委員会 昭和21年7月16日（第14号）
昭和二十一年七月十六日（火曜日）午前十時二十一分開議
出席委員
委員長 芦田 均君
理事 江藤 夏雄君 理事 高橋 泰雄君
理事 廿日出ひろし君 理事 青木 泰助君
理事 吉田 安君 理事 菊地養之輔君
理事 鈴木 義男君 理事 林 平馬君
理事 大島 多藏君
高橋 英吉君 加藤 宗平君
上林山榮吉君 神田 博君
加藤 一雄君 木村 義雄君
北 れい吉君 小島 徹三君
左藤 義詮君 武田 キヨ君
武田信之助君 本田 英作君
三浦寅之助君 山本 正一君
荊木 一久君 鈴木周次郎君
坪川 信三君 原 健三郎君
原 夫次郎君 山田 悟六君
星 一君 森山 ヨネ君
山崎 岩男君 井伊 誠一君
石川金次郎君 及川 規君
加藤シヅエ君 黒田 壽男君
田原 春次君 棚橋 小虎君
西尾 末廣君 松澤 兼人君
森 三樹二君 森戸 辰男君
井上 徳命君 森田 己雄君
大橋 喜美君 越原 はる君
酒井 俊雄君 橋本 二郎君
石黒 武重君 笠井 重治君
久芳庄二郎君 池上 隆祐君
赤澤 正道君 中山 榮一君
笹森 順造君 野坂 參三君
同日委員高橋英吉君及ビ赤澤正道
君辞任ニ付其ノ補欠トシテ大久保
留次郎君及ビ中山榮一君ヲ議長ニ
於テ選定シタ
出席国務大臣
司法大臣 木村篤太郎君
内務大臣 大村 清一君
文部大臣 田中耕太郎君
農林大臣 和田 博雄君
国務大臣 齋藤 隆夫君
国務大臣 植原悦二郎君
国務大臣 金森徳次郎君
出席政府委員
法制局長官 入江 俊郎君
法制局次長 佐藤 達夫君
内閣事務官 中田 政美君
大蔵事務官 加藤 八郎君
司法政務次官 古島 義英君
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本日ノ会議ニ付シタ議案
帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長 会議ヲ開キマス、第三章第十三条ヲ議題ニ供シマス――武田信之助君
○武田（信）委員 此ノ第十三条ハ総テ国民ハ法ノ下ニ平等デアル、ソレカラ社会的ノ身分又ハ門地ニ依リ、政治的ニモ経済的ニモ社会的ニモ差別ヲ受ケナイ、而モ華族其ノ他ノ貴族ノ制度ハ之ヲ認メナイ、斯ウ云フコトニナツテ居リマス、先般ノ委員会ニ於キマシテ国務相ハ此ノ貴族ト云フモノノ中ニハ皇族ハ含ンデ居ラナイ、斯ウ云フ御答弁ガアツタヤウニ記憶ヲ致シテ居ルノデアリマス、然リトスルナラバ、皇族ニ関スル御取扱ヒハ如何ナル方法ヲ以テ之ヲヤラレルカ、此ノ点ヲ御尋ネ申上ゲタイノデアリマス
○金森国務大臣 原則ト致シマシテハ、第十三条ノ第一項ハ日本国民ノ全部ニ適用ガアルモノト思ツテ居リマス、併シナガラ憲法ノ第一章ニ掲ゲテアリマスル諸般ノ規定、即チ天皇ハ国ノ象徴デアルト云フ意味ノ規定ニ於テ、ソレカラ又皇室典範ニ依リマシテ、其ノ定ムル所ニ従ツテ皇位ノ継承ヲ行ハセラルル方カ、又皇位ヲ継承スル権能ヲ御持チニナル方ト密接ナ関係ヲ御持チニナル方、サウ云フ方々ハ固リ国ノ象徴ト云フコトト関連ヲ致シマシテ、此ノ憲法自身ノ認メル所ニ依ツテ、他ノ者ト異ナル尊キ地位ヲ考ヘテ宜カラウト思ヒマス、其ノ方面、第十三条ノ認ムル方面ト、第一章ノ諸般ノ点及ビ天皇ノ御位ヲ御継ギニナルコト及ビ是ト密接不可分デアルト云フコトノ関係ヲ考ヘマシテ、皇室典範等ニ於テ適切妥当ナル規定ヲ設ケル、斯ウ云フコトニナル、結果ニ於キマシテ、第十三条ノ原則ガソレダケノ変更的適用ヲ受ケルト云フコトニナルト思ヒマス、実情ハソンナニヒドク変ルコトハアリマセヌガ、唯理諭ヲ言ヘバサウ云フコトニナリマス
○武田（信）委員 此ノ第二条ニ依リマシテ皇位ノ継承ノ問題ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル、ソレカラ第五条ニ依リマシテ、皇室典範ノ定ムル所ニ依リ摂政ヲ置ク、斯ウ云フコトガアリマスケレドモ、ドウモ私ハ此ノ憲法ヲ通シテ考ヘマシテ、皇族ト云フ立場ノ方々ニ対シマシテハ、特別ノ考慮ヲ払フベキ必要ガアルト、斯ウ考ヘテ居リマシタガ、何処ヲ見マシテモ、サウ云フヤウナ根本的ナ基本的ナ条項ガ此ノ憲法ノ中ニ見当ラナイノデアリマス、ソコデモウ少シ其ノ点ヲ明確ニスル必要ガアルノデハナイカ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ居リマシタ、尚ホ此ノ皇室ト云フ言葉ガ皇室典範ト云フ文字ノ所、或ハ皇室財産ト云フヤウナ所デ、皇室ト云フ文字ガ二、三箇所ニ現ハレテ居リマスガ、其ノ皇室ト云フ其ノ中ニハ、天皇ヲ初メトシマシテ皇族方ヲ含ム意味デ皇室ト云フ事柄ガ解釈サレマスルカドウカ其ノ点ヲ御尋ネ申上ゲタイノデアリマス
○金森国務大臣 御尋ネニナリマシタヤウナ御疑問ハ洵ニ御尤モト思フノデアリマス、併シ日本ノ諸般ノ制度ハ、今日全然新タニ出来上ルト云フノデハアリマセヌ、従来ノ流レニ従ツテ種々ナル制度ガアリ、此ノ憲法ニ依ツテ相当ソレガ大幅ニ改正セラルルト云フコトニナリマスルノデ、ソレヲ含ミニ致シマシテ、第二条、第五条等ガアリマスレバ、皇族等ニ関シマスル制度ハ大凡ノ直感的ナ判断ハ出来ルノデアリマシテ、具体的ニハ今後定マリマスル皇室典範ガ内容ヲ明カニスルト云フ趣旨デアリマシテ、本当ヲ言ヘバ皇室典範ノ腹案ヲ御覧ニ入レルコトガ正シイ訳デアリマスルケレドモ、目下一生懸命ニ練ツテ居リマシテ、実際事頗ル重大ナコトデアリマスルガ故ニ、軽々シク本当ノ臆断ヲ皆様方ノ前ニ申上ゲルノハ不適当デアリマスカラ、今ハ法制調査会ヲ開イテ、其ノ方デ研究ヲシテ居ル訳デアリマス、皇室ト申シマスル言葉ハ、ソレハ今マデ一定シテ居ル意味ガアリマシテ、仰セノヤウニ天皇ト其ノ天皇ノ御一族デアル皇族ヲ含ムト云フ趣旨ノコトハ、日本ノ一般ノ言葉トシテ恐ラク確定シテ疑ヒノナイモノト思ツテ居リマス
○武田（信）委員 サウシマスト、此ノ第二条ト第五条トヲ相関的ニ考ヘテ、此ノ中ニ皇族ニ関スル御取扱ノ規定ガ含マレテ居ル、之ヲ基準ニシテ皇室典範ニ依ツテソレヲ明確ニスル、斯ウ云フ風ニ解釈シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣 其ノ通リデス
○武田（信）委員 サウ致シマスト重ネテ御尋ネ致シマスガ、皇族方ニ対スル敬称ト申シマスカ、称呼ト申シマスカ、色々アリマスガ、ソレ等ノ問題ハ何レ皇室典範ニ依ツテ御決メニナルコトト考ヘテ居リマスガ、現在行ハレテ居リマスヤウナ敬称ヲ用ヒルト云フコトニナリマスルカ、如何デスカ
○金森国務大臣 只今ノ所デハ現在ノ形ヲ変ヘル考ヘハ持ツテ居リマセヌ
○武田（信）委員 私ノ質問ハ是デ終リマシタ
○山田（悟）委員 第十三条ニ於キマシテハ、我々ハ性的凡ユル角度ヲ通ジマシテ、差別的待遇ヲ受ケナイコトノ此ノ憲法ノ趣旨ヲ読ンデ、非常ニ欣快ニ存ズルノデアリマスガ、唯ココニ「社會的身分又は門地」ト云フ事柄ガアリマス、大体社会的身分ト云フヤウナ事柄ハ概念的ニハ色々解釈ガアルケレドモ、重役関係デアルトカ、或ハ勤労関係デアルトカ云フヤウニ簡単ニ考ヘテ、門地ハ即チ家門、地位ト云フ風ニ概念的ニ考ヘマスガ、第一番ニ此ノ社会的身分並ニ門地ノ事柄ニ対シテ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 社会的身分ト申シマスル言葉ハ、身分ト云フ言葉ニ依ツテ、一時的ナ姿デハナク、稍々永続性ヲ持ツテ居ル地位ト云フコトヲ予想致シテ居リマス、社会的ト申シマスルノハ、言葉ノ示スガ如ク世ノ中ノ組立ノ上ニ於ケル意味デアリマシテ、之ヲ総合シテ見マスレバ、世ノ中ノ組立ノ上ニ於キマシテ、恰モ其ノ人ニ固着シタルガ如キ姿ヲ持ツ、其ノ人ノ努力ヲ以チマシテモ、容易ニソレヲ払ヒ退ケルコトノ出来ナイヤウナ地位ガアリ得ルノデアリマス、サウ云フモノヲ社会的身分ト言ツテ居リマス、門地ノ方ハ今御説ニアリマシタヤウニ、血統関係、家柄関係ト云フヤウナ方面カラ来ル所ノ特殊ナル位地ヲ指シテ言ツテ居リマス、具体的ノ場合ハ相当考ヘル余地モアリマセウケレドモ、言葉ノ根本ニ於テハ左様ニ考ヘテ居リマス
○山田（悟）委員 次ニ「華族その他の貴族」是ガ政府当局ノ答弁、発表等ニ依リマスト、華族ハ分ツテ居リマスガ、「その他の貴族」ガ朝鮮王族ト云フヤウナ風ニ発表セラレテ居リマスガ、其ノ他ニ対シテモ「その他の貴族」ニ含マレテ居ルモノガアルカドウカ「その他の貴族」ノ範囲ニ付テ御説明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 第二項ノ規定ハ現在ヲ考ヘテ居ルノデハアリマセヌ、一切合財ココニアルヤウナ制度ハ今後ニ亘ツテアラシメナイト云フ訳デアリマス、随テドウ云フ貴族ヲ考ヘテモソレハイケナイノダ斯ウ云フ訳デアリマスルカラ、現在ノ貴族ト言ハルベキ人ガ何デアルカト云フコトヲ決メルダケデハ足リマセヌデ、抽象的ニ今後来ルベキ如何ナル名称ヲ以テシテモ、貴族ト考ヘラレルモノハ置クコトガ出来ナイノダ、規定自体ノ建前トシテハソレデアリマス、ソコデ現在ソレデハ何ガアルカト云フコトニナリマスルト、今御話ニナリマシタヤウニ、日本ノ内地関係カラ起ツテ居リマスルモノハ、今日ノ所華族シカナイト思ツテ居リマス、朝鮮ノ関係ニ於キマシテハ、所謂朝鮮貴族、又今御話ニナリマシタヤウナ貴族ガアル訳デアリマス
○山田（悟）委員 此ノ華族並ニ貴族ノ制度ヲ認メナイト云フコトヲ通ジマシテ、所謂此ノ憲法ニ対シテ、社会的ニ相当ノ刺戟ヲ与ヘテ居ルコトハ御承知ノ通リデアリマスガ、此ノ華族制度ヲ認メナイト云フヤウナ事柄ニ付テ、我々ハ此ノ現代ノ一代限リニ於ケル華族以外ニ、従来華族ノ地位ニアツタトカ、或ハ貴族ノ地位ニアツタトカ云フヤウナ方々ガ、例ヘバ実際ニ於テハ殿様デアツタモノガ、御前デアルトカ、或ハ殿様デアルトカ云フヤウナ言動ヲ家庭等ニ対シテ多分ニ用ヒテ居ル、我々自体ト致シテハ斯ウ云ツタヤウナ言動自体マデモ制約スル事柄ガ適当デアルカ、或ハ此ノ華族ト云一面カラ考ヘマスレバ、国家ニ対シテ家門家柄等ニ於キマシテ、相当ニ貢献シタ部面モアリマス関係カラ、サウ云ツタ小サイ部面ニ対シテハ、我々ハ我レ関セズデ居ツテ宜シイモノカドウカ、之ニ対シテ政府ノ御所見ヲ承リタイト存ジマス
○金森国務大臣 此ノ憲法ハ根本ノ原則ガ、所謂民主主義政治ニ徹底ヲスルト云フ建前デアリマス、随テ各個ノ人格ヲ尊重スルト云フコトヲ眼目トシテ居ル訳デアリマス、従来ノ貴族ニ関シマスル制度ハ或ル特定ノ人ガ正当ナル理由ニ依ツテ、陛下カラ優遇ヲ受ケルト云フコトガアリマシテモ、其ノ影響ガ子々孫々ニ及ブトカ、又ハ其ノ影響ガ家族ノコト全体ニ及ブトカ云フコトニナリマシテ、其ノ考ヘ方ガ絶対ニ間違フト云フコトハ、私ハ断言シ得マセヌケレドモ、ソレハ古代人ノ目ニ依ツテ正シイト批判サレタデアラウケレドモ、現代人ノ目ニ依ツテハ必ズシモ正シイト批判サレテ居ナイト思ヒマス、値打アル人ヲ値打アル如ク尊重スルコトハ十分理由ガアリマスケレドモ、名目上ノ連絡ニ依ツテ一種ノ漠然タル過去ノ考ヘヲ踏襲致シマスルコトハ、目覚メタル国民ガ大イニ反省シナケレバナラヌ所ト思ヒマス、ソレガ此ノ改正ノ原理トナツテ居ル訳デアリマス、併シナガラ国法ノ範囲ヲ越エマシテ、社会的ニ其ノ家柄ヲ如何ニ扱ツテ行クカト云フコトハ、是ハ法ノ前ニ平等デアルト云フ原則ト無関係デアリマシテ、世ノ中ノ人ガ適当ニ自己ノ信念ニ依ツテ行動セラレテ然ルベキモノト思フノデアリマス、併シ大キク制度ノ骨組トシテハ、十三条ハ、其ノ考ヘ方ニ補正ヲ加ヘル趣旨ヲ明カニシテ居ル次第デアリマス
○山田（悟）委員 我々ハ華族制度ト云フモノヲ認メナイト云フ事柄ノ根本原則ニ対シテ、賛意ヲ表スルモノデアリマス、更ニ今マデ受ケタ者ノ一代ニ限ツテ、ソレヲ存続サセ得ルト云フ原案ニ対シテ、世ノ中モ又我々モ、非常ニ考ヘテ居ル所デアリマス、其ノ一面ニハ所謂世襲財産ノ関係ト云フ事柄ガ如何ニ相成ルカ、我々ガ之ヲ分別スル大キナル影響ガアルト存ジマシテ、之ニ対スル取扱方法、御処分ノ方法ニ対シテ一寸御伺ヒ致シタイト存ジマス
○金森国務大臣 世襲財産ニ付キマシテハ、私ハ実ハマダ本当ノ研究ヲ致シテ居リマセヌ、併シ此ノ憲法ノ建前カラ申シマシテ、ソレニ依ツテ財産法上ノ特別ナル扱ヒヲ、他ノ一般国民ト異ツテ決メルコトハ出来ナイモノト思ツテ居リマス、詰リ法律上平等、広イ意味デハ政治的、経済的又ハ社会的関係ノ平等ト云フコトニナリマスガ故ニ、華族ト云フコトガナクナレバ、何トモ仕様ガナイト云フコトニナル訳デアリマス
○山田（悟）委員 十三条ノ事柄ヲ廻ツテ、或ハ学校工場等ニ於ケル従来ノ差別待遇ガ改善セラレ、ソレガ又行過ギデ、学校ニ於ケル敬礼ノ度合ト云フ事柄ガ非常ニ弛緩ヲ致シタ、或ハ工場等ニ対シテモ所謂礼儀其ノ他ノ事柄モ非常ニ弛緩ヲ致シ、社会現象モ色々ナ事柄ガ出来タト云フコトデアル、我々ガ「アメリカ」ニ非常ニ学ンデ居ルコトハ、「アフター・ユー」御先ヘト云フ事柄ガ、之ニ非常ニ関連ヲ致シテ居ル問題デアリマスガ、此ノ問題ニ対スル――厚生大臣ハ居リマセヌガ、文部当局ノ此ノ十三条ニ対シマスル関連事項ニ対スル御所見ヲ、一寸文部大臣カラ承リタイト存ジマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、只今ノ御質問ノ点ハ是ハ道徳問題ニナツテ参リマスノデ、此ノ議題ニナツテ居リマス憲法ノ、詰リ人間ガ凡ユル身分的意味ニ於キマシテ、又人種其ノ他ノ関係ニ於テ平等ニ取扱ハナケレバナラナイト云フ原則ハ、人間ト人間トノ関係、例ヘバ親子トカ或ハ兄弟、先輩、後輩、師弟等ノ関係ヲ否定スルモノデハ決シテナイノデアリマシテ、サウ云フ方面ノ平等ナリ、及ビ秩序ノ原則ト云フモノハ、今後益々維持サレナケレバナラナラナイト思フノデアリマス、徒ラニ平等観念等ヲ主張シテ、サウシテ人倫ノ大本ヲ否定スル、又只今御指摘ニナリマシタヤウニ、欧米等ニ行ハレテ居ル社会的ノ「プライド」ト云フヤウナコトマデ否定スルコトニナリマスナラバ、是ハ平等観念ノ履違ヘト存ジテ居ルノデアリマシテ、サウ云フ意味ニ於キマシテ、今後ノ教育モ十分注意シテヤツテ行キタイト思ツテ居ル次第デアリマス
○山田（悟）委員 今一ツ最後ニ、此ノ「榮典の授與は、いかなる特權も伴はない。」是ハソレヨリ、栄典ヲ授与スル時ニハ如何ナル特権ヲ伴ハセナイト云フ非常ニ強イモノデアリマスカ、ソレト今一ツ、ヤハリ将来ノ国会ニ対スル勲章トカ、サウ云ツタヤウナ場合ニ対シテハ、物質上ノ例ヘバ国家ニ非常ニ貢献ヲシタ、特権ヲ伴ハセナイケレドモ、所謂金銭的ナモノハ、色々ノ勲章ト云フヤウナ場合ニ世界ノ通例ガ現在与ヘテ居ル、此特権ノ中ニ、此ノ憲法ニ於テハサウ云ツタヤウナ問題ガ含ンデ居ルノデスカ居ナイノデスカ、此ノ点ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 栄典ノ授与ニハ将来ノ制度トシテ如何ナル特権ヲモ伴ハセナイト云フ気持ヲ持ツテ此ノ文字ハ出来テ居リマス、ソレカラ国家ニ功労ガアル者ニ対シマシテ物質的ナル賞与ヲ与フルト云フコトハ、是ハ栄典ト離レテ実行可能ノモノト思フノデアリマシテ国家的ナ非常ニ精神的ナ栄典ト云フモノト不可分的ニ組合ハシテ与フルコトハシナイ、斯ウ云フコトデアリマス
○山田（悟）委員 私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 田原春次君
○田原委員 第十三条ニ付テ御尋ネ致シマス、此ノ法ノ下ニ平等ト云フ意味ハドウ云フ意味デスカ、是ト第二十三条ニ例ヘバ法律ト云フ言葉ガ出テ居リマスガ、ソレトノ関係ハドウ云フコトデスカ
○金森国務大臣 此ノ法ト他ノ場合ノ法律ト言フ言葉ガ、実際ニ於テ趣旨ヲ異ニシテ居ル訳デハアリマセヌケレドモ、法律ト書イテアリマスルノハ、形式的ナル普通ノ世間デ申シマスル法律、即チ議会ノ協賛ヲ経テ出来ル所ノ法律ヲ指シテ居ル訳デアリマス、ソレカラ此ノ十二条デ言ツテ居リマスル法ノモツト資質的ニ之ヲ考ヘマシテ広イ意味ノ法、即チ不文法モ含ンデ居ル法デアリマシテ、慣習デアレ、其ノ外ドウ云フモノガ考ヘラレルカハ学説ノ分ルル所デアリマスガ、苟クモ人間世界ノ法律学者ガ扱ヒマスルヤウナ法ト云フモノヲ全部含メマシテ、サウ云フ法ノ上ノ手続ト云フ意味デアリマス、モツト具体的ニ申シマスレバ、命令デ以テモ差別ヲ破ツテハイケナイト云フコトマデ含ンデ居リマス
