小委員会 昭和21年7月29日（第4回）

昭和二十一年七月二十九日（月曜日）
　　　　午前十時四十五分開議
　出席委員
　　　委員長　芦田　　均君
　　　　　廿日出ひろし君　　　　江藤　夏雄君
　　　　　　犬養　　健君　　　　吉田　　安君
　　　　　　鈴木　義男君　　　　森戸　辰男君
　　　　　　林　　平馬君　　　　大島　多藏君
　　　　　　笠井　重治君　　　　北　れい吉君
　　　　　　高橋　泰雄君　　　　原　夫次郎君
　　　　　　西尾　末廣君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　―――――――――――――
　本日ノ会議ニ付シタ議案
　　帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長　会議ヲ開キマス、本日ハ昨日ニ引続イテ第二章ノ修正ヲ御相談致シマス、昨日ハ色々第九条ノ修正案ニ付テ意見ガ出マシタガ、今朝来早ク此ノ席ニ来ラレタ委員諸君ト相談ヲシタ結果、斯ウ云フ文字ニシタラドウカト云フ試案ガ一ツ出テ居ルノデスガ、ソレヲ御協議ヲ願ヒマス、便宜ノ為に私一寸読ミマス、此ノ案ハ第二項ノ現在ノ字句ガ余リ気ニ入ラナイカラ、ソレヲ修正スルト云フ趣意ヲ兼ネテ斯ウ云フ文字ニシタラドウカ、「日本國民は、正義と秩序とを基調とする國際平和を誠實に希求し、陸海空軍その他の戰力を保持せず。國の交戰權を否認することを聲明す。」ト第一項ニ書イテ、ソレカラ現在ノ第一項ヲ第二項ニ持ツテ来テ「前掲の目的を達するため、」、サウシテ第一項ノ「國權の發動たる戰爭」云々ト斯ウ云フヤウニシタラドウカト云フ試案ナノデス、サウシテ第二項ノ「他國との間の紛爭の解決の手段」ト云フ文句ガ、如何ニモ持ツテ廻ツテダラダラシテ居ルカラ、之ヲ「國際紛爭を解決する手段」ト直シタラドウカ、ソレカラ「否認」ニスルカ、「抛棄」ニスルカト云フコトニ付テ、昨日大分意見ガアツタヤウデスガ、「否認」ト云フノハ意見ガ少数ノヤウニ見エマシタカラ、戦争ノ「放棄」トスルガ、其ノ「ホウ」ハ漢字制限ノ意見ヲ入レテ「放」ト云フ字ニシタラドウカト云フ意見ガ出テ居ルノデス、手扁ノ難カシイ字ヲ止メテ……
○廿日出委員　「國權の發動たる戰爭」ト云フノヲ「國權の發動による戰爭」トスルノガ宜イノデハナイカト思ツテ、随分考ヘテ見タノデスガ……
○芦田委員長　意味ハサウ云フコトデセウネ、「國權の發動による戰爭」ト云フコトデセウ、併シ翻訳ヲスルト国権ノ発動トシテノ戦争ト云フコトニナリマス
○原（夫）委員　ヤハリ「國權の發動たる」ト云フノガ語呂ガ宜イシ、意味モ同様デアルシ、其ノ下ニ又「武力による」ト云フノガアルノデスカラ、ヤハリ案ノ通リニシタラ宜イノデハナイカト思ヒマス
○吉田（安）委員　只今ノ委員長ノ修正案ニハ、進歩党ニ異議アリマセヌ、賛成デス
○林（平）委員　改ツタ第一項ノ「その他の戰力を保持せず」デスガ、「保持しない」デハナイデスカ
○芦田委員長　「保持しない」トスルト続クノニ一寸切レテシマヒマスネ
○林（平）委員　「保持せず」トスルト、口語体ニナラナイデハナイデスカ
○芦田委員長　口語体デサウ云フコトヲ言ヒマセヌカ
○林（平）委員　「保持せず」ト言ヒマスカネ、差支ヘナケレバ修正案ニ賛成デス
○高橋（泰）委員　今ノ修正ニ賛成デス、ソレデ今林君カラ御話ノアツタ「保持せず」ト云フノハ差支ヘナイト思ヒマス、幾ラモ口語体デ斯ウ云フ使ヒ方ヲシテ居ル、ダカラヤハリ先程委員長カラ御朗読ノ通リ「國の交戰權を否認することを聲明す。」、是デ差支ヘナイト思ヒマス
○吉田（安）委員　私モ今ノ高橋サンノ言ハレルコトニ賛成デス、林サンノ言ハレルヤウニ「しない」トスルト、如何ニモ文章ノ繋リガ変ナヤウニモ考ヘラレマスルシ、ヤハリ「せず」デ宜クハナイカト思ヒマス
○林（平）委員　賛成イタシマス
○笠井委員　是ハ私賛成デゴザイマス、而シテ今ノ林君ノ御説ハ「保持せずして」トシテハ如何デゴザイマセウ、「保持せずして、國の交戰權を否認することを聲明す。」云々……
○吉田（安）委員　一寸ヲカシイネ
○笠井委員　イケマセヌカネ
○原（夫）委員　ドウモ「して」トスルト何ダカ語呂ガ弱クナツテ、繋リモ悪イカラ、ヤハリ是デ宜イヂヤナイデスカ、唯「否認することを聲明す」ヲ「聲明する」ト「る」ヲ付ケル
○芦田委員長　ソレハサウデスネ
○吉田（安）委員　是ハ必要カモ知レナイネ
○芦田委員長　其ノ方ガ口語ニナリマスネ
○大島（多）委員　私ノ方モ今度ノ修正案ニ賛成デアリマスガ、此ノ声明スルト云フ所ハ、宣言スルトシタ方ガ力強イ感ジハ致シマスネ
○芦田委員長　私モ一寸宣言スルト考ヘテ見タノダガ、ドツチガ良イカハツキリ確信ナクシテ、声明ト云フ方ヲ先ニ御相談シタノデス、併シ此ノ方ハ皆サンノ御相談デドツチニナツテモ私ハ宜イト思ヒマス
○大島（多）委員　私ハ何ダカ宣言ノ方ガ力強イヤウナ気ガシマス、是ハ主観的ナモノカモ知レマセヌガ……
○吉田（安）委員　大島君ノ宣言ノ方ガ宜イデスナ
○原（夫）委員　私モ此処ハ真剣ナ所デスカラ、宣言スルト云フ方ガ力強クテ宜イヤウナ気ガシマス
○鈴木（義）委員　宣言トカ声明トカ云フコトハ、法律ノ「テクニック」トシテ前文ニハアリマスガ、条文ノ中ニハナイト思フノデス、此ノ用語ハ考ヘナケレバイケマセヌ、佐藤サンドウデセウ、世界的ニモ立法例ニナイデセウ、宣言スト云フ法律文ハ……
○原（夫）委員　鈴木委員ノ御話デスガ、一体戦争ノ抛棄ト云フノハ世界ニ向ツテモ国内ニ向ツテモ、一寸一般ノ法律ノ頭ヲ以テハ此ノ条文ハ変ニ見エルト思フノデスガ、ヤハリ斯ウ云フ所ハ宣言スト云フ方ガ、威厳ガアツテ宜イヤウニ思フノデス、声明ヨリカ……
○鈴木（義）委員　一般文章トシテハ宜イデスガ、法律文トシテハ一ツノ命令ヲ表ハスノデス、此処デ抛棄スルノハ意思ヲ表ハシテ居ルノデ、宣言スルト云フコトハドウモ法律技術的ニハ拙イト思フ
○芦田委員長　私モ初メ之ヲ声明ト書ク時ニ一寸考ヘテ見タノデスガ、此ノ第九条ト云フ条項ハ本当ハ箇条書デナクシテ、是ハ前文ニ入ル程ノ文ダカラ、ソコデ之ヲ大キク出ス意味ニ於テ声明トカ宣言トカ言ツタ方ガ、寧ロ内容ニ相応シイノデハナイカト思ツタノデス
○鈴木（義）委員　内容ニ相応シイコトハ申スマデモナイノデスガ、唯ドウモ法律トシテハ変ナモノダト思フ、是ハ条約デハナイシ、条約ナラ宣言スデモ宜イガ……
○吉田（安）委員　鈴木委員ノ仰シヤルコトハ能ク分ルガ、今委員長ノ言ハレタヤウナ意味モアリマス、併シ鈴木君ノ仰シヤルヤウニナツテ来ルト、私ハ是デモ宜イト言フ勇気モナイノデスガ、何トカ良イ文句ハアリマセヌカ
○鈴木（義）委員　「戰力を保持しない」、「國の交戰權を否認する」ト言ヒ放セバ宜イ、「宣言する」ダケガ余計ダ
○芦田委員長　是ハ私ハ上ニ懸カツテ居ル積リナンデス、「國際平和を誠實に希求し」ト云フ所マデヲ含ンデ、サウ云フ風ニ読ンデ呉レルカドウカハ別トシテ――ソレダカラヤハリ声明トカ宣言スルト云フコトヲ入レタイ、「誠實に希求し」、「戰力を保持せず」、「交戰權を否認する」、斯ウ云フ風ニ掲ゲテ、ソレヲ高ラカニ世界ニ宣言スルンダ、斯ウ云フ意味ニ読ンデドウデスカ
○鈴木（義）委員　前文ナラ申シ分ナイノデスガ……
○吉田（安）委員　寧ロ是ハ「その他の戰力を保持せず、國の交戰權を否認する」、デ放ツテ置ケバ宜イ
○鈴木（義）委員　サウデス、ソレナラバ法律ニナル
○吉田（安）委員　サウ云フ風ニスレバ法律ニナル
○鈴木（義）委員　一ツノ外交文書ミタイニナツテシマフ、サウ云フコトヲ声明スルト……
○芦田委員長　ケレドモ、諸外国ハ寧ロ外交文書的重要性ヲ以テ此ノ条文ヲ見テ居ル、ソレダカラ外ノ条項トノ重要性カラ見テモ、少シ変ツタ形デヤツテモ宜イノヂヤナイカ
○鈴木（義）委員　一ツノ新機軸ヲ出スト云フ意味デ宜イカモ知レヌトモ考ヘルノデスガ……
○芦田委員長　ソレ程重キヲ置イテ居ルンダト云フ意思ヲハツキリスル為ニ……
○鈴木（義）委員　兎ニ角法律専門家モ此ノ中ニ居ルノダカラ、サウ云フコトモ議ニ上ツタト云フコトヲ記録ニ留メテ置キタイ
○芦田委員長　佐藤君ノ此ノ条項ニ関スル意見ヲ一ツ……
○佐藤（達）政府委員　私ノ気持デゴザイマスケレドモ、忌憚ナク申上ゲテ宜シウゴザイマスカ――一寸気ニナリマス所ハ、今御指摘ノ声明スルトカ宣言スルトカヤリマスト、此ノ原案ヨリモ、原案ノ丁度第二項ニ当リマス戦力ヲ保持スルコトハイカヌト云フコトト、国ノ交戦権ハ認メナイト云フコトト、今度ノ修正案ノ第一項ニ入リマス、保持セズ、国ノ交戦権ヲ否認スルコトヲ声明スル、ト云フ此ノ言葉ヲ両方対照シテ見マスルト、少シ禁止的ノ色彩ガ弱クナツテ来ルノヂヤナイカ、原案デ行キマスト、国ノ交戦権ハ別トシテ、陸海空軍其ノ他ノ戦力ヲ仮ニ保持シタ場合ニ於テハ憲法違反ニナルコトガ明瞭ト云フコトニナリマセウガ、今度ノ修正案ニナリマシタ場合ニハ、是ハ其ノ声明ニハ違反スルケレドモ、憲法トノ違法関係ガドウナルデアラウカト云フ、一寸サウ云フ所ノ気持ガ気ニナル所ガアルノデス
○芦田委員長　併シ憲法デ以テ戦力ヲ保持シナイノダ、斯ウハツキリ言ツテ居レバ、保持スレバ憲法違反ニナルト云フ意思表示ダト私ハ思フノデスガネ、保持シテハナラナイト云フ命令ガ何処カラ来テ居ルカ、保持シテハナラナイト云フコトノ言ヒ方ダガ、自分ガ自分ニ保持シテハナラナイト言フノナラバ、自分ガ自分デ戦力ハ保持シマセヌト言フノト効果ハチツトモ違ハナイ、他人ニ向ツテ押シツケタモノナラバ、ソレハ保持シテハナラヌト云フノト、本人ガ保持シマセヌト云フノハ差ガアルケレドモ、第二項ノ原案ト雖モ、唯自分ガ自分ヲ規律シテ居ルダケデス、私ハ保持ハ致シマセヌト云フコトニ外ナラナイ、サウスレバ私ハドウモ強弱ノ差ガアルトハ思ヘナイノデスガネ、自分ノ行動ヲ規律シテ居ル、サウヂヤナイノデスカ
○鈴木（義）委員　ソレダカラ声明スル必要ハナイ、自分ノ行動ヲ規律スルコトヲココニ意思表示スルノデスカラ……
○芦田委員長　ダカラ声明スルトカ宣言スルトカ云フノハ、サウ云フ「テクニック」ヲ離レタ意味カラ、サウ云フ風ニヤルコトガドウカト云フコトデ……
○鈴木（義）委員　ソレハ分ルノデス、委員長其ノ他ノ仰セラレルコトモ分ルケレドモ、ソレナラバ本来ナラバ此ノ憲法全体ガ各条項トモ声明ス、宣言スナンデス、国会ノ議決ニ依ツテ宣言シテ居ル訳ナンデス、ダカラ本来ハサウ付ケテ行カナケレバナラヌ訳ダカラ、此処ダケニ付ケルト云フノガ一寸変ナンデス
○芦田委員長　斯ウナツタラ、是レ以上論議シテモ仕方ガナイガ、ドウシマスカ
○原（夫）委員　鈴木君ノ御意見モ御尤モナ所モアリマスガ、法律ト云フ頭デ御考ヘデスガ、此ノ第二章ハ法律的ナ問題ヨリカ、国際関係ノ問題ヲ此処ニ入レテ居ルノデスカラ、其ノ他ノ章トノ牽連性ヲ考ヘテ見ルト、是ハ全ク国際関係ノ問題デスカラ、ヤハリ声明スルトカ宣言スルトカ云フ異例ガアツテモ、第二章ニ関スル限リ差支ヘナイ、実際的ニ異例ナコトヲ憲法規定デ採用シタノデスカラ、其ノ意味カラ言ツテモ、声明ト云フヨリカ、宣言ガ宜イト思ヒマス、仮ニ宣言トスレバ、異例ガアツテモ宜イノヂヤナイカト思フノデス
○林（平）委員　私ノ方デハ実ハ第九条ヲ削除スルコトヲ主張スル訳デアリマス、ドウシテカト言フト戦争抛棄ハ実ニ大キナ問題ダカラ、条文ニ入レルト云フヤウニ小サク扱フヨリカ大キク扱フ意味デ前文ニ十分ニ言ヒ表ハシテ、条文ヨリ削除シタイ、詰リ謂ハバ是ハ大キナ宣言的ナ性質ノモノデアル、斯ウ云ツタヤウナ考ヘヲ持ツテ居ル訳デアリマス、既ニ前文モ大体決マツタノデ、其ノ主張ヲ棄テテ、第二章ヲ残サウト云フコトニナツテ来タ訳デスガ、然シ是ハヤハリ大ナル宣言的性質ノモノデアルトノ気持ハ取レナイデ居ル訳ナンデス、サウ云フ意味カラ見テ、鈴木サンノ仰シヤルコトハ、如何ニモ筋ノ通ツタ、理窟ノアル話デハアリマスガ、本当ニ是ハ例外中ノ例外ノモノト考ヘテ行キタイト思ヒマス、随テ宣言トカ声明トカ云フコトハ是非付ケタイ気持ガスルノデアリマス、又宣言ト云フ言葉ハ、一ツノ大ナル公約ト云ツタヤウナ意味モ多量ニ含マレテ居ル、天下ニ向ツテ、国民ニ向ツテ、或ハ社会ニ向ツテ宣言スルト云フコトハ、言ヒ放シト云フ意味デナク、国民ニ向ツテ宣言スルト言ツタナラバ、国民ニ向ツテ公約スルト云フヤウナ意味モ含マレテ居ルモノト思ハレルノデス、少シ法律文トシテハ或ハ御不満カモ知レマセヌケレドモ、例外ノ例外トシテ私ハ宣言若シクハ声明トスルコトニシタイト思ヒマス
○吉田（安）委員　私モ法律的技術カラ言ヘバ、鈴木サンノ言ハレルコトハ頗ル同感デスガ、他ノ諸君カラモ議論ガアツタ通リ、是ハ国際的ニ非常ニ大キナ意味ガアルノデアリマスカラ、ヤハリ宣言ト云フコトヲ入レタ方ガ宜クハナイカト思ヒマス、鈴木サン、ドウデス、是ハ仰シヤルコトハ御尤モデスケレドモ、唯サウ云フコトヲオ互ヒ此処デ議論ガアツタト云フコトヲ記録ニ留メテ置クコトニナサツテ、宣言デドウデゴザイマスカ
○鈴木（義）委員　多数決ト云フコトニナレバ已ムヲ得ナイケレドモ……
○芦田委員長　多数決ト云フコトハ成ベク避ケタイノデス、多数決ト云フ意味デハナイ
○鈴木（義）委員　私ハズツト昨日カラモ考ヘ、昨夜カラモ暇アル毎ニ此ノコトヲ考ヘテ居ツタンデスガ、結局難シイコトデアリ、サウシテ非常ニ大事ナ第二章デアルノダカラ、色々考ヘテ見マシタ、前ニ註釈ヲ付ケヨウトシテモ、法律ノ形デ付ケルコトハ難シイ、已ムヲ得ヌカラ、是ハ原案支持デ行クシカナイト云フ気持デ実ハ此処ニ臨ンデ来タノデアリマシテ、修正文ヲ拝見シテモドウモ……
○芦田委員長　修正シタ趣旨ノ一ツノ動機ハ、原案ノ「陸海空軍その他の戰力の保持は許されない」ト云フ書キ方ガ、日本文トシテハドウモ面白クナイ、自分デ自分ニ言ツテ居ル言葉デセウ、ソレニ、保持シテハナラナイト云フコトハ、独リ言ヲ言ツテ居ル訳ナンデ、サウ云フ形ヲ貽スコトハドウモ面白クナイ、俺ハ嘘ヲ言ツテハナラナイト云フヨリハ、俺ハ嘘ヲ言ハナイノダト云フ方ガ日本文トシテハ自然デス、ソコヲ直シタイ、ソレダケヲ唐突ニ直スト云フコトモドウカト思ツタカラ、初メニ日本国民ハ正義ト秩序ヲ基調トスル国際平和ヲ熱烈ニ希望スル、ダカラ陸海空軍其ノ他ノ戦力ヲ持タナイノダ、斯ウ行ケバ非常ニ自然ニ出テ来マス、斯ウ云フノガ修正ノ一ツノ動機ニナツテ居ルト思フノデス
○廿日出委員　鈴木サン、国ノ交戦権ヲ否認スルコトヲ公約スルト言ツタラドウデスカ
○鈴木（義）委員　法律ヤ憲法デアル以上ハ総テ公約ナノデ、是ダケガ公約デハナイ
○廿日出委員　サウ云フ言葉ヲ使ツタラ法律的ニ支障ガアルカナイカト云フコトデス
○鈴木（義）委員　一寸変ナ法律ダト云フ感ジヲ持チマスネ
○西尾委員　政府委員ニ御尋ネシタイノデスガ、例ヘバ宣言スルト云フ案ハ、Ｇ・Ｈ・Ｑノ方ノ考ヘハドウナンデセウ、少シ難シイノデハナイカト云フ感ジガスルンデスガ……
○佐藤（達）政府委員　私先程申シマシタコトハ、実ハ其ノ方ヲ念頭ニ置イテ申上ゲマシタノデ、余計ナコトカモ知リマセヌガ、鈴木サンノ仰シヤツテ居ラレタ法律ノ中ニ宣言ヲ書キ込ムコトハドウダト云フコトハ、近頃ハ相当「ルーズ」ニナツテ居リマシテ、例ヘバ法律ノ第一条ニ、本法ハ何々ヲ以テ目的トスルト云フヤウナコト、是ハ法律ノ意味ガアルカドウカト云フコトヲ議論シタコトナドモアリマシタガ、サウ云フコトガ多少慣レツコニナツテ居リマスカラ、私自身トシテハ余リ気ニ致シマセヌケレドモ、先程私ガ申シマシタノハ、禁止規定ガ宣言規定ニ代ツタト云フ感ジガ、普通ノ人ガ見タ場合ニドウ云フヤウニ思フダラウ、何カ弱クナツタ感ジヲ与ヘルノデハナイカ、私ハサウ感ジマシタ、併シ皆サンノ御考ヘデ寧ロ強クナルノダト云フコトデアリマスレバ、大イニ安心致シマス
○西尾委員　私ノ考ヘマスコトハ、宣言スルト云フコトニナリマスト、日本国民ニモ宣言スルコトニナル、世界ニモ宣言スルコトニナル、一体此ノ憲法ハ日本ノ国民ノ行クベキ方向ヲ決定スルノガ主タル目的ナノデ、ソレガ憲法ノ中デ、而モ敗戦国ノ日本ガ今直グ世界ニ向ツテ宣言スルト云フヤウナ形ノ行キ方ヲ、Ｇ・Ｈ・Ｑノ方デドウ云フヤウニ取ルカト云フコトヲ私ハ気ニシテ居ルノデス
○芦田委員長　併シソレハ前文ニモ宣言スルト云フ言葉ハアルノデスヨ
○鈴木（義）委員　前文ハ構ハナイデスヨ
○芦田委員長　是ダツテ実際ノ意味ニ於テハヤハリ内ト外トヲ両方兼ネテノ宣言デアルノダカラ、ソコデ若シ此ノ修正案ガ何処カデ引掛カレバ、又其ノ時ハ其ノ時デ考ヘ直ス余地ガアルンヂヤナイデスカ、我々ハ国民ノ意向ヲ――斯ウシタラ宜イト思フ案ガアレバ、一応ハソレデ行ツテ、ソレニ差支ヘガ生ジタ時ニハ又変ヘルト云フコトハ宜イガ、外ノ条件ヲ忖度スル余リ、我々ガ言ハントスル所マデモ萎縮シテシマフト云フヤウナ態度デアルヨリハ、一応ハ兎ニ角自分達ノ真意ハココニアルンダト云フコトヲ出シタラドウカ
○鈴木（義）委員　ソレハ結構デスガ……
○芦田委員長　第二項ノ書キ方ハ国民多数ハ決シテ喜ンデ之ヲ読ムトハ私ハ思ハナイ、ソレナラバ一応其ノ意向ヲハツキリシテ、支障ガアツタ時ニハ已ムヲ得ナイ、不可抗力ナラバ其ノ時々デ考ヘル、斯ウ云フコトデドウデセウカ
○鈴木（義）委員　ソレハ結構デス
○西尾委員　サウナツタ時ニハ已ムヲ得ナイケレドモ、国民ニ満足サセヨウト思ツテヤツタコトガ、支障ガ起ツタ結果トシテ余計不満足ナ感ジヲ与ヘルト云フコトハ、我々トシテハ考慮スベキ余地ガアルト思フ
○芦田委員長　是レ以上余計ニ悪クナルトハ思ハナイデス、原案ヨリモ悪クナルトハ思ハナイデス
