衆議院

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平成二十八年五月十三日提出
質問第二七五号

「児童虐待防止」政策における政府の見解及び認識等に関する質問主意書

提出者  鈴木貴子




「児童虐待防止」政策における政府の見解及び認識等に関する質問主意書


 平成十二年に「児童虐待の防止等に関する法律」(以下、「児虐法」という。)が制定された。しかし、刑法犯罪となる虐待事案は、本年一月に埼玉県狭山市で起こった、女児が母親らから虐待を受けて死亡した事件をはじめ、メディアでしばしば報道される状況で、一向になくならないのが現状である。その一方で、軽微な傷や痣、あるいは学校や病院の通告に基づき児童が続々と実の親から児童相談所(以下、「児相」という。)へと保護され、その結果家族が長期にわたり離れてしまう問題が各地で生じている現状が存在するとの声がある。児相内に設置された「一時保護所」においては、児相職員が暴行・猥褻行為などを児童に加えたりするなど、いくつもの児相内虐待事案が最近明るみに出されてきている。
 また、我が国の児相による人権侵害について国際連合「児童の権利委員会」の関心を呼ぶところとなっており、一部について既に我が国に対し是正勧告が発出されている。
 以下、質問する。

一 衆議院「青少年問題に関する特別委員会」(以下、「特別委員会」という。)の平成十一年十二月十日付決議においては、平成六年に我が国が批准した国連児童権利条約(以下、「子どもの権利条約」という。)を、児童虐待問題を扱う法的根拠としている。成立した児虐法及び現実の児相の児童虐待防止行政は、国連や国際人権団体等から、子どもの権利条約等の違反について指摘を受けているか。また指摘を受けているのであれば、指摘内容を踏まえ、政府として、児虐法、関連する児童福祉法、ならびに厚労省が発出した通知・ガイドライン・手引きの類のすべてについて、子どもの権利条約等国連の定めた条約・宣言・見解等との整合性を精査し、我が国の国内法条文や通知等の記述を見直す考えはあるか。
二 平成十一年七月二十九日、特別委員会において当時の宮下厚生大臣は、「児童虐待の実態は…犯罪的行為に準ずるもの」で、殺人罪との「境界領域にある」とする旨を述べており、その防止への法的措置を講ずべきことを立法府に対し求め、国会はこれを受けて児虐法を可決、成立した。しかし、児相は、「殺人罪との境界領域」から遠く離れた傷や痣一つの事案で、十分な証拠も確認なさないまま、多数の児童を保護等している現状が存在し、児虐法による児童の保護の適用対象を、厚生大臣が国会審議で述べたとおり、殺人罪との境界領域にある事案を明示的に限定する必要があるとの意見も聞かれるが、政府の見解如何。
三 児相に保護された児童に対し職員が行う施設内虐待や猥褻行為が、近年数多く報道により明るみに出されている。児相保護所内虐待・猥褻行為と、管内において刑法犯罪となる虐待事案が起こった児相について、その児相長がどのように懲戒処分を受けたか、平成二十七年度に発生したすべての事案を列挙して明らかにされたい。また、これらのことを防止するためには、まず実態を国民全員に対し広く情報公開することが必要であり、児相管理職の職務懈怠や、保護所内虐待ならびに猥褻行為等を発見した児相職員がこれを内部告発した場合には、無条件でこの職員が公益通報者保護法の対象者となる必要があるとの意見も聞かれるが、政府の見解如何。
四 厚生労働省の指針では、児相が児童の「一時保護」を行うについては、原則として親子の同意を必要とすることとしているか。また、例外的にその同意を必要としない場合は、どのような要件の下で認められるとするのか、明らかにされたい。
五 緊急性があり、一時保護が短期であることを例外適用の要件とするのであれば、一時保護が長期化している現状は、例外的に同意を必要としない要件を満たしておらず、違法な児童の保護となっているか。
六 児相による恣意的な児童保護と長期にわたる保護を防ぐため、「一時保護」の期間に関する児童福祉法と児虐法の規定は、現行の警察官職務執行法第三条と同等の手続要件と期間の長さに改正して大幅に短縮し、延長は認めないことが必要であり、極めて例外的な場合に延長を認めるとしても、延長が必要な要件を厳格化して、裁判所の許可を必要とする制度にすべきとの意見も聞かれるが、政府の見解如何。
七 平成十二年に、江崎玲於奈氏を座長として教育改革国民会議をつくり、その教育改革国民会議報告は、家庭教育について「教育という川の流れの、最初の水源の清冽な一滴となり得るのは、家庭教育である。子どものしつけは親の責任と楽しみであり、…家庭は厳しいしつけの場であり、同時に、会話と笑いのある『心の庭』である」としている。政府は、この教育改革国民会議報告の内容が今現在も有効であると認識しているか。また、児虐法第二条と民法第八百二十二条との関係について説明されたい。
八 国連児童の権利委員会は、平成二十二年発出の日本に対する最終見解(CRC/C/JPN/CO/3)第六十二項で、「委員会は、学校において行動面での期待を満たさない児童が、児童相談所に送致されていることを、懸念をもって注目」するとして認識している。政府は、この国連同委員会の見解を承知しているか、またこの国連見解に即して我が国の学校を指導することを明確にされているか。
