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平成二十二年六月十一日提出
質問第五六七号

二次感染問題を中心としたMMRワクチン薬害事件に関する質問主意書

提出者  阿部知子




二次感染問題を中心としたMMRワクチン薬害事件に関する質問主意書


 平成二十年六月十八日提出質問第五五七号及び同年十月二十三日提出質問第一五〇号「MMRワクチン薬害事件に関する質問主意書」において、統一株MMRワクチンによる二次感染問題、及び本件の真相解明と、より安全な予防接種体制の確立に関する質問を行ったところである。
 昭和二十三年に制定・施行された予防接種法のあゆみは、施行直後の京都・島根ジフテリア予防接種禍事件に始まり、すでに六十年を経過するが、その大がかりな法改正は、昭和五十一年および平成六年の改正であり、前者においては種痘被害の社会問題化と被害者の組織的な補償要求、後者は被害者が提起した訴訟における被告国の敗訴が大きな原動力の一つとなっていることは周知の事実である。
 世界に類例のない、罰金を課して接種を強制するが被害救済規定のない「強制・無補償」の制度下、ジフテリア事件被害児家族らの「補償法制定もしくは予防接種法廃止」の要求は、昭和四十五年の閣議了解による救済措置(旧制度)もしくは昭和五十一年の改正による救済の制度化(新制度)まで、おおむね三十年の間結果として放置された。また、被害の実態調査は、法制定以来半世紀の後、平成十年度厚生科学研究においてようやく実施、続いて平成二十年度において予防接種リサーチセンターが実施している。その意味で、予防接種法の六十年は、感染症の克服過程であることはいうまでもないが、裏返せば命と健康をふみにじられた被害児・家族の人権回復の「遅々とした」あゆみであったともいえよう。さらに副反応報告のシステムが基準・様式ともに明確にされたのは平成六年改正による。法施行前の平成六年九月までは、MMRのモニタリングとその他の認定被害を除き事故情報は集計されず、国として副反応のデータは持ち合わせていなかった。副反応データの収集システム構築が法制定四十六年後であった(MMR事件をふまえて)ことは、まさに日本のワクチン行政の遅れであり科学性の脆弱さといえる。
 巷間とりざたされる「副反応に過剰に反応する、特異な」国民性があるとすれば、それを生みだした一つの要因として、右のような歴史的な経緯がありはしまいか。加えて、戦後薬害第一号ジフテリア事件(昭和二十三年)と近年のMMRワクチン薬害事件(昭和六十三〜平成六年)も共に、国の責任に関していまだに被害者らが自ら検証を行っている状況にあり、ことの真相解明を曖昧にし、事実の風化を願うがごとき国のあり様が、特異な国民性の醸成に大きく関与してきたといえよう。ジフテリア事件について旧厚生省は京都府に指示をし、内容の評価は別問題であるが『京都ジフテリア豫防接種禍記録』(昭和二十五年三月、京都府衛生部)として事実経過を記録させ、また昭和三十三年、同省公衆衛生局が『防疫事例集 上・下』を刊行し、接種事故例を公表している事実はあるものの、予防接種史上最多の被害認定を行ったMMR事件の厚生労働省としての総括記録は一切なく、風化の一途をたどっている。
 昨年来予防接種法改正論議が進行するなか、過去の予防接種事件の検証や総括が確実になされ、その教訓が正しく継承されることや、軽んじてはならない副反応、健康被害とその救済の観点をふまえ、健全な法改正論議が展開されることを願うものである。
 ここでは、MMRワクチンの二次感染(家族内感染)を中心に、本事件の真相解明に係わって政府の見解を求めることとする。