○田原委員 サウスルト慣習モ含マレテ居ルト云フノデアリマスカ
○金森国務大臣 慣習法的価値ヲ持ツテ居ル慣習、詰リ世間デ大抵慣習ト言ツテ、法律的ナ場面デ使ヒマスレバ慣習法デアリマスガ、其ノ慣習法モ含ンデ居リマス
○田原委員 次ノ人種ノ意味如何、ソレカラ人種ト民族トノ関係ハドウ云フコトデアルカ
○金森国務大臣 専門的ナ的確ナ御答ヘハ出来マセヌケレドモ、人種ト言ヘバ自ラ何カ学問的ニ決マツテ居リマシテ、血族其ノ他ノ関係ニ依リマシテ一定ノ特質ヲ持ツテ居ルモノガ人種トシテ区別サレルト考ヘマス、一ツノ国ノ中ニ、相異ナル血統其ノ他ノ関係ニ依ツテ学問上人種トシテ別ケ得ルモノガアレバ之ニ属スルト云フ趣旨デアリマス
○田原委員 社会的身分ト門地ノ問題デアリマス、例ヘバ士族ト云フノハドツチニ入ツテ居ルノデアリマスカ、是ト条文カラ来ル扱ヒ方ハドウ云フノデアリマスカ
○金森国務大臣 余リ深ク考ヘテ居リマセヌガ、強ヒテ言ヘバ社会的身分ト云フコトニナラウト思ヒマス
○田原委員 十三条前段ノ意味ハ恐ラク従来ノ政府側ノ答弁カラ総合シマスルニ、社会的身分又ハ門地ニ依ル差別ヲ受ケナイト云フ場合ハ社会的優位ナ身分若シクハ優位ナル門地、例ヘバ前ニ於テハ士族、或ハ後ニ於テハ華族ト云ツタヤウナ意味ガ比較的濃厚ニ答弁ノ中ニ出テ居ルト思ヒマス、今私ガココデ御尋ネシタイノハ、社会的ニ低イ身分ト見ラレテ居ル一部ノ日本人ニ付テデアリマス、ソレハ法律ノ下ニ於テハ平等デアリ、人種トシテモ同等ニ取扱ハレテ居ルカノ如クニ学問上ハサウ見ラレテ居リマスガ、実際生活ノ場面ニ於キマシテ、世ニ所謂被圧迫部落、具体的ニハ全国水平社ノ三百万ノ同時ニ大衆ノ問題デアリマス、過去数百年間ノ因襲、偏見等ニ依リマシテ、殆ド同一人種ト見ラレズ又法律慣習ノ下ニ於テハ平等ノ待遇ヲ受ケズ、甚ダシク虐待ノ中ニ今日マデ来テ居ルノデアリマス、戦争中ニ於キマシテハ、一億火ノ玉トナリ、打ツテ一丸トナルト云フ「スローガン」ハアリマシタガ其ノ当時ト雖モ尚ホ全国ノ工場ノ中ニ於キマシテ、或ハ鉱山ニ於テ頻々トシテ差別事件ガ起ツタノデアリマス、甚ダシイノハ戦死シマシタ英霊ノ合同葬式ニ於キマシテモ、所謂部落出身ノ者ト一般ノ者ト別々ニ葬式ヲスルト云フヤウナ例ガ頻々トシテ起ツタノデアリマシテ、恐ラク第十三条ノ規定ヲ文字通リ解釈シマシタ時ニ、左様ナ差別ガアツテハナラナイト思ヒマスガ、差別ガ尚ホ存シタ場合ニ、ドウ云フ一体此ノ憲法カラ来ル制裁ナリ法律的処置ヲ考慮サレテ居ルカ、之ニ対シテ明確ナ御解釈ヲ御願ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 現実ノ此ノ第十三条ノ作用ハ、特ニ今御指摘ニナリマシタヤウナ場面ニ於テ、最モ有効ナル働キヲスルモノデアラウト考ヘテ居リマス、実際日本デ人種、信条、性別等ニ於キマシテノ色々ノ区別ノアル部分モ多少アリマスルケレドモ、本当ニ注意スベキ区分ガ行ハレテ居リマスル面ハ今御話ニナリマシタヤウナ方面ニアルノデアツテ、此ノ規定ガ役立ツ主眼点ガ其処ニ置カレテ居ルト私ハ信ジテ居リマス、サウ云フヤウナ場面ニ諸般ノ差別ガ行ハレマス場合ニハ、国法ハ固ヨリ眠ツテ居ツテハイケナイノデアリマシテ是等ニ対シテ十分ノ措置ヲ講ジテ斯様ナコトノ起ラナイヤウニスベキ旨ノ原則ガ第十三条ニ掲ゲラレテ居ルノデアリマス、具体的ノ方法ハ、又個々ノ他ノ法規ヲ利用シテ具体的ニ実行セラルベキモノト思フノデアリマス（拍手）
○田原委員 次ニ司法大臣ニ御尋ネシタイノデアリマス、差別ヲ受ケナイト云フ解釈ノ上デ、一ツノ裁判所ノ事件ガ数年前ニアツタノデアリマシテ、之ヲ世ニ高松事件ト申シマス、高松地方裁判所ノ検事局ニ被圧迫部落ニ対スル侮辱事件ヲ提訴シマシタ時ニ、部落民ヲ部落民ト言フノガ何ガ差別ニナルカト云フ検事ノ言ヒ方カラ、偶々ソレガ全国ニ拡ガリマシテ、遂ニ此問題ハ全国ノ水平社同人ガ、司法省ニ全国カラ歩イテ陳情ニ行クト云フ大事件ニナツタ事ガ数年前ニアルノデアリマス、私ガ特ニ御尋ネシタイノハ、「差別を受けない。」ト書イテアルケレドモ、タトヘバ朝鮮人ヲ朝鮮人ト言フノガナゼ差別ニナルカ、斯ウ云フ言ヒ方「ユダヤ人」ヲ「ユダヤ人」ト言フノガナゼ差別ニナルカト云フヤウナ言ヒ方ト同様ノ言ヒ方ヲ一部ノ少数同胞ニ与ヘラレマシタ場合ソレ等ノ人ノ受ケル圧迫感、屈辱感ト云フモノハ、其ノ立場ニナイ者ニハ到底分ラナイ位深刻ナモノデアリマス、ココニ特ニ新シク憲法ヲ作ラレル際ニ於キマシテ、是ガ人間ノ権利ヲ最モ尊重スル建前カラノ法律デアリマスガ故ニ、法律的ナ斯様ナ差別事件ノ起ツタ場合ニ如何ナル処置ヲスル積リデ居ラレルカ、司法当局ノ御用意ヲ聴イテ置キタイト思ヒマス
○木村国務大臣 御答ヘ致シマス、只今田原委員カラノ御説、私ハ至極御尤モダト思ヒマス、全国数百万ノ水平部落民ニ対スル従来ノ日本人ノ考ヘ方、取扱ヒ方、之ヲ見マスルト、私モ涙ナクシテ見テ居レナイノデアリマス、全ク同情ニ堪ヘマセヌ、先年高松裁判所ニ於ケル検事局ノ左様ナ事柄ハ、私モ耳ニシテ居リマシタ、其ノ当時大イニ私モ是ハイカヌト考ヘタ一人デアリマス、裁判所ニ於テ若イ者ガ左様ナ考ヘ方ヲシテ居ツタト云フ事実ニ対シテ、私ハ司法大臣トシテ洵ニ申訳ナイト考ヘテ居リマス、将来ハ左様ナコトノナイヤウニ、十分ノ取扱ヲシタイト思ヒマス、而シテ左様ナ場合ニ如何ナル処置ヲ施スカト云フコトデアリマスルガ、私ハ左様ナ取扱ヲシ、又部落民ヲ侮辱スルヤウナ言動ガアツタ場合ニハ、只今ノ刑法デモ侮辱罪トシテ犯罪ヲ講成スルモノト考ヘテ居リマス、将来此ノ部落民ニ対スル平等ノ取扱、差別ナイ日本ノ同胞トシテ取扱フト云フコトニ付テハ、我々政府当局者トシテハ、将来十二分ノ処置ヲ執リタイト思ツテ居リマス
○田原委員 次ニ文部大臣ニ御尋ネヲシタイノデアリマスガ、同様ノ差別ハ教育関係ニ於テモ頻繁トシテ起ツテ居ルノデアリマス、本条ニ於テハ政治的、経済的、又ハ社会的関係ニ於テ差別ヲ受ケナイト云フノデアリマスガ、一番有名ナモノトシテハ島崎藤村氏ノ「破戒」ト云フ小説ノ中ニ現ハレテ居リマス、小学校ニ教職ヲ奉ジテ居リマシタガ、其ノ出身ガ一部少数部落デアルガ故ニ同僚カラ迫害ヲサレ或ハ其ノ実力ガアリ当然時期モ来テ居ルニモ拘ラズ教頭ニモ校長ニモナレナイ、斯ウ云フヤウナコトハ代表的ニハ島崎氏ノ小説ニ現ハレテ居リマスガ、全国ニ頻々トシテ起ツテ居リマス、国民学校ヲ卒業シテ身ヲ教職ニ委ネタイト云フ理想ニ燃エル多クノ子供達ガ師範学校ニ入ツテ数年シテ教職ニ就ク間モナク其ノ自分ノ家系ト申シマスカ置カレテ居ル社会的環境ノ故ニ甚シク失望シ、サウシテ矯激ナ思想ニモ走ルト云フ例ハ非常ニ多イノデアリマス、此ノ際文部大臣トシテ左様ナ社会的身分又ハ門地ニ依リ不遇ナ地位ニアル者ガ教職ニ就イテ居リマシテモ、十分実力ヲ発揮シ得ズシテ居ル、サウ云フ者ガ沢山居リマスルガ、固ヨリ表面ハ平等ニ取扱フト云フコトヲ言ハレルニ違ヒアリマセヌ、併シ寧ロ実質的ニ其ノ平等ニ扱フト云フ意味ヲ行政的措置ノ上ニ於テモ積極的ニ現ハセルヤウニシテ、折角教職ニ就イテ居ル多クノ有為ノ人々ヲ失望サセナイヤウニシナケレバナラヌト思ヒマスガ、之ニ対スル御見解ヲ伺ヒマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、只今ノ御意見ハ全ク御同感デゴザイマシテ、従来サウ云フ事例ガドノ程度ニアツタカト云フヤウナコトハ詳シクハ存ジナイノデアリマスガ、只今ノ御話デ似テ確カニアルト云フコトデゴザイマス、是ハ特ニ将来新憲法ノ精神カラ見テ、斯ウ云フ事例ハ徹底的ニ芟除致シマシテ、本当ノ実力本位デ平等ノ取扱ヲシナケレバナラナイト云フコトヲ努力致シタイト考ヘテ居リマス、尚ホ従来ハ其ノ問題バカリデハアリマセズ、例ヘバ信条ニ依ル区別ト云フヤウナコトモ「キリスト」教方面ノ信仰ヲ持ツテ居ルヤウナ人々ガヤハリ偏見ヲ以テ見ラレテ居ルト云フヤウナ弊モアリマシテ、サウ云フ問題ト合セテ徹底的ニ此ノ憲法ノ精神ヲ敷行シタイト存ジテ居リマス
○田原委員 今マデノ金森、木村、田中三大臣ノ御見解ニ依リマシテ此ノ第十三条ノ目標トスル所ハ、社会的ニ、或ハ経済的ニ低イ地位ニアルト言ハレテ居ツタ特ニ全国水平社ノ三百万ノ人々ニ対シマシテ、全ク新シイ方針カラ出発シテ居ルモノデアルト解釈致シマシテ文字通リソレガ実際政治ノ上ニ於テ経済上、社会上ニ於テ、全ク平等ニ無差別ニ運営サレルコトヲ希望シテ私ノ質問ヲ終リタイト思ヒマス
○芦田委員長 上林山榮吉君
○上林山委員 私ハ侵略戦争ニ従事シタ者ニ対スル勲章ヲ此ノ際撤廃スベキデアル、斯ウ云フ考ヘヲ持ツテ居ルノデアリマスルガ、此ノ十三条ニ現ハレテ居リマス所ノ勲章ノ中ニハ、此ノ侵略戦争ト目サレル戦争ニ従事シタ者ノ勲章モ当分保持シテ居テ宜シイト云フ意味ノコトヲ含ンデ居リマスカ、ドウデアリマセウカ、之ヲ御伺ヒシタイノデアリマス
○金森国務大臣 此ノ憲法ノ範囲ニ於キマシテハ、具体的ノ場合ヲ規定シテ居リマセヌ、私ノ所管シテ居ル権能ノ範囲ニ於キマシテノ説明ノ限界ヲ越エテ居ルヤウニ思ヒマスルカラ、私カラハ御答弁ヲ差控ヘマシテ、御説ノアル所ヲ基ニシテ、其ノ権能ノアル大臣カラ答弁ヲシテ貰フヤウニシタイト思ヒマス
○上林山委員 其ノ点ハ総理大臣カラ御答弁願ヒマスルガ、然ラバ満洲事変、支那事変、大東亜戦争之ニ関スル勲章ノ保持者ヲ、此ノ中ニ含ンデ居ルト解シテ宜シイデアリマセウカ
○金森国務大臣 此ノ中ニ含ンデ居ルト申シマスルノハ、十三条ノ三項ニ勲章ノ授与ハ如何ナル特権モ伴ハナイト云フ、此ノ中ニ含ンデ居ルカト云フ御尋ネデアリマスレバ、固ヨリ其ノ言葉通リサウ云フ人達ニ与ヘタ勲章モ、如何ナル特権モ伴ハナイ、サウ云フコトニナルト思ヒマス
○上林山委員 勿論此ノ戦争ニ従事シタ人モ、総テガ侵略的意図ヲ以テ従事シタ人デナイコトハ能ク承知シテ居ルノデアリマスルガ、私ハ文化的勲章或ハ平和的、国家的功労者ニ対スル所ノ勲章ト云フモノハ、過去ニ於テ或ハ将来ニ於テ、之ヲ大イニ表彰シテ宜イト思フモノデアリマスルケレドモ、此ノ平和的或ハ民主的憲法ヲ実際ノ上ニ明カニスル上ニ於テ、先程ノ勲章、殊ニ侵略戦争ニ関スル勲章ヲ之ニ含マナイコトニシテ戴キタイ、斯ウ云フ考ヘヲ持ツテ居ルノデアリマスカラ、此ノ点ヲ能ク御取次ギ願ヒタイト考ヘル次第デアリマス
次ニ考ヘマスコトハ、是等ニ従事シタ所ノ復員軍人――軍国主義者ナラザル復員軍人、斯ウシタ者ガ職業上ニ於テ機会ノ均等ヲ得テ居ナイ、或ハ就学上ニ於テ機会ノ均等ヲ得テ居ナイ、斯ウ云フコトヲ私共ハ如実ニ見テ居ルノデアリマスルガ、勿論法ノ下ニ平等デアル、或ハ差別ヲ受ケナイト云フコトニ規定シテアルノデアリマスガ余リニモ憲法ノ精神ヲ逸脱シタ制度ガ多過ギルノデハナイカト考ヘマスルガ、之ニ対スル金森国務相或ハ文部大臣、或ハ厚生大臣ガ居ラレルナラバ厚生大臣等ノ方面カラ、職業上ノ機会均等、或ハ学業上ノ機会均等ヲドウ云フ風ニ此ノ憲法ノ趣旨ニ従ツテ改正セントスル意図ヲ持ツテ居ラレルカ、此ノ点ニ付キ御尋ネ致シタイノデアリマス
○金森国務大臣 御説ノ点ハ第十三条第一項ニ直接ノ関係ハナイカト思ヒマスケレドモ、全体ノ国策ノ上カラ第十三条ノ一ツノ精神ノ延長トシテ十分考ヘナケレバナラヌ点デアリマシテ、各個ノ欠点ヲ取除イテ、最モ正シキ姿ニ於テ一切ノ方面ニ注意ヲシナケレバナラヌト云フコトヲ確信シテ居リマス
○芦田委員長 暫時休憩致シマス
午前十一時五分休憩
――――◇―――――
午前十一時七分開議
○芦田委員長 休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――上林山榮吉君
○上林山委員 文部大臣ノ学業上ノ機会均等ニ対スル所見ヲ関連シテ御尋ネシテ置キタイ
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、第十三条ノ精神ハ教育ノ面ニ於テモ民主的ニ実現スルコトニ努力致サナケレバナラヌト存ジテ居リマス、例ヘバ貧富ノ懸隔ト云フヤウナ問題ニ付キマシテモ、サウ云フ経済的ノ条件ニ拘ラズ、等シク自己ノ欲スル所ノ教育ヲ能力ニ応ジテ受ケ得ルト云フヤウナ、サウ云フ可能性ヲ、或ハ育英事業ノ発達等、色々ナ方面カラ実現致シタイト存ジテ居リマス、又、世間往々伝ヘラレテ居リマス所ノ職業ノ選択ニ付テノ学閥ノ弊害ト云フヤウナコトモサウ云フ弊害ハ此ノ十三条ノ精神ニ反スルモノデアリマスカラ、若シサウ云フ弊害ガアルナラバ、是ハ文部省ダケノ問題デハアリマセヌケレドモ、徹底的ニ改革シナケレバナラナイト云フ風ニ考ヘテ居ル次第デゴザイマス
○上林山委員 文部大臣ニ重ネテ御尋ネ致シタイ、就学上ノ機会均等ガ与ヘラレテ居ナイ、私ハ此ノ問題ハ勲章ト関連シテ申上ゲテ居ルノデアリマスガ、例ヘバ復員軍人ガ高等学校専門学校以上ニ入学スル場合、一割ダケシカ入学ヲ許可サレテ居ナイ、単ニ戦争ニ従事シタカラト云フ理由ダケニ依ツテ門戸ヲ閉鎖サレテイルト云フコトハ、平和的新日本ヲ建設スル上カラ言ツテ洵ニ遺憾デアルト考ヘテ居ルノデアリマスガ、是ノ将来ノ緩和策、其ノ方針ナドニ付テ御所見ヲ承ツテ置キタイノデアリマス（拍手）
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、只今御取上ゲニナリマシタ所ノ就学上ノ機会均等ノ原理カラ高等専門学校等ニ軍カラ復員シタ学徒ガ入学ヲ制限サレテ居ル、此ノ制限ハ一割ニナツテ居ルガ、是ハ甚ダシク不合理ヂヤナイカト云フ御話デゴザイマス、此ノ点ニ付キマシテハ色々ナ考慮ヲ致シタノデアリマシテ、軍ノ学校ニ或ル期間就学シテ訓練ヲ受ケタ者ニ付キマシテハ、是ハヤハリ再教育ノ必要ガアル、所デ再教育ト云フコトニナリマスルト、非常ニ沢山ノ学生ガ或ル学校ニ入ツテ参リマスルト其ノ再教育ノ目的ガ十分達セラレナイ、仮ニ徒党ヲ組ンデ従来ノ考ヘ方ヲ更ニ発展サセル、新シイ民主主義的教育ノ精神ニ適合シテ行カナイト云フヤウナコトハナクトモ、ヤハリ余リ数ガ多イト云フコトニナリマスルト、其ノ再教育ト云フコトニ付テノ支障ヲ感ズルト云フヤウナコトヲ考ヘマシテ、臨機的ニ初メハ軍ノ学生モ定員以上ニ学校ニ色々都合ヲ付ケテ貰ヒマシテ、出来ルダケ沢山収容シタイト云フヤウナ方針デ参ツテ、学校当局モ非常ニ協力シテ呉レタノデアリマスケレドモ、併シナガラ只今申上ゲマシタヤウナ精神カラシテ、詰リ一割位ノ数ガ再教育ヲ徹底セシメル為ニ適当ヂヤナイカ、是ハ甚ダ辛イコトデアリマスケレドモ、已ムヲ得ナイ方法ヂヤナイカト云フ風ニ考ヘマシタノデアリマス、併シナガラ其ノ軍ノ学校デ修業シタ所ノ学生ト云フ資格ニ付キマシテハ、其ノ後又色々関係方面トモ打合セマシテ非常ニ短イ期間、例ヘバ一年未満軍ノ学校ニ在籍シタト云フヤウナ者ニ付キマシテハ、是ハソレ程神経質ニ考ヘル必要ハナイヂヤナイカト云フヤウナ風ニ、詰リ緩和スルヤウナ方向ニ向ツテ居リマシテ、極ク最近デゴザイマスガ、其ノ問題ニ付テ或ハ或ル程度ニ於テ其ノ関係者ニ満足ヲ与ヘルヤウナ解決ニ到達致シマシタノデアリマス、随テ今日マデ甚ダ学徒諸君ニ迷惑ヲ掛ケテ居リマシタ所ノ入学試験ノ成績発表ガ大変遅レテ居リマシテ、全ク気ノ毒ニ堪ヘナイト存ジテ居リマシタガ、其ノ発表モ出来ルヤウナ状態ニナリマシタ、其ノ緩和ノ結果数千人ノ学徒諸君ガ軍学生トシテ――詰リ一年未満ノ者デアリマスガ――取扱ハレナイト云フヤウナ風ニナツテ居ルコトニ付テ御報告出来ルノハ、甚ダ嬉シイコトニ存ジテ居ル次第デゴザイマス
○上林山委員 将来ノ方針ニ対シテ文部大臣カラ承リマシテ了解致シタノデアリマスガ、更ニ是ハ先程一言申上ゲマシタヤウニ、文部省ニ限ラズ厚生省或ハ内閣全体トシテ、憲法精神カラ御考ヘ下サラナケレバナラヌノハ、世間デハ一部ノ職業軍人或ハ一部ノ軍国主義者、サウ云フ者ニ職業上ノ機会均等ガ与ヘラレナイト云フコトハ日本ガ反省スル上ニ於テ一応之ヲ認メナケレバナラヌノデアリマスルガ、大多数ノ所謂単ニ軍人デアツタト云フダケノコトニ依ツテ、職業上ノ機会均等ガ与ヘラレナイト云フコトハ、是ハ洵ニ私共ハ遺憾デアルト考ヘマスノデ、新シイ憲法ノ精神カラ、一ツ職業上ノ機会均等ヲ、是等ノ方面ノ諸君ニ与ヘルヤウニ御願ヒ申上ゲタイト思フノデアリマス
