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平成二十三年十一月十七日提出
質問第五六号

八ッ場ダムの費用対効果に関する質問主意書

提出者  塩川鉄也




八ッ場ダムの費用対効果に関する質問主意書


 国土交通省関東地方整備局が十月六日に明らかにした「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」の第五章で「費用対効果の検討」の結果が示されている。それによれば、八ッ場ダム事業の費用対効果は約六・三となっている。
 一方、平成二十一年二月二十四日の関東地方整備局事業評価監視委員会で八ッ場ダム事業の再評価として示された費用対効果は三・四であり、さらに平成十九年十二月二十一日の同委員会で八ッ場ダム事業の再評価として示された費用対効果は二・九であった。費用対効果を計算するごとに計算値が変動しており、その値の信頼性に疑問を持たざるを得ない。そして、そもそも費用対効果の計算がどこまで現実に立脚したものなのか、算出方法そのものに疑問の点が多い。
 したがって、次の事項について質問する。

一 八ッ場ダムの洪水調節便益の計算について
 1 洪水被害発生額について
  ア 洪水調節に係る便益は約二兆一九二五億円となっている。情報公開請求により開示された「費用便益比算定資料」(平成二十三年十月、関東地方整備局)によれば、一年に一回の洪水から二〇〇年に一回までの洪水も想定すると、八ッ場ダムがあると、利根川流域において年平均で毎年一三四三億円の洪水被害が軽減されることになっており、この軽減額から右記の便益の金額が求められている。しかし、年平均で一三四三億円の洪水被害軽減額はきわめて大きな金額である。実際に起こる可能性がある一年に一回の洪水から五十年に一回までの洪水を想定しても、洪水被害軽減額は年平均で毎年六八九億円にもなっている。八ッ場ダムがあるかないかによって、毎年これほど大きな洪水被害軽減額が発生するのであろうか。そのように大きな洪水被害軽減額が実際に発生する可能性があるかどうかを明らかにされたい。
  イ 八ッ場ダムによる右記の洪水被害軽減額は、八ッ場ダムがない場合の洪水被害発生額と八ッ場ダムがある場合の洪水被害発生額の差から求めたものである。実際に起こる可能性がある一年に一回の洪水から五十年に一回までの洪水を想定した場合、右記の計算において八ッ場ダムがない場合の年平均の洪水被害発生額はいくらになっているのか。その金額を明らかにされたい。
  ウ 「費用便益比算定資料」の数字を使って、関東地方整備局と同様の計算手法により、八ッ場ダムがない場合において一年に一回の洪水から五十年に一回までの洪水を想定した洪水被害発生額の年平均値を求めると、六七八八億円になる。八ッ場ダムがない場合は現状を表しているが、現状において関東地方整備局の計算では利根川流域において六七八八億円の洪水被害が毎年発生していることになる。このように巨額の洪水被害が利根川流域で毎年発生するというのはあまりにも現実と遊離した想定計算である。利根川流域で毎年六七八八億円の洪水被害が発生する可能性があるかどうかを明らかにされたい。
  エ 国土交通省の「水害統計調査」により、毎年の各流域の洪水被害発生額の調査が行われている。「水害統計」は昭和三十六年から平成二十一年までの四十九年間の調査結果がある。「水害統計」によれば、利根川流域の洪水被害発生額がこの四十九年間の累積で何億円になっているのか明らかにされたい。
  オ 「水害統計」の数字を拾うと、昭和三十六年から平成二十一年までの利根川流域の洪水被害額は累計で八五四八億円になる。年平均で一七四億円である。これは過去の発生金額をそのまま累計したものであるので、「治水経済調査マニュアル(案)の各種資産評価単価及びデフレーター」(平成二十三年二月改正)により、毎年の被害額を平成十七年価格に補正して累計すると、八七五四億円で、年平均で一七九億円となる。これが過去四十九年間、約五十年間に実際に発生した洪水被害額の年平均値である。ところが、今回の八ッ場ダムの便益計算による洪水被害発生額は、一年に一回の洪水から五十年に一回の洪水までを想定すると、年平均で六七八八億円となっている。実際の被害発生額の三十八倍にもなっている。以上のように八ッ場ダムの洪水便益は実際の洪水被害発生額とかけ離れた架空の数字から求められており、八ッ場ダムの費用対効果の値は現実性がまったくないものと考えざるを得ない。このことについて政府の見解を示されたい。