○西尾委員　イヤ、サウ云フ宣言ト云フコトガ削ラレテ居ルト云フコトニナルト、其ノ印象ガデスネ
○芦田委員長　ソレハ是ガハツキリ発表サレルマデニ話合ヒヲスルンダカラ――憲法委員会ノ確定シタ意見ガ斯ウダト云フコトヲ出ス前ニ一応ハ話合ヒヲスルンダカラ、ソレガ為ニ非常ニ立場ガ悪クナルト云フコトハ私ハナイト思フンデスガネ
○吉田（安）委員　サウスルト今ノ御話デハ、順序トシテハ憲法委員会ニ上セマス前ニＧ・Ｈ・Ｑト……
○芦田委員長　本委員会ニ持ツテ行ク前ニ一応ヤラナイト、本委員会ニ出シタ案ガ又途中デ色々変化シナケレバナラヌデハ困ルト思フ
○鈴木（義）委員　サウデスヨ
○吉田（安）委員　ソレヂヤドウデスカ西尾サン、本委員会ニ掛ラヌ前ニ関係方面ト交渉ガアルトスレバ……
○西尾委員　併シソレマデニ発表スルデセウ
○芦田委員長　発表シナイ中ニ持ツテ行カナケレバ……
○西尾委員　本委員会ニ掛ラヌ前ニ発表シナイノデスカ
○芦田委員長　委員会ノ成案ハ発表シテハ交渉ノ時ニ工合ガ悪イデセウ、サウ云フモノヲ発表スル前ニ相談シロト云フコトダラウト思フンダ
○鈴木（義）委員　併シドウモ洩レルンデネ
○芦田委員長　洩レル場合ハ已ムヲ得ナイデスネ
○鈴木（義）委員　サウ云フコトヲ除イテ、私モ幾ラカ法律ヲヤツテ来テ居ルモノダカラ、サウ云フ委員ガ混ツテ居ツタノニ、変ナモノヲ拵ヘタト言ハレルノガ辛イノデ、「聲明す」トカ「宣言す」トカ云フコトハ、政府ガ言ハレルヤウニ弱クナルノデス、素人ノ方ハ其ノ方ガ強クナルト思ハレルカモ知レマセヌガ、「戰爭權を放棄する」、斯ウ言ヒ切ツタ方ガ遥カニ強インデス、「放棄することを宣言する」ト云フノハ一段弱クナツテシマフンデス、ソレダカラ其ノ点ハヤハリ法律的ナ形ヲ執ツテ戴カナイトドウモ困ルト思フンデス
○芦田委員長　ドウモ私ハ其ノ点ハ必ズシモ鈴木サンノ御意見ト一致シナイ、ドウデスカ、例ヘバ前文ニ「國民の總意が至高なものであることを宣言し」ト云フ所ハ向フノ言葉デ言フト「ドゥ・プロクレーム・ザ・ソヴァレンティ・オブ・ザ・ピープルス・ウイル」ト云フ言葉ヲ使ツテ居リマスガ、此ノ「ドゥ・プロクレーム」ト云フ言葉ハ弱クナルトハ私ハ思ハナイ、宣言スルト云フ字ハ、唯言放スヨリモ弱クナルト云フ虞ガアルト云フアナタノ御懸念デアルガ、ドウモ之ヲ読ンデ見テ、「ドゥ・プロクレーム」ト云フコトハ、単ニ主権ガ国民ニアルト云フ事実ヲ述ベルヨリモ寧ロ強イ意味デハナイデスカ
○鈴木（義）委員　是ハ客観的事実ノ宣言デスカラネ、コチラハ或ルコトヲヤロウト云フコトナンデスカラ……
○芦田委員長　ケレドモ国際平和ヲ誠実ニ希求スルト云フ客観的ノ事実ヲ「ドゥ・プロクレーム」ト言ツタ方ガ寧ロ強イノデハナイカ、サウ云フ時ニハ……
○鈴木（義）委員　宣言スル位ナラバ実行スレバ宜イ、コチラハ実行ヲ約シテ居ルノデスカラネ
○芦田委員長　実行ト言フケレドモ、サウ云フ意味ニ於テハ主権ガ国民ニアルト云フコトト、ソレカラ平和ヲ熱愛スルト云フコトトハ同ジ状態デセウ、ダカラ其ノ点ハ違ハナイデハナイデスカ、ドウモ書キ方ノ如何ニ依ルノデアツテ、宣言スルトカ声明スルト云フコトヲ附加ヘレバ、唯実在ヲ認識スルト云フコトヨリモ弱クナルト云フヤウニハ私ハドウシテモ考ヘラレナイ
○鈴木（義）委員　言ヒ方ガ悪ケレバヤハリ元ニ戻ツテ、詰リ説明的規定ヲ除イテハ、法律ハ作為、不作為ノ規範ナンデスカラ……
○芦田委員長　其ノ説ハ私ニハ能ク分ツテ居リマス、ダカラソレハ其ノ通リダト思フ、ケレドモ此ノ章ニ関スル限リ、実ハ作為トカ不作為ト云フコトヲ客観的ニ認定スル以上ニ意味ガアル章デアルノダカラ、ソレニ相応シイ一ツノ力ヲ持ツタ如キ形デ書イタラドウカト思フ、是ダケノ議論デ、アナタノ議論ト我々ノ言ツテ居ル着眼トハマルデ違ツタ着眼デ議論シテ居ルノダカラ、是ハ幾ラ議論シテモ仕方ガナイコトダ
○鈴木（義）委員　寧ロ私ハ委員会ノ名誉ノ為ニ是ハ守ラナケレバナラヌト思ツテ申シテ居ルノデ、決シテ頑固ニ主張シテ居ル訳デハナイ
○芦田委員長　ソレハ能ク分リマス
○原（夫）委員　是ハ各人思ヒ思ヒデ、私共モ末席ヲ占メテ居ル者デスカラ、委員会デ賛成シタコトガ責任ガアルト言ハレレバ私共ガ第一番ニ負ハナケレバナラヌカラ、ソコハ意見ノ岐レル所ナンデスガ、一ツ協調ヲ保ツテ、第二章ノ趣意カラ言ヘバ、今カラ抛棄スルノダ、実行ニ移スノダ、法律ハ実行スルト言フノデハナクテ規範ナンデスカラ、ソレヲ声明スルト云フコトガ意思表示ナンダカラ、サウヤラナケレバナラヌト云フコトハ当然分ツテ居ル問題ダト思フ、デスカラココデ如何デセウ、大体ノ戦争ノ抛棄ト云フ前文ニ付テノ註釈ヲ是ハ加エタヤウナモノデスカラ……
○鈴木（義）委員　交戦権ト戦力ノ保持ヲ先ニシテ、戦争ノ抛棄ヲ後ニスルノモ考ヘル余地ガアリハセヌカト思フノデスガネ
○芦田委員長　ソレハ極ク簡単ナ考ヘ方デ斯ウ云フ風ニシタノデス、ソレハ交戦権ヲ否認スルト云フコトハ、先ヅ戦争ヲヤラナイト云フコトノ前提デセウ、ソレダカラ初メノ原文ノ書キ方ガヲカシイ、戦争ハモウヤリマセヌト言ツテ置イテ、一番最後ニ交戦権ハ行使シマセヌト言ツテ居ル、交戦権ヲ棄テルカラ戦争ヲヤラナクナル、ソレダカラ寧ロ交戦権ヲ否認スルト云フコトノ方ガ先ニ行ク、ソレカラ陸海空軍ト云フモノガアルカラ戦争ノ手段ニナルノダガ、ダカラ軍備ハ持タナイ、交戦権ハ認メマセヌト言ツテ、然ル後ニモウ国際紛争ノ解決手段トシテ戦争ハシマセヌ、斯ウ云フコトガ思想的ニハ順序ダト思フ
○鈴木（義）委員　サウモ考ヘラレマスネ、私其ノ点ハ余リ強ク……
○吉田（安）委員　委員長、此ノ程度デ進行シマセウ
○笠井委員　ソレガ御決リニナツテ、「否認することを宣言する」ト御続ケニナルナラバ、「前掲の目的を達する」ト仰シヤツタガ、「達成する」ト強クピント跳ネタラドウデセウ
○芦田委員長　ソレモ新タナル提議デスガ、其ノ前ニドウデスカ、何トカソコデ落付キガ……
○廿日出委員　「宣言する」ト云フ言葉ヲ前ヘ持ツテ行キマシテ、「日本國民は正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求することを宣言し、陸海空軍その他の戰力を保持せず、國の交戰權はこれを否認する」、斯ウ云フ風ニスレバ、全文本当ノ意味ガ通ルヤウニ思フ
○芦田委員長　私個人トシテハ廿日出君ノ意見デ賛成デ、ソレデモ結構ダト思フ
○原（夫）委員　今ノ御話ノヤウダト、国際平和、秩序等ヲ希求スルト云フコトハ、モウ前文ノ方デサウ云フヤウナコトガアルノデスカラ、此処デハ希求スル為ニ、ソレガ理由ニナツテ居ツテ、サウシテ交戦権ヲ否認スルコトヲ宣言スト、終ヒノ所デナイト一寸宣言ハ工合ガ悪イヤウニ思フ
○芦田委員長　之ヲ書イタ時ノ気持ハ「正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し」ト云フノハ、希求スル所ノ日本国民トカ、希求スルガ故ニトカ云フ意味ニ於テ此ノ文句ヲ置キタイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ書イタ、ダカラ希求スルコトヲ宣言スルト言ヘバ、初メノ趣意トハ多少変ツテ来ルンデスガネ
○廿日出委員　其ノ点ニ付キマシテ色々ト鈴木委員ノ御気持、又法律的ナ扱ヒ、技術的ナ扱ヒ、色々ナ難点ヲ此処デハツキリ緩和出来ルト思フ
○芦田委員長　ソレハ駄目デスヨ、ト云フノハ一体法律ノ文句ノ中ニ宣言トカ声明トカ云フ文字ヲ使フコト、其ノコトガドウモ余リ希望スベキコトヂヤナイ、斯ウ云フ御趣意ナンダカラ、何処ニ宣言ト云フ字ヲ入レヤウト、其ノ趣意ハ附イテ廻ルノデス
○鈴木（義）委員　ソレハ法律技術的ニ言フコトナンデ、其ノ通リナンデス、ソレデハ若シ此ノ後ニ北サンヤ犬養サンガ御出マシニナツテモヤハリ委員長ノ仰シヤルヤウナコトニ賛成ナラバ決メルト云フコトニシテ一応留保シテ置イテ戴イテドウデセウ
○芦田委員長　サウ云フコトニ致シマセウ、サウスルト笠井君ノ御提案ノ「前掲の目的を達するため」トスルカ、「達成するため」トスルカ
○笠井委員　私ハ撤回シマス
○芦田委員長　ソレデハ一応第二章ハ其ノ程度ニシテ、第三章ニ移リマス
○鈴木（義）委員　第三章ニ移ル前ニ、社会党トシテ提案シタイト思フノデスガ、第一条ハ……
○芦田委員長　私ノ方ハアナタノ提案ヲ拝見スル前ニ申上ゲタ方ガ却テ誤解ヲ避ケル為ニ宜イト思フノデスガ、一寸之ヲ討議スル準備ガマダ出来テ居ナイ、ソレデスカラ御提案ニナルコトハ無論結構デスガ、一寸午前中ニ此ノ場デ直グ討議スルコトハ御延バシヲ願ヒタイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　ソレデハ提案ダケシテ置キマセウ、社会党トシテハ、前文ニ既ニ主権ガ国民ニアルト云フコトヲ宣言スルノデスカラ、各国ノ憲法ノ普通ノ形ニ傚ツテ、第一条ヲ主権ノ所在トシテ、「第一條　主權は國民にある」ト斯ウ御規定ヲ願ヒタイ、ソシテ今ノ第一条ヲ第二条ニシテ、「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、日本國民の至高の」、「至高の」ハ要ラナイト思フ、「總意に基く」ト云フコトデ行ケバ宜シイト思ヒマス、サウ云フ提案ヲ致シマス
○芦田委員長　ソレデハ第一条ノ討議ヲ延バスコトニ御異議アリマセヌカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　第三章ニ入リマス、社会党ノ草案ヲ私不勉強デ能ク見テ来ナカツタノデスガ、進歩党及ビ自由党ノ方カラ出テ居ル「國民たるの要件は法律を以てこれを定む」ト云フ案ガアリマシタガ……
○鈴木（義）委員　我ガ党ノ提案ニモソレガ入ツテ居リマス、是ハ殆ド各党ノ提案ニ入ツテ居リマス
○芦田委員長　ソレデハ文字ヲドウ書クカト云フ問題デ、此ノ点ハ各党共通ノ修正ニナツテ来ル訳デスナ、サウスルト佐藤サン、ドウ云フ風ニ書ケバ宜イノデスカ、現行法ノ通リデ宜イノデスカ
○佐藤（達）政府委員　「日本國民たる要件は法律で」……
○芦田委員長　「を以て」トシテハイケナイデスカ
○佐藤（達）政府委員　此ノ案ハ「法律で」ト云フ形デヤツテ居リマスカラ
○吉田（安）委員　私ハ結局「日本國民たるの要件は法律の定めるところによらなければならぬ」ト斯ウ云フ風ニシタラドウカト思フ
○芦田委員長　佐藤君ノ案デドウデスカ
○吉田（安）委員　別ニ反対ハシマセヌ
○佐藤（達）政府委員　此処ヲ「日本國民」ト申シマスカ、唯「國民」トヤリマスカ、皆サンノ御判断ニ依ツテ……
○鈴木（義）委員　此処ハ「日本」ト云フ形容詞ガ要ルノデハナイデスカ、詰リ日本国民タルノ要件ハ法律デ決メルノダゾト云フコトヲソレコソ宣言スルノデ、自明ノ理デハアルケレドモ成タケ素人ニモ分ルヤウニ書クト云フコトガ望マシイ
○芦田委員長　サウスルト此ノ程度デ次ヘ参リマセウ、原案ノ第十条ニ付テハ此ノ侭デ宜イデスカ
○笠井委員　第十条ノ「基本的人權は」ノ後ヘ「法律を以てしても」ト入レタラ如何デセウカ、「この憲法が國民に保障する基本的人權は、法律を以てしてもこれを侵すことができない」……
○鈴木（義）委員　サウヂヤナイ、憲法ヲ以テシテモ侵スコトガ出来ナイ、之ニ反スル憲法ヲ作ルコトハ許サレナイノデスカラ……
○芦田委員長　第十一条モ修正ハ出テ居リマセヌ、第十二条モアリマセヌ、第十三条デハ小サナ……
○林（平）委員　後デ御伺ヒシテモ宜イデスガ、第十条トシテ独立シタ一条トナツテ、以下十条ヲ十一条ト、十一条ヲ十二条ト云フ風ニナルノデスカ
○芦田委員長　ソレハマダ第一章ノ条項ガ決マツテ居リマセヌカラ一寸何条ニナルカト云フコトハ決マラナイノデス、ソコデ第十三条ノ第一項ノ終リニ、「差別を受けない」ト斯ウアルノダガ、「差別待遇」ト云フ字ガ第十五条ニモアルカラ、ココデ差別ヲ受ケナイト云フヨリ、「差別待遇を受けない」ト云フ方ガ正シイノデハナカラウカ
○吉田（安）委員　議題ニ上ツテ居ルノハ十三条デスカ
○芦田委員長　サウデス、是ハ字句ノ問題デ実際ハ変リハナイ
○大島（多）委員　待遇ヲ入レラレル訳デスネ
○芦田委員長　サウ云フ案ガ、一、二出テ居ルノデス
○佐藤（達）政府委員　一寸原案ノ趣旨ダケヲ御説明申上ゲマス、御指摘ノ通リニ十三条ハ「差別を受けない」、十五条ハ「差別待遇も受けない」ト云フコトデ、確カニ違ツテ居リマスガ、其ノ違ヒノ心持ダケヲ申上ゲサセテ戴キマスト、十五条モ寧ロ私共ノ考ヘハ差別ヲ受ケナイト云フ形デ之ヲ表ハシタイト云フコトガ基礎ノ考ヘニナリマシテ、十五条ニ照シテ考ヘマスト、是ガ請願デアリマス為ニ、ドウモ「差別も受けない」ト云フコトダケデハ意味ガハツキリ出マセヌノデ、其ノ為ニ此ノ間ノ御説明ニナリマシタヤウニ、佐倉宗五郎ノヤウナ取扱ヲ受ケナイト云フ、サウ云フ気持デ、コツチノ方ニ待遇ト云フ言葉ヲ付ケタ、気持ノ経緯ハサウ云フ経緯デゴザイマス、結論ト致シマシテハ、ドウ遊バサレテモ差支ヘナイコトト思ヒマス、気持ダケヲ申上ゲテ置キマス
○芦田委員長　「差別待遇」デモ「差別」デモ、同ジヤウニ「ディスクリミネーション」ト云フ字ヲ使ツテ居ルノデスネ、是ハ日本語ノ特有ノ書キ方ダ
○鈴木（義）委員　「差別待遇」ト云フ字ヲ強ヒテ付ケル必要ハナイト思ヒマスネ、「差別を受けない」トシテ置ク方ガ妥当ノヤウニ思ヒマス
○芦田委員長　サウスルト十五条ノ「差別待遇」ヲ「差別」ト直シマスカ
○鈴木（義）委員　十五条ノ方ハ宜イノデスガ、ココデ強ヒテ「待遇」ト云フ字ヲ付ケルノハ待遇ダケノ問題デナイト云フ風ニ考ヘルノデスカ
○芦田委員長　モツト広イノデスカ、「差別」デモ宜イカモ知レヌガ、平等無差別ト云フノダカラ――ドウデスカ廿日出サン
○廿日出委員　私ハ若シ之ヲ本当ニ能ク分ルヤウニスル為ニハ、「差別されない」、ソレデアツサリ解決スルト思ヒマス
○吉田（安）委員　私ノ修正案ニハサウ出シテ居リマスケレドモ、敢テ固執シマセヌ、今ノ政府側ノ御話ヲ聴イテ見テモ、ソコマデ行クト、「差別」ト一本デ行ツタ方ガ宜イヤウナ気ガシマス
○芦田委員長　自由党トシテハ多数ノ御意見ニ従ツテ宜イノデセウネ、ココデハ……
○笠井委員　十三条ハ「差別」ダケデ如何デセウカ
○芦田委員長　「差別」デ行キマスカ
○吉田（安）委員　十三条デスガ、私共ノ方デハ字句ノ配列デスケレドモ、草案デハ「人種、信條、性別、社會的身分又は門地」トアルノヲ、「性別、門地又は社會的地位、」斯ウ云フ風ニシタイト思ヒマスガ、特別ニ是ハ理由ガアル訳デハアリマセヌケレドモ、字句ノ配列上斯ウシタラ宜イヂヤナイカ、唯「身分」ト云フノヲ「地位」ニ変ヘマシタノハ、何カ「身分」ト云フト一寸感ジガドウカト思ヒマス、ソレデ「地位」ト云フコトニシテ修正シテ置キマス
○芦田委員長　佐藤君ドウデスカ
○佐藤（達）政府委員　一寸其ノ点説明サシテ戴キタイト思ヒマス、是ハ「ソーシャル・ステータス」ト云フ言葉ニ当ルト思ヒマスガ、社会的地位ト云フ言葉モ考ヘマシタケレドモ、社会的地位ト言ヒマスト、例ヘバ村長サンニナツテ居ルトカ、議員サンニナツテ居ルト云フヤウナコトモ社会的地位ヂヤナイカ、サウスルト其ノ禁止ノ幅ガ少シ広イヤウナ感ジガアル、「ソーシャル・ステータス」ト云フ言葉ノ意味ハ委員長アタリノ方ガ能ク御承知ト思ヒマスガ、十三条ト致シマシテハ生レナガラノト申シマスカ、何カ容易ニ変ヘラレナイ事柄ニ依ツテ「ディスクリミネーション」ヲヤラナイト云フコトニシタイ、身分ト云フ言葉ガ良イカ悪イカハ別デスガ、社会的地位ト言フヨリモ社会的身分ト言ツタ方ガサウ云フ気分ガ出ハセヌカト云フコトデ、此ノ言葉ヲ選ビマシタ、是レ亦人々ノ御考ヘニ依ツテ違ヒマセウケレドモ、社会的地位ト言フト、重役サンダトカ云フヤウナコトマデモ連想スルヤウナ気モサレルノデス
○鈴木（義）委員　ソレハ大有リデス
○吉田（安）委員　原サン、ドウデスカ
○原（夫）委員　結構デス
○吉田（安）委員　草案ノ通リデ行キマスカ
○大島（多）委員　第十三条ノ一番最後ノ段デスガ、「榮譽、勳章その他の榮典の授與は、いかなる特權も伴はない」ト書イテアリマスガ、此ノ「いかなる」ト云フノハ文語ラシイデスネ、ソレデ是ハ変ヘラレルナラ「何等」ト変ヘタ方ガ宜カラウト云フ「アドヴァイス」ヲ受ケタノデス
○芦田委員長　「何等」ト「いかなる」トソンナニ違ヒマスカネ、私ハソンナコトハチツトモ知リマセヌガ……
○大島（多）委員　「いかなる」ト云フ言葉ハ文語トシテ使フト云フ話デス
○鈴木（義）委員　文語ト口語ノ区別論ハ非常ニ難カシイノデスガ、我々ガ演説ノ時ニ使フヤウナ言葉ハ皆口語ダト言ハレ得ルナラバ「いかなる」モ立派ナ口語ナンデ、将来ハ段々文語ト口語ガ混合シテ一種ノ気品ノアル口語ヲ作リ出シテ行クヤウナコトニナルト思ヒマス、余リ現在ノ口語ト文語ノ区別ニ囚ハレテ行カナイ方ガ宜イノヂヤナイカト思ヒマス、「いかなる」ヲ口語ニ編入シヨウヂヤナイデスカ
○大島（多）委員　範囲ヲ広ゲル訳デスネ
○芦田委員長　大島サン、是ハ我々ノ一寸ノ感ジデ、研究シタ結果ヂヤナイノデスガ、「いかなる」ト言フト大和言葉ダト云フ気ガスルノデス、「如何デスカ」ト云フヤウナ言葉ハ大和言葉デアルガ「何等」ト云フ字コソ漢語カラ来タ輸入語デ、是ハ確カニ支那ノ字カラ出タ言葉ダラウト思フ
○大島（多）委員　私ハソレハ固執シマセヌ
○森戸委員　先刻ノ「差別を受けない」ト云フコトハ、「されない」ノ方ガ宜イノヂヤナイデスカ、「受けない」ト言フト待遇ガアル方ガ工合ガ宜イ、「差別をされない」ノ方ガ宜イ
