小委員会 昭和21年7月31日（第6回）

昭和二十一年七月三十一日（水曜日）
　　　　午前十時三十分開議
　出席委員
　　　委員長　芦田　　均君
　　　　　廿日出ひろし君　　　　江藤　夏雄君
　　　　　　犬養　　健君　　　　吉田　　安君
　　　　　　鈴木　義男君　　　　森戸　辰男君
　　　　　　林　　平馬君　　　　大島　多藏君
　　　　　　笠井　重治君　　　　高橋　泰雄君
　　　　　　原　夫次郎君
　出席国務大臣
　　　　　　　　　　　国務大臣　金森徳次郎君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　―――――――――――――
　本日ノ会議ニ付シタ議案
　　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
　　　　午前十時三十分開議
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、昨日ハ二十七条及ビ其ノ次ニ挿入セラレルモノト予定サレテ居ル納税義務ノ条項ヲ審議シタノデアリマシタガ、一応ノ審議ヲ其ノ程度ニ止メテ置イテ、次ノ条項ニ移リタイト思フノデスガ、ソレデ宜シウゴザイマスカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレデハ第二十九条ニ入リマス、草案ノ第二十九条ノ二項ニ、社会党ノ提案トシテ、行政訴訟ヲ行ヘルコトヲ挿入シタイト、斯ウ云フ案デス、ソコデ私カラ一寸草案起稿ノ時ノ経緯ニ付テノ経過ヲ一言申シテ置キマスガ、行政訴訟ノ制度ハ将来廃メタ方ガ良イト云フ意見ガアリマシテ、ソレデ政府ハ行政訴訟制度ヲ全部廃止シテ、苟クモ訴訟ハ裁判所デ行フ、斯ウ云フコトニシタノデアリマス、其ノ事情ガオ分リ下サレバ、恐ラク行政訴訟ノ点ハ何トカ御考ヘ願ヘハセヌカト思フノデスガ……
○鈴木（義）委員　略々サウ云フコトハ承知致シテ居リマス、唯日本国民ハオ上ノヤツタコトニ対シテ訴ヘヲ起スナドト云フコトハ出来ルコトデハナイ、サウ云フコトハ不届千万デアルト云フ観念ガアリマシテ、現在行政裁判法ト云フモノガアツテモ、成タケ利用シナイ、況シテヤ憲法ノ上デ普通裁判所ガ行政訴訟ヲ扱フコトニ今度ハナルノデ、行政訴訟其ノモノヲ抹殺シテ居ル訳デハナイノデス
○芦田委員長　サウヂヤナイノデスネ
○鈴木（義）委員　行政裁判所ト云フ特別ノ裁判所ヲ設ケナイト云フコトデ、サウ云フ訴ヘヲ起スコトハ出来ルノダゾト云フコトヲ国民ニ理解サセテ置クコトハ、国民ノ権利保障ノ上ニ非常ニ大事ナコトデアリマス、ソレハ条文ノ解釈デ行ケバ、二十九条ニ「何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない」トアルノデ、当然予定サレテ居ル所デハアリマスガ、是ダケデハ迚モ日本国民ニハ分ラヌ、行政訴訟モ起スコトガ出来ルゾト云フコトヲ念ノ為メ規定シテ置ク方ガ宜シイ、斯ウ云フ趣旨カラ来テ居リマス
○芦田委員長　今鈴木サンノ説明ノヤウニ、此ノ第二十九条ノ原案デハ、行政訴訟ヲモ裁判所ニ持ツテ行クコトガ出来ルト云フコトニハツキリ決マル以上ハ、特ニソレダケノ何ヲ加ヘル必要ガアルカナイカト云フコトナンデスガネ
○鈴木（義）委員　所ガ行政機関モ訴願ヲ扱フコトニナル、扱ハセナイト云フ説モアルノデスケレドモ、サウ云フ場合ヲ考慮スルト、行政上ノ訴ヘヲ起スコトガ出来ルノダヨト云フコトヲ国民ニ注意シテ置カナイト親切デナイヤウニ思フ
○原（夫）委員　今ノ此ノ行政訴訟ノ関係ニ付テハ、第六章ノ司法ノ冒頭ト第二項ニ、「すべて司法權は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に屬する。」、ソレカラ「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機關は、終審として裁判を行ふことができない。」、斯ウ云フコトガアルノデ、ヤハリ今ノ御話ト関連シテ大体行政訴訟ガ起セナイト云フ訳ハナイコトニナツテ居ルノデスガ……
○鈴木（義）委員　ソレハ起セルニ決ツテ居ル、唯素人ヲ相手ニシタ――ソコガ私共ノ憲法ニ対スル考ヘ方ガ何時モ国民ノ教育ト云フヤウナ気持ヲ持ツテ居ルモノデスカラ、分リ切ツタコトデモ、論理上分ルノデハ困ルカラ、書イテ置カウト云フノデス、ソレハ必要ナイト仰セラレレバ、ソレモ尤モナンデス
○原（夫）委員　ソレガ「イデオロギー」ノ本ナンデスガネ、丁寧ニヤラウト云フ……
○吉田（安）委員　社会党ノ御提案ハ能ク分リマスガ、ドウデセウ、二十九条ニ一般的大原則ガアリマスカラ、ソレデサウシタ官庁ノ不当処分ナドト云フコトハ当然何デモ裁判ガ出来ルト云フコトニナツテ居リマスカラ、ヤハリ是ハ昨日ノ話ト同ジコトデ、少シダメノ押シ方ガ多イヤウナ感ジガ致シマスガ、サウ書イタ方ガ一番分リ易イノハ全ク分リ易イデスケレドモ――仰シヤルヤウニ社会党デハ此ノ憲法ヲ国民ノ教科書トシヨウト云フ御意向デアリマス、ソレモ分リマス、又ソレモ宜シイノデアリマスガ、併シ少シドウデセウカ、念ガ入リ過ギルヤウナ気ガシマス
○鈴木（義）委員　私共モサウ云フ感ジヲ持ツノデス、唯裁判ヲ受ケル権利トカ――ソレデハ少数ノヤウデスカラ譲歩致シマス
○芦田委員長　是デ大体御意見ノアル所ハ分リマシタカラ次ニ行キマセウ、三十五条ノ次ニ「冤罪者に對しては國これに補償する」コトヲ規定シヨウ、是ハ進歩党モ自由党モ無論異存ナイ点デアルノデスガ、唯之ヲ三十五条ノ規定ノ中ニ入レルカドウカト云フコトト……
○鈴木（義）委員　三十五条ノ次ニ一箇条ヲ設ケル
○芦田委員長　三十五条ノ次ニ入レルカドウカト云フコトデスネ、其ノ点ト、其ノ次ノ公務員ノ公法上ノ不法行為ノ問題、両方含メルヤウナ箇条ガ出来レバ一番都合ガ好イト思フノダガ、若シドウシテモ両方一緒ニ書込メナイト云フコトナラバ、三十五条ノ次ニ入レル条項ト三十六条ノ次ニ入レル条項ト一括シテ御相談致シマセウカ、冤罪者ニ対スル国家補償ハ現在法律デ行ツテ居ル程度ガ非常ニ軽過ギルト云フコトハ常識ダト思フノデス、併シ憲法ノ中ニハツキリ冤罪者ダケノ規定ヲ入レルカ、或ハ三十六条ノ次ニ入レルベキ公務員ノ不法行為ノ条項ダケデ宜イノカ、或ハソレニ冤罪者ノ問題ヲ含メテ規定スルカ、斯ウ云フ問題ガアル訳デスナ
○鈴木（義）委員　私共ノ考ヘハ、出来ルダケ立法ノ省略ト云フコトヲ致シタイノデスケレドモ、冤罪者賠償ノ方ハ公法上ノ不法行為ト言ハレ得ナイ、正当ナル行為ニ依ツテヤラレル裁判官ガ、正シイ裁判ヲシタ積リデ、又客観的ニ見テモソレハ正当行為、ソレニ対シテ賠償ヲ払フノデスカラ……
○芦田委員長　御趣意ハ能ク分ルノデス、ソコデ例ヘバ――是ハ私限リノ私案デスガ、後ノ方ノ条項ノ「何人も公務員の公法上の不法行爲」ト云フ所ヘ「行爲竝びに冤罪者」、一寸ソコヘ付ケテハ工合ガ悪イカモ知レナイガ、何カ冤罪ニ対シテ賠償ヲ求メルコトガ出来ル、斯ウ云フ風ニ……
○鈴木（義）委員　裁判ノ誤判ニ対シテトシタラドウデスカ、尤モ誤判ト云ツテモヲカシイ、誤判ニアラザル裁判ナシダカラ……
○佐藤（達）政府委員　今ノ二ツヲ一本ニスルト云フ其ノ点ハ一応努力シテモ宜イト思ヒマスケレドモ、唯一寸鈴木サンノ仰シヤイマシタヤウニ、片方ハ一応正当ナ行為トシテナサレタモノニ付テデスカラ、言葉モ補償ト云フ言葉ニナル、モウ一ツハ不法行為デスカラ賠償ト云フ言葉ヲ使ハナケレバナラヌ、サウ云フ点ノ文字ヲ使ヒ分ケナケレバナラヌト云フコトガ出テ来マスカラ、一ツノ書流シニスルコトガ出来ルカドウカ
○芦田委員長　ソレナラ之ヲ一箇条ニシタラドウデスカ、第二項カ何カニシテ、例ヘバ三十六条ノ次ニ入レテ、第二項トシ、冤罪者ニ対シテハ国之ヲ補償シナケレバナラナイトカ、或ハ冤罪者ハ国ニ対シテ補償ヲ求メルコトガ出来ルトカ……
○佐藤（達）政府委員　冤罪者ノ問題ハ、私ハ場所トシテハ三十六条ノ後カ、ソノ近辺ニ入レルコトハ問題ナイト思ヒマスガ、公務員ノ不法行為ノ箇条ヲ一体何処ニ入レテ宜イモノカ、是ハ一寸考ヘヤウカモ知レマセヌガ、寧ロ前ノ方ニ公務員ノ規定トカ請願ノ規定ガアリマスカラ、或ハ其ノ辺ニデモ入レタラ落着クノデハナイカ、サウ云フ所ハ迷ツテ居ルノデスガ、皆サン方ノ御意見ヲ伺ツテ見タイト思ヒマス
○芦田委員長　三十三条ノ後ヘ……
○犬養委員　三十三条ガ非常ニ良イト思フ
○鈴木（義）委員　三十三条ノ辺リハ刑事裁判ノコトバカリ考ヘテ居ル、其処ニ普通ノ民事的損害賠償ト云フノガ入ツテ来ルノハ一寸マヅイデスネ
○芦田委員長　マア入レル所ハ一ツ法制局方面ト尚ホ打合ハセテ……
○鈴木（義）委員　佐藤サンノ御意見ハズツト前ノ「公務員を選定し」云々ト云フ意味ヂヤナイノデスカ
○佐藤（達）政府委員　私ハ其ノ辺デハナイカト思ヒマシタガ、余リ高上リスルヤウナ気持ガシマスカラネ、サウ云フ所ハ一寸迷ツテ居ルノデス
○鈴木（義）委員　私ハ一番後ニ入レテ一通リ終ツタ後ニ、念ノ為ニ加ヘテ置ク程度ノ規定デ――是ガナイ為ニ私共ハ今マデ非常ナ不都合ヲ沢山経験サセラレタ
○芦田委員長　第十五条ニ「損害の救濟」ト云フヤウナ文字ガアルノデスガ、ソレカラ見ルト損害賠償ノコトヲ十五条付近ニ入レテモ、高上リト云フコトバカリデモナイヤウニ思ハレルノデスガ……
○鈴木（義）委員　十五条ノ第二項ニシマスカ
○吉田（安）委員　ソレガ宜イヂヤナイデスカ
○芦田委員長　二項、三項ニ書入レマスカ
○原（夫）委員　是ハ十五条ノ請願ト一緒ノ問題デハナイノデ、是ハ極メテ重要ナ問題ダカラ、十四条ト十五条ノ間ニ入レルノガ一番適当ダト思フノデスガ……
○鈴木（義）委員　寧ロ十五条ノ次、十六条ノ前ニ入レタラドウカ、其処ガ丁度適当ナ場所デスネ
○芦田委員長　法制局デ考ヘテ貰ヒマセウカ、第十五条前後ニ入レルト云フコトニシテ置イテ――文字モドウデスカ鈴木サン、二ツノ規定ヲ一箇条ニスルカ、或ハドウシテモ二箇条ニシナケレバナラナイカ、サウ云ツタモノヲモ御任セシテ意見ダケヲ聴クト、斯ウ云フコトニシタラドウデス
○鈴木（義）委員　結構デス、唯々ココニ御注意マデニ申上ゲマスガ、自由党ト他ノ党ノ御出シニナツタ原案ニハ、「公法上の」ト云フ言葉ガナイノデスガ、「公法上の」ト云フ言葉ガナケレバ、今ノ民法デモ当然取レルノデス、何モ規定スル必要ハナイ、「公法上の」ノ所ガ大切ナ所デスカラ、ドウカソレヲ御忘レナイヤウニ……
○佐藤（達）政府委員　今ノ点、実ハ伺ヒタクテ堪ラナイノデスガ、後デ鈴木サンカラユツクリ御教ヘヲ願フコトニ致シタイト思ヒマス
○芦田委員長　サウスルト三十五条デスガ、文字ノ問題ハ大シタコトハナイノデスガ、三十五条ノ二項ノ「強制、拷問若しくは脅迫の下で」ヲ「強制、拷問若しくは脅迫による」トシタラドウデスカ、「脅迫による自白」ト云フ訳デス――ソレデハ第三章ハザツト一応ノ検討ハ終リマシタノデ、次ニ第四章国会の章ニ入リマシテ……
○笠井委員　其ノ前ニ洵ニ恐縮デスガ、第三十三条ノ「拷問及び殘虐な刑罰」ト云フノハ如何デゴザイマセウ、「殘虐な刑罰は」ト云フノハ……
○芦田委員長　「殘虐な刑罰」ヲ削除スルト云フ修正案デスネ、外ノ御意見ハドウデスカ
○大島（多）委員　ドウ云フ御趣旨デスカ、「殘虐な刑罰」ヲ取ツテシマツタラト云フノデスカ
○笠井委員　私ハ憲法ニ「殘虐な」ト云フヤウナコトヲ認メルコトハドウカト思ヒマシテ……
○大島（多）委員　認メルノデナクテ、禁ズルノデセウ
○笠井委員　禁ズルノデスケレドモ、サウ云フ言葉ヲ使フノハドウデセウ、皆サン如何デセウ
○吉田（安）委員　笠井サンニ御尋ネシマスガ、結局是ハ残虐ト云フ言葉ガ強過ギルト云フ意味デスカ
○笠井委員　サウデゴザイマス
○鈴木（義）委員　「アメリカ」デハ今度ノ戦争デ虐待事件ガアツタカラ、日本ニハ残虐ナ刑罰ガアルト思ツテ居ルノデセウ
○吉田（安）委員　何カ外ニ変ツタ文句ガアリマスカ
○笠井委員　別ニゴザイマセヌケレドモ、如何ニモ東洋人ハ残虐ダト云フ風ナコトヲ彼等ハ思ツテ居ル、間違ツタ考ヘヲシテ居リマスカラ、ソンナ積リデココニ入レタンデハナイデセウカ
○芦田委員長　最近ノ歴史ヲ見ルト、随分拷問ナドヲヒドクヤツテ居マスカラ、ソレデ……
○犬養委員　ドウデセウ笠井サン、之ヲ削ツタ効果ハ……
○吉田（安）委員　何カ代ル文句ヲ作ラネバイカヌ
○笠井委員　佐藤サンノ方デ何カ代ルモノヲ練ツテ戴ク訳ニ行カヌモノデセウカ――ソレデハ皆サン御賛成ナケレバ私撤回シマス
○芦田委員長　サウスルト国会ノ章ニ於テハ、修正案ハ社会党ノハ私気ガ付イテ持ツテ来テ居マスガ、三十八条ノ修正カラ先ニ行キマセウカ――参議院ニ於ケル職能代表ノ構成ヲ認メザル時ハ参議院ハ寧ロ不必要ト思フ――是デ一寸私ハ伺ツテ置キタイノデスガ、職能代表ト云フコトハ非常ニ興味ノアル制度デアリ、或ル国ニ於テハ一部分行ツテ居ツタト聞イテ居リマスケレドモ、実際非常ニ多数ノ職能ガアル関係上、其ノ代表者ヲ選ブト云フ実際ノ方法ニ於テ非常ニ困難ガアリハシナイカ、例ヘバ漁民ノ代表ヲ出ストカ、或ハ新聞売子ノ代表ヲ出ストカ、散髪屋ノ代表ヲ出ストカ云ツタヤウナコトガ、実際ヤル場合ニドウ云フ方法デヤレルカ、斯ウ云フ点デスネ、是ガドウモ一寸我々考ヘテ見テ、宜イ解決案ガナイ、ドウ云フ風ニオヤリニナラウト云フノデスカ
