小委員会 昭和21年8月13日（第11回）
昭和二十一年八月十三日（火曜日）午前十時五十二分開議
出席委員
委員長 芦田 均君
廿日出ひろし君 江藤 夏雄君
犬養 健君 吉田 安君
鈴木 義男君 森戸 辰男君
林 平馬君 大島 多藏君
笠井 重治君 高橋 泰雄君
原 夫次郎君
出席政府委員
法制局次長 佐藤 達夫君
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本日ノ会議ニ付シタ議案
帝国憲法改正案（政府提出）
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○芦田委員長 会議ヲ開キマス、前回御諮リ致シマシタ附帯決議ニ対シテ社会党カラ提案サレタ条項ガ、文字ノ修正ヲ委員長ニ付託サレタ訳デアリマス、趣意ニ於テハ少シモ変リマセヌガ、唯前後ノ箇条トノ関係上多少文字ヲ改メマシタカラ、ソレヲ朗読致シマス、「改正憲法が生活權、勞働權等の經濟的基本權を確立したことは時代の要求に即應する適切な措置であるが、然しこれ等の權利の裏付となるべき諸施設は、現状を以ては頗る不充分なものがある。政府は速かに廣汎な社會政策を樹立し、當面の失業對策、社會保障制度の確立と同時に、他面生産の増強を圖り、以て經濟再建の促進に萬遺漏なきを期すべきである。」斯ウ云フ文字ニ要約シタノデアリマスガ、提案サレタ社会党ノ方デハ、此ノ程度ノ案文デ宜カラウト云フ御意見デアリマスガ、如何デセウカ
〔「結構デス」ト呼ブ者アリ〕
○芦田委員長 此ノ箇条ニ書キマシタコトハ、経済再建ト云フコトニ重点ヲ置イテ書イテ、ソレカラ前回ニ御相談シマシタ決議案ノ一番最後ノ項目ハ国民ノ道義的水準トカ文化ノ水準、民衆ノ思想感情ノ涵養、斯ウ云フコトニ重点ヲ置イテ出来テ居リマスカラ、重複ハシナイト思フノデス、ソレデ宜シケレバ之ヲ第二トスルカ、第三トスルカ……
○鈴木（義）委員 結局条文ノ順序デ行クヤウナ形ニシタラ……
○芦田委員長 ソレデハ之ヲ二ニシマシテ、三ニ参議院ヲ入レテ、サウシテ終ヒニ結論的ナモノヲ入レル、斯ウ云フコトデ宜シウゴザイマスカ――ソレデハ左様ニ取計ラヒ致シマス、ソレカラ協同民主党ノ林平馬君カラ一項目入レテ貰ヒタイト云フ提案ガ出テ居ルノデアリマス、林君カラノ御提案ニナツタ項目ヲ一寸読上ゲマス、「多年に亙り封建的家族制度に慣れて來た國民が、民主主義憲法の發布に依つて新たに社會人として基本的人權を確認しつつ個の完成を期さねばならぬ譯である。就ては政府は政治教育文化の面に極めて懇切なる指導に努め、且つ社會組織の整備に萬全を期せられたい。」斯ウ云フ一項目ヲ挿入シタイト云フ林君カラノ提案デアリマス、是ハドウ致シマスカ
