小委員会 昭和21年8月1日（第7回）

昭和二十一年八月一日（木曜日）
　　　　午前十時十七分開議
　出席委員
　　　委員長　芦田　　均君
　　　　　廿日出ひろし君　　　　江藤　夏雄君
　　　　　　犬養　　健君　　　　吉田　　安君
　　　　　　鈴木　義男君　　　　森戸　辰男君
　　　　　　林　　平馬君　　　　大島　多藏君
　　　　　　笠井　重治君　　　　北　れい吉君
　　　　　　原　夫次郎君
　出席政府委員
　　　　　　　　　　法制局次長　佐藤　達夫君
　　　　―――――――――――――
　本日ノ会議ニ付シタ議案
　　帝国憲法改正案（政府提出）
　　　　―――――――――――――
○芦田委員長　会議ヲ開キマス、今日ハ前文カラ再応ノ審議ヲ致シタイト思ヒマスガ、残ツテ居ル問題ハ、森戸委員カラ修正ノ提案ガアツタ窮乏ト搾取ト云フ文字ヲ入レルト云フ問題、是ガ一番重要ナ問題デス、モウ一ツハ第一ノ「パラグラフ」ノ「これは人類普遍の原理であり」ト云フ所ヲ、「人類普遍の原理である」ト云フコトマデ続ケテ、此処デ句読点ヲ切リタイ、斯ウ云フ案ガ廿日出君カラ出テ居ルノデス、此ノ二ツノ案ヲココデ出来ルダケ決定シタイト思ヒマス、先ヅ森戸君ノ案ノ窮乏ト搾取、之ヲ入レルカ入レナイカト云フ点ヲ御諮リシマス
○森戸委員　此ノ言葉ニ付テハ此ノ前一寸申シタヤウニ、搾取ト云フ言葉ニ付テ色々「イデオロギー」的ナ連想ガ伴フト云フコトデ非常ニ受入レ難イト云フヤウナ説モアツタノデアリマス、ソレデハ寧ロ酷使ト云フ一般的ナ言葉ニ変ヘタイ、斯ウ思ツテ居リマス
○芦田委員長　酷使ト云フ文字ガ一体ドウナンデスカネ、是ハ国際社会ト云フモノノ形容詞デスネ、現在ノ国際社会ニ於テ、「アフリカ」ノ奴隷禁止トカ、奴隷酷使トカ云フコトハ始終アリ得ルコトダガ、近代ノ相当ノ国家ニ於テ、酷使ト云フコトガソレ程問題ニナツテ居ルデセウカネ
○森戸委員　是ハ本文ニモ児童ヲ酷使シテハナラナイト云フコトガアリマスネ
○芦田委員長　ソレハアルガ、此処ハ詰リ平和ヲ維持スルコト、専制、圧迫、窮乏等ヲ地上カラ追払ハウトスル国際社会ト云フコトノ形容詞デスネ
○森戸委員　サウデス、目標デスネ
○芦田委員長　目標ナンダガ、普通ノ国際社会ノ水準ヲ維持シテ居ル近代国家ニ於テ、酷使ト云フヤウナ問題ガ、ソレ程共通ノ問題ニナツテ居ルカドウカデス
○鈴木（義）委員　酷使ト云フ言葉ハ問題ニナツテ居ルカドウカ知ラヌガ、サウ云フ事実、現象ハ、世界的ニドノ国デモ大問題ニナツテ居ル、ソレガナケレバ社会主義経済ナドト云フモノハ、主張スル必要ハナイ、労働者ガ正当ニ得ベキ報酬ヲ得テ居ナイ……
○芦田委員長　酷使ト云フ意味ハサウ云フ意味デスカ
○鈴木（義）委員　ソレハ成タケ搾取ニシタイケレドモ、搾取ガドウモ臭ヒガアルカラト仰シヤルノデ、強ヒテ酷使ニシタ訳デスガ、酷使モ論理的ニ演繹シテヤツテ行ケバ、労働者ヲ必要以上ニ搾取スル使ヒ方ヲ酷使ト我々ハ解釈スルノデス
○芦田委員長　報酬ノ伴ハナイ労働ト云フ意味ナラバ、ソレガ直グ酷使ト云フコトニナリマスカネ、私ハソレハ例ヘバ商売人ガ一生懸命ニ働イテモ損ヲシテ居ル、是ハ労働ニ伴ハナイ報酬ノ低下デス、漁師ガ一生懸命ニヤルガ、ドウシテモ魚ガ獲レナイ、サウ云フ意味ニ於テ、報酬ト労働トガ権衡ヲ得ナイト云フコトヲ以テ、直グニ酷使ト云フ意味ニ当ルカドウカ
○鈴木（義）委員　ソレハ委員長ノ仰シヤルヤウナ、自己ノ危険ニ於テヤツテ居ル仕事ヲ例ニ引カレテハ困ルノデ、ヤハリ是ハ普通ノ産業労働ヲ意味スルノデス、サウ云フ風ナ場合ニ、正当ニ得ベキ報酬ヲ受ケナイノハ、搾取ト云フ言葉デ表現サレテ居ルコトハ、是ハ世界的ノコトト言ツテモ宜イ、必ズシモ是ハ社会主義ノ言葉トカ、共産主義ノ言葉ト御取リニナラヌデ宜イ
○芦田委員長　私ハサウ云フ意味ヂヤナイ、唯酷使ト云フ言葉ガ労働者ガ十分ナ生活水準ヲ維持スルダケノ賃金ヲ得ナイト云フ事実ヲ以テ、直グ酷使ト云フ言葉ニ当ルカ、酷使ト云フノハモツト故意ニ基ク虐待ヲ意味スルノデハナイカ
○鈴木（義）委員　サウデス、ソレガ言葉ノ固有ノ意味デス
○森戸委員　此処デハサウ云フ風ナ言葉ヲ考ヘテ使フト、ソレガドウシテモ当ラヌト言ヘバ、ヤハリ搾取ニ戻スヨリ仕様ガナイ
○芦田委員長　搾取ト言ヘバ、是ハ近代国家ニ於テモ屡々問題ニナツテ居ルト思フノダガ、酷使ト云フヤウナコトハ、余程ノ野蛮国ノヤツテ居ルコトデネ
○鈴木（義）委員　残虐ナル刑罰ノ、残虐ト似タモノデス
○森戸委員　非常ニ広イ意味ニ解釈シテ、サウ云フヤウニ用ヒヨウカト云フノデス
○芦田委員長　是ハ私ノ私見デアツタノデスガ……
○鈴木（義）委員　是ハ御尤モナ私見デス、使ヒタクナイ言葉デスケレドモ、無理ニ使ハウト云フノデス
○廿日出委員　実ハ私ハ其ノ搾取ト窮乏ト並ビ立ツテ居ルノデスガ、読ンダ瞬間ニ、是ハ一体搾取ト云フ言葉ハ、勿論「マルクス」ニ能ク使フ言葉ダケレドモ、其ノ反対ハ寧ロ独占資本ト云フヤウナ、独占トカ占有トカ云フ意味ニ相当スルノデハナイカト思ツタ、穏ヤカニ或ル一定ノ特定ノ独占、占有ト云フヤウナモノガアルカラ、多数ガ貧乏スルト云フヤウナ、経済界ノ方カラ言ツタナラバ、極メテ貧弱デ平凡過ギルコトカ知ラヌガ、サウ云フ意味ニ取ツテ、独占、困窮ト云フヤウナ極クサラツトシタコトデト思ツタノデスガ、是ハ唯私ノ直感デス
○森戸委員　イヤ、ソレモ理由ガアルノデスガ……
○芦田委員長　何カ良イ字ガアリマセヌカ
○森戸委員　ドウモ一般的ニ普通ニ用ヒラレテ居ル言葉ハ搾取デアツテ、私ハ搾取ガ本来宜イト思フノデス、不当ナ安イ賃金デ使ハレテ居ル状態、ソレヲ一般ニ現ハスノニハ搾取ト云フ言葉ガ宜イノデ、酷使ト言フト、稍々肉体的其ノ他デサウ云フヤウニ不当ニ使ハレテ居ル、斯ウ云フ意味ニ見ラレル、多少無理ナ使ヒ方デスケレドモ、搾取ニハ非常ニ「イデオロギー」的ナ臭イガ強イノデイカヌト云フコトデアレバ、ソレデモ宜イト云フ程度デス、ソレガ宜イト云フ訳デナイ、元ニ還スコトニ付テハ私ハ賛成デス、ソレカラ独占ト云フ御話、サウ云フコトモ一方考ヘラレルノデスガ、其ノ結果起ル搾取状態カラ続イテ起ル窮乏ト云フヤウナ意味デ並ベテアル訳デス
○江藤委員　私ハ搾取ト云フ字ヨリモ、酷使ノ方ガ宜イト思ヒマス、搾取ト云フ字ハ、最初カラサウ感ジタノデスガ、其処ニ非常ニ「イデオロギー」的ナ色彩ガ強ク現ハレルト思フ、酷使ト言ヘバグツト一般的ナ意味ニ使ハレ得ル言葉デスカラ、其処ニ特殊ナ「イデオロギー」ト云フカ、サウ云フヤウナモノガナイト思フ、ソレデヤハリ酷使ノ方ガ宜イノヂヤナイデスカ
○犬養委員　是ハ隷従ト云フノモ、今ノ社会デハ厳密ニ言ツテ完全ナ隷従状態ト云フ場合ニハ、大体道徳的ニ戒メル意味ガアルノヂヤナイカ、サウ云フ意味ナラバ酷使ガ入ツテモヲカシクナイ、現実的ニサウ云フ状態ガアルトカナイトカ云フコトヨリモ、多少戒告的ナ意味ガアル、サウ云フ意味ナラバ、酷使ト隷従ト使フコトモ不適当トモ思ハレナイ
○廿日出委員　今誰カ仰シヤツタ虐待程度ナレバ、若シソコヘ戒メ的ナモノヲ加ヘテ、ソレガ又経済的ニモ非常ニ大キナ、実ハ自主的ナ影響ヲ持ツモノト思フ、虐待ト言フト一寸軽クナル
○森戸委員　虐待ト云フ言葉ハ余リ道徳的デ、産業関係ノ方ガ殆ド現ハレテ居ナイ、酷使ト云フト、産業関係ノ方モ先ヅ少シ意味ヲ広メレバ入ルノデスガ……
○犬養委員　慾ヲ言ヘバ第三ノ宜イ字ガ欲シイデスネ
○芦田委員長　是デ一寸面白イコトハ、酷使ト云フコトハ英語デハ「エクスプロイテーション」、児童ヲ酷使シテハナラナイト云フ所ノ箇条ヲ見ルト、酷使ト云フコトハ「エクスプロイテーション」ト訳シテ居ル、日本デハ「エクスプロイテーション」ト言ヘバ、酷使ト云フ意味ニモ使ヘバ、搾取ト云フ時ニモ「エクスプロイテーション」デセウネ
○鈴木（義）委員　ソレダカラ之ヲ訳ス時ニハ「エクスプロイテーション」ニナル、ソコハ我々ノ目的ヲ達スルコトニナル
○芦田委員長　一寸我々ガ読ムト「我らは、平和を維持し、專制と隷從と壓迫と偏狹」云々カラ、「名譽ある地位を占めたいものと思ふ」ト云フ一句デスネ、ソレヲ又今度ハモウ一ツ繰返シテ其ノ次ニ言ツテ居ル、是ハ要スルニ同ジコトヲ言ツテ居ルト思フ、「我らは、すべての國の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から解放され、平和のうちに生存する權利を有する」、同ジコトヲ言ツテ居ルノデス、繰返シデス、唯一方ハ自分ハ斯ウ念願スルト云フコトト、世界ハ斯ウダト云フコトヲ、アトハ確認スルト云フダケデ、内容ハ殆ド同ジヤウナコトヲ言ツテ居ル、其ノ恐怖ト欠乏ト云フ意味ガ、隷従ト圧迫ト偏狭ノ所ニ当ルノデセウナ、隷従ト圧迫ト云フヤウナコトガ……
○森戸委員　是ハ前ノ方ハ一般ニ人類間ニ存在スル、斯ウ云フコトヲ除ケヨウト云フノデ、後ノ方ハ「ネーションズ」ノ間ニアルサウ云フ関係ヲ除カウ、国ト国トノ関係ト云フコトガ主眼ニナツテ居ルノヂヤナイデセウカ、全世界ノ国民ガオ互ヒノ間デ平和ニ生存シヨウ、ソレカラ一方ノ国ガ貧乏デ、他方ノ国ガ金持デアツタリ、一方ガ軍備ヲ以テ他方ヲ脅カシタリ、サウ云フコトヲセズニ、国々ガ平和ニ生活スル権利ヲ有スルト云フコトデアル、ソレカラ前ノ方ハ、其ノ国々ト云フコトヨリハモツト広ク、人類一般ガ国際関係デハ平和ヲ維持シ、国内オ互ヒノ人間ト人間トノ交際ニ於テハ専制、隷従ト行ク、斯ウ云フヤウニ行ケバ両方多少違ツタ意味ヲ持ツト見受ケラレル
○芦田委員長　併シ森戸サンノ御説明ハサウ云フ風ニモ取レルガ、併シ英文ノ翻訳ト照シ合セテ見テモ、専制ト隷従、圧迫ト偏狭ト云フコトハ、国際社会ノ形容詞デスネ
○森戸委員　国際社会ノ目標ヲ示シテ居リマス
○芦田委員長　「インターナショナル・ソサエティ」ト云フコトノ説明ナンダ
○森戸委員　「デディケーテッド」デスネ
○芦田委員長　「ディザインド」及ビ「デディケーテッド」ダカラ、初メノ方デモ必ズシモ国内的ニサウシロト云フ意味デモナイノダ、アナタノ言ハレルヤウナ色合ハ確カニアリマス、私モ決シテソレハ否定シナイガ、其ノ色合ガ非常ニ「デリケート」デアツテ、ソレ程判然ト区別スル程ノ違ヒガアルカドウカ
○森戸委員　「プリザヴェーション・オブ・ピース」、平和ヲ維持スルト云フコトハ、寧ロ国際関係ニ入ツテ、専制ト隷従ト、圧迫ト偏狭、「ティラニー」ト「スレーヴァリー」、「オプレッション」ト「イントレランス」ト云フノハ国内関係ノ問題ガ主トシテアルト思ヒマス、言葉遣ヒデモ大体サウ云フヤウニ解スルノガ普通ヂヤナイカト思ハレマス
○芦田委員長　併シ後ノ方ノ、アナタノ言ハレル国際的ダト云フ説明、ソレハサウモ読メルガ、一体「トゥ・リヴ・イン・ピース」ト云フノハ必ズシモ国際的ノ問題バカリデハナイト思フ、我々ガ平和ノ中ニ生存スルト云フ意味ハ、安泰ナ静穏ナ生活ヲ営ムト云フ意味デハナイデスカ、仮ニ国内関係ガナクトモ、内乱トカ闘争トカ云フモノヲ避ケテ、サウシテ静カナ生活ヲ送リタイト云フ場合ニ、「トゥ・リヴ・イン・ピース」ト云フコトハ言ヒ得ルデセウ
○森戸委員　ソレハ言ヒ得ルト思ヒマス、確カニ言ヒ得ルガ、併シココノ平和ト述ベテアル主眼点ハ、大抵ノ場合、恐ラク殆ド全部ノ場合、国際平和ノ意味デハナイデセウカ、此ノ観念ヂヤナイカ、一般ニ憲法ニ於テ、国内平和デナク、国際平和ト云フコトガ、平和ト云フ言葉デ言ヒ表ハサレテ居ルト思ヒマス
○芦田委員長　ソレハサウカモ知レヌ、併シコト程左様ニ此ノ相違ト云フモノガ「デリケート」デアル、ドウデスカ、是ハドウシテモ御入レニナラナクチヤ気ガ済マヌデセウカ
○吉田（安）委員　私ハ窮乏ト搾取ヲ此処ニ御入レニナラウトスルコトハ、結局御説明デモ大体分ツテ居リマスガ、資本主義的ニ搾取ヲ矢鱈ニスル、其ノ搾取ガアル為ニ結局窮乏ト云フコトヲ齎ス、ソレデサウ云ツタコトガナイヤウニ、地上カラ之ヲ除去ショウト云フ意味カラ窮乏ト搾取、斯ウ云フヤウニ考ヘテ居ル、サウナルナラバ、窮乏ノ対象トシテハ、酷使ヨリモ搾取ノ方ガ適当ヂヤナイカト思フ、併シ先ノ方ニ恐怖ト欠乏ト云フ二ツガアリマスガ、結局文章ノ前後ノ関係カラ行ケバ、一応森戸委員ノ仰シヤルヤウナコトニモ考ヘラレマス、併シ又是ハヤハリ前ノ専制、隷従、圧迫、偏狭ト云フコトト恐怖、欠乏ハ掛ツテ居ルノダト思フ、ソレデ恐怖ト欠乏ガ此処ニアリマスカラ、強ヒテ此処ニ窮乏ト搾取ヲ御入レニナラヌデモ宜クハナイカ、斯ウ云フ風ニ思ツテ居リマス
○大島（多）委員　議事進行ノ上カラ――ドウデゴザイマセウカ、アナタ方ノ御気持ハ能ク分リマスガ、全般的ナ御賛成モナササウニ思ヒマスノデ、此ノ点ハ御願ヒ出来マセヌカ、サウシテ此ノ四字ナラ宜イケレドモ、ソレガ六字ニナルト少シ長過ギルヤウナ気ガ私ハ致シマスガ、ドウデスカ
○鈴木（義）委員　ソレデハ此ノ点ニ付テハ今一応社会党デ協議致シマシテ、午後ノ劈頭ニ最終ノ決定ヲ御持チ致シマス
○芦田委員長　ソレデ結構デス、ソレデハ廿日出委員ノ案ヲ一寸読ンデ下サイ
○廿日出委員　実ハモウ皆サンモ皆御希望デアツタ筈デアリマスガ、此ノ文章ガ全ク翻訳的デアル、初メテ読ンデ何処ヘドレガドウ付イテ居ルノカ分ラヌ、斯ウ云フヤウナ御話デアリマシタモノデスカラ、成ベク是ハ――勿論ドチラガ原文ニシタ所デ、オ互ヒニ総合シテ必ズ分ル所マデ行カナケレバナラヌ、是ハ一ツノ原則トシマシテ、ドチラカト云フト、ソレヲモツト一歩進メテ日本人ガ作ツタ文章ラシイモノニ成ベク近付ケヨウ、斯ウ云フ努力ヲ前文ニ関スル限リ払ツテ差支ナイノヂヤナイカ、随テ私ハ、所謂憲法ノ各章各条ニ亙ツテノ其ノ言葉ノ使ヒ方ニ付キマシテハ、特定ノヤハリ一ツノ習慣ガアツテ、随分困難ナ条文ニ出会スト思ヒマスケレドモ、前文ニ関スル限リ相当思ヒ切ツテ、法律的ナ用語ヲ碎イテト申シマスカ、ソレト離レテ……
○芦田委員長　ソンナニ大キナ問題ナノデスカ、私ガアナタノ案ヲト言ツタノハ、此ノ人類普遍ノ原理ト云フ所デ切リタイト云フモノデアツタノデス
○廿日出委員　ソレデ是非入レテ貰ヒタイト云フノガ一ツト、色々ト英文ノ方モナニシテ戴イテ、是非是ハ誰ニモ分リ易クスル為ニモ、此ノ私ノ方ノ日本憲法、其ノ内ノ二行目……
○芦田委員長　サウデナシニ、「その福利は國民がこれを享受するものである」デ切ツテアルデセウ、ソレヲ切ラナイデ「人類普遍の原理であり」ト云フ所デ切ツテ戴キタイ
○廿日出委員　ソレヲ北委員ガ熱心ニドウシテモ通シテ呉レト云フ熱意モアリマシテ「これを享受することは人類普遍の原理である」ト色々ナ意味カラ此処ヘドウシテモ附ケタイ、若シ何ナラバ、慾ヲ言ヘバ色々ト文章ラシイモノヲ考ヘテ見ルト「これを享受することは人類普遍の原理である」ト言ヘバ宜イノデス
○犬養委員　是ハ北委員ノ御意向デスカ
○廿日出委員　ソレハ私モ同様デス、自由党モ皆サウ思ツテ初メカラ是デ進ンデ居ツタ、何モ原文ト殆ド変リハアリマセヌ、ソレダカラ無理ニアソコデ切ル必要ハナイヂヤナイカト随分喧シク主張サレタ、アノ時分ハ北サンガ自由党ノ全権大使見タイダツタ、私等モソレデ賛成シテ居ツタ、ダカラ改メテ斯ウ云フ時ニハ、此処ハ大切ナ点ダカラ是非一ツト云フコトデ意見ガ一致シタ訳デス
○芦田委員長　其ノ点ハ笠井重治君ガ主張サレタ意見デアツテ、「これを享受することは人類普遍の原理である」ト斯ウ切ツテ、「この憲法はこの原理に基くものであつて、我らは、これに反するもの……」斯ウ云フ風ニシタイ、斯ウ云フ訳デスネ廿日出サン、今ノアナタノ案ハ「その福祉は國民がこれを享受することは人類普遍の原理である」……
○廿日出委員　前ト殆ド同ジコトデス、ソレヲ言葉デ続ケタ訳デス、若シ何ナレバ即チヲ入レレバ宜イ、是ハ文語体ニナルカドウカ分リマセヌガ……
○吉田（安）委員　今廿日出サンノ言フコトハ分リマスガ、其ノ修正ハ自由党ノ修正案ニ出テ居ル其ノ侭ダト思ヒマス、サウスルト先般委員長カラ各派デ話合ヒヲシテ、決定案デハナイガト云フコトデ印刷シテ特ニ御配リニナリマシタノハ、是ハ大体是デ落着カウト云フ意味デハナカツタノデスカ
○江藤委員　サウデス
○犬養委員　其ノ気持ダ
○芦田委員長　委員ハサウ云フ積リデ持帰ツタノデスガ、党ノ内部デサウ云フ異議ガ出テ来タ、ソレデドウシテモ委員ノ立場トシテハ一応御相談ヲセザルヲ得ナカツタカラ、持ツテ来タト云フコトデス
○鈴木（義）委員　ソレハ結構デス、已ムヲ得ナイガ、反対デス、此ノ通リデ宜シイ、今マデ考ヘ抜イテ来タノダ、ドンナニ名文デモ、三日間考ヘタツテ、言葉ガ不完全ナノデスカラ、サウ巧ク行ク筈ハナイ
○犬養委員　サウ云フヤウニ此処デ討議ヲスルト、私共ノ方ハ後ノ第三章ノ労働ノ方デ随分問題ガアル、委員ハ見識ヲ持ツテ居ルト云フコトガ大切ダ、帰ツテ第三者ニ追捲ラレテ来ルノデハ困ル
○廿日出委員　撤回シマス
○犬養委員　北サンガ居ラレナイデ、サウ言ツテ置イテ呉レト云フコトハ反対デス、自分デ忠実ニ出テ来ナケレバイケナイ
○芦田委員長　ソレデハ第一章ハ是デ……
○廿日出委員　若シサウナレバ私ハ儼然タル意味デ、モウ一ツドウシテモ是ハ政府委員ノ方ニ聴キタイノデスガ、皆ウツカリシテ居ツテ時ニハ抜カスコトモアリマス、千慮ノ一失ト云フコトモアリマス、私ハ是非一ツソレヲ入レル方ガ当然デアリ、入レテ居ナイコトガアルト思フノデス、ソレハ一番最後ノ所デス、英文ヲ見テ下サイ、此ノ草案ハ「日本國民は、國家の名譽に懸け、全力をあげてこの高遠な主義と目的を達成することを誓ふ。」、斯ウナツテ居リマス、英文デハ其処ハ「ディターミンド・ウィル」、若シ此ノ翻訳ガ正シイナラバ、日本文ノ方モ、「異常の決意の下に」ト斯ウ云フノガ入ツテ居ナイト思フ
○芦田委員長　ソレハ「全力をあげて」ト云フコトデ形容シタノデス
○廿日出委員　ソレハ「フル・リソーセス」デス
○芦田委員長　ソレハ英文デ訳スルト、精神力ト物質力トヲ書キ分ケテアルノデアルガ、ソレハ日本語ノ書キ方デ行クト、全力ヲ挙ゲテト云フノヲ物質的ニモ精神的ニモ凡ユル力ヲ挙ゲテト云フコトデ……
○廿日出委員　「異常の決意の下に」ト入レテ戴カナケレバナラヌ
○芦田委員長　「全力をあげて」ノ代リニ、「異常の決意の下に」ト……
○廿日出委員　サウデハナイ、「日本國民は、國家の名譽に懸け、異常の決意の下に、全力をあげてこの高遠な理想と目的を達成することを誓ふ。」
○芦田委員長　ダカラアナタノ修正案ノ文句ハドウ云フ風ニナルノデスカト云フコトヲ御尋ネシテ居ルノデス
○廿日出委員　今読ンデ居ツタ「日本國民は、國家の名譽に懸け、異常の決意の下に、全力をあげてこの高遠な理想と目的を達成することを誓ふ。」
