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平成三十年七月十八日提出
質問第四七三号

我が国の平和主義と自衛隊の国連PKOへの派遣に関する質問主意書

提出者  井出庸生




我が国の平和主義と自衛隊の国連PKOへの派遣に関する質問主意書


 私は先月、「尊い命が失われたカンボジアPKOを評価、検証し、未来の政策に活かすことに関する質問主意書」(平成三十年六月七日提出、質問第三六三号)及びその再質問主意書(同月二十九日提出、質問第四二〇号)において、二十五年前、日本が初めてPKOに参加したカンボジアPKOについて検証を求めた。政府からいただいた答弁は決して十分なものとは言えないが、文民警察官たちが保管してきた記録等の取扱いに関するものなど、真摯な答弁をいただいたことには感謝申し上げる。前記二件の質問主意書を踏まえ、今回は日本の平和主義とPKO派遣について問いたい。これまで、日本の平和主義が問われる場面としては、日本自身の安全保障の問題と、PKOをはじめとする自衛隊等の海外派遣の二つが主に想定されてきた。今回の質問で、特に後者の場面について、議論が深まり、今後の政策立案が有意義なものとなることを期待し、以下質問する。

一 憲法前文と第九条に象徴される「平和主義」の意図するところについて
 1 平成二十八年五月十八日の国家基本政策委員会合同審査会で、民進党の岡田克也代表(当時)の「今の現行憲法そして自民党の憲法改正草案、これを通して貫かれている平和主義とは具体的に何なのか」という質問に対し、安倍晋三内閣総理大臣は「二度と他国を侵略しない、戦渦に世界の人々を巻き込むことはしない、これこそまさに平和主義であろうと思います。」と答弁し、更に「平和主義というのは、まさに我々は戦前の反省の中から、他国を侵略しない。(中略)我々の憲法草案においても、いわば国連憲章に書いてある考え方、国連憲章というのはまさに平和主義が貫かれているものであります。この国連憲章に書いてある文言とかなり近いのが第一項でありまして、第一項がこれは残っているわけでございます。つまり、そこにおいて平和主義は貫かれている、こう言っていいんだろうと思います。つまり、必要な自衛の措置しか我々はとらない。そして、我々が申し上げているのは、必要な自衛の措置に当然限られるわけであります。侵略とか、戦闘的な、攻撃的な侵略、あるいは他国を踏みにじる、そういうことはこれから二度としていかない、そして二度と戦争の惨禍を繰り返さないというのが私たちの考え方」とも答弁している(会議録四ページ以下)。我が国の平和主義の意味するところは、この答弁のとおり、即ち国連憲章の掲げる平和主義と同じである、との理解でよいか。
 2 安倍総理が平成二十七年八月十四日に発表した、いわゆる戦後七十年談話には、「いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。」とあるが、ここでいう「この原則」は、我が国の平和主義とどのような関係にあるのか。
 3 2で挙げた談話の引用部分にいう「紛争」とは、どのような紛争をいうのか、その意味するところを説明されたい。
 4 政府は平成二十六年七月の閣議決定まで、「集団的自衛権は行使しない」との答弁を長年続けてきた。閣議決定以後は、「集団的自衛権は限定的に行使できる」としているが、これでもなお、政府は「必要な自衛の措置」に含まれる集団的自衛権について、国連憲章に定められた集団的自衛権よりも抑制的な立場を取っているものと考える。つまり、日本の平和主義とは国連憲章と同じではなく、「必要な自衛の措置」、特に集団的自衛権の行使について慎重な立場に立つことではないか。つまり、安倍総理が戦後七十年談話で述べた「いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである」という「この原則」が日本の平和主義であり、具体的に述べれば、侵略行為はもとより、必要な自衛の措置についても、力の行使に頼ることのないよう、慎重な見極めをすることこそが、日本の平和主義だと考えるが、政府の見解はどうか。
二 紛争への関与について
