第208回国会
難病・長期慢性疾病・小児慢性特定疾病対策の総合的な推進に関する請願
請願要旨 |
---|
二〇一五年一月に施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律」によって、我が国の難病対策は法的根拠を持つ総合対策として新しく出発した。国及び地方自治体には、難病対策の総合的な推進と国民への周知が進むよう一層の努力を求める。 ついては、次記事項を措置されたい。 一 未診断疾患を含めた難病の原因究明、治療法の早期開発、診断基準と治療体制の確立を急ぎ、指定難病対象疾病の拡大を進めること。 二 長期にわたり治療を必要とする難病や長期慢性疾病の患者と家族が地域で尊厳を持って生活していくことができるように、医療費を初めとする経済的負担の軽減を図ること。また、国民への難病に対する理解と対策の周知を進め、福祉サービスの提供、人材の確保と研修の充実、人権教育・啓発の推進を図ること。 三 難病や小児慢性特定疾病の子供に対する医療の充実を図り、継続的な治療を受けるために、成人への移行期医療を確立すること。また、インクルーシブ教育の充実を図るとともに、医療的ケアの必要な子供たちの教育を保障すること。 四 全国のどこに住んでいても我が国の進んだ医療を受けることができるよう、専門医療と地域医療の連携を強化すること。また、医師、看護師等専門スタッフの不足を原因とする医療の地域格差を解消し、リハビリや在宅医療の充実を図ること。 五 就労は難病患者にとって経済的な側面のみならず、社会参加と生きる希望につながるものである。そのために、障害者雇用率の対象とすることによる就労の拡大や就労支援を充実すること。 六 全国難病センター(仮称)の設置等により、都道府県難病相談支援センターの充実や一層の連携、患者・家族団体活動への支援、難病問題の国民への周知等を推進すること。 |
処理経過(所管省庁における処理要領) 【主な所管省庁:厚生労働省】 |
一 難病の原因究明、治療法の早期開発、診断基準の確立等の難病の研究等の推進については、令和四年度予算において、約百億円を計上しており、厚生労働科学研究費補助金等の難治性疾患政策研究事業及び難治性疾患実用化研究事業に取り組んでいるほか、難病の全ゲノム解析等実証事業を行うための経費として約三億円を計上している。引き続き、これらの研究や事業を推進してまいりたい。 治療体制の確立については、都道府県において、難病の医療提供体制を整備するための経費について、令和四年度予算において、約六億円を計上しており、令和四年四月一日現在で、難病診療連携拠点病院は四十五自治体において八十一医療機関、同日現在の難病診療分野別拠点病院は二十五自治体において七十四医療機関が整備されている。引き続き、全ての都道府県で地域の実情に応じた医療提供体制が構築されるよう取り組んでまいりたい。 難病の患者に対する医療等に関する法律(平成二十六年法律第五十号。以下「難病法」という。)第五条に基づく指定難病の対象となる疾病については、難病法施行時の百十疾病から、令和三年十一月時点において三百三十八疾病まで拡大したところである。引き続き、当該施策の推進に取り組んでまいりたい。 二 難病や長期慢性疾病の患者については、高額療養費制度により、家計に対する医療費の自己負担が過重なものとならないようにするなど、その経済的負担の軽減を図っている。また、特に難病患者については、難病法に基づく医療費助成制度により、更なる経済的負担の軽減を図っている。 また、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)に基づく障害福祉サービスについては、難病患者等も活用が可能であり、人材の確保及び研修の充実については、難病患者等に対する相談・支援等を行う難病相談支援センター事業を含む療養生活環境整備事業を難病法に位置付け、取組を推進しているほか、同センターに勤務する職員等を対象とした研修の全国的な実施等に取り組むことで、難病患者等の療養生活の質の維持向上を図っている。さらに、難病に係る医療費助成制度に関して、ポスターの作成、リーフレットの配布、政府広報等を行っているところであり、これらの取組を通して、難病に対する国民の理解が促進されるよう、引き続き、努めてまいりたい。 三 難病患者については、高額療養費制度だけでなく、難病法に基づく医療費助成制度により、更なる経済的負担の軽減を図っている。