第201回国会
てんかんのある人とその家族の生活を支える医療、福祉、労働に関する請願
請願要旨 |
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てんかんは脳の病気で全国に約百万人の患者がいるが、早期診断・治療により七〇%以上の人が発作のない生活を送ることができる。発作にはさまざまな症状があり、また、知的障害や精神障害、身体障害など合併障害の人も多くいる。障害者差別解消法が施行されたにもかかわらず、職場での配置転換や解雇など不利益事例が数多く報告されており、てんかんに対する正しい理解と多様な支援が求められている。 ついては、次記事項を措置されたい。 一 医療については、次のとおり措置すること。 1 てんかんの地域診療体制等を充実すること。 @ てんかん地域診療連携体制整備事業を拡充し、全国に医療連携と相談支援の体制を整備すること。 A 地域医療計画の再確認とともに、専門医の養成と一般医への情報提供を図り、てんかん診療の地域格差を改善すること。 B 重度者に対応できる診察時間の確保、救急救命体制の整備、診断書作成費の公費負担など、制度の充実を図ること。 C 災害時に被災地で抗てんかん薬が不足しないようにすること。 2 難治てんかんの克服に向けた研究を充実すること。 @ 国の臨床研究事業において、難治てんかんの研究テーマを充実すること。 A 新薬の開発を推進すること。 二 福祉については、地域で安心して暮らせる支援体制を整備すること。 1 てんかんの障害特性に配慮して、障害者支援サービスが地域格差なく全国どこでも利用できるようにすること。 2 市町村が実施する施策についても、必ず病気や障害のある住民(当事者)の意見を反映するなど、当事者参画によるサービスの促進を図ること。 3 全国の自治体に、てんかんに関する総合的な相談窓口を配置するよう促進すること。 4 自治体が行う通院や同伴者に対する交通費助成制度やタクシーチケットの配布などを好事例として積極的に全国に周知すること。 三 労働については、働く場の機会拡充を図ること。 1 てんかんがあることを理由にした採用時や採用後の職場での差別禁止、自動車運転が困難な人への合理的配慮など、事業所への積極的な指導を行うこと。 2 継続雇用が困難な人に、優先的に仕事のあっせんを行う体制を設けること。 3 障害者雇用制度を適切に全国で推進されるよう指導すること。 |
処理経過(所管省庁における処理要領) 【主な所管省庁:厚生労働省】 |
一 平成二十七年度から実施している「てんかん地域診療連携体制整備事業」において、てんかんに罹(り)患している者・家族が専門的な治療や相談支援を受けられるよう地域診療連携体制を構築するため、てんかん診療拠点機関の整備を順次進めている。引き続き、全国において地域におけるてんかん診療ネットワークの整備を進めてまいりたい。 てんかん診療の地域格差の改善については、平成二十三年度から平成二十五年度までの厚生労働科学研究費補助金による障害者政策総合研究事業(精神障害分野)「てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究」において、全国の主なてんかん診療施設のリスト等をインターネット上に掲載し、地域診療と関連ゥ学会専門医が連携した「てんかん診療ネットワーク」の基盤を形成している。また、平成二十六年三月に策定した「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」(平成二十六年厚生労働省告示第六十五号。以下「指針」という。)において、専門的な診療を行うことができる体制を整備し、てんかんの診療ネットワークを整備する旨を盛り込み、さらに、平成三十年度から開始している各都道府県の第七次医療計画では、指針を踏まえて、てんかんを含めた多様な精神疾患等ごとに医療機関の役割分担を整理し、医療機関相互の連携を推進するとともに、患者本位の医療提供を実現していけるよう、てんかんに対応できる医療機関を明確化することとしている。また、令和二年度の厚生労働科学研究費補助金による障害者政策総合研究事業(精神障害分野)において、てんかん診療体制の均てん化やてんかん患者・家族の支援ニーズに関する調査・研究を行っているところである。引き続き、地域におけるてんかん診療ネットワークの整備を進めてまいりたい。 専門医については、現在、医学に関係する各学会が、それぞれの分野の医師の育成を目的として認定を行っており、てんかんについても、一般社団法人日本てんかん学会がてんかん専門医を認定している。また、非専門医についても、「てんかん地域診療連携体制整備事業」において医療従事者を対象とした研修を実施している。引き続き、このような機会を活用し、てんかんに関する情報の周知を図ってまいりたい。 重度者に対応できる診療時間の確保については、指針において、精神科と他の診療科の連携に係る取組を推進する旨を盛り込んでいるところであり、引き続き、取組を進めてまいりたい。 救急医療体制については、休日夜間に比較的軽傷の患者を受け入れる初期救急、入院を要する救急患者を受け入れる二次救急及び重篤な患者を受け入れる三次救急においてそれぞれ役割を分担し、地域において効率的かつ円滑に患者を受け入れる体制整備を図るため、医療提供体制推進事業費補助金等を通じて支援を行っており、引き続き、救急医療体制の充実に努めてまいりたい。 また、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号。以下「障害者総合支援法」という。)に基づく自立支援給付の支給決定及び支給認定の申請時に添付することとされている診断書の取得のための費用を公費負担とすることについては、新たな財源の確保が必要となること等を踏まえて慎重に検討する必要がある。 