委員会 昭和21年7月15日（第13号）
昭和二十一年七月十五日（月曜日）午前十時二十四分開議
出席委員
委員長 芦田 均君
理事 江藤 夏雄君 理事 廿日出ひろし君
理事 青木 泰助君 理事 吉田 安君
理事 菊地養之輔君 理事 鈴木 義男君
理事 林 平馬君 理事 大島 多藏君
高橋 英吉君 上林山榮吉君
加藤 一雄君 木村 義雄君
北浦圭太郎君 小島 徹三君
左藤 義詮君 武田 キヨ君
武田信之助君 塚田十一郎君
本田 英作君 三浦寅之助君
西山冨佐太君 犬養 健君
荊木 一久君 鈴木周次郎君
坪川 信三君 天野 久君
原 健三郎君 原 夫次郎君
山田 悟六君 星 一君
森山 ヨネ君 山崎 岩男君
井伊 誠一君 石川金次郎君
及川 規君 加藤シヅエ君
黒田 壽男君 田原 春次君
棚橋 小虎君 西尾 末廣君
原 彪之助君 松澤 兼人君
森 三樹二君 森戸 辰男君
井上 徳命君 大橋 喜美君
越原 はる君 石黒 武重君
笠井 重治君 安部 俊吾君
東井三代次君 池上 隆祐君
早川 崇君 笹森 順造君
野坂 參三君
同日委員大久保留次郎君辞任ニ付
其ノ補欠トシテ高橋英吉君ヲ議長
ニ於テ選定シタ
出席国務大臣
内閣総理大臣兼
外務大臣 吉田 茂君
司法大臣 木村篤太郎君
文部大臣 田中耕太郎君
国務大臣 齋藤 隆夫君
国務大臣 植原悦二郎君
国務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
司法政務次官 古島 義英君
文部政務次官 長野 長廣君
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本日ノ会議ニ付シタ議案
帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長 会議ヲ開キマス、第二章第九条ヲ議題ニ供シマス――加藤一雄君
○加藤（一）委員 私ハ政府ニ第九条ニ関シマシテ質問スルニ当リマシテ、一応私ガ質問致シマスル前提、心構ヘヲ御話サセテ戴キマス私ハ戦争抛棄ノ規定ニ付キマシテ文理解釈ハ偖テ措キマシテ、其ノ精神解釈ニ重点ヲ置キマシテ御伺ヒシタイト思ヒマス、左様申上ゲマスコトハ、此ノ規定ガ特ニ重要デアリマスカラ、此ノ規定ノ背後ニゴザイマスル各般ノ事象ヲ究明致スコトガ必要ト考ヘテ居リマス日本ハ今次世界戦争ニ参加、又ハ自分ノ方カラ始メマシテ、歴史ヲ破壊致シマスト同時ニ、世界ノ物嗤ヒニ相成ツテ居リマス、戦争抛棄ト一概ニ申シマスルガ、是ハ大事業デアリマシテ、我々国民ト致シマシテハ、戦争ヲ抛棄致シマスニ当リマシテハ、又之ヲ世界ニ宣明シタ以上ハ、是ガ非デモ之ヲヤリ遂ゲマシテ、二度ト再ビ世界ノ前ニ嗤ヒモノニナラヌト云フ覚悟ヲ今日私ハ新タニシタイト存ジテ居リマス、ソレデ私ガ御伺ヒ致シマスルコトハ、斯様ナ意味合デアリマスカラ、政府ノ端的ナル御決意ヲ伺ツテ見タイノデアリマス、今マデ政府ノ御答弁ガ口先ダケノ御答弁トハ考ヘテ居リマセヌガ、特ニ私ガ御伺ヒ致シタイコトハ、心ノ底カラ送リ出ル所ノ政府ノ御決意ヲ開陳願ヒタイト存ジマス、是ト同時ニ国民モ政府ノ意ノアル所ヲ十分ニ諒解致シマシテ、新タナル覚醒ヲ喚ビ起スト同時ニ、絶大ナル決意ヲ鞏固ニ致シマシテ、茨ノ道ヲ真一文字ニ突貫致シマシテ、先ニ申上ゲマシタ通リノ新日本建設ヲ致スコトヲ確信ヲ致シマス、惟フニ戦争ト申シマスノハ「バートランド・ラッセル」ガ申シマシタ通リ、罪悪ノ樹ニ咲ク最後ノ華デアルコトハ申スマデモゴザイマセヌ、現在地球上ニ存在致シテ居リマスル、又世界ヲ料理致シテ居リマスル大部分ノ人達ハ、一度ナラズ二度マデモ、有史以来ノ甚大ナル惨禍ヲ齎シマシタ戦争ヲ経験致シテ居リマス、静カニ人類ハ今胸ニ手ヲ当テテ考ヘテ居ルコトト私ハ思ヒマス、三度此ノ地球上ニ戦争ヲ勃発セシメナイヤウニスル努力ヲ傾倒シナケレバナラヌト云フコトデアリマス、ココニ天皇陛下ハ、突如トシテ政府ヲシテ世界各国ニ率先致シマシテ、此ノ悲シムベキ戦争ヲ拠棄スルト云フコトヲ、国ノ基本法デアリマスル憲法ニ御明定ニナリマシテ、我々国会ニ之ヲ提示遊バサレマシテ、審議ヲ御命令ニ相成ツテ居リマス、又同時ニ世界人類ノ前ニ之ヲ御明示ニ相成ツタ訳デアリマス、此ノ戦争抛棄ノ条文ハ、綴レバ一条文ノコトデアリマスルガ、此ノ重大性ハ実ニ甚ダシイモノデアリマシテ私ガ只今申上ゲルマデモゴザイマセヌ、私ハ此ノ新日本ノ再建ト云フモノハ、懸ツテ此ノ戦争抛棄ノ規定ヲ円満且ツ迅速ニ、完全ニ遂行スルト云フコトニアルト申上ゲタイノデアリマス、即チ戦争抛棄ヲ完全ニ遂行致シマスニ当リマシテハ、一国ノ政治外交、経済、産業、教育、文化、社会、各般ニ亙リマシテ、其ノ裏付ニナツテ居リマス事象ヲ正確ニ把握致シマシテ是等ニ対シマシテ絶エズ誤ラザル研究ト、政策トヲ実施致シマシテ而モ是等研究ト実施トハ、総テ戦争拠棄ノ一点ニ集結スルノ政策デナケレバナラヌト確信ヲ致シマス此ノ研究ト政策ノ実施ガアツテ初メテ世界ノ諸国民ハ、公正ト信義ノ命ズル侭ニ、我ガ民族ニ対シマシテ喜ンデ協力ヲヤツテ呉レルト是レ亦確信ヲ致シマス、日本ハ今次戦争ニ於キマシテ完全ニ敗北致シマシタ、而シテ世界人類ノ前ニ服罪ヲ致シテ居リマス、之ニ対シテハ如何ナル高価ナ犠牲ヲモ辞スルモノデハナイト云フ謙虚ナ気持ヲ以テ私ハココニ起チ上ガリマシテ政府ニ一問一答ヲ試ミルコトニ致シマス、私ノ言葉ヲ通ジマシテ、日本民族ノ現在ノ心境ヲ、必ズヤ連合軍ハ、平和ヲ愛好スル世界ノ諸国民ニ代リマシテ十分ニ諒解シテ呉レルト是レ亦確信ヲ致シマス重ネテ申上ゲマス、政府ハ勿論ノコト、日本国民ハ全部自分ノ手デ日本再建ノ大努力ヲ致スコトガ、第一ニ肝要デアリマス、先ヅ之ヲヤリマシテ然ル後連合軍ニ諸種ノ救援ヲ求メルコトガ必要ト考ヘテ居リマス、先ヅ一問一答ニ入リマスニ当リマシテ、先般本委員長カラ政府ニ対シマシテ、本憲法草案ヲ審議スルニ当リマシテハ、皇室典範ト参議院ノ制度ノ御提出ガ願ヒタイト申サレテ居リマスガ、私ハソレニ重ネマシテ、教育ノ基本法ト、労働法案ト、官吏法案ト、最高裁判所ノ構成法案ヲ御提出戴キタイト存ジマス、若シ此ノ法案ノ全部ガ出来テ居ナイト云フコトデアリマスレバ、要綱ノミニ止メテモ宜シウゴザイマス、之ヲ憲法委員会ノ方ニ御提出ヲ希望シテ置キマス、先ヅ之ヲ前提ニ致シマシテ、以下一問一答致シマス
過去ニ於キマスル戦争ハ、概ネ其ノ原因ガ、人口問題ヲ中心ニ致シマス経済問題ニアツタヤウニ自分ハ考ヘテ居リマスガ、政府ノ御所見ハ如何デゴザイマスカ
○金森国務大臣 金部ガサウト云フコトハ固ヨリ申サレマセヌガ、大イナル要素トシテソレガアルコトハ御説ノ通リト考ヘテ居リマス
○加藤（一）委員 ソコデ完全ニ戦争ヲ抛棄致シマシテ、而モ我等ノ安全ト生存ヲ確保スル上ニ於キマシテハ、経済ノ安固ト云フモノガ第一条件トナリマス、之ニ配スルニ思想教育ノ確立ト云フコトガ必要ト考ヘマスルガ、此ノ点ハ如何デゴザイマスカ、金森国務相ト文相ノ御答弁ヲ戴キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 ソレ等ノ御示シニナリマシタ要素ヲ堅実ニ発展セシムルト云フコトガ、此ノ平和的文化的ナル国家ノ建設ノ上ニ最モ重点ヲ置カナケレバナラヌコトハ申スマデモナイコトト存ジマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、戦争抛棄ノ問題ニ付キマシテ只今教育トノ関係ニ付テモ十分考慮シナケレバナラナイ、是ハ全ク御説ノ通リデアリマシテ、是ハ詰リ民主主義的、平和主義的教育ヲ今後遂行致シテ参リマスノニ付キマシテ、非常ニ意味アルコトデアリマス、日本ガ詰リ今後ノ国際政治ニ於キマシテ「パワー・ポリティックス」詰リ権力政治ト申シマスルカ、其ノ「パワー・ポリテックス」ノ「クライマックス」ハ、要スルニ武力ニ依ル世界制覇ト云フコトニナルノデアリマシテ、戦争ヲ抛棄シテ本当ノ平和主義的ナ活動ヲ国際政治ニ於テ演ズルト云フコトハ、是ハ国内ノ教育ニ付テモ非常ニ大キナ意味ヲ持ツノデアリマス、詰リ戦争抛棄ヲナゼ致シタカト申シマスルト、西洋ノ聖典ニモゴザイマスヤウニ、剣ヲ以テ立ツ者ハ剣ニテ滅ブト云フ原則ヲ根本的ニ認メルト云フコトデアルト思フノデアリマス、併シナガラサウ云フ風ニ考ヘマスルト、或ハ不正義ノ戦争ヲ仕掛ケテ来タ場合ニ於テ、之ニ対シテ抵抗シナイデ不正義ヲ許スノデハナイカト云フヤウナ疑問ヲ抱ク者ガアルカモ知レナイ、詰リ正シイ戦争ト正シカラザル戦争ノ区別モ全然無視シテ単ニ不正ナル力ニ負ケテシマフト云フヤウナコトニナリハシナイカサウスルト詰リ国際政治ニ於キマシテ、不正義ヲ此ノ侭認容スルト云フ風ナ、道義的ナ感覚ヲ日本人ガ失フト云フコトニナツテモ困ルデハナイカト云フヤウナコトモ考ヘラレマス、併シナガラ決シテソレハサウデハナイ、不正義ハ世ノ中ニ永ク続クモノデハナイ、剣ヲ以テ立ツ者ハ剣ニテ滅ブト云フ千古ノ真理ニ付テ、我々ハ確信ヲ抱クモノデアリマス、サウ云フ場合ニ於テハ、与論ノ力ガ今後ハ国際政治ニ於キマシテモ益々盛ンニナルコトデアリマスシ、又或ハ仮ニ日本ガ不正義ノ力ニ依ツテ侵略サレルヤウナ場合ガアツテモ、併シソレニ対シテ抵抗スルコトニ依ツテ、我々ガ被ムル所ノ莫大ナル損失ヲ考ヘテ見マスルト、マダマダ日本ノ将来ノ為ニ此ノ方ヲ選ブベキデハナイカ、併シ世界歴史的ノ大キナ目ヲ以テ考ヘテ見マスト、世界歴史ハ世界審判ダト云フコトヲ申シマス、大キナ目ヲ以テ考ヘマスト、戦争抛棄ト云フコトモ決シテ不正義ニ対シテ負ケル、不正義ヲ認容スルト云フ意味ヲ持ツテ居ナイト思フノデアリマス、此ノ点ニ付キマシテ教育ノ面ニ於テモ非常ニ被教育者ヲ精神的ニ指導致スノニ付テ大イニ考慮ヲ要スルコトト思ヒマス、只今御質問ノ此ノ戦争抛棄ト教育ノ関係ト云フコトニ付キマシテ御触レニナツタ点ニ付テ御答ヘ申上ゲマシタ訳デアリマス
尚教育法ノ根本的ノ構想ヲ此ノ際立ツベキデハナイカト云フヤウナ御説デゴザイマスガ、此ノ教育法ノ根本的ノ構想ハ今我々ガ練ツテ居ル最中デゴザイマシテ、其ノ範囲、内容等ハ、甚ダ実ハ漠然ト致シテ居ルヤウナ訳デゴザイマスガ、併シ民主主義的平和主義的教育ノ根本原理、詰リ憲法ノ前文ニモ現ハレテ居リマスヤウナ根本原理ヲ先ヅ掲ゲマシテ、今日マデノ学校法令ニ現ハレテ居リマス所ノ皇国ノ道ニ則リ、サウ云フ思想ヲ払拭致スト云フコトガ第一デアリマス、第二ニ教権ノ独立、此ノ頃是ハ与論ニナツテ参ツタト申シテモ宜イノデゴザイマスガ、其ノ教権ノ独立、詰リ或ハ文部省行政ナリ、或ハ地方教育行政ガドウ云フ風ニ今後進ンデ行カナケレバナラナイモノカト云フヤウナ問題ニ付キマシテモ、十分研究ノ上、或ハ適当ナ形ヲ以テ規定ニ表ハサナケレバナラナイノヂヤナイカト思ヒマス、更ニ又学校教育ノ根本ニ付キマシテハ、義務教育ノ範囲ノ問題ニナリマスデセウシ、又或ハ男女ノ性別ニ依ツテ教育ノ区別ヲ設クベキデハナイト云フヤウナ問題ニ付キマシテ、女子教育ノ根本理念ヲ掲ゲル必要モゴザイマスシ、又教員養成機関ノ問題ニ付テモ必要デゴザイマスシ、其ノ他私学ノ問題ニ付テモ必要デアリマスシ、大体サウ云フヤウナ根本的ナ問題ニ付テ法律ノ規定ニドレダケ取入レラルベキデアルカト云フヤウナコトモ考ヘマシテ、構想ヲ練ツテ居ル次第デアリマス
○加藤（一）委員 今ノ文相ノ答弁デ一応ハ相分リマシタガ、終戦後今日マデノ国民思想ノ頽廃ト学校教育ノ根本的ナ行方ガ分ラヌト云フ状況ハ万人是ハ認メル所ト私ハ考ヘテ居リマス、将来ノ構想ヲ篤ト承リタイノデアリマスガ、現在ガ必要デアル、現在ヲ律シマシテ将来ニ向ツテ行キタイ、現在ガ左様ナ混沌タル状況デハ新日本ノ建設モ其ノ第一歩ガアヤフヤデアリマシテ、立派ナ成果ハ収メラレヌト思ヒマス、此ノ意味ニ於テ金森国務相ハ屡々本議場ニ於テ御答弁ニナツテ居ラレマスカラ、御遠慮申上ゲマシテ、文相カラ教育ノ淵源ヲ掻イ摘ンデ御話戴キタイト思ヒマス
○田中国務大臣 只今御指摘ニナリマシタ所ノ終戦後時ニ目立ツテ居リマス所ノ道義ノ頽廃、ソレカラ学校教育ガ虚脱状態ニ陥ツテ居ルヤウナ風ニ思ハレル、之ニ付テハ教育ノ淵源ヲハツキリ掴ンデ置ク必要ガアルノデハナイカ、詰リ教育、殊ニ道義教育ノ意味ト承リマシタガ、其ノ淵源ハドコニアルカト云フ問題デゴザイマス、是ハ既ニ従来色々問題ニナリマシタヤウニ、従来ハ教育勅語ト云フモノガ教育ノ淵源ニナツテ居リマシタ訳デゴザイマス、此ノ教育勅語ニ付テハ、歴史上色々論議モゴザイマシタノデアリマス、極ク簡単ニ申上ゲマスト、此ノ教育ノ淵源ノ問題ヲ御答ヘスルコトニナルノデハナイカト思ヒマス、此ノ勅語ハ終戦後、詰リ一月元旦ノ御詔書ニ依ツテ廃止セラレタノデハナイカト云フヤウナ疑問ヲ起ス向モゴザイマシテ、文部省ト致シマシテハ勅語ハ勿論明治二十三年ノ当時ノ事情ヲ考慮シ、或ハ形式ナリ、或ハ表現ノ仕方ニ於テ、其ノ当時ノ色彩ガ着イテハ居リマスケレドモアソコニ盛ラレテ居リマス所ノ根本原理ハ、詰リ人倫ノ大本、天地ノ公道ト申シテモ差支ヘナイヤウナモノト考ヘマス、是ハヤハリ今日モ其ノ内容ノ見地カラ考ヘテ見マシテ、権威ヲ持ツテ居ルト思フノデアリマス、併シナガラ天皇陛下ガアア云フヤウニ御明示ニナツタカラ、教育勅語ヲ教育ノ淵源ト拝スルト云フノデハナクシテ、内容其ノモノガ正シイカラ、随テ我々ハ教育勅語ニ付テモ今日マデヤハリ之ヲ廃止スルト云フヤウナ態度ニ出ズ、依然トシテ其ノ道義的ノ権威ヲ尊重スルト云フ建前デ参ツテ居リマス、併シナガラ従来ノ誤リハ、教育勅語ヲ単ニ形式的ニ諳誦シテ表面ダケ遵奉シタヤウナ顔ヲシテ居ルト云フ所ニ、誤リガアツタノデアリマス、其ノ態度ハ改メナケレバナラナイ、本当ニ肚ノ底カラ教育勅語ニ示サレテ居ルヤウナ道義ヲ実践スルト云フ所ニ重キヲ置カナケレバナラナイ、之ニ付キマシテハ従来兎角等閑視サレテ居リマシタ所ノ宗教的ノ情操ヲ涵養シ、信教ノ自由ノ許シテ居リマス所ノ範囲内ニ於テ凡ユル宗教ニ対シテ総動員ヲシ、詰リ日本ノ教育ノ振興ニ協力シテ貰フト云フヤウナ態度ニ出ヅベキデハナイカ、ソレカラ又宗教ノミナラズ東西両洋ニ亙ル所ノ立派ナ古典ガ、世界人類ノ遺産トシテ今日マデ我々ニ伝ヘラレテ居ル、教育ノ淵源ハ豈ニ教育勅語ノミナランヤ、或ハ「バイブル」アリ、或ハ論語、孟子アリ、或ハ仏教ノ聖典アリ、或ハ日本ニモ立派ナ古典ガ沢山アルノデアリマス、サウ云フモノ全部ヲ詰リ教育ノ淵源トシテ今後道徳、道義的ノ教育ニ利用シナケレバナラナイ、単ニ教育勅語ノミヲ金科玉条トシテヤツテ来タト云フ所ニ、我々ハ此ノ態度ニ誤リガアツタノデハナイカト思フ、デアリマスカラ教育勅語ヲ十分理解スル為ニハ、或ハ「バイブル」ナリ、或ハ仏教ノ聖典ナリ、或ハ儒教ノ聖典、日本ノ古典モ十分利用スル非常ナ広イ国際的ノ眼光ヲ以テ、歴史的ノ眼光ヲ以テ、サウ云フ人類ノ道義ノ根本ヲ理解スルノニ役ニ立ツヤウナ材料ヲ、総テ利用シナケレバナラナイト云フ風ニ考ヘルノデゴザイマス、御答ヘニナツテ居ルカドウカ存ジマセヌガ、尚ホ御質問ガゴザイマシタラ御答ヘ申上ゲマス
○加藤（一）委員 今ノ御言葉デ、教育勅語ノミヲ以テ国民教育、国民道義ノ昂揚ヲ図ツテ来タノガ間違ヒデ、広ク世界ニ知識ヲ求メナケレバナラヌ、斯ウ云ウ御話ニ私ハ了承致シマシタガ、左様デゴザイマスレバ速カニ現状ニ於キマシテ、国民学校等ニ対シマシテ文部省ハ適当ナル御措置ヲ執ツテ戴キタイト存ジマス、更ニ次ニ御尋ネ致シマスノハ、国体ノ精華ト云フ点ニ付キマシテ、簡単デ宜シウゴザイマスカラ御答弁ヲ戴キマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、国体ト云フコトガ従来非常ニ誤ツテ強調セラレテ参リマシテ、或ハ国体明徴運動トカ、或ハ日本精神、或ハ東洋精神ノ強調ト云フヤウナ風デ、兎角誤リ伝ヘラレ、誤ツテ用ヒラレテ来タト云フコトハ、是ハ極メテ遺憾ニ存ズル次第デアリマス、デアリマスカラ、国体ト云フ言葉ヲ使フノニモ、余程用心シナケレバナラナイヤウナ状態デアリマス、併シナガラ善イ意味ノ民族性、日本ノ歴史及ビ日本ノ社会ノ特異性ト云フヤウナモノハ之ヲ十分認識シナケレバナラヌノデアリマス、本来民主主義ノ根本原理、或ハ政治ニシロ、或ハ教育ニシロ、ソコニ現ハレテ居リマス所ノ民主主義的ノ根本原理ハ、是ハ憲法ノ前文ニモ現ハレテ居リマスヤウニ、普遍人類的ノモノダト考ヘテ居リマス、併シナガラ此ノ民主主義的ノ根本原理、是ガ適用セラレルニ当リマシテハ、日本ノ歴史、日本ノ社会構成、日本ノ文化的水準、或ハ民族性ト云フヤウナモノヲ十分考慮致シマシテ、其ノ普遍人類的、普遍妥当的ナル民主主義的ノ原理ガココニ適用セラレル訳デアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、此ノ日本ノ特異性ヲ全部国体ト云フ言葉ヲ以テ表ハシマストスレバ、是ハヤハリ大イニ尊重シナケレバナラナイモノデアルト云フコトニ帰着スルト存ズル次第デゴザイマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、従来ノ誤ツタ意味ノ国体観デハナクシテ、今度ハ新シイ意味ノ、一層科学的ナ、一層歴史的ナ、一層社会学的ナ意味ノ国体ノ研究モ必要デハナイカト云フ風ニ存ジテ居ル次第デゴザイマス
○加藤（一）委員 今ノ御言葉デ、教育ノ淵源ニ付キマシテモ、国体ノ精華ニ付キマシテモ、従来、誤ツタ誤ツタト云フ御言葉ヲ伺ツテ居リマス、サウ致シマスト、我々ガ受ケマシタモノハ、全部誤ツタ教育ヲ受ケタコトニナリマシテ、少シ言葉ガドウカト思ヒマス、私ハ斯様ニ考ヘテ居リマス、八月十五日以前ノ教育ニ於キマシテハ、教育勅語ニアリマス全文ガ全ク日本ノ国体ノ精華デアツタ、同時ニ教育ノ淵源モソコニアツタト確信ヲ致シマス、此ノ確信ニ、文相、間違ヒゴザイマスカ、間違ヒゴザイマセヌカ
○田中国務大臣 我々ト致シマシテハ、教育勅語ニ示サレテ居リマス国体ノ精華、又其ノ国体ガ教育ノ淵源ニナツテ居ツタト云フコトニ、決シテ誤リハナイト存ジマスソレハ詰リ勅語ノ後ニモ示サレテ居リマスヤウニ、斯ノ道ハ皇祖皇宗ノ遺訓デアリ、又之ヲ古今ニ通ジテ謬ラズ、之ヲ中外ニ施シテ悖ラズト云フ風ニ言ハレテ居リマス詰リ普遍的原理ト、日本固有ノ善イ意味ノ美風、淳風美俗ト申シマスカ、サウ云フモノト一体ヲ成シタ意味ノ道義観ガ、是ガ国体ノ精華デモアルト云フ風ニ考ヘテ居リマス、只今御話ノヤウニ、真理ト云フモノハ八月十五日ヲ境トシテ其ノ前ノモノガ今誤リニナリ、其ノ前ニ誤ツテ居ツタモノガ、今度ハ真理ニナルト云フヤウナモノデハ、決シテナイト云ウ風ニ信ジテ居リマス、デアリマスカラ是ハ教育勅語ノ拝シ方ノ問題ニナリマシテ、従ツテ、従来、本来正シカルベキ筈ノ教育勅語ガ、或ハ右翼的ナ方面、或ハ文武官僚等ニ依リマシテ曲解セラレテ居ツタト云フ風ニ考ヘマス
