キマスガ、私ガ申シマシタ開会ト云フノハ、現在ノ憲法ノ上デハツキリ書イテアル開会ノコトデアリマシテ、申上ゲルマデモナク、此ノ議会ニ関シマシテハ先ヅ召集ト云フコトノ詔書ガ出マシテ、何月幾日ニ各議員ガ此ノ会堂ニ御集マリニナル、ソコデ召集ト云フ一ツノ事柄ガアリ、サウシテ、細カイコトハ能ク知リマセヌケレドモ、議長ヲ選ブトカ色々ナ方法ニ依リマシテ働クベキ姿ガ整ヒマスルト、次ニ開会ヲ命ズト云フ詔書ガ出ルノデアリマス、詔書ガ出マシテ議会ハ働キ得ル姿ニハナルノデアリマスルガ、其ノ次ニ更ニ開院式ト云フ儀式ガアリマシテ、陛下御自ラ議会ニ御臨ミニナツテ勅語ヲ賜フノガ例ニナツテ居ル訳デアリマス、私ガ前ニ開会ト言ヒマシタノハ、此ノ二ツ目ノ開会デアリマス、召集ニ次イデ開会ヲ命ズル旨ノ詔書ガ出マスルガ、其ノ詔書ノ段階ハ省イテモ宜イノデハナカラウカ、一体議員ガ集マリマスレバ働ケルノガ当然デアリマシテ、議長ヲ作ルトカ部属ヲ決メルトカ云フコトハ実ハ内輪ノ手続ニ過ギナイノデアリマシテ、速カニ其ノ体形ヲ整ヘテ働クノガ事情ニ合フモノト思ヒマシタカラ、其ノ意味ノ開会ハ省略シテモ宜イノデハナカラウカ、斯ウ考ヘタ訳デアリマス、天皇御自ラ行幸ニナツテ開会ヲ命ゼラレルカドウカト云フコトハ、是ハ多少ノ議論ガ伴ツテ居リマスル為ニ、目下内部ニ於テ研究中デアリマシテ、今御答ヘハ出来マセヌガ、ソレガ此ノ第七条第十ノ「儀式を行ふこと。」ト云フ権能ノ中ニ入ツテ居リマスルガ故ニ、開院式其ノモノヲ只今規定シテ居ルト云フ趣旨デ申上ゲタノデハゴザイマセヌ
次ニ「國務大臣及び法律の定めるその他の官吏」ト云フコトガアリマスガ、此ノ官吏ノ任免自身ハ是ハ今回ノ憲法ニ於キマシテハ、根本ハ国民ガ持ツテ居ル、国民ノ固有ノ権利デアル、斯ウ云フコトニナツテ居リマス、併シナガラ是ガ現実ニ如何ナル手続ニ依ツテ任免セラレルカト云フコトハ、官吏ニ関スル根本法ガ出来マシテ、其ノ根本法ニ依ツテ制度ガハツキリシテ来ルノデアリマシテ、其ノ任免ノ手続ヲ何処デ扱フカト云フコトハ、其ノ法律ガ決マルマデハ実ハハツキリシナイト云フコトニナルノデアリマス、唯大体ノ方向ニ於キマシテハ、現在ノ秩序ニ近イモノデアルコトハ是ハ自然ノコトデアリマシテ、特ニ申上ゲルコトモナイト思フノデアリマス、ソコデ第五号ニアリマスル特ニ天皇ノ認証ヲ用ヒル官吏ト云フ此ノ認証ト云フコトハ、前カラ軽イコトノヤウニ言ハレテ居リマスケレドモ形ノ上デハ決シテ軽イモノデハアリマセヌ、其ノ個々ノ辞令ナドノ上ニハツキリ天皇ガ御認証ニナツタ旨ガ現ハレテ来ルノデアリマシテ、此ノ取扱ハ大体親任官以上ノモノ――今日親任官以上ノ官吏ハ特別ナル手続、即チ御名ヲ御記シニナル、斯ウ云フヤウナコトニナツテ居リマスガ、大体サウ云フ所ノ形ヲ考ヘテ居ルノデアリマスルカラ、「法律の定めるその他の官吏」ト云フノハ原則トシテハ親任官ヲ考ヘテ居ル次第デアリマス、併シナガラ、其ノ後ノ方ニモアリマスルヤウニ、公使ノ信任状ト云フヤウナコトガアリマシテ、必ズシモ親任官ニ限ル訳ニハ出来マセヌノデ、時ニ例外ガアリ拡張セラレル場合モ起ルコトモ亦予想致シテ居リマス、随テ、濫ニ流レナイヤウニ、其ノ範囲ハ法律デ決メルノダト云フコトヲ五号ノ中ニ規定シテ居ル次第デゴザイマス
○吉田（安）委員 大体了承致シマシタ、次ニ第六項ノ恩赦ノ大権デアリマスガ、是コソ私ハ、日本ノ国柄カラ考ヘマシテモ、天皇ノ御仁愛ニ出ヅルヤウニスルコトガ適当デハナイカト考ヘマスガ、ソレヲ、此ノ実体ヲ内閣ニ移シマシタ点ニ付テ、モウ一応御面倒デアリマスガ御答弁ヲ御願ヒ致シマス
○金森国務大臣 恩赦ノ権能ト云フモノハ、仰セニナリマシタヤウナ天皇ノ御仁愛ニ基クト云フ一ツノ大キナ心持ヲ伴ツテ居ルコトハ申スマデモナイノデアリマス、併シ他ノ一面ニ於キマシテ、冷静ナル学者ノ判断スル所ニ依リマスト一体、国ニ法律ガアル、其ノ法律ニ依ツテ裁判所ガ刑罰ヲ言渡シタ既ニ刑罰法規ヲ国会ニ於テ決メルト云フコトハ十分慎重ニ研究シタコトデアツテ、決シテ無辜ノ者ニ刑罰ヲ加フル考ヘデ出来テ居ルコトデナイコトハ言フマデモアリマセヌ、又個々ノ裁判所ガ刑罰ノ言渡ヲ致シマスル時モ、固ヨリ誠心誠意ニスルコトデアリマスルガ故ニ、其ノ刑罰ハ原則トシテ間違ヒノナイ根拠ニ基クモノト言ハナケレバナリマセヌ、斯様ナ国会ガ誠心誠意ヲ以テ定メタル刑罰法規、裁判所ガ誠心誠意ヲ以テ言渡シタル刑罰ノ結果ヲ、恩赦ニ依ツテ、罰セズ、或ハ将来ニ向ツテ其ノ刑罰ノ効果ヲ失ハシムルト云フ処置ヲ致シマスルコトニ於キマシテハ単ニ天皇ノ御仁慈ト云フ其ノ心持バカリデハナク、根柢ニ於テ深イ理由ガナケレバナラヌト思フノデアリマス、如何ナル事情ガ其ノ根柢ヲ作ツテ居ルノデアルカト申シマスルト、大体ノ私共ノ持ツテ居リマスル考ヘ方ハ、法ト云フモノハ詰リ国ノ掟ハ十分考ヘテハ出来テ居リマスルケレドモ、ドウシテモ原則的ノモノデアリマスルガ故ニ、一ツ一ツノ場合ニ於キマシテハ不適当ナル場合ガアル、百千万ニ対シテハ原則トシテ此ノ罰則ガ宜イト云フコトニナリマシテモ、其ノ中ノ或ル特殊ノ場合ニ於キマシテハ、ドウモ其ノ罰則ガ合ハナイト云フコトガ起ルノデアリマス是ハ法ト云フモノガ個々ノ場合ヲ無視シテ一般的ノ規定ヲ致シマスルカラ、巳ムヲ得ザル行キ途デアラウト存ズルノデアリマス、又裁判所ノ判決モ、固ヨリ前後ノ事情ヲ能ク考ヘテ行ハレルニハ違ヒアリマセヌケレドモ、時ニ若干ノ不自然ナル、一般常識カラ見テ洵ニ情ニ忍ビザルヤウナ結果ガアリ、特殊ナ事情ガ起ルコトモ亦免レ得ナイノデアリマス、他ノ一面カラ考ヘマシテ、国家ニ特別ナル例ヘバオ目出タイコトガアル、大キナ国民精神ニ影響ノアルト云フヤウナコトガアリマスル時、普通ノ場合ナラバ刑罰ヲ以テ臨マナケレバ其ノ犯罪人ノ心ハ改マラナイノガ普通デアリマセウガ、国ノ重大ナル場面ニ於テ心ヲ練リ直ス機会ヲ持チマスト、機械的ナル刑罰ヲ加ヘナクテモ、自ラ刑罰ヲ加ヘタト同ジヤウナ反省或ハ心ヲ洗ヒ清メルト云フ働キヲ持ツコトニナルト思フノデアリマス、概括シテ之ヲ申シマスルナラバ、法ノ持ツテ居ル一般性、又或ル程度ニ裁判所ノ行フ法律ニ対スル忠実性ト云フモノガ、他ノ大キナ見地カラ見マシテ、個々ノ場合ニ適合シナイト云フ事情ガアル、其ノ事情ヲ恩赦ノ働キニ依ツテ調節ヲ致シマシテ、国民ノ刑罰ニ対スル関係ニ無理ノナイヤウニスルト云フコトニ此ノ恩赦ノ意義ガアラウト思ヒマス、サウ考ヘマスト、結局ソレハ立法権、行政権、司法権ト云フモノヲ機械的ニ分ケマシタコトカラ起ル色々ナ不合理ヲ、強クト申シマスカ、広キ眼ヲ以チマシテ是正スルト云フコトニ帰着スルノデアリマス、ソコデ其ノ範囲に於キマシテハ、相当面倒ナ政治ヲ達成スル上ニ果シテ宜イカドウカト云フコトニ付キマシテハ、可ナリ争ヒノ起ル問題ガアルノデアリマス、アノ人ヲ恩赦シタコトハ間違ヒデアル此ノ特別ナル減刑ハ甚ダ筋違ヒデアル、一人ノ人ヲ救フ為ニ全体ノ徳義心ヲ壊シタト云フヤウナ非難モ起リ易イノデアリマス、随テ之ヲ直チニ天皇御自ラノ御裁断ニ任スト云フヤウナ形式ヲ採リマスヨリモ、比較的公正ナル立場ニアリマスルト考ヘラレル内閣ニ其ノ実際ノ判断ヲ置イテ、実質的責任ハ総テ内閣ニ集中シテ、ソレガ国民ニ齎シマスル有難サヲ認証ノ形ヲ以テ表明スルコトノ方ガ寧ロ妥当デハナイカ、サウ云ウ見地カラ認証ニ致シタ訳デアリマス
○吉田（安）委員 只今ノ御説明ハ分リマス、分リマスガ、一朝過ツタコトヲ心カラ洗ヒ清メルト云フ此ノ気持ヲ起サセルト云フコトデアリマシタナラバ、尚更私ハ是ハ天皇御自ラ仁愛ノ迸リガ最モ適当ナ方法デハナイカト斯様ニ考ヘルノデアリマス、又内閣ガ之ヲ決定スルト云フコトハ、政治的意味カラ致シマシテモ、果シテ適当デアルカドウカト云フコトハ多クノ疑ヒヲ持ツ次第デアリマス、現在明治憲法ニ於キマシテモ、此ノ大赦特赦ト云ツタヤウナコトハ、天皇ガ直チニ突然オヤリニナルノデナクシテ、或ル適当ナ事象ガアリマスル時ニ、恐ラク――私ハサウ云フ内容ハ知リマセヌケレドモ、内閣、当局ガ実際ノコトヲ取扱ツテサウシテ其ノ大権ノ発動ニナツテ居ルコトダト存ジマス、サウ云ツタコトデアリマスルナラバ、是ハ実質上ハ変ツタコトデハナイト存ジマス、金森国務大臣ノ御心配ニナル点ヨリモ、寧ロ斯ウ云フコトニスルコトガ――私ハ本当ニ国ニ対スル感謝報恩ノ気持ヲ起サセルコトニ付テハ如何ナモノデアルダラウカ、斯ウ考ヘマス、国家ノ意思発動、所謂日本象徴ノ天皇ノ広大無辺ナル仁愛ノ御心持ニ浸ラシメルト云フコトガ、一番私ハ過ツテ罪ヲ犯シタ人達ヲ心カラ助ケ出ス方法デハナイカト存ジマス、併シ是ハ意見ノ相違ニナリマスカラ此ノ程度デ打チ切リマス
更ニ御面倒デアリマスガ、第七項ノ栄典授与、是ハ現行憲法第十五条其ノ侭デアリマス、言葉ノ使ヒ方ガ違ツテ居ルダケデ、其ノ侭ノモノガ残ツテ居ルト見テ差支ヘナイノデアリマスガ、ココニ栄典ヲ授与スルコトトアリマスル此ノ栄典デアリマス、是ハ十三条其ノ他ノ関係デ非常ニ複雑ヲ極メテ解釈ニ難渋スルノデアリマスカラ、此ノ際ハツキリ承ツテ置キタイト思ヒマスコトハ、此ノ栄典ノ所謂範囲内容デアリマス、大体分ツテ居リマスガ、親シク国務相ノ御返答ヲ承ツテ置キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 栄典ハ仰セノ通リ現在備ハツテ居リマスル栄誉大権ノ中ニ含マレテ居リマスル諸種ノ制度ヲココニ盛リ込ンデ居ルト云フコトニ付キマシテハ、別ニ申上ゲル程ノコトハナイト思ツテ居リマス、問題ハ栄典ト云フコトガ第十三条ニモアリマスルヤウニ、如何ナル特権モ伴ハナイト云フコトト、栄典ノ授与ハ一代限リト云フコトト、此ノ二点ガ栄典ニ関シマスル考ヘノ根本ヲ左右スル所ノモノデアル訳デアリマス、現在ノ憲法ノ下ニ於キマシテノ栄典ニ付キマシテハ、運用ノ上ナドカラ申シマシテ、甚ダハツキリシ兼ネル制度ガアル訳デアリマス、御承知ノ如ク爵位勲章トカ云フヤウナ風ニ中味ハ分レテ居リマスルガ、現在一ツノ憲法ノ規定カラ出テ来マスルモノデモ、是ガ爵トナリマスレバ宮中ノ制度トナツテ、国務大臣ハ関係シナイデ其ノ栄典ガ与ヘラレテ行クノデアリマス、又勲章ニナリマスレバ、是ハ全ク形ノ上ニ於キマシテハ政府ノ所掌ノ事項トシテ其ノ栄典授与ガ行ハレテ行クノデアリマス、又位ニナリマスルト、是ハ政府ノ仕事デアルカ宮中ノ仕事デアルカ甚ダハツキリシニクイノデアリマス、位ヲ与フルコトヲ決定致シマスルノハ、国ノ職員ニ付キマシテハ政府ガヤル、宮内省ノ職員ニ付キマシテハ宮内省現実ニ位ヲ授ケマスルノハ宮内省デ行ハレルト云フコトニナリマシテ、現在ノ栄誉大権ト云フモノガ宮中ノ事務デアルノカ、国務デアルノカ、又正直ニ申シマスレバ訳ガ分ラヌ、斯ウ御答ヘスル方ガ正シイ行キ途デアリマシテ、分ラヌト云フコトハ責任アル者ガ言ヒ切レヌモノデアリマスカラ、種々雑多ナ苦シミヲ冒シツツ説明シテ居ルヤウナ実情デアル訳デアリマスガ、之ヲ虚心坦懐ニ今マデアリマスル所ノ幾多ノ欠点ヲ除イテ考ヘマスレバ、栄典ト云フモノハ或ル人ガ国家的ニ見テ、之ヲ尊ブベキ実質ガアルト云フコトヲ国家ガ認定ヲスル、本質ニ於テ国家ガ見定メテソレニ然ルベキ他ノモノト区別アル名誉ヲ授与スルト云フコトデアラウト思フ訳デアリマス、随テ今回ノ此ノ第七号ニ栄典ヲ授与スルト致シマシタノハ、言葉ハ特ニ変ツテハ居リマセヌガ、全部内閣ノ責任ニ於テ、此ノ助言ト承認トニ依リマシテ、栄典ハ行ハレテ行クト云フヤウニ、栄典ノ謂ハバ行政ニ関スル一元化ト云フヤウナコトヲ、ハツキリ意図シテ居ル訳デアルノデアリマス、サウシテ又一代限リト云フコトハ、是ハ栄典授与ノ意味ガ、或ル特定ノ人ガ、真ニ国家カラ見テ名誉ヲ認ムベキモノデアルト云フコトデアリマスルガ故ニ、ソレガ子々孫々ニ続クト云フガ如キ原理ヲ取ルベキデナイト云フコトデ、其ノ範囲ガ決マリマシテ、栄典世襲制ナルモノヲ、此ノ憲法ハ否認シテ居ル訳デアリマス、ソコデ次ニ然ラバ此ノ栄典ト云フモノノ全然特権ヲ伴ハナイモノデアルナラバ、栄典タルノ価値ガナイデハナイカ、何等ノ意味ノナイモノデアツテ、唯之ニ勲章ヲ授ケル、位ヲ授ケル、学術的ノ表彰ヲスル、何カノ印ヲ与フルト云フコトヲ致シマシテモ、本当ニソレガ社会的に尊マルベキ実体ヲ備ヘナケレバナラヌノデアリマスルガ、併シ其ノ限度ヲ或ル程度超エマスルト、是ガ栄典ト権力トノ混淆ニナリマシテ、今日ノ議会制度ニ貴族院ノ構成ノ中ニ編込マレテ居ルヤウナ好マシカラザルコトニモナルノデアリマス、又現在任用ノ上ニ残ツテ居ルカト思ヒマスガ少シ私最近ノコトハ知リマセヌガ或ル官職ニ付キマシテハ不思議ナコトデハアリマスルケレドモ、或ル爵位ヲ持ツテ居ル人ガナレルト云フヤウナ弊ガアツタノデアリマス、現在ハナイト思ヒマス、サウ云フヤウナコトハ、是ハ栄典ト任用制度トヲ混同シタモノデアツテ恐ラク欠点ガアル、ダカラ此ノ栄典ト云フモノハ全ク其ノ人ノ名誉ヲ国家的ニ尊重スルト云フ限度ニ止ムベキモノデアルト云フ趣旨ヲ以テ第十三条ニ「いかなる特權も伴はない。」ト第三項ニ書イテアル併シ勲章ヲ戴ケバ勲章ヲ胸ニ下ゲルト云フコトハ必然ノコトデアリマス、又位ヲ戴キマスレバ、何等カノ形ニ於テ宮中ノ議席ヲ定メル時ニソレガ根柢トナルト云フコトハ、是ハ位ト云フコトカラ来ル自然ノ結果デアラウト思ヒマス、サウ云フ最小限度ノ名誉ヲ保全スルニ足ルベキ特別ノ扱ヒヲ規定スベキデハナイカ、斯ウ云フ考ヘノ下ニ、第七条ノ栄典ヲ授与スルト云フコトハ残リマシタ、而モ是ハ先程恩赦ニ関シテ吉田君ガ仰セニナリマシタ所ノ議論ニ近イ訳デアリマスガ、是コソ国ノ象徴デアル天皇ノ御意思ニ依ル部分ガ多イト云フコトヲハツキリサセマスル形式上ノ考ヘカラ、是ハ認証デハナクテ、天皇御親ラノ行為デアリ、唯内閣ノ助言及ビ、承認ガ要ル、斯ウ云フ風ナ形ヲ取リマシタ次第デゴザイマス