 PKO参加五原則の趣旨や、PKO以外の過去の自衛隊の海外派遣を見ても、自衛隊が海外派遣された場合には紛争に関わらないということは、かねてより政府が主張してきたことである。一方で、自衛隊の海外派遣や国連PKO派遣を巡っては、事あるごとに「武力行使との一体化」の問題が議論になった。現実に、カンボジアPKOでは、文民ではあるが、日本人二人が死亡、四人が負傷し、また南スーダンでも、宿営地のすぐそばで激しい戦闘があり宿営地に着弾等があったことが、公開された日報によって明らかになるなど、我が国の派遣部隊が戦闘に巻き込まれているのではないかという議論が、繰り返し行われてきたところである。
 これまで政府は、自衛隊等の海外派遣に当たって、武器の使用が認められるのは、原則として正当防衛のためであること、駆け付け警護についても正当防衛に極めて近い場合であることを主張してきたと考えているが、この理解は正しいか。
三 戦闘行為や国際的な武力紛争の定義について
 政府は、戦闘行為とは「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為」と定義をした上で、「国際的な武力紛争」とは、「国家又は国家に準ずる組織の間において生ずる武力を用いた争い」を指すとする国際法の定義を踏襲している。
 更に、政府は、平成二十八年十一月十五日、衆議院安全保障委員会における当時民進党の緒方林太郎議員の「現在、国際社会的には恐らく、南スーダンの中ではアームドコンフリクトが存在しているというふうに認識をしていて、日本の武力紛争の考え方とは若干差異があると思いますけれども、これはこれでよろしいですね。」という質問に対し、「我が国で使っているものと国連における決議との間で同一ではないということは申し上げられるかと思います。」と答弁し(会議録一七ページ)、政府の定義が日本独自のものであることを示唆している。
 この定義に厳密に従えば、反政府武装勢力やテロ組織による攻撃は、我が国政府がそれらの組織を非国家組織と認定すれば、「戦闘行為」とは言えないことになる。それらの組織が、どんなに激しく危険な襲撃を、PKOに派遣されている自衛隊に対して行っても、襲撃側の人数や使用する武器の如何に関わらず、我が国政府は、自衛隊の活動を基本的には続行させるものと考えるが、この理解で良いか。
四 駆け付け警護、宿営地の共同防護等について
 平和安全法制の施行によって、自衛隊の海外派遣に当たっては、駆け付け警護や宿営地の共同防護等が、新たな任務として付与できることとなった。実際に、平成二十八年十一月には、南スーダンに派遣される自衛隊の第十一次部隊にこれらの任務が付与された。また、武器使用の要件も、正当防衛に加え、任務遂行のためのものが認められることになった。
 1 現場で活動するNGO等の安全対策や、派遣された自衛隊が他国の軍隊と連携して襲撃してくる暴徒等に対抗するという観点で見れば、上記の新任務付与は理解できるところもある。政府は、駆け付け警護や宿営地の共同防護が、この二つの観点から見て有効であると考えているか。それがどのような意味においてであるかの説明もあわせて、答弁されたい。
 2 しかし一方では、このような新任務を付与したことは、我が国が紛争や、多数の死傷者を出すような激しいテロ行為に巻き込まれて自衛のために反撃を余儀なくされる事態等に関わる可能性、関わることが想定される場面が、法律的観点からも広がったことを意味する、という理解も可能である。新任務の付与は、自衛隊が派遣先で紛争に関わらないという法的建前論を変えるものであり、また、これまで我が国政府が避けてきた、紛争や激しいテロ行為への対処に向き合うということを法的に初めて認めたものでもある、と私は考えているが、政府の見解はどうか。
 3 政府は、平成二十八年十一月、南スーダンに派遣する自衛隊施設部隊の第十一次隊に新任務を付与した。しかし、駆け付け警護や宿営地の共同防護は、部隊の性格から考えると、本来、施設部隊ではなく歩兵(普通科)部隊にこそ与えるべき任務だと考える。南スーダンPKOで新任務を付与する際に、政府は普通科部隊の派遣を検討したか。検討した場合は、実現に至らなかった理由についても説明されたい。特に、歩兵(普通科)部隊の派遣による武器の使用は憲法が禁じる海外での武力行使につながるおそれがある、ということ以外の理由があれば説明していただきたい。