○芦田委員長　「全力」ノ上ニ「異常の決意の下に」ト……
○廿日出委員　サウスルト、英文ノ方ニモアリマスヤウニ、「ディターミンド・ウィル」ト云フノハ、別ニドウト云フコトナシニ巧ク表ハレテ来ルノデハナイカト思ヒマス
○鈴木（義）委員　サウ云フ風ニ考ヘルト切リガナイ、甚ダシクトカ、非常ニトカ云フコトヲ繰返サナケレバ承知出来ヌト云フコトデ、演説ナドヲヤルト畳ミ掛ケテ激シイ言葉ヲ使フ人ガアリ、又アツサリヤツテ印象ヲ人ニ強ク与ヘル人モアルデセウ、立派ニ是ダケデ英文ト同様ノ意味ガ出テ居ルト思ヒマス
○廿日出委員　撤回シマス
○芦田委員長　ソレデハ第一条デアリマスガ、マダ此ノ第一条ノ問題ヲ最後的ニ討議スル準備ガ出来テ居ナイノデスガ、明日マデ此ノ討議ヲ延期シテ下サルコトヲ希望シテ居ルノデス、如何デスカ
○大島（多）委員　賛成
○鈴木（義）委員　已ムヲ得ナイデスガ、何カ対外的ノ関係デスカ、或ハ党ニ対スル御関係デスカ
○芦田委員長　速記ヲ止メテ
　　　　〔速記中止〕
○芦田委員長　ソレデハ速記ヲヤツテ宜シウゴザイマス――第二章ニ参リマシテ、宣言スルト云フ言葉ニ付テ色々議論ヲシタノデアリマスガ、若シ宣言スルト云フ字ヲ取ツテ、此ノ間ノ修正案ノ通リデ、多数ノ委員諸君ノ異議ガナケレバ、是ハ臨時ニ私ガ斯ウ云フ案ヲ作ツテ見タト云フ程度ノコトデスカラ、最後ノ宣言スルト云フ文字ヲ削ツテ、ソレデ一応ノ修正トスルコトニ御異議ガナイデセウカ、第二章ノ九条デス
○鈴木（義）委員　今一度念ノ為ニ……
○芦田委員長　読ミマセウカ
○鈴木（義）委員　読マナクテモ分リマスガ、非常ニ私ハ心配スルノデス、ドウモ交戦権ヲ先ニ持ツテ来テ、陸海空軍ノ戦力ヲ保持セズト云フノデハ、原案ノ方ガ宜イヤウニ思フノデス、其ノ点ニ付テ十分御考慮下サツタデセウカ
○芦田委員長　私ハ之ヲ保持シテハナラナイト云フ書キ方ガ……
○鈴木（義）委員　イヤ其ノ書キ方ヲ変ヘルノハ賛成シマスガ、順序ヲ変ヘルコトデス
○芦田委員長　順序ヲ変ヘルノハ其ノ人ノ趣味デ、例ヘバ演説ヲスル時ニ、一番大事ナコトヲ一番初メニ言フ人モアレバ、一番大事ナコトハ最後ニ言フ人モアル、是ハ其ノ人其ノ人ノ趣味デアツテ、偶々私ノ趣味ガ一体交戦権ハ之ヲ認メナイト言フカラ、戦争ヲ抛棄スルト云フ結果ガ出テ来ルノダ、戦争ヲ先ヅ抛棄スルト言ツタ其ノ後デ、交戦権ハ之ヲ認メナイト言フコトハ、ドウモ順序ヲ得テナイ、ソレダカラ初メニ交戦権ハ認メナイト言ツテ置イテ、国際紛争ヲ解決スル為ノ戦争ハ之ヲ抛棄スル、斯ウ云フコトガ原則カラ出テ来ル結果ナンダカラ、ソレデ後ニ書イタ方ガ宜イ、斯ウ云フ風ニ私ハ感ジタノデス
○鈴木（義）委員　或ル国際法学者モ、交戦権ヲ前ニ持ツテ来ル方ガ、自衛権ト云フモノヲ捨テナイト云フコトニナルノデ宜イノダト云フコトヲ説明シテ居リマシタ、ダカラ色々利害ハアルノデスケレドモ、何カ先達テ金森国務大臣ハ、戦争ノ方ハ永久ニ之ヲ抛棄スル……
○芦田委員長　金森君ト私ノ意見ハ、其ノ点ニ於テ違フノデス
○鈴木（義）委員　ソレモ分リマス、十分御考慮下サツタ後デ、ソレデ宜イト云フコトデアレバ私ハ強ヒテ反対シマセヌ
○犬養委員　是ハ一寸法制局ニ伺ヒマスガ、第九条ノ第一項ハ今一寸鈴木君ガ触レラレマシタガ、是ハ永久不動、第二項ハ多少ノ変動ガアルト云フ、何カ含ミガアルヤウニ、一寸此ノ間国務大臣ノ御発言ガアツタノデスガ、サウ云フ含ミガアリマスカ
○佐藤（達）政府委員　正面カラサウ云フ含ミガアルト云フコトヲ申上ゲルコトハ出来ナイト思ヒマスガ、唯気持ヲ分リ易ク諒解シテ戴ケルヤウニ、金森国務大臣ハアア云フ言葉ヲ御使ヒニナツタノダラウト思ヒマス
○犬養委員　随テ此ノ順序ハ無意味デナクテ、相当意味ガアル……
○佐藤（達）政府委員　意味ガアルト云フコトヲ申シタイ為ニアア云フ表現ヲ使ハレタト思ヒマス
○犬養委員　是ハ一応論議ノ対象ニナル
○鈴木（義）委員　ソレカラ是ハ別ナコトデスガ、念ノ為ニ此ノ条文ニ付テ一寸申上ゲテ置キタイノデス、「國の主權」ト云フノヲ「國權」ト直シマシタネ、併シ国権ヲ英語ニ訳ストキニ変ナ訳シ方ヲサレルト却テ迷惑スル、英語ノ方デハ「シュターツゲワルト」ニ相当スル言葉ハ、無理ニ使ヘバ「パワー・オブ・ステート」ト云フ言葉モアリマスケレドモ、ソレハ適当デナイ、英語デハ主権モ国権モ共ニ「ソヴァレンティ」デス、ダカラ此ノ通リデ宜イト云フコトヲ御諒承願ヒタイト思ヒマス
○大島（多）委員　アノ宣言ハ取ツテシマフト云フ
○芦田委員長　ソレヲ今御相談シマス、今第一項ト第二項トドウシヨウカト云フ議論ニ入ツテ居ツテ、其ノ文句ノコトヲマダ決メテ居ナイノデスガ、若シソレヲ取レバ、第一項ノ一番終ヒガ「その他の戰力を保持せず」、此処デ一寸「又」ト云フ字ヲ入レタ方ガ、何ダカ日本語トシテハ宜イヤウナ気ガスルノデスガ「又國の交戰權を否認する」……
○鈴木（義）委員　「保持せず」ト云フ言葉ハ口語体トシテ一寸ドウデスカ
○芦田委員長　「保持しない」トスルト、此処デ切ラナクテハナラヌデスネ、ソレデ此ノ前、原委員カラ、ヤハリ「保持せず」トシタ方ガ力強ク且ツ筒潔ニ出ルノデハナイカト云フ御意見ガ出タノデスガネ
○鈴木（義）委員　ソレハサウ思ヒマスガ、唯全体ガ口語ニナツテ居ルモノデスカラ……
○芦田委員長　「せず」ト云フノハ口語ヂヤナイノデスカネ
○鈴木（義）委員　口語ニモ使ハレマセウネ、唯感ジガサウ出テ来ナイヤウナ気ガスル
○犬養委員　江藤サン、順序ハドウデスカ
○江藤委員　順序ハドウモ原文ノ方ガ宜イヤウナ気ガスルノデスガネ
○吉田（安）委員　昨日デシタカ、金森国務大臣ガ一寸言ウテ居ラレタ永久ト云フコト、第一項ト第二項ノ何デスガ、今又法制局ノ佐藤サンカラノ御話、サウ云ツタコトヲ考ヘマスト、大分是ハ強サニ於テ第一項ト第二項――勿論第二項ハ何デスガ、含ミガアルヤウニ考ヘラレルノデスガ、サウスレバ是ハドウデセウカ、ヤハリ原文ノヤウニシテ置イタラ如何デセウカ
○芦田委員長　ソレデハ私モウ一ツ説明シナカツタ理由ヲ申上ゲマス、原文ノ侭ニ第二項ニ置イテ、サウシテ文句ヲ変ヘルト、関係筋デ誤解ヲ招クノデハナイカ、独立ノ条項トシテ置ク限リハ「これを保持してはならない」、「これを認めない」ト云フ風ニシナイト、ドウモ却テ修正スルコトガ薮蛇ニナルノダカラ、ソコデドウシテモ日本ハ国際平和ト云フコトヲ誠実ニ今望ンデ居ルノダ、ソレダカラ陸海軍ハ持タナイノダ、国ノ交戦権モ認メナイノダ、斯ウ云フ形容詞ヲ附ケテ「戰力を保持せず」ト言フコトノ方ガ、其ノ方面ノ交渉ノ時ニハ説明ガシ易イノデハナイカ、此ノ侭ニ置イテ此ノ第二項ノ英文ヲ書換ヘルト云フコトハ相当困難ヂヤナイカ、斯ウ云フ理由モアツテ、ソレデ之ヲ一定ノ平和機構ヲ熱望スルト云フ機構ノ中デ之ヲ解決シテ行ク、斯ウ云フ風ニ実ハ考ヘタノデス
○犬養委員　今言ハレタ国際平和ヲ誠実ニ希求スルト云フ前文ハ、順序ヲ変ヘテモ入レテハイケナイノデスカ
○芦田委員長　ソレハ併シ紛争解決ノ手段トシテ永久ニ之ヲ抛棄スルト云フコトモ、ヤハリサウナンデスネ、ソレナラ初メト……
○犬養委員　私ノ言フノハ、九条前文ガ、事態斯クノ如クニナツテハ万已ムヲ得ナイト云フヤウナ、読ンダ後味ガアルノデ、積極的ニ何カ入レタイト云フノガ抑々ノ私ノ発言ナンデス、其ノ趣旨ヲ御賛同願ツテ段々文章ガ変ツテ来タヤウデスガ、最初ニ委員長ガ言ハレタ文章ハ非常ニ良イ文章ダ、ソレヲ第一項ニ入レテ順序ハ原文通リニシタラ、何処カ差支ヘノアル所ガ起リサウデセウカ
○芦田委員長　結局私ノ考ヘハ、第二項ヲドウ云フ風ニシテ書換ヘルカト云フコトガ一ツト、ソレカラ日本ガ国際平和ヲ望ムト云フコトヲ入レタイト云フコトモ一ツデ、其ノ為ニハ斯ウ云フ風ニシテ原文ヲ第一項ト第二項トヲ変ヘテ、ソシテ戦力ノ問題、交戦権ノ問題ヲ形容詞ノ下ニ包含サセルナラバ、是ハヤツテ見ナケレバ分ラナイガ、其ノ方ガドウモ説明ガ楽ニ行クヤウニ思フ
○吉田（安）委員　私ハ委員長ノ修正案文ハ最初カラ非常ニ賛成デス、鈴木委員ノ御説モアリマスガ、委員長ノ仰シヤルコトニ賛成シマス、併シ金森サンノ仰シヤツタコトニ一寸引掛リガアリマスガ、何カ将来第二項ノ方ハモウ少シドウニカナリハシナイカト云フ気ガスルノデス
○芦田委員長　併シソレハ憲法ノ書キ方デ決マルノデハナクテ、今後ノ日本ノ民主化ノ程度、国際情勢デ決マルノダカラ、私ハ此処ニ「永久」トアルカラ、何カアルト云フヤウナコトハ、形ノ上ノ問題トシテハ非常ニ重要ダガ、実際問題トシテハサウ大シタ変リハナイト思フ
○原（夫）委員　私ハ草案ノ原文ヲ非常ニ尊重シ、又委員長ノ修正案ニ付テモ非常ナ御苦心ダツタコトヲ思ツテ、一字一句忽セニシナイデ読ンデ大体会得致シテ居ルノデスガ、色々ナ本日ノ御議論ノ跡ヲ考ヘテ見マシテ、イツソ是ハ第九条ノ冒頭ニ「國の主權の發動たる戰爭」トアル上ニ、少シ文字ガ欲シイヂヤナイカト云フ今犬養君ノ言ハレタ趣意カラ是ハ出発シテ居ルノデスガ、ソコヘ帰ツテ一応考ヘテ見ル所ニ依リマスト、委員長ノ修正案ノ「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し」ソコマデ取ツテ、サウシテ前文ニ続ケル、ソレ位ノ所デハドウデセウカ
○鈴木（義）委員　賛成デス
○原（夫）委員　委員長ノ労苦ヲ感謝シテ、賛成ハシテ居ツタノデスガ……
○芦田委員長　サウスルト原案通リニナルノデスネ
○鈴木（義）委員　原案ノ前ニ「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し」、ソレカラ「國の主權の發動たる戰爭」、斯ウ云フ風ニ続ケテ、ヤハリ一項、二項ト云フコトヲ原案ノ侭ニ残シテ置イテ宜イ
○芦田委員長　サウスルト二項ハ変ヘナイト云フコトデスカ
○鈴木（義）委員　サウデス
○芦田委員長　是ハ人ノ趣味ノ問題ダガ、之ヲ読ンデ、陸海空ノ戦力ハ之ヲ保持シテハナラナイト云フト、何ダカ日本国民全体ガ他力デ押ヘ付ケラレルヤウナ感ジヲ受ケルノデスネ、自分デ……
○大島（多）委員　ソコノ第二項ノ所ヲ斯ウ云フ風ニ修正シタラドウデセウカ、「陸海空軍その他の戰力の保持及び國の交戰權はこれを認めない」……
○芦田委員長　ダカラソレダケヲ独立シテ、サウ云フ風ニ直スコトガ果シテ関係方面ト簡単ニ旨ク行クカドウカ
○大島（多）委員　イヤ、ソコノ所ハ私ガ言ツタヤウニスル方ガ英文ニ忠実デスヨ、ソコノ所ハ「ワン・センテンス」ニナツテ居ナイノデス、私モ之ヲ考ヘマシテ、是ハ一文ニシタ方ガマシダト思フノデスガーー是ハ二ツノ文章ニナツテ居リマスガ、ソレハ一文ニシテモ、チツトモ意味ガ変ラナイト私ハ考ヘマス
○芦田委員長　併シ欲セズト云フコトハ、「ウィル・ネヴァ・ビー・オーソライズド」ト云フ言葉ノ翻訳トシテハ、是ハ英文ハ変リマセヌトハ言ヘナインヂヤナイデスカ、相当強イ言葉デスヨ、決シテ許可ハシナイ、斯ウ書イテアル
○鈴木（義）委員　元来戦争ノ問題ダカラ、何カ委員長ノヤウナ感ジヲ私共モ最初ハ持ツタンデスガ、考ヘテ見ルト、憲法ハ国家機関ニ対スル命令ヲ規定シテ居ルコトガ非常ニ多イ、何々ヲ保障スル、何々ヲシテハナラナイ、思想及ビ良心ノ自由ヲ侵シテハナラナイト云フノデアツテ、国家機関ガ、将来ノ政府ハ陸海空軍ヲ設置シテハナラナイト云フコトヲ命令シテ居ルンデスカラ、差支ヘナイト思ヒマス
○芦田委員長　ダカラ初メ申上ゲタヤウニ、是ハ趣味ノ問題ダガ、我々ノ趣味デハ、其ノ他ノ戦力ハ之ヲ保持シテハナラナイト云フヤウナ言葉ヲ読マサレルコトガ何ダカ……
○吉田（安）委員　ソレハ分ル、辛イ
○芦田委員長　保持セズト云フナラバ自分ノ決心ダガ、「オーソライズド」ト云フ字ヲ使ツタ所ハ外ニナイデセウ、此処ニ限ツテ「ネヴァ・ビー・オーソライズド」ト斯ウ書イテアル、ソレガ何トナク我々ニハ辛イノデ、ソコデ保持シテハナラナイト云フヤウナ、一種ノ受動的ナ形デナク、自発的ニ之ヲ保持セズト……
○鈴木（義）委員　保持セズトシタ時ハ、ドウ御訳シニナルンデスカ
○芦田委員長　是ハ余リ良イ翻訳デモアリマセヌケレドモ、「ナット・メーンテン・ザ・ランド・シー・エンド・エア・フォーシズ」――「ネヴァ・ビー・オーソライズド」ト云フヤウナコトハ書カナイデ、斯ウ云フ風ニデモシタラ……
○鈴木（義）委員　サウ神経過敏ニ考ヘナクテモ宜イト思フ、「オーソライズド」ト云フコトハ、要スルニ……
○芦田委員長　ソレハ法理的ニハアナタノ仰セラレル通リダト思フ、唯読ンダ時ニ、此ノ文句ガ気ニナル人ハ、私バカリデハナク、相当多イト思フ
○鈴木（義）委員　私共モサウ云フ感ジカラ、此ノ修正案ヲ考ヘテ提案シタ訳デスガ、偖テ段々思案シテ行ツテ手ヲ着ケテ見ルト、又元ヘ戻ツテ来テ、是シカナイト云フヤウナ感ジガシタモノデスカラ……
○芦田委員長　多数ガ原案デ宜イト云フコトナラ、是デモ宜イ
○原（夫）委員　原案ノ第一項ニ冠リヲ付ケル、斯ウ云フ……
○芦田委員長　唯簡単ニ之ヲ保持セズト云フ風ニ修正スル為ニハ、何カ一応ノ理窟ヲ述ベナクテハナラナイ、ナゼ斯ウ変ヘルカ、ソレニハヤハリ前文ノヤウナ形容詞ヲ付ケテ、「日本國民は誠實に平和を希求するが故に戰力を保持せず、交戰權を否認する」斯ウ云フコトガアツタ方ガ、修正ノ場合ニ幾分カ楽ニ行クンデハナイカ
○原（夫）委員　ソレハ総テ総合シテ、成ベクサウ云フ風ニシタイノハ山々ナンデスガ、私ナドモヤハリ最初カラ一項、二項ヲ区別シテ、交戦権ノ問題ト軍備ノ問題、此ノ関係ガ中々難カシイノデ、其ノ精神ヲ探求スルノニ、同文章ノ出来上リニ非常ニ苦心シタンデスガ、併シナガラソコマデ草案デ区別ガシテアルンデスカラ、戦争抛棄ト云フコトカラ、ヤハリ第二項モ来テ居ル訳デスカラ、ソコデ結局此ノ両方ヲ総括シタ何カ文句ガアレバ結構デスケレドモ、ソコマデナクテモ、第一項ノ戦争抛棄ノ頭ニ今言ツタ如ク「國際平和を誠實に希求し、國の主權の發動たる」ト言ヘバ、国際平和ヲ希念シタ国民ガ正義ト秩序ヲ基トシタノダト言フコトダケデモ、ココニ冠ガ掛カルト非常ニ文章ノ工合モ宜シ、観念上カラモ非常ニ宜イノヂヤナイカト思フ
○吉田（安）委員　私ハ個人トシマシテハ今原サンノ仰シヤツタコトモ能ク分リマスケレドモ、ドウモ第二項ヲ見マスト、是ガ此ノ侭デ憲法トシテ残リマス以上ハ、将来之ヲ読ム度毎ニ、国民ノ誰モガ如何ニモ他力的ニ情ナサヲ感ズルヤウナ気ガシマス、随テ委員長ノ仰シヤル通リ、是ハ積極的ニ之ヲ保持セズ、之ヲ否認スルト言ツタ方ガ宜イノヂヤナイカト私ハ考ヘマス、是ハ許サレナイ、保持シテハナラナイト云フコトハ一種ノ情ナサヲ感ズル、随テ個人トシテハ私ハ委員長ノ修正案ニ賛成ヲ致シマス
○林（平）委員　ドウモ其ノ日其ノ日ノ気持デ色々ニ変ルト思フノデスガ、今ノ第九条ハ先日満場一致デ修正サレ、唯宣言ト云フ文字ヲ残スカ残サナイカト云フコトダケガ問題トナツテ残ツテ居ツタ、又引繰返シテシマフト……
○犬養委員　此ノ条文ハ私ガ居ナイ為ニ保留サレタンデス
○芦田委員長　サウ云フコトハアリマセヌ、委員ガ一人欠席シタカラト云ツテ……
○林（平）委員　ソレデ宣言ト云フコトダケガ残サレタト私ハ承知シテ居リマス、ソレカラ斯ウ云フ風ニ修正シヨウト云フ重点ハ何処ニアルカト云フト、保持シテハナラナイト言ヘバ非常ナ刺戟ヲ与ヘル、此ノ点ニ重点ガアツタノデ、私ハ委員長案ニ賛成シタ訳デアリマスガ、今日モヤハリ其ノ心持ハ変ラナイノデ、委員長案ニ賛成致シマス、又其ノ宣言ヲ除クト云フコトニモ賛成致シマス
○原（夫）委員　此ノ前、宣言ト云フコトニ主ニ議論ガ集中ヲ致シタノデアツテ、法律文章トシテハ悪イノヂヤナイカト云フコトデ、之ニ重点ガ置イテアツタケレドモ、是ハ宣言ダケノコトガ問題ニナツタ訳デハナインデス、文章ハ全部ノ釣合等モアルモノデスカラ、ソコデ私ハ其ノ時ニ――今日ハ犬養委員モ出席デハナイシ、大体私モ賛成ハ致シタガ、其ノ次ニマデ延バサウト云フノデ、実ハ確定的ナ賛成意見モ私ハ述ベテハ居ナイ、出来ルダケ二度モ三度モ発言ヲシタクナイカラ、其ノ点詳シイコトハ申シマセヌデシタ、ソコハドツチニシタ所ガ、モノヲ良ク作ラウト云フ重大ナ案件デスカラ、サウ理窟ナク……
○芦田委員長　御趣意ハ能ク分リマシタ、ソレデハマダ進歩党ノ方デモ党トシテノ一定ノ意見ガオアリニナラヌヤウデアリマスカラ、是ハ後ニ廻シマセウ、ヤハリ党ノ意見ヲ纏メテ述ベタ方ガ……
○鈴木（義）委員　後ニスルト云ツテモ、切リガナイコトデスカラ、最後ノ結論ガ出テ来ルヤウニ、此処デ一応ハ決メテ置キタイデスネ、ソレデ私モ外ノ条文ナラバ蒸返シハ決シテ致シマセヌ、是ハ非常ニ心配シテ始終考ヘテ居リマシテ、佐藤君モ御存ジダガ、議場外ニ於テモ、ドウモアレハ心配ダカラ能ク国務大臣ノ意見モ聞イテ呉レ、順序ヲ変ヘルコトモドウカト色々話ヲシタ位デ、此ノ条文ハ恐ラク関係方面トノ関係ニ於テモ一番大事ナ条文ニナルト思フカラ、他ノ事ハ決シテ蒸返シシナイガ、是ダケハ除外例トシテ蒸返シテモ宜イト思フ
○芦田委員長　御説ノ通リ再検討スルコトニシテ、今一寸拝見スルト必ズシモ一ツノ党デモマダ意見ガ一致シテナイカラ、ヤハリ党ノ意見ヲ纏メテ御話ヲ願ハナイト纏メヤウガナイト思フカラ、後廻シニシテ……
○鈴木（義）委員　大体論点ハ此処ニアル、此ノ論点ヲ決メテ返事スルコトニ御願ヒシタイ
○原（夫）委員　私モ鈴木君ト同意見ダガ、此処デ英文ノ話カラ委員長ノ含ミナド色々考ヘサセラレル、デスカラ非常ニ研究ニナツテ喜ンデ居ルノデスカラ、モウ此ノ位ナ所デ一応片付ケテ戴キタイ
○芦田委員長　私モ一刻モ早ク終リタイノデスケレドモ、纏マリマスカ
○犬養委員　委員長ノ仰シヤツタ前掲ノ目的ヲ達スル為メト云フコトヲ入レテ、一項、二項ノ仕組ハ其ノ侭ニシテ、原委員ノ言ハレタヤウニ冒頭ニ日本国民ハ正義云々ト云フ字ヲ入レタラドウカトモ思フノデスガ、ソレデ何カ差障リガ起リマスカ
○芦田委員長　前項ノト云フノハ、実ハ双方トモニ国際平和ト云フコトヲ念願シテ居ルト云フコトヲ書キタイケレドモ、重複スルヤウナ嫌ヒガアルカラ、前項ノ目的ヲ達スル為メト書イタノデ、詰リ両方共ニ日本国民ノ平和的希求ノ念慮カラ出テ居ルノダ、斯ウ云フ風ニ持ツテ行クニ過ギナカツタ
○吉田（安）委員　ソコデ、正義ト秩序ヲ基調トスル国際平和ヲ希求シテ、此ノ希求ノ目的ヲ達成スル為メ、陸海空軍其ノ他ノ戦力ハ之ヲ保持シテハナラナイ、「これを保持せず」、斯ウシタラ「保持せず」ト直シテモ目的ガ謳ツテアルカラ、委員長ノ御苦心ガ生キル、委員長ト意見ノ違フ所ハ、一項ト二項ハ原文ノ侭デ、自発的ナ精神ヲ生カシテ……
