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令和三年六月十一日提出
質問第二〇二号

「二〇五〇年カーボンニュートラル」実現に向けた施策のあり方に関する質問主意書

提出者  古本伸一郎




「二〇五〇年カーボンニュートラル」実現に向けた施策のあり方に関する質問主意書


 政府は昨年十月「二〇五〇年カーボンニュートラル宣言」を発出し、二〇五〇年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを掲げている。また自動車に関しては、二〇三五年までに乗用車新車販売で電動車百%を実現できるよう、包括的な措置を講じるものと承知している。
 地球温暖化を阻止するための「脱炭素」の動向は、二〇一五年に採択されたパリ協定に象徴されるように、国際的にも関心を集め続けており、我が国としてもその潮流に適切に対処することが更に産業の国際競争力を高めることに繋がると理解している。一方、「脱炭素」に向けては、広範な業種の民間企業に対して社業の構造転換を国が強いる可能性のある極めて影響の大きなものである。いわゆるグリーン化による経済成長の期待感も喧伝されているが、カーボンニュートラル社会がかえって日本社会・経済を弱くさせては本末転倒である。かかるカーボンニュートラル社会は産業・企業・働く人々が目標に共感できるものでなければ国家として一つになれないと考える。
 とりわけ自動車産業は、カーボンニュートラル政策として新車販売における電動化目標が期限つきで政府により明示されている点には十分注意を向ける必要がある。自動車産業の歴史を振り返れば、十九世紀末においてものづくりの先人たちが内燃機関を発明し、二十世紀全般にかけて自動車が大衆化し現在に至るまで、ガソリンエンジンを前提とするパワートレインが主流となり、経済発展と人々の暮らしを豊かにすることに極めて大きく寄与してきた点を忘れてはならない。その歴史と技術的な蓄積に対して政府は民間企業の自由な商品開発・製造の分野に踏み込み、二〇三五年までに大変革を求めている状況に留意しなければ今後の判断を誤りかねない。自動車産業において地球温暖化対策は早くより取り組みがされているが、欧州メーカーがクリーンディーゼルがより温暖化対策に資するとされた二〇〇〇年代にあって、日本ではハイブリッド自動車の開発・販売等、エコカーの生産・販売が民間企業の創意工夫で政府に先んじてなされてきた経緯がある。今回の産業構造の電動化シフトという大変革は、政府が民間の自由な研究開発を電動化領域に集約させるものであり、その実施にあたっては内政では政治による開発と普及のための霞ヶ関の前例踏襲主義(行政が政策判断を行う際にこれまでの慣例に倣うこと)の枠を大きく超える破格の支援が必要である。また外政では、近年急速に進みつつあるカーボンニュートラルの国際的潮流は、デファクトスタンダードづくりにおける我が国の外交敗北に等しい点も深く省みつつ、自国ファーストで攻めてくる欧米諸国に対しては毅然として国境間炭素税等の国際的な枠組み交渉を行い、以って日本のものづくりの国際競争力の維持・強化に尽くさなければならない。以上の問題意識を踏まえ、政府の進める「二〇五〇年カーボンニュートラル」施策のあり方について、あらゆる産業・民生・家庭に関わる課題ではあるが、自動車産業の事例を中心に以下質問する。