○加藤（一）委員 其ノ点ハ能ク了承致シマシタ、ソコデ私ハ文相ニ一ツ提案ヲ致シマス、私ハ宮城ノ二字ヲ御廃メ戴キタイト存ジマス其ノ理由ヲ今説明致シマス、今日民主主義ト云フ思想ガ横溢ヲ致シテ居リマス、是ハ其ノ昔、中世紀以後ニ於キマシテ――ソレ以前カラモ、西洋ノ君主或ハ王ガ砦ヲ築キ、或ハ城ヲ築キマシテ、其処ニ君臨ヲ致シマシテ、国民ヲ暴圧シ苛歛誅求ヲヤツテ居リマス、ソコデ国民ハ剣ヲ取リ銃ヲ取リマシテ起チ上リマシテ、革命ヲ断行シテ君主又ハ王ノ地位ヲ、顛覆致シテ居リマス、是ガ国民自ラ政治ヲスルト云フ民主主義ノ私ハ萌芽ト考ヘテ居リマス、所ガ日本ノ国柄ヲ眺メマスル時ニ、神武天皇カラ今上陛下ニ至リマスルマデ、砦ヲ築キ城ヲ築キマシテ国民ニ御臨ミニナリマシタ天皇ハ一方モゴザイマセヌ、ソコデココニ一ツノ大キナ過チヲ明治政府ガ犯シテ居ル、是ハ永ク徳川ガ住ンデ居リマシタ三百年ノ居城江戸城ヲ皇居ニ定メテ之ヲ宮城トシ、之ヲ国民ニ言ヒ触ラシタ、是ガ間違ヒデス、時流ニ副ハナイ、御案内ノ通リ武力ノ意味ヲ表明致シマシタ軍国主義デアルカノ如キ誤解ヲ此ノ字句ノ中ニ含ンデ居リマス、サレバ今日日本ノ輩マデガ天皇陛下ヲ戦争犯罪人ノ最上人トマデ指摘致シテ居リマス洵ニ以テ恐縮至極ノ限リデアリマス、速カニ政府ハ此ノ宮城ノ二字ヲ払拭致シマシテ、昔ノ侭ノ皇居ト御呼ビ申上ゲルコトニ私ハ致シタイ、佐様致シマシテ皇室ハ道義平和、文化ノ中心デアルト云フ国民運動ヲ展開致シタイ、此ノ思想ヲ統一致シマシテ、新日本ノ魁ト致シタイ、此ノ点ニ付キマシテ文相ノ御賛成ガゴザイマスルカドウカ伺ツテ置キマス、若シ御賛成デゴザイマスレバ、政府ハ速カニ宮城ノ二字ヲ払拭致シマシテ、皇居ト御尊称申上ゲルコトニ御処置願ヒタイト存ジマス
○田中国務大臣 御答ヘ致シマス、宮城ト云フ言葉ガ一体ドノ程度ニ公ニ使ハレテ居ルカ、多分教科書等ニハ無論ゴザイマスデセウ、ソレ以外ニドレダケノ範囲ニ於テ使ハレテ居ルカト云フコトハ、ハツキリシタコトハ存ジマセヌガ、併シナガラ確カニ使ハレテ居リマス、サウ云フ言葉ニ付キマシテモ今後例ヘバ憲法ノ表題其ノモノニ付テモ考慮サレテ居ルヤウナ訳デゴザイマシテ、従来ノ用語ヲ新タナル民主主義的、平和主義的理念ヲ以テ最検討シテ、不自然デナイ限リハ、我々ノ心ニ最モピツタリスルヤウナ表現ヲ選ンデ行キタイト云フコトハ、是ハ教科書編纂等ニ付テハ特ニ注意ヲ要スル点デゴザイマシテ、只今ノ御示唆アリマシタ点ハ、十分考慮致シタイト思ツテ居ル次第デアリマス
○加藤（一）委員 政府ハ将来国交回復ノ後ハ「ブレトン・ウッヅ」協定ニ御参加ノコトト考ヘテ居リマス、ソコデ此ノ内容ニナツテ居リマス国際通貨基金制度、復興開発銀行制度ニ付キマシテハ、若シ是ガ実施ノ暁ニ於キマシテハ、日本モ是ノ援助ヲ受ケルコトニ相成ルト思ヒマスガ、其ノ点如何デゴザイマセウカ、金森国務大臣ニ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 「ブレトン・ウッヅ」協定ノコトニ付キマシテハ、固ヨリ政府ハ研究ヲ怠ツテ居ル次第デハゴザイマセヌケレドモ、今日ノ日本ノ態度トシテ、之ヲ如何ニ処置スルカト云フコトニ付キマシテハ、マダ定ツタモノガナイト思料致シマス
○加藤（一）委員 併シ将来日本ガ世界列強ニ伍シテ御交リヲ願フト云フコトニナリマスレバ、勿論此ノ協定ノ中ニ参加ヲ願ハナケレバナラヌト思フ、左様致シマスレバ国際通貨基金制度ノ第一条ノ目的欄ニアリマス通リ、加盟国ノ雇傭及ビ実収入高水準助長ト維持ト云フ規定ガゴザイマス、又復興開発銀行ノ第一条第三項ニ於キマシテハ、本銀行ノ目的欄ニ加盟国領域内ノ生産力、生活水準及ビ労働条件ノ向上ヲ援助スト云フ規定ガゴザイマス、勿論是モ日本国モ守ルコトガ必要ト考ヘマスルガ、之ヲ前提ニ致シマスレバ、今日日本臣民ノ権利義務ノ所ニ於キマシテ、相当社会化ノ制度ガ必要ト私ハ考ヘマス、他ノ委員カラモ相当御話ガゴザイマシタガ、此ノ点ハ私ハ特ニ御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマス若シ此ノ「ブレットン・ウッヅ」協定ニ日本政府ガ永却末代加入セヌト云フ御意思デゴザイマスレバ左様ナ説モ不必要ト思ツテ居リマス、今日ノ憲法自体デ結構ト思ヒマス、若シ加入ヲ御予定ニナツテ居ル次第モゴザイマスレバ、相当此ノ問題ニモ日本国民ノ民主化運動ノ為ニモ御研究、御規定アランコトヲ切望シテ置キマス、切望ト申シマスルカ、此ノ点ニ付キマシテ一寸金森国労相ノ御意見ダケ伺ツテ置キマス
○芦田委員長 加藤君、総理大臣兼外務大臣ガ出席サレテ居リマスアナタノ問題ハ金森サンノ答弁デ宜シイノデスカ
○加藤（一）委員 今ハ金森国務相ノ御答弁ヲ一応御伺ヒ致シテ置キマス
○金森国務大臣 「ブレトン・ウッヅ」条約ニ加入スルヤ否ヤト云フコトハ、全ク将来ニ懸ツテ居ル問題デアリマスカラ、今日何事モ言明シ得ル時期デハゴザイマセヌケレドモ、御承知ノ如ク其ノ条約ニ加入スルト否トニ関係ナイ問題ト致シマシテ、御述ベニナリマシタヤウナ国内ニ於テ経済的或ハ国民生活方面ニ於キマシテノ向上ヲ図ラナケレバナラヌコトハ、正ニ然ルベキモノト信ジテ居リマス、ソレニ対スル基盤トシテ此ノ憲法ハ現在ノ見透シニ於テ相当必要ナル点ヲ規定シテ居ルト考ヘテ居リマスケレドモ、御質疑ノ次第ヲ推測致シマスレバ、モウ少シシツカリシタ規定ヲ置イクナラバドウカト云フコトデアラウト思ヒマスガ、是ハ度々申上ゲマシタヤウニ、憲法ハ国ノ凡ユル制度ヲ決メルモノデハゴザイマセヌデ、将来十分ナル発展ヲスル基礎トナルベキ基本ノ原則ヲ決メルモノデアリマシテ基本ノ原則ヲドノ位ノ幅ニ取ルカト云フコトハ第二ノ問題トナツテ来ルノデアリマス、此ノ憲法ハ種々ノ角度カラ考ヘマシテ、法トシテ取入レルニハ凡ソ此ノ範囲ヲ以テ正シトスルト云フ前提ニ基ヲ持ツテ居ル次第デアリマス、左様ニ御承知ヲ願ヒマス
○加藤（一）委員 総理ニ御伺ヒ致シマス、安全感ハ不安ノ要素ガ動ク所ニ懸ツテ参ルト思ヒマス、ソコデ不安ノ要素ヲ今分解致シマシテ、外部的ニ之ヲ見マスレバ、戦争ト武力ニ依ル威嚇、武力ノ行為ト「ボイコット」、所謂不法ナル経済圧迫ト云フモノガアルト思ヒマス、ソレカラ之ヲ内部的ニ見マスト、只今一番初メニ申シマシタ通リ、人口問題ヲ中心ニ致シマス主トシテ社会経済問題ガ根幹ニナツテ居ルヤウニ考ヘマス、又此ノ内部的問題ガ生在権ト云フモノニ懸ルノデアリマシテ、外部的ニ現ハレテ戦争行為ニナル場合モ私ハアルト思ヒマス、本第九条ニハ不法ナル経済圧迫等ノ規定ハゴザイマセヌガ、是ハドウナツテ居リマスカ、総理大臣ノ御考ヘヲ承リタイト思ヒマス
○吉田国務大臣 九条ニハ特ニ経済圧迫トカト云フヤウナ文字ハ使ツテアリマセヌケレドモ、苟クモ経済圧迫等ニ依ツテ一国ガ圧迫ヲ受ケル、其ノ為ニ自衛ニ依ル戦争ト云フヤウナコトヲ回避セラレルト云フヤウナ場合ガアリトスレバ是ハ例ノ国際連盟ト申シマスカ、連盟ノ設立ノ目的、或ハ其ノ規定ニ依ツテ考ヘテ見マシテモ、世界ノ平和ヲ脅スヤウナ総テノ事態ヲ除去スル、サウシテ世界ノ平和愛好国ガ挙ツテ斯クノ如キ戦争原因ニナルガ如キ事態ヲ救フ、改メサセルト云フコトニナレバ、一方ニハ斯ウ云フ団体モアリマスカラ、従来ニ於ケルヤウナ露骨ニ経済圧迫ト云フヤウナ手段ヲ講ズルコトハ、先ヅ一応ナイダラウト思ヒマス、併シ是ハ抽象論デアリ、想像ヲ本トシテ居ルノデアリマスカラ、想像ヲモトトシテ斯ウ云フ場合アア云フ場合ト言ヘバ限リモナイコトデアリマスカラ、一応此ノ平和愛好国ノ団体ノ存在、或ハ設立スルト云フ趣意カラ考ヘテ見マシテ、御懸念ノコトハ抽象的ニハ先ヅ一応問題ガナイモノト思ヒマス
○加藤（一）委員 左様ナ問題ガ起リマシタ時ハ、国際連合ガ寄ツテ集ツテ日本ヲ防衛シテ呉レルト云フヤウニ了解致シマシテ、次ニ移リマス
総理大臣ハ今後ノ日本ノ人口問題ヲドノヤウニ御考ヘニナツテ居リマスカ、此ノ点ヲ御伺ヒ致シマス
○吉田国務大臣 是モ実際問題トシテ非常ニ重大ナ問題デアリマス此ノ狭小ナ国土ノ中ニ、無限ノ人口ヲ包容スルト云フコトハ難カシイコトデアリマスガ、併シ是ハ経済政策ノ立テ方ニ依ツテモ救済サレルノデハナイカ、例ヘバ農業立国デ行クト云フコトニナルト、限リアル国土ニ吸収スル人口ノ数ハ限リガアリマセウガ、農業ニ付テモ、機械化スルトカ、或ハ合理化スルトカ云フヤウナ又色々ナ考ヘ方モアリマセウシ、更ニ狭少ナル郷土ノ中ニ多数ノ人口ヲ収容スル場合ニハ、ドウシテモ国家ヲ産業化スル、貿易化スルト云フ方法ニ依ツテ救済ノ途モ実際ニ於テ行使セラレ得ル、又サウ云フコトハ政治家トシテ考ヘナケレバナラヌト思ヒマス
○加藤（一）委員 ソコデ私ハ、此ノ人口問題ノ根本ニハヤハリ食糧ト云フモノガ必要ダト思ヒマスガ是モ其ノ一例デアリマス、先般政府ガ御提案ニナリマシテ、事後承認ヲ要求セラレテ居リマスル食糧緊急措置令デアリマスルガ、アノ点ヲ考慮致シマシテモ、現状ニ於テ正当ナル米価ト云フモノガ設定シテゴザイマセヌ、米ノ価格ガ決マツテ居リマセヌ、政府ガ今定メテ居リマスル価格ヲ以テ米ヲ何処ヘ買ヒニ行キマシテモ、売ツテ呉レル者ハゴザイマセヌ、農民ノ生産スル米ニ対シテ今日正当ナル価格ガ決定致シテ居リマセヌ、ソコヘ持ツテ来テ強権発動ト云フヤウナコトハ、私ハ余リ農民ヲ虐ゲルモノデアルト考ヘテ居リマス、ソコデアノ措置令ガ出ル以上ハ、――昔政府ハ高等数学ヲ以テヤラナケレバ分ラヌヤウナ率勢米価ト云フヤウナ米価ヲ御設定ニナツタ時代モアル、アノ努力ガアリマスレバ、今日生産者価格ト云フモノノ設定モ私ハ易々タルモノデアラウト思ヒマス、併シ是ハ日本一様ニ左様ナコトニナラヌト云フコトニナレバ、中庸的生産者価格ノ設定モ、私ハ容易ナコトト考ヘルノデアリマス、先ヅ以テ中庸的生産者価格ノ如キモノヲ設定ヲ願ツテ、其ノ上デ米ヲ出サヌト云フ人間ガアリマスレバ、強権発動ヲ願ヒタイ、左様ニ致シマセヌト、今日食糧ニ飢エテ居リマス日本国民全部ヲ救フコト、未耕地ヲ開墾スルト云フコトハ、到底至難デアルト思ヒマス、人口問題ハ此ノ一点ニ於キマシテモ躓クノデハナイカ、左様ニ私ハ考ヘテ居リマスガ、此ノ点ノ御見解ハ如何デアリマスカ
○吉田国務大臣 御意見トシテハ承ツテ置キマスガ、政府モ強権発動ガ趣意デナクテ、巳ムヲ得ザル場合ニ於テノミ強権発動ヲスルノデ、総テノ手段ヲ尽シタ後ニ強権発動ヲスルノデアリマスカラ、御諒解ヲ願ヒタイノデアリマス、強権発動ヲ以テ唯一ノ方法手段トハ考ヘテ居リマセヌ、アナタノ御意見ニ付テハ一応拝承致シテ置キマス
○加藤（一）委員 ソレデハ後ノ問題ハ他ノ条文ニ関係致シマスカラ本日ノ私ノ質問ハ是デ終了致シマス
○芦田委員長 及川規君
○及川委員 私ノ質問ハ第一条ノ質問デゴザイマシテ、留保シテ居ツタノデゴザイマス、吉田総理ニ御伺ヒ致シタイコトハ、総理及ビ現政府ノ国体ノ解釈如何、一言ニシテ斯ウ云フ事デアリマス、ト云フノハ、此ノ憲法ノ制定ニ依ツテ国体ガ変ツタノデアルカ、変ラナイノデアルカト云フ点ニ於キマシテハ、政府ハ今マデ極力変ラナイト云フ御主張ヲ縷々述ベテ居リマスルガ、国民一般及ビ我々モ果シテソレガ妥当デアルカ、変ツタカ変ラヌカト云フ確タルココニ判断ガ出来ナイ、ト云フノハ、政府ノ説明ノ国体ノ観念ガ従来ノ観念ト非常ニ違ツタコトデアル、斯ウ云フ点ニアルノデアリマス、私ノ今マデ金森国務相カラ承ツテ了解シテ居ル所デハ、国体ハ変ラナイ、ソコデ国体ト云フノハ何カト云フ此ノ質問ニ対シテハ、主権ノ所在――通常我々ガ謂フ主権ノ所在、新憲法デ金森国務相ノ御説明ニ依リ或ハ又一般ノ承認スル所ニ依ルト国家意思ヲ最高最終的ニ決定スル意思ハ何処ニアリヤ、是ハ前文ニ依ツテ明カニ国民全体ニアル、国民全体ノ意思ガ至高デアルト云フコトハ、国家意志ヲ最高最終的ニ決定スルモノハ国民ノ意志デアル、斯ウ云フコトニナツテ居リマス、ソコデ国体ト云フ観念ガ此ノ主権ノ所在ニ何等関係ガナイ観念デアリマスルナラバ、国務相ノ御解釈ノヤウニ、国体ト云フノハ主権ノ所在ニ関係ナイ、国ノ基本的特徴ダト云フヤウニ解シテ参リマスレバ、此ノ主権ノ所在ノ変動ニ依リマシテモ国体ハ変ラナイ、斯ク解釈出来ル訳デアリマス、或ハモウ一ツハ、主権ノ所在ニ依ツテ国体ノ観念ヲ構成致シマシテモ、国家ノ最高意思ヲ終局的ニ決定スル意思、即チ国民ノ意思ガ日本ノ肇国カラノ事実デアル、斯ウ解釈致シマシテモ亦国体ガ変ラナイ、斯ウ言ヒ得ルノデアリマス、今マデノ金森国務相ノ答弁ニ依リマスルト、此ノ主権ノ所在ヲ標準トシテ国体ヲ理解シナイデ、国体ヲバ主権ノ所在ニ関係ナク解釈致シマシテ国体ガ変ラナイト云フヤウニ御答弁ニナツテ居リマスルガ、私ノ疑問トスル所ハ、今マデノ国体観念ハ主権ノ所在ヲ標準トシテ分ケラレタル国ノ特徴デアル、ソレハ独リ一部法学者ノミナラズ、政府モ其ノ見解ヲ取リ、全国民ガ斯カル観念ヲ持ツテ居ル、ココニ今日国体ニ付テ多クノモノニ疑念ガアルト云フノデアリマス、所ガ最近マデ政府モ此ノ主権ノ所在ヲ標準トシテ国体ヲ理解シタデハナイカト質問致シマシタ所ガ、政府ハサウ云フ解釈ヲシタコトガナイト云フ御答弁ニ接シマシタ、所ガ私吉田総理ニ御聴キシタイコトハ、過グル本会議ノ御答弁ニ於テ「ポツダム」宣言受諾ニ対シテ日本ノ条件ガアツタカ、所謂国体擁護ノ条件ガ附セラレタカドウカト称スル点ニ於キマシテ、八月十日「ポツダム」宣言ヲバ国体擁護ヲ条件トシテ受諾スル用意ガアル旨提議シタケレドモ、ソレニ付テハ何等返答ガナイ、ソシテ改メテ十三日カ無条件降伏ノ提議ヲシタノデアルト云フヤウナ御話ガアリマシテ其ノ時国体擁護ト云フ御言葉ヲ使ツテ居リマスルガ、此ノ点モ金森国務相ニ御聴キシタイノデアリマスガ、「ポツダム」宣言受諾ニ際シテノ国体擁護ト云フ時ハ、実ハ国体擁護ト云フ文字ハ使ツテナイ、私ノ知リ得ル所デハ右「ポツダム」宣言ハ君主統治者トシテノ天皇陛下ノ大権ニ影響ヲ及ボスベキ如何ナル要求モ包含セザルモノトノ諒解ノ下ニ提議スルモノデアル、天皇ガ統治者デアリ、此ノ天皇ノ大権ニ如何ナル影響モ及ボサナイト云フ内容ヲ以テ之ヲ我々ハ国体擁護ト云フ言葉デ言表ハシ、又政府モ其ノ意義ニ於テ国体ハ護持セラレタト称シ、其ノ意義ニ於テ吉田総理大臣モ議会デ答弁セラレタト私ハ解釈致シマスルガ、此ノ点ノ吉田総理ノ国体ニ関スル意味ハ是トハ違ツタモノデアツタカドウカ今金森国務相ノ仰シヤルヤウナ国体ト云フ観念デアツタカドウカト云フコトヲ先ヅ御聴キ致シマス
○吉田国務大臣 終戦提案或ハ「ポツダム」宣言受諾ノ前後ノ経緯カラ言ヒマシテ、今御話ノ通リデアリマス、次ハ政府トシテハ国体護持ヲ諒解事項トシテ先ヅ出シテ、之ニ対シ連合国カラハ其ノ点ニ何等触ルル所ナクシテ回答ガ来タノデアリマス、随テ其ノ条件ハ諒解事項ハ拒否シタトモ書イテナイノデアル、而シテ事実ニ於テドウデアルカ、日本政府ノ存在ハ認メテ居リ、皇室ハ其ノ侭御安泰ニアラセラレル訳デアリマス、即チ回答ニ於テハ拒否ハシナイガ、事実ニ於テハ日本ノ国体ヲ害フ如キ要求ハ今日マデシテ居リマセヌ、唯統治権行使ノ形態ニ於テ総司令官ノ制約ノ権限ノ下ニアル統治権占領政策ノ必要ノ限度ニ於テ日本ノ統治権ハ総司令官ノ権限ノ下ニアル、統治権ノ行使ニ於テ制約ヲ加ヘテ居ルノデアリマスガ、国体自身ニ対シテハ回答ノ表面ニ於テハ何等触ル、所ハアリマセヌ、事実ニ於テ日本ノ希望条項ナルモノハ諒解シテ居ルト私ハ想像シテ居リマス、ナゼナラバ之ニ反シタル事実ガナイカラデアリマス、然ラバ国体ハ変更シタカ、私ハ変更サレタトハ思ヒマセヌ、ナゼカト言ヘバ日本ノ国体ヲ法律学者ハドウ解釈スルカ知リマセヌガ、兎ニ角日本ノ国体ニ於テハ――日本ノ国ニ於テハ万世一系ノ皇室ガ上ニアラセラレテ所謂君臣ノ間ニ何等ノ対立関係ハナイ、外国ニ於ケルガ如キ、状態トハ違ツテ、日本国民日本国ニ於テハ歴史アツテ以来君ハ民ノ心ヲ以テ心トセラレ、君ノ心ヲ以テ民ハ自分ノ心トシテ、君臣ノ間ニ何等求ムル所ノナイ日本ノ国体ハ、今日ニ於テモ尚ホ何等変ル所ハナイ、斯ウ私ハ解スルノデアリマス、即チ国体ニ何等ノ変更ナシ、斯ウ私ハ思ヒマス
○及川委員 モウ少シハツキリ御願ヒシマス、サウ云フヤウナ御答弁ハ度々承リマシタガ、私ノ問フ所ハ社会現象トシテノ国家ノ統合ノ姿ハドウカトカ、或ハ国民ト天皇トノ心ノ関係、或ハ憧レデアルトカ、繋ガリデアルトカ云フヤウナサウ云フ心理上ノ事実ヲ問フノデハアリマセヌノデ、国家ハ苟クモ統合体デアルトカ、協同体デアルトカ言ヒマスガ、単ナル御互ヒノ寄集マリデ共同生活ヲシテ居ルモノデハナイ、国家ト言フ以上、其処ニ権力関係ガナケレバナラヌ権力ヲ予想シナイ国家ト云フモノハアリ得ナイ、原始共産体ノ如キハ、マダ国家ト称スル訳ニハ行カナイ、将来共産主義ノ理想境ニナツテ、所謂権力ナキ状態ニナリマシタナラバ、ソレモ恐ラク国家トハ称シ得ナイ、今日我々ノ理解スル人類ノ統合体ニ於キマシテ国家ト称スル所ニハ、其処ニ如何ニ多分ノ道徳的ノ繋ガリガアラウト、或ハ道徳的ノ動機ガ大部分ヲ占メテ居リマセウトモ、其処ニ権力関係ガ生ジナイモノヲ国家トハ称シナイ、ソコデ国家ノ形態ヲ今基本的ニ分ケルノニ、此ノ権力ノ源泉ガ何処ニ発スルカト云フコトガ、最重要問題ナノデアリマシテ、ソレニ基イテ此ノ国体ガ今マデ理解セラレタノデアルカ、ソシテソレガ「ポツダム」宣言受理ニ際シテモ、君主統治者トシテノ大権ニ――是ハ大権ト云フノハ統治権ト同ジ意味デアニマセウガ、此ノ君主統治者ノ大権ニ如何ナル影響モ及ボサナイモノトシテ理解スル、斯ウ提議ヲシタノニ、ソレヲ称シテ国体護持ト云フコトヲ言フカラシテ、其ノ時ノ国体モ此ノ主権ノ所在ニ関係シテ、主権ノ所在ガ変ラナイト云フコトヲ表明シタモノト我々ハ理解シナケレバナラナイノニ、今日ハ其ノ点ハ一向触レナイデ、其ノ他ノ国民ト皇室ノ親密ナル面或ハ皇室ガ臣民ノ心ヲ心トシタト云フヤウナ、国家ヲ社会事象トシテ観察シタ所ノ説明ノミ下サレマスルガ、私ノ聴ク所ハ、社会事象トシテノ国家ノ統合ノ姿デハアリマセヌ、国家ノ本質タル国家権力ノ源泉ガ国民ノ総意ニ在ル、ソレヲ今マデハ天皇ノ意思ガアリ即チ主権ガ天皇ニ在ルト云フヤウニ理解シ、「ポツダム」宣言ニモソレヲ予定シテ、又総理モサウ云フ意味ニ於テ此ノ「ポツダム」宣言ノ日本ノ定義ヲ国体護持ト表明シタデハナイカ、御答ヘヲ要求致シマスルノハ、国体ト云フコトノ観念ニ、日本ノ国体ト云フコトヲ聴クノデハアリマセヌ、兎ニ角国体ト言フ以上、国体ハ日本ノミニアル訳デハアリマセヌ、国体ト言フ以上、国体ト云フコトニ主権ノ所在ノ観念ヲ入レナイト云フ御所存デアリマスカドウカ、サウシテ「ポツダム」宣言ノ時モサウシタ意思デヤツタノデアリマスカ、ソレヲ御聴キシマス
○吉田国務大臣 私ハ国体或ハ所謂社会現象云々ト云フ法律論ト言ヒマスカ、法律論ヲ此処デ闘ハスコトハ甚ダ迷惑ニ思ヒマスガ、併シ私ノ今考ヘテ居リマス所謂日本ノ国体ナルモノ、随テ社会事象ト言ハレルカモ知レマセヌガ、社会事象ソレガ権力ノ源泉ト考ヘテ見レバ、私ノ説明デ御諒解ガ出来ナイコトハナイト思ヒマス