○芦田委員長　詰リ差別ト云フ字ヲ動詞ニ使フカ名詞ニ使フカト云フコトデスネ、廿日出君ノ御意見ハドウダツタノデスカ
○廿日出委員　「差別されない」デス
○原（夫）委員　ドツチデモ宜イヤウナモノデスケレドモ、「差別を受けない」ト言フト受動的デ斯ウ云フ人達ガ差別ヲ受ケナイト云フコトデスガ、「差別されない」ト言フト、ソコノ所ガ少シ主動的ノ方カラモ何ダカ意味ガ違ツテ来テ、是ハ原案ノ通リニ「差別を受けない」デ差支ヘナイヤウニモ思フノデスガ、主ニ国民ニ対シテ、国民ノ平等権ヲ認メテ居ルモノデスカラ、国民ノ平等権カラ見ルト「差別を受けない」ノ方ガ一寸文章ノ工合トシテモ宜イヤウニ思フノデスガ……
○芦田委員長　ソレモ伺ツテ見ルト、一理アリマスネ
○林（平）委員　差別ト言フト最モ大キナ社会問題ガ日本ニ御承知ノヤウニ残ツテ居ル訳デアリマシテ、今此ノ憲法改正ニ当ツテモ相当熱心ナ希望ヲ申入レテ来テ居ル筋モアル訳デアリマス、サウ云フ心持ヲ取入レルコトガ出来ナイカト思フト中々難カシイ、丁度此処ガソレニ当ツテ居ルト思フノデスガ、サウスルト差別ヲ受ケナイトカ、サレナイデナク、差別シテハナラナイト言ツタ方ガピツタリ来ルノデハナイカト思ヒマスガ、如何デアリマスカ
○原（夫）委員　上カラ、国民カラト入レナケレバナラヌ
○吉田（安）委員　サウ云フコトヲシテハナラナイト云フ……
○林（平）委員　国民ハ是レ是レ是レ是レニ依ツテ政治的、社会的、経済的ノ差別ヲシテハナラナイ……
○芦田委員長　若シ英文ヲ尊重スルヤウナ意味ナラ、林君ノ言フヤウナ意味ニ書イテ居ルヤウニ思フケレドモ……
○鈴木（義）委員　国民ヲ差別シテハナラナイト云フコトニナラナケレバナラナイ
○林（平）委員　国民ハオ互ヒニ差別シテハナラナイト云フコトニシタイガ、サウ云フ解釈ニシタラ……
○芦田委員長　差別ヲ設ケテハナラナイト云フヤウナコトデスネ
○林（平）委員　サウデス
○笠井委員　英文デ「シャル・ビー・リスペクテッド」ト強ク言ツテ来テ居リマスカラ……
○鈴木（義）委員　差別アルベキデハナイト云フ意味ナンダ、英語デハ……
○大島（多）委員　大シテ不都合デナカツタラ、原文通リデ進行ヲ御願ヒシマス
○吉田（安）委員　私ハ大シテ何モナカツタラ林サンノ説ヲ御採用願ヒタイト思ヒマス
○高橋（泰）委員　私ハ「差別を受けない」ト云フノハ、国民ノ側カラ考ヘテ、ヤハリ「受けない」ト云フ原文ノ方ガ宜イト思フ、林サンノ気持モソレデ入ツテ居ルノデハナイカト思フ
○吉田（安）委員　ドツチデモ宜イデスガ、ヤハリスル方ガ悪イヂヤアリマセヌカ、シテハナラナイト云ツタ方ガ尚ホハツキリシハシナイカ
○鈴木（義）委員　此ノ法律アルコトニ依ツテ差別シテハナラナクナルノデスヨ、法律ノ方ガ前提デアルカラ、此処マデ変ヘテシマフト余リ親切ガ過ギテ工合悪クナルノデス、法律ノ方ハ「差別されない」ト云フヤウニシテ宜シイノデス
○芦田委員長　サウスルト、「差別を受けない」ト云フノト、「差別されない」ト云フノト二ツノ御意見ガアル訳デスネ
○鈴木（義）委員　他ノ条文トノ関係ニ依ルト、「されない」ノ方ガ妥当ノヤウデス、他ノ方モサウ云フ行キ方ヲシテ居ル
○芦田委員長　「差別せられない」トシマスカ、「差別されない」トシマスカ
○鈴木（義）委員　「差別されない」ノ方ガ簡潔明瞭デスネ
○芦田委員長　佐藤君、ソコハドウデスカ、「されない」トスルガ宜イカ……
○佐藤（達）政府委員　其ノ二ツノ中デハ、「されない」ノ方ガ他ノ文章トハ合フヤウニ思ヒマス
○笠井委員　「差別」ト云フノハ名詞ニ使ツタノデセウ
○芦田委員長　デハ「差別されない」ト云フコトニシテハドウデスカ
○笠井委員　委員長、私ハ是ハ原案ノ通リデ宜イト思ヒマスガ、若シ林君ノヤウニ直サナイナラバ……
○芦田委員長　ドウデスカ、多数ハドウモ「されない」説ニ賛成ノヤウデスガ、笠井君、ドウカ賛成シテ下サイ
○吉田（安）委員　大シタコトガナイカラ……
○芦田委員長　第十四条ハ社会党ノ修正案デ相当重要ナモノガアリマスガ、其ノ前ニ第二項ノ字句ノ修正ノ簡単ナモノガアリマスカラ、ソレヲ先ニヤツテオ昼ニシマセウ
○鈴木（義）委員　ソレカラ今一ツ此ノ十三条デ「華族その他の貴族の制度は、これを認めない。」トアリマスネ、是ハ修正デハナイガ、注意マデニ申上ゲルノハ、今法制審議会ノ方デヤツテ居ル皇室典範ノ改正案ニ依ルト、皇族ハ五代目マデ皇族タル地位ヲ持ツ、五代目以後ハ華族ニ落シ、ソシテ又五代ヲ経レバ臣下ニ落スト云フヤウナ案ニナツテ居マスガネ、サウスルト華族ト云フモノハナクナラナイノデスネ、法制審議会ノ方ノ皇室典範デ考ヘテ居ル所ニ依ルト、私ハサウ云フ皇室典範ノ決メ方ヲスルコトニ反対デスガ、唯サウ云フ問題ヲ知ラズニ此ノ憲法委員会ガ通過シテシマツテハイケナイカラ、ソレガ分ツテ居ツタガ、華族ノ制度ハ将来認メナイト云フコトデ此ノ案ヲ通過シテ居ルノダト云フ言質ヲ得ル為ニ此処ニ申上ゲテ置ク訳デス
○芦田委員長　十四条ノ字句ノ修正ト云フノハ極ク簡単ナコトデス、「すべて公務員は、全體の奉仕者であつて」ト言フト、何カ分リ悪イ人ガアルカラ、「全體への奉仕者であつて」、一部ノ奉仕者デハナイト、斯ウ云フ「へ」ト云フ字ヲ入レタイト云フノデス、斯ウ云フ案デスガ……
○鈴木（義）委員　全体ノ代理人デナイ、代表者デナイト云フ意味モ含ムノデハナイカト思フノデスガネ
○林（平）委員　「へ」ト云フヤウナ字ガ要リマスカネ
○芦田委員長　ソレハ如何デスカ
○佐藤（達）政府委員　此ノ全体ノ奉仕者ト云フ言葉ニ落付クマデニ、全体ニ対スル、一部ニ対スルトシテハドウダラウカト云フコトヲ論議シタコトガアリマスカラ、御参考マデニ申上ゲマス
○廿日出委員　実ハ是ハ私ガ言出シタコトデ、殆ド皆異口同音ニ、無条件ニ、アアソレニ越シタコトハナイト云フ意見ニ一致シタ訳デスガ、其ノ前ニ非常ニ繊細ニ分解シマシテ、「全體のために奉仕するもので」、斯ウ云フ風ニヤツタラドウカト云フ意見モ出テ居タ位デアリマスガ、本当ノ意味ヲ掴マヘテ、結局「全體への奉仕者」ト云フノデ能ク分ルデハナイカト云フコトデ、自由党ノ方デハサウ云フ風ニ決ツタヤウナ次第デアリマス、理由ヲ申上ゲマス
○原（夫）委員　サウナルト「一部」ハドウナルノデスカ
○芦田委員長　「一部への」デス
○吉田（安）委員　委員長、是デ宜イデハナイデスカ
○鈴木（義）委員　其ノ意味ハ確カニ「全體への奉仕者」ト云フ意味デスガ、将来ハ「全體の奉仕者」ト云フノハ、「全體への奉仕者」ダト云フ風ニ段々変化サセテ行クヤウニ、此ノ侭ニシテ置イタラドウデスカ、ソレハ正確ニモノヲ表ハサウトスレバ切リガナク残ルノデスガ、簡潔ト云フコトヲ憲法ノヤウナ条文デハ貴ブカラ――本当ハ「全體に對する奉仕者」ト云フノガ一番正当デス
○原（夫）委員　「公務員」ト云フコトガアリ、「奉仕者」ト云フ文字ガアレバ大体意味ハ分ルカラネ
○鈴木（義）委員　ダカラ「全體の奉仕者」ト云フノト、「一部の奉仕者」ト云フノデ、簡潔デ宜イト思ヒマス
○芦田委員長　「一部の奉仕者」ト言フト非常ニ間違ヒ易イノデハナイデスカネ、一部ノ奉仕者ガ現ハレタナント言フト、一部ト云フコトハ少数ノ……
○鈴木（義）委員　ソレハドツチデモ宜イデス、私ハ多数ニ服シマス
○笠井委員　此処ノ所ハ一部ト言フノデスカラ、モツトハツキリサセタラドウデセウ
○芦田委員長　「對する」ト云フ字ヲ入レレバハツキリスル訳デスガネ
○林（平）委員　ソレデ意味ハハツキリスルケレドモ、ドウモ使ヒニクイデス、サウトスレバ寧ロ「全體のための」ト言ツタ方ガ大変ニハツキリスルト思フノデス、一部ノ為ノ奉仕者デナイ、是ハ迷フコトハナイト思フノデスガ……
○廿日出委員　全体ノ為ト云フ感ジヨリモ、「全體に對する奉仕者」ト云フ方ガ感ジガ好イ、併シマア此ノ点ニ付テハ別ニドウ斯ウアリマセヌ
○芦田委員長　ドウデスカ原サン、今ノ「全體への」「一部への」ト云フ其ノ「へ」ヲ加ヘルカドウカト云フ点ハ……
○原（夫）委員　此ノ「一部の奉仕者」、奉仕者ニ一部ト云フノガアルト云フコトハ意味シテ居ナイト云フコトハ明カダト思フノデスガ、兎ニ角此処ノ所ハ本当ハ分ラナイ方ガ宜イノヂヤナイデスカ、原案維持デ宜イヂヤナイデスカ
○芦田委員長　原案維持ニ御賛成ノ方ハ……
　　　　〔「賛成賛成」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　原案賛成、ソレデハ少数ダカラ取リマセウ、ソレデハ一寸発表文ヲ御相談致シマス、「小委員會ハ二十九日午前十時四十分開會、第二章ニ關スル修正ニ付キ一應ノ妥協ニ到達シ、第十三條マデノ審議ヲ終了シテ正午休憩」、此ノ程度デ宜シウゴザイマセウカ
○原（夫）委員　結構デゴザイマス
○鈴木（義）委員　社会党カラ第一条ニ付テ重要ナ提案ガアツタト云フコトヲ一ツ入レテ戴キタイ
○芦田委員長　ソレデハ是デ宜シウゴザイマスカ、「尚ホ社會黨ヨリ第一條トシテ新案文ヲ提出シタ」、午後ハ一時半カラ開会致シマス
　　　　正午休憩
　　　　　――――◇―――――
　　　　午後一時四十四分開議
○芦田委員長　休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス、第十四条ニ関スル社会党ノ修正案ヲ議題ニ供シマス、是ハ公式ニ御尋ネシテハ少シ都合ガ悪イ問題カモ知レナイガ、第三章ニ対スル社会党ノ修正案ノ中デ、何レモ重要デアルニハ違ヒナイケレドモ、其ノ中デモ多少軽重ガアルノデスカ、ソレトモ修正案各条全部大体同ジ重要性ヲ持ツテ居ルノデセウカ
○鈴木（義）委員　大体経済社会的ナ規定ニ関スルモノハ同ジ重要性ヲ持ツテ居ルト御考ヘヲ願ヒマス
○芦田委員長　サウスルト是ハモウ「ブロック」トシテ是ダケノモノヲ入レルカ入レヌカト云フコトデスネ
○鈴木（義）委員　サウデス、デスカラ一括シテ……
○芦田委員長　之ヲ別々ニ切離シテ、一部分ハ宜シイ、一部分ハ削除ト云フヤウナ討議ハ困ル、此ノ全体ヲ入レルカ入レヌカ斯ウ云フコトデスカ
○鈴木（義）委員　大体サウ云フ方針デ書イテ居リマス
○芦田委員長　ソレデハ今御聴キ及ビノ通リ、社会党ノ方ノ意見ハ、此ノ修正案ヲ全部一括シテ挿入スルカシナイカ、斯ウ云フコトノ決定ヲ求メテ居ラレルト云フコトナノデス
○吉田（安）委員　一寸御尋ネシマスガ、サウシマスト社会党ノ修正案トシテ出テ居リマス第三章ヲ、各条一括シテ認メルカ認メナイカト云フ御意見デスカ
○鈴木（義）委員　イヤ、ソレヲ一括シテ――是ハ通ラナクテモ宜イ、是ハ是非通シタイト云フ区別ガアルカト云フ御尋ネト聴キマシタカラ、ドレモ通スコトヲ希望シテヤツテ居ルノデ、甲乙ハナイト中上ゲタ訳デス、一括シテ論ジテ呉レト云フ意味デハナイノデス
○芦田委員長　サウ云フ意味ヂヤナイノデスカ、或ルモノハ採リ、或ルモノハ論ジテ宜イト云フコトナノデスカ、私ガ知リタカツタノハ、是ハ一ツデモ抜ケレバ困ルノダ、ダカラ之ヲ全部一括シテ、第三章ノ最後ノ条項ノ修正案マデ一括シテ論ズルノカ、別々ニ切リ離シテ論ジテ宜イノカト云フ御意向ヲ実ハ同時ニ伺ヒタカツタノデス
○鈴木（義）委員　是ハ非常ニ答ヘ方ガ難カシイノデス、一応私共ガ之ニ置イテアル価値ガ平等デアルト御考ヘ下サツテ、一条ヅツ御審議ヲ願ヒタイ
○芦田委員長　ソレナラサウ云フ風ニ参リマセウ、サウスルト社会党ノ印刷物ノ五「ページ」ノ初メ、第十四条ノ第一項ト二項トノ間ニ挿入スベキ――是ハ第二項トシテ入レル訳デスネ
○鈴木（義）委員　サウデス
○芦田委員長　第十四条ノ修正ハ如何デスカ
○鈴木（義）委員　是ハ今ノ憲法ニモアルノデスカラ、唯ドウシテ今度ノ憲法ニ採ラナカツタノカ不思議ニ思フ、是ハ当然入レテ置ク方ガ宜イト云フノガ私ノ考ヘ方デス
○芦田委員長　修正案ノ中第二項「國民が公職に就く義務を負ふ」ト云フダケガ新シイ一ツノ考ヘ方ナノデスネ
○鈴木（義）委員　サウデス、此ノ頃国民一般ノ風潮トシテ出来ルダケ公職カラ逃ゲタガルヤウデス、就カナイデ済ムナラ成ルタケナリタクナイ、町会長トカ……
○芦田委員長　是ハ投票権ナドト同ジヤウナ立場ノモノデハナイデセウカ、例ヘバ公職ニ就ク者、衆議院議員、知事サウ云フモノヲ選挙スル場合ニ、其ノ投票ヲ行フ義務ヲ負フト云フコトデアレバ、投票サレタ人モ公職ニ就ク義務ヲ負フト云フコトハ均衡ガ取レルガ、選ブ方ハ棄権シテモ宜イ、選バレタ方ダケハ厭デモ応デモ逃ゲラレナイ、斯ウ云フコトニ結果ニ於テハナルノデスネ、其ノ点ドウデスカ
○鈴木（義）委員　本当ハ民主主義的デナイカモ知ラナイガ、恐ラクハサウ云フ規定ヲ置カナケレバ、ドウモ収拾シ難イヤウナコトニナリマセヌカ、ソレヲ恐レテ居ル訳デス、行ク行クハ名誉職ハ極度ニ減ツテ大抵有給職ニナル予定ノヤウデスカラ、サウスレバ強ヒテ逃ゲルノガ少クナルカモ知レナイ
○芦田委員長　ト同時ニドウシテモ嫌ダト云フヨウナ人間ヲ公職ニ就カシテ能率ガ上ルデセウカ、是ハ私限リノ意見デ、マダ自由党ノ方ノ意見ト云フ意味ヂヤアリマセヌガ、私個人ノ意見トシテハ、初メノ方ノ公職ニ就クコトガ出来ルト云フ規定ハ現行法ニモアルノダシ、是ハ入レルコトハ或ハ当然デアルカモ知レヌト思フガ、後ノ方ハ就任シテ以後ノ能率ノ問題トカ、投票権ガマダ義務制ニナツテ居ナイ時ニ、当選シタ者ニダケ義務ヲ負ハセルト云フコトニモ多少不均衡ナ点ガアリ、且ツサウ云フ公職ニ就クコトヲ非常ニ嫌ツテ居ル者ヲ職ニ据エルコトガ一面ニ於テ能率ヲ害スルト云ツタヤウナコトモアルシ、後ノ方ハ之ヲ挿入スルノハドウカ、斯ウ云フ風ニ私ハ今考ヘテ居ルノデスガ、併シ他ノ委員諸君ノ意向ヲハツキリ承ツテカラ自分ノ意見ヲ決メタイト思ヒマス
○廿日出委員　折角公務ト云フ大切ナ仕事ニ就クヤウナ人ヲ、義務的ニ之ヲ引括ツテドウデモト云フヤウニシテ見タ所デドウニモナラナイノデ、ソレニハ恐ラク条件ガ悪イカラ名誉職ニ就クノヲ厭ガル、実際問題トシテ村長サンニ担ギ上ゲラレタ所デ仕事ガ出来ナイシ、報酬ハ少イシ、殆ド名バカリノ職デ立派ナ独立的ナ生活サヘモ出来ナイ、斯ウ云フヤウナコトヲ聞クコトハ確カニアルノデス、其ノ意味ニ於テ条件ヲ付ケレバ立派ナ待遇ヲシテ上ゲル、立派ニ待遇ノ向上ヲ図ツテ上ゲルト云フコトダケヲ条件付ケレバ、此ノ義務ト云フモノモソレデ生キテ来ルカモ分ラヌ、ソレガナケレバ全ク従来通リト思フノデゴザイマス
○吉田（安）委員　今鈴木委員カラ言ハレテ居ルコトハ、結局委員長ノ仰シヤツタヤウニ嫌ナ人ヲ無理ヤリニ義務付ケテヤツテモ能率ガ上ラヌヂヤナイカト云フコトモ御尤モデスガ、一体逃ゲルヤウナ人ハ本当ハ立派ナ人ナンデス、ソレデサウ云フ人ハ今マデノ事情ニ嫌気ガ差シテ、サウ云フノハ詰ラヌト云フコトデ逃ゲタガル人デアツテ、ダカラ其ノ人ガ承諾ヲスレバ結局私ハ仕事ハ相当ニ出来ル人ダト思ツテ居ル、随テ能率モ上ルト思フ、ソレヨリモ総テ国民ノ公職ニ就ク義務ヲ負フト云フコトヲ規定スルコトガ必要デアルカドウカト云フ問題ニナリハシナイカト思フ、私ハ国民ガ前ノ規定ハ賛成ハ出来ルト思フガ、第二項ノ国民ハ総テ義務ヲ負フト云フノハドウカト思ヒマス
○芦田委員長　例ヘバ衆議院議員ノ場合、此ノ人ハ立派ナ人ダカラドウシテモ推薦シテ当選サセヨウト云フノデ推薦シテ、其ノ人ガ当選ヲスル、サウスルト今マデハ承諾ガナケレバ衆議院議員ニハナレナイガ、今度ハ承諾ト云フヤウナコトハナシニ、苟クモ推薦サレレバ否デモ応デモ衆議院議員ニナラナケレバナラナイト云フコトニナル訳デスネ
○吉田（安）委員　サウ云フ点モアルデスネ
○芦田委員長　サウ云フアタリガ、ドウモ之ヲ入レテシマフト根本的ニ改正ヲシテ掛ラナクテハナラナイヤウナモノガ相当アリハシナイカ、投票モ当然義務制ニシナケレバ「バランス」ガ取レナイ
○吉田（安）委員　投票ノ件ハ委員長ノ仰シヤツタ通リデスネ、其ノ点ハ放棄シテ放ツテ置クノガアルカラ、ソレハ義務制ニナラナケレバナラヌト云フコトニナルト思ヒマス
○鈴木（義）委員　名誉職ヲ出来ルダケ減ラシテ、有給職ニシヨウト云フ制度改革ノ上ニ於ケル近代的職業ト云フモノト関連スルデスネ、デスカラ私共ハ憲法ニイキナリ斯ウ云フ総括的優遇ヲ規定シテモ無理ナノデアツテ、地方制其ノ他凡ユル公共団体法デ、名誉職デナク有給職デ、何人モ好ンデソレニナリ得ルヤウニ、制度ヲ開イテ行ク方ガ先決ノ問題ダト思ツテ居ル、此ノ第二項ノ方ハ若シ多数ノ御意見ガ反対ナラバ強イテ固執ハ致シマセヌ、我ガ党ノ代議士ノ中ニ之ヲ希望スル者ガアルカラ入レタノデアリマス
○芦田委員長　今之ヲ削除スルトカ撤回スルトカ云フコトヲ決メナイデ、サウ云フアナタノ御気持ヲ諒トシテ、第一項ノ方ハ御意見ヲ決メテ貰ツタラドウデスカ、一項ノ方ハ現行憲法ノ第十九条ト同ジ趣意ダカラ……
○鈴木（義）委員　「すべての」ト書イテアルガ、「の」ハ余計デアル、何カ写シタ人ガ間違ヘタコトト思フ、入レル場所ガ絶対ニ此処ガ適当ダト云フノデハアリマセヌカラ、サウ云フ技術的ノ点ヲ後デ御考ヘヲ願ツテ宜イト思フ
○芦田委員長　佐藤サン、公職ト云ヘバ官吏ハ公職ニ入リマスカ
○佐藤（達）政府委員　斯ウ書ケバ入ルト思ヒマス
○芦田委員長　自由党ノ方ノ御意見ハ如何デスカ
○高橋（泰）委員　現行憲法ニ付テハ今御話モアツタノデスガ、草案ニ之ヲ入レタ趣旨カラ云ウテモ、此処ニ特ニ之ヲ取上ゲテ改正案ニ入レナクチヤナラヌト云フヤウナ必要ハナイ
○芦田委員長　結局是ハナクテモ斯ウ云フ主義ダ、斯ウ云フ主義ハ明カダト云フ御意見デスネ
○高橋（泰）委員　サウデス