○林（平）委員 私ノ方デサウ云フ附帯決議ヲ付ケタイト云フコトニナツタ訳ハ、詰リ端的ニ言フト、或ル意味カラハ国体ノ変革ト申シマセウカ、ト云ツタ位マデ百八十度ノ大転換ヲシテシマフ訳デアリマスカラ、従来ノヤウナ思想トスツカリ天地返シニシナケレバ国民ガ憲法ト一体ニナツテ行ケナイヂヤナイカト思フ、サウ云フヤウニ導ク為ニ憲法精神ト言ヒマセウカ、憲法ヲ施行スル上ニ国民ノ頭ヲ百八十度ニ変更サセテ行ク為ニ親切丁寧ナ指導ヲ必要トスル、ソレガ憲法ヲ運営スル上ニ、憲法精神ヲ活カシテ行ク上ニ必要ナコトデアルト云フノデ、其ノ点ニ特ニ政府ハ意ヲ用ヒテ貰ヒタイ、斯様ナ理由ナノデアリマス
○吉田（安）委員 御尤モデスガ、此ノ附帯決議ノ原案デアリマス第三項ハヤハリ其ノ意味ノコトヲ現ハシテ居マセヌカ
○芦田委員長 私モサウ云フ風ニ考ヘテ居ルノデス、御趣意ハ至極賛成デアツテ、誰シモ林君御提案ノ精神ニ反対スル者ハナイト思フノデスガ、ソレヲ大体第三項ノ最後ニ書イタ、ソレカラ之ヲ書イタ時ノ気持ハ、成程斯ウ云フ事業ハ政府モ率先シテヤラナケレバナラナイガ、実ハ国会中心ノ政治ニナルノダカラ、政府ニ要望スル前ニ、先ヅ以テ国民自身ノ力デソレヲヤラナクテハナラナイノダ、サウ云フ趣意デ、政府ニ註文ヲ付ケル前ニ、前記ノ理想ヲ達成スル為ニハ、国ヲ挙ゲテ絶大ノ努力ヲナサナケレバナラヌ、詰リ自治的ニ我々国民ガ奮発スルノダト云フコトヲ書イテ、其ノ後ヘ政府モ一ツ大イニヤツテ貰ヒタイ、斯ウ云フ風ニ書クコトガ適当ナリト思ツタノデス、ソレデ従来ハ附帯決議ト言フト、総テ政府ニ註文ヲ付ケル趣意デアツタケレドモ、今後ハ政府ナドハ議会ガ指図シテドウニデモヤラセルコトガ出来ルノダ、我々自発的ニ一ツ努力シヨウヂヤナイカト云フコトヲ一応謳ハナイト趣意ガ徹底シナイ、斯ウ考ヘテ、政府ダケニ責任ヲ負ハセルコトヲ成ベク避ケタイ、斯ウ云フ趣意デ此ノ第三ノ最後ノ方ニ一寸書イタ訳デス、ダカラ林君ノ趣意ハ大体三項デ、文字ハ足リナイカモ知レナイガ、達成出来ルト思フ
○林（平）委員 サウスルト附帯決議ノ条項ハ、私ノ考ヘハ政府ニ註文付ケル心持ヲ以テ書クモノダト思ヒマスガ、サウナルト第一、第二ハ政府ヘノ註文デアリ、第三ハ我々ガ我々ヘノ註文デスカ
○芦田委員長 イヤ、政府ヘノ註文ガ入ツテ居ルノデスガ、実ハ非常ナ大事業デアルノダカラ、政府ダケヂヤヤリ切レナイ仕事ナノダ、ソレデ国民モ国ヲ挙ゲテ努力シナケレバナラヌト思フガ、政府モ一ツヤツテ呉レ、先ヅ初メノ第一、第二ハ法典ヲ編纂スルコトヲヤツタリ、参議院ノ構成等ヲ作ツタリスルヤウナ仕事デアルカラ、差当リ今政府ガヤツテ居ルコトデス、併シ此ノ最後ノ項目ハ非常ニ大事業デアルカラ、ドウシテモ国民ガ主トシテヤラナクテハナラナイノダ、モウ一ツハ、別ニ林君ノ言葉尻ヲ捉マヘル訳デハナイノデスケレドモ、政府ガ各方面ニ懇切ナル指導ヲヤレト書イテアルノデスガ、ソレハドウデスカ、今ノ時代ニ政府ノ指導ト云フヤウナコトハ却テ言ハナイ方ガ宜イノヂヤナイデセウカ、モウ政府ナドハ指導者原理デ行クノヂヤナイノダ、公務員ト云フモノハ国民ノ「サーヴァント」ナノダ、ダカラ政府ガ指導スルナドト云フコトハ既ニ古イ時代ノ考ヘダ、斯ウ云フコトガ或ル意味ニ於テ反対ノ根拠ニナリハシナイカト思フノデスガ……
