衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成二十年六月十八日提出
質問第五六一号

「木曽川水系連絡導水路事業」の事業目的と環境影響に関する質問主意書

提出者  近藤昭一




「木曽川水系連絡導水路事業」の事業目的と環境影響に関する質問主意書


 一六六国会において「徳山ダムに係る木曽川連絡導水路事業の目的と効果に関する質問主意書」(二〇〇七年六月一二日付)を提出し、同年六月二二日付でその答弁書を受領した。また一六八国会において「「木曽川水系連絡導水路事業」の環境影響に関する質問主意書」(二〇〇七年一二月二八日付。以下、「一六八国会質問主意書」という。)を提出し、二〇〇八年一月一一日付でその答弁書(以下、「一六八国会答弁書」という。)を受領した。
 これらの質問主意書−答弁書及びその後判明した事実を踏まえて、木曽川連絡導水路事業(以下、「当該事業」という。)に関して質問する。

第一 「長良川に徳山ダムの水を流す−上流分割案−」について
 既往最大渇水といわれる一九九四年の渇水(「平六渇水」)において、長良川に渇水被害といえるものがあったというデータは全く示されていない(「長良川市民学習会」(代表:粕谷志郎 岐阜大学教授)に対しても、魚類生態学の専門家に対しても)。五月一九日に行われた市民団体との交渉において、「なぜ長良川に徳山ダムの水を流すのか」という質問に対し、国交省中部地方整備局河川部(以下、「中部地整」という。)の担当者は、「対応すべき渇水(既往最大渇水=「平六渇水」)における長良川に生息する生物への被害の資料・データは存在しない」としながら「揖斐川と木曽川に渇水対策を行うのに長良川だけおいてきぼりというのも何だ、と考えた」「将来長良川中流部の流量がゼロになることが絶対にないとはいえない。危機管理の観点」という論を展開し、「行政判断です」と繰り返した。
 一 「平六渇水」での長良川中流部の被害データもなく、発生予測も被害予測もなしに、「平六渇水を上回る大渇水に備える」という「危機管理」は理解に苦しむ。「行政判断」の一語だけで、根拠といえるものもないまま巨額の事業費を要する施設対策が講じられるとすれば「行政の独断専行による無駄遣い」と指弾せざるを得ない。「異常渇水時の長良川の環境改善」を目的として掲げる以上、左記を明確に回答されたい。
  (1) どういう異常大渇水が、どういう生起確率で予測されるか。その折にどのような河川環境被害が予測されるのか。検討に値する根拠とともに回答されたい。
  (2) 「長良川中流部の流量がゼロになる」ような異常大渇水は、どの程度の確実性をもって生起確率が予測されるのか。検討に値する根拠とともに回答されたい。
  (3) (2)のような異常大渇水において、長良川古津地点で、徳山ダムの水を最大毎秒四.七立方メートル放流することによって、河川環境改善にどのように資するのか。検討に値する根拠とともに具体的に説明されたい。
 二 長良川に徳山ダムの水を流すことの理由もしくは目的として「異常渇水時の長良川の環境改善」という説明が(「長良川市民学習会」メンバーらに)なされている。そうであれば、木曽川水系河川整備基本方針における長良川の正常流量の設定が適正であるのかどうかの疑問が膨らむ。
  正常流量を決めるにあたっては、代表魚種の選定がなされ、それぞれの魚種が必要とされる流量につき一応説明資料が作成されている(「木曽川水系河川整備基本方針(案) 流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する説明資料(案)【長良川編】」平成一九年七月 国土交通省中部地方整備局 P一二〜。以下、「正常流量資料【長良川編】」という。)。これに関して専門家から文書及び口頭で質問があったことに対し、五月末に中部地整から回答らしきものがあったが、説得的な回答になっていない。
  (1) 代表魚種の選定に関わった「木曽三川魚類検討会」の有識者の氏名を明らかにし、代表魚種選定の経過(議論)内容を公開すべきと考えるが、どう考えるか(「個人のプライバシーの保護」として回答を拒否するのは「法の名を借りた公的機関による情報隠し」(四月二五日、日本新聞協会編集委員会見解)の類であると考える)。
  (2) 正常流量資料【長良川編】では、それぞれの魚種につき「水深〇センチを要する」から「流量〇立方メートル/秒」と換算しているが、それぞれの魚種につき「水深〇センチを要する」としたバックデータもしくは文献の概要を示した上で、その流量確保の必要性を説明されたい。