○及川委員 ソレデハ改メテ金森国務相ニモウ少シ御聴キ致シマス言葉ガオ互ヒニ理解スル所ガ違フト困ルト思ヒマスノデ、今度ハ金森国務相ガ大正十五年ニ御出シニナツテ居リマス日本憲法要綱デゴザイマシタカ、此ノ本ニ付キマシテ私一応読ンデ参リマシタカラ、其ノ先生ノ金森サン、当時ハ先生デアリマスガ、今日ハ国務大臣デアリマスル金森国務大臣ノ御使用ノ言葉テ御伺ヒ致シマス、統治権総攬者ノ所在ノ移動ニ依ツテ生ズル国家ノ態様ノ移動ヲ指シテ国体ノ別ト言フ、サウシテ統治権ノ総攬者トハ何カト言フト、此ノ最高独立ナル国家意思ヲ最終的、根本的ニ決定スル自然意思デアル、ソレガ国民ナルカ、一般ナルカ、一人ナルカニ依ツテ国体ハ民主国体君主国体、一部分ノ時貴族国体トナル、斯ウ云フ御説明デゴザイマスガ、サウシテ又是ガ日本ノ法学界ニ於ケル通説デゴザイマシタ、又此ノ意味ニ於テ全国民ガ今マデ徹底的ニ思想ノ訓練ヲサレテ居リマス、之ヲ一部法学者ノ誤レル観念トカ或ハ解釈ダトカ仰セラレマスルガ、是ハ一部法学者ノミナラズ、全国民モ斯様ナ観念ヲ持チ、又少クトモ明治天皇ノ種々ノ詔勅ニモ、総攬者ハ天皇御自身デアルト云フ意味ガ明瞭ニ表示セラレテ居リマスノデ、之ヲ今変ヘヨウトスルナラバ、余程明確ニ国家ノ意思トシテ表明シナケレバナラナイ今日ハ金森国務相ノ国体ノ観念ハ之ヲ変更致シマシテ、所謂統治権ノ総攬者ノ所在ヲバ問題トシナイデ、単ニ国民ノ心ノ繋ガリ、天皇ニ対スル繋ガリヲ基本ニシテ、其ノ上ニ出来タ国家ノ基本特徴デアルト云フ御解釈デアリマスルガ、スルト少クトモ金森国務相ノ従来ノ説及ビ一般国民ノ観念ニ於テハ国体ハ変更セラレタ、併シ国体ト云フ言葉ヲ主権ノ所在、金森国務大臣ノ統治権総攬者ノ所在ニ関係ナク国体観念ヲ構成スレバ変ラナイ、斯ウ解釈シテ宜シウゴザイマセウカ
○金森国務大臣 今御説明ニナリマシタ私ノ書物ノ中ニ書イテアル言葉ハ、恐ラク完全ニ其ノ通リデアツタト思ヒマス、度々申上ゲマシタヤウニ、モノヲ見ル深サ、モノヲ認識シ解釈スルニ付キマシテノ深サト云フモノハ、其ノ時々ノ必要ニ応ジテ深サガ定マツテ宜イモノト思フ訳デアリマス、今ヨリシテ若干年前ノ姿ニ於キマシテハ私ノ説明ヲ致シマシタ方法ニ依ツテ、先ヅ実行ノ面ニ相当ハツキリシタ理解ノ出来ルト云フ考ヘノ下ニ、私ハ左様ナ説明ヲシテ居ツタ訳デアリマス、併シナガラ更ニ其ノ説明ノ根柢ニモウ一ツ深イ説明ノアルコトヲ固ヨリ意識シナケレバナラナイノデアリマシテ、文字ハ薄弱デアリマスルケレドモ、私ノ書物ノ中ニハヤハリソレニ触レタ僅カノ字句デアリマスルケレドモ、ソレヲ加ヘルコトニ依リマシテ、私ノ真ノ気持ハ表ハシテアルト思フノデアリマス、私共ガ従来国体トシテ説明シテ居リマシタノハ、国ノ本当ノ根本特色ト云フヨリモ、寧ロ国ノ政治ノ上ノ姿ト解釈スル方ガ妥当デアリマス、今日ニ於テ深ク認識ヲ致シマスレバ、国ノ基本トナツテ居ル心、ドウ云フ風ニシテ結成セラレテ居ルカ、天皇ヲ中心トシ、之ヲ以テ憧レノ焦点トシテ完全ナル国民統合ヲシテ居ルト云フコトコソ、本当ニ国ノ本質デアル、其ノ上ニ法律的ニ構想サレテ居ル所ノ政治ノ形ハ、是ハ根本的ナモノニ近イモノデハアリマスルケレドモ、ソレヨリ少シク離レタモノデアル、斯ウ云フ風ニ理解シテ居リマス、而シテ今回ノ制度ハ此ノ根本的ナル部分ニ付キマシテハ毫末ノ変化ハナイ、併シナガラ其ノ上ニ存在セル所ノ政治的ナル機構ト云フ部分ニ付キマシテハ、相当大幅ナ変更ガアリマシテ、先ニ御示シニナリマシタヤウニ、統治権ノ総攬者ト云フガ如キ地位ニ伴フ事柄ハ、今マデ御説明ヲ申上ゲテ居リマシタヤウニ此ノ憲法ノ改正案ニ付キマシテハ変化ガアルコトヲ認メザルヲ得マセヌ、併シ繰返シマスヤウニ、ソレハ根本的ナル国ノ特色デハナイ今マデハソレヲ以テ大体説明上足レリトシタガ故ニ、ソコヲ以テ根本的ナルモノトシテ居リマシタ、併シナガラ更ニ深ク人間ハ考ヘ得ルモノデアリマシテ、人間ハ日ニ日ニ聡明ニナリ、進境ニ依ツテ幾多心ノ奥底ニアル思想ヲ引出スコトガ出来ルノデアリマス、ソレヲ引出シテ考ヘマスレバ、私ノ今日ノ国体ト云フモノガ正シイ説明ニナツテ来ル、斯ウ考ヘテ居ルノデアリマス（拍手）
○及川委員 金森国務相ノ発展シタル国体ノ意味モ了解致シマスルガ、此処デ幾回モ御答弁ハ法律的ニ願ヒタイト云フヤウナ要求ガアリマシタガ、私ハ法律的ニ願ヒタイトハ言ヒマセヌガ、憲法デアル以上是ハ法デアリマス、憲法デアル以上法ノ領域ヲ掘下ゲテ筒抜ケニ下ニ行ツテモイケナイシ、領域以外ニ行ツテ他ノ御答弁デハ満足出来ナイ、是ハ私一人ノ要求デハナカラウト思ヒマス、ソコデ国体観念ヲ掘下ゲルコトハ結構デアリマスルガ、先程モ申シマシタヤウニ、国家ノ本質マデナクシテシマヒマシテハ、所謂統治権力ノ領域ヲ離レテシマヒマシテ、権力ノ所在ハ何処カト云フヤウナコトヲ標準ニセズニ、更ニ其ノ権力ガ生ズル社会的現象ト申シマスカ、或ハ是ハ心ノ憧レト云フヤウナコトニナレバ道徳ノ領域デアリマスルカ或ハ宗教ノ領域デアリマスルカ、或ハ憧レハ美ノ領域ニナルカモ知レマセヌガ、サウ云フヤウニ法ノ領域ヲ掘下ゲテシマツテ、法ノ領域ヲ逸脱致シマシテ、サウ云フ道徳ノ領域、或ハ宗教ノ領域デアルカ、美ノ領域ニ入ツテ御説明ナサルヤウナ国体観念ハ、憲法上ノ国体観念トシテ妥当デアリマセウカ国体ニ付キマシテハ、今尚ホ――勿論此ノ憲法ノ言フヤウナ法ノ領域以外ノ解釈ハ多々アリマス、先程論議ニナリマシタ教育勅語ニ於ケル「是レ我カ國體ノ精華ニシテ」ト云フヤウナ国体ハ勿論是ハ主権ノ所在ト云フヤウナコトヲ標準トシテ見タル所ノ国ノ基本特色デハアリマセヌデ、サウ云フ意味デハ金森国務相ノヤウナ観念ハ極メテ適当カモ知レマセヌガ、憲法ノ領域ニ於テハ、此処デ我々ノ御答ヘヲ願ヒタイノハ、飽クマデモ法ノ領域ニ於テ国体ノ観念モ構成シテ戴キ、又其ノ範囲ニ於テ御説明ヲ願ヒタイト云フノデアリマスケレドモ、是レ以上御聴キシテモ同ジヤウデアリマスカラ国体観念ハ是デ打切リマス、モウ一ツ御聴キ致シタイノハ、第一条ノ天皇ノ象徴タル地位ハ国民ノ至高ノ総意ニ基ク、是モ幾ラ聴キマシテモ、随分皆サンガ御聴キニナツタガ、結局分ツタヤウナ分ラナイヤウナ、心ノ繋ガリヲ基本ニシテ其ノ上ニ成立ツテ居ル国ノ姿デアルトカ、国ガ成立ツテ居ルトカ、基本トカ、基クト云フコトモヤハリ法ノ領域内ニ於テ御説明ヲ願ヒタイ、一ツ斯ウ云フ質問ニ対シマシテハ国民至高ノ総意ニ基クカラ、将来象徴タル地位ハ国民至高ノ聡意ニ依ツテ左右出来ルカト云フ質問ニ対シテハ、左右出来ナイト云フヤウナ御説明デゴザイマスガ、私ハ此ノ新憲法ノ憲法改正ノ成規ノ手続ニ依ツテ此ノ第一条ハ変更出来得ルノカ、即チ「國民の至高の總意に基く」ト云フ此ノ根本規定ヲモ此ノ憲法改正規定ニ依レバ改正ガ出来ルカ、ココハ改正ガ出来ナイノカ、其ノ点ハツキリ御聴キ致シマス
○金森国務大臣 私ハ「基く」ト言フ言葉ニ関スル御質問ニ対スル御答ヘトシテ、左右出来ナイト云フヤウナ言葉ヲ使ツタ憶エハ毛頭ゴザイマセヌ、今日マダ速記録ガナイカラシテハツキリ之ヲ具体的ニ御答ヘハ出来マセヌガ、ソレハ或ル新聞等ニ於テ伝ヘラレテ居ツタダケデアリマス、私ガ責任ヲ負フベキ私ノ言葉ニハソレト達ツタ表示ガアツタト思フノデアリマス、次ニ「基く」ト云フコトデアリマスルガ、此ノ「基く」ト云フコトハ、日本ノ普通ノ言葉デアリマシテ、特別ニ其ノ言葉ヲ他ノ言葉ニ置換ヘテ説明ヲ致シマシテモ、結局基本ガ国民ノ至高ノ総意ニアルト云フコトニ帰着致シマシテ、我々ガ今日人ト人トノ間ニ思想ヲ伝達致シマスルニハ言葉ヲ媒介トシテ伝達スル外アリマセヌケレドモ、併シ基クト云フ言葉ノ程度ニ於キマシテハ、普通ノ字引ニ於テモアルコトデアリマシテ、ソレ以上ニ御説明ヲスルコトハ困難ト思フ訳デアリマス、尚ホ其ノ半面ノ御質問トシテ、「基く」ト云フコトニナツテ居レバ、ソレハドウ云フ風ニデモ国民ノ思フヤウニ変ヘラレルカト云フヤウナ風ノ御質疑ガアツタト思ツテ居リマス、私ハ議会ニ於ケル諸種ノ御答弁ハ、余リニ仮設的ナ通常現実ノ世界ニ予期シ得ラレザルヤウナ空想的ナルモノヲ仮設シテ、ソレニ対スル御答ヘヲスルコトハ、是ハ学問ノ壇上ニ於テハ固ヨリ出来マスケレドモ、此処デハ申上げタクナイト思ツテ居リマス（拍手）
○及川委員 私ハ仮設ヤ空想ニ基イテ御聴キスルノデハナイ、第九章ニ改正ノ章ガアリマシテ、第九十二条ニハ本憲法ノ改正ノ手続ガ規定シテゴザイマス、此ノ手続ニ依ツテ此ノ第一条ヲモ改正出来ルカドウカ、此ノ条文カラ御聴キシテ居リマス、ソレト同時ニモウ一ツハ此ノ地位ハ「日本國民の至高の總意に基く。」日本国民トシテ之ヲ否定スルヤウナコトハアリ得ナイダラウ、アリ得ナイコトヲ願望スルノト、将来サウ云フコトヲ希望スルノト、現実ニ日本国民ノ中ニ之ヲ承認シナイト云フ国民ガ居ルカドウカト云フコトハ是ハ別問題デアリマシテ、現ニ天皇制ヲ廃止スルコトヲ目標トシテ政治結社ガ結集セラレ、過グル総選挙ニ百数十万ノ投票ヲ得テ来テ居ルノデアリマシテ、斯ウ云フ事実ニ目ヲ蔽ヒマシテ、サウシテ此ノ一条ハ九十二条ノ手続ニ依ツテ改正セラレルカドウカト云フヤウナコトハ架空ノコトト仰セラレルノハ甚グ其ノ意ヲ得ナイ、少クトモ此ノ九章ニ依ツテ是ガ改正出来ナイト云フナラバ、之ヲ承認シナイ政党ハ存在ノ余地ナイノカ、若シ存在スルト云フナラバ、改正ノ手続ヲ合法的ニヤレナイナラバ、恐ラク是ハ暴力革命ニ追ヒヤル外ナイ恐ルベキ結果ニナルモノト思ヒマシテ之ヲ御聴キシタノデアリマスガ、尚ホ御答弁ガ出来ナイモノデアリマセウカ
○金森国務大臣 私ハ前ニ申シマシタヤウニ、仮設ノ問題ニ付キマシテ深入リシテ御答弁ヲスルコトハ避ケタイト思ヒマス（拍手）
○及川委員 何処ガ仮設デスカ、其ノ仮設ヲ御聴キ致シマセウ、私ハ仮設デハナク現実ニ基イテ此ノ条文ガ改正出来ルカドウカ御聴キシテ居ルノデアリマスガ、私ノ何処ガ仮設デアリマセウカ、私ハ承認出来マセヌ
○金森国務大臣 私ハ私ノ信ズル所ヲ以テ申シマスレバ、日本ノ国民ノ総意ハ此ノ第一条ニアル事柄ヲ変更スル決定トナツテ現ハルルコトハナイト信ジテ居リマス、随テ是ハ御答ヘヲシナイ、斯ウ云フ訳デアリマス
○及川委員 是レ以上御聴キシテモ御返答ガアリマセヌカラ是デ打切リマス
○北浦委員 私ハ努メテ金森国務相以外ノ各大臣ノ方々ニハ御意見ヲ伺ハナイ方針デ居ルノデアリマス、唯過日私ハ此処デ「マッカーサー」元帥ノ声明文ニ付テ御伺ヒ致シマシタガ、不幸ニシテ金森国務相ハ知ラナイト云フ御返事デアツタ、重ネテ我等ノ同僚デアリマスル笠井代議士カラ同ジヤウナ趣旨ノ御質問ガアリマシテ、其ノ時モ金森国務相ハ嚢ニ答弁シタ以外ノコトヲ答ヘナイ方ガ宜イト思フト云フ御返事ガアツテ、要スルニ知ラナイト云フ結論デアツタ、ソコデ私ハ吉田首相ニ御伺ヒ致スノデアリマスルガ、斯ウ云フ内容デアリマス、是ハ我々同僚ハ皆知ツテ居リマスルガ、此ノ憲法草案ニ関スル定義ニ付キ「マッカーサー」元帥ノ声明文中ニ「コノ憲法ハ五ケ月前ニ餘ガ内閣ニ對シテ發シタ餘ノ指命ニツイテ日本政府閣僚ト當司令部ノ間ニオケル勞多キ調査ト屡次ニワタル會議ノ後、書キ下サレタモノデアル」斯様ニ最初ニ書イテゴザイマシテ、次ヲ中略致シマスルガ、「新憲法ハ天皇ノ政治的權力アルヒハ國家財産ヲ取上ゲ人的統一ノ象徴トシテ天皇ヲ人民ノ意思ニ從ハシメルモノデ、人民ニ對シ啓蒙思想ノ最モ嚴格ナ標準ヲ滿足サセルヤウナ基本的ナ人間的自由ヲ與ヘ保障シテ居ル」斯様ニ書イテゴザイマス、ココデ御伺ヒ致シタイノハ、全部一緒ニヤリマスカラ御聴キ願ヒタイノデアリマスガ、「マッカーサー」元帥ノ期待シテ居ル所ハ、今後天皇ヲ人民ノ意思ニ従ハシメルモノデアルト云フ此ノ一点、次ニ此ノ中デ最モ重要ナル部分ト云フ意味ニ書イテゴザイマスルガ、戦争抛棄ノ点デアリマス、此ノ点モ、「マッカーサー」元帥ノ意見ニ依リマスルト、特ニ民主主義政体ノ出現ト戦争抛棄、今日之ヲ盛ンニ我等ノ同僚ハ論議致シテ居ルノデアリマスルガ是ガ特徴ダト云フ風ノ趣旨ニ書イテアル所ノ声明ヲ我々ハ読ムノデアリマスルガ、吉田首相ハ斯ウ云フコトハ全然御存ジナイノカ、或ハ左様ナ声明文ハ金森国務相ト同ジヤウニ御存ジナイノカ、此ノ点一ツ御伺ヒ致シタイノデアリマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス今ノ「マッカーサー」元師ノ声名文ナルモノハ今宙ニハ覚エテ居リマセヌガ、兎ニ角事実トシテハ、政府ニ対シテ憲法ヲ改正シロト云フ指令ヲ与ヘタコトハアリマセヌ、唯我々ト言フヨリモ、日本政府ノ閣僚ガ「マッカーサー」元師其ノ他ト話合ツテ居ル間ニ、憲法ハ改正シナケレバナラナイ、現行憲法ニ於テハ日本ノ国民ノ意思、国家ノ意思ヲ十分連合国其ノ他ニ共鳴徹底セシメルコトハ難カシイ、既ニ大キナ大東亜戦争ト云フカ世界戦争ガ現行憲法ノ下ニ行ハレタノデアルカラ、所謂戦争抛棄ト云フガ如キ重大ナル原則ヲ発表スルコトニ依ツテ、日本ハ好戦国デハナイ又戦争ヲ更ニ仕掛ケルヤウナ準備ハナイト云フコトヲ明瞭ニスルコトガ日本国ノ利益デアリ、日本国ノ平和的政策、意思ヲ表明スルコトガ必要デアル、ト云フヤウナ相互ノ間ノ諒解カラ憲法改正ト云フコトニ双方一致シタノデアリマス又、今何ト言ハレタノデスカ知ラ天皇ヲシテ人民ニ従ハシムルト云フノデスカ
○北浦委員 先ヅサウ云フ意味デス
○吉田国務大臣 其ノ文字ハドウ書イテアツタカ今私記憶ニアリマセヌガ、併シ趣意ハ所謂自由民主的ニ進ムト云フ其ノ意味ノ言表ハシ方ダト私ハ思ヒマス
○北浦委員 丁度ソレニ符合スルヤウニ、是ハ首相モ能ク御承知デアラウト思ヒマスガ、憲法改正ニ関スル勅語デアリマス、何デモ勅語ハ前後二、三回発セラレタヤウニ思ヒマスガ、其ノ勅語ノ中ニ「朕曩ニポツダム宣言ヲ受諾セルニ伴ヒ日本國政治ノ最終ノ形態ハ日本國民ノ自由ニ表明シタル意思ニ依リ決定セラルベキモノナルニ顧ミ」斯様ニ仰セラレテ居リマス是ハ丁度「マッカーサー」司令部ノ此ノ声明ノ天皇ヲ人民ノ意思ニ従ハシメルト云フノト、能ク相一致スルヤウニハ表面思ヘルノデアリマス、所デ此ノ勅語ダケ離シテ読ンデ居リマスト、此ノ憲法ノ改正ハ徹底的ニ自由ダ、是ハ金森国務相モ過日私ノ質問ニ対シテ答弁サレタノデアリマスガ、ソレハ自由ダ、天皇ノ条項デモ何処デモ外国ノ干渉ハ絶対受ケナイ、斯様ナ御答弁デアツタノデアリマス、ソコデ私念ノ為ニモウ一応御伺ヒ致シテ置クノデアリマスガ、若シモ此ノ「マッカーサー」元師ノ言葉ノ通リデゴザイマスト、此ノ天皇ノ条章ハ、赤クハ変ヘラレル、左翼的ニハ変更サレテモ、之ニ所謂其ノ大権ノ一部分デモ宜シイカラ国民全体ガ天皇ノ意思ニ従フト云フ方向ニハ修正出来ナイ、斯様ナ結論ニ相成ルノデアリマスガ、吉田首相ト致シマシテ、此ノ点ハドウ考ヘテ居ラレルカ、モウ直キニ修正ト云フ、或ハ全面的ニ賛成カ反対ト云フ日ガ近イノデアリマスカラ此ノ際明確ニ御答弁ヲ御願ヒ致シタイト思フノデアリマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス勅語ニ引用セラレタ文字ハ、是ハ「ポツダム」宣言ノ条項ノ中ニアル文字其ノ侭ヲ御引用ニナツタノデアリマス、随テ又「ポツダム」宣言ヲ受諾シマシタ以上ハ、「ポツダム」宣言ノ線ニ沿ウテノ修正デナケレバ、是ハ日本国トシテハ出来ナイコトデアリマス
○北浦委員 能ク分リマシタ、ソレデ明瞭致シマシタカラ、此ノ点ニ於ケル質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 笠井重治君、総理ハ十二時ニドウシテモ此ノ席ヲ立タナケレバナリマセヌカラ、時間ガ非常ニ短カイノデアリマスケレドモ、其ノ程度デ御質問ヲ願ヒマス
○笠井委員 総理大臣ニ質問致シマス、新憲法ノ二章九条ニ付キマシテハ私ハ賛成デゴザイマス、又政府ガ非常ナル決心ヲ以テ此ノ九条ヲ加ヘラレタト云フコトハ、現下ノ日本ヲ救フ意味ニ於ケル政府ノ重大ナル決意ヲ示スモノデアルト思ヒマシテ、慶賀スル次第デゴザイマス、ソコデ既ニ北浦君カラモ只今申サレタヤウニ、「ポツダム」宣言ノ趣旨ニ基イテ新憲法ガココニ出来テ居ル、「ドラフト」ガ出来テ居ル、併シ又同時ニ日本ガ敗ケタト云フ現実ノ下ニ、国内ノ情勢カラモ斯ウ云ウ憲法ガ必要デアル、ソコデ内外呼応シテノ精神ニ基イテ居ルノダト云フコトヲ金森国務大臣ガ仰セラレテ居リマシタガ、私ハ此ノ点ニ付テ此ノ第九条即チ戦争抛棄ト云フ条項ヲ入レルニ付キマシテノ我ガ帝国政府ノ決意ノアル所ヲ総理カラ伺ヒタイト思ヒマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス此ノ九条ノ挿入ヲ致シマシタ政府ノ趣意ニ付テハ、屡々本議場又此ノ委員会ニ於テモ政府ハ説明シタト思ヒマスガ、要スルニ日本国ガ列国ニ先ダツテ、或ハ世界ヲ率ヰテ平和愛好ノ平和的条約ヲ現出セシムル其ノ先駆ケニナツテ自ラ戦争ヲ抛棄シ、軍備ヲ徹廃スルコトニ依ツテ世界ノ平和ヲ事実ナラシメル、此ノ決意ニ基イテ政府ハ此ノ案ヲ提出シタ訳デアリマス
○笠井委員 戦争抛棄ト云フコトハ、是ハ侵略戦争ヲ抛棄シヨウト云フノデ、一七九一年ノ「フランス」革命ノ後ノ「フランス」ノ憲法ニ見エテ居リマシタガ、今回恐ラク世界ニ先ンジテ日本ガ戦争抛棄ヲナス、之ニ付テハ、北浦君ガ仰シヤラレタヤウニ、又私ガ一昨日読上ゲマシタヤウニ、「マッカーサー」元師ガ三月ニ同ジヤウナ声名ヲ致シテ居ル、又四月五日ノ連合国四国委員会ノ第一回席上ニ於テ、「マッカーサー」元師ガ日本独自ニ於ケル所ノ此ノ戦争抛棄ト云フコトハ実ニ立派ナコトデアルソレデ又日本ガ自身デヤルコトハ非常ニ結構ナコトデアルケレドモ世界ガ斉シク此ノ状態ヲ認メテ、ソシテ日本ノ一方的行為トセズシテ、世界ガ此ノ場合ニ於テ日本ト斉シク戦争抛棄ノ方面ニ進ムノガ必要デハナイカ、就テハ国際連合ト云フモノガ、ドウカ此ノ精神ヲ酌ンデ、ソシテ世界相共ニ戦争抛棄ノ状態ニ進ムベキデアルト云フコトヲ言ハレテ居リマス、ソコデ総理大臣ニ伺ヒタイ問題ハ、国際連合デアリマスルガ、国際連合ノ憲章ノ第四十三条ニ於キマシテハ国際的平和及ビ安全ノ維持ニ貢献センガ為ニ、国際連合ノ一切ノ加盟国ハ安全保障理事会ニ対シ其ノ要請ニ基キ、及ビ特別協定ニ従ヒ国際的平和及ビ安全ノ維持ノ為ニ必要ナル武装軍隊及ビ援助及ビ通過権ヲ認メル便利ヲ利用シ得ルコトヲ約ス、斯ウ書イテアリマス、是ハ第一項デアリマスガ、第二項第三項トアリマスガ、要スルニ国際連合ト云フモノニ将来我ガ日本ガ加盟ヲスル場合ニ於テ最モ必要ナルコトハ、第一条件ト致シマシテハ、我ガ日本ノ独立国家ガ軍備ナクシテ国際連合ノ負担ヲ負フコトガ出来ルヤ否ヤ、又軍備ガナカツタ場合ニハ、国際連合ト云フモノハ日本ガソレニ入会スルコトヲ拒否スルノデアルカドウカ、此ノ点ニ付テハ屡々質問モアツタヤウデアリマスルガ、金森国務大臣ノ此ノ間マデノ御答弁ニ依リマスト国際連合トマダ政府トノ間ニ於テハシツクリ行ツテ居ラナイ所ガアルト云フ意味ノコトヲ申セレテ居リマシタガ、此ノ点ニ付テ総理大臣ノ明確ナル御答ヘヲ願ヒタイト思ツテ居リマス
○吉田国務大臣 御答ヘ致シマス今日ノ所ハ日本ハマダ国際連合ニ入ツテ居ラナイノミナラズ、入リ得ル資格ニ付テモ決マツテ居ナイノデ、総テハ講和条約ガ出来タ後ノコトデアルト思ヒマス
○笠井委員 其ノ問題ハ分ツテ居リマス、固ヨリ日本ガ今日ノ状態ニ於テ国際連合ニ加入ガ出来ナイコトハ当然デアリマスシ、マダ平和条約モ出来テ居リマセヌ、我々モ此ノ憲法ト云フモノハ今後日本帝国ノ続ク限リ、日本国ノ続ク限リハ此ノ侭デ行クモノデアル、将来ニ於テ或ル変更ハアリマセウケレドモ、サウ云フコトヲ予想シテ日本ガ独立性ヲ贏チ得タ時ノ状況ヲ思ツテココニ於テ伺ツテ居ル訳デアリマスカラ、ドウカ其ノ点ヲハツキリ仰シヤツテ戴キタイト思ツテ居ルノデアリマス
