衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ
平成十七年八月八日提出
質問第一一五号

アスベスト(石綿)対策に関する質問主意書

提出者  吉井英勝




アスベスト(石綿)対策に関する質問主意書


 アスベスト製造企業とアスベスト製品使用企業、およびその工場周辺において、多くの労働者、家族、住民の間でアスベストによる肺癌や中皮腫に罹患し、死亡者が発生している。こうした事態を招いたアスベスト関連企業の責任は重要である。同時に、一九六〇年代からアスベスト被害の症例が明らかになっていたのに使用禁止措置を昨年十月までとらず、いまだに経過措置を理由として使用を許している政府の責任はさらに重大である。
 よって、次のとおり質問する。

(一) 一九五六年五月に、労働省労働基準局長名で「特殊健康診断の指導指針」を発出したが、「アスベストは有害な物質」という認識をもっていたのか。アスベスト作業従事者に対する特殊検診としてどういう項目で実施したのか。また、毎年度、どれだけの検診を実施して、どういう結果が明らかになったのか。さらに、その結果に基づいて、アスベストの扱いについてどういう新しい指示を行ったのか、その内容を明らかにされたい。
(二) 一九五七年二月と一九五八年十一月に労働基準監督署は、大阪地方の石綿紡織工場などの環境調査を実施したが、一立方メートル当たり一〇〇ミリグラムを超えるアスベスト粉塵が測定されていた。一九七一年に定めた基準の五十倍以上のアスベスト粉塵による汚染状態であった。一九七一年の特定化学物質等障害予防規則でアスベストの濃度基準を定めるまでに、なぜ十三年もの長期間を要したのか、また、その間にどのような検討が行われたのか明らかにされたい。
(三) 一九六〇年代以降、経済の高度成長の中で、鉄鋼、造船、石油化学工業、電力、自動車などの産業分野で、アスベストの「耐熱性、耐火性、保温性、耐腐食性、絶縁性」などの特性を生かした構造材としてあるいはプラントの重要部品として需要量が急増し、比較的小さな中小零細を含むアスベスト企業からアスベスト製品が供給された。海外でのアスベスト粉塵による被害の症例は、石綿肺症(一九二七年、イギリス)、石綿肺に肺癌(一九三五年)、胸膜・腹膜に悪性中皮腫合併(一九六〇年)などが報告されていた。こうした海外での症例の報告に厚生省と労働省(現・厚生労働省)は、どのように対応したのか。
 こうした症例は、国内でも大口ユーザの需要急増に伴って、一九六〇年代以降、石綿労働者、家族、周辺住民の間でのアスベストによる胸膜中皮腫、肺癌、石綿肺、塵肺の被害の報告が急増した。この国内の六〇年代以降の症例にどのように対応したのか、明らかにされたい。
(四) 厚生省所管の国立病院や研究所の研究者の報告によれば、一九六〇年代に、厚生省自身がアスベストによって肺癌や中皮腫が発生することを確認していた。それは、一九六八年九月の労働省労働基準局長文書によって、アスベストによる肺癌や中皮腫の発生の危険を前提として、石綿作業場における労働安全衛生規則に基づいて局所排気装置の設置義務を明確にしたことによっても裏付けられている。また、一九七一年一月の同局長文書によっても「石綿粉塵を多量に吸入するときは石綿肺を起こすほか、肺癌が発生することが判明し、また特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生する」として、塵肺則に定める粉塵作業場以外の作業についても、アスベストによる健康障害を防止するために局所排気装置を設置するように指導することにしたことでも示されている。一九六〇年代当時の労働省として、アスベストによって肺癌や中皮腫という悪性腫瘍が発生すると認識したのは何年のことであるか。
(五) 七月二十日の厚生労働委員会において、「アスベストにより肺癌や中皮腫などの障害を受けて労災認定を受けた人は、毎年度、何人か」と求めても、厚生労働省は七〇年代は分からないとして、一九七九年までの合計で十九人と答弁した。しかし、地方の労働基準監督署で認定した数を、本省で集約すればすぐに出るデータである。実際、ニチアスでは一九七二年にも一九七三年にも一人ずつアスベストによる障害として認定されている。これだけでも、最初の認定は七二年となる。また、国立労災病院の医師が一九七一年に発表した論文では、「大阪における石綿肺管理4決定者(労災認定)は、一九五六年から一九七一年三月までで四十五人」であったことが示され、「石綿肺に高率な肺癌合併の主因は、上皮の異常増殖部位が多発し、癌発生の組織素因を形成」と指摘した。さらに論文発表の七一年にはすでに、その内の二人が死亡していることも明らかにした。アスベストによる労働災害の認定は、労働省として公式にアスベストが危険であることを認定した時期となる。一九六〇年代に労働省が認定していた人がいるが、その時期は何年度のことであったのか、明らかにされたい。