○廿日出委員　委員長ノ御心配ニナツテ居ル二項ノ所謂他動的ナ文句、何ダカ属国デデモアルヤウニ国民ニ映ル卑屈ナ気持、之ヲ完全ニ除キサヘスレバ、私ハ此ノ第九条ハ解決スベキ問題ヂヤナイカト思フ、実ハ新聞ニ載ツタ時ノ文ハ、是ヨリ違ツテ、「戰力保持は許されない。國の交戰權は認められない」、斯ウナツテ居リマス、ソコデ誰モ皆気ヲ腐ラシタ、ソレガ今度此ノ文ニ現レタ時ニハ、「これを保持してはならない。」「これを認めない。」ト云フ程度ニナツテ居ル、是ハ変ツテ居ルト思ツタ、ソレヲ今度「保持せず」又ハ「保持しない」ト、ピシヤツトヤツテ置ケバ、非常ニ心ガスツトスルノデハナイカト思フ、ソレト同時ニ今前文ノコトヲ気ニシテ居リマシタケレドモ、本当ニアノ前文ガアレダケノ内容ヲ含メタ前文、サウシテ最後ニ「誓ふ」ト云ウタ、アレガ宣言ダ、其ノ宣言ノ後ニ此ノ九条ガ直グ来ルト見テ私ハ何等差支ヘナイト思ツテ居リマス、長イ間私ハ是デ苦シンデ居ル、皆カラモ責メラレタ、此ノ点ダケデモ直サナケレバナラヌト随分言ハレタ、ソコデドウカ第二項ノ所ハ何モ加ヘズニ、サツトヤツテ下サレバ一番解決スルノデハナイカト思ヒマス
○芦田委員長　サウスルト、今進歩党ノ案ハ「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、國權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、國際紛爭を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」、ソレカラ第二項ニ於テ「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戰力は、これを保持しない。國の交戰權は、これを認めない」
○廿日出委員　ソレデ宜シウゴザイマス、私ハ異論ハアリマセヌ
○鈴木（義）委員　ソレナラ大賛成デス
○大島（多）委員　ソコノ所ヲ英文ニ直ス時ニドウデセウカ
○鈴木（義）委員　其ノ程度ノ翻訳ハ許サレルト思ヒマス
○笠井委員　此ノ九条ノ「抛棄」ハ否認ニ変ヘルコトニ決定致シタノデスカ
○芦田委員長　イヤ、「抛棄」ニ還ツタノデス、唯「抛」ノ字ヲ放スト云フ字ニシヨウト云フノデス
○笠井委員　此ノ憲法ニ付テハ、随分「マッカーサー」ノ方デモ力ヲ入レテ居ルラシイデスカラ、成ベク此ノ原案ニ余程力ノアル文章ヲ作ツテ戴キタイト思フ、認メナイトカ何トカ簡単デナク――左様ニ御願ヒシマス
○江藤委員　私モ大体今ノ笠井サンノ御意見ト同ジデス、成タケ斯ウ云フコトハ原案ヲ忠実ニ作ルヤウニト云フコトデ宜イノヂヤナイカト思フ、サツキノ鈴木サンノ御話ニモアリマシタヤウニ、私等ハサウ抑ヘ付ケラレタト云フヤウナ感ジヲ殊更持タナイノデスケレドモ……
○芦田委員長　ソコハ非常ニ意見ガアル所デアリマシテ、感情ト言フカ、趣味ノ問題デ、勿論是デ何デモナイ人モ沢山アルニ違ヒナイ、又之ヲ見ル度ニ始終口惜シイ気持ノスル人モアルノダカラ、是ハモウ百人百様ノ印象ヲ受ケルノデ、決シテ其ノ感情ヲ強ヒヨウト云フ趣意デハナイノデスガ、併シ相当ニ神経ヲ起ス人ガアルトスレバ、神経ノ起ラナイヤウナモノニ直スコトガ出来ナイカト云フ問題ニ過ギヌノデス
○鈴木（義）委員　ドウデス、皆サン、折角纏マリカケテ来タノダカラ「保持しない」「認めない」ト云フコトデ原案通リ御賛成願ヒタイ
○廿日出委員　皆サン賛成デシタラ、私ハ異論ハアリマセヌ
○芦田委員長　サウスルト保持シナイト直スノデスカ
○鈴木（義）委員　サウデス
○芦田委員長　ソレデハモウ一遍読ンデ見マセウカ、「日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、國權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、國際紛爭を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戰力は、これを保持しない。國の交戰權は、これを認めない。」、斯ウ云フコトデシタネ
　ソレデハ第三章ニ参リマス、第三章ハ最モ修正案ガ多イ所デアルノデスガ、社会党ノ修正案ノ各条ヲ通ジテノ精神ハ、生活権ト云ヒマスカ、生存権ト云ヒマスカ、ソレヲ国家ガ保障スル条項ヲハツキリシタイ、出来レバ之ヲ具体的ニ挙ゲタイ、斯ウ云フ御精神ガ一ツダト思フノデス、ソコデ一応ノ私ノ個人的ノ意見デアリマスガ、此ノ詳細ナ規定ヲ、殊ニ勤労者ニ対スル詳細ナ規定ヲ並ベル代リニ、第十二条ノ「すべて國民は、個人として尊重される」ト云フ所ヘ、個人トシテ尊重ヲサレ、其ノ生活権ハ保障サレル、ト云フ一句ヲ入レル、ソレカラソレト対応シテ、第二十三条ノ「社會の福祉、生活の保障」ト云フ所デ、生活ノ保障ト云フノハ社会保障ト云フ方ガ私ハ正シイト思ヒマスカラ、サウ云フ風ニ直シテ、此ノ十二条乃至二十三条、ドチラカラ見テモ生活権ノ保障ヲ憲法ニ於テ約束シテ居ル、斯ウ云フコトニシテ、サウシテ休息ノ権利ガアルト云フヤウナ条項ハ、二十五条アタリデモ第何項カニシテ入レテ、サウ云フ程度デ何トカ御考ヘ願ヘナイカ、是ハ非常ニ雑駁ナ意見デスカラ、尚ホ詳細ニ検討シテ行ケバ、外ニ加ヘル問題モ出テ来ルカモ知レマセヌガ、是ハ一応ノ私ノ考ヘタ点デス
○森戸委員　委員長ノ御話ガアリマシテ、第十二条ニ入レタラドウカト云フ御話デ、是モ一説ダト思ヒマスケレドモ、十二条ハ一般的、総論的ナモノデアツテ、個人ノ尊重、生命、自由、幸福ノ権利ト云フヤウナコトガ記サレテ居リ、以下ノ各条ニ於テソレガ具体的ノ形デ規定サレテ居ルノデアリマス、デ生活権ニ続イテ居ル労働義務、労働権並ニ財産権ニ対スル其ノ三項目ニ私共重点ヲ置イテ居ルノデスガ、ソレハサウ云フ一般的ナモノデナク、一般的ナ権利ノ下ニ具体的ナ権利ガアル、十二条ニ書カレテモ、ヤハリ二十三条ニハ規定サレナケレバナラズ、十二条ニナクテモ、含マレタモノトシテ、二十三条ニ具体的ニ書カレナケレバナラヌト考ヘテ居ルノデアリマス、ソレデ私共ノ提案ト致シマシテハ、第一項ハ、総テ国民ハ健康ニシテ文化的水準ニ応ズル最小限度ノ生活ヲ営ム権利ヲ有スル、是ハ此ノ間我々ノ提案ニ書イテアル通リデアリマス、其ノ続キハ斯ウ云フヤウニ直シテ我々ノ修正案ニ変ヘタイト思フ、第二項、此ノ権利ヲ保障スル為ニ、国ハ総テノ生活部面ニ付テ社会福祉、公衆衛生ノ向上及ビ増進ヲ図リ、社会的生活保障制度ノ完成ニ努メナケレバナラヌ、斯ウ云フヤウニ変ヘマシタ、其ノ意味ハ社会的生活保障制度ト云フコトニ特ニ重点ヲ置イタノデアリマシテ、私共ノ修正案ノ、七頁カラ七頁ノ裏ニナリマスガ「國民は老年、疾病、勞働不能に陷つた場合、生活の安全を保障される權利を有する。右權利は社會保險の廣汎なる發達、無料施設」云々、ソレカラ「戰災その他による寡婦の生活は特に保護される。」、斯ウ云フヤウナ規定ナドヲ社会的生活保障制度ノ中ニ入レル、是ハ生活保護法ナドデモ既ニ一部分ハ始メラレテ居リ、日本デモ健康保険、国民保険、其ノ他ノ保険制度ガ始メラレテ居ルノデ、之ヲ完成スルコトニ依ツテ生活権ノ保障ト云フコトニ進マナケレバナラヌ、斯ウ云フ所ニ重点ガ置カレテ居ル訳デアリマス、斯ウ云フヤウニスルコトニ依ツテ、唯生活ノ権利ヲ空ニココニ検討スルノデナク、国家ガソレヲ保障スルト云フ制度ニ向ツテ努力シテ行カナケレバナラヌト云フコトヲ規定スルコトニ依ツテ、是ガ裏付ケラレルコトニナルノデハナイカト考ヘテ居ルノデアリマス、ソレカラ尚ホ申添ヘテ置キタイノハ、生活権、又次ニ述ベマス労働権、労働義務ト云フコトハ、社会主義ノ社会ニ於テモソレガ実現サレマスケレドモ、是ハソレニ限ツタコトデハナク、既ニ資本主義ノ社会ニ於テモ実現サレテ居ル所モアルシ、実現サレル過程ニアルノデ、両方ニ共通シタ、或ハ過渡的ナ意味ヲ持ツタ所ノ権利デアルト云フコトモ御諒承願ヒタイト思ヒマス、之ニ依ツテ社会主義ヲ憲法ニ主張スルト云フ意味デハナイ
○吉田（安）委員　二十三条ハ全面的ニ変ヘラレルノデスネ
○大島（多）委員　余リ沢山仰シヤツタモノダカラ能ク分ラナカツタデスガ、十二条ハ是ハ修正シナイデスネ
○森戸委員　サウデス
○鈴木（義）委員　二十三条ト二十四条、ソレデ他ノ方ハ大分ノ節約ニナル訳デス
○森戸委員　十二条ハ手ヲ付ケナイ、第一項ハ此処ニ記シテアル通リデス、モウ一度読ミマス、第一項ハ「すべて國民は健康にして文化的水準に應ずる最小限度の生活を營む權利を有する」、是ハ此処ニ書イテアル、次ニ第二項デスガ、是ハ第十三条ノ此処ニ書イテアルコトヲ本ニシテ改メテ、此ノ権利ヲ保障スル為メ国ハ総テノ生活部面ニ付テ社会福祉、公衆衛生ノ向上及ビ増進ヲ図リ、社会的生活保障制度ノ完成ニ努メナケレバナラナイ
○原（夫）委員　併シ、何カ「プリント」ミタイナ正確ナモノヲ出シテ戴カナイト、一寸拝見シテモ混雑シマシテ……
○鈴木（義）委員　印刷ガ三、四日掛カルモノデスカラ……
○廿日出委員　社会党ノ修正ニ私ハ全面的ニ賛成デス
○鈴木（義）委員　モウ是デ他ノ方ハ大分倹約ニナル
○芦田委員長　二十三条ノ第一項トシテ御書キニナツタ部分ハ、十二条ニ「個人として尊重され、生活權を保障される」ト、斯ウ簡単ニシテハイケナイノデスカ、同ジ意味ヂヤナイデスカ
○森戸委員　是ハヤハリ此処ニアツタ方ガ――是ハ一般的ノモノヂヤナクテ、具体的ナ労働ノ権利、生活ノ権利、サウ云フヤウニ考ヘルベキデ、彼処ニ置キマスト、一寸全体ノ体系モ整ヒマセヌシ、重点ガ外レルヤウナ……
○芦田委員長　重点ハ寧ロ十二条ノ方ニアルノデスヨ
○森戸委員　ソレハ一般的ノ原則デアツテ、サウ云フ一般的ノモノデナク、具体的ナ法条デアル
○芦田委員長　併シ此ノ第一項ハ具体的ト云ツタ所ガ、詰リ最小限度ノ生活ヲ保障シロト云フコトデセウ、ダカラ十二条ノ一般的ナ生命権トカ、自由権トカ、幸福追求権トカ云フ所ニ、「生活權」ト云フ文字ヲ入レテヤツタ方ガ宜クハナイカ、其ノ生活権ト云フモノガ十二条ニ除イテアルト云フ風ナ印象ヲアナタ方ハ御持チニナツテ居ルノデハアリマセヌカ
○森戸委員　除イテ居ルノデハナクテ、一般的ニ言ヘバ其ノ中ニ含マレルカモ知レナイ
○芦田委員長　ダカラソコヲハツキリシテ、「生活權」ト云フ言葉ヲ十二条ニ入レテ、「生活權は保障される」ト、斯ウ書イテ置ケバ、「すべて國民は健康にして最小限度の文化的水準の生活を營む權利」ト云フコトガ書イテアルノダカラ、其ノ方ガ簡単ニ行クヂヤアリマセヌカ、サウシテ是ハ一般的ニ保障シテ宜イコトダト思ヒマス、是ハ少シモ具体的ニドウスルト云フ文句ヂヤナイノダカラ……
○森戸委員　ソレハ十二条ニ書イテ、モウ一度具体的ニ二十三条ニ書クナラ少シモ異議ハ挟マナイガ、十二条ニ書イテ、二十三条ニ書カナイノダト是ハ一寸……
○芦田委員長　二項ハ宜イデス、一項ハ是ハ具体的ヂヤナイデセウ、生活権ト云フコトダト思フ
○森戸委員　ソレヲ内容ヲ規定シテ、健康ニシテ文化的水準ニ応ズル最小限度ノ生活権ト云フ……
○芦田委員長　ソレヲ生活権ト云フノデハアリマセヌカ、ダカラ、サウ云フ意味デ生活権ト云フノダカラ……
○森戸委員　学問的ニハ分ツテ居ツテモ、実際的ニソレガ明記サレル必要ガアル、自由ノ権利ハ保障サレルト言ツテモ、其ノ自由ニモ色々アル、後ニサウ云フモノヲ分ケテ、信教ノ自由モアルシ、学問ノ自由モアル、ソレハドウ云フモノデアルカ、ドウ云フ風ニシテ保障サレルカト云フコトガ規定セラレテ居ル……
○吉田（安）委員　社会党カラ出サレテ居ル第二十三条ノ第一項ノ「すべて國民は健康にして文化的水準に應する最小限度の生活を營む權利を有する」ト云フノハ、此ノ前カラ、十二条トノ関係デ「幸福追求」ノ所ニ入ルノデハナイカト云フコトデ大分議論ガアツタノデアリマスガ、私共モ十二条デソレハ宜イヂヤナイカト云フ見解ヲ持ツテ居ル、今モ其ノ見解ヲ持ツテ居リマス、ソレデ今仰シヤイマシタ修正ノ第二項ト一寸ドウカト思ヒマスガ、此ノ除カレテ居ル修正案ノ「すべて國民は」ト云フノヲ何トカ社会党ノ方デ考ヘテ戴イテ、サウシテ今仰シヤツタ第二項ヲ生カスコトヲ御考ヘニナツタラドウデスカ
○芦田委員長　ダカラ初メノ方ハ十二条ノ所デ総テ国民ハ個人トシテ尊重サレ、其ノ生活権ハ保障サレル、此ノ生命権、ソレヲ入レル、今森戸君ノ御話ニナツタ二十三条ノ第一項ニ御入レニナルト云フコトハ、結局サウ云フコトダト私ハ思フ、唯少シ説明ガ付イテ居ルガ……
○鈴木（義）委員　違フノデス、立法ノ体裁カラ言ツテモ、十二条ノ最初ノ一項ハ倫理的ナ要求ナノデス、総テ国民ハ個人トシテ尊重サレル、「リスペクテッド・アズ・インディヴィデュアルズ」、無論「インディヴィデュアリティー」ガ尊重サレルト云フコトナノデスカラ、経済上ノ生活保障ト云フモノヲ之ニ継グト、木ニ竹ヲ継イダヤウニナル、寧ロ継グナラバ生命、自由及ビ幸福ノ追求ノ方ニ入レナケレバナラヌガ、是ハ是デ一ツノ完全体ニナツテ居リ、抽象的規範トシテハ是デ十分デアリマスカラ、之ヲ後ノ方ヘ来テ他ノ色々ナ自由権ヤ幸福権ト共ニ具体化スルト云フノデ二十三条ヲ修正シタイト云フ意味ダツタノデス、ソコヲ一ツ御考ヘヲ願ヒタイ
○原（夫）委員　議事ノ進行ニモ影響ガアルコトデスガ、要スルニ社会党ノ第三章ニ於ケル提案ハ只今ノ憲法草案ニ規定シテアル事柄ノ中ニ包含シテ居ツテモ厭ハナイ、ソレヲ解釈シタヤウナ部分的ナ重要ナモノヲ更ニ又規定シテ国民ニ之ヲ知ラシメル為デアル、是ガ理由ニナツテ居ルノデスガ、憲法ノ規定ハ、大体国民ノ権利義務ニ関シテモ、国策ニ属スルト云フカ、政綱トモ云ヒマセウカ、ソレヲ原則的ナ文字ノ表ハシ方デ表ハシテアツテ、総テ憲法ノ規定ニ従ツテ国政ニ関スル事柄ノ具体的ナコトハ法律デ規定セヨト云フ建前デヤツテ居ルノデスガ、ソレナラバ其ノ線ニ沿ウテ、大体註釈的ナ希望的ナ時々ノ政策デ変ルヤウナ問題モ中ニハ起ルト思フノデスガ、ソコニハユトリヲ付ケテ法律ニ任シテ置イテ差支ヘナイデハナイデスカ、サウデナイト幾ラ論議シテモ……
○鈴木（義）委員　ソレナラバ打切リニ願ヒタイノデス、原委員ノ御意見カラ言ヘバ、婚姻ハ両性ノ合意デヤルトカ、相続ハドウスル、住居ノ選定ハドウスル、令状ヲ持ツテ来ナケレバ縛レナイ、コンナコトハ皆刑事訴訟法ヤ民法ニ規定スベキモノデ、何ノ必要ガアツテ此処ニ規定シタモノカ分ラヌ
○原（夫）委員　ソレハ人権ニ関スル非常ニ大キイ問題デ……
○鈴木（義）委員　ソレナラバ生存権ハ最モ重要ナ人権デス、結局十九世紀マデノ憲法ノ体裁ダト御考ヘニナルカ、二十世紀ニナツテカラ出来テ居ル各国ノ憲法ノヤウナ憲法ヲ作ルコトガ差支ヘナイカト云フコトニ帰着スルノデス、「フランス」ノ憲法デモ、「ソ」連ノ憲法デモ、労働者ノ権利トカ色々ナコトヲモツト詳シク書イテアリマスヨ
○原（夫）委員　ソレデ例ヘバ財産権ノ所ノ修正意見ヲ見マシテモ、アナタ方ノ言ハレルノハ所謂社会主義……
○鈴木（義）委員　「アメリカ」ノ憲法ニ書イテアルコトナラ黙ツテ通スガ、「フランス」ヤ「ソ」連ヤ「ドイツ」ノ憲法ニ書イテアルノハ通サナイト云フヤウナ意見ガ非常ニ強イノデ、我々心外ニ思ツテ居ルノデス
○犬養委員　私ハ斯ウ考ヘルノデス、是ニハ政治、行政ナドニ付テモ基本的ナコトガ書イテアツテ、ソレヲ敷衍シタコトガ出テ居ル、其ノ程度ニ生活権ヲ敷衍シテ出スコトハ、「バランス」トシテ是ハ認メテ宜イト云フ風ニ思フ、ソレカラ今ノ点ハ、第十二条ハ倫理的立場カラ個人尊重、個人ノ生活ヲ尊重スル、斯ウ云フ意味デアツテ、二十三条ハ個々ノ実生活ニ触レテ来テ居ルノデス、ダカラ多少ソレハ扱ヒガ別デアツテ宜イ、斯ウ云フ風ニ私ハ思ヒマス、最低ノ文化的生活ノ保障ヲ第二十三条ノ第一項ニ入レテ、第二項ハ原文ノヤウナ粗目ノ程度ノ文章ニシテ行ク、生活保障制度ト云フヤウナコトハ是コソ個々ノ社会立法ニ譲ルト云フコトガ、私ノ私見デ恐縮デスガ、妥当デハナイカト思フンデス
○原（夫）委員　ソコデ此ノ間カラ度々承ツテ居リマスガ、世界各国ノ主ナル憲法、色々講演ヲ聴クヤウニシテ聴イテ居ルノデスガ、例ヘバ所有権ノ問題ニシテモ……
○鈴木（義）委員　其ノ講義ハ宜シウゴザイマス……、結局立場ガ違ツテ居ルノデ、解決出来ナケレバ討論ヲ打切ツテ他ノ判断ニ委ネルヨリ外ナイ、デスカラソンナコトヲ言フノハヤメマセウ
○原（夫）委員　デスケレドモ、成ベク協調ヲ保ツテ……
○鈴木（義）委員　協調ガ保テナイデハナイデスカ
○江藤委員　十二条ニ関スル今ノ鈴木サンノ御意見ハ、私モサウ思ヒマス、ヤハリ十二条個人ノ解放即社会解放ニナルト云フ時代ニハ、是ダケノ規定デ宜カツタト思ヒマス、併シヤハリ今日ノ時代ハサウデハナイノデスカラ、ヤハリココニ二十三条ニ斯ウ云フ風ナ規定ヲ入レヨウト云フ主張ガ社会党カラ出テ居ル、是ハ私モ当然ダト思フ、ヤハリ是ハ十二条ニ直グ生活権ノ保障ト云フ風ニ持ツテ行カナクテ、社会党ノ仰シヤルヤウナ風ニ持ツテ行ツタ方ガ宜イノデハナイカト思フ、是ハ私ノ私見デスケレドモ、サウ云フ風ニ考ヘマス
○大島（多）委員　社会党ノ御方ニ伺ヒタイノデスガ、二十三条ノ原文ヲ成ベク生カスヤウニシテ、ソシテアナタ方ノ御主張ナサルヤウニ之ヲ書換ヘルト云フヤウナ、例ヘバ法律ハ、「すべての生活部面について、社會の福祉、最低文化生活の保障」、サウ云フ風ナ工合ニ短ク書直スコトガ出来ナイデセウカ
○鈴木（義）委員　書直シタノガ是デアツテ、サウスレバ後ノ方ノ休息権モ、老年、其ノ他疾病トカ云フコトモ皆省イテ宜イコトニナル、ソレダカラ斯ウ云フヤウニ直シタノデアリマス
○吉田（安）委員　大島サン、書直スト云フ程度ナラバ、今社会党カラ提唱サレタ程度デ宜イト思ヒマス
○大島（多）委員　ソレハ少シ長過ギルヤウニ思ヒマス
○吉田（安）委員　二十三条ハ三項ニナリマスネ
○森戸委員　二項デス、今ノ文化的水準ガ一項、二項ハ此ノ権利ヲ保障スル為メ云々……
○吉田（安）委員　サウスルト、元ノ修正案草案第二十三条第二項ガ押サレテ第三項ニナリマス
○森戸委員　是ハ消エル訳デス、是ハ大キク申シマスト、生存権ト労働権ト云フノハ、財産権ヲ中心ニシタ分配制度ニ関シテ、資本主義ノ下デハ之ヲ補足スル一ツノ重要ナ分配ノ法則ヲ規定スルヤウニナルト思フ、原サンハ基本権デナイト言ハレマシタガ、実ハ政治的基本権ニ対スル根本的ナ経済的ノ基本権トシテ百年以来主張サレテ来テ居ルノデアリマス、ソレガ今マデハ一般ニハ採入レラレナカツタノデスガ、此ノ十年或ハ二十年以来立法ノ上ニ現ハレテ居ル、今日日本ニ新シイ憲法ヲ作ルノニハ、此ノ形ガ是非トモ入ラナイト日本憲法ガ今日作ラレル意義ガナイト思フ、「アメリカ」ノ憲法ハモツト前ニ出来タモノデアルカラ、斯ウ云フコトガ反映シテ居ラヌト思フノデアリマス