最後ニ総理ニモウ一度伺ヒタイノデアリマスガ、其ノ点ハ総理カラココニ掲ゲテアル第九条ノ政府ノ御決意ヲ伺ヒマシテ、深ク私ハ賛意ヲ表スルモノデゴザイマス、又同時ニ進ンデ此ノ場合ニ於テ日本ガ自ラノ力ニ於テ戦争ヲ抛棄スルト云フコトデアリマスガ、ドウカ我ガ日本ガ独立ヲ贏チ得タ後ニ於テ、世界ノ各国ニ此ノ精神ヲ徹底セシメテ、以テ世界各国ガ、即チ国際連合ニ加盟シテ居ル国々ガ平和愛好ノ日本国ノ精神ヲ諒解スルト共ニ、此ノ戦争抛棄ト云フコトガ、各国ノ憲法ノ中ニモ編ミ込マレルヤウニ、政府ノ御努力ヲ戴キタイノデスガ、此ノ点ニ付テ総理ノ御決意ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○吉田国務大臣 新憲法第九条ノ精神ヲ世界各国ニ徹底セシムルヤウニト云フ御意見ハ洵ニ賛成デアリマス、政府ト致シマシテモ極力機会アル毎ニ九条ノ精神ヲ徹底セシムルヤウニ努力致ス考ヘデアリマス、又国際連合ニ入ル場合ニ於テ、今日ノ軍備ノナイ日本ノ国家ヲ連合ニ入レルカ入レナイカト云フコトハ、一ニ国際連合ガ決スベキ問題デアリマシテ、講和条約ガ出来、日本ガ独立国ノ体裁ヲ成シ独立ノ国家主権ヲ回復シテ、而シテ国際連合ガ如何ナル条件デ以テ日本ガ入ルコトヲ許スカ許サヌカト云フコトハ、国際連合ガ決メルベキ問題デアツテ、日本ト致シマシテハ、今ノ憲法ヲ以テ国際連合ガ如何ナル処置ヲスルカ、是ハ進ンデ言フヨリハ、寧ロ連合ノ意見ヲ聴クノヲ待ツヨリ外、仕方ガナイト思ヒマス
○笠井委員 私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 午後ハ一時半ヨリ会議ヲ開キマス、是ニテ休憩致シマス
午後零時一分休憩
―――――――――――――
午後一時四十八分開議
○芦田委員長 休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――山崎岩男君
○山崎（岩）委員 第九条ノ戦争ノ抛棄ニ付テ御尋ネ申上ゲマス、本条ハ本草案ノ中ニ於キマシテ最モ特色ヲ有シマスル、日本政府トシマシテノ将来ニ関スル重大ナル発言デアリマシテ、世界ニモ大キナ影響ヲ与ヘタコトト私信ズルノデアリマス、戦争ノ抛棄ト云フコトヲ私熟々考ヘマシテ、日本ノ史実ニ徴シテ見マシテ、洵ニ我々国民トシマシテ感ニ堪ヘナイモノヲ私ハ発見シタノデアリマス、二千六百有余年ノ丁度半バ、紀元千三百年ノ頃、天武天皇様ノ御代ノ当時デアリマスルガ、天武天皇様ノ時代ニ三種ノ神器ノ一ツデアリマスル所ノ草薙ノ御剣ガ朝鮮ノ坊サンニ依ツテ盗マレタ、朝廷デハ大変驚キマシテ、之ニ対ステ追手ヲ向ケタノデアリマシタガ、筑紫ノ大荒波ニ揉マレマシテ、其ノ船ガ又筑紫ノ方ニ打寄セ上ゲラレタ、其ノ為ニ朝廷ニ於キマシテハ、朝鮮ノ坊主カラ此ノ草薙ノ御剣ヲ取返スコトガ出来タノデアリマス、朝廷デハ非常ニ驚キマシテ、之ヲ禁廷ノ中ニ御保護申上ゲテ居ツタノデアリマス、時偶々天武天皇ハ非常ナ御病気ニ罹ラセラレマシテ、八方手ヲ尽シマシテモ御快癒ヲ見ルコトガ出来ナカツタ、ソコデ神様ニ占ヲ立テ、見マシタ所ガ、ソレハ草薙御剣ノ崇リデアルト云フ御託宣デアツタ、陛下ハ非常ニ驚カレマシテ、此ノ御剣ヲ再ビ熱田神宮ニ御返シ申上ゲタ、所ガ陛下ノ御悩ミガ立ドコロニ癒ラレマシテ、サウシテ天武天皇様ノアノ偉大ナル所ノ政治ト云フモノガ確立シタト私承知シテ居ルノデアリマス、草薙御剣ガ熱田神宮ニ返サレマシテ、サウシテ落着ク所ニ落着イタ、天武天皇様ノ御治政ト云フモノハ歴史ノ上ニモ燦トシテ輝イテ居ルノデアリマス、例ヘバ古事記ノ草案ヲ稗田阿礼ヲシテ作ラセタガ如キ、天皇様ノ御治続ノ一ツデアリマス、私ハ此ノ事ヲ考ヘテ見マシテ、熱田神宮ニ御返シ申上ゲマシタ為ニ、陛下ノ御悩ミガ御癒リ遊バサレマシタ、サウシテ立派ナル所ノ御政治ガ出来上ツタト云フコトヲ当代ニ比較致シマシテ軍閥ト云フモノガ此ノ機会ニ払拭サレテ、本当ニ平和国家ガ建設サレルト云フコトハ、其ノ昔草薙御剣ガ納マルベキ所ノ熱田ノ宮ニ納メ返サレマシテ、本当ノ平和ガ確立サレタト云フコトト思ヒ合セテ見マスレバ、私ハ此ノ戦争抛棄ノ条項ト云フモノハ、歴史的ニ考ヘテ見マシテモ、洵ニ重大ナル意義ヲ持ツモノト考ヘルノデアリマス、陛下ノ今日マデノ御軫念ト云フモノノ大アラ方ト云フモノハ、軍閥ノ為ノ、即チ剣ノ禍ヒデアツタト私断ズルコトガ出来ルノデアリマス、満洲事変ト云ヒ、上海事変ト云ヒ、支那事変ト云ヒ、一ツトシテ軍閥即チ剣ノ禍ヒデナイモノハアリマセヌデシタ、然ルニ此ノ機会ニ於キマシテ陛下ガ御敏クモ此ノ戦争ヲ抛棄サレテ、日本ノ未来永劫ニ亙ツテ武力ニ訴ヘルコトガナイ、剣ヲ収メラレタ、過日国務相ノ御答弁ノ中ニモ剣ト云フモノハ必ズシモ是ハマツロハヌ敵ヲ平ラゲルコトダケガ其ノ使命デハナイ、我々ノ魂ヲ治メル点ニモ剣ノ使命ガアルト仰セラレタト私拝承シタノデアリマスルガ、私ハ此ノ一条ハ納マルベキ所ニ剣ガ納マツテ、軍閥ガ本当ニ収マツテ、サウシテ日本ノ立派ナ平和国家ガ建設サレルト云フ陛下ノ大御心ヲ偲ンデ、洵ニ感ニ堪ヘナイモノガアルノデアリマス、過日モ本会議ニ於キマシテ森戸代議士ハ此ノ点ニ言及サレマシテ、陛下ノ御心情ニ思ヒヲ致サレテ、臣下トシテノ感懐ヲ述ベラレタノデアリマス、森戸先生ニシテ尚且ツアノ言アリ、洵ニ私共ハ此ノ一条ニ対シマシテハ国民的感情ヲ抑ヘ切ルコトガ出来ナイ、洵ニ有難イ極ミデアルト考ヘルノデアリマス、一方私ハ此ノ条項ニ依リマシテ、日本ハ日本ノ有スベキ所ノ自衛権ト云フモノヲ抛棄シタノデアリマス、果シテ此ノ妖怪変化トモ言ハナケレバナラヌ又複雑雑多ナル所ノ世界ノ情勢ヲ、此ノ日本ガ本当ニ無手勝流デ以テ全ク素裸デ以テ此ノ大荒波ヲ乗切ルコトガ出来ルデアラウカ日本丸ノ前途ト云フモノハ、洵ニ私ハ多事多難デアルト思フノデアリマス、其ノ大海原ノ対岸ニハ、政府ヤ国務相ガ言ハレルヤウニ、如何ニモ国際連合ト云フモノガアリマシテ、是ガ水難救助ノ仕事ヲヤツテ呉レルカモ知レナイ、ケレドモ水難救助ノ行届カナイ中ニ日本丸ガ世界ノ国情ニ押サレテ、揉マレテ大海原ノ藻宵ニナツテシマハナイトモ限ラナイト云フ懸念ヲモ私ハ持ツノデアリマス、私ハ此ノ機会ニ寧ロ思ヒ切ツテ国際連合ト云フモノヨリモ更ニ一歩進メテ会テ日英同盟ガアツタヤウニ、日本ハ国際上ノ保護国関係ト云フモノヲ作ル、例ヘバ「アメリカ」ノ力ヲ藉リテ国際間ニ於ケル所ノ保護国ノ関係ヲ作リ上ゲテヤツテ行クヤウナ状況ニシナカツタナラバ私ハ日本ガ此ノ国際場裡ヲ漕抜ケテ行クノニハ洵ニ困難ガ多カラウト思フノデアリマスガ、此ノ点ニ付キマシテ総理大臣ハ先程御答弁ガアツタノデアリマスガ、国務相ハ如何ナル御考ヘガアリマセウカ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 御尋ネノ点ハ此ノ第九条ニ依リマシテ、日本ガ真ニ捨身ノ態勢ヲ取ツテ、世界平和ノ先頭ニ立ツテ之ヲ提唱スルト云フノデアリマスルガ故ニ、余程ノ大イナル決心ト正義ヲ愛スル熱情トヲ以テ臨マナケレバ、十分ノ結果ハ得ラレナイト思フ訳デアリマス、今仰セニナリマシタ特殊ナル国際関係ヲ結ブコトニ依ツテ、果シテ此ノ趣旨ガ十分達成セラレ得ルデアラウカ、或ハ又此ノ九条ニ於キマシテ我々ガ世界ノ第一線トシテ平和ヲ主唱スル其ノ態度ト、今仰セニナリマシタ行キ途トガ、果シテ一致シ得ルデアラウカト云フヤウナコトハ、今後ノ国際情勢ノ動キガ我々ノ持ツテ居ル理念ト同ジヤウニ、全般的ニ動イテ呉レルカドウカト云フヤウナコトヲハツキリ見定メマシテ、十全ノ方途ヲ執ラネバナラヌノデアリマスカラ、御示シニナリマシタ一ツノ御考ヘハ、非常ニ貴重ナル御考ヘトハ思ヒマスケレドモ、今日何事モマダソレニ対シテハ御答ヘスルコトガ出来ナイト思ヒマス
○山崎（岩）委員 治安維持ノ関係ニ付テ御尋ネ申上ゲマス、是カラノ警察官ガ日本ノ治安維持ト云フモノノ全般ニ亙ツテノ責任ヲ持ツテ行ク訳デアリマスルガ、此ノ警察官ノ教養ノ点ニ付テ私ノ希望ハ警官ハ中等学校以上ヲ卒業シタ人ヲ採用スルト云フコトヲ条件ニスル御意思ガアルカドウカ、ソレヲ承リタイノデアリマス、今日マデノ警察官ト云フ者ハ教養ガ洵ニ足リナカツタ、其ノ為ニ色々ノ点ニ於テ悶着ヲ起シタノデアリマス、警官ニシテ今少シ教養ガアツタナラバ、私ハ立派ニ国民指導ト云フ役割モ果シテ、而モ警察本来ノ使命ヲ達成スルコトガ出来ルト思フソコデ私ハ此ノ機会ニ警察官全部ヲ少クトモ中等学校以上ノ教育ヲ受ケタ者ヲ以テ充テルト云フコトガ必要ダト考ヘルノデアリマスガ此ノ点ニ付テノ御所見ヲ承リタイト思ヒマス
○金森国務大臣 現実ノ制度ニ付キマシテハ、内務大臣カラ御答ヘニナルノガ適当ダト思ツテ居リマスガ、唯一般的ナル御答ヘト致シマシテハ、私ハ私カニ平素抱イテ居リマスル考ヘカラ言ヘバ、日本ノ官職ヲ分憺シテ、殊ニ人民ト接触シテ居ル面、謂ハバ或ル意味ニ於テ窓口ト言ハレテ居リマスガ独リ窓口トハ限リマセヌ、直接ニ人民ニ接触スル部面ニ於キマシテ其ノ人ノ各面ニ於ケル知職及ビ知職以外ノ面ニ於キマシテノ教養ガ余リ十分デナイト云フコトハ、私深ク考ヘテ居ルノデアリマシテ、若シモ是等ノ人ノ教養ガ望ムベキ深サマデ達シマスルナラバ、日本ノ各方面ノ行政ハ相当発展スルモノデアラウ、如何ニ制度ヲ改正致シマシテモ、之ニ盛リ込ム所ノ人間ガ不十分デアリマスレバ、何ノ役ニモ立タナイト思フノデアリマス、ソコデ今仰セニナリマシタ警察官ノ制度ハ是ハ明治ノ初メ頃カラ漸次発達シテ来タモノデアリマシテ、其ノ当初ハ例ヘバ士族ノ出身デアツテ、他ニ適当ナル職務モナイト云フヤウナ人デアリマシタガ為ニ、或ル面ニ於キマシテハ欠ケテ居ル所モアツタカモ知レマセヌガ、又或ル面ニ於テハ男ラシイ面ヲ持ツテ居ツテ、相当ニ信頼サレタト云フコトモ言ヘルノデアリマス、併シ其ノ時代ガ過去ツタ後ニ於キマシテ、知識ト性格トノ双方面ニ於キマシテ色々思ハシカラザル要素ガ加ハツタコトハ否定ハ出来ナイノデアリマス、私共ノ知ツテ居ル範囲ニ於キマシテモ、内務当局ニ於テハ其ノ面ニ付テ相当注意ヲサレマシテ、教養ノ程度モ出来ルダケ高クシテ行クト云フ風ニ努力セラレテ居ルヤウニ思ヒマス此ノ勢ヒハ漸次進展サレテ、実質上高キ能力、人格ノ人ガ当ラルルヤウニシタイモノト思ツテ居リマス
○山崎（岩）委員 終リデゴザイマス
○芦田委員長 高橋英吉君
○高橋（英）委員 九条ニ付キマシテ二点程御伺ヒ致シマス、第一点ハ極ク簡単ニ箇条的ニ御尋ネ致シマスガ、日本ハ自衛権ノ規定ヲ此ノ戦争抛棄ノ規定カラ除イタコト即チ之ヲ挿入スルト云フコトハ有害無益デアルト云フコトノ総理大臣ノ御説ニ対シテハ、私了解致スノデアリマスガ、然ラバ唯一ツノ頼ミノ綱デアル国際連合、此ノ国際連合ニ加入スルコトハ、講和条約ノ結果此ノ見透シガアルノデアリマスカドウカ、講和条約ガ成立シマシタ結果、当然此ノ国際連合ニ日本モ入リ得ル可能性ガアルノデアルカドウカ、是ガ一ツト、ソレカラ仮ニ国際連合ニ加入ガ出来ナイ場合デモ、日本国ガ被害国デアル場合、即チ日本ノ自衛権ガ障碍サレタ場合、日本ガ侵略ノ対象トナツタ場合ニ、日本国カラ積極的ニ提訴スルコトガ出来ルカドウカ、是ガ第二、ソレカラ第三トシマシテ、先日終戦後当然速カニ家郷ニ帰シテ貫フコトニナツテ居ル武装解除セラレマシタ日本ノ軍隊ガ、尚ホ今日抑留拘禁ノ憂目ニ遭ツテ居ル、即チ是ハ「ポツダム」宣言ニ違反スルモノデアルト云フコトノ質問ヲ致シマシタニ対シテ総理大臣カラ私ト同意見デアルト云フ御答ヘヲ得マシタ、然ラバ現在日本トシテ国際連合ニ之ヲ提訴スルコトガ出来ルカドウカ、日本トシテハ如何ナル方法ニ依ツテ是ガ救済策ヲ仰グコトガ出来ルカ、国際連合ハ現在日本トノ直接ノ関係ガナイガ為ニ、之ヲ放置シテ顧ミナイト云フ風ナコトノ組織ニナツテ居ルノデアルカドウカ、是ガ第三ト、ソレカラ第四ニ、構和会議ノ開催ハ何時頃ニナル見透シデアルカト云フコト、此ノ四ツノ点ニ付テ政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 今御尋ネニナリマシタ諸点ハ、固ヨリ政府ノ誰カガ御答ヘスベキ筈ノモノデハアリマセウケレドモ、私自身ト致シマシテハ、仕事ノ分担ノ関係上御答ヘシニクイ、又御答ヘ致シマシテモ権威ノナイ事柄ニ属スルト思ヒマスカラ、暫ク御猶予願ヒタイト思ヒマス
○高橋（英）委員 ソレデハ次ノ機会ニ総理大臣カラ之ヲ御答ヘ願ヒタイト思ヒマス、ソレカラ第二ノ点ハ、此ノ九条ノ国ノ主権ト云フ問題ガアリマスガ、結局是ハ主権論ニナツテ、既ニ幾百、幾千度此ノ委員会ナリ本会議場ニ於テ質問応答ガ繰返サレテ居リマスカラ、私改メテ之ヲ申上ゲルコトモナイノデアリマスルガ、唯私ガ前回御尋ネシマシタコトニ対シテ、金森国務相カラ私ガ洵ニ満足スルヤウナ、諒解スルコトノ出来ルヤウナ御答弁ガアツテ、私ノミナラズ全国民ガ安堵シタト云フ感ジニ打タレテ居ツタノデアリマスガ、其ノ後ノ御答弁ニハ又何カ割切レナイモノガアルヤウデアリマスカラ、今一応確メサセテ戴キタイト思ヒマス、即チ此ノ九条ノ国ノ主権ト云フモノハ、国家ガ主権者デアル国家ガ統治権ノ主体デアルト云フコトヲ明記シテ居ルノデハナイカ即チ主権ト云フモノハ国家ナル協同体ニアルノデハナイカ、天皇初メ国民一般、其ノ他国家ノ構成分子デアルアリト凡ユルモノノ総合体、協同体其ノモノニ主権ト云フモノガアルノデハナイカ、即チ国家ナルモノガ国家ノ中デハ最高至上ノモノデアルノデハナイカ、個々ノ構成分子、天皇トカ国民トカ其ノ他ノ凡ユル構成分子ヨリハ、国家ト云フモノガ最高至上ノモノデアルノデハナイカ、現在マデ主権在君説、主権在民説、主権在国家説ト云フ三ツノ説ガ述ベラレテ居ツタヤウニ思ヒマスケレドモ、一般ニハ主権在民説トカ、在君説ノ二ツニ分レテ居ルヤウナ印象ガ与ヘラレテ居ルノデアリマス、此ノ前申シマシタ通リ、主権在国家説、国家コソ主権ノ主体デアリ統治権ノ主体デアル、サウ云フコトニ対スル明確ナル御意見ヲモウ一度承リタイノデアリマス、即チ金森国務相ガ度々答弁ニナツテ居ル天皇ト国民トノ協同体ガ主権ノ源泉ト言ヒマスカ、淵源ト言ヒマスカ、前文ニアリマス由来、斯ウ云フ、文字ニ相応シイ立場ニアリ或ハソレガ主権者ダト云フ風ニ取ラレナイコトモナイヤウナ御説ノヤウニモ取レルノデアリマスガ、即チ是ハ言葉ノ上デハ前文ニアリマスヤウニ、国民カラ由来スルノデアリ、天皇ト国民トノ協同体デアリ、国民ナルモノカラ由来スルモノデアリ、国民カラ源泉スルモノデアリ、淵源スルモノデアルト云フコトニナルノデハナイカ、即チ主権ノ主体ト云フコトノ説明ニハナラヌノデハナイカ、若シ天皇ト国民トノ協同体ナリ国民ガ主権者デアルナラバ、前文ニ於テモ源泉ト云フカ由来ト云フカ、「その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行ひ」ト云フヤウナ、由来ト云フ言葉ヲ使ハズニ、国民ガ主権者デアルト思フコトヲ明確ニ、ハツキリト前文ノ中ニ織込マレテ居ルベキ筈ダト云フノデアリマス、随テ前文ニアリマスルシ、又其ノ他天皇ヲ包含シタル所ノ国民協同体ナルモノハ、日本国家ノ中ニ最重最高ノ構成分子トナツテ居リマスケレドモ、ソレハ全体デハナイ、即チ最高至上ノモノハ国家デアリ、天皇ヲ包含シタ国民ノ協同体ナルモノハ、其ノ国家ノ至上最高ノ権力ノ源泉ニナツテ居ルノデアリ、由来スル所ノ源、淵源ニナツテ居ルノデアリ国家ヨリハ一段低イ所ニアルト云フコトニナルノデハナイカ、即チ主権在君説、主権在民説、主権在国家説ノ三ツノ中デ、金森国務相ノ御心持ハドレニ最モ近イノデアルカ、近イノデハナイ、ハツキリ主権在国家説ヲ採ラレルヤウナコトニナルノデアルカ、明確ニ一口ニ簡単ニソレガ御説明出来ナイトスレバ、其ノ三ツノ中ノドノ線ニ最モ近ク御考ヘニナルノデアルカ此ノ点ニ付テ金森国務相ノ御所見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 御尋ネノ点ハ一般ニ国法学ヲ論議致シマスル場合ニ、相当研究上頭ヲ捻ラナケレバナラヌ種類ノ事項ニ亙ツテ居リマス、念ノ為ニ一ツノ例ヲ藉リテ申シマスレバ、例ヘバ会社ガアリマシテ会社ガ外ニ向ツテ取引ヲスルト云フ場合ニ、誰ガ取引ヲスルノデアルカト言ヘバ、ソレハ会社ガ権利ノ主体、義務ノ主体トナツテ取引ガ行ハレルノデアル、是ハ普通ノ場合ニチツトモ疑問ハナイ訳デアリマス、併シナガラ其ノ会社ガ権利ヲ有シ義務ヲ負フト云フ場合、其ノ実際ノ働キヲ誰ガスルノカト云フコトニナリマスルト、勿論眼前ノ事実トシテ見マスレバ、其ノ会社ノ代表者ガヤツテ居リマスケレドモ、本当ニ此ノ会社ノ意思ハドウシテ出来ルモノデアラウカト云フ根源ニ遡リマスレバ、会社ノ種類ニ依ツテ違ヒマセウケレドモ、普通ノ場合デアリマスレバ、会社ヲ組立テテ居ル人々ノ全部ノ意思ニ依リマシテ、其ノ会社ノ方針ガ右ニモ左ニモ動ク、斯ウ云フ風ニ言ヘルノデアリマス、是ハ全ク狭小ナ事例ヲ申上ゲタニ過ギマセヌ、国ニ付テ考ヘテ見マスレバ国ガ外国ト色々ナ交渉ヲスルト云フ場合ノ法律的ナ見地カラ申シマスレバ、国ガ単位トナツテ此ノ国ト他ノ国トガ交渉ヲスル、サウスレバ国自身ガ働ク主体トナツテ居ル、随テ国自身ガ謂ハバ意思ノ如キモノヲ持ツテ居ル訳デアリマスサウ云フ場合ニ於キマシテ、此ノ国家ハ意思ヲ持ツテ居ル、其ノ意思ヲ又別ナ言葉デ言ヘバ主権ヲ持ツテ居ル、斯ウ云フ風ニ一般ニ認メラレテ居ルト思ヒマス、ソコデ此ノ九条ノ「國の主權の發動」ト云フモノハ、詰リ国ノ纏マツタ意思ヲ主権ト申シマシテ、ソレガ発動スル、デアリマスカラ、国権ト言ツテモ宜イシ、此処デ先日鈴木君カラ御質疑ニナリマシタガ、国ノ統治権ト言ツテモ宜イト言ヘルノデアリマス、詰リ国家ガ外ニ向ツテ働キマスル時ニ其ノ国ヲ単位トシテ考ヘマスル時ニ、国ハ一ツノ意思ヲ持ツテ居ルト言ヒ得ルト思ヒマス、其ノ意思ヲ称シテ国家意思、即チ国ノ主権ト言フノガ、一ツノ極ク平明ナ考ヘ方ト思ツテ居リマス、所ガ其ノ意味ニ於キマシテハ、主権ノ主体ハ国家デアル斯ウ言ツテ一向差支ヘナイト思ヒマス、併シ其ノ国家ノ意思ト云フコトヲ申シマスルケレドモ、ソレハドウシテ出来ルモノデアラウカ国家ガ脳髄ヲ持ツテ居ル訳デモナク、其ノ外ノ神経作用ヲ持ツテ居ル訳デモアリマセヌ、此ノ国家ノ意思ト云フモノハ、本質ニ於キマシテハ人間ノ意思ヲ以テ充タサレテ居ナケレバナラヌ筈デアリマスソコデ一ツノ国ノ意思ト云フモノハ一体何処カラ来ルノデアラウカト云フ時ニ、ソレハ国民ノ全体デアルト云フコトガ、私ノ今マデ述ベタ所デアリマス、サウシテ其ノ国民ノ持ツテ居ル意思ハ国家ノ意思ヲ構成スルト云フコトニナリマスレバ、結局国民ノ意思ガ一番強クテ、其ノ意思ニ依ツテ国家ノ意思ガ完成セラレル訳デアリマス、デアリマスカラ左様ナ場合ニ、国民ガ主権ヲ持ツテ居ルト、斯ウ言ツテ学問上差支ヘナイト思フ訳デアリマス、斯ク考ヘテ行キマスルト、国家モ主権ヲ持ツテ居ル、斯ウ云フコトガ言ヘマスルシ、国民全体ガ主権ヲ持ツテ居ルト云フ言葉モ成立致シマス、矛盾ヂヤナイカ、斯ウ云フ疑ガ起ルカモ知レマセヌガ、ソレハ同ジ主権ト云フ言葉ヲ使ヒマシテモ意味ガ違ツテ居ルノデアリマス、其ノ先ノ国ガ主権ヲ持ツテ居ルト云フ時ハ、国ガ活動ヲスル時ニ国ガ主権ヲ持ツテ居ルト云フ風ニ説明シテ、恰モ国ガ一ツノ単一体デアルガ如ク人間ノ頭ノ中デ組立テテ説明ヲシテ居ルノデアリマス、今度実質的ニ分解致シマシテ、国ノ意思ト云フモノハ誰ノ意思デ出来テ居ルノダト打割ツテ中味カラ考ヘテ行キマスルト、ソレハ国民全体ノ意思デアル、随テ国民各個ノ精神作用ト繋ガリヲ持ツテ居ル、勿論複雑ナ組織デアリマスルカラ、何ノ何ガシノ意思ガハツキリ国家ノ意思ヲ組立テタトハ言ヒ切レナイカモ知レマセヌケレドモ、此ノ前文ニアリマスルヤウニ選バレタ数多ノ国民ガ意思ヲ決メマスレバ、ソレガ国家ノ意思トナルト云フ訳デアリマス、繰返シテ申シマスルト、主権ト云フ言葉ガ二ツノ意味ニ使ハレテ居ル、現実ニ外ニ向ツテ――外ニ向ツテト申シマスルノハ必ズシモ外国ト云フダケデハアリマセヌ国内ニ向ツテ税金ヲ取ルト云フ時デモ、税金ヲ取ルトナレバ取ルモノガナケレバナラヌ、誰ガ取ルカ国ガ取ルノデアルト言ヘバ国ガ主権ヲ持ツテ居ル、其ノ主権ノ働キデ取ルノダ、斯ウ思ツテ居リマスケレドモ之ヲ内部的ニ考ヘテ主権ガ出来テ来ル元ヲ繹ネテ見マスレバ、ソレハ国民ノ全体デアル、国民各自ガソレニ繋ガリヲ持ツテ居ル、之ヲ又一ツノ主権ト云フ言葉デ言ヘルノデアル、斯ウ云フ言葉デ言ヘルノダト思ヒマス、ソコデ此ノ憲法ノ草案ニ於キマシテハ初メノ外カラ見マシテ、国外ニ着想ヲシテ国ガ主体ヲ持ツテ居ルト云フ場合ハ、主権ト云フ言葉ヲ使ツテ居ル、ケレドモ内側ノ方ノ組立ニ着想ヲシテ言フ時ニハ、言葉ノ混同ヲ避ケマシテ主権ト云フ言葉ヲ使ハナイデ、国民ノ総意ガ至高ナルモノデアル或ハ至高ノ総意デアル、「日本國民の至高の總意」ト云フ言葉ヲ用ヒ換ヘテ紛糾ノ起ルノヲ避ケタノデアリマス、偶々ソレガ動モスレバ疑惑ヲ増シテ主権ト云フ観念ノ混雑ヲ来シテ居ルヤウニ見エマスケレドモ、サウデハナイ、其ノ混雑ヲ避ケル為ニ、故ラニサウ云フ言葉ヲ使ツタノデアリマス、若シ之ヲ徹底シテ申シマスレバ、例ヘバ前文ノ中ニアリマスル「國民の總意が至高なものであることを宣言し、」ト云フ所ヲ国民ノ総意ガ主権性ノモノデアルコトヲ宣言シ、斯ウ言ヘバサウ云フ方面ノ学問ヲシタ人ニハ能ク分ルノデアリマスケレドモ、又第一条ノ「この地位は、日本國民の至高の總意に基く。」