○吉田（安）委員 大体了承出来マシタガ、此ノ取扱ガ其ノ種類ニ依リマシテ、宮中ノ範囲カ政府ノ範囲カト云ツタヤウナコトハ、私ハ勿論分ルベキモノデハナイノデアリマスガ、サウシマスルト、私不敏ニシテ今マデノ明治憲法ノ解釈ト致シマシテ、栄典ト云フモノノ種類内容ト申シマスレバ、大体五種類バカリニ考ヘルコトガ出来ルト思ヒマス、爵位、勲章褒章、其ノ褒章ノ中ニモ藍綬章モ文化章モ此ノ頃出来テ居リマスカラデゴザイマセウ、或ハ従軍記章デアルトカ学位デアルトカ、斯ウ云フ風ニ見テ居リマシタガ、改政憲法ニ依リマスト、将来斯ウ云ツタモノ以外ニ、勿論国家ガ認メテ他ノ種類デ栄典ト云フコトヲ――栄誉ト言フノデスカ、栄典ヲ認ムルコトモアリ得ルト、斯ウ存ジテ居リマス就キマシテハ、十三条トノ関係デアリマスルガ、是ハ此ノ時ニ御尋ネスルコトニ致シテ居リマシタガ端的ニ申シマスナラバ、此ノ第七条ノ第七号ノ栄典ト云フ中カラハ爵位ト云ツタモノハ勿論省カレル訳デスネ
○金森国務大臣 爵位ト云フノハ爵ト位ナノカドウカ分リマセヌガ将来ハ爵ハ省カルル考ヘヲ持ツテ居リマス
○吉田（安）委員 サウシマスト、十三条ノ「榮典の授與は、現にこれを有し、又は將來これを受ける者の一代に限り、その效力を有する。」此ノ「一代に限り、」ト云フノハ蛇足ノヤウニ考ヘマスガ、如何デアリマスカ
○金森国務大臣 蛇足ト申シマスルカ、マアナクテモ或ハ分ルカモ知レマセヌガ、詰リ勲章ヲ戴キマスレバ、勲章ヲ胸ニ付ケ得ルノハ其ノ一代限リデアル、子孫ハ保有ハ出来ルカモ知レヌガ、胸ニ付ケテ歩イテハナラヌ、或ハ位ヲ戴キマスレバ、其ノ人、一代ハ――マア位ハ分ツタコトカモ知レマセヌガ、位ヲ相続スルコトハナイ、斯ウ云フ趣旨デアリマシテ、ヤハリナイト釣合ヒガ取レナイヤウナ気ガシマスガ・・・・
○吉田（安）委員 ドウモ勲章ヲ胸ニブラ下ゲテ歩クノハ、是ハ子供ノ代ニナツテ出来ナイコトハ分ツテ居リマスカラ、サウ云フ点カラ行クト是ハ必要ガナイヤウデアリマスガ、其ノ点ハ是デ打切リマス
最後ニモウ一点御尋ネヲ致シマス、第八ノ批准書、是ハ要スルニ条約締結ノ関係デアリマスガ、是モ六十九条デ先ニ行ツテカラ御尋ネスル方ガ適当ト思ヒマスケレドモ、偶々ココニ批准書ニ認証遊バサルルコトガ出テ居リマスカラ、序デニ御尋ネシテ置キマス、条約ハ批准ニ依ツテ効力ヲ発生スルモノダト考ヘマスガ、内閣ガ条約ヲ締結スル、サウシテ批准モ此ノ文案カラ行キマスト内閣ガスルト云フコトニ考ヘラレルノデアリマスガ其ノ二段階ノ行為ヲ同一内閣ガスルト云フコトハ、是ハ一寸割切レナイ感ジガ致スノデアリマス、勿論之ニ付キマシテハ、国会ノ事前又ハ事後ノ承認ヲ必要トスルト云フコトニナツテ居リマスルガ、此ノ点ハ内閣ガ条約ヲ締結シ、批准書マデモ作ルト云フコトニスルヨリモ、条約締結ハ内閣ガスル、サウシテ其ノ批准ハ内閣ニ行ハセルノデナクテ国会ガスル、サウシテ其御認証ヲ陛下ガ遊バスト、斯ウ云フ風ノ構成ヲ御採リニナルコトハ如何デゴザイマセウ
○金森国務大臣 条約ニ関シマスル各個ノ規定ハ、文字トシテハ簡単デアリマスルケレドモ、非常ナ幾ツカノ場合ガアリマシテ、一言ニシテ申上ゲルコトハ困難デアリマスルガ、極ク形式的ナ場合ヲ執ツテ考ヘテ見マス時、仰セノ如ク六十九条ニ於テ条約ヲ締結スルノハ内閣ノ職責トナツテ居ルノデアリマス、併シ此ノ締結スルト申シマスルノハ、完全ニ条約ガ出来上ルト云フコトノ実体ヲ指シテ居ルノデアリマシテ、批准ノ要ラナイ条約ニ付キマシテハ、条約ノ中ニ色々ナ形ガアリマシテ、事実大多数ノ条約ハ批准ヲ用ヒナイ、署名スルト云ルコトニ依ツテ締結ノ実体ガ成立スルモノモゴザイマス、ソレカラ又批准ヲ要スルモノモアル訳デアリマス、内閣ハ何レノ条約タルトヲ問ハズ、締結ニ関スル実質上ノ権能ヲ担任スルト云フコトニナツテ居ルノハ、六十九条ノ第三号ノ意味デアリマス、現実ニ之ニ署名ナドヲ致シマスルノハ、場合ニ依ツテ違ヒマスケレドモ、多クハ全権ノ大使公使或ハ外務大臣ト云フモノガ、其ノ条約ニ署名ヲスルノガ普通デアリマシテ、内閣ハ其ノ中心ニ居ツテ、条約締結ノ根幹ヲ握ツテ居ル訳デアリマシテ、ソンナニ形ノ上デヲカシイコトモナイト思ヒマスガ、要スルニ実質上ノ責任ハ内閣ガ此ノ条約ニ付テ持ツベキモノデアル、ダカラソレガ批准条約タルト、或ハ署名条約タルトヲ問ハズ、内閣ガ全部ノ責任ヲ負フベキ実行行為ヲスル併シ最後ノ仕上ヲスルノハ天皇ノ批准書ノ認証ニ依ツヲ完成ヲスルト云フコトデアリマスルカラ、現在ノ行キ途ト大シタ形ノ上ニ於テ異ナルコトハナイノデアリマス、議会ノ承認ノコトハ別ト致シマシテ、ソンナニ違フコトハナイノデアリマス、唯法律上ノ議論ノ立テ方ガ、意思表示ノ中味ヲ内閣デ決メルノダ、天皇ハ唯内閣ガ決メタト云フコトヲ御認証ニナルノデアル、天皇ノ行為ハ事実ヲ認識スル御行為デアツテ、事実ヲ創設スル御行為デハナイト云フ所ニ差ガアリマスケレドモ、其ノ他ノ形ニ於キマシテハ、殆ンド違ツタ形ハ起ラナイト思ツテ居リマス、ソコデ少クトモ実際ノ形ノ上デハ僅カノ差シカナイモノデアリマス、法理的ニハ相当違ヒガアリマス、其ノ工夫ニ依リマシテ、天皇ニ政治的ナル責任ガ重ク実質的ニ掛ツテ行クコトノナイヤウニ期スルト云フ精神カラ、斯様ナ合セ方ニナリマシタノデ、前カラ申シテ居リマシタ天皇ノ実質的責任ト云フコトヲ考慮ニ入レマセヌケレバ、今御話ニナリマシタヤウナ方法ハ十分執レマスケレドモ、サウデナイト、斯ウ云フ形ガ一番宜イノヂヤナイカト思ツテ居ル訳デアリマス
○吉田（安）委員 只今御言葉ノ中ニアリマス通リニ、批准ヲ要セナイ条約ト批准ヲ要スル条約ガアルコト、仰セノ通リデアリマス、サウ行キマスナラバ、尚更批准ヲ要スル条約ハ今申上ゲタヤウナ組織ニスルコトガ適当デハナイカ、斯様ニ思ヘマスルケレドモ、尚ホ御言葉ヲ聞イテ居リマスト、六十二条ノ第二項ノ斯ウ云ツタ精神カラ考ヘマシテモ、御言葉御尤モト考ヘマシテ、此ノ程度デ私ノ質問ヲ打切リマス
○芦田委員長 北浦君ニ御相談シマスガ、モウ正午ニ近イヤウデスガアナタノ御質問ハ五分カ十分デ終ラナイデセウト思ヒマスガ、ドウシマスカ
○北浦委員 午後ニ願ヒマス
○芦田委員長 午後一時半カラ会議ヲ開キマス是ニテ休憩致シマス
午前十一時五十五分休憩
―――――――――――――
午後一時四十四分、開議
○芦田委員長 休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――北浦圭太郎君
○北浦委員 議題トナリマシタ第七条ノ第一号、ココニハ公布ト云フ文字デ表ハシテ居リマスルガ、此ノ憲法改正ト云フコトハ、此ノ草案ニ付テハ洵ニ重大ニナツテ居リマスルガ、例ヘバ九十六条ニ依リマシテ、公布ノ日ガ此ノ憲法発効ノ起算点ニナツテ居リマスルコトハ、問題ノナイ所デアリマス、ソコデ私御伺ヒ致スノデアリマスガ、此ノ公布ハ、此ノ草案ガ憲法トナリマシテ然ル後ニ公布セラレルノハ如何ナル形式ニ依ツテ公布セラレルノデアルカ、此ノ点ヲ先ヅ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 此ノ憲法改正案ガ公布セラレマスルノハ、現在ノ規定ニ従ツテ公布セラレル訳デアリマシテ、今日現ニ存在シテ居リマスル公式令ノ中ニ之ニ関スル規定ガアリマシテ、其ノ極ク原則的ナ取扱方ニ依ツテ公布致ス積リデアリマス
○北浦委員 然ラバ此ノ公布ノ形式ハ、公式令ノ第三条ニ拠ルベキデアルト思ヒマス、サウ致シマスト、是ハ枢密顧問ノ諮詢、ソレカラ帝国憲法第七十三条ノ決議ヲ経タル旨、斯ウ云フコトヲ記載スルト云フコトガ要件ニナツテ居リマス、ソコデ御伺ヒスルノデアリマスルガ、一体枢密顧問ノ諮詢ハ既ニ経タモノデアルカ、経タモノデアルトスルト、今回提案サレル詔勅ノ中ニ御記入相成ツタノデアルカドウカ、此ノ点御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 此ノ草案ガ本院ノ議ニ付セラレマスル前ニ於キマシテハ、枢密顧問ノ御諮詢ヲ経テ居リマス、ソシテ是ガ公式令ニ依リマシテ官報ニ掲載サレマスル場合ニハ、其ノ上諭ノ勅語ノ中ニ枢密顧問ノ諮詢ヲ経タル旨ヲ御記入ニナルノガ、其ノ公式令ニ定ムル原則ニ従フ所以デアリマス、今御尋ネニナリマシタコトハ、何カ少シ言葉ノ行違ヒガアルカモ知レマセヌ、此ノ議会ニ掛ケル時ニ枢密顧問ノ諮詢ヲ経タル旨ガ書イテアルカ、斯ウ云フ御趣旨カト思ヒマスガ、ソレハ其ノ公式令ノ関係スル所デハゴザイマセヌ
○北浦委員 私ハ斯ウ云フ風ニ解釈シテ居リマス、議会デ審議シ、之ヲ決議致シマシテモ、枢密顧問ノ諮詢ト云フ手続ヲ経テナケレバ公布ノ効力ヲ成サヌ、ソコデ我々カラ考ヘテ見マスルト、枢密顧問ノ諮詢ト云フコトハ一種ノ控訴抗弁ヲ述ベタ、議会ノ決議アツテ後ニ諮詢ト云フコトハアリ得ナイ、今私ハアナタニ初メテ此ノ議会ニ提案サレル前ニアツタト云フコトヲ伺ヒマシタガ、新聞デモ一寸見タヤウニ思ヒマスルガ、是ハ天皇ノ内部的ノコトデアツテ、外部ニハ少シモ分ラナイ、ソコデ私ハ議会ニ提案サレル時ニモ――少クトモ此ノ草案ヲ議会ニ提案サレル時ニ、此ノ手続ハ経タノダト云フコトヲ公示セラルル必要ガアル、斯様ニ思フノデアリマスガ、併シ是モ結局議論ニナリマスルカラ、是ハ是デ止メテ置キマセウ
第二点ト致シマシテ、幸ヒ同僚ノ吉田代議士デアラレマシタカ、一寸失礼シテ私名前ハ忘レマシタガ、此ノ恩赦ノ大権之ヲ私ハ初メカラ天皇ノ憲法上ノ大権事項ニスベシ、所謂承認トカ云フヤウナモノハ要ラナイノダト云フコトヲ主張致シテ居リマシタガ、今日同僚カラサウ云フ趣旨ノ質問ガアリマシテ、国務相ノ御答弁ガ色々アリマシタガ、私ハ之ニ服スルコトガ出来ナイ、ト申シマスルノハ、之ヲ内閣ニヤラスト云フコトハ比較的公平ダト云フ御見解ノヤウデゴザイマスルガ、天皇ハ国民憧レノ中心デアル、心ト心ノ繋ガリノ中心デアル、モツト深イ所ニ意味ガアルト仰シヤイマスルガ、先ヅ先ヅ我々ハ斯ウ解釈スル其ノ天皇ニ恩赦ノ大権ヲ専属セシムルト云フコトハ、是ハ最モ適当デアル、本会議ニモ申シマシタヤウニ、何モ是ハ各被告ヲ救済シタリ、或ハ先程国務相ガ仰シヤツタヤウニ、裁判官ノヤツタ稀ニアルコト、其ノ稀ニアルコトヲ救済スル、監督スル手段デアル仁慈ト云フ御言葉モアリマシタガ、是モ政治的ニ申セバサウデゴザイマセウケレドモ、本当ハ裁判官神ナラズ、間違フ、沢山ハアリマセヌガ、間々アル、ソレカラ国務相ノ御説明ノ如クニ法律ハ具体的ニ百般ノコトヲ規定スルノデハナイ、当嵌メルノニ非常ニ難カシイ場合ガアル、間違フ場合モアル、之ヲ矯正シテ以テ監督スル方法ガ、所謂此ノ恩赦ノ大権デアル、是ハ内閣ハ公平デアルト仰シヤイマスルガ、国民ノ目カラ見ルト云フト、今後ノ内閣ハ、或ハ進歩党ノ内閣デアツタリ、自由党ノ内閣デアツタリ、社会党ノ内閣デアツタリ致シマス、誰ノ目カラ見テモ、天皇ヨリハ公平ナリト云フコトハ言ヒ得ナイ、此ノ点私ノ御伺ヒ致シタイノハ、ナゼ之ヲ天皇ノ専権ニスルコトガ出来ナイノカ、何時モアナタノ仰シヤルヤウニ、成ベク天皇ハ政治圏外ニ置イテオキタイ、是ハ私モ御同感デアリマス、ケレドモ政治的ニハ仁慈ノ政、仁政、サウシテ法律的ニハ司法官、裁判官ノ監督、之ヲ天皇ノ専権ニ委ネテドウ云フ不都合ガ起ルカ、何処ガ悪イカ、此ノ点ヲ先程御説明ニ相成ツタノデアリマスルガ、私ハ服スルコトガ出来ナイ、外ニ先程御説明ノアツタ以外ニ理由ガアレバ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 御尋ネノ点ノ一番根本ハ、何故ニ今回憲法ノ改正ヲシナケレバナラナイカト云フ根源ノ原理ト触レテ居ルモノト思フノデアリマス、過去ノ憲法ノ下ニ於ケル政治ガドウ云フ不自然ナル結果ヲ齎シマシテ、世界ノ疑惑及ビ実質上国家ノ紛糾ノ種ニナツタカト云フコトハ、我レ人共ニ能ク知ツテ居ル所デアリマス、ソレヲ如何ニシテ補正スルカト云フコトガ、此ノ憲法改正ノ根本ノ眼目デアリ、民主政治ヲ実現スルト云フ所ガ其ノ点ニアル訳デアリマス、併シ他ノ一面カラ申シマスレバ、我ガ国根本ノ特色ヲ基礎トシツツ十分ノ制度ノ活用ヲシテ行カナケレバナラヌト云フコトモ一ツノ考ヘデアリマス、ソレガ何処ニ於テ完全ニ折衷サレテ行クカト云フ折衷点ヲ求メル所ニ於テ、此ノ憲法ノ各箇ノ条文ガ出来テ居ルノデアル、天皇ガ実質上御責任ヲ御負ヒニナル可能性ノアルコトハ極力避クルガ宜イ、恩赦ノ如キモノモ固ヨリ是ハ天皇ノ大権ニスルコトニ少クトモ過去ニ於テハ十分理由アリトシテ世間デ言ハレテ来テ居ツタコトデアリマスガ、今日之ヲ変ヘザルベカラザルニ至リマシタ根本ノ事情ニ付テ、篤ト御諒解ヲ得タイト思フ訳デアリマス
