質問本文情報
令和元年十一月六日提出質問第六六号
照射牛生レバーの安全性に関する質問主意書
提出者 大河原雅子
照射牛生レバーの安全性に関する質問主意書
厚生労働省は二〇一二年七月、食品衛生法に基づいて、牛の生レバーを安全に食べる方法がないとして販売・提供を禁止した。しかし、今後、研究などが進み、安全に食べられる方法が見つかれば、この規制の見直しを検討していくとした。
厚労省の厚生労働科学研究費補助金で「畜産食品の安全性確保に関する研究(平成二十五年〜二十七年度)」と、「畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究(平成二十八年〜三十年度)」(以後六カ年の研究という)が行われ、この六カ年の研究で「放射線照射」による殺菌に効果が認められるとして、薬事・食品衛生審議会に諮り、食品安全委員会に諮問する予定という。
現在、食品衛生法第十一条で食品への放射線照射は禁止されている。しかし、細菌性食中毒予防として放射線を照射することが認められると、照射による他の危険を消費者は受ける事になる。また、照射牛レバーの解禁で照射食品が急激に拡大する可能性がある。この六カ年の研究報告書には記述の間違い等があり、このまま薬事・食品衛生審議会に諮られ、食品安全委員会に諮問されることは重大な問題があるので以下質問する。
一 「畜産食品の安全性確保に関する研究(平成二十五年〜二十七年度)」と、「畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究(平成二十八年〜三十年度)」が厚労省に提出された。厚労省は牛生レバーへの放射線照射を薬事・食品衛生審議会で審議する日程を決めているのか。決まっているならその日時を記されたい。
二 二〇一〇年五月十八日、厚労省は薬事・食品衛生審議会食品規格部会を開催し、照射スパイスについて説明を行っているが、この時、さらに審議データの収集が必要として、資料の収集を行うよう原子力委員会、全日本スパイス協会など関係者に要請している。
この時「照射食品中のアルキルシクロブタノン類の生成量及びその推定暴露量、また、アルキルシクロブタノン類の毒性(特に、遺伝毒性、発がんプロモーション作用)」を求めている。アルキルシクロブタノン類について要請に応える研究データが今回の六カ年研究の報告書や、要請された関係者から提出されているのか。
三 「畜産食品の安全性確保に関する研究」に、「アルキルシクロブタノン類」は照射線量が増えると生成量が増えると報告されている。二〇〇二年、パスツール大学のF・ラウルらによって、発ガン促進物質として働くと報告されている。アルキルシクロブタノン類の一日摂取許容量(ADI)はどのくらいになるか。厚労省はその一日摂取許容量の根拠となる科学的な報告を持っているか。持っているなら、その報告の出典を記されたい。
四 薬事・食品衛生審議会の開催にあたっては牛レバーの「殺菌法」を審議する予定か。それとも「放射線照射牛レバー」の細菌性中毒以外の安全性に関して審議する予定か。
五 六カ年研究には誘導放射能の研究は入っていないが、照射牛レバーの誘導放射能については薬事・食品衛生審議会で審議を行うことになっているのか。
六 六カ年の研究で照射牛レバーはトランス脂肪酸の増加と線量を調べているが、トランス脂肪酸についても薬事・食品衛生審議会で審議する予定か。
七 照射牛レバーでは細菌が減ると報告されている。一〇キログレイ(以下KGYという)の照射で牛レバーに生成されるアルキルシクロブタノン類やトランス脂肪酸、まだ同定されていない未知の成分などについては十分なデータがない。厚労省は細菌性食中毒以外の安全性については慢性毒性、発がん実験、催奇形性実験、遺伝毒性などの実験データも準備した上で薬事・食品衛生審議会で審議するのか。
八 放射線を照射すると特有な照射臭があるとされるが、六カ年の研究報告書にも照射臭があると報告されているが、照射牛レバー刺しは生食に耐えうるかどうかは判断がない。照射臭について薬事・食品衛生審議会で審議する予定か。
九 一九八〇年のIAEA(国際原子力機関)とWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の合同専門家委員会のレポートで「一〇KGYまでの照射は安全とする」という結論を安全の根拠にして、牛レバーへの照射線量を一〇KGY以下にするよう試みている。しかし、この専門家委員会のモノグラフには一〇KGYという結論に至った根拠データが示されていない。一〇KGY以下でも卵巣重量や体重の減少、死亡率の低下、奇形など重大な実験結果が「放射線照射による馬鈴薯の発芽防止に関する研究成果報告書(昭和四十六年)」および「放射線照射による玉ねぎの発芽防止に関する研究成果報告書(昭和五十五年)」にも記載されている。照射ベビーフード事件裁判でも一〇KGYを安全とするには問題があるとしている。
IAEA(国際原子力機関)、WHO(世界保健機関)、FAO(国連食糧農業機関)の合同専門家委員会のレポートはその表紙に「このレポートの内容は国際的専門家グループの見解をまとめたものであり、必ずしも国連のFAO、WHO、IAEAの決定又は政策を意味するものでない」と断りが入っている。食品衛生法第十一条の放射線照射禁止が国内法として優位であると考えるが厚労省はどのように考えているか。
十 平成二十八年度の「畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究」で中心部の線量が九・七一KGYから一〇・一KGY照射で十検体中七検体(七十%)にサルモネラ菌が検出されている。接種した牛生レバーの大きさは二十五グラムで厚さ十四ミリの切り身である。しかし、平成三十年度の報告では、牛レバーを二十cm×二十五cm×五cm(一・八キログラム)という実用的な大きさに変更しているが、七十二倍も大きいレバー塊で放射線の透過率が違うが、大腸菌O一五七とサルモネラ菌の接種実験は行われていない。実用化される形状での牛レバーの大きさにしながら、中心部の線量のみを測っただけで、「八・二KGYから一〇KGYの範囲以内で照射できる可能性が示された。」と線量を推定し結論としている。殺菌の根拠データとなる実験をしていない。国はこのような「可能性」ということを結論とするために六カ年の研究に研究費を出したのか。
十一 「畜産食品の安全性確保に関する研究(平成二十五年〜二十七年度)」と、「畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究(平成二十八年〜三十年度)」の研究の目的は何であったか。
十二 六カ年の報告書の牛生レバーの照射サンプルでのサンプル数が少なく、また、実測値が記述されていないため他者が再分析できない。実際の実験では一〇KGYでもサルモネラ菌が生存したと報告している。食中毒防止のため細菌の生存数の確定は重要なデータである。信頼区間から予測するという統計の用法を間違っている可能性がある。この報告書の統計解析部分を統計専門家に検討させる用意があるか。
十三 この六カ年間の報告書は、照射直後の牛レバーは励起状態となり、少し安定するまで数カ月を要すると言われているが、照射直後の生レバーを構成する成分の変化、特に酸化物、過酸化物、活性酸素、誘導放射能などについて国は研究する必要はあると考えているか。
十四 食品衛生法に基づいて、牛や豚の生レバーの販売・提供を禁止したが、その後、禁止の解除を要望する申し入れが多くあるというが、どのような団体、個人から何件の要請が出されているか具体的に回答されたい。
十五 仮に解禁された照射牛レバーから二次汚染でない、レバー由来の菌が検出された場合は生食をしてもよいとするのか。その生食によって食中毒事故が起きた場合、その責任は安全として解禁した国が負うことになるのか。
十六 六カ年の研究の各年度の研究費を記されたい。
十七 研究が三年から六年に延長されているが、どのような理由によって三年間の延長となったのかその理由を記されたい。
右質問する。