○犬養委員　ドウデセウ、社会的生活保障制度ト云フコトダケガ一寸目立ツテ見エルノデスガ、是ハ社会立法ニ譲ルト云フコトニシテ、後ハ大体二十三譲ノ原文ガ生キテ、其ノ前カ後ニ文化的最小限度ノ生活保障ヲ入レタラ、大体精神ガ生キルノデハナイカ、ドウデスカ、制度ハ個々ノ社会立法ニ譲ツテハ如何デセウ
○芦田委員長　詰リ犬養君ノ言フコトハ、第二項ハ「この權利を保障するために國はすべての生活部面について社會の福祉、公衆衞生の向上及び増進に努む」トナルノデスネ
○犬養委員　サウデス、基本法デアルカラ、ソレデ宜イノヂヤナイカト思フ
○大島（多）委員　宜イヤウデスネ
○佐藤（達）政府委員　一寸参考マデニ御尋ネシタイノデスガ、字句ノ問題デ恐縮デアリマスガ、「健康にして」ト云フノハ、是ハ健康ナ生活ヲ営ムト云フ所ヘ一ツ入ルノデスネ、ソレカラ「文化的水準に應ずる最小限度の生活」ト云フノハ、先程大島サンガ最低限度ノ文化生活ト言ハレマシタガ、ソレト違フノデアリマセウカ、ソレカラ前ノ案ハ最小限度ノ文化的水準ノ生活ト云フノヲ、後デ御言葉ヲ御直シニナツテ文化的生活ヲ有スル最小限度ト言ハレマシタガ、其ノ意味ヲ御説明願ヒタイト思ヒマス
○森戸委員　是ハ統一的最小限度デハナイ、文明ノ程度ガアリマスカラ、日本ガ「アメリカ」ノ程度ノ生活ヲ保障スルコトハ出来ナイ、其ノ国ノ其ノ時ノ文化水準ニ応ジタ最小限度ノ生活ト云フ意味デス
○佐藤（達）政府委員　分リマシタ
○芦田委員長　サウ云フ文化的水準ナラバ、大体健康ヲ保持出来ル「スタンダード」ナンデスガ、「健康にして」ト云フ文字ハ、意味ハソレデ宜イデスガ、一寸読ムト「健康にして文化的水準に應ずる」ト云フコトハ、文化ト云フノハ固ヨリ健康モ住居モ全部含ムノデセウ、ダカラ「文化的水準」ト言ヘバ「健康にして」ト云フ文字ハ果シテ必要ナモノカドウカ疑問ニ思フノデス、健康ガ保テナイヤウナ水準ナラ、是ハ文化的最小限度ノ水準デハナイ、「文化的水準に應ずる最小限度の生活」ト云フモノガ、不健康ニナルモノデハ困ル
○鈴木（義）委員　サウ云フコトヲ言ツテ居ツテハ切リガナイ、生活ノ保障及ビ公衆衛生ノ向上ナドト繰返ス必要ハナイ、ソレハ皆「社會の福祉」ノ中ニ入ツテ居ル
○芦田委員長　ダカラ繰返ス必要ガアル所ハ繰返ス
○鈴木（義）委員　ソレナラ「健康にして」ヲ附加ヘテ一向差支ナイ
○芦田委員長　「健康にして」ト云フノハ何処ニ入ルノデスカ、健康ナル生活ト云フコトデスカ
○鈴木（義）委員　サウデス、健康ナル生活……
○芦田委員長　「文化的水準」ダケデ、誰ガ見テモ分ルト思フノデス、之ヲ取ツタ所デ害ハナイト思フ
○鈴木（義）委員　皆様ガ「健康にして」ト云フノガ気ニナルト云フノデアレバ、ソレヲ削ルコトニ別ニ反対ハシマセヌ
○芦田委員長　私ノ意見ヲ述ベテ居ルノデス
○犬養委員　「にして」ト云フノハ、技術的ニ一寸下手ノヤウニ思ヒマスネ、何カ旨イ智慧ハアリマセヌカ
○芦田委員長　最小限度ノ生活ト云フト、健康ヲ維持スルト云フ意味デハナイカト思フ
○森戸委員　詰リ細々生キテ行ケルト云フノト、能率アル生活ト云フノト、最小限度ヲ何処ニ置クカト云フコトガ問題ニナル
○犬養委員　「健康にして」ヲ生カスノナラ、「文化的」デスネ
○森戸委員　其ノ方ガ宜イデスネ
○芦田委員長　文化的水準デスカ
○鈴木（義）委員　「健康で文化的な」……
○芦田委員長　併シ「應ずる」ト云フノダカラ、「文化的な」デハドウカ
○犬養委員　「健康にして」ト云フノガ出シヤバツテ居リマスネ
○鈴木（義）委員　「健康で文化的な最小限度の生活の營み」デモ宜イ
○芦田委員長　ソレナラ「健康」ト云フ字ガ何カ続ク所ガ分ルデスネ
○森戸委員　ソレハソレデモ構ヒマセヌ
○芦田委員長　サウスルト、一項ハ「すべて國民は健康で文化的な最小限度の生活を營む權利を有する」、斯ウ云フコトデスナ
○鈴木（義）委員　サウデス
○芦田委員長　「健康にして」デスカ、「健康で」デスカ
○犬養委員　「にして」ハ使ツテアリマセヌカ
○佐藤（功）法制局事務官　使ツテアリマセヌ
○佐藤（達）政府委員　「で」ノ方ガ明ルクテ宜イノヂヤナイデスカ
○森戸委員　近代的ト云フカ、現代的デスネ
○芦田委員長　是ハ年齢的ダネ、「すべて國民は健康で文化的な最小限度の生活を營む權利を有する」、第二項ガ「この權利を保障するため國はすべての生活部面について社會の福祉、社會保障及び公衆衞生の向上及び増進に努めなければならない」
○佐藤（達）政府委員　技術的ナ言ヒ方デアリマスケレドモ、二項ノ頭ノ文句ノ「權利を保障するため」ト云フノハ、ナクテモ宜イヂヤナイデスカ、是ハナイ方ガ却テ綺麗デ、大ラカデハナイカト云フ感ジガシマス、同ジ条文ノ中ニ二ツ並ブノデスカラ……
○芦田委員長　是ハ二項ニシナイデ、書流シタ方ガ宜イカモ知レヌ
○佐藤（達）政府委員　二項デ宜シウゴザイマス
○芦田委員長　森戸君、今佐藤君カラノ御意見デスガ、同ジ箇条ノ中ニ入レルノデアルカラ、「この權利を保障するため」ト云フコトハ書カナクトモ、「國は」ト云フ言出シデ第二項ハ十分ヂヤアルマイカト云フノデス
○犬養委員　其ノ方ガ鷹揚ヂヤナイカト云フノデス
○森戸委員　唯一寸誤解ガ起ルノハ、此ノ権利ガ言ヒ放シノ権利デアツテ、生活ノ権利ヲ国家ガ妨ゲヌト云フ意味ノモノデアルト云フ風ニ文相ハ言ハレタノデ、サウ云フ解釈モ可能デアルト云フコトヲ考ヘルト、之ヲ書イテ置イタ方ガ、其ノ点デサウ云フ解釈ニ対シテ、モウ少シ積極的ナモノデアルト云フコトヲ表ハス必要ガアル、勿論此ノ権利ガ国家ニ対シテ及ブモノデアツテ、当然斯ウ云フコトニナラナケレバナラナイト云フコトナレバ、是ハ必要ハナイト思フ、所ガドウモ労働権其ノ他デ聞イタ所ノ御話ダト、必ズシモサウデナイヤウナ解釈ガ可能デアルト云フコトデアルト、是ハ一寸蛇足ノヤウデスケレドモ、実ハ蛇足デナクテ、ナクテナラナイト云フ考ヘヲ私ハ持ツノデアリマス
○佐藤（達）政府委員　私ハ只今此ノ権利云々ヲ取ツタ方ガ大ラカデハナイカト申上ゲタ気持ハ、此ノ前項ノ方ハ最小限度ト云フ風ニ非常ニ遠慮シテ書イテアリマスネ、第二項ノ方ハモウ最小限度ドコロデハナイノデ、モツト上ヘ行ケバ行ク程宜イノデハナイカト云フ気分ガアリマシテ、却テ前項ト引掛カリガナイ方ガ、理想マデ高クト云フ気持ガ出ヤシナイカ、サウ云フ気持デ私ハ大ラカト云フ言葉ヲ使ツタノデス
○廿日出委員　ドウデス、委員長、採決ヲ……
○芦田委員長　一寸御待チ下サイ、今ノ佐藤君ノ意見ニ対シテ御意見ハアリマセヌカ
○森戸委員　サウ云フ主張モ御尤モト思ヒマスカラ、宜イト思ヒマス
○廿日出委員　是ハ落チテ居リマシタケレドモ、第十一条デゴザイマス、簡単ナコトデ何ノ文句モアリマセヌガ、原文ノ二行目ノ所デ「これを濫用してはならぬのであつて」ト云フコトガ前ニ問題ニナリマシタ、是ハ「ならないのであつて」ト云フコトニ改メルナラ改メマセウ、斯ウナツテ居リマシタ
○芦田委員長　此ノ前ノ時ハ、ナラヌト云フ方ガ却テ宜イト云フコトデス
○廿日出委員　前文デ最初直シテアル、ソレデ私ハ今朝読ム時ニ気ガ付イタカラ申上ゲル
○鈴木（義）委員　前文ハ結局直ツタノデス
○芦田委員長　ソレデハ揃ヘル為ニ直シマセウ、二十三条ハ如何デスカ
○大島（多）委員　最小限度デゴザイマスカ、最低限度デゴザイマスカ
○鈴木（義）委員　最小デス
○大島（多）委員　最低ノ方ガ宜シウゴザイマセヌカ
○鈴木（義）委員　ソレハドチラデモ宜イデス
○芦田委員長　ドツチガ宜イデスカ、最小限度ガ宜イデスカ、最低限度ガ宜イデスカ
○森戸委員　ソレハ最小ノ方ガ……
○芦田委員長　最低生活ト云フコトハ言フケレドモ……
○森戸委員　最大限、最小限ト云フ言葉ガアルカラ……
○江藤委員　最小デ宜イヂヤナイデスカ
○佐藤（達）政府委員　理窟トシテハ最低限度ノ方ガ正シイヤウニ思ヒマス、尤モ言葉ノ「ニュアンス」ノ問題ハ別デスガ……
○大島（多）委員　生活ニ関シテハ最小デハアルマイ、最小生活ト云フ言葉ハ聞カヌ
○江藤委員　限度デス、最低限度、最大限度デス
○大島（多）委員　結局ハ生活ヲ現ハスノデス
○芦田委員長　生活ガ高イトカ低イトカ云フコトデ、大トカ小トカ云フコトハ言ハナイダラウト云フノダネ、最低ト云フ論者ノ論拠ハ――ドチラニシマスカ
○吉田（安）委員　最低デスネ
○芦田委員長　ソレデハ暫時休憩致シマス、午後ハ一時半カラ会議ヲ開キマス
　　　　午後零時十七分休憩
　　　　　――――◇―――――
　　　　午後一時四十六分開議
○芦田委員長　休憩前ニ引続キ会議ヲ開キマス、第三章ノ各条ニ亙ツテ修正ノ点ヲ審議致シタイト思ヒマスガ、サウスルト社会党ノ修正案ノ中デ、既ニ二十三条ニ挿入サレタ結果古イ提案ノ中カラ必要ナシト認メラレル部分ヲ一寸伺ツテ置キタイノデスガ、御両君ノ中ドチラカラカ……
○鈴木（義）委員　二十六条ノ休息権ハ二十五条ノ中ニ二字ダケ入レテ戴ケバ、ソレデ宜イコトニナリマス
○芦田委員長　第二項ニ入レルノデスカ
○鈴木（義）委員　エエ
○芦田委員長　「賃金、就業時間」ノ次ニ此処ヘ休息ト入レル……
○鈴木（義）委員　休息ノ権ハ二十五条ノ中ニ入レテ戴イテ、二十六条ノ其ノ次ノ一条ハ要ラナクナル
○芦田委員長　一寸待ツテ下サイ、私ハ五枚目ヲ開ケテ居ルノデスガ……
○鈴木（義）委員　七枚目ノ表ト裏デス
○芦田委員長　サウスルト、二十六条ノ次ノ一条ハ要ラナイ訳デスネ
○鈴木（義）委員　休息ト云フ字ヲ二十五条ヘ入レテ戴ケレバ、其ノ次ノ一条ハ要ラナイ、今ノ所其ノ二ツダケガ要ラナクナツテ居ルノデス、第三点ハマダ多少議論ガアリマス
○犬養委員　ソレハ第二十五条云々ト云フノガ要ラナイノデスカ
○鈴木（義）委員　労働権ハマダモウ少シ案ガアルノデス、二十五条ハ今議題ニナルノデス
○芦田委員長　ソレデハドウデスカ、此ノ第十四条ガ留保ニナツテ居ルノデスガ、ソツチカラズツト順々ニ行キマセウカ、此ノ社会党ノ提案ノ「均しく公職に就くことができる」ト云フ問題ガ残ツタ為ニ公職ニ就クコトガ出来ルト云フコトガ問題ニナツテ居ツタ、併シ「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である」ト云フノダカラ、是デ其ノ趣意ハ分ルノデハナイカト云フ説ガアツテ、結局最後的ニハ決マラナカツタヤウナ気ガスルノデスガ……
○鈴木（義）委員　是ハ十三条ニハ法ノ下ノ平等ガ規定シテアルシ、十四条デ「公務員を選定し」ト云フコトハ、平等ニ待遇サレルカラ、何時モ選定サレル権利ガアルト云フコトガ当然予想サレテ居リマスカラ、無理ニ規定スル必要ハナイト云フ意味デ撤回致シマス
○芦田委員長　今度ハ二十二条デ一寸確メテ置キタイノハ第二項ノ「個人の權威」ト云フノヲ「尊嚴」ト改メルト云フコトガ多数説ノヤウナ気ガシテ居リマス、ソレカラ「兩性の本質的平等」ト云フ文字ヲ、或ハ「基本的」ト云フ字ガ宜イノデハナイカト云フ説ガアツテ、是ハ必ズシモ決定シテナカツタヤウニ思フノデスガ、其ノ二ツノ文字ノ修正デス、「個人の權威」ト云フノヲ「尊嚴」ト直シマスカ、「品位」ト直シマスカ
○鈴木（義）委員　ソレハ略々皆サンガ「尊嚴」ノ方ニ賛成ノヤウデシタガ……
○芦田委員長　次ノ「本質的」ハドウデスカ
○鈴木（義）委員　是ハ其ノ侭デ宜イ
○芦田委員長　「基本的」ト直ス必要ハナイ――「基本的」ト云フノハ果シテ宜イカ悪イカ分ラナイガ、「本質的平等」ト云フコトガ大変問題ニナツタ為ニ……
○大島（多）委員　基本ト直ツタヂヤナイデスカ、其ノ時ノ空気ハ基本トシヨウト云フヤウナ空気ノヤウデシタネ
○芦田委員長　サウ云ウコトデシタネ、「エッセンシャル・イクォーリティ」ト云フコトデス
○鈴木（義）委員　「本質的平等」デナケレバナラヌ
○芦田委員長　本質的ニハ平等ヂヤナイト云フ意見ガ多カツタ、本質的ニハ違ツテ居ルノヂヤナイカ……
○鈴木（義）委員　「本質的平等」ト云フノハ、差別アル平等ト云フ意味デス、ダカラ迚モ良イ言葉ナンデスヨ、本質ハ平等デアルガ、生理的、心理的相違ハ認メル、斯ウ云フ意味ナンデス、差別ヲ認メツツ平等ニ扱フ、斯ウ云フ訳デス
○芦田委員長　サウ云フ風ニ解釈スレバ無論サウダガ……
○鈴木（義）委員　「基本的」ト云フト何ダカ一寸……
○芦田委員長　違ヒハアルノダガ、併シ、「基本的」ト云フト、人間其ノモノトシテハ平等ナノダ、斯ウ云フ意味デ「基本的」ト云フ……
○鈴木（義）委員　ソレナラ「基本的」ト云フ形容詞ハ要ラナイ、「兩性の平等」デ宜イ訳デス、ソレヲ「基本的」ト直スコトハ、却テ改悪デスヨ
○芦田委員長　改悪カモ知レナイ、ダガ、「本質的平等」ト云フ文字ガ与ヘル印象ヲ避ケヨウト云フコトノ意見ガ、サウ云フコトニナツテ現ハレタンダト思フノデス、「本質的平等」ト云フ字ニ非常ナ誤解ヲ招ク、ソレニ加ヘテ林君ノ提案ガ出来テ居ツタリ、原君モ若干サウ云フ意見ノヤウダツタガ、ドウモ「本質的平等」ト云フト大変ナコトニナルト云フ意見ガアツタンデス
○鈴木（義）委員　ソレハドウモ言葉カラ受ケル「センス」ノ問題デアリマスガ、私ハ最モ良イ表現デアルト思ツテ居ル、ソレヲ「基本的」ト直スノハマヅイト思ヒマスネ
○林（平）委員　若シマヅイナラバ、モウ本質モ基本モ言ハズニ、「個人の尊嚴と兩性の平等」ト言ツタ方ガ語呂ガ好イヂヤナイデスカネ
○鈴木（義）委員　ソレデハ物足リナイ
○林（平）委員　本質ト云フト、ソコニ色々ナ説明ガ付イテ来ル、本質ハ全然異ツテ居ルト云フ、大変長イ言葉ガ述ベラレテ居リマシタガ……
○鈴木（義）委員　「本質的平等」ト云フコトハ、人間トシテノ……
○芦田委員長　廿日出君ノ方ハドウデスカ
○廿日出委員　実ハヤハリ草案ノ方ガ実際ノ意味ニ於テモ、アノ時説明ガアリマシタ通リ、差別的平等ト云フ立場カラ是非サウアツテ欲シイト思ヒマス
○芦田委員長　「本質的」ノ方ハ賛成デスカ
○廿日出委員　ソレデ結構デス
○芦田委員長　ソレナラバ「本質的」ヲ残シマセウ、ソレデ宜シウゴザイマスカ
○鈴木（義）委員　結構デス
○芦田委員長　ソレカラ第二十二条ノ……
○鈴木（義）委員　一寸待ツテ下サイ、社会党ハ此ノ点ニ付テ、例ノ「家庭生活は保護される」ト云フコトヲ提案シタノデスガ、ソレハドウデセウ、サウ云フノヲ入レルノハ一寸難カシイヤウデスガ、此ノ「家族に關する」ト云フ所ニ、「家族生活に關するその他の事項に關しては」ト入レルコトニ依ツテ、略々其ノ目的ヲ達スルト思フノデス
○芦田委員長　佐藤君ニ御伺ヒシマスガ、「家族に關する」ト云フコトト、「家族生活に關する」ト云フコトトハ、一寸意味ガ変ルノデスガ……
○佐藤（達）政府委員　社会党デ御提案ノ趣旨ト、今述ベラレタ家族生活ト云フ言葉ヲ入レタコトガ同ジダト云フ意味ガ能ク分ラナイノデスガ……
○鈴木（義）委員　同ジデハナイマデモ、家族生活ヲ保護スルト云フコトヲ別ニ一行設ケタノヲ、ココニ「生活」ト云フ二字ダケ入レテ間ニ合セテ置カウト云フノデス
○佐藤（達）政府委員　サウスルト、兎ニ角憲法デ家族生活ト云フモノニ目ヲ着ケテ居ルゾト云フコトダケ出レバマア満足ダト云フ御趣旨ナンデスカ
○鈴木（義）委員　サウデス
○佐藤（達）政府委員　サウスルト大変具体的ニ考ヘテ見マシテ、法律ガ家族生活ニ付テ制定サレル場合ニハ、ドウ云フコトニナリマスカ、家族生活ト云フコトニ依ツテ、具体的ナ場合ニドウ云フ実益ガアリマスカ
○鈴木（義）委員　余リ違ハナイケレドモ……
○芦田委員長　此ノ英文ノ方デ「ファミリー」ト言ツテ居ルノヲ、仮ニ例ヘバ「家族生活」ト云フコトニナルト、之ヲ翻訳スル時ニハ「ホーム・ライフ」トデモ訳スルカ、ドウ云フ風ニ訳シマスカ、「ファミリー・ライフ」ト言フカ、結局同ジコトニナリハシマセヌカ、「家族に關する」ト言ツテモ、「家族生活に關する」ト言ツテモ……
○鈴木（義）委員　押詰メテ行ケバ結局サウナリマス
○佐藤（達）政府委員　理詰メデ考ヘマスト、今「家族に關する」トアル「家族に關する」ト云フ言葉ノ中ニハ、「家族生活」モ入リ得ル表現ダト思ヒマス、ソレヲ潰シテシマツテ、「家族生活」ト云フコトダケニシテシマフト、原案ヨリ狭クナリマスネ、本当ヲ言フト、「家族生活その他の家族に關し」ト云フ言葉ヲ重ネナイト、幅ガ狭クナルヤウナ気ガシマス
○鈴木（義）委員　ソレデハ、ドツチニシテモ難カシイカラ、是モ撤回シマス、「生活」ヲ入レルコトモ撤回シマス
○林（平）委員　一寸御尋ネシマスガ、十八条ノ所ハドウ決マリマシタカ、但シ宗教的情操教育ハ此ノ限リデナイト云フコトニ決マツタ訳デシタカ
○芦田委員長　ソレハ私ノ記憶デハ、原案ノ侭デ置クコトニ決マツタヤウナ気ガシテ居ルノデスガ……
○廿日出委員　アレハ丁度私ガ使ツタノデアリマスガ、原委員ノ一撃ヲ食ツテ黙ツテシマツタノデスガ、実際ハ内々ハ置イタ方ガ宜イナト思ツタノデスガ……
○吉田（安）委員　ソレハ廿日出サンノ仰シヤル通リデスネ
○芦田委員長　ソレデハ修正意見ハ、宗教教育ト云フ代リニ、一宗一派ニ偏スル教育ト、斯ウ直スノデスカ
○鈴木（義）委員　ソレハイケナイ
○廿日出委員　ソレハ全然突ツツカナイノデス、原文ノ侭デス、其ノ上ニ結局皆要求シテ居ル所ハ、宗教的情操ト云フコトヲ一番問題ニシテ居ル、ダカラソレヲ唯加ヘルダケデス
○芦田委員長　何処ヘ加ヘルノデスカ
○廿日出委員　一番最後ニ、但シ宗教的情操ノ陶治ニ付テハ此ノ限リデナイト……
○芦田委員長　是ハ教育ノ所ヘ行クノデスネ
○廿日出委員　其ノ時ニ色々例ガ出タノデスガ、宗教トハ国民学校ニセヨ、中等学校ニセヨ、官立ノ大学、専門学校ニセヨ、所謂仏教界トカ「キリスト」教ノ人ヲ連レテ行ツテ講演ナドヲサスノハ宗教教育ニナリハセヌカト云フコトデ、一々御伺ヒヲ立テタリスル心配ガアツテハ洵ニ煩瑣ナ話デ、一々所管庁ニ聴カナケレバナラヌ、斯ウ云フコトデハイカヌカラ、是ハ宗教的情操ヲ教養スルモノデ何等差支ヘナイト言ツテ、校長ガ実際ノ場合ニ安心シテ話ヲ聴クコトガ出来ル、実際問題トシテ非常ニ重要ナコトデス
○鈴木（義）委員　此ノ規定ハ大事ナンデス、「國及びその機關は」ト云フノハ、知事トカ市町村長トカ云フヤウナ者ハ宗教的活動ヲシテハイケナイノデスカラ、学校ニ於ケル講話ノヤウナコトダケナノデス、此処ニ但書ヲ付ケル必要ガアルノハ――寧ロ学校ト云フ風ニ書イテシマツタ方ガ宜イカモ知レナイ、市町村長、知事ガ今マデハ幣帛ヲ持ツテヤツタ、ソレヲ是カラハヤツチヤイケナイ、教育モヤツテハイケナイ、国ノ機関ハヤツテハイケナイ、ソレハ僕モ賛成ダ、ヤツテイケナイト思フ、学校デヤルノハ構ハナイ、ダカラサウ云フ風ニ表現シヨウヂヤナイカ