ト云フノヲ、日本国民ノ主権性ノ総意ニ基ク、斯ウ言ヘバ、特殊ノ学問ヲシタ人ニハ能ク分ルト思ヒマス、併シ国民全般ニ之ヲ理解シテ貰ヒマスル為ニハ、サウ云フ紛ハシキ言葉ヲ避ケマシテ、至高ノ意思ト斯ウ言ツタノデアリマスカラ、先ノ法人ノ御説明ト組合セテ御考ヘ下サイマスレバハツキリシテ居ル、斯ウ云フ風ニ私ハ信ジテ居リマス、サウシテ其ノ後ノ意味ノ主権性ト云フモノハ、度々繰返シテ言フヤウニ国民全体ニアルト云フコトハモウ一点ノ疑ヒガナイ、此ノ憲法ノ建テ方ノ基礎デアリマスシ、之ヲ他ノ言葉デ言ヘバ、其ノ第二ノ意味ノ主権ハ国民全体ニ在ル、斯ウ言ツテ宜イト思ヒマス
○高橋（英）委員 今ノ御説ヲ聴キマシテ、益々私ノ国家主権説ノ確カデアルト云フコトヲ自ラ信ズルコトニナルノデアリマスガ、今ノ主権ノ作用、統治権ノ作用ニ内外ノ作用ガアルト云フ風ナ御説明振リデアツタヤウデアリマシテ、単ニ国際間ノ場合ニ於テ、国家ガ主権ヲ持ツト云フ風ニナルノダト云フ風ノ御説明ノヤウニモ聴イテ居リマシタガ、後カラ又サウデモナイ、内部関係ニ於テモ無論統治権トシテハ国家ニアルノダト云フ風ナ御説明ガアツタヤウニ思ヒマスガ、統治権ニハ内外ノ作用ト云フモノハナイ、統治権其ノモノハ権利ノ主体トシテ、ソレ本来ノ働キヲスル場合ニ、内ノ作用モアリ、外ノ作用モアルノデアリマスカラ統治権ニ二ツノ主体者ガアルト云フコトハ、是ハ到底信ズルコトガ出来ナイト思フ、随テ私ハ斯ク解釈サシテ戴クシ、国民ニモ左様ニ徹底サシテ戴ク訳ニハ行カナイカト思フノデアリマスガ、金森国務相ノ御所信ハドウデアリマセウカ即チ法令上カラ言ヒマスト、主権ハ国家ニ在ルノダ、併シ実際上政治的ノ意味カラ行クト、国家ナルモノハ結局人類ヲ除イテノ意思活動ヲスルモノハナイノデアリマスカラ、土地ニシテモ、建物ニシテモ、其ノ他ノ物体ニシテモ、意思決定ノ協力者ガナイノデアリマスカラ、随テ国家即チ国民協同体ト云フコトニナルノデアルカラ、実際上ニ於テハ国民ノ意思ガ統治権ノ作用ヲ決定スルノデアルト云フ風ニ、即チ政治的実際的ニハ国民ニ主権ガ在ルト云フ風ナ説明ハ差支ヘナイケレドモ、法理的ニ於テハ国家ニ主権ガアルノダト云フ風ナ、ハツキリ区別シタ所ノ説明ガ出来ヌモノデアリマセウカ、サウシテ戴ケレバ非常ニ此ノ問題ハ国民ノ耳ニモ入リ易イシ、我々モ安心シテ其ノ点ニ付テ天皇ノ御尊厳並ニ民主主義的ナ前進ト云フコトニ対シテ、十分此ノ憲法ニ依ツテソレ等ノ総テノモノガ保障サレ得ルト云フ風ニ確信スルノデアリマスガ、如何デアリマセウカ
○金森国務大臣 御説明ハ能ク分リマシタ、此ノ憲法ノ用ヒテ居リマスル文字カラ言ヘバ、大体今御話ノヤウナ建前ニ出来テ居リマス主権ト云フ言葉ハ常ニ国家ガ持ツ詰リ国家ガ主体デアルト云フ組立テノ場合ニ主権ト云フ文字ヲ使ツテ居リマス、ソレハ確カデアリマス、併シ世間ノ色々ノ学説其ノ他ヲ本ニシテ、別ノ意味ノ主権ガ何処ニ在ルカト云フ御尋ネデアリマスルガ故ニ、ソコデドウシテモ又御説明ガ面倒ニナルノデアリマスルガ、別ノ意味ノ主権ハ国民全体ニ在ル、斯ウ言ツテ居リマス、ソレヲ突止メテ言ヘバ今御話ニナリマシタヤウナ御考ヘ方デ一般人ニ了解ガ出来ルモノト考ヘテ居リマス
○高橋（英）委員 諄イヤウデアリマスルガ、最後ニ簡単ナ言葉デ表ハシタイト思フノデアリマス、即チ主権ハ国家ニ在ツテ、其ノ主権ノ行使者、総攬者――現在ノ憲法デ言ヒマスト、総攬者ト云フ言葉ヲ使ツテアリマスルガ、総攬者、行使者ト云フモノガ国民デアル、斯様ニ解釈シテモ宜イノヂヤナイカト思ヒマスガ、如何デセウカ
○金森国務大臣 非常ニ学問的ナ御質問デゴザイマシテ、此処デ御答ヘヲスル資格モアリマセヌシ、知識モゴザイマセヌ、総攬者ト云フ言葉ガ当嵌マルカモ知レマセヌケレドモ、此ノ場合ニサウ言ツテ宜カラウト言フダケノマダ決心モ付キマセヌ、ヤハリ今ノ御言葉ノ行キ方ヲシテ行ケバ、主権ハ国家ニ在ルノダ、其ノ主権ヲ構成スル本体ハ国民全体ニ在ルノダ、斯ウ云フ風ニ御了解願ヘルト大変都合ガ好イト思ヒマス
○高橋（英）委員 最後ニ一寸簡単ニ吉田総理大臣ニ質問シテ置キタイト思フノデスガ、先般私ノ質問ニ対シテ「ポツダム」宣言ハ降伏ノ条件デハナイ、内容デアルト云フ風ニ言ハレテ居リマスガ、条件カ内容カト云フコトハ、色々民法ノ条件論ニモ難カシイ問題ニナツテ居ルノデアリマス、条件ヨリ内容ノ方ガヨリ重要ダト私共モ考ヘマスガ、「ポツダム」宣言ノ五条ニ「吾等ノ條件ハ左ノ如シ、吾等ハ右條件ヨリ離脱スルコトナカルベシ、右ニ代ル條件存在セズ」ト云フ風ニ条件ナル言葉ガ三ツモ使ツテアルノデアリマス、随テ「ポツダム」宣言ナルモノハ日本降伏ノ条件ト云フ風ニ簡単率直ニ国民ニ知ラシメル必要ガアルノヂヤナイカ内容ナント云フ法律的ニ非常ニ難カシイ言葉ヲ使ハナクテモ、条件ト云フ言葉ガ「ポツダム」宣言ニ書イテアルノデアリマスカラ、随テ「ポツダム」宣言ハ降伏ノ条件デアルト云フ風ニ御宣言下サイマスナラバ、今日士気ガ少シ沮喪シ掛ケテ居ル日本国民ノ上ニ、一道ノ光明ヲ齎スコトニナリ、士気昂揚ニ資スルコトニナルト私ハ思フノデアリマスガ、此ノ点ニ付テ他日吉田総理大臣ヨリ御明答ヲ得タイト云フコトヲ申上ゲテ私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 笹森順造君
○笹森委員 第二章ノ見出シニ「戰爭の抛棄」ト云フ文字ガアリ第九条ノ第二行目ニ「抛棄する。」トアリマスガ、此ノ抛棄ト云フ文字ニ付キマシテ、モツト適切ナ文字ガアツタナラバ改メテモ宜イト云フ御考ヘガアルヤニモ伺ツテ居ツタノデアリマスガ、此ノコトデモウ少シ御尋ネヲ申上ゲタイト思ヒマス、第九条ノ‥‥
○芦田委員長 笹森君ニ申上ゲマス、同ジ質問ハ山田悟六君ヨリ既ニ出テ居ルノデアリマス、政府ハ之ニ対シテ答弁ヲ与ヘラレテ居リマスガ、其ノ他ノ角度カラノ御質問ナラバ宜シカラウト思ヒマス
○笹森委員 他ノ角度カラデアリマス、ソレハ先程モ総理大臣ガ御話ニナリマシテ、単ニ戦争ヲ抛棄スルバカリデハナク、自衛権ヲモ否定シテ、進ンデ世界ノ平和国家ノ先頭ニ立ツト云フコトヲ仰セニナツテ居リマスルコトカラシテ、単ニ是ハ国際連合ト云フモノニ加入シ、之ニ依存スルト云フヤウナ立場カラ、更ニ一歩ヲ進ンデ、日本ガ独自的ニ此ノ目的ヲ達成セシムルト云フヤウナコトカラ考ヘマスルト、一昨日金森国務相ガ仰セニナリマシタ、否定、認定、断念ト云フヤウナ言葉ヲ用ヒヨウトシタガ、結局抛棄トナツタト云フノデアルガ、ソレヨリモツト進ンデ寧ロ日本ノ国土全体ヲ戦争ニ参加ヲセシメナイト云フヤウニ考ヘ、或ハ又進ンデ日本ガ世界ノ平和ノ指導者トナルト云フ観点カラスルナラバ、此ノ抛棄ト云フ文字ハ弱イ、是ハ寧ロ排除ト云フ文字ヲ使ツタナラバドウカ、英語ノ方ノ翻訳ヲ見マスト「レナンシェーション」ト云フ文字ガ使ツテアルヤウデアリマスガ、此ノ意味ノ内容ハ単ニ棄テルト云フ意味バカリデハナク、「レジェクト」「レフューズ」スル、之ヲ拒否スル、コツチカラ止メテシマフ、排除スルト云フ意味ガ含マレテ居ルヤウニ考ヘテ居リマスノデ、是ハ英文ハ其ノ侭デ結構デアリマスガ、此ノ「抛棄」ヲ「排除」トスレバモツト適切デ而モ此ノ意味ガモツト徹底スルデハナイカト云フコトカラ金森国務相ニ此ノ点ヲ、簡単ナコトデアリマスガ、御尋ネシタイ、斯ウ云フコトデアリマス
○金森国務大臣 排除スルデスナ
○笹森委員 排除、押シ除ケル、サウスルトモツト積極性ガアル、斯ウ云フ意味デ申上ゲタノデアリマス
○金森国務大臣 今御示シニナリマシタ排除ト言フ言葉ト抛棄スルト云フ言葉ト、何レガ適切デアルカト云フコトハ、モツト能ク時間ヲ戴イテ考ヘテ見ナイト、正確ナ御答ヘハ出来兼ネマスケレドモ差当リ考ヘテ見マシテモ、何カ排除スルト云フダケデハ抛棄程決意ガ十分ニ表ハレナイ、傍ノ方ニ向ケルダケデアツテ不十分ナヤウナ気ガスル、其ノヤウナ心地ガアリマス、ハツキリ致シマセヌカラ此ノ程度ニ止メテ置キマス
○笹森委員 次ニ「國の交戰權はこれを認めない。」トアル、此ノ憲法ノ効力ノ及ブ地域的範囲ト、此処ニ掲ゲテ居リマスル国ノ範囲トヲ明白ニ伺ヒタイ、是ハ四ツノ場合ガアルノヂヤナイカ、世界ノ凡ユル所デ凡ユル国ノ交戦権ヲ認メナイト云フノカ、第二ニ或ハ全世界ノ凡ユル所デ我ガ国ノ交戦権ヲ認メナイ、他国ノ交戦権ハ認メルト云フノカ、第三ノ場合ノ我ガ国土内デ凡ユル国ノ交戦権ヲ認メナイ、他ノ地域デ他国ノ交戦権ハ認メルト云フノカ、第四ノ場合ノ我ガ国土内デ我ガ国ノ交戦権ヲ認メナイガ、他ノ交戦権ハ認メルト云フノカ、斯ウ云フ四ツノ場合ガアルト思ヒマスガ、ドンナニ狭義ニ之ヲ考ヘマシテモ、此ノ憲法ノ効力ハ我ガ国土全体ニ及ブモノデアルト考ヘラレル、随テ我ガ国土内デハ如何ナル国ノ交戦権ヲモ認メナイトスルト云フコトガ、結リ先程私ガ排除シヨウト云フヤウナ意味ト関連ヲ持ツテ居ルノデアリマス、即チ我ガ国ハ如何ナル地域ニ於テモ戦争ヲシナイト解スルノハ無論当然デアリマスルガ、其ノ以上ニ今申上ゲタヤウナコトヲ考ヘテ見タイ、我ガ国土ヲ外国同士ノ戦争ノ基地化スルノヲ認メナイノハ、是ハ国家トシテ当然デアルシ過去ノ日本ノ軍事施設ハ一切棄却サルベキモノデアリ、又今日占領軍ノ関係シテ居リマスル日本国内ニ於ケル軍事施設モ、占領軍ガ撤退後我ガ国ニ返却サレタ後ニ於テハ是等ノ軍事施設ヲ一切棄却シ、或ハ排除シ、転用セラルベキコトモ無論デアル、サウナリマシタ暁ニ於テ、爾後如何ナル事態ニ於テモ我ガ国土ノ戦争基地化ヲ拒絶シ如何ナル国ノ交戦権ヲモ我ガ国土内ニ於テ認メナイコトニスルコトガ、国土ノ安全ガ保タレル所以デアルト思フ、是ガ即チ日本ノ国ニ戦争ガ来タ時、唯棄テルト云フノデハ弱イノデ、ドンナモノガ来テモ排除シテシマフト云フヤウナ意味デ先程申シタコトト関連シテ居リマスガ、結局スル所、国ノ交戦権ト云フモノハ、憲法ノ及ブ地域的範囲及ビココニ掲ゲタ国ト云フモノノ定義及ビ範囲ヲ明確ニ御示シ願ヒタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 御話ノ次第ヲ能ク考ヘテ見マスルト、御示シニナリマシタ排除ト云フ言葉モ能ク分ルヤウニ思ヒマス、此ノ憲法ヲ起案致シマシタノハ、日本ノ国防トシテ効力アラシメヨウト云フ趣旨デアリマス、随テ縦シヤ日本ノ土地ノ中デアリマシテモ、今日国際法上認メラレテ居リマス他国ノ交戦権ノ類ヲ日本ガ一方的ニ否定スルコトハ、是ハ国内法上ノ問題トシテ扱フニ致シマシテモ、国際法ニ反シ又国際信義ニモ反スルコトデアリマシテ、是ハ困難ナコトト思フ訳デアリマス、理想ト致シマシテ今御示シニナリマシタヤウニ日本ノ領域内ニ於キマシテハ一切ノ国ノ戦争行為ニ付テ、第九条ニ該当スルモノハ全部之ヲ排除スルト云フコトハ、確カニ一ツノ考ヘ方デアリマシテ、将来ソレニ向ツテ努力スルコトニ意義ガアルト思ヒマスルガ、併シ今ノ段階ニ於キマシテ日本ガ致シマスルコトハ、直チニ之ヲ以テ国際法上ノ変動ヲ行フト云フ所マデハ遺憾ナガラ進ンデハ居リマセヌ、結局日本ガ之ヲ抛棄スルト云フ趣旨デアリマス而シテ第二項ニ色々ナ之ヲ認メナイト云フ規定ガアリマス、是モ日本国ノ働キニ付テ言フノデアリマシテ、随テ行ハレマスル地域ハ必ズシモ日本国バカリデハナイカモ知レマセヌガ、国ト国トノ関係ガ起リマスル場合ニハ、固ヨリ日本ノ領域内ニ於テモ日本ノ主権ノ発動ト云フモノハ考ヘラレマスルカラ、地域ハ広クナルカモ知レマセヌ、併シ考ヘ得ル主体ハ日本国ダケノ働キト云フ意味デアリマス
○笹森委員 次ニハ反乱鎮定ノ為ニ警察ハ武力ヲ行使シ得ルカ、或ハ又此ノ場合ニ警察ノ強制力ハ武器ヲ使用シテモ武器トハ看作サナイカ、第九条ノ関連ニ付テ御尋ネシタイノデアリマスガ、将来平和条約ノ締結後、何レノ時ニカ、若シモ不幸ニシテ国内ノ一地方ニ反乱ガ起ツテ一地方ヲ占領シ独立ヲ宣言シタト云フ場合ニ、日本ハ戦争ヲ抛棄シタノデアルカラ、其ノ反乱者ニ対シテハ戦力ニ依ル鎮定ガ出来ナイコトニナル、出来ナイトスレバ皇土ノ安全ヲ保タレズ、国家ハ破滅ニ瀕スルノデアリマス仍テ此ノ場合ニハ警察権ノ強力ナ発動ニ依ツテ鎮定スルノハ、国内問題トシテ第九条ノ発動ニ依ツテ許サレナケレバナラヌモノダト思フ、此ノ点ニ関シテ特ニ現在警察官ガ帯剣シ、或ハ拳銃ヲ使用シテ隊伍ヲ組ンデ行動シテ居リマスルコトガ将来反乱鎮定行動、或ハ暴徒鎮定行動トナツタ場合ニ、ヤハリ是ハ武力ノ行使ト云フコト以外ニナルデハナカラウカ、曽テ西南役ノ時ニ警視庁ノ巡査隊ガ許サレタコトナドモ色々思ヒ合サレル、此ノ場合ニ於テ結局第九条ニ決メテ居リマスル戦力ト武力ト云フモノトノ関係ニ於テ警察力トノ区別、限界ヲ明確ニ御示シヲ願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣 第九条ハ第一項モ第二項モ共ニ戦争ト云フコトニ着眼シテ居ル訳デアリマス、随テ国内ノ治安ヲ維持スル為ニ実際上ノ力ヲ用ヒルコトハ禁止シテハ居リマセヌ、或ル場合ニ警察官ガ其ノ機能ヲ発揮シテ治安ヲ擁護スルコトハ固ヨリナシ得ベキコトデアリ、ナサナケレバナラヌコトト思フノデアリマス、併シナガラドノ程度マデガ警察権デアリ、ドノ限度ヲ越エマスレバ陸海空軍ノ戦力トナルカ、許サルベキ範囲ト許サレザル範囲ト云フモノガ起ツテ来テ、是ハ理論的ニ何処カニ境界線ガ明白ニ存スルモノト思フ訳デアリマス、唯実際ニ於キマシテ若シモ国内治安維持ノ為ノ警察力ト云フコトニ言葉ヲ藉リテ、陸海空軍ノ戦力其ノモノニ匹敵スルヤウナモノヲ考ヘマスルナラバ、ヤハリ此ノ憲法第九条違反トナリマス、運用ノ上ニ於キマシテハ誰ガ見テモ警察権ノ範囲ト認メ得ル程度ニ於テ実施スベキモノト考ヘテ居リマス
○笹森委員 只今ノ戦力ノ問題ニ付テ進ンデ御尋ネ申上ゲマス、第九条ノ規定ニ於キマシテ抛棄又ハ否認セラルベキ武力及ビ戦力ノコトガ書イテアリマスガ、此ノ定義及ビ内容ヲ判然ト承リタイ、武力ト申シマスト大概明カデアリマスガ、戦力ト云フコトニナリマスト稍々明瞭ヲ欠タ観念ガ出テ来ルノデアリマス、広義ニ申シマスト凡ユル国力ガヤハリ戦力ニ関係シテ来ル、是ガ従来ノ考ヘ方デアリマス、ソコデ此ノ戦力ト云フモノヲ全クココカラ切離シテ平和的、経済的、或ハ文化的ニ経済力ト云ヒ文化力ト云フコトヲ明確ニ区別シテ置カナケレバナラヌ必要ヲ感ズル、一般ノ生産力、軽工業、重工業等ノ工場ニ致シマシテモ、或ル場合ニハ直チニ戦力ニ転用セラレルコトガアリ得ルト云フノガ従来ノ考ヘ方デアリ、事実サウデモアリマセウ、又ソレ等ノ諸施設バカリデナク、飛行場ノヤウナモノ、戦闘飛行機ヲ除イタ飛行機、或ハ港湾、汽船、汽車、自動車、電信電話其ノ他ノ施設ト申シマシテモ武力戦力以外ノ平和国民生活ノ施設トシテ当然益々発達セシメナケレバナラヌモノガ沢山アル、此ノ武力、戦力ト平和的ナ経済国力、文化力ト云フモノノ限界ヲ明確ニ示シテ戴イテ、此ノ「認めない。」ト云フモノノ中ニ入ラナイモノヲハツキリト此処デ御示シヲ願ヒタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 斯様ナ言葉ハ中心ノ所ハ誰デモ直グ諒解ヲ致シマスケレドモ、其ノ内容ノ周辺ニ当ル所、詰リ何処マデ行ケバ戦力ニナリ、何処マデ行ケバ平和力ニナルカト云フ限界ハ中々決メ兼ネル点ガアリマス、大体ノ基本ノ原則ト致シマシテハ、一国ノ戦闘力ヲ構成スルコトヲ常ノ姿トシテ居ル力、之ヲ戦闘力ト云フモノト思フノデアリマス、新タニ学問上発達致シマシタ所ノ特殊ナル戦争手段ノ如キハ、陸海空軍デナクテモ固ヨリ戦力デアリ、多数ノ人間ニ多クノ生命身体ニ関スル変化ヲ惹起スルト云フヤウナ手段ハ之ニ入ルト思フノデアリマス、併シ専ラ平和ノ目的ニ使ハルルト云フコトニ依ツテ説明ガ出来ルヤウナ、而シテ詰リ一般ノ経済的ナ設備等ハ、此ノ戦力ニハ入ルモノデハナイ、斯ウ云フヤウニ考ヘテ居リマシテ現実ノ施設ガ戦力デアルカドウカハ総合的ナ判断ニ依ツテ決メルヨリ外ニ名案ハナイモノト思ツテ居リマス
