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平成十四年十二月十二日提出
質問第四三号

内閣府企画による小冊子及びビデオ「ハンセン病を知っていますか?」並びに「人権教育・啓発に関する基本計画」に関する質問主意書

提出者  北川れん子




内閣府企画による小冊子及びビデオ「ハンセン病を知っていますか?」並びに「人権教育・啓発に関する基本計画」に関する質問主意書


 第百五十四回国会に七月三十日提出した質問主意書への答弁(平成十四年八月二十七日)を踏まえて、以下、質問する。前回の質問ほとんどに、「制作の趣旨になじまない」として回答をはぐらかすなど答弁において真摯な姿勢がみられない。再質問を行うので、具体的かつ詳細に、真摯に答弁されることを要請する。
 

一 小冊子及びビデオは、「ハンセン病患者等に対する差別や偏見を取り除くことを目的に」して制作されたことは答弁書で確認されたが、そのためには、まず、国が行った誤った隔離政策がハンセン病に対する社会的な差別や偏見をうみ出し、助長したことへの責任に触れ、深い反省を国民に周知させることが必須である。
 しかしながら、「ハンセン病患者等に対する差別や偏見を取り除くためには、国民が正しい知識を持つことが有効であることから、ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明することとしたものである。」とのみ答弁されており、国の隔離政策の誤りについて国民に知らせることが意図されていない答弁である。
 そして、「ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明する」のであれば、近代以降、日本の「隔離政策」がハンセン病の医学的権威とされる人たちによって推進され、継続されてきたことは歴史的事実である。この問題について記述されないのであれば「医学的又は歴史的な側面について説明する」といっても、重大な側面を欠いた説明になり、国民への正しい知識の普及による差別・偏見の解消には有効ではないと考えるものである。国として、国策による隔離政策の誤りを記述することが重要であると考えるが、如何か。
二 また、答弁書では「政府としては、国の政策の誤りによってハンセン病患者等に苦難と苦痛を与えたことに対して謝罪するとともに、政府広報等により、広く国民に対してその旨を広報しているところである。」とされているが、それなら、何故、「広く国民一般を対象として企画し、制作した」小冊子等に、その謝罪内容を記述されていないのか。
三 さらに熊本地裁判決には「重大な法律上の問題点」があると小冊子に記述し、その問題点についての質問に対し、「国家賠償法及び民法の解釈の根幹にかかわる法律上の問題点があることである。」と答弁していながら、同時に「これを小冊子に記述していないのは、ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明するという小冊子の趣旨になじまないと判断したためである。」と答弁するなど国民を愚弄している。この「なじまない」ために説明しない、という姿勢は国としては行ってはならないことだと考える。「なじまない」という言葉を用いずに、具体的説明なしに、小冊子に「重大な法律上の問題点がある」とだけ、何故、記述したのか、論理的な説明を求める。
 また、熊本判決については、被告である国・小泉政府は「控訴断念」をし、熊本判決は確定した。その時点で政府は裁判の当事者ではなくなっている。にもかかわらず、「内閣総理大臣談話」や「政府声明」、さらに、国民を対象にした啓発冊子で、繰り返し熊本判決批判をするのは、司法権の独立を侵害するものであり、同時に、熊本判決に対する国民の認識を変えていこうとする政府の意図がみられるが、如何か。
四 「医学的又は歴史的な側面について説明するのが小冊子等の趣旨」とするのなら、前回の質問項目六から九までは、全て医学的・歴史的側面から非常に重要で避けてはならない問題なのである。何故、この項目においても「なじまない」とされるのか。この質問項目は、医学的・歴史的側面ではないのか。
 また、強制隔離を定め、患者絶滅・絶対隔離政策の開始となった一九三一(昭和六)年に制定された「癩予防法」について、小冊子本文二二頁には「一九三一年には『らい予防法』が全面改正され、隔離政策が採用されました。」とわずかに記述されているが、年表には、この一九三一年の法制定(法改定)と、同年に結成され隔離政策を支えた「癩予防協会」については記述されていない。それは何故か。意図的にはずしたのか。述べられよ。
五 ハンセン病の感染経路について、「説明を改める必要はない」と答弁されているが、小冊子・ビデオの説明は医学的に非常に問題があり、差別・偏見を助長するものである。説明をするのならば、ハンセン病は、現在では感染する機会がゼロといってもいいくらいに低い、感染症とは呼べないくらいの病気であることを強調すべきである。小冊子の記述において、このように改めることを強く求める。なお、ビデオでは、医学専門家とされる人物が、前回の質問で指摘したように、感染経路について医学的科学的に非常に問題のある説明を行っている。このままでは、国民に誤った知識を啓発することになるので、焼却処分するよう求める。如何か。