五 PKOにおける我が国の法の空白について
 1 新任務を認めたことで、自衛隊は、法的には、正当防衛以外の場面でも武器を使用せざるを得ないことが想定される。しかし、政府は、自衛隊員が、現地で民間人を誤射、死亡させてしまうような事態について、教育訓練を行っているから想定されない旨を答弁している(例えば、平成二十七年六月一日、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会における、細野豪志委員の質疑(以下「細野質疑」という。)に対する中谷元安全保障法制担当大臣(当時)の答弁、会議録二五ページ)。政府は現在でも、誤射の可能性は一〇〇%完全にないと考えているのか。
 2 「誤射がないように訓練する、努力をする」という姿勢はそのとおりだと理解するが、誤射が想定されないことが前提とされていることは、法律上の不備と言わざるを得ず、万が一の誤射に備えた法整備を検討する必要があると考える。政府はこの点についてどのように認識しているか。
 3 現在の法制度の下で、万々が一、我が国のPKO部隊による誤射のために、人が死亡したり負傷したりした場合、政府はどのように対応することを考えているか。
 4 誤射によって人を死亡させた場合には、一般的には過失致死罪又は業務上過失致死罪が適用されるが、政府は、我が国刑法においては、これらの罪については国外犯の処罰規定が設けられておらず、海外のケースには適用できない旨答弁している(例えば、細野質疑に対する上川陽子法務大臣(当時)の答弁、会議録二五ページ)。違法行為が処罰されないのは「法の空白」であり、PKO部隊の派遣を滞りなく行うためには対応が必要である、ということは細野質疑でも指摘されている。このような場合に当該自衛隊員に刑事罰を科することができないこと、つまり「法の空白」について、政府はどのように認識しているか。また、どのような対応を考えているか。
 5 「PKOでは、国連が一括して地位協定を現地政府と結ぶことで、現地法からの訴追免除の特権を国連PKF部隊全体に付託いたします。PKF部隊が過失を起こした場合、国連には軍事法廷はありません。各国の軍法で裁くことになります。つまり、PKF部隊が過失を起こした場合、現地社会の怒りをなだめる(中略)には、ごめんなさいね、でも、あなたたちの法律よりももっと厳しいうちの軍法で裁くから許してねと言うしかないんです。日本はこの言いわけができません、軍法がありませんので。この言いわけができないとどうなるか。当然、現地社会の怒りは沸騰します。そして、国際人道法違反として、これは非常に重大な外交問題に発展します。」これは、平成二十七年七月一日、衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会における、伊勢崎賢治参考人の意見から抜粋したものである(会議録三ページ)。
  ここで指摘された、我が国のPKOでは軍法がないことにより外交問題が起きかねないという意見について、政府はどのように評価するか(外国の軍人等による違法行為が適切に処断されなかったことについては、我が国自身が、在日米軍に係る事件で何度も苦い思いをしてきたところである)。また、ここで指摘されたような事態を避けるためには、何らかの対応が必要であると考える。憲法第七十六条第二項の規定により我が国が軍法会議を置くことはできないが、代わるべき措置として、どのようなことが考えられるか。
 6 5で挙げた伊勢崎氏は、共著である「主権なき平和国家 地位協定の国際比較から見る日本の姿」(集英社、平成二十九年出版)において、更に次のようなことも指摘している。「日本の刑法で国外犯規定のある殺人罪の場合は、日本国内の裁判にかけることは可能ですが、業務上過失致死罪の場合は、日本の刑法は適用されません。そもそも、日本政府は自衛隊員がPKOで国際人道法違反を犯すことを想定していないので、そのような法整備はいっさいなされていないのです。もし起きてしまった場合は、その隊員個人の故意犯≠ニしての起訴か懲戒など自衛隊内の行政処分で対応するしか手段がありません。これは、最悪の場合、外交問題に発展するおそれもあります」(同書二〇九ページ)。同氏は、5で挙げた委員会においても、ここに引用した内容と同旨の意見陳述をした後、次のように続けている。「そもそも、自衛隊の活動のような軍事行動は、個人の意思が極度に制限される国家の命令行動であります。しかし、その中で過失が起こった場合、日本の場合は、自衛隊員個人が犯罪として責任を負うのです。これは重大な矛盾であります。」(会議録三ページ)。