○北浦委員 次ニ栄典大権デアリマスガ、国務相モ御承知ノ通リ、慣習ハ憲法ノ淵源デアリマス、憲法ノ淵源ハ沢山アリマセウ、特ニ慣習ハ憲法ノ淵源デアル、コノ栄典大権ハ我ガ国有史以来――先ヅ奈良朝以前ノ文字ノナイ時代ノコトハ措キマセウ、奈良朝カラコチラデハ、何時如何ナル場合ト言ヒマシテモ、栄典大権ダケハ皇室ノ御手ニアツタコトハ御承知ノ通リデアリマス、秀吉ニシテモ、或ハ又信長ニシテモ、皆皇室カラノ栄典大権ヲ行使サレテ喜ンダノデアリマス、只今アナタノ仰シヤルヤウニ、何故ニ斯クノ如キ憲法改正ヲ致サナケレバナラヌカ能ク分ツテ居リマスガ、平和ト民主主義、此ノ方向ニ向フ為ニ、昔カラ皇室ニアツタ所ノ栄典大権ヲ剥奪シナケレバナラヌト云フ根本ノ理由ハ私ハナイト思フ、平和ト民主主義トノ関係――真ニ民主主義ヲ体験スルナラバ、本当ハ栄典大権ナンカ要ラナイ、ソコハアナタノ仰シヤル調和ガ肝腎デアル、サウスルト此ノ栄典ヲ内閣ノ助言承認ニ依ツテ授与スルト云フ必要ガ何処ニアルカ、助言ハ私ハ宜イト思ヒマスガ、承認――戦国時代デモ時ノ太政大臣ノ承認ガナケレバ栄典大権ヲ行使出来ナカツタト云フ文献ハゴザイマセヌ、随分探シテ見マシタ、此ノ点ニ付テ恩赦ノ大権ト同ジヤウニ、栄典大権ヲ天皇ノ憲法上ノ大権事項トシテ残ス訳ニハ行キマセヌカ、其ノ理由ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 栄典授与ノ大権ハ、現行制度ノ建前ニ於キマシテハ、余程類似シテ居ル訳デアリマス、即チ現行制度デアリマスレバ国務大臣ノ補弼ニ依ツテ行ハルルノガ原則デアリマス、此ノ憲法ノ下ニ於キマシテハ、内閣ノ助言ト承認ニ依ツテ行ハルルノデアリマスルガ故ニ、恩赦権ノ場合トハ事情ヲ異ニシテ居ルト云フ点ニ於キマシテ、余程現行制度ニ似テ居ル訳デアリマス、随テ現行制度ニ於テノ正シサハ、此ノ制度ノ又正シサトモナル訳デアラウト思フ訳デアリマスガ、今ノ御話ニ依リマスレバ、助言ハ宜イ、承認ハ要ラナイデハナイカト云フ御説明デアリマシタガ、現身ノ天皇ニ誤リナキヲ期スルト云フ考ヘカラヤハリ他ノ国務遂行ノ権能ト同ジヤウニスル方ガヨリ正シイト思フノデアリマス、殊ニ此ノ方面ニ於キマシテハ、過去ニ於テモ相当紛議ヲ生ジタコトガアリマシテ、一言御参考ニ供シタイト思ヒマスガ、乃木大将ガ亡クナラレタ後ニ、或ル方ガ其ノ後ヲ継グガ如キ趣旨ヲ以テ華族ニ列セシメラレタト云フコトニ対シテ世ノ中デ囂々タル非難ノ声ガ起リマシタ時ニ、ソレハ国務大臣ノ輔弼ノ範囲デハナイト云フコトニ依リマシテ、時ノ内閣ハ責任ヲ負ハナイノデ、遂ニ其ノ責任ノ行方ガ的確ニ政治ノ舞台ニ於テ論議セラレナカツタト云フヤウナ事実モゴザイマスカラ、サウ云フ点モ考ヘ合セテ、此ノ規定ノ仕方ガ不合理デナイト云フ風ニ御得心ヲ願ヒタイト思ヒマス
○北浦委員 一寸此処ニ子供ガ来テ居リマシタノデ聴キ漏ラシタカ分リマセヌガ、栄典大権ハ恩赦ノ大権ト性質ヲ異ニシテ内閣ノ輔弼ヲ必要トスル、斯様ニ仰セラレタヤウニ思ヒマスガ、間違ヒデゴザイマスカ
○金森国務大臣 ソレハ間違ヒデゴザイマス、其ノ違フト申シマシタノハ一方ガ認証デアル、六号ノ場合ハ認証デアル、七号ノ場合ニハ認証ト書イテナイ、此ノ点ニ於テ差ガアルト申シタノデアリマス
○北浦委員 乃木大将ノ後継ギノ場合ニ於ケル世ノ囂々タル非難モ私ハ子供ナガラ――当時子供デアツタト思ヒマスガ、能ク知ツテ居リマス、併シナガラソレハ奈良朝カラ今日ニ至リマスルマデノ極メテ少イ例デアリマス、其ノ極ク少イ例ヲ以テ全般ヲ御律シニナルト云フコト是モ私ハ満足出来マセヌガ、過日モ申シマシタヤウニ、何時マデモ平行線ヲ並ンデ歩イテ居ツテモ結論ニハ到達シマセヌカラ只今ハモウ一応モ二応モ御考ヘヲ願ヒタイト云フコトデ、是ダケニ止メテ置キマス
次ニ御伺ヒ致シタイノハ認証ト裁可、是ハ法律上ドウ云フ違ヒガアルカ、此ノ点御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 事柄ノ中味ニ依リマシテ裁可ト云フ言葉ハ多少ノ変リガアルト思ヒマスルガ、例ヘバ例ヲ官吏ノ任免ニ取ツテ申シマスルナラバ、裁可ト云フ場合ハ採用スベキカ採用スベカラザルカト云フ実質上ノ方針ニ付テ御決断ヲ与ヘラルルコトヲ言フノデアリマシテ、法律学的ノ言葉ヲ以テ言フナラバ、謂ハバ創設行為、作リ出ス行為ト云フコトガ言ヘヤウト思ヒマス、認証ト云フ場面ハ、或ル事実ノ存在ヲ公ニ確認スルト云フコトデアリマシテ、創設的ナル意味ヲ持タズシテ、事実ノ存在ヲ判断スル行為デアラウト思フノデアリマス、但シソレハ事ノ内容ニ付テ言ツタノデアリマシテ、此ノ認証ト云フコトハ用ヒラレル場合ノ事情ニ対応致シマシテ、効力発生ノ重大ナル意義ヲ持ツテ居ルノガ通常デアルト云フコトヲ申上ゲテ置キマス
○北浦委員 只今ノ御意見ハ最モ明白ニ私承リマシタ、最後ニモウ一点デアリマスガ、此ノ第七条ニ書イテゴザイマス公布ト云フ文字ハ、従来ノ憲法上ノ公布ト同意義ニ解釈シテ宜イノデゴザイマスカ換言致シマスト、公布ニ依ツテ国民ノ拘束力ガ出来ル、斯様ニ解釈シテ宜シウゴザイマスカ、此ノ点ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 従来ニ於ケル公布ト同ジ意味ト御諒解下スツテ宜イト思ヒマス、唯現行ノ制度ニ於キマシテハ、公布ヲ命ズト云フヤウナ言葉ガ用ヒテアリ、此ノ場合ニハ公布スルコトト致シマシテ、多少文字ノ上ニ差ハアリマスルガ事ノ実体ニ於テハ違ヒガナイト思ヒマス、尚ホ公布スルコトニ依ツテ国民ヲ拘束スル効力ガ生ズルカト云フ点ニ付キマシテ、大体サウデアルト御答ヘスルコトガ出来マスルガ、物ニ依リマシテハ、公布ト云フコトガ必ズシモ国民ヲ其ノ公布セラレタモノノ内容ニ従ツテ拘束スルトハ限ラナイ場合モアリ得ルノデアリマス、其ノ適例ハ、国民ニ直接関係ノナイ条約ノ場合ニ起リマス、条約ヲ公布致シマシテモ、勿論或ル的確ナル意味ハ持ツテ居リマスケレドモ、ソレニ依ツテ国民ガ直グ制限セラルルト云フコトハアリマセヌ、ソレダケノ条件ノ下ニ御説ノ通リト御答ヘ致シマス
○北浦委員 大体ニ於テ国民拘束ノ効力ガ発生スルト、例外ハアルノデゴザイマセウガ、此ノ九十六条ノ公布ハ、是ハ如何ナル効力ガ発生致シマスカ
○金森国務大臣 九十六条ノ公布モ今申シマシタ一般的ナ御説明ト異ナル所ハナイノデアリマシテ、少シク言葉ヲ補整シテ言ハナケレバナリマセヌ、公布ニ依ツテ国民ヲ拘束スル力ヲ生ズルト云フコトハ、本当ハ言葉通リニハ、サウデハアリマセヌ、公布シタカラトテ法ノ内容ガ直チニ国民ヲ拘束スル訳デハアリマセヌ、国民ヲ拘束スルニハ、拘束スルニ足ル或ル条件ガ具ハラナケレバナラヌ、普通ノ法律デ言ヘバ、何月何日ヨリ之ヲ施行スト云フ其ノ施行ノ日ガ来ナケレバ、直接ニハ国民ヲ拘束致シマセヌ、ケレドモ国民ヲ拘束スルニ至リマスル段階ニ於キマシテ、必ズ公布ト云フ途ヲ経ナケレバナリマセヌ、其ノ意味ニ於キマシテ大掴ミニ言ヘバ公布ハ国民ヲ拘束スルト言ヒ得ルト思ヒマス、九十六条ニ於キマスル公布モ其ノ意味デアリマシテ、憲法ヲ公布致シマスレバ、ソレニ依ツテ直チニ此ノ憲法ガ効力ヲ総テ文字通リニ発生スルト云フコトハ申セマセヌ、併シソレニ依ツテ此ノ憲法ハ動カスベカラザル、或ル速度ヲ持チ、現実ニ国民ヲ拘束スル方向ニ向フノデアリマス、此処ニ書イテアリマスル通リ、六箇月経過致シマスレバ、其ノ時ニ現実ニ国民ヲ拘束スル効力ヲ持チマスノミナラズ、此ノ補則ノ中ノ幾ツカノ規定ニ依リマシテ、六箇月経タナクテモ、或ル意味ニ於テハ国民ヲ拘束スルト云フコトニナルノデアリマス
○北浦委員 私ノ質問ハ終リマス
○芦田委員長 原健三郎君
○原（健）委員 私ハ一作日憲法ノ英文ノモノト日本語ノ所謂憲法草案トヲ比較シテ、間違ツテ居ル点ヲ申上ゲタノデアリマスガ、私ハココニ重ネテ同ジヤウナ趣旨ニ依ツテ御尋ネシタイノデアリマス、一体物ハ比較シテ見ナイトハツキリ分ラナイモノデアリマス、此ノ憲法草案ダケヲ読ンデ居リマスト、文章ハ拙イト云ツテモドレ程拙イノカ、ドレ程立派ナノカ分ラナイノデアリマスガ、英文ト比較シテ見マスト、非常ニハツキリスルノデアリマス、英文憲法ハ非常ニ流暢デ意味ガ能ク分ル、蓋シ名文デアリマス、然ルニ此ノ日本文ノ所謂憲法草案ハ洵ニ御粗末デ、中学生ノ英文和訳ノ如キ感ノアル箇所ガ随所ニアルノデアリマス、一言ニシテ尽スナラバ、蓋シ悪文デアリマス、私ハ斯ウ云フ悪文ノ草案ヲ後世ニ残スコトヲ甚ダ恥辱トスルモノデアリマス、此ノ頃金森国務相ノ熱誠溢ルル御答弁ニハ洵ニ敬意ヲ表シテ居ルノデアリマスガ若シ此ノ草案ガ金森国務大臣ノ熱誠ヲ以テ作ラレタモノデアツタナラバ、恐ラク斯ウ云フ悪文ニハ私ハナラナカツタデアラウト思ツテ此ノ点甚ダ遺憾ニ思フノデアリマス、此ノ点此ノ草案ガ――私ハ内容ヲ言ツテ居ルノデハアリマセヌ文章ヲ言ツテ居ルノデアリマスガ是ガ不磨ノ大典トシテ恥ヂナイ意味ニ於テドウ云フ風ニ御考ヘデアルカ、一ツハツキリ御聴キシタイノデアリマス
○金森国務大臣 甚ダ答弁ニ困難ナル御質疑ヲ戴キマシタガ、私ハ此ノ憲法ガ一国ノ考ヘテ居ル法律秩序ノ内容ヲ明カニスルニハ適シテ居ルダケノ言葉ヲ持ツテ居ルト思ヒマス、併シナガラ之ニ磨キヲ掛ケ、美文ニ致シマスルニハ、尚ホ色々ノ考ヘ方ガ存在シ得ルモノト信ジテ居リマス
○原（健）委員 私ノ御聴キシタイノハ、其ノ美文ニ磨キヲ掛ケルコトニ対シテ、政府ハ積極的ニ其ノ熱意ガオアリデアラウカドウカト云フコトヲ、モウ一度御聴キ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 議会ガ此ノ憲法ノ改正案ヲ如何ニ御審議ニナリマスルカハ、是ハ議会ノ自由ニ置カレテ居ルコトト考ヘテ居リマス、併シ之ヲ提出致シマシタ立場ノ私ト致シマシテハ、此ノ憲法ガ色々ノ事情カラシテ、相当ノ早イ時期ニ実施サルルコトヲ願望シテ巳ミマセヌガ故ニ、願ハクバ其ノ趣旨ト背馳セザルヤウニ御協力ヲ願ヒタイト云フコトヲ考ヘテ居リマス
○原（健）委員 国務相ノ其ノ御気持ハ私共諒トスルノデアリマス、其ノ線ニ沿ウテ私モ質問致シテ居ルノデアリマス、ソレデ此ノ第七条ノ中ニモ一寸今思ヒ付ク所ダケヲ一ツ御参考ニ申上ゲテ、篤ト御考ヘガ願ヒタイト思フノデアリマスソレモ成ベク立派ナ憲法ニシテ早ク之ヲ世ノ中ニ出シタイト云フ考ヘカラデアリマス、第七条ノ第一ハ「憲法改正、法律、政冷及び條約を公布すること。」トナツテ居リマシテ、此ノ憲法ノ文章ニ依リマスルト、憲法改正ヲ公布スルト云フコトニナツテ居リマス、法律政令、憲法改正ヲ公布スルト云フノハ憲法ヲ改正スルト云フコトヲ公布スルノカト云フヤウナ意味ニモ取レルノデアリマスガ、我々ノ考ヘデハ、ドウモ改正シタ憲法ヲ公布スルト云フ意味ヂヤナイカト思フノデアリマス、サウスルトヤハリ是ハ改正憲法、法律、政令及ビ条約ヲ公布スルト云フ風ニシタ方ガ宜イヂヤナイカト思ヒマスガ此ノ点ハ是デ宜イノデアリマセウカ
○金森国務大臣 憲法改正ト云フ言葉ガ御耳障リニ或ハ御目障リニナツタト思ヒマスルガ、此ノ言葉ノ用ヒ方ハ法律ヲ扱ツテ居リマスル方ノ一般ノ考ヘト致シマシテハ、改正憲法ト云フ意味トハ違フ意味ニ考ヘテ居ルノデアリマス、改正憲法ト申シマスルト、改正セラレタ後ニ起ツタ憲法ト云フ、改正セラレタ後ニ存在スル憲法デアリマス、憲法改正ト申シマスレバ、過去ニ存在スル憲法ヲ今度斯ウ云フ風ニ改正スルト云フ移リ変ル瞬間ヲ押ヘテ居ルノデアリマシテ、言葉ノ使ヒ方ハ其ノヤウナ差別ヲ持ツテ居リマス、唯如何ナル言表ハシガ宜イカト云フコトハ、ソレハ別ノ問題トシテ御研究ニ譲リマシテ、意義ガ変ツテ来ルヤウナ気ガスルノデアリマス
○原（健）委員 ソレカラ此ノ五項ニモアルノデスガ、此ノ五項ハ英文デハ能ク分ルノデスガ、此ノ日本草案ハ非常ニ分リニクイ、「國務大臣及び」ト云フノガ此処ニアル「法律の定める」ノ次ニ「その他」ト云フノガアル、「官吏の任免」其ノ次ニ又「竝びに」ガアル、「全權委任状」其ノ次ニ「及び」トアル「大使及び公使の信任状を認證すること。」斯ウ云フ繋ギノ言葉ガ非常ニ多クテ、意味ガ第一通ジニクイノデアリマス、斯ウ云フ際ニハ宜シク斯ウ云フ風ニ書イタラドウカ、「國務大臣」ノ下ノ「及び」ヲ取ツテ「國務大臣その他法律の定める」其ノ下ノ「その他」ヲナクシ「官吏ノ任免竝びに」其ノ下ヘモウ一ツ入ルノデアリマスガ、全権委任状ト云フノト信任状ト云フノハ、私ハ是ハ別ノモノデナクシテ、大使及び公使ノ全権委任状及ビ信任状ダト思フノデ、「全權委任状」ノ先ヘ「大使及び公使」ヲ持ツテ来タラドウカ、大使及ビ公使ノ全権委任状及ビ信任状ヲ認証スルコト、私ハサウ云フ意味ヂヤナイカト思フノデスガ、是デアルト全権委任状ト云フノハ何カ別ノモノノヤウニナツテ居リマスガ、其ノ点ハ如何デセウカ