○鈴木（義）委員　ソレハ職能ハ総テ網羅スレバ切リガナイコトハ仰セノ通リデアリマス、結局無数ニアル職能ノ中、参議院法デ選択シテ、若干ノ職能ヲ選ビ出スヨリ外ナカラウ、我ガ党デ考ヘテ居リマスル其ノ代表的職能団体ト云フモノハ、例ヘバ大学ノ教授団――文科ト理科系ニ分ケル、教職員組合デアルトカ、商工会議所デアルトカ、労働組合、農民組合、漁民組合、農業会、農業協同組合、水産会、「ジャーナリスト」ノ連合会、文芸家、芸術家、医師、弁護士、技術家、宗教家ノ団体ト云ツタヤウナモノ、マダ挙ゲ得ルト思ヒマスガ、兎ニ角按摩サンノ組合カラモ出ストカ、新聞売子ノ組合カラモ出スト云フヤウナコトハヤリ切レヌカラ、ソレハ労働組合ニ統括サレル、斯ウ云フ趣旨ナノデス、是ガ被選挙権ヲ持ツノダ、斯ウ云フモノニ所属シテ経験ノアル者ガ選バレル、選挙スル者ハ一般ノ選挙民デアル、一般ノ有権者ガ選ブ
○芦田委員長　此ノ中カラ候補者ヲ出シテ来テ、ソレデ一般ノ有権者ニ投票サセルト云フ訳デスネ
○鈴木（義）委員　サウデス、全国式ナヤリ方ト府県式ナヤリ方ト考ヘテ居リマス
○芦田委員長　サウスルト大学の教授団ナンテモノハ必ズ負ケハシマセヌカ、数ガ非常ニ少イカラ……
○鈴木（義）委員　ソレハ全国的ニ選ブト云フコトニナレバ、ソレハ間違ヒナイ、大学教授カラ三十人ナラ三十人ハ必ズ出ラレル、十票取ツテモ出ラレル、例ヘバ職能団体カラ三十人ナラ三十人出スト云フ風ニ定員ト云フモノヲ決メル、デスカラ全国的ニ投票サセテ、多イ所ハ何十万モ入リ、少イ所ハ二百カ三百シカ入ラヌデモ、三十人マデハ当選スル
○犬養委員　佐藤サンニ伺フノデスガ、是ハ関係方面ハ職能代表ト云フ観念ヲドンナ風ニ見テ居ラレマスカ
○佐藤（達）政府委員　私共ノ今日マデノ接触ニ於キマシテハ、ソレハ困ルト云フコトナノデス
○鈴木（義）委員　ソレハ私共モ関係方面ト折衝シタ時ニ、之ヲ話題ニ上セテ、余リ賛成出来ナイ、ト云フノハ、少数代表ニナル、真ノ全国民代表ト云フコトデアルナラバ、サウ云フ風ニシテヤレルナラバ賛成スル……
○犬養委員　投票者ガ全国民ナラバ宜イノデスカ
○鈴木（義）委員　エエ、併シ結果ニ於テ二百カソコラデ当選スルノガアツタノデハ好マシクナイト言フノデス
○芦田委員長　中小ノ商人ナドハヤハリ其ノ中ニ入ルノデスカ
○鈴木（義）委員　ソレハヤハリ入レタイト思ヒマス、商工会議所ヲズツト又区分シマシテ、サウシテ商業ト工業トニ分ケテ、又多少ソコニ団体ノ区別ノヤウナモノヲ認メナケレバナラヌノヂヤナイカト云フ考ヘヲ持ツテ居リマス、併シ中小商工業ダケヲ代表サセル必要ハナイト思ヒマス、衆議院ノ方ニ代表サレルカラ……
○芦田委員長　併シドウモ斯ウヤツテ見テモ、現在ノ衆議院ト余リ違ハナイノヂヤナイカ
○鈴木（義）委員　ソコデ一院制ガ有力ナノデスガ、是デモ政府案ヨリカ幾ラカ職能的ナ色彩ガ出テ宜カラウト云フ私共ノ意見ナノデス、政府案ナラドレヲ採ツテモ衆議院ヲ二ツ拵ヘルノト同ジコトニナル
○森戸委員　職能代表デヤルト、是ガ推薦母体ニナツテ、ソコカラ選バレル人ニナリマスカラ、其ノ点デハソレゾレノ団体ニ於テハ相当権威ノアル専門的知識ヲ持ツタ者ガ出ルデアラウ、衆議院ノ方ハ寧ロサウデハナクシテ、一般的ナ政治的常識ニ依ツテ選バレル、斯ウ云フノデ、候補者ノ性質ガ余程違ツテ来ルノヂヤナイカト考ヘラレマス、サウスルト国務ガ段々ト複雑ニナツテ、殊ニ国家ノ管理スル事業或ハ直営スル事業ガ殖エテ来ルト、普通ノ意味ノ常識的政治家ト云フヤウナ者デハ見透シガ付カナイヤウニナル場合ガアルノヂヤナイカ、サウ云フ場合ニハ是非サウ云フ専門的ナ、諮問的ナ参議院ト云フモノガ、一般政治的ナ衆議院ヲ補フト云フヤウナ地位ニ置カレルコトガ必要デハナイカ、デアリマスカラ参議院ハ抑制機関デハナイ、専門的ノ補足機関、或ハ諮問的補足機関、斯ウ云フヤウナコトニナルノデス
○芦田委員長　イヤ、其ノ趣意ハ私能ク了解出来マス、唯選ブ時ニドウシテ選ブカ、ドウシテ当落ヲ決メルカト云フ点ニ非常ニ困難ガアリハシナイカト云フコトナンデス、其ノ職能的ノ人ヲ連レテ来ルコトノ必要デアルコトモ今ノ御説明デ能ク分ルノデス、分ルンダガ、斯ウ云フ人カラ代表者ヲ選ンデ置イテ、サウシテドウシテ当落ヲ決メルカト云フコトデス
○鈴木（義）委員　全国民ニ投票サセテ高点カラ十人ナラ十人、三十人ナラ三十人ヲ当選者トスル
○芦田委員長　サウナレバ弁護士トカ大学ノ教授トカ云フモノハ、私ハトテモ当選ノ見込ガナイノヂヤナイカト思ヒマス
○鈴木（義）委員　ドウモ委員長ハ誤解ガアリマス、大学教授カラ三十人ハ必ズ当選スルノデスヨ、定足数ミタイナモノデ、ドンナニ投票数ヲ少ク取ツテモ当選スルヤウニ選挙法ヲ決メル、最低数ヲ決メナイ、定員ヲ決メル
○芦田委員長　サウ云フ案ダト一寸ドウモ行詰ルデセウ
○犬養委員　此ノ案ハ非常ニ宜インダガ、実際関係方面デ行詰ル、ソレガ行詰ラナケレバ私ハ賛成デス
○鈴木（義）委員　ソレハ私共ハ略々諒解ヲ得テ来タガ、愈々斯ウ云フ案ニシヨウト云フ時ニハ今一度行カナケレバナラヌ
○犬養委員　私モ実ハ衆議院ノ行過ギヲ「チェック」スルト云フ考ヘ方――参議院ニ付テハ余リ賛成デナイノデス、衆議院ノ自己否定ニナリマスシ、同ジ地域代表デ出タ者ガ鳥滸ガマシイヤウデアルガ、我々以上ノ途轍モナイ智慧ト識見ヲ持チ得ルト云フヤウナソンナ化物ミタヤウナ人ハ居ナイト思ヒマス、考ヘ方ノ角度ヲ変ヘテ、第二義的ナ忠告ヲスル所ト云フ意味ナラ意義ガアリマス、サウ云フ所ハドウカト云フト、専門的知識ノ人ガ之ヲ突詰メテ行クト、衆議院ニ諮問機関トシテ学者ノ「グループ」ヲ置イテモ宜イノデハナイカト云フ議論モ成立ツノデスガ、ソレハ論理ノ飛躍デアツテ、鈴木委員ノ言ハレタヤウナコトガ実際ニ通ルナラバ、其ノ考ヘ方ヲ考究スルノガ私ハ適当ダト思ツテ居リマス
○芦田委員長　一院制、両院制ノ議論ハ欧米デモ永年闘ハサレテ居ル議論デアツテ、皆サン御承知ノコトダカラ此処デ論議スル必要ハナイノデ、各人ガ唯ドツチヲ選ブカト云フコトニ帰スルノデス
○鈴木（義）委員　結論ダケニ願ヒマス
○芦田委員長　ダカラ結論ダケ下セバ宜イト思フンダガ、結局職能代表ノ選拳ノヤリ方ハ、此ノ憲法ヲ作ツタ時ノ空気デハ一寸難カシイノデ、寧ロ一院制度ノ方ニ采配ガ上ツテ居ツタノヲ、漸ク二院制度ニ直シテココニ出シテ来タンダガ、ソレヲ職能代表ト云フ今ノヤウナ案デ行ツタナラバ、結局参議院ト云フモノノ成立ハ困難ニナルノデハナイカ、是ハ私限リノ感ジデスガ、サウ思フノデス
○犬養委員　委員長ハ余程之ヲ御苦心ノヤウデスガ、仮ニ二院制ニシタラ個人ノ何カ……
○芦田委員長　別ノ団体ノモノヲ考ヘルト云フコトハ、又色々ナ過チヲ発見スルノデアツテ、現ニ選挙法ヲ作ツタ時ニモ、貴族院ト云フモノガアツタカラアレデ出来タノデス、アレガナカツタラ補欠選挙ナンカハ出来ヤシマセヌ、是ハ去年ノ暮ノ話ダケレドモ、アレダケデモ貴族院ノ存在ノ意義ガアツタト思フ、二院制ハ何処ノ国デモ持ツテ居ルト思フノデ、一院制デヤツテ居ル国ノ数ハ、立憲政治ヲヤツテ居ル国デハ非常ニ少イ、今マデノ経験デ二院ノ方ガ宜イト云フコトデアレバ――「フランス」ノヤウニ一院デヤツテ見テ、国民ニ聴イテ見タラ、二院制度ガ宜イト云フノデ最近二院制度ニ変ヘタ、「フランス」ト日本トハ考ヘ方ガ違フカモ知レナイガ、立憲政治ノ多数ノ国ハ二院制度デヤツテ大シテ不都合ハナイ
○犬養委員　委員長ノ参議院ノ御考ヘ方ハドウ云フノデスカ
○芦田委員長　私ハヤツパリ参議院ト云フモノハ、被選挙人ノ年齢モ、選挙人ノ年齢モ変ヘテ宜イシ、ソレカラ今ノ職能代表ノヤウナ意味ニ於テ教授「グループ」ナリ、或ハ産業方面ノ特殊ノ専門家ナリト云フ者ガ容易ニ出ラレ得ルヤウナ途ヲ開イテ置ケバ、或ル程度職能代表的ナ人ガ出ラレルト云フ風ニ考ヘテ居ルノデスガ……
○犬養委員　サウスルト結論ハ選拳法ノ技術デスネ
○芦田委員長　サウデス
○犬養委員　佐藤サン、今委員長ノ言ハレタヤウナ選挙ノ技術ニ付テ何カ御考ヘハアリマセヌカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ先日来新聞ニモ出テ居リマシタヤウニ、臨時法制調査会ノ方デ相当研究シテ居リマス、ヤハリ一ツノ案トシテハ全国的ノ視野カラ選ベルヤウニシテ見タラドウカト云フヤウナ方向デ今研究サレテ居リマス
○鈴木（義）委員　アノ案ニ依ルト、衆議院ガ百五十人程推薦スル、変ナモノデスヨ
○犬養委員　今ノ案デ二点法制局ノ御意見ヲ承リタイ、一点ハ全国的ニ選ブトナルト、先刻鈴木サンノ心配シテ居ツタヤウナ、或ハ委員長ノ心配シテ居ツタヤウナ、産業組合関係ノ者ガ無制限ニ当選スル、サウ云フ心配ガアル、モウ一ツハ新聞ニ出テ居リマシタヤウニ衆議院、参議院ガ推薦制度ヲ執ルト云フコトハ、関係方面デ法ノ置キ方トシテ通リマスカ
○佐藤（達）政府委員　其ノ点ハ今ハツキリ申上ゲルダケノ確信ヲ得テ居リマセヌケレドモ、何カ成ベク衆議院ノ顔触ト違ヘタイト云フコトト、ソレカラ今ノ鈴木サンノ御話ノヤウニ、多少地域ノ「ブロック」ト云フコトデナシニ、同ジ職業ニ従ツテ居ル人ガ、仮令北海道ト九州ニ離レテ居ツテモ出ルヤウニト云フ気持カラ、今ノヤウナ考ヘ方ヲ進メテ来テ居ツタノデスガ、技術ノ問題トシテ国会デ選バシタリ、或ハ他ニ候補者ヲ推薦スルヤウナ方法ガ、今ノ此ノ草案ノ三十九条ニ即シツツ適当ナ候補者ノ推薦制度ト云フモノガアリ得ルノデハナイカト云フ気持ハ持ツテ居ルノデス
○犬養委員　森戸委員、何カ複選挙ノ制度ノヤウナコトヲ私案トシテ言ツテ居ラレタデハナイデスカ
○森戸委員　私ノ言フ複選拳ト云フノハ、大体鈴木君ノ言ハレタヤウニ各職能ノ団体ガ選拳母体ニナツテ、ソコデ候補者ヲ選ビ、其ノ候補者ヲ今度全国的ニ今鈴木君ノ言ハレタヤウナ割当デヤル
○吉田（安）委員　サウスルト三十九条ト少シ衝突シヤシマセヌカ、複選挙ト云フコトニナルト……
○森戸委員　最後ニハ候補者ヲ選挙サセル訳デス、全国民ニ直接選拳サセル
○吉田（安）委員　ソレナラ宜イデスネ
○森戸委員　各職能団体デ候補者ヲ出ス、其ノ候補者ニ決マツタ者ヲ多ク出ス、例ヘバ十人ノ定員ノ所ヘ二十人ナラ二十人出シテ、其ノ中カラ選ビ出ス
○吉田（安）委員　サウスルト最後ニ選挙スル時ニハ全国的ニヤルノデスカ
○森戸委員　最後ニハサウデス
○廿日出委員　我々ガ選挙ヲヤツテ見テ痛切ニ感ズルコトデアリマスガ、ドノヤウナ制度、組織デ参議院ノ議員ヲ選ブニシテモ、従来ノヤウナ形式ノ選拳、簡単ニ言ヘバ兎ニ角選拳デアリマスガ、選挙ト云フモノガ之ニ潜ンデ居ル以上、結局参議院ヘ出テ来ル議員ハ、ソレニ当選シ得ルヤウナ議員ハ、衆議院議員ト同ジヤウニ、所謂出テ貰ヒタイ程ノ貴重ナ人格ト識見ヲ持ツテ居ルヤウナ方ハ、ナニ俺ヲ出スノハ当然ヂヤナイカ、僕ハ運動モ何モシナイト云フノデ、ソレデ当選出来ルヤウナモノナラバ――是ハ理窟デアリマスガ、ヤハリ動カナケレバ当選出来ナイト思ヒマス、サウスレバ能ク言ハレル二流ノ人物ト云フヤウナ非難ヲ受ケテ居ル者ヲ必ズ出シテ来ルダラウト思ヒマス、衆議院議員ハ選拳民ノ色々ナ観点カラ、此ノ人物ハ議員ニシテ宜シイト云ツテ、人物ダケノ点カラ言ツタナラバ少シ下ル人モアラウシ、学問ノ点カラ言ツタラ有能ノ人モアルダラウケレドモ、兎ニ角色々ナコトヲ総合シテ選ビ出シテ居ルカラ、常識ノ非常ニ発達シテ居ル者ガ来テ居ルノデ、其ノ者ニ推薦サセルト云フコトハ、間接デアリマスケレドモ、兎ニ角一番私ハ合理的ナコトヂヤナイカト思フ、サウスレバ誰ガ見テモ四百何十人ノ人間ニ、ソレニ色々ナ者ガ加ハツテ居ルカラ、衆智ヲ集メテ公平ニ推薦出来ルト思ヒマス、ト云ツテ選挙デ必ズ当選スルトナレバ大変ナコトニナル、野心ノナイ人ガ一番人格者デアリ、学者デアル、当然出テ貰ヒタイノニ、当選ト云フコトヲ考ヘルト其ノ人ハ運動ヲシナケレバナラヌ、金モ掛ルシ、アツチコツチ全国的ニ飛行機デ飛ビ廻ツテ顔ヲ見セテ歩クコトモシナケレバナラヌ、新聞デ此ノ人間ハ斯ウダト言フニシテモ、新聞記者ト云フ立場カラ考ヘマシテ、相当宣伝ヲ上手ニヤル人デナイト、新聞記者ハウマク書キマセヌ、結局結論カラ言ツテヤハリ出テ貰ヒタイヤウナ立派ナ人ハ選挙サレナイト思ヒマス、私ハ選拳ト云フコトヲ初メテ経験シテ、サウ思ツタノデス、ソレデ選拳ニ必ズ当選スルト云フコトヲ考ヘルナラバ、参議院ヲドンナ方法ヲ以テヤツテモ、ドンナ組織ヲ以テヤツテモ、私ハ理想的ナ人物ハ得ラレナイダラウト思ヒマス、ヤハリ先ヅ選バレタ衆議院ノ色々ナ素質ヲ御信頼下サツテ、其ノ人カラノ公平ナ推薦ト云フコトガ宜イダラウト思ヒマス
○犬養委員　甘日出サンノハ何カ母体ガアツテ、ソレデ我々ガ選ブト云フコトデスネ
○鈴木（義）委員　其ノ点ハ我々モ考ヘタノデス、法制調査会デモソレヲ考ヘテ居ラレルガ、是ハ権能ヲ変ヘナケレバナラヌ、ソレハ選挙ヂヤナイ、衆議院議員ガ推薦スルノデハ、仮令選挙ノ形ヲ取ツテモ、ソレハ法制調査会ノ方ハ全国民ニ依ツテ衆議院議員ヲ選ブノダカラ、全国民代表ノ総意デアルト云フ「ロヂック」ナンダガ、ソレハ間違ツテ居マスヨ
○廿日出委員　ソレハ分ル
○鈴木（義）委員　ソレハ私ハアル意味ニ於テハ賛成ダガ、変ヘルナラバ変ヘルコトヲ提案シタイ、斯ウナツテ居ル以上ハソレハ出来ヌ
○芦田委員長　私ノ誤解カモ知レナイガ、法制調査会ノ案ハ、地方ノ区域カラ出ル参議院ノ議員ハ一定数出ルノデセウ
○鈴木（義）委員　百五十人……
○芦田委員長　其ノ残リヲ何カノ推薦母体ニ推薦サセテ……
○鈴木（義）委員　衆議院ト参議院デ選挙スル
○犬養委員　何カノ母体デ選挙スルト云フコトデ、衆議院或ハ参議院ガソレヲ選ブト云フコトハ通ルノデスカ
