質問本文情報
平成十七年七月二十九日提出質問第一一〇号
諫早湾干拓事業の開門調査と調整池の水質改善対策に関する再質問主意書
提出者
赤嶺政賢 高橋千鶴子 吉井英勝
諫早湾干拓事業の開門調査と調整池の水質改善対策に関する再質問主意書
島村宜伸農林水産大臣は、七月二十三日に諫早湾干拓事業の工事現場を訪れ、報道によればその後の記者会見で、「総じて諫早湾干拓事業はやってよかった。反対する人たちの気持ちが分からない。よく実情を見ながら、反対すべきは反対してほしい」と語ったという。諫早湾干拓事業がもたらした漁業被害により、近年漁業関係者の自殺者は毎年のように出ており、今年もすでに二人が自殺等により亡くなっていると聞く。佐賀地裁の工事差し止め決定を取り消した福岡高裁でさえ、国には中・長期の開門調査を含めた調査を行う責務があると釘を刺している。このような状況のなか、島村大臣の今回の発言は有明海の漁業の実情と、諫早湾干拓事業の問題を認識することなく発した暴言と言わざるをえない。
よって、次のとおり再質問する。
(二) 福岡高裁の決定は、国に無条件で干拓事業の再開を認めたものではなく、開門調査の責務があると指摘している。国はこのことを全く検討せず、高裁の決定直後に工事を再開した。少なくともこの指摘を謙虚に受け止め、中・長期開門調査の実施を真剣に検討すべきではなかったのか。本年七月六日提出の質問主意書(一六二国会質問第九四号、以下、前回質問主意書)でも述べたとおり、我々は技術的に考慮すれば、排水門とその周辺で洗掘を生じさせない排水の方法があると考えており、洗掘を生じさせない排水の方法によってもある程度有明海の潮流が回復するという研究者の見解もある。開門調査を求める有明海の漁業者の多くが、「慎重な開門方法による調査により、仮に漁業被害が発生してもそれを甘受する」という立場であることは先にも述べたとおりであるが、国は漁業者の真摯な要求になんら答えていない。洗掘が生じないような開門方法を検討すべきではないか。
(三) 前回質問主意書への答弁書(以下、前回答弁書)で、開門調査を実施しない理由として「予期せぬ被害が生じるおそれがあると考えている」と述べているが、予期せぬ被害が生じるおそれとは、具体的にはどういうことを想定しているのか。開門調査を行えば、有明海再生のためには諫早湾干拓事業の中止しかないことがいよいよ明らかになる。国はそのことを恐れて、開門調査をかたくなに拒否しているのではないのか。
(四) 前回質問主意書で、有明海のノリ養殖の期間がこの十年間、漁業者の努力により四月中旬まで一ヶ月以上延びているにもかかわらず、有明海全体の平均でも生産枚数は増えていないことと、ノリ共販の一枚当たりの価格は諫早湾干拓事業の潮受堤防閉め切り後の一九九八年度以降、低下し続けていることを指摘した。答弁書ではこれに答えることなく、「三月中旬以降もノリの生育条件に恵まれる年もあり」「三月中旬以降もノリの生産が行われる」と述べている。これは、一九九五年度より前は三月中旬以降ノリの生育条件に恵まれなかったが、一九九五年度以降は恵まれたということか。一九九五年度以降、有明海においてノリの生育条件に恵まれた年とはいつで、その際の恵まれた生育条件とは何なのか。一九九五年度から県別、魚連別に詳細に示されたうえで答えられたい。
(五) 諫早湾干拓事業の総事業費は、二〇〇二年度に行った二度目の計画変更による二千四百六十億円から七十三億円増え、現時点で二千五百三十三億円になることを前回答弁書で明らかにしたが、その詳細な内訳はいくらか。また、配分予定の農地価格は十アール当たりいくらか。
(六) 総事業費はあくまでも現時点の見込み額で、今後も増える可能性がある。「事業の完了は二〇〇七年度を想定」と答えているが、それは想定に過ぎない。前回の計画変更後も様々な工事が追加されて実施されており、事業費の増額、事業完了時期と追加工事が不透明な本事業は、改めて事業計画の変更を行う必要があるのではないのか。事業費の増額により、費用対効果は現在の〇・八三よりもさらに小さくなると考えられるが、干拓事業で生み出される効果額はいくらと見込んでいるのか。
(七) 事業完了は想定でも一年先延ばしとなり、あわせて水質保全目標値の達成も一年先送りされたが、目標値を達成できるよう「努力」したいという無責任な態度は変わっていない。調整池の水質が目標値を上回っている理由について、前回答弁書で「同計画に盛り込まれた水質保全対策が完了していないことから、調整池の水質は、水質保全目標値を上回る水準となっている」と述べているが、水質の改善が見込まれないのは、地元自治体の対策が未完了だからということなのか。