一 平成二十年六月十八日提出質問第五五七号の質問一の(一)、(二)およびそれに対する答弁に係わる新たな情報を入手したので、左の各項について答弁されたい。
 (一) 平成三年に札幌市で発生した統一株MMRワクチンに由来する二次感染(家族内感染)について、一市民が平成十六年十一月十二日付で、当時の北海道立衛生研究所(以下、道衛研)健康科学部長矢野昭起氏(PCR法による鑑定結果を、平成五年四月十六日、日本感染症学会において道衛研の沢田春美氏が発表した際の共同発表者)に、鑑定結果の報告に関して質問したところ、同年十二月十七日付文書において次の通り回答があった。
 「北海道庁保健環境部保健予防課(現、保健福祉部疾病対策課)に対して次のとおり報告し、報告内容は保健予防課から厚生省に報告されたと承知しております。@患者の検体からムンプスウイルスが分離され、MMRワクチン製造に用いられていた占部株と遺伝子配列が一致することが明らかになった時点(検査開始から一ケ月以内であったと記憶しています。)で保健予防課に報告しております。A報告の内容は、抄録(平成五年四月十六日の日本感染症学会発表、引用者注)に記載しているウイルス検査の方法、検査結果、医師からの情報などでした。」
 また、本件について、健康局結核感染症課が平成二十年九月に北海道庁(以下、道庁)に調査を依頼(同年九月八日付事務連絡)し、道庁が結核感染症課へ回答している(同年九月二十四日付事務連絡)。その関係の道庁文書を入手したが、マスキングのため、道庁が矢野氏に聞き取りしたことを確認できなかった。右の矢野氏の回答に相当する内容も見当たらない。つまり道庁も厚生労働省も本件について調査を尽くしていないといえるので調査、答弁を求めるものであるがいかがか。
 (二) 前項、矢野氏の回答によれば、平成三年四月に札幌市で発生した統一株MMRワクチンによる二次感染の事実は、早ければ同年四月、遅くとも同年五月には旧厚生省に連絡されたことになる。また平成五年四月二十七日の公衆衛生審議会伝染病予防部会資料(十一ページの資料−四、MMRワクチンによって接触者に感染したと思われる事例について)によれば、旧厚生省が平成五年四月五日に二次感染症例について道庁に問い合わせたとあるが、前項で示した道庁の調査結果によると、当時の道庁内予防接種担当部署の職員は誰一人として、旧厚生省からの問い合わせに対応した記憶がある者はいなかったのである。以上、矢野氏の回答及び道庁の調査によれば、旧厚生省は二次感染が確認された直後に報告を受け、その事実を把握していたことになり、平成五年四月五日に道庁に問い合わせる必要もなかったし、あるいは問い合わせていないことすら推定される。道衛研のPCRの結果をどのような経路で、いつ知ったのか、正しい事実関係を解明して答弁せよ。また右に示した伝染病予防部会の議事録は存在するか。
二 平成五年四月二十七日の公衆衛生審議会伝染病予防部会資料十四ページ、資料−五「MMRワクチンについての当面の取扱いについて(意見)」によれば、平成三年四月、北海道で発生した二次感染については「国立予防衛生研究所におけるPCR検査によってワクチン由来株であることが遺伝子レベルで確認されている」と記されている。たしかに国立予防衛生研究所(以下、旧予研)ムンプス室長山田章雄氏も鑑定を行ったことが平成五年四月十六日の日本感染症学会で発表されているが、この検査の主体は道衛研であるから、そのように表記するということは、平成三年四月に旧予研でも鑑定が行われ、その結果はMMRワクチンの評価にとって重大な情報であり、即座に旧予研から旧厚生省に報告されていたからだと考えられる。旧厚生省は本件情報をいつ予研から入手したのか。
三 平成元年十二月十八日の中央薬事審議会生物学的製剤調査会資料によると、旧厚生省事務方には、MMRワクチンの医薬品としての有用性は「有用性を認めうる限界近くに位置」(傍点は引用者)しているという認識があった(同日付薬務局生物製剤課資料「MMRワクチン・おたふくかぜワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生」三ページ)。それより先、同年九月十一日の同調査会審議概要のなかに「ワクチンとしての有用性に疑いはない」、髄膜炎の発生率等を関係者に知らせるために「緊急安全性情報とする必要はない」などとあることについて左に質問する。
 (一) 右の記述は、同年九月から十二月にかけて旧厚生省事務方、あるいは一部の委員には、@髄膜炎の発生状況がワクチンの有用性を疑うほど深刻だという認識、Aまたその情報提供に緊急性があるという認識があったことを強く伺わせるものである。それぞれの議事録により@、Aの認識の有無を示されたい。
 (二) 同年十二月段階で「有用性を認めうる限界近くに位置」であり、その後、調査のたびに上方修正された髄膜炎発生率であったことからして、平成五年四月二十七日の「当面接種見合わせ」の判断理由(公衆衛生審議会伝染病予防部会資料十四ページの資料−五、MMRワクチンについての当面の取扱いについて(意見))としては、髄膜炎発生率よりは、二次感染の事実のほうが接種見合わせの理由として重要視されたと判断されるがいかがか。当日の議事録または前日の同部会予防接種委員会の議事録の記載を確認の上答弁されたい。
四 その他MMRワクチン薬害事件の検証の一助となることを期待し、左の通り、質問する。