○佐藤（達）政府委員　一寸御参考マデニ申上ゲタイト思ヒマスガ、現行憲法ニアリマス規定ヲ入レマセヌデシタノハ、一ツハ十三条ノ規定ガアリマシテ、一応十三条ノ精神カラ均シクト云フコトハ当然出テ来ルヂヤナイカト云フコトガ主ナル考ヘ方デアリマス、モウ一ツハ是ハ仮ニ申上ゲルノデスケレドモ、現行憲法第十九条ニアルカラ、反ツテココニ之ヲ出スノハ気持トシテドウカト云フ感ジノ問題デアリマス、是ハ何カ官吏ガ好イト云フヤウナ、感情デ官吏ニ取立テテヤラウト云フヤウナ気持デ、現行十九条ガ制定サレテ居ルト云フ見方モアルヤウニ思ヒマス、此ノ連想カラ言ツテ、寧ロ現行憲法ニアルカラ之ヲ入レナイ方ガ宜イヂヤナイカ、後ノ方ハ全クオ笑ヒ話トシテ御聴捨テ願ヒマス
○鈴木（義）委員　サウ云フ考ヘ方モ大事ナ考ヘ方トシテ我々モ持ツテ居ルノデスガ、唯予程緻密に思索スル人ダケガ、十三条デ総テ含マレテ居ルコトガ分ルノデアツテ、実ハ私ノ理想ハ、是ハ国民学校デ教ヘル時ニモ、既ニ日本国民ノ教育ニナルト云フコトヲ標準ニスル、サウ云フ意味カラ云フト、児童に与ヘル影響ト云フヤウナコトカラ、誰デモ勉強シテ大イニヤレバ公職ニ就ケルノダト云フヤウナコトヲ取立テテ教ヘテ置キタイ、サウ云フ老婆心ガ働イテ居ル訳ナンデス、丁度公職ノ規定ヲ十四条デ規定シテ居ル所ヘ、十三条ニ当然含マレテハ居ルノダガ、入レテハドウカト云フノデス
○北（れい）委員　鈴木サン是ハ何デハナイデスカ、十三条ニ含マレテハ居リマセウガ、国民固有ノ権利デ公務員ヲ選定シ、之ヲ罷免スルト云フ意味デハ、官吏デモ何デモ公務員ノ中ヘ入ルノデスカラネ、ソレダカラ直接デアレ、間接デアレ、結局好キナモノハ国民ガ入レルシ、罷メサセル時ハ国民ガ罷メサセルト云フコトニナルノデスカラ、国民ノ気ニ合フ人ナラ誰デモナレルト云フコトヲ此処デ意味シテ居リハシマセヌカ
○鈴木（義）委員　併シ是ハ選拳スル権利ダケデスカラネ、成タケ時間ヲ倹約スル意味デ、大体分リマシタラ、此ノ条文ナドハ余リ固執シナクテモ宜イ中ノ一ツニ属スルモノデスカラ、皆サンノ御意見ガ賛成デアレバ、強ヒテハ申シマセヌ、趣旨ハ今申シマシタヤウナ趣旨デ来テ居リマス
○原（夫）委員　私モ是ハ鈴木サンノ御認メノ通りニ――御認メト云フノハ、前ノ十三条デ分ツテ居ルモノデスカラ、入レナイデモ宜シイ、斯ウ云フコトノ方ガ賛成ナンデス
○芦田委員長　ソレデハ大体サウ云フ空気ト云フコトデ、之ヲ確定スルコトハ暫ク差控ヘテ置キマシテ次ヘ参リマセウ
　サウスルト、第二十二条ノ三項ヘ「國民の家庭生活は保護される」ト云フ文字ヲ入レタイ、ソコデ家庭生活ト云フノハ一体ドウ云フコトデスカネ、此処デ一寸此ノ理由ヲ御聴キシタイト思フノデスケレドモ……
○鈴木（義）委員　理由ハ此処ニ余リ詳シク出テ居ラナイノデ、実ハ家族制度ト云フ方ガ適切ナンデス、家族ガ保護サレルト云フノハ家族制度ヲ保護スルト言ツテモ宜イデスケレドモ、唯家族制度ト云フト、今マデノ封建的家族制度ト直グ結ビ着ク、ソレデサウ云フモノヲ保護スルト云フノガ我々ノ趣意デハナイ、ドウモソレト区別スル為ニ適当ナ言葉ガナイカラ「家庭生活」トヤツタノデス
○芦田委員長　サウ云フ意味デスカ
○鈴木（義）委員　エエサウデス
○芦田委員長　ドウ云フコトデスカ、此ノ保護スルト云フノハ……
○鈴木（義）委員　詰リ二十二条ハ全体トシテ見ルト、男女ト云フモノヲ平等、対等ニ置イテ保護スルト云フコトヲ規定シテ居ル、ソレデマダ日本デハ男女ヲ対等、平等ニ置イテ保護スル外ニ、家ト云フ集団的団体ヲ一ツノ対象トシテ保護シテ居ル部面ガ沢山アル、斯ウ考ヘル訳デアリマス、戸主権ノ問題ヲドウスルカ、或ハ相続ノ問題デモ、是モ男女ノ本質的平等ト云フコトデ尽サレテ居ルヤウナモノデスケレドモ、長子相続デナク均分相続ニスル、併シ或ル場合ニハ、農家ノヤウニ均分相続モ出来ナイ、ヤハリ或ル程度ノ家族本位ノ相続制度ヲ維持シテ行カナケレバナラヌト云フコトニナルト、此ノ条文ダケデハ不十分ダ、ドツチニシテモ家族ト云フモノヲ土台ニシタ一ツノ保護規定ノアルコトガ望マシイ、サウ云フ意味デ親子、兄弟、姉妹ノ関係等ヲ調節スル、男女ト云フ性ノ関係ニ於テ保護スルノデハナク、家族ト云フ集団的関係ニ於テ保護スルト云フコトヲ約束シテ置クコトガ望マシイ、「ドイツ」ノ「ワイマール」憲法ノヤウニ家庭生活、血ノ純潔ノ保護トカ、色々ナコトガ規定サレテアリマシタガ、アア云フモノト似タ規定ヲ、極ク簡単ナ言葉デ表現スル積リナンデス
○芦田委員長　サウ云フ意味ニ読ンデ呉レルデセウカネ、ココデ卒然トシテ斯ウ云フ「國民の家庭生活は保護される」ト云フ文句ニ依ツテ……
○鈴木（義）委員　ドウモソレハ難カシイカモ知レマセヌガ、出来ルダケサウ云フ註釈ヲ加ヘルコトニ依ツテ、サウ読マセルヤウニシタイト思ヒマス
○吉田（安）委員　ソレコソ先程鈴木サンノ仰シヤツタ国民学校ノ教科書ニハ、ソレハ難解ノヤウデスネ
○鈴木（義）委員　是ハ実ハ婦人代議士ハ実ニ細カイ規定ヲ持ツテ来タンデス、ソレモ一寸憲法トシテハ――民法カ何カナラ宜イノデスケレドモ、一寸冗長ニ過ギテ困ルノデ、斯ウ云フ簡潔ナ一行ニ約メタ訳ナンデス
○廿日出委員　第二十二条第二項ヲ能ク読ンデ見マスト、下ノ方ニ「及び家族に關するその他の事項に關しては、法律は、個人の」トヤハリ家族ニ入ル、親子、兄弟、姉妹ト云フ、其ノ個人モ入ツテ居ルヤウニ思フノデス、随テ社会党ノ修正草案ノ六頁ノ所ニ示サレテ居ル説明ト照シ合セマスト、其ノ精神ニピツタリ此処デ合ツテ居ツテ、十分示サレテ居ルヤウニ思ハレルノデス、ソレハ其ノ他ニモ親子、兄弟、姉妹等ノ関係ニ於テ、家庭生活ノアリ方ガ、将来民主的、合理的ニ改革セラレル事項ガ頗ル多イ、故ニ立法ノ指針トシテ此ノ一項ヲ加ヘルノデアル、随テ将来民主的ニ合理的ニ改革セラレル此ノ基本ハ、コツチノ二十二条ノ、本質的平等ニ立脚シテ制定セラレル法規ノ内容ニナルト思フ、大抵皆之ニ含マレルノヂヤナイカト思フノデスガ、ドンナモノデスカ
○鈴木（義）委員　実ハ私ハソレヲ一応考ヘテ見タンデス、此処ニ「家族に關するその他の事項」トアル、是ハ殆ド感ジノ問題デス、「フィーリング」ノ問題デスケレドモ、此処デハ婚姻ハ男女ノ合意ノミニ基イテ成立スル、ソコデ後ニ来テモヤハリ「個人の權威と兩性の本質的平等」ト云フヤウナコトヲ言ツテ、男女ト云フモノヲ土台ニシタ意味ノ平等観カラ、是等ノ規定ヲ皆制定スルコトニスルゾト云フ約束ヲシテ居ルノデ、要スルニヤハリ家族ト云フコトモサウ云フ点ニダケ重点ヲ置イタ印象ヲ与ヘル、ソコデ別ニ家族ヲ保護スルト云フコトヲ一行ダケ加ヘテ置ケバ、念ノ為ニハナルト云フ積リデス、此処ヲモウ少シ家族ニ重点ヲ置イタ書キ方ニ変ヘレバ是デモ宜イノデス
○廿日出委員　アスコノ「個人の權威」ト云フ、其ノ点ハドウデスカネ
○芦田委員長　私ノ了解シタノハ、寧ロ此ノ二十二条ノ規定ニ依レバ、余リニ行過ギガアリハシナイカ、ダカラ一切平等無差別ト云ツタ男女ノ立場等ニ付テモ、ヤハリ家庭生活ノ従来ノ何ヲ考ヘテ立法シナクチヤイケナイト云フ意味デ「家庭生活は保護される」ト云フ規定ガ入ルヤウニ思ツタノデスガ、サウ云フ意味ヂヤナイノデスカ、鈴木サンノ説明ヲ聴イテノ印象デハ、二十二条デハ余リニ機械的ナ平等ニ流レル虞ガアル、ソレダカラ家庭生活ト云フモノヲ考慮シテ然ルベク其ノ辺ヲ調和スベキダ、サウ云フ意味ノヤウニ拝聴シタノデスガ、サウデスカ
○鈴木（義）委員　サウデス、サウ云フ意味ノ家族制度ヲ助長シテ行カウト云フノデス
○原（夫）委員　実ハ原案ノ二十二条ニ付テ、私ハ甚ダ遺憾ナコトデアルト思フノハ、裏ノ委員会デ政府ニ御伺ヒシタイコトガ多々アツタト思フノダケレドモ、其ノ場合ハナカツタノデ、ココデ一ツ佐藤サンニ御説明ヲ願ヒタイノハ、先ヅ戸主権ノ関係ハドウナルカト云フコト、相続ト云フモノハドウ云フ関係ニナルノカ、其ノ二点ダケニ付テ御説明ヲ御願ヒシタイト思ヒマス
○佐藤（達）政府委員　今日ノ私共ノ立場トシテ、ソコマデ権威アル御説明ヲ申上ゲルノハドウカト思ヒマスケレドモ、我々ガ一応立案ニ際シテ考ヘテ居リマシタ心持ハ、固ヨリ此ノ個人ノ権威ト、両性ノ本質的平等ニ立脚シナケレバナリマセヌケレドモ、是ハ平面的ノ事柄ヲ言フノデハナクテ、例ヘバ家督相続権ト云フモノヲ全面的ニ否認スルトカ、或ハ戸主ト云フモノノ立場ヲ全然ココデ否認スルト云フコトニナルカドウカ、其ノ点ニ付テハ多少考ヘル余裕ガアルモノト考ヘテ居ルノデアリマス
○原（夫）委員　其ノ余裕ト云フモノハドウ云フコトデアリマスカ、モウ少シ掘下ゲテ説明シテ戴キタイ、原案ヲ御作リニナツタ御気持ヲ……
○佐藤（達）政府委員　此ノ点ハ主トシテ司法省ノ当局者ニ考ヘテ貰ツタノデアリマスケレドモ、例ヘバ家ト云フモノヲ構成シテ居ル家族ニ付テノ個人ノ権威ト云フコトヲ仮ニ認メルトシマスレバ、一定ノ家団、家ノ集団ト申シマスカ、家ノ集団生活ト云フモノハ是ハ認メテ行カナケレバナラヌ、ソコデ集団生活ノ「メンバー」トシテ其ノ家ニ居リ、或ハ其ノ家カラ出ルト云フヤウナ関係ハ、是ハ相当今ノ制度デハ拘束ガアルヤウニ思ヒマス、ソレ等ノ拘束ハ相当撤廃シナケレバナラヌト云フヤウニ此ノ精神カラナル、併シ全面的ニ家ノ集団ト云フモノヲ法律的ノ見地カラ無視シテシマフカドウカト云フト、一ツノ考ヘ方トシテハ、ソレヲ法律的ノ立場カラ無視スル考ヘ方モアリマスケレドモ、ソレハ必ズシモ此ノ二十二条カラ来テ無視スツルト云フ結果ニハナラナイト思ヒマス、サウナツテ来ルト、家ノ集団ト云フヤウナモノヲ一応認メテ、先程申シマシタヤウニ、其ノ家ノ「メンバー」ニナルコトハ、其ノ個人ノ自由意思ニ任セテ行クト云フコトガ一ツノ考ヘ方ニナル、サウスレバ家ノ集団ト云フコトヲ認メマスト、ソコニ家ノ象徴ト云フモノガアルト云フ立場カラ、例ヘバ祖先ノ墓ヲ守ツテ行クト云フコトハ、ヤハリ一ツノ家ヲ単位トシテ考ヘテ行クト云フコトデハナイカ、サウ云フコトニ引付ケテ来テ、形式的ナ素朴ナコトヲ申シマスケレドモ、祖先ノ墓ヲ守ツテ行ク為ノ一ツノ手段トシテノ財産、サウ云フモノハヤハリ其ノ家ノ今マデノ家督相続ト云フヤウナ観念デ伝ヘテ行クト云フコトガ成立ツノデハナイカト云フヤウナ筋道ヲ辿リマシテ、ソレハ一番ノギリギリ結着ナ所ヲ捉マヘテノ考ヘ方デスガ、ソレニドレダケノ幅ガアルカト云フコトガ研究問題ダラウト思ヒマス、サウ云フ意味デ全面的ニ今ノ戸主ノ立場、或ハ家督相続ト云フモノハ此ノ二十二条デハ認メラレナイト云フコトニナルカドウカ、サウハナラナイノデハナイカト云フコトガ、我々ノ事務的ニ考ヘテ居ツタ所デアリマシテ、此ノ間ノ委員会デハ正式ニ御答弁ハシテナカツタト思ヒマスガ、我々ノ気持ヲ申上ゲサセテ戴ケバ、サウ云フ研究ノ過程ニアツタ訳デアリマス
○原（夫）委員　法律ハ個人ノ権威ト両性ノ本質的平等ニ立脚シテ制定セラレナケレバナラヌト云フコトデスガ、是ハ家族関係ヲ民法デ決メル場合ニナル、ソコデ本質的平等ニ立脚シテト云フ「的」ト云フ字ハ、是モ大体本条ノ通念デ分リマスガ、サウスルト家族ノ団体、集団ガ出来テ、其ノ管理者――従来ハ戸主ト云フモノガ管理ヲシテヤツテ居ツタノデスガ、サウ云フモノハ当然一寸不平等ノ立場ニ置カレル訳ナノデスガ、ソレハ本質的平等ニ立脚シテト云フコトカラ云フト、何ダカサウ云フコトノ出来ナイヤウナ風ニモ考ヘラレルノデス、遺産相続ノコトハ分ルノデスガ、サウナルト家督相続ト云フコトニ致シテモ、相続人ト云フモノハ、ヤハリ長子相続ト云フコトニスレバ、女モ相続ガ出来ル、弟ガ居ツテモ、男子ガアツテモ是ハ相続ヲサセナイト云フ色々ナ問題ガココニ起ル、是ハ鈴木君ノ保護主義カラ云フト、一寸此処ノ所ガ能ク了解ガ付カヌ、此ノ点ハ如何デアリマセウカ
○佐藤（達）政府委員　委員長如何デセウカ、此ノ間ノ委員会デモ正式ナ御答弁ハシテ居ナイト思ヒマスガ、或ハ然ルベキ政府委員ナリ大臣カラ御説明スルヤウニ致シマセウカ、御取次ギヲスルト云フ程度デ……
○芦田委員長　モウ一度確メテカラニシマセウカ
○佐藤（達）政府委員　サウ願ヒタイノデスガ……
○北（れい）委員　実ハ此ノ二十二条ハ自由党ノ憲法草案ノ審議デモ、非常ニ大キナ問題ニナツタノデス、更ニ進歩党ノ諸君ト語リ合ツタ時ニモ、植原国務大臣、齋藤国務大臣ノ出席ガアリマシタガ、是ハ非常ナ重大問題ダ、今原君ガ指摘シタ如ク、此ノ法律デ何トカ規定スルト云ツテモ、法律ハ個人ノ権威即チ尊厳、両性ノ本質的平等ニ立脚シテ、其ノ個人ノ威厳ト云フ所ハ家族主義ヲ棄テテ、寧ロ個人主義ヲ取ルト云フコトガハツキリシテ居ル、個人主義ヲ取ル場合デモ両性デ区別シテナイ、ソレガ本質的平等ト云フ立場デアル、ドチラヲ重視スルト云フコトニハナツテ居ナイ、個人ハ個人トシテ尊厳デアルト云フ根拠カラ、両性ノ本質的平等ガ出テ来テ居ル、サウ云フ根拠ニ基イテ制定シナケレバナラヌ、斯ウナツテ居ルノデスガ、ソレダト現在戸主ニナツテ居ルモノガ財産ヲ持ツテ居ル、其ノ財産ヲ、三人ノ子供ガアル場合ニ、勝手ニ長男ダケニ呉レル、或ハ家督相続ヲ長女ガアルニ拘ラズ、ソレヨリ年ノ若イ長男ニヤル、斯ウ云フ日本ノ従来ノ習慣ニ対シテ、抗議ヲ申込ム余地ガアリハシナイカ、文字通リニ云フト、ドウシテモ家族主義ハ棄テテ、個人主義ノ立場ニ立ツテ居ル、之ヲ此ノ憲法ノ条文通リ、文字通リニ解釈スルト、私等ガ非常ニ心配ナノハ農地法ノ問題ト関連シテ来ル、農地法ノ改正案カラ言ヒマスレバ、成ルベク地主ノ土地所有ヲ制限スル、即チ耕作者ハ三町歩前後、耕作シナイ者ハ一町歩デアルガ、子供ガ三人モ五人モアル場合ハ、子供ガ土地ヲ分有スル権利ガ憲法上出テ来ルカラ、折角一町歩ノ百姓、小サイ自作農ヲ沢山作ツテモ、片端カラ崩レテ行クト云フ心配ガアル、此ノ条文ノ適用ガ法制上決マラヌト、我々ハ農地法ニ賛成シ兼ネルノデス、折角政府ガ地主ノ持ツテ居ル広大ナ土地ヲ農地証券ヲ出シテ買収シ、小作人ヤ貧農ニソレヲ安ク売リ渡ス、サウシテ自作農ヲ作ツテモ、一方カラ崩レテ来ル、「ナチス」時代ノ「ダーレ」農林大臣ガヤツタヤウニ、土地世襲法デモ設ケル、子供ノ誰カガ必ズ百姓シナケレバナラヌ、土地ヲ世襲財産トスル、金融ノ抵当物ニモシテハナラヌト云フ位ノ法デモアレバ、自作農創設モ非常ニ意義ガアル、此ノヤウニ是ト密接ナ関係ヲ持ツテ居リマスカラ、私ハ憲法ニ次グ程ノ、日本ノ国民生活ノ屋台骨ニ関係スルコトデ、今ノ法制当局ノ御話ダケデハドウモ納得シ兼ネル、政府ノ之ニ対スル根本的態度ヲ示シテ戴キタイ、丁度アノ国民ニ主権アリト云フコトヲ明記セヨト云フコトト同ジヤウナ、大キナ憲法ノ条文ノ一ツダト思フ、如何デセウカ
○芦田委員長　是ハ御意見モアリマスカラ、明日政府、殊ニ金森国務大臣並ニ司法省ノ相当ノ地位ノ人ニ出席ヲ願ツテ、其ノ点ヲ少シ明確ニ聴イテカラニ致シマセウ
○鈴木（義）委員　御考ヘ願ヒタイコトハ、廿日出君ノ言ハレルコトモ御尤モナノデ、唯サウ云フ印象ガ稀薄デスカラ心配シテ居ルノデスガ、「家族その他の生活事項」ト入レタラ、幾ラカ私ノ主張スルコトガ生キルノデハナイカト考ヘマス、御考ヘ置キヲ願ヒマス、ソレカラ「家庭生活」ガドウモオカシイコトハ提案者自身モ感ジテ居ル、「家族生活」ト云フコトモ一案デアルト云フコトヲ一ツ御考ヘ置キヲ願ヒマス
○芦田委員長　自由党ノ修正案ノ中ニハ洩レテ居ルカト思ヒマスガ、「個人の權威」ト云フノヲ「個人の尊嚴」トデモシナイト、「ディグニティ」ト云フノデスカラ……
○林（平）委員　私ノ方ノ修正案ハ提出シテ置イタ通リデアリマシテ、「權威」ト云フ所ヲ「品位」、其ノ下ノ「兩性の本質的平等」ト云フ所ヲ「本質に立脚して」トシテ「的平等」ト云フ所ヲ削除スルト云フノガ私ノ方ノ提案デアリマス、ドウシテサウ云フコトヲ主張スルカト申シマスト、ヤハリ婦人ハ婦人トシテ男子ノ及バナイ尊サヲ持ツテ居ル、サレバトテ男子モ亦女子ノ及バナイ尊サヲ別個ニ持ツテ居ル、サウ云フヤウニ互ヒニ本質ノ尊イモノヲ持ツテ居ル所カラ、サウ云フ意味ニ於テ本質ニ立脚シタ法律ト云フヤウナコトヲ考ヘテ行キタイト思フノデアリマス
○芦田委員長　「個人の權威」ト云フノヲ「品位」ト直スカ「尊嚴」ト直スカ、如何デスカ
○林（平）委員　「品位」ト云フ方ガ普通使ハレテ居ル言葉デハナイデセウカ
○芦田委員長　普通「尊嚴」ト言ウテ居ルガ、「品位」ト言ツテモ間違ヒハナイ
○林（平）委員　大体「尊嚴」モ「品位」モ似タヤウナモノデゴザイマスカラ、皆サンガ「尊嚴」ノ方ガ宜イトアレバ、ソレデモ宜イ
○芦田委員長　次ニハ「本質的平等」ノ「的平等」ヲ取ラウト云フ御意見デスガ……
○鈴木（義）委員　是ハ林サンノ御言葉デスケレドモ、是非入レテ貰ハナケレバナラヌト思フ、ソコニ問題ガアル訳デ、是カラハ男女ガ差別ガアル侭ニ於テ平等デアルト云フコトハ大イニ強調サレナケレバナラヌ、「本質に立脚して」ト言フト、如何ニモ差別ダケニ力ヲ入レテ、同等ニ与ヘルト云フコトガ出テ来ナイ、是ガ新憲法ノ新シイ問題ダト思フノデ、是非入レナケレバナラヌ
○北（れい）委員　此ノ「ディグニティ」ハ実際「尊嚴」トモ「品位」トモ訳スガ、此ノ場合ハ個人ノ品位ト云フヨリモ、尊厳ト云フ方ガピツタリ来ル、個人ト云フモノハ、三男坊、五男坊デアツテモ、個人トシテ尊重シナケレバナラヌト云フ意味カラ出テ来ルノデアルカラ、「品位」ト言フヨリハ「尊嚴」トシタ方ガ宜イト思フ、ソレカラ「本質的平等に立脚して」ト云フコトハ、鈴木君ノ言フ意味デナケレバ法律全体ガ意味ヲナサナイ、此ノ条文ヲ置イタノハ、男女ノ別ガナイ方ニ重キヲ置イテ、男女共ニ個人トシテノ立場カラ個人ノ尊厳ヲ有スル、ソコニ差別ヲ置イテハナラヌ、尤モ此ノ法律全体ガ良イカ悪イカハ考ヘナケレバナリマセヌガ……