一 (カーボンニュートラルを通じた国家の姿)二〇五〇年までのカーボンニュートラルの実現、及び二〇三五年までの乗用車新車販売における電動車百%の実現を、政府が関連産業・ユーザーの理解も不十分なまま、二〇二一年一月の菅首相施政方針演説にて表明された電動車化目標を掲げるに至った理由は何か。単に欧米諸国や中国をはじめとする国際的動向に乗り遅れないよう対処するという表面的な理由ではなく、我が国がカーボンニュートラルを通じていかなる国家の姿を描くのか、目標実現にあたっての本質であると考えるが、政府の見解を問う。
二 (時間軸と達成目標の強制力)地球環境破壊を原因とする気候変動問題が差し迫った課題となっていることを鑑みれば、政府は「一」で指摘した国家の姿としてカーボンニュートラルを実現するための時間軸を、政治の意思として明確にする必要があると考えられる。政府が掲げる二〇三五年までの新車販売における電動車百%は、「目標」と考えているのか、或いは期限以降は民間メーカーが新たなガソリン車を販売できなくなるような「規制」を加えると考えているのか、政府の方針を問う。
三 (全体から見た自動車によるCO2排出量)「二」で指摘したとおり、カーボンニュートラルの達成は自動車部門の努力だけで実現可能となるものではない。そこで実態として自動車によるCO2排出量は、我が国のCO2排出量全体のうち何割に相当するのか、製造段階及び走行段階、さらには廃棄・リサイクル段階について、お尋ねする。また自動車部門を上回る排出量の部門があるとすれば、お示し願いたい。
四 (LCAで考える必要性)「三」で指摘したとおりカーボンニュートラルに伴うCO2排出量の削減は自動車産業だけでなく日本全体で取り組まなければ効果が上がらない。その観点から言えば、二〇三五年までの新車販売における電動車百%実現にあたっては、自動車の「使用段階」だけではなく、原料調達から生産・流通、さらには廃棄・リサイクルに至るまでの一連の「ライフサイクル」という、より大きな観点でCO2排出抑制のあり方について検討する必要がある。こうした「ライフサイクルアセスメント(以下LCA)」と呼ばれる考え方は、国際的には一九九〇年代に国際標準化機構(ISO)による基準化が進められたのを背景に、日本においても経済産業省主導による国家プロジェクトが推進され、二〇〇四年にはLCAデータベースの整備が行われる等、取り組みが広がってきたと承知している。このような歴史的経緯の中、欧州連合(EU)はLCAの観点に基づく排出量規制を検討し始めるなど、より進んだ議論がなされている現状にあるが、日本はこの間、CO2排出量を考える上で大変重要なLCA制度の標準化を、外交、通商交渉において対外的にどういう方針で働きかけてきたのか、お示し願う。また国内的にも、自動車の新車販売の電動化比率を上げていくだけではなく、日本全体でCO2削減を果たすためには、LCAの観点による素材・部品・製造・物流・整備・廃棄・リサイクルの全体を通じて解決策とする必要がある。政府としてまずはLCAをどう定義し、次にそれをいかにして機能する仕組みとするか、いつ頃に内外に示すのか、お尋ねする。
五 (電源構成を見直す必要性)「四」のLCAの観点からすると、電気自動車、及び燃料電池車等の電動車の普及にあたっては、車両製造や使用段階、加えて車載バッテリー、及び水素燃料の製造時等の消費電力の発電に伴うCO2排出量が多い問題が指摘されている。現状日本の電源構成からみると、七割以上の電力が石油・石炭等の化石燃料由来となっており、仮に電動車の普及によりガソリン消費が減少しCO2排出量が減ったとしても、上記の電源構成を見直さない限り、効果は縮減してしまう恐れがあると考えるが正しいか、お尋ねする。政府はエネルギー基本計画において平成二十八年に示されたエネルギーミックス(そのなかでは二〇三〇年において、化石燃料由来の電力は五十六%、原子力は二十〜二十二%、再生エネルギーは二十二〜二十四%と目標設定されている)のあり方を、「二〇五〇年カーボンニュートラル宣言」という新たな前提を踏まえ、どのように見直し、いつ頃発送電事業者等に対して示していくつもりなのか、お尋ねする。