次ニ御尋ネ致シタイノハ、十三条ニ「華族その他の貴族の制度はこれを認めない。」ト原則的ニ言明セラレテ、所謂封建的ナ或ハ武家政治時代ノ遺物ヲココニ清算セラレタコトハ、洵ニ私ハ進歩的ナ意味ニ於ケル民主的色彩ト云フ点カラ言ヒマシテ、意ヲ強クスルモノデアリマスルガ、併シナガラ九十七条ニハ、総体質問ノ際申上ゲマシタヤウニ、経過規定ガココニ決メラレテアルノデアリマス、私ハ思ヒ切ツテ此ノ経過規定モ削除シテ直チニ此ノ憲法ノ成立ト同時ニ、華族ノ制度ハ認メナイトスルノガ適当デアルト信ジテ居ルノデアリマスガ、此ノ観点カラ致シマシテ御尋ネ致シタイノハ、現在華族ノ戸主ノ隠居ノ届出ガ一件デモ二件デモアルモノデゴザイマセウカ、此ノ点ヲ先ヅ伺ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣 其ノ点ハ宮内省デ所管サレテ居ルコトト思ツテ居リマスガ、私ノ方デハ只今ソレダケノ知識ヲ持ツテ居リマセヌ
○上林山委員 若シ隠居ノ届出ガアツタ場合ハ、現行法ニ依ツテハ此ノ届出ヲ受理出来ルヤウニ了解シテ居ルノデアリマスルガ、其ノ点如何デゴザイマセウカ
○金森国務大臣 其ノ辺ノ制度ハハツキリ存ジマセヌガ、多分受理出来ルモノト考ヘテ居リマス
○上林山委員 若シサウデアルト致シマスレバ、ココ当分ト云フコトガ、現実ノ上ニ於テハ数十年モ華族ノ制度ガ続ク、成程国務相ガ説明セラレルヤウニ特権ヲ伴ハナイノデアルカラ、アツテモナクテモ宜イ存在、即チ盲腸的ナ存在デアルカラ大シタコトハナイデハナイカ、斯ウ云フ意見モ成立チマセウケレドモ、アツテモナクテモ宜イ存在デアルナラバ、尚更ノコト私ハ手術ヲシテ、其ノ盲腸ヲ摘出スル必要ガアルノヂヤナイカ（拍手）斯ウ云フヤウニ考ヘルノデアリマス、之ニ対スル金森国務相ノ御意見ヲ伺ツテ置キタイノデアリマス
○金森国務大臣 此ノ隠居カラ起ル点ハ、多分隠居ヲシテ新タナル襲爵ヲスレバ其ノ人ノ一生涯ト云フモノガ有爵者トシテノ一生涯トシテ長クナルノデアツテ、其ノ特権ガ自然ニ置クヨリモ長ク利用サレルノヂヤナカラウカト云フ点ヲ着想シテ御尋ネニナツテ居ルモノト考ヘルノデアリマスガ、其ノ点ハサウ云フ方法モ勿論濫用スレバ濫用シ得ルカモ知レマセヌケレドモ、此ノ憲法ノ精神ヲ理解スル者ハ、斯ノ如キ挙ニ出デナイモノト思ツテ居リマス、サウシテ華族ノ制度ヲ此ノ際完全ニナクシテシマフカ、此ノ憲法ノ補則ニアリマスルヤウニ、尚ホ一生涯ダケハ名称及ビ之ニ伴フ実力ヲ伴ハザル栄誉ヲ認メテ置クカドウカト云フコトニ付キマシテハ、曩ニ此ノ規定ヲ設ケマシタル事情ヲドナタカノ御質疑ニ対シテ詳シク御答ヘシタト思ツテ居リマス、ソレニ依リマシテ御諒承ヲ願ヒタイト思ヒマス
○上林山委員 私ハ経過的ナ時代ニ於テ或ハ法自体ニ於テ涙ガナクテハナラヌト云フコトハ能ク了解スルノデアリマスガ、華族自身ニシテモ、何等特権ノ伴ハナイサウ云フモノガ身ニ付イテ居ルト云フコトハ、今後ノ活躍ノ上ニ於テモ社会的ナ意味ニ於テモ心苦シイデアラウ、殊ニ斯ウ云フヤウナ国内的ナ雰囲気ノ中ニ於テサウ考ヘラレルデアラウト云フ意味ニ於テ、私ハ法ノ本当ノ涙ガアルナラバ、此ノ際思切ツテ彼等ニ新シイ途ヲ与ヘテ行クト云フ意味ニ於テ、私ハ経過規定ヲ削除スベキデアルト考ヘルノデアリマスガ、現在閣僚ノ中ニ平和主義者デアリ殊ニ民主主義的ナ日本ノ再建ノ為ニ努力ヲシテ居ラレル前閣僚幣原国務相ガ爵位ヲ持ツテ居ラレルノデアリマスガ、私ハ先ヅ原則的ニ華族ヲ廃止スルト云フ此ノ憲法草案ニ直接間接関係ノアツタ所ノ幣原国務相自ラ爵位ヲ拝辞シテココニ是等ニ迷ツテ居ル所ノ華族諸君ヲ右ナリ左ナリニ方向ヲ与ヘルト云フ位ノ考ヘガ欲シイ、斯ウ云フ風ニ考ヘルノデアリマスガ、之ニ対シテ其ノ連帯的立場ニアル金森国務相ハドウ御考ヘニナリマスカ、幣原サンガオイデニナラヌノデ、無理ナ点モ承知シテ居ルノデアリマスガ、駈引ナク率直ニ仰シヤツテモ何等構ハヌノヂヤナイカ、斯ウ考ヘルノデアリマスガ‥‥
○金森国務大臣 其ノ点ハ種々ナル判断ヲ入レ得ル点デアリマシテ結リ原案ヲ正シイトスル理由、主張モ私共ノ方デ致シテ居リマスルシ、又、御質疑ノ如ク、之ニ反スル考ヘヲ正シイトスル主張モセラレテ居リマス、是ハ一寸私ノ立場カラドツチガ正シイト云フコトハ申シ兼ネル、私ハ私トシテノ考ヘヲ持ツテ居リマス、随テ私ノ立場カラ申シマスレバ、憲法ノ定ムル所ニ従ツテ行動スル見地カラ、特ニ今御注意ニナリマシタヤウナ方法ヲ執ルガ宜イカドウカト云フコトハ、政治ノ問題トシテ御答ヘスルコトハ難カシイモノト考ヘテ居リマス
○上林山委員 私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 山崎岩男君
○山崎（岩）委員 御伺ヒ申上ゲマスルガ、第十三条ノ「すべて國民は、法の下に平等であつて、」ト云フコトニ付テ御尋ネシタイノデアリマスルガ、只今ノ民法ニ依リマスト身分上ノ関係ニ付テ、庶子並ニ私生子等ノ関係ニ付テ、法律上大変ナ取扱ノ差異ガアルノデアリマスガ、本草案ガ憲法トナツテ実施サレタ暁ニハ、民法其ノ他ノ諸法ガ改正サレルコトハ勿論デアリマスルガ、其ノ庶子、私生子等ノ身分上ノ取扱関係ノ大変ナ差別ヲ受ケテ居ルモノニ対シテ、政府ハドウ云フ救済ノ途ヲ講ジヨウトスルカ腹案ガアリマシタナラバ御尋ネ申上ゲタイト存ジマス
○木村国務大臣 御承知ノ通リ只今政府ニ於キマシテハ臨時法制調査会、司法省ニ於テハ司法法制審議会ヲ開催致シマシテ、ソレ等ノ点ニ付テ十分考慮ヲ払ツテ今審議中デアリマス、只今ノ所デハ成案ヲ持ツテ居マセヌカラ、御答ヘヲスルコトハ出来マセヌ
○山崎（岩）委員 只今ノ木村司法大臣ノ御言葉デアリマスケレドモ只今通リヤツテ行カレルヤウナ御気持デゴザイマセウカ
○木村国務大臣 勿論此ノ憲法草案ノ線ニ沿ウテヤル積リデアリマス
○山崎（岩）委員 是ハ又一面考ヘテ見マスト、日本ノ家庭上ニ於テ色々ノ問題ヲ惹起スル虞モアルノデアリマス、庶子並ニ私生子等ニ於テ全然是ガ平等ノ取扱ヲ受ケルト云フコトニナレバ、公序良俗、淳風美俗ト云フヤウナモノヲ破壊スルコトニモナリ、又家庭生活ト云フモノヲ破壊スルコトニモナリマス、昔ノオ家騒動ト云フヤウナコトモナイ訳デハナイ、ソコデ政府トシテハ此ノ点ニ付テ十分御考究ヲ願ツテ、国民一人一人ノ権利ヲ尊重スルト同時ニ、日本ノ色々ナ是等淳風美俗ヲ擁護スルト云フ建前ニ於テ良案ヲ立テテ戴キタイト云フコトヲ御願ヒ申上ゲマシテ私ノ質問ヲ終リマス
○鈴木（周）委員 一寸関連シテ伺ヒマス、華族其ノ他ノ貴族ノ制度ハ認メナイト云フノデアリマスガ認メテドンナ悪影響ガアルカ、又其ノ原因モ判明シテ居ナイヤウデアリマスカラ、之ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 国家ニ功労ノアル人ヲ国家的ニ尊重シ、之ニ十分ナル価値ヲ認メルト云フコトハ正シイト思ヒマス、併シナガラソレヲ従来ノ貴族ノ如キモノトスルト云フ方法ニ依ツテ表彰致シマスル時、本人ノ一生涯ニ止マラズシテ又本人一人ニ止マラズシテ、一ツノ族ト云フ言葉ニ依ツテ包容セラルルヤウニ、子々孫々及ビ其ノ家族全体ニマデ光栄ガ及ブノデアリマシテ、斯クノ如キ考ヘ方ハ現代人ノ是認シ能ハザル所デアリマス故ニ斯様ナ貴族制度ハ認メナイト云フ趣旨デアル訳デアリマス、之ヲ一言ニシテ尽セバ、中世紀的ナ考ヘ方ト今日ノ考ヘ方トノ間ニ相当ノ差ガアルコトヲ表明シテ居ル訳デアリマス
○鈴木（周）委員 総テ国民ハ法ノ下ニ平等デアル、サスレバ華族ト貴族ト云フモノハ国民外ニ取扱ツタ見解ヲ以テ此処ニ特ニ書イタノカドウカ、ソレヲ御聴キシタイノデアリマス
○金森国務大臣 決シテ現在ノ華族ヲ国民外トスルト云フ考ヘハゴザイマセヌ、勿論第一項ト第二項トノ関係ヲ御覧下サルナラバ、其ノ関係ハハツキリスルノデアリマシテ、此ノ二ツノモノハ、第一項ニ於キマシテハ日本国民ハ法律上平等ニスルト云フダケノコトデアリマス、法律上平等ニスルト云フコトト関係シテ居リマスケレドモ別ニ華族制度ト云フガ如キモノハ認メナイト云フノデアリマシテ、結局一項ヲ敷衍シテ徹底セシメテ行キマスレバ、第二項ノ規定ガ現ハレテ来ル訳デアリマス
○鈴木（周）委員 只今ノ質問ハ九十何条ニ関係シ、尚且ツ信託ト云フ此ノ前残シテ居ツタ言葉ニ関係シテ居リマスカラ、是ハ是デ打切ツテ置イテ、其ノ関係ノ場合ニ御質問スルコトニ致シマス
○芦田委員長 第十三条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、第十四条ヲ議題ニ供シマス――笠井重治君
○笠井委員 第十四条ニ付テ質問致シタイト思ヒマス「公務員を選定し、及びこれを罷免することは國民固有の權利である。」ソコデ私ノ此ノ条項ニ付テ伺ヒタイノハ外国ノ或ル国、又「アメリカ」ノ「オレゴン」州其ノ他ニ於テハ、「イニシアティーヴ・オヴ・レコール」ト云フ項目ガアリマスガ、近来ソレヲ憲法上ニ挿入シテ居ル国モアルヤウデアリマスガ、我ガ国ノ新シイ憲法ノ中ニハ、公務員ガ国民ヲ裏切リ或ハ又社会ノ公安ヲ害スルト云フ風ナ場合ニ之ヲ呼戻ス、「レコール」スルト云フ風ナコトヲ何処カニ加ヘルヤウナ御意思ハナイノデゴザイマスカ、此ノ点ヲ伺ヒタイト思ツテ居リマス
○金森国務大臣 公務員ノ基本ニ関スル考ヘ方ハ、第十四条ニ依ツテ示サレテ居リマスルガ、之ヲ現実ノ具体的ナ制度ニ移シマスニハ場合場合ノ妥当性ヲ考ヘテ規定スベキモノト思フノデアリマシテ、今御話ニナリマシタヤウナ国民ガ比較的直接ナル方法ヲ以テ公務員ヲ罷免スルコトハ今後ノ研究ニ俟ツテ、必要ニ応ジテ善処シテ行キタイモノト考ヘテ居ルノデアリマシテ、現ニ地方自治ニ関スル制度トシテ、本議院ニ提出セラレテ居リマスル案ノ中ニモ、幾分御質疑ノヤウナ形ニ類似シテ居ル規定ガ含マレテ居ル次第デアリマス
○笠井委員 憲法ニ於テ之ヲ制定スルコトガ出来ナケレバ、今後何カノ場合ニ法律ニ依ツテ之ヲ制定スルト云フヤウナ御考ヘハ国務相ノ間ニ於テハナイノデゴザイマセウカ、モウ一遍之ヲ御聴カセ願ヒマス
○金森国務大臣 現ニ官吏ノ制度ニ関シマシテハ研究中デゴザイマシテ、其ノ結果如何ニナルカハ直チニ申上ゲルコトハ出来マセヌガ裁判官ノ中ノ最高裁判所ノ判事ニ付キマシテハ、既ニ此ノ憲法ノ中ニ規定セラレテ居ルコトデアリマス、他ノ行政官ニ付キマシテハ、諸般ノ角度カラ研究ヲ致シマシテ是ガ必要デアリ、実効的デアルト考ヘマスレバ、固ヨリサウ云フ方法ヲ考フルニ吝カナモノデハアリマセヌ
○笠井委員 有難ウゴザイマシタ是デ終リマス
○芦田委員長 第十四条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、第十五条ヲ議題ニ供シマス――吉田安君
○吉田（安）委員 第十五条ニ付キマシテ簡単ニ御尋ネ致シマス、改正草案ニ依リマスルト、初メテ「政令」ト云フ文字ガ現ハレテ居リマスガ、「政令」ノ意義ニ付キマシテモ国務相カラ伺ツテ居リマスルガ政令ト命令トノ区別ヲ御尋ネ致シタイ
○金森国務大臣 凡ソ拘束的規定ヲ定メマスルモノデ、法律ト命令トノ二ツガ存在シテ居リマス、其ノ中法律ニ付キマシテハ申上ゲルマデモナイコトデ、法律以外ノモノハ原則トシテ之ヲ命令ト呼ンデ居ル訳デアリマス、其ノ命令ノ中ニ於キマシテ、其ノ一種トシテ特ニ内閣ノ議ヲ以テ内閣ガ発シマシテ、又此ノ憲法ノ第七条ニ依ツテ天皇ニ依ツテ公布セラレルモノガ政令トナル訳デアリマス、一言ニシテ言ヘバ、政令ハ命令ノ一種デアルト言フコトガ出来ルト思ヒマス
○吉田（安）委員 分リマシタ、十五条ニ「何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。」斯ウ差別待遇ヲ受ケナイトシテアリマスルガ、此ノ差別待遇ト云フコトハ一体ドウ云フコトヲ予想シテノ御規定デアリマセウカ其ノ点ヲ御尋ネ致シマス
○金森国務大臣 是ハ請願ト云フモノノ実際ノ動キヲ申上ゲナイト能ク御分リニナラナイカモ知レヌト思ヒマスルガ、請願ノ権利ハ憲法第十五条ノ示スガ如ク、最モ貴重ナル権利デアル訳デアリマス、併シナガラ請願ヲ受ケルコトニ依ツテ或ル行政部局担任者等ガ自然不利益ナル立場ニ置カルルコトノアルコトモ亦予想サレマス、例ヘバ自己ノ措置ガ悪カツタト云フコトニ対シテ請願ガアルト云フコトニナリマスト、人間ノ弱点カラ何トナク此ノ請願ニ対シテ不愉快ナル思ヒヲスルト云フ虞ガアル訳デアリマス、其ノ結果ト致シマシテ請願者ニ何等カノ不利益ヲ掛ケルソレガ行政上ノ手加減或ハ取締規定トカ云フモノニ依リマシテ不利益ヲ与フルコトナシト言ヘナイ訳デアリマス、例ヘテ申シマスレバ請願ヲシタ為ニ其ノ人ヲ官庁ニ採用スル時ニハ後廻シニスルト云フヤウナコトガ考ヘラレマス、サウ云フ不届キナ考ヘヲ起スコトハ、予メ憲法ニ於テハツキリ区別シテ置カナケレバナリマセヌ、正シキ請願ヲシタ者ニ対シテ、如何ナル関係ニ於テモ差別待遇ヲシテハナラナイト云フ意味ヲ之ニ表ハシテ居ル訳デアリマス
○吉田（安）委員 能ク分リマシタ私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 是ニテ第十五条ニ対スル質疑ヲ終リマシタ――第十六条ヲ議題ニ供シマス――吉田安君
○吉田（安）委員 ソレデハ引続キ十六条ヲ御尋ネ致シマス、十六条ニハ「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る處罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」後段ノコトハ能ク分リマスガ、此ノ「奴隷的拘束も受けない。」ト云フ此ノ言葉デアリマス、突如トシテ我ガ改正草案ニ「奴隷的拘束も受けない。」ト云フ規定ガ現ハレテ居リマスガ、唯此ノ規定ヲ此ノ侭読ミマスト、従来我々ガ法生活ヲシテ来テ居リマスル関係カラシテモ、奴隷的ト云フノハ中々ピント参リマセヌ、之ヲ特ニ此処ニ「奴隷的」ト云フコトヲ用ヒラレタ其ノコトニ付テ、如何ナル立法意思ガアルカヲ御尋ネ致シタイノデアリマス
○金森国務大臣 御説ノ如ク近代ノ日本ニ於キマシテ、奴隷ト目スベキモノハナカツタト考ヘマス、併シナガラ過去ニ於テハ恐ラクアツタノデアリマシテ、其ノ気持ガ尚ホ世ノ中ノ一部ニ潜在的ニ残ツテ居ルコトモ一応推測サレ得ル所ノモノデアリマス、大体奴隷ト云フ考ヘハ身分的隷属ノ関係ニ於キマシテ、或ル範囲ノ法律秩序ノ外ニ立タシメラレ、謂ハバ自由ヲ拘束セラルル、或ハ其ノ人ノ働イタ利益ガ脇ニ吸収サレテシマフト云フヤウナ特殊ナ地位デアルノデアリマシテ、現実ニ左様ナモノガ日本ニアルトハ思ハレマセヌケレドモ、併シ何トナク奴隷ニ近キ、自分ノ力デ以テ謂ハバ容易ニ足ガ洗ヘナイ、斯ウ云フコトヲ申シマスサウ云フヤウナ状況ニ於テ、社会正義ノ許サザル拘束ヲ受ケテ居ル部面ガ確カニアルトハ申シ得マセヌケレドモ、アルガ如クニ感ゼラレマス、ソレハ世間デソレニ眼ヲ着ケテ居リマスルノハ、比較的近イ過去ニ於テ婦人ノ一部ニサウ云フ境遇ニ置カレテ居ツタ人ガアルヤウニ思フノデアリマス、今正シキ民主主義政治ヲ行ヒマスル上ニハ、本当ノ奴隷デナクテモ、奴隷的ナル状況ニ置カレテ、其ノ自由ヲ束縛サレルト云フコトハナラヌ斯ウ云フ趣旨デ此ノ規定ヲ設ケタ次第デアリマス
○吉田（安）委員 国務大臣ノ御言葉ハ能ク分ルノデアリマス、具体的事例ニ近イコトマデモ挙ゲラレテノ御言葉デアリマスルガ、従来日本ニ奴隷的、奴隷ニ紛ラハシイヤウナ、制度デハアリマセヌガ、サウ云ツタコトノ行ハレテ居ルコトハ、私モ認メナイコトハナイノデアリマス、併シナガラサウ云フコトノ救済ハ、ソレコソ金森国務相ノ国民ノ権利義務ノ所デ御言葉ニナツテ居リマスル基本的ナ規則ニ依ツテ、将来適当ノ法律其ノ他ノコトデ私ハ救済出来ルモノダ、斯様ニ存ズルノデアリマス、奴隷ト云フコトヲ申シマスルト、何カ斯ウ外国アタリニアルアアシタ特別ノ感ジガ我々ニハシテナラナイノデアリマス、随テ日本ハサウシタ意味カラ、建国以来一視平等ノソレコソ本当ノ民主国思想、主義ノ国デアリマシテ、奴隷ノ制度ノナイコトハ勿論デアルシ、又サウ云ツタ奴隷的思想其ノモノモ私ハ日本ニハナイモノダト、斯ウ考ヘテ居ルノデアリマス、偶々ソレニ類似スルヤウナコトガ社会ノ或ル一部面ニ行ハレテ居ツタコト、又現在モ行ハレテ居リハシナイカト云フコトハ想像サレマスケレドモソレガ制度ノ上デアルトカ、或ハ思想的ニト云フコトニナリマスルト、私ハサウ云フノハ日本ニハ是マデ、将来ハ勿論ノコト、全然存在シ得ナイモノダト思ヒマス、ソレガ日本ノ民主主義ノ私ハ根本思想デアリ、差別待遇ヲシナイト云フ建前ノ国デアルト、斯ウ考ヘルノデアリマス、ソレガ突如トシテ憲法改正草案ニ、今如何ニモバタ臭イ「奴隷的拘束も受けない。」ト云フ言葉ヲ使フコトガ、果シテ思想的ニモ宜イコトデアルカ、悪イコトデアルカ、此ノ点ニ付テ国務相ノ御所見ヲ承リタイノデアリマス