○林（平）委員　私ノ考ヘハ又違フ、ココハ二ツニ切ツテ考ヘテ宜イト思フ、個人ノ尊厳ト云ツテモ、女性、男性ノ性別ヲ抜キニシタ尊厳性ヲ前ノ方デ認メテ居ル、後ノ文句ハ両性ヲ取上ゲテ、両性ト云フモノノ本質ニ立脚シタ女性、男性ト云フモノヲ互ヒニ尊重スル、両性ノ本質ニ重点ヲ置イタ方ガ宜イ、前ノハ個人ノ尊厳ニ本質ヲ置イタ、ダカラ言ヒ表ハシ方ハ二ツニ考ヘタラ宜イト思フ
○北（れい）委員　其ノ解釈ハ理論的デ、法文ノ良イ悪イハ別デスガ、二十二条ノ本文ニ「婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」、第二項ニ於テモ其ノヤウナ心配ヲシテ居ラレルガ、結婚関係ノミナラズ、家族間ノ凡ユル関係ニ於テ戸主ト云フヤウナ封建的ナ臭ヲ取去リタイ、家族ハ男モ女モ皆個人トシテ尊重スベキデ、個人的立場ニ立ツテ居ル、勿論男女ガ本質的ニ平等ナリヤ否ヤハ異論ガアル、其ノ点ニ於テハ林君ト同感デス、ケレドモ此ノ法律ノ趣意ハ、ヤハリ男女ハ各個人トシテ取扱ヒ、個人ノ尊厳ニ於テハ皆平等ノモノデアル、サウ云フ家族主義、個人主義ノ力説、斯ウ解釈セザルヲ得ナイ
○林（平）委員　今御話ノヤウナ理窟モ立派ニ成立ツト思フガ、第一項ニ於テ既ニ「夫婦が同等の權利を有する」ト云フコトデ、ココデ両性ノ権利ヲ同等ニ認メテ居ル訳デアリマスカラ、後ノ方ハ其ノ両性ノ異ツタ本質ヲ現ハシテ置イタ方ガ、尊重シテ行ク上ニ於テ宜イノデハナイカト思ヒマス、私ノ方デハサウ云フ意味デ平等ト云フ文字ヲ取ツタ方ガ宜イ、今北サンノ御話ノ中ニモ両性ノ本質ガ平等デナイト言フコトハ御賛成ヲ願ツテ居ル訳デアリマスカラ、サウ云フ意味カラモ、此処ハハツキリ女性ノ尊重性ヲ窺ヒ知ルコトガ出来ルヤウナ風ニシテ置イテハドウカト思フノデス
○原（夫）委員　ドウモ此処デ「個人の尊嚴」ト云フ文字ヲ使フト云フコトハ、余リ硬イノデハナイカト思フノデス、結局「及び家族に關するその他の事項に關しては」ト云フノデスカラ、「家族に關するその他の事項に關しては、法律は、」云々トシテ、其ノ法律ノ建前ヲ此処デ教ヘテ居ル訳デスガ、此処ハ前ヲ受ケテ「法律は、相互の敬愛と兩性の本質」――林君ノ所謂本質的平等ト云フヤウナコトヲ言ハナイデ、「敬愛と兩性の本質に立脚して」、斯ウ云フ風ニ書キ流スト、此ノ家族関係モ敬愛カラ成立ツテ居ルノデアルカラ、軟カニ分ルト思ヒマス、デスカラ、ソレヲ男女ノ権利ガアル、サウシテソレハ尊厳ナモノダト云フコトマデ言ハナクトモ、モツト軟カ味ノアル文字ニ変ヘテ戴キタイト思フノデス、強ヒテノ問題デハナイノデスケレドモ、私ノ希望ヲ申上ゲマス
○芦田委員長　所ガ「個人の尊嚴と兩性の本質的平等」ト云フコトヲ非常ニ重ク見テ居ルノデス、ソレデスカラ、「個人の尊嚴」ト云フ字ヲ取ツテ、「相互の敬愛」ト云フヤウナ言葉ニ置キ換ヘルコトハ、此ノ条文ノ精神ヲ半分以上フイニシテシマフト云フ結果に陥ルデアラウト思ヒマス
○森戸委員　私ハ大体ソコハ尊厳トシタ此ノ侭デ宜イノデハナイカト思ツテ居リマス、本条ノ精神ハ恐ラク日本ノ国家ヲ民主主義化スルト言フノト同ジヤウニ、家族生活ヲ民主主義ノ精神デヤツテ行ク、斯ウ云フコトガ建前ニナツテ居ツテ、ソレハ封建的ノ家族制度ニ於テドウモ個人個々ノ人格ガ尊重サレテ居ナイト云フコトト、ソレカラ男女ガ不平等デアツテ、殊ニ婦人ガ隷従的ナ地位ニ置カレテ居ルト云フ状況ヲ前提トシテ、ソレヲ改メナケレバナラヌ、善シ悪シハ別トシテ――サウ云フ建前デ此ノ条文ガ出来テ居ツテ、少クトモソレヲ理想トシテ日本ノ家族制度ガ或ル程度変ツテ行カナケレバナラヌ、サウ云フ意味デハ、サウ云フ改革ノ方向ト云フモノハ正シイト思フ、現在ソレガ何処マデ現実的ニ行クカハ分リマセヌガ、サウ云フ方向ニ大体進ンデ行カナケレバナラナイノデハナイカ、ソレカラ本質的平等ト云フ意味ハ、北サンモ仰シヤツタガ、私ハ人間トシテノ平等、同ジヤウニ取扱ハレルト云フ意味デ、男女ノ実際生活ニ於ケル平等ト云フモノハアルノデアルガ、男女各々天分ハ異ニシテ居ルガ、人間トシテハ平等ニ扱ハルベキダ、斯ウ云フ意味デアラウト思フノデアリマス、唯欠陥ト思フノハ、余リ個人ノ平等ガ重視サレ、新シイ家族制度モ集団生活デアツテ、其ノ集団生活ニ関スル顧慮ガ何カ足ラナイヤウナ感ジガスル、ソコニ何カ欠陥ガアルノデハナイカ、此ノ二ツノ言葉ニ付テハ生カシテ宜イト思ヒマス、勿論封建的ナ集団生活デハ駄目デアル、バラバラナ個人生活デモ良クナイ、其ノ点家庭生活ハ保護サレルヤウニ表現サレテ居ルケレドモ、適切ニ現ハレテ居ナイ憾ミガアルト思ハレルノデス
○原（夫）委員　斯ウ云フ所ハ多数ノ御意見ニ従ツテ、敢テ固執スル問題デモアリマセヌ
○芦田委員長　林君、如何デスカ
○（平）委員　若シサウナレバ、グツト書キ直シテ、「法律は個人の尊嚴と平等とに立脚して」ト言ツタ方ガハツキリスル、「個人の尊嚴」ト云フコトヲ言ツテ「兩性の本質」ト来タモノデスカラ、平等ト云フノハヲカシイデハナイカト云フコトニナタ訳デス、「個人の尊嚴と平等とに立脚して」ト云フ趣旨ナラハツキリスルガ、「兩性の本質」ト取上ゲテ来タモノデスカラ、本質ニ平等ト言フノハヲカシイ、ヤハリ法律ヲ決メルノニ、女性ト云フモノノ本質ヲ保護スルヤウナ所モ特ニナケレバナラヌト云フヤウナコトヲ考ヘテ、「兩性の本質」ダケデ宜イノデハナイカ、斯様ニ申上ゲタ訳デアリマス
○芦田委員長　イヤ「本質的」ト云フノハ形容詞デアツテ、場合ニ依ツテハ「本質的」ト云フ字コソ或ハ要ラナイノカモ知レナイ、ソレ程ニ「平等」ト云フコトガ重クナツテ居ル、「個人の尊嚴と兩性の平等」、此ノ方ガ眼目デス
○林（平）委員　ソレナラ文句ハナイ訳デス、「兩性の平等とに立脚して」ト云フナラバ、モウソレデ宜シイノデスガ、サウナルノデスカ
○芦田委員長　佐藤君、「エッセンシャル」ト云フ形容詞デスネ、アレヲ「本質的」ト書イタ為ニ却テ誤解ヲ招イテ居ルカモ知レナイト思フノデスガ、何カ他ニ良イ字ガアリマスカ
○北（れい）委員　僕ハ委員長ノ其ノ疑問ヲ尤モト思ヒマス、勿論森戸君ノ只今ノ説明ハ私ノ説明ト同ジコトデ、此ノ立法ノ趣旨ハソコニアルト思ヒマス、人間トシテノ平等――本質ト云フモノガ平等デアルカナイカニ付テ古来議論ガアルノデ、一例ヲ申シマスト、「カント」派ノ有名ナ論理学者「リップス」ノモノヲ阿部次郎君ガ訳シテ居リマスガ、男ト女ハ本質的ニ違フ、法律的ニ平等ニ取扱フノハ反対デハナイ、本質的ニ平等ト云フコトニ付テ反対論ガアツタ、ソレハドウ云フコトカト云フト、女ノ体質ハ性生活ヲ中心ニシテ居ルカラ、性的ニ堕落スル女ハ全人格ガ堕落シ易イ、男ハ性的生活ハ末梢的生活デアル、性的ニ少々穢レテ居ツテモ人格ハ堕落シテ居ラヌ、例ヘバ伊藤公ノ如キハ女道楽ヲシタガ人格ハ立派デアツタ、所ガ女ハ性的ニ堕落スルト全人格的ニ堕落スルト云フヤウナ議論ガアツテ、本質的ニ違フト云フノデアリマス、是ハ重大ナ問題デスカラ、モウ一ツ例ヲ言フト、「オーストリヤ」ノ若イ哲学者デ自殺シタ「ワイニンゲル」ト云フ人ノ書イタ「男女ト天才」ヲ片山孤村君ガ訳シテ居ルガ、性生活ガ女ニ於テハ中心デアル、若イ乙女ノ時代ハ、結婚期ノ時代ヲ予想シテ花嫁ニナルコトヲノミ考ヘテ居ル、年取ツテ見ルト花嫁時代バカリヲ回顧スル、日本デモ姑ノ十八ハ見タコトガナイト言ツテ、私ノ花嫁時代ハト云フコトデ回顧スル、総テ女ノ生活ハ性ヲ中心トシテ居ル、法律的ニ相違ノアルノハ別ダ、哲学者、有名ナ人ノ理論ハ「ショーペンハウエル」デモサウ言フ、ソコデ本質的平等ト云フコトハ、「アメリカ」ノ権威者ヲ以テシテモ学説ヲ否定スルコトハ出来ナイノデ、不合理千万デアルケレドモ、森戸君ノヤウナ個人ノ平等、人間ノ平等ト云フ意味ニ解釈スレバ私ハ差支ヘナイト思フ、併シ本質、「ウェーゼン」ト云フ問題ハ、ソンナ言葉デハ適セヌモノデアル、モツト深イ意味ガアル、哲学者、一流ノ人ニハ相当異論ガアルト云フコトダケ申上ゲテ置ク、ソレデ委員長ガ若シ本質ト云フコトヲ除クト云フコトニ賛成デアルナラバ、私モ賛成シマス、両性ノ平等デ十分ニ分ル、私ハ実際本質的平等ト云フ言葉ヲ見タ時ニハ反対デアル、平等デハナイ、是ハドウモ林君ノ言フヤウニ疑問デアツタ、本当ノ本質ハ平等デハナイ、併シ人格者トシテ、人間トシテ、平等ニ取扱ツテ行クト云フコトナラ賛成デス
○森戸委員　私ノ本質的ト呼ンダノハ婦人ハ性ガ主、ソレハ北サンノ言ハレル説ニ賛成デスガ、ソレデ一番低イカドウカハ別トシテ、性生活ガ中心デ男ト非常ニ違フト云フコトハ其ノ通リダト私ハ思フノデスガ、ココニアル「エッセンシャル」ト云フノハ、寧ロ機械的トカ、平面的トカノ平等ト云フコトニ対シテ、其ノ人格ト言フカ、論理的ナ高イ方面デハ同ジデアル、併シ実際ノ生活ノ現象的ナ方面デハ違フシ、又機械的ニ誰デモ男ト同ジヤウダト云フ意味ノ平等デハナイ、サウ云フ意味ヲ中ニ含ンデ居ルノデハナイ
○芦田委員長　「兩性の基本的平等」トシタラドウデスカ
○江藤委員　私モ森戸サンノ仰シヤルコトデ大体宜イノデハナイカト思フ、仏教デモ衆生本来仏ト云フノデ男モ女モ同ジダ、ヤハリ森戸サンガ言ハレタヤウナ意味ニ於テ「本質的平等」ト云フコトヲ生カスコトハ一寸ヲカシクハナイカト思ヒマス
○芦田委員長　私モ変ヘナケレバナラヌト思ハヌノデスガ、若シモ「本質的」ト云フ字ガアル為ニ多クノ人ガ疑ヲ挿ムナラバ、或ハ「基本的平等」ト云フ意味ニ変ヘレバ宜イト思フ
○廿日出委員　私ハ是ハ仏教ノ謂フ差別平等ニ解釈スルト一番分リ易イデハナイカト思ヒマス、差別其ノ侭平等デアル、女ハ女トシテハ本質的ニ男トハ何処マデモ違フ、ケレドモ其ノ本質的ニ違ツテ居ル所ヲ何処マデモ之ヲ表現スルナラバ、全体カラ見マシテソレガ其ノ侭調和アル平等ニナル、此ノ見方ハ非常ニ難シイ所デアリマスガ、結局ココデ言ハレマス所ノ気持ヲ生カシナガラ、即チ差別平等ノ所ニ根拠ヲ置イテ、此ノ侭ノ形デ、即チ「本質的平等」ニ行クト云フノガ一番生キルノデハナイカト思ヒマス
○北（れい）委員　僕ハ之ヲ書イタノハ、ソンナ難シイ理窟デ書イタノデナク、極ク手軽ニ書イタノデ、言葉ノ上デハ余リ上手デハナイ、ソンナ難シイ哲理ヲ書イタノデハナイ、ヤハリ森戸君ノ言ツタ人間トシテノ平等ト云フ言葉其ノモノハ私ハ適セヌト思ヒマス、人間トシテハ同ジダト思ヒマス、林君ノヤウナ疑問ヲ起シマス、人間トシテハ同ジダト思ヒマスケレドモ、本質論ト云フコトニナルト、先程廿日出君ガ述ベタヤウニ、哲学者ハ理論ガアル、本質的平等ト云フ言葉其ノモノハ怪シイ言葉デス、デスカラ本当ナラバ「兩性の平等に立脚して」ト云フノハ、一番初メノ性別ニ依ツテ差別待遇シテハナラヌト云フ十三条カラ来ルノデアリマスカラ、「兩性の平等」デ沢山デス、法律上ノ待遇ハ平等ニ待遇スル、ダカラ委員長ノ言ハレタ基本的人格ト云フ点カラ、平等ト云フノハ結構デス
○林（平）委員　「本質」トカ「基本」トカ取ツテシマツテ、「兩性の平等に立脚して」ト云フコトニスレバ一番簡単ダ
○芦田委員長　取ツテモ宜イガ、取ツタ理由ヲ長々ト説明シナケレバナラヌ箇所ガアルモノデスカラ、取ルナラ本質的ト云フノヲ基本的ト直スカ、是ハ日本語ガ拙イノダカラ直シタト云フコトデスツト行クト思フ、ソンナコトマデ考慮スルコトハ馬鹿馬鹿シイコトカモ知レナイケレドモ、サウ云フコトモアツテ取ツテシマウト云フコトヲ一寸躊躇サセルノハ其ノ理由ナンデス
○佐藤（達）政府委員　私共「基本的」ト云フ案ハ一寸思ヒ付キマセヌデシタケレドモ、是ハ「本質的」ト云フ言葉ヨリハ「基本的」ト云フ言葉ノ方ガ宜イノヂヤナイカトモ思ヒマス、何ガ本質的カ基本的カハ知リマセヌケレドモ、サウ云フ言葉ハ是非残シテ置カナイト、結果ハ非常ニ違ツテ来ヤシナイカト思ヒマス
○芦田委員長　原サン如何デス
○原（夫）委員　異議アリマセヌ
○芦田委員長　ソレヂヤ「基本的」ヲ一ツ入レマセウ
○林（平）委員　私ハ甚ダ失礼シマシテ一寸遅刻シマシタガ、私ノ方ノ……
○芦田委員長　十八条ノコトデセウ、ソレハ私ガ気付イテ、後ロニ返サウト思ツテ居ツタノデス
○林（平）委員　十八条ノ末尾ノ項ニ「國及びその機關は」ノ次ニ「一宗一派に偏する」ト云フ八字ヲ入レテ貰ヒタイ、サウシテ「宗教教育」ノ下ノ「その他いかなる」ヲ取ツテ「及び」トシテ貰ヒタイ、「宗教的活動も」ノ所ヲ「宗教的活動を」トシテ貰ヒタイ、一応読ンデ見マスト、「國及びその機關は、一宗一派に偏する宗教教育及び宗教的活動をしてはならない。」斯ウシテ貰ヒタイト云フ希望デアリマス、何故サウ云フコトヲ申スカト言フト……
○芦田委員長　理由ハ分リマス、皆御分リニナツテ居ルト思ヒマス、ソコデ自由党ノ方デヤハリ……
○北（れい）委員　此ノ問題ニ付テハ丁度林君ト同ジ希望ヲ、前政務調査会長ヲシテ居ツタ安藤正純君カラ強ク要求ガアリマシタ、又私モ昨日仏教界ノ人々カラ自宅デ陳情ヲ受ケマシタ、ソレカラ田中文部大臣モ、一宗一派ニ偏セザルナラバ学校デ宗教情操ノ教育ヲシタラ宜カラウト云フ意見ノ発表モアリマシタ、併シ私ハ此ノ立案ノ精神カラ言フト、ヤハリ是ハ此ノ侭デ宜イト今デモ考ヘテ居ル、安藤君ニハ其ノ意味デ納得サセテ置キマシタ、何故カト申シマスト、宗派ニ偏セザルナラバ宗教情操教育ヲシテモ宜イト云フガ、実際ノ場合ニ於テ仏教信者ガ宗教情操教育ヲヤラウトスレバ、釈迦ノ名ヲ語ラザルヲ得ナイ、ソレカラ「キリスト」教信者ガ宗教情操教育ヲヤラウトスレバ、「キリスト」ノ名ヲ出サザルヲ得ナイ、「バイブル」ノ箇所ヲ引用セザルヲ得ナイ、神道者流ガ宗教教育ヲヤレバ、高天原其ノ他ノ八百万ノ神々ニモ或ル程度マデ触レザルヲ得ナイ、然ラバ仏教ト「キリスト」教、神道ト云フ大綱ノ所ナラバ宜シイ、「キリスト」教内ノ新教トカ旧教トカ、一宗一派ニ触レテハイカヌ、仏教ナラバ真宗トカ禅宗、日蓮宗、サウ云フ派ニ偏シテハイカヌ、仏教ノ大綱ナラバ宜シイ、神道ニ付テハ又神道十三宗ト云フヤウナモノニ触レナイデ、神道ノ本質ヲ説クナラ宜カラウ、斯フ云フ所ニマデ一応考ヘル途ガアリマス、併シ「キリスト」教的ノ情操教育ヲヤル、仏教的ノ情操教育ヲヤル、神道的ノ情操教育ヲヤルト云フコトニナツテモ、色々弊害ヲ生ズル、ソレカラ一宗一派ニ偏セズト云フコトヲ更ニ又遡ツテ、「キリスト」教的ノ臭味ヲ出サヌ、仏教的臭味ヲ出サヌ、神道的臭味ヲ出サヌト云フコトニナルト、宗教一般ヲ論ジナケレバイケナイ、サウスルト是ハ「ウイスキー」ヲ水ニウント割ツタヤウナモノデ、「ウイスキー」ノ臭ヒガシナイヤウニナルノデ、波多野精一博士ノ宗教哲学論デモ、何等カノ既成宗教ノ体系ニ触レズシテハ宗教ト云フモノノ意義ガナイ、哲学的ノ宗教ヲ信ズルナドト云フ人ガ時々アリマスガ、多クハ是ハ無信教ノ徒デアツテ、哲学ヲ説クンダカ、宗教ヲ説クンダカ訳ノ分ラヌコトニナルノデ、「キリスト」教、仏教ノ色彩ヲ出サヌト云フト、宗教ノ情操教育トシテ極メテ不徹底デアル、寧ロ宗教教育ハ学校デ施サナイト云フ規定ノ方ガハツキリスル、ノミナラズ日本ノ過去ノ歴史ヲ考ヘテ見マシテモ、教育勅語ノ発布以前ハ、仏教主義ニ立ツ教育ヲヤル者ガアリ、「キリスト」教主義ニ立ツ教育ヲヤル者ガアリ、神道主義ニ立ツ教育ヲヤル者ガアツテ、日本ノ学校教育ガ混乱状態ニアツタ、ソコデ何トカ統一ヲシナケレバナラヌト云フノガ教育勅語ヲ出シタ理由ノ一ツデアリ、井上哲次郎博士ノ教育勅語衍義ニモ其ノ来歴ヲ書イテアリマス、サウシテ井上哲次郎博士ナドハ、教育勅語衍義ヲ出ス当時ニ、教育勅語以前ニ於テハ色々ノ宗教教育ガ学校ニ入ツタカラ、教育ガ不統一ニナルト云フコトデ、宗教教育衝突論ト云フ書物ヲ書キマシタ、即チ日本デモ可ナリ長イ深刻ナ歴史ヲ持ツテ居ルノミナラズ、「フランス」ナドニ於テモ、政治界カラ宗教ヲ分離シヨウ、学校教育ノ間ニ於テモ余リ深入リヲサセナイト云フ傾向ガアリマシタ、御承知ノ如ク「フランス」デ婦人参政権ガ非常ニ遅レタノモ、婦人ニ参政権ヲ与ヘレバ旧教ノオ坊サンガ沢山出テ来テ、反動的、保守的ニナルカラト云フノデ、進歩的政治家ガ却テ婦人参政権ニ反対シタ、「ドイツ」辺リモ、第一次世界大戦後ノ革命「ドイツ」ニ於テモ、学校ニ於テ旧教的教育主義ヲ採ツタリ、新教的教育主義ヲ採ツタリシテ、相当混乱ヲ生ジタ歴史モアリマスノデ、私ハ宗教ノ情操教育ヲヤリタイト云フコトハ洵ニ御尤モダト思フケレドモ、事実不可能デアツテ混乱ヲ来ス虞ガアルカラ、此ノ通リデ宜イノデハナイカト思フ
○吉田（安）委員　私ハ北サンノ仰シヤルコトハ洵ニ御尤モダト思ヒマスガ、林サンノ仰シヤルコトニ私ハ賛成デス、之ヲ禁ジタト云フコトハ、結局其ノ教育スル人ガ一宗一派ヲ意識シテ、其ノ意識ノ下ニ立ツテ教育ヲスルコトガ弊害ガアルガ故ニ之ヲ禁ジタモノデアツテ、情操的ニ、例ヘバ日蓮ヲ言ヒ、親鸞ヲ言ヒ、釈迦ヲ言フタト云ウテ、サウシテドレニヤルカト云フ意識ノ下ニヤルコトガイケナイノデアツテ、ソレニ偏シナイ教育ナラバ宜クハナイカ、斯ウ云フ解釈ヲ持ツテ居リマス、ソレデ一宗一派ニ偏シナイト云フ主義ハ賛成デスガ、ソレヲ採用ニナリマスナラバ、寧ロ宗派的教育其ノ他如何ナル、ト云フコトトシタラ宜クハナイカ、斯ウ存ズル、其ノ点デ私ハ博学ナル北サンノ御説ハ御尤モデアリマスガ、林君ノ仰シヤルヤウナ修正ガ出来マスナラバ、非常ニ幸ヒダト思ヒマス
○林（平）委員　モウ一ツ付加ヘテ置キタイコトハ、此ノ宗教ト云フ言葉ガアリマス、文字ガアルシ、宗教局トカ云フ局モアリマスシ、宗教ト云フコトハ始終国民ノ前ニブラ下ツテ居ル事実デアリマスカラ、国民教育其ノ他ニ於テ宗教ト云フ説明ヲセズニ、素通リハ私ハ出来ナイト思フ、之ニ触レナイデ通ルト云フコトハ断ジテ事実上出来ナイ、デアリマスカラ、結局是ハ取上ゲルナラバ、一宗一派ニ偏シナイト云フ条件付デ宗教情操ト言ヒマセウカ、宗教ニ対スル批判力ト申シマセウカ、早ク宗教ニ対スル理解ヲ持ツテ、国民ガ何レカノ宗教ニ帰依スル方ガ、私ハ日本国民ノ文化ヲ高メル所以ダトモ思ヒマス、今申シマスヤウニ事実宗教ト云フ言葉ニ目ヲ蔽ウテ通ル訳ニハ行カナイノデアリマスカラ、教育ニ於テハ当然是ハ許サルベキモノト思ヒマス、左様ナ意味ニ於テ一宗一派ニ偏セズト入レテ戴キタイト思ヒマス