(六) 当時の厚生省は安全性に問題がないとして、アスベストの使用に規制を加えていなかった。消防庁は、市町村が火災予防条例など作成する時に、高温にさらされる構造材をアスベストで被覆すること(一九五六年十一月文書)や、ガス機器の設置に当たってアスベストによる不燃仕上げ(一九七九年十一月文書)などを事実上推奨し、内装材を難燃性のものにする場合にもアスベストを使用すること(一九七六年九月文書)、さらに屋外危険物タンクの保温材としても難燃性を増すためにウレタンフォームに加えること(一九七六年九月文書)を推奨してきた。
 国としては、一九五〇年代にアスベストに関わっての「特殊健康診断」を指示し、特定地域での環境調査も行っていたのであるから、防火性能を高める趣旨でアスベスト含有製品を推奨したからには、当然、関係者に注意を促したものと思う。アスベスト被覆材や内装材、不燃材、保温材などの製造や取り付け工事を行う労働者に、前記「特殊健康診断」を徹底させるようにどのような行政指導を行ったのか、労働省や厚生省の通達や地方出先機関の指導内容を示されたい。
(七) アスベスト使用の禁止を行うことに対しては、アスベスト製品メーカーの団体である日本石綿協会からの政府への要請も、鉄鋼、造船、自動車、電機、石油化学、ゼネコンなど大口使用のユーザである大企業からの「代替品ができるまで規制するな」との主張もあった。こうしたことを背景として、当時の通産省などが企業の働きかけでアスベスト規制に反対したために労働省や環境庁が使用禁止を打ち出せなかったのか、労働省が作業現場で「集塵機の設置」を義務づけるだけで使用禁止を主張しないために通産省等が輸入・販売・使用の禁止を怠ったのか、当時の環境庁がアスベストを規制すべき物質と考えなかったために労働省も通産省も使用禁止措置をとらなかったのか。
 造船やゼネコンの要望に関しては、当時の運輸省や建設省がその業界の立場で使用禁止に反対したことが、労働省や環境庁の措置を遅らせることとなったのか。この時、省庁は、このことについてどのような対応を行ったのか。諸外国の措置に較べて、日本のアスベスト使用禁止など規制措置が遅れた原因はどこにあるのか、明らかにされたい。
(八) アスベストメーカーであるクボタは、一九七五年に青石綿の使用をやめたと発表している。そうだとすると、厚生省は一九九五年まで二十年間も特定化学物質等障害予防規則を改正して、青石綿と茶石綿の使用を禁止しようとしなかったことになる。アスベストメーカーが青石綿の輸入も使用も中止しているのに、逆に国が二十年間も青石綿の使用を認めてきた理由はいったい何か。
(九) かつて一九八八年から一九九三年にかけて、「熊本県松橋地区胸膜肥厚対策協議会」が設置され、熊本県が二分の一の費用負担を行って、約一万人の住民検診が大規模に行われた。この地域はアスベスト鉱山があり、麻生石綿加工株式会社という石綿製造工場もあって、地域住民が長期間にわたってアスベストに曝露されてきたところである。検診の結果、九百三十八人に胸膜肥厚斑が見つかっている。いまでは中皮腫の人も見つかっている。政府は、この松橋地区の住民検診に幾らの費用負担を行ったのか、どのような取組みを行ったのか。
 また、松橋地区以外に富良野や呉など、どの地域でどのような住民検診を行ったのか。その時に、国はどのような費用負担と取組みを行ったのか。
(十) クボタの神崎工場周辺、ニチアスの王寺工場周辺などで数多くのアスベストによる住民被害が明らかになってきている。労災補償制度にも当たらない住民の健康診断や治療がすべて本人負担となっている。X線とCTによってアスベストによる肺癌や中皮腫の検査にはおよそ二万円の本人負担が必要となっている。住民には落ち度がないのに、アスベスト製造企業やアスベスト使用工場・施設の存在によって曝露して、石綿肺癌や中皮腫の恐れがないかの検診や健康被害を受けて治療に当たる時には、費用負担の心配なしに検診や治療を受けられるようにすることは、加害企業と、不作為の責任を持つ国の果たすべき責務である。緊急に必要な住民検診について、これを本人負担なしで実施すべきでないか、政府の見解を問う。
(十一) 研究者の報告によると、二〇〇〇年から今後四十年の間に、アスベストによる肺癌や中皮腫による死亡者は十万人にのぼると推定されている。すでに厚生労働委員会でも紹介した、ニチアスの百四十一人の労災認定を受けて死亡された方の資料によると、アスベスト曝露の時期から三十年、四十年後に発症しているから、この推定は事実においても示されている。したがって、今年の検診では見つからなかった人も、毎年検診を受けて健康管理を行う必要がある。将来にわたって、本人負担なしに住民検診を行うことが必要である。政府としてどのように取り組むか。

 右質問する。



経過へ | 質問本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.