○芦田委員長　ソレハドウデスカ、文部大臣ガアナタノ御希望通リ答弁シテ居ルノダガ、ソレデ満足サレテハドウデスカ
○廿日出委員　中々ヤカマシイデスヨ
○芦田委員長　イヤ、ヤカマシイコトハ知ツテ居ルガ、ドウモ学校教育ノ所ニソレダケノコトヲ憲法ニ書クト云フコトガ……
○鈴木（義）委員　余リ但書ガ多クナリ過ギル
○廿日出委員　但シ学校ニ於ケルト云フヤウニ入レレバ……
○犬養委員　官立学校ハ国ノ機関ト云フコトニハ入リマセヌカ
○鈴木（義）委員　入リマスネ
○芦田委員長　ソレハドウデス、文部大臣ノ答弁デ、ソレヲ広ク知ラセルヤウナ方法ヲ執ツテ貰ツテ、憲法ニハ情操教育ノコトマデハ一寸入レニクイト云フコトデ、何トカ然ルベク説明ヲ御願ヒスル……
○林（平）委員　一宗一派ニ偏スルヤウナ教育ハ困ル、抽象的ナ原則的ナ宗教ノ意義トカ、宗教ノ常識ト言ヒマセウカ、サウ云フヤウナコトハ差支ヘナイト云フ風ニハ行カヌモノデセウカ
○芦田委員長　ソレヲヤルト誤解ヲ招ク虞ガ多分ニアルト云フノガ、北委員初メ委員ノ方ノ意見デ……
○林（平）委員　実ハ此ノ規定ガアリマスト、宗教ト云フ言葉ヲ使ツタナラバ教員諸君ハ非常ニ怖クナツテシマフ
○芦田委員長　ソレダカラ、文部大臣の答弁ノ如ク出来ルダケソレヲ天下ニ知ラシメル、斯ウ云フコトデ、憲法ニマデ宗教ノ情操教育ノ問題ヲ入レルコトハ見合シテ呉レ……
○林（平）委員　併シ文部大臣ガサウ云フ指令ト云フカ、省令ヲ出スニシテモ、憲法違反ノヤウナ指令ニナラナイモノデセウカ
○芦田委員長　情操教育デ宜イデセウ、其ノ中ニ色々アルガ、音楽ノ情操モアラウシ、信仰ノ方面ノ情操モアラウ
○林（平）委員　情操ト云フコトデアリマスガ、今御話ノ音楽ノ情操ト云フモノハ、文字ノ解釈カラハ情操ハ生レナイ、音楽ノ中ニ溶込ンデ行カナイコトニハ情操ハ出テ来ナイ、宗教デモ解釈ダケデハイケナイ、ヤハリ宗教其ノモノニ入ツテ行カナケレバ本当ノ宗教的情操ハ出テ来ナイ
○芦田委員長　ソレナラ尚更要ラナイ
○林（平）委員　ソコデ一般ノ宗教ニ対スル理解ト言フカ、批判力ト言フカ、宗教ニ対スル批判力、ドウモ淫祠邪教モ宗教ダト云フヤウナ低級ナモノデハナク、高級ト言フカ、サウ云フヤウナ宗教的常識ヲ高メル教育ト云フ訳ニハ行カナイモノデセウカ
○芦田委員長　教育ノ方針問題デスガ、ドウ云フモノデスカ
○吉田（安）委員　修正スルナラ、此ノ修正案ノ通リ教育ノ所ニ持ツテ行クカ
○北（れい）委員　法制当局ニ一寸御質問シマスガ、此ノ場合ニ国家機関ト云フ中ニハ学校ナドハ入リマスカ、国及ビ国ノ機関ト云フ中ニ……
○佐藤（達）政府委員　是ハ慥カ委員会デ御答弁シタカト思ヒマスガ、官立ノ学校ノ如キハ当然入ル積リデ私共居リマシタ
○林（平）委員　公立モ入リマセウネ
○佐藤（達）政府委員　公立モ……
○芦田委員長　ソレハ答弁ガアリマスネ、左藤義詮君ナドハ、国及ビ国ノ機関トハ何ゾヤト云フコトヲ七月十六日ニ質問シテ、之ニ対シテ金森国務大臣ハチヤント答ヘテ居リマス
○吉田（安）委員　委員長ノ仰シヤルコトハ、結局国務大臣モ斯ウ言ツテ居ルカラソレデ解釈ガ付クデハナイカ、又実際上サウ云フ風ナ御意見デスガ、林君ガ言ハレルヨウニ寄付カナクナリハシナイカ、斯ウ云フ心配ガ相当ニアル、ソレデ何カ一言、二言入レテ、ソコニ補ヒガ出来テ、此ノ憲法ヲ非常ニ信頼シテ行ケルヤウニシテ戴ケタラ結構ダト思ヒマス
○犬養委員　我々モ非常ニ重要視シテ居ルノデス
○廿日出委員　実ハ其ノコトニ付キマシテ、簡潔ナ言葉ト致シマシテ、左藤義詮君ヨリ宗派的教育ト云フ言葉デ片付ケテ、其ノ下ハ宗派的活動ト云フヤウナコトデ――サウ云フ言葉ガアルカナイカ私ハ知リマセヌ、ヒヨツトシタラナイカモ知レマセヌ、ケレドモサウ云フヤウナ所デ宗教ヲ宗派ト云フ位ナ――サウ云フ希望デゴザイマス
○北（れい）委員　普通宗派ト言フト、「キリスト」教内ニモ色々ナ宗派ガアリ、仏教内ニモ色々ナ派ガアル、其ノ派ヲ言フノデ、仏教モ、「キリスト」教モ、神道モ、教ヘルノハ差支ヘナイト云フコトニナツテ、一寸穏ヤカデナイト思ヒマス、私ハ立法ノ精神カラ非常ニ遠ザカルト思ヒマス
○林（平）委員　サウ云フコトヲ慮ツテ、実ハ一宗一派ニ偏スルトウタツテシマヘバ一番無難ダト思ツタ訳デス
○芦田委員長　サウダガ、又之ヲ潜ラウトスル方カラ言ヘバ、一宗一派ニ偏セザル宗教教育ト云フ文字ヲ潜ラウト思ヘバ幾ラモ潜レマスカラ、是ハ禅宗ノ教育デモナイ、真宗デモナイ、仏家本来ノ面目ニ立ツタ教外別伝ヲスルノダト云フヤウナコトヲ言ツテ教育シテモ、ドツチニシテモ潜ラウト思ヘバ潜レルノダカラ、一宗一派ニ偏セザルト云フ字ヲ書イタラ安心ダト云フ訳ニモ行カヌト思フノデスネ、「キリスト」教デモサウデセウ、私ハ組合教会デモナケレバ何デモナイ「クリスチャン」系ノ教育ヲヤツテ居ルノダ、斯ウ云フコトデヤレバ、一宗一派ニ偏セズト云フコトニ該当スルノデスネ、サウ云フ屁理屈ヲ言ヘバ限リガナイデスガ……
○林（平）委員　此ノ狙ヒハ二ツアル訳ナノデス、一ツハ宗教常識ト言フカ、批判力――一般的ナモノハ教ヘテヤリタイト云フノガ一ツ、モウ一ツハ斯ウ云フ風ニ従来ノ宗教ノ宗ノ字ニ触ルノハ怖イカラト言ツテ、スツカリ遠ザカツテシマフト云フ危険ガ生ズルト云フコトト、ソレヲ両方一ツ旨クヤツテ行ク為ニ一宗一派ト言ツタラ宜イヂヤナイカト云フヤウナ点ナノデアリマス
○北（れい）委員　ドウデセウ、政党内ニ於テモ、憲法審議ノ場合ニ於テモ、私ハ憲法審議ハ自由党ト云フ党派ニ偏セヌ積リデアル、サウ云フ積リデアリマスガ、併シ第三者カラ見ルト、ヤハリアノ人ハ自由党ノ「イデオロギー」ヲ出スト云フコトニナル、社会党ノ諸君ハ憲法審議ニ関スル限リハ党派ト云フモノニ偏シナイ、公平ナ立場デアルト言ツテモ、社会党ハ社会党ノ「イデオロギー」ヲ持ツテ居ル以上ハ出テ来ル、本人ハ一宗一派ニ偏セヌ積リデヤツテモ、自然ニ宗派ノ色彩ガ出ルノハ免レヌト私ハ思フノデス、実際ニ於テ主観的ニハ偏セズトモ、客観的ニハ偏スル
○鈴木（義）委員　宗教ダトナレバ尚更偏シマス、校長ガ仏教ノ信者ナラ、十回ニ一回位「キリスト」教ノ講師ヲ呼ンデ来テ、九回ハ仏教ノ講師ヲ呼ンデ来ル、ソレデモヤハリ一宗一派ニ偏セザル教育ハシテ居ルコトニナル、成タケハ仏教ヲ入レテ行キタイ気持、「キリスト」教ノ校長ニナレバ又逆デス
○廿日出委員　是ハ難シイ問題ダカラ、アタラヌ神ニ障リナシデヤツテ行ク方ガ宜イデスヨ（笑声）
○森戸委員　私ハ若シサウ云フコトヲ考ヘルナラバ、私自身ハ宗教教育ハ、殊ニ情操教育ト云フコトハ非常ニ必要デアルト云フコトヲ確信シテ居ルノデスガ、併シソレヲ学校教育其ノ他ニ入レルヤウナ風ナ可能性ノアルモノヲ入レルト色々面倒ナコトガ起ルト云フコトデ、此ノ原則ハ是デ生カシタ方ガ宜イノデハナイカ、若シサウ云フコトヲ書カヌトイケナイト云フナラバ、「但し」ト云フコトデヤル、併シ其ノ「但し」ハ憲法ニ入レナイデ、文部大臣ガ「但し」ヲ何カ通牒スルト云フコトデ決定スレバソレデ宜イデハナイカト思ヒマス
○吉田（安）委員　文部大臣ガソコマデ親切ニヤツテ呉レレバ宜イデスガネ
○森戸委員　原則ノ方ハ私ハドウシテモ此処ニ書イテ置イテ貰ツタ方ガ宜イ
○芦田委員長　デハマア一応其ノ位デ――ソレデハ二十四条ヲモウ一度確メル為ニ検討致シマスガ、第二項、「すべて國民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に教育を受けさせる義務を負ふ」、此処ヲ普通教育ト言ツテハドウカ、普通教育ト言フト中等教育ヲ含ムヤウナ意味ニ今マデハ解サレテ居ルノダガ、ソレハ併シ法律デ以テ保護者ガ負フベキ義務ノ範囲ヲ決メルノダカラ、一応其ノ程度ノ文字デハドウダラウカ
○林（平）委員　普通教育ト言フト、今日マデ使ヒ慣ラサレタノハ中等教育マデ――中等教育ヲ指シテ居ルヤウニ思ヒマスネ、初等教育ト普通教育ト専門教育ト大体三ツニ分レテ居ルヤウナ常識ニナツテ居ル訳デスガ、普通教育ノ義務ヲ負ハセルト云フト大変ナ是ハ幅ガ広クナルシ、「法律に定めるところにより」ハアルノデスカラ、「教育」デ如何デセウカ
○佐藤（達）政府委員　此ノ普通教育ト云フ言葉ハ国民学校――是レハ国民学校令ニ依リマスト、初等普通教育ヲ施スト云フ風ニ文字ガ使ツテゴザイマス、ソレカラ中等学校ハ高等普通教育ヲ施スト云フ風ニナツテ居リマシテ、国民学校ノ分ガ入ツテ居ルコトハ是ハ今マデノ制度カラ申シマシテ明瞭デゴザイマス、ソコデ何モナシデ唯「教育」トヤツタラドウカト云フ御話ハ此ノ間カラ屡々承ハリマシタケレドモ、ソレデハドウモ憲法ノ指導精神ガ出マセヌモノデスカラ――狙ヒ所トシテハ、ヤハリ何カ多少手掛リニナルモノガ欲シイ
○林（平）委員　実ハソコマデ高マツテ行ケバ、狙ヒ所ハ宜イデスケレドモ、ソンナコトヲシテハ皆カラオ小言ガアル、普通教育マデト言ツテ御叱リヲ受ケルカト思ツテ言ツタノデスガ、ソレナラ却テ結構ナコトデ、御差支ヘナケレバ……
○芦田委員長　デハ「普通教育」ト云フコトデ林君ノ方ハ御異議アリマセヌカ
○林（平）委員　結構デス
○芦田委員長　其ノ他ノ方ハ……
○吉田（安）委員　私ノ方モ異議ハアリマセヌ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　デハ二十四条ノ第二項ノ方ハ「普通教育」ト云フコトニ改メマスカラ、「普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする」、ソレカラ第二十六条……
○鈴木（義）委員　二十四条ニハ社会党ノ国費ノ……
○芦田委員長　サウサウ、是ガ残ツテ居ル、「才能あつて資力なき青年の高等教育は國費を以てする。」之ニ付テハ色々議論ガ出タノデアリマシタガ、マダ最終的ニハ決定シテ居リマセヌ
○廿日出委員　先般此ノ問題ニ付テ沢山発言シマシタ私ノ立場上申シマスガ、其ノ後色々ト考ヘテ見マシタガ、勿論国民学校カラ大学マデ全部国家ガ子弟ニ教育ヲ施ス義務ヲ持チ、又戦争抛棄ノ関係上、一切ノ戦争費用ヲ教育ニ向ケルト云フ意気込ミヲ徹底的ニ示スナラバソレモ可能デアリマス、ソコヲ一番理想ニ致シテ居ルノデアリマス、差当リ此ノ憲法ヲ愈々ドツチカニ決メヨウト云フ時ニ、ヤハリ第二十四条ヲモツト我々ハ親切ニ能ク読ンデ見ルト、一切ノサウ云フコトハ可能デアル条件ガ含マレテ居ルヤウニ思フ、「すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利」、権利マデモ持ツコトガ出来ルト云フコトハ、之ヲ十分ニ親切ニ解釈付ケテ行ケバ、鈴木委員モ此ノ点デ満足シタラドンナモノカト思フ
○芦田委員長　サウスルト甘日出君ノハ社会党ノ修正案ヲ其ノ侭ココニ入レルト云フノデスカ
○廿日出委員　入レナイノデス、此ノ二十四条デ沢山ダ
○森戸委員　二十四条ノ第一項ハ寧ロ教育ニ於ケル国民ノ機会均等ト云フコトヲ規定シタ、サウ云フヤウニ私共ハ考ヘテ居リマス、サウシテソレニ基イテ小学校及ビ青少年ノ普通義務教育ト云フコトヲ規定シテ居ル、ソレハ国家ガ負担スベキモノデアル、斯ウ云フコトニナル、ソレデハ続イテ高等教育ハドウスルカト云フ問題ガ起ルノデスガ、理想トシテハ之ヲ無償ニスルコトガ望マシイノデアルガ、サウ云フコトハ出来ナイト云フ場合ニドウシタラ宜イカ、相当資格ガアツテ金ガナイ為ニ――高等教育ト言ツテモ色々デスガ、専門学校デ終ル者モアリ、大学デ終ル者モアルガ、其ノ才能、資格ニ応ジテサウ云フ教育ヲ受ケラレナイ者ガアル、之ヲ如何ニスベキカト云フ問題デアル、サウ云フ者ニ付テハ、是ハ全部ト云フ訳ニハ行カヌデセウガ、国家ノ資力ニ応ジテアル者ヲ入レサセル、斯ウ云フ規定デアツテ、教育ノ機会均等、ソレカラ義務教育ノ強制、ソレカラ高等教育ノ部分的ナ国費支弁、サウ云フ原則ガ三ツ出テ居ルノデアル、ソレガ適当ナンヂヤナイカ
○芦田委員長　私ノ印象ニ依ルト、昨日ダカ一昨日ダカノ議論ヲ又反復スルコトニ終始スルヤウナ気ガスルノデスガ、ドウデスカ、双方ノ立場ハ分ツテ居ルノダカラ、其ノ議論ヲ反復スルコトヲ止メテ、何トカ纏メルト云フコトニシテ行カウジヤアリマセヌカ、ソレデ若シ多数ガ原案維持ト云フコトデアレバ、其ノ多数ヲ多数トシテ、少数意見ハ或ハ本委員会其ノ他ニ於テ又主張サレル機会モアルノダカラ、大体ドウデスカ
○大島（多）委員　私ノ方ハヤハリ原案デナクテ修正――高等教育ヲ国費デヤル方ニ賛成デス
○林（平）委員　私ハ原案ニ賛成デス
○芦田委員長　ソレデハ進歩党、自由党、協同党ハ原案、無所属ハ分リマセヌ、サウ云フコトデ一応参リマセウ、第五項ニ「教育の根本方針はこの憲法の精神による」……
○鈴木（義）委員　是ハ撤回シマス
○芦田委員長　サウスルト第二十五条、是ハ先日ノ小委員会デ、「すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。」ト云フコトニ各派トモ賛成スルト云フコトデアツタト思ヒマスガ……
○森戸委員　二十五条ノ第二項ヲ斯ウ改メタイト思フ「賃金、就業時間、休息その他の勤勞條件に關する基準竝びに失業防止等勞働の權利を保障するための施設は、法律でこれを定める。」、此ノ意味ハ斯ウ云フノデス、労働ノ権利ト云フコトガ色々ニ解セラレテ、例ヘバ同盟罷業ナドノ場合ニ、罷業ニ服シナイデ罷業破リヲスルノガ労働ノ権利デアル、斯ウ云フ風ニ解サレル、又失業シタ場合ニ労働ヲ探シテ歩ク権利ヲ労働ノ権利ト云フ風ニモ解セラレル、併シ我々ノココニ言フ労働ノ権利ト云フノハ、サウ云フ意味デハナクシテ、失業シテ職場ガナイ場合ニ、最後ニ労働ヲ保障サレルト云フ権利、斯ウ云フ権利ヲ有スルモノデアル、斯ウ云フモノデアルナラバ、之ヲ裏付ケル、保障スル施設ニ対スル国ノ努力ト云フモノガナクテハナラヌ、サウ云フ意味デ失業防止ト労働ノ権利ヲ保障スル為ノ施設ハ、法律デ之ヲ設ケルト云フコトヲ加ヘタ訳デアリマス、サウシテソレニ応ジテ修正案ノ所ニアル其ノ部分、「國は就業に於ける機會均等と失業防止の爲に特に努力する」、サウ云フコトガ之ニ吸収セラレテシマフ
○芦田委員長　ソレニ対スル反対論ハ昨日此ノ問題ヲ論ズル時ニ各方面カラ出タノデアリマシタガ、是モ結局此ノ二十三条ノ規定、先程社会党ノ提案サレタ健康デ文化的ナ生活水準ノ次ニ入レタ社会部面ニ於テハ社会福祉、社会保障及ビ公衆衛生ノ向上及ビ増進ニ努メナケレバナラナイト云フ所デ意味ハ含マレテ居ルノダガ、今度ハソレヲ法律デ決メル、斯ウ云フコトデスネ
○森戸委員　サウデス、賃金、就業時間、勤労条件モヤハリソレニ含マレテ居ル訳ナンデアリマスケレドモ、ココデ法律デ定メルト、斯ウ云フ施設ガソレニ準ジテ……
○芦田委員長　現在ハ委任命令デヤツテ居ルノダツタト思ヒマスガ、最低賃金ダトカ就業時間ヲ工場法デ決メテ居リマスガネ、大体社会党ノ修正案ニ対スル反対的ナ議論ハ昨日此処デ述ベラレタト思フノデスガ、ソレヲ又繰返シテヤルコトモドウカト思ヒマスケレドモ、ソレハドウデスカ、今ノ休息ノ所ハ先程各派トモ之ヲ挿入スルコトニ異論ナイト云フコトデアツタノデアリマスガ、後ノ部分ハドウデスカ自由党ハ、モウ議論ヲシテモ仕様ガナイカラ賛成カ反対カノ意見ヲ伺ツテ……
○北（れい）委員　休息ハ入レタ方ガ宜イカモ知レマセヌネ、労働時間ヲ決メルコトハ休息ノ時間ヲ与ヘルモノデアルカラ、ソレハ不可分ノ関係デアルカラ入レテモ入レナクテモ宜イケレドモ、是非入レタイト云フ希望ナラ入レテモ決シテ構ハナイ、大シタ影響ハナイ、私ハ原案ヲ支持シマス
○吉田（安）委員　私ノ方モ原案支持ニ致シマス
○林（平）委員　私モ原案支持デス
○大島（多）委員　私ハドチラデモ宜イ、賛成ノ多イ方ニシマス
○芦田委員長　ソレデハ大体分リマシタ――サウスルト今度ハ二十七条ニ入リマス
○鈴木（義）委員　後デ問題ニナルノデスケレドモ、二十六条ニ戻スカモ知レナイカラ留保シテ置キマス
○芦田委員長　サウデスカ、サウスルト二十七条ノ二項、三項ハ略々決マツタノデスネ、三項ハ、「私有財産は、法律の定めるところにより、これを公共のために用ひることができる。」
○吉田（安）委員　此ノ私有財産ノ三項デゴザイマスガ、今仰シヤツタ「法律の定めるところにより、これを公共のために用ひることができる。」ヲ、「法律の定める補償の下に」ト入レタラドウデセウカ、サウスルト「正當な補償」ヲ全然取ツテシマハナイデ、原案ヲ少シ延バシテ置ク
○芦田委員長　ソレハ修正シタ意味ト多少変ツテ来ルノデス、ト云フノハ公共ノ必要ガ非常ニ重大ナル時ニハ、法律ニ依ツテ補償ヲ払ハズシテ公共ノ為ニ用ヒルコトガ出来ル、斯ウ云フ趣意ヲ含ンデ居ル訳デス
○吉田（安）委員　分リマシタ
○鈴木（義）委員　併シサウ云フ意味ガ現ハレルカ疑問デス、法律ノ定ムル所ニ依ルト云フダケデ、無補償ノ場合モ此ノ中ニ入ルカト云フ――兎ニ角是ハ公用徴収ノヤウナコトヲ意味スルノデ、ソレニハ法律デヤラナケレバイカヌト云フコトヲ意味シテ居ルノカ、補償ノ問題ニハ触レテ居ナイト解スルノガ、普通ノ法律解釈ノ行キ方ナノデスガ、ドウデス佐藤サン……
○佐藤（達）政府委員　今ノ御趣旨一寸ハツキリシマセヌガ……
○鈴木（義）委員　「私有財産は、法律の定めるところにより、これを公共のために用ひることができる。」ト直シタ場合ニ、ソレハ補償ヲ給シナイ場合モ是デ規定サレルト、斯ウ云フノダガ、補償ノ問題ニハ触レテ居ナイト解スルノハ、公用徴収ハ法律デヤラナクテハイケナイト云フコトヲ規定シタコトニナルノダガ……
○佐藤（達）政府委員　其ノ御趣旨デシタラ、ヤハリ此ノ法律デ斯ウ云フ場合ニハ斯ウ云フ補償ヲスルノガ正当ダト認メレバ、其ノ条件トシテ此ノ法律ガヤハリ決メルト云フ風ニ考ヘテ居リマス
○鈴木（義）委員　補償ヲ給シナイコトモ……
○佐藤（達）政府委員　アリ得ルノデス
○鈴木（義）委員　是デ構ハナイノデスカ、斯ウスレバ補償ヲ給シナイト云フ場合モアリマス
○北（れい）委員　是ハ重大ナ問題ダト私ハ思フノデスガ、無補償デ没収シテモ宜イト云フヤウナ規定ヲ無暗ニ此処ヘ入レルト――私ハ今日、渉外局ノ当局カラ聴イタノデスガ、農地問題ニ付テ、即チ「ロシヤ」ノ提案ハ、御承知ノ如ク三町歩カラ六町歩マデハ地主ノ持ツテ居ルモノハ時価ノ五割ヲ、六町歩以上ハ無償没収ヲスル、英国ガソレニ強硬ニ反対致シマシタ、如何ニ日本ノ農地制度ヲ合理化シテ小作人ヲ解放スルト言ツテモ、国家ガ買収シテ小作人ニ渡ス以上ハ、無償ト云フコトハイケナイ、日本ノ現実ニ即シナイ、ソコデ全部有償ニスルト云フ論デ、中華民国ノ代表者モ英国ノ提案ニ賛成シテ居ツタノデスガ、私有財産ト云フモノヲ公共ノ必要上、国家ノ必要上ソレヲ没収スル時ニ於テハ、或ル程度ノ補償、大小ハ兎モ角モ無償ニシテモ宜イト云フ規定ヲ入レルコトハ私ハイカヌト思フ、対日理事会ニ於ケル農地法案ノ審議ノ結果ニ於テ、「ロシヤ」ダケハ孤立シテ居ル、是ハ私ハ重大ナ反省ヲ要スルト思フ、私ハ絶対的ニ賛成デアリマセヌ