○佐藤（達）政府委員　私ノ承知シテ居リマス所デハ、鈴木サンナドモ御出席デアツタガ、調査会ノ初メノ考ヘ方ハ、衆議院ト参議院デ最終的ニヤツテシマフ、定員ノ半分ダケハ選ンデシマフト云フ案ガ一ツアリマシタ、是ハ鈴木サンアタリノ御心配ノヤウニ、三十九条デ是ハスレスレダト云フ御答弁ヲ私ハ申上ゲタノデスガ、全クスレスレデシテ、際ドイ所デアルト思ヒマス
○鈴木（義）委員　私ハアレニ参加シテ居ナイノデ、水谷君ガ参加シテ居ツタノダガ……
○犬養委員　スレスレノ所ニ行クノデスカ
○佐藤（達）政府委員　ト云フコトニナリマスガ、是ハドウモ自信ノナイスレスレデアリマシテ、私個人的ノコトヲ言ヒマスト、今御話ニ出タト思ヒマスガ、候補者ダケヲ議会デ選ンデ、其ノ後デ、其ノ数ハ二倍カ三倍カ知リマセヌガ、其ノ選ンダ候補者ニ付テ一般ノ投票ニ付スルト云フコトニスレバ、多少ハ宜イノヂヤナイカト云フ考ヘガ動キツツアルノデゴザイマスガ……
○吉田（安）委員　ソレガスレスレナンダネ
○佐藤（達）政府委員　是モスレスレダト思ヒマス
○鈴木（義）委員　今一ツ大事ナコトヲ発言シテ置キタイト思ヒマスガ、理論的ニ一院制度ガ一番徹底シテ居ル、殊ニ主権在民ト云フコトニナルトサウデスガ、併シ已ムヲ得ズ今ノ技術的ニ二院ニスルトスレバ、参議院ト云フモノヲ衆議院ト対等ニシテ置クコトハ間違ツテ居ル、飽クマデ第二次的国家機関デアルト云フ構成ヲ取ラナケレバナラヌゾト云フコトハ、私ノ尊敬スル佐々木惣一博士ガ私ニ言ハレタコトナンデス、自分ハ一院制ガ宜イト思フノダガ、已ムヲ得ズ二院ヲ置クトスレバ、第二院ト云フモノハ飽クマデ副次的存在ニセヌト、国民代表ト云フ、国会中心ト云フ将来ノ政治ニ累ヲ及ボスト言ハレタノデス
○芦田委員長　大体政府ノ委員会ニ於ケル説明モサウ云フコトデシタネ、国会ノ中デモ衆議院ガ優位ニアルト云フコトハ、事実憲法ノ規定デモサウナツテ居リマスガ……
○鈴木（義）委員　ソコデ構成ニ付テモ其ノコトヲ考慮シテ戴キタイ
○林（平）委員　此ノ選挙技術ハ中々難カシイノデアツテ、此ノ小委員会デ中々結論マデ到達スルノハ、短時間デハ出来ナイノデハナイカト思フノデス、我々協同民主党ノ意見ト致シマシテ申上ゲテ置キタイノハ、参議院法ガ出タ時ニ十分審議スル機会ガアルノデアリマスカラ、心配スル点ニツイテ希望条項ヲ付シテ原案に賛成シヨウ、斯ウ云フコトニナツテ居ルノデアリマスガ、ヤハリココデ選学ノ技術ノ見透シガ付クマデハ此ノ審議ガ進行出来ナイモノデセウカ
○芦田委員長　イイエ、私ノ信ジテ居ル所デハ、サウ云フ技術ノ問題ハ、両院制ヲ採ルカ一院制ヲ採ルカト云フコトニ付随シタ必要ナ材料デハアリマスケレドモ、委員会ノ建前カラ言ヘバ、現在ノヤウナ両院制度デ行クカ、或ハ又社会党ノ提案シテ居ラレルヤウナ職能代表ト云フコトガ駄目ナラバ、参議院ハ廃メテ一院制デ行クト云フコトデアリマスカラ、結局委員会ノ最初ノ目的ハ、此ノ修正案ノヤウニ職能代表ヲ認メテ両院制ヲ維持スルカ、或ハ又職能代表ガ駄目デアルナラバ一院制ニシヨウト云フ修正案ヲ多数ガ賛成スルカ、反対スルカ、斯ウ云フ程度デ宜イト思フノデスガネ
○鈴木（義）委員　新政会モ同ジ御意見ヲ持ツテ居ルノデス、職能代表制ナラバ認メルガ、然ラズンバ一院制ニ……
○芦田委員長　イヤ、新政会ハ変ツタノデス
○大島（多）委員　ソレハ初メハ「プリント」ノヤウニ致シマシタケレドモ、其ノ後意見ガ変リマシテ、此ノ職能代表的意義ヲ有スルト云フコトヲ代議院制ノ枢軸トスルト云フコトデ、サウナラナカツタトシテモ、一院制ヲ否定スルト云フ訳デハナカツタノデスガ、サウ云フヤウニ変リマシタ
○芦田委員長　大体新政会ノ修正ハ両院制デ行キタイト云フ風ニナツテ居ルヤウデス、是デ大体議論ハ尽キタト思ヒマスカラ、ドウデスカ、一応ズツト先ヘ行キマセウカ
　　　　〔「賛成」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　サウスルト四十九条――進歩党ノ修正案デ議院ノ総議員ノ四分ノ一ト云フノヲ三分ノ一ニ直スノデシタネ
○鈴木（義）委員　四十八条ニ対シテ社会党ハ修正意見ヲ出シテ居リマス
○芦田委員長　成程、ボンヤリシテ居リマシタ、毎年一月二十日ニ召集スル……
○鈴木（義）委員　此ノ意味ヲ申上ゲマセウカ
○芦田委員長　是ハ第七条トノ関連其ノ他ガアツテ、「アメリカ」式ニヤラウト云フ訳デスネ
○鈴木（義）委員　サウデス、ソレカラ会期ヲ長クシタイ、詰リ当分議事ガナイト見透シガ付ケバ自発的ニ休会スル、ズツトヤツテモ結局ハ年末マデ行ツテシマヘバ無休ノ議会デアル、或ハ三月デ一区切ニナツテ四月、五月ハ休ムト云フヤウニヤル、斯ウ云フ趣旨カラ来テ居ル、「アメリカ」ノ憲法モ「フランス」ノ憲法モ召集ノ日ハ書イテアリマス、但シ日デ書イテナクテ第三火曜日ニ召集スルト云フヤウニ……
○芦田委員長　一月二十日ト云フノハドウ云フ訳デスカ
○鈴木（義）委員　大シタ意味ハナイガ、大体今マデ議会ハ十二月ニ召集シテモ、実際ハ一月二十一日カラ開カレテ居ルノデ、実際ニ開カレテ居ルコトヲ基準ニシテ、先ヅ一月二十日位カラ始メ、終ル時マデ続ケタラ宜カラウト云フヤウナ……
○芦田委員長　主トシテ予算ノ関係デスネ、一月ノ二十日ニ召集シテソレデ宜イカ、或ハモウ少シ早ク召集スベキカ、従来ノ慣習ニ依レバ一月ノ二十日頃ニ議事ハ開イテ居ツタケレドモ、普通予算ハ前ノ年ノ召集ノ頃ニ出ルノガ慣例デアツタノデス、サウスルト予算ヲ勉強スル期間ハ少クモ完全ニ三箇月アツタ訳デス、一月二十日トシテ政府ガ劈頭予算ヲ出シテモ、会計年度ヲ変ヘナイ限リハ予算ヲ実質的ノ審議スル期間ガ非常ニ短カクナル訳デス
○鈴木（義）委員　其ノ点ハ気付キマセヌデシタガ、十二月ニ出シタノデスカ
○芦田委員長　昔ハサウナノデス
○鈴木（義）委員　ソレナラ十二月ニスレバ宜イ
○原（夫）委員　是ハ私社会党案結構ダト思フノデスガ、是等ノコトハ此処デ憲法ニ決メルト云フト、モウ非常ニ召集ガ確定的ナ日ニチマデ決メルト云フコトニナルノデスガ、ドウセ毎年一回召集スルト云フコトニナレバ、国会法トカ議院法ト云フヤウナモノデ開会、休会ヲ宣言シテ決メル法規ガ出来ルノダカラ、ソレニ任シテ置イテ、此ノ原案通リノ融通ノ利クヤウニ、此ノ侭デドウデセウカ
○鈴木（義）委員　ソレデモ宜イト思ヒマス、サウ云フ重大ナコトハ成タケ憲法ニシテ規定シテ置キタイ、他ノ国デモ規定シテ居ルノダカラ――総テ国会法デ決メルトカ議院法デ決メルト云フヤウニナツテ居ルノデスカラ……
○芦田委員長　修正案ノ一ツノ特色ハ斯フ云フコトニアルト思フ、議会ヲ召集スルトシテ、政府ガ召集ノ詔書ヲ出ス時ニハ期日ヲ切ツテ召集シナケレバナラヌ訳デス、会期ガ此処ニ書イテナイノダカラ――会期ガ書イテアレバソレデ宜イガ、会期ガ此処ニナイ限リハ、其ノ会期ハ何日トスト書カザルヲ得ナイノヂヤナイカト思フノデス、ソレハ書イテモ宜イノダガ、其ノ辺ノ所ハハツキリシナイカラ、一月二十日ト決メテ置ケバ別ニ会期ヲ何日ト出ス必要ハナイノデス
○鈴木（義）委員　第何回議会ヲ召集スト云フコトニナル、ソレガ閉会シタノガ通常会、其ノ後召集スルコトガアレバソレハ臨時会、臨時会ノ方ハ恐ラク会期ヲ決メテ召集スルト思フ
○原（夫）委員　一方デハ召集ニナレバ会期ヲ決メナイデ年中ヤルノダ、サウ云フ案モアル訳デス、其ノ間ニ暑イ時トカ寒イ時休会ヲヤルト云フヤウナコトハ議会ニ任スノダト云フ風ニ、色々此ノ点ニ付テマダ論議ガ熟シナイヤウデスガ、会計年度ガ今ノ年度デアルト色々ナ支障ヲ生ズル点モ起ラウト思フノデスガ、決メテシマフトソレノ通リ確定スル訳デスカラ、其ノ点ヲ憂慮スルノデス、強ヒテ私ハドウナラナケレバナラヌト云フ所マデ強クハ考ヘテ居リマセヌガ、唯御参考マデニ申上ゲテ置キマス
○犬養委員　法制局ノ方ハドウ云フ御考ヘデスカ、一年ノ中何箇月ト云フ考ヘ方デスカ
○佐藤（達）政府委員　会期ノ決メ方ノ問題デスガ、一ツノ考ヘ方トシテハ、現在サウ云フコトガ審議ノ対象ニナツテ居ルカドウカ実ハ私コツチニバカリ出テ居リマシテ能ク存ジマセヌガ、一ツノ考ヘ方ハ、国会法或ハ議院法ト云フヤウナ法律ノ中ニ通常会ノ会期何箇月以上ト云フコトヲ決メテ置キマシテ、終期ハ国会ノ方デ判断シテ行クト云フヤウナ考ヘ方ガアリ得ルノデハナイカト云フヤウナコトヲ今思ヒ付キデ考ヘテ居リマス、外ニ色々名案ガアルカモ知レマセヌガ……
○犬養委員　今ノヤウニ最初何箇月ニスルカ、或ハ斯ウ云フ風ニ召集ノ日ヲ決メテ、後一年デヤルカ、色々折衝ヲシテ衆議院、参議院ノ会期ハ何箇月、ソレマデト云フヤウナ考ヘ方ハ消滅シテ、何時デモ休ンデ又開ケル、斯ウ云フ考ヘ方ニ落着クヤウニ私ハ見透シテ居ルノデスガ……
○鈴木（義）委員　横口ヲ出スヤウデスガ、私ハ其ノ方ノ委員デ、佐藤サンヨリ其ノ方面ハ能ク知ツテ居リマス、大体六箇月ト云フコトガ標準ニナツテ居ル、一応通常会ハ六箇月トシテ、ソコデ閉会スル、サウシテアトハ臨時会ニシテ、議会休会中ノ活動ノ為ニ常置委員ト云フヤウナモノヲ私共ハ考ヘテ見タノデスガ、ソレニ対スル答ヘハ、日本ノ国ハ狭クナツテシマツテ居ル、召集状ヲ発スルト三日位ノ間ニ集マツテ来レル、ソレダカラ何時デモ臨時会ヲ開ケル、常置委員ハ要ルマイト云フヤウナ議論ガ強イ
○犬養委員　私モ常置委員説ガ結局消滅スルト思フ、サウシテ議会ソノモノハ何時デモ開ク、斯ウ云フ方ヘ持ツテ行クコトガ一番妥当ダト思ツテ居リマス、ソレデスカラ召集日ヲ此処ニ書クカ、国会法ニ書クカハ定説ヲ持ツテ居リマセヌ、皆様ノ御教ヘヲ得タイト思ヒマス
○吉田（安）委員　六箇月モ要ラヌヂヤナイデスカ
○芦田委員長　此ノ日ヲハツキリ書クカドウカハ暫ク別トシテ仮ニ日ヲ書クトスレバ、私ハ十月頃ニ召集シテ、サウシテ成ベク夏暑イ最中議会ヲ開カナクテモ宜イヤウニ議事ヲ終ルコトノ方ガ能率ガ良イノヂヤナイデスカ、一月ニ開イテ九月ノ半頃マデヤルヨリモ、十月ニ開イテ五月一パイデ終ツタ方ガ宜イ、七、八、九ト云フ月ハ原則トシテ議会ハ開カズ、開クナラ気候ノ丁度好イ時カラ始メタ方ガ宜イ
○鈴木（義）委員　法制調査会ノ案ニ上ツテ居ルノハサウ云フノデス、十月一日ニ召集シテ三月三十一日ニ一応終ル、併シ十月ニ予算ヲ出スト云フナラダガ、要ガナイノニ召集スルト云フノモドウカ
○芦田委員長　ソレハ要ハアルデセウ、当分二、三年ノ間ハ年中開イタツテアリマス
○佐藤（達）政府委員　日ニチヲ憲法デハツキリ書イテ戴キマスト一寸心配ニナルノデス、例ヘバ前ニ臨時議会ガアツテ、ソレガ解散ニナツタト云フヤウナ場合ノ例外ヲ考ヘテ置カナイトイケナイノデ、解散ノ制度ノナイ国ハ宜イノデスガ、法律ニデモキチツト書クヤウニサレル方ガ憲法デ例外規定等ヲ色々ト書カレルヨリモ宜イノヂヤナイカト云フ気ガシマス
○芦田委員長　議院法ニ書イタ方ガ宜カラウト云フ説ハ一理アリマスネ、ソレハ議院法ニ任セテ宜イ、是モ一ツノ考ヘ方デス
○鈴木（義）委員　要スルニ社会党ノ提案ハ、最初ニ申上ゲタヤウニ出来ルダケ議会ヲ長ク開イテ、国務ノ中心タル実ヲ挙ゲルコトト云フ点ニアルノデスカラ、ソレサヘ御諒解願ヘバ宜イノデス
○芦田委員長　ソレカラ四十九条ノ進歩党ノ修正案ハ、四分ノ一ヲ三分ノ一ニ修正シヨウト云フノデシタガ、是ハ如何デス
○吉田（安）委員　是ハ特ニ深イ理由ハナイ、会期ノ問題ガアルカラ、一応四分ノ一トスルヨリモ三分ノ一ニシタ方ガ、今ノヤウナコトガ避ケラレルノデハナイカ、斯ウ云フコトデス
○鈴木（義）委員　私共トシテハ正反対ノ考ヘ方カラ、国会ハ国ノ最高機関デアリ、国政ノ中心デアルカラ、年中無休ヲ以テ原則トスルト云フ位デス、臨時議会ノ如キモ必要トアレバ、何時デモ召集出来ルヤウニシテ置クコトガ望マシイ、要求ガ少ナクトモ、理由アル場合ハ臨時議会ヲ開ク習慣ヲ付ケナケレバイケナイ、従来何トナク議会ヲ成ベク開カナイヤウニシテ、其ノ間ニ或ルコトヲヤツテシマフト云フ悪風ガアツタカラ、是ハ寧ロ少ク、五分ノ一位ニシテ貰ヒタイ、多クスルコトハ反対デス
○犬養委員　是ハ固執致シマセヌ
○芦田委員長　原案デ参リマセウ――次ニ五十一条――進歩党ノ修正案ハ「各々その議員の選擧又は資格に關する爭訟を裁判する」ト云フ字ヲ削ラウト云フノデス
○吉田（安）委員　斯ウ云ウタコトヲ議会デヤルコトハ、人情ノ点其ノ他デ却テ悪クハナイカ、斯ウ云フコトガ理由デス、内輪ノコトヲ申上ゲテハ変デスガ、例ノ自進両党ノ話合ヒノ時ニ斯ウ云フコトニシタラ宜カラウト云フコトニナツテ居ツタ、サウ云フ関係カラ、コチラノ方ニ提出シタ訳デスガ、自由党ノ修正ヲ見ルト出テ居ナイヤウデスガ……
○芦田委員長　ソレハ趣意ハ分ルノデス、例ヘバ選挙ノ有効無効、資格ガアルカナイカト云フコトヲ議会ガ決メルト云フコトニスレバ、多数党ガ勝手ナコトヲシヤシナイカ、気ニ入ラナイ少数党ノ議員ヲ無資格ダト云ツテ落シタリ、自分ノ方ノ党員ノ場合ニハ選挙ノ無効デアツタモノヲ有効ト言ツタリ、サウ云フ多数党横暴ノ弊害ガ起リハシナイカ、随テサウ云フコトハ、最モ政治ニ公平ナ立場ニアル裁判所デヤラシタ方ガ宜イ、サウ云フ趣意デスカ
○吉田（安）委員　サウデス
○芦田委員長　他ノ御意見ハドウデセウカ
○鈴木（義）委員　私共モ同ジ考ヘヲ抱イテ、最初ハ削除説ヲ考ヘタ、第一ハ、是ハ此ノ憲法ノ建前ガ三権分立ノ主義カラ来テ居ル、ソコデ各権ノ自律主義ヲ取ツテ居ル為ニ議員ノ資格審査等ヲ司法権ノ審査ニ委ネルト云フコトハ自ラノ権限ヲ抛棄スル、斯ウ云フ建前カラ来テ居ル、又関係方面デモ、此ノ三権分立主義ノ建前ハ崩サナイノヲ支持シテ居ルカラ、其ノ点モ考ヘナケレバナラナイシ、サウ云フ弊害ガアルニセヨ、ヤハリ権力分立主義ヲ採ル以上ハ、自ラノ権限ヲ抛棄セズニ、サウ云フ多数党横暴ト云フコトハ第二院モアルカラ抑ヘルヤウニシテ、出来ルダケ立法権ノ問題ハ立法権内デ解決スル、斯ウ云フコトデヤハリ生カシテ置クベキ規定ダト決シタノデス