また、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第十九条の二に規定する小児慢性特定疾病児童等についても、小児慢性特定疾病児童等の健全育成及び福祉の向上を図ることを目的とし、児童福祉法に基づく医療費助成制度により、その家庭の更なる経済的負担の軽減を図るとともに、慢性的な疾病を抱える児童及びその家族の負担軽減並びに長期療養をしている児童の自立を図るため、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業を実施している。 難病の医療提供体制については、「難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針」(平成二十七年厚生労働省告示第三百七十五号)等を踏まえ、都道府県において地域の実情に応じた難病の医療提供体制を構築するに当たって参考とするための「難病の医療提供体制の構築に係る手引き」を示している。これも活用しながら、引き続き、難病の医療提供体制の構築に取り組んでまいりたい。また、児童福祉法第二十一条の五の規定に基づき、「小児慢性特定疾病その他の疾病にかかっていることにより長期にわたり療養を必要とする児童等の健全な育成に係る施策の推進を図るための基本的な方針」(平成二十七年厚生労働省告示第四百三十一号)を策定するとともに、小児から成人への移行期医療支援体制を構築するため、平成二十九年十月に都道府県向けの移行期医療に係るガイドを策定している。さらに、令和四年度予算において、都道府県の移行期医療支援体制を整備するための経費として約三千万円を計上しているほか、移行期医療支援体制に関する実態調査等を行うための経費として約五千万円を計上している。今後も、慢性的な疾病を抱える児童等の健全な育成に係るこれらの施策を推進してまいりたい。 慢性的な疾病を抱える幼児、児童及び生徒に関し、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)及び障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の趣旨を踏まえ、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じた学びの場を設けるだけでなく、障害のない幼児、児童及び生徒と可能な限り共に過ごすための条件整備を行うなど、インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組を進めている。具体的には、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和三年法律第八十一号)の趣旨を踏まえ、学校において医療的ケアを行う看護師について、医療的ケア看護職員として学校教育法施行規則に位置付け、自治体等における配置を促進するとともに、その配置に係る財政支援の拡充を図っている。また、学校における医療的ケアの実施体制の充実を図ることを目的とした事業を実施している。さらに、特別な支援を必要とするこどもが就学前から社会参加まで切れ目なく支援を受けられる体制の整備を行う自治体を支援している。加えて、高等学校段階の病気療養中等の生徒に対するICTを活用した遠隔教育の調査研究事業を実施している。 今後も、「児童福祉法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(平成二十六年五月二十日参議院厚生労働委員会)の趣旨も踏まえつつ、難病や小児慢性特定疾病の児童等に対する医療の一層の充実を図ってまいりたい。 四 難病の医療提供体制については、「難病の医療提供体制の構築に係る手引き」等を踏まえ、現在、都道府県において、医療提供体制の整備を進めているところである。専門医療と地域医療の連携については、難病が疑われながらも診断がつかない患者について、患者本人や管内の医療機関からの診療相談に応じる難病診療連携コーディネーターを配置するほか、管内の難病医療に携わる医療従事者に対する研修を実施する難病診療連携拠点病院を整備することでその強化を図っている。 医療従事者の需給の見通しや、その確保策、地域偏在対策等について検討するため、平成二十七年十二月より「医療従事者の需給に関する検討会」を開催している。 医師の確保については、本検討会に設置された「医師需給分科会」での検討等を踏まえ、これまで医学部定員を臨時的・段階的に増員してきており、毎年約三千五百人から四千人増加している一方、今後の医師の増加ペースについては、人口減少に伴い、将来的には供給が需要を上回ると見込まれることも踏まえて検討する必要があるとされた。