 三 長良川への常時放流・渇水時放流について
  一六八国会答弁書でも名古屋市工業用水の毎秒〇.七立方メートルは長良川に常時放流すると明確にされている。また、「徳山ダムに確保された渇水容量の放流」は、「木曽川上流既設ダムの容量が五〇%を割ったとき等」と説明されている。
  (1) 常時放流による長良川への影響(河床形状の変化を含む)をどのように考えているか、またそれが生物環境にどう影響するか、に関して現状で把握されていることを、根拠も含めて明らかにされたい。
  (2)
  @ 「徳山ダムに確保された渇水容量の放流(名古屋市工業用水の毎秒〇.七立方メートル以外の長良川への放流)」について、現時点では、どういう場合にどれだけをどこに放流するという運用を考えているのか、整理して明らかにされたい。
  A @の予測されうる頻度及び量の数値を明らかにされたい。
  B Aによる回答は、長良川への影響(河床形状の変化を含む)をどのように考えているか、またそれが生物環境にどう影響するか、に関して現状で把握されていることを、根拠も含めて明らかにされたい。
第二 木曽川の正常流量について
 そもそも導水路の事業目的となっている(アロケーションで六五%)「異常渇水時の木曽川の河川環境保全」には、木曽川成戸地点での流量確保が、大きな位置を占めており、その根拠には「木曽川河口部のヤマトシジミ」がとり上げられている。一六八国会質問主意書「一(4)@」で指摘したグラフに関し、四月二二日の住民からの質問
  「塩素イオン濃度と流量の関係式を示して下さい」
 に対し、中部地整は
  「木曽川大堰の放流量と一三.八キロメートルの塩素イオン濃度をプロットしたグラフの包絡線のことを関係式としたものです」
 と回答している(中部地整HP「木曽川水系連絡導水路」より)。
 一 その後の汽水域生物の研究者の「海水の塩素イオン濃度はおよそどれくらいか知っているか」という質問に対して、中部地整担当者は「知らない」と答えた。海水のおよその塩素イオン濃度は一八〇〇〇r/L程度であるが、問題のグラフは「木曽川大堰の流量が毎秒二〇立方メートルを下回ると木曽川成戸地点の塩素イオン濃度は海水より濃くなる」ということを示している。
  このグラフが木曽川の正常流量決定に大きな役割を果たしていることからすると、これは問題視せざるを得ない。毎秒二〇立方メートルを下回ると(ほぼ確実に)木曽川成戸地点の塩素イオン濃度は海水より濃くなる」ということは事実としてありうるのか。
  理解できるように説明されたい。
 二 前記研究者によれば、毎秒数百立方メートル流量でも「塩水くさび」を押し流すほどの流量とはいえない、という。異常渇水時に毎秒一六立方メートルを補給することが、ヤマトシジミをはじめとする生物にとって巨額の事業費を投じる意味のあるものかどうか、専門家と関心ある市民の議論に耐えうる根拠を提示されたい。
第三 絶滅危惧種と特定外来生物について
 生物多様性条約批准国であり、COP10(生物多様性条約第一〇回締約国会議)ホスト国である日本は、生物多様性保全につき、国際的な責任を背負っている。
 各種公共事業の計画立案にあたっては絶滅危惧種に配慮をするのは当然のことである。国交省も正常流量設定にあたって、「注意すべき種」(「正常流量検討の手引き(案)」)などの表現で生物多様性に配慮していると解される。
 一 環境省レッドデータブック(RDB)で絶滅危惧1A類となっているイタセンパラが木曽川水系に生息するという情報は、魚類研究者はもちろん、RDB等に関心のある市民の多くがもっている(「密漁のおそれ」をもって、このことを公式に認めない意見もあるやを耳にするが、広く知られた事実であり、密漁を企てるような人間であればとっくに知っている事柄と考える)。
  魚類研究者が、当該事業の計画・立案に際し、イタセンパラへの影響を考慮したかどうかを問い合わせたところ「考慮していない」旨の回答を得たという。考慮していないとすれば極めて遺憾である。
  (1) 当該事業の計画・立案に際し、イタセンパラへの影響を考慮したか否か、明確にされたい。
  (2) 考慮したとすれば、どういう考慮がなされたか(希少種に関する情報取り扱い規定で問題になるところまで踏み込むことは求めない。答弁書には概要を示されたい。後のことは希少種の取り扱いに知悉した専門家に委ねる)。
  考慮していないとすればその理由を、十分に説明されたい。
 二 絶滅危惧1A類・イタセンパラの減少の要因は、必ずしも一つに特定されてはいない。しかし、イタセンパラを捕食する外来生物の増加も一因であると専門家によって指摘されている。
