質問本文情報
平成二十八年一月二十日提出質問第七〇号
大学等における英語授業の外部化に関する質問主意書
大学等における英語授業の外部化に関する質問主意書
大学等の公教育の現場では、学校と請負事業主(以下「業者」という。)との請負契約により、業者が派遣する英語を母国語とする者を補助者として英語授業を行う例がみられるようになっている。
小学校、中学校、高等学校、盲・聾・養護学校、幼稚園の公教育では、教員は学校種ごと(中学校・高等学校は教科ごと)の都道府県教育委員会から交付される教員免許状が必要であって、教員免許状を持たない業者が派遣する外国人が英語の授業を行うことは、学校教育法に違反する。よって、文部科学省は、小中高等学校における外国語指導助手(Assistant Language Teacher 以下「ALT」という。)は、「現場の英語教員による授業の前後や授業中において授業の内容・進め方についての具体的な指示、業務の遂行に関する改善の要求等を受けてティーム・ティーチング」を行い、「担当教員の指導のもと、担当教員が行う授業に係る補助をする」ことを通知している(「外国語指導助手の請負契約による活用について(通知)」二一初国教第六五号平成二十一年八月二十八日付 文部科学省初等中等教育局国際教育課長中井一浩より各都道府県・指定都市教育委員会主管部長宛通知。以下「平成二十一年外国語指導助手通知」という。)。
同様に、学校教育法の大学についても、学校法人等との雇用関係にあり、学長の権限と責任の下におかれる教授、准教授等の専任教員や非常勤講師によって、教育課程の編成や日々の授業が行われなければならない。しかし、文部科学省の見解である「大振−八」平成十七年度学校法人の運営等に関する協議会配付資料(大学振興課の資料八)は、「学校教育法の規定上、大学の教学面の権限と責任は学長に委ねられていることから、日々の授業の実施についても、教育課程の編成等と同じく、学長の権限と責任の下で展開されることが必要」としか書かれておらず、いくつかの大学では、小中高等学校で行われているような、大学の担当教員による授業の前後や授業中において授業の内容・進め方についての具体的な指示、業務の遂行に関する改善の要求等を受けないまま、大学と業者との請負契約により、業者が派遣する英語を母国語とする者が英語の授業を行っている例がみられる。
よって、以下質問する。
小中高等学校の英語の補助教員の活用については、平成二十一年外国語指導助手通知が発出されているが、平成二十七年九月十日付の関東弁護士会連合会の「児童・生徒のより良い英語教育を受ける権利の実現を担うALTの労働実態の是正を求める意見書」では、依然として是正されていない現状が指摘されている。公教育の現場が違法行為を行っていては、児童・生徒に対する順法精神も養われない。
よって、「平成二十一年外国語指導助手通知」の発出後、教育現場における派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)違反の実態がどの程度改善されているのか、同通知の徹底の状況について、政府にうかがいたい。
二 大学における英語授業の単位認定について
大学の英語教育において、形の上では大学の専任教員が英語の授業を受け持ち、シラバスを作成し、授業を行い、単位を付与しているが、実際には、当該教員は授業を行っておらず、大学と業者との請負契約により、大学の非常勤講師でもない業者から派遣された外国人が英語の授業を行い、英語の単位付与が行われている例がみられる。
具体な事例を挙げる。平成二十七年四月に開設されたA大学B学部では、履修ガイドで、「アカデミック・イングリッシュ(スピーキング&リスニングT)」三単位及び「アカデミック・イングリッシュ(スピーキング&リスニングU)」三単位並びに「アカデミック・イングリッシュ(リーディング&ライティングT)」三単位及び「アカデミック・イングリッシュ(リーディング&ライティングU)」三単位の合計十二単位を、第一年次に必修科目として履修することになっている。A大学B学部の講義一覧によれば、この授業は、専任のY准教授が一人で行う週三回授業を行うペア科目である。
Y准教授の「講義内容」(シラバス)によれば、学生は少人数クラスで英語を母国語とする指導員(インストラクター)と学ぶ(Students will take both courses with the same native English instructor in a small class.)となっている。少人数授業であるため、「アカデミック・イングリッシュ(リーディング&ライティング)」は、ペアとなる月曜二限・木曜三限・金曜四限の授業を五つの教室で、及び月曜五限・水曜五限・金曜二限の授業を五つの教室、計十教室においてT(前期)とU(後期)を開講しており、Y准教授は、一週間に三十教室で授業を行う。「アカデミック・イングリッシュ(スピーキング&リスニング)」も同様で、ペアとなる月曜四限・火曜五限・木曜一限の授業を五つの教室で、及び火曜三限・水曜二限・金曜五限の授業を五つの教室、計十教室でT(前期)とU(後期)を開講しており、一週間に三十教室で授業を行う。合わせると、Y准教授は、前期・後期とも「アカデミック・イングリッシュ」を一週間に六十教室で教えている計算になる。