○金森国務大臣 第五項ノ文字ガ非常ニ錯雑シテ分ラナイト仰セニナリマスコトハ、御尋ネニナル方ノ立場ニ身ヲ置キマスレバ其ノヤウナ気持モスル訳デアリマス、併シナガラ日本ノ此ノ国法ノ建前ニ於キマシテハ、日本ノ普通ノ人ガ使ツテ居リマスルヨリモ、一種特別ナ言葉ノ用例ガアリマシテ、此ノヤウナ文章ヲ書キマシタ時ニ、略々正確ニドレガ何処マデ繋ガツテ居ルカト云フ風ニ判断シ得ル、謂ハバ言葉ノ上ノ伝統ヲ持ツテ居ルノデアリマシテ、一種ノ官庁文学、或ハ法令文学トデモ言フベキモノデアラウト思ヒマス、其ノ種ハ此ノ「及び、竝びに」斯ウ云フ言葉ヲ微妙ニ使ヒマシテ相当正確ニ表示ガ出来タト思ツテ居ルノデアリマスガ、併シ是ガ一般ニ通用シナイシ、又言葉ノコトデアリマスルカラ、国法デ以テ聡テニ従ヘト云フ訳ニハイキマセヌシ、稍々ソコニ悩ミノ種ハアリマスルガ、ソレハ官庁文学ノ中味ヲ若シ御好意ヲ以テ少シ御覧下サイマスト、ソンナニ分リニクイ文章ニハナラヌト思ヒマス、但シ今御修正ニナリマシタ考ヘ方ガ、此ノ中ノ思想ヲ言表ハスカ表ハサナイカト云フト又別問題デアリマス、今突然トシテ御伺ヒシタダケデハ何トモ御答ヘスルダケノ考ヘハ纏マリマセヌガ、「大使及び公使の」ト云フ言葉ヲ利用スル為ニ無理ニ全権委任状ト両方掛ラセルト云フコトハヤハリ変化ヲ齎スモノノヤウニ考ヘテ居リマス
○原（健）委員 私ハ今マデ色々御答弁ニナツタ金森国務相ノ御答弁ニ敬意ヲ表シテ居ツタノデアリマス、此ノ憲法ヲ作ル場合ニハ、成ルベク一般ノ人ニ能ク分ルヤウニ大衆ニモ分ルヤウニ民主的ニヤツタ、其ノ為ニ殊更ニ是ハ口語体ニシタ、ソレガ一ツ、殊更ニ又平仮名ニシタ、斯ウ云フ民主主義ノ線ニ沿ツテ文章モ拵ヘタノデアルト云フコトヲ大キク謳ハレタノデアリマス、ソレデサウ云フ線ニ沿ウテヤルナラバ、成ベクサウ云フ今仰シヤラレタヤウナ一種特別ノ用例デアルトカ、或ハ言葉ノ伝統デアルトカ、或ハ官庁文学ト云フヤウナモノハ宜シク打破シテ、誰ニデモ分リ易イヤウニ、其ノ為ニコソ口語体ニシタノデアツテ、若シ官庁用文学ヲ尊ンダリ、言葉ノ伝統ヲ尊ンダリ、一種特別ノ用例ヲ御使ヒニナルノデシタラ、明治憲法ノヤウナ片仮名デ文語体ニシタ方ガ文章ガ引締リ、簡潔雄渾ナル文章ニナツテ宜イト思フノデスガ其ノ点御矛盾ハゴザイマセヌデセウカ
○金森国務大臣 私ノ言葉ガ少シク足ラナカツタノデアリマスガ、私共痛感致シマスルガ、日本語ノ出来上ツテ居リマスル言葉ノ使ヒ方ハ、思想ノ掛リ方、今御指摘ニナリマシタヤウナ第五号ノ「國務大臣」ト云フ言葉ガ何処マデ繋ツテ行クモノデアラウカ、「任免」マデ掛ツテ行クモノカ、或ハズツト先マデ飛ンデ「國務大臣」ヨリ「認證スルコト。」斯ウ読メルノデハナカラウカ、或ハ「國務大臣及び法律の定める」ト云フ所ヲ読ミマシテ、国務大臣ノ定メル其ノ他ノ官吏ト、斯ウ読ムカ、斯ウ云フヤウナ風ニ残念ナコトニハ、此ノ日本語ノ連絡ノ工合ヲ的確ニ表ハス文法ハ、私ノ狭イ知識ノ及ブ限リハ存在シテ居ナイト思フ、数学者ノミナラズ其ノ他ノ人々ガ、斯クノ如キコトヲ言表ハス為ニ苦心惨担致シマシテ、其ノ時々ニ応ジテ括弧ヲ用ヒタリ、行ヲ変ヘテ分リ易イ姿ニシタリシテ、凡ソ之ニ必要ナル思想ヲ表ハスト思ツテ居ルノデアリマス、是ガ外国語ノ文章デアリマスト、関係代名詞其ノ他ノ使ヒ方ニ依リマシテ、略々正確ニ表ハセル場合ガ多イノデアリマス併シソレトテモ限度ガアリマシテ読ムコトガ出来テモ、其ノ繋ガリノハツキリシナイコトガアル訳デアリマス、記憶シテ居リマスケレドモ、第一次戦争ガ終リマシテ、「ヴェルサイユ」条約ガ出来マシタ其ノ「ヴェルサイユ」条約ハ「ドイツ」文ハ別ト致シマシテ、英文ヲ以テ記載ヲシ、又「フランス」文ヲ以テ記載ヲシ、又之ニ日本語ガ出来マシテ、其ノ三ツノモノヲ並ベテ置イテ、此ノ複雑ナル文章ノ繋ガリ工合ヲ精査シテ見マスト、何処ノ国ニモ曖昧ナ所ガアリマシテ逐ニソレガ破綻ヲ生ジタヤウナ事例ヲ記憶シテ居リマスガ、大体ソンナモノデアリマス、其ノ中ニ於キマシテ、国ノ一ツノ基本的ナモノトシテ法文ト云フモノガ考ヘラレマスルガ、是ハ何トカシテ正確ニ其ノ繋ガリヲ表ハスヤウニシタイ、数学デアリマスナラバ大キイ括弧、小サイ括弧ヲ使ツテ思想ノ掛リ方ガ決メラレマスケレドモ、中々ソレハ文章デハ出来ナイノデアリマス、明治二十一、二年頃ニ現行憲法ノ出来マス当時カラ、サウ云フコトニ関スル相当範囲ノ識者ガ色々苦心ヲ致シマシテ、ソレガ為ニ略々約束ノヤウナモノデハアリマスガ、言葉ノ使ヒ方ニ依リマシテ、凡ソ的確ナ気持ヲ表ハスヤウニシテ発達シテ来テ居ルノデアリマシテ、是ハ官庁文学ト云フ言葉ハ不適当デアリマシタガ、相当ヤハリ考ヘテ、寧ロ広ク其ノ原理ヲ及ボシテ宜イモノデハナイカト思ツテ居リマス、今ノ五号ノ所ハ丁度其ノ適当ナ事例ニナツテ居ル訳デアリマス、是ハ唯私共ノ立場カラ弁明シテ居ルノデアリマシテ、世間カラ見テ間違ツテ居ルト仰シヤレバ、ソレニモ相当理由ガアルヤウニ考ヘテ居リマス
○原（健）委員 能ク分リマシタ、政府モヤハリ非常ニ倉皇ノ間ニ之ヲ起草サレタノデ相当行届カヌ所ガアルト云フコトハ御認メニナツテ居ルノデアリマスガ、願ハクバ斯ウ云フ点ニ付テ、内容ハ今マデ多クノ人ガ言ヒマシタガ、文章モ是非一ツ後世ニ貽シテモ恥カシクナイヤウニ、御留意ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
其ノ次ニモウ一ツ申上ゲテ置キマス、第八号デアリマス、コンナノハ非常ニ簡単ニ直スコトガ出来ルト思フ「批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認證すること。」斯ウナツテ居リマスガ、之ヲ改メテ、「其ノ他」ヲ上ニ持ツテ来マシテ、「批准書その他法律の定める外交文書を認證すること。」トシタラ簡単ニスラツト行クト思ヒマス、ソウ云フ点ニ少シ力ヲ入レルト入レラレヌトデハ、非常ニ憲法ヲ活カス上ニ重大影響ガアラト思ヒマスノデ、特ニ我々委員モ之ヲ考ヘマスガ、政府ノ方デモ御考慮ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
序ニモウ一ツ御尋ネシテ置キタイト思ヒマス、遡ツテ御尋ネシテ申訳ナイノデアリマスガ、委員長ニ御許シヲ願ヒタイト思ヒマス、第四条デアリマスガ、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない。」トアリマス、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、」トアリマスカラ、憲法ノ定メル国務ノミヲ行ヒ、アトノ国務ヲ行ツテハイケナイト云フコトヲ含ンデ居ルノデアリマシテ、ソレ以下ノ「政治に關する權能を有しない。」ト云フコトハ蛇足デアツテ、是ハ削ツテシマツタ方ガ文章ノ上カラモ宜イシ、色々ナ点カラ考ヘマシテモ支障モナイシ、天皇ノ御地位カラ考ヘマシテモ、日本の象徴デアル人ニ対スル態度カラ言ヒマシテモ、「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ふ。」ト云フヤツニ切ツテシマツタ方ガ適当デアルト思フノデアリマスガ、如何ナモノデアリマセウカ
○金森国務大臣 文字ノコトハ私実ハ甚ダ不行届キデアリマシテ、唯御高説ヲ拝聴シテ居ルダケデアリマスガ、八号ノ所ハ、仰セニナリマシタノト是トノ優劣ハ実ハ今俄カニ考ヘガ纏マリマセヌガ、此ノ四条ノ所ハ是ハ今マデ数回ノ問ニ口ヲ酸ツパクシテ御説明申上ゲテ居リマシタガ、ソレハ意義ガ変ルカラ困ルノデアリマス、例ヘテ申シマスト、天皇ガ宗教上ノ儀式ヲ行ハセラレルト云フコトガ出来ルカ出来ナイカト云フ問題ガ起リマシテ、今ノヤウニ御除キ下サイマスト、是ハ又相当難カシクナルノデアリマス、此ノ形デアリマスト、政治ニ関スル権能ヲ有シナイ其ノ他ノコトハ此ノ裏デアリマスカラ出来ルノデアルト云フコトヲ含ムノデアリマス、詰リ「國務のみを行ひ」トヤリマスト、ソレ以外ノコトハ何モ出来ナイト云フ解釈ガ強ク出テ来ルヤウニ思ツテ居リマス
○原（健）委員 是デ終リマス
○芦田委員長 小野孝君
○小野（孝）委員 第一点ハ、第三条ノ所デ御尋ネスベキガ本当デアツタカモ知レマセヌノデ、此処デ御伺ヒスルコトハ甚ダ失礼デアリマスガ御許シヲ願ヒタイト思ヒマス、内閣ノ助言ト承認ノ問題デゴザイマス‥‥
○芦田委員長 小野君ニ申シマスガ、委員長甚ダ苦シイ立場ニ居リマシテ、前ニ遡ツテノ御質問ハ、一応他ノ機会ニ譲ツテ戴クヤウニ委員諸君ノ御諒解ヲ‥‥
○小野（孝）委員 後日ニ譲リマス
○芦田委員長 私ノ立場ノ甚ダ苦シイ所ヲ御諒解ヲ得タイト思ヒマス、サウ云フ例ニシテ居リマスカラ、其ノ積リデ御質問ヲ願ヒマス
○小野（孝）委員 ソレデハ其ノ点ハ他日ニ譲リマス
第五号ノ国務大臣任免ニ関スル内閣ノ助言ト承認ノ問題デゴザイマスガ、国務大臣ノ任免ニ対スル認証ニ関スル限リハ、内閣ノ助言ト承認ヲ事実上得ラレナイト思ヒマスガ、是ハ如何ニナルノデアリマスカ
○金森国務大臣 国務大臣ヲ任免スル場合ニ、内閣ノ助言ト承認ト云フモノハ実行スルコトガ出来ナイノデハナイカト云フヤウナ御話デアリマシタガソレハ固ヨリ実行可能デアルガ故ニ、此ノ一条ガ出来テ居ル訳デアリマス、今御尋ネノ趣旨ハ、多分斯ウ云フヤウナ風デナイカト思ツテ居リマス、内閣ニ属シテ居ル或ル一人ノ国務大臣ヲ免ジヨウト致シマスル時ニ、ソレニ付テハ閣議ヲ経テ助言承認ヲシナケレバナラナイ、然ルニ其ノ該当シテ居ル人ガ反対ヲスレバ、閣議ガ得ラレナイヂヤナイカ、斯ウ云フヤウナ所カラノ御主張カト一寸拝察致シマシタガ、内閣ノ合議ガ如何ニシテ出来ルカト云フコトハ、自ラモノノ条理モアリマスシ、又条理ヲ超エテ内諾制度ニ依リマシテ、其ノ内容ヲ確定致シマスルガ故ニ、反対スル者ガアリマシテモ、内閣ノ助言ト承認ハ成立シ得ルモノト考ヘテ居リマス
○小野（孝）委員 私ノ申上ゲタノハサウ云フ意味デハナイノデ、内閣ガ総辞職シマシテ総理大臣ガ任命サレレバ、前ノ内閣ハナクナル訳デアリマス、サウスレバ其ノ時ハ総理大臣一人アルダケデ内閣ハ出来テ居ラナイ、随テ其ノ内閣ヲ組織スル国務大臣ノ任命ニ付テ、内閣ノ承認ト云フコトハ行ハレナイノデハナイカ、斯ウ云フ意味デアリマス
○金森国務大臣 内閣ノ意思決定ガ如何ニシテ成立スルカハ、内閣法ニ依ツテ之ヲ定ムルト云フ方針デアリマス、詰リ何ガ内閣ノ意思デアルカハ、此ノ憲法ハ細カイ所マデハ触レテ居リマセヌカラ、其ノ内閣法ノ定ムル所ニ依ツテ十分必要ナル意思決定ハ出来ルモノト考ヘマス
○小野（孝）委員 ドウモ少シチグハグニナツテ居ルノデスガ、内閣ハ総理大臣ト、ソレカラ国務大臣トヲ以テ組織スル合議体ノヤウニ此ノ憲法ハ規定シテ居リマス、所ガ前ノ内閣ガ辞メテ、新シイ内閣総理大臣ガ任命サレタ時ハ、其ノ内閣ハマダ存在シナイノデアリマス、内閣総理大臣一人アルノミデアリマス、サウスレバ内閣ノ承認ト云フコトガ事実上行ハレナイノデハナイカ、斯ウ云フ意味デアリマス
○金森国務大臣 度々申シマシタケレドモ、内閣ト云フモノガ如何ニシテ組織セラルルカハ此ノ憲法ノ規定スル所デアリマシテ、サウシテ其ノ意思ノ決定ガ如何ニシテ出来上ルカハ、内閣制度ノ定ムル所ノモノデアリマス、ダカラ左様ナ場合ニハ如何様ニ規定スルカト云フコトハ、今後ノ問題デアリマスガ、内閣総理大臣一人ノ意思ヲ以テ内閣ノ助言ト承認ヲ致スモノト致シマスレバ、問題ハ解決スルヤウニ考ヘテ居リマス
○小野（孝）委員 サウシマスト、只今ノ御回答デハ、内閣総理大臣一人デモ内閣ト認メラレル場合ガアルト云フコトデゴザイマスカ
○金森国務大臣 固ヨリ左様ナ場合ヲ予想セザルヲ得ナイノデアリマシテ、世ノ中ノ変化ハ測リ知ラレザルモノガアリマシテ、内閣ヲ構成シテ居リマスル所ノ各大臣ノドレガドウナルカ分リマセヌケレドモ、或ル出来事ニ依ツテ其ノ一人ヲ残シテ他ノ者ガナクナリマスレバ、結局総理大臣以外ノ者ガ内閣ノ意思決定ヲスル場面モ亦ナキコトヲ保シ難イト考ヘテ居リマス
○小野（孝）委員 只今ノ国務大臣ノ御返事デアリマスト、偶々他ノ大臣ガ欠ケテ、内閣総理大臣一人ニナルト云フコトノ場合ノヤウデアリマスガ、サウ云フコトハ理論上アリ得ル問題デ、実際上ハアリ得ナイト思ヒマスカラ、サウ云フ点ハ問題ニナラナイノデアリマスガ、唯私ノ問ヒマス新シイ内閣ガ出来マス場合ノ国務大臣ノ任命ト云フモノハ、必ズ起ル問題デアリマス、其ノ必ズ起ルコトガ決マツテ居ルノニ拘ラズ、内閣総理大臣一人デ内閣ヲ組織スルヤウナ解釈ノ下ニ内閣ノ助言ト承認ヲ必要トスルト、斯ウ云フ書キ方ハ、私ハ非常ニ拙イノデハナイカ、是ハ明カニ内閣総理大臣一人ノ助言ト承認トニ依ツテ、任免ヲ認証セラルベキモノダト思フノデアリマスガ御所見ヲ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣 色々ノ場合ヲ想像シテ、色々ニ書キ分ケルノモ一ツノ方法ト思ヒマスガ、此ノ憲法ノ建前ハ内閣ト云フモノヲ一ツノ集団トシテ考ヘマシテ、其ノ中味ハ合議体デアルカ単一体デアルカト云フコトハ、今後内閣法デ決マルコトデアリマスケレドモ、兎ニ角内閣ト云フ一ツノ組織ヲ眼目トシテ居リマスルガ故ニ、何時ノ場合ニモ内閣ヲ基本トシテ此ノ助言ト承認トヲ規定致シテ居リマシテ、実際ニ於テ其ノ内閣ノ助言ト承認トガ如何ナル自然人ノ意思ヲ以テ出来ルカハ、其ノ時其ノ時ノ必要ニ適スル程度ニ於キマシテ、内閣法ノ規定ニ譲リタイト考ヘテ居ツタ次第デアリマス