 また、小冊子三二頁には、同じ医学専門家により「病の王者・ハンセン病」などとハンセン病に対して、病気を軽薄に揶揄する表現がされており、これらの説明は、医学的でも科学的でも倫理的でもない。削除することを求める。如何か。
六 前回の質問十一項に対し、答弁では「ハンセン病患者等を隔離する方法が採られた時期が過去にあり、そうした時期を『当時』と述べたものである」とあるが、この答弁では、「当時」とは、「らい予防法」が制定されていた一九〇七年から一九九六年までの八九年間をさしていると考えられるが、そう理解していいのか。
 そして、患者を隔離したことを「仕方なかった」という記述について、「我が国の隔離政策を正当化する趣旨のものではない」と答弁されているが、これは謝罪の言葉としてとらえてよいのか。述べられよ。
七 また、「隔離政策が続けられた原因などについては、多方面から科学的かつ歴史的に検証を行うために、検証会議を設置することとしており、その中で明らかにされるものと考えている。」と答弁されているが、検証会議での会議録は公開されるべきと考えるが、既に公開がされているのか。傍聴だけでなく、全国の人たちが見られるよう、知ることができるように少なくともインターネットで随時、公開することを要請する。如何か。検証会議のメンバーと会議録のホームページアドレスを明らかにされたい。
八 質問十二項、小冊子の記述「現在では、(略)、こうした薬を一定期間服用すれば、ハンセン病は外来治療でも治癒する病気となったのです」という質問に対し、答弁は、こちらの質問趣旨・文意を理解されていないようなので、再度、質問趣旨を説明するので真摯に考慮して答弁することを要請する。
 当方の質問は、ハンセン病においては、昔から自然治癒があったことを踏まえながら、隔離政策以前には、一般病院において外来治療が行われていたこと、しかし、隔離政策以降、外来治療体制を閉鎖し、必要のない隔離政策をとり続けたことの問題性を問うているのである。
 答弁では、「有効な治療薬が無かった時代には、外来治療か否かを問わず、ハンセン病を効果的に治療できる方法がなかったことを否定するものではないと考えられる」とあるが、これは「効果的な治療方法がなかった」ということなのか。もし、そうであるのなら、「ハンセン病治療は、当初から外来治療が可能であり」とする日本らい学会の見解と答弁は矛盾する。
 また、もし、答弁が一般に正しいとすれば、外来治療ができない病気の患者は全て隔離されてしかるべきとなるだろう。この点について如何、お考えか。さらに、答弁では、「外来」と対比させることで隔離収容を「入院」と混同させている。一般の入院と違って、隔離収容は社会防衛政策の一環としてあったものであると考えられるが、如何か。
 この項目での答弁の後半部分は、質問の趣旨(当初から外来治療が可能であったのに何故、隔離したのか)をはぐらかすだけの答弁であり、答弁者(内閣総理大臣 小泉純一郎)の誠意を疑う。こうした答弁は、国が行ってきた隔離政策の問題性を国民に対して糊塗するためのものと思うが、如何か。
 隔離政策こそが、ハンセン病、そして、ハンセン病患者が「恐ろしい存在」であるという「前近代的思想」を明治以降の近代化の中で国民を教化する元凶になったと考えるが、如何か。
九 質問十三項の答弁では、「ハンセン病患者等に対する差別や偏見は、ハンセン病に対する誤った知識に基づく誤解が原因の一つである。ハンセン病が遺伝病であるという誤解は古くからあり、このような誤解を解消し、ハンセン病について正しい知識を普及させるため」とある。しかし、家制度や血縁・血族意識の強い日本社会においては、遺伝病自体が差別・偏見の対象になっている。そのような中で、「遺伝病ではありません」というのは、遺伝病差別を助長するものである。
 遺伝病差別については、「遺伝病に対する差別」と「遺伝病と誤解される差別」があるが、小冊子等での説明は、「遺伝病と誤解される差別」を解消するものであるとしても、「遺伝病に対する差別」については、さらに差別・偏見を助長するものである。「遺伝性疾患の患者等への差別につながるものではない」と答弁されているが、国の啓発説明は、遺伝性疾患への差別を前提にしており、このような差別の根幹にかかわることへの無理解、見識の無さが問題なのである。書き直すか、削除を要請する。如何か。
十 質問十四項の答弁では、「ハンセン病患者等に対する差別や偏見が生じた原因の一つとして、人々が、ハンセン病患者等に接した場合、容易に自分もハンセン病に感染するのではないかという誤解を持っていることがあると考えている。」とあるが、これこそ、らい予防法と隔離政策により「恐ろしい伝染病」とプロパガンダされた結果であり、最も、この誤解を持っているのは、国の政策を推進してきた行政官ではないか。
