質問本文情報
平成二十年九月二十五日提出質問第二一号
土地区画整理問題に関する質問主意書
提出者 保坂展人
土地区画整理問題に関する質問主意書
第一六九国会質問第四五四号「土地区画整理問題に関する質問主意書」において、土地区画整理事業が引き起す問題や事業のあり方について、政府の見解を尋ねた。
前記質問主意書に対する政府答弁は甚だ不充分な点が多いので、土地区画整理事業に関する諸問題について、改めて政府の見解を問う。
答弁書「一について」において、「当該訴訟内容の公表については、地方公共団体において判断されるものと考えている。なお、土地区画整理事業について訴訟が提起されているものは、司法の場において判断がなされるものと考えている」としている。現在、全国で自治体が展開している土地区画整理事業は約一四〇〇件といわれ、その内、約九〇件において事業計画の取消し訴訟がおこなわれている。およそ七%に抗告訴訟が発生している実態を地方公共団体にのみ委ねて、政府として拱手傍観していてよいのだろうか。
この際、土地区画整理事業の事業計画認可取消し訴訟の事案全てを公表して、訴訟要因とその対応策を打ち出すべきではないか。去る九月十日最高裁判所大法廷において、浜松市遠州鉄道上島駅周辺土地区画整理事案に関する判決がなされ、土地区画整理事業の計画段階における訴訟が認められるという判例変更が裁判官全員一致でなされた。
従来「青写真判決」として司法判断で回避してきたが、かかる公共事業のトラブルを惹起させている行政府の責任を政府はどのように理解しているのか。改めて、政府の見解を問う。
二 第一六九国会質問第四五四号において、「土地区画整理事業による経済波及効果」について質問した。
答弁書「二について」において、「土地区画整理事業による経済波及効果は、事業により整備された宅地に建築物が建築されることによる建築投資等の投資額に着目した試算値であり、地価の上昇または下落により、その試算値が変動するものではない」とし、また、答弁書「二について」の説明において、「土地区画整理事業による乗数効果は、内閣府の経済社会総合研究所が示す短期日本経済マクロ計量モデルを使っており、仮説のもとに試算した経済波及効果が考えられる」としている。
学術論文ならいざ知らず、信頼性を担保できない仮説に基づく試算値を実務書である「土地区画整理必携」に掲載することによって、土地区画整理事業を過大評価する世論を誘導しようとする施策は改めるべきと考えるが、政府の見解を問う。
三 第一六九国会質問第四五四号において、土地区画整理事業の立案段階または、公共事業再評価段階における「費用対効果」について質問した。
答弁書「三について」の説明において、
@ 土地区画整理事業の費用便益分析マニュアル(案)
A 客観的評価指標(案)、費用便益分析マニュアル(案)及び土地区画整理事業の再評価に当たっての指標及び判断基準(案)について
B 費用便益分析マニュアル
を提示されたが、評価の指標及び判断基準に客観性を欠く。「費用対効果はあくまでも地方公共団体が評価することで、地方分権の時代の中で、国土交通省が押し付けるべきではない」「土地区画整理事業の費用対効果は、評価指標のひとつに過ぎない」としているが、評価の一貫性と客観的評価基準を公表し、国民に対する説明責任を果たすべきである。国土交通省としては費用対効果の実態的検証説明をすべきであり、地方公共団体が恣意的に運用できる判断基準としての費用便益分析マニュアルは妥当性を欠く。改めて、政府の見解を問う。
四 第一六九国会質問第四五四号において、埼玉県桶川市の組合施行下日出谷東特定土地区画整理事業における検討委員会の存在、ならびに、埼玉県飯能市岩沢北部・南部土地区画整理事業(地方公共団体施行)の見直しに関する有識者会議の存在を事例紹介した。
答弁書「四について」の説明で、「(検討委員会および有識者会議など)第三者機関の設置はその前段階の措置であり意見交換であって、法律に基づかない設置である。事業計画の変更は法律に基づいておこなっている」「柔らかい区画整理というのは従来の区画整理の考え方と異なる」としている。
埼玉県桶川市の場合、国土交通省都市地域整備局市街地整備課、埼玉県県土整備部(現在の都市整備部)市街地整備課区画整理担当、(社)全国土地区画整理組合連合会、(財)都市計画協会、(社)日本土地区画整理協会(現在の(社)街づくり区画整理協会)など計七機関が関与し、埼玉県飯能市の場合、埼玉県都市整備部市街地整備課区画整理担当や既存の土地区画整理審議会における学識経験委員を重複委任によって第三者機関を構成している。
