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平成二十年十一月六日提出
質問第二〇五号

前航空幕僚長の「懸賞論文」についての麻生首相の認識に関する質問主意書

提出者  辻元清美




前航空幕僚長の「懸賞論文」についての麻生首相の認識に関する質問主意書


 田母神俊雄前航空幕僚長が民間の懸賞に応募して書いた「日本は侵略国家であったのか」と題する論文(以下「懸賞論文」)には、下記のような記述がある。
 (記述一)日本は一九世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。(中略)我が国は日清戦争、日露戦争などによって国際法上合法的に中国大陸に権益を得て、これを守るために条約等に基づいて軍を配置したのである。
 (記述二)我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者なのである。
 (記述三)一九二八年の張作霖列車爆破事件も関東軍の仕業であると長い間言われてきたが、近年ではソ連情報機関の資料が発掘され、少なくとも日本軍がやったとは断定できなくなった。(中略)最近ではコミンテルンの仕業という説が極めて有力になってきている。
 (記述四)我が国は他国との比較で言えば極めて穏健な植民地統治をしたのである。
 (記述五)実際には日本政府と日本軍の努力によって、現地の人々はそれまでの圧政から解放され、また生活水準も格段に向上したのである。
 (記述六)戦後マニラの軍事裁判で死刑になった朝鮮出身の洪思翊という陸軍中将がいる。(中略)もちろん創氏改名などしていない。
 (記述七)日本が中国大陸や朝鮮半島を侵略したために、遂に日米戦争に突入し三百万人もの犠牲者を出して敗戦を迎えることになった(中略)これも今では、日本を戦争に引きずり込むために、アメリカによって慎重に仕掛けられた罠であったことが判明している。実はアメリカもコミンテルンに動かされていた。
 (記述八)真珠湾攻撃に先立つ一ヶ月半も前から中国大陸においてアメリカは日本に対し、隠密に航空攻撃を開始していたのである。
 (記述九)日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行することになる。
 (記述一〇)日米戦争は避けることが出来たのだろうか。(中略)一時的に戦争を避けることが出来たとしても、当時の弱肉強食の国際情勢を考えれば、アメリカから第二、第三の要求が出てきたであろうことは容易に想像がつく。結果として現在に生きる私たちは白人国家の植民地である日本で生活していた可能性が大である。
 (記述一一)人類の歴史の中で支配、被支配の関係は戦争によってのみ解決されてきた。強者が自ら譲歩することなどあり得ない。戦わない者は支配されることに甘んじなければならない。
 (記述一二)大東亜戦争の後、多くのアジア、アフリカ諸国が白人国家の支配から解放されることになった。(中略)それは日露戦争、そして大東亜戦争を戦った日本の力によるものである。もし日本があの時大東亜戦争を戦わなければ、現在のような人種平等の世界が来るのがあと百年、二百年遅れていたかもしれない。
 (記述一三)東京裁判はあの戦争の責任を全て日本に押し付けようとしたものである。そしてそのマインドコントロールは戦後六三年を経てもなお日本人を惑わせている。
 (記述一四)自衛隊は領域の警備も出来ない、集団的自衛権も行使出来ない、武器の使用も極めて制約が多い、また攻撃的兵器の保有も禁止されている。(中略)このマインドコントロールから解放されない限り我が国を自らの力で守る体制がいつになっても完成しない。
 (記述一五)日本ではいま文化大革命が進行中なのではないか。
 (記述一六)タイで、ビルマで、インドで、シンガポールで、インドネシアで、大東亜戦争を戦った日本の評価は高いのだ。(中略)日本軍を直接見ていない人たちが日本軍の残虐行為を吹聴している場合が多いことも知っておかなければならない。
 (記述一七)我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である。
 当該論文が、防衛大学校を卒業し、自衛隊統合幕僚学校長を務めた現職の航空幕僚長が執筆したものであること、また同様の内容の論文が航空自衛隊幹部学校幹部会誌『鵬友』に数年前から繰り返し掲載されていたことを考えると、対外的な影響があまりに大きく、現行の自衛隊の教育内容についても至急検証すべきと考える。田母神前航空幕僚長を同職に任命したのは当時の安倍首相であるが、引き続き航空幕僚長の地位に留めた麻生首相の見解を明らかにしたい。
 従って、以下、質問する。