○原（夫）委員　今鈴木委員カラ御話ニナツタコトハ、自由党ト我ガ党デ、ヤハリ其ノ意味ハ十分ニ了解シテ審議ヲ致シタノデスガ、ソレハ丁度高等法院ノ判事ヲ国民ノ判断デ任ズルト云フノト同様ナ関係デ、ドウシテモ是ハ国会ノ権限ニ属スルモノデアルト云フコトハ是ハ疑ヒナイコトデ、洵ニ有難イ規定デスガ、併シ事ノ実際カラ言ツテ一ツ選挙ヲヤツテ、其ノ時ニ全国的ニ選挙違反事件ハ諸君御承知デセウガ、何百件モ起ル……
○鈴木（義）委員　ソレハ別デスヨ、選挙違反ナンカ裁判スルノデハナイ、ソレハ刑事事件デスカラ司法権ノ管轄デス、ソレハ質問シテ明カニナツテ居ル、ソンナ馬鹿ナコトヲヤルナラ我々モ反対デス
○原（夫）委員　選挙其ノモノガ有効ナリヤ無効ナリヤ――ソレハサウ云フ意味デス、刑事事件ノ選挙違反デハナイ、ソレハ御説ノ通リ当選訴訟、費用超過トカ何トカ云フモノハ、ソレハ大変ナ数デス
○鈴木（義）委員　ソレハ大変ヂヤナイ
○原（夫）委員　ソレハ見方ニ依ルガ、ソレガ起ツタ場合ニ於テ、実際ニ議院デナスナラバ其ノ裁キガ付クカドウカト云フコトト、ソレカラ是ハ本当ノ「フェア・プレー」ニヤラナケレバナラナイ裁判デスカラ、ソレガ色々混乱スルト非常ニ国民ノ信頼ヲ失フ訳デアリマスカラ、事ノ実際ニ当ツテ、ソレガ出来ルカドウカ、是ハ真ニドウモ已ムヲ得ズ斯ウ云フ規定ヲ削除スル案ヲ決定シタ訳ナンデスガ、ソレハ御判断ニ御任セ致シマス、深ク此ノ点ヲ研究シタ結果デアルコトヲ御諒承ヲ願ツテ置キマス
○犬養委員　是ハ当時自進両党ノ協定案ノヤウニ承ツテ居リマスガ、自由党ノ方ハ何カ御考ヘハアリマセヌカ
○江藤委員　其ノ問題ニ付キマシテハ、最初ヤハリ自進両党ノ協定――協定ト云フトヲカシイガ、話合ヒヲヤツタ時ニハ、今原サンノ仰シヤツタヤウナ工合デ、之ヲ一ツ削ツタラドウカト云フ話合ヒニナツタノデス、所ガソレヲ持ツテ帰リマシテ、自由党ノ憲法委員ダケデ又ソレヲ更ニ再検討シマシタ所ガ、ヤハリソレハ置イテオイタラ宜イヂヤナイカ、其ノ理由ハサツキ鈴木サンガ仰シヤツタト同ジデス、サウ云フ議論ハ随分出テ、結局生カスベキデアルト云フ風ナ議論ニナツテ来タ訳デス、ドウゾ悪シカラズ
○原（夫）委員　色々見方モアツテ、私ナド取捨ニ苦シムノデスガ、トコトンデ出来ナカツタラ出来ナイ所デ――三権分立ノ関係モアルカラ、議会ガサウ云フ部面ニ打突カツテ、サウシテ段々ニ議会ノ空気ヲ直ス、議会ニサウ云フ悪空気ガアツタラ直スト云フ議論モアルノデスカラ、是ハドウゾ然ルベク……
○芦田委員長　第五十五条ニ自由党ト進歩党ノ修正案ガ出テ居ルノデス、ソレハ第三項ノ一行目ニ「參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、」ト云フ其ノ六十日ハ余リニ長過ギテ、会期ガ切レテシマツタリ、相当不都合ナ場合ガ起リハシナイカ、其ノ六十日ヲ三十日ニ直シタラドウカト云フノデス
○吉田（安）委員　自由党案ハ二十日ニナツテ居リマス
○鈴木（義）委員　ソレハ間違ヒデセウ
○芦田委員長　何レニシテモ六十日ハ長過ギル、モウ少シ縮メタラドウカト云フノデスガ、如何デスカ
○吉田（安）委員　此ノ六十日ノ長イコトハ、皆サン御承知ノ通リデゴザイマスガ、ドウデスカ、是ハ三十日位ニシテハ……
　　　　〔「賛成」「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレデハ三十日デ宜イデセウ、ソレカラ其ノ次ノ五十六条ノ第二項ニ「四十日以内」ト云フ字ガアルンデスガ、之ヲ進歩党ハ三十日デスカ
○原（夫）委員　二十日デス
○吉田（安）委員　イヤ、ソレハ四十日ヲ三十日ニ修正シテ居リマス
○鈴木（義）委員　是ハ予算案ヲ受取ツテカラ二十日デセウ
○吉田（安）委員　ソレデハ二十日ニ賛成シマス
○芦田委員長　ソレデハ是ハソレデ宜イデスネ、次ニ五十八条ノ第一項ニ「兩議院は、各々國務に關する調査を行ひ」トアリマスガ、此ノ「國務」ト云フ字ヲ寧ロ「國政」――政治ト云フコトニ、「國務」デモ政治デセウガ、之ヲ「國政」トシタ方ガ宜イヂヤナイカト云フノデ、「國務」ヲ「國政」ニ直シタイト云フ修正案デス
　　　　〔「賛成」「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　進歩党ノ方ハ如何デスカ
○犬養委員　賛成デス
○原（夫）委員　結構デス
○芦田委員長　ソレカラ其ノ次ハ六十条デスガ、是ハ進歩党ノ修正案ハ六十条ヲ削除スルト云フコトデシタネ
○吉田（安）委員　是ハ六十条トシテアリマスガ、六十三条ノ誤リデスカラ、御訂正ヲ願ヒマス
○芦田委員長　ソレデハ是デ一応国会ノ所ハ済ミマシタ
○佐藤（達）政府委員　一寸申上ゲマス、予算ノ関係デゴザイマスガ、現在ハ御承知ノヤウニ議院法デハ予算案ガ政府カラ出サレマシタ後、予算委員ノ審議期間トシテ二十一日ト云フコトニナツテ居リマスガ、ソレ等トノ関係カラ行ツテ、現行法ガ長過ギルト云フナラバ別デスガ、予算委員ダケデ二十一日デスカラ、本会議ノ日数ヲ考ヘマスト、モウ少シ本来ハユトリガアルコトニナツテ居リマス
○芦田委員長　受取ツタ後ニ二十日以内ト云フコトハ、成程非常ニ矛盾デスネ
○鈴木（義）委員　ソレデハヤハリ三十日位ニシナケレバナラヌカネ
○芦田委員長　三十日デモ無理デセウ、四十日位掛ルデセウ
○佐藤（達）政府委員　唯私共ノ考ヘ方トシテハ、法律案ノ場合ヨリモ、予算案ノ場合ヲ短クシタイト云フ気持ハアル、法律案ノ方ガ予算案ヨリモ短クナルト云フコトハ一寸気ニナルノデスガ……
○芦田委員長　三十日ニ直シマスカ
○佐藤（達）政府委員　本当ノ所ヲ申シマスト、法律案ノ場合ハ六十日乃至四十日位ノ所デハナイカト云フ気持ヲ持ツテ居ツタノデス、ソレデ法律案ガ四十日、予算案ガ三十日位デ、マアマアト云フ所デハナイカト云フ感ジヲ持ツテ居ツタノデス
○原（夫）委員　結構デスネ
○吉田（安）委員　ドウシマスカ、三十日ニ致シマスカ
○鈴木（義）委員　三十日ト云フト三十日一パイ掛ルモノナノデス、妙ナモノデスネ
○芦田委員長　予算ノ審議ハ、今ノニ依レバ三週間デス
○鈴木（義）委員　二十一日ニシテ置ケバ二十一日デ仕上ガル
○大島（多）委員　原案通リニサレタラドウデス
○芦田委員長　議院法デ二十一日トナツテ居ルノヲ、憲法デハ多少ノユトリヲ見テ三十日トスル
○吉田（安）委員　三十日ニシマセウ
○鈴木（義）委員　サウシテ議院法デ二十一日ニスレバ宜イ――憲法デ保障サレテ居ルノヲ縮メルコトハ出来マイネ
○芦田委員長　ソレハ構ハナイデス、審議期間ノ問題デス、コツチハ国会ノ衆議院デ決メタ通リニヤツタモノト看做スト云フ期間ダカラ、審議期間ガ変ツテモ宜イ訳デスネ
○佐藤（達）政府委員　サウデス
○芦田委員長　サウスレバ三十日ニシマスカ、双方共ニ
○原（夫）委員　六十三条ハヤハリ……
○芦田委員長　六十三条ニマデ入リマスカ、丁度内閣ノ所デ切リガ宜イカラ、食後ニ出来タラ今日ハ最後マデ一応ノ検討ヲ終リタイト思ヒマス、マダ少シ時間ガアリマスネ
○鈴木（義）委員　少シデモ進メマセウ
○芦田委員長　第五章、内閣ノ章ニ入リマス、六十三条ノ規定ノ中ニ、第二項ノ終ヒ際ニ、同ジク期間ノ問題ガ二十日ト云フノガアル、是ハ内閣総理大臣ヲ指名スル時ノ期間ノ問題デス、内閣総理大臣ヲ指名スルノニ二十日間モ握ラレテ居ツタノデハ困ルデハナイカ、十日位デ決メテ貰ヒタイト云フノガ自由党ト進歩党ノ意見ナノデスガ……
○鈴木（義）委員　二十日ニシタト云フ趣旨ハドウナノデスカ
○佐藤（達）政府委員　別ニ積極的ナ理由ハゴザイマセヌ、参議院ノ立場モ少シハ尊重シテヤツタラ宜イノデハナイカト云フ気持カラデス
○鈴木（義）委員　ソレニシテモ二十日ハ長イナ
○犬養委員　十日デ宜イデスネ
○芦田委員長　十日デ宜シウゴザイマスカ――ソレカラ次ノ第六十四条ハ協同民主党及ビ新政会カラノ修正ガ出テ居リマス、協同民主党ノ修正案ハ第一項ヲ削除スルコト、林平馬君、是ハ一項全部削ルノデスカ
○林（平）委員　サウデゴザイマス
○芦田委員長　サウシテ内閣総理大臣ガ総テ任意ニ国務大臣ヲ任免スルコトガ出来ルト云フヤウニシヨウト云フノガ協同民主党ノ提案デアリマス、ソレカラ新政会ノ方ハ、「國會の承認により」ト云フ文字ヲ削ラウト云フ修正案デス
○大島（多）委員　新政会トシテ修正ヲ申出マシタノハ、一般ノ委員会ノ時ニモ御説明ガ大分アツタノダカラ大体御承知ト存ジマスガ、国会ノ承認ニ依リ各国務大臣ヲ任命スルト云フコトハ、国会トシテモ実ニ煩ニ堪ヘナイシ、其ノ間、大臣ヲ任命スル上ニ於テモ、休会中ノヤウナ場合ニハ非常ニ時日ガ掛ツテ色々不都合ナ所ガアルダラウ、サウシテ又国会ノ承認ヲ得ナクテモ責任内閣ノコトデアルカラ、国務大臣ニ非常ナ不適任ナ者ヲ任命スルト云フコトハナカラウト云フ考ヘカラ削除シタイト云フコトニナツタ訳デアリマス
○林（平）委員　私ノ方モ同様、国会ノ議決ニ依ツテ総理大臣ガ指名ヲ受ケル訳デアリマスカラ、詰リ総理大臣ハ国会ノ信任ヲ以テ選任スルコトニナルノデアリマス、全面的ニ信用ヲ与ヘタ総理大臣ガ、閣僚ヲ一々相談シナケレバ任命出来ナイト云フヤウナコトデハ、其ノ信任シタ総理大臣ニ思切ツテ手腕ヲ伸バサスコトガ出来ナイコトニナルト思フノデアリマス、殊ニ組閣後ニ於テ病気ヲシテ死ヌトカ、或ハ何等カノ事情デ辞職ヲシナケレバナラヌ事情ガ起ツタ場合、入替ヘ又ハ補充ヲシナケレバナラヌヤウナ事情ガ起ツタ場合等ヲ考ヘテ見マスノニ、サウ云フヤウナ場合ニ急速ニヤラネバナラナイノニモ拘ラズ、一々議会ノ承認ヲ要スルト云フノデアレバ、非常ニ国政ガ渋滞スル虞ガアル、而モ内閣全体ハ議会ニ対シテ責任ヲ持ツテ居ル訳デアリマスカラ、不都合ナコトハアリ得ナイ、アレバ一々責任ヲ執ラナケレバナラナイノデス、総理ニ閣僚選択ノ自由ヲ与ヘナカツタナラバ内閣ノ責任ハ議会ノ方ニ理論的ニ移ツテ来ヤシナイカト云フ心配モアルノデアリマス、又斯カル手数ハ洵ニ無駄ナコトデモアル、斯様ニ考ヘテ第一項ヲ削除シタイ、又新政会ノ方ノ御意見ノヤウニ、「國會の承認」ト云フコトヲ削除スルト云フノナラバ、法文全体ヲ削除スルノト同ジ結果ニナル、自然後ノ余計ナ字ヲ並ベテ置ク必要ハナクナツテ来ル、デアリマスカラ、私ノ方トシテハ第一項ヲ削除シタイ、サウシテ第二項ノ「罷免」ト云フノヲ「任免」トシタイト考ヘル訳デアリマス
○鈴木（義）委員　反対意見ヲ述ベマス、私共ノ方デモ其ノコトヲ考ヘタノデス、最初ハサウ云フ案ヲ出サウカト考ヘタノデアリマスガ、将来ハ議院内閣制度、責任内閣制度デ、出来得ルダケ衆議院ノ多数党カラ全部ノ閣僚ガ出ルコトガ望マシイコトデアリマスケレドモ、恐ラク暫クノ間人材ノ不足トカ其ノ他ノコトデ、各界カラモ――議員以外ノ者カラモ大臣ヲ採ルコトガアラウト思ハレル、現ニ此ノ内閣デモ、政党或ハ議員以外ノ者カラ採ツテ居リ、採ラウト企テタコトモアル、サウ云フ場合ニ必ズ反発ガ起ル、姑ノ嫁虐メノヤウナコトガ起ルノデアリマスカラ、結局ヤハリ是ハ最初ニ承認ヲ得テ居ナイト、就任シタ大臣モ仕事ガヤリニクイ、何時不信任案ガ出ルカモ知レヌト云フコトデハ腰ヲ落着ケテ仕事ガ出来ヌト云フコトニナル虞ガアル、故ニ本来ハ望マシクナイ制度ダケレドモ、就任ノ当初ニ先ヅ承認ヲ求メテ置ク、議会ガ閉会中ナラバ、臨時議会ヲ開イテデモ承認ヲ求メテ就任シテ置ケバ、少クモ腰ヲ落着ケテ仕事ガ出来ルト云フコトニナルト思フ、主トシテ是ハ議員又ハ政党外ノ大臣ヲ任用スル時ニ意義ガアル、サウ云フ意味デ、ヤハリ将来絶対ニ皆議員ノ中カラダケ大臣ヲ採ルト云フ時代ガ来ルマデハ必要ナ規定デアルト思フ
○吉田（安）委員　新政会、協同民主党ノ御意見ハ、私ノ方デモ一時非常ニ考ヘタ所デ其ノ点ハ御同感ニ存ジマス、併シ結局色々ノ事情ヲ考ヘマシテ、今鈴木委員ノ仰シヤツタ点ヲ加味致シマシテ、原案維持ニシタイト思ヒマス
○芦田委員長　今ノ協同民主党及ビ新政会ノ御意見ハ、私ハヤハリ相当理由ハアルト思フノデスガ、色々考ヘタ結果、国会ガ最高機関トシテ内閣ヲ指導シテ居ル立場デアルノダカラ、ヤハリ其ノ権限ヲ維持シテ置イタラドウカト云フヤウナコトデ、自由党、進歩党等モ原案維持ニ傾カレタモノト想像シテ居ルノデス、ヤツテ見テ実際困ルト云フ場合ガ起ルカモ知レナイガ、其ノ時ハ又其ノ時デ何カ考ヘルト云フコトニシテ、一応原案デ行キマシタラドウデスカ
○林（平）委員　サウ云フ意見モ出タノデアリマシタガ、ドウデセウカ、最初組閣ノ当時ナラバ大体閣員名簿ニ付テ総理大臣其ノモノニ承認ヲ与ヘナケレバナラヌノデスガ、議会ノ閉会中ナラバ新タニ召集シナケバナラヌ、ソレハ当然デスケレドモ、組閣後ニ起ツタ補充ヲスルトカ色々ナ入レ替ヘヲスルト云フヤウナ場合ニデモ、唯一人ノ或ル大臣ヲ決メル為ニ両院ヲ召集シナケレバナラヌト云フコトハ、可ナリ大キナ手数ト費用ト時間ヲ要スルト思フノデス、サウ云フヤウナコトヲヤツテ居テハ、国政ノ上ニ良イ影響ヨリモ悪イ影響ノ方ガ多イノヂヤナイカト思フノデス、デアリマスカラ、是ハ如何デセウカ、閣僚ダケハ一ツ何トカ総理ノ自由手腕ニ任セル訳ニハ行カヌモノデセウカ
○芦田委員長　此ノ修正案ノ一ツノ弊害ハ、総理大臣ノ権限ト云フモノヲ非常ニ強クシテシマフト云フ点ガ一ツノ心配デアルノデセウ、ソレト同時ニ、承認ヲ必要トスルト云フコトニナレバ、事実容易ニ閣員ノ更迭ガ出来ナイト云フ欠点モ此ノ原案ニハアルト思フノデス、マア色々考ヘタ結果、自由党ヤ進歩党デ原案ト云フコトニ落付イタト思フノデスガ……