○小野（孝）委員 此ノ問題ハ是レ以上続ケルコトヲ止メマスガ、ドウモ私ノ質問ノ趣旨ガ徹底シナイヤウニ思ヒマスノデ、仮ニ此ノ憲法ガ今実施サレテ居ツタトシテ、吉田内閣ガ辞職ヲシテ、次ノ内閣ガ出来ル場合ノコトヲ能ク御考ヘニナリマシテ、其ノ時ドウ云フ筋道デ内閣ガ出来テ行クカ御考ヘ置キ願ヒマシテ、他日御回答願ヒタイト思ヒマス
次ハヤハリ此ノ認証ト云フ問題デゴザイマスガ、認証ト裁可トノ意味ハ国務相ノ御説デ一応ハ十分ニ納得出来マシタ、之ヲ実際上ノ問題ニ当嵌メテ御問ヒシタイノデアリマス、之ヲ八号ノ批准書ノ場合ニ付テ考ヘマスト、天皇ノ認証ト云フコトハ、批准ヲシタト云フコトヲ認証スルノデアリマスカ、ソレトモ内閣ノ方デ批准ヲシタイカラト云フノデ、予メ認証ヲ得ルノデアリマセウカ、其ノ点ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 批准書ノ意思決定ハ内閣ガスルト思ヒマス、之ニ対シテ天皇ノ認証ガアツタト云フコトニ依ツテ、日本ノ国トシテノ其ノ批准書ガ有効ニ成立シタト云フ効力ヲ生ズルト思ヒマス、詰リ意思表示ノ内容ハ内閣之ヲ作リ、国内的ナ最後ノ確定効力ハ天皇ノ認証ニ俟ツト云フ趣旨ト考ヘテ居リマス
○小野（孝）委員 サウシマスト、諄イヤウデアリマスガ、批准書ニ天皇ノ認証ヲ得タ旨ヲ書キ付シテ之ヲ相手国ニ送ルノデアリマセウカ
○金森国務大臣 固ヨリ認証ノ加ハツタル批准書ガ交換ノ必要ガアレバ其ノ交換ノ用ニ供セラレ、或ハ寄託ノ要ガアレバ寄託ノ用ニ供セラルベキモノト考ヘテ居リマス
○小野（孝）委員 私ノ考ヘデハ条約ハ批准ニ依ツテ効力ヲ発生スルト思フノデアリマスガ、其ノ批准ヲ認証シタカシナイカト云フコトハ、日本ノ憲法ノ関スル限リノ国内的ノ問題デ、国際的ノ問題トシテハ、仮ニ認証ガナクトモ内閣ノ批准ガアレバ、其ノ条約ハ効力ヲ発生スルト思フノデアリマスガ、此ノ点如何デアリマセウ
○金森国務大臣 言フマデモナク国家ハ一ツノ組織セラレタル集団デアリマシテ、其ノ政治上ノ働キハ国法ノ定ムル所ニ依ツテ出来上ツテ行クモノト思ヒマス、誰ガドウ云フ権能ヲ持ツテ居ルカ、其ノ権能ガ如何ニ行使セラレテ確定シタルモノニナルカト云フコトハ、原則トシテ国内法デ定ムルヨリ外ニ仕様ガナイ訳デ其ノ限度ニ於キマシテ、外国ニ於キマシテモ亦ソレヲ前提トシテ考ヘルノ外ハナイト思ヒマス、日本ノ国法ニ於キマシテ、内閣ノ批准出来ル意思決定、之ニ対スル天皇ノ認証ガアツテ、初メテ国内的ナ最終効力ガ生ズルモノト致シマスルナラバ、外国ハ又之ヲ承認シナケレバナラヌコトハ疑ヒモナイコトデアリマス此ノ外ニ考ヘヤウハナイト存ジテ居リマス
○小野（孝）委員 一応分リマシタ、サウシマスト認証ト云フモノガ、国内的ニモ国際的ニモ左様ニ効力発生ノ上カラハ重大ナ意味ヲ持ツモノデアルトスルナラバ、之ヲ裁可ト書クコトトノ差ハドレダケアルノデアリマセウカ
○金森国務大臣 裁可ト認証トノ本質的ナ区別ハ、今マデ度々申上ゲマシタカラ殊更ニ御説明ハ致シマセヌ、裁可デアリマスレバ、方針決定ト云フコトニ付テノ実質的当否ノ問題ガ起ツテ来ルト思フノデアリマス、認証デアリマスレバ或ル必要ナ条件ノ存在スルヤ否ヤノ認定ト云フコトニナリマシテ、之ニ対シマシテ政治的ナル責任ガ実質的ニ起ル機会ハ頗ル稀デアラウト斯様ニ考ヘマス
○小野（孝）委員 サウシマスト其ノ事柄ノ善シ悪シノ判断ノ問題ハ別ト致シマシテ、出来タ事柄ノ効力ノ方面カラ考ヘマスト、裁可ト言ツテモ認証ト言ツテモ、其ノ効果ニ変リハナイト云フ風ニ了解シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣 効力ノ発生ニ至リマス一ツノ段階デアルト云フ点ニ於テハ、固ヨリ双方トモ同ジデアリマス、併シ其ノ意味ニ於テノミ同ジデアツテ、中味ハ違フコトハ、即チ中ニ含マレテ居リマス意思ノ内容ガ違フコトハ、併セテ御考ヘヲ願ハナケレバ誤解ノ因ニナルト思ヒマス
○小野（孝）委員 私ノ質問ハ是ニテ終リマス
○芦田委員長 柏原義則君
○柏原委員 修業ガ足ラナイ為ニ、失礼ナ言葉ガ出ルカモ知レヌト思フノデアリマスガ、ソレハ悪意デナイノデアリマス、陛下ハ国ノ象徴トシテ、又国民統合ノ象徴トシテ、真心ヲ以テ非常ナル憧レヲ私ハ感ジテ居ルノデアリマスガザツクバランニ、気楽ニ一ツ私ノ意ノアル所ヲ質問シヨウト思ヒマスガ、言葉ガアツチコツチニナルカモ知レマセヌシ、又聴取リニクイト思ヒマスガ、一ツ御辛抱シテ聴イテ戴キタイト思ヒマス
私ノ質問ハ第三条ノ天皇ハ「内閣の助言と承認を必要とし、」ソコデアリマスガ、内閣ノ助言ノ内容ト、天皇ノ国務ニ関スル意思決定ノ内容ハ常ニ一致シテ居ルカ、内閣カラ斯ウシナサイト建言シタ通リ、陛下ハ其ノ通リピシツトナサルモノカ、ソコニ多少ノ食違ヒガアルモノカト云フコトヲ御質問致シマス
○金森国務大臣 ソレハ終局ニ於テ一致スルモノト思ヒマス、終局ト云フ言葉ヲ加ヘマシタノハ、助言ノ段階ニ於キマシテハ、必ズシモ一致シナイカモ知レマセヌ、併シ効果ガ発生スル段階ニ於キマシテハ、完全ニ一致シテ居ルモノト思ヒマス
○柏原委員 其ノ次ニ第七条第一ノ憲法改正ヲ公布スルコト、憲法ヲ今カラ改正シタラドウカト陛下ガ仰シルコトダラウト思ヒマスガ、新憲法ガ出来テ、又来ルベキ時ニ、更ニ憲法改正ヲ諮問セラレル時ガアルカモ知レヌト思ヒマスガ、其ノ場合ノ意図ハ、陛下カラ出ル場合モアリマセウシ、又国民ノ側カラ憲法改正ノ必要ヲ認メマシタラ、三分ノ二ノ議員、或ハ二分ノ一ノ国民ノ同意ヲ得テ、ソレガ内閣ニ現ハレ、助言トナリ、陛下ニ御願ヒシテ、ソレカラ憲法ガ変ル、サウシタ場合ニ、内閣ノ助言ノ本質ハ、至高ナル総意ニ基クノデナクシテ、多数制ノ上ニ基イタモノダト思ヒマス、政党トカ、政派トカノ多数制ノ上ニ基イタ所ノ助言ヲ陛下ニ申上ゲテ、サウシテ陛下ガ其ノ通リ公布ナサル、究極ニ於テハサウナル訳デアリマス、ソレニ対シテ一ツ御尋ネシタイノハ、衆議院ヲ解散スルコトデアリマス、衆議院ノ解散ハ陛下ガナサルノデアリマスガ、内閣カラ衆議院ヲ解散シテ戴キタイト申上ゲタラ、今マデノ慣例上必ズシテ下サルデアリマセウ、究極ニ於テハ一致スルノデスケレドモ、陛下ガ解散スルコトニナルノデアリマセウ、ソレデ内閣ノ助言ト云フモノハ、多数制ノ上ニ基礎ヲ置イテ居リマス、随テ動トモスルト政治的含ミノ下ニ、今ココデ一ツ解散ヲヤツタラ政府ノ方ハ、都合ガ好カラウト云フノデ、斯ウ云フ政治的ノ含ミノ下ニ大イニドンドン解散スルト云フコトモ、ヤラレル場合ガアラウト思ヒマス、悪ク言ヘバ政争ノ具ニナルト思フノデアリマスガ、陛下ニハ第四条ニアリマスヤウニ、「政治に關する權能を有しない。」ノデアリマス、更ニ第一条ニナリマスト、陛下ノ無色透明性、象徴トシテノ陛下ノ御姿ガ、下手ヲスルト此ノ政争ノ中ニ巻キ込マレルト云フヤウナ懸念ハナイモノデセウカ、サウシタコトニ依ツテ、却テ無色透明ノ陛下ノ地位ヲ傷ツケルト云フヤウナ虞モ私ハ抱クノデアリマシテ、其ノ点ニ付テ一寸御尋ネシタイノデアリマス
○金森国務大臣 第七条ニ掲ゲテアリマス天皇ノ御権能ノ中デ、衆議院ヲ解散スルト云フコトハ、仰セノ如ク形ノ上ニ於キマシテハ非常ニ重大ナコトデアリマシテ、是ガ輔弼、助言、承認ガ宜シキヲ得ナイ場合ニ於キマシテハ、甚ダ好マシカラヌ結果ガ起リ得ルノデハナイカト云フ御疑ヒノ起リマスコトモ、一応御尤モト思フ訳デアリマス、併シナガラ他ノ見地カラ見マスレバ、此ノ衆議院ノ解散ト云フコトハ、新タナル国民ノ投票ニ依リマシテ、与論ノ帰着スル所ヲ見ルト云フノデアリマスカラ、形式的ニハ非常ニ重大ナル権能デアリマスケレドモ、実質ニ於キマシテハ国家ノ方針ヲ右シ左スルト云フノデハナク、行クベキ国家ノ当然ノ道行キニ国ヲ運ンデ行クト云フコトデアリマスカラ、其ノ点カラ考ヘマスレバ、其ノ懸念ヲ多ク置クニ適シナイ、ソンナニ心配シナクテモ宜イモノデハナイカト思フノデアリマス、他ノ一面カラ申シマシテ、議会ヲ動カスト云フコトハ、是ハ議会ノ品位尊重ノ上カラ申シマシテモ、内閣ガ之ヲヤルノデハナイ、天皇ノ象徴タル御地位ヲ通シテ是ガ行ハレルノガ相応シイト云フヤウナ感ジモアリマシテ、其ノ双方ヲ併セ考ヘテ、之ヲ置クコトヲ妥当トシタノデアリマスガ、本質ヲ言ヘバ、是ハ謂ハバ儀式デハアリマセヌケレドモ、儀式ニ近イヤウナ気持ヲ持ツテ居ル訳デアリマス
○柏原委員 憲法改正ニ付テノ実際上ノ運ビ方デアリマスガ、陛下ノ方カラ憲法改正ヲシヨウ、斯ウ仰シヤル場合モアリマセウシ、又サウ解釈スルノデスガ、国民ノ方カラ一ツヤツテ貰ヒタイ、ソレガ二分ノ一ノ国民ノ希望ニナリ、三分ノ二ノ代議士ノ集マリニナリ、固マツテハ内閣トモナル、而モソレガ三分ノ二ト云フコトモ絶対多数デナイ、一ツノ多数制ノ上ニ立ツテ居ル、ソレガ内閣ノ姿ニナツテ、其ノ助言ガ更ニ憲法改正トナル、サウナリマスト、憲法改正デアリマスカラ、ドノ箇条ヲ選ンデモ宜イ訳デアリマスカラ、第一条ニ持ツテ行クカモ知レナイ、是ハ私ハ希望スルモノデハナイガ、真ニ国体ヲ安キニ置イテ、陛下ヲ国民ノ憧レトシテ、熱烈ナ愛国ノ至情ヲ持ツテ居ル訳デアリマスルガ、一応ハサウ云フコトモ考ヘテ置カナケレバナラナイト思フノデアリマス、サウシテ多数制ノ上ニ立ツタ一ツノ考ノ方ヲ第一条ニ持ツテ来ル、第一条ノ日本国民ヘ至高ノ総意デアリマスガ、至高ノ総意ハ決シテ多数デハナイ、皆天皇ガ賛成ダト云フコトヲ八千万ガ集マツテ相談シタ訳デハナイ、至高ノ総意ハ過去ニ於テ、現在ニ於テ将来ニ於テ我々人間ノ奥底ニ持ツテ居ル一ツノ心ノ繋ガリデアルト国務相ハ御説明ニナツタノデアリマスガ、是ハ多数制、「ドイツ」語ノ「メールハイト」デハナイ、「オーエン」ノ言葉ヲ藉リレバ「オールハイト」全一デアル、国民全体ノ底ニ流レテ居ル「オールハイト」ノ上ニ立ツタ一ツノ考ヘ方ノヤウニ思フノデアリマス、其ノ場合ニ実際ニ第一条ヲ改正スルコトニナリマシタラ、三分ノ二ノ多数ガ、「メールハイト」ガ「オールハイト」ヲ立派ニ駆逐シ得ル段取リニナツテ居ルヤウニ私ハ思フノデアリマス、又其ノ多数制ガ此ノ絶対制ヲ除ケルト云フ途ガ開イテ居ルヤウニ思フノデアリマスガ、其ノ点ハ如何ナモノデゴザイマスカ
○金森国務大臣 御説ノ通リ、民主政治ノ本質ハ国民ノ全部ガ得心シテ政治ガ行ハレテ行クコトデアラウト思ヒマス、併シソレハ本質デアツテ、方法論トシテ実行面ニ於キマシテハ、国民ノ全部ガ得心スルト云フ訳ニハ行カヌ、故ニ実行的ニハ多数決其ノ他ノ方法ヲ採リマシテ動クヤウナ制度ヲ立テル外ニ途ハナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、併シナガラ仰セニナリマスマデモナク、憲法ノ改正ハ極メテ重大デアリマスルガ故ニ、第九十二条ニ於キマシテ、其ノ手続ヲ他ノ凡ユル国法変更ノ手続ヨリモ重大ニ致シマシテ、各議院ノ総議員ノ三分ノ二以上ガ賛成ヲスルト云フコトガアル、是ハ普通ノ法律ノ場合カラ比ベマスト、先ヅ倍ノ得票数ヲ必要トシテ居ル訳デアリマス、サウシテ更ニ国民投票ヲ経テ其ノ承認ヲ得ナケレバナラナイト云フ風ニ致シマシテ、尚ホ其ノ外ニ普通ノ法律デアリマスルト、衆議院ト参議院トガ力ガ違ツテ居リマシテ、終局ハ衆議院ノ意思通リニ動ク、参議院ハ之ヲ一時抑制スル力シカナイト云フ風ニ定マツテ居リマスルガ、憲法改正ノ場合ニハ参議院モ衆議院ト全然同ジ権能ヲ認メマシテ、畢竟スルニ色々ナ方法ヲ以チマシテ此ノ憲法ノ安定性ヲ保全シテ、学者ノ申シマスル硬性憲法、詰リ弾力性ノ乏シキ憲法ト云フコトヲ此ノ改正案ノ眼目トシテ居リマス、併シ論理的ニ言ツテ、国民ノ中ニ賛成シナイ人ガアツテモ憲法改正ガ行ハレルト云フコトハ、是ハ認メザルヲ得ナイト思ヒマス、サウシテ第一条ヲ例ニ取ツテ仰セニナリマシタケレドモ、是ハ非常ニ私共トシテ例ニ取リタクハナイ条文デアリマシテ、ソレハ避ケテ御説明ヲシタ趣旨デアリマス