 また、答弁は、質問の趣旨をはぐらかしたものであり、「感染症という事実」を伝えることが直ちに誤解を解き、差別と偏見をなくすかのように楽天的に考えておられると思われる。問題は、『ハンセン病医学』大谷藤郎監修(一一〜一三頁、八〇〜九〇頁、三二〇頁、東海大学出版会、一九九七年)においても感染症とされながらも感染経路が呼吸器や皮膚接触などと推定はされはしているものの確定されていない点である。
 日本では、現在、年間の新患者は一〇人以下であり、感染の機会は一億二千万分の一〇以下、ほとんどゼロである。すなわち、実質的には感染は無いに等しいのである。従って「感染症」と繰り返し強調することは、前回の質問でも指摘したように「ハンセン病」を「伝染する怖い病気であり、病気をうつす患者を隔離すべき」だという偏見を新たに若い世代に植え付け、差別偏見を拡大・再生産することになるのである。如何、お考えか。述べられよ。
十一 質問十五項、高松宮記念ハンセン病資料館についての答弁で、「資料館の運営については、政府としても、ハンセン病に関する啓発活動の必要性から、一定の責任を有すると考えるが、必ずしも直接行う必要はないと考えている。」とある。「一定の責任」ということだが、資料館に対して毎年、財団法人・藤楓協会へ資料館運営費として、事業委託費(二〇〇一年度の場合、三千五百六十八万八千円)が国より計上されている。しかし、啓発活動としては閉館時間も多く、入所者のボランティア活動に頼っている部分が多いと聞く。資料館運営費(資料館事業委託費)の内訳明細を述べられよ。
十二 質問十六項の答弁では、「様々な形でハンセン病問題に取り組んだ代表的な人物を紹介しており」とあるが、代表的とは、どういう意味か。例えば、光田健輔氏の場合、隔離政策を推進した代表的な人物として取り上げられたのか。一方、患者・元患者当事者には、「ハンセン病問題に取り組んだ代表的な人物」はいないと考えておられるのか。一番の代表は当事者ではないのか。当事者を代表として一人も紹介していないのは何故か。
十三 質問十七項の答弁では、「ビデオでらい予防法(昭和二十八年法律第二百十四号)の内容、施行の実態及び廃止理由について説明していないのは、ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明するというビデオの制作の趣旨になじまないと判断したためである。」とされるが、「らい予防法」は、医学の法律であり、歴史そのものである。にもかかわらず、「なじまない」とするのは何故か。「らい予防法」を医学的問題、歴史の問題と考えておられないのか。
十四 以上のように、啓発内容に非常に問題がある小冊子及びビデオは、国が遂行した隔離政策により作られた差別であるということを隠蔽し、国の責任を逃れようとしているものであり、回収されるべきだと考えるが、如何か。
十五 昨年の二〇〇一年一二月、小冊子・ビデオの発行と同時期に政府の「人権教育・啓発に関する基本計画(中間取りまとめ)」が発表された。この基本計画の「ハンセン病患者等」の項目で「ハンセン病患者を隔離する必要は全くないものであるが、従来、我が国においては、発病した患者の外見上の特徴から特殊な病気として扱われ、古くから施設入所を強制する隔離政策が採られてきた」と説明されている。
 隔離政策の理由・目的が「発病した患者の外見上の特徴から特殊な病気として扱われ」とあるが、これは、「らい予防法」が感染源対策として患者の隔離を目的に社会防衛、つまり、患者本人のためでなく、一般市民を感染から守るという名目で「感染予防のため施設入所が必要」としてきた国・厚生省(現・厚生労働省)の定義と全く異なっている。これは、どこの部署の見解か。
 基本計画では「古くから」と説明されている。しかし、強制隔離は明治以降のことであり、それを執行したのも明治政府からである。「従来」「古くから」という説明は、あたかも強制隔離政策が明治期以前にもあったかのような間違った印象を与えるものである。明治政府が中心になり、ハンセン病を「発病した外見上の特徴」を人々に差別的に強調喧伝して強制隔離の理由付けをしたというべきで、歴史上、隔離が自然経過で行われてきたかのような印象を与える説明を改め、国は隔離政策の誤りを率直に認め、記述すべきと考えるが、如何か。
 また、この「外見上の特徴から」隔離したという考えは、十分な歴史学社会学的な調査を踏まえた学術的な見解と言えるだろうか。むしろ、基本計画の策定者(あるいは国)が、同様な「身体障害者差別」の感覚を有しているために、安易に民衆を見下した類推を行ったものではないか。これは問題ある隔離論を喧伝し、差別をさらに増幅させるものであり、人権教育・啓発において非常にゆゆしきことであると考えるが、如何か。
十六 二〇〇三年二月には、中学生向けの啓発パンフレットが発行される予定とのことであるが、新しいパンフレットの発行においては、当方の意見はもとより、なによりもまず当事者の意見を尊重し、考慮された上で発行されることを要請するものである。如何か。

 右質問する.



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