○芦田委員長　サウ云フヤウナハツキリ無償デモ出来ルト云フ意味ヂヤナイノデス、国会ノ多数ガ公共ノ為ニ用ヒル必要ガアルト云フ場合ニ、或ル場合ニハ無償ト云フコトハ事実法律ノ上デアリ得ル、「定めるところにより」ト書ケバ出来ルト云フノダカラ、ソレハ国会ノ決メル……
○北（れい）委員　法律ガ決メタツテ、法律ノ撤去ノ場合ニハ一々国会デハヤレマセヌ、具体的ノ場合ニ家ヲ使フ、ソレハ公共ノ必要デアルカラト言フト幾ラデモ疑義ヲ生ズルカラ、私ハ適当ナ補償ヲヤルノハ公共ノ為ニ当然ダト思フ、其ノ適当ノ補償ト云フ以上ハ、時価ハ非常ニ高クテモ、サウ云フ高イモノデハ困ルカラ値段ヲ安クサセルト云フコトハ出来マス、現在ノ農地問題ノ場合ニ於テモ、実際ノ価格ヨリハ公定ハ安イ、斯ウ云フズツト安イ公定価デヤルコトニナル、サウ云フノハ差支ヘナイケレドモ、私ハ私有財産権ト云フモノヲ制限スルノハ、公共ノ必要上尤モデアルシ、没収スルコトモ出来ルガ、或ル程度ノ補償ヲヤルト云フコトハ、私有財産擁護ト云フ此ノ憲法ノ規定ガアル以上ハ、其ノ根本ヲ無視スルヤウナコトハ困ル
○芦田委員長　現実ノ問題トシテハ、例ヘバ特殊預貯金トカ、或ハ軍需補償ノ打切リ、是ハ名前ハ何ト言ハウトモ事実没収デス、ソレダカラ是ハ無論代償ハ払ハナイ、サウ云ウコトヲ今現ニ国家ガヤラントスル矢先デアルノダカラ、若シ国民ノ多数ガ軍需補償ヲ打切ツテモ、預貯金ヲ取上ゲテモ仕方ガアリマセヌト言ヘバ、サウ云フ場合モアリ得ルノダカラ……
○北（れい）委員　僕ノ聞ク所ニ依ルト、唯没収ト云フ形デハイケナイカラ、一旦払ツタト云フ形デ税金デ取ル、是ハ寧ロ「アメリカ」側ノ意見デス、ソレ程私有財産ト云フモノハ一通リ尊重シテ掛ルト云フ建前ニナツテ解決スルノデ、全然補償ガナクシテ、公共ノ為メ必要デアルカラト云フコトデハ、ソレハ大変ナコトデスヨ
○芦田委員長　ダカラソレヲ租税ト云フ名ヲ付ケルカドウカ知ラナイガ、併シソレハ租税ト云フベキ性質ノモノヂヤナイ、有体財産ハ其ノ侭ニシテ置イテ、金銭財産ダケハ一万五千円以上ハ税トシテ巻上ゲルト云フノハ、何ト言ツテモ本質的ニハ没収デス
○北（れい）委員　アンタハ最近ノ状態ヲ知ラヌノデス、軍需補償デモ一旦払ツタ形デ税金デ取ル、斯ウ云フ建前ニシテ、ソコデ「正當な」ト云フコトヲ活カセバ、ソレハ実際ノ時価売買ガ十万円スルモノガ五万円ニサレテモ、五千円ニサレテモ宜シイガ、財産権ヲ一応尊重スルト云フ憲法ノ本項ヲ活カシテ行クナラバ、ソレヲ公共ノ必要上没収スルコトハイケナイ、或ル程度ノ補償ヲスルコトハ理論上ハ当然ダラウト思ヒマス
○芦田委員長　常識的ニハ無論サウデス、我々モ無償デ物ヲ巻上ゲルト云フコトハ望マナイガ、併シ恐ラクサウ云フ法律ガ議会ニハ通リ得マイト思フカラ……
○北（れい）委員　法律ニ於テハドウデモ、実質ニ此ノ憲法ニ是ガアルカラ、没収シテモドツチデモ宜イノダト云フ場合ニ、一応地方自治体アタリガ濫用スル虞ガアル、是ハ私有財産ヲ否認スルカ、是認スルカト云フ根本問題ニナル
○芦田委員長　ソレヂヤ原案ノ通リニナルノデス、アナタノ意見ハ……
○北（れい）委員　私ハソレデ結構ダト思フ、現在対日理事会ノ凡ユル原則ヲ聴イテ見ルト、英国側ノ「ロシヤ」ニ対スル弁駁ガ其ノ論旨カラ出テ居ル
○鈴木（義）委員　ソレダカラ我ガ党ガ提案シタ時ニハ、関係方面ニモ行ツテ説明シテ来タノデスガ、我ガ党ノ、「私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」此ノ原則ハ動カナイ、併シ極メテ稀ナ場合ニ、大規模ナ国家企業ニ移スヤウナ時ニ、全部補償ヲ給シ切レナイコトガアル、サウ云フ特別ノ財産ニ付テダケ、議会ノ議決ヲ経テ補償ヲ給シナイコトガアリ得ル、ソレハ技巧的ニヤレバ補償ヲヤツタコトニシテ又取返ス、ソレハ同ジコトダケレドモ、サウ云フコトヲセズニ、ヤハリ特別ノ場合ニハサウ云フ例外ガ開カレルト云フコトヲ決メテ置ク方ガ宜イト思フ、私ガ其ノ説明ヲシタ時ニ、アチラノ人ハ肯イテ居リマシタ
○北（れい）委員　委員長ハ今度ノ物資需給緊急措置アタリヲ中心的ニ考ヘテ居ルガ、戦時ノヤリ方ト、戦争ノドサクサ粉レノ此ノ跡始末ノヤリ方ガ原則ヂヤナイノデスカラ、ソレニ多少ノ没収ニ近イコトガアルカラト言ウテ、憲法ハ大体「ノーマル」ナ状態ヲ規定シテ居ルノダカラ、是ハ是デ弾力性ヲ持タセレバ、十分ノ一払ツテモ、五分ノ一払ツテモ、正当ナ解釈ハ幾ラデモ取リ得ルノダカラ、是ハ此ノ条文ノ精神カラ言フト、此ノ侭生カスベキモノダト思フ、社会党ノ諸君ガ自分等ノ政策ヲ実行スルニ当ツテモ苦シマヌト思フ
○鈴木（義）委員　極メテ稀ナ場合シカナイモノダカラ……
○大島（多）委員　有力ナ御反対モアルカラ……
○芦田委員長　私ハ決シテ之ヲ固執スル考ヘハ少シモアリマセヌ、私ノ立場ハ別ニ固定シタ考ヘデ言ツテ居ルノデナイ、昨日一応出タ文句ヲ読ンデ、其ノ「法律の定めるところにより」ト云フモノノ出タ理由ヲ御話シテ居ツタノデ、決シテ之ヲ其ノ通リ決メヨウトカ、通サウトカ云ツタ趣意デ話ヲシテ居ルノデハアリマセヌ、結局二十七条全体ヲココデ決メルコトニナルノデスガ、サウスルト社会党ノ修正案ノ印刷物ノ七枚ノ裏ノ「第二十七條第一項に」ト云フ所カラ問題ニナル訳デスネ
○吉田（安）委員　是ハ併シ第三項ハ一応社会党カラ修正案ガ出テ、進歩党ノ方カラモ修正調和的ノモノガ出テ、「私有財産は、法律の定めるところにより」云々ト云フコトデ一応決マツタノデハアリマセヌカ
○芦田委員長　マダ最後ノ確定ト云フコトデナカツタガ、其ノ程度ト云フコトデ次ニ移ツタノデス
○犬養委員　北サンノ言ハレル、国家ノ其ノ時々ノ事情ニ依ツテ、百万円ノモノガ九十万円ニナル、サウ云フ補償ニナルコトモ含メテ、「正當な補償の下に」デハ一寸国民ガ解釈上迷ヒガ生ズルノデ、「法律の定めるところにより」ト変更シタノハ、其ノ意味ヲ含メテ居ルノデアリマス、御参考マデニ……
○北（れい）委員　犬養君ノ言フノモ、私ノ言フノモ、内容ハ同ジニナルカモ知レヌ、正当ナ補償ト云フコトヲ頭ニ置イテ法律ヲ定メレバ宜イノデスカラ、結局形式論ト実質論ノ違ヒデ、法律ノ定メル所ハ形式論デ、実質論ハ正当ナ補償ト云フコトニナル、正当ナ補償ハ、時価デ払ツテチツトモ差支ヘナイ所ハ時価デ払ツテ宜シイシ、ドウシテモ公共上金ガサウナイ時ニハ、負ケテ貰ハウト云フ意味デ、其ノ方ガ弾力性ガアツテ宜イト思フ
○犬養委員　此ノ修正ノ時、アナタハ御欠席ダツタカモ知レヌガ、国民ガドツチカ迷フナラ、説明的、啓発的文字ヲ使ハウ、其ノ場合ガ度々出テ来テ居ル、私ノ程度デモ、是ハ正当ト云フト、真正直ニ払ツテ貰ヘルト云フ楽シミガアルノデ、ソレハ「法律の定めるところ」ニシヨウ、斯ウ云フコトニナツタノデス
○鈴木（義）委員　ソレニ此ノ補償ト云フ問題ハ、公用徴収ノ時ニ時価デアルト云フコトガ決マツテ居リマシテ、其ノ時価ノ認識ヲ誤ツタト云フノデ行政訴訟ガ沢山起キル、例ヘバ民事訴訟ニモナツテ居ル、是ハ将来ドウナルカ知レマセヌガ、大キナ公用徴収ヲヤル場合ニ、千人二千人ノ訴訟ガ起キル、ソレデスカラ、北サンノ考ヘルヤウニ簡単ニ百円ノ物ヲ十円デ正当ト見ル、サウ云フコトハ国民ノ方デ承知シナイ、寧ロ徴収サレル時ハ、百円ノ物ハ二百円ニシナケレバナラヌ訳デス
○北（れい）委員　ソレモ一ツノ観察デアリマスケレドモ、今度ノ農地法案アタリデ言ヘバ、皆公定デヤツテ居リマス、実際ニハ五倍、六倍ト云フ田圃ガ幾ラモアリマス、ソレデ地主ハ非常ニ困ツテ居ルケレドモ、公定ト云フモノガアルノダカラ、公定デ売ツテ、時価デハ行カナイ、今度ノ農地立法ニモ……
○鈴木（義）委員　公定ノアル場合ハ問題ハナイノデス、ソレヲ承知デ闇ヲヤツテ居ル、闇ヲ標準ニスル訳ニハ行カナイ、アナタガ仰シヤル意味ハ、公定ガ百円スル場合デモ、国家財政ノ都合デ十円デ徴収スルト云フヤウナ御話ニ聞エタケレドモ……
○北（れい）委員　私ハサウハ言ハナイ、何カ非常ニ繁昌シテ居ル商売ヲヤツテ居ツテ――銀座ノ角ノ隅ツコデモ何十万円ノ価値ガアル、サウ云フ時ニ、其ノ店ヲヤツテ居レバソレダケノ価値ガアル、ソレヲ現在デモウント安クヤラレル、道路トカ区画整理トカ、サウ云フヤウナ時ニ問題デスガ、少シモ是デ不便デハナイ
○犬養委員　サツキノ北サンノ御話ヲ少シ誤解シタカモ知レマセヌガ、百円払フノガ正当ダト思ツテモ、国家財政其ノ他ノ都合デ八十円デ兜ヲ脱イデ貰フト云フ政策モアリ得ル、サウスルトドウモ正当ノ補償デハ非常ニ窮屈デハナイカ、斯ウ云フヤウニ取ツタノデスガ……
○北（れい）委員　此ノ正当ト云フコトノ解釈次第デセウナ、非常ニ繁昌シテ居ル商売ノ店ノ角一ツヲ取ルニモ、取ラレル人カラ言フト、是ハ百万円スルトカ、五十万円スルトカ言フカモ知レナイ、所ガ区画整理ナド事実上ソンナニ出シテ居ナイ、区画整理トカ道路開鑿ニソンナ高イ金ヲ出シテ、高イ住宅ノ権利ヲ出シテヤレルモノデハナイ、今度ノ東京ノ都市計画デモ、ソンナ馬鹿ナ金ハ事実払ツテ居リマセヌ、是ハ現在ノ常識デ何等差支ヘナイト思フ
○犬養委員　差支ヘナイト思フノハ、アナタノヤウナ総合的ナ頭脳ノアル政治家ガサウ思フダケデ、国民ノ方ハ仮令一円デモ多ク取リタイト云フ時デスカラ……
○北（れい）委員　大体所有種ト云フモノノ神聖ヲ認メテ居ル以上ハ、補償ト云フモノハ原則トシテ……
○犬養委員　補償ノ原則ハ誰モ否定シナイ
○北（れい）委員　所ガ法律ノ定メ方ニ依ツテハ何デモ出来ルト云フ感ジヲ与ヘル、此ノ法律デ定メルコトニモ一定ノ条件ガアルヂヤナイカ、法律ガ憲法ノ精神ヲ破ルヤウナ決メ方デハ困ルト云フノガ私ノ論拠デス、所有権神聖ノ憲法ノ根本規定ヲ破ルヤウナ法律ヂヤ困ルト云フコトデス
○犬養委員　重大ナコトハ法律ニ定メルト云フコトデ、法律ニ委任シテ居ル所ガ沢山アル
○北（れい）委員　ソレハ憲法ノ規定ニ背クト云フ意味デハナク、憲法ノ範囲内ニ於ケル法律デアル、反憲法的法律デアルベカラズ、其ノ原則ニ立ツテ居ル
○犬養委員　ソレハ何処カニアル、此ノ憲法ニ反スル一切ノ条項ハイカヌト云フコトガ――是ハ第一項モ何カ問題ガアツタノデスカ
○芦田委員長　ソレハ西尾君ノ妥協案ノ中ニ、二項、三項ニシテシマツテ、一項ハ取ツタラドウカト云フ意見ガ出タンデス、併シソレハ十分ニ討議ヲシナイ侭デ終ツタンデス、鈴木君ノ方デ第一項ヲ取ツタ場合ニ、二項、三項ヲドウスルカ、或ハ第一項ヲ取ツテ新シイ箇条ヲ入レルカト云フヤウナ問題マデハ考ヘテ居ラレマセヌデスカ
○鈴木（義）委員　今考ヘテ居ルノデスガ……
○森戸委員　第一項ノ修正ハ少シ長カツタノデ、モツト簡略ニシマシテ、第一項ヲ「公共の福祉に反しない限りにおいて財産權は保障される」、第二項ハ「財産權の内容は、法律でこれを定める」……
○犬養委員　社会党ノ御提案ニハ、相当恐怖観念ノヤウナモノガアツテ、ソレデ疑フヤウナ感ジガ起ルノデス、ダカラ公共ノ福祉ニ反シナイ限リニ於テ――公共ノ福祉ニ副フ限リニ於テ財産権ヲ侵サレル場合ト云フノハドウ云フ場合デスカ、ソレヲ具体的ニ伺ヘバ又解決ノ方法モアル
○森戸委員　「公共の福祉に反しない限りにおいて財産權は保障される」
○犬養委員　サウ云フ条件ヲ付ケナケレバナラヌ具体的社会現象ハドウデスカ
○森戸委員　具体的ニハ、公共ノ福祉ヲ無視シテ財産権ガ強ク主張サレルヤウナ場合ガアル
○犬養委員　具体的ノ場合ハドウデスカ、ソレヲ伺ヘバ非常ニ参考ニナル
○森戸委員　例ヘバ工場ノ立法ナンカ、サウ云フヤウナ場合ニ財産権ヲ主張シテ之ヲ反対スルト云フ場合モアリ得ル、ソレカラ財産権ノ色々ナ制限ト云フモノニ対シテモ、財産権ハ神聖ダカラサウ云フコトニ対シテハ反対ダト云フ、統制ナンカ始終問題ニナル
○犬養委員　例ヘバ生産管理ナンカノ場合ニ、機械其ノ他工場ノ財産ト云フヤウナモノヲ……
○森戸委員　サウ云フ問題トハ関係シテ居マセヌ
○鈴木（義）委員　例ヘバ三町歩以上農地ヲ持ツテ居ルモノハ公共ノ福祉イ適シナイ、ダカラサウ云フ大キイ財産権ハ法律ハ保護シナイ、三町歩マデシカ保護シナイ、其ノ先ハ正当ナ補償ノ下ニ之ヲ公共ノ為ニ用ヒルト云フヤウナ場合……
○犬養委員　江藤サン、之ヲ入レタ場合ニ、個々ノ場合ニ起ル何カ差支ヘガ想像出来マスカ
○江藤委員　之ト云フノハ……
○犬養委員　公共ノ福祉ニ反シナイ限リニ於テ財産権ハ侵シテハナラナイト云フ条件ヲ付ケタ場合デス、社会党ノ言ハレルヤウナ二、三ノ例ハ、今政府ガヤラウトシテ居ルコトガ問題ダ
○江藤委員　サウスルト公共ノ福祉ト云フコトガ第一ニ出テ来ル訳デスネ、サウナレバ此ノ憲法ノ大体ヲ貫イテ居ル精神ハ、公共ノ福祉ト云フコトハ勿論考ヘテヤツテ居ルガ、財産権ナドニ付テモ、私有財産制度ト云フモノヲ根本ノモノトシテ出来テ居ル訳デアル、只今私有財産権ハ侵シテハナラナイト斯ウ最初ニヤツテ、後ニ公共ノ福祉ニ適合スルヤウニトヤツテ行ク、ソコノ所ヲ一寸引繰返ス訳デスネ
○北（れい）委員　社会党ノ案ニスレバ「ヒトラー」ノ「イデオロギー」ト同ジデ、公益ハ私益ニ優先ス、ソレカラ奥村喜和男君ノ書イタ日本ノ翼賛会ノ新体制早分リノ中ニモ公益優先ト云フコトガアリ、公益ハ私益ト何時デモ矛盾スルヤウニ考ヘテ、サウシテ私利私慾ハ悪イト云フヤウニ言ツテ居ルガ、私有財産ヲ認メルト云フコトハ公益ニ反シナイ、却テ私有財産ヲ認メテ置ク方ガ社会的秩序ヲ維持シ、一般ノ安寧ヲ保ツ所以デアル、若シ公益ト私益ガ矛盾スル場合ニハ財産権ヲ制限スル、サウデナケレバ私有財産権ハ認メラレナイ、所ガ初メカラ「ナチス」ノヤウニ、更ニ日本ノ翼賛会ノ新体制早分リノヤウニ、公益ハ私益ニ優先スルト云フヤウナ書キ方ハ、一寸私ニハ分ラヌ
○芦田委員長　公益ニ反シナイト云フ精神ハ、実ハ書カナクトモ第十一条ニ依ツテ当然是ハ制限ヲ受ケテ居ルモノダト云フ風ニ、ズツト政府ノ説明モ来テ居ルノデアリマスガ、佐藤サン、今私ノ言ツタコトハ間違ヒデスカ、ドウデスカ、第十一条ニ、国民ノ権利ハ常ニ公共ノ福祉ノ為ニ、ト云フコトガ規定シテアルノデアツテ、財産権ト雖モ、ヤハリ第十一条ノ制限ヲ受ケルト云フコトハ絶エズ政府ガ言ツテ居ラレタ如クニ了解シテ居ルノデスガ……
○佐藤（達）政府委員　其ノ通リデアルト思ヒマス、尚ホ其ノ上ニ第二十七条ノ第一項、第二項ニ於テ、「財産權は、これを侵してはならない。財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」ト云フコトニナツテ居リマスシ、第三項ニ於テモ、「私有財産は……これを公共のために」ト云フ規定ガアルノデ、大体ソレト相俟ツテ居ルト思ヒマス
○森戸委員　今ノ北サンノ御話ハ多少言ヒ過ギデナイカト思ヒマス、「ナチス」トカ、全体主義ト云フコトデアレバ、此ノ憲法ガ全体主義ノ憲法デアル、我々ノ「公共の福祉のため」ト云フコトガ「ナチ」デアリ、全体主義デアルト云フナラ、此ノ憲法ニ書カレテ居ルコトガ「ナチ」デアルト言ハナケレバナラヌ、サウ云フ偏狭ニ解シテハナラナイ、殊ニ此ノ場合「ナチ」トカ何トカ云フ言葉ヲ使フト云フコトハ非常ニ誤解ガアル、サウ云フ言論ハ私ハ慎ンデ戴キタイト思ヒマス
○北（れい）委員　私ガ「ナチ」ト言ツタノハ、公益ト私益ト大体衝突スルト云フ頭カラ来テ居ル、私ハ原則トシテ公益ト私益ハ一致スル、一致セザル場合ニ制限スルノガ憲法ノ精神デアルト云フ意味デ言ツタノデス
○芦田委員長　其ノ原理論ハ止メマセウ、実際問題ノ解決ヲドウスルカト云フ方ニ行キマセウ
○犬養委員　サウシマセウ、ソコデ森戸サンニ伺ヒマスガ、今御修正ニナツタノハ元ノ意味ヨリ弱クナツテ居ルガ、ソレト第二十二条ト余程違ヒマスカ
○森戸委員　二十七条ダト私有財産不可侵ト云フ「フランス」憲法以来ノ非常ニ強イ所ガアル、所ガ今日ノ時勢デハ大体私益ト公益ガ一致スルト北君ガ言ハレタ自由主義的ナ行キ方ガ事実ニ背イテ居ル状態ニアル、ソコデ此ノ憲法ニモ屡々「公共の福祉」ト云フ言葉ガ出テ居ルノハ、サウ云フ事実ヲ反映シテ居ルト思ヒマス、公共ノ利益ト個人ノ利益ガ或ル点ソグハナイ、之ヲドウ云フ方法デ調和スルカト云フ点ニ「ナチ」ノ調和法、「デモクラシー」ノ調和法ガアリ、ソコニ違ヒガアル、此ノ憲法ニ於テハ民主的ナ方法デ之ヲ調和スルト云フ所ニ特徴ガアルト云フ見地カラ、「フランス」憲法当時ノサウ云フ考ヘヲ緩和スル意味デ、「公共の福祉」ト云フコトヲ置イテ、サウシテ其ノ後デ財産権ガ規定サレルト云フコトデアレバ、両方ノ今ノ事情ガ余程個人的利益ヲ無視スル訳デナク、公共ノ福祉ガ意味サレルノデハナイカト云フコトデアリマス
○犬養委員　二十七条ニハ財産権不可侵ヲ謳ツテ、其ノ一行後ニ不可侵権ノ除外例ヲ謳ツテ居ル、是ハ一応デモ財産権ノ不可侵ヲ謳フコトハ面白クナイト云フコトデスカ
○森戸委員　サウデス
○犬養委員　委員長ドウデスカ
○芦田委員長　私ハ別ニ財産権ノ問題ニ付テ話合ツタコトハナイノデスガ、佐藤サンドウデス
○佐藤（達）政府委員　最近私ハ連絡サレタコトガナイノデ相当前ノ話デスガ、第一項ハ置イテ置キタイ、併シ原則ハ原則トシテ置イテ、二項ナリ三項ナリデ適切ナル運用ヲシタイト云フ気持ノヤウデシタ
○犬養委員　私モサウ思フンデス、ドウデセウ、御考慮願ヘマセヌカ、実ハ一行後デ譲ツテ居ルノデスガ……
○芦田委員長　我々カラ言フト、既ニ十一条デ譲ツテ居ル
○高橋（泰）委員　ドウデス、大分御議論モアツタヤウデスカラ、此ノ点ハ社会党モ御譲リニナツテハ……
○森戸委員　我々ノ考ヘハサウシナケレバナラヌト考ヘテ居リマスケレドモ、多数ノ御意見デ、ナイ方ガ宜イト云フナラ……
○鈴木（義）委員　ソレカラ第三項ノ修正モ必ズシモ私ハ賛成出来マセヌ、改悪ダト思ヒマス、ヤハリ「正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」但シ特別ノ議決ニ依ツテナサナイト云フノデアレバ賛成デアルケレドモ、ドウモ財産権ノ内容ヲ法律デ決メルト云フ考ヘ方ハ危険デモアリ、是ハ立法トシテモ問題ダト思ヒマスノデ、私ハ賛成ヲ留保致シマス
○芦田委員長　ソレデハ結局原案ヲ認メルカ、或ハ之ニ修正ヲ加ヘルカト云フ問題ガ残ツテ居ル訳デスネ、ソレヲ一ツ党内デ一応御相談下サイ