九 厚労省は、「児童虐待防止法の趣旨に基づくものであれば、それが結果として誤りであったとしても、そのことによって刑事上、民事上の責任を問われることは基本的には想定されない」(「子ども虐待対応の手引き」第三章一(一))という通知を発出している。右の厚労省通知の、実定法上の根拠を答えられたい。
十 児相が十分な第三者の監督を受けないことは、家裁が児相のラバースタンプのように行為している問題がでてくる。これを防ぐため、児童福祉法第二十八条申立審判の際には、児相と家裁との「事前相談」を法律で禁止するとともに、親権者を「利害関係人」ではなく当事者に昇格させ、刑事事件に匹敵する家庭裁判所の証拠調べ、同法第二十八条が定める施設措置要件に厳密に依拠した審判の義務付け、親権者代理人弁護士の保護された児童への接見、児相が提出する証拠を例外なく親権者に開示すること、などの方法により審判過程の厳格化を図り、児相の二十八条申立ならびに施設措置期間延長の認容率を三割程度にまで引き下げることを目標に、家裁審判の中立性・第三者性を十分確保すること。また、すべての「一時保護」に関しても、このように中立性・第三者性が確保された裁判所による事前ないしは事後の審査を義務づけるべきとの意見も聞かれるが、政府の見解如何。
十一 児相は、保護した児童の保護者の代理人である弁護士と、その児童との接見を認めておらず、子どもの権利条約第十二条が定める、児童の意見表明権が保障されていないとの声もある。政府は、この弁護士接見禁止を裏付けている実定法の条文を答えられたい。さらに、保護者が選任した弁護士が「一時保護」されている児童に接見することは、回数や時間の制限なく、無条件で認められるべきとの意見もあるが、政府の見解如何。
十二 一時保護処分や施設入所処分において、これと同時に親子間の面会・通信を全部制限(禁止)する処分がなされることが常態化していることに関し、親子の絆は常に維持しておく必要があり、離れている親子の面会と通信は制限されるべきではないという声があがっている。ごく例外的に、親子間の面会通信の禁止をするとしても、その制限をなしうる最長期間を、最大でも一ヶ月の短期に制限する必要があるとの意見もあるが、政府の見解如何。
十三 平成二十七年度において児相がなした面会通信全部制限期間(児虐法によるものと行政指導によるものの両者を含む)を、その長さの月別に分類し、各期間についての具体的な統計数字を踏まえた上で、面会通信全部制限期間に関する政府の見解如何。
十四 児相はその保護所内において、人権侵害をなしている疑いがあり、児相がその保護している児童に対し、正規の学校における学習指導要領に基づく義務教育の教育課程を、長い場合は一年近くも保障していないことがあるとの声があるが、その法的根拠を、実定法に基づき説明されたい。さらに文科省は、平成二十七年七月三十一日に、児相に保護された児童生徒に関し、学習指導要領に基づく所定の期間・カリキュラムの教育をうけずとも児童生徒を出席扱いとすること等を認めることとする、二十七文科初第三百三十五号通知を発出した。これは、日本国憲法第二十六条の教育権保障規定に違反するか、また、この通知につき、法令上の根拠と、文部科学省の従来からの学習指導要領に関わる主張との整合性を説明されたい。
十五 一時保護所ならびに児童養護施設等において、児童に対し、児童を管理する目的で、向精神薬が投与され、また反抗する児童が、精神病院へ送られている現状が存在するとの声があるが、それは事実であるか。
十六 児童福祉法第四十七条第三項に基づく施設長の措置権が、違法に、親権・監護権を凌駕するものとして扱われている実態があり、この条文の規定は、親権者・監護権者に子を連れ戻すことを許さないこと以外にいかなる権限をも施設長に与えるものではないとする声がある。従って、施設措置されているすべての児童について、親権者・監護権者の十全な親権行使を正当に認めるとともに、児童福祉法第四十七条第三項の条文は廃止すべきとの意見もあるが、政府の見解如何。
十七 効率的に児童虐待防止政策を遂行するためには、児童虐待防止に関し先進的な政策をとるオランダ等諸外国に学んで、親子の分離は最長一年程度にとどめ、その後は、必要に応じ家裁決定による後見人をつけつつ、親から離れた児童は一年以内に家庭に戻し、行政の在宅支援に支えられた各家庭の自助努力により児童の健全な育成を図る政策へと抜本的に転換すべきとの意見もあるが、政府の見解如何。
十八 国連児童の権利委員会は、我が国の児相システムに人権上の問題が存することを認識しており、平成二十二年の上記最終見解第六十三項で「児童相談所のシステム及びその作業方法に関し、リハビリテーションの成果に関する評価も含め独立した調査を委託し、次回の定期報告にこの調査結果についての情報を含めることを勧告」している。政府は、この国連同委員会の求める「独立した調査」を行っているか。行っているのであれば、その進捗状況を明らかにされたい。

 右質問する。



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