一 「懸賞論文」に対する麻生首相の認識について
 1 麻生首相は、(記述一)にあるように「日本は一九世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない」との認識を共有しているのか。そうであれば、「満州事変」について、関東軍の謀略ではないという認識か。またそれは、日本政府の見解か。
 2 麻生首相は、「日韓併合」について、一九一〇年の「韓国併合ニ関スル条約」の締結は合法と考えるか。それとも違法に結ばれた条約と考えるか。またそれは、日本政府の見解か。
 3 麻生首相は、「張作霖列車爆破事件」について、(記述三)にあるように、「少なくとも日本軍がやったとは断定できなくなった」との認識を共有しているのか。また、「コミンテルンの仕業」との認識を共有しているのか。またそれは、日本政府の見解か。
 4 麻生首相は、(記述四)にあるように、「我が国は他国との比較で言えば極めて穏健な植民地統治をした」との認識を共有しているのか。またそれは、日本政府の見解か。
 5 麻生首相は、(記述五)にあるように、「実際には日本政府と日本軍の努力によって、現地の人々はそれまでの圧政から解放され、また生活水準も格段に向上した」との認識を共有しているのか。そうであれば、具体的にどのように生活水準が向上したのか。またそれは、日本政府の見解か。
 6 麻生首相は、(記述六)にある「戦後マニラの軍事裁判で死刑になった朝鮮出身の洪思翊という陸軍中将」が、当時の多くの朝鮮人と違い、「創氏改名などしていない」理由は何と考えるか。またそれは、日本政府の見解か。
 7 麻生首相は、(記述七)にあるように、「今では、日本を戦争に引きずり込むために、アメリカによって慎重に仕掛けられた罠であったことが判明している」、「実はアメリカもコミンテルンに動かされていた」との認識を共有しているか。またそれは、日本政府の見解か。
 8 麻生首相は、(記述八)にあるように、「真珠湾攻撃に先立つ一ヶ月半も前から中国大陸においてアメリカは日本に対し、隠密に航空攻撃を開始していた」との認識を共有しているか。そうであれば、真珠湾攻撃より先に、アメリカが日本に対し攻撃を仕掛けていたとの認識を共有しているか。またそれは、日本政府の見解か。
 9 麻生首相は、(記述九)にあるように、「日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行することになる」との認識を共有しているのか。そうでなければ、日米開戦の責任はどちらにあったと考えているのか。またそれは、日本政府の見解か。
 10 麻生首相は、(記述一〇)にあるように、「アメリカから第二、第三の要求が出てきたであろう」から、「日米戦争は避けることが出来」ず、「結果として現在に生きる私たちは白人国家の植民地である日本で生活していた可能性が大である」との認識を共有しているのか。そうでなければ、どうすれば、「日米戦争は避けることが出来」たと考えるか。またそれは、日本政府の見解か。
 11 麻生首相は、(記述一二)にあるように、「多くのアジア、アフリカ諸国が白人国家の支配から解放され」たのは、「日露戦争、そして大東亜戦争を戦った日本の力によるものである。もし日本があの時大東亜戦争を戦わなければ、現在のような人種平等の世界が来るのがあと百年、二百年遅れていたかもしれない」との認識を共有しているのか。またそれは、日本政府の見解か。
 12 麻生首相は、(記述一三)にあるように、「東京裁判はあの戦争の責任を全て日本に押し付けようとしたものである。そしてそのマインドコントロールは戦後六三年を経てもなお日本人を惑わせている」との認識を共有しているのか。またそれは、日本政府の見解か。
 13 麻生首相は、(記述一六)にあるように、「タイで、ビルマで、インドで、シンガポールで、インドネシアで、大東亜戦争を戦った日本の評価は高い」との認識を共有しているのか。そうでなければ、どのような評価か。また、「日本軍を直接見ていない人たちが日本軍の残虐行為を吹聴している場合が多い」との認識を共有しているのか。またそれは、日本政府の見解か。
 14 麻生首相は、(記述一七)にあるように、「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」との認識を共有しているのか。そうでなければ、「日本は侵略国家であった」と認識するのか。またそれは、日本政府の見解か。
二 航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校の教育内容について
 1 麻生首相は、航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校において、現在、(記述一〜一七)と同様の認識に基づいた教育を行うべきと考えているか。
 2 航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校において、現在、(記述一〜一七)と同様の認識に基づいた教育が行われているか、日本政府は検証しているか。検証していなければ、至急検証すべきと考えるがいかがか。
 3 もしも現在、(記述一〜一七)と同様の認識に基づいた教育が行われているとすれば、至急是正すべきと考えるがいかがか。
 4 航空自衛隊幹部学校、自衛隊統合幕僚学校および防衛大学校では、かつて、(記述一〜一七)と同様の認識に基づいた教育を行ったことはあるか、日本政府は検証しているか。検証していなければ、至急検証すべきと考えるがいかがか。
 5 もしもかつて、(記述一〜一七)と同様の認識に基づいた教育が行われているとすれば、どのように対処すべきと考えるか。

 右質問する。



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