 昭和六十三年九月に統一株・自社株が共に承認され、同年十二月に定期接種への導入が決定され、導入から「当面接種見合わせ」の決定前後までの全過程において、MMRワクチン関連で開催された中央薬事審議会、公衆衛生審議会等各種審議会の記録で、左の各項について検討がなされたことを確認できるか否かを答弁されたい。確認できるならば、いかなる検討がなされたかも答弁されたい。
 (一) 平成十七年三月の独立行政法人医薬品医療機器総合機構の調査(平成十七年三月提供)によると、MMRワクチンが承認された昭和六十三年九月以前に、おたふくかぜワクチン任意接種後の無菌性髄膜炎、てんかんなどの発症で、医療費・医療手当・障害児養育年金等、五件の支給決定がなされていた。その事例の中には、自然感染でまれに起こり得るとされていた発達障害を伴った被害も含まれていたこと。
 (二) 平成元年三月の予防接種研究班総会において予研ムンプス室長山田章雄氏らがPCR法を応用して、おたふくかぜ・MMRワクチン接種後髄膜炎患者から分離されたムンプスウイルス株の鑑別法が完成したことを発表している(山田章雄氏ら「Polymerase Chain Reactionを用いたムンプスウイルス株の鑑別」平成三年三月、予防接種研究班報告書「予防接種の効果と副反応の追跡調査及び今後の予防接種方式の策定に関する研究」厚生省予防接種研究班・予防接種リサーチセンター、二十六ページ)のであり、予研の研究者は、MMRワクチン接種後にワクチン由来の髄膜炎が発生することを想定し、信憑性に疑問があったプラークサイズ法にかわる株鑑別法としてPCR法を応用する必要があるという認識をもって、MMRワクチンの承認審査過程であった昭和六十三年、予研においては、おたふくかぜワクチン接種後に無菌性髄膜炎等を発症した患者から分離されたムンプスウイルスの株鑑定法としてPCR法が開発過程にあったこと。
 (三) Canada Disease Weekly Report(vol.13-35,1987.9.5、vol.14-46,1988.11.19、vol.16-50,1990.12.15の各誌)に掲載された左の文献にある、カナダにおける日本製ウラベ株ワクチンを含むMMRワクチンの髄膜炎と対応に関する情報。
  Furesz J, Hockin JC. A Case Of Mumps Meningitis:A Post-Immunization Complication?
  Hockin JC, Furesz J. Mumps meningitis. Possibly vaccine-related. Ontario
  J Furesz, G Contreras: Vaccine-Related Mumps Meningitis-Canada
 (四) 昭和六十年十一月から一年間に実施された阪大微研会自社株MMRの臨床試験において、二例の髄膜炎が報告され、その研究者グループには「ワクチンによる髄膜炎の発症はウイルス分離株で証明されたものはないが、今後MMRワクチンやおたふくかぜワクチンの普及に際しては、接種前に十分な問診を行ったり、ウイルス学的な検索を行っていくなどの配慮が望まれる。」という認識があったこと(後に発表される、薮内百治氏ら三十六人による「麻疹・おたふくかぜ・風しん三種混合(MMR)生ワクチン(阪大微研独自株)の臨床試験成績」臨床とウイルス、第十七巻二号、平成元年六月刊だが、そのデータは審査資料として審議会にあがっていたはずである)。
 (五) 前項(四)の二例について、(二)の山田氏らがPCR法開発過程においてワクチン株と同定したこと(山田章雄氏ら「Polymerase Chain Reactionを用いたムンプスウイルス株の鑑別」平成三年三月、予防接種研究班報告書「予防接種の効果と副反応の追跡調査及び今後の予防接種方式の策定に関する研究」厚生省予防接種研究班・予防接種リサーチセンター、二十六ページ)。
五 次の薬害事件について、厚生労働省・法務省他に概ねどれほどの関係文書が現存するか、省庁別に示されたい。少なくとも各省庁の「行政ファイル管理簿」で検索されるものは必ず答弁されたい。答弁は、簿冊が何冊など簡潔でよい。
 (一) ジフテリア予防接種事件
 (二) サリドマイド事件
 (三) スモン事件
 (四) クロロキン事件
 (五) コラルジル事件
 (六) 筋短縮症事件
 (七) エイズ事件
 (八) MMR事件
 (九) ソリブジン事件
 (十) ヤコブ病事件
 (十一) イレッサ事件
 (十二) C型肝炎事件
六 薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会の「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」(平成二十二年四月二十八日)において、薬害研究資料館の設立(提言、第四の項、(1)のC)が明記されたことから、前項五の文書については、その廃棄を当面、凍結し、薬害事件について省庁内外において後世に伝えるとともに、研究上活用されるに必要な措置を講ずべきと考えるが政府見解はいかがか。

 右質問する。



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