○大島（多）委員　委員会ノ時ニモ、田中文部大臣カラ此ノ点ニ関シテ御説ガアリマシタガ、田中文部大臣ノ御答弁トシテハ、学校ニ於テ、即チ「國及びその機關」デアリマスガ、其ノ学校ニ於テモ一宗一派ニ偏シナイ所ノ宗教的ナ教育ハ一向差支ヘナイ、サウ云フ風ナ御答弁デアリマシタカラ、サウシテ又此ノ条文ヲ読ミマスト云フト、全ク出来ナイヤウニ思ハレルモノダカラ、宗教方面其ノ他ノ、マアサウ云フコトニ関心ヲ持ツテ居ラレル人ガ非常ニ心配シテ居ラレル向モアリマスカラ、サウ云フ誤解ヲ一掃スル為ニモ、林サンノ仰シヤルヤウニ、ヤハリ斯ウ云フ規定ヲ入レルコトガ出来マシタナラバ、私モ入レルコトニ賛成ト考ヘテ居リマス
○芦田委員長　森戸君、此ノ御意見如何デスカ
○森戸委員　私ハ学校教育其ノ他ガ宗教ニ反対デアルコト、宗教情操ト云フコトガ学校教育カラ全然除カレルト云フコトモ好マシクナイト思フノデスケレドモ、併シ実際ニ於テ斯ウ云フ規定ヲ設ケタラ、北サンガ言ハレタヤウニ、始終色々ナ問題ガ起ルノヂヤナイカト考ヘテ居リマス、実ハ抽象的ナ宗教教育ト云フノハ、北サンノ言ハレルヤウニ非常ニ困難デ、ドウシテモ一宗一派ニ偏シ勝チデアツテ、偏スルト、他宗ノ方カラ必ズ抗議ガ出ル、是ハ許シタラ相当問題ガ教育上ニ起ルノヂヤナイカ、ソレハ望マシイコトデハナイノデ、サウ云フ宗教ト云フモノガ私ハ国民生活ニ大キナ役割リヲ持ツテ居ルノデ、寧ロ是ハ宗教団体デソレゾレ十分ニ力ヲ入レテ児童ノ宗教教育ヲヤツテ行カレタラドウダラウカ、父兄ノ方デ、特ニ児童ノ宗教教育ニ付テ、抽象的ナ宗教教育ハ意味ヲ成サヌカラ、具体的ナ宗教教育ヲヤリタイ人ハ、宗教的ナ私立学校ガアル、其処ニ子供ヲ入レタラ宜シイト云フヤウナコトデ問題ヲ解決シテ、此ノ法文ハ此ノ侭デ宜イノデ、決シテ宗教的ナ情操的ナモノガ悪イト云フコトハ顕現サレテハ居ナイノデアリマスカラ、学校教育ニ於テハ無神論的ナ無宗教的ナモノデアルト云フ意味デハ決シテナイ、サウ云フ見地カラ、倫理的ナ形デ宗教情操ガ養ハレルナラバ、ソレデ宜イト云フヤウニ私ハ思ツテ居リマス
○廿日出委員　実ハ皆サンノ御話ニナツタ御説ノ中デ、森戸委員ノ御話ニナツタコトモ、私ハ其ノ侭賛同致シテ居リマス、実ハ例ノ佐藤政府委員カラ特別ニ此ノ問題ニ付テ、今回色々ナ申入、依頼ガアツタノデアリマス、大体ニ於テ北委員ノ御説ノヤウナ説明ヲシテ、我々程度ノ者ノ理解ハ十分ソレデ行クケレドモ、マダ恐ラク他ノ大多数ノ者ハ、サウ云フ説明ヲ加ヘテモ分ラヌノミナラズ、加ヘルダケデモ頗ル面倒デアルシ、事実大変ナコトデアルガ故ニ、分リ易クドウカ一ツ、宗派教育ハイカヌ、斯ウ云フ程度ノモノニシテ呉レナイカ、斯ウ云フ話モアリマシタ、成程尤モナコトデ、オ互ヒニ了解出来ル程度ニ発達シテ居ル頭ナラ兎モ角、一般ハソウハ行カナイト云フヤウナ、極メテ分リノ宜イ話デアツタノデアリマス、実ハ之ヲ此ノ侭残スト云フコトハ私ハ賛成デアリマセヌケレドモ、サウ云フヤウナ御説ノ点モアツタコトデアルシ、皆サンニ従ツテ、一宗一派ニ偏スルトカ、又ハ宗教ト云フノヲ宗派教育トカ云フコトニシテ戴キタイト云フ希望ダケハ申述ベテ宜イト思ヒマス、実ヲ申シマスレバ、私自身何時モ宗教的教育ト云フコトヲ重ンジテ居ル、現在学校ヲ経営シ、校長デアリマスケレドモ、始終之ヲ口ニシテ居ル、而モ私ハドノ宗派ニト云フヤウニ偏シタモノヲ持ツテ居リマセヌ、而モ何時モ宗教的教育ガ私ノ教育デアル、サウシテ子供ニモ其ノ雰囲気ヲ十分味ハハシテ、私自身ガ信ジテ居ルモノノ説明ヲセズニ、信ジテ居ル姿其ノモノデ生徒ニ向ツテ居ル、サウ云フ真剣ナ、総テヲ捧ゲル、又ハ敬虔ナ気持、ソレダケヲ生徒ニ教ヘルノヲ宗教的教育ト言ツテ居リマス、私ノ身カラ出ル体験カラ申シマスルト、宗教教育トハツキリ示シタ――所謂内容カラ言ヘバ、皆宗派教育デナケレバナラヌガ、サウ云フモノハ勿論ヤルベキモノデハナイ、併シ此処デ宗教教育ヲヤツテ悪イト云フコトハ、其ノ侭私ハ承認出来ルト思ヒマスケレドモ、一面サウ云フ成程ト思ハレルヤウナ要求モアリマシタノデ、所感ダケヲ申上ゲテ置キマス
○吉田（安）委員　私モ此ノ際、今廿日出君カラ御話ガアリマシタガ、進歩党トシマシテハ実ハ自由党ト同ジデ、草案委員会ニ此ノ問題ガ出テ居リマスガ、丁度廿日出君ノ仰シヤルヤウナ立場ニ実ハ立ツテ居ルノデアリマス、尚ホ私ノ個人的ナ宗教観念カラ申シマスルト、是ハ不思議デアリマスガ、私ノ平素ノ宗教ニ対スル観念、考ヘモ、廿日出君ト殆ド同一デス、サウ云フ気持デアリマスカラ、北サンノ仰シヤルヤウナコトハ能ク分リマスガ、強ヒテ今ノ修正案ニ賛成ト云フマデ固執ハ致シマセヌガ、唯此ノ際林委員ノ修正案ニ賛成ノ意ヲ表シマシタコトハ、今申上ゲマシタヤウナ関係カラ申上ゲテ居ルノデアリマス、其ノ点記録ニハツキリシテ居リマスレバ、強ヒテ修正ヲ固執スル意味デハアリマセヌ
○芦田委員長　林君、是ハ田中文部大臣ガ委員会ニ於テ、二度カ三度位答弁ヲシタ問題デアリマシテ、学校内ニ於テ、例ヘバ生徒ガ「キリスト」教青年会ヲ作リ、或ハ仏教修養会ヲ作ルコトハ、従来通リチツトモ差支ヘナイ、又学校ノ教師ガ宗教情操ヲ養フト云フ為ニ――是ハ北君カラ言ヘバ、サウ云フコトハ不可能ダト云フ意見デスケレドモ、宗教及ビ信仰ノ問題ヲ語ルト云フコトハ宜イノダ、唯ソレガ「キリスト」教育ニ堕シタリ、仏教教育ニ堕スルト云フコトデハ困ル、斯ウ云フ説明ヲ政府ハシテ来タノデアリマス、ソレデスカラ今ノ通リノ文字デモ、決シテ宗教情操ヲ養フ教育ヲ禁ズル意味デハナイノダト云フコトデアツタノデスガ、サウ云フ註釈ヲ付ケテ、此ノ侭デ修正ヲシナイト云フコトニハ御賛成ハ出来マセヌカ
○林（平）委員　私ハ何モ固執スル気持ハナイノデスガ、文部大臣ガ宗教教育ヲシテモ宜イノダ、情操教育ヲシテモ宜イノダト云ツタヤウナコトヲ私モ最初ニ聞イテ居リマスガ、ソレハ何時マデモ此ノ条文ノ中ニ付イテ廻ルモノデモアリマセヌシ、其ノ文部大臣ノ説明ヲ聞カナイ者、知ラナイ者ガ、唯正直ニ此ノ条文ニ現ハレタ文字ヲ読ンデ見レバ、学校デハ宗教教育ハシテナラナイ、斯ウ取ルヨリ外ニハ取リヤウガナイト思フ、サウシテ見ルト、先程モ申上ゲマシタヤウニ、事実教育ト云フ文字ガアリ、言葉ガアリ、文部省ニハ教育局、宗教局ト云フモノガ事実アル訳デアリマスカラ、サウスルト宗教ト云フモノハ唯文字ノ説明ダトハ言ヘナイ、宗教ト云フモノノ極ク総論的ト言ヒマセウカ、大要ヲ説キ聞カサナケレバナラヌノデスカラ、宗教教育ヲ禁ジテ置クト云フコトハドウシテモ意味ヲナサヌ、ソレハ憲法ニ禁ズルカラ、生徒ガ聞イテモ答ヘヌト云フ訳ニハイカヌト思フ、サウ云フ意味カラモ、一宗一派ニ偏シト云フコトヲ入レテ、毫モ差支ヘナイノヂヤナイカ、却テ宜イノヂヤナイカト思ヒマス
○芦田委員長　ソレハ教育ヲスルト云フコトハ、一宗一派ニ偏スルコトヲ指シテ居ルノデ、宗教トハ何ゾヤ、オ釈迦様トハドウ云フ人ダ、「キリスト」トハドウ云フ人ダト云フコトヲ教ヘルコトハ、宗教教育ニ入ラナイ、宗教教育ト云ヘバ、例ヘバ「カトリック」主義ヲ奉ズルトカ、仏教ノ浄土真宗ヲ奉ズルトカ云フコトヲ教ヘルノハ宗教教育デアツテ、ソレニ至ラナイモノハ宗教教育ニ至ラナイノダト云フノガ文部大臣ノ解釈デス
○北（れい）委員　委員長ノ御考ヘト私ノ考ヘトハ殆ド同ジデスガ、林君ノ御考ヘモ尤モナ所ガアル、安藤正純君ガ実ニ熱烈ニ僕ニ説イタノデスガ、今マデノ教育ノ堕落シタノハ国家本位ノ教育デアツテ国民道徳万能デアツタカラダ、之ヲ是正スルモノハ世界道徳デアル、世界道徳ト云フト、結局「キリスト」教トカ仏教トカ云フ世界宗教ニ行カナケレバナラヌ、世界宗教ノ根本精神位ハ教育シナケレバ、教育ハ画龍点睛ヲ欠ク、是ハ一応尤モノ論旨デス、所ガ其ノ議論モ非常ニ尤モデアツテ、殊ニ林君ガ宗教ト云フモノハ歴史的ニアル、之ヲ素通リスル訳ニハイカヌト云フコトハ非常ニ尤モデアル、是ハ私ハ憲法委員会ナドデ相当大キク取上ゲテ宜イ問題ダト思フ、無理モナイ所ガ非常ニアルノデス、併シ此ノ条文ヲ私ハ飽クマデモ支持シナケレバナラヌト思フノハ、恐ラクハ立法者ノ精神デハ、学校デ宗教教育ヲヤラセルナラバ、神道ト云フモノガ特殊ノ宗教デアツテ、日本ノ国体ト結ビ付イテ、又妙ナ思想ノ培養ノ源ニナル、ソレヲ惧レテ居ル点モアルデアラウカラ、日本ノ国際情勢上、現在ノ日本ノ立場上之ヲ外ス訳ニハイカヌト云フ感ジヲ持ツテ居ル、併シ進歩党ノ有志カラ、宗教教育振興ニ関スル建議案ヲ出シタイト云フノデ、我ガ党ノ有志ニモ誘ツテ来テ、宗教家出身者カラ私ニモ相談シテ来マシタガ、洵ニ御説ハ御尤モデアルケレドモ、政府ニ対シテ建議案ヲ出スト云フコトハ、政府ハ宗教教育ニ付テハ第三者的立場ヲ公ノ機関ニ於テハ執ラナケレバナラヌ、経済的ニモ、寺院トカ神社トカ教会ニ対シテハ援助ガ出来ナイ立場ニナツテ居ル、非常ニヤリ方ガ面倒デアル、併シ民間ニ於テ宗教教育並ニ宗教活動ガ盛ンニナルコトハ洵ニ望マシイコトデアル、道義頽廃ノ今日トシテハヤラナケレバナラヌ、併シ政府ガ手ヲ下サズシテ、民間ダケデ盛ンニナツテ貰ヒタイト云フハ、余程是ハ面倒ナコトデ、全然国家ガ手ヲ下サナイデ、政府ノ保護ヲ離レテ民間デ活動シナケレバナラナイカラ、建議案ヲ出シテモ、政府ニ対スル処置ヲ求メルト云フヨリハ、議員自身ノ活動ト云フ形ナラバ是ハ結構ダ、斯ウ私ハ答ヘテ置イタ、殊ニ宗教ト云フモノト政権トガ密接ニナレバ、日本ノ官庁アタリデ神道デモ、仏教デモ勅任待遇ヲ受ケテ、国家ノ厚キ保護ヲ受ケタラ、是ガ却テ堕落ノ源デアル、親鸞上人デモ、法然上人デモ、島ニ流サレテ、日蓮上人ノ如キハアレ程圧迫ヲ受ケテ居ル、ソコニ宗教ノ純粋性、創造性ガアルノデ、俗権カラ擁護サレタラソレハ堕落ノ一途ヲ辿ル、民間デ自発的ニ宗教ト云フモノガ起ルヤウニ識者ガ導イテ行ク、斯ウ云フ程度ニ留メタラドウカト云フノデ、私昨日ノ陳情ノ諸君ニ対シテモ言ヒ、我ガ党ノ宗教家出身者ニ対シテモソレヲ話シテ居ツタ、恐ラクハ建議案ニ持ツテ行カナイデ、予算総会ニ於テ、民間ニ於ケル宗教教育ノ振興刷新ト云フ質問演説ノ形デ出ルデアラウ、斯ウ思フノデス、是ハ非常ニ難カシイ問題デ、林君ノ言フ宗教ヲ素通リ出来ヌト云フノハ事実デス、是ハ歴史ナドヲ教ヘル場合ニ、「キリスト」ト云フノハ斯ウ云フモノデ、教義ハ斯ウ云フモノダ、仏教ハ斯ウ云フモノデ、教義ハ斯ウ云フモノダト云フコトヲ教ヘル、広イ意味デノ文化講座ノ内容トシテ取扱フ、或ハ歴史ノ教材トシテ取扱フコトハ結構ダト思フケレドモ、学校ヲ宗教教団ノ如ク取扱フコトハ、法律的ニモ相当問題ガアルノミナラズ、現下ノ情勢上神道トノ関係デ不可能ヂヤナイカト思フ
○林（平）委員　是ハ学校デソレヲ取扱ヘト命令スル意味ヂヤアリマセヌデ、是ハ禁ジテ居ル訳デアリマスカラ、宗教情操ヲ養フト云フコトハ、成程宗教ガナクテ之ヲ養フコトハ想像出来マセヌ、宗教情操ヲ養フト云フ時ニハ、仏教トカ「キリスト」教トカ具体的宗教ガナクシテ、宗教情操ハ出テ来ナイデアラウト思フカラ、ソレハ一宗一派ノ宗教ニ傾イテシマフト思フ、併シナガラ宗教ニ対スル客観的ト云フカ、批判的ト云フカ、宗教ニ対スル常識ト云フカ、サウ云フモノヲ養フコトハ、寧ロ一宗一派ニ偏シナイ方ガ宜イシ、偏シナイ方ガ却テ確実ナモノガ得ラレルノデハナイカ
○芦田委員長　ソレハ宗教教育トハ言ハナイデ、普通教育デス、此ノ憲法デ狙ツテ居ル所カラ言フトサウナリマス
○林（平）委員　所ガ宗教ニ関スル教育ハ是ハシテハナラナイト云フ規定デスカラ……
○森戸委員　サウ云フ意味ヂヤナイ、ソレハ違ヒマス
○芦田委員長　「關する」トハ書イテナイ、「宗教教育」ヲシテハナラナイ
○西尾委員　斯ウ云フ風ニ理解シテ戴ケバ林君ニ分ツテ戴ケルノヂヤナイカト思フ、宗教情操ヲ養フト云フ教育ノ仕方ハ、ソレハ或ル特定ノ宗教ヲ相当徹底的ニ教ヘルコトニ依ツテ宗教情操ト云フモノガ養ハレルノダ、サウ云フコトニナルト、ヤハリ是ハ或ル特定ノ宗教ヲ教ヘルト云フコトニナル、サウ云フコトヲ国デヤラナイト云フノデアツテ、例ヘバ「キリスト」教トハ何ゾヤ、儒教トハ何ゾヤト云フコトヲ教ヘルコトハ構ハナイコトニナツテ居ルノデアルガ、併シ又サウ云フ程度ノコトデハ宗教情操ヲ教育スルコトハ出来ナイ、ダカラヤハリ原案ノ通リデ宜イノデアツテ、ソレ以上ノ宗教情操ヲ養フ場合ニハ、特定ノ民間ノ宗教学校ノヤウナモノニ依ツテ養フ、若クハ家庭教育ニ依ツテ養ツテ行クト云フコトデ適当デハナイカ、斯ウ考ヘラレル
○林（平）委員　ソレデハ宗教教育ヂヤナクテ、宗教ノ普及活動ト云フコトニナラナイデスカ、宗教教育ト云ツタ場合ニハ、私ハ宗教ニ対スル一般的知識モ其ノ中ニ入ルト思フ
○芦田委員長　此処デ言フ意味ハサウ云フ意味ヂヤナイ、アナタノ今言ハレル程度ノ宗教ニ関スル知識ヲ与ヘルト云フコトハ只ノ学校教育デス
○北（れい）委員　ソレハ毫モ差支ナイト思フ
○芦田委員長　私ハサウ云フ風ニ解釈シテ居ル
○廿日出委員　私実ハ学校デ宗教ヲヤツタノデスガ、帝大デ宗教学、宗教哲学ヲヤルコトハ何モ差支ナイ、学問トシテヤルノダカラ是ハ宗教教育トハ言ヘナイ、併シ私自身ガ宗教教育ト言ハズ宗教的教育ト言フヤウナコトハ、是ハドウシテモ許シテ貰ハナケレバナラヌ、宗教的教育、既チ宗教的ナ心構ヘ、神ヲ拝ムヤウナ心構ヘデアル、サウシテ生命ニ対シテ感謝ノ気持ヲ以テ、誠ヲ以テ事ニ当ルト云フ、此ノ気持ヲ以テ教育ニ当ルト云フコトハ何モ差支ナイ、ソレガ既チ宗教情操デス、是ハ教育家ハ皆持ツテ居ル、ソレハ私ハ常ニ要求シテ居ル、ソコハ非常ニ区別ガアリマス、ダカラソコハハツキリアナタニ納得シテ貰ハナイト困ルノデス、是ハ私モ実ハ皆ニ口説カレテ困ツテ居ル、困ツテ居ルガ、私自身サウ思ツテ居ルカラ、マアマアト云ツテ抑ヘテ来テ居ル、其ノ程度ノコトハ此ノ小委員ニ加ハツテ居ル者ナラバ分ルカモ知レナイガ、一般ニハ中々分ラナイ
○林（平）委員　ソレデハ学校ニ於ケル一般的ノ宗教教育ハ差支ヘナイト云フ意味ニ於テ、私ハ修正案ヲ撤回シマス
○芦田委員長　十八条ハサウ云フコトニシマス
○林（平）委員　二十一条ハ、私ノ方ハ「學問の自由」ト云フノハヲカシイヂヤナイカ、「學問研究の自由」ト「研究」ト云フ字ヲ入レテ貰ヒタイト云フノデス、ナクトモ意味ハ分ルト云フ諸君ノ御意見ナラバ、必ズシモ固執スル訳デハアリマセヌ
○芦田委員長　是ハ議論ヲシ始メルト意見ガ色々出ルダラウト思ヒマスガ、「學問の研究の自由」ト云フコトニナルト、此ノ二十一条ガ初メニ起草シタ人ノ考ヘヨリモ狹クナルノヂヤナイデセウカ、或ル程度学問ヲ授ケルト云フコトノ自由モ、之ヲ認メテ居ルノデ、少シ意味ガ変リハシマセヌカ
○林（平）委員　学問ト云フモノハ自由ダト云フコトハ、是ハ決シテ憲法ニ規定シナクテモ宜イト私ハ思ヒマスガ……
○芦田委員長　サウナンデス、所ガ日本ノ今マデノ官憲ナドハ、研究ノ自由モ奪ヒ、非常ニ圧迫シタモノダカラ、是カラハサウ云フコトヲヤラナイヤウニト云フ意味ガ入ツテ居ルノダラウト思フノデス
○林（平）委員　学問ノ自由ト云フコトハ、日本ノ憲法デ規定シテ保障シテ貰ハナクテモ宜イト云フコトニナリマセヌカ
○芦田委員長　ソレハサウダケレドモ、過去ニサウ云フ弊ガ多カツタモノダカラ、ワザワザ斯ウ云フモノヲ入レタノダト思フノデス
○原（夫）委員　林君、大概同ジヤウナモノダカラ……
○北（れい）委員　是ハ林君ノヤウナ考ヘ方ハ自由党デモアツテ、「學術研究の自由」トシタラドウカト云フコトガアツタノデス、是ハ私ガ其ノ質問ヲシタノデスガ、政府ハヤハリ「レルム・フライハイト」、即チ研究ノ自由ノミデナク、教授ノ自由、「レーア・フライハイト」モ含メタ広イ意味ニシタイト云フコトデ、自由党モ「學術研究の自由」ト云フコトニシタイト思ヒマシタガ、ソレラ撤回スルコトニシタノデスガ、ドウデセウ、研究ト云フコトダケデナク、教授ノ自由ト云フコトニ解釈ヲ広クシタラ――日本ニ於テハ研究ノ自由モ或ル程度マデ制限サレマシタガ、教授ノ自由ハ殊ニ制限サレテ居タノデス
○林（平）委員　了解シマシタ
○芦田委員長　ソレデハ、二十二条ハ、明日司法大臣ト金森国務大臣ニ出席ヲ願ツテ、モウ一度相談ヲスルコトニ致シマス
　二十三条ノ社会党ノ提案ガアリマス、二十三条ノ第一項ニ「すべて國民は健康にして最小限度の文化的」……
○林（平）委員　ソレハ一寸違ヒマス、「健康にして文化的水準に適する最小限度の」ト訂正シテアリマス
○芦田委員長　是ハ一寸御尋ネシタイノデスガ、従来政府ノ説明ニ依リマスト、権利ヲ有スルト云フコトヲ書イタダケデハ、ソレヲ裏付ケルヤウナ義務ヲ負フベキ対象トナルモノハ何モナイノダト、斯ウ云フ説明デ来テ居ルノデスネ、ソレデ宜イノデスカ
○森戸委員　是ハ権利ヲ有スルト云フコトガ他ニモアルノデスカ
○芦田委員長　二十五条ニモアリマス
○森戸委員　是ハ政府ノ一ツノ考ヘデスガ、サウナルト或ハ義務ヲ有スルト云フノガ出テ来ルト思ヒマスガ、ソレナドト関連シナガラ全体的ノ解釈ヲ取ツテ行カナケレバナラヌノデハナイカト我々ハ考ヘテ居ルノデアリマス、大体、権利ヲ有スルト云フト、政府ハ、之ヲ別ニ妨ゲナイト云フヤウナ意味ニ過ギナイ、斯ウ云フ御話デアツタト存ジマスガ、ソレダケノコトデハナイノデハナイカト我々ハ解釈シテ居ルノデアリマスガ……