○金森国務大臣 御説ハ洵ニ共鳴スル次第デアリマス、併シナガラ静カニ世ノ中ノ、日本ノ有様ヲ見マスルト、表面的ニハ頗ル文化的ナル形態ヲ整ヘテ居ル部分モアリマスケレドモ、社会ノ底流ト致シマシテ、曩ニ第十三条ニ於キマシテ御質疑ニナリマシタヤウナ点、ソレカラ今十六条ニ付キマシテ私ガ例ヲ挙ゲマシタヤウナ点モアリマシテ、残念デハアリマスルケレドモ、又之ヲ憲法ニ書クカ書カヌカト云フコトハ、固ヨリ第二ノ問題デハアリマスルガ、ドウモ大キナ問題トシテ取上ゲルダケノ価値ガアルト信ジマシテ、此ノ規定ヲ設ケマシタ、且又第十六条後段ノ苦役ト云フ点ト振リ合ツテ考ヘマスルト、連想的ニドウモソコマデ規定ガ参リマセヌト、趣旨ガ貫カナイヤウナ気ガシタ訳デアリマス
○吉田（安）委員 御答弁ハ分ルノデアリマスガ、此ノ苦役ノ点モアリマスガ、苦役ト云フコトヲ言ヒマスル時ニハ、一面虐待ト云フコトガ想像サレマス、其ノコトハ先ニ行ツテ又問題ニナルコトデアリマスルカラ、此ノ場合差控ヘマスルガ、要スルニ「奴隷的拘束も受けない。」ト云フ文字ヲココニ使用スルガ宜イカ悪イカト云フコトハ、此処デ国務相ト質疑応答致シマシテモ結局同ジコトニナリマスルガ私共ノ気持ト致シマシハ、此ノ奴隷的云々ト云フコトハ必要デハナイ、寧ロ外ニ適当ナ方法ノ文句ヲ用フベキモノデアルト云フコトヲ考ヘテ居ル、此ノコトヲ申上ゲマシテ、私ノ御尋ネハ是デ打切リマス
○芦田委員長 第十六条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第十七条ヲ議題ニ供シマス、本条ニ付キマシテハ、別ニ発言ノ通告ガアリマセヌカラ、次ニ移リマス、第十八条ヲ議題ニ供シマス――左藤義詮君
○左藤委員 世界ノ民主主義諸国特ニ米国ノ憲法ハ文字ニハ現ハレテ居リマセヌガ非常ナ深イ宗教的信念ヲ根抵トシテ立テラレテ居ルコトヲ感ズルノデアリマス、信教ノ自由ニ憧レタ「ピューリタン」ノ一団ガ孤舟「メー・フラワー」ニ乗ジテ新天地ニ渡ツタ時ニ、大西洋ノ波ノ上デ作ツタ規約、其ノ精神ガ今日ノ憲法ニ脈々トシテ流レテ居ルト私ハ思フノデアリマス、其ノ中ニハ一切ハ宗教ノ上ニ建設スルコトヲ誓ヒ、爾来今日ニ至ルマデ、其ノ信念ヲ失ツテ居ナイノデアリマス、「ワシントン」「リンカーン」ヲ初メ、歴代大統領ノ教書ヲ読ミマシテモ、神ニ祈リ、神ニ誓フト云フ敬虔ナ心掛ガ貫イテ居ルコトヲ感ズルノデアリマス、宗教コソ「デモクラシー」ノ根源デアリ、世界的正義ノ基調デアルト云フコトガ貫カレテ居リマス、実ニ「アメリカ」ノ「デモクラシー」ハ宗教ヲ肉トシテ包マレタ骨格デアルト言フモ過言デハアリマセヌ人ハ欺クコトガ出来ルガ、神仏ハ裏切ルコトハ出来ナイ、人間ト人間ノ約束デナクシテ、神ノ前ニ此ノ憲法ハ誓フノダ、此ノ気持ガナカツタラ、如何ニ精密ナ立法ヲナシマシテモ、良心曇レル者ガ免レテ恥ナキ状態ハ、滔々トシテ眼前ニモ見ル事実デアリマス、国家再建ノ基礎タルベキ此ノ憲法ニハ如何ナル宗教的信念ガ裏付ケラレテ居ルカ、天皇神権説ハ滅ビマシタ大臣ガ伊勢神宮ヘ就任報告ヲスルコトモナクナリマシタ、失礼ナガラ首相初メ各大臣ハ個人トシテソレゾレ如何ナル宗教的信念ノ上ニ御立チニナツテ居ルカ、此ノ憲法ニドウ云フヤウナ宗教的基礎ヲ含メヨウトシテ居ラレルノカ、勿論神ノモノハ神ニ返シ、「カイゼル」ノモノハ「カイゼル」ニ返セ、政治ト宗教トヲ分離シヨウト云フ趣旨ハ固ヨリ賛成デアリマスガ、併シソレハ決シテ政治ニ宗教ガ不必要ダト云フコトデハアリマセヌ、信教ハ個人ノ私事ダト云フヤウナ表現ノ仕方ハ、トモスレバ一般国民ニ宗教ヲ軽視セシメルヤウナ風潮ヲ助長シ勝チデアル、文明国ノ中デ、我ガ国程知識階級ヤ青年男女ガ宗教ニ無関心ナ所ハアリマセヌ、一例ヲ申シマスガ、本来宗教デアルモノヲ宗教デナイト言ウテ国民ニ強制シテ居ツタ神社ハ内務省ノ神社局或ハソレヲ神祇院ト云フ風ニ昇格セシメテ所管シテ居リマシタガ、宗教ハ文部省ノ宗教局ソレモ現在デハ教学局ノ一部ノ宗務課ト云フモノノ中デ取扱ツテ居ル、斯ウ云フコトガ如何ニ国民ノ宗教ヲ軽ンズル傾向ヲ助長シテ居ルカ、私ハ戦敗ノ一ツノ原因ハ、国民生活ニ宗教的ナ基礎付ケガナカツタト云フコトニアルト信ズルノデアリマス、勿論我ガ国ノ宗教家ノ努力精進ノ足リナカツタト云フコトハ後ニ申述ベタイト存ジマスガ、政府特ニ文部大臣ニ於キマシテ、此ノ際積極的ニ宗教ノ生キタ信念ヲ国民ニ徹底普及セシムル為ニ、余程真剣ナ覚悟ガナケレバナラヌト思ヒマス、教育ニ付テハ教育憲章ト云フカ、教育根本法ト云フカ、民主主義教育ノ大方針ヲ確立スル御準備ガアルヤニ先日承リマシタガ、宗教ニ対シテハ「ポツダム」宣言受諾ニ伴フ緊急勅令ニ依ツテ従来ノ宗教団体法ノ取締方面ダケヲ緩和シテ、宗教法人令ト云フヤウナ――是ハ議会ニ出マセヌデスガサウ云フ応急ノ措置ガアツタダケデ、教育ノ根本法ニ対応スルヤウナ何等積極的ナ御意図ガ文部省ニナイヤウニ見受ケルノデアリマスガ、果シテ如何デアリマセウカ、善良純美ナ世界的宗教ヲ積極的ニ尊重奨励シテ、此ノ渾沌タル道義ノ頽廃ヲ救ヒ、薫リ高キ文化日本ヲ建設スル、是ハ最モ大事ナコトデアルト信ズルノデアリマス、聖徳太子ノ十七条憲法ハ「篤ク三寶ヲ敬ヘ」ト云フ信念ニ依ツテ基礎付ケラレテ居ルノデアリマス、此ノ憲法ヲ文化日本ノ基礎トスル上ニ於キマシテ、如何ナル宗教ニ対スル所信ト施策ヲ御持チニナツテ居ルカ、敢テ文部大臣ノ御答弁ヲ願ヒタイト存ズルノデアリマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、憲法ノ第十八条ガ政治ト宗教トヲ分ケテ居ルト云フコトハ、是ハ極メテ理由ノアルコトデゴザイマス、併シナガラソレダカラト云ツテ、宗教ト云フモノノ人間生活ニ対スル重要性ヲ否定シテ居ル意味デハ決シテナイノデアリマス、是ハヤハリ此ノ憲法ガ国民ノ自由ヲ尊重シ、良心ヲ尊重シテ居ルト云フ立場カラ規律シテ居ルト云フ風ニ御読ミヲ願ヒタイモノデアルト思ヒマス、此ノ第十八条ハ決シテ宗教ニ関スル全部ノ事柄ヲ網羅シテ居ル訳デハゴザイマセヌ、今後一国ノ文教政策ノ上ニ於キマシテモ、宗教ハ益々尊重シテ参ラナケレバナラナイト思フノデアリマス、現時ニ於テ特ニ目立ツテ居リ憂慮ニ堪ヘナイト思ツテ居リマス所ノ国民道義ノ頽廃ハ先程御指摘ニナリマシタヤウニ、詰リ人ヲ相手ニシ神ノコトヲ考ヘナイ、人ノ見テ居ナイ所ナラバドンナコトデモスルト云フヤウナ、サウ云フ良心ノ麻痺シテ居ルヤウナ国民ノ状態カラ来テ居ルコトガ非常ニ多イノデアリマス、随テ此ノ良心ノ麻痺ヲ直スノニハ何ガ必要デアルカト云フト、宗教ガ最モ適当ナル、又力強イ有力ナル治療方法デアルト確信シテ居リマス、尚又正邪善悪ノ区別ガ非常ニ曖昧ニナツテ居ル、国民ノ正義観ガ麻痺シテ居ルト云フコトモ、ヤハリ此ノ麻痺状態カラ「ノーマル」ナ状態ニ返シマスコトモ、宗教ノ力デアルト云フコトヲ信ジマス、随テ此ノ十八条ノ解釈ト致シマシテ、心アル、詰リ宗教ヲ重ンジナケレバナラナイト云フ風ニ御考ヘニナル方々ハ、国及ビ国ノ機関ガ、宗教教育及ビ宗教的ニ如何ナル活動モシテハナラナイト云フコトニ付テ御懸念ヲ抱カレルノデハナイカト思ヒマスガ是ハ決シテ国家ガ教育ノ面カラ、宗教的ノ教養、或ハ情操ヲ涵養スルト云フヤウナコトヲ否定スル意味デハナイト存ジテ居リマス、サウ云フ面ト、国トシテハヤハリ各宗教ノ平等関係ト云フモノヲ十分ニ尊重シナケレバナリマセヌカラ一宗一派ニ偏シテハナラナイ、併シナガラ一般的ニ、先程御述ベニナツタヤウナサウ云フ精神ハ益々涵養シテ行カナケレバナラナイト云フ風ニ感ジマス
ソレカラ教育根本法ニ対応スルヤウナ宗教法ニ於テ特別ノ法制ヲ決メタラ宜イデハナイカト云フ御考ヘニ対シマシテハ、此ノ点ハ事柄ノ性質上、法律ガ余リ関与スベキ事柄デハナイノデハナイカ、宗教法人令ト申シマスルノハ、民法ノ公益法人ト同ジヤウニ、或ハソレ以上ノ利益ヲ神社トカ、或ハ寺院、教会ニ与ヘルト云フ極ク技術的ノコトヲ処理スル問題デアリマシテ、宗教ニ対シテハ国家ハ出来ルダケ干渉シナイト云フヤウナ立場ニ立チマシテ、此ノ宗教ヲドウ云フ風ニシテ涵養スルカハ、教育ナリ、或ハ文化運動ナリ、或ハ社会事業、斯ウ云フ方面ニ於テ十分効果的ニ宗教的ノ教養、或ハ活動ヲ促進スルト云フ風ニスベキデハナイカト云フ風ニ存ジテ居リマス
教育ノ面ニ於テモ、学校教育ニ付テデゴザイマスガ、教科書ニハ出来ルダケ世界ノ主ナル宗教ニ付テノ知識ヲ与ヘルヤウニ、乾燥無味ナ教義ノ羅列ト云フ風デハナク其ノ宗教的ナ信念ガ血トナリ、肉トナツテ居ル各宗教ノ偉人ノ伝記ト云フヤウナ、非常ニ感銘ヲ与ヘル所ノサウ云フ話ナドヲ以テ、サウシテ宗教ニ関スル関心ヲ植付ケ又教養ヲ高メテ行キタイト思ツテ居ル次第デアリマス
○左藤委員 二十四条ノ場合ニモ御尋ネシタイト思ツテ居ルノデアリマスガ、将来ノ文部省ハ只今文部大臣ノ仰シヤツタヤウナ、出来ルダケサウ云フコトニハ触レナイデ助長スルト云フ消極的ナ立場デナク、悪ク言ヘバ触ラヌ神ニ崇リナシト云フヤウナ態度デナク、積極的ニ、文化日本、道義日本トシテ行クヨリ外ニ途ノナイ其ノ指導者トシテ、唯サウ云フ取締ノ規則ヲ作ル意思ハナイト云フダケデ消極的ニ終ツテシマハナイデ、積極的ニ――或ハ文部大臣個人トシテモ結構デアリマス、宗教運動ノ先頭ニ立ツテ、日本ノ国民ニ真ノ宗教的ナ深イモノヲ蘇ヘラシメルト云フ此ノ覚悟ガナケレバナラヌト思フノデアリマス、サウ云フコトハ別ニシテ置クト云フヤウナ消極的ナ御意見ダケデハ私ハ不満足ナノデアリマス、此ノ憲法ハ宗教ノ全部デハナイト仰シヤツタノデアリマスガ、其ノ宗教ノ全部ノ姿ヲ文部省ハ責任ヲ持ツテ次ノ代ノ国民ニ陶冶スル、或ハ之ヲ本当ニ涵養スル大キナ責任ガアルト信ズルノデアリマス、甚ダ言葉尻ヲ掴マヘルヤウデアリマスガ、昨日教育勅語ト云フモノニ付テ、情勢ガ変ツテ来タノデ之ヲ如何ニ指導スルカト云フドナタカノ質問ニ対シテ教育勅語ノミデナク、聖書トカ論語トカ、孟子或ハ仏教ノ経典、斯ウ云フモノヲ教育ニ利用スル、斯ウ云フ御言葉ガアリマシタガ、利用ト云フ言葉ガ、私ハ言葉尻ヲ捕ヘルヤウデスガ、偶々民主主義ノ衣ノ下カラ封建的官僚主義ノ鎧ガチラツト覗クヤウナ気持ガスルノデアリマス、宗教ヲ国家ノ用ニ利用スルノデハナクシテ国家モ亦真理ノ前ニハ敬虔ニ跪カナケレバナラナイ、世界的宗教ノ教ヘル真理仮令如何ニ教理ハ違ヒマシテモ、ソコニ貫イテ居ル本当ノ自然ト云フカ、宇宙ト云フカ、神ト云フカ其ノ摂理ヲ敬虔ナ気持デ遵守シ、ソレヲ地上ニ実現シテ行クコトヲ国家ノ理想ニシナクチヤイケナイ国家ガ教育ニ宗教ヲ利用スル、従来サウ云フ気持ガ非常ニ多カツタノデアリマスカラ、此ノ戦争中軍閥ナドガ教育ニ宗教ヲ利用シテ国民ヲ、戦争ニ駆リ立テタノデアリマス、是ハ言葉ノ末デアリマスケレドモ、サウ云フ所ニ現ハレル気持文教ノ根本方針ト云フモノヲ発揮シナケレバナラヌ、宗教ノ教ヘル真理、仏教ノ所謂大乗相応ノ地トシテ国家ニ実現シテ行クノダ、此ノ気持ガアツテコソ戦争ヲ抛棄シテモ敢テ恐レルコトノナイ真理ガ生レテ来ルノデアリマス、其ノ点ニ付テ是ハ本当ノ言葉尻ノヤウデアリマスガ、文部大臣ノハツキリシタ方針ヲ伺ヒ、其ノ精神デ宗教ヲ御尊重戴クヤウナ御答弁ヲ得タイト思フノデアリマス、如何デアリマセウカ
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、文部大臣トシテモツト宗教教育ニ付テ積極的デアレト云フヤウナ御意見ヲ戴イタ訳デアリマス、一般的ニ宗教情操ヲ涵養シ、又宗教的ノ教養ヲ国民ニ与ヘルト云フコトノ必要デアルコトハ申スマデモアリマセヌ、決シテ情操トカ教養トカ云フ言葉ダケデ尽セナイモノガ宗教ニハアルノデアリマシテ極端ナ場合ヲ申シマスト、生命ヲ賭シテモ自分ノ信仰ヲ貫カナケレバナラナイト云フ所マデ、其ノ教育ガ徹底シナケレバイケナイト云フコトヲ信ジテ居リマス、併シナガラ具体的ニドノ宗教――余リ文教当局ノ方ノ宗教的ノ活動ガ強クナリマスト、一般的ノ立場、詰リ公平デナケレバナラナイト云フ立場ヲ離レマシテ、或ル宗教宗派ヲ特ニ尊重スル、当時ノ文教当局ノ信ジテ居ル宗教ニ国民ガ引摺ラレルト云フヤウナコトガアツテハ、是ハ従来ノ誤リヲ繰返スコトニナリマスノデ、是ハ余程「デリケート」ナ問題デゴザイマシテ、大イニ警戒シナケレバナラナイ所ト存ジマス、デアリマスカラ、ドウシテモ甚ダ生温イト御考ヘニナルカモ知レマセヌガ、文部省ノ執ルベキ宗教政策――ト言フト又語弊ガアルカモ知レマセヌガ、教育ノ面ニ於ケル宗教政策ハ、最大公約数ト云フヤウナ所ニアルト云フノモ是レ蓋シ已ムヲ得ナイコトヂヤナイカト思ヒマス、
次ニ論語、「バイブル」其ノ他ヲ利用スルト云フヤウナコトハ私申シマシタガ、私ノ甚ダ意ヲ尽サナイ言葉デアリマシテ不満ニ存ジマス、サウ云フモノヲ本当ノ真理ノ現ハレトシテ尊重シナケレバナラナイ、教育勅語ノミニ偏シテ居ツテハイカヌノダト云フノモ、本当ニ血トナリ肉トナルヤウニ精神生活ノ糧トシテ利用スル、斯ウ云フ意味デゴザイマシテ、決シテ普通功利的ノ意味デ軍部ガ教会ダトカ或ハ神道ナンカヲ利用シタト云フサウ云フ意味デ申シタノデハゴザイマセヌ、一言釈明致シマス
○芦田委員長 佐藤君ノ質問ハマダ継続スル筈デアリマスガ、丁度時間デアリマスカラ、午後一時半ヨリ会議ヲ開クコトニ致シマス、是ニテ休憩致シマス
午後零時五分休憩
――――◇―――――
午後二時四十八分開議
○芦田委員長 休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス――左藤義詮君