また、医師の地域・診療科偏在を是正するため、臨床研修や専門研修といった医師養成過程において、都道府県別・診療科別の定員を設定する等、偏在是正の取組を進めるとともに、都道府県において、各地域で必要な医師を確保するための方針・取組等を盛り込んだ「医師確保計画」を策定し、取組を進めているところである。こうした取組を通じて、医師の確保及び偏在対策に取り組んでまいりたい。 看護師等の確保については、就業者数が、平成二十二年に約百四十七万人、令和二年に約百七十三万人と増加してきているところである。今後も、医療需要の高まりに対応していくため、就業者数の増加に向け、新規養成と併せて、離職防止や復職支援といった取組を進めてまいりたい。 また、地域における看護職員確保等の課題について、都道府県ナースセンター、地方自治体、病院団体等が連携して取り組む「地域に必要な看護職の確保推進事業」に対し支援を行っている。 引き続き、医療機関及び医療従事者に対する支援を通じ、地域の医療提供体制の維持・確保に対応してまいりたい。 さらに、消費税増収分を活用した地域医療介護総合確保基金(医療分)については、令和四年度予算において、約千二十九億円を計上しており、各都道府県における医療従事者等の確保及び養成に資するため、地域の実情に応じて本基金を活用していただくこととしている。 難病患者に対するリハビリテーションについては、訪問リハビリテーション及び介護予防訪問リハビリテーションについて、特定医療費の支給対象とするとともに、在宅の難病患者の多様化するニーズに対応した適切なホームヘルプサービスの提供に必要な技能を有するホームヘルパーを養成するため、令和四年度予算において、約千万円を計上し、自治体が実施する研修事業に対して補助を実施している。 さらに、地域医療介護総合確保基金を活用した質の高い在宅医療の確保や、在宅医療に関する専門知識や経験を豊富に備え、地域で中心となって人材育成事業を支えることのできる高度人材の育成等の取組により、在宅医療の提供体制の充実に取り組んでまいりたい。 五 障害者雇用率制度については、事業主が社会的な責任を果たすための前提として、事業主がその対象者を雇用できる一定の環境が整っていることや、対象範囲が明確であり、公正性及び一律性が担保されることが必要であることから、現在、当該制度の対象障害者の範囲は身体障害者、知的障害者及び精神障害者とし、その取扱いに当たっては、原則として、障害者手帳の所持者に限っている。 他方、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)における「障害者」は、「心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」とされており、難病患者の就労支援については、公共職業安定所において、様々な難病の特性に応じた助言ができる難病患者就職サポーターを配置し、個々の特性を踏まえた職業相談等を行っている。こうした取組を通じて、引き続き、難病患者の特性に応じたきめ細かな支援を行ってまいりたい。 なお、障害者手帳を所持していない難病患者の障害者雇用率制度における取扱いは、本年六月に労働政策審議会障害者雇用分科会でとりまとめられた意見書において、「個人の状況を踏まえることなく、一律に就労困難性があると認めることは難しい」ことを踏まえ、「雇用率制度における対象障害者の範囲に含めることをただちに行うのではなく、手帳を所持していない者に係る就労の困難性の判断の在り方にかかわる調査・研究等を進め、それらの結果等も参考に、引き続きその取扱いを検討することが適当」とされたことから、引き続き、必要な対応を行ってまいりたい。 六 難病患者等の療養生活の質の維持向上を図るため、難病患者等に対する必要な情報提供及び地域交流会等の活動に対する支援を行う難病相談支援センター事業を含む療養生活環境整備事業を難病法に位置付け、取組を推進しているほか、各都道府県等に設置された難病相談支援センターの活動を支援するため、同センターに勤務する職員等を対象とした研修の全国的な実施等に取り組んでいる。 今後も、同研修事業を行うとともに、難病相談支援センターにおける相談事例等の情報を共有するためのネットワークを活用し、都道府県等と難病相談支援センターとの連携強化及び相互支援に取り組んでまいりたい。 |
本請願の受理件数、付託委員会、紹介議員等は、請願情報をご覧ください。
第208回国会 1350 難病・長期慢性疾病・小児慢性特定疾病対策の総合的な推進に関する請願
(別ウインドウで表示)