国土交通省や埼玉県が地方公共団体に関与支配する政策手段は、法律に基づかない第三者機関として公共事業の公正を担保しているか疑義がある。国土交通省は地方分権を標榜しながら、実態は中央集権を踏襲しているではないか。政府の見解を問う。
五 第一六九国会質問第四五四号において、埼玉県桶川市の組合施行下日出谷東特定土地区画整理事業における検討委員会の会議録は保存していないことを指摘した。
しかるに、答弁書「五について」の説明において、「桶川市に聴取したところ、組合施行下日出谷東特定土地区画整理の事業見直しにおける検討委員会の議事録は保存している」「桶川市の事業は組合施行であり、桶川市は施行主体でも認可権者でもない。国は埼玉県を通じて、地権者に対してキチンと対応するよう指導はできないが、助言をさせていただきたい」としている。
当該検討委員会を主催し、(社)日本土地区画整理協会(現在の(社)街づくり区画整理協会)と見直し検討業務を委託契約したのは、他ならぬ桶川市自身である。その桶川市都市整備部区画整理課長が情報公開請求した県民に対して、当該検討委員会の議事録は保存していないと明言した。行政が公然とおこなう情報隠しについて、関連する上位官庁の見解を伺いたい。また、どのように指導改善するのか。
「国は桶川市に対して勧告し強権的に指導する立場にない」としながら、当該検討委員会に国土交通省都市地域整備局市街地整備課係長が参画している。振返って、旧建設省一九九九年(平成十一年)発行「公共事業の説明責任向上行動指針」は、公共事業のアカウンタビリティにおいて事業の透明性を謳っている。この理念を更に具体的に地方公共団体に徹底すべきである。改めて政府の見解を問う。
六 第一六九国会質問第四五四号において、埼玉県桶川市の組合施行下日出谷東特定土地区画整理事業見直し検討報告書は施行前後の宅地価格を操作することにより、土地区画整理事業の増進率を担保しようとしていると指摘した。
答弁書「六について」の説明において、「下日出谷東特定土地区画整理事業見直し検討報告書に記載されている内容は、複数の増進率の値による事業収支を試行的に検討したものであり、事業計画変更認可の際には、不動産鑑定評価に基づき施行前後の宅地価格を当該事業に定めた」としている。
しかしながら、当該検討報告書に記載された事業見直し方策の比較検討によると、施行前後の宅地価格を操作することにより土地区画整理事業の増進率を担保しようとしている。こうした操作は経過措置であり試行的検討にすぎないとしているが、詐欺的操作を国が容認している。これが発展して「柔らかい区画整理」を放任することは国の規範が信頼に値しないことになる。改めて、政府の見解を問う。
七 第一六九国会質問第四五四号において、「換地計画」と「仮換地指定」の法的位置づけについて質問した。
答弁書「七について」及びその説明において、「土地区画整理法第九十八条第一項においては施行者は換地処分をおこなう前において、土地の区画形質の変更もしくは、公共施設の新設、もしくは変更に係る工事のため必要がある場合または、換地計画に基づき換地処分をおこなうため必要がある場合においては、施行地区内の宅地について仮換地を指定することができる」「工事のために必要がある場合においては、換地計画に先立って仮換地を指定することができ、換地計画を当該地権者に周知した後、個別に仮換地指定をおこなうことが法律としての建前であるとは解さない」「土地区画整理事業の施行について、第一義的な責任を有する施行者は、工事のために必要がある場合には、換地計画に先立って仮換地を指定することができる」としている。
第一五四国会質問第一五八号設問八および第一五五国会質問第三四号設問六でも言及しているが、現実におこなわれている「仮換地指定」は無原則的に「換地計画」に先行しておこなわれる。いくら法律で建前を述べても、事業コンサルタントは「仮換地指定を先行する保証提示を何ら求められることがないので、換地計画に拘らない」としているのが現実である。
従って、仮換地指定が無原則的に換地計画に先行する現実に鑑み、法体系の順序性を遵守すべきである。改めて政府の見解を問う。
八 第一六九国会質問第四五四号において、土地区画整理審議委員の刑事罰について質問した。
「土地区画整理事業は「換地」ならびに「家屋の移転補償」等「個人情報」ばかりかもしれないが、国や地方自治体の公的補助を受けた事業が、秘密にすべき「個人情報」の対象であるべきだろうか。しかも、施行者は「個人情報」を理由として、土地区画整理審議委員に「守秘義務」や「刑事罰」を科そうとしているのかとの問いに対し、答弁書では本項に関して何ら言及していない。答弁書「八について」の説明において、「土地区画整理法においては、土地区画整理審議委員に対する刑事罰は規定していない」としているのみである。