○左藤委員 現行憲法二十八条ニハ「安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限」ト云フ条件ガ附イテ居リマスガ、此ノ草案ニハゴザイマセヌ、是ハ前ニドナタカカラ超世間的ナ宗教ニ行政的制約ヲ附スルコトハ、「デリケート」ナ困難ナ問題デアルカラ、結局各宗教ノ自然淘汰ニ任セル、色々ナ弊害ガ甚ダシキニ至ツタラ刑法デ之ヲ処分スル、斯ウ云フ文部大臣ノ御答弁デゴザイマシタ、現在日本人ノ良識デ果シテ正シイ自然淘汰ガ行ハレルト確信セラレマセウカ、或ル学者ノ調査ニ依リマスレバ、我ガ国ハ「ドイツ」ニ次イデ世界第二位ノ迷信国デアル、迷信ノ数凡ソ一万二千ニ達シ、而モ年々増加ノ傾向ニアル、是ハ戦前ノ調査デアリマスガ、戦時、戦後ニ於テ思想及ビ経済ノ混乱ニ乗ジテ迷信ノ激増スルコトハ経験ノ教ヘル所デアリマス、予防ノ途ヲ講ゼズシテ黴菌ガ致ル処ニ蔓延シテ病人ヲ続出セシメテカラ其ノ手当バカリシテ居ルノハ藪医者デアリマス、積極的ニ正シイ信仰ヲ与ヘ、幼時カラ正シイ宗教的情操ヲ涵養スル、即チ迷信ト云フ黴菌ガ来テモ、之ニ冐サレヌダケノ健康体ヲ作ルコトガ国家ノ義務デアリマス本当ニ宗教的ナ救済ヲ求メルノハ重イ病ニ罹ルトカ、愛児ヲ戦死サセタトカ、人生観ノ行詰リトカ、様々ナ機縁ヲ俟ツテ初メテ生ズルノデアリマセウガ、其ノ時ニ及ンデ何ノ準備モナイ為ニ溺レル者ガ藁ヲ掴ムト云フヤウナコトノナイヤウニ、平生カラ国民ニ十分ナ宗教的常識ヲ与ヘルコトガ文教当局ノ責任デアリ、抱負デナケレバナリマセヌ、自然淘汰ト云フヤウナ傍観的ナ智慧ノナイコトデハ相済マヌト思フノデアリマス、最大公約数ハ結構デスガ、幽霊ノヤウナ影ノ薄イ最大公約数デハ困リマス文化日本ノ成否ハ宗教ノ振フカ振ハナイカニ懸ツテ居ル、迷信ノ弊ヲ未然ニ防ギ正シキ信仰ヲ積極的ニ顕揚スベク、果シテ如何ナル政策抱負ヲ御持チニナリマスカ、御伺ヒシタイト思ヒマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、現行憲法ハ安寧秩序ナリ臣民ノ義務ト云フ点カラ信教ノ自由ニ対シテ制限ヲ加ヘテ居ルガ、草案ノ建前ニ於テハ、サウ云フコトニハナツテ居ナイ、詰リ迷信トカ淫祠邪教ト云フヤウナモノガハビコリ、ソレニ対スル対策如何ト云フ御質問ニ対シマシテ、先程御指摘ニナリマシタ機会ニ簡単ニハ御答ヘ申上ゲマシタガ、尚ホ意ヲ尽サナイ点ガアリマスカラ申上ゲタイト存ジマス、宗教ニ対スル安寧秩序ナリ或ハ臣民ノ義務ノ方面カラ制限ヲ設ケルト云フコトニナリマスルト、安寧秩序ナリ或ハ臣民ノ義務ト云フヤウナコトガ、強制的ニ非常ニ広ク解サレマシテ、濫用ノ弊害ガ生ジテ参リマスルコトハ既往ノ経験ニ徴シテ明カデアリマス、自由ニ委セテモ宗教ノ性質上差支ヘハナイ、サウ云フ意味ニ於テ宗教政策ノ立場ニ於テ優勝劣敗適者生存、自然淘汰ト云フコトニナルノデアリマス、正シイ宗教ナラバ、自然ニ力ヲ持ツテ居ル、民衆ノ心ノ機微ニ触レ、民衆ノ精神生活ノ糧ニナルト云フ訳デアリマス、ソレニ依ツテ国民ノ知的教養ノ向上ト共ニ、悪イ宗教ハ段々歿落シテ、良イモノガ残ルト云フコトヲ我々ハモウソロソロ楽観シテ宜イ世ノ中ニナツテ来タノデハナイカ、尚ホ迷信デアルカ否カト云フコトハ極メテ「デリケート」ナ問題デゴザイマシテ、凡ソ宗教ヲ信ジナイ者ハ、詰リ無神論者ノ立場カラ申シマスト、神ヤ仏ヲ信ズルコトソレ自身迷信ト言フダラウ随テココニ無神論者ノ行政当局ガ居ルトシテ、宗教ハ非合理的ナモノデ、科学的ノ知識ト矛盾スルモノデアル、サウ云フモノハ認メラレナイト云フ風ニナツテ来ル虞モナイトハ限リマセヌ、殊ニ宗教ニ於テハ奇蹟其ノ他不思議ナコトガ随分アル、奇蹟ヲ信ズル位ノ信仰デナケレバ本当ノ力アル信仰トハ言ヘナイト云フコトモ言ヒ得ルノデアリマス、サウ云フモノヲ皆迷信ト同一視セラレルコトハ、宗教ノ本質ヲ理解シナイコトニナリマス、鰮ノ頭モ信心ダト云フコトガアリマス、本当ノ健全ナル信ト、鰮ノ頭ノ信心トノ間ニ中々役人ノ頭デハ判断ノ出来ナイヤウナ「デリケート」ナ問題ガアリマス、鰮ノ頭ヲ信ジテ居ル者デモ、ソレヲ自由ニ任セルト云フコトハ、国家ノ宗教政策上已ムヲ得ナイ次第デアルト考ヘテ居ルノデアリマス、併シナガラ御懸念ノ点、先程モ午前中御答弁申上ゲタト思ヒマスガ宗教ニ付テノ情操ナリ教養ヲ国民ノ間ニ普及サセル、サウシテ本当ノ精神生活ノ向上ニ資シ、宗教ノ中ニ健全ナルモノト不健全ナルモノ、深遠ナルモノト浅薄ナルモノト云フヤウニ、色々判別ノ出来ルヤウニ国民ヲ仕立テルト云フコトハ、極メテ重要ナコトデアリマシテ、学校教育ニ於キマシテモ、決シテ拱手傍観シテ、自然淘汰ニ任セテ、学校教育ハ全然宗教ヲ無視スルト云フ訳デハ決シテナイコトハ、今朝程御答弁申上ゲタ所デモ御分リダラウト思フノデアリマス随テココニ或ル宗教或ル宗派ノ信条ヲ基礎ニシテ出来テ居ル私立学校ガアルト致シマシテ、ソレハ他ノ私立学校ト共ニ特色ノアル個性ヲ持ツテ居ルモノトシテ寧ロ奨励スベキモノダト考ヘテ居リマスシ、又官公立ノ学校ニ付キマシテモ、各々ノ宗教ヲ公平ニ重ンジテ、ソレニ付テノ知識ナリ教養ナリヲ与ヘルコトニ付テモ努力致シタイト存ジテ居ル次第デアリマス
○左藤委員 只今無神論者ガ文部当局ニナルヤウナ場合ト云フ仮想ノ場合ノ御心配ガアリマシタガ、無神論者ガ文政ヲ掌ルヤウナコトガアツタラ、私ハ日本ノ前途ハ本当ニ駄目ダト思フノデスガ、只今ノ御答弁ニモウ好イ加減ニ日本人モ迷信正信ノ見分ケガ付クヤウニナツタラウト云フ楽観的ナ御意見デアリマシタガ、過去ノ経験カラ又今日ノヤウニ道義ガ頽廃シテ生活ガ苦シイ状態カラ、私ハ寧ロ非常ニ其ノ点ヲ杞憂スルモノデアリマシテ、結局其ノ問題ハ只今文部大臣ノ御触レニナリマシタ宗教教育ノ振興ト云フコトニ帰着シマスノデ、其ノ問題ニ付テ先日杉本委員ニ御答弁ガゴザイマシタガ、是ハ非常ニ大事ナ問題デアリマスノデ、モウ一度ハツキリ詳細ニ御答弁ヲ戴キタイ、此ノ十八条ノ第三項デアリマスガ、「國及びその機關」トハ勿論官公立ノ学校ノコトデ、私学ニ付テハ自由ニ宗教的活動ヲ許ス、斯ウ云フ御趣旨デアリマスガ、併シ官公立ノ学校ニ於テモ、ドノ程度マデ宗教的ナ問題ニ触レテ宜イカ、中々其ノ限界ガ実際難カシイノデアリマシテ、ソコヲハツキリシテ置キマセヌト、宗教教育ト云フモノガ萎靡シテシマフ、例ヘバ官公立ノ学校デモ、校友会デ参禅ヲスルトカ、「キリスト」教ノ専科ヲ作ルトカ、校長自身モソレニ参加スルト云フヤウナコトハ許サレルカドウカ、教壇カラ説クコトハイケナイカモ知レマセヌガ、学校ノ一ツノ生徒ノ訓育ノ途トシテ宗教ヲ取リ上ゲルコトハ差支ヘナイト云フコトヲ一ツハツキリ此ノ機会ニ言明シテ、全国ノ教育者ガ積極的ニ活動ノ出来ルヤウニシテ戴キタイト思フノデアリマス、余リソレヲ怖ガツテハイケナイ、個人ノ貧シイ経験ヲ申シマスガ、私十五年神戸高等商船ノ教授トシテ修身ヲ担当シテ来タノデアリマス、私ハ仏教デアリマスガ、私ハ遠慮ナシニ自分ノ信念ヲ教壇カラ生徒ニ説ク、生徒ニ斯ク信ゼヨト命ズルコトハ間違ヒデアリマセウガ、我レ斯ク信ズト叫ブコトハ差支ヘナイ、ソレ位ノ信念ガナケレバ悩メル青年ニ本当ノ人生観、世界観ヲ与ヘルコトハ出来ナイ、板子一枚地獄ノ底デ、今度ノ戦争ニハ沢山下積ニナツテ死ンダノデアリマスガ、何遍モ泳イデ不思議ニ生キテ還ツタ連中ガ、我田引水デアリマスガ、アノ生死ノ間ニ立ツテ先生ノ言ハレタ宗教ノ間題ガ初メテ身ニ泌ミタ、恐ラク私共ノ友達モ死ンデ行ク時ニ、アノ教壇カラ先生ニ教ヘラレタ絶対他力ノ信仰ガ生死ノ間ニ非常ニ大キナ力トナツテ居ルト信ズル、斯ウ云フコトヲ古イ卒業生カラ聴キマスル時ニ、私ハ自分ノ半生ヲ捧ゲタ仕事ニ対シテ、本当ニ有難イコトダト感激ヲスルノデアリマスルガ、私ハ何等カノ内ニ信念ヲ持ツテ我レハ斯ク信ズル、其ノ裏付ヲ以テ道ヲ説クコトハチツトモ差支ヘナイ、又ソレデナケレバ本当ノ教育ハ出来ナイト、斯様ニ私ハ確信ヲ致スノデアリマス、古イ勅令デ宗教ト教育ヲ分離スルト云フコトヲ命ジタモノガアリマシタノデ、ソレガドウモ咽喉ニ閊ヘテ一ツノ過チヲ惧レル為ニ九ツノ善ヲ積極的ニナサナイト云フコトガ我ガ国文教ノ振ハナイ最大理由ノ一ツデハナイカ、事勿レ主義ノ官僚ガ此ノ勅令ヲ振翳シテ睨ンデ居リ無気力ナ教育家ガ姑息偸安ヲ求メテオ座ナリニ過シテシマフ、触ラヌ神ニ祟リナシト云フ最大公約数デ片付ケルヤウナ消極的ナ態度ガ此ノ勅令ニ依ツテ非常ニ宗教的ナ情操淘冶ガ明治以来日本ノ学校デ振ハナカツタ、確カニ是ハ事実デアリマス、此ノ問題ニ付テ非常ニ努力ヲ続ケラレマシタ安藤正純氏ガ文部省ニ在官当時、是ハ消極的ノ意味デハナクシテ、積極的ニ、一宗一派ニ偏シナイ限リドンドンヤツテ宜イ、斯ウ云フ通牒ガ出テ其ノ為ニ非常ニ一時各学校ニ於テ宗教的教育ガ振興セラレタコトヲ記憶シテ居リマス、ドウモ残念デアリマスガ、我ガ国ノ現状ニ於テハ、政府ノ指導方針ト云フモノガ相当教育者ニ影響スルノデアリマス、其ノ点ニ於テ、私ハ此ノ第三項モ「國及び其の機關は、宗派教育その他いかなる宗派的活動もしてはならない。」ト改メラレタイコトヲ希望シマスガ、若シ其ノ修正ガ出来ナイヤウデシタラ、此ノ草案決定ノ閣議ニ参画セラレタ文部大臣トシテ、従来ノヤウニ教育者ヲ消極的ニ陥ラシメナイヤウニ力強イ信念ヲ此ノ機会ニ言明シテ戴キタイト思フノデアリマス、結局宗教ノ振フカ振ハナイカハ、偉大ナル人格ノ出ルカ出ナイカ、此ノ混沌タル道義ノ中ニ「ルーテル」ヤ親鸞ガ出ナケレバイケナイト斯ウ言ハレルガ、併シ偉人ガ時代ヲ造ルカ、時代ガ偉人ヲ造ルカ妙ナ例デスガ、李朝時代ノ朝鮮ガ非常ニ仏教ト云フモノヲ軽ンジタ僧侶ニナルノハモウ食ヘナイ者ガナルノダ、非常ニ下等ナ、今日マデ一番階級ノ下ノモノトシテ蔑視サレテ居ツタ、ソレガ朝鮮ノ仏教ノ今日ノヤウニ振ハナクナツタ大キナ原因デアルト思ヒマス、英米ナドデ大学ノ神学部ヘ行ク人ハ、相当優秀ナ、本当ニ神ノ道ニ依ツテ人ヲ救ヒ、国ヲ救ハウト云フ立派ナ人材ガ進ンデ行ツテ居ル、今ノヤウナ、独リ文部省ニ限リマセヌガ、国民ノ宗教ニ対スル態度デ果シテ本当ニ立派ナ宗教的人材ヲ生ミ出スコトガ出来ルカドウカ、其ノ点私ハ、積極的ニ宗教的信念ニ依ル教育ヲシテ宜イノダト云フコトヲ全国ノ教育者ニ言明シ、激励ヲシテ戴キタイト切望スル次第デアリマス、御所見如何デゴザイマセウカ
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、只今色々詳シイコトヲ伺ツテ居リマス内ニ、私ガ今朝カラ先程ニ掛ケテ申上ゲタ所ト余リ開キガナイノデハナイカト云フ意味ニ承ツタノデアリマス、最大公約数シカ御指摘ニナラナイ、サウスルト気ガ抜ケタモノノヤウニナリハシナイカ、成程サウ云フヤウニ御解釈ニナルノモ無理ハナイノデアリマスガ、併シ決シテサウ云フ抽象的ナ、各宗派ニ付テノ感想ノミナラズ、或ハ其ノ又教理ダケヲ教ヘルト云フコトガ、決シテ宗教的力ノアルモノトハ思ツテ居リマセヌ唯政府当局トシテ考慮シナケレバナラナイノハ、各宗派ヲ学校教育ニ於テ平等ニ取扱ハナケレバナラナイ、詰リ「パリティー」ノ原則デアリマス、或ル宗教ヲ、国教トシテ官公立学校ニ於テ特ニ其ノ点ニ力ヲ入レテ教ヘル、従来ノ詰リ国教ノ地位ヲ占メテ居ツタ神社ノヤウナ態度デヤツテハイカヌト云フコトヲ意味スルノデアリマシテ決シテ宗教教育ニ具体的ノ宗教ニ付テ何モ教ヘテナラナイ、唯宗教全般、宗教理論、宗教概論ノヤウナモノシカヤツテハイカヌト云フ意味デ申上ゲタノデハアリマセヌ其ノ点ハ多少私ノ御説明ガ不十分デアツタ結果、或ハサウ云フ風ニ御解シニナツタカト思ヒマシテ、附加ヘテ置キマス、ソレカラ御質問ノ具体的ナ二ツノ点デゴザイマス、官公立ノ学校ニ於テサウ云フ意味ニ於テ或ル一宗一派ニ偏ツタ宗教教育ヲ施シテハナラナイガ、併シ校友会ニ於テ、或ハ仏教ノ或ル派ナリ、或ハ「キリスト」教ノ或ル派ノ教師ヲ招聘シテ、サウシテ教ヘニ付テ話ヲ聴クコトハドウカ是ハ勿論差支ヘナイコトト解シテ居ルノデアリマシテ、サウ云フ意味ニ於キマシテ、詰リ課外ニ於テ校長等ノ肝入リニ依ツテ、公平ニ一宗一派ニ偏ラナイデ、其ノ方面ノ権威者ナリ、或ハ学者等ヲ招聘シテ、校友会等ノ催シデ以テヤルト云フコトハ、是ハ非常ニ奨励スベキ事柄デアリマシテ、サウ云フ方面ニ於テ今後側面カラ――側面ト言フト又オ叱リヲ受ケルカモ知レマセヌガ、詰リ学校ト並ンデ大イニ宗教的情操ヲ涵養スルコトニ御援助願ヒタイト云フ意味ニ文部当局トシテモ思ツテ居ル次第デアリマス、ソレカラ学校ノ教師ガ自己ノ信仰ヲ生徒ノ前デ告白スル位デナケレバ力ガナイデハナイカ、或ル意味ニ於テ御尤モデアリマス或ハ全幅的ニ御尤モデアリマスケレドモ、併シ学校ハ宗教学校デハアリマセヌ、随テ殊ニ人文科学ノ方面ニナリマスト、或ル信仰ヲ持ツテ居ル者ノ世界観ガ自然ニ滲ミ出テ参リマス、経済学ニシロ、法律学ニシロ、政治学ニシロ、哲学ハ尚更サウ云フコトニナリマスガ併シ其ノ場合モ教師ト致シマシテ教壇カラ講義ヲスル以上ハ、自己ノ言ヒタクテ堪ラナイ、寧ロ生徒ニ働キ掛ケタイ、サウ云フ気持ヲ自制心デ以テ制シテ、詰リ教材ニナツテ居ル所ノ客観的ノコトヲ教ヘナケレバナラナイ、ソコニ極メテ「デリケート」ナ問題ガアリマシテ、往々ニシテ逸脱シ易イ、教師ガ或ル信仰ニ熱心ナラバ逸脱シ易イノデスガ、是モ学校ヲ政治的闘争場裡ト化シテナラナイノト同様ニ、教室ヲ宗教的ノ闘争場裡ニ化スルト云フコトハ、是ハ国家及ビ公共団体ノ教育ニ於テハ警戒シナケレバナラナイ、今後言論ノ自由ガ段々範囲ヲ広メテ行キマスニ従ツテ、サウ云フ危険モアリマスカラ、ヤハリ政治的ノ立場ト同ジヤウニ、宗教的ノ立場ニ付キマシテモ公ノ教師トシテノ資格ニ於テ自己ノ立場ニ付テ自制的態度ヲ執リ、何トナク其ノ教師ノ人格ガソコニ滲ミ出ルト云フ風デナケレバナリマセヌケレドモ、明カニ自分ノ信ジテ居ル宗教ヲ、其ノ教場デ以テ説クト云フコトハ、是ハ官公立ノ学校ニ付テハサウ云フ態度ハ適当デハナイト云フ風ニ考ヘル次第デアリマス
○左藤委員 十五年間私ハヤツテ少シモ保護者カラモ生徒カラモ問題ヲ起シタコトガナクテ、而モ私ハ打込ンデヤレルト信ズルノデアリマスガ、是ハ意見ノ相違デアリマスカラ譲リマス、第三項ノ「國及びその機關」ト云フ言葉ト、八十五条ノ「公の支配に屬しない」ト云フ言葉ト、其ノ限界ヲドウ云フ風ニ解釈致シマスカ、私立学校ハドンドン宗教的ナ教育ヲシテ宜イ、是ハ国ノ機関デナイ、サウスルト、私立学校ヘ文部省カラ補助金ヲ出ストカ、或ハ将来私立学校ト云フモノガ伸ビテ行キマス上ニ於テ、相当私ハ一般カラ寄附ヲシテ貰フ、其ノ寄附金ニモ現在ノ所ハ税金ガ課カツテ居ル、之ヲ免税ヲシテ私学ヲ大イニ振興シナケレバナラヌト思フノデアリマスガ、斯ウ云フコトモ差支ヘガナイカドウカ、或ハ最モ極端ニ申シマスレバ、私立学校ノ卒業生ニ、官公立ノ卒業生ト同ジ資格ヲ与ヘルト云フコトモ、此ノ国ノ機関ト云フコトト公ノ支配ニ属スルカシナイカト云フコトガハツキリシナイト、誤解ガ生ジ易イト思フノデアリマスガ、其ノ点ヲ御明確ニ願ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 今御尋ネノ点ノ初メノ方ノ「國及びその機關」ト申シマスルノハ、国ノ方ハハツキリシテ居リマス、其ノ機関ト申シマスルノハ、其ノ機関ノ働キガ国ノ働キト認メラルル場合ヲ言フノデアリマス、随テ普通ノ言葉デ言ヘバ、学校デ言ヘバ官立学校ノヤウナモノニ当ル訳デアリマス、公立モ国ノ働キヲ現ハスモノトシテ今日ノ如キ制度ノ下ニ於キマシテハ公立学校モ固ヨリ入リマス、ソレカラ八十五条デ「公の支配に屬しない」ト申シマスルノハ、前ニ此処デ誰カ他ノ閣僚カラ、或ハ政府委員デアリマシタカ、御説明ヲ申上ゲマシタ時ニ、私ハ聴イテ居リマシテ一寸言葉ガ辷ツタノヂヤナイカト思ツテ居リマシタガ、其ノ時ニ、公ノ支配ト云フコトノ中ニハ国ガ入ツテ居ルヤウナ口振リニ聴イテ居リマシタガ、ソレハ恐ラク言葉ノ綾デアリマシテ、ココニハ国其ノモノハ入ツテ居リマセヌ公ノ支配ト申シマスルノハ、国又ハ公共団体ノ自身デハナクテ、其ノ監督ノ下ニ在ル別ノモノ、斯ウ云フ風ナ意味ニ考ヘテ居リマス、デスカラ平タイ言葉デ言ヘバ、民間団体ニシテ而モ国又ハ公共団体ノ特別ナル監督ニ属シナイモノヲ指ス、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○左藤委員 私立学校ハドウデスカ
○金森国務大臣 私立学校ハ之ニ入リマス、私立学校ニシテ国家ノ特別ナル監督ニ属シテ居ルモノハ此処ニ入ル訳デス
○左藤委員 若干宗教ノ保護助成ノコトヲ御尋ネシタイト思ヒマスガ、文部省関係ノ法案ガ会議ニ出マセヌノデ、此ノ機会ニ宗教ノ問題ヲハツキリサシテ置キタイト思ヒマス、宗教ト云フモノハ伸スベキハ伸サナケレバナラナイガ、又間違ツタ所ハ矯メテ行カナケレバナラナイ、色々社会国家ニ先程申シマシタヤウナコトヲ宗教トシテ要求シマス上ニ於テハ、先ヅ宗教自身ガ其ノ使命ヲ果シテ居ルカドウカ、余程反省シナケレバナラナイ、宗教其ノモノハ尊重スルガ、現在ノ宗団ト云フモノハ此ノ侭デハ容認シ難イ色ンナ積弊ガアルト思フノデアリマス、殊ニ第十三条ニ鑑ミマシテ、管長或ハ一般ノ住職ノ世襲制度ト云フヤウナモノハ余程考ヘナクテハナラナイ、又宗教教師ノ資格モ余程高メナケレバイケナイ、宗教団体法ガ廃止セラレテ、宗教法人令ニナリマシタ為ニ、例ヘバ四天王寺ガ天台宗カラ独立ヲシタ、届出ヲスレバ直チニ一ツノ宗派ガ出来ル、斯ウ云フコトガ今ノ宗教界ニ色ンナ混乱ヲ惹起シハシナイカ、各宗派トモ此ノ時代ノ線ニ沿ウテ宗制ヲ改革シヨウトシテ色々シテ居リマスガ、ドウモ中途半端ノモノガ多イ、サウ云フモノヲ認可スルノハ、結局文部大臣デアリマスノデ、先程申シマシタヤウニ、残念ナガラヤハリ監督官庁ノ態度ガ、宗派ガ積極的ニ時代ニ副フカ副ハナイカノ余程大キナ動機ニナリマスノデ、サウ云フ現在ノ宗団ノ革新ト云フコトニ付テ如何ナル所信ヲ御持チデアリマスカ御伺ヒシタイト思ヒマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、只今ノ特定ノ宗教、宗派ニ付テノ革新ノ問題、殊ニ宗教教師ノ資格ナリ或ハ管長ノ世襲制度ト云フヤウナコトニ付キマシテハ、今マデハ色々認可シタリ或ハ監督シタリシテ居ツタカモ知レマセヌケレドモ、今後ノ行キ方トシテハ、サウ云フ風ニヤルベキモノデハナイト云フコトヲ我々ハ信ジテ居リマス、詰リソレヲヤリマスカラシテ宗教ヲ弾圧スルト云フヤウナコトマデ発展スルノデアリマス、是ハドウシテモ宗教ノ自治的ノ更生ト云フコトニ依ル外ハナイト考ヘテ居ル次第デアリマス