○芦田委員長　ツマリ二十四条、二十五条ニ総テサウ云フ権利ヲ有スルト云フ文字ガ出テ居リマスガ、ソレハ政府カラ云フト、債権債務ノヤウナ問題デハナイノダカラ、政府トシテハ、国民ニ斯様ナ権利ガアルト云フコトヲ認メルダケデ、政府ガ義務ヲ負フベキ性質ノモノデハナイノダ、斯ウ云フ解釈デ来テ居リマスカラ、ソレデ宜シイト云フコトナラバ、今ノ条文デモソレデ満足ヲナサルノカ
○森戸委員　我々ハ一応之ヲ入レテ、サウシテ尚ホ権利ト云フモノニ関スル生存権、労働権ニ於テハ、之ヲ裏付ケルヤウナ施設ガ即時ニデナクテモナケレバナラヌ、単ナル権利ヲ有スルト云フコトハ、唯人ガサウ思ツテ居ルノデアツテ、唯サウ書イテアルノデ、政府ハ別ニ之ヲ妨ゲナイト云フ消極的ナ義務ダケヲ負ツテ居ルモノト云フ解釈ハ、殊ニ生存権トカ労働権トカ云フモノニ取ツテハ、是ハ不十分ナノデハナイカト云フ考ヘヲ持ツテ居ルノデス
○芦田委員長　大体分リマシタ、結局之ニ即応スベキ政策ヲ政府ガ執ルト云フコトヲ成ベク速カニ期待スル、斯ウ云フ意味デスネ
○森戸委員　サウ云フコトデス、政府ハ単ニ之ヲ妨ゲナイト云フコトデナク、積極的ニ此ノ要求ニ副フヤウナ施設ヲ作ツテ置クコトガ望マシイシ、ソレヲ要求スルモノデアルト云フ背景ヲ持ツテ居ル訳デス
○北（れい）委員　一寸法制局ノ当局ニ御伺ヒシマスガ、二十三条ハ枢密院デ修正シタノデスカ、修正スル前ニ政府ガ修正シテ出シタノデスカ、初メノ案文デアリマスト、「法律は、すべての生活分野について、社會の福祉及び安寧竝びに公衆衞生の向上及び増進のために立案されなければならない。」ト云フコトデ、個人ノ権利ヨリモ個人ノ福祉問題ヨリモ「ソーシャル・ウエルフェア」ノ問題デ、公衆衛生ノ問題ヲ綜合的ニ取扱ツタヤウニ思ハレルノデスガ、所ガ後カラ修正シタ政府ノ案文ニ依リマスレバ、「社會の福祉」シカナクテ、其ノ次ハ「生活の保障及び公衆衞生の向上」トナツテ居テ、社会現象ガ二ツ出テ居ツテ、各個人ノ生活保障ト云フノガ間ニ一ツ入ツテ居ル、ドウモ案文ガ不調和デ、立法目的ガハツキリセヌヤウデスガ、ナゼ斯ウ書イテ出シタノデセウカ
○佐藤（達）政府委員　一寸御尋ネノ趣旨ヲ御確メ致シマスガ、前ノ「社會の福祉及び安寧竝びに公衆衞生」トアツタノヲ、「安寧」ヲ何故「生活の保障」ト改メタカト云フ御尋ネデスカ
○北（れい）委員　サウデス
○佐藤（達）政府委員　是ハ安寧ト云フノハ、横文字ノ方ハ「ソーシャル・セキューリティ」ト云フ言葉ガ之ニ当ルダラウト思ヒマスガ、安寧ト云フ言葉ハ如何ニモ警察的ノ色彩ガ強クテ、日本語デ「ソーシャル・セキューリティ」ニ当ル言葉トシテハ適切デハナイノデハナイカ、是ハヤハリ「生活の保障」ト云フノガ、事柄トシテモ文字トシテモ一致スルノデハナイカト云フコトデ改メタノデアリマシテ、ソコマデノコトヲ御答ヘ申上ゲマスガ、ソレニ付テ何カ御尋ネガアリマスレバ……
○北（れい）委員　社会的福祉ト公衆衛生ト、公衆ノ問題ヲ二ツ取ツテ、生活ノ保障ト云フ各個人ノコトヲ其ノ間ニ一ツダケ入レタ、是ハ別々ニ二ツノ条文ニスレバ、社会党ノ諸君ノ提案モ二十三条ニ入レラレル途モアルノデスガ、ドウシテ此処デ一緒ニ入レタノデアルカ、社会的ノ福祉ノ問題ト、各個人ノ生活保障ト、別ニ矛盾スル訳デハナイデスガ……
○芦田委員長　是ハ斯ウ云フコトデセウ、「アメリカ」流ニ言ヘバ、「ソーシャル・セキューリティ」ト云フコトヲ一ツノ制度トシテヤツテ居ル、ソレヲ日本デハ社会保障ト訳シテ居ルノデス、所ガ社会保障デハドウモ分リニクイト云フノデ、煎ジ詰メレバ生活ノ保障ト斯ウ入レラレタノデアツテ、是ハ私自身ノ翻訳デアルガ、私ガ翻訳スレバ社会福祉、社会保障及ビ公衆衛生ノ向上及ビ増進ト、斯ウヤツタト思フノデス、所ガ社会保障ト云フ文字ガ余リ日本デ使ハレテ居ナイノデ、サウ書イタノデハ分ラナイト云フ風ナ虞モアツタラウト思フノデス、ケレドモ帰スル所、社会保障制度即チ生活ノ保障デアル、所ガ意味ヲ書イタカラ、北君ノ言ハレルヤウニ間ヘ保障ガ入ルコトニナル、ダカラ社会保障ト云フ字ガ日本デ普通ニ能ク分ルト云フノナラバ、是ハ社会福祉、社会保障及ビ公衆衛生ノ向上ト云フ風ニ直スコトガ法文トシテハ形ヲナスト思フノデス
○佐藤（達）政府委員　御話ノ通リノ趣旨デアリマス、寧ロ個人ヲ抑ヘタヤウナ形ニナツテ居リマスケレドモ、結局是デ社会生活ノ確保ガ出来ルト云フコトハ御話ノ通リデアリマス
○北（れい）委員　社会保障ト言フト、失業保険トカ、養老保険トカ、凡ユル施設ニ依ツテ個人ノ生活ヲ保障スル諸制度ノコトデセウネ
○芦田委員長　是ハ「アメリカ」ノ大統領ガ自分デ握ツテ居ルノデス、サウシテ各省ニヤラナイデ……
○北（れい）委員　サウシタ方ガ私等カラ考ヘルト分リ易イノデス、個人ノ色々ナ生活ノ保障ハ別ナ条デ規定スレバ私ハ分ルト思フガ、公衆衛生ハ、Ｄ・Ｄ・Ｔヲ撒クノナンカモ公衆衛生ノ方デスカラネ
○芦田委員長　森戸君ドウデスカ、アナタノ方ノ御提案、ワザワザ社会保障ト云フモノガ入ツテ居ルノダカラ、生活ノ保障ト云フノハ、若シソウ云フノガ分リ宜イト云フノナラソレデモ宜イガ、趣意ハ私ハサウ云フノダト思フ、「ソーシャル・ウエルフェア・エンド・セキューリティ」ト書イタノハ……
○森戸委員　所ガ是ハ、必ズシモ一人々々ノ個人ガ健康ニシテ文化的ナ最小限度ノ生活ヲナスベキ権利ヲ有スル、サウ云フ権利ヲ保障サレル制度ヲ更ニ持ツト云フコトハ違フト思フノデス、ソレニ副ウテ居リマスケレドモ、寧ロサウ云フ原理ガアツテ、ソレヲ実現スル為ニハ斯ウ云フヤウナ施設ガ建テラレナケレバナラヌ、基本的ニハサウ云フモノガ前提トナツテ、日本ノ国民ハ国民トシテ此処デ述ベル労働ノ権利義務ガアルト同時ニ、生活ニ対スル最小限度ノ権利ヲ有スルコトガハツキリ出ルト云フコトガ、今日憲法ヲ作ル場合ニハ特ニ必要デハナイカト私ハ思ヒマス、サウシテサウ云フ前提ノ下ニソレヲ具現スル為ノ後ノ社会施設、社会ノ福祉増進、或ハ社会生活ノ保障、或ハ公衆衛生ト云フモノガ出来ナケレバナラヌ、斯ウ云フヤウナコトニナルノデス
○芦田委員長　私ガアナタノ方ノ提案ヲ見テノ印象ハ、第一項ニ入レヨウト云フ文字デスネ、生活ヲ営ム権利ヲ有スルマデノ二行ノ文句ハ、或ル意味ニ於テ社会保障ト云フコトノ説明ナノデスネ、「ソーシャル・セキューリティ・アクト」ト云フモノガ「アメリカ」ニアツテ、養老保険カラ疾病、失業ノ手当全部ヲヤツテ居ル、ソレノ説明ニ当ルヤウニ私ハ思フノデス、ソレナラバ特ニ一項ヲ入レナクテモ、此ノ社会保障制度ヲ法律ハ立案シナケレバナラヌト書イテアルノデス、モツト私ハ強イト思フノデス
○森戸委員　イヤ是ハサウデナク、法律ヲ作ル場合ニハ斯ウシナケレバナラヌノデ、特ニ此ノ目的ノ為ニ直グ作ルトカ云フヤウナコトハ之ニ現ハレテイナイ
○芦田委員長　ソレト同ジヤウニ、アナタノ方デモ営ム権利ヲ有スルト云フコト、其ノコトガ既ニ国家ノ義務トシテヤラナケレバナラナイト云フノデハナイ、斯ウシテ置イテ、政策トシテヤラセヨウ、斯ウ云フ含ミヲ持ツテ居ルノデセウ、ダカラ其ノ程度ハ同ジヂヤナイデスカ
○森戸委員　サウ云フ前提ノ下ニ社会保障ノ制度ト云フモノハ、出来レバ之ヲ実現サシタイト私共ハ思ツテ居ル、ソレヲ実現サセルニハ、大体大原理トシテ是ガナクチヤイカヌ、之ヲ国民ガ持ツテ居ルト云フコトガ、総テノ斯ウ云フ政策ガ出来ル本ニナラナケレバナラヌト思フノデス、国家ガ慈恵的ニ之ヲヤルト云フノデハナクテ、国民ガ斯ウ云フ生存ニ対スル権利ヲ持ツテ居ル、ソレデ民主主義的ノ国家ハ其ノ目的ノ為ニ斯ウ云フ施設ヲヤラナケレバナラヌト云フ風ニ考ヘテ居ル訳デス、サウ云フ意味デ是ハ非常ニ必要ナモノデアル、此ノ後ノダケデハ、サウ云フ観念ハ――今ノ御説明ヲ聴ケバ成程含マレテ居ルカト云フヤウニ私ハ感ズルシ、一般ノ人モ感ズルガ、国民ガハツキリト斯ウ云フ生活権ト云フカ、生存権ト云フカ、斯ウ云フモノヲ持ツテ居ルノダト云フ印象ハ得ズニ、寧ロ慈恵的ナ斯ウ云フ設備ガ与ヘラレテ居ル、斯ウ云フヤウナ感ジガアルノヂヤナイカ、ソレハ民主的ナ国家ノ社会的ノ施設ニ於テハ、サウ云フコトヨリハモツト進マナケレバナラヌ、ソレニハ斯ウ云フ観念カラ出ルト云フコトガ宜イト思フ
○芦田委員長　今カラ言ツテモ仕方ガナイコトダガ、第二十三条ガ問題ニナツタ時ニ、政府側トシテハモウ少シ此ノ点ヲ強調シテ説明セラレレバ、今アナタノ言ハレルヤウナ誤解ヲ避ケルニ非常ニ役立ツタト思フノデアリマスケレドモ、其ノ時ニ「ソーシャル・セキューリティ」ニ関スル説明ハ一言モナイノデスヨ、ソレダカラ一般ガ殆ド看過シタヤウナ形ニナツテ居ルケレドモ、アノ時ニモウ少シ丁寧親切ニ――アレ以上丁寧親切デハ困ツタモノカモ知レマセヌガ、政府ガ説明ヲサレレバ其ノ点ハ余程疑ヒヲ避ケルコトガ出来タラウト私ハ思フノデス
○北（れい）委員　結局法制局デハ、社会保障ト入レタ方ガ各人ノ生活ヲ保障スル色々ナ手段ガ含マレル意味ガ多クテ宜カツタノヂヤナイカト思フ、生活ノ保障ト云フト、社会党ノ諸君ガ不満ヲ感ズルノハ無理ガナイ、失業者ニ生活保障デ二百五十円モ与ヘレバ事足リルヤウニモ感ズルノデスヨ、ソレデアナタノ方デ詳シクヤツテ貰ヒタイト言フノハ当然ノ所モアルト思フ、ソレデ社会保障ト云フト、色々ナ社会政策ヲ行ウテ、各個人ノ生活ノ不安ヲ除イテヤルト云フコトニナツテ宜クハナイデセウカ、法制局当局ノ御考ヘハ如何デスカ、折角直シタノニ又元ニ戻スヤウデスケレドモ……
○芦田委員長　ソレハ厚生省ノ書類ヲ御調ベニナツテモ、各国ノ法制研究ト云フモノガアツテ、社会事業家ハ、社会保障ト云ヘバ一ツノ観念ニナツテ居ルノダカラ、是ハ私モ社会保障ト云フ意味ニ直スコトガ……
○森戸委員　ソレデ結構デスガ、生活権ノ条項ヲ入レナイト云フ意味ニハ少シモナラナイ、ソレハ寧ロサウ云フコトガ考ヘラレル本ニソコガナラナケレバナラヌ、其ノコトヲ特ニ基本権トシテハ明ラカニシテ置ク、基本権ノ部分トシテハ、是ハ輪廓面ト言ヒマスカ、サウ云フモノト並ンデ非常ニ重要ナ点デ、基本権トシテ尊重サルベキモノデアルト私共ハ考ヘル
○北（れい）委員　如何デスカ森戸サン、十二条ニ「すべて國民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に對する國民の權利」、大キナ幸福追求ニ関スル権利ガ出テ居ル、其ノ権利ヲ充タスニ社会保障ガアレバ宜ササウニ思ハレル、ソレヲアナタ方ノ方デハ社会保障ノ具体化ヲ要求サレレバ、国民ノ幸福追求ニ関スル権利ガ認メラレテ居ル以上ハ、内容的ニ言ヘバ健康ニシテ文化的水準ニ応ズル為ニ十分幸福追求ニ入ツテ来ハシナイカト思ヒマス
○森戸委員　文化的水準ト云フコトノ為ニハ最小限度ノ生活ヲ維持スル権利ヲ持ツト云フコトハ是非共必要ナコトデアラウト思ヒマス、ソレナシニ色々ナ福祉ト云フコトヲ書イテモ、動トモスレバ恩恵的ナ慈善的ナモノニナルヤウニ解サレル虞ガアルト思フ、ソレカラ一般ニ福祉ヲ保障サレルト云フコトデアレバ、実ハソレヲ解釈スレバ大抵ノコトガソレニ入ツテシマフ、ソレデハナクテ一般的ニ福祉ヲ進メルト言ツテモ、ソレガ具体的ニドウ云フ線ニ進メラレルカ、ドウ云フ項目ニ付テ進メラレルカト云フコトガ此ノ条文トシテハ更ニ細目化サレル、後ノ条文ノ初メハ理論的ナ一般的ナ表現デアリマシテ、基本権ノ具体的ナモノデハ、ソレガドウ云フ形デ具体化サレルカト云フコト、生存権ノ場合ニハ其ノ具体化ノ一ツノ重要ナ形式デアリ、人ガ個人的ナ尊厳アル人格トシテ承認サレルト云フコトヲ裏付ケルニハ、ヤハリ生存権ヲ有スルコトニ依ツテ是ガ具体的ニ行ハレルノデハナイカ、ソレト表裏シテ是ガ明記サレナケレバナラヌト思ヒマス
○芦田委員長　ソレモ一ツノ理窟ニ違ヒナイカモ知レナイガ、文化的水準ヲ維持スル最小限度ノ生活ト云フコトハ、幸福追求ノ最小限度デセウ
○森戸委員　ソレハ違フ
○芦田委員長　文化的水準ヲ維持スル生活ト云フコトハ、国民ノ追求スル幸福ノ一番低イ所ニ来テ居ルノデハナイカト思フ、十二条ハソレ以上ノモノヲ保障セヨト云フノデハナイト思ヒマス、立法其ノ他国政ノ上デ最大ノ保障ヲ必要トスル
○森戸委員　最小限度ノ生存ヲ保障スルト云フコトニ重点ガアル
○芦田委員長　ダカラ私ガ言フノハ、最小限度ノ生存ト云フコトハ幸福追求ヨリモツト下ノ方ノ……
○森戸委員　ソレガ保障サレテ居ナイ
○芦田委員長　イヤ、幸福追求ノ権利モ国政ノ上デ保障サレル
○西尾委員　十二条ハ幸福追求ニ対スル国民ノ権利ガ保障サレル、幸福ヲ追求スル――例ヘバ要求書ヲ出ストカ、「ストライキ」ヲスルトカ、サウ云フコトヲ獲得スル各人ガ個々ニ於テ自分ガ努力スルコトガ許サレテ居ルト云フノガ十二条デ、二十三条デ我々ガ言ツテ居ルノハ、寧ロ国ガ原則トシテ、之ヲ権利トシテ容認スル、斯ウ云フコトノ原則ヲ謳ツテ、具体的ニハ二十三条ノモノヲ稍々具体化シタモノトシテ第二項ニ加ヘルト云フ意味デアリマス
○廿日出委員　最近生活保障ナドト云フコトデ、二百五十円政府デ保障シテヤルト云フノデ、議員並ミダト言ツテ弥次ツテ笑ツタ話ヲ聞イタノデアリマスガ、アレハ何処カラ出タ話デスカ
○芦田委員長　アレハ去年十二月カラ生活困窮者ニ対スル最低生活ノ保障制度ガ出来マシテ、ソレガ今出テ居ル生活保護法ト云フ法律デ法文化サレル訳デス
○廿日出委員　精神ハモウ既ニ実施サレテ居ルノデスネ
○芦田委員長　今度ハ法文ノ上デハツキリ書カウト云フノガ生活保護法ト云フモノニナツテ居ル
○廿日出委員　アレト違フノデスカ
○森戸委員　私其ノ点ハ、本会議デ説明シテ生存権ヲ認メルト云フノハ、唯個人ガ生存ヲ追求スルノヲ妨ゲナイト云フ意味デハナイ、生存権ト云フモノハヤハリ具体的ナ他ノ義務ヲ負担スル、国家或ハ公共団体ニ対スル義務ヲ負担スル、サウシテ生存権ヲ認メルト共ニ、生存権ヲ保障スル制度ヲ国家ハ考フベキデアル、其ノ一例トシテ英国ノ最近ノ社会保障法ノ話ヲ本会議デシマシタガ、是ハ広汎ナ保険制度デアツテ、国民ガ総テ入ツテ居ル、サウシテ病気、出産、死亡、退職、癈疾、総テノ場合ニ――是ハ自分ガ掛金ヲスルノデスケレドモ、国家ノ補助モアツテ、大体生活ノ最小限度ガ保タレル程度ノ最低生活ガ保障サレル仕組ニナツテ居リマス、是ハ資本主義ノ社会デ今実行サレツツアルノデアリマスガ、マダ始マツタバカリデ実行ノ準備ニアリマス、サウ云フ制度ヲ私暗ニ頭ニ持ツテ居リマシタ、厚生省モソレニ付テハ研究シテ居リマシテ、私ハ保険制度調査委員会ノ小委員会ノ委員長ヲヤツテ居リマシテ、ソレデ其ノ間題ヲ取扱ツテ居ルノデスガ、サウ云フコトヲ背景ニ置キナガラ、国民ノ最小限度ノ生活ヲ保障スルト云フコトハ、唯国家ガ之ヲ妨ゲナイ、各人ガ勝手ニヤルノダト云フコトデハナク、社会制度トシテ国或ハ公共団体ガサウ云フ施設ヲスルト云フコトデ此ノ問題ヲ解決スルト云フコトガアルノデアリマス、其ノ点デハ唯福祉ヲ追求スル権利トカ生キル権利ト云フヤウナ抽象的ナモノデハナク、モツト具体的ナ社会施設ヲ背景ニ考ヘナガラ立テラレタ考ヘ方デアルト思ヒマス
○芦田委員長　趣意ハ分ルノデスガ、唯「イギリス」ノヤウニサウ云フコトヲ憲法ニ書カナクテモチヤント政府ニ於テ法律デドンドンヤツテ居ル、日本モ法律案トシテ既ニ議会ニ出テ居ルノデアルカラ、サウ云フモノマデモ文字ニ書イテ特ニ詳細ニスルコトガ必要カドウカ問題デス
○森戸委員　生存権ノ問題ハ僕ハ是非トモ新シイ憲法トシテハ掲ゲナケレバナラヌト思フ、英国ガ成文憲法ヲ作ルトスレバ必ズサウ云フコトハ入レタト思フ
○芦田委員長　ダカラ文字ニサウ拘泥シナクトモ、目的ハ実行ニアルノダカラ……
○森戸委員　実行ニアツテモ、日本デハ中々ヤラナイノデスヨ
○芦田委員長　御承知ノ通リ「アメリカ」ノ「セキューリティ」ヲ御覧ニナルト分ルガ、「アメリカ」ノ失業保険ダツテ僅カノ金デスヨ、日本ノ痩セ世帯デ月ニ四百円モ五百円モ出スト云フノト比較ニナラナイ僅カナ金デヤツテ居ルノデスカラ、詳細ナコトヲ憲法ニ書クコトハ宜イケレドモ、ソレハ少シ重複スルヤウニ考ヘル、十二条ト二十三条デソレハ「カバー」シテ居ルノデハナイカト思フ
○北（れい）議員　私ハ社会党ノ諸君ノ修正ハ狙ヒガ一寸違ツテ居ルト思フ、十二条デ妨ゲラレナイ訳デス、外ノ条文ト比較シテモ可ナリ大キク出テ居ル、「幸福追求に對する國民の權利については」妨ゲルドコロデハナイ、「その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする」、「最大」ト云フ言葉ヲ用ヒテ居ルノハ此処ダケデス、ソレ程ニ幸福追求ニ対スル処理スラ、最大ノ尊重ヲ必要トスルト、権利ヲ大キク認メテ居ル、サウシテ其ノ「最大の尊重」ト云フ精神カラ、社会ノ福祉、社会ノ安寧、公共衛生ノコトハ手段トシテ是等ノ目的ヲ果スヤウニ二十三条ニ出テ居ルヤウニ思フ、然ルニ此ノ十二条ニ大キク出テ居ルノヲ、更ニ基礎的ニ一部分ノモノヲ二十三条ニ規定スルト云フノハ、ドウモ法律ノ体裁カラ言ツテモヲカシイデハアリマセヌカ、アナタ方先刻妨ゲラレナイト云フノヂヤ困ル、最大ノ尊重ヲ必要トスルト一番大キク出テ居ル、是ハ外ノ国ノ憲法ニハナイ位デスヨ
○森戸委員　第十二条ハ北サンガ仰シヤラレタヤウニ、最大ノ尊重ヲスルト云フノデスガ、是ハ「生命、自由及び幸福追求に對する國民の權利については」ト云フノデアツテ、国民ガサウ云フコトヲ追求スルノハ大イニヤツテ貰ヒタイ、国家ハ之ヲ非常ニ尊重シテ妨ゲナイト云フノデスケレドモ、之ヲ追求シテ生活ノ出来ナイ者ガ非常ニ沢山アルノガ今日ノ現状デス
○芦田委員長　ダカラソコハ二十三条ノ社会保障デ行クンデスヨ