六 (電動化の不可避性と限界)「四」「五」から考えると、温暖化を防止し地球環境を守る上で自動車の電動化は避けては通れない潮流であることは理解する。しかし電動車の普及が本当の意味でCO2排出量の少ないクリーンな施策とするためには、電動車の生産過程、走行段階、及び廃棄・リサイクル、その全ての段階で使用する電気がクリーンな形で発電されることが求められる。この点を政府は、二〇三五年までの新車販売における百%電動車目標を掲げるにあたって、電源が再エネ等の脱炭素由来でなければ効果が縮減してしまうと理解しているのか、お尋ねする。右の通り理解しているとすれば、自動車の電動化においてもその点を十分に強調し、LCAを踏まえ電動車のために使用される電気がクリーンエネルギーとなる施策の導入を並行的に行うことが、当然必要と思われるが、どのように導入するのか併せてお示し願う。
七 (普及政策のあり方、ノルウェー王国の事例)「三」「四」で指摘したとおり、本来カーボンニュートラルは産業・民生・家庭の日本全体で取り組むべきものであるにもかかわらず、現状自動車産業が突出して二〇三五年までの新車販売目標を通じて特段の努力が求められているものと承知している。それでもなお政府は電動車の普及を行おうとするのであれば、よほどの政治の覚悟が必要である。電動車の普及促進における霞ヶ関の前例踏襲主義にこだわらない破格の支援を政府の意志として示す必要があると考えられる。支援内容は自動車の製造・販売を担う企業側に対してのみならず、電動車を購入するユーザー側の購買意欲を著しく高めるものでなければならない。例えば電気自動車の新車販売シェアが約七割と普及が進むノルウェー王国においては、電気自動車の高速道路走行料金の減免や、購買時の付加価値税二十五%の免除等の極めて野心的な普及政策を実施していると承知している。現状、日本においても電気自動車及び燃料電池車の購入補助金や、自動車関係諸税の一部減免が認められていると承知しているが、こうした既存の政策に加え、ノルウェー王国の事例等に倣い高速道路走行料金の減免や消費税をはじめ自動車関係諸税の大胆な減免といった普及政策を導入してみてはどうか。政府の検討状況についてお尋ねする。
八 (ノルウェー王国の普及策、人口規模の問題)「七」で例示したノルウェー王国における電気自動車の普及政策を我が国においても検討を行う際には、人口規模の違いによる自動車保有台数の差を考慮する必要がある。ノルウェー王国における乗用車保有台数は約二百六十万台である一方で、日本においては約六千万台と約二十三倍の差がある。このような規模の差を考えると、日本における電動車の普及は、ノルウェー王国の普及政策にも増して手厚い支援が必要と考えるが、政府は今後、既存の支援策以上に電動車普及策の拡充を行うつもりはあるのか、お尋ねする。ある場合、財源規模を明確にしたうえで普及策を具体的にお尋ねする。
九 (ノルウェー王国の普及策、電源構成の問題)ノルウェー王国における電気自動車の普及政策を考える際には、ノルウェー王国の電源構成のあり方にも注目する必要がある。ノルウェー王国は電力の約九割を水力発電により賄っており、クリーンエネルギーを前提に電気自動車の普及がなされている。日本でノルウェー王国と同じような普及策を実施するとしても、「五」で指摘したように我が国の電源構成は化石燃料を由来とする電力が現状約七割を占めており、電気自動車の普及と同時に再生エネルギーを前提とする電源構成に移行する必要があると考えられる。政府は今後電源構成をCO2排出の少ないクリーンエネルギーとして置き換えていくにしても、現状は七割が化石燃料由来の電気であり、自動車産業及びユーザーに対して、それでも電動車が地球温暖化対策上、優れていることについてどう説明するのか、お尋ねする。