災害時における医薬品の供給体制については、地域の卸売業者を介した供給に加え、必要に応じて国や業界団体が連携して広域支援を実施する体制を整備するとともに、都道府県における医薬品備蓄により供給体制を整備している。また、抗てんかん薬を含む慢性疾患措置用の医薬品については、災害の状況によっては想定より早い段階で必要となる可能性があることから、「災害時に必要な医薬品等の確保について(周知)」(平成三十年三月九日付け厚生労働省医政局経済課事務連絡)において、都道府県に対して、慢性疾患措置用の医薬品等の確保について、配慮をするよう依頼している。こうした取組により、抗てんかん薬も含め、災害時における医薬品の安定的な供給体制の確立を図ってまいりたい。 難治てんかんの研究については、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(以下「センター」という。)の中長期目標において、難治性・希少性の疾患に関する研究開発及びこれらの業務に密接に関連する医療の提供等について重点的に取り組むよう定めていることを踏まえ、難治てんかんに関する複数の研究がセンターにおいて行われている。引き続き、難治てんかんの研究テーマの充実に向けて、必要な支援を行ってまいりたい。 また、現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構において、難治性疾患実用化研究事業により「低悪性度てんかん原性腫瘍の分子遺伝学的診断ガイドラインに向けたエビデンス創出」及び「海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの原因遺伝子同定と発症機構の解明」に関する研究を実施している。難治てんかんに関する研究が進展し、病態解明や新薬開発が推進されるよう、引き続き必要な支援を行ってまいりたい。 二 地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律(平成二十四年法律第五十一号)により、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)を踏まえた基本理念を障害者総合支援法に盛り込み、重度訪問介護の対象拡大並びにケアホーム及びグループホームの一元化等の見直しを行い、平成二十六年四月から施行している。 障害者総合支援法における「障害支援区分」の認定に関しては、てんかんに罹(り)患している者を含む精神障害者の特性に応じて適切に行われるよう、認定業務に携わる者の資質の向上を図る取組等を行っている。 当事者参画によるサービスの促進については、障害者総合支援法では、地方公共団体は、単独で又は共同して、障害者等への支援の体制の整備を図るため、障害者等及びその家族も含め、関係機関等で構成される協議会を設置するよう努めなければならないこととされている。また、障害者総合支援法に基づき国が定める第四期以降の障害福祉計画の基本指針においても、市町村及び都道府県において障害福祉計画を作成又は変更するに当たっては、障害者等を含む地域住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めることが必要な旨を定めている。 てんかんに関する総合的な相談窓口の配置については、てんかんを含む精神医療及び精神保健福祉に関する相談に対応する精神保健福祉センター等で、相談指導を行う際に、必要に応じて関係機関の協力を求めることとしており、引き続き、てんかんに罹(り)患している者を含む障害者が地域社会で安心して暮らすことができる体制の整備に取り組んでまいりたい。 精神障害者保健福祉手帳を所持する者に対する公共交通機関等の運賃割引については、毎年開催している障害保健福祉関係主管課長会議において、地方公共団体に対し、各都道府県及び指定都市における運賃割引やタクシー券の交付等の取組を紹介するとともに、精神障害者保健福祉手帳に基づくサービスの拡充や、公共交通機関等に対する働きかけを行っていただくようお願いしているところであり、引き続き、協力を呼びかけてまいりたい。 精神障害者保健福祉手帳を所持する者に限らず、各都道府県及び指定都市における精神障害者保健福祉手帳を所持していない者も含めた患者の通院や同伴者に対する運賃割引やタクシー券の交付等については、今後、実態の把握に努め、その内容を周知してまいりたい。 三 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)に基づき、平成二十八年四月から、事業主に対し、雇用の分野における障害者に対する差別が禁止されるとともに、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置の実施が義務付けられているほか、障害者に対する差別等が行われている場合、必要に応じて厚生労働大臣が助言、指導又は勧告を行うことができることとされている。同法の周知啓発に努めるとともに、てんかんに罹(り)患していることを理由とする差別がなされている場合や、てんかんに罹(り)患している者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善する等のために必要な合理的配慮の提供がなされていない場合等、同法の規定に違反する事案が認められる場合には、その是正を図ってまいりたい。 さらに、平成三十年四月から、てんかんに罹(り)患している者を含む精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加わっており、引き続き、公共職業安定所において、障害者がその能力に適合する職業に就けるよう、個々の障害者の障害特性等に応じた就職支援に努めてまいりたい。 |
本請願の受理件数、付託委員会、紹介議員等は、請願情報をご覧ください。
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