○大島（多）委員　モウソコマデシナクテモ……
○芦田委員長　相談シテモ余地ガナイト云フコトナラバ今確定シテモ宜イ、ドウセ留保シテ居ル問題ガ明日マデアルノダカラ、相談シテ下サツテ結構デス
○鈴木（義）委員　ソレデハ留保致シテ置キマス、ソレカラ二十九条ニ行ク前ニ、是ハ財産権ノ不可侵カ知リマセヌガ、耕作権ト云フモノハ私共ハ非常ニ重要視シテ居ルノデス、是ガ決マツテシマヘバ、今ノ農地調整法ダノハ要ラナイ位ノモノデアリマス
○芦田委員長　ソレハ昨日佐藤君カラ御答弁ガアツタト思ヒマシタネ、耕作権ハ権利ダト云フ風ニ金森サンハ解釈シテ話サレタコトガアリマセヌデシタカ
○佐藤（達）政府委員　金森サンハ、確カサウ云フコトヲ委員会デ答弁サレマシタ
○鈴木（義）委員　ソレハ最初ドコデ保護サレルカト聴キマシタ所、二十五条ノ賃金其ノ他ノ勤労条件ニナルト色々仰シヤツタノデスガ、ドウモ納得ガ行カナイ、結局是ハ財産権ノ中ニ入ルニハ相違ナイガ、特ニ農民ガ土地ヲ耕作スル権利ハ之ヲ保障スルト云フヤウナ規定ヲ設ケテ戴イテ、細カイコトハ法律ニ譲ルコトニシテ戴キタイト思フノデス
○北（れい）委員　私ハ耕作権ヲ憲法ニ入レルコトニ付テハ非常ニ疑義ヲ持ツテ居ル、ト云フノハ若シサウ云フコトニナルト、借地、借家権モ入レナケレバナラナイト云フコトニナルカラ……
○鈴木（義）委員　ソレデハ、サツキト同ジヤウナ議論ニ戻ツテシマフ、午前中ハサウ云フ議論デ、是モ憲法ニ入レナケレバナラナイ、アレモ憲法ニ入レナケレバナラナイト云フコトデアツテ、私共ハ借地、借家モ入レタイノデス、又「ワイマール」憲法ヲ持出スト叱ラレルガ、「ワイマール」憲法ニモアルノデスカラ……
○芦田委員長　叱ル訳デハアリマセヌ、其ノ点ハ私一応申上ゲテ置キマスガ、「ワイマール」憲法ノ結果ハ殆ド何等実効ヲ収メズニ流産シテシマツタ、何故流産シタカト云フト、当時ノ「ドイツ」ノ国情ニ副ハナイモノガアツタカラ実効力ガナカツタノデス、ソコデ日本ノ憲法モ「ワイマール」憲法ノ如クナラシメタクナイト日夜思ツテ居ルモノデスカラ、「ワイマール」憲法ト云フ名前ヲ聞クト、ゾツトスルト云フコトヲ私ハ申上ゲタノデス、ソレダケノコトナノデス
○鈴木（義）委員　ソレハ委員長ノ老婆心カラデセウガ、我々ノ観察ハズツトソレトハ違フ、アノ憲法ハ其ノ侭行ツテ居レバ「ドイツ」ハ救ハレタ、所謂民主戦線モ出来ズ、「ナチス」ニシテヤラレテシマツタ、詰リ全ク歪曲サレテシマツタノデ、私共ハ非常ニ見方ガ違フノデス
○芦田委員長　ダカラ、日本国民ガ実行シ得ル憲法ヲ作ツテ置カナケレバナラナイ
○鈴木（義）委員　サウ云フ点ダツタラ、此ノ憲法ダツテ非常ニ理想主義的ニ過ギルト思フノデスケレドモ、併シ政治的自由ノ方ハ理想主義デモ弊害ハナイト思フ
○芦田委員長　是ハ余談デスカラ是デ止メマセウ、ドウデスカ、私ハ耕作権ガ権利デアルカナイカト云フ細カイコトハ、専門的ニ能ク分ラナイノデスガ、実ハ財産権ヲモツト個別的ニ列挙スベシ、耕作権モ特許権モ著述権モ総テ挙ゲタラ宜カラウト云フ説ガアルノデス、ケレドモサウ云フ風ニ貸借権モ地上権モ借地権モ耕作権モ全部並ベテ書ク必要ハナイ、財産権ハ侵サレナイノダト書イテアル、其ノ財産権ノ中ニ是等ノモノガ全部入ツテ居ルト云フコトデ此ノ憲法ハ満足シテ行キタイ、後ハ個々ノ法律ニ依ツテ規定シテ行ク、斯ウ云フコトナンデス
○鈴木（義）委員　一応議論ヲ尽スコトハ、私共ノ責任ヲ果スコトニナルノデ申上ゲルノデスガ、皆様ノ御意見ガサウデアレバ、ソレニ服シマス
○芦田委員長　サウスルト二十七条ハソレデ宜シウゴザイマスカ――サウスルト、二十七条ノ次ニ「國民は、法律の定めるところにより、納税の義務を有する。」ト云フ条項ヲ入レル、是ハ昨日既ニ各派トモ異議ガナクテ、挿入スルコトニ決マツタ訳デス
○佐藤（達）政府委員　今委員長ガ「納税の義務を有する。」ト仰シヤイマシタノデ思出シタノデスガ、「納税の義務を負ふ。」ト云フノガ宜イカ、「有する」ト云フノガ宜イカ、原案ニハ教育ノ義務ヲ負フト云フ条文ガアリマス、是ハ本当ニ恐縮デスガ、金森サンガ、一体「義務を負ふ」ト言フト、何カ背負ヒ被セルヤウナ感ジガスルカラ、「義務を有する」ノ方ガ綺麗デハナイカト云フコトヲ一寸冗談混リニ申サレタコトヲ思出シタノデ、ドツチカニ統一シテ戴キタイト思ヒマス
○鈴木（義）委員　「負ふ」方ガ正シイ表現デセウネ、「有する」ト云フノハ、権利ナラバ宜イケレドモ、義務ノ方ハ変デス
○佐藤（達）政府委員　現行憲法デハ義務ヲ有スルト云フ表現ニナツテ居リマス、ドチラデモ宜イデス
○鈴木（義）委員　本当ハ義務ハ負フデアツテ、権利ハ有スルデセウネ
○吉田（安）委員　「負ふ」ニナツテ居ルヂヤナイデスカ
○芦田委員長　ソレヂヤ「負ふ」ト直シマセウカ
○林（平）委員　二十七条ノ四項デスカ
○芦田委員長　ソレハ新シイ条項ガ入ルノデス、ソレカラ三十五条ノ二項、「強制、拷問若しくは脅迫の下での自白」ハ「脅迫による自白」ト直ス、其ノ次ニ国家ノ損害賠償、補償ニ関スル規定ニ付テハ、成文ヲ法制局ノ方ヘ御願ヒシテ置キマシタガ、御忙シイ間デアルカラ出来テ居ルカ居ナイカ分リマセヌガ、佐藤君ドウデスカ
○佐藤（達）政府委員　印刷ニデモシテ御配リシヨウカト思ヒマシタガ、其ノ暇ガアリマセヌノデ一応読マシテ戴キマス、刑事補償ノ関係ノ条文ト致シマシテ、三十六条ノ次ニ一条文ヲ起シマシテ、「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、國にその補償を求めることができる。」、是ガ今ノ刑事補償ノ関係ノ条文デアリマス、ソレカラモウ一ツ公務員関係ノ賠償ノ問題ガアリマスガ、是ハ条文ノ場所トシテ、ドウモ前ノ方ガ宜クハナイカト云フ気分デ居リマス、十四条ノ次カ、十五条ノ次カ、是ハ何レデモ結構ダト思ヒマスガ、ドチラカニ一条文ヲ起シマシテ、「何人も、公務員の不法行爲により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、國又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」、一応サウ云フ案ヲ書イテ見マシタ
○芦田委員長　是ハ如何デスカ
○大島（多）委員　其ノ内容ハ結構デスケレドモ、文章デスガ、「何人も」トナツタ時ニハ後ロヲ否定ニスルコトガ普通ノヤウデスガ、是ハ其ノ方カラ一寸文章トシテハヲカシクハアリマセヌカ、「何人も」トナツタナラナラバ、何々シテハナラナイトカ、是ハ現行憲法ノ形カラ言ツタナラバ「何人も」ト云フ文字ヲ取ツテ、裁判ヲ受ケタ者ハ、トシ、損害ヲ受ケタ者ハ、トスルノガ今マデノ形デスネ、ソレヲ此ノ憲法ニハ「何人も」ト云フヤウナ書キ方、「すべて國民は」ト云フヤウナ書キ方ガ非常ニ多イモノダカラ、ソレニ平仄ヲ合セル意味ニ於テ恐ラク「何人も」ト云フ文字ヲ御使ヒニナツタノダラウト思ヒマスガネ
○鈴木（義）委員　其ノ「何人も」ト云フノハ、必ズ否定デ終ラナケレバナラヌト云フ文法上ノ約束ハナイノデセウ
○大島（多）委員　イヤ、アルノデス
○芦田委員長　我々モサウ云フ風ナ感ジガスルナ、何人モ入ツチヤイケナイ、何人モ犯シテハナラナイトカ云フ……
○佐藤（達）政府委員　御尤モナ御感ジト思ヒマスガ、此ノ草案自身ニ第十五条ニ「何人も……請願する權利を有し」ト云フ所ガアリマス、ソレカラ第二十条ニ「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移轉及び職業選擇の自由を有する。」ト云フノガアリマシテ、余リヲカシイトモ思ハズニ見テ居リマス
○鈴木（義）委員　僕ハ差支ヘナイヤウニ思ヒマス
○大島（多）委員　ソコノ所ハ直スヤウニ努力シテ呉レト私ハ言ハレテ居ルモノデスカラ……
○芦田委員長　第二十条ノ第一項ハ、職業ノ自由ヲ妨ゲラレナイトカ、拘束サレナイトカ云フ風ニスレバ平仄ハ合フノデスネ、何人モ職業選択ノ自由ヲ制限サレナイ、マア併シ普通ニハサウ云フノガ常識ノヤウナ気ガスルデスガ……
○北（れい）委員　皆否定ニナツテ居ルナ
○芦田委員長　補償ヲ求メルコトガ出来ルト云フノヲ、補償ヲ求メルコトヲ妨ゲナイトカ……
○鈴木（義）委員　ソレハイケナイデス、ソレナラ寧ロ「何人」ノ方ヲ直シテ、補償ヲ求メルコトガ出来ルト云フヤウニ……
○芦田委員長　「裁判を受けた者はすべて」……
○大島（多）委員　「國民は」ナラ宜イデスネ
○北（れい）委員　是ハ国民ト云フ場合以外ニ言フコトハナイ、「國民は」デハ工合ガ悪イ
○犬養委員　「何人も」デ宜イヂヤナイカ
○芦田委員長　「裁判を受けた者は、すべて法律の定めるところにより、その補償を求めることができる」……
○北（れい）委員　「何人も」カ、「すべて國民は」カノドチラカシカナイノダカラ……
○芦田委員長　「受けた者は、すべて法律の定めるところにより、國にその補償を求めることができる、」トシマスカ、一体日本語トシテハ一番初メニ持ツテ来テ「何人も」何トカト云フノハ善イ趣味デハナイ
○北（れい）委員　悪趣味ダネ
○芦田委員長　ソコハ時代ノ相違ダラウト思フノデスケレドモ……
○鈴木（義）委員　我々ハ行儀ノ悪イ方ノ言葉ヲ覚エテ居ツタカラ、サウ云フヤウニ……
○吉田（安）委員　入レナイデモ宜イヂヤナイデスカ、「受けた者は」デ……
○芦田委員長　「受けた者は」トスレバ拙イデスカ
○佐藤（達）政府委員　イヤ結構デス、形ハドウカト思ツテ体裁ヲ揃ヘタダケデ、意味ハチツトモ構ヒマセヌ
○芦田委員長　是ダケヲ「受けた者は」トシテ外トノ体裁ハ……
○佐藤（達）政府委員　何人ト雖モ、斯ウ云フコトニナツタ時ニハ補償ヲ受ケラレルト云フコトニ――「雖も」ト云フ意味ニ読メルト思ヒマス
○芦田委員長　「何人と雖も」トシチヤイケナイデスカ
○佐藤（達）政府委員　ソコマデハ申シマセヌケレドモ……
○犬養委員　其ノ邊デ御諒解願ヒマセウ
○吉田（安）委員　「雖も」ト云フ意味デセウ
○犬養委員　口語体ト云フコトニシヨウ
○芦田委員長　是デ宜シウゴザイマスカ――ソレヂヤサウ云フコトニ致シマス、サウスルト是デ一応第三章ヲ終リマシテ第四章ニ入リマス、第四章ノ第五十五条ノ第三項、之ヲ六十日ト云フ期間ヲ、昨日ハ一応三十日デドウカト云フコトデ、多数ハソレデ宜カラウト云フヤウナ御話ダツタノデスガ、色々事情ヲ聴イテ見ルト、成程法律案ガ今後出テ来ル、民法改正案トカ、刑事訴訟法改正案、サウ云ツタヤウナ法律案ガ遠カラズ参議院ニ廻ル、受取ツテカラ三十日内ニ「イエス」「ノー」ヲハツキリ決メテシマヘト云フコトヲ言フノモ、或ハ三十日デハ少シ不足デアルト云フコトモ考ヘラレルノデス、僅カ百箇条ノ憲法デモ一箇月以上掛カルノダカラ、サウ云フコトヲ考ヘルト、三十日デハ或ハ少イト云フ論ハ、相当根拠ガアルコトダトモ思ハレルノデス、ダカラ強ヒテ窮屈ニシテ置ク必要モナイ、モウ一遍之ヲ論議シタラドウカト思フノデス
○北（れい）委員　六十日ト云フノガ長イカ短イカハ、会期ヲ一年中ヤルカ、会期ニ一定ノ期限ヲ付ケルカニ依ツテ決スルモノデアツテ、法制審議会ノ方ノ意見デハ、一年中開クト云フコトハ、事実「アメリカ」ノ議会ノヤウニ、大臣ガ議会ニ臨マズ、与党ガ全部立法シテ法律案ヲ提出シテ、サウシテ野党ト論戦を闘ハシ、一年中開イテモ、夏休ミモアレバ「クリスマス」ノ休ミモアルカラ宜イケレドモ、日本デハ大臣、次官ノ出席ヲ求メルノガ慣例デアリ、法律案ハ政府ガ出スカラ、一年中開クト云フコトハ殆ド不可能ダ、ヤハリ休会ヲ絶エズシテ置カナケレバナラヌ、会期ヲ四箇月カ五箇月ニスルカシテ、必要ガアレバ臨時議会ヲ開クト云フノガ圧倒的ノ意見デアル、サウスルト六十日デハ長過ギル、「アメリカ」式ノ頭デ行ケバ、一年中開イテ居ルカラ、六十日デモ結構ダ、ソレト関連シテ来ル問題デス、臨時議会ハ、今度ハ三週間デモ四週間デモ開カレルノダカラ、会期ヲ付ケルナラバ、三十日位ガ適当デアル、是ハモウ貴族院ノ書記官長、衆議院ノ書記官長其ノ他皆「エキスパート」ノ意見ナノデス
○芦田委員長　是ハサウ云フ審議期間ノ問題デハナイノダ、衆議院ノ案ヲ参議院ガ否決シタモノト見ルカ否カト云フ期間ノ問題デアルカラ、審議期間ノ問題ト同時ニ、又参議院ノ意思決定ノ期間ト二ツニ分ケテ考ヘルト、衆議院ガ送付シテカラ三十日経ツテ決マラナケレバ、モウ厭ヤナノダ、斯ウ云フ風ニ見ルコトニナルノダカラ……
○北（れい）委員　其ノ会期ト非常ニ関係スルノハ、臨時議会ナドノ場合ニ於テハ――通常議会アタリデモ、六十日ト云フコトニナルト、今マデノ議会ハ事実正味六十日位シカナカツタカラ……
○芦田委員長　僕ノハ六十日ヲ固執シヨウト言フノデハナイ、三十日デハ少シ短カ過ギルノデハナイカ、斯ウ云フノデアツテ……
○吉田（安）委員　法制局ノ御話デハ、何百条ト云フ法律モアルシ、千条以上ノモノモアル、サウ云フ場合ノコトヲ言ツタ訳デス、昨日北サンハ丁度御欠席デシタ
○北（れい）委員　民法改正案ト云フヤウナ場合ハ相当掛カルダラウト思フガ、六十日ト云フコトニナルト、長過ギテ……
○芦田委員長　ソレデハ何日ニスル
○北（れい）委員　アソコデハ三十日位ガ宜カラウト云フノガ圧倒的意見ダツタ
○芦田委員長　ドウモ考ヘテ見ルト、三十日デ意思表示ガアツタト看作スコトハ多少……
○犬養委員　ドウデスカ、三十日ハドウモ……
○鈴木（義）委員　三十日デハ短イ、私ハ大法典ノコトハ考ヘナカツタケレドモ、大法典トナツタラ六十日デモ短イ
○佐藤（達）政府委員　今ノ大法典ノコトヲ言フト、御話洵ニ其ノ通リナノデスガ、予算ノ場合ト同ジ長サデハ少シドウカト思ヒマスカラ、差ヲ付ケテ戴イタラドウデセウカト云フコトヲ、此ノ間一寸御参考マデニ申上ゲタノデス
○吉田（安）委員　佐藤サン、ザツクバランニ言ツテ、ドノ位ガ一番適当デスカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ本当ノ目途デアリマスカラドウト云フコトハアリマセヌケレドモ、片一方ガ三十日ニナリマスレバ、短クテ四十日位、十日ノ差ヲ付ケテ戴ケバ……
○鈴木（義）委員　実際四十日デハ審議出来ナイ法案ガアリマスネ、サウ云フ時ハドウスルノデスカ
○佐藤（達）政府委員　ソレヲ仰シヤラレルト、六十日デモ足ラヌ場合ガアリマスガ……
○鈴木（義）委員　六十日トシテ置ケバ、足リナクテモ、ソコデドンナコトヲシテモ片付ケテシマフ、ソレハ出来ル、六十日ヨリ短クスルコトハドウモ問題ダト思フナア
○佐藤（達）政府委員　其ノ御説結構デゴザイマス
○犬養委員　昨日ノ御話ヲ聴クト、実際余リ縮メルノハ問題ダト思フ
○鈴木（義）委員　殊ニ是カラ凡ユル法典ヲ改正シナケレバナラヌ、ト言ツテ、ソソクサトヤツテシマハレテモ困ル、相当慎重ニ審議シナケレバナラヌ
○北（れい）委員　所ガ余リ長クスルト、ドウデス佐藤サン、審議未了ト云フ形ノモノガ沢山出テ来ルデセウネ、時間的ニ会期ガ詰マツテ……
○佐藤（達）政府委員　其ノ場合ハ結局会期延長ト云フコトデ成立ヲ図ルト云フコトニナルト思ヒマス
○北（れい）委員　参議院ダケデモネ
○佐藤（達）政府委員　参議院ダケデ会期延長ハナイト思ヒマスケレドモ、其ノ為ニ会期延長シテ……
○北（れい）委員　衆議院ハ其ノ間休会スレバ宜イ訳デスネ
○佐藤（達）政府委員　サウデスネ
○林（平）委員　是ハ佐藤サンニ伺ヒマスガ、終リノ方ニ「否決したものとみなす」ダカラ、其ノ場合サウ云フ特別ノ事情ノ時ニハ、看作サナイデ行ク方法ハナイノデスカ
○佐藤（達）政府委員　ソレハ勿論衆議院ノ考ヘニ依リマシテ、看作サズニヤツテヤラウト云フ場合ハ、ソレハ勿論可能デスケレドモ、唯ドウ云フ政治上ノ状態ガアツテ、看作シテシマハウデハナイカト云フコトニナルカモ知レマセヌ、看作スト云フコトニ決メテシマヘバ、衆議院ノ決メタ通リニナツテシマヒマスカラ、ソコデ参議院ノ立場ヲ多少憲法上ノユトリヲ持タシテヤツタラ宜クハナイカ
○芦田委員長　予算ヨリモ長ク掛カルト云フコトハ分ルノダカラ、場合ニ依ツタラ原案通リニシタラドウデスカ、是ダケハ原案ノ通リ、アトハ縮メル、殊ニ総理ノ任命ノ如キハ成ベク……
○犬養委員　廿日出サン、ドウデス
○廿日出委員　原案通リデ結構デセウ
○芦田委員長　ソレデハサウ云フコトニ御願ヒシマセウ
○北（れい）委員　ココデハ法律案ハ総テ衆議院ニ先ヘ出セト云フコトヲ規定シテナイガ、衆議院ヘ先ニ出シテモ、参議院ヘ先ニ出シテモ宜イデセウネ
○佐藤（達）政府委員　其ノ関係ハ、此ノ第五十五条トシテハ衆議院ニ先ニ出タ場合ヲ予想シテ書イテ居リマス、仮ニ参議院ニ先ニ出タ法律案デ参議院デ直チニ否決サレタト云フヤウナ場合ニ付テノ処置ハ、是ハ結局又衆議院ニモウ一遍出シテ、ソレカラ五十五条ノ軌道ノ上ニ乗ツテ行クト云フコトニナルト思ヒマス、デスカラ、結局成立ヲ欲スルヤウナ重要法案ハ、衆議院ヘ先ニ出セト云フコトノ結論ニ運用上ナルト思ヒマス
○北（れい）委員　ソレガドウモ相当問題ニナツテ、其ノ事実ハ今度ハ議院法ナンカデ規定シナケレバナラヌ、参議院ニ先ニ出シテ、参議院デ修正シテ、衆議院ガ又原案ヲ違ツタ形デ修正シタ場合ニハドウナルカ、サウスルト衆議院ノ修正シタ所ガ参議院ニ廻ツテ行ツテ、衆議院ガ先議権ノヤウナ形ニナルデセウネ
○佐藤（達）政府委員　調査会ノ審議ガドウ云フ風ニナツテ居ルカ私存ジマセヌガ、サウ云フコトニナルモノト考ヘテ居リマス
○芦田委員長　ソレカラ第五十六条、是ハ予算ノ場合ニハ四十日ヲ三十日ニ縮メヨウト云フノガ昨日略々決定シタ案デス、是ハ此ノ侭デ宜シウゴザイマスカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレカラ第五十八条、初メノ「兩議院は、各々國務」ト云フノヲ「國政」ニ改メル、是モソレデ宜シウゴザイマスカ――ソレカラ第六十三条ノ二項ノ終リノ方ノ「二十日以内に、參議院が、指名の議決をしないときは」、ソレヲ十日ニ縮メヨウ、是モ昨日大体意見ガ一致シタ点デス
　ソレカラ皇室財産ノコトハ第一条ト関連シタコトデアリマスカラ、其ノ時ニ決定シタラドウカト思ヒマス、如何デスカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレカラ九十四条デス、是ハ各派トモ昨日御賛成デ「この憲法は、國の最高法規であつて、」ト直ス、ソレカラ九十七条ハ削除スル
○吉田（安）委員　九十四条ハ「國の最高法規であつて」デスカ、「法規とし」デスカ