  渇水時に一定の流量を補給し河川流量を「安定」させることは、イタセンパラを捕食するブルーギルやブラックバス等に「優しい」ことになり、結果としてイタセンパラをより一層絶滅に追いやるという危惧も存在する。
  このことに関してはどのように考えるか。当該事業を進める国交省及び生物多様性の責任官庁である環境省の間に齟齬のない回答を求める。
 三 前記のことと併せ、当該事業を「河川環境改善」と称する際、「河川流量が少ないときには、水を補給することが河川環境の改善だ」という極めて稚拙な「行政判断」があるのではないか、と推察される。
  河川の自然的状態(ダイナミズム)と人為的な他河川からの水補給の関係につき、生物多様性及び生態学的見地から、どのように解しているのか。当該事業を進める国交省及び生物多様性の責任官庁である環境省の間に齟齬のない回答を求める。
第四 環境影響評価法の自主的取り組みについて
 六月三日の木曽川水系水資源開発基本計画の一部変更を受け、水資源機構は「事業実施計画」策定を行うはずである。仮にダム事業であれば「事業実施計画」は特定多目的ダム法の「基本計画」にあたる。ダム事業であれば、環境アセス手続を経てからしか「基本計画」は策定されない。
 木曽川水系連絡導水路事業につき、国交省は環境影響評価法対象外事業である、としながらも「導水路が徳山ダムを水源とし、長良川や木曽川をはじめとした複数の河川に係る延長約四四キロメートルという事業規模の大きさから、様々な環境影響要素が存在し、影響想定範囲も広範にわたるため、法令上の環境影響評価対象とはならないものの、事前検討に万全を期するために環境影響評価準備書に準じた評価・とりまとめを行うものである。」(平成一九年六月五日に(財)ダム水源地環境整備センターに発注した「平成一九年度 木曽川水系連絡導水路環境影響評価業務」 随意契約結果及び契約の内容 より)としている。
 同じく中部地整で進められている設楽ダム建設事業では、環境影響評価法に基づく方法書縦覧を二〇〇四年一一月〜一二月に行っているが、本年五月末現在、「基本計画」は未策定である。
 他方、木曽川水系連絡導水路事業では、「木曽川水系連絡導水路環境検討会」は非公開で行われていたようで(開催日時も委員も公表されていなかった)、環境調査項目等の設定の目処がついたとして四月二四日にようやく、一般傍聴を認める「第四回 木曽川水系連絡導水路環境検討会」が開催された。
 「環境影響評価準備書に準じた評価・とりまとめを行う」とすれば、とても今年度中にそれが完了するとは考えられない。
 一 「環境影響評価準備書に準じた評価・とりまとめを行う」とは何を意味するのか。
  項目や予算もさることながら環境影響評価法に基づく「準備書」に至るには、方法書の公告・縦覧(住民意見、知事・市町村長意見の聴取)を経て環境影響評価を実施しなければならない。この一連の手続との関係(比較)を明らかにして説明されたい。
 二 生物多様性COP10名古屋開催が決まった。その足元で、環境への配慮に欠くような事業が強行されるとすれば国際的信用に関わる。十全な環境影響への配慮・取り組みがなされるべきである。
  五月二〇日の衆議院環境委員会で、田島一成委員の質問に、政府参考人から「(環境影響評価法で)義務づけされていないものにつきまして環境影響評価を排除するものではない」との認識が示された。これに対し田島委員は「自主的なものについてもこの環境影響評価は取り組みをしていくというふうに受けとめさせてもらいましたが、よろしいですね」と確認している。
  国交省自身が「複数の河川に係る延長約四四sという事業規模の大きさから、様々な環境影響要素が存在し、影響想定範囲も広範にわたる」と認識している木曽川水系連絡導水路事業こそ、調査項目や調査にかける費用だけではなく、諸手続(特に住民・知事・関係市町村長・環境大臣のチェックを受ける)において自主的に環境影響評価法並みの取り組みをするべきものと考えるがいかがか。
 三 「環境影響評価準備書に準じた評価・とりまとめを行う」前に水資源機構に事業承継させるとすれば、水資源機構事業における事業実施計画は、例えば特定多目的ダム法での基本計画とは全く異なるものということか。
  異なるとすれば、生物多様性COP10ホスト国として、国内的にも国際的にも歪んだ(辻褄の合わない)メッセージを発することになるが、このことをどのように考えるか、説明されたい。

 右質問する。



経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.