○左藤委員 神社ハ宗教ニアラズト云フ解釈ヲ以テ或ハ宗教ヲ超越シタモノト云フ解釈デ信教ノ自由ニモ拘ラズ、時ニハ強制ガマシイコトガアリ、軍部ガソレヲ利用シテ斯ウ云フコトニナツタ、今後神社ガ特権ヲ捨テテ、素裸ノ宗教トシテ「キリスト」教、仏教等ノ世界的宗教ニ伍シテ更生シテ行ク、果シテ神社ガ世界的宗教トシテ国民教化ノ上ニ此ノ侭デ力ヲ発揮シテ行キ得ルカドウカ、ソレニ対シテ文教当局トシテ、ドウ云フ風ニ御考ヘデセウカ
○田中国務大臣 御尋ネノ神社ノ今後ノ国民教化ノ上ニ於テ演ズル役割如何、サウ云フコトニ一体力ヲ持ツテ居ルカドウカト云フ御尋ネデアリマスガ、是ハ各人各様ノ意見ヲ抱イテ居ラレルコトデアリマセウシ、又神社関係者ノ努力ノ如何ニモ依ルコトデアリマスカラ是ハ御答弁スベキ筋合ノモノデハナイト思ヒマス
○左藤委員 沢山ナ社寺ガ戦災デ罹災ヲ致シマシテ、之ヲ復興スルト云フコトハ中々容易デハゴザイマセヌ、大蔵当局ハ見エマセヌガ封鎖預金等ノ関係、戦災保険ノ関係、特ニ先程申シマシタヤウニ寄附金ニ課税ヲスルト云フコトガ若シ八十五条ノ精神ニ触レマスルナラバ、非常ニ影響ガ大キイト思フノデアリマス、大蔵大臣ニ質問ヲ留保致シマスガ、文部省トシテモ十分ニ憲法ニ触レマセヌヤウニ、此ノ憲法ノ解釈ニ於テハツキリシタ見透シヲ立テテ戴キタイト思フノデアリマス、時間ガゴザイマセヌノデ最後ニ‥‥
○芦田委員長 一寸御待チ下サイ大蔵政務次官カ政府委員ハ見エテ居リマスカ――見エナイヤウデスカラ宜シウゴザイマス
○左藤委員 最後ニ十八条ノ三項及ビ八十五条ハ何レノ宗教ヲモ平等ニ取扱ハネバナラヌト云フ趣旨デアツテ、今後日本文化ノ上ニ又教育ノ上ニ宗教ノ持ツ重大意義ニ鑑ミ、公益法人トシテ租税其ノ他公課ノ減免ヲ受ケルコトヲ排斥スルモノデハナイ、是ハ文部大臣ノ御答弁デアリマシタガ、此ノ点ハ全宗教界ノ憂慮シテ居タ点デアリマスノデ、重ネテ此ノ御答弁ヲ確認致シ、全責任ヲ以テ之ヲ徹底セラルルヤウ要望致シマス、従来歴史的ニ国家ト幾多ノ関係ヲ持ツテ来タ宗教団体ガ、ココニハツキリト国家関係ヲ離レ、自主的団体トシテ活動ヲスル、特ニ最モ国家トノ関係ノ深カツタ神社ガ今日ハキリスト教、仏教ナドト同様真ノ宗教トシテ活動シナケレバナラヌ、其ノ為ニハ現行法令ニ依ツテ寺院神社ガ享有シテ居ル既得ノ権利ニ関シテ速カニ其ノ所属ヲ確定シテ信教自由ノ保全ニ万全ヲ期サナケレバナラヌト信ジマス、元来寺院ノ国有境内地ナルモノハ、最初高僧碩徳ガ霊地ヲ相シテ自ラ開拓シタモノカ或ハ信仰ニ依リ浄地ヲ寄附シタモノデアツテ、ソレヲ明治ノ初メニ謂ハバ政府ガ取上ゲテシマツテ国有地ニシタ、色々ナ経緯ノ後、昭和十四年宗教団体法ノ制定ト並行シテ之ヲ解決シ、境内地トシテ必要ナ部分ハ申請ニ依ツテ無償譲与スルコトニナツタノデアリマスガ、事実上ハ中々其ノ審査ガ捗リマセヌデ、現在ニ於テハ申請シタモノノ約三分ノ一ダケガ解決シ、残リノ三分ノ二ハ未解決ノ侭デ此ノ憲法草案ニブツカツタ訳デアリマス、文部大臣ハ此ノ点十分御理解ニナリマシテ、八十五条ハ決シテ既得権マデ取上ゲル趣旨デハナイト明言セラレマシタ、此ノ際新タニ宗教団体トナツタ神社ノ国有境内地ニ付キマシテモ、之ヲ適用セラレルカドウカ、是モ寺院ノ場合ト同様ニ、元来社有地デアツタモノガ、明治維新ノ際ニ譲地セラレタモノニ付テハ、ハツキリト解決シテ置カナケレバナラヌト思フノデアリマス、文部大臣ノ御所見ハ如何デアリマセウカ
尚ホモウ一ツ伺ヒマスガ、社寺保管林ノ件デアリマス、是レ亦明治初年社寺領ヲ譲地セシメテ国有林ニ編入シタ森林、爾後社寺ニ保護管理セシメテ、其ノ産物ノ一部ヲ社寺ノ用ニ供セシメ来ツタモノデアリマス、草案ノ趣旨ニ従ヒ、新憲法施行ト共ニ是ハ当然解除セラルベキモノデアリマスガ、此ノ保管林中ニハ従来ノ沿革上、境内地ニ準ジテ利用シ来ツタ土地ガアリマスノデ、此ノ部分ハ従来ノ沿革ト、之ニ依ツテ社寺ガ維持セラレテ居ル現状ニ鑑ミ、更ニ又災害予防ノ上カラ――森林ノ濫伐ニ依ツテ最近河川ガ荒レテ居リマスガ災害予防ノ上カラ、風致維持ノ上カラ、尊厳保持ノ上カラ、境内地ト同様苟且ニモ此ノ憲法ト矛盾スルト云フ疑ヒヲ貽サヌヤウニ、此ノ機会ニハツキリ譲渡ノ途ヲ開ク必要ガアルト存ズルノデアリマス此ノ十八条並ニ八十五条ニ依ツテ各宗教団体ハ非常ニ心配動揺致シテ居ル、宗教ノ死活問題トマデ騒イデ居リマスノデ、政府ニ於テハ此ノ際至急其ノ解決ヲ実現シテ戴キタイ、境内地ニ付キマシテハ大蔵省ノ所管デアリ、保管林ニ付キマシテハ農林省ノ所管デアリマスノデ、文部省トノ御協力ニ依ツテ是非此ノ議会中ニ之ヲ解決スベキ法案ヲ御提出戴キタイ、皇室典範ヤ参議院法ナドト違ツテ、簡明ナル問題デアリマスカラ、審議未了ト云フヤウナコトニナリマセヌヤウニ、是非御提出ノ約束ヲ願ヒタイ、ソレガ私ハ此ノ憲法ノ疑問ヲ解決シテ、全宗教界ヲ安心シテ其ノ活動ニ進マシメル途デアルト思ヒマスノデ、大蔵大臣ハ留保致シマスカラ、文部、農林両大臣ノ御答弁ヲ御願ヒ致シマス
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、寺院ノ国有境内地ノ問題ニ付キマシテ御答ヘ申上ゲマス、即チ憲法ノ草案ノ精神カラ見マシテモ神社ノ既得権ハ保護サルベキモノデアルト云フコト、寺院ノ境内地ノ既得権ヲ保護シナケレバナラナイト云フコトニ付キマシテハ、重ネテ此処デ以テ明確ニシテ置キタイト思ヒマス、又此ノ精神ガ神社ニ付キマシテモ同様デアルト云フコトモ申上ゲルコトガ出来ルノデアリマシテ、神社ガ宗教デナカツタノガ、今度制度上モ宗教ニナツタト云フコトニ依ツテ、神社ノ既得権ガ害サレルト云フ理由ハ毫モナイト存ジマス、神社モヤハリ新タニ法律ガ出来マス際ニ、同ジヤウニ取扱フコトニナツテ居ルノデアリマス、又社寺保管林等ニ付テモヤハリ同様デアリマス、是等ノ措置ハ先程御話ノヤウナ方向ニ只今整備中デ今議会中ニ出シ得ルヤウニナルト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○和田国務大臣 御答ヘ致シマス社寺保管林ノ問題デアリマスガ、之ニ付キマシテハ、今文部大臣カラ御答ヘニナリマシタヤウニ、文部省ト十分協議致シマシテ御趣旨ノ線ニ沿ツタヤウニ致シマシテ、此ノ議会ニ出シ得ルヤウニナルコトト思ヒマス
○左藤委員 両大臣ノ御答弁ニ依リマシテ、今議会ニ御提出ノ約束ヲ戴キマシテ全宗教界ガ安心ヲ致シマシタ、大蔵大臣ノ御答弁ヲ留保致シマシテ、私ノ質問ヲ終リマス
○芦田委員長 青木泰助君
○青木（泰）委員 私ノハ只今左藤サンガ質問シマシタカラ、抛棄シマス
○芦田委員長 松澤兼人君
○松澤（兼）委員 色々ト御質問ガアリマシテ大体了解シタノデアリマスガ、二三ノ点ニ付キマシテ一寸御尋ネシタイト考ヘルノデアリマス、十八条ノ「いかなる宗教團體も、國から特權を受け」ト云フ風ニアリマス、是ハ一般的ナ特権詰リ法律ヤ命令ナドニ依ツテ受ケテ居ル特権ヲ指スノデナク、先程モ御話ノアリマシタ戦時中神社ハ宗教デハナカツタト思フノデアリマスガ、神社ガ国或ハ地方公共団体カラ供進金ヲ受ケテ居タト云フヤウナ特別ナル権利特権ヲ受ケルコトハ出来ナイト云フ解釈ヲスルノデアリマスガ、其ノ通リデ差支ヘゴザイマセヌデスカ
○金森国務大臣 其ノ通リト思ツテ居リマス
○松澤（兼）委員 其ノ次ニ「いかなる宗教團體も‥‥政治上の權力を行使してはならない。」ト書イテアルノデアリマス、是ハ外国ニヨクアリマスヤウニ、国教ト云フヤウナ制度ヲ我ガ国ニ於テハ認メナイ、斯ウ云フ趣旨ノ規定デアリマシテ、寺院ヤ或ハ神社関係者ガ、特定ノ政党ニ加ハリ、政治上ノ権利ヲ行使スルト云フコトハ差支ヘガナイト了解スルノデアリマスガ如何デゴザイマスカ
○金森国務大臣 宗教団体其ノモノガ政党ニ加ハルト云フコトガアリ得ルカドウカハ遽カニ断言出来マセヌケレドモ、政党トシテ其ノ関係者ガ政治上ノ行動ヲスルト云フコトヲ禁止スル趣旨デハゴザイマセヌ
○松澤（兼）委員 我ガ国ニ於キマシテハサウ云フ例ハゴザイマセヌガ、例ヘバ「カトリック」党ト云フヤウナ党ガ出来マシテ、是ガ政治上ノ権力ヲ行使スルト云フヤウナ場合ハ此ノ規定ニ該当シナイト了解シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣 此ノ権力ヲ行使スルト云フノハ、政治上ノ運動ヲスルコトヲ直接ニ止メタ意味デハナイト思ヒマス、国カラ授ケラレテ正式ナ意味ニ於テ政治上ノ権力ヲ行使シテハナラヌ、斯ウ云フ風ニ思ツテ居リマス
○松澤（兼）委員 其ノ次ニハ例ヘバ第二項ニ於キマシテ「何人も、宗教上の行爲、祝典、儀式又ハ行事に參加することを強制されない。」ト云フ風ニアリマスガ、是ハ例ヘバ所謂宗教学校ナドニ於キマシテ、学生生徒ガ監督官庁ノ許シヲ得テ行ツテ居リマス宗教行事等ニ学生ノ参加ヲ強制スルト云フヤウナコトハ差支ヘナイモノト了解致シマスガ、如何デゴザイマスカ
○金森国務大臣 此ノ規定ハ御覧ノ如ク強制サレナイト云フコトニナツテ居リマス、随テ今御話ニナリマシタ場合、個人ニ対スル強制ニナルカドウカト云フ問題トナツテ解決ガ出来ル訳ト思ヒマスガ、恐ラク左様ナ場合ニ於キマシテハ入学スルト云フ時ニ既ニ其ノコトヲ了知シテ諒解ノ上デ入ツテ居ルト思ヒマスカラ、左様ナ場合ニハ強制ト云フコトハ起リ得ナイト考ヘテ居リマス
○松澤（兼）委員 此ノ点ニ付キマシテ田中文部大臣ノ御考ヘヲ御尋ネシタイト思フノデアリマス、宗教学校ナドニ於キマシテ、文部省カラ既ニ許可ヲ得テ行ツテ居リマスル宗教行事ナドニ、学生生徒ヲ出席サセルト云フコトハ差支ヘナイト考ヘルノデアリマスガ如何デアリマスカ
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、例ヘバ「キリスト」教系ノ学校ニ於キマシテ、正科以外ニ、或ハ「バイブル・クラス」或ハ弥撒ト云フヤウナモノニ出席ヲ奨励スルト云フコトハ、是ハ其ノ学校ノ性質上、文部省ニ於テ認メテ居ル所デアリマス、強制ト云フヤウナコトニナリマスト、是ハ宗教ノ本質ニ理論上ハ反スルコトニナリマス併シ先程金森国務相モ答ヘラレマシタヤウニ、事実上ハサウ云フ学校デアルコトヲ承知シテ入ツテ居ル訳デゴザイマスカラ、混乱ノ起ルコトハナイト思ヒマス、併シ入ツテ居ル中ニ気ガ向カナクナツテ出席シナイト云フヤウナコトモアリ得ル訳デ、サウ云フ場合ニ学校トシテ厭ガルノヲ無理ニ強制スルトシテモ、是ハ余リ効果ハナイト云フコトニナル訳デアリマシテ、ヤハリ最後ノ問題トシテハ、結局良心ヲ尊重シナケレバナラナイト云フコトニナルト思フノデアリマス
○松澤（兼）委員 重ネテモウ一点御伺ヒ致シタイノデアリマス、例ヘバ、ソレデハ学校ナドニ於テ行ツテ居リマス礼拝ニ出席サセル為ニ、出席ヲ取ルト云フヤウナコトハ行キ過ギデゴザイマスカドウデスカ
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、正科トシテ、神学校トカ何トカ云フコトニナツテ宗教ガ一ツノ学問的ノ意味ニ於テ研究サレテ居ル所ナラ、ソレハ別デゴザイマセウガ、併シ単ニ宗教教育ト云フヤウナコトニナツテ居リマスナラバ出席ヲ以テ強制スルト云フヤウナコトハ穏当デハナイ、斯ウ云フヤウニ思ヒマス
○松澤（兼）委員 第三項ノ「國及びその機關は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」先程左藤委員カラ御話ガアリマシテ大体了解シタノデアリマスガ、例ヘバ国定教科書ニ宗教家ノ伝記ヲ掲ゲタリ、或ハ又宗教的ナ行事ノ由来ヤ、沿革ナドト云フヤウナモノヲ載セルト云フコトハ、大変宗教的ナ情操ヲ涵養スルト云フ上カラ申シマシテ、適切ナコトデアルト考ヘルノデアリマスガ、斯ウ云フコトハ所謂平等ノ原則ニ立ツテ、各宗派団体ノ行事、或ハ其ノ勝レタ宗教家ノ伝記ヲ載セルト云フコトデアレバ、差支ヘガナイ訳デゴザイマスカ
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、只今御述ベニナリマシタヤウナ御意見ニ私ハ御同意申上ゲル次第デアリマス、其ノ通リデ全ク結構ダト思ヒマス
○松澤（兼）委員 天皇ハ象徴トシテ国家ノ一ツノ制度ト云フコトニナツテ居リマスガ、度々金森国務大臣ノ御説明ニ依リマシテ、政治ニ関スル権能ハ有シナイ、併シ天皇ガ御祭リヲナサツタリ、或ハ生物学ノ研究ヲサレルト云フヤウナコトハ、是ハ差支ヘガナイコトデアルト云フ御話ヲ聴イタノデアリマス、天皇、即チ国家ノ制度トシテノ天皇ガ特定ノ宗教ヲ御信ジニナルト云フコトハ、公平無私或ハ無色透明ト云フヤウナ、サウ云フ意味カラ申シマスレバ適当デナイト考ヘマスガ、サウ云フ意味デナクシテ、天皇個人トシテ特定ノ宗教ヲ御信仰ニナリ、或ハ其ノ行事ニ参加サレル、或ハ天皇デナクシテ皇室ノ場合モサウデアリマセウガ、サウ云フ場合ハヤハリ信教ノ自由ト云フ意味カラ、如何ナル宗教ヲ天皇ガ御信ジニナリ、皇室ガ如何ナル宗教ヲ御信仰ニナルト云フコトモ、差支ヘハナイモノト解釈シテ宜シウゴザイマスカ
○金森国務大臣 差支ヘナイト思ヒマス
○松澤（兼）委員 終リマス
○芦田委員長 井上徳命君
○井上（徳）委員 私ノ質問ハ、今日此ノ十八条ニ付テ質問サレタ同僚ノ方々ト殆ド変ラナイ質問デアリマスカラ、重複スル点ハ成ベク避ケテ、異ナツタ角度カラ御質問申上ゲヨウト思ヒマス、先ヅ第一ニ、此ノ十八条ノ「信教の自由は何人に對してもこれを保障する。」トアリマスルガ、此ノ意味ハ絶対ノ自由ヲ指スノデゴザイマセウカ一寸最初ニ其ノコトヲ御尋ネ致シタイト思ヒマス
○金森国務大臣 絶対ノ自由ト云フコトハ、言葉ニ色々ナ意味ガアリ得マスルガ故ニ、直チニ御答ヘハ出来マセヌガ、憲法第十一条ノ規定ト相伴ツテ、此ノ自由ガ保障サレテ居ル訳デアリマス、併シナガラ事柄ノ性質上、信教ト云フモノガ、ソレ自身ガ他ニ公益ト牴触スルコトガアラウトハ思ハレマセヌカラ、実質的ニ於キマシテハ、略々絶対ノ自由ニ近イモノト思ツテ居リマス
○井上（徳）委員 同僚ノ只今マデノ質問ニ対シマシテ田中文部大臣ノ御答弁ヲ拝聴致シテ居ツタノデアリマスガ、私モ或ル程度迄ハ同様ノ考ヘヲ持ツテ居ルノデアリマス、元来宗教ト云フモノハ、国家ノ保護ダトカ、或ハ又一方ニ於テハ制限ダトカ云フヤウナコトハナクテ、自然ニ、自由ニ、健全ニ発達スベキ性質ノモノデナケレバナラヌト思フノデアリマス、併シナガラ現在ノ我ガ国民ノ宗教的知識宗教的情操ノ水準ニ於テハ、迷信トカ、或ハ淫祠邪教トカ云フモノニ対シテノ判断ノ力ニ、マダ欠ケテ居ル点ガ幾ラモアルダラウト思フノデアリマス、随テ信教ノ自由ハ保障スルト、此ノ憲法ニ掲ゲテハアリマスモノノ、所謂社会ノ安寧幸福或ハ福祉ヲ万一妨ゲルヤウナ宗教ガアリトスレバ、ソレニ対シテハ如何ナル取締ト思シマスルカ手段ヲ講ゼラルルモノデアリマスルカ、一寸ソレヲ一ツ御質問申上ゲタイ
○木村国務大臣 信教ノ自由ハ憲法草案デ認メラレテ居ルノデアリマスルガ、苟クモ此ノ信教ノ自由ニ名ヲ藉リテ、所謂逸脱行為ガアツテ、社会ノ人心ヲ惑乱シ、社会秩序公安ヲ害スルヤウナモノハ、是ハ取締ノ対象トナルモノデアリマス