○江藤委員　今モ大体委員長カラ言ハレマシタカラ余リ言フコトハナイノデスガ、ヤハリ委員長ノ言ハレタヤウニ、自由党トシテモ最初ハ修正案ガ出テ居リマスヤウナ点ヲ非常ニ考ヘタノデアリマスガ、結局国ノ最高機関トシテノ国会ノ立場ト云フモノヲ飽クマデ堅持シテ行ク為ニハ、ヤハリ此ノ条文ヲ置イタ方ガ宜イノヂヤナイカ、実際問題トシテハ先程鈴木サンノ言ハレタヤウナ問題モアルシ、又同ジ議員カラ大臣ヲ選ブト云フヤウナ場合ニ於テモ、総理大臣ハ非常ニ慎重ナ態度ヲ取ツテヤラナケレバナラヌト云フコトニナルノデアリマシテ、今マデノ日本ガドツチカト云フト余リニ行政権ガ優越シ過ギテ居ツタ、サウ云フ点ヲ矯正スルト云フヤウナ点カラ言ツテモ、是ハヤハリ置イタ方ガ宜イノヂヤナイカ、斯ウ云フ結論ニナツテ、自由党ノ方デモ是ハ置イテオカウ、サウ云フコトニナツタノデス
○林（平）委員　結局多数皆サンノ支持ヲ得ルコトガ出来ナケレバ、言フマデモナク引込メルヨリ外ハナイノデシテ、甚ダ不本意デハアリマスガ、皆サンノ御意見ニ従フコトニ致シマス
○大島（多）委員　私ノ方モ是ハ強ヒテ主張スル訳ヂヤアリマセヌガ、是ハ実際問題トシテ、ヤハリアレハ取ツテ置イタ方ガ宜カツタナト云フコトニ後デナリハセヌカト云フ心配ヲスルノデス、其ノ点自由党、進歩党ノ方デモ慎重ニ御考ヘニナツタラ余リサウ云フコトハ起ラナイ、サウ云フ風ニ考ヘマシテ、私ノ所モ原案通リデ宜シウゴザイマス
○芦田委員長　ソレデハ原案ヲ此ノ侭ニ据置クコトニ大体意見ガ一致シタヤウデアリマスカラ、サウ決メマス
○佐藤（達）政府委員　一寸先程ノ説明ヲ補足サセテ戴キタイト思ヒマス、繰返シテ恐縮デアリマスガ、五十五条ノ法律案ノ場合ノ六十日ト四十日ノ点デアリマスガ、先程一寸申落シマシタガ、予算ノ場合ニ付キマシテハ、大体予算ノ中味ト申シマスカ、形ハ大シテ違ヒハアリマセヌ、所ガ法律案ニナリマスト、今一寸六法全書デ民法ヲ見マシテモ千何百条ト云フヤウナ大キナ法律案モアリマスガ、ソコノ所ヲ予算ト同ジデ宜イカドウカ、政府ノ原案ガ違ヘテ居リマスノハ、予算ヲ早ク済マシテ戴キタイト云フコトガ一ツト、法律案ノ場合ハ相当大物モアリ得ルト云フコトデ、片方ヲ六十日、片方ヲ四十日ト云フ風ニ差異ヲ付ケマシタト云フ一節ヲ、先程一寸申落シマシタノデ付加ヘテ置キマス
○鈴木（義）委員　ソレハ考ヘラレマスガネ、ケレドモドウデセウ、是ハ憲法ノ方デモ規定シテアルカラ、例外ハ要ラナイ、厖大ナ法案ニ付テ、厖大ナ法案ダカラ是ダケハ審議期間ヲ延長スルトカ云フコトデ……
○佐藤（達）政府委員　ソレハ、法律的ニ言ヘバ、看做スコトモ出来ルト云フコトニナツテ居リマスカラ、猶予ノ意味デ、看做サナクテモ宜イト言フコトモ出来ルト思ヒマスケレドモ、併シ看做スコトハ特権トシテ出来ルノデアリマスカラ、看做スト言ツテシマヘバソレマデデアリマスガ……
○芦田委員長　午後モウ一遍此ノ点ハ研究シマセウ、是デ一応休憩致シマス
　　　　午後零時九分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　　　午後一時三十七分開議
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、午前中ニ第六十四条ノ審議ヲ一応終ツタノデアリマスカラ、其ノ次ニ第六十九条ニ対スル社会党ノ修正案ヲ議スル筈デアリマス、此ノ修正案ハ草案第七条ノ修正ト密接不可分ノモノデアリマスカラ、第七条ノ修正案ヲ決定スル時ニ譲ツタラドウカト思ヒマスガ、如何デスカ
○鈴木（義）委員　決定スルト言ハレルガ、私ノ方ハ決定サレタモノト考ヘテ居リマス、詰リ消極ニ決定サレタモノト了解シテ居リマス
○芦田委員長　ソレナラ、アナタノ方ガサウ云フコトデ御諒承ガ願ヘルナラバ、無論我々ハソレデ宜シイノデス
○鈴木（義）委員　御了承スル訳ニモ行カナイノダケレドモ、幾ラ頑張ツテモ少数ノヤウデスカラ了承シタ訳デス
○森戸委員　了承ト云フ意味ハ、一応党ニ諮ラナケレバナリマセヌカラ、一応了承ト云フ意味デス
○原（夫）委員　七条ノ社会党ノ修正案ニ付テハ後ニ又審議スルト云フ程度ダツタト思ヒマスガ、サウヂヤナイデスカ
○芦田委員長　今ノ社会党ノ委員諸君ノ御考ヘハ、此ノ間の審議ノ時ニ少数デアツタヤウニ見エルカラ、此処デ此ノ上論議ヲ重ネテモ変化ハナイカラ、最終ノ決定ハ党議ニ諮ツテ、他日本委員会其ノ他ニ於テノ修正案ノ提出ハ又別ノ問題トシテ、小委員会ノ席上ニ於ケル論議ハ一応終ツタ、斯ウ云フコトデスネ
○鈴木（義）委員　サウデス
○芦田委員長　修正反対ノ意見ガ多カツタカラ、ソレ以上強ヒテ論議ハ致シマセヌ、斯ウ云ウコトデス、サウスルト、六十九条ノ四ト云フ所ニ進歩党ノ修正案ガ出テ居リマス、「法律の定める基準に從ひ、官吏に關する事務を掌理すること。」ト云フノヲ、モウ少シハツキリト書イテ置キタイト云フ趣意デ、「官吏に關する」ト云フ字ノ上ニ、「任免其他」ト云フ四字ヲ入レタイ、内閣ガ官吏ノ任免ヲ行ヒ、更ニ官吏ニ関スル事務ヲ掌理スル、ト斯ウハツキリシテ置キタイト云フ御趣意ノヤウデス
○佐藤（達）政府委員　今ハツキリサセルト云フ御趣意ノヤウデアリマスガ、ハツキリサセルト云フ御趣旨ハ、官吏ノ任免ヲ内閣デ行フト云フ意味デハツキリサセル御趣意デセウカ、或ハ「官吏に關する」ト云フ文ノ中ニ任免ト云フ意味モアルノダト云フ程度ノモノデゴザイマセウカ、任免権ノ所在ヲハツキリサセル御趣意カドウカ拝聴サセテ戴キタイ、私ノ心配致シマスコトヲ一寸申上ゲマスト、是ハ憲法デアリマスカラ、官吏ノ任免ハ総テ内閣デヤルト云フコトガ仮ニココニ明カニサレマスト、其ノ任免権ヲモツト下級ノ方ノ役所ニ委任スルトカ何トカ云フ余計ナ問題ガ出テ参リマス、ソレトノ関係ニ付テノ問題ガ起リハシナイカ、具体的ナ任免権ヲ或ハ大臣ニ持タセルカモ知レヌ、地方長官ニ持タセルカモ知レヌ、ソレハ説明ノ問題カモ知レマセヌケレドモ、特ニ斯ウ云フ文字ガ入リマスト、独占スルヤウナ感ジヲ与ヘハシナイカ、斯ウ云フ気持ガ致シマスノデ……
○吉田（安）委員　サウシマスト、草案ノ方ハサウシタ立法意思デ出来テ居ル訳デスネ
○佐藤（達）政府委員　草案ノ趣旨ハ、官吏関係ノ事務ハ行政府ノ仕事ダト云フコトヲ一ツ狙ヒニシマス、サウシテソレノ総括ハ行政府ノ一番首脳ニ立ツテ居ル内閣ガヤツテ居ル、其ノ二ツニ着目シテ書イタダケデアリマシテ、積極的ニ官吏関係ノ個々ノ処分行為ガドウト云フ所マデ考ヘタ条文ニハナツテ居ナイ訳デス
○原（夫）委員　ココニ入レル文字ハ官吏ガ二ツ付ク訳デス、官吏ノ任免其ノ他官吏ニ関スル事務ヲ掌理スルコト、斯ウ云フコトデ先ヅ官吏ノ任免モ内閣ノ一事項ニスル、其ノ他官吏ニ関スル色々ノ事務モ掌理スル、斯ウ云フ二段構ヘニ行ツテ居ル
○佐藤（達）政府委員　デアリマスカラ官吏ニ関スル事務ノ中ノ主ナル例ヲ唯御挙ゲニナツタダケデ、任免権ヲ何処ニ持タセルト云フコトハ、勿論憲法ガ干渉シテ居ルノデハナイト云フコトノ御趣意ナラバ、運用上一向差支ヘナイ、ソレハサウ云フ風ニ読メバ読メナイコトモナイ、唯特ニ斯ウ云フ字ヲ御加ヘニナリマスカラ、特段ノ意味ガアツテ御加ヘニナツタノデハナイカト云フ感ジガシマスカラ……
○鈴木（義）委員　是ハドウモ誤解ヲ起スネ、ドウモ「任免其他」トヤリマスト――総括的ニ事務ヲ掌理スルデ宜イデセウ
○吉田（安）委員　佐藤サンノ方カラサウ云ツタコトヲ一応聴キマスト、如何ニモ私共ニ自信ノナイヤウナコトデアリマスガ、一応是ハ撤回致シマセウ
○芦田委員長　ソレデハ次ニ司法ノ第六章ニ入リマス、第七十五条ニ関シテ……
○鈴木（義）委員　一寸其ノ前ニ、予メ提案シテ置イタノデハアリマセヌガ、第七十条ニ付テ提案ト云フ程デナイノデスガ、御考慮ヲ煩ハシタイ、「法律及び政令には、すべて主任の國務大臣が署名し、内閣總理大臣が連署することを必要とする」、斯ウナツテ居リマスガ、是ハ是デ宜イ訳ダケレドモ、此ノ憲法ハ内閣総理大臣ガ今マデノヤウニ平等ノ立場ニ於ケル国務大臣デナクナツテ――国務大臣トシテハ平等カモ知レマセヌガ、内閣総理大臣ハ一段上ノ内閣議長ノヤウナ地位ニナツタノデスネ、ソレデ内閣総理大臣ハ総テ国務ヲ総理シ、指揮監督スルト云フコトニナツテ居ルノダカラ、署名ハ本来内閣総理大臣ガ署名ヲヤルノデアツテ、主任ノ国務大臣ガ之ニ連署スルト云フノガ順当デナイカト云フ議論ガアルノデスガ、其ノ点ハ如何デセウカ
○佐藤（達）政府委員　サウ云フ御疑問ハ確カニ御議論ガ起リ得ル所ダト思ヒマス、是ハ物ノ考ヘ方ノ違ヒダケデゴザイマシテ、私共ハ兎ニ角主任ノ国務大臣ガ、例ヘバ食糧管理法ト云フ法律デアレバ、主任ノ国務大臣ガ細目的ト云ヒマスカ、具体的ノ執行ノ責任者ダ、ソコヲ大キク出シテ置イテ、此ノ食糧管理法ノ執行ノ責任ハ此ノ人ダ、サウシテ今度ハ鈴木サンノ仰シヤル総括者トシテノ立場ノ人ガソコヘ横ニ名前ヲ書イテ戴クト云フ考ヘ方デアリマシテ、其ノ考ヘ方ハドツチモ成立ツト思ヒマス
○鈴木（義）委員　法制調査会デモ、総理大臣ガ先デアルベキダト云フ議論ガ強カツタ、併シ是ハドチラデモ宜イト思ヒマス、其ノコトニ気ガ付イテ居ツタト云フコトデアレバ――ソレデハ別ニ提案セズニ、ソレデ済マセマス
○芦田委員長　第七十五条ノ社会党ノ修正案ハ、最高裁判所長官ダケハ特定ノ委員会ニ諮問シ、内閣総理大臣ノ推薦ニ依リ天皇之ヲ任命スルモノトシテハドウカ、斯ウ云フ案デス、自由党ノ御意見ハドウデスカ
○高橋（泰）委員　一応社会党ノ修正ノ趣旨ヲ御説明願ヒマセウカ
○鈴木（義）委員　三権分立ノ建前カラ言ヒマシテモ、又実際上カラ見マシテモ、最高裁判所ノ長官ノ地位ト云フモノハ、此ノ憲法ニ於テハ将来非常ニ重大ナ意味ヲ持ツ、又持タスベキデアルト私共ハ見テ居ル、従来ノ憲法上デモ、大審院長ヤソレ以下ノ裁判官ト云フモノガ不当ニ低イ地位ニ置カレタ、ソレガ一ツハ裁判ト云フモノニ権威ヲ持タセナカツタ理由デ、此ノ憲法ノ建前カラ見テモ、是非トモ此ノ最高裁判所長官ハ内閣総理大臣ト対等ノ地位ニ置ク、サウシテ法律、政令ガ憲法ニ違反スルヤ否ヤト云フコトマデ審査スル権限ヲ持ツモノデスカラ、実際上対等ノ地位ニアルコトハ疑ヒナイト思フ、ソレ位ナラバ最高裁判所長官ハ内閣総理大臣ト同ジ任命形式ヲ執ル、是ガ天皇ト云フモノノナイ国ナラバ別ダケレドモ、日本ハ天皇ガアルノダカラ、内閣総理大臣ガ天皇ニ依ツテ任命サレルモノナラ、最高裁判所長官モ天皇ニ依ツテ任命サレルト云フコトガ正ニアルベキ姿デハナイカ、ソレニ依ツテ此ノ裁判官ノ地位ト云フモノガ非常ニ権威付ケラレル、又権威付ケルコトガ必要デアルト考ヘルカラ、斯ウ云フ提案ヲスル訳デス
○吉田（安）委員　社会党ノ御提案ノ修正案ニ付テハ私ノ方ハ出テ居リマセヌケレドモ、実ハ個人ト致シマシテ私自身全面的ニソレニ賛成ヲシテ居ルノデスガ、御列席ノ他ノ先輩ノ委員ノ方ガ反対デナイナラバ、私モ此ノ案ニ賛成致シタイト思ヒマス
○犬養委員　是ハ党ニ諮ツテアリマセヌガ、予テ吉田君トハ個人的ニハ賛成シテ居ルノデ、個人的ニハ鈴木サンノ修正案ヲ支持シマス
○芦田委員長　私個人トシテハ斯ウ云フ修正案ノ趣意ニ賛成デアリマスガ、特定ノ委員会ニ諮問スルト云フコトガ果シテ実質上ノ効果ガアルカドウカ、総理大臣ガ此ノ人ヲ最高裁判所長官ニ任命シタイノダト言ヘバ、大抵サウ云フ委員会ト云フモノハ総理ガサウ言ハレルナラバ結構デセウト云フコトニナツテシマツテ、実際上ノ効果ガ少イノデハナイカ、サウスレバ特ニ是ガ為ニ特別ノ委員会ナドヲ設ケナクトモ、総理大臣ノ責任ニ於テ推薦ヲシテ、サウシテ天皇ガ任命セラレル、斯ウ云フコトノ方ガ簡単デ宜イヤウナ気ガスルノデスガ……
○吉田（安）委員　私ガ今社会党ノ此ノ修正案ニ賛成ト言ヒマシタコトハ、結局天皇ノ御命令ノ所デアリマシテ、此ノ修正案ノ案文全部ヲサウ云フ風ニ賛成ト云フ意味デハ勿論ナイノデアリマスカラ、其ノ点ハ御承知願ヒタイト思ヒマス、特ニ委員長ノ仰シヤイマシタ点ニ付テハ、委員長ノ御説ニ賛成ヲ致シタイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　其ノ点ハ私達モ固執シマセヌガ、国務大臣スラ国会ノ承認ヲ得テ任命サレル、最高裁判所ノ長官ト云フノハ一番高イ裁判官デスカラ、総理大臣ガ一人デ推薦スレバソレデ決マツテシマフト云フノハ均衡ガ取レナイヤウニモ思ヒマスシ、又是ハ形式的諮問ニ終ルデセウガ、サウシナイト慎重性ヲ欠クト云フ虞ガアル、形式的ニセヨ諮問機関ヲ置イテ、サウシテソコニ諮問シタ上デ推薦スル、奏薦スルト云フコトニシテ置ク方ガ無難デハナイカ、サウ云フ趣旨デアリマス
○芦田委員長　結局実際ノ取扱トシテハ、司法大臣ナドガ候補者ヲ見立テテ、ソレヲ総理大臣ニ相談シテ、尚ホ前任者其ノ他ニモ多少ノ意見ヲ聴イテ決メルト云フコトニ実際ハ取扱ハネバナラヌデセウネ
○鈴木（義）委員　ソレハサウデス
○芦田委員長　ダカラ委員会ヲ設ケテ見テモ、ヤハリソレダケノ内部的手続ヲスルニ違ヒナイ、ダカラ形式的ニモセヨ慎重ニヤルト云フコトデ特定ノ委員会ニ諮問スルト云フコトハ一応ノ理由ハアルケレドモ――ドウデスカネ
○鈴木（義）委員　ソレハ固執スル程ノ必要条件デハアリマセヌ、唯、今委員長ハ司法大臣ガト仰シヤツタガ、実ハ私共此ノ憲法ノ解釈カラ来ルト、行ク行クハ司法省ト云フモノハナクナル可能性ガアルト思ツテ居ルノデス、私ナンカハ立法論トシテハ司法省廃止論ナンデス、ソレデハ予算ハドウシテ呉レルカト云フ問題ガ起リマスガ、ソレハ最高裁判所ニ書記長官ノヤウナモノヲ置イテ、ソレヲ閣議ニ列セシメテ予算ヲ取ル、最高裁判所長官ハ閣議ナドニ列席シナイデ、超然タル地位ニシナケレバナラヌト思ヒマス、検察庁モ独立シテ検事総長ノ下ニ別ノ官庁ヲ構成スル、斯ウ云フコトニ将来ハナルダラウ、又ナラサナケレバナラヌ、斯ウ考ヘテ居リマスカラ、司法大臣ガ奏薦ヲスルト云フコトハ必ズシモ将来起ラナイコトニナル場合ガアリ得ル