○林（平）委員 ソレカラアナタノ方ノ第三、是ハハツキリシナイデスネ、政府ヘノ註文ノ節モアレバ、我々ガ我々ニ覚悟ヲ促シタヤウナ節モアルヤウデアリマスカラ、寧ロ之ヲ二ツニ分ケテハツキリシタラドウカ
○吉田（安）委員 林サンノ言ハレルコトハ、私等モ能ク其ノ点分リマスケレドモ、ドウデス林サン、是ハ政府ニ依存シテ居ルモノデナイコトハ明カダシ、ト言ツテ政府ヲ軽ンズルコトモ出来ナイシ、其ノ意味デ是ハ一本建テノ書流シデ宜イト思ヒマスガナ
○林（平）委員 サウデスカネ、慥カニ……
○吉田（安）委員 アナタノ仰シヤル御趣旨ハ能ク分リマスガ、ソレデ宜イト思フ、含蓄モ深サモ広サモアル第三ノ書キ方ヂヤナイカト思フ、二ツニ書キ分ケルト云フノモドウデスカ、寧ロ此ノ方ガ強クアリマセヌカ
○林（平）委員 此ノ中ニ含マレテ居ナイ訳デモアリマセヌシ、余リ多クノ賛成モナイヤウデアリマスカラ遺憾ナガラ撤回シマセウ
○芦田委員長 ソレデハサウ云フコトニ、第三ノ趣意ニ含マレルト云フコトニ御諒解ヲ願ヒマセウ
○林（平）委員 サヤウニ承知シマシタ
○芦田委員長 是デ一応御相談スル問題ハ片付イタノデスガ……
○鈴木（義）委員 序デニ先達テ申上ゲタ主権ト国権ノ差ニ付テ申述ベテ、速記ニ取ツテ置イテ貰ヒマセウカ――社会党ハ第一条ニ主権ハ国民ニアルト規定スルヤウニ致シタノデアリマスガ、能ク考ヘマシタ結果、国権ハ国民カラ発スルト云フヤウニ表現ヲ変ヘタイト存ズルノデアリマス、其ノ理由ハ、国権ト云フ言葉ハ英語ノ「ソヴァレンティ」ト云フ言葉ナラバ、主権ト共ニ統治ト云フ意味モ含ンデ居ル言葉デスカラ、ソレデ宜シイノデスケレドモ、日本語デハ既ニ主権、統治権、国権ト云フ言葉ガ学術上使ハレテ居リマシテ、其ノ場合ニ主権ト云フ言葉ハ国家ノ最高性ト云フコトヲ表現スル言葉トシテ使ハレルト云フ約束ガ出来テ居ルヤウニ思ヒマスカラ、サウスルト、主権ガ国民ニアルト云フ表現ハ適当デナイ、立法、司法、行政ノ権力ノ最高ノ権限ハ国民ニ発スルト云フ意味ナノデアリマスカラ、憲法ノ第一条ノ規定トシテハ、国権ハ国民カラ発スル、サウ云フヤウニ表現スルノガ正シイコトト思ヒマスカラ、サウ改メタイト思ヒマス、最初提案スル時ニサウ云フ提案ヲシタト云フヤウニ御諒解ヲ願ツテ置キタイト思ヒマス
○芦田委員長 ソレデハ今週ノ金曜日午前十時カラ小委員会ヲ再開スルコトニ予定ヲ致シテ置キマス、尤モソレ以前ニ情報トシテ申上ゲルコトガ起リマシタナラバ、或ハ非公式ノ懇談会ヲ又開クコトニ取計ラハウト思ヒマスカラ、其ノ点ハ御含ミヲ願ヒマス、本日ハ是ニテ散会致シマス
午前十一時十分散会