○井上（徳）委員 宗教ノ信仰ト云フモノハ、少クトモ其ノ人ニ取ツテハ絶体的ノモノト思フノデアリマス、信仰シテ居ル其ノ人ニ取リマシテハ、果シテ社会ノ秩序ヲ紊スカ、安寧幸福ヲ紊スカト云フコトハ、或ハ考ヘテ居ナイカモ分ラヌト思ヒマス、随テ其ノ安寧幸福ヲ紊ス、社会ノ福祉ヲ紊スト云フ其ノ幅ト申シマスルカ、範囲ト申シマスルカ、限界ト思シマスルカサウ云フモノヲ決メル為ニハ、余程ノ宗教的知識ト宗教的情操トガナケレバ、ソレモ決メ兼ネハシナイカト思フノデアリマシテ、随テ私がココマデ質問致シマスルノハ、サウ云フヤウナ工合ニ現在ノ国民ノ水準ト云フモノガナツテ居リマスルカラ此ノ際平和道義ノ国家ヲ建設スル為ニハ、教育ノ中ニ十分ニ宗教ヲ取入レナケレバ、私ハ此ノ道義平和ノ国家ヲ建設スルコトノ時間ガ却テ長ク掛リハシナイカ随テ此ノ第十八条ノ「國及びその機關は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」ト云フコトヲモウ一歩進メテ、寧ロ宗教教育ハ奨励スベキモノダト思ヒマスルケレドモ、サウ云フ無理ナ御註文ハ決シテ致シマセヌガ、セメテ消極的デハアリマスルガ、今マデ文部大臣ノ御答弁ニ依ツテハツキリ私ハ分ツテ居リマスルガ百尺竿頭一歩ヲ進メテ、此ノ中ニ一宗一派ニ偏シタ宗教教育及ビ宗教的活動モシテハナラナイト云フヤウナ、サウシタ修正ノ意見ヲ入レラレルコトガ出来マシタナラバ是ハ文化国家ノ建設ノ為ニソコニ大ナル余裕ト申シマスルカ、ユツタリトシタ気持ガ出来マシテ、学校教育デモ非常ニ安心シタ教育ガ出来ハシナイカト云フコトヲ思フノデアリマス、尚又若シモ文部大臣ノ御答弁ノ中ニハ其ノ気持ガハツキリ分ツテ居リマスルケレドモ此ノ侭デアリマスルト、総テノ全国中ノ各学校ニ於テ此ノ宗教教育ニ打突カツタ時ニ、必ズ是ハシテハナラナイト云フコトニ解釈シテシマヒマシテサウシテ其ノ度毎ニ例ヘバ此ノ委員会ノ速記録デモ調ベテ、実ハ文部省ノ意向デハサウデハナイト云フコトヲ一々説明ヲシナケレバナラナイ、サウ云フ立場ニナリハシナイカ知ラヌ、ソレヨリモ寧ロ此ノ際百尺竿頭一歩ヲ進メテ、ココニハツキリト一宗一派ニ偏シタ宗教教育及ビ如何ナル宗教的活動モシテハナラナイト云フヤウナコトニ書表ハシテ戴イタナラバ、ソコニ徒ラナル煩雑モ避ケラレ、又私共宗教家トシテ平和道義ノ国家建設ニ一役ヲ戴キマシテソレニ参加シテ、ドウカシテ一日モ早ク平和ナ国家ヲ作リ上ゲヨウト云フヤウナ意欲ヲ盛ンナラシムル其ノ因ニモナリハシナイカト云フヤウナコトマデ考ヘテ居ル次第デアリマス、文部大臣ノ御意向ヲ御伺ヒ致シタイノデアリマス
○芦田委員長 井上君ニ申上ゲマスガ、其ノ点ニ関シテハ只今マデ既ニ政府モ其ノ見解ヲ出シテ居ラレマス、尚ホ修正等ノ意見ハ政府ノ意向如何ニ拘ラズ、立法府トシテ自由ニ修正ヲ御提出ニナルコトハ出来ルノデアリマスカラ、政府ノ御意向ヲ御尋ネニナルコトハ何等必要ノナイコトト思ヒマス
○井上（徳）委員 分リマシタ――ソレカラ此ノ前ドナタカラカ三種ノ神器ニ付テノ御尋ネガアリマシタガ、金森国務大臣ノ御答弁ノ中ニ、三種ノ神器ハ皇位継承ノ御印ダト云フコトヲ承リマシタガ、三種ノ神器ハ熱田神宮ニモ御祀リニナツテ居ルコトヲ仄カニ承ツテ居リマスガ、神社ガ宗教トシテ出発スル場合ニ、其ノ皇位ノ継承ノ御印デアル熱田神宮、其ノ御祭神ト申シマスルカ、御神格ト申シマスルカ、サウ云フモノニ対シテドウ云フヤウニ解釈ガ出来マスカ、一寸伺ヒタイト思ヒマス
○金森国務大臣 三種ノ神器ニ関シマスル扱ヒ方ハ、固ヨリ歴史ノ伝ヘル所、剣ハ熱田神宮ニ御祀リサレテ居ルト云フコトニナツテ居リマスガ、此ノ皇位継承ノ御印トシテ現実ニ扱ハレテ居リマスル神器ハ、ソレト由来ハ密接ナ関係ハアリマスケレドモ、別ニ宮中ニ保存サレテ居ルモノデアリマシテ、熱田神宮トハ直接関係ゴザイマセヌ
○井上（徳）委員 只今左藤委員カラ質問ガアツタノデアリマスガ、第八十五条ノコトデアリマスガ、是ハ今マデ取扱ガ済マナイデ、途中デ此ノ戦争ノ為ニ神社、寺院ノ色々ナ境内地或ハ官有林ト云フヤウナモノニ対シテノ審査譲与済ノモノモアリマスシ、未処分ノモノモアリマスシ、譲与未申請ノモノモアリマスガ、総テ是等ノモノハ新タニ法令デモ出来マシテ何トカ処分サレルモノカ、或ハ其ノ侭政府ノ方デ続ケテ此ノ手続ヲシテ戴クモノカ伺ヒタイト思ヒマス
○加藤（八）政府委員 只今御尋ネゴザイマシタヤウニ、寺院ニ無償デ貸付ケテゴザイマス国有境内地ハ、戦争ノ為ニ途中デ仕事ヲ停止シテゴザイマス、ソレデ今後此ノ点ニ付キマシテハ、憲法第八十五条ノ関係カラ見マシテ、公ノ財産ヲ宗教法人ニヤルト云フヤウナコトガ出来ルモノカト云フ一応ノ疑ガアル訳デゴザイマス、デゴザイマスガ、結局現在寺院ノ使ツテ居リマス国有境内地ハ元寺院ノ土地デアツタモノヲ譲渡セシメタト云フヤウナ関係ガゴザイマシテ、サウ云フモノヲ元ノ所有者ニ返スト云フヤウナコトハ差支ヘナカラウト云フヤウナ見解ヲ以チマシテ之ヲ続行シタイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、尚ホ此ノ点ニ付キマシテ関係筋ニモソレゾレ諒解ニ当ツテ居ルノデゴザイマス
○井上（徳）委員 明治三十二年八月三日ノ勅令第三百六十一号ト云フノニ保管ノ件ニ付テ願出ノ許可ガ出テ居リマスガ、其ノ許可ニ対シテノ事柄ハ是ハ保管林ノ権利伐採ト云フヤウナコトニ付テデアリマス、詳シイコトヲ申上ゲマスト「伐採量ノ價格ノ三分ノ二ニ相當スル部分ヲ社寺ニ於テ採取スルコトヲ得但シ明治二十年以後國ノ植栽シタル樹木ニ付テハ三分ノ一、第四條ノ二ノ規定ニ依リ社寺ノ植栽シタル樹木ニ付テハ十分ノ八トス」ト書イテアリマスルガ、斯ウ云フモノガ此ノ憲法ノ第八十五条ト相触レナイデアリマセウカ、一寸其ノコトヲ御尋ネシマス
○芦田委員長 政府カラ答弁ガアリマセヌ、多分サウ云フ細カイコトハ御調ベニナツタ後デナクテハ答弁ガ出来ナイト思ヒマスカラ、留保シテ他日答弁ヲ戴クコトニ致シタラ如何デゴザイマセウカ
○井上（徳）委員 留保シテ置キマス、関連シテ‥‥宗教上ノ組織若シクハ団体ト云フヤウナモノハ、例ヘバ宗教法人令ニ依ル所ノ宗教上ノ組織団体ト云フモノハ、公ノ支配ニ属スルト解釈シテ宜イモノデアリマセウカ、兎モ角総テノ法令ニ依ツテ支配サレテ居ルモノ、或ハ神社、寺院内ニ於ケル託児所幼稚園総テサウ云フモノ、兎モ角モ国家ノ法令ガ少シデモ適用サレテ居ルモノハ、公ノ支配ニ属シテ居ルモノト解釈シテ宜イモノデゴザイマセウカ
○金森国務大臣 必ズシモ左様ニハ解ジマセヌ、多分ソレハ八十五条ニ付テノ御尋ネト思ヒマスルガ慈善、教育、博愛事業其ノモノガ公ノ支配ニ属スル、即チ公カラシテ特別ノ監督ヲ受ケテ居ルト云フコトガ必要デアリマシテ、宗教関係ニ於キマシテ公ノ支配ヲ受ケテ居リマシテモ、慈善、教育若シクハ博愛ノ事業ニ対シテ特別ノ監督ヲ受ケナイナラバ、八十五条後段ノ規定ニ関係ガナイコトニナツテ居ルノデアリマス
○井上（徳）委員 最後ニ、此ノ前ドナタカ質問ナサツタガ、ハツキリシタ御答弁ノ意味ガ分リ兼ネタノデアリマスルガ、ソレハ刑務教誨師ニ付テノ質問デアリマス、刑務教誨師ハ主トシテ宗教家ガナツテ居リマスルガ、其ノ刑務教誨師ハ一ツノ官吏ミタイナ形ニナツテ居リマスガ、サウ云フモノハ宗教家トカ一ツノ国ナラ国ノ機関ト云フ風ナモノニ対シテドウ云フ風ニナツテ行クカ、一寸伺ヒタイ
○木村国務大臣 現実ノ問題トシテ刑務教誨師ハ刑務所ニ於テ囚人ヲ訓戒善導スル為ニ職ヲ奉ジテ居ル者デアリマス、是等ノ人達ガ現実ノ問題トシテ囚人ニ対シテサウ云フコトヲスルノガ、或ハ憲法草案第十八条ノ第二項ニ該当シハシナイカドウカト云フ御質問ダラウト思ヒマスガ、是ハ御承知ノ通リ今申上ゲルガ如クニ、単純ニ囚人ヲ訓戒善導スルコトヲ目的トスルノデアリマシテ、囚人ニ宗教教育ヲ施ス訳デモナク、又一般ノ宗教ヲ布教スルト云フ目的デモナイノデアリマシテ、サウ云フコトハ一向差支ヘナイコトト思ヒマス
○井上（徳）委員 御答弁ニ対シテ総テハツキリ分ラセテ戴キマシテ感謝致シマス、是レデ質問ヲ打切リマス
○芦田委員長 池上隆祐君
○池上委員 極メテ簡単ニ御尋ネ致シマス、氏神ノ祭典ト云フモノハ、此ノ場合宗教行事ト考ヘルベキデアルカ、年中行事ト考ヘルベキデアルカ、金森国務大臣ノ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス
○金森国務大臣 具体的ノ事情ヲ正確ニハ存ジマセヌガ、大体観察カラ申シマシテ宗教行事ニナルモノト考ヘマス
○池上委員 然ラバ氏神ノ祭典ニ当ツテ国民学校ノ児童ヲ休マセルト云フコトハ、第十八条第三項ニ牴触スルモノデアルカドウカ、此ノ点ヲ御伺ヒ致シマス
○金森国務大臣 休マセルト云フコトハ、参加スルコトヲ強制スルト云フコトニハ当然ニハナラナイト思フノデアリマス、其ノ場合ニ休マセルコトガ、学校教育ノ一般ノ原則ニ照シテ妥当カドウカト云フ問題ニ帰着スルモノト考ヘマス
○池上委員 氏神ノ祭典ハ日本人ノ生活カラ遊離出来ナイ、生活ソレ自体ニナツテ居ルヤウニ考ヘラレマス、即チ氏神ノ祭典ト云フモノハ「フォールクローア」トシテ寧ロ取扱フベキモノデアツテ、厳密ナ意味ニ於ケル宗教行事ト判然ト定メルコトハドウカト思ハレルノデアリマス、農山漁村ノ祭ト云フモノハ、農山村ノ村民ノ生活ノ中ニ本当ニ溶ケ込ンデ居リマシテ而モ其ノ中ニ特定ノ教養ヲ持ツタ宗教トハ言ヒ難イヤウナ節ガ非常ニ多イ、詰リ斯ウ云フモノハ寧ロ年中行事ト、生活ノ一ツノ現ハレト云フ風ニ考ヘルベキデハナイカト云フ風ニ思フノデアリマス、我ガ国民ノ生活ニハ色々ナ点デ非常ナ特殊ナ事情ガアルヤウニ思ヒマスガ、サウ云フ私一個ノ議論ハ此ノ際御遠慮申シタイノデアリマスガ、兎ニ角第十八条ニ宗教ト云フ言葉ヲ使ツテ居ラレマスガ、此ノ宗教ト云フ言葉ハ如何ナル意味内容ヲ持ツテ居ルカ、憲法ニ於ケル宗教ト云フモノハ如何ナル定義ヲ下シタラ宜イカ、斯ウ云フコトハ非常ニ困難ナ問題ダト思ヒマスガ若シ御伺ヒ出来タラ御伺ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 御説ノ如ク宗教ノ定義ヲ与ヘマスルコトハ甚ダ困難デアリマシテ、私自身ガ其ノ任ニ堪ヘナイノデアリマス、唯一般ノ考ヘ方カラ、一応自ラ自問自答ノ形ニ於テ了解シテ居ルノデアリマスガ、少クトモ人間ヨリモ超越シタル存在ニ対シテ崇敬ノ念、願望ノ念ヲ持ツト云フコトヲ要スルニ含ンデ居ルモノト考ヘテ居リマス、先程御話ニナリマシタ氏神ノ行事ト云フモノハ、根本ハ宗教的ナ意識ノ発展カラ起ツテ居ルモノデアリマセウ、併シナガラ実際ノ事情ニ於キマシテハ、唯其ノ形ヲ踏襲シテ、其ノ中ニ含マレテ居リマスル所ノ民族慣習的ナ他ノ要素ガヨリ強クナツテ、一体何ノ神様ニ対シテ何ノ為ニ騒イデ居ルノカト云フコトハ少シモ考ヘナイデ、モツト社会生活的ナ気持ヲ含ンデ居ル、是ハ固ヨリサウデアラウト思ヒマス、デアリマスカラ、サウ云フ所ガハツキリ致シマスレバ、此ノ条文ノ予想スル範囲ヲ逸脱シテ居ルト考ヘマス、併シソレニ対シマシテモ、サウ云フ場合ニモ強制ト云フコトハ一層ヲカシクナリマシテ、先ヅ此ノ規定外ノ問題ノヤウニ考ヘラレマス
○池上委員 私ノ質問ハ是デ終リマス
○芦田委員長 第十八条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第十九条ニ付テハ別ニ発言ノ通告ガアリマセヌノデ、第二十条ヲ議題ニ供シマス――三浦寅之助君
○三浦委員 私ノ御伺ヒシタイノハ、此ノ前ノ一般質問ノ際ニ戦災復興院ノ方ガ居リマセヌ為ニ、其ノ答弁ヲ得ルコトガ出来ナカツタノデ、主ニ其ノ点ニ触レルノデアリマス、唯其ノ前ニ一点、此ノ二十条ニ於ケル居住ノ移転及ビ職業選択ノ自由、所謂居住ト云フコトハ、普通考ヘマスト、自分ノ土地ノ上ニ家ヲ持ツテ居ツテ住ム場合トカ、或ハ土地ヲ借リテ家ヲ持ツテ居ル場合トカ、或ハ家ヲ借リテ住ム場合トカ、或ハ一時焼跡ノヤウナ場所ニ「バラック」デモ拵ヘテ住ツテ居ルトカ、或ハ永久ノ住所ノ場合トカ、或ハ一時ノ居所ニ定メルト云フヤウナ、色々ノ場合ヲ包含シテ居ルト考ヘルノデアリマスガ、サウ云フヤウニ解釈シテ宜シイカドウカ、モウ一ツハ此ノ居住ノ自由ト云フ中ニハ、其ノ反対ニ居住ノ保障ト云フヤウナコトヲ意味シテ居ルカドウカト云フコトヲ、先ヅ金森国務相ノ御答弁ヲ伺ツテカラ伺ツテ見タイト思ヒマス
○金森国務大臣 居住ト云フコトハ、大体其ノ言葉ノ示スガ如キモノデアリマシテ、之ヲ一々ノ場合ニ当嵌メテ、ドレガ居住ニナルカ精密ニ具体化シナイ限リハ、ハツキリシタ御返事ハ出来ナイノデアリマス、大体御話ノ点ハ含マレテ居ルト思ツテ居リマスソレカラ居住ノ自由ノ中ニハ居住ノ保障ト云フコトヲ含ンデ居ルカト云フ御尋ネガアリマシタガ、ソレ等ノ御言葉及ビ前カラノ色々ナ御言葉ヲ総合シテ考ヘマスルノニ、或ハ居住ノ自由ト云フコトニ付キマシテ、私共ノ抱イテ居ル考ヘ方ト、質疑者ノ御考ヘニナツテ居ルノトニ差異ガアルノデハナイカト云フ疑惑ヲ持ツノデアリマス、此ノ憲法デ居住、移転等ノ自由ト申シマスルノハ、公ノ権力デ以テ其ノ居住ヤ移転ヲ妨ゲテハナラヌト云フ趣旨ニ帰着致シマシテ、事ニ依ルトソレガ私法上ノ権利等ト交錯シテ御考ヘニナツテ居ルノデハナイカト云フ疑ヒヲ予メ表明シテ、御参考ニ供シタイト思ヒマス
○三浦委員 只今ノ答弁ニハ、私ハツキリ了解ハ出来ナイノデアリマスガ、要スルニ居住ノ自由ガアリマシテモ、現実ニ居住ノ保障ガナカツタト云フ場合ニ於テハ、私ハ此ノ居住ノ自由ハ唯死文ニ化スヤウニ考ヘルノデアリマス、実際的ノ効果ハ非常ニ疑問ニ思フノデアリマスガ、併シ此ノ問題ハ此ノ程度ニ打切リマシテ、戦災復興院ノ方ニ御尋ネ致シマスガ、毎日新聞ノ記事ヲ見マスルト、去ル七月ノ五日ト考ヘテ居リマスルガ、戦災焼失戸数ガ二百十一万、疎開ガ五十五万、引揚用ノ住宅、戦時中ノ供給不足ヲ加ヘマスト、四百二十万戸ノ不足ト云フコトガ書イテアリマス、斯ウ云フヤウナ住宅不足ニ対シマシテ、復興院当局ハ如何ナル対策ヲ持ツテ居ラレマスルカ、其ノ問題ヲ御伺ヒシタイト思ヒマス
○芦田委員長 三浦君ニ申シマスガ、居住ノ自由ト復興建築ノ問題トハ多少関連ガ遠イヤウニ考ヘマス、無論サウ云フ問題ヲ此ノ議会デ論議サレルコトニ毛頭異存ハアリマセヌガ、御承知ノ通リ質疑ノ申込ハ尚ホ七十名残ツテ居リマス今日ノ速度ヲ以テスレバ、マダ十日間質疑ヲ続ケテモ、此ノ日程ハ終了スル見込ガアリマセヌ、サウ云フ機会デアリマスカラ、成ベク復興建築ノ問題等ハモツト関連ノ多イ予算総会等ニ御譲リヲ願ツテ直接第二十条ニ関連ノアル問題ヲ御審議下サルヤウニ希望致シマス（拍手）
○三浦委員 ソレデハ一切打切リマス、唯一ツ移転ノ自由デアリマスガ、今日ノヤウナ家屋ノ不足ノヤウナ場合ニ於テ、而モ家主、或ハ地主ノ都合ニ依ツテ、此ノ僅カ六箇月ト云フヤウナ期間ニ於テ法律上ニ於テ明渡ヲ請求サレルヤウナコトガアツタリ、或ハ疎開ヲスルヤウナ場合ニ於テ、折角留守番ニ頼マレテ入ツタノガ、今度ハ終戦後帰ツテ来ルト云フヤウナコトデ、復帰スル為ニ、色々明渡ヲ請求サレルト云フヤウナ問題ガ沢山起キテ居ルノデアリマスガ、サウ云フヤウナコトハ、此ノ憲法ニ保障サレル居住ノ移転ノ自由ヲ阻碍スルヤウニモ思フ、此ノ趣旨カラ言ツテモ明渡ノ禁止ト云フヤウナコトハ相当緩和シナケレバナラナイヤウニ考ヘルノデアリマスルガ此ノ点ニ対スル御意見ヲ伺ヒマス
○木村国務大臣 御承知ノ通リ此ノ憲法ト云フモノハ大原則ヲ定メタモノデアリマシテ、今御説ノ事柄ハ総テ是ハ私法上ニ関スルコトデアリマス、ソレハ又、私法ノ問題トシテ十分ニ考慮シタイト思ヒマス
○三浦委員 ソレデハ実ハ私ノ質問ハ主ニ此ノ前残ツテ居ル戦災復興院関係デアリマスカラ、御注意ニ依リマシテ是デ打切リマス
○芦田委員長 塚田十一郎君――欠席ノヤウデアリマス、第二十条ニ関連シテ山崎岩男君
○山崎（岩）委員 第二十条ニアリマスル所ノ職業選択ノ自由、此ノ職業選択ト云フコトノ中ニハ、内務省令県令等デ言ヒマスル所ノ営業権ト言フモノモ含ンデ居ルカドウカ、其ノ点御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス、モツト便利ナラシムル為ニ御話申上ゲマスレバ、職業ノ自由等ヲ認メラレテ居リマシテモ例ヘバ宿屋業ヲヤルトカ、或ハ料理店業ヲヤルトカ云フヤウナコトニナリマスルト、内務省令トカ或ハ府県令ノヤウナモノノ拘束ガアル訳デアリマス、其ノ場合ニヤハリ公共ノ福祉ト云フコトニ依ツテ取扱ハレ、其ノ許可ガナイト云フコトニナレバ、色々困ツタ事情ガ起キマスノデ、ソレデ御尋ネ申上ゲマス
○金森国務大臣 此ノ規定ハ職業選択ノ自由ト云フノデアリマシテ此ノ着想ハ、例ヘバ職業ハ――斯ウ云フコトハ今ハナイカモ知レマセヌガ、親譲リノ職業デナケレバナラナラヌト云フヤウナ不合理制度ガ此ノ世ノ中ニアルベキモノデハナイ、又或ル人ニ対シテ特ニ或ル職業ヲ禁止スル、例ヘバ盲デナケレバ按摩業ト云フモノハ許サナイト云フヤウナ、特殊ナ制限ヲ附ケテハイカヌト云フコトノ内容ヲ持ツテ居ルモノデアリマス、今ノ宿屋等ノ許可ト云フモノハヤハリ公共ノ福祉ニ反シナイ限リハ濫リニ其ノ従業ヲ禁止スルコトハ出来ナイコトニナルト思ヒマス