 2 洪水被害額の算出方法について
  ア 国交省のダム事業における費用対効果分析については、すでに会計検査院から次のような指摘を受けている。「年平均被害軽減期待額の算定の基礎となる生起確率が高い降雨に伴う想定被害額については、過去における実際の水害の被害額を上回っているものが多く見受けられた。(中略)上記の状況を踏まえ、年平均被害軽減期待額の便益の算定方法をより合理的なものとするよう検討する必要があると認められる。」(会計検査院の意見「ダム事業における費用対効果分析の算定方法」、平成二十二年十月)。
  この指摘を真摯に踏まえ、洪水被害額の算定方法を合理的なものに改めていれば、今回の八ッ場ダムの便益計算のように実際の被害額の三十八倍にもなる被害額が算出されることはなかったはずである。国土交通省がこの会計検査院の指摘をどのように受け止め、どのような措置を講じられたのかを明らかにされたい。
  イ 洪水調節便益の計算において洪水発生被害額の実績と大きく乖離した被害額が計算される理由はいくつかあるが、その理由の一つは、実際に起こる可能性が小さい上流と下流の同時氾濫が想定されていることである。一般に上流部で破堤・氾濫が生じれば、その分、河川の洪水流量は低減するから、下流部の氾濫の危険性は小さくなる。ところが、洪水調節便益の計算では、利根川の八斗島下流域を十二ブロックに分け、上流部から下流部までの各ブロックは、より上流部のブロックにおける氾濫の状況とは無関係に、破堤の有無が検討され、同時多発的に氾濫することになっている。今回の便益計算では五年に一回の洪水でも二〜三ブロック、十年に一回の洪水で三〜四ブロック、三十年に一回の洪水では五〜八ブロックで破堤することになっている。実際に利根川本川では昭和二十四年のキティ台風のあと、六十年間、氾濫らしい氾濫が起きたことはないとされている。最近六十年間に利根川本川の八斗島地点下流部(江戸川を含む)で破堤したところがもしあれば、破堤の年月日と場所を明らかにされたい。
  ウ 上流と下流の同時氾濫を想定していることのおかしさは、国土交通省の「治水経済調査マニュアル(案)」(平成十七年度)でも次のように記述されていることである。「各氾濫ブロックでは氾濫が同時生起することはなく、各氾濫ブロック毎の便益の単純な総和ではなく、重み付け等を行うべきとの意見があるが、自然現象を相手にしていることから破堤の確率を特定することは困難であること(なお、この点については、今後さらに検討する必要がある)。」このように検討の必要性が記述されているにもかかわらず、その後、何も改善もされていない。平成十七年度に「治水経済調査マニュアル(案)」を作成した後、このことについてどのような検討を行ったのか明らかにされたい。
  エ イで示した通り、「費用便益比算定資料」(平成二十三年十月、関東地方整備局)では、五年に一回レベルの洪水でも、二〜三ブロックの洪水被害が生じると想定している。このことは、利根川は五年に一回レベルの小さな洪水にも耐えられないという算定を意味すると考えられる。現在、利根川ではどの程度の治水安全度が確保されているのかを明らかにされたい。
 3 従来の洪水調節便益計算値との差異について
  ア 平成二十一年二月二十四日の関東地方整備局事業評価監視委員会で八ッ場ダム事業の再評価として示された費用対効果は三・四であり、さらに平成十九年十二月二十一日の同委員会で八ッ場ダム事業の再評価として示された費用対効果は二・九であった。これらの費用対効果の計算において八ッ場ダムの洪水調節便益(現在価値化した値)は何億円と求められていたのか、その数字を明らかにされたい。
  イ 今回の費用対効果の計算では、洪水調節に係る便益は、約二兆一九二五億円(現在価値化した値)であり、平成十九年十二月と平成二十一年二月の費用対効果における洪水調節便益の計算値よりかなり大きくなっていると推測される。そのように従来の洪水調節便益の計算結果と大きな差が生じた理由を具体的に明らかにされたい。
  ウ 今回の洪水調節便益の計算では、計画高水流量毎秒一六五〇〇m3以下の洪水による氾濫被害想定額も含めるようにしたと記されている。従来の洪水調節便益計算では計画高水流量毎秒一六五〇〇m3以下の洪水による氾濫被害想定額をなぜ除外していたのか、その理由及び今回の便益計算ではそれを含めた理由を明らかにされたい。