○芦田委員長　マア総理大臣ノ地位ニ居ル人ハ、司法部ノ事情ニ通ズル人ハ少イダラウト思ハレル、ダカラ誰ガ最高裁判所長官トシテ適当デアルカト云フコトヲ一人デ考ヘルト云フコトハ中々困難ナコトデアラウト思フ、ダカラ其ノ道ノ通ノ人ニ聴イテ、ソシテ決メルト云フヤウナコトニ実際上ナルダラウト思フデスネ――イヤ私モ別ニ特別ノ諮問委員ヲ設ケルコトガ非常ニ悪イトハ思ヒマセヌガ、何ダカ少シ実際的デナイヤウナ気ガシタモノダカラ……
○廿日出委員　実ハ是ハ唯思ヒ付キニ書キ込ンデ見タノデスガ、第六条ニ「天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する」トアル、此処ヲ「内閣總理大臣及び最高裁判所長官を任命する」ト云フヤウニシタラ、ソンナコトデ解決ガ付クノデハナイカト思フノデスガ……
○芦田委員長　一寸待ツテ下サイヨ、ソレハ大変ナ――国会ノ指名ト云フコトガ起ルカラ、寧ロソレナラ第七条ノ五ノ所ニシタラ……
○鈴木（義）委員　天皇ハ「法律の定める」官吏ヲ任免スルトアル、サウスルト私ノ提案ヲ実現スル為ニハ憲法モ入レレバ宜イ
○芦田委員長　サウスルカ、或ハ「國務大臣、最高裁判所長官及び法律の定めるその他の官吏」……
○鈴木（義）委員　サウ、サウシテモ宜イ「最高裁判所長官、國務大臣及び法律の定めるその他の官吏」斯ウスレバ宜イデスネ
○佐藤（達）政府委員　今ノ御話ハ七条ノ五号ニ入レタラト云フ御話デスカ
○鈴木（義）委員　サウデス
○佐藤（達）政府委員　是ハ官吏ノ任免ヲ認証スルコト、認証デ宜シイト云フコトナラバ宜イノデスガ……
○吉田（安）委員　ソレハ少シ弱イ
○鈴木（義）委員　成程認証デシタネ、サウスルト別ニ行ヲ改メテ「天皇は、内閣總理大臣の奏請に基いて最高裁判所長官を任命する」、サウスルシカナイ
○原（夫）委員　原案ニ依ルト、最高裁判所ノ裁判官ハ内閣デ之ヲ任命スルト云フコトニナツテ居ルガ、修正案ハ最高裁判所ノ所長ダケノ問題ニナツテ居ル、此ノ所長ダケガ内閣総理大臣ノ推薦ニ依リ天皇ガ之ヲ任命スルモノトス、斯ウ云フ案ニスルト特定ノ委員会ト云フノハ、ナクテモ宜イ、斯ウ云フコトデスカ
○鈴木（義）委員　サウデス
○原（夫）委員　サウスルト内閣総理大臣ノ推薦ト云フ意味ハ、内閣ノ議ヲ経ルト云フ意味ニナリマスカ
○鈴木（義）委員　内閣ノ議ヲ経ベキデセウ、内閣総理大臣ノ個人的行為デハナイ
○芦田委員長　推薦ニ依リト云フノヲ入レルカ入レナイカモ、モウ一度考ヘル余地ガアル
○鈴木（義）委員　奏請ニ依リト私ハ案文ニ書イテ置イタ
○原（夫）委員　斯ウ云フ場合ニハ、佐藤サンドウ云フモノデセウカ
○佐藤（達）政府委員　此ノ案ニ付テ、今ノ委員会ノ諮問ハ別トシテ、推薦ニ関連シタ問題デゴザイマスガ、第一ニ原委員ノ仰シヤツタ内閣ノ助言ト承認ト云フモノト、内閣総理大臣ノ推薦ト云フノハドウ云フ関係ニナルカ、寧ロ助言ト承認デハナクテ、此ノ場合ハ内閣総理大臣ガ独自ノ推薦デ行クカ、或ハ其ノ上ニ更ニ助言ト承認ガ加ハルカト云フ細カイ問題ガ起ル、今奏請ト云フ話デアリマシタガ、奏請ト云フノハ少シ旧イト云フカ、一種ノ匂ヒガ附纏ヒマスシ、モウ一ツ私ノ危惧スル所ハ天皇ノ大権ガ殖エルノハ一ツノ考ヘ方トシテ結構デスガ、大権ノ行為ガ後ノ方デ国民ノ審査ニ付セラレルコトニナル、総理大臣ニ付テモ結局議会ノ不信任決議ト云フノガアルノダカラ同ジコトカモ知レマセヌガ、何カ少シ国民ノ審査ガアルト云フコトトノ繋リガドウ云フモノカト云フ気モシマス
○芦田委員長　ソコデ佐藤君、第六条ノ二項ニ入レルトスレバドウ云フ風ニ入レマスカ
○佐藤（達）政府委員　形式的ニ突詰メテ行キマスト、唯天皇ハ最高裁判所長官ヲ任命スルト云フコトダケニナリハシマセヌカ、内閣ノ助言ト承認ト云フノハ当然前ノ方ニアリマスカラ、サウスルト大権トシテ非常ニ強イ権能ガココニ新タニ附加ハツタヤウナ感ジガシテ、他処ノ方ノ人ガ見タ場合ニドウ云フ感ジヲ持ツカ、ソンナコトハ余計ナコトデスケレドモ……
○鈴木（義）委員　イヤ、ソレガ問題ニナツタ、逆ヂヤナイ、併シ場合ニ依ツテハ内閣総理大臣モ弾劾サレレバ、裁カレモシナケレバナラヌケレドモ、最高裁判所長ノヤウナ、サウ云フ偉イ人ガ内閣総理大臣ニ任命サレルノハ面白クナイ
○原（夫）委員　ドウモ是ハ常識論デ一寸サウ云フ考ヘヲ起シマスネ
○鈴木（義）委員　今デモ大審院長ト云フノハ親任官デハアルガ、司法大臣ガ奏請シテヤツテ居ルガ、何カ軽々シクテ面白クナイ
○廿日出委員　司法大臣ノ下ニアルヤウデネ
○芦田委員長　ソレハ第二項ニ入レテ見ヨウヂヤナイデスカ、若シソレガ各方面カラ都合ガ悪イト云フヤウナ事情ガ起レバ、何時デモ是ハ考ヘ直セルノデスカラ……
○佐藤（達）政府委員　今私ガ申シマシタノハ、ギリギリ結着ノ所ヲ申シマシタガ、強ヒテ考ヘマスレバ、内閣総理大臣ノ指名ニ基イテト云フ言葉ヲ入レテ任命スルト云フノモ一案カモ知レマセヌ
○鈴木（義）委員　サウシテ置イテ戴キタイデスネ、是モ立案シテ戴キタイ、内閣ノ助言ト衝突シナイヤウニ……
○芦田委員長　司法ノ部ニ付テハ他ニ修正案ガ出テ居リマセヌ、ソレデハ第七章ノ財政ニ入リマシテ、第八十四条ニハ自由党、進歩党、新政会、無所属倶楽部ノ修正案ガアリマス、八十四条ノ自由党及ビ進歩党共同ノ修正案、進歩党ノ吉田委員、オ手許ニ御持チデスカ
○吉田（安）委員　ハイ、持ツテ居リマス
○芦田委員長　此ノ八十四条ノ初メノ所デスガ、ソレラ「世襲財産及び之れより生ずる收益以外の皇室財産は總べて國に屬する」――「世襲財産及び之れより生ずる收益以外の皇室財産」、詰ル所、世襲財産ノ外ニ、世襲財産ノ果実――ソレ以外ノモノハ総テ国ニ属スル、斯ウ云フ風ニ改メテ、サウシテ其ノ次ノ「皇室財産から生ずる收益は、すべて國庫の收入とし」ト云フノヲ取ル、「法律の定める皇室の支出は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない」……
○鈴木（義）委員　サウスルト御伺ヒシマスガ、世襲財産カラ生ズル収益ノ内容モ明カニシテ、サウシテ皇室ノ支出ノ中ニ入ツテ来ル、予算面デハ国庫ノ支出ニハナラヌカモ知ラヌガ、出テ来ルコトニナルノデスカ
○芦田委員長　出テ来ナイノデセウ
○鈴木（義）委員　ソレナラバ法文ヲ少シ考ヘナケレバサウナリマスヨ「すべて國に屬する」サウシテ「法律の定める皇室の支出は」ト……
○芦田委員長　私有財産ト言ツテハナンダガ、世襲財産、即チ皇室ノ私有ノ財産、及ビ是カラ生ズル収益ト云フモノハ予算デ決メタ皇室費ト全ク別ノ勘定ニナツテ、会計検査院ノ検査其ノ他ノモノハ必要ナシ……
○鈴木（義）委員　ソレナラバ皇室ノ御費用ハ幾ラ要ルト云フコトヲドウシテ決メルノデス
○芦田委員長　ソレハ今マデト同ジコトデス、現在サウデスカラ、皇室財産カラ生ズル収益ト云フモノハ自由ニ御使ヒニナツテ居ル、ソレハ結局皇室ガ国家ノ公ノ仕事ニ必要トシテ御使ヒニナル部分、ソレカラ日常ノ経費其ノ他ヲ推算シテ皇室費ヲ決メルノデセウ
○鈴木（義）委員　併シ四百五十万円ノ皇室費ト云フモノハ、年々議会デ協賛スル、今度モソレガ継続サレルト云フコトニナルノデスネ
○芦田委員長　将来モ四百五十万円ニナルカ、モツト恐ラク殖エルダラウト思フノデスガ……
○犬養委員　鈴木サン、私ノ解釈ハ斯ウナンデスガ、法律ノ定メル予算ニ計上サレル皇室ノ経費ト云フモノハ、公ノ費用デスネ、ソレカラ「世襲財産及び之れより生ずる收益」ト云フモノハ、陛下ガ非常ニ御熱心ニ遊サレテ居ル動物ノ実験ノ顕微鏡トカ何トカ云フ、内廷ノ費用ニ充テラレル
○鈴木（義）委員　内廷費デスカ
○犬養委員　ソレヲ今マデハ公ノモノヲ内廷費カラ払ツタリ、ゴチヤゴチヤニナツテ居タモノダカラ――収益ヲ取ルト、結局人間個人トシテノ陛下ノ御趣味其ノ他カラノ必要費ト云フモノハ元ヲドンドン食フト云フコトニナル、ソレハドウモ面白クナイ、陛下モ国民ノ御一人ダカラ、基本的人権、即チ財産カラ出ル収益ハ陛下ノ所属ニナル、サウ云フ難カシイ理屈ハ別トシテ、内廷費用ガドンドン元ヲ食込ムト云フコトハ忍ビナイ、サウ云フ風ニ考ヘテ居リマス、ソレデアナタノ指摘シテ居ラレル公ノ費用ハ、我々ガ議会デ計上スル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス
○鈴木（義）委員　併シ世襲財産カラ上ル収益ハドレ位カ御存ジデスカ
○犬養委員　ソレニ付テハ色々考ヘ方モアリ、議論モアルガ、世襲財産ガ決マレバ、是カラ出タ収益ハ受取ラレテモ宜イノヂヤナイカ、斯ウ云フ感ジガスルノデス
○芦田委員長　私モ細カイ皇室財産ノ状態ヲ能ク知ラナイシ、将来世襲財産ガドウ云フ風ニ決メラレルカモマダ確定ハシテ居ナイト云フコトデスガ、恐ラク世襲財産ノ大部分ハ収益ヲ生マナイ財産、例ヘバ宮城トカ離宮トカ云ツタヤウナモノガ多イノデアツテ、収益ヲ生ズル財産ノ額ハサウ多イモノデハナイヤウニ想像シテ居ルノデスガネ
○鈴木（義）委員　私ハ法制調査会ノ方ニ出テ居テ、公表シテハイケナイコトニナツテ居リマスノデ、此処デ申上ゲルコトハ控ヘマスガ、ソレハ法律ガ定メル四百五十万円ト云ツタヤウナ経費トハ非常ナ相違デス、将来世襲財産ニ属セシムベシト想像サレテ居ル財産カラ生ズル収益卜云フモノハ、木曽の御料林トカ、サウ云フモノカラ相当上ルヤウニ聞イテ居ル、私ハ皇室ニ質問シタノデス、答ヘモ得タノデスケレドモ、言ツテハイケナイト云フカラ申上ゲマセヌ
○犬養委員　私ノ諒解シテ居ル範囲デハ、陛下トシテハ色ンナ御事情デ御自分ノ贅沢トカ何トカ云フコトデナク、内廷ノ御費用トシテ是非御入用、使ツテ戴カナケレバナラヌト思フ費用、ソレガ元ヲ食込ムト云フコトニナルト困ルト思フノデス
○森戸委員　是ハ世襲財産ガ如何程御有リニナルカ、如何ニ設定セラレルカト云フコトニ非常ニ重大ナ関係ガアル、ト言ヒマスノハ、皇室ガ象徴トシテ我々ノ上ニ立タレルヤウニナラレタト云フコトハ、其ノ地位ヲ保ツダケノ御費用ハ十分差上ゲナケレバナラヌシ、他方デハ又陛下ノ御生活ト云フモノガ割合ニ明朗デ、国民ガ見透セルヤウナ形デアルコトガ実ハ大変必要ナンヂヤナイカト思フノデス、ソレデ先頃カラ皇室財産ノ色ンナ調ベガ方々カラ発表サレマシテ、相当之ニ対シテハ一部デハ批評的ナ見解ヲ取ツテ居ル者モアルノデアリマシテ、斯ウ云フコトデ皇室ガ大地主デアツタリ、大財閥デアツタリスルヤウナコトガ国民ニ伝ヘラレルト云フコトガアレバ、却テ象徴トシテ立タセラレテ居ル皇室ニ対シテハ御迷惑ニナルノデハナイカ、サウ云フ点ヲ十分我々ハ考慮シナイト却テ所謂贔屓ノ引倒シニナルヤウナコトニシテハ、我々トシテモ相済マヌト思ヒマス、サウ云フ点デ私共モ余所ニ勤メテ居ツテ、大体月給デ生活ヲ賄フノモドウモ難カシイヤウナ生活ヲヤツテ行クヤウナ状況ニアルノデ、実ハ国民トシテハ出来ルダケ十分ナ費用ヲ――国モ困ツテ居リマスカラ、贅沢ヲナサレル程ニハ出来マセヌガ、至誠ヲ尽クシテ、出来ルダケ差上ゲルト云フコトデ、出来ルダケ明朗ナ、詰リ見透シノ付ク御生活ヲナサツタ方ガ両方ノ為ニ宜イノデハナイカ、サウシテ殊ニ皇室ヲ護ル人ノ為ニハ其ノ方ガ非常ニ宜イノデハナイカト私共ハ考ヘテ居リマス、ソレカラ従来国民ト皇室ヲ疎隔シタ一部ノ人ガ――是ハ悪イ意味デハナイノデスガ、皇室ヲ尊ブト云フ良イ心持カラデハアルガ、ソレガ却テ国民ト皇室トノ間ヲ疎隔シタヤウナ嫌ヒガアル、是ハ恐ラク皇室ニアツタ非常ナ財産ト云フモノ、ソレニ結付イタ色々ナ人々ガ、ソコニ寄生ト云ツチヤ悪イガ、生活ヲサレテ居ル、サウ云フ人ノ数ガ非常ニ多イト云フコトニモ原因ガアル、サウ云フヤウナコトカラシマスト、殊ニ世襲財産ニ付テ委員長ノ言ハレタヤウナ見方モアリマスシ、或ハ鈴木君ノ聴カレタヤウナ事情モアルノデ、是ハ私若シモ鈴木君ノ聴カレタヤウナコトガ本当デアルナラバ、ソレハ非常ニ拙イト思ツテ居リマス、其ノ点デハ相当内容ガ分ラナケレバ、ドウ云フ限度ノモノデアリ、ドウ云フ性質ノモノデアリ、又此ノ財産ハ一体ドウ云フ形デ皇室ノ手ニ入ツタカト云フコトガ明カニナラナケレバ、十分ニ納得ガ行カナイト思フノデアリマス、所ガサウ云フコトヲヤルコトガ中々難カシイトスレバ是ハ端的ニ原案ヲ生カシタ方ガ宜イノデハナイカ、サウシテ皇室ガ個人的ナモノヲ御持チニナルト云フコトハ、是ハ認メラレテ居ルコトデアツテ、一寸モ之ニ関係ガナイコトデアルト思フノデアリマスシ、ソレカラ又委員長ノ言ハレル、殆ド収入ノナイモノデアリマシタナラバ、国ガ持ツテ居テ御使用ニナレバ宜イノデハナイカト思フ、斯ウ云フヤウナ全体的ナ考慮カラ、世襲財産ノ果実ヲ或ル限度御認メシテ、サウシテ皇室ノ私的内廷ノ御不自由ノナイヤウニ致スト云フコトモ、是ハ十分我々ハ考ヘナケレバナラヌノデスガ、出来レバサウ云フ形デナク、公的ナ費用デソレモ賄ヘルヤウナ形に持ツテ行ツタ方ガ、此ノ新シイ日本全体ノ制度ノ仕組トシテハ望マシイノデハナカラウカ、斯ウ云フヤウナ考ヘヲ私共ハ持ツテ居リマス