○山崎（岩）委員 国務大臣並ニ文部大臣ニ御尋ネ申上ゲタイノデスガ、文部大臣ハイラツシヤイマセヌカラ、後デ其ノ答弁ヲ戴クコトニシマシテ、学校ノ卒業生ノ職業ノ問題ニ付キマシテ一寸御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス、学校ノ卒業生ハ学校ヲ卒業シタト云フ卒業証書ノ力ニ依リマシテ、只今ノ所デハ非常ニ優遇サレタ所ノ地位ニ就イテ居タ、ソレヲ此ノ機会ニ学校卒業生ニ対シテモ見習期間ト云フモノヲ設ケテ、例ヘバ工科大学ヲ出テモ一職工カラ叩キ上ゲテ、サウシテ自分ノ腕ト頭ト力ト云フモノヲ並行サシテ行ク、ソレデ初メテ私ハ民主主義的ニ、ドナタニ対シテモ門地ニ拘ラズ、学歴、学閥ニ拘ラズ、本当ニ機会均等ガ与ヘラレル、斯様ニ考ヘルノデアリマス、曽テ警官ヲ採用スルニ付キマシテモ、大学ヲ卒業シタ人デモ巡査デナケレバ採用シナイト云フコトニナツテ居ツタ、ソレデ大学ヲ卒業シタ人デモ巡査カラ叩キ上ゲテ立派ナ警官ニナツテ居ルノデアリマス、其ノヤウニシマシテ、私ハ学校ノ卒業生ニ対シテモ、職工サント同様ニ下級ノ地位ノ者カラ叩キ上ゲテ行ツテ訓練ヲシテ行クサウシテ初メテ私共ノ民主主義的ナル本当ノ職業ヤ地位ト云フモノガ洗練サレテ行クト云フノデナケレバ困ルト考ヘテ居リマス、其ノ点ニ付テ国務相ハドウ御考ヘニナツテ居ルカ、御尋ネ申上ゲマス
○金森国務大臣 概括的ニ、無条件ニ御答ヘスルコトハ困難デアリマスケレドモ、今御話ニナリマシタヤウニ民主主義ノ見地ヲ執ツテ本当ニ職業ノ選択上ノ公正ヲ期シマシテ、偶々学校ヲ出タカドウカト云フコトニ依ツテ職業選択上ノ利便ガ特ニ多カツタリ少カツタリスルコトハ宜シクナイノデアリマシテ、此ノ憲法ノ趣旨カラ申シマスレバ、今御話ニナリマシタヤウナ所ヲ大イニ尊重シテ行クベキモノト考ヘテ居リマス
○山崎（岩）委員 終リマシタ
○芦田委員長 第二十条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、次ニ第二十一条ヲ議題ニ供シマス――高橋英吉君
○高橋（英）委員 二十一条ノ「學問の自由は、これを保障する。」ト云フノデアリマスガ、是ハ二十四条ノ教育ノ機会均等ノ条文ト相表裏スル所ノ条文デアルト考ヘマスナゼ二十一条ト二十四条ト離レテ規定サレテ居ルカト我々浅学ノ者ハ一応疑ヒヲ持ツノデアリマス、学問ノ自由ト云フノハ、教育ヲ自由ニシタラドウカト云フヤウナ説ヲ先輩ガ言ハレタコトモアルヤウデアリマスケレドモ、学問ノ自由ト云フ方ガ意味ガ広イト云フ風ニ私共考ヘテ居リマス、併シ二十一条ニ依ツテ学問ノ自由ハ保障サレマスガ、果シテ是ガ本当ニ保障サレタト云フコトニナリマスカドウカ、三浦君ガ只今申上ゲマシタヤウニ、是ガ死文ニナルノデハナイカ、所謂画イタ餅ト云フコトニナルノデハナイカト云フコトガ疑ハレルノデス、即チ教育ノ機会均等ハ二十四条ニモ謳ツテアリマス、二十一条ニ学問ノ自由ガアリマス併シ今日ノ教育制度、今日ノ社会制度デハ結局学問ノ不自由ト云フコトニナルノデハナイカ、教育ノ平等、自由、機会均等ト云フモノハ唯単ニ看板ノミデアツテ、実質ハ伴ハナイモノデハナイカ、即チ教育ノ不平等、不自由、不均衡ガ現在ノ社会ノ状態デアリ、又此ノ憲法ダケデハ相変ラズ将来ト雖モ教育学問ノ不自由、不平等、不均衡ト云フモノガアルノデハナイカト考ヘラレルノデアリマス、即チ如何ニ優秀ナル頭脳ヲ持ツテ居リマス者デモ、学資ガナケレバ結局均シク教育ヲ受ケル権利ガアリマシテモ、学問ノ自由ガアリマシテモ、其ノ学問ノ自由ヲ享受スルコトガ出来ナイ、均シク教育ヲ受ケルコトガ出来ナイト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、随テ私ハ斯ウ云フ前置キハ除イテ簡単ニ質問致シマスガ、学問ノ自由ト二十四条ノ教育ノ機会均等ト云フモノハ、或ル点ニ於テ相表裏シテ居ルト思ヒマスガ、即チ学問ノ自由ト云フ根本的ナ精神カラ出発シテ、第二十四条ノ初等教育ダケ国民ガ義務教育トスルト云フ風ナ条文、之ヲ義務教育ト云フノハ国民ノ方デ義務ヲ負フモノデハナイ、却テ国家ガ義務ヲ負フノデアル、即チ全国民ガ其ノ能力ニ応ジテ最高ノ教育ヲ受ケ得ルコトハ権利デアリ国家ガ其ノ教育ヲ均シク其ノ能力ニ応ジテ最高ノ教育ヲ施スト云フ義務ガアル、国家ノ徹底的責任負担制度ガココニ確立サレナケレバナラナイト思フノデアリマスガ、之ニ対スル政府ノ所見ハ如何デアリマセウカ、私ガ申上ゲルマデモナク、今回ノ大東亜戦争コソハ或ル意味ニ於テハ、私共ハ岩ト卵ノ戦ヒデアツタ、打突カリ合デアツタト考ヘテ居ル、誰ガ考ヘテモ日本ガ負ケルコトガ分ツテ居ル此ノ戦争ヲナゼ始メタカ、是ハ即チ従来総合的教育制度ガ日本ニ発達シテ居ナイガ為ニ、総合的ノ思考力ガ日本国民ノ間ニ発達シナイ、偏狭ナ思考力シカ発達シテ居リマセヌガ為ニ、ソレガ即チ独善トナリ驕慢トナツテ大東亜戦争ガ始マツタ勝敗ノ数ガ戦前ニ於テ誰ガ考ヘテモ――少シク総合的ノ思考力ヲ持ツテ居ル者ガ考ヘマスレバ、直チニ分ルヤウナ此ノ結論ガ考ヘ得ラレナカツタ所ニ、日本ノ従来ノ偏ツタ教育ノ弊害ガアルト思フノデアリマス、随テ全国民ニ総合的ナ思考力、判断力ヲ養ハス意味ニ於テモ、個性ノ完成ニ依リ平和国家ト言ヒマスカ、文化国家ト言ヒマスカ、民主国家ノ確立ヲ期スル上ニ於テモ、此ノ教育問題ガ結局根本問題ニナルト思フノデアリマスガ、之ニ対シテ現在ノ国情ニ於テハ殊ニ財政トカ経済的事情ニ於テ全国民ニ其ノ適性ニ応ジテ最高ノ教育ヲ施ス程ノ日本ノ国情デナイトシマスナラバ、事情ノ許ス限リトカ、法律ノ定ムル所ニ依リトカト云フコトデ、無償デ其ノ能力ニ応ジテ等シク最高ノ教育ヲ受ケサス所ノ義務ガアルト云フ風ナ意味ノ国家ノ教育ノ徹底的責任負担制度ノ確立ト云フ風ナ条文ガ必要デハナイカト思フノデアリマスガ、之ニ対スル政府ノ御所見ハ如何デアリマセウカ
○金森国務大臣 只今御尋ネノ順序トシカ初等教育ヲ受ケサセルノハ保護者ノ義務デアルケレドモ、本質的ニハ国家ノ義務デアルト云フ風ニ御示シニナツタノハ御尤モト考ヘテ居リマシテ、全ク其ノ趣旨デアリ、我々ノ国家ヲ平和ノ方面ニ、又建設ノ方面ニ向ツテ発展セシメマスル上カラ、左様ナ大キナ考ヘ方ヲ以テ未来ノ国民ヲ教育シテ行クコトハ、極メテ望マシイコトト考ヘテ居リマス、此ノ憲法ハ其ノ趣旨ヲ以チマシテ第二十四条ニ等シク教育ヲ受クル権利ヲ確保致シテ居リマスケレドモ、併シ御質問ノ中ニ既ニ御示シニナリマシタヤウニ、高等ノ教育ヲ無償ヲ以テ優レタル能力ノアル人ニ行ツテ行キマスルニ付キマシテハ、現実ノ社会ニ適応スル制度ヲ以テ具体化サセテ考ヘテ行カナケレバナリマセヌ、此ノ憲法ハ教育ノ機会均等ヲ、ハツキリサセルト共ニ、ソレ等ノ問題、今御示シニナリマシタヤウナ問題ハ、漸次国ノ一般ノ政務ガ最モ重要ナルモノトシテ之ヲ実現セシムルヤウニ努力シテ行キタイト云フ前提ノ下ニ、第二十四条ヲ規定致シマシタノデアリマス、此ノ際内容ガマダ不確実デアルニ拘ラズ、憲法ノ中ニ輪廓ダケヲ設ケマスルコトハ、必ズシモ適当ナモノデハナイヤウニ考ヘマス
○高橋（英）委員 現実ニ事情ガ許サナイノニ輪廓ダケヲ設ケルト云フコトハ、憲法トシテ妥当デハナイト云フ御意見ノヤウデアリマスルガ、是ハ憲法コソ現実ニ即シテバカリデナク、モツト大キナ所カラ即チ理想境ヲ建設スルト云フ意味カラ、弾力性ノアル条文ニ依ツテ、弾力性ノアル無償ト云フ文字ヲ入レルコトモ出来マセウシ、最高ノ教育ト云フ文字ヲ入レルコトモ出来ルト思ヒマスガ、サウ云フコトニ対スルモツト何等カ現実ト理想トガ合致スルヤウナ調整ノ取レタヤウナ条文ヲ御発見下サルヤウナ御気持ハナイカドウカ、ソレト仮ニドウシテモサウ云フ風ナ適当ナ条文ガ作レナイト云フコトニナリマスルナラバ、結局前提トシテ申上ゲマシタヤウニ、是ハ画イタ餅ニナル虞ガアルノデアリマス、現在ノヤウニドウ云フ風ニ優秀ナ頭ヲ持ツテ居ツテモ、学資ノナイ者ハ最高ノ教育ガ受ケラレナイ、進学ノ道ガ鎖サレテ居ル、狭イ門デアリ、限ラレタ人数デアリマスル以上ハ、是ハ現在トサウ大シタ違ヒガナイト云フコトニナルト思フノデアリマスガ、此ノ学資ノナイ貧窮ナ人ト言ヒマスカ、兎ニ角子弟ヲ其ノ能力ニ応ジテ進学セシメ得ナイ者ニ対シテ、何等カノ特典ヲ与ヘル用意ガ此ノ憲法ノ具体的ノ裏付ケトシテ御考慮ノ中ニアリマスカドウカ、此ノ点モ御聴キシタイト思フノデアリマス、大体私共ハ人間ノ最低生活、衣食住ト云フモノハ、是ハ欠クベカラザルモノデアルト思ヒマスガ、苟クモ文化的ノ人類トシテノ生活ヲ送リマスル為ニハ、教育ト医療ト育児、此ノ三ツノ国家ノ徹底的ナ責任負担制度ガ確立シナケレバ、ココニ人類ノ理想境ハ現出シナイト考ヘテ居リマス、衣料ノ問題ニ付キマシテ――是ハ私委員ヲ辞任スルカモ知レマセヌノデ‥‥
○芦田委員長 高橋君ニ一寸申上ゲマスガ、アナタハ二十一条ト二十四条トヲ御間違ヒニナツテ居ルト思ヒマス、今ハ学問ノ自由ト云フコトヲ論ジテ居ルノデアリマシテ、教育ノ問題ヲ二十四条デ御質問下サルナラバ‥‥
○高橋（英）委員 学問ノ自由ニ関連シテ面倒クサイカラ‥‥
○芦田委員長 ソレハ違フノデス学問ノ自由ト云フコトト教育ノ均等ト云フコトハ、二ツニ書分ケテアリマスカラ‥‥
○高橋（英）委員 裏付ケテ何シテアリマスカラ一寸ヤリマシタノデ其ノ代リ二十三条ト二十四条ハヤリマセヌカラ一寸ココデ御願ヒ致シマス、結局只今申上ゲマシタヤウニ、大体ニ於テ所謂文化的ナ社会的ナ規定ガ非常ニ少イト思フノデアリマスガ、少クトモ此ノ学問ノ自由ト云フ具体的ノ裏付ヲ二十四条ニ依ツテモツト確カニシテ戴キタイト思フノデアリマスガ、其ノ点ニ対スル政府ノ御所見ハ如何デアリマスカ
○田中国務大臣 御答ヘ申上ゲマス、中等教育以上ノ教育ヲ受ケル者デ、学資ガ足リナイト云フヤウナ問題ニ付キマシテ、ドウ云フ制度ガ考慮サレナケレバナラヌカト云フ御尋ネデアリマスガ、之ニ付キマシテハ御承知ノ大日本育英会ト云フ財団ガゴザイマスシ、又各地方ニモソレゾレ沿革ヲ持ツタ育英会ト云フモノガゴザイマスノデ政府ト致シマシテハ、此ノ育英会ノ制度ヲ十分能ク運営致シマシテ更ニ規模モ拡張スル必要ガゴザイマスノデ、今年度ノ予算ト致シマシテハ、前年度ニ比較シマシテ約五倍位ノ予算ヲ要求致シマシタ、是ハ物価ノ騰貴ニモ依リマスケレドモ、或ハ罹災者ナリ、或ハ引揚学徒、其ノ外特ニ補助、貸与ヲ要スル者ガ多々ゴザイマスノデ、拡張致シタヤウナ次第デゴザイマシテ、今後一層此ノ制度ヲ十分活用シテ行キタイト思ツテ居リマス
○高橋（英）委員 私ノ質問ハ是デ終リタイト思ヒマスガ、大体学問ノ自由ト教育ノ均等ト云フ風ナ二十四条ト二十一条ハ、委員長ノ御示シノヤウニ違ツテ居ル、区別ガアルコトハ、私モ此ノ条文ガ別ニシテアルノデ十分分ツテ居リマス同僚ノ中デモ色々私語ノ中ニ御注意ガアリマスガ、此処デヤツテ居ルト自分ハ宜イコトヲ言ツテ居ルヤウニ思ヒマスケレドモ、聴イテ居ル方カラ見マスト色々批判スベキ点ガアルノデ、オ互ヒニ批判ノ自由トカ、言論ノ自由ハ成ベク制限セヌヤウニ、又弥次ヲ飛バサヌヤウニシテ戴キタイト思ヒマス、委員長ノ職責マデ侵サレヌヤウニ御願ヒシタイト思ヒマス、大体私ハ二十三条、二十四条ニ付テモ質問ノ通告ヲ致シテ居リマシタガ、地方制度改正委員会ノ委員ニナツテ、其ノ方ヲ熱心ニヤレトノ話デアリマスカラ、私ハ恐ラク本委員会ニ再ビ此ノ上出席スルコトハナカラウト思ヒマスノデ、学問ノ自由ト相関連スル所、相表裏スル所ガアルト思ツテ少シ逸脱シタ質問ヲ致シマシタガ、今後外ノ委員ノ方ガ之ヲ悪用シテ私ノヤウナ態度ニ出デラレヌヤウニ希望致シマシテ、私ノ質問ヲ終リマス（笑声）
○芦田委員長 大島多藏君
○大島（多）委員 二十一条ニハ「學問の自由」ト云フコトガゴザイマス、此ノ「學問の自由」ト云フノハ勿論大体分ツテ居リマスケレドモ、ヤハリ自分ガ独リ了解シテ居ツテ、実際ニ於テ違ツテ居ツタト云フヤウナコトガアツテハナラヌカラ、「學問ノ自由」ト云フノハドウ云フ範囲ノコトヲ言フノカ、一寸御伺ヒ致シタイト思ヒマス、ソレカラ「保障」ト云フ言葉ガゴザイマスガ、此ノ「保障」ト云フ言葉ハ私ハ法律ノ方ハ余リ詳シク存ジマセヌノデ、此ノ「保障」ト云フモノハ法的ニドウ云フ風ナ内容ヲ持ツテ居ルモノカ、幾度モ「保障」ト云フ言葉ガ出マスガ、ソレヲ御教ヘ戴キタイト思ヒマス
○金森国務大臣 「學問の自由」ト申シマスルノハ、学問ヲスル方法又学問ノ内容、又学問ニ依ツテ得タル所ノ結論ト云フ面ニ亘リマシテ、国家ヨリ干渉ヲ受ケ、其ノ研究者ノナサント欲シ、定メント欲スル所ヲ妨ゲラルルコトガナイト云フ意味デアリマス、「保障する。」ト申シマスルノハ、公ノ権力ヲ以テ其ノ伸ビテ行ク本人ノ働キヲ妨ゲナイト云フコトデアリマス、言フマデモナク、此ノ憲法ノ建前ガ此ノ第三章ニ関シマスル限リ、概ネ個人ノ立場ヲ十分自由ニ伸バサセヨウ、外部カラシテ公ノ権力ヲ以テ之ニ対シテ制限圧迫ヲ加ヘナイ、斯ウ云フ趣旨デアリマス、目的ト致シマシテハ、斯様ニ致シマセヌケレバ人類全体ノ行クベキ本来ノ道ヲ誤ルニ至ルト云フコトヲ避ケント欲スル趣旨ヲ眼目トシテ居リマス、従来ノ日本ノ実情ヲ御覧ニナレバ分リマスルヤウニ、又過去ニアリマシタ所ノ多クノ場合ヲ御覧ニナレバ分リマスルヤウニ一ツノ政治的ナル権力ガ、自分達ノ行動ヲ思フヤウニ発展セシメヨウト致シマスルト、各人ガ其ノ心ノ自然ノ伸ビ方トシテ学問ヲ研究致シマスル所ニ、大イナル妨ゲヲ生ズル訳デアリマス、噂ニ上ツテ居リマスル秦ノ始皇帝ガ学者ヲ穴埋メニシタトカ、書物ヲ焼払ツタトカ云フノハ古イ事例デアリマスルシ、近クハ我々ガ多ク身辺ニ之ヲ経験シタ所デアリマス、随テ是ハ憲法ニ掲ゲテ大イニ保障スルコトハ独リ当然デアルバカリデナク実際的ノ必要性ガ多イ訳デアリマス、之ヲ現実ノ場面ニ例ヲ取ツテ考ヘテ見マスレバ、個人、自己ノ研究室ニ於キマシテ、思フヤウニ研究シテ行クト云フコトヲ国家ノ力ヲ以テ妨ゲルト云フノモ、此ノ学問ノ自由ノ保障ノ侵害ニナル訳デアリマス、或ハ又数人ノ人ガ集マツテ共同研究ヲスル、或ハ又更ニ大イナル組織、例ヘバ大学ヲ形作ツテ、其ノ中ニ於テ共同研究ヲスルト云フコトヲ妨ゲマスルノモ又是ノ侵害ニナル訳デアリマス、又或ル学問ノ行キ途ニ対シテ、予メ権力ヲ以テ制限ヲ附ケマシテ、「ダーウィン」ノ進化論ハ信奉スベカラズト云フヤウナ風ニ致シマスルナラバ、学問ノ研究ノ自由ヲ妨ゲルモノデアリマスルシ、昔アリマシタヤウニ天動説地動説ノ争ヒヲ権力ヲ以テ解決シヨウト致シマスレバ、学問ノ自由ヲ妨ゲルノデアリマス、要スルニ一切ノ関係ニ於テ、其ノ方法タルト内容タルトヲ問ハズ、各人正シイト思フ道ニ従ツテ学問ヲシテ行クコトヲ、国家ガ権力ヲ以テ之ヲ妨ゲナイト云フコトデアリマス、其ノ輪廓ハ如何ナル範囲ニ於テ是ガ保障セラレテ居ルカト言ヘバ、大体学問ト云フモノノ性質カラ見マシテ、先ニ宗教ノ場合ニ付テ述ベマシタト同様ニ、略々絶対的ノ自由ニ近イモノト思ヒマス、併シ憲法上ノ理論ノ根底ト致シマシテハ、ヤハリ第十一条ガ其ノ枠ヲ作ツテ居リマシテ、最後ニハ法律ガ若シモ其ノ自由ヲ妨ゲタカドウカト云フ問題ガ起リマスレバ、最高裁判所ノ審判事項トナル訳デアリマス
○大島（多）委員 御丁寧ナ御説明デ能ク分リマシタ、是ハ御参考マデニ御聴キシタイコトデアリマスガ、現在ハ連合軍ノ指令ニ依ツテ原子力ノ研究トカ航空科学ニ関スル研究トカ、サウ云フ研究ト云フモノヲ禁ゼラレテ居ル次第デアリマスガ、此ノ憲法ノ規定トドウ云フ法的ナ連関性ガアルモノカ、サウ云フ所ヲ一寸御伺ヒシタイト思ヒマス
○金森国務大臣 学問ノ自由ハ固ヨリ憲法ノ認ムル所デアリマシテ公益ニ反スレバ十一条ノ枠ニ依ツテ抑制セラルルコトハ、又已ムヲ得ナイノデアリマス、現在ノ情勢ニ於キマシテ、今御話ニナリマシタノハ、公益ト云フコトカラ生ズル枠ノ中ニ存在スルモノト了解シテ居リマス
○大島（多）委員 私ト致シマシテハ公益ニ関スルカラ止メラレテ居ルトハ、ドウモ一寸腑ニ落チナイ所ガゴザイマスガ、サウデゴザイマセウカ
○金森国務大臣 私ハ左様ニ考ヘテ居リマス
○大島（多）委員 ソレカラ是ハサツキノ高橋代議士ト同ジヤウナコトニナルカモ知レマセヌガ、一寸私トシテハ教育ニ関シテノ質問ヲスル機会ガ将来ゴザイマセヌノデ‥‥
○芦田委員長 大島君ニ申上ゲマス、高橋君ニ自粛願ツタコトヲ、アナタニ御許シスル訳ニ参リマセヌ、文部大臣ト話サレル機会ハ、此ノ委員会以外ニ幾ラデモアリマス
○大島（多）委員 ソレデハ其ノ機会ニ譲リマス
○芦田委員長 第二十一条ニ対スル質疑ハ終リマシタ、明日ハ午前十時ヨリ開会致シマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
午後四時四十七分散会