  エ 今回の洪水調節便益の計算において、従来の洪水調節便益計算と同様に、計画高水流量毎秒一六五〇〇m3以下の洪水の氾濫被害想定額を除くと、洪水調節に係る便益(現在価値化した値)が何億円になるのかを明らかにされたい。
  オ 今回の洪水調節便益計算では、計画高水流量以下の洪水による氾濫被害想定額もすべて含められている。そのことは八ッ場ダムが完成するまでは、いっさい現況の堤防が強化・拡幅されないことを意味すると考えられるが、そのことについて政府の見解を示されたい。
  カ 平成十九年十二月及び平成二十一年二月の費用対効果における洪水調節便益の計算で、計画高水流量毎秒一六五〇〇m3以下の洪水による氾濫被害想定額も含めると、八ッ場ダムの洪水調節便益(現在価値化した値)は何億円になるのか、その数字を明らかにされたい。
二 流水の正常な機能の維持の便益計算について
 1 便益の算出方法について
  ア 「流域の正常な機能の維持」の便益は、仮想的市場評価法という方法で、「現状では、吾妻峡における流量が毎秒二・四m3以下となる日数が、一年に概ね一〇〇日程度あって岩の露出が増え、渓谷らしい水の流れが見られなくなる。年間を通じ川の流量が毎秒二・四m3以上とするために、あなたはいくら負担するか。」というアンケート調査から求められている。しかし、吾妻渓谷に八ッ場ダムが建設されれば、渓谷の上流部は水没し、渓谷の前面に大きなダムが聳え立って渓谷の視野が遮られてしまう。さらに、残る渓谷の中下流部も八ッ場ダムで洪水調節を行うようになると、下久保ダム直下にある三波石峡のように洪水が渓谷の岩肌を洗うことがなくなり、岩肌に草木やコケが生えて景観がひどく悪化することは確実である。八ッ場ダムの建設が吾妻渓谷に大きなダメージを与えることが確実に予想されるにもかかわらず、アンケートではそのことに一切触れていない。アンケートで八ッ場ダムが吾妻渓谷に与えるマイナスの影響に一切触れなかった理由を明らかにされたい。
  イ このアンケートの集計結果を見ると、郵送で一五〇〇票送って回収したのは六四八票で、その内訳は有効回答が二八〇票、抵抗・無効回答が三二二票、未回答が四六票であった。抵抗・無効回答が回収票の過半数を占めている。このうち、抵抗回答というのは、ダム事業に反対、アンケートに反対といった理由で、支払い意思額をゼロとしているものである。ところが、便益計算では、抵抗回答を除き、有効回答二八〇票のみを分析対象とし、それから一六三二円の支払い意思額を算出し、これに五十二q圏内の五十二万世帯を掛け合わせ、八億五千万円の年間便益を算出している。便益計算で抵抗回答も含めて計算しなかった理由を明らかにされたい。
  ウ この計算では、支払い意思額ゼロと回答した抵抗回答も一六三二円の支払い意思額を有するかのような便益算定方法になっており、便益がひどく過大に計算されている。このように支払い意思額を膨らませる操作はあってはならないことである。このことに関して政府の見解を示されたい。
  エ 抵抗回答も分析対象に含めて、支払い意思額を計算すると一世帯あたりいくらになるのか、その計算結果を示されたい。
  オ このアンケートの内容・集計方法は、支払い意思額がゼロの回答を巧妙に排除するようにできている。抵抗回答として除去された回答の内容をすべて明らかにされたい。
 2 便益を算出することの当否について
  ア 流水の正常な機能の維持に関する便益には基本的な問題がある。現在の吾妻渓谷の減水状態は、二〇一二年度以降は解消される。二〇一一年度末に東京電力鰹シ谷発電所の水利権は更新を迎え、更新後は発電用水利権の「ガイドライン」(「発電水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」建設省河川局)により、河川維持流量の放流が義務付けられる。それにより、現在の吾妻渓谷の減水状態が解消されるので、八ッ場ダムの目的「流水の正常な機能の維持」そのものが喪失する。したがって、その便益はもともと存在しないものなのである。このことに関して政府の見解を示されたい。

 右質問する。



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