○笹森委員 最後ニ、司法大臣ニ御尋ネ致シタイノデアリマス、此ノ憲法ノ条文ニ違反者ガアツタ場合、特ニ此ノ二章ニ対シテ違反者ノアツタ場合ノ処罰等ニ関スル御考ヘノ御用意ヲ伺ヒタイノデアリマスガ、ココデハ特ニ「國の交戰權はこれを認めない。」トアリマス、所デ国ト申シマシテモ国民ガ其ノ中ニ居ツテ活動スルコトデアリマスカラ、不幸ニシテ自衛権ヲ発動シナケレバナラナイ場合ガ出来テ、国民ガ国土内デ武器ヲ持ツ以前ニ腕力或ハ其ノ他ノ器物デ正当ナル自己防衛ヲ行フト云フヤウナ場合デモ、ソレガ違憲行為トナルカドウカ、サウデアルトスルナラバ之ヲ如何ニ処罰スルト云フコトニナリマスカ、先ヅ此ノ点ヲ第一ニ伺ツテ、モウ一ツ御尋ネヲシタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス自衛権ノ発動デアルヤ否ヤト云フコトハ大問題デアリマスルガ、今御話ノ通リ武力行使セズシテ単ニ腕力デ以テ之ヲ自衛シタ場合ニドウカト云フ御質問ノヤウニ受取ラレマシタガ、ソレハ其ノ時ノ場合ニ、果シテソレガ交戦権ト認メラレルヤ否ヤト云フコトデ解釈ガ違ツテ来ルダラウト思ヒマス、勿論此ノ交戦権ノ範囲ニ属スルト認メラレタ場合ハ憲法違反ニナルコトハ当然デアリマス、是ハ只今デモ刑法ニ所謂国交ニ関スル罪ト云フ規定ガアリマス、将来又此ノ憲法ノ線ニ沿ウテ刑法モ改正サレルノデ、ソレニ依ツテ取締ツテ行キタイト思ヒマス
○笹森委員 次ニ、我ガ国民ガ外国在住中ニ外国ノ軍隊ニ入リ、戦争ニ参加スルト云フコトハ違憲行為デアリマスカドウカ、即チ外国ガ他ノ外国ト戦争シタ場合、又ハ外国ガ我ガ国ヲ相手トシテ戦ツタ場合、其ノ外其ノ時ニ外国ニ在ツタ国民デ強制的又ハ任意的ニ外国ノ軍隊ニ加ハツタ戦ツテ例ハ幾ラデモ過去ニ於テアリマス、此ノ憲法通過後ニ於テ斯カル行為ヲスルナラバ、憲法違反行為ニナルカドウカ、唯仮ニサウダトシタ場合ニ我ガ国ノ法律ノ効力ノ及バナイ外国ニ在ル間ハ事実上処罰サレナイト云フコトガアツタニシテモ、其ノ者ガ日本国民デアル以上ハ、ヤハリ違憲行為ヲシタ事実ガ存在スル間ハ責任ガ存スルデハナイカ、サウ云フ者ガ日本ニ帰ツテ来タナラバ、直チニ責任ヲ取ラルベキデハナイカ、過去ニ於テ日本ガ行ツタ戦争参加ノ有力ナル指導者ハ、現ニ公職追放ノ処断ヲサレテ居ルノデアルガ、日本国民デアリナガラ外国軍隊ニ加ハツテ、ヤハリ日本攻撃ノ重要役割ヲ演ジタ者ハ、当然公職追放以外ニ叛逆者トシテ厳重ニ処断セラルベキモノデハナカラウカ、斯カル違憲行為者ガアツタ場合ニハ、ドウ云フコトニ御取扱ヲナサルノデアルカ、此ノ点ニ付テノ御答弁ヲ御願ヒシタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス日本人ガ外国ニ於テ外国ノ軍隊ニ加ハツテ色々ナ交戦行為ヲヤツタ是ハ日本国トシテ其ノ責任ノナイコトハ当然言フヲ俟タナイ、唯其ノ個々ノ外国ニ於テサウ云フ軍隊ニ加ハツタ者ノ処断ニ付テハ、是ハ国内法上ニ於テソレゾレ其ノ当該事項ニ該当シタ場合ニ於テ処置サレルコトト思ヒマス
○笹森委員 質問ヲ終リマス
○芦田委員長 是ニテ第九条ニ対スル審議ヲ終リマシタ、続イテ第三章、第十条ヲ議題ニ供シマス――北浦圭太郎君
○吉田（安）委員 議事進行ニ付テ御尋ネ致シマス、逐条審議以来既ニ数日ヲ要シテ居リマスコトハ御承知ノ通リデアリマス、然ルニ其ノ成績ヲ見マスルト、只今九条ガ済ンダダケデアリマス、斯ウ云ツタ程度デ進ンデ居リマシタナラバ百箇条カラアル此ノ逐条審議ト云フモノハ、殆ドイツ済ムカ今ノ所デハ予測ガ出来マセヌ、聞ク所ニ依リマスト、先ハザツト行カウト云フヤウナ御考ヘモ持ツテ居ラレルヤウデアリマス、併シソレハ大変ナコトデアリマス、勿論此ノ初メノ条カラ九条アタリマデハ大事ナ問題デアルニハ間違ヒアリマセヌガ、第三章以下モ、ドレモ是モ大事ナ事件ガアリマス、デアリマスカラ成ベク一ツ全部ヲ通ジテ平均ニ、而モ熱心ニ討議ガ出来マスルヤウニ進行ノ御取計ヒヲ願ヒタイト思ヒマス、見テ居リマスルト同ジ所ヲ再三繰返サレテ居ル点モアルヤニ存ジマス、サウシタ場合ハ――大体前ニ質問ガアリマシタノヲ、其ノ時偶々欠席ヲサレテ居ツテ、サウシテサウ云フコトヲ知ラズニ善意ニ質問ナサツテ居ルノデゴザイマスケレドモ、サウ云フコトデハ困リマスカラ、進行上是ハ議長ノ方デ御注意ノアルコトデアラウト思ヒマスガ、成ベク一ツ欠席ノナイヤウニ、サウシテ全般ニ亘ツテ国民カラ非難ヲ受ケナイヤウナ程度ノ進行ガ出来、ソレガ予定ノ日マデニハ完了スルヤウニ委員長ノ方デ御取計ヒヲ御願ヒシタイト思ヒマス
○芦田委員長 御提案ノ趣意ハ能ク了承致シマシタ、委員各位ニ於テモ、恐ラク只今ノ吉田君ノ提案ニ異議ノナイコトト思ヒマス、委員長トシテハ、出来ルダケ重要法案ノ審議ニ慎重ヲ期スルコトハ当然ノ任務ト思ヒマスガ、サリトテ重複質問ヲ続行シテ時間ヲ空費スルコトガ、決シテ慎重ヲ期スル所以デアルト思ヒマセヌ、今後トモ委員各位ノ御協力ニ依頼シ、政府当局ニ於テモ重複ノ答弁ハ成ベク御避ケ下サルヤウニ期待致シマス精々吉田君ノ御提案ノ趣意ニ副フテ、努力致シマスガ、何分ニモ委員諸君ノ御協力ヲ得ナケレバ、ドウニモナリマセヌ、ドウカ其ノ御心持デ将来トモ御進行ナサルコトヲ希望致シマス（拍手）
○北浦委員 私ハ第九条ニ対シテモ通告致シテ置イタノデアリマスルガ、既ニ委員長宣告ノ後デアルカラ致シマセヌ、併シ只今司法大臣ノ我々前ノ同僚ノ御方ノ質問ニ対シテノ答弁ハドウモ不満足デアリマス、唯一点ダケ、例ヘバ日本人ガ外国ニ行ツテ居ツテ、日本ニ対シテ抗敵行為ガアツタト云フ場合、ソシテ日本ニ帰ツテ来テ居ルサウ云フ者ガ居ルカ居ラヌカ分リマセヌガ、其ノ質問ニ対シテ御答ヘナカツタノデアリマス、サウ云フ場合ニハ現行刑法第八十一条ニ依リマスト、「外國ニ通謀シテ帝國ニ對シ戰端ヲ開カシメ」――之ニハ該当シマセヌ、「又ハ敵國ニ與シテ帝國ニ抗敵シタル者ハ死刑ニ處ス」ト斯様ニアル、死刑ニ該当スル、若シ左様ナ者ガ日本ニ帰ツテ来テ居ツテ、ノサバツテ居ルト致シマスルト由々シキ大問題デアリマス、ソコデ此ノ点ノ御答弁ガナカツタガ、如何デゴザイマスカ、サウ云フ者ハ例ガアルカナイカ分ラヌカラ答弁シナイト云フノデアリマスカ、或ハサウ云フ者ハ全然ナイノダト云フ訳デ答弁ガナイノデアリマスルカ、此ノ点折角委員長ノ宣告後デアリマスルガ、念ノ為ニ御伺ヒ致シテ置キマス
○木村国務大臣 答弁致シマス、サウ云フ事実ハマダ我々ノ耳ニ入ツテ居リマセヌ、万一サウ云フ事実ガアリトシ、発覚致シマスレバ刑法所定ノ処断ヲ受ケルコトハ当然デアリマス
○北浦委員 能ク分リマシタ、次ニ第十条ニ付テデアリマスガ、第一ニ金森国務相ニ御伺ヒ致シタイノデゴザイマス、人民ニ対スル権利保障ノ規定デアリマス、此ノ第十条ニハ基本的人権ト云フ文字ガ二箇所使ツテアツテ、可ナリ広範囲ニ今度ハ認メラレテアルノデアリマスガ、ナクテハナラヌモノガナイ、ソコデ私ハ其ノ点ニ付テ極ク簡単ニ大略ダケ御聴キシタイノデアリマス
第一ニ人民ノ権利保障ノ規定デアリマス、御承知ノ通リ「アメリカ」合衆国ノ憲法ニハ、憲法中ニ特定ノ権利ヲ列挙スルノ故ヲ以テ――此ノ憲法ニモ特定ノ権利ヲズツト列挙サレテ居リマスルガ、人民ノ保有スル他ノ権利ヲ拒否又ハ軽視スルモノト解釈スベカラズ、斯様ナ規定ガ置イテゴザイマス、詰リ列挙サレタ以上ノ権利、例ヘテ申シマスルト、人民ノ権利義務ノ中デ我々日本人ノ身体捜索ノ権利、是ハ「アメリカ」ニハチヤント規定ガアリマスルガ、是ガドウ云フ訳カ書イテゴザイマセヌ、当然我々ノ住居デアルトカ、所持品、書類ハ之ニ含マレルノデアラウト思ヒマスガ、何故身体捜索ノ権利ト云フモノヲ書カナカツタカ、「アメリカ」デハ御承知ノ通リ、故ナクシテ其ノ身体、家宅、文書及ビ家財ヲ捜索及ビ押収セラレザルノ人民ノ権利ハ之ヲ侵スベカラズ、斯様ニ規定シテアリマス、ソコデ勿論身体ヲ検索スル、捜索スルト云フコトハ悪イ、女優デアルトカ或ハ「ダンサー」闇ノ女、是ハ一体如何ナル法律ニ基イテヤラレルノカ、現行憲法ニ於テモ左様ナコトハ許サレテ居ナイト思フノデアリマスガ、彼女等ノ身体ヲ検索サレル、勿論公衆衛生ノ見地カラヤツテ居ルノダラウト思ヒマスガ、一体官憲ガ之ニ干渉スルノハ宜シクナイ、甚ダ非民主主義的デアリマス、ソコデ憲法ニナゼ特ニ身体ダケヲ除イタカ、仮ニ身体ハ除イテアツテモ、此ノ憲法中ノ何処ニソレガ含マレルノデアルカ、其ノ点ヲ御説明願ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣 最初「アメリカ」ノ憲法ニ何カ規定ガアツテ、列記事項ノ為ニ一般ノ権利ハ影響ヲ受ケナイト云フ趣旨ノ規定ガアルト云フ御話デアリマス、今回ノ改正案モ亦精神ニ於テハソレト同ジデアリマシテ、此ノ憲法ニ一々列記シテナクテモ、苟クモ国民ノ基本的人権ト言ヒ得ルモノデアルナラバ、ソレハ享有ヲ国家ガ妨グルコトヲ得ナイト云フ趣旨ヲ以テ出来テ居リマス、第十条ノ初メノ方ニアリマス十数箇ノ文字ハソレヲ規定シテ居ルモノデアリマス、身体ノ捜索ト云フコトノ御質疑ガアリマシタガ、第三十二条ノ住居、書類、所持品ニ付テノ規定、大体ソレデ以テ目的ヲ達スルト思ヒマスルケレドモ、然ラザル場合ニ於キマシテハ、第二十八条ガソレニ対スル答ヘヲ稍々具体的ニナシテ居ルモノト思フ訳デアリマス
○北浦委員 ソレハ左様ニ解釈ヲスルコトニ致シマス、次ニ現行憲法ノ第十九条ノ均シク公務ニ就クノ権利、是ハ草案ノ何処ニ規定シテゴザイマスカ、或ハソンナ必要ハナイノデアルカ、私ハ斯ウ云フ考ヘヲ持ツテ居リマス、極ク軽微ナル選挙違反、斯ウ云フコトハ金森国務相ハ御経験ハナイノデアリマセウガ、是ハ五箇年選挙権、被選挙権ヲ停止致シマス、一寸戸別訪問ヲ致シマシテモ、一寸罰金刑ニ触レルヤウナ選挙違反ヲヤリマシテモ、五箇年間ト云フモノハ、現行憲法ノ第十九条ノ公務ニ就クノ権利ヲ剥奪スル、ソコデ御聴キスルノデアリマスガ、斯ウ云フ法律ハ将来廃シテ載キタイ、少シノ選挙違反デ五箇年モ選挙ヲヤラサナイ、ソコデ第一ニ御伺ヒ致シマスノハ、何故ニ基本的人権ナル此ノ現行憲法ノ第十九条ヲ省イタカト云フ点デアリマス、ソレカラソレハ省イテ居ナイノダ、ドコソコノ第何条ニソレハ含マレテ居ルノダト云フナラ、其ノ点御指摘ヲ賜ハリタイ、ソレカラ第三点ハ極ク軽微ノ選挙違反、是ハ司法大臣カラ御答ヘヲ願ツテモ結構デアリマスガ、実際選挙ヲ致シテ居リマスト、我々法律専門家ノ者モウツカリスルト引掛ルノデアリマス、能ク注意シテヤリマセヌト、引掛ル、而モ運ノ悪イ者ハ裁判所デ五箇年間モ四箇年間モ選挙権、被選挙権ヲ停止スルト云フ判決ノ宣言ヲ受ケマス、此ノ点ニ付テ均シク公務ニ就クノ権利デスカラ、御意見ヲ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣 第十条ノ御質疑トシテ御答ヘシテ宜イカドウカ能ク分リマセヌガ、現行憲法ニ於キマシテ均シク公務ニ就クト云フ権利ヲ規定致シマシタ根本ノ理由ハ恐ラクハ現行憲法ハ国民平等ト云フ原理ヲハツキリ認メテ居リマセヌ、唯之ヲ公務就職ノ場合ニ於テノミ均シクト云フコトヲ掲ゲタノデアリマシテ、詰リ全般ニ平等ガナクテ、公務就職ノ上ニ平等ヲ規定シヨウトシタ所ニ大イナル意味ガアル訳デアリマス、詰リ均シクト云フ文字ガアノ条文ノ中ノ骨子ヲ成シテ居ルモノト云フ訳デアリマス、然ルニ今回ノ此ノ改正草案ニ於キマシテハ第十三条ニ於テ総テ国民ハ法ノ下ニ平等デアルト云フ権利ヲ認メテ居リマスルガ故ニ公務就職ノ関係ニ於テノミ均シクト云フコトヲ規定スル必要ガナカツタノデアル、斯ウ思ハレマス
○北浦委員 然ラバ其ノ点ハ十三条ニ含マレテ居ルト解釈致シマス
次ニ御伺ヒ致シマスノハ、内務大臣デモ宜シウゴザイマスル、主トシテ司法大臣カラ承ツテ置キタイト思ヒマス、我々ノ同僚ガ毎年々々議会ノ度ニ請願委員会ニ出シタリ、今度ハ多分建議案トシテ御出シニナルダラウト思ヒマスルガ、此ノ前科調書ト云フモノ――公務ニ就クノ件ニ牽連シテ御伺ヒスルノデアリマスガ、各役場ニ前科調書ト云フ書類ガ備ヘテアリマス、北海道ノ或ル地方ノ有力ナル村長ノ涙ノ物語ヲ、私ハ議会ニ来ル度ニ同僚ノ代議士カラ聴カサレルノデアリマスルガ、今ヨリ五十年前ニ、此ノ人ハ女ノ関係デ、自分ガ約束シタ婦人ガ他ノ男ト結婚シタ、ソレデ非常ニ激昂ノ余リ結婚式場ニ乗込ンデ行ツテ刃物ヲ揮ツタ、五十年前ノ話デアリマス、ソコデ体刑ニ処セラレタ、刑務所カラ出テ来タ時ニハ大イニ悔悟致シマシテ、是カラハヨリ立派ナ人間ニナラナケレバナラヌト云フノデ、ボツボツ開墾致シマシテ、何十町歩ト云フ開墾ガ完成サレテ、今日デハ北海道デモ有名ナル資産家トナリ、而モ其ノ村ノ村長トオナリニナツタ、ソコデ前科調書ト云フモノヲ前ノ村長カラ引継イデ第一頁ヲ開ケテ見マスト、自分ノ名ガチヤント書カレテアル、ソコデ村長スルノニモ恥カシイト云フノデ辞メヨウカ、辞メマイカ非常ニ煩悶シタ、斯ウ云フモノハ、是カラ民主主義ノ憲法ガ発布サレテ私ハ日本ノ国体ハ変革ガアツタト信ズルノデアリマスガ、変ルノデアリマスカラ、斯ウ云フモノハ司法大臣ハ内務大臣ト御相談ノ上デ或ル程度抹殺シテシマフ、モウ強盗ヤ殺人ヲ何時モヤル者ハ別ト致シマシテ、五十年モ経ツタ今日、尚ホ其ノ役場ニサウ云フモノヲ保存シテ置クト云フコトハ、百害アツテ一利ナイ、此ノ点、是ハ何デモ東京ノ方デモ運動ハアルラシウゴザイマスガ、国務相ノ御意見デナクシテ、司法大臣ノ御意見ヲ求メマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス只今ノ北浦委員ノ御説ハ、実ニ御尤モナ点ガアルノデアリマス、当局ト致シマシテハ、前科調書ノ処置問題ニ付テ、只今慎重ニ考慮シテ居リマス（拍手）
○北浦委員 次ニ是ハ金森国務相ニ御伺ヒスルノデアリマスルガ、民主主義保障ノ規定ヲナゼ置カナカツタカ、是デアリマス、例ヘバ他ノ憲法ノ立法例ヲ見テミマスルト、此ノ憲法ヲ以テ内閣ニモ委任シナイ、又国会ニ対シテモ禁止シナイ、左様ナ権力ハ総テ人民ニ留保スル、是ハ従来ハ我ガ国ニ於テハ天皇ニ在ツタコトハ議論ノ余地ガゴザイマセヌ、今後ハサウ云フ権力ハ誰ニ帰属スルカ、留保サレルカ、即チ国会ノ立法事項モ、内閣ノ行政行為モ御承知ノ通リ決シテ無制限デハアリマセヌ、ソコデ例ヘバ戦争抛棄ノ問題デモ――是ハ戦争抛棄ニ後戻リスルノデハアリマセヌ、一例トシテ挙ゲルノデアリマス、外国ノ軍隊ガ日本ノ領土内ニ来テ兵営ヲ建テル、今日ハ巳ムヲ得マセヌガ、我々ガ死ンデ我々ノ子孫ノ時代ニナツテ兵営ヲ建テ、サウシテ軍隊ガ日本ノ国土デ軍事行動ヲヤル、斯ウ云フヤウナコトハ当然此ノ憲法デ禁ジナケレバナラヌノデアリマスガ、今日ハソレヲシテ居ラレナイ、出来ナイノデアリマセウカ、我々ハ国家百年ノ後ヲ見テ此ノ憲法ヲ読マナケレバナラヌ、斯ウ云フコトハ此ノ憲法ニ規定アリマセヌ、勿論内閣ニモ委任サレテ居リマセヌ、国会ニ対シテハ禁止ハシテ居リマセヌ権力デアリマスガ、今後ニ於テ斯ウ云フコトハ必ズ沢山起ツテ来ルト私ハ信ジテ居リマス、ソレヲ留保スルコト、是レ即チ民主主義保障規定デアリマス、是ハ金森国務相ニ申上ゲルコトハ釈迦ニ説法デアリマスガ、ナゼ之ヲ御置キニナラナカツタカ其ノ点理由ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 其ノ点ハ私実ハ研究ヲ致シテ居リマセヌ、サウ云フ疑惑ガ此ノ憲法ノ不完全サヲ指摘スル意味ヲ持チ得ルカドウカト云フコトニ付キマシテ、知識ヲ実ハ準備シテ居リマセヌノデゴザイマス、唯私考ヘマスノハ、国家ガ働キマス時ニハ、法則ヲ作ル力トナツテ働クカ、現実ノ事項ヲ処理スル力トナツテ働クカ、アルモノハ此ノ二ツデアラウト思フノデアリマスソレ以外ニハ考ヘラレナイト思フ訳デアリマス、而シテ法則ヲ作ル権能ハ国会ニアリマス、個々ノ事項ヲ処理スル権能ハ内閣ニアル訳デアリマス、尚ホ此ノ個々ノ事項ヲ処理スル一部分ハ裁判所ニアル訳デアリマス、随テ内閣ニ属スルカ、裁判所ニ属スルカト云フ疑ヒハ起リ得ル場合モアリマセウ、併シナガラ個々ノ事項ヲ処理スル場合ハ、内閣カ裁判所カ何レカニ属シテ居ルノデアリマシテ、此ノ憲法ガサウ云フ覆ウテ居ナイ空間ヲ残シテ居ルトハ考ヘテ居リマセヌ
○北浦委員 此ノ憲法ニ規定ナイ事項デ将来起リ得ルコトハ、三機関ノ何レカニ依ツテ決定サレルンダ、斯ウ云フ御答弁デアリマスガ是ハ不完全デアリマス、併シ是レ以上ハ議論デアリマスカラ申上ゲマセヌ
最後ニ現行憲法ノ三十一条デアツタカ、斯ウ云フ規定ガアリマス今後ハ戦争ハアリマセヌガ、戦時又ハ事変ノ際ニハ、臣民ノ権利義務ハ憲法ニ規定ハシテアルケレドモ、一朝事変ノ際ニハ停止スルゾ是ハ行ハナイ、天皇ガ総テ大権ヲ行使サレル、斯ウ云フ趣旨ノ規定ガアツタコトハ、条文ハ探セバ直グ分ルノデアリマスガ、是ハ間違ヒアリマセヌ、ソコデ先程カラ同僚ノ代議士諸君モ盛ンニ心配シテ居ラレマスルヤウニ、戦争ハアリマスマイ、アツテハナラヌ、併シ国内事変ハ、是ハ金森国務相、夢デモ或ハ想像談デモアリマセヌ、将来是ハ心配シテ置カナケレバナリマセヌ、サウ云フ場合ニハココニ草案ニ色々国民ニ対シテ広範囲ノ権利ヲ与ヘテ居リマスガ、停止ノ必要アルノデハナイカ、ヤハリ私ハ第三十一条デスカ、サウ云フ規定ガ必要デハナイカト思フ、ナゼ此ノ憲法ニソレヲ置カナイカ、此ノ点御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 今御示シニナリマシタヤウナ場合ヲ予想スルコトハ可能デアルト思フノデアリマス現行憲法ニ於キマシテモ、非常大権ノ規定ガ存在シテ居ツタコトハ今御示シニナツタ通リデアリマス併シナガラ民主政治ヲ徹底サセテ国民ノ権利ヲ十分擁護致シマス為ニハ、左様ナ場合ノ政府一存ニ於テ行ヒマスル処置ハ、極力之ヲ防止シナケレバナラヌノデアリマス言葉ヲ非常ト云フコトニ藉リテ、其ノ大イナル途ヲ残シテ置キマスナラ、ドンナニ精緻ナル憲法ヲ定メマシテモ、口実ヲ其処ニ入レテ又破壊セラレル虞絶無トハ断言シ難イト思ヒマス、随テ此ノ憲法ハ左様ナ非常ナル特例ヲ以テ――謂ハバ行政権ノ自由判断ノ余地ヲ出来ルダケ少クスルヤウニ考ヘタ訳デアリマス、随テ特殊ノ必要ガ起リマスレバ、臨時議会ヲ召集シテ之ニ応ズル処置ヲスル、又衆議院ガ解散後デアツテ処置ノ出来ナイ時ハ、参議院ノ緊急集会ヲ促シテ暫定ノ処置ヲスル、同時ニ他ノ一面ニ於テ、実際ノ特殊ナ場合ニ応ズル具体的ナ必要ナ規定ハ、平素カラ濫用ノ虞ナキ姿ニ於テ準備スルヤウニ規定ヲ完備シテ置クコトガ適当デアラウト思フ訳デアリマス、現行憲法ニ於キマシテ、二段ニモ三段ニモ斯様ナ非常ナ場合ニ応ズル用意ガアツテ、謂ハバ極メテ用意周到デハアツタノデアリマスガ、実際左様ノ手段ガ明白ニ用ヒラレタ場合ハナカツタヤウニ思ツテ居リマスデアリマスカラ余リニモ苦労シ過ギルヨリモ寧ロ自由保障ノ安全ヲ期シタ訳デアリマス
○北浦委員 私ハ政府ニ左様ナル権利ヲ持タセヨト言フノデハアリマセヌ、国会ガ之ヲ握レト言フノデアリマス、金森国務相ノ御言葉ノヤウニ、議会ヲ召集シタリ、或ハ又参議院ニ悠々ト相談出来ル間ハ宜シイ、苟クモ非常時ト云フ、此ノ非常大権ヲ行使スルノハ、左様ナ時間ノナイ時ノコトヲ言フノデアリマス、御説ノ通リニ、戦争ノ場合ニ於テモ、非常時ノ場合ニ於テモ、我ガ日本ニ於テハソレハ行使サレナカツタ、私ハ東條内閣当時ニ、委員会ニ於テ無暗ニ刑罰ヲ重ク致シマスカラ、或ハ裁判ヲ三審カラ二審ニ致シマスカラ、ソレカラ軍ガ所謂戦時刑罰ヲ厳格ニ致シテ議会ニ送ツテ参リマシタカラ、ソンナコトヲシナクテモ非常大権ガアルヂヤナイカト言ウテ質問致シマスト、ソレヨリモ是ノ方ガ便利ダト言ウテ、ドシドシヤツタノデアリマシテ、ヤハリ非常大権ト同一ノコトヲ彼等ハヤツタノデアリマス、所ガ民主主義――民主主義ト云フコトモ国家ガアツテノ民主主義デアリ、国家ガアツテノ人民ノ義務デアリマシテ、国家ノ非常ニ処スルノ備ヘナキ此ノ憲法草案、サウシテ民主主義デアルカラトノ御言葉デアリマスガ、国家危クシテ国民ノ権利義務ト云フモノハ、折角頂戴シテモナクナルノデアリマスカラ、御再考アランコトヲ――アナタダケデハアリマセヌ、内閣諸公悉ク御考ヘアランコトヲ御願ヒ致シマシテ、私ハ今日ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 山崎岩男君
