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平成十八年十二月十二日提出
質問第二三七号

薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問主意書

提出者  前原誠司




薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問主意書


 十一月に開かれた「アジア・太平洋地域の薬物取締機関長会議」(国連加盟の二十七ヶ国・二地域が参加)がタイ・バンコクで開かれ日本も参加した。
 いまや、世界的な薬物乱用問題の解決に我が国も積極的に貢献しなければならない。これまでの薬物乱用防止対策と薬物乱用・依存者を取り巻く現状は依然として厳しい情勢にある。特に、青少年の薬物乱用の多くは、薬物に対する詳しい知識が不十分であり、乱用のもたらす恐ろしさを知らないことに起因する。
 薬物乱用が中・高校生を中心とした若年層の間で急増している問題に内閣をあげて取り組むために、平成九年に内閣総理大臣を本部長とする「薬物乱用対策推進本部」が設置され、平成一〇年には「薬物乱用防止五か年戦略」、平成一五年には「薬物乱用防止新五か年戦略」が決定された。
 我が国において麻薬・覚せい剤が社会問題化したのは、第二次世界大戦後のことである。戦後六〇余年を経た今日において終息するどころか、その乱用は益々多種多様化の様相を呈している。
 我が国における薬物事犯の検挙者数を見ても二〇〇五年(平成十七年)には約一万六千人に、そのうち覚せい剤事犯が約一万三千五百人と五年ぶりに増加した。特に、二〇歳代を中心とした若年層への乱用の拡大が顕著であり、憂慮すべき状況にある。
 これら、いずれも大きな社会問題であり取締りの徹底は勿論のこと、薬物依存症からの「回復」の道と医療的・社会的対応システムがほとんど育ってきていない。唯一、民間の自助グループ「ダルク」が薬物乱用・依存者の「回復」のプログラムに取り組んできたが、既に薬物問題を取り巻く社会的ニーズの拡大によって「ダルク」が充分に対応しきれなくなっているのが現状である。
 諸外国では薬物乱用・依存対策として、司法、医療、福祉の連携した総合的な「回復」支援、社会復帰支援、研究調査を行う機関が作られており、総合的に問題解決に取り組んでいる。
 我が国でも、そうした省庁を超えた体制作りが必要である。
 「薬物乱用防止新五か年戦略」の中で治療の充実、社会復帰の支援、関係機関の連携の強化と言われているが具体性がなく不十分ではないか。
 よって次の事項について質問する。