○芦田委員長　「この憲法は、國の最高法規であつて」……
○吉田（安）委員　「法規であつて」デスネ、ソレカラ一ツ御尋ネシタイ、アトニ戻ツテ恐縮シマスガ、五十条ノ二項ノ……
○廿日出委員　委員長、七十五条ヲ抜カシテ居ル
○芦田委員長　一寸待ツテ下サイ、七十五条ノ最高裁判所長官ノ問題ハ、第六条ニ於テ二項ヲ設ケテ「天皇は、内閣總理大臣の指名に基いて、最高裁判所の長官を任命する。」斯ウ云フ風ニ……
○廿日出委員　サウ云フヤウニ決マツタノデスカ
○芦田委員長　大体サウ云フヤウニナツタノデス
○廿日出委員　此ノ間ハ私ガシツコイト云フコトデ、ソレカラソレモト云ツテ七十五条ノ此処デ「構成し、最高裁判所長官は」……
○鈴木（義）委員　サウスレバ七十五条ハ一寸ダケ直セバ宜イ、「長官及び裁判官を以て構成す」、サウデスネ佐藤君
○佐藤（達）政府委員　サウデス
○鈴木（義）委員　ソレハ法制局ノ方ニ御任セヲスルト云フ意味デス
○芦田委員長　併シ考ヘ方ニ依ツテハ裁判官ト云フモノノ中カラ長官ヲ任命スルト云フコトナラバ、「裁判官でこれを構成し」デ宜イデハナイデスカ
○鈴木（義）委員　ソレデ宜イデス、長官ダケハ其ノ裁判官ノ中ノ特別ノ人カモ知レナイガ、天皇ニ任命サレルト云フコトガ宜イカモ知レナイ
○芦田委員長　必ズシモ長官ト云フコトヲ入レナクテモ……
○鈴木（義）委員　唯「内閣これを任命し」ト云フコトニナルト……
○芦田委員長　デスカラ裁判官ハ任命シナイ、長官ハ任命スル
○鈴木（義）委員　ソコハ技術的ニ御考ヘニナツタラドウデスカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ一寸何カ手ヲ入レマセヌト――私ハ実ハ走リ書キシテ居リマスケレドモ、モウ少シ綺麗ニシテ法制化サシテ戴キタイト思ヒマス
○吉田（安）委員　五十条ノ第二項ノ一番オ終ヒノ但書デスガ、「内閣は、國に緊急の必要があるときは、參議院の緊急集會を求めることができる。」、是ハ其ノ手続ハ能ク分リマセヌガ、内閣ハ誰ニ求メルノデスカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ普通ノ国会デアリマスレバ天皇ガ召集スルト云フコトニナリマス、コツチノ方ハ参議院ダケノ緊急ノ集会デアリマスカラ、実際ハ内閣ガ召集スルト云フコトナンデス、所ガ天皇ガ召集スル場合ニ召集ト云フ言葉ガ使ツテアリマスカラ、内閣ノ時ハ緊急集会ヲ求メルコトガ出来ルト云フノデアツテ、手続ハ召集ノ場合ハ詔書ナラ詔書カモ知レマセヌガ、是ハ内閣ノ告示カ何カ他ノ方法デヤルト云フコトデ……
○犬養委員　ソレハ出来ルノデスカ、天皇ノ手ヲ経ズシテ構ヒマセヌカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ天皇ニ関係ナシニ、内閣ガ独自ニ……
○犬養委員　第八十議会ナント云フコトデナイ訳デスネ
○芦田委員長　サウ決マツテ居ルノデスカ
○佐藤（達）政府委員　ドウ云フ御疑問デスカ
○芦田委員長　イヤ……
○吉田（安）委員　議会ノ回数ニ入ラナイ訳ダネ
○鈴木（義）委員　ドウモ国会ヲ召集スルコトガ天皇ノ大権ニナツテ居ル以上ハ、参議院ダツテ其ノ片割レダカラ……
○犬養委員　ソレデ議会召集デナクテ、色々ナコトヲ議決スル権能ガ参議院トシテアリマスカ
○佐藤（達）政府委員　是ハ国会ト云フモノト観念ヲ違ヘマシテ、国会ノ一部分デハアリマスケレドモ、此ノ場合ノ参議院ノ活動ハ、独自ノ参議院トシテノ活動デアツテ、国会ノ活動デハナイノデス
○犬養委員　ソレカラアトデ承諾ヲ得ル
○佐藤（達）政府委員　ソレデアリマスカラ、国会ノ召集トハ別ノ取扱ヒヲスルノデス
○犬養委員　新聞ナンカデ書ク時ニハ、参議院緊急集会ト云フコトニナルノデスネ
○佐藤（達）政府委員　サウデゴザイマス
○芦田委員長　衆議院ノ四分ノ一以上ノ要求ガアレバ――アレハ何条デシタカ
○佐藤（達）政府委員　四十九条デスカ
○芦田委員長　其ノ召集ヲ決定シナケレバナラナイト云フノデスネ、其ノ召集ヲ決定ヲスルガ、ヤハリ天皇ガ召集サレル
○佐藤（達）政府委員　其ノ場合ハサウデス、是ハ国会デアリマスカラ、衆議院ト参議院、両方ガ召集サレル
○芦田委員長　サウスルト四十九条ノ「内閣は、その召集を決定しなければならない」ト云フノト、参議院ノ緊急集会ヲ求メルト云フノハ、書キ方ガソレダケデ、ソレ程ノ違ヒガ生レテ来マスカ
○佐藤（達）政府委員　今申シマシタヤウニ、国会ノ活動ト云フモノト、緊急集会ニ於ケル参議院ノ活動ト云フノハ全ク違フ、国会ノ一部分トシテノ参議院ノ立場デナクテ、独自ノ立場ダ、独自ノ緊急機関ト言フカ、何カサウ云フヤウニ考ヘテ宜イヂヤナイカト云フヤウナ気ガスルノデス
○北（れい）委員　今ノ規定ヲ原文デ見ルト「コンヴォーク」、ヤハリ召集ト出テ居リマスネ、参議院ヲ召集スルコトガ出来ルトナツテ居リマスネ、サウスルト「コンヴォケーション」ト云フノハ天皇ノ権能ニナツテ居ル、前ノ第四十九条ノ時ハ「コール」トナツテ居ル、此ノ文字ノ違ヒガアリマス
○佐藤（達）政府委員　其ノ横文字ノ文字ノ違ヒハ、私共モ気ガ付イテ居リマスガ、サウ神経質ニヤラヌデモ宜クハナイカト云フコトデ……
○北（れい）委員　日本文ナラ内閣デヤレルト云フコトニナリマス、英文ナラ天皇ノ「コンヴォーク」、或ハ内閣ノ「コール」ガアルシ、一寸不調和ナンデス、日本文ナラサウ正式ニ解釈ガ出来ルンデスネ
○芦田委員長　サウスルト、残ル所ハドウ云フコトニナリマスカ、第一章デ前文ノ字句ノ挿入ガ一点、ソレカラ皇室財産ノ点……
○吉田（安）委員　ソレカラ皇位継承ト云フノハドウナツタデスカ
○芦田委員長　ソレハ第一章デス
○鈴木（義）委員　ソレハ少数ニ決マツタデス
○北（れい）委員　一寸私ハ質問ガアリマス、第五十一条デスガ、是ハ自由党デモ進歩党デモ問題ニナツタノデスガ、五十一条ノ「兩議院は、各々その議員の選擧又は資格に關する爭訟を裁判する。」、議員ノ資格審査ハ、現在日本デハ貴族院デ、貴族院議員ノ資格審査ヲヤツテ居ルガ、選挙ノ争訟ヲ議会デヤルト云フコトハ、是ハ証拠調ベヤ何カデ非常ニ面倒デアルカラ、裁判所ニ任シタラドウカト云フノガ、圧倒的デアツタヤウデスガ……
○吉田（安）委員　ソレハ御承知ノ通リ、私ノ方デハ決マリマシタノデ、其ノ侭出シマシタケレドモ、アナタノ方デハソレニ手ヲ付ケヌト云フコトデアリマシテ、昨日ノ午後ノ小委員会デハ、結局是ハ先ヅ手ヲ付ケナイデ此ノ侭維持シヨウト云フコトニナツテシマツタノデス
○北（れい）委員　ソレハ調査ヤ何カ非常ニ難カシイコトガ起ルノヂヤナイデセウカ
○鈴木（義）委員　起リマスガ、私御話シタノデスケレドモ、三権分立ノ建前デ、議員ノ資格、選挙ノ有効無効ハ、ヤハリ立法権ノ内部デ処理スルト云フ建前デ、其ノ建前ヲ破ルコトハ、関係筋ノ通過モ難カシカラウシ、又主義トシテモ宜クナイ、難カシイト云フケレドモ、選挙ノ時モ裁判官ノヤウナモノヲ使フコトガ出来ルノデス、弁護士デ裁判官ヲ辞メタ人ガ沢山居リマスカラ、サウ云フ人ヲ連レテ来テ下働キヲサセテ、サウシテ経験アル議員ガ裁判官ニナツテヤレバ宜イノデ、サウ細カイコトマデ北サンニ御願ヒスルト云フ積リハナイカラ宜カラウ、サウ云フコトニナツテ居ルノデス
○北（れい）委員　所ガ例ヘテ言ヘバ、昭和十七年ノ選挙ノ時ニハ、選挙干渉ニ付テ恐ラク八百人以上ノ訴ヘガアツタト思フ、所ガアレハ東條内閣ノ選挙デアツタカラ取上ゲナカツタ、林君ナド其ノ例ガアルガ、相当ノ証人及ビ証拠調ベデ、裁判所ナラバ職権デ人ヲ喚ビ出シ、旅費モ給スルコトガ出来ルケレドモ――ソレカラ此ノ点ト関連シテ第五十八条ノ「兩議院は、各々國務に關する調査を行ひ、これに關して、證人の出頭及び證言竝びに記録の提出を要求することができる。」ト云フノハ、議会ガ果シテ裁判所ノヤウニ出頭命令ヲ出ス強制力ガ伴フカドウカ、ソレカラ沢山証人ヲ喚ンダ時ノ費用ナドノ問題ハドウナルカ、此ノ五十八条ノ場合ハ、是ハ一種ノ司法裁判所ノヤウナモノヲ設ケテヤルコトハ出来ルカモ知レナイ、ケレドモ五十一条ノ場合ハ、事実ニ於テ党派的ノ争ヒトカ、選挙ノ有効無効、与党ト野党ノ間ニ起ル――小党分立ノ時代ニハサウ云フコトハ少イガ、二大政党ノ対立シテ居ルモノガ争フト云フヤウナ時ニハ、是ハ実行上ノ問題デ非常ナ弊害ヲ生ズル、前ニ委員長カラモ「ワイマール」憲法ノ実績、困難ナ点ガ沢山アルト言ハレタガ、私ハ此ノ憲法デ一番困難ナ問題ハ五十一条ニナリハシナイカ、三権分立ノ上カラ言フト、議会ノコトハ議会デヤルト云フガ、裁判所ノコトデモ悪イ裁判官ハ議会ガ審査スル、国民ガ弾劾スル、ソレデ牽制シテ居ルノデスカラ、選挙ノ有効カ無効カト云フコトハ、寧ロ議会外ノ裁判所ニヤラセルガ宜イ、唯欠点ハ、今マデ二年モ三年モ掛ツテ「スロー・モーション」デアツタガ、迅速ニ正確ニヤルニハ、出頭命令トカ証人ナド中々面倒ノヤウデス、実ハ法制調査会ノ方デモ、議院法ヤ何カ書クノニシテモ、ドウ書イテ宜イカ大分苦心シテ居ル
○吉田（安）委員　北サン、ソレハアナタガ昨日オイデ下スツタラ、非常ニ宜カツタノデスケレドモ、而モ自進両党デ協定シタモノデスケレドモ、自由党ノアナタノ方ガ、此ノ侭デ行カウト云フコトデ、進歩党デハ斯ウシタ修正案ヲ出シマシタケレドモ、実ハ恨ミヲ呑ンデ撤回シタ訳デス、是デ決ツテ居ルノデスガ……
○北（れい）委員　決ツタノヲ打返スト云フ意思ハ何モナイケレドモ、事実難カシイ問題ニ打突カツタ時ニ、ソレヲドウ決メルカ、態度ヲ決メテ貰ハナイト、此ノ議院法ヲ拵ヘルノニ困難ダ、証人ノ強制出頭、旅費ノ問題、出テ来ナイ場合ノ規定ナド……
○鈴木（義）委員　併シ斯ウ云フ憲法ノ規定ガ出来タ以上ハ、出頭義務ハ強制的ニ伴ツテ来マス
○北（れい）委員　此ノ選挙ノ有効、無効ノ問題ガ非常ニ面倒ダ
○鈴木（義）委員　東條内閣デモナケレバ、サウ云フコトハ沢山ハ起ラナイデセウ、英国ノ上院ナドハ裁判ハ最モ立派ナモノニナツテ居リマスカラネ
○北（れい）委員　英国ノ上院ハ御承知ノ通リ有給ノ司法議員ガ居ツテ、ヤツテ居ルノデスガ、日本ノ実情ハ、下手ヲスレバ各派交渉会ノ懲罰問題デモ中々公平ニヤリニクイ、自分ノ党派ノ方ハ色々実情ヲ知ツテ居ルカラ、成ベク軽クシヨウトスル……
○鈴木（義）委員　ソレハ裁判デハナクテ……
○北（れい）委員　事実上サウ云フコトガアツテ、神聖ナ裁判ヲ害スル虞ハナイカ、私ハソレヲ心配シテ居ル
○鈴木（義）委員　ソレハアルデセウ、サウデナクテ、正シイ行動ヲスル人ハ、ヤハリ信頼ヲ集メテ名声ヲ高カラシメルガ、実際ノ裁判ヲ見テ居ルト、全ク選挙ノ実際ヲ知ラナイ連中ガヤツテ居ルカラ、非常ニ間違ツタ裁判ガ行ハレテ居ル、サウ云フ点ハ議会ノ方ガ宜イ
○芦田委員長　第四十条ヲ一寸修正シテハドウカト云フ意見ガアルンデス、ソレハ午後委員会ノ開カレル前ニ内協議ヲ致シマシテ、大多数ノ委員諸君ハ御承知ノコトデスガ、第四十条ノ中ホドノ「人種、信條、性別」、ソレマデハ動カナイノデス、其ノ次ノ「社會的身分又は門地によつて」ト云フ所ヲ「社會的身分、門地、教育、財産又は收入によつて差別してはならない。」、斯ウ云フ風ニ改メヨウト云フノデアリマスガ、各派ノ御意見ハ如何デスカ
　　　　〔「異議ハアリマセヌ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　ソレデハ御異議ハナイト認メマス
○鈴木（義）委員　今一ツ大事ナコトハ、社会党ガ前文ニ「窮乏と酷使」ト云フ言葉ヲ入レテ戴キタイト云フコトヲ申上ゲタノデスガ、今日ノ午後ニ最終決定ヲスルト云フコトデ、今一度皆サンノ意見ヲ問ウテ見テ戴キタイ、ソレニ依ツテ服スルト云フコトニ決シテ居リマス
○芦田委員長　各派ノ意見ヲ聴ク訳デスカ
○鈴木（義）委員　結論ダケ……
○犬養委員　自由、進歩両党以外ノ、ソツチノ御隣リノ方ノ方々ハドウデスカ
○大島（多）委員　私ノ所ハ社会党ガ熱心ニ御希望デモアルシ、又サウ云フ言葉ヲ入レタ所デ悪クナル訳デモナク、其ノ精神ガ通ルト云フ点カラ、私ノ所ハ賛成シマス
○芦田委員長　林君ノ方ハ如何デスカ
○林（平）委員　社会党案ニ賛成シマス
○北（れい）委員　一寸御伺ヒシマスガ、此処ニ入ツテ居ルノハ対立的ノ言葉デス、例ヘバ「專制」ト云フ一方ニハ「隷從」ガアリ、「壓迫」ト云フ一方ニハ「偏狹」ガアツテ、対立ニナツテ居ル
○犬養委員　其ノ点気ガ付キマシテ、酷使ト窮乏ト云フヤウナコトヲ個人的ニ御相談シタコトモアリマスガ……
○芦田委員長　酷使デモ搾取デモ日本ノ憲法デハ皆「エクスプロイテーション」ト訳シテ居ル
○犬養委員　此ノ言葉ハ、私個人トシテハ「ヒューマニズム」ノ立場カラ大体賛成シテ居リマス、入レタ所デ大シタ支障ノ起ル問題デモナシ、小会派ガ賛成ナラバ……
○芦田委員長　笠井君ノ方ハ如何デセウ
○笠井委員　諸君ガ御賛成ナラバ、私ハ論議ヲ聴イテ居リマセヌデシタガ、賛成シマス
○芦田委員長　審議ノ内容ハ斯ウ云フコトデス、今朝自由党、進歩党ガ此ノ字ヲ入レルコトニ不賛成デアツタ訳デス、ソコデ何トカナラナイカト云フヤウナ訳デ、一旦党ニ帰ツテ能ク意見モ聴イテカラ午後ニ回答スルト言ツテ御帰リニナツタノデスガ、更ニ再度各派ノ意見ヲ聴イテ呉レト云フコトデ意見ヲ質シタ所ガ、進歩党ノ方ハ反対ヲ撤去スル……
○鈴木（義）委員　不賛成ト仰シヤイマシタガ、不賛成ノ人モアツタガ、賛成ノ人モアリマシタヨ、自由党ニモ進歩党ニモ……
○芦田委員長　サウ云フコトモアツタカネ、ソレデハ此処ノ所モ一遍帰ツテ考ヘテ見ナイト纏マラナイヤウデスネ、私ハ自由党ノ方ハ反対ノヤウニ考ヘテ居ツタカラ……
○吉田（安）委員　進歩党ハ賛成シマス
○芦田委員長　自由党ハ帰ツテ相談シマセウ
○廿日出委員　賛成ト云フコトヲ云フ前ニ、唯段々考ヘテ見ルト、「專制」「隷從」ト云フ関係、「壓迫」「偏狹」ト云フ関係ハ、何処マデモ人類トシテノ専制ト隷従ナノカ、国際関係ノ圧迫ト偏狭ナノカ、ソレダケニ依ツテ森戸委員ノ気持ヲ能ク聴イテ、ソレニ依ツテアツサリト解決シタイト思フ、段々読ンデ居ル間ニ、ツイ思想ガ変化シタ、国際関係ダケノ間ノ専制ト隷従、ソレカラ圧迫ト偏狭、其ノ次ニ今度ハサウ云フコトガナクナルト、各国民ガ恐怖ト絶望カラ救ハレル、実ニ理窟ガ合ツテ居ル、ソコデ一般ニ人類ト云フモノカラ、人類其ノモノノ御互ヒノ関係ノ間デノ専制、隷従、圧迫、偏狭、酷使又ハ窮乏、斯ウ云フヤウナ行キ方ヂヤナイカト思フ気ガスル
○犬養委員　ソレハ非常ナ誤解デ、僕達ガ賛成スルノハ、社会主義的ノ立場カラデナク、「ヒューマニズム」ノ立場デ賛成スル訳デス
○廿日出委員　国際関係ダケヲ織込ンデ平和ト言ヘバ、国際間ノ平和、一番上ノ方、アソコハ「エンド」ヲ「且つ」ト考ヘテ頭ヲ持ツテ来マスト、国際間ノ専制ト隷従、国際間ノ圧迫ト偏狭、サウシテ其ノ中ニ又段々見テ来ルト、国際社会ニ伍シテ行ク、ソレデ名誉アル地位、ソレニ背カナイヤウナ立派ナ……
○犬養委員　僕ハナゼ賛成シテ居ルカト言ヘバ、ソレナンデス、我ガ国ノ将来ノコトデス
○北（れい）委員　国際社会ニ伍シテ名誉アル地位ヲ占メタイト言フガ、国際社会ニ伍スル資格ノナイノハ専制ト隷従ガ国内ニアリ、圧迫ト偏狭ガ国内ニアルカラ、中々国際社会ニ名誉アル地位ヲ占メ得ナイ、ソレデ国内カラ斯ウ云フ対立ヲ皆除イテシマツテ、サウシテ国際社会ニ適当ナ地位ヲ占メテ行ク、斯ウ云フ意味デ国内的ノ意味カラ――世界全体カラ斯ウ云フ対立ヲ除カウト云フノデスネ
○芦田委員長　ソレハサウデハナイ、ソレハ後ノ方ノ「我らは、すべて」ト云フ所カラ後ガ国際――是ハ森戸君ノ説明モサウ云フコトデアツタカラ……
○北（れい）委員　委員長ハサウ云フ風ニ解釈シテ居ルノデスカ
○芦田委員長　国際社会ハ何ヲ目標ニシテ居ルカ、国際社会ハ平和ヲ維持スルコトヲ思ヒ、専制ト隷従ト圧迫ト偏狭ヲ地上カラ除去シヨウト努力シテ居ル、其ノ国際社会ニ我々モ地位ヲ占メルノダ、ソレデ君ノ「且つ」ノ意味ハ結局ハサウ云フコトニナリマセウ、此処デ言フ専制ト隷従、圧迫ト偏狭ト云フノハ、是ハ国際社会ガ除去セントシテ居ル目的物デス
○北（れい）委員　サウデス、ソレガ国内ニアツテハサウ云フ国際社会ニ入レナイト云フ意味ガ含マレテ居ルデスネ
○笠井委員　専制ト隷従、圧迫ト偏狭ト云フノハ四字対句ニナツテ居ル訳デスカラ、之ニ持ツテ行ツテ更ニ二字ヲ加ヘル必要ハナイト思フ、私ハ原案ニ賛成デス、モウ一ツ此ノ場合申上ゲタイコトハ、前文ニ於キマシテハ、私ハアノ前ノ国政ト云フコトヲオヤリニナツタガ、是ハ政府デゴザイマス、其ノ根拠ハ何処ニアルカト言ヘバ、実ハ先程「マッカーサー」司令部ヘ行ツテ今帰ツテ来マシタガ、皆ニ寄ツテ戴イテ聴キマスト「アクション・オブ・ガヴァーメント」ト云フノヲ政府ト言ツテ居ル、ダカラ皆サンハ御反対デアリマシタケレドモ、最後マデ政府ト云フコトガ正シイト云フコトヲ考ヘテ居リマシタ、ソレヲ今究メテ来マシタカラ、其ノコトヲ一寸……
○鈴木（義）委員　言葉的ニハ正シイノデス、意味的ニハ少シモ違ハナイ、政府デ……
○北（れい）委員　自由党デハ党議デ一応専制ト隷従、圧迫ト偏狭ト云フノヲ通シタノデ、社会党ノ提案ニ内容的ニハ反対スル訳デハナイガ、修辞的ニヤハリ笠井君ガ言フヤウニ二句対句ニ非常ニ妙味ガアルト思フ、此ノ前文ハ可ナリ能ク出来テ居ルカラ、成ベク併行シテ、英文ハ中々能ク出来テ居ル、ソレニ私ハ何トナク蛇足ヲ加ヘルヤウナ感ジガスルカラ、広イ意味ノ隷従ト圧迫デ宜イト云フ意味ニ於テ思想内容ニハ反対シマセヌ、併シ修辞的ニハ原案支持、党ヘ帰ツテ党ノ態度ヲ決メテ……
○芦田委員長　此処デ決メル訳ニハ行カナイノデ、党ヘ御帰リニナツテ御相談ニナツテ後デ御返事ヲ願ヒマス――サウスルト一寸御相談デスガ、明日ノ午前ニ第一条ノ討議ノ準備ガ出来ルカドウカ分ラナイ状態ニアルノデスガ、午後ナラバ大体間違ヒナク討議ガ出来ルト思フノデス、午前ダケ休ムコトニシテ宜シウゴザイマスカ
　　　　〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長　明日ハ午後一時カラ開会致シマス、ソレカラ一寸発表文ヲ御相談致シマス、「小委員會ハ八月一日午後一時四十分開会、第三章以下各條ニ亙り修正案ヲ再檢討ス、第二十七條、第八十四條ノ二箇條ヲ除キ修正案ニ付キ一致ノ意見ニ到達シ、午後四時十分散會」――二十七条ト八十四条ダケ残ツタヤウニ記憶シテ居リマスガ、ソレデ確実デセウネ、ソレデハ本日ハ是ニテ散会致シマス
　　　　午後四時十分散会