○山崎（岩）委員 御尋ネ申上ゲマス、現行憲法ハ自由権ニ対シテハ法律以上ノ権利ト云フモノヲ与ヘテ居ナイ、即チ立法権ト云フモノヲ制限シテナイ、斯様ニ私考ヘテ居ルノデアリマスガ第十条ヲ見マスルト、「國民に保障する基本的人權は、侵すことのできない永久の權利」ト云フヤウニ書イテアリマスノデ、是ハ立法権ヲモ制限スル趣旨ノ規定デアルカドウカ、御尋ネ申上ゲタイト存ジマス
○金森国務大臣 国民ノ権利ハ、此ノ憲法ノ特ニ許シテ居ル範囲以外ニ於キマシテハ、立法権ヲモ制限スル趣旨ヲ以テ保障シテ居ル訳デアリマス
○山崎（岩）委員 第十条ニ一寸関連シテ第十二条ノコトヲ聴カナケレバ、只今ノコトヲ御尋ネ申上ゲルコトハ出来ナイノデアリマスガ‥‥
○芦田委員長 宜シウゴザイマス
○山崎（岩）委員 第十二条ニハ「立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする。」ト、斯ウ書イテアリマス、此ノ意味カラ言ヘバ、立法権デ制限出来ルヤウニ私ハ考ヘルノデアリマス、随ヒマシテ将来立法権ヲ以テ此ノ国民ノ権利義務ヲ制限スル規定ガ出来ルト私斯様ニ思フノデアリマスガ、如何ナモノデアリマセウカ
○金森国務大臣 第十二条ハ特ニ立法其ノ他ニ於テ積極的ニ是等ノモノヲ尊重シナケレバナラヌト云フコトヲ決メタノデアリマシテ、必ズシモ立法権デ制限ガ出来ルト云フ趣旨ヲ持ツモノデハアリマセヌ、ソコデ誤解ヲ防ギマスル為ニ一応別ノ言葉ヲ以テ御説明ヲ申上ゲタイト思ヒマスガ、御示シノ如ク現行憲法ニ於キマシテハ、国民ノ自由権ハ総テ法律ノ枠内ニ於テ存在スル、言換ヘレバ法律ヲ以テスレバ如何様ニモ限定スルコトガ出来ルト云フ趣旨デアリマス、唯之ニ反シマスル一、二ノ事例ガ信教ノ自由、所有権ノ自由等ニ付テ残ツテ居ルダケデアリマスガ、此ノ憲法ハ建前ヲ全然変ヘマシテ、国民ニ認メマスル基本ノ権利ニ付キマシテハ、是ハ人間トシテハ持タナケレバナラヌ権利デアル、個人ノ人格ヲ尊重致シマス限リ、之ヲ奪フコトノ出来ナイモノデアル斯ウ云フ建前ノ下ニ出来テ居リマスルカラ、法律ヲ以テスルモ其ノ権利ヲ奪フコトヲ得ナイト云フコトヲ根本原則トシテ居ルノデアリマス、併シナガラ如何ナル場合ニモ、法律ガ之ニ伴ハナイカト言ヘバ、ソレハ別問題デアリマス、我々ガ如何ナル基本権ヲ持チマシテモ、其ノ基本権其ノモノガ一定ノ制約ヲ受ケテ存在スルモノデアリマシテ、各人ノ権利ガ無条件ニ、他人ノ迷惑ヲ来タシ、又国家ノ福祉ヲ害シテマデ存在スル訳デハアリマセヌノデ、此ノ基本権ハ、運命的ニ何等カノ、謂ハバ公益ノ枠ヲ持ツテ居ル訳デアリマス、サウシテ公益ノ枠ニ触レテ立法ヲ致シマスコトハ当然ノコトト思フノデアリマス、ダカラ出版ノ自由ト云フモノガアリマシテモ、ヤハリ出版法ガ出来テ、ソレニ対スル公益ノ見地カラ来ル枠ガ出来ルノデアリマス、サウ申上ゲマスルト、ソレデ一応ハ根本的ノ自由ニシナガラモ、法律ヲ以テ制約出来ルト云フノデアルナラバ、現行憲法ト同ジデハナイカト云フ御疑念ガ起ルカモ知レマセヌガ、サウデハナイノデアリマス、現行憲法ニ於キマシテハ、法律デ定メレバ如何様ニモ定メ得ルノデアリマス、改正憲法ニ於キマシテハ、自ラ法律ノ定メ得ル限界ガアルノデアリマス、ソレハ第十一条等ニ依ツテ分ツテ居リマスヤウニ、結局国家ノ正シイ眼デ見タ所ノ公益ノ枠以外ノ所ハ法律デ抑制出来ルト云フコトニナルノデアリマス、而モ斯様ナ場合ニモ乱暴ナ法律ガ出来テ、本来規定シ得ザル事項ヲ法律デ規定シテ制限ヲスル虞ナシトハ致シマセヌ、ソコデ最高裁判所ニ審査権ヲ認メテ、埒ヲ越エタ法律ハ之ヲ無効トスルト云フ途ガ出来テ居ル訳デアリマス、曩ニ私ガ御答ヘ致シマシタ時ニ、是ハ立法権ヲ以テモ侵スコトヲ得ナイト言ヒマシタガ併シ其ノ時ニ此ノ憲法ノ定ムル意義ヲ除イテハト云フ趣旨ヲ述ベマシタノハ其ノ意味デアツタノデアリマス
○山崎（岩）委員 了解致シマシタ終リマス
○芦田委員長 三浦寅之助君
○三浦委員 第十条ノ規定ヲ読ンデ見マスルト、丁度自由平等ノ原則ヲ闡明致シマシタ「フランス」ノ人権宣言ヤ「イギリス」ノ権利宣言ト同ジヤウニ、人権宣言ヲ規定シタノデアリマスガ、其ノ具体的ノ基本的人権ノ内容ハ此ノ章ニ沢山書イテ居ルノデアリマスガ、其ノ中デ公務員ノ選定及ビ罷免権或ハ請願スル権利トカ、或ハ参政権ト云フヤウニ、国民ノ政治的権利モ規定サレテ居ルノデアリマシテ、第一私ハ此処デ人権ト云フコトノ意義ヲ明確ニシテ置ク必要ガアルト思フノデアリマスガ、此ノ点ノ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 人権ト云フヨリモ寧ロ基本的人権ト斯ウ組合セテ御答ヘ致シタイト思ヒマスルガ、是ハ自ラ世界的ニ発達シタ所ノ思想デアリマシテ、之ニ対シマシテ短イ言葉ヲ以テ的確ナル定義ハ与ヘニクイト思ヒマスルガ、人間トシテ当然ニ持ツモノト我々ガ了解シナケレバナラナイ所ノ権利ト云フ風ニ考ヘテ居リマス、言フマデモナク個人ノ権利即チ人格ト云フモノヲ尊重致シマスル限リ、生キテ存在シテ居レバ、必ズ之ニ働キ得ル或ル範囲ヲ認メナケレバナリマセヌ、ソレハ謂ハバ自然法的ト申シマスルカ、此ノ世ノ中ニ於キマシテノ各人ガ認識スル根本ノ原理デアラウト思ヒマス、其ノ範囲ノ権利ヲ此ノ憲法ガ取上ゲテ保障シヨウト思ツテ、ソコデ基本的人権ト云フコトヲ書イタ訳デアリマス
○三浦委員 只今ノ御説明ニ依ツテ原則的ナ点ハ分ルノデアリマスガ、其ノ内容等ヲ考ヘマスルト、人間ノ生命デアリ或ハ自由デアリ平等ト云フヤウナコトガ其ノ原則ニナルト云フノデアリマスガ、唯ココデ考ヘテ見マスルト、人間ハ生レルト同時ニ必ズシモ平等ト云フコトハ考ヘラレナイト思フノデアリマス、何トナレバ生レルト同時ニ人間ノ生命ニモ、丁度生レルト直グ死ヌ人モアルシ、又百歳ノ寿命ヲ保ツ人モアル、又人間ノ能力上ニ於キマツテモ、ソレ相当ノ差異ノアルコトハ申スマデモアリマセヌシ、又生レルト同時ニ色々貧富、地位ト云フヤウナ境遇上ノ差異モアルト云ヒマスルシ、又人間ハ欲望ガアルノデアリマシテ、其ノ欲望ニモ色々アルデアリマセウシ、又感情、情愛ト云フヤウナコトガ、其ノ人ニ依ツテ違ツテ居ルノデアリマスガ、斯ウ云フヤウナ点カラ考ヘマシテ、法律上ニ於キマシテ実際ニ於テ生命、自由、平等ト云フヤウナモノニ付テ、一体平等ニ取扱ヘルモノデアルカドウカト云フコトニ付キマシテ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 自然的ニ違ツテ居ルモノヲ如何ナル場合ニモ平等ニ扱フト云フコトハ、ソレハ無理ダラウト思フノデアリマス、此ノ憲法ハサウ云フ趣旨ヲ言ツテ居ルノデハナイノデアリマス、国家ノ権力ヲ以テ扱ヒマスル場合平等ナル扱ヒヲシヨウト云フノデアツテ法律ノ下ニ於ケル平等デアリマス自然界ニ於ケル平等ヲ指ス趣旨デハアリマセヌ、随テ先ノ方ノ個々ノ場合ニアリマスヤウニ、選挙権ノ平等デアルトカ、或ハ公務就職上ノ平等デアルトカ申シマシテモ或ル他ノ事情ニ依ツテ不平等ニナリ得ルコトハ固ヨリ許サレテ居リマス、例ヘバ公務就職ノ時ニ、能力トカ或ハ道徳性ト云フモノニ依ツテ制限ヲ受ケルコトハ是認ヲシテ居リマス、詰リ故ナキ不平等ト云フモノヲ此ノ憲法ハ嫌ツテ居ル趣旨デアリマス
○三浦委員 次ニ私ハ人権ノ尊重ハ当然デアリ、大変結構ナコトデアリマスガ、唯私ハココデ従来日本ノ政治ハ、申スマデモナク祭政一致ト云フコトヲ唱ヘラレテ居ツタトモ考ヘルノデアリマスガ、此ノ従来考ヘラレテ居ル祭政一致ト云フコトト、此ノ基本的人権ノ尊重カラ人間ノ権利ヲ大イニ主張スル又保護サレルト云フヤウナコトノ政治ノ結果カラ見テ、是ハ一致スベキモノデアルカドウカ、ソレトモ従来ノ祭政一致ト云フ考ヘガ、此ノ際或ル程度ノ何カ変更サレルモノカドウカト云フヤウナコトニ付テ御説明ヲ賜ハリタイト思ヒマス
○金森国務大臣 祭政一致ト申シマスルコトハ、甚ダ難カシイ思想ノヤウデアリマシテ、私自身十分了解ハ致シテ居リマセヌケレドモ併シ古代ノ素朴ナ時代ニ於キマシテ祭政一致ト云フ思想ガアリ、之ニ依ツテ社会ノ諸般ノ動キガ定マツテ来タコトハ認メ得ラレマスケレドモ、人間ノ形ヅクツテ居ル政治組織ガ発達致シマスレバ、自ラ之ニ変形ヲ加ヘナケレバナラヌノデアリマス、ソレガ宗教ト政治トノ根本的分離ト云フ形ヲ以テ現ハレテ来テ居リマス、此ノ憲法ハ宗教ノ世界ト政治ノ世界ト区別シテ二者オ互ヒニ併立シテ行クト云フ建前デ出来テ居リマス、其ノ点ニ於テ若シ祭政一致ト云フコトガハツキリ日本ノ権利デアツタナラバ補正セラレテ居ルモノト考ヘテ居リマス
○三浦委員 モウ一ツ我ガ国民道徳ノ最モ重要ナ要素ヲ占メテ居ルト考ヘラレマス祖先崇拝ト云フヤウナ此ノ考ヘガ変更サレルカ、ソレトモ此ノ侭従来ノヤウニ祖先崇拝ノ観念ガ国民道徳ノ重要ナ部分ヲ占メルモノト云フ風ニ考ヘテ宣シイカドウカ、サウ云フ点モ御説明願ヒマス
○金森国務大臣 此ノ憲法ハ祖先崇拝ヲ規定スル原則ヲ一ツモ持ツテ居ナイト考ヘマス
○三浦委員 此ノ憲法ニ実ハナイカラ御尋ネシタノデアリマスガ、祖先崇拝カラモウ一ツ憲法ニ於テ規定ハナイノデアリマスケレドモ又憲法ニ於テサウ云フコトガ明確ニナツテ居ナイカラ聴クノデアリマスガ、従来ノ日本ニ於ケル忠孝ノ観念トカ、或ハ家族扶養ノ観念ト云フヤウナコトガ日本ノ従来ノ道徳ノ根本ヲ成シテ居ルトモ考ヘルノデアリマスガ、憲法ノ三章ヲ見マシテモ、国民ノ権利義務トハ書イテ居リマスガ、国民ノ義務ノ規定ハ僅カニ児童ヲシテ初等教育ヲ受ケシムベキ義務ガ規定シテアルバカリデアリマシテ、其ノ他ノ規定ハ何レモ国民ノ権利、自由、平等ノ宣言デアリマス、斯ウ云フ点カラ見マシテ、私ハ此ノ従来ノ日本ノ国民道徳ト云フモノニ対シテハ、国務相ハドウ云フ風ニ御考ヘニナツテ居ルカト云フコトヲ御尋ネシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 此ノ憲法ハ国民道徳ヲ何等変更スル考ヘヲ持ツテ居リマセヌ、併シナガラ所謂国民道徳ノ諸般ノ具体的ナル原理トシテ認メラレテ居リマスルモノハ、既ニ過去ニ於テ批判セラルベクシテ十分ノ批判ヲ受ケテ居ナカツタモノモアルノデアリマシテ、今日現代ニ於テ厳密ニ批判サレナケレバナラヌト思ヒマス、其ノ批判ノ結果ガ、此ノ憲法ノ例ヘバ家ノ制度トカ、結婚ノ制度トカ云フ点ニ於テ、具体的立法トシテ現ハルルコトハアラウト思ヒマス、併シ是ハ国民道徳ヲ動カスノデハナク、現実ノ国民道徳ノ原則トシテ認識セラレテ居ルモノノ正シキヤ否ヤト云フコトニ触レツツ、法律制度ガ変革サレテ行クモノト考ヘテ居リマス
○三浦委員 私ハ平和国家ノ建設ニモ、民主主義国家ノ建設ニモ、ヤハリ道義ガ基礎デアリ、道義ノ昂揚ヲ必要トスルコトハ当然デアルト思フノデアリマス、若シ道義ガ欠ケテ居ツタ場合ニ於キマシテハ、真ノ平和国家モ、文化国家モ成立チ得ナイト考ヘルノデアリマス、然ルニ此ノ憲法ニ於キマシテ此ノ道義ノ点ガ明確ニナツテ居ラナイト云フヤウナコトハ、非常ニ遺憾ニ考ヘル次第デアリマスガ、此ノ道義ノ問題ニ付キマシテ、私ハモウ少シ積極的ニ政府ニ於テ此ノ法律ノ取扱上ニ於キマシテ、明確ニシテ戴ケレバ結構ダト思フノデアリマスガ、答弁シテ戴ケレバ尚更結構デアリマス
○金森国務大臣 道義ヲ尊重スルコトニ於キマシテ、此ノ憲法ハ固ヨリソレヲ当然ノ事柄トシテ、特別ナル規定ヲ設クルコトナク扱ツテ居ルノデアリマスルガ、寧ロソレヨリモ道義ト云フモノニ曇リナキ姿ヲ与ヘヨウト云フ所ニ重点ヲ置イテ居ルノデアリマシテ、過去ニ於ケル道義ノ原則ハ、動モスレバ無理ニ押付ケラレタル道義原則ト云フモノガアツタカモ知レヌト云フ気ガスルノデアリマス、併シ第十七条ニ於キマシテ、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」ト云フ規定ガアリマシテ、特ニ人間其ノモノヲ尊重シテ道義ノ問題ガ解決セラルルヤウニ出来テ居リマス、是ハ或ハ意味ニ於キマシテ、此ノ道義ニ付キマシテノ扱ヒ方ニ若干ノ大キナ変化ヲ生ズル可能性ガアルモノト思ツテ居リマス
○三浦委員 是デ質問ヲ打切リマス
○芦田委員長 左藤義詮君
○左藤委員 憲法ガ先進各国ニ発達シテ参リマシタ沿革カラ見マシテモ、又此ノ度我ガ国ガ憲法ヲ改正セントスル事情カラ見マシテモ国民ノ権利ト云フ方面ガ強調サレルコトハ当然デアリマス、併シ今マデノ憲法ガ一部ノ者ノ為ニ誤ツテ右ノ方ヘ悪用サレテ居タ、其ノ為ニ今度ハ又其ノ反動トシテ極端ニ左ノ方ヘ傾クト云フコトモ亦誤リデアリマス、穏健中正、右ニ偏セズ、左ニ偏セズ、真ニ永遠ノ憲法ヲ確立シナケレバナリマセヌ、冷静ニ見テ、果シテ此ノ草案ニ於テ権利ト義務トノ「バランス」ガ取レテ居ルカドウカ、幾ラ権利ノ約束ヲシテモ、之ヲ実行スル十分ノ用意ガナカツタナラバ、国民ヲ幻減失望セシムルバカリデアリマス、例ヘバ勤労ノ権利ヲ約束スルコトハ容易デアリマスガ、現実ニ何百万ト云フ失業者ニ就職ノ機会ヲ与ヘルコトハ中々困難ナ問題デアリマス、出版ノ自由ヲ謳ヒマシテモ、現在ノ紙ノ配給デハ事実貧乏人ニハ出版ノ自由ハ中々得ラナイ、権利ノ規定ヲ空文ニ終ラシメナイ為ニハ、国家ハ非常ニ大キナ義務ヲ負フ訳デアリマス、其ノ義務ヲソレゾレ果シテ行クノハ、最初カラノ御答弁ノヤウニ国民全体デアリマス、若シ此ノ義務ガ果サレナイ場合ノ幻減ガ国家ニ対スル不平トナルヤウナコトガアツタナラバ――現ニ幾ラ政府ニ頼ツテモ仕方ガナイ、食糧モ自分デ解決スルンダト云フヤウナコトガ交通ヲ混雑サシタリ、色々ナ秩序ガ破ラレテ居ル、私ハ斯クノ如キ事熊ノ頻出ヲ再建日本ノ為ニ非常ニ杞憂致スモノデアリマス、金森国務相ノ申サレル如ク、此ノ憲法ガ根本法則ヲ定メルモノデアルト云フコトハ能ク承知シテ居リマスガ、其ノ意味ヲ国民ニ徹底セシメテ――議会サヘ出来タナラバ、普通選挙ニサヘナレバ、国民ノ生活ガ自由ニナルンダ、トモスルト何時モ国民ガサウ云フヤウナ夢ヲ持チ易イ今ノヤウナ苦シイ場合ニハ余計持チ易イ、サウデナク、此ノ次ノ条ニアルヤウニ、是ハ国民ノ非常ナ努力ガ要ルンダト云フコトヲ私ハ余程能ク徹底サセナケレバナラヌト思フノデアリマス、凡ソ自律ナキ自由ハ放縦デアル、義務ヲ伴ハザル権利ハ闘争デアリマス、英米等ノ労働者ガ、権利ハ実ニハツキリ主張スルガ、八時間労働ト云ヘバ、其ノ八時間ノ範囲ハ寸刻ノ隙モナク、実ニ能ク義務ヲ果ス、日本国民ガ現在ノ制度ニ於テ、果シテ此ノ権利ヲ本当ニ実行シテ行ク力ガアルカドウカ、自由ヲ放縦ト履違ヘテ、街頭ニ氾濫シテ居ル男女ノ陋態アノ卑猥ナ映昼ヤ小説ノ氾濫、其ノ上只今モ三浦委員ガ質問ニナリマシタヤウニ、二十二条ニ依ツテ我ガ国ノ家族制度モ大キナ変革ガ参リマセウ、私ハ半生ヲ青年教育ニ捧ゲマシタ経験カラ、本当ニ愛スル子孫ノ為ニ、又国家百年ノ為ニ、此ノ基本的人権ヲ実現スル為ニハ、国民ノ実ニ大キナ忍苦ト精進トガ必要ト思フノデアリマス、憲法制定ハ実ニ其ノ出発点デアル、決シテ甘イ空想ヲ持ツテハナラナイ、斯ウ云フコトヲ深ク徹底サセル用意ヲシテ戴キタイト思フノデアリマス
以上ノ如キ私ノ杞憂ヲ解消スル為ニ、現行憲法ノ御告文ニアリマシタ如ク、上諭文ニ於テ諄々トシテ愛児ヲ教ヘルヤウナ親心ヲ御盛リ戴クヤウ御奏請下サルトカ、或ハ此ノ憲法ヲ発布サレル時ニ、政府ガ何等カノ声明書ヲ御出シニナル、サウ云フ御用意ガアルカドウカ、此ノ点ハ国務大臣並ニ文部大臣ニ御伺ヒヲシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 御説ハ洵ニ御尤モナコトデアリマシテ、法文ノ上ダケノ体裁ト致シマシテハ、特ニ第十一条ヲ設ケマシテ、是ハ必ズシモ諸国ニアル事例デハアリマセヌケレドモ、特ニ此ノ権利ノ附与ト相並ンデノ義務ト責任トヲ明確ニ致シマシテ――併シ法文ダケデハ十分ノ効果ノナイコトハ固ヨリデアリマシテ、之ヲ凡ユル方法ヲ以テ強調シテ、責任心ヲ喚起スルコトハ政府トシテ当然注意スベキコトト思フノデアリマス、之ヲ如何ナル方法デスルカハ今後具体化サレテ行クモノト思ヒマスガ、十分考慮シテ居ル次第デゴザイマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、只今御指摘ノ点ハ今後ノ教育ニ於テモ極メテ重要視シナケレバナラナイ一ツノ点デゴザイマス、民主主義ノ政治理想ハ申スマデモナク自由ト秩序トノ程好イ調和ト云フコトニ存シテ居ルノデアリマシテ、一方個人ノ人格ノ完成ヲ図ルト同時ニ、道義観ナリ又社会連帯、社会生活ノ秩序ト云フモノヲ併セテ強調シナケレバナラナイ訳デアリマス、詰リ心ノ欲スル所ニ従ツテ行動スル、是ハ自由ヲ認メルコトデアリ、矩ヲ踰エズト云フノハ詰リ秩序ナリ道義的ノ観念ガソコニ入ツテ来ル訳デアリマス、所デ今日只今御指摘ノヤウニ今マデ軍国主義的ノ秩序ニ痛メ付ケラレテ来マシタ為ニ秩序ヲ一般ニ否定シヨウト云フヤウナ風潮ガ一部ニ支配シテ居リマスコトハ、甚ダ遺憾ト思フ所デアリマス、詰リ秩序自体ハ害悪デハナイ、秩序其ノモノハ貴ブベキモノデアルト云フヤウナコトヲ色々ナ方法デ以テ徹底サセナケレバナラナイ、我々ハ絶対的ニ自由ヲ持ツテ居ルモノデハナイ、善ヲナスノ自由ハ我々ハ大イニ持ツテ居ルガ、悪ヲナスノ自由ハ徹底的ニ是ハ抑圧シナケレバナラナイト云フコトヲ明瞭ニスルノガ、是カラノ教育ノ最モ重キヲ置カナケレバナラナイ所ト信ズルノデアリマス、所デ善悪ノ区別ト云フコトガ今マデ甚ダハツキリシナカツタヤウニ思ヒマスガ、教育勅語ニ於テハハツキリシテ居ル筈デアリマス、遺憾ナガラソレハヤハリ国家ノ手段ノヤウニ段々解サレテ来マシテ、政治的ニ見マシテモ、天賦人権ノ思想ガアルト同様ニ、道徳ノ方面ニ於キマシテモヤハリ人間ガ人間トシテ持ツテ居ル所ノ使命カラ出ル所ノ倫理的ノ原則、先程モ国務相ガ言ハレマシタ自然法ト云フモノガ道徳ニモアルノデアリマス、ソレヲ明瞭ニスルコトガ、一番今後ノ教育ニ於テ大切デハナイカト思ヒマス、具体的ノ対策トシマシテハ遵法精神ノ強調、是ハ従来非常ニ強調サレテ居リマスケレドモ、結局形骸化シテ居リマス、之ヲモツト活カサナケレバナラナイ、本当ニ肉ヲ付ケナケレバナリマセヌ、血ノ通ツテ居ルヤウナ遵法精神ノ強調デナケレバナリマセヌ、ソレカラ道徳其ノモノヲ内面化サレナケレバナリマセヌ、良心ト云フコトヲ強調シナケレバナリマセヌ、是等ノコトヲ或ハ学校教育、或ハ社会教育ニ於キマシテモ、又学校教育ニ於テモ、教科書ノ編纂其ノ他ノ点ニ付キマシテ、大イニ考慮致シタイト存ジテ居ル次第デアリマス、要シマスルノニ詰リ此ノ憲法ノ自由権ノ意味、自由ガ秩序ヲ伴フ、詰リ第十一条ニモアリマスヤウナ権利ノ濫用ト云フコトハ是ハ取リモ直サズ自由ノ濫用デアリマス、濫用ヲ禁止シテ居ルト云フノハ、非常ニ広イ半面ニ於テ自由ヲ義務デ以テ制限シテ居ル、秩序デ以テ制限シテ居ル意味デアリマシテ、是ハ先程御話ニナリマシタヤウニ、現在提出サレテ居ル憲法草案ガ十分道徳的ヂヤナイノヂヤナイカト云フ御懸念ニ対シテハ、自由ノ濫用ヲ防イデ居ルト云フ極メテ簡単ナ「フレーズ」デハアリマスケレドモ、是ハ非常ナ道徳的ノ意味ヲ持ツテ居ルモノデアル、随テ是ハ教育上ニ於テモ強調シナケレバナラナイ点ダト信ジテ居ル次第デアリマス