○笠井委員　今皇室ノ方ニ差上ゲマス一年ノ予算ト云フモノハ四百五十万円カナンボデアツテ、而モソレハ明治初年カラズツト同ジ額ヲ差上ゲテ居ルト云フコトダサウデス、サウシテ一年ニ皇室ノ費用其ノ他御内帑金ト云フヤウナモノガ二千五、六百万円ニ上ルノヂヤナイデセウカ、サウシマスト、ソレハ帝室林野局トカ何トカ云フモノカラ入ツテ来ル収入ニ依ツテ賄ハレテ居ルト云フコトヲ伺ツテ居リマスガ、今後皇室ノ持ツテ居リマスル財産ヲ他ノ方面ニ払下ゲルトカ何トカト云フコトニナリマスト、自然政府カラ、政府の予算ト云フモノヲモウ少シ殖ヤシテ差上ゲナケレバナラヌコトハ当然デアリマスケレドモ、併シソレニ依ツテモ今日持ツテ居リマスル皇室ノ財産、林野其ノ他ヲ払下ゲルト云フヤウニナリマスト、余程御困リニナルンヂヤナイノデセウカ、此ノ点ニ付テ委員長ノ私見ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○芦田委員長　私ハサウ云フコトニ付テハ非常ニ知識ガ少イノデスケレドモ、皇室ト云フモノハ、相当皇族、各宮殿下、大家族デイラツシヤル、其ノ経費ト云フモノハ相当ノ額ニ上ルダラウト想像デキルノデス、ガ、今一寸笠井君ノ御話ノ中ニアツタ、皇室財産ヲ払下ゲルト云フコトハナイノデセウ、国庫ニ帰属スルト云フコトニナルノデスカラ、御払下ゲニナルコトハナイ、国庫ニ無償デ御渡シニナルト云フコトニナルカラ、世襲財産法ガ出来タ上デ範囲ハ決マルノデセウガ、ソレガマダ恐ラク出来テ居ナイト思フノデス、ドウ云フ種類ノ幾何ノ財産ガ皇室ノ世襲財産トシテ留保サレルカト云フコトハ、恐ラクマダ決ツテハ居マイト私ハ思ヒマス、唯ソレヲドウ決メルカニ付テ法制調査会其ノ他デ色々議論ハアリマセウガ、マダ決マル程度ニハ至ツテ居ナイ、ソコデ私ノ私見ヲト仰シヤルカラ申シマスガ、四百五十万円ト云フ経費ハ、役人デモ職工サンデモ、皆生活手当、家族手当デ、何倍カニナツテ居ル、議員ノ歳費デモ一万五千円ニ、彼此レ手当ヲ合ハセテ増額シヨウト云フ際ニ、皇室ノ費用ダケハ明治二十年代カラ同ジ費用デヤツテ行ケルト云フコトハナイノデ、是ハモウ当然私ハ増額ハサルベキモノト、個人トシテハ考ヘテ居ルノデス
○笠井委員　ソレハサウシテ戴キタイデスネ
○芦田委員長　ガ、ソレニシテモ国家ノ象徴タル地位ニ御立チニナルノダカラ、一厘一毛ノ支出歳入ト雖モ予算ノ上デハツキリシテ、サウシテ会計検査院デ調ベルノダト云フコトハ、ソレハ成程明朗ニハ違ヒナイ、併シヤハリ人間タル天皇デアル、人間ニハヤハリ人間トシテノ、何ト言ヒマスカ、「プライヴァシー」ト云フカ、我々デサモ煙草銭ト云フモノハ特別ニアルコトガ心強イ、人間トシテノ天皇ガ御生活ニナルノダカラ、ヤハリ私ハ其処ニ何ガシカノユトリヲ取ルト云フコトハ、極メテ人情ノ自然デアツテ、私有財産ノ収益マデモ国庫ニ取上ゲルト云フコトハ何カ斯ウ或ル意味ニ於テ懲罰ノヤウナ、天皇ノ所有権ダケガ制限ヲ受ケ、我々ハ個人トシテ使用、収益、処分ノ権利ヲ所有権デ認メラレテ居ル、所ガ天皇ハ所有権ヲ持ツテ居ツテモ、収益ノ権利ハ奪ハレテ居ル、斯ウ云フコトガドウモ法律観念ノ上カラ言ツテモ非常ニ不自然ニ見エル、ソレヲ取上ゲル理由如何ト云フコトニナルト、之ヲ何ト説明スルカ、ソコニ私ハドウモ説明ニ非常ニ困ル点ガアリハシナイカト思フ
○笠井委員　御尤モデスネ
○犬養委員　今ノ人間天皇トシテノ所有権ニ、天皇デアルガ故ニ人間デアツテモ制限ヲ受ケルト云フコトハ、我ガ党ノヤハリ根拠ニナツテ居リマス、私ガ此ノ問題ヲ研究シテ居ル時ニ又聞キナノデ洵ニ僣越ナンデスガ、事情ヲ御参考マデニーー天皇陛下トシテハ財産ノ大部分ヲ国民ノ前ニ御出シニナリタク、意思表示ヲナサツタコトモアルノデスガ、却テ世界各国カラ、国民ニ阿ツテ見エルト云フ誤解ヲ生ズルコトガアルノヂヤナイカト云フ注意モアツテ、不本意ナガラ御取止メニナツタト云フコトガ、此ノ問題ノ起ツテ来ル第一ノ原因ニナツテ居リマス、第二ニハ大家族ノ中心トシテノ天皇ニ取ツテハ、皇族方ガーー今速記ニ遺スノハ心苦シイガ、極端ナ例ヲ言ヘバ、運転手ノ名前デ生活費ヲオ出シニナツタ、陛下トシテハ迚モ見テ居ラレナイ、此ノ御盆ニモ関係筋等ヲ御訪問ニナツテ御盆モ届ケラレナイト云フコトデアツタノデ、段々分ツテ、サウ云フモノハ届ケテモ宜イヂヤナイカト云フコトデ遅レ馳セニ届ケタ、委員長カラ言ヘバ煙草銭、我々カラ言ヘバ生活費、独自ノ人間或ハ家族ノ長トシテノ一種ノ直接ノ手持金ト云フモノハ人間トシテ御入用ニナル、斯ウ云フ問題ガアリマス、ソレカラ森戸サンノ言ハレル非常ニ著シク国民ノ怨ミヲ買フト云フ言葉ハ強過ギルガ、国民ノ利益ニ反シテ、一種ノ国民感情ガ起ルト云フ種類ノ財産ハ整理ナサレタ方ガ宜イ、其ノ理論ヲ別トシテ世襲財産カラ上ル収益ハ人間ノ個人トシテノ手持金ト云フモノヲ認メテ上ゲタイ、天皇ナルガ故ニ取ラレルト云フコトハドウモ心苦シイ、斯ウ思フノデアリマス
○吉田（安）委員　森戸サンノ御意見ノヤウニ、今日ノ陛下トシマシテハ当然サウ云フコトニナルコトガ本当ノアリ方デハナイカト私モ思ヒマス、併シ今犬養委員ノ言ハレタヤウニ私ハ是非アツテ欲シイモノダト思ヒマス、又熱烈ニサウ思フノデス、如何ニ日本ガ大転換ヲスル今日デモ、何モカモ取上ゲテシマフ、ソレモ宜イデセウ、冷ヤカニ考ヘタナラ、ソレガ本当カモ知レマセヌ、併シ今マデノ皇室ト云フモノヲ考ヘマシタ場合ニ、世襲財産ヲ将来ニ認メテ、其ノ世襲財産カラ上ル果実マデモ取上ゲテシマフ、ソコニ我々ハ非常ニ悩ミガアル、一面カラ申シマスナラバ、サウ云フモノヲ御持チニナルコトガ国民ニ対シテ何カ影響ヲ与ヘハシナイカト云フ御議論モ能ク分リマスケレドモ、オ互ヒ一家デモ、収支予算ヲ立テテ見マシテモソレダケデ行ケルモノデハナイ、結局卑近ナ例ニナリマスガ、謂ハレモナイ金、手持金ガドウシテモ必要デス、況ヤ日本ノ転換ヲ中心トシテノ皇室関係ヲ考ヘマシタ時ニ、アレデナケレバナラヌ、是デナクチヤナラヌ、是ハ本当ニ国民ト直結スル天皇ノ在リ方ダト云フ、サウシタ理想一本槍デ此ノ問題ヲ取扱フト云フコトハ私ハ忍ビヌト思フ、社会党ノ仰シヤルコトハ能ク分リマス、サウ云フ説ヲ言フ人ガ我ガ党ニモアリマス、ケレドモソコニ御手許金ガ、言葉ハ当ラナイカモ知レマセヌガ、是ガナクテハ如何ニ必要ナ金ハ国会ガ決議シテ差上ゲルカラ宜イヂヤナイカト言フガ、サウバカリハ行カヌト私ハ思フ、ソレデ是ダケハ社会党ニモ御相談シマス、我々ノ修正案通リニシテ戴キタイト思ヒマス
○犬養委員　先刻落シマシタガ、モウ一ツハ此ノ物価ノ変動――是ハ平民デハ給与デアリマスガ、斯ウ物価ノ変動ガアルト、予算ノ計上ヲ――皇室費ト云フモノヲ追加シナケレバナラヌ場合ガアリマス、其ノ場合ハ大衆ノ生活費モ非常ニ向上スルノデ、国鉄其ノ他ガ待遇改善シテ呉レト言フ「デモ」ナドガ行ハレルコトニナル、サウシテ片方デハ百円ノモノヲ百五十円ニシロ、イヤサウヂヤナイト云フコトデアルガ、皇室費ハ事柄ノ性質上相当莫大ナモノヲ追加計上スル、其ノ費用関係デ世上ノ曝シ物ニナルト云フコトハ、象徴タル、又逆ニ言ツテ象徴タル御位地ニ理窟抜キニ障ルコトガアル、ソコニハヤハリ一ツノ伸縮自在ノ安全弁ノヤウナ世襲財産カラ生ズル収益ト云フモノガアツタ方ガ――変動ノ為ニ批判ノ対象ニナルト云フコトデハ面白クナイ、斯ウ云フヤウニ考ヘマス、森戸委員ノ言ハレル世襲財産其ノモノノ性質ニ付テハ、別問題トシテ深ク考究スル必要ガアルト思フ
○森戸委員　私モ、例ヘバ陛下御自身、或ハ皇室ノ方々ガ、自分ノ身ノ廻リ、個人的ナ必要デ、費用ガ御入用ニナルデアラウト云フコトハ想像スルノデアリマスガ、世襲財産ト云フモノヲココニ書カレテ、其ノ限定ヲサレナイデ、我々ガ承認スルコトハ、又大体皇室ノ財産ト云フモノガ、総額ナド色々発表サレタ上デ、サウ云フコトハ却テ――個人ノ財産ト言ツテモ皇室ノ財産ト云フノハ、皇室ノ財産ガ皇室ノ御個人ノ財産デアルトハ私ハ必ズシモ考ヘテ居ラヌノデアリマス、是ハ非常ニ違フノデアリマス、公共的ナ性質ヲビテ居ルモノデアツテ、ドレダケガ所謂皇室自身ノ世襲財産デアラセラレルカ、国家ノ財産デアルカト云フコトハ、ハツキリシテ居ナイノデハナイカト私ハ考ヘテ居リマス、ト言フノハ、明治ノ御維新以前ニハ洵ニ生活ハ式微ノ状態デ居ラレタ、今日ノ財産ハ十六億、是ハ内輪ナ計算デスガ、サウ云フモノデス、是ハ恐ラクハ皇室自身ノ世襲財産ト云フダケデハナシニ、国家ノ財産ト云フモノガ相当入ツテ居ルノデハナイカト私共ハ考ヘテ居リマス、ダカラサウ云フ限界ガハツキリシナイデスルコトハ私ハ非常ニマヅイト思フ、殊ニ今日ノヤウナ社会ノ情勢、日本ニ於ケル社会情勢ノミナラズ、対外的ナ関係モアルト思ヒマスガ、サウ云フ全体的ナ考慮ヲ措イテ考ヘルト――此ノ問題ハ……、唯サウ云フコトニ非常ニ御気ノ毒デアルト云フコトダケニ発足シテ考ヘルト、此ノ前ノ憲法ノアノ時ト同ジヤウナ問題ガヤハリ含マレルノデハナイト考ヘラレル
○犬養委員　ソレデハ森戸委員ノ御説ハ能ク拝聴致シマシタガ、世襲財産其ノモノニ付テノ再検討、世襲財産ガ天皇タルニ附随シテ内廷費用トシテ当然必要ナ範囲ノ収益云々、或ハソレヨリモアナタ方ノ常識、国民常識トシテ適当ナ額デアルナラバ世襲財産カラ生ズル収益ハ差支ヘナイ、世襲財産ノ「スケール」ノ問題ハ……
○鈴木（義）委員　ソレハ違ヒマス、社会党トシテハ、原則トシテ皇室ノ御財産モ私ハ硝子箱ノ中ニ入レルコトガ正シイ在リ方デナイカ、無論ユトリノアルヤウニ法定ハスルケレドモ、国民ノ眼カラ隠スモノガ出来ルト云フコトヲ避ケタイ、一応全部ヲ出シテ硝子箱ノ中ニ入レテ、ソシテユトリノアルヤウニ法定シヨウヂヤナイカ、ソレハ先程犬養委員ガ仰セラレタヤウナコトハ、私共モ仄カニ承ツテ非常ニ恐懼ニ堪ヘナイノデアルガ、併シ今尚ホ凍結セラレテ居ツテ、一切ガ不自由ナ状態ニアル、ソレカラ今一ツ関係方面ガ恐ラク斯ウ云ウ収益ヲ是認スルカト云フコトガ大問題ダト思ヒマス、現ニ是認シナイト解サルベキ声明ミタヤウナモノヲ発シテ居ル、我々トシテハ原則ハ多寡ノ問題ヨリハ、ヤハリ透明ナラシムルト云フコトガ大切ナコトデアル
○犬養委員　世襲財産其ノモノヲ硝子箱ノ中ニ入レテ、ソレカラ出ル収益ト云フモノハ、トンデモナイ「パーセンテージ」ヂヤナイ、硝子箱ノ中ニ入ツテ居ルモノトシテ当然世襲財産ノ「スケール」ニ入レテ宜イ
○森戸委員　ソレカラモウ一ツハ、今ノ会計検査院ノ実際ノ検査ガ、皇室費ヲ全部国デ賄フトシタ場合ニ、ソレヲ官庁ト同ジヤウニ歳出経費トスルカドウカト云フ問題ガアルト思フガ、若シ之ヲ内廷費マデヲ国庫デ差上ゲルト云フ場合ニハ、其ノ会計検査ノ方法ト云フモノハ、普通ノ官庁ノ会計検査トハ違ハナケレバナラヌノヂヤナイカ、サウ云フコトニ依ツテ、多少委員長ノ心配セラレタヤウナコトハ補ハレルノデハナイカ、一定ノ世襲財産ガ認メラレル、サウシテ其ノ費用ガ一応国家ニ入ル、又ソレヲ出シテ宮廷ニ帰ツテ来ル、サウシテソレヲ御使ヒニナルノダガ、ソレノ国家ノ監督ノ仕方ニ付テハ、恐ラク公ノ費用ノ部分ト、所謂我々デ言フ私的ナ内廷的ナ部分トノ取扱ニ付テハ、余程違ツタモノガアルノヂヤナイカト思フ、是ハ私ハ性質上サウナルト思フ、サウスレバ其ノ点デ余程調和ガ取レルノヂヤナイカト思フ
○犬養委員　自由党ノ御意見ヲ伺ヒタイ
○高橋（泰）委員　私ノ方ノ大体結論カラ申シマスト、進歩党ノ今ノ修正ニ全ク同ジヤウナ意向ヲ持ツテ居リマス、唯此ノ結論ニ達シマスマデニハ、今森戸君ヤ鈴木君カラ御話ガアツタヤウナコトヲ我々考ヘタコトモアル、天皇ノ象徴タル地位ニ鑑ミマシテ、マア天皇トシテハ何ト言ツタラ適切カ知リマセヌガ、余リ多クノ物ヲ御持チニナラヌ方ガ宜イ、必要トアレバ国民ハ喜ンデ差上ゲル、差上ゲルモノハ差上ゲルトシテ、成ルベク天皇ノ象徴タル地位ニ鑑ミテ、余計ナモノヲ御持チニナラヌ方ガ宜イヂヤナイカト云フ、大体森戸サンノ御話ノヤウナコトモ考ヘタノデスガ、其ノ後色々ト考ヘガ変ツテ参リマシテ、大体犬養サン其ノ他ノ方カラ御話ガアツタヤウナ理由ニ依ツテ、結論トシテハ世襲財産及ビ之ニ依ツテ生ズル収益ハ国庫ニ帰属セシメナイデ天皇ニ差上ゲル、是ハ斯ウ云フ点カラ言ツテモ、斯ウ云フ結論ニ達スルコトガ正シイノヂヤナイカト思フ、ソレハ天皇モヤハリ国民ノ一員デアル、シテ見レバ国民ガ憲法ニ依ツテ財産権ト云フモノガ保障サレテ居ル以上ハ、陛下ノミガ世襲財産カラ生ズル収益マデ国ニ出サナケレバナラヌト云フ理由ハナカラウ、斯ウ云ツタヤウナ意味モ加味シマシテ、大体結論トシテハ、私ノ方デハ、今進歩党カラ御提案ニナツタ所ニ一致シタ訳デス
○廿日出委員　一寸速記ヲ止メテ戴キタイ
○芦田委員長　速記ヲ止メテ……
　　　　〔速記中止〕
○芦田委員長　暫時休憩致シマス
　　　　午後三時七分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　　　午後三時四十五分開議
○芦田委員長　休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス、第八十四条ニ対シテ新政会、協同民主党及ビ無所属ハ本条ノ修正ニ賛成ノ意見ト承知致シマス、修正ニ対スル議論ハ略々出尽シタト思ヒマスカラ、一応此ノ程度デ先ノ条項ニ進ミタイト思ヒマス
　第八十五条ニ対シテ協同民主党カラノ修正案ガ出テ居リマス、此ノ刷リ物デハ一寸分リニクイノデスガ、林君カラ簡単ニ御説明ヲ願ヘルデセウカ
○林（平）委員　簡単ニ申上ゲマス、二行目ノ上ノ方ノ「公の支配に屬しない」ト云フノヲズツト上ノ方ニ持ツテ来テ、一行目ノ「宗教上」ノ上ノ方ニ入レテ、「公の支配に屬しない」ト云フノハ、上カラズツト皆ニ掛ケテ行ク、斯ウ云フ訳デス、説明スルマデモナク一読御諒解ガ得ラレルト思ヒマス、「公金その他の公の財産は、公の支配に屬しない」云々ト、上カラ掛ケテ行カウト云フノデス、読ンデ見マス、「公金その他の公の財産は、公の支配に屬しない宗教上の組織若しくは團體の使用、便益若しくは維持のため、及び慈善、教育若しくは博愛の……」トナル訳デス