○柏原委員 第一条ノ例ハ極メテ不穏当デアリマスガ、又非常ニ大事ナモノト思ヒマス、天皇制ヲ排除シヨウト云フヤウナコトヲ考ヘテ実際ニ活動スル者モアル訳デシテ、ソレヲ防グモノハ国民ノ心ノ奥底ニアル誠ノ繋ガリデアリマス是ガ古イ歴史ニ基礎ヲ置キ、現在ニモ置イテ居ルノデアリマセウガズツト昔ノ肇国ノ歴史ニ基礎ヲ置クト云フコトハ、現在トシテハ考ヘテハナラヌダラウト私モ推定スルノデアリマス、然ラバ誠ノ心ノ繋ガリハ徳川時代ニアツタカト言ヘバナカツタ訳デアリマシテ、明治維新以来カラ是ハ特ニ宜ク出来テ来タト思フノデアリマス、更ニ敗戦ノ後ニナリマシテ、此ノ繋ガリニ非常ニ罅ガ入ツテ居ルト云フコトモ事実デアリマシテ、又之ヲ除ケヨウト云フ気持デ動イテ居ルモノモナキニシモアラズデアリマス、私ハ何トカシテ此ノ国体ヲ磐石ノ安キニ置キタイト云フ上カラ考ヘルノデアリマスガ、ソコニ又教育ノ問題モ出テ参リマセウ、差当ツテ法規ノ上デ考ヘルノデアリマスガ、公共ノ福祉ト云フコトヲ考ヘテ見マスレバ、基本的人権ニ基キ思想ハ自由デアリマセウガ、公共ノ福祉ト云フ枠ガ入ツテ居ル訳デス、此ノ公共ノ福祉ニハ至高ノ総意、誠ノ心ノ繋ガリト云フ考ヘ方ガ裏付ケラレテアリマセウカナイノデアリマセウカ、十二条ニモアルノデアリマスガ、公共ノ福祉ト書イテ或ル程度デ止メテ居ルノデスガ、其ノ公共ノ福祉ト云フ考ヘ方ノ裏ニハ、至高ノ総意ト言フ裏付ケガアルノカナイノカト云フコトヲ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣 公共ノ福祉ノ裏ニ至高ノ総意ノ裏付ガアルカト云フ御尋ネデアリマスガ、其ノ意味ハ、ドウ云フコトデアリマセウカ詰リ公共ノ福祉ト云フコトヲ判断スル力ハ結局国民総意デアルデアラウカラ、斯ウ云フ御趣旨カト思フノデゴザイマス
○柏原委員 私ガ公共ノ福祉ト云フノハ、国体ヲ護リタイト云フ気持ヲ皆ガ持ツテ居ル、其ノ持ツテ居ルコトガ幸福デアル、ソレヲ紊スヤウナモノハ不幸ダ、斯ウ云フ意味ナノデゴザイマスガ、サウシタ裏付ガアルカナイカト云フコトヲ御尋ネシタイノデアリマス
○金森国務大臣 固ヨリ日本ノ国ノ総テノコトガ国民ノ心ノ、先ニ申シマシタヤウナ特殊ナ繋ガリニ根ヲ張ツテ居ルコトハ、是ハ一点ノ疑ヒガゴザイマセヌ、併シ今ノ公共ノ福祉ト云フコトハ、ソレト直接関係ノアルコトデハナクテ、個人生活ト団体生活ト云フモノヲ比ベマシテ、個人生活上ノ利益ノ枠ノ中ニ入ツテ居ナケレバナラヌト云フコトニナツテ居リマス、考ヘテ居ル方向ガ少シ違ツテ居リマスカラ、直接ニ御答ヘシニクイヤウニ思ツテ居リマス
○柏原委員 以上デ終リマシタ
○芦田委員長 笠井重治君
○笠井委員 第七条ニ付テ伺ヒマス、今回憲法ノ草案ガ発表サレマスヤ、去ル三月ノ当初ニ於テ、「マッカーサー」元師カラ斯ウ云フヤウナ声明ガ世界ニ発表サレマシタ其ノ声明ノ一端ヲ見マスト、余ハ本日深キ満足ノ意ヲ以テ天皇及ビ日本政府ガ余ノ十分ノ賛意ヲ持ツ新シキ立派ナル憲法ヲ日本国民ニ提出スル決意ヲ発表スルヲ欣ブ、此ノ憲法ハ余ノ当初ノ指令ノ下ニ過去五箇月間日本政府ト本司令部間ニ於ケル十分ナル調査ト数次ノ会議ノ結果草案セラレタモノデアル、日本ノ最高法令トシテ発表セラレ、其ノ主権ハ正ニ国民ノ手ニ委ネテ居ル、此ノ政府ハ権力ヲ国民ノ代表トシテ選出セラレタル議会ノ手ニ委ネル偉大ナ力ヲ確立シタリト雖モ、又行政、司法其ノ他政府ノ各部門ガ国務遂行上圧政弾圧ヲスルコト能ハザルモノトセリ而シテ天皇ハ政治ノ権力ヲ有セズ財産ヲ有セズ、国民ノ意思ニ従ヒ国民統合ノ象徴トナツタノデアル此ノ憲法ハ最モ最歩セル思想ノ最モ必須的標準ヲ満足スベキ国民ノ基礎的権利ヲ拡張スルモノデアル斯ウ云フコトヲ発表セラレマシタソコデ此ノ憲法ヲ見マスルト、第七条デアリマスガ、第七条ノ中デ今朝カラ論議サレテ居リマスル認証ト云フ言葉ヲ第五ニ於テ使ヒ、又第六ニ於テ使ヒ、第八ニ於テ使ツテ居ルノデゴザイマス、即チ全権委任状、大使及ビ公使ノ信任状ヲ認証スルコト、第六デハ大赦其ノ他ヲ認証スルコト、第八ハ外交文書其ノ他ヲ認証スルコト、斯ウアルノデアリマス、ソコデ現行憲法ヲ見マスルト、第十条ニハ天皇ハ文武官ヲ任免ス、第十六条ニハ天皇ハ大赦特赦減刑其ノ他復権ヲ命ズルト書イテアル、ソレカラ第十三条ニハ天皇ハ戦争ヲ宣シ、和ヲ講ジ、又諸般ノ条約ヲ締結ス、斯様ニアリマス、ソコデ今朝程ノ金森国務相ノ同僚議員ニ対スル御質問ノ御答弁ノ中デ認証ト云フ御言葉ニ付テ御説明ガアツタヤウデアリマスガ、非常ナ軽イ意味デナサレテ居ル、斯ウ云フコトヲ仰シヤラレテ居リマス、所ガ其ノ英文ノ方ヲ見マスルト云フト、認証ト云フ言葉ヲ「アテステーション」ト云フ相当ナ強イ意味ノ言葉ヲ使ツテ居リマス、此ノ認証ニ付テモウ一度御迷惑デスガ、金森国務相ノ御説明ヲ願ヒタイト思フ、ドノ程度ノ軽イモノデアルカ果シテ「アテステーション」ト云フヤウナ強イ意味ナノデアルカ、ドツチガ本当デアルカ、此ノ点ヲ少シク御説明願ヒタイ
○金森国務大臣 軽イ重イト云フ言葉ハ甚ダ明瞭デナイノデアリマシテ、外ノ言葉デ分ケテ申上ゲタイト思ヒマスガ、認証ハ先ニモ申シマシタヤウニ、事実ノ存在ニ対スル認識ヲ表ハスノデス、斯クノ如キ事実アリト云フコトノ認識ヲ表明セラルルノガ認証デアリマス裁可其ノ他ノ場合ハ或ル事柄ヲ創設スル、何ノ何某ヲ内閣総理大臣ニ創設スルト云フノデアリマシテ事実ノ存在ヨリモ、ヨリ進ンデ或ルコトヲ発生セシムルヤ否ヤト云フコトノ決定ヲ行フト云フ意味ニナルノデアリマス、認証ト裁可ト天皇ノ御行為ニ当嵌メテ見マスレバ、一方ハ今申上ゲマシタヤウニ観念ノ表示デアル、一方ハ意思ノ表示デアルト云フコトデアリマスルガ故ニ、実質的ニ天皇ノ政治責任ヲ論議シヨウトスルモノガアレバ、認証ノ場合ハ大シテ深ク論議スルコトハナイダラウ、併シナガラ創設的ナル裁可任免ト云フ場合ニ付キマシテハ、相当深入リシテ論議スルコトガ出来ルデアラウ、即チ天皇ガ政治ノ事実上ノ批判ノ的ニオナリニナル機会ガ多カラウ斯ウ云フ意味ニ於キマシテ、認証ハ他ノ言葉ヨリモ軽イ気持ヲ持ツテ居リマス、世間ノ批判ノ的トナルト云フ意味カラ申シマスレバ、是ハ政治的紛糾ヲ起サナイ軽イ意味ヲ持ツテ居リマス、併シナガラ認証ハ単ニ事実ノ存在ヲ確認スルト云フノデハナクテ、国家トシテ必要ナル一ツノ形式デアリマシテ多クノモノハ之ニ依ツテ初メテ其ノ内容ガ効力ヲ持ツテ行クノデアリマス、即チ効力発生条件ニナルノガ普通デアリマス、此ノ意味ニ於キマシテハ、極メテ重要ナコトデアリマシテ、又他ノ国家機関其ノ他ガ代ツテ之ヲナシ得ル訳ノモノデモナイト云フ意味ニ於キマシテ、是ハハツキリ重大ナルモノデアルト言ヒ得ルノデアリマス
○笠井委員 国務大臣ニ又伺ヒマスガ、然ラバ其ノ天皇ハ之ヲ拒否スル権利ガアルデアリマセウカ、例ヘバ「アメリカ」ノ大統領ガ上下両院カラ来ル議案ヲ拒否スルトカ拒否シタ場合ニハ、大統領ハ再ビ之ヲ議会ニ戻ス、議会ハ又之ヲ三分ノ二ヲ以テ通過スルト云フヤウナコトガアリマスガ、ココニ於テ我ガ国ノ天皇ハ認証ヲ与ヘズニ拒否権ヲ持ツテ居ルノデゴザイマスカ、此ノ点ハ如何デアリマスカ
○金森国務大臣 此ノ憲法ノ期待シテ居ル所ニ於キマシテハ左様ナ場合ニ天皇ガ拒否権ヲ有セラルルコトヲ予想シテ、居リマセヌ
○笠井委員 第八項ノ「批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認證すること。」トアリマスガ、若シ将来外交文書デナク、事実上ニ於テ政府ト天皇トノ意思ガ相反シタル場合、例ヘバ去ル八月ノ十五日ノ終戦ノ時ニ於テ、大体之ヲ政府ハマア軍部ト言ヒマスカ、陛下ノ御意思ニ賛成ヲシナカツタ、陛下御自身ノ勇気ニ於テ、又太平ヲ万世ニ求メラルル御聖旨ニ基イテ終戦ガ行ハレタト云フコトヲ拝祭シテ、我々ハ感泣致シタノデアリマスガ、斯カル場合ハ如何デゴザイマセウカ
○金森国務大臣 此ノ改正案ノ第三条ニアリマスルガ如ク、天皇ノ国務ニ関スル総テノ行為ニハ内閣ノ助言ト承認ヲ必要トシ、内閣ガ其ノ責任ヲ負フ次第デアリマシテ天皇ガ国務ヲ行ハルル立場ト、国務大臣ガ此ノ責任ヲ果ス立場ニ何等ノ差ガナイト云フコトヲ前提トシテ居リマス、随テ此ノ間ニ行為ノ矛盾ガ起ルコトハ考ヘテハ居リマセヌ
○笠井委員 モウ一度伺ヒマス、此ノ第七号デアリマスガ「榮典を授與すること。」此ノ天皇ノ権能ヲ見マスト独リ此ノ点ノミガ、栄典ヲ授与スルコトノミガ、我々ガ天皇ヲ永世ニ我ガ日本国民ノ象徴デアリ指導者デアラセラルルト云フコトヲ希望スル者トシテ、洵ニ満足ノ至リニ堪ヘナイノデゴザイマス、ソレハ如何トナレバ、現行憲法ノ第十五条ニ於キマシテハ「天皇ハ爵位勳章及其ノ他ノ榮典ヲ授與ス」ト書イテゴザイマス併シテ伊藤公ハ其ノ憲法義解ニ於テ、斯ウ云フコトヲ説明シテ居リマス「恭テ按スルニ至尊ハ榮譽ノ泉源ナリ蓋功ヲ賞シ勞ニ酬ヒ及卓行善學ヲ表彰シ顯榮ノ品位紀章及殊典ヲ授與スルハ專ラ至尊の大權ニ属ス而シテ臣子ノ竊弄ヲ容ササル所ナリ」此ノ至尊ノ大権ノ栄典ヲ授与スルコトト云フコトハ独リ此ノ第七条ニ於テ天皇ノ力ヲ――過去ニ於テ、我々ガ今日マデ尊崇シテ居タ所ノ天皇ノ力ヲ此処ニ於テ保有シテアルヤウニ見エマスガ、一方ハ文武官ヲ任免スト云フノハ第五号ニ於テハ之ヲ認証スルトシテシマフシ、一方ニ於テハ大赦復権ヲ命ズト云フノヲ之ヲ認証スルトシ第八号ニ於テハ、戦ヲ宣シ和ヲ講ジ諸般ノ条約ヲ締結スルト云フノヲ認証ニシテ非常ニ天皇ノ力ト云フモノヲ弱メテアリマスケレドモ、此ノ第七号ニ於テハ今日マデノ栄誉ノ大権ト云フモノガ此ノ侭即チ此処ニ至尊ノ大権ト云フモノガ保有サレテ居ルヤウニ見エマスガ、此ノ点ハドウ云フ風ニ我々ハ諒解シテ宜シウゴザイマセウカ
○金森国務大臣 此ノ第七ノ栄典授与ノ点ニ関シマシテ、特ニ此ノ憲法ガドウ云フ訳デ認証ト云フコトヲ加ヘナカツタカト云フ御質問デアリマスガ、ソレハ非常ニ意味ノ深イ御質問デアルト同時ニ、御答ヘヲ致シマスニ付キマシテモ、幾分色々ナ事情ヲ解キホゴシテ御答ヘヲ申上ゲルコトガ適当ダト思ツテ居リマス、前ニモ申シマシタヤウニ、天皇ノ国務の権能ハ、謂ハバ過去ニ於キマシテノ天皇制ノ濫用ト云フコトノ弊害ヲ匡ス為ニ相当窮屈ニ之ヲ考ヘマシテ、ドウシテモ天皇ガ行ハセラレル特別ナ必要ノハツキリシテ居ルモノニ付キマシテ、其ノ御意思ニ基ク創設的ナル働キノ権能ヲココニ掲ゲタ訳デアリマス、例ヘバ総理大臣ノ任命トカ云フヤウナコトガ之ニ当ルノデアリマス、併シ其ノ中ニ於キマシテモ、憲法改正等ハ謂ハバ之ヲ公布致シマシテモ、大体法律的効果ハ持チマスルガ、其ノ本質ニ於テハ、儀式ニ類似スルヤウナ意味ヲ持ツテ居ル訳デアリマス、国会召集トカ、衆議院解散トカ、是ハ政治的ニ極メテ大キナ意味ヲ持ツテ居リマスガ、是ハ主トシテ議会ノ形式的ナル権威ヲ尊重スル意味ヲ持ツテ出来タノデアリマシテ本質的ニハ誰ガ見マシテモ、内閣ガハツキリシタ責任ヲ持ツテヤルト了解シテ居リマシテ、実ハ此ノ儀式的ナ意味ヲ相当多量ニ含ンデ居ルノデアリマス、所ガ此ノ栄典授与ノ場合ハサウデハアリマセヌ特ニ認証ト云フ字ガ省イテアルノデアリマスルガ、一体栄典、即チ国家ガ或ル人ニ特別ナル値打ヲ認メ、其ノ名誉ヲ表彰スルト云フコトニハ色々ナ方法ガアリマセウ、併シ我々国民ノ心カラ伝統的ニ申シマスレバ、国ノ象徴タル天皇ヲ通シテ此ノ栄誉ガ与ヘラレマスル時ニ、初メテ本当ニ栄誉ガ有難ク響クト云フコトガ実情デアラウト思ヒマス
〔委員長退席、高橋（泰）委員長代理着席〕
国家ガ栄誉ヲ表彰スルコトデハアリマスルケレドモ、古クカラノ考ヘ方ニ、是ハ天皇ノ御光リヲ分チ与ヘラレルノデ、国家カラ貰フノデハナイ、天皇ノ持ツテオイデニナル其ノ一種ノ御光リヲ国民ニ分チ与ヘラルルノデアルト云フ思想スラ、発達シテ居ル訳デアリマス法律的ニ私共ハ左様ニハ思ヒマセヌケレドモ、国民ノ信念ノ上ニ、天皇ヲ通ジテ此ノ栄誉ヲ戴クコトヲ以テ有難イトシテ居ル心持ガ十分アルコトハ、是ヲ認メナケレバナラヌト思ヒマス、サウシテ又此ノ栄誉ガ与ヘラレマスルコトハ、固ヨリ内閣ノ助言ト承認トヲ必要トハ致シマスルケレドモ、天皇御自身ノ御意志ニ依ツテ定マルモノトスル形ニ於キマシテ、特別ナル政治的弊害モ余リ考ヘラレナイト思ヒマス、他ノ法律ヲ作ルトカ特別ナ官吏ヲ任命スルノトハ違ツテ居ル訳デアリマス、左様ニ考ヘテ行キマスルト、栄誉権ハ天皇ノ御意思ニ基クトスルコトガ甚ダ適切デアル、又之ニ対シテ何等ノ弊害ヲ特ニ予想スベキ根柢モアリマセヌ、ソコデ第七号ニ於キマシテハ認証トハシナイ、天皇ノ創設的ナルモノデアル但シ内閣ガ之ニ関与スルト云フ風ニ規定ヲシタ訳デアリマス
○笠井委員 御懇切ナル御答弁有難ウゴザイマシタ、私ノ質問ハ是デ終リマス
○高橋（泰）委員長代理 第七条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第八条ヲ議題ニ供シマス――井伊誠君
○井伊委員 初メニ皇室ノ意義ニ付テ御尋ネシタイト思ヒマス、皇室典範ニハ皇室ト云フヤウナ文字ヲ用ヒラレテ居ルノデアリマスカラ、皇室ト申シマスノハ平タク言ヘバ現身ノ天皇ノ御家庭、斯ウ云フ風ニ私共ハ解セラルルノデゴザイマス、ソコデ此ノ皇室ト云フ言葉ノ中ニハ、皇族モ含マレルデアリマセウカ、又更ニ進ンデ皇室財産ト云フヤウナコトニナリマシタナラバ、ソレハ皇族ノ財産ト云フモノモ、全部含ンデ居ル意味ニナリマセウカ、ソレトモ皇族ノ方々ノ特有ナル財産ト云フモノモ、此ノ皇室財産ノ外ニサウ云フモノガアルノデアリマセウカ、兎ニ角一個ノ私ノ考ヘナドヲ申述ベル必要ハナイノデ、憲法ヲ解釈スル上ノ本当ノ根拠アル意義ヲ承ツテ置キタイ、斯様ニ思ヒマス