かつて、旧建設省都市局区画整理課は一九七八年(昭和五十三年)三月、区画整理計画標準(案)追録二で「『まちづくり』をすすめるにあたり、地域住民との対応関係に関し配慮すべきことについて」を発行した。いわゆる住民参加に言及している。
三十年前には住民参加のあり方を模索したが、今や土地区画整理審議委員に刑事罰を科すことが公共事業の対象となってきた。住民対応が変わったのは何故か。
技術論として土地区画整理事業運用指針が流布されたが、土地区画整理事業の目的・理念が今や形骸化している。土地区画整理事業における個人情報保護の「過剰反応」というべき違法・不当な実態を再度訴える。改めて、政府の見解を問う。
九 一九九九年(平成十一年)土地区画整理法第八十七条二項の法律改正に言及し、それまで法定外とされた「供覧」に実定法上の根拠を与えたことについて、先の第一六九国会質問第四五四号で述べた。
答弁書「九について」において、「土地区画整理法第八十七条二項の規定は、土地区画整理事業と市街地再開発事業の一体的施行制度の創設のため法律に追加され、土地区画整理事業と市街地再開発事業の一体的施行を行う場合、仮換地が将来の換地と一致することが必要である場合に、清算金以外の事項を換地計画に定めることができる」としている。
問題は土地区画整理事業が単独で施行される場合に、土地区画整理法第八十七条二項が適用されないのかどうかである。
国土交通省も参加した研究会の成果品として、(社)街づくり区画整理協会が二〇〇六年(平成十八年)十二月に発行した「土地区画整理事業に関する情報の開示等検討会報告書」によると、区画整理単独事業においても土地区画整理法第八十七条二項を積極的に適応させることを示唆していると解釈できる。
「仮換地が将来の換地と一致することが必要である場合に」というが、通常、仮換地が換地に帰結するのは当然の前提ではないか。仮換地段階において、清算金以外の事項を換地計画として縦覧すれば、土地区画整理法は本来の法体系を維持できる。
法解釈が不明瞭な定義は土地区画整理事業に支障をきたす。
改めて、政府の見解を問う。
十 第一六九国会質問第四五四号において、土地区画整理事業における情報開示について質問した。
答弁書「八及び十について」において、「土地区画整理事業については、事業計画の段階から当該事業の段階に応じて、その内容は明らかにされており、また、利害関係者の意見が十分に反映される仕組みになっている」としている。
我々国民は、土地区画整理事業における情報開示を求めている。土地区画整理事業に必然的に伴う減歩、清算金、換地の位置・地積等、更には、移転補償や営業補償金までも公開して、開かれた事業にすべきである。
事業要素である減歩、清算金、換地は地権者同士の相互関係によって成り立つ。これらの事業要素の公開は土地区画整理事業の工事概成時(事業最終段階)でしかおこなわれないのが現状である。
何故、答弁書の見解と我々国民の認識とがこのように乖離しているのか。国は土地区画整理事業がどのように施行されているか真摯に実態把握すべきである。当該地権者や地域住民にとって、土地区画整理事業の必要情報が欠落しているので、抗告訴訟はもとより、土地区画整理事業に抵抗せざるをえない。
改めて、政府の見解を問う。
十一 先の第一六九国会質問第四五四号で次のとおり述べた。
埼玉県川越市高階(たかしな)土地区画整理事業では、都市計画決定で事業区域を指定し、その先の事業計画への進展もないまま四十年も放置された都市計画法第五十三条区域では、同法第五十四条の建築許可基準を大幅に超えた「違法な建築許可」が横行し、将来の土地区画整理事業実施に際する営業補償や減歩率等に支障をきたす建築の無法地帯となっている。
答弁書「十一について」において、「川越都市計画高階土地区画整理事業の施行区域内では、都市計画法第五十四条に規定する基準に基づき、同法第五十三条の規定に基づいて許可をおこなっている」としている。
答弁書は「川越市への聴取により、法律に違わぬ建築許可であると確認した」と判読できるが、全く受入れがたい。法律を携え現地確認もせず、地方自治体の回答を鵜呑みにする国家管理の杜撰さを強く指摘する。長期間の事業認可施行不履行は「行政の不作為」であり、地方自治体は延々と己の怠慢を続けることになる。
前述の土地区画整理事業における情報開示同様に、何故、答弁書の見解と我々国民の認識とがこのように乖離しているのか。国は土地区画整理事業がどのように施行されているか真摯に実態把握すべきである。改めて、政府の見解を問う。
右質問する。