○左藤委員 只今文部大臣ノ御答弁、是非御実現ヲ戴クヤウニ是ハ又教育ノ問題ノ時ニモウ一度具体的ナコトノ御質問ヲ申上ゲタイト思ヒマス、只今金森国務大臣ノ御答ヘニナリマシタ此ノ憲法発布ヲサレル時ニ政府トシテ国民ニ対シテ丁度現行憲法ノ御告文ノヤウナモノヲ上奏文トシテ御出シニナルカドウカ、或ハ政府カラ声明ヲ御出シニナルカドウカ、サウ云フ御意思ガアルカドウカ、此ノ機会ニ伺ツテ置キマス
○金森国務大臣 何レノ方法ヲ執ルカト云フコトハマダ具体化サレテ居リマセヌガ、何等カノ方法ヲ執ル積リデ居リマス
○左藤委員 只今私ノ申シマシタヤウナ杞憂ヲ払拭シテ憲法ガ真ニ国民指導ノ宝典トナル為ニハ、モウ少シ義務ノ方面、例ヘバ少クトモ納税ノ義務ト、勤労ノ義務ト、斯ウ云フモノヲ此ノ憲法ニ御加ヘニナル御意思ハアリマセヌカドウカ、御伺ヒ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 其ノ点ハ前ニ恐ラクハ一度デナク、ソレヨリ多ク御答ヘヲ致シタト考ヘテ居リマス納税ノコトハソレニ裏ノ規定ガアル、且ツハ又国民ノ間ニ侵潤シタ思想デアルガ故ニ今更必要ガナイ勤労ニ関シテハ第十一条ガ其ノ答ヘヲ相当分量与ヘテ居ルデアラウ、斯ウ御答ヘヲシタ積リデアリマス
○左藤委員 其ノ趣旨ハ此ノ前ニ伺ヒマシタガ、私ノ申上ゲマスノハ、併シソレヲ国民ニ徹底スル為ニ御入レニナル意思ガ政府ニアルカナイカト云フコトヲ申上ゲタノデアリマシテ、重複ノ質問デハナク、政府ノ其ノ決意ヲ願ヒタイ、斯ウ云フノデアリマス、只今ノ御答ヘデ是ハ他日ノ機会ニ致シマス
次ニ此ノ第三章全体ヲ審議スルニ当リマシテ、抑々基本的人権ト云フモノハドウ云フモノカ、其ノ歴史的、或ハ哲学的ナ考察ガ必要デアルト思フノデアリマス、今日マデノ論議ヲ見マシテモ、例ヘバ第一条ナドハ金森国務相ノ実ニ誠実、熱心ナ御答弁ニモ拘ラズ、隔靴掻痒ト申シマスカ、ドウモピツタリ魂ニ響カナイ、先日井上委員カラ天皇様ノコトヲ頼ミマス、斯ウ言フ田舎ノ人々ニ何ト答ヘタラ宜イカ、私ホロリトシタノデアリマスガ、アア云フ御言葉、独リ田舎ノ教育ノ少イ人々ダケデナク、知識階級、指導階級ニモ心ノ繋ガリトカ心ノ憧レトカ云フ言葉、金森サンノ胸中ニ烈々ト持ツテイラツシヤイマス其ノ言葉ガ、本当ニ深イ力ガドウモ霊犀相通ジナイト云フカ、何カ歯痒イモノガ残ツテ居ル、是ハ此ノ憲法ガ主トシテ法理的立場カラ論ゼラレテ、之ニ哲学トカ、倫理学、心理学、宗教学、社会学或ハ歴史学ト云フヤウナ文化科学ノ裏付ガ足ラナイ為メデハナイデセウカ、斯ウ云フ大事ナ憲法ニハ唯単ニ法理ダケデハナクシテ、サウ云フ精神的ナ基礎付ケガ必要デアルト思フノデアリマス、今問題ニナツテ居リマシタ象徴ト云フ概念ニ付キマシテモ、例ヘバ西田哲学ノ絶対無ノ立場トカ、場所ノ論理トカ云フヤウナ考ヘ方、仏教ノ般若皆空、八不中道或ハ自然法爾及び金剛界胎蔵界ノ曼荼羅トカ云フヤウナ思想ヲ以テ説明シタナラバ、余程其ノ徹底ニ有力デアラウト信ズルノデアリマス、基本人権ノ如キモドウシテモ人間学的、社会学的基礎付ケガナケレバ本当ノ解決ハ導カレナイト思フノデアリマス、固ヨリ此ノ委員会ノ目的ガ法律ノ制定デアリ、失礼ナガラ金森国務相ガ主トシテ法律ノ専門家デアラセラレルコトハ分リマスガ、此ノ審議ト相並ンデ、憲法ノ文化科学的闡明、日本ハ将来文化国家トシテ建設スルト云フ意味カラ申シマシテモ、凡ユル文化的ナ基礎付ケニ努力スル必要ヲ御認メニナラナイカドウカ、若シ御共鳴下サルナラバソレニ対シテ政府ハドウ云フヤウナ御用意ヲシテオイデニナルカ、此ノ点ヲ御伺ヒシタイト思フノデアリマス
○金森国務大臣 憲法ノ此ノ条文ノ背景ニナツテ居リマスル幾多ノ学理的ナ研究、思想的ナ研究ト云フモノハ、私ノ知識ガ不十分デアリ、能力ノ欠乏ノ為ニ十分皆様ノ御得心ヲ願フコトヲ得ナイデアラウコトハ洵ニ遺憾至極ニ存ジテ居リマス、併シ学問ノ問題ハ大体ニ於キマシテ中々多数ノ方々ニ一致シタ見解ヲ得テ戴クコトハ困難デアリマシテ、今仰セニナリマシタ西田哲学ノ原理デアルトカ、仏教哲学ノ原理デアルトカ、サウ云フモノガ随所ニ説明ノ役ニ立ツデアラウトハ思ヒマスケレドモ、一タビ出セバ却テソレガ紛糾ノ種トモナラウト思ツテ居リマシテ、私ハ差控ヘテ、此ノ憲法ノ面ニ現ハレタ所ダケヲ御説明申上ゲテ、根本ノ研究ハ皆様方御自身ニ御願ヒシテ居ル訳デアリマス、政府ノ仕事ト致シマシテハサウ云フヤウナ道行ヲ辿ツテ行クコトガ正当デハアルマイカ、固ヨリ根本ニ於キマシテノ研究ハ各々持ツテ居リマス、併シナガラ之ヲ総テノ方ニ自分達ノ信念ヲ強制シ受入レテ戴ク訳ニハ行キマセヌ、此ノ憲法ガ出来マシテ、更ニ学問ノ客体トシテ世上ニ於テ之ヲ熱心ニ研究シテ戴キマシタナラバ、若シ此ノ憲法ノ中ニ盛リ込ンダモノガ正シイ原理ヲ含ンデ居リマスモノデアルナラバ、学問的ニ立派ニ又世ニ明カニナル手段ガアラウト思ヒマスカラ、ソレハ広ク世間ニ期待シテ居ル訳デアリマス（拍手）
○左藤委員 只今ノ国務相ノ御立場ハ洵ニ御尤モデアリマス、今御期待ナサイマシタヤウナ成果ガ挙リマスヤウニ文部省ニ於テ、イヤ政府全体ニ於テ一ツ努力シテ、人生ノ体系トシテ、世界文化ノ指導原理トシテ、此ノ憲法ガ生キマスルヤウニ、凡ユル学問ノ全分野ヲ挙ゲテ全国民ノ本当ノ努力ヲ以テサウ云フ憲法ヲ中心ニシタ深キ人生体系、生活体系、思想体系ノ樹立セラレマスルコトヲ特ニ是ハ文部大臣ニ御願ヒシテ置キマス（拍手）
尚ホ一ツココニ「享有」ト云フ言葉ガゴザイマスガ、我ガ国ノ漢字ト云フモノガアノ形象文字、実ニ沢山ナ数ガアル、漢字ガ国民ニ非常ナ大キナ負担ヲ掛ケテ来タコトハ、米国ノ教育視察団ナドモ指摘シテ居リマス、是ハ国民全体ノ感ジテ居ルコトデアリマスガ、文部省ニ於キマシテハ、国語審議会ニ漢字制限委員会ガ設ケラレマシテ、色々今後使用スベキ漢字ヲ決定セラレマシタ、此ノ委員会デ不採用ト決定シタ文字ガ、此ノ憲法ノ中ニ「享有」ノ「享」ヲ初メトシテ三十字アリマス、又字劃ヲ簡易ニスル為ニ略字ヲ決定シタモノガ、此ノ憲法ニ略字デナシニムヅカシイ形デ戴ツテ居ルモノガ二十三字アリマス、金森国務相ハ此ノ侭之ヲドコマデモ御通シニナル御積リデアリマスカ、実ハ漢字制限委員会ノ委員長山本有三氏ハ、右三十字ノ代リニ使用スベキ漢字又ハ語句ヲ示シテ、制限ノ範囲内デ立派ニ此ノ憲法ノ思想ガ表現出来ルト云フコトヲ主張シテ居ラレルノデアリマスガ、山本氏ハ慥カ貴族院ニ議席ヲ占メテ居ラレルト思ヒマスガ、折角衆議院デ議決シマシタモノヲ、万一貴族院デ修正セラレテ両院協議会トカ云フヤウナ手数ヲ煩ハシマセヌヤウニ、本当ニ気持好ク此ノ憲法ヲ通シマス為ニモ、大体既ニ憲法ノ草案ガ平仮名、口語体ト云フヤウナ劃期的ナ英断ヲセラレタノデアリマスカラ、百尺竿頭ト言フト「竿」ト云フ字ガ制限ニ引掛リマスガ、一歩モ十歩モ進メテ同会ノ希望ニ従ウテ之ヲ御改メニナル御用意ハゴザイマセヌカ、此ノ点ヲ御伺ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 私ハ日本ノ文字ガ如何様ニ限定セラルル方針ニアルカト云フコトニ付キマシテハ、未ダ本当ニ確定シタルモノガアルコトヲ了知致シマセヌ、此ノ憲法ハ大体常識的ニソレ等ノ情勢ヲ察シテ、且又従来法令等ニ於キマシテノ慣用語ヲモ考ヘテ、先ヅ此ノ辺ノ所ガ安定スル場面デアラウト云フ考慮ノ下ニ出来テ居リマス、随テ原則的ニマダ国ノ方針トシテ文字ヲ如何ニ限定スルカト云フコトガ決マラナイ中ニ、原則的ニ御答ヘスルコトハ出来マセヌ、若シモ本当ニ良キ案ガ御出来ニナリマシタナラバ、ソレヲ拝見シタ上ニ考ヘヲ決メタイト存ジテ居リマス
○左藤委員 国家トシテ確定ハシテ居ナイデモ、漢字制限審査委員会デ採用シタ、殊ニ全会一致デ決定シタノデアリマスカラ、本当ニ文化的ナ憲法ト云フ意味カラ申シマシテモ御決断ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、例ヘバ「威嚇」ノ「嚇」「濫用」ノ「濫」彈劾」ノ「劾」「拷問」ノ「拷」是レナドハ憲法ダケデナイカモ知レマセヌガ、将来次代ノ国民ノ負担ヲ重カラシメナイヤウニ、是ハ私ノ希望デアリマスガ、国務大臣ニ是非御英断ヲ願ヒマシテ、私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 大橋喜美君
○大橋委員 此ノ度ノ憲法改正ニ依ツテ、日本ノ国体ト政体ニハ変化ハナイト云フコトデゴザイマスガ、国民ノ生活態度ハ激変スルモノト思ヒマス、今マデノ封建的ナ生活カラ離レナケレバナラナイノデスガソレカト云ツテ私共ハ「ヨーロッパ」風ノ個人主義、今マデノ封建制度下ニ於キマスル家族主義、家族制度、即チ家族ヲ生活単位、生産単位トシテノ生活ヲシテ居リマシタケレドモ、ソレガ明治初年ニ西洋ノ個人主義ガ入ツテ来マシテ、其ノ間ニ非常ナ相剋ヲ来シマシテ、国民生活ガ非常ニ苦シイ色々ノ悲シイ場面ヲ来シテ居リマシテ、私共ハ今度此ノ憲法ニ依リマシテ、個人主義ニナルベキモノカ、家族主義デ行クベキモノカ私ハ個人主義デアツテハイケナイト思ヒマスガ、協同社会主義的ナ社会組織ヲ整備シテ戴キマシテ、家族単位ニ其処ノ主人ガ亡クナリマシテモ、妻ヤ子供ハ大変ニマダ経済的ニ恵マレマシテ、生活ガ出来マシタケレドモ、今度個人主義ニナリマスト、其ノ家庭ハ主人ガ亡クナリマスト、生活ガ出来ナイノデスガ、ドンナ風ナ道ニ行クベキデセウカ、ソコヲ少シ御聴キシタインデス
○金森国務大臣 我々ノ社会生活ニ於キマシテ個人ニ重点ヲ置クカ全体ノ組立デアル所ノ社会其ノモノニ重点ヲ置クカト云フコトハ、相当紛糾シタル意味ヲ持ツテ居リマシテ、又是ト絡ミ合セテ色々ノ弊害ヲ起スヤウナ場合モ同時ニアリマスルノデ、ドウ云フ風ニシテ宜イカト云フコトハ、今後日本国家ヲ建設シテ行ク人々ノ総努力ニ依ツテ決マルモノト思フ訳デアリマス、併シナガラ在来ノ憲法ノ運用ノ結果ヲ見マスルト個性ノ尊重ヲ寧ロ軽ンジテ、他ノ方ニ重点ヲ置イタ傾キガアツタノデアリマスソレヲ個性ノ尊重ト云フ方ニ相当分量移スト云フノモ語弊ガアルカモ知レマセヌガ、個性ノ尊重ト云フコトニ重味ヲ置イタト云フ所ニ此ノ憲法ノ改正ノ主眼点ガアル訳デアリマス、併シナガラ個性ノ尊重ト云フコトハ申スマデモナク集団的ナ生活ノ重大ナルコトヲ毫モ無視スルコトデハナク、寧ロ其ノ方ニ相当重点ヲ置イテ居ルノデアリマシテ、要スルニ此ノ両端ノモノガ如何ニシテ、巧ク融合調和シテ行クカト云フ所ニ狙ヒ所ガアル訳デアリマス、今御示シニナリマシタ問題ハ、相当至難ナル問題デアリマシテ、個性ヲ尊重スル立場モ考ヘナケレバナラヌノデアリマスルガ、此ノ憲法ハ少クトモ第二十三条ニ於キマシテ、社会的ナル立法ニ依リ幾多ノ起リ来ル社会的ナ苦シイ生活ニ対シ集団ノ力デ以テ相当ノ敬意ヲ払ハウト云フ用意ハシテアルノデアリマス
○大橋委員 此ノ度憲法ガ改正サレマスガ、世界デ婦人ノ手モ混ヘテ憲法ガ改正サレマスコトハ此ノ度ガ最初ダト思ヒマスノデ、是非トモ婦人ノ――婦人ト言ヒマシテモ母親ノ権利、即チ子ヲ抱イテ居ル親トシテノ権利ヲココデ宣言シテ欲シイノデゴザイマスケレドモ、此ノ後ノ方ニ犯罪人ヲ刑事ガ捕縛スルヤウナ、犯罪国家ト云フヤウナ感ジヲ受ケル所ノ箇条ガ非常ニ多イノデアリマスケレドモ、母親トシマシテ国ノ内ニ犯罪人ヲ一人デモ作リタクナイ、又捕縛モシタクナイト云フ考ヘカラ、斯ウ云フ箇条ハ実ハ取ツテ戴キマシテ、母親ノ権利ヲ此ノ中ニ主張シテ戴キタイト思フノデスケレドモ、ソレハ出来ナイデセウカ
○金森国務大臣 仰セニナリマシタコトハ、例ヘバ此ノ中ノ犯罪ニ関スル諸般ノ規定ヲ除キタイト云フコトハ私モ御同感デアリマシテ左様ナ風ニ憲法ヲ作ツテ、而モ国家ガ何等ノ顧念スル所ガナイト云フヤウナ世ノ中ニナルコトヲ念願トシテ居リマス、併シナガラ過去ノ経験ニ徴シマシテ、尚ホ斯クノ如キ規定ガ必要デアルト云フコトハ、ドウモ真実ガアルト思ツテ居リマス、サウシテ母性ノ地位ヲハツキリ憲法ニ認メルト云フコトハ固ヨリ一ツノ御主張トシテ十分敬意ヲ払フニ足ルモノト思ヒマス、併シ現実ニ之ニ入レルカ入レナイカト云フコトヲ、憲法ニ書キマスルコトハ、或ル程度マデ何ヲ入レルカト云フコトニ付テハ、種々ノ複雑ナル考慮ヲ要シマス、唯規定ヲ入レマシテ、之ニ中味ガシツカリ入ツテ居ナケレバ、骨組ガナケレバイケナイ、余リニ分リ切ツタコトヲ書クコトモ意味ガ少イノデアリマス、又其ノ内容ガ現在ニ於テ国民ノ全体ニ基盤ヲ持ツテ居ルト云フコトモ必要デアリマス、ソレ等ヲ勘案シテ研究シナケレバナラヌノデアリマス、原案ニハソレヲ入レナカツタ事情ハ左様ナ次第デアリマス
○大橋委員 此ノ六頁ノ十二条ノ所デスガ、「國民は、個人として尊重される。」ト云フヤウニ、色々国民ト云フコトガ書イテアリマスケレドモ、此ノ中ニ未成年者ハ勿論入ツテ居ナイカト思ヒマス、又個人ト言ヒマシテモ、妊娠シテ居リマス母親、又子ヲ抱イテ居リマス母親ハ、普通一般ノ一個人トシテノ社会的ノ活動ガ出来ナイノデスケレドモ、サウ云フ点ハ少シモ考ヘラレテ居ナイ、又将来ノアリマス子供ノ権利、子供ガ文化人トシテ社会的ニ独立出来ルマデ国家ノ力デ教育ヲ受ケタイ、一人前ニシテ貰ヒタイト云フ権利ナドハ何処ニモ主張シテ居ナイ訳デスケレドモ、是ハ親トシテノ権利トシテ主張シタイノデスガ、ソレガ出来マセヌナラバ、民法ノ方ニ母親ノ権利ヲ強ク主張出来ルヤウナ風ニシテ戴キタイト思ヒマスガ、ソコハシテ戴ケルデセウカ
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス御尤モナ御意見デアリマス、政府トシマシテハ種々ナ社会立法ヲ拵ヘマシテ、御説ノヤウナ点ニ付テハ十分ニ考慮シタイト思ヒマス、無論民法ヲ改正スルニ当ツテモ、其ノ点ハ十分考慮致シマス
○大橋委員 是非トモソレヲ御願ヒ致シマス、是デ私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 第十条ニ対スル質疑ヲ終リマシタ、次ニ第十一条ヲ議題ニ供シマス――井伊誠一君
○井伊委員 私ノ御尋ネシタイノハ極ク簡単ナコトデアリマス、此ノ憲法ノ国民ノ保障ト云フ此ノ国民デアリマスガ、其ノ点ニ付テハ国民タルノ要件ヲ法律ノ条文ガ規定ヲ設ケル必要ハアリマセヌカ、現行憲法ノ十八条ニハ規定ガアルノデアリマスガ、是ハモウ必要ガナクナツタ訳デアリマセウカ
○金森国務大臣 是ハ前ニ御質疑ガアリマシテ、可ナリ詳シク事情ヲ分ケテ御説明申上ゲマシタガ、要スルニ現行憲法ニハ之ヲ規定スル必要ガアル、何トナレバ、現行憲法ニハ立法事項ト然ラザルモノガアリマシテ、法律デナクテ、命令デ之ヲ規定シテモ宜イガ如キ感ジガアリマシタカラ、ソコデ法律デ決メルト云フ必要ガアリマスケレドモ、今度ハ憲法ヲ以テ何デモ彼デモ人間ノ基本的ナ事柄ニ関シマスモノハ法律デ決メナケレバナラヌト云フ原理ガ基礎トナツテ居ル随テ態々法律ヲ以テ定メルコトガ無意義ニナツテ来ルト云フコトヲ申上ゲテ居ルノデアリマス
○井伊委員 大変失礼ナコトヲ申シマシタ、御許シヲ願ヒマス
次ニ此ノ憲法ガ「國民に保障する自由及び權利」ト斯ウ書イテアリマスノハ、前条ノ「この憲法が國民に保障する基本的人權」ト云フモノト結局一致スルモノデアリマセウカ、ソレガ一ツト、ソレカラ此ノ憲法ニ「國民に保障する基本的人權」ト斯ウ断ツテアル、其ノ上ニ「すベての基本的人權」ト斯ウナツテ居ルノデハ範囲ガ違フ意味デアリマセウカ、同ジ範囲ノコトヲ唯言ツテ居ルノデアリマセウカ、是ハ十条ノ質問ノヤウニナリマスケレドモ、十一条ニ一寸関連シマスカラ、此ノ点御答ヘ願ヒマス
○金森国務大臣 十条ノ方ニ付テ見マスレバ、初メノ「國民は、すべての基本的人權の享有を妨げられない。」是ハ根本ノ原理デアリマス、之ニ依リマシテ如何ナル基本的人権ガ保障サレルカガ分ツテ来ル訳デアリマシテ、総テノコトガ保障サレルト云フコトガ分ツテ来ル、ソコデ其ノ次ノ所「この憲法が國民に保障する基本的人權」ト云フノハ、総テノ基本的人権、斯ウ云フコトニ当然ナル訳デアリマス、第十一条ニアリマスル「この憲法が國民に保障する自由及び權利」ト云フコトハ、結局第十条ニアリマスルソレト同ジ意味デアリマス
○井伊委員 此ノ表題ハ国民ノ権利、義務デアリマスガ、此ノ所ニハ義務ト云フ文字ハ使ツテナイノデアリマシテ、掲ゲテアル以下数条ノモノノ中ニハ、或ハ「侵してはならない。」「これを保障する」或ハ「權利を有する。」或ハ「絶對にこれを禁ずる。」ト云フヤウナ表現ヲ用ヒテアリマシテ、是ハ各々其ノ文字ニ依ツテ含ミノアルコトトハ思ヒマスガ、一応侵シテハナラナイト云フヤウナ表現デモ、是ハ義務ト云フ方ヲ力強ク申シタノデセウカ、或ハ義務ダケヲ言ツタノデアリマセウカ、是等ハ或ハ第十一条ノ原則ニ依ツテ、「責任を負ふ。」ト云フヤウナ所デ、義務ハ全部裏付ケラレテ居ルト云フ意味デ義務ノ方ノ文字ガナイノデセウカ其ノ点ヲ一ツ伺ヒタイ
○金森国務大臣 表題ノ「權利及び義務」ト云フノハ、可ナリ広イ意味ニ使ツテ居リマシテ、之ヲ各条ニ割当テテ行キマスレバ、或ハ自由ト云フ言葉デ権利ヲ受ケテ居ル場合モアリマスシ、責任ヲ負フト云フ言葉デ義務ヲ受ケテ居ル場合モアリマスシ、ソレヲ保障シナケレバナラナイト云フヤウナ言葉デ、義務ヲ受ケテ居ル場合モアリマシテ、各箇ノ条文ハ各々文字ヲ使フ上ニ色々ノ角度カラ適当ナ字ヲ選ビマシタガ為ニ区々タル文字ニナツテ居リマス、併シ之ヲ総合シテ行ケバ、大体ガ権利及ビ義務ト云フ形ノモノニ集約サレルト云フ意味デアリマシテ、中ヲズツト見テ行キマスト、必ズシモ権利及ビ義務デナイモノモアリマス、第二十三条デ社会立法ヲシナケレバナラナイト云フノハ、政府ノ義務デアルカモ知レマセヌガ、国民ノ権利デモ義務デモナイノデアリマス、併シナガラ何トナク其ノ先ノ方ニ国民ノ権利ラシイモノガ出テ来ルノデアリマス、表題ノ言葉ハ広イ意味ニ御諒解願ヒマス
○井伊委員 私ノ質問ハ是ダケデゴザイマス
○芦田委員長 第十一条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、明日ハ午前十時ヨリ開会致シマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
午後四時十五分散会