一 薬物依存症及び、薬物依存症から統合失調症と事実上区別できない中毒性精神病になった者には、国民年金法(昭和三十四年 法律第百四十一号)(抄)第六十九条「故意に障害又は・・・」第七十条「故意の犯罪行為若しくは重大な過失により・・・」等の定めにより、障害基礎年金が支給されない場合が多い。しかし、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の中で「「精神障害者」とは・・・精神作用物質による急性中毒又はその依存症・・・を有する者」と謳われている通り、薬物依存症者は「精神障害者」なのであり、国民年金法等の定めは、生活の自立の芽を欠くものになっている。五十年近く経過した法律は今日の社会では適当なのかどうか、運用、又は支給要件等の法改正をされては如何。
二 国民健康保険法及び健康保険法で「被保険者が、自己の故意の犯罪行為により・・・」と定めていることにより、医療機関によっては保険給付等が行われない場合がある。依存症の診断基準として「DSM‐W」が使われており、その中で「薬物使用のため身体的・心理的問題が起こっているにもかかわらず使い続ける」としているように、依存症者は自己のコントロールが出来ない状態である。医療給付の対象外とすることは、回復の道を閉ざすことになる。医療給付の対象外とすることのないように、医療機関への指導徹底が必要だと考えるが政府の見解は如何。
三 ダルク施設入所者の多くが、生活保護費を受給しながら回復プログラムに取り組んでいる。生活保護手帳の中の、第六最低生活費の認定の中の三臨時的一般生活費の(セ)a「アルコール症若しくはその既往のある者又はその同一世帯員が、断酒を目的とする団体の活動を継続的に活用する場合」とあるが、薬物依存症が自助グループに参加するための移送費は明記されておらず、多くの自治体では移送費が支給されない。移送費支給の対象とするよう認定要件の見直しを求めるが、政府の見解は如何。
四 現在、全国約四十箇所のダルク施設があり、そのいくつかで障害者自立支援法の障害福祉サービス給付事業所となるべくNPO法人資格の取得などの努力をしている。しかし、全国の多くの市町村では薬物依存症に対する理解が必ずしも十分ではない。したがって、市町村障害者福祉計画及び都道府県障害福祉計画に薬物依存症による精神障害者を受け入れる障害福祉サービス事業の必要量が含まれない可能性が強い。社会的病理としての薬物問題解決の面からも市町村及び都道府県への指導徹底が必要と考えるが、政府の認識は如何。
 またダルクでは地域生活支援センターとして事業認可を受けようとしているところが多い。「専門性の高い相談支援事業及び広域的な対応が必要な事業」として薬物依存症の社会復帰事業を都道府県地域生活支援事業として位置づけるなどし、薬物依存症対策事業を積極的に進めていくよう国が指導することが必要であると考えるが、政府の見解は如何。
五 仮釈放期間中若しくは出所後にダルクに入所した者に刑事施設で投与される処方せん薬によって引き起こされた依存症が多く見られる。刑事施設内での処方せんの投与の現状について問う。
六 出所後に身元引受人に、刑事施設内の処方せんの内容が伝えられない。継続した医療行為を受けるためにも、処方せんの内容を明らかにすることが必要だと考えるが、どのように対応されているのか。
七 刑事施設内の薬物依存症、精神疾患の専門の医師の配置が不十分ではないか。現状はどの様な態勢になっているか。
八 薬物依存症者が幻覚・妄想等の中毒症状を呈しているときに、家族に暴力を振るったり、暴れて家を壊したりしても、精神保健福祉法の定める措置入院(その精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼす恐れがある)と認めないことが多い。また、指定病院での受け入れを拒否される場合がある。現状をどのように把握されているのか。今後の対応策を問う。
九 法務省は保護観察所において、平成十六年度から、覚せい剤事犯の仮出獄者に対して、本人の自発的意思に基づく簡易尿検査を開始し、結果、陽性反応が認められるなど、再使用の疑いがある場合には、警察等の協力を求めることとし、それによって薬物の再乱用の防止に効果をあげることができたとしているが、具体的にどれほどの効果があげられたのか明らかにされたい。
十 法務省は保護観察官の直接的関与を強化し、薬物事犯関係の保護観察対象者の問題性に着目した処遇を実施するとともに、共通する特性に着目して、この種の対象者及びその家族等に対して集団処遇を実施しているとしているが、これらの施策に対して実施状況はどうなっているのか。また、どのような具体的な効果があげられたか。
十一 薬物事犯者が仮釈放期間中の居住地としてダルクに入所し、回復のためのプログラムを受けることは再犯防止の観点から大変有効であると考える。仮釈放期間中にダルクの長が身元引受け人になりダルクに入寮した場合に、薬物事犯者の矯正処遇の一環として、薬害等に関する処遇プログラムを実施している更生保護施設と同等の、法務省予算での生活援助ができないか。