(八) 「水質保全計画に盛り込まれた水質保全対策」とは、諫早市とその周辺の下水道事業、農業集落排水事業を含むと考えられる。長崎県が「二〇〇三年一〇月七日付、一五環政号外」で小沢和秋・前衆院議員に提出した「諫早湾干拓調整池水質保全計画(第二期)にかかる生活排水処理施設整備の概要」によれば、「諫早市公共下水道事業」の完了は二〇一〇年度、「高来町特定環境保全公共下水道事業」の完了は二〇〇九年度、「吾妻町特定環境保全公共下水道事業」の完了は二〇〇九年度、「諫早市農業集落排水事業」の完了は二〇〇七年度、「森山町合併処理浄化槽設置整備事業」の完了は二〇一一年度、「吾妻町合併処理浄化槽設置整備事業」の完了は二〇〇九年度となっており、地元自治体の水質保全対策の完了時期は、国が想定している事業完了年度と同じか後である。これらの完了を待っていては、国が想定している事業完了の二〇〇七年度には水質保全目標は達成できないのではないか。
(九) 前回質問主意書で、現在調整池となっている農林水産省のモニタリング地点「B1」と「B2」のCOD(化学的酸素要求量)・全窒素・全燐の数値が、一九九七年の潮受堤防閉め切り以後急激に高まった理由について質した。その答弁は、「調整池の水質は、基本的には流入河川の水質を反映しているが、調整池の浅水域で生じる風による底泥の巻上げ等により、流入河川の水質と比較してCODがやや高くなっているものと考えている」と述べ、調整池は河川に近い状況となり、これに巻上げが加わってCOD濃度が高くなったことを主張している。巻上げが生じるのは潮受堤防の閉め切りによって諫早湾のかつての浅海域が淡水化されたためであり、淡水化が続く限り巻上げを減少させることはできないのではないか。
(十) 別紙は本明川の河口域に最も近い本明川の不知火橋と、調整池の「B1」・「B2」の水質の変化をグラフにしたものである。このように本明川と調整池の水質変化の傾向は異なっていて、本明川の水質調査項目の数値は低下しているのに、調整池の数値は高まっている。調整池の水質変化の原因について、答弁書では「陸域から流入する河川水の水質の影響が強くなったことが主な原因」とも述べているが、このグラフは潮受堤防の閉め切りにより広範囲の干潟が失われ、同時にかつての浅海域が淡水化したため、水質浄化機能が一気に失われたことを明らかに示すものではないか。
(十一) 調整池のCODの数値が高いままなのは、巻上げに加えて植物プランクトンが大増殖して赤潮状態になっていることが関連している。すでに本明川等の流入河川の水質は生活排水等の浄化によって、ある程度改善されていると考えられるが、調整池の赤潮状態はまったく改善されていないのではないか。流入河川の窒素や燐をどれだけ削減すれば調整池が赤潮状態にならないようにできると考えているか。
(十二) 調整池内に築こうとしている潜堤の効果について、「諫早湾干拓調整池水質委員会」(以下、水質委員会)で出席委員からも疑問の声が出ていることを前回質問主意書でふれた。調整池内に築こうとしている「潜堤」による調整池の水質予測結果(単位はすべてミリグラム/リットル)は、
潜堤なしの場合、
CODは「五・二〜五・三」、全窒素は「〇・九〇〜〇・九二」、全燐は「〇・一〇一〜〇・一〇七」
潜堤ありの場合、
CODは「四・八〜四・九」、全窒素は「〇・九〇〜〇・九二」、全燐は「〇・〇九二〜〇・〇九八」
と、全く同じか大した違いはなく、目標値である「COD五以下」、「全窒素一以下」、「全燐〇・一以下」をかろうじて達成できる予測にすぎない。前回質問主意書に述べたように、この予測に対して水質委員会では疑問が出されている。これらの予測が妥当という根拠を示し、水質委員会で議論させるべきではないか。
(十三) 国が潜堤工事や調整池内の覆砂など、水質対策工事のためにどれだけ巨額の予算を投じようとも、水質改善には結びつかないことは、農林水産省が国営農地防災事業として底泥の浚渫等を行っている岡山県児島湖の実例が、すでにはっきりと示している。調整池への海水導入以外には水質を抜本的に改善させる方法はなく、ただちに事業を中止すべきではないか。
(十四) 長崎県はインターネットのホームページ上で、「県内外の多くの農業者等から、干拓農地を上回る営農希望が寄せられています」と事業の効果を宣伝しているが、国と長崎県が二〇〇四年十一月までに行った営農意向調査票には「営農希望の有無」の項目はなく、「干拓地の営農の関心の有無」の項目があるだけである。営農希望者がどれだけいるのか明らかではなく、「営農の関心」を「営農の希望」にすりかえた長崎県の誤った宣伝は今すぐやめさせるべきではないか。
右質問する。