○吉田（安）委員　スルト此ノ「公の」ハ取ル訳デスネ
○林（平）委員　「公の支配に屬しない宗教上の組織若しくは」ト入レル、ソレハ淫祠邪教トカ云フモノデハイケナイ、公ノ支配ニ属シナイモノニハ公金其ノ他ノ公ノ財産ヲ支出シタリ、利用ニ供シテハイケナイ、斯ウ云フ訳デス
○芦田委員長　サウナリマスト余程意味ガ変リマスネ、例ヘバ慈善事業、教育事業、博愛事業ニ対シテ公金ヲ使ツテナラナイト云フコトニナリマスネ
○林（平）委員　サウデス
○芦田委員長　サウナルト官公立ノ学校教育、若シクハ政府デヤル慈善事業ト云フモノハ出来ナイコトニナリハシマセヌカ
○林（平）委員　ソレハ公ノ団体ダカラ宜イデセウ
○芦田委員長　アアサウデスカ、其ノ下マデ公ノ支配ヲ掛ケヨウト云フノデスカーーソレデハ二ツ入レナクテハサウ云フ意味ニ読メナクハナイデスカ
○林（平）委員　及ビガアルノデス、「及び慈善、教育」……
○芦田委員長　「及び公の支配に屬しない慈善、教育」ト云フコトニナル訳デスネ
○林（平）委員　詰リ二ツ入ル意味ニナルガ、一ツデ間ニ合フノデハナイカ……
○芦田委員長　併シサウスルト意味ガ違フデセウ、公金其ノ他公ノ財産ハ公ノ支配ニ属スル宗教上ノ組織ニ使ツテモ宜イト云フコトニナル、サウデナク、此ノ文ノ趣旨ハ、政府ガ公金ヲ以テ宗教団体ヲ作ツタリナンカシテ金ヲ出シテハイケナイト云フノダカラ、初メノ半分ハ「公の支配に屬しない」ト云フ字ヲ入レテハ意味ガ変ル、ヤハリ「公の支配に屬しない」ト云フノハ元ノ地位ニ残シテ置カナイト、原案ノ趣旨ハ非常ニ変ツテ来ルノデハナイカト思ヒマスガ、サウデハナイデセウカ
○佐藤（達）政府委員　正ニ仰セノ通リダト思ヒマス
○林（平）委員　サウデスカ、ソレハコチラノ取リ方ガ違ツテ居ツタ、佐藤サン、ソレハサウデスカ
○佐藤（達）政府委員　ソレハ今委員長ノ仰シヤツタ通リデス
○林（平）委員　上ノ方ヘ掛ケテハイカヌ訳デスカ
○佐藤（達）政府委員　スツカリ変ツテ来マス
○林（平）委員　公ノ支配デモイケナイ訳デスネ、先ノ方ハ……
○廿日出委員　尚更イケナイ
○林（平）委員　仏教ハ宗教法デ認メタ公ノ団体デス
○吉田（安）委員　前段ノ公ノ支配ニ属シテモイケナイ
○林（平）委員　宗教法デ認メタモノハ公ノモノト違フカ
○廿日出委員　違フ
○林（平）委員　ソレヂヤ原案デ宜シイコトニイタシマス
○芦田委員長　此ノ条文ハソレヂヤ協同民主党ノ修正案ガ撤回サレマシタカラ、是ハモウ其ノ通リデ参リマス
　八十六条、八十七条ハ修正ガゴザイマセヌ
○原（夫）委員　一寸ソコデ八十六条ノ決算ニ関スル問題デスガ、ココデ不当支出ト検査院ガ報告シタノデアツテ而モ官吏ガ越権ナ処置ニ依ツテ国費ヲ支出シタト云フコトガ大体認メラレル場合ニ於テハ、本日午前中ニ審議セラレタ官吏ノ不当支出ニ付テハ賠償シナケレバナラヌト云フアノ規定ノ中ヘ是ガ入リマスカ、佐藤サンニ一ツ御伺ヒ致シマス
○佐藤（達）政府委員　午前中ノ御話ノ箇条ハ、アレハ民間ニ対シマシテ不法ナ処分ヲヤツタ場合ニ、民間カラソレニ対シテ賠償金ヲ要求スル、ソレヲ国カラ取ルト云フヤウナ民間ノモノヲ相手ニシテノ規定デス、不当支出シタモノハ賠償シテ居リマス
○原（夫）委員　是ニハ救済方法ハナイト云フコトニナツテ居リマスカ
○佐藤（達）政府委員　救済方法ハ別ノ問題デゴザイマシテ、国ト当該官吏ノ問題ガ残ツテ居ル、是ハ先程ノ民間ノ場合ニ付キマシテモ、国ガ結局賠償金ヲ払ヒマスケレドモ、国家ガ不法支出ヲシタ官吏ニ対シマシテハ、是ハ懲戒処分ナリ何ナリヤハリ制裁ヲスル訳デス
○原（夫）委員　ソレハ何処デ……
○佐藤（達）政府委員　ソレハ官吏服務上ノ問題ト致シマシテ現在デモヤツテ居リマス、官吏ガ不法ナコトヲヤレバ、ソレハ官庁内部ノ制裁ト云ヒマスカ、懲戒ノ処分デ処置ヲシテ居リマス
○原（夫）委員　実際ヤツテイナイ
○佐藤（達）政府委員　決算ノ問題デスガ、是ハ制度上ハ勿論ヤルコトニナツテ居リマスガ、唯実行ガ如何カト云フ問題ダラウト思ヒマス
○原（夫）委員　分リマシタ
○芦田委員長　第八章ノ「地方自治」ノ章ニハ修正案ガアリマセヌ、第九章ノ憲法改正ニ関スル法規ニ於テハ、第九十二条ニ社会党カラノ修正案ガ出テ居リマス、ソレハ「憲法改正について前項の承認を經たときは、内閣總理大臣は天皇の認證を得て國民の名でこの憲法と一體を成すものとして直ちにこれを公布する」、結局天皇ガ公布スルト云フ代リニ、総理大臣ガ天皇ノ認証ヲ得テ公布スルト云フ風ニ修正シタイ、斯ウ云フ意見デアリマス
○森戸委員　是ハ大体第七条ノ第一項ニアル「憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること。」ヲ「認證する」トシテ、ソレト同ジヤウナ形ニシタ訳デス、内閣総理大臣ガ天皇ノ認証ヲ得テスル、斯ウ云フコトニナツテ居ル、大体ノ精神ハ前ノモノト似タコトガアル訳デス、関連シタモノデ、大体議論ハ同ジヤウナモノデアリマス
○芦田委員長　ソレデハ此ノ程度ニシテ置イテ次ニ移リマス、第九十四条ニ対シテハ自由党、進歩党及ビ新政会カラ修正案ガ出テ居リマス、新政会ノ修正案ハ是ハ非常ニ根本的ノモノデ、「この憲法竝びにこれに基いて制定された法律及び條約は、國の最高法規とし」トアルノヲ「最高法規」ヲ取ラウト云フノガ修正案デス、ソレカラ自由党、進歩党ノ方ノ案ハ「この憲法」ヲ生カシテ置イテ「竝びにこれに基いて制定された法律及び條約」ヲ削ラウ、斯ウ云フコトデアリマシテ、是ハモウ詳シイ説明ハ必要ナイト思ヒマスガ、憲法ガ最高法規デアルノダ、ソレニ基イテ作ラレタ法律及ビ条約ガ他ノ法律及ビ条約ノ全部又ハ一部ヲ無効ニスルト云フコトハ、日本ニ於テハドウモ非常ニ不都合ナ場合ガ多イ、例ヘバ前ニ出タ法律ハ、此ノ憲法ニ基イテ制定サレタ法律ヨリモ遥カニ劣等ナ地位ニアツテ、新シイ憲法ニ基イテ制定サレタ法律ヤ条約ダケガ最高法規デアル、古イ国際条約ハ新シイ国際条約ヨリモ非常ニ効力ノ違フモノニナツテシマツテ、条約ニモ最高法規デアル条約ガアリ、最高法規ナラザル条約ガアツテ、法律モ同ジヤウナコトニナル、サウ云フコトハ「アメリカ」ノ如ク、連邦ノ法律ト各州ノ法律トガ併存シテ居ル国ニ於テハ必要デアルカモ知レマセヌケレドモ、我ガ国ニ於テハ左様ナ規定ハ必要デナイ、故ニ是ダケノ文字ヲ削リタイ、サウ云フコトデアルノデスガ、其ノ「最高法規」ト云フ字ハ、此ノ憲法ガ最高法規デアツテ、之ニ反スル政令、詔勅等ハ効力ヲ有シナイト云フコトダケハ、ドウシテモ生カシテ置クニアラズンバ九十四条ノ存置ノ眼目ガナクナル、斯ウ云フ風ナ自由党、進歩党ノ修正ノ理由ノヤウニ聞イテ居リマス
○吉田（安）委員　是ハ新政会ノ御意見デスガ、此ノ「最高法規」ヲ取ツテシマフト云フコトニナルト、ドンナコトニナリマスカ
○大島（多）委員　ソレハ憲法ガ最高法規デアルト云フコトハ、モウ常識トシテ分リ切ツタコトデス、又之ヲ読メバ憲法ガ最高法規ダト云フコトモ分ルカラ、「國の最高法規とし」ト云フノヲ取ツテシマツタ方ガ、誤解ヲ招カヌデ宜カラウト云フ考ヘカラ、サウ云フ風ニ申出タ訳デアリマス、之ヲ取ラナイト、之ニ基イテ出来タ所ノ法律及ビ条約マデ最高法規ニナツテシマフカラ、斯ウ云フ誤解ヲ生ジナイヤウニト思ヒマシテ申出タ訳デゴザイマス、委員長ノ先程ノ御話デハ、サウシタラ此ノ憲法ニ基イテ作ラレタ所ノ法律及ビ条約ノ条規ニ反シタ法律、命令、詔勅ハ宜イト云フコトニナルヤウデスガ……
○芦田委員長　イエ、サウヂヤナイデス
○江藤委員　「竝びに」カラ「條約は」マデヲ取ツテシマフト云フノデス
○大島（多）委員　ソンナラ結局私ノ方モ同ジヤウニナリハシナイカト思ヒマス
○芦田委員長　サウデセウ
○森戸委員　其ノ場合憲法ニ基イテ制定サレタ法律ト、ソレヨリ前ニアツタ法律ガアツテ、前ノ法律ガ後ニ出タ法律ト違ツタ場合ハ、勿論後ノ法律ガ優先的ナ適用ヲ受ケル訳デスネ
○芦田委員長　前ノ法律ハ後ノ法律ニ依ツテ改正サレル訳デスネ、佐藤君ソレデ宜イデスカ、前ノ法律ト違ツタ場合、後ノ法律ガ効力ヲ持ツヤウニナルノデスネ
○佐藤（達）政府委員　サウデス
○森戸委員　「制定された法律及び條約」ト云フコトガ……
○芦田委員長　アナタハ後カラ出来タ法律ハ最高法規ダト言フノデセウ、ケレドモ一ツノ法律ハ最高法規デアリ、他ノ法規ハ最高法規デナイト云フ風ナコトヲ決メルコトハ甚ダヲカシナ話デアル
○森戸委員　ソレハサウ云フ意味ヨリモ、寧ロソレガ優先的ナモノデアツテ、ソレ以前ニアル法律、条規ガ後ノモノニ反シタモノハ効力ヲ有シナイ、ソレハ何故デアルカト言フト、後ニ出タ法律ノ方ガ高イ権威ヲ持ツテ居ルカラ……
○芦田委員長　第九十四条ハ、私ハ余リ「アメリカ」ノ憲法ノコトハ知リマセヌケレドモ、合衆国ノ憲法ノ第六条二項ヲソツクリ其ノ侭此処ニ書イテアルノデ、「アメリカ」合衆国ノ如キ国ニ於テハ、州ノ法律、命令ト、連邦ノ法律、命令トノ間ニ優劣ヲ決メテ置ク必要ガアルノデス、ケレドモ我ガ国ニ於テハ、法律ハ法律デ均等ノ地位ヲ持ツテ居ル、斯ウ云フ建前デアルノダカラ、後カラ出来タ法律ヲ最高法規トシテ、其ノ以前ノ法規ハ最高法規デナイト云フヤウナ差別ヲ設クベキ根拠ハナイ、斯ウ云フコトナンデス
○森戸委員　後カラ出来タ法律ガ前ノ法律ヲ排除シテ効力ヲ有スルト云フノハ、ソレガ高イ権威ヲ持ツテ居ルト云フコトデハナイノデスカ
○芦田委員長　「アメリカ」デハ主トシテ……
○森戸委員　「アメリカ」トハ別ニ、日本デ考ヘテ、例ヘバ今度ノ憲法ニ基イテ出来タ一ツノ法律ガアツテ、ソレガ前ノ法律ト違ツテ居ル、サウシテ新シイ憲法ニ基イタ法律ノ方ガ効力ヲ有スルト云フ場合ニハ、憲法ニ基イタ法律ノ方ガヨリ高イ権威ヲ持ツテ居ル、其ノ意味デ最高法規ト言ツテモ差支ヘナイノヂヤナイカ
○芦田委員長　是ハ私ガアナタニ言フコトハ釈迦ニ説法ダケレドモ、後法ガ前法ヲ当然ニ改正スルト云フコトハ、是ハ法律学ノ寧ロ基礎原則デアツテ、特ニ最高法規ト云フ文字ヲ以テ表示セラルベキヤウナ原則デハナイ、斯ウ解釈スル訳デス
○森戸委員　アア、サウデスカ
○廿日出委員　是ハ斯ウ云フ風ニ書キ変ヘタ意味ノコトデハナイカト思フノデス、「この憲法は國の最高法規であつて、この憲法に基いて制定された法律及び條約の條規に反する法律、命令、詔勅及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その效力を有しない。」ト云フヤウナ意味ニ解釈シテ宜イノデハナイデスカ
○芦田委員長　イヤ、サウヂヤナイデス
○森戸委員　サウヂヤナイデスネ
○廿日出委員　ヤハリ最高法規デスカ
○森戸委員　ソレヨリハ高イ法規ダト云フ意味デス
○芦田委員長　ドウデスカ、佐藤君ノ御意見ハ……
○佐藤（達）政府委員　原案者ノ立場トシテ申上ゲルノハ少シ変カモ知レマセヌガ、虚心坦懐ニ申シマシテ、我々ノ一応ノ気持ハ、是ハ此ノ間委員会デモ金森大臣カラ御説明ガアツタト思ヒマスガ、例ヘバ最高裁判所ナリ何ナリ、新シイ裁判所ノ機構ヲ定メル法律ガアル、サウスルト、其ノ法律ガ、昔アツタ――例ヘバ現在ノ裁判所構成法ト云フモノガ仮ニ其ノ侭残ツテ居ルトスレバ、新シイ憲法ニ基ク裁判所構成法ト勿論矛盾牴触スル場合ガアル訳デス、其ノ場合ニハ、其ノ古イモノハ此ノ条規ニ反スル法律トシテ効力ヲ失フト云フ気持ガ主デアリマシタケレドモ、今色々御批判ヲ伺ツテ考ヘテ見マスト、「竝びに」以下ガナクテモ、今委員長ノ御批判ノヤウニ「アメリカ」ノ真似ソコナイナンダト云フヤウナ面ガ目立チマシテ、何等実際ノ実益ガナイノヂヤナイカト云フ気ガ致シマス
○森戸委員　私共モ之ヲ固執スル訳デハナイノデス、是デ差支ヘナイノヂヤナイカト云フ程度ナンデス
○芦田委員長　サウスルト、残ル所ハ第九十七条唯一ツニナリマシタ
○吉田（安）委員　一寸其ノ前ニ、「にして」ヲ「として」ト直シタイト思フノデスガ……
○芦田委員長　何条デスカ
○吉田（安）委員　九十四条デ「最高法規にして」ト修正シテ居リマスガ、ソレハ「として」ト原案ノ通リニシテ置キマス
○江藤委員　前ニハ「であつて」ヂヤナカツタデスカ
○佐藤（達）政府委員　「であつて」ノ方ガ宜イカモ知レマセヌネ
○吉田（安）委員　修正案ノ方ニハ「にして」トアルノデスガ、「であつて」ナラ結構デス
○芦田委員長　ソレデハ第九十七条ヲ削除スベシト云フ修正ニハ、自由党、進歩党、社会党、協同党、新政会、ソレカラ無所属ノ各派一致シテノ意見デアリマス、之ヲ削除スルコトニ御異議アリマセヌカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレデハ本委員会ニ於ケル一応ノ修正ニ関スル意見ノ交換ハ、是デ終ツタ訳デアリマス、マダ確定シタ案ハ極メテ僅カデアリマシテ、之ヲ如何ニ纏メルカト云フ厄介ナ問題ガ残サレテ居ル訳デアリマスカラ、ソレハ明日以後ノ委員会ニ於テ引続キ協議ヲ致シタイト思ヒマスガ、私ノ希望トシテハ出来ルダケ此ノ二日間位デ小委員会トシテノ意見ヲ纏メタイ、斯様ニ私カニ考ヘテ居ルノデアリマスカラ、サウ云フ御趣意デ一ツ精々御勉強ヲ御願ヒ致シマス、明日ハ午前十時カラ開会致シマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
　　　　午後四時十二分散会