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令和四年三月九日提出
質問第二八号

「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する厚生労働省令」の解釈に関する質問主意書

提出者  徳永久志




「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する厚生労働省令」の解釈に関する質問主意書


 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条(「本法」という。)では、取扱いの変更を求める「その者の請求により」、家庭裁判所は「性別の取扱いの変更を審判することができる」ことが規定されている。
 この場合、同法第三条第二項により「性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない」と規定されている。
 いわゆる「カルテ」、診療録は医師が診療時に必ず記載しなければならない。
 医師法第二十四条では「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」とされ、同条第二項では「前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない」と保存年限を定めている。
 保険医療機関及び保険医療養担当規則第九条においては「保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあつては、その完結の日から五年間とする」とも規定されているが、言い換えれば、保存年限が過ぎたものには法令上の保存の義務はなく、保存スペースの確保などの問題から破棄されてしまうことがほとんどである。現行制度が診療録の保存は保険請求のために用いることを念頭にしており、その期間を過ぎると診療録の保存は必要ないという判断であると解される。
 本法に基づき性同一性障害者の方が性別の取扱いの変更を申請する場合、その審判は家庭裁判所で行われるが、裁判官の主たる判断材料となるものは、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第三条第二項に規定する医師の診断書の記載事項を定める省令(「本省令」という。)に基づいて提出される医師の診断書であると承知している。本省令には、診断書に記載すべき個別具体的な事項についての規定はあるものの、診療録の提出については明示されていないと解されるが、家庭裁判所への申請にあたってはその診療録の提出を求められることがある。
 例えば、平成十四年に治療が終わったある申請希望者Aさんは、家庭裁判所への申請にあたり、当時のカルテの提出や染色体検査結果の提出を求められたものの、約二十年前の事案であり、カルテや染色体検査結果そのものが失われており、対処することができなかった。カルテがないことを申し述べ、代替え措置として性別の変更の手術が終わっているとの診断書を医師に作成してもらったものの、家庭裁判所では難色を示されたと承知している。このような者が改めて診療を受ける場合、さらに数年の期間が必要となるとともに、多くの時間的、金銭的負担が必要となり、社会生活を行っていくにも明らかな不利益が生じる。
 またAさんは五十代にさしかかり、パートナーとの間で法律婚をすることの急務を感じて今次の申請を行ったものの、本省令の現行の運用が性別の取扱いの変更の阻害要因となっている。このような運用で不利益を被る者は少なくないと考える。
 日本国憲法第十三条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされる。本省令では明確にカルテなどの提出を義務づけていないと解されるにもかかわらず、かかる運用がなされることは、そのような者の幸福追求権を妨げるものと言わざるを得ない。
 また日本国憲法第十四条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定しているが、法定の保存年限を超えた過去に手術を受け診療録等が失われているために家庭裁判所での申請で不公平な扱いを受けることは、日本国憲法の理念に反するものであろう。
 従って、本省令の解釈は、技術的側面も含まれることから、政府の責任において明確にすべきであり、家庭裁判所はその解釈に基づき審判すべきであろう。
 すなわち診療録の保存年限を規定しているのは厚生労働省の所管する法令であり、かかる法令の制定当時想定しなかった事案が発生している現状においては本省令の解釈は見直されるべきである。そうでなければ、その者の責に帰さない事由で診療録が破棄されているにもかかわらず、性別の取扱いの変更を求めることが困難になる。
 右を踏まえて、以下質問する。

一 本省令でいう「医師の診断書の記載事項」では、治療時の診療録や染色体検査の提出を必ず求めているのか。
二 一に関連して、関係法令で定める保存年限を過ぎて診療録等が破棄されていることで性別の取扱いの変更時に、その申請者が申請を受け付けられないなどの不利益を被るのは合理性に欠けるのではないか。
三 本省令の記載事項については、申請者の責に帰さない事由で診療録等が破棄されている場合、可能な範囲で医療機関での受診歴、治療の経過及び結果が分かる資料を集め、医師が診断書を作成することで事足りるのではないか。
四 三に関連して、Aさんについては、約二十年前、当時医療チームとして手術にも加わった産婦人科医師が、現在生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることと、他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていることを診察し、性同一性障害であるという診断書を作成したと承知しているが、かかる診断書は本省令でいう医師の診断書に該当しないのか。そもそも当時の診療録等が破棄されている以上、取り得る方法は他にはないのであり、専門的知見のある医師の判断を尊重すべきと考えるが、政府の見解を問う。
五 このような本省令の運用について、新戸籍を編製する責務も負う法務省は、法務省設置法第三条でいう「法秩序の維持、国民の権利擁護、国の利害に関係のある争訟の統一的かつ適正な処理」の趣旨に反すると考えないのか。申請する者の「権利擁護」が図られないのではないか。
六 本法は、施行にあたり法務大臣と内閣総理大臣が署名していると承知しているが、政府内で検討を進め、このような運用上の問題が顕在化している今、「性同一性障害者及びその関係者の状況その他の事情を勘案し、必要に応じ、検討が加えられる」べきではないか。政府内で検討チームなどを設置すべきではないか。
七 日本国憲法第十三条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされる。本省令では明確にカルテなどの提出を義務づけていないにもかかわらず、かかる運用がなされることは、そのような者の幸福追求権を妨げるものではないか。政府は早急に本省令の解釈を明確にすべきではないか。

 右質問する。

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