  この、軍法がないことにより自衛隊員個人が責任を負うことになるという指摘について、政府はどのように評価するか。また、対応策としてどのようなことが考えられるか。
六 新任務付与によりPKOへの派遣が更に限定される可能性について
 1 平和安全法制の施行により、PKOへ部隊を派遣した場合、従前よりも紛争になお深く関わるようになることが、法的にも想定されていると考える。しかし、憲法第九条やPKO参加五原則に基づく、PKO派遣に関する従来の政府の考え方は、紛争に関わらないということであったと思われる。これまでの考え方を守るのであれば、PKOへの派遣そのものを、これまでより一層慎重に検討せざるをえなくなると考えるが、政府の見解を伺いたい。実際に、南スーダンから撤退の後、PKOに係る新規の部隊派遣はないが、これはここに言うような慎重さの表れか。
 2 平和安全法制の施行により、PKO部隊を派遣する際に紛争に関わるリスクを覚悟することとなった結果、憲法第九条の平和主義との乖離が法的に拡大し、派遣そのものが少なくなると考えるが、政府の見解を伺いたい。PKO派遣に対する考え方は、今後変わるのか、あるいは、既に変わったのか。
 3 上杉勇司、藤重博美編著「国際平和協力入門 国際社会への貢献と日本の課題」(ミネルヴァ書房、平成三十年出版)には、以下のような指摘がある。「短期的には、部隊派遣の再開は容易ではない。とりわけ、安倍首相が日本の国際平和協力の目玉として力を入れようとしてきた国連PKOへの陸自施設部隊を中心とする派遣形態は、国連PKOの主要任務が「文民の保護」である限り、活躍の機会はあまり望めない。南スーダンの事例からも明らかなとおり、その大部分がアフリカと中東で展開する最近の国連PKOは、危険性が高い状況下で「文民の保護」任務を担うために展開している。こうした事実を考えると、平和安全法制は整備されたとはいえ、「文民の保護」型国連PKOへの自衛隊の部隊派遣を日本の国際平和協力の主軸に据えることは難しいだろう。「国づくり」型国連PKOが設置されるような状況が再び生まれない限り、日本が国連PKOに対して二〇〇〜三〇〇人程度の大規模な自衛隊部隊を恒常的に派遣する可能性は低い」(二三二ページ)。
  この指摘を踏まえると、危険性の高い「文民の保護」を主要任務とする最近のPKOにおいて、これまで我が国PKOの中心的役割を担ってきた陸上自衛隊施設部隊を、従来と同様に、引き続き三〇〇人規模の部隊で派遣の主軸に据えることは、基本的には想定し難いと考えることが自然かと思うが、政府の見解を問う。
七 今後のPKO派遣や予算拠出について
 1 PKOへの派遣について、近年、一般に先進国は消極姿勢だと言われている。現に、アメリカは国連PKO予算の減額を主張し、最近は実際に減額されている。我が国は、アメリカのこのような姿勢についてどのように認識し、また、国連PKO予算の減額について同調しているのか。理由もあわせて説明されたい。
 2 アメリカをはじめとする先進国がPKOへの参加に消極姿勢をとり続ければ、国連PKOの意義は形骸化しかねない。先進国の優れた技術や人材、経済力等による国造り支援を、紛争直後の国や発展を目指す途上国に提供できなくなるのは残念だと考えるが、我が国は今後、国連PKOとどのように向き合うか、見解を明らかにされたい。
  「PKOをはじめとする我が国の自衛隊等の海外派遣については、我が国と国連及び被派遣国との関係にとどまらず、アメリカをはじめとする諸外国の動向によって、その時々の政策が採られてきた。」との指摘は、大変多くのところでなされている。我が国が今後、いかに明確な目的をもって自衛隊等を海外に派遣するか、またその際、戦後日本が平和国家と評価されてきた所以である我が国の平和主義を、どのように貫くかということについて、一層真摯な議論が深まることを期待する。

 右質問する。



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