Y准教授の体は一つしかなく同時に五つの教室で授業を行うことは不可能であり、かつ、月曜日から土曜日まで毎日一時限から六時限まで授業を行ったとしても三十六回しかできず、一週間に六十近い教室で教壇に立つ講義内容を作成することが常軌を逸している。A大学B学部における「アカデミック・イングリッシュ」の授業は、実際には、大学との請負契約により業者から派遣された、講義内容では「指導員(インストラクター)」とされている外国人が行っており、かつ小中高等学校におけるALTの場合と異なり、Y准教授と派遣された外国人との間には、授業の前後や授業中において授業の内容・進め方についての具体的な指示、業務の遂行に関する改善の要求等を受けての意思疎通はない。
よって、このように、大学が学生に示した英語授業の担当教員が授業の現場に存在することが不可能なカリキュラムが組まれており、実際にも担当教員が教壇に立って授業を行っていない場合、学長の指揮監督の下に、担当教員がカリキュラムを作成し、授業を行い、学生の成績を評価しているとは言えず、大学が単位を付与することはできないと考えるが、政府の見解をうかがいたい。
三 請負契約による大学の英語の授業の外部化について
大学の担当教員が英語の授業を行わず、請負契約により業者が授業を行うことにより大学の単位を付与することができるとすれば、この方式が他の領域にも拡大し、大学での教育は受託企業の集合体となって公教育が崩壊する。
大学の教育現場では、業者から派遣された外国人が担当教員の助手として補助的な仕事をしている状況にはなく、英語の請負契約によって、大学が学校教育法に違反して学生に単位を付与しているか、または、業者が派遣法に違反して外国人を大学に派遣しているかのどちらかになっている。
文部科学省が明らかにした「大振−八」では、「学校が責任をもって教育を実施するには、実際に教育にあたる教員について、人事権、懲戒・分限権、指揮・監督権を学校が有することが必要であり、そのためには、教員は当該学校に直接に雇用される者であることが一般的である。」、「一般的には、請負契約による講師は、学長の権限と責任の下において、自ら授業を行うことが困難であり、その役割は、授業を行う教員を補助する業務に限定される可能性が高い。」と書かれているが、「平成二十一年外国語指導助手通知」のように、限定される「授業を行う教員を補助する業務」が明確に書かれておらず、及び「請負契約による講師」が授業を行う場合には派遣法違反となることが明確にされていない。
大学自らが教育の現場における違法行為を行っていては、学生に対する不正行為への防止への呼びかけも意味を持たないばかりでなく、順法精神も養われない。
よって、(1)全国の大学の各学部における英語授業の外部化の実態を調査することを求めるとともに、(2)「平成二十一年外国語指導助手通知」の例に倣って、補助的役割を果たす講師は大学の担当教員による授業の前後や授業中において授業の内容・進め方についての具体的な指示、業務の遂行に関する改善の要求等を受けるべきこと、及びこれらを請負契約で行うことは派遣法違反であることを明記した大学の英語の外部化に関する通知を発出するべきであると考えるが、政府の見解をうかがいたい。
四 学部の設置に際して提出される書類の扱いについて
平成二十七年四月に開設されたA大学B学部の第一年次の「アカデミック・イングリッシュ」は、学部設置に当たって文部科学省に提出された「教員人事」名簿では、「兼任」の「講師」である調書番号二十九番、三十八番及び三十九番の外国人がスピーキング&リスニングT及びUを担当し、また、三十四番及び四十番の外国人がリーディング&ライティングT及びUを担当することになっている。
ところが、文部科学省により学部設置届出が受理され、定員増が認可されて、B学部が開設されるや、A大学B学部ではY准教授を第一年次の「アカデミック・イングリッシュ」の授業すべてを行う担当教員としている。A大学では、B学部設置の手続きの段階から、同学部の英語授業については外部委託をすることが既定方針となっており、当初から文部科学省に提出された「教員人事」に掲載された「兼任」の「講師」という資格を有した者による授業は予定されていなかったようであるが、そうであれば、A学校法人によって文部科学省に提出された添付書類は虚偽の内容を記載した書類であったことにもなる。
よって、このように「大学の学部等の設置届出に係る申請書類」の記載内容と設置後の実態とが異なる場合の措置、及び、それが届出者により当初から予定されており意図的に申請書類の記載内容に虚偽の記載をした疑いがある場合の措置について、政府の見解をうかがいたい。
右質問する。