○森戸委員　今日デモ実ハ国家ハ別ニ妨ゲテ居リハセヌト思フ、ケレドモ国民ノ大多数ガ困ツテオルノデ、サウ云フ場合ニハドウスルカト云フ問題デス、ソコニ国民ニ対シテハ生活ノ最小限度ニ対スル権利ヲ有スル、生活権ヲ認メルト云フコトガ必要ニナツテ来ル、随ツテ又ソレニ応ズル社会施設ヲ作ルコトガ必要デハナイカ、サウ思フノデス、ダカラ追求スル権利ガアツテモ、実ハ生活安定ヲ得ラレナイ者ガ沢山アルト云フノガ今日ノ社会ノ状態デス、其ノ状態ヲ何トカ民衆ノ権利ヲ基礎ニシテ良クシテ行クト云フ所ニ、生活権ノ間題ト云フモノガ出テ来ルデアラウト私共考ヘマス
○北（れい）委員　私ハ生命ト云フモノハ勿論是ハ生存権ノコトヲ含ンデ居ルト思フ、生存権ト自由権ト幸福追求権、ココニチヤント生存権ハ最大ノ尊重ヲ国家ハシナケバナラヌト云フコトニナツテ居ル、此ノ「ライフ」ト云フノハ能ク読ンデ御覧ナサイ、低イ意味ノ生存権デスヨ、「ライフ」ハ自由ト「イグジステンス」以上デス、生存ト云フモノハ「イグジステンス」ダケデスネ、例ヘバ唯生キテ居ルダケデハイカヌ、自由ヲ持ツテ生キテ居ル、更ニ幸福、ソレヲ大イニ尊重シテ、ソレヲ社会施設デ以テ二十三条デ保障シテ居レバ、是ハ間然スル所ナシトシテ、余リ保障シ過ギテ実力ガ伴ハヌトイカヌト思ツテ心配シテ居ルノデス
○西尾委員　繰リ返シテ言ヒマスガ、北君ニ此ノ点ヲ考ヘテ貰ヒタイ、簡単ニ言ヒマスト、十二条ハ追求スル種利ガ尊重サレテ居ル、国民ノ或ル部分自身ガ生命ナリ、自由ナリ、幸福ヲ追求スル為ノ色々ナル運動、努力、サウ云フモノニハ最大ノ尊敬ヲ払フ、尊重スル、詰リ努力ヲ認メル、斯ウ云フコトナンデス、我々ガ言フ二十三条ハ、其ノ努力ノ如何ニ拘ラズ、其ノコトトハ別個ニ国民ノ最低ノ健康ナル生活ヲ保障スルト云フ国ニ義務ガアル――義務トマデハ言ハナイノデアリマスガ、其ノ点ヲ原則トシテハツキリ謳ツテ居ル、ソレノ具体化トシテ現在ノ二十三条ヲ第二項ニ書ク、斯ウ云フノデアリマスカラ、間題ノ狙ヒガ本質的ニ違フノデス、一方ハ「ストライキ」ヲヤル、所謂政治運動ヲヤル、サウ云フコトヲ認メルト云フノデアルシ、是ハサウ云フ追求ヲシヨウガ、シマイガ、ソレニ拘ラズ国ガ最低生存権ヲ認メル、斯ウ云フ原則ヲココニ立テタイ
○芦田委員長　二十三条ノ英文ヲ読ンデ見ルト、日本文ノ書キ方ハ「法律は」ト一番先ニ書イテ何ダケレドモ、全体ヲ読ンデ見ルト、社会ノ福祉、生活ノ保障及ビ公衆衛生、斯ウ云フコトハ総テ法律デヤルンダゾト云フ意味ダト私ハ思フ、法律デサウ云フコトヲ決メルンダヨト云フ意味ヲ書イテアルノダト思フネ、ソレデナケレバ若シ立法ノ精神ヲ言フモノナラ、国民ノ権利義務ナンゾハ入レルノデナクテ、立法府ノ所ニ入ルカ、何処カ法律ノ所ニ入ルベキモノデアツテ、ココニ態々二十三条ト云フモノヲ設ケテアルノハ、是ハ国民ノ種利ヲ規定シテ居ル、国民ノ権利デアルナラバ、今森戸君ノ説明ノヤウニ、法律ヲ作ル時ニハ斯ウ云フコトヲ考ヘロト云フノデナクテ、ヤハリ二十三条ハ国民ノ一ツノ権利デスヨ、ソレダカラドウシテモ社会保障ト云フモノガ、或ル意味ニ於テ国民ノ権利トシテ要求出来ルノダト云フコトデナケレバ、ドウモココニ入ル訳ガナイト私ハ思フ
○北（れい）委員　十二条ヲヨク読ンデ御覧ナサイ、追求ト云フノハ幸福ダケニ付クノデ、原文ヲ忠実ニ訳セバ、生命権、自由権及ビ幸福追求権デス、国民ノ生命権、自由権及ビ幸福追求権ニ付テハ――アナタ方ハ生存ヲ追求スル、望ムト云フ権利位ニ思ハレルカモ知レナイガ、是ハ本当ハ幸福追求ダケデスヨ、文字通リニ訳スレバ、国民ノ生命権、自由権及ビ幸福追求権ハ立法其ノ他国政ノ上デ最大ノ尊重ヲ必要トスル、生存権ト云フモノハ十分ニ入ツテ居ル、「ゼア・ライト・トゥ・ライフ」デスカラ……
○森戸委員　此処デハ生命ト云フノハ生存ノ意味デハナイト僕ハ思フノデス
○北（れい）委員　ソンナコトハナイ、生存デスヨ、生存ヨリモツト大キイノデス、「レヤー・イグジステンス」デス
○森戸委員　ソレハ生キテ居ルト云フコトハモツト大キイト云ヘバ大キイノダガ、サウデハナクテ、命ヲ脅迫サレヌト云フ意味デス
○北（れい）委員　イヤ、サウデハナイ、トンデモナイ、「デス」ニ対スル「ライフ」デハナイノデス、「イグジステンス」ヨリモツト良イ意味ノ文化的ノ意味ガアルノデス、「ストラッグル・フォア・イグジステンス」デハナクテ、「レヤー・イグジステンス」、ソレニ対スル「ライト」デス、「ゼア・ライト・トゥ・ライフ」デス、ドウモ読ミ違ヒデス、唯ノ生存デハナイ、生活デハナイ、モツト上ノ自由権、更ニ自由ダケデモ駄目ダ、活動写真ヲ見タケレバ見ルシ、旅行シタケレバ旅行モスル、更ニ幸福追求権ト、三段構ヘデ行ツテ居ルノデス
○森戸委員　サウスルト意味ガ通ジマセヌネ、生命ト云フノヂヤ……
○北（れい）委員　生命デハ、殺サレナイ権利、ソンナコトハナイデスヨ、此処デハ生キル権利デスヨ
○森戸委員　生キル権利ト云フコトハ総テヲ含ムト云フ風ニモ解セマス、幸福モ自由モ皆生キル権利――サウデハナクテ、生キルト云フコトノ狭イ意味デセウ、自由ト云フヤウナモノト対立シタ……
○北（れい）委員　「イグジステンス」ヨリ大キイデス
○森戸委員　全部ヲ含ミマスケレドモ、サウデハナクシテ……
○北（れい）委員　普通ニ「レーベン」ト云ヘバ「イグジステンス」ヨリ大キイデス、文化的ナ意味ヲ含ンデ居マス、動物界ノ現象ハ「ストラッグル・フォア・イグジステンス」デス
○森戸委員　自由モ幸福モ皆含ンデ居ル、ソレヲ分ケタ限リハ……
○北（れい）委員　アナタハドウモ妙ナ読ミ方ダネ、此処デ言フナラバ、普通ノ人間生活、更ニソレニ伴フ色々ノ高尚ナ生活ヲ自由デアラシメ、更ニ色々ノ附帯的ノ問題ト、三段構ヘニナツテ居ル、生活権ハ十分出テ居リマス
○森戸委員　サウデハナイナ
○北（れい）委員　死ヌ為ノ生命ノ安全ガアルト言フナラ、ソレナラ財産ノ保障ナドト似タヤウニ思ハレルケレドモ、是ハサウデハナイノデス、生活権ヲ思切ツテ規定シテ居ルノデスヨ
○森戸委員　サウデハナイト思ヒマス
○北（れい）委員　人権ノコトヲ書イテアルノデスヨ、ソンナコトハナイデスヨ
○森戸委員　サウシテ最大ノ尊重ヲ必要トスルト云フノデ、権利ヲ有スルト云フコトデハナイ
○北（れい）委員　権利ニ付テハ最大ノ尊重ヲ必要トスル
○森戸委員　権利ニ付テハト云フノハ、権利ヲ有スルト云フコトトハ又違フト思ヒマス
○北（れい）委員　妙ナコジ付ケタ理窟デスナ、「ゼア・ライト・トゥ・ライフ」、是レ以上ノモノハナイデス
○森戸委員　個人トシテ尊重サレルト云フコトノ説明デアルト思ヒマス、ソシテソレガ実際ノ生活ノ上デ生活ノ方面、又労働ノ方面ニモ、実際ニドウ云フヤウニ尊重サレルカト云フコトガ、二十三条ト二十五条ニ出テ居ルノデアル、私等ハサウ思フ、ソレガ彼処ニ書イテアツタコトハ一般的原則デアツテ、ソレヲ如何ニ具体的ニシテ行クカト云フコトヲ、詰リ二十三条以下ニ色々ニ分ケテ述ベテ居ル、生活スル為ニ労働スルノダカラ、労働ノ権利モソレデハ必要デハナイカ、斯ウ云フ議論モ成立ツ、自由ト云フコトモ、或ハ団結ノ自由モ其ノ自由ニ含マレルカラ、ソレハ必要ヂヤナイカ、サウ云フコトデハナクテ、彼処ニハ一般的ナ個人ノ尊厳ト、ソレカラ生命、自由ト幸福追求ト云フヤウナ権利ヲ持ツテ居ルト云フコトガ書カレテアル、偖テ実際ノ生活ニ即シテ見ルト、ソレガドウ云フ権利ニナルカト云フコトガ、二十三条以下ニ労働生活ニ即シナガラ書カレテ居ル、二十三条ハ一般的ノモノデス、ソレカラ続イテ二十五条其ノ他ニ付テハ、具体的ナ問題ガ書カレテ居ルト思フノデス、其ノ具体的ナ問題ノ一部トシテ、生産ノ方面デハ労働ノ権利ガアル、消費生活ノ方面デハ生存ノ権利ト云フコトガ明カニ規定サレテ居ルト云フコト、此ノ一般ノ原則ガアツテ、ソレガ具体的ニ保障サレルノデアルト、私共ハサウ思フノデス
○芦田委員長　森戸サン、二十三条ハ変ナ書キ方ガシテアルガ、是ハ日本流ニ言ヘバ、総テノ国民ハ社会ノ福祉、生活保障、公衆衛生ノ向上及ビ増進等総テノ生活部門ニ付テ法律ニ依ツテ定メラレル権利ヲ持ツ、斯ウ云フ風ニ読マナケレバ、ドウシテモ此ノ二十三条ハ分ラヌデス、ソレダカラ国民ノ権利ナルモノモ、若シサウデナカツタナラバ、ナゼニ国民ノ権利ノ中ニ入レタカト云フ意味ガ分ラヌカラ、総テノ生活ニ付テ法律ニ依ツテ規定サレル権利ヲ持ツ、斯ウ云フ意味デス、私ハサウ思フ、是ハ書キ方ガ拙イカラ……
○森戸委員　ソレハ一ツノ解釈デスケレドモ、此ノ文章カラ言フト私ハ必ズシモ……
○芦田委員長　サウスルトドウ云フノデスカ、法律ヲ作ル時ノ心構ヘダケト云フ意味デスカ
○森戸委員　社会生活ニ付テハ斯ウ云フ心構ヘデ法律ヲ作レト云フコトデ、必ズシモ直グニソレガ皆立法ニナルカドウカト云フコトハ分リマセヌ、出来ルカ出来ヌカモ分ラヌ
○芦田委員長　法律ヲ作ル時ノ心構ヘナラバ、国民ノ権利義務ノ所ニ入ル訳ガナイト思フ、ソレナラバ国会ノ所ニ入ルベキモノデアツテ、両院ガ法律ヲ作ル時ニハ斯ウ云フ心構ヘデ作レト云フノナラ分ル、ソレハ国会ノ方ニ入ルベキデアル、ソレヲワザワザ二十三条ノ国民ノ権利義務ニ持ツテ来タノハサウ云フ意味ヂヤナイト私ハ思フ
○原（夫）委員　色々御意見ヲ承ツテ、大変参考ニナルノデスガ、森戸委員ノ出サレタ挿入案ト云フモノニ付テハ、先ヅ北君ノ所謂十二条ニソレガ含マツテ居ルト云フコトハ、是ハ疑ヒナイコトデアラウト思フノデス、併シナガラ森戸委員ノ御話ノ如ク是ハ総論的ナ一般ノ事柄ト云フ規定デアルト云フコトハ疑ヒナイ、是ハ結局十二条デハ「幸福追求に對する國民の權利については……立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする」、斯ウ云フ概括的ナ規定ヲ設ケテ居ルノデスガ、只今ノ二十三条ニ参ツテハ此ノ立法及ビ国政ニ尊重スベキ事柄ノ中デ、特ニ生活分野ニ付テ、社会ノ福祉ト安寧並ニ公衆衛生、是ハ生活ノ保障ト云フコトニナツテ居ルノデスガ、此ノ増進ノ為ニ法律ハ立案シナケレバナラナイ、斯ウ云フコトニナツテ居ルカラ、此ノ挿入シナケレバナラヌト云フ森戸サンアタリノ提案ナルモノハ、ドウアツテモ此ノ中ニ、両方ノ条文中ニ是ガ入ツテ居ルコトハ疑ヒナイ、ソコデソレハ唯法律デヤルカヤラヌカ、憲法デ画ニ描イタ牡丹餅ミタイナモノデ、実際ヤラヌノデアルカモ分ラヌカラ、此処デ権利規定ヲ設ケナケレバナラヌ、斯ウ云フ御話デアルケレドモ、ソレハ一般ノ憲法理論、論理解釈カラ云ウテモ、法律デハ斯ウ云フ風ニ立案シナケレバナラヌト云フ権利ヲ認メテ居ル、御主張ノ権利ヲ認メテ此処ニ規定シテ居ルノデスカラ、更ニ此ノ中ヘ御提案ノヤウナ権利ヲ有スルノダト云フコトハ、是ハドウモ重複スル提案デ、尊重シナケレバナラナイ事柄デアルカモ知レナイケレドモ、少クトモ憲法ニハ是ダケ親切ニ此ノ点ガ謳ツテアルカラ、是ダケハ御主張ノ趣意ハ少シ屋上屋ヲ架スルヤウナコトニナリハシナイカト思フ、ドウモマダ納得ガ行カヌデスカラ、モウ少シ研究サセテ戴キタイノデス
○森戸委員　原サンノ御話デゴザイマシタガ、是ハ実際ニ具体的ナ意味カラ言ヘバ、二ツノ法条トシテ具体的ニハ重複シテナイ、私ハ二ツノ法律ガアリマシテモ、実際ニ生存ノ出来ナイ者ガ非常ニ沢山アツテ、ソレ等ヲ如何ニスルカト云フコトガ問題デアル、ソコニ生存権ノ保障ト云フモノガ起ルノデアツテ、其ノコトガ規定サレナケレバナラヌト思フ、二十三条ニ付テハ委員長ノ御話デアルノデスガ、是ハ実ハ寧ロ責任ノハツキリシナイ法文デアル、是デハ社会立法或ハ生活ニ関スル立法ハ斯ウスベキモノデアルト云フコトヲ言ツテ居ルニ過ギナイノデ、生活ノ部面ニ於テ斯ウ云フ立法ヲシナケレバナラヌト云フコトニハ、ドウシテモ読メナイノデアリマス、之ヲ取ツテ斯ウ云フ立法ヲシナケレバナラヌトハ、此ノ法文ヲドウ読ンデモ読メナイト私ハ思フ、此ノ法文ガ生キルノニハ、ドウシテモ国民ガ総テ文化生活ノ最小限度ヲ保障サレ、或ハ生活権ヲ有スルト云フ規定ガアツテ初メテ生キルノデアツテ、前ノ十二条デアリマシタカ、十三条ノ一般的ナ規定ト、二十三条ハドウ云フ意味デアリマスカ、一般的ナ規定トモ思ハレルシ、又具体的ナ規定トモ思ハレマスガ、斯ウ云フ二ツノ規定ガアルニ於テハ、其ノ中間的ニ個人ノ生活ガ保障サレルト云フコトガ、殊ニ今日ノ時代デ、単ニ形式上ノ政治的ナ基本権ヲ規定スルコトダケデナク、社会的、経済的ナ基本権ヲ規定スルト云フコトガ、今日ノ時代ニ於ケル憲法制定ノ重大ナ意義ヲ持ツテ居ル、サウスレバ私ハ消費ノ面ニ於ケル国民ノ個々ノ生活ノ権利、サウシテ生産ノ面ニ於ケル国民ノ労働ノ義務ト云フモノガナイト、ドウシテモ今日出来ル憲法、殊ニ民主憲法デアルト云フ意味ガ通ラナイノデハナイカ、一般ノ原則ニ確カニ含マレテ居ルノデスカラ、之ヲ例ヘバ生命或ハ生存、幸福追求ノ権利ガアルト云フコトデアレバ、大抵ノモノハ皆ソレニ含マレテ居ルノデアルカラ、アトハ詳シク規定スル必要ハナイトモ考ヘラレルノデアリマス、サウ云フ詳シイ具体的事実ハ挙ゲナクテモ、権利追求ノ目標ヲハツキリスルコトガ、今日出来ル憲法ノ重要ナ意味デアルト思フシ、殊ニ今日出来ル憲法ノ背景カラ云ツテモ、日本ノ今日ノ国情カラ云ツテモ、此ノ国情ガ一番強ク反映シテ居ルノハ、一ツハ生産ト云フコトデアリマスシ、他ノ面デハ労働ノ権利ト云フ方面デアルト思ツテ居リマス、其ノ点ニ於テ此ノ点ハ特ニ重要視シナケレバナラヌ、而モ是ハ必ズシモ社会主義ニ世ノ中ヲシナケレバナラヌト云フ意味ノモノデモナイシ、資本主義ノ社会デモ実現可能ナモノデアルト考ヘル、サウ云フ点デハ仮ニ十二条ガ一般的ノ規定ハ含ンデ居ツテモ、更ニ之ヲ明カニスルコトガ今日ノ時代ニ於ケル憲法トシテハドウシテモ考ヘナケレバナラヌコトダト思ヒマス
○廿日出委員　第十二条ノ若シ「幸福追求」ヲ「最低生活に對する國民の權利」ト改メルトシタナラ、大体ニ於テ森戸委員ノ御主張ニナル精神ガ現ハレルノデスガ、ドウデスカ
○森戸委員　サウ軽ク色々ナモノト一緒ニ扱ハズニ、特別ニ扱ハレル程重要性ノアルモノデアリマス
○廿日出委員　其ノ気持モ分リマスガ、併シ今マデ論議サレタ総テノ点ヲ総合シテ考ヘマシテ、若シサウデアツタラ、幾分カデモ自分ノ考ヘガ通ルト仰シヤルノカ、此処デ「幸福追求」ト云フ代リニ「健康にして文化的水準」ト云フ言葉ヲ使フコトハ、唯生キルダケナラ犬デモ生キテ行ク、併シ「健康にして文化的水準」ト云フコトハ、我々ノ立場ニシテモ相当幸福ナ部類ニ入ル、其ノ最小限度ハ「健康にして文化的水準」デアル、ソコラデゴロゴロ、シテ死ニサウナ恰好ヲシテ居ルモノト雲泥ノ差ガアル、デスカラ「最低生活に対する國民の權利」ト云フコトハドンナモノデセウ
○原（夫）委員　一寸少シ伺ヒタイノデスガ、御提案ノ此ノ権利規定ヲナスコトニ依ツテ、唯規定スレバ宜イト云フ、此ノ権利ヲ有スルト云フ規定ノ実行ハドウ云フ風ニシヨウト云フノデアルカ、其ノ目途ヲ一ツ聴カセテ戴キタイノデスガ、ソレト十二条ニハ「幸福追求に對する國民の權利」ヲ規定シテ居ル、殊ニ現在生活保護法ナドデモウ既ニ幸福追求ノ権利ノ具体化ヲ示シテモ居リマスガ、要スルニ段々国政ノ上デソレヲ実行ニ移サナケレバナラヌ、斯ウ云フ憲法ノ規定ヲナシテ居ル、更ニ今ノ二十三条ニ於テハ、是ハ変ヘナケレバナラナイトアルガ、此ノ法律ハ出スカドウカ分ラナイ、是ハ法律化シナケレバナラナイ政府ニ責任ノアル規定デアルト思フ、サウナルトアナタ方ノ唯「國民は最小限度の生活を營む權利を有する」、斯ウ云フ規定ヲナスコトニ依ツテドウ具体化サセヨウトセラレルノデアルカ、唯憲法ニ之ヲ規定シテ一般ノ国民ニ之ヲ示シサヘスレバ宜イノダ、斯ウ云フコトデハ目的ニ副フ訳デモナイデセウシ、要スルニ前申上ゲタヤウナ大体ノ趣意ガ規定シテアルコトデスカラ、ドウモ是ハ憲法トシテノ規定ノ体裁上カラ言ウテモ、直グニ御承服申上ゲルヤウナコトニハ考ヘラレナイノデスガ、其ノ点一寸アナタ方ノ御趣意ヲ承リタイノデアリマス
○西尾委員　先程カラ生活保護法ガ現ニ上程サレテ居ルト云フコトデ、此ノ問題論議ニ当ツテ非常ニ重要ニ取扱ツテ居ラレマスガ、寧ロサウ云フ考ヘ方ニ対シテ我々ノ修正点ガ重要デアルト思フノデアリマス、即チココデハ健康ニシテ文化的ナ生活ガ出来ルヤウニ国ハ努力シナケレバナラヌ、斯ウ云フ点ヲ言ウテ居ルノデアリマシテ、今言フ生活保護法ガ出テ居ル、其ノ内容ハ此処デ論議スル場合デアリマセヌケレドモ、決シテ健康ニシテ文化的水準ヲ約束スルヤウナ内容ノモノデナイノデアリマス、ソコデ文化的ニシテ健康ナ、所謂文化的最低生活ヲ国家ガ保障スルト云フ原則ヲ、ココデ力強ク言ツテ置キタイ、斯ウ云フ所ニ我々ノ主張ノ第一ガアルノデアリマス
○吉田（安）委員　私ハ最初社会党カラ此ノ修正案ガ出マシテ、一応説明ヲ聴キマシテ、読ンデ見マスト、是ハ至極結構ナコトダト内心個人的ニハ賛成ヲシテ居リマシタガ、只今マデ色々御意見ヲ拝聴致シマシタ上デ、尚ホ更ニ只今廿日出委員ノ御意見ヲ拝聴致シマスト、此ノ十二条ノ基本ニナツテ居リマスル規定ト比較対照致シマスルト、ヤハリ社会党ノ修正案ニ出テ居リマスル「國民は健康にして文化的水準に適する最小限度」ト、斯ウ規定ヲ致シマスル以上ハ、此ノ「健康にして文化的水準に適する最小限度」ト云フノハ、結局十二条ノ幸福追求、之ニ包含セラレルト云フ強イ観念ヲ持ツ次第デアリマス、ソレデ是ハヤハリ今ノヤウナ関係デ原案ノ通リデ宜クハナイカト思ヒマス
○芦田委員長　色々御意見ハアリマスガ、マダ尽キナイト思ヒマス、今日ハ大分時間モ経チマシタカラ、是ハ明日引続イテ色々意見ヲ交換スルコトニシタラドウカト思ヒマスガ、如何デスカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレデハ本日ハ是ニテ散会致シマス
　　　　午後四時三十二分散会