十 (燃料供給ステーションの普及)電気自動車及び燃料電池車の購入・利用にとって障壁となるのは、いざ保有し利用するに至った段階で、電気や水素の供給が便利に行えるのかという、インフラ整備に対する懸念も大きな点としてあげることができる。現在、ガソリンの供給所は約三万箇所ある一方で、充電スポットはその約六割の約一万八千箇所、水素ステーションにいたっては全国で約百三十箇所しか存在しないと承知している(一般社団法人次世代自動車振興センター調べ)。そこで、充電スポット及び水素ステーションをガソリン供給所と同規模にまで設置するには、単純計算で総額いくらかかるか、政府の認識についてお尋ねする。また現在ステーション設置にあたっては国の補助があると承知しているが、既存の補助金制度のまま充電スポット及び水素ステーションをガソリン供給所と同規模にまで設置した場合、国費負担の総額はおよそいくら程度になるのか、お尋ねする。またその予定はあるのか、お尋ねする。
十一 (内燃機関の再考@合成燃料)序文で示したとおり、十九世紀末からの内燃機関の技術的な蓄積をカーボンニュートラル政策によりやがて失えば、雇用の喪失を招き、歴史的に培ってきた高度なものづくりの技術を損なうおそれがある。そこで例えば二酸化炭素と水素を合成して製造される合成燃料・再エネ由来の水素を用いたe−fuel等が実用化されれば、内燃機関をクリーンな形で発展的に存続させることが可能である。この度、政府は合成燃料に関して「二〇四〇年までの商用化」目標を掲げたが、民間企業が今後独自に研究開発する際には巨額の資金が必要になると考えられる。政府は民間企業による合成燃料の研究・開発を、補助金及び設備投資への法人税減税や償却資産に係る固定資産税の減税等を通じて後押ししてはどうか、お尋ねする。また、合成燃料等の実用化が果たされ、既存のガソリン車でもカーボンニュートラルが実現できるとなれば、二〇三五年までの新車販売における電動車百%目標の前提が根底から変わると考えられるが、政府は目標見直しを想定しているのか、お尋ねする。想定していないとすれば政府の合成燃料の実用化目標と齟齬をきたすと考えられるが、見解を問う。
十二 (内燃機関の再考A水素エンジン車)内燃機関の仕組みを利用したクリーンな自動車として近年注目されているのが水素エンジン車である。水素エンジンは既存のガソリンエンジンの開発・製造において長年蓄積された技術やノウハウを活かすことができ、環境負荷の少ない水素というクリーンエネルギーが使用されるため、普及により急激な脱炭素化シフトによる産業・雇用への様々な影響を軽減できると考える。水素エンジンはトヨタ自動車をはじめとする民間企業が技術開発に乗り出したと承知しているが、政府は民間主導で開発が行われる水素エンジンの可能性に対して、カーボンニュートラル政策においても重要な施策であると認識しているのか、お尋ねする。またどのような支援策を用意するつもりなのか、お尋ねする。
十三 (ポートフォリオの明確化)電気自動車及び燃料電池車の普及政策を考える際には、新車販売の観点だけに注目して政策を考えるのではなく、保有台数の観点から普及目標を立て、達成の年限を設定し、そのための財源を示し、民間の企業活動、特に雇用に対する一定の配慮を行いつつ政府として目指すパワートレインごとの割合、いわゆるポートフォリオを明確にする必要があると考えられる。そこで重要となるのは既存ガソリン車の電動車への置き換えであるが、我が国の乗用車保有台数である約六千万台が全て電動車に置き換わるのは、自動車の平均保有年数は十三年(自工会調べ)とも言われるなかで、何年かかると政府は想定しているのか、お尋ねする。また保有の観点における電動車への置き換え目標について、政府として電動車のどの車種をどの程度増やすのかといった具体的な数値目標と年限を検討する必要があると考えるが、その検討状況の有無をお尋ねする。
十四 (財源論)カーボンニュートラルは我が国すべての産業・民生・家庭が一丸となり取り組まなければ実現できない。素材部品から始まり、製造過程、出荷、物流、整備、アフターサービス、そして車両の廃棄リサイクルに至る全ての段階でCO2が発生する。産業の構造転換を大きく求め、民生・家庭にも省エネ・グリーン化を様々に求めることになるが、そのためには大きな財政支援が必要となる。かかる費用をどの程度と目論み、またどう財源調達するのか、お尋ねする。この際、「社会保障と税の一体改革」に倣い、カーボンニュートラル社会と税の一体改革を行う必要があると考えるが、どうか。

 右質問する。

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