十二 全国の保健所、精神保健福祉センター等に寄せられる薬物依存症に関する相談件数は正確に把握されているか。それは実際の依存症に苦しんでいる人の数と比べ大きな乖離があると思うが、実態をどのように認識されているか。乖離があるとすれば、相談窓口の整備、受け易いように強化することが急務であり政府の見解は如何。
十三 厚生労働省は国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部において、薬物乱用・依存に関する様々な方面からの調査を行い、情報の収集、分析、評価に努めている。それらの研究成果をどのように薬物依存症者の治療・社会復帰に還元しているのか具体的に示されたい。
十四 厚生労働省は財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターに平成十七年度には約七千六百五十万円の委託金を出し、同センターでは乱用防止に対する活動を行っている。乱用防止には薬物乱用者に対する再乱用防止対策を同時に行うことで相乗効果を持たせることが出来ると考えるが、再乱用防止のための対策にはどれだけの予算があてられているのか問う。また、具体的にどのような施策を行っているのか。
十五 薬物依存の問題は、単に司法の問題か、医療の問題かと分けられる問題ではない。欧米諸国では、薬物依存・中毒者の治療、社会復帰支援のために、治療共同体や自助グループを活用しながら、福祉、司法、医療のそれぞれの分野で連携してそのケアを行っている。薬物防止新五か年戦略では「目標4(3)治療、社会復帰支援のための関係機関の連携強化」としているが、薬物依存・中毒者の治療、社会復帰の支援によって再乱用を防止するためには、民間の力との連携が不可欠であると考えるがどうか。また実際に、関係機関との連携をどのように行っているのか示されたい。
十六 「薬物乱用防止新五か年戦略目標4(4)薬物依存・中毒者の家族に対する支援等」の施策の内容として、「保護観察所における、薬物事犯対象者の家族に対する、薬物乱用の有害性及び本人への対応に関する知識を付与するための講習会の実施」「保健所・精神保健福祉センターにおける薬物相談窓口における、本人及びその家族からの薬物関連問題相談」「薬物関連問題を有する者の家族を対象とした家族教室の開催等」をあげている。その効果として、「家族に対する講習会の実施によって、薬物乱用の有害性及び本人への対応に関する知識を家族に与え、本人の薬物の再乱用の防止に効果をあげることができた。また、講習会の講師として関係機関の職員を招くことによって保健観察所と関係機関との連携が促進された。」「また、保健所、精神保健福祉センターにおける薬物相談、家族教室を通じて、本人及び家族に対する支援、薬物に関する知識の普及が図られた。」としているが、具体的にどれほどの効果があげられたと把握しているのか。
十七 薬物依存・中毒者に対する医療は専門性が高く、薬物依存・中毒者を受け入れる医療機関は限られている現実がある。診断治療技術の研究開発とその普及の整備は、国立精神・神経センター等を中心として進められていると聞くが、同センター精神保健研究所薬物依存研究部には診断・治療開発研究室がある。しかし、この研究室には人員がついておらず、事実上、組織図上の絵空事に過ぎないが、人員がつかないのはなぜか。
十八 薬物依存症の中には、医師の処方した薬物に依存するというケースがある。それらを踏まえると、依存している薬物を切るための解毒治療を行う専門センターとしての役割を公立の精神科病院や精神保健福祉センター等が行うことが望ましいと考えるがどうか。
十九 刑事施設に入っている薬物依存・中毒者の多くが薬物依存症という病気により、出所後に使用欲求がコントロールできないこと、また若年から薬物依存にかかっているため生活や就労の能力が訓練されていないことなどのために、薬物乱用を何度も繰り返すことが起きているため、司法と医療と生活・就労への統合された援助が必要であり、省庁を超えた援助を行うための体制を作る必要があると考える。欧米では、ドラッグコートという特別の裁判で、刑罰の代替として治療の命令が出る方式などがとられているように、司法と治療及び社会復帰支援が結びついた体制をつくる必要があると考えるがどうか。見解を示されたい。
二十 薬物乱用をストップするためには、薬物使用を行っていた際の人間関係や地縁から離れた施設での回復が効果的であり、国立精神・神経センターの平成十四年度に行ったダルクの調査でもそうした結果が明確になっている(七施設の調査では、県内出身者は一〇%であった。)市町村や都道府県を超えて利用できるシステム(特に生活保護費の受給要件)が構築されることが望ましいが、どう考えるか認識を示されたい。
二十一 薬物乱用に伴う注射針のまわし打ち等によるC型肝炎、エイズ等の感染症に対して、どのような対策が必要であると考えるか。
二十二 薬物乱用の繰り返しにより慢性的な精神障害を生じているものが少なくない。それらのものの自立支援のためにも、薬物後遺症居住施設及び指導員の必要性があると考える。しかし、既存の障害者の施設を利用しようとしたときに、薬物乱用の経験があるものに対して、受け入れを拒否されるケースが少なくない。この実態をどう把握しているか問う。

 右質問する。



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