○金森国務大臣 第八条ニ規定シテアリマスル皇室ト云フノハ今御尋ネニナリマシタヤウニ、天皇ノ御家ト云フ意味デアリマシテ、天皇ヲ家長トシ、天皇ノ御家族ヲ以テ組立テラレテ居ル其ノ一団ヲ称シテ皇室ト云フ意味ニ考ヘテ居リマス、唯次ニ仰セニナリマシタ皇室財産ト云フコトニナリマスルト文字的ニ申シマスレバ皇室ト云フ言葉ト財産ト云フ言葉ヲ結付ケタダケデアルカラ、此ノ天皇ノ御一家ニ属スル財産ト云フ意味ニナルト云フ考ヘガ起ルカモ知レマセヌガ、是ハ又其ノ用ヒ所ニ依ツテ意味ガ違フノデアリマシテ、一概ニ然リトハ御答ヘ出来ナイ訳デアリマス
○井伊委員 念ノ為デアリマスガ皇族ノ方々ノ特有ノ財産ト云フモノモ、或ル場合ニハアル、斯ウ云フ風ニモ聴取レマシタガ、サウ云フ場合ノハ、是ハ国民ノ、即チ権利トシテノ財産権ハ之ヲ侵スベカラズト云フ法ノ適用ヲ受ケルモノニ相成リマセウカ
○金森国務大臣 大体サウ云フ意味ニナリマスルガ、先ニモ御断リ致シマシタヤウニ、ソレハドノ条文の何処ニ使ツテ居ルカ、皇室財産ハドウ云フ意味ヲ持ツカト云フ風ニ御尋ネ下サイマスレバ、御答ヘガ出来マスケレドモ、簡単ニハ御答ヘノ出来ナイコトニナルト思ヒマス、ヲカシイコトヲ申シマスヤウニ御聴取リニナルカモ知レマセヌガ、此ノ憲法ノ中ニ第八条ト第八十四条トニ、皇室ニ関スルコト及ビ皇室ノ財産ニ関スルコトガアリマスルガ、各々立法ノ理由ヲ異ニシテ居リマスルガ故ニ、規定ヲ解釈致シマスル上ニモ、余程注意深ク解説ヲシナケレバナラヌカラ、サウ申上ゲル次第デアリマス
○井伊委員 此ノ本条ニ述ベテ居リマスル財産ト云フ言葉ノ中ニハ其ノ財産ノ多寡大小、或ハ有償デアルカ、無償デアルカト云フヤウナコトハ、何モ関係ガナイノデゴザイマセウカ、ト申シマスノハ、極ク僅カナモノデモ、之ヲ譲リ渡シ、或ハ譲リ受ケ、或ハ賜与ト云フヤウナコトニ付テ、一々国会ノ議決ヲ経ナケレバナラヌト云フヤウナコトニナルノデアリマセウカ其ノ辺ドウナリマセウカ
○金森国務大臣 此ノ第八条ハ、此ノ憲法全般ノ中ニ於キマシテモ稍々分リニクイ規定ノ一ツデアリマスルガ故ニ、若シ御許シヲ得マスルナラバ、此ノ規定ヲ一ツ全般的ニ御説明ヲ申上ゲタイヤウニ考ヘルノデアリマス、大体此ノ第八条ノ立法ノ趣旨ガ貫キマセヌガ、皇室ガ国家ノ中ニアツテ特別ナル財産ヲ御持チニナリ、皇室以外ノ国家又ハ一般人民トノ間ニ色々ノ財産ノ出タリ入ツタリスルコトガアリマスルコトハ、一ツノ見方カラ申シマスレバ、過去ニ於テ多クノ弊害アリト言ハレマシタ所ノ特殊ナ悪イ結果ガ出テ来ルノデハナイカ、斯ウ云フ風ニ疑惑ガ起ツテ来ルノデアリマス、我々ガ疑惑ヲ起スト云フヨリモ、寧ロ我々以外ノ方面ニ於テ其ノ疑惑ハ相当ニ起リ得ルト思ヒマス、ソコデ皇室ト云フモノヲ文字通リ天皇ノ御家ト解シマシテ、ソコノ中ニアル財産ト天皇ノ御家以外ニアル財産トノ間ニ一応連繋ヲ断チ切リマシテ、皇室ノ財産カラ皇室以外、例ヘバ人民又ハ国家ニ其ノ財産ガ流レテ行ク道ヲ閉シマシテ、同時ニ又外ノ部分カラ皇室ノ中ニ財産ノ流レテ行ク道ヲ鎖シマシテ、過去ニ於テ輔弼輔翼其ノ宜シキヲ得ズシテ色々ナ紛糾ガ起ツタト云フ一ツノ疑惑是ハ疑惑ト申上ゲル方ガ正シイト思ヒマスルガ、其ノ疑惑ヲ根柢ヨリ断タウト云フノガ第八条ノ趣旨デアリマス、随テ今御尋ネニナリマシタヤウニ、僅カノ財産ノコトヲ此処ニ於テ論議スルコトハ本当ノ趣旨デハゴザイマセヌケレドモ、併シ制度ノ建前トシテハ、一応其ノ流通ヲ遮断シテシマヒマシテ、其ノ遮断ヲ越エテ財産ガ流通スルコトハ、国会ノ議決ニ俟タナケレバナラヌト云フ方法ヲ講ジマシテ、ソレカラ私共ノ是カラノ考ヘ方ト致シマシテハ、其ノ国会ノ議決、即チ法律ノ中ニ適当ナル規定ヲ設ケマシテ、余リニ煩瑣ナコトノナイヤウニ、程好キ制度ヲ設ケタイト云フ念願ヲ持ツテ居ル次第デアリマス
○井伊委員 只今本条ヲ設ケラレル趣旨ニ付キマシテ御説明ヲ戴キマシテ、明快ニナツタノデアリマスガ、尚ホ私ノ考ヘル所デモ、此ノ第八条ハ特異ナ条文デアルト思フノデアリマス、先程笠井重治サンガ御読ミニナリマシタ「マッカーサー」元帥ノ何カ「ステートメント」デアリマスカ、演説デアリマスカ、サウ云フモノノ中ニ一寸私ノ耳ニ入ツタノデハ、天皇ハ権力ト財産ヲナクシテ国家ノ象徴デアル、斯ウ云フヤウナ言葉ガアツタヤウニ思ハレルノデアリマシテ此ノ本条ノ設ケラレタ意味モ、ソレカラ今ノ――是ハマア「マッカーサー」元帥ノ述ベラレタ所ヲ推測スルノモドウカト思ヒマケレドモ、天皇ガ此ノ憲法ニ依ツテ日本国ノ象徴トナラレタルト云フコトト本条トノ関係、斯ウ云フモノハ私ハ全然ナイモノト云フ風ニ考ヘテ、財産ヲナクセラレタト云フヤウナコトハ、象徴ニハ何モ関係ハナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマスガ、念ノ為ニ其ノ点ヲ伺ツテ置キマス
○金森国務大臣 財産ヲナクスルコトト象徴タルコトト直接ノ関係ハナイト云フコトノ御尋ネト思ツテ居リマス、ソレハ直接ニハ関係ハナイト思ヒマス、併シナガラ国ノ象徴デアラセラレルト云フコトハ、凡ユル角度カラ見テ其ノ象徴タルニ相応シキ立場ニアラセラレルコトガ必要デアリマスカラシテ財産関係ニ於キマシテモ、ヤハリ一ツノ理想的ナ姿ハアラウト思フノデアリマシテ、若シ財産ニ関スル事柄ニ付キマシテ、誤マレルト否トニ拘ラズ、色々ナ疑惑ヲ醸スヤウナ制度ハ成ベク避ケルコトガ宜イ、斯ウ云フ考ヘカラ入ツテ居リマス、尚ホ先ニモ仰セニナリマシタ財産ヲナクスルトカ云フコトハ、実ハ此ノ条文ノ知ツタコトデハアリマセヌ、第八十四条ガ之ニ対スル答ヘヲ提供シテ居リマス
○井伊委員 其ノ財産ノ問題ニ付テ、過去ニ於テ何カ疑惑ヲ生ジタヤウナ事実ヲ陛下ガ、御認メニナツテ居ル、斯ウ云フコトニナリマセウカ、此ノ草案ヲ国会ニ御出シニナツテ居ルコトデアリマスカラサウ云フコトヲ御認メニナツテ居ルノデアリマスカ、其ノ点ヲ伺ヒマス
○金森国務大臣 ソレヲ御認メニナツテ居ルカドウカト云フコトハ私カラハ御説明ハ出来マセヌ、併シ第八条ノ草案ガアル所ヨリ推論ヲ致シマシテ、皇室ト皇室外トノ財産ノ移動ハ、殊ニ一般ノ経済原則ニ基カザル意味ノ移動ハ、十分注意シナケレバナラヌト云フコトニ、御着想ニナツテ居ルモノト拝祭スルノデアリマス
○井伊委員 本条ヲ考ヘマスルトキニハ、ドウシテモ第八十四条トノ関係ヲ切離シテ見ルコトハ出来ナイト私モ考ヘルノデアリマス、第八十四条ニ依リマスレバ、「世襲財産以外の皇室の財産は、すべて國に屬する。天室財産から生ずる收益は、すべて國庫の收入とし、」斯ウ云フ所カラ見マシテ、皇室財産ハ結局世襲財産ダケニナツテ、而モ収益ト云フモノハ、是ハ国庫ニ入ルノデアリマスカラ、世襲財産其ノモノモ唯御所有デアルト云フダケデアリマシテ、「マッカーサー」元帥ノ述ベラレタト云フ財産ヲナクサレタ、捨テラレタト云フ意味ト、此ノ八十四条ハ結局ハ一致スルコトニナルヤウニ思ハレルノデアリマス、ソレト第八条トヲ対照致シマスト、今度ハ先程ノ御説明モアリマス通リニ、新タニココニ財産ヲ附加ヘルコトモ出来ヌシソコカラ取去ルコトモ出来ナイ、斯ウ云フコトニナルト思フノデアリマスガ、サウシマスレバ、皇室財産ト云フモノハ、或ルモノニ限ツテ居ツテ、而モソレハ増減シナイ所ノモノデアル、皇室ノ収支ハ結局是ハ国家ノ予算ニ計上シテ国会ノ議決ヲ経ナケレバナラヌ、斯ウ云フ御暮シ向キニナル、斯ウ云フ風ニナルノデアリマスルカラ、非常ナ縮小デゴザイマス、サウ云フ風ニ特ニ此ノ八条ト八十四条ト云フモノガ相俟ツテ、サウ云フ制度ヲ一ツ作リ出スノデアリマスガ是ガ専ラ過去ニ於ケルトコロノ財産ニ付テ、何カ疑惑ガ起キルト云フ所カラ出タト、斯ウ云フ風ナ結論ニナルノデアリマスガ、ソレニシテハ余リニ、之ヲ憲法ノ中ニ斯ウ云フ風ニシナケレバナラヌト云フ理由ニ乏シイヂヤナイカト云フコトヲ私ハ考ヘルノデアリマス、ナゼト申シマスナラバ、サウ云フ実際上ノ皇室ノ財産ト云フモノヲ縮小シ、此ノ八条ト八十四条トニ依ツテ具現スル所ノ状態ヲ作リ出スコトハ、憲法ニ之ヲ定メナクテモ他ノ方法デ出来ルノヂヤナイカ私ハサウ云フ風ニ考ヘルノデアリマス、余リ立入ツタコトノヤウデアリマスケレドモ、既ニ此ノ改正案ヲ御出シニナツテ居ル陛下デゴザイマス、何レ正当ナ手続ヲ経テ之ヲ御採納ニナルモノト私ハ存ジテ居ルノデアリマス
〔高橋（泰）委員長代理退席、委員長着席〕
然ラバ此ノ内容ニ付キマシテ、斯様ニ憲法ニ特ニ断ツテ一ツノ制度トシナクトモ、陛下御自身ノ御発意ニ依ツテ是ダケノ財産ニスル御下賜ニデモナレバ、一応世襲財産以外ノ財産ハ国ノモノニスルト云フコトモ出来ルノヂヤナイカト思ヒマスルシ、其ノ他将来ニ残ル所ノ収益ノ問題モ、是トテモ私ハ何カノ方法デ出来ルノヂヤナイカ憲法ニ之ヲ定メナクテモ其ノ目的ハ全クシ得ルノデハナイカ、寧ロサウナレバココニ初メテ天皇ガ日本国ノ「シンボル」トシテ御在リニナル所ノ姿トシテハ最モ喜バシイモノデアルト思ヒマス、結局一言ニ申シマスレバ、此ノ第八条ト八十四条ト云フモノヲ憲法ノ中ニ制定シナケレバナラヌ事情ト云フモノガ、ソレ程強クアルノデアラウカ他ニ方法ガナクハナイト私ニハ考ヘラレルノデアリマスガ、之ニ対シマシテ政府ノ方デ、陛下ニ斯様ナコシヲ申上ゲラレタト云フヤウナコトモゴザイマセウカ、ドウデセウカ、又斯様ナ私ガ今申述ベルヤウナコトデハ致底貫クコトハ出来ナイモノデアリマセウカ、私ハ主権ノ問題デ、私ノ方ハ非常ニ之ヲ諒解シ、最モ進歩的ナル天皇ニ関スル第一章ニ付キマシテハ、非常ニ之ニ対シテ賛意ヲ表シテ居ルノデアリマスガ、併シ事実一般ノ日本国民ト致シマシテハ、尚ホ諒解シ難イト思フダラウ、一応サウ云フ状態デアリマス、ソコヘ持ツテ来テ今度ハ、現身タル陛下ノ御家ノモノニ付テ、全部ノ財産ガ憲法ニ依ツテ斯ウ云フ風ニ縮小セラレルト云フヤウナ規定ヲスルコトニ依ツテ、ソレガ何カ連絡ノアルモノノヤウナ解釈ヲシナイダラウカ、解釈ハ兎モ角モトシテ、サウ云フ感ジヲ持ツコトモ、相当大キナ影響ガアルヤウニ考ヘルノデアリマス、ドウシテモ此ノ本旨ヲ貫クニハ、此ノ憲法ノ形デナケレバナラヌト云フ、サウ云フ事情ガゴザイマセウカ、他ニ方法ガナイノデアリマセウカ、其ノ点ニ付テ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 第八条ノ規定ハ非常ニ意味ノ深イ規定デゴザイマシテ、天皇ノ御地位ヲ他ノ面カラシテ明カニシテ居ルガ如キ内容ヲ含ンデ居ル訳デアリマス、天皇ハ国ノ象徴デアリ、万民仰イデ以テ之ニ依ツテ国ヲ認ムルト云フヤウナ立場ニアリマスルガ故ニ、特別ナル財産ヲ御持チニナツテ、国法ノ全体ノ中ニ一種特別ナル他位ヲ御保有ニナルト云フコトハ、恐ラク適当デナイト云フ気ガスルノデアリマス、天皇御一人ノ個人タル立場ニ於テ財産ヲ御持チニナルコトハ能ク分リマス、併シナガラ皇室デアルト云フコトニ依リマシテ特殊ナル財産ヲ御持チニナリ、其ノ財産ニ依ツテ、実ハ国ノ費用トモ言フベキ諸般ノ実質上ノ国費ヲ御支弁ニナルト云フコトハ、ドウモ一君万民ノ此ノ国柄ニ於テ、何トナク相応シカラヌ感ジガスル訳デアリマス、ソコデ皇室ノ御持チニナツテ居ル財産ノ中デ、実ハ国ノ費用ニ御充テニナツテ居リマスヤウナ部分ハ、ヤハリ国ノ方ニ御移シヲ願ツテ、一般国費ヲ支弁スル形ニ依ツテ支弁スル方ガ宜イノデハナイカ、斯ウ云フ見解ガ生レテ来ル訳デアリマス、国ノ費用ヲ国ガ払フト云フノハ当リ前ノコトデアリマシテ、ソレヲ皇室ニ御迷惑ヲ掛ケテ払フト云フコトソレ自身ガオカシイ訳デアリマス、現在皇室ノ御費用ノドノ部分ガ何ニナツテ居ルカハ知リマセヌケレドモ国カラ皇室費トシテ出シテ居リマスル年額四百五十万円ト云フモノガ、果シテ天皇ガ現在ニ於テハ国ノ統治権ノ総攬者トシテ、将来ニ於キマシテハ国ノ象徴トシテ、国ノ為ニ色々ノ経費ヲ支弁セラルルソレヲ全部補充シ得ザルコトハ、数字ノコトハ細カニ計算ヲシテ居リマセヌケレドモ、大体サウデアラウト思フノデアリマス、随テ国ノ為ニ御使ヒニナツテ居ル経費ハ一部分皇室財産カラ出テ居ルノデアリマシテ、換言スレバ、国ノ費用ガ皇室財産ニ依ツテ支弁サレテ居ル、国家ノ予算一元ノ原理、財政一元ノ原理ガ是ニ於テ大キナ影響ヲ受ケテ居ルト同時ニ、又種々ナル皇室ニ関スル疑惑モ一部カラ其ノ点ニ因ツテ起サレテ居ルト云フコトハ否定シ得ナイト思フノデアリマス、今回ノ日本ノ基本ノ制度ヲ改メマスルニ付キマシテハ、皇室ハ絶対ニ公平無私ノ其ノ本質ニ相応シイヤウニ諸般ノ制度ヲ樹テテ行クコトガ宜イノデハナカラウカ、ソコデ財産ニ付キマシテハソレヲ或ル標準ノ下ニ国ニ御移シヲ願ツテ、サウシテ皇室ニ必要ナル経費ハ国ノ方カラ予算ヲ通シテ差出スト云フコトニ致シマシテ、又皇室ノ官庁デアルトコロノ現在ノ宮内省ト云フガ如キモノハ、本来ノ性質ハ国ノ官庁デアルベキ部分ガ多イノデアリマス、外国ノ使臣ヲ引見シ、諸種ノ儀容ヲ整フルト云フガ如キハ、明ラカニ国ノ事務デアリマシテ、ソレニ付テ国以外ノ官府ガアツテ、其処デ仕事ヲスルト云フコトハ面白クナイノデアツテ、サウ云フコトモ総テ国ニ移スノデアリマス、シカシ皇室ノ御仕事ノ中ニ於キマシテモ、国ノ事務デナイモノモ固ヨリ考ヘラレマス、ソレハ国ノ役人ガスルコトデハナク、別ノ皇室ノ御内務、謂ハバ一家ノ私ト云フヤウナ方面ノ仕事トシテ行ハセラレルノガ宜イノデハナカラウカ、斯ウ云フ着想ニ依ツテ出来テ居ルモノデアリマシテ日本ノ皇室ノ財産ニ付キマシテハ実ハ私オ恥カシイガ詳シク歴史的ナ調ベハシテ居リマセヌガ、時代時代ノ影響ニ依リマシテ、今日ノ原理カラ見レバ甚ダ徹底セヌモノガアツタト思フノデアリマス、ソレヲ今日ノヤウニ徹底サセル方ガ宜イノデハナイカ、詰リ公費ト私費トノ区別、又天皇ノ公ノ御立場ト私ノ御立場ト云フモノヲハツキリシテ、二者侵スコトナキヤウニスルノガ宜イノデハナカラウカ斯ウ云フ着想カラ、色々財産ノ国庫移転ト云フコトヲ御願ヒスルノデアリマス、サウシテ既ニ財産ノ国庫移転ト云フモノガアリマスレバ、其ノ後ニ於キマシテ、又故ナク現状ヲ破壊シテ個々ノ財産ノ移動ガアルト云フコトハ避ケナケレバナラヌ、ソレガ第八条ノ依リマシテ、特ニ規定致シマシテ、皇室ニ財産ヲ譲リ渡シ、又ハ皇室ガ財産ヲ譲リ受ケル、是ハ結局皇室ノ外カラ皇室ノ中ヘ財産ノ入ツテ来ル途ヲ閉シタノデアリマス、併シナガラ考ヘテ見マスレバ、皇室ニ於テ木曽山ノ木ヲ売ツテ其ノ対価ヲ御取リニナルト云フコトハ、是ハ経済関係トシテ不思議ハナイコトデアリマシテ、何モ特ニ国会ノ議決ヲ経ルト云フ必要ハ先ヅナカラウト思ヒマス、併シ特別ナル経済的原因ナクシテ、若シ外カラ皇室ニ財産ガ固マツテ行クト云フコトガアリマスレバ、ソレハ恐ラク皇室ノ公正無私ト云フコトトソグハヌコトデアラウト思ヒマス、ダカラ国会ノ議ヲ経ベシト云フ道行キガ正シイト思ヒマス、又逆ニ皇室カラ外ヘ財産ガ出テ行クト云フ場合ニ於キマシテモ、皇室デ、或ル必要ナル物ヲ御買入ニナル、例ヘバ顕微鏡ヲ御買入ニナルト云フ時ニ、金銭ヲ支出セラレマスルコトハ、ソレハ何モ不思議トスルニ足リマセヌ、併シナガラ、或ル人々ニ対シテ特ニ財産ヲ特別ナル経済的理由ナクシテ御与ヘニナル、其ノ言葉ニ賜与ト書イテアリマスノガソレニ当リマスガ、サウ云フコトハ国ノ働キトシテ御行ヒニナルナラバ、明カニ国ノ予算ヲ通シテスベキモノデアリマス、ソレデナケレバ日常ノ極ク細カイコトハ別デアリマスケレドモ、是ガ稍々大掛リナモノデアリマスナラバ、何等カノ秩序ノ枠ノ中ニ入レル方ガ相応シイデハナカラウカ、ソコデ国会ノ議ヲ経ルト云フコトニナリマス、斯様ニ書キマシテ、第八条ノ条文ハ、文字ハ少イノデアリマスルケレドモ、必要以上ノ所マデ、謂ハバ縄張ヲ張リマシテ、皇室ノ御財産ニ関シテ制限ガ形式的ニ多イト云フ非難ハ、是ハアリ得ルト思ヒマス、ケレドモ中々其ノ条件ヲハツキリ規定スルコトハ困難デアリマスルガ故ニ、一応縄張ヲ広クシテ置キマシテ、サウシテ其ノ中デ法律ニ依リマシテ適当ナル限界ヲ細カニ定メテ、実行上支障ナキヤウニスルト云フノガ、第八条ノ条文デアリマスカラ、色々ナコトヲ考ヘマシテ、皇室ノ本当ノ御地位ヲ考ヘマスルト、ヤハリ此ノ考ヘ方ガ正シイノデハナイカト、斯ウ思ツテ居リマス
○井伊委員 只今ノ御説明ニ依リマシテ明瞭致シマシタ、私ハ此ノ条文ニ付キマシテノ質疑ヲ終リマス
○芦田委員長 小島徹三君
○小島委員 第八条ニ付キマシテ一点御伺ヒシタイト思ヒマス、ソレハ此ノ規定ニ依リマスト、財産ヲ譲渡シタリ又ハ財産ヲ譲受ケル若シクハ賜与スルコトハ国会ノ議決ニ基カナケレバナラヌト云フコトニナツテ居リマスガ、之ヲ一々国会ノ議決ニスル、個々ノ問題ニ付テスルト云フコトデゴザイマセウカ、ソレトモ概括的ニ法律ニ依ツテ定メテ置ケバソレデ宜シイト云フコトデゴザイマセウカ
○金森国務大臣 是ハ両様アラウト思ヒマス、日常ノコトハ一々国会ノ議決ヲ経ルト云フコトハ不自然ダラウト思ヒマス、随テ法律ニ然ルベキ規定ヲ設ケマシテ、一々ノ手続ヲ省クヤウニ定メナケレバナラヌト思ヒマス、併シナガラ特ニ顕著ナル場合ニ於キマシテハ、国会ノ議ヲ経ルト云フコトガ必要デアラウト思ヒマス
○小島委員 ソレデハ其ノ小サナ事柄ニ付キマシテハ、法律ニ依ツテ決メテ置クト云フコトモ、此ノ規定ニ依ツテ出来ル訳デゴザイマスカ
○金森国務大臣 勿論出来ルノデアリマスルシ、又常例ノコトハ法律ヲ以テ決メテ置ク方ガ宜イノデハナイカト思ツテ居リマス
○小島委員 私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 是ニテ第八条ノ審議ヲ終リマシタ、第九条ヲ議題ニ供シマス、第九条ニ関シテ質疑ノ通告ヲ行ハレタ方ガ数名ニ上ツテ居リマスガ、其ノ中ニ外務大臣ノ出席ヲ要求セラレテ居ル方ノ発言ハ、今日ハ留保致シマシテ、出来ル限リ月曜日ニ質疑ヲ行フコトニ打合ヲ致シマス、特ニ外務大臣ノ出席ヲ必要トシナイ方ニ発言ヲ求メマス――鈴木義男君
○鈴木（義）委員 修正案ヲ出スベキカドウカト云フコトヲ前提トシテ御伺ヒヲ致スノデアリヤス、第九条ニハ国ノ主権ノ発動タル戦争ヲ規定シタノデアリヤスガ、是ハ用語トシテ適当デアリマセウカ、主権ト云フ言葉ノ使イ方ハ色々アリマスガ、「フランス」革命時代ニハ国家ノ最高権力ノ意味ニ用ヒマシテ、ソレガ英米殊ニ米国ニ移リマシテ国家ノ最高権力ト云フ意味ニ使ハレテ来タノデアリマス、併ノ近時ノ通説ハ、国法ノ最高性ト云フ職制ヲ表ハシテ居ルモノト存ジマス、サウデナクテ国家権力ト云ウ意味ヲ表ハシマスナラバ、我ガ国ノ言葉デハ寧ロ国権ト云フ言葉ガ適切ト存ジマス、戦争ト云フモノハ国家権力ノ発動ニ相違ナイノデアリマス、戦争ヲシナイト云フ誓ヒハ、寧ロ国ノ政策トシテノ戦争ハシナイト云フ意味デアラウト存ジマス、ソレナラサウ規定スル方ガ一層適切簡明デハナイカト思フノデアリマス、主権ノ発動ト云フ用語ハ、将来之ヲ学問的ニ説明シマスル場合ニ面白クナイヤウニ存ジマスルガ故ニ御尋ネヲ致スノデアリマスガ、政府ハ何カ特別ノ理由ヲ以テ、此ノ用語法ヲ御採用ニナツテ居ルノデゴザイマセウカ
○金森国務大臣 コレハ先ニ御示シニナリマシタ国家権、国家統治権、サウ云フ意味ノ主権デアリマシテ、特ニ外ノ意味ヲ含メテハ居リマセヌ、唯ソレダケノ単純ナ意義ヲ表ハス為ニ国ノ主権ノ発動ト云フ言葉ヲ使ツタ訳デアリヤス、ソレガ当否ニ付キマシテハ、私カラ今別ニ御答ヘ致シマセヌガ、御諒承願ヒマス
○鈴木（義）委員 私自身ハ此ノ主権ト云フ言葉ノ使ヒ方ニ付テ独自ノ考ヘ方ヲ持ツテ居リマスガ、ソレハ姑ク預カルトシマシテ、最モ妥協的ニ常識的ニ使フト致シマシテモ、国家ト云フ団体ガ他ノ如何ナル団体カラモ拘束ヲ受ケナイト云フコト、法的ニ優越性ヲ持ツテ居ルト云フコトヲ示ス概念デアリマス、歴史的ニハ先程申ス通リ、「フランス」革命ノ人権宣言ニ使ハレタノガ其ノ侭或ル国ノ法系ニ伝ハツテ残ツテ居ルダケデアリマシテ、国家ノ最高性ヲ表ハスナラバ、私ハ之ヲ使ツテモ宜イト思フノデアリマシテ、前文デ使ツテ居ル主権ト云フ言権ノ使ヒ方ハ、必ズシモ非難ニ値シナイト思フノデアリマス、之ニ反シテ実力的、即チ権力ノ源泉ガ何処ニアルカト云フ意味デ此ノ主体ヲ示シマスル為ノ表現ナラバ、国ノ最高権力トカ国権トカ云フベキコトハ殆ド世界各国ノ憲法及ビ公法学説ノ一致シテ居ル所デアリマス、戦争ナルモノハ明ラカニ国家権力ノ発動現象デアリマシテ、国家ノ法的最高性ト云フコトトハ無関係デアリマス此ノ立案者モ其ノコトヲ意識シテ居ラレマシタラシク、前文デ戦争ノコトヲ申シマスル時ニハ「政府の行爲によつて再び戰爭の慘禍が發生しないやうに」ト言ツテ居ルノデアリマス、是ガ正シイ表現デアルト存ジマス、将来ノ憲法ヲ説明致シマスル場合ニ、学問的ニ困難ヲ感ズルヤウナ表現ハ、立案ノ際ニ気ガ付キマスル以上ハ、出来ルダケ改メテ戴キタイト念願致シマスルガ故ニ、此ノコトヲ一言附加シテ私ノ質問ヲ打切リマス
○芦田委員長 山田悟六君、総理ノ出席ハ必要デアリマセヌカ
○山田（悟）委員 アリマセヌ――私ハ此ノ第九条ノ第二章ト云フモノハ、今回ノ憲法ノ平和国家宣言ト云フ事柄ニ非常ニ重大ノ意義ヲ持ツテ居ルト信ズルノデアリマス此ノ新憲法ノ目的カラ、或ハ国際的ノ重大関係ト云フヤウナ事柄カラ、本章ヲモツト大キク取リ上ゲル御考ヘガ政府ニアルカドウカ、此ノ所見ヲ御伺ヒ致スノデアリマス
○金森国務大臣 此ノ第二章ニ含マレテ居ル原理ヲ、モツト大キク取上ゲル考ヘガ政府ニアルカドウカト云フ御尋ネト心得マシタガ、此ノ九条ノ規定ハ、言葉ハ簡単デアリマスルケレドモ、内容ニ於キマシテ実ニ深遠ナル味ハヒヲ持ツテ居リマシテ、是レ以上容易ニ大キク取上ゲル余地ハナイヤウニ考ヘテ居リマス
○山田（悟）委員 更ニ御伺ヒ致シマスガ、此ノ平和国家ノ宣言ト云フ事柄ニハ、平和ヲ愛好スル我々国民ノ意思ト云フモノガ非常ニ重大デアルヤウニ考ヘルノデアリマス、此ノ平和愛好ノ意思ヲ本条ニ加ヘル御考ヘガ政府ニアリマスカドウカ、之ヲ重ネテ申上ゲマス
○金森国務大臣 憲法ハ言フマデモナク国ノ法デアリマシテ、各箇ノ規定ハ法則ヲ規定スルノガ順序デアラウト思ヒマス、併シ憲法ト云フヤウナ基本法ニナリマスルト法則デナイ一ツノ主義、主張ノ闡明ト云フモノモ幾ラカ含マレテハ居リマスルケレドモ、凡ソ範囲ヲ守リマシテ、法則ニ近イモノヲ規定致シマシテ、其ノ埒ヲ越エマスルノニモ自ラ遠慮深ク決メテ居ルノデアリマス、今御示シニナリマシタヤウニ、平和ニ対シテノ日本ノ熊度ヲ大イニ明カニスルト云フコトハ、確カニ実質ニ於テ適当ナルコトデアリマスルケレドモ、此ノ憲法ノ各箇ノ条文ハ出来ルダケ法則的ノモノヲ内容ト致シマシテ其ノ周リニ存在致シマス種々ノ原理ノ表明トカ、主張トカ、歴史的過程ヲ叙述スルトカ云フコトハ前文ノ中ニ委ネルコトヲ適当ト思ヒマシテ、平和ノ大イナル理想ヲ実現シヨウトスル宣言ハ、前文ノ中ニ相当力強ク盛リ込ンデアルト思ヒマスカラ、前後相承ケテ意味ヲ成スモノト考ヘテ居リマス
○山田（悟）委員 次ニ戦争抛棄デアリマスガ、是ハ世上多ク戦争抛棄ト唱ヘラレテ居リ、又英文ヲ訳シマスト、是ヨリ仕方ガナイノデアリマスガ、私共カラ考ヘサセルト、戦争ノ抛棄ト云フ事柄ハアリ得ナイ、戦争ノ否認ト云フコトデアルナラバ、アリ得マスガ、強ヒテ言ヘバ、戦争権ノ抛棄ナラバイザ知ラズ、戦争ノ抛棄ト云フ事柄ハアリ得ナイ、戦争ト云フモノヲ抛棄ト云フ文字ヲ使用シテ表現致シマスルノハ、戦争ヲモノトシテノ御考ヘニ依ツテノ結果ヨリ出タルモノト思フ、之ニ対スル御所見ヲ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣 御趣旨ニアリマスルヤウニ、是ハ固ヨリ戦争及ビ武力ノ行使ヲヤラナイコトニスルト云フコトニ外ナラヌノデアリマス、併シナガラ斯クノ如キ思想ヲ的確ニ言表ハシマスルニハ如何ナル言葉ガ宜イデアラウカ、私共之ヲ考ヘマスル時ニ、或ル場合ニハ否定ト云フヤウナコトヲ考ヘマシタ、戦争ノ否定‥‥併シソレモ語弊ガアリマシテ面白クナイ、又或ル場合ニハ戦争ノ否認ト云フ言葉ヲ使ツテ見マシタ、是モ戦争其ノモノノ観念ヲ否認スルガ如キ形デアツテ面白クナイ、或ル場合ニハ戦争ノ断念ト云フヤウナ言葉ヲ使ツテ見マシタガ、如何ニモソレハ残リ惜シサウニ断念ヲスルト云フ感ジヲ起シマシテ面白クナイ、色々ナ文字ヲ探リマシタケレドモ、的確ニ之ヲ表ハス言葉ガ容易ニ見付カラナカツタノデアリマス、然ルニ曽テ不戦条約ヲ締結致シマスル場合ニ、其ノ時ニ戦争ノ抛棄ト云フ言葉ヲ使ヒマシタ、文字ヲ一字一字分析シテ読ンデ行キマスレバ、ソレハ意味ヲ成サナイトノ非難モ起リ得ルカモ知レマセヌケレドモ、ヤハリ、時代ニ応ズル一ツノ表現ガアリマシテ、ソレガ外観上不自然ナ所ガアレバアル程、人心ニ沁ミ易キ効果的ナル味ハヒモアルコトデアリマシテ、従前ノ慣例ニ依リマシテ戦争抛棄ナル言葉ヲ使ツタ次第デゴザイマス
○山田（悟）委員 更ニ私ハ此ノ最後ノ項ノ「陸海空軍その他の戰力は、これを保持してはならない。」如何ニモ他動的ニ「保持してはならない。」ト示シテアリマスガ、他動的ナル事柄デアル、然ルガ故ニ此ノ項ニ対シテハ、他動的ナルモノデアルカ――私共ハ自主的ニ保持シナイト解釈ヲ致シテ居リマスガ、保持シテハナラナイモノデアルカ、自主的ニ保持シナイモノデアルカ、此ノ点ニ対スル御所見ヲ承リタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 是ハ国家ガ国家ノ働キヲシテ居ル人々ニ対シマシテ言渡スヤウナ形デアリマシテ、国ガ中心ニナリマシテ、国ノ事務ヲ担任シテ居ル者ニ向ツテ戦力ハ保持シテハナラナイ、交戦権ハ之ヲ認メナイ、斯ウ云フ風ニ言表ハシタノデアリマシテ、其ノ外ノ特別ナ趣旨ヲ持ツテ居ル訳デハゴザイマセヌ
○山田（悟）委員 以上ヲ以テ私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 本日ハ此ノ程度ニ止メ明後日午前十時カラ開会致シマス、引続キ第九条ニ対スル質疑ヲ継続致